(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】腎疾患に対するシュウ酸カルシウム結晶化阻害剤
(51)【国際特許分類】
C07F 9/09 20060101AFI20231208BHJP
A61K 31/6615 20060101ALI20231208BHJP
A61P 19/06 20060101ALN20231208BHJP
A61P 13/10 20060101ALN20231208BHJP
A61P 3/00 20060101ALN20231208BHJP
A61P 13/04 20060101ALN20231208BHJP
A61P 13/12 20060101ALN20231208BHJP
A61K 47/54 20170101ALN20231208BHJP
A61K 47/60 20170101ALN20231208BHJP
【FI】
C07F9/09 K CSP
A61K31/6615
A61P19/06
A61P13/10
A61P3/00
A61P13/04
A61P13/12
A61K47/54
A61K47/60
(21)【出願番号】P 2021538929
(86)(22)【出願日】2019-09-18
(86)【国際出願番号】 EP2019074986
(87)【国際公開番号】W WO2020058321
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-06-23
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523057644
【氏名又は名称】ヴィフォール (インターナショナル) アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】アイバーソン,マティアス エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ルルー,ジャン-クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】クレッツマイヤー,アンナ
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/098047(WO,A1)
【文献】特表2009-513695(JP,A)
【文献】特表2014-532049(JP,A)
【文献】Journal of Biological Chemistry,2002年,Vol.277(43),p.40290-40295
【文献】Expert Opinion on Drug Delivery,2009年,Vol.6(1),p.1-16
【文献】International Journal of Nanomedicine,2015年,Vol.10,p.2871-2884
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/
C07C
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の中央リンカーLによって連結された一般式(I)によって表されるシクロヘキサノールペンタキスエステル部分を2個以上含む
化合物であって、
【化1】
Xは、-OPO
3
2-
であり、Lは、括弧内の式で特徴付けられるn個の個々の部分が付加される共通の中央リンカーであり、nは2~
4の整数であり、
前記共通の中央リンカーLは、分子量が1000g/mol未満で
あって、Lは、
ポリ(エチレングリコール)
鎖及び/又は非置換のC
1 ~C
4 のアルキ
レン鎖からなる、前記化合物。
【請求項2】
前記一般式(I)によって表されるシクロヘキサノールペンタキスエステル部分のいずれか1個は、独立して、一般式(Ia)又は(Ib)で表される部分から選択され、
【化2】
Lは、共通の中央リンカーであり、Xは、請求項1で定義されたものである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物が、一般式(II)、(IIi)、(IIii)又は(IIiii)によって特徴付けられ、
【化3】
各Xは、
-OPO
3
2-
であり、
Lは、-(O-CH
2 -CH
2 )
m -O-
であり、mは、1~12の値で
ある、請求項1~2のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物が、一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(IIf)、(IIg)、(IIh)、(IIi)、(IIk)、(IIm)又は(IIn)によって特徴付けられ、
【化4】
【化5】
【化6】
kは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12から選択される整数である、
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記化合物が、一般式(III)によって特徴付けられ、
【化7】
各Xは、上記定義を示し、
前記リンカーLは、一般式(IIIa)
又は一般式(IIIc)であり、
【化8】
【化9】
o、p及びqは、互いに独立して、1~12の値であり、o、p及びqの合計が30以下であり、
Aは、炭素原子(C)
であり、
Rは、水素原子及びC
1 ~C
3 非置換
アルキルから選択され、
又は、
u、v及びwは、互いに独立して、1~12の値であり、u、v及びwの合計が30以下で
ある、請求項1~2のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物が、一般式(IIId)又は一般式(IIIe)によって特徴付けられる、
【化10】
請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記化合物が、一般式(IV)によって特徴付けられ、
【化11】
各Xは、上記定義を示し、
前記リンカーLは、一般式(IVa)
又は一般式(IVc)であり、
【化12】
o、p、q及びsは、互いに独立して、1~12の値であり、o、p、q及びsの合計が40以下であり
、
Aは
非置換のC
4 ~C
7 のシクロアルキル
であり、
又は、
u、v、w及びyは、互いに独立して、1~12の値であり、u、v、w及びyの合計が40以下で
ある、請求項1~2のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記化合物が、一般式(IVd)又は一般式(IVe)によって特徴付けられる、
【化13】
請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物を医薬品として使用する、化合物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物
であり、
病理学的結晶化に関連する症状の治療又は予防に使用される、前記化合物。
【請求項11】
前記病理学的結晶化に関連する症状は、患者における病理学的シュウ酸カルシウム又はリン酸塩の結晶化による腎石灰化症又は腎結石症であり、特に前記症状が原発性及び続発性の高シュウ酸尿症、デント病、バーター症候群、遠位尿細管性アシドーシス、神経因性膀胱、常染色体優勢多発性嚢胞腎疾患、シュウ酸カルシウム腎結石形成、スツルバイト結石及び腎石灰化である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
前記病理学的結晶化に関連する症状は、シュウ酸塩、リン酸塩、及び/又はカルシウムの沈殿物の形成に関連する、請求項10~11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
前記化合物が、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、局所、静脈内、又は特に皮下投与用に処方される、請求項10~12のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
一般式(Va)、一般式(Vb)、一般式(Vc)、一般式(VIa)、一般式(VIb)又は一般式(VIc)によって表される、化合物。
【化14】
式中、OPMBは、O-(ビスパラメトキシベンジル)ホスフェート
であり、kは、1~12から選択される整数である。
【請求項15】
kが、2、3、4、5、6、又は7から選択される整数である、請求項14に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎疾患に対するシュウ酸カルシウム結晶化阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎結石は、腎組織内のミネラル沈着物であり、特定のミネラルによる尿の過飽和によって形成される。腎結石の有病率は14.8%と高く、再発の危険性も高い。さらに、ライフスタイルや食生活の変化、肥満、糖尿病、高血圧などの関連する危険因子の増加により、発症率は増加傾向にある。
【0003】
腎結石の形成につながる原因は様々である。しかしながら、主な腎結石に共通する成分はシュウ酸カルシウム(CaOx)である。シュウ酸カルシウムの結晶化と腎臓での結石の形成は、尿細管が物理的に閉塞するだけでなく、組織の炎症と線維症を誘発し、臓器の機能を損ない、慢性腎臓病や末期腎疾患を発症するリスクを生み出す。
【0004】
腎臓において臨床的に重要なもう1つのカルシウム沈殿物はリン酸カルシウムである。主に(50%以上)リン酸カルシウムで構成される腎結石は、すべての結石の最大10%、カルシウム結石の15%~20%を構成し、その80%はシュウ酸カルシウムで構成される。リン酸カルシウムは、シュウ酸カルシウム結石の最大30%の微量成分でもある。
【0005】
高シュウ酸尿症、デント病、バーター症候群等の様々な疾患が、CaOx腎結石の形成につながる可能性がある。例えば、原発性高シュウ酸尿症の場合、シュウ酸塩の代謝に関与する肝臓タンパク質の欠如又は機能不全のために、シュウ酸塩が過剰に産生される。尿中にシュウ酸塩が多く含まれると、腎管内でCaOxの結晶化が起こり、腎結石が形成され、組織が損傷する。患者は若くして腎不全や末期腎疾患に陥る。治療の選択肢が限られているため、80%の患者が30歳で肝腎複合移植を必要とする。
【0006】
現在のところ、腎結石患者の治療法は緩和的なものにとどまっており、疾患の改善にはほど遠いため、患者は結石の再発や、慢性腎臓病や末期腎不全等の重篤な合併症のリスクにさらされている。既に存在する結石は外科的に除去し、腎結石に伴う痛みを内科的に治療することができる。しかしながら、再発率は高く、予防策も限られている。提案されている対策としては、大量の水分摂取、適切な栄養摂取、尿中のカルシウム濃度が高い患者に対するチアシド系薬剤の投与等が挙げられる。
【0007】
CaOx結晶化阻害剤(例えばクエン酸塩、リン酸塩等)は、腎結石の形成を予防するために使用することが提案されているが、限られた有効性と望ましくない副作用により、医療機関での適用が制限される。クエン酸塩は、再発性CaOx結石患者の予防措置としてある程度の有効性を示すが、その作用機序は不明なままである。
【0008】
まとめると、CaOx結晶の核形成、成長、及び腎上皮細胞への付着の傾向を低下させ、最終的には根本的な原因に関わらず腎臓の損傷を軽減することができる医薬品は、治療上重要な価値があると考えられる。尿中のCaOx結晶化の強力な阻害剤は、腎結石の形成に関連する様々な疾患に適用可能であり、さらに重篤な合併症のリスクを減らすことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記技術状況に基づき、本発明の目的は、病理学的なシュウ酸カルシウムの結晶化に関連する症状において、シュウ酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムの結晶化を治療又は予防するための医薬化合物を提供することである。この目的は、本明細書の独立請求項の主題によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[発明の要約]
本発明の第1の態様は、共通の中央リンカーLによって連結された一般式(I)によって表されるシクロヘキサノールペンタキスエステル部分を2個以上含む化合物に関する。
ここで、Xは、OPO3
2-、OPSO2
2-、又はOSO3
-から選択され、Lは、括弧内の式で特徴付けられるn個の個々の部分が付加される共通の中央リンカーであり、nは2~10の整数である。
【0011】
【0012】
特定の実施形態では、前記化合物は、一般式(II)、一般式(III)又は一般式(IV)によって表される。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
本明細書で負に帯電した化合物として定義される本発明の任意の化合物は、薬学的に許容される対イオンと関連することが理解される。
【0017】
本発明の第2の態様は、カルシウム及び/又はマグネシウムの沈殿物の結晶化又は形成に関連する病状の治療のための、本明細書で規定される化合物の使用に関する。
【0018】
同様に、本発明は、シュウ酸塩沈殿物の結晶化又は形成に関連する病状の治療のための、本明細書で特定される化合物の使用に関する。
【0019】
本発明の別の態様は、治療有効量の本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩、及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、pH6.2及びpH5.5におけるIIc(OEG
4 -(IP5)
2 )と比較のIP5-mono-PEG
2 (OEG
2 -IP5)によるCaOx結晶化の阻害を示す。CaOx結晶化は、1mMのシュウ酸ナトリウムをヒトの尿に加えて誘発し、光学顕微鏡で観察した後、自動画像解析で結晶数、水和物形態(COM-CaOx一水和物、COD-CaOx二水和物、n.d.定義なし)、結晶面積が決定された。異なる水和物の表面積をコントロールの全表面積で正規化してプロットした。IIc(OEG
4 -(IP5)
2 )では、300nMでCOMの結晶のみが完全に阻害され、続いて4μMでCaOx(COM及びCOD)が完全に阻害された。一方、従前の化合物IP5-mono-PEG
2 のCOMの場合、11μMで阻害が観察されたが、100μMまでの試験範囲ではCaOx(COM及びCOD)の完全な阻害は観察されなかった。
【
図2】
図2は、本発明の化合物によるCaOx結晶化の阻害を示す:pH6.2におけるIIb(OEG
2 -(IP5)
2 )、IIc(OEG
4 -(IP5)
2 )及びIId(OEG
8 -(IP5)
2 )。
【
図3】
図3は、pH6.2において、PCT/EP2016/080657に記載のIP6類似体によるCaOx結晶化の阻害を示す。CaOx結晶化は、1mMシュウ酸ナトリウムをヒトの尿に加えて誘発し、光学顕微鏡で観察した後、自動画像解析で結晶数、(COM-CaOx一水和物、COD-CaOx二水和物、n.d.定義なし)、結晶面積が決定された。異なる水和物の表面積をコントロールの全表面積で正規化してプロットした。
【
図4-1】
図4-1は、実施例1に記載の本発明の化合物の合成を示す。
【
図4-2】
図4-2は、実施例1に記載の本発明の化合物の合成を示す。
【
図5】
図5は、本発明の化合物OEG
4 -(IP5)
2 によるCaOx結晶形成阻害の画像を示す(スケールバー:50μm)。
【
図6】
図6は、PCT/EP2016/080657に記載のIP6類似体化合物OEG
2 -(IP5)によるCaOx結晶形成阻害の画像を示す(スケールバー:50μm)。
【
図7】
図7は、化合物(OEG
4 )
3 -(IP5)
3 の合成を示す。
【
図8】
図8は、IP6類似体によって誘発されたCaOx結晶化パターンの変化を示す。1mM NaOxを添加したヒトの尿中のCaOxバルク結晶化に対する(OEG
4 )
3 -(IP5)
3 の効果を、t=7時間後に光学顕微鏡で評価した。COM-CaOx一水和物COD-CaOx二水和物、n.d.定義なし;N=3、平均総面積/視野+SD それぞれの結晶型について、コントロール(阻害剤なし)を基準とする。
【
図9】
図9は、OEG
4 -(IP5)
2 が初期の前駆体粒子を安定化させ、CODの成長を遅らせることを示す。(A)Bis-Tris緩衝液(pH6.2)中のOEG
4 -(IP5)
2 による用量依存的なCaOx結晶化の阻害を、t=7時間後にSEMで特徴付けた。代表的なSEM画像を示す(スケールバー:1μm)。(B)500nMのOEG
4 -(IP5)
2 と阻害剤なしのCaOx結晶化をt=10分でサンプリングし、SEMで画像化した(スケールバー:1μm)。結晶化度はSAED付きTEMで特徴付けた(インレット)。
【
図10】
図10は、IP6類似体による腎上皮細胞へのCaOx付着の阻害を示す。in vitroでのRPTEC/TERT1細胞へのCaOx付着に対する(A)OEG
4 -(IP5)
2 、(B)OEG
2 -IP5及び(C)(OEG
2 )
2 -IP4の抗付着効果を、微分干渉コントラスト顕微鏡で評価した後、結晶占有面積を定量化した。コンフルエントになった細胞を、化合物と予め混合した150μg/cm
2 のCaOxで30分間処理した後、洗浄、固定、イメージングを行った。(D)コンフルエントな細胞層に付着したOEG
4 -(IP5)
2 の有無による事前混合されたCaOxの画像例(Leica CTR6000、63xオイル対物レンズ)。(E)OEG
4 -(IP5)
2 が細胞層に既に付着したCaOxを除去する能力を評価するために、上記アッセイの改良版を実施した。RPTEC/TERT1細胞をCaOxと30分間インキュベートした後、PBSで洗浄して結合していないCaOxを除去し、さらにOEG
4 -(IP5)
2 又は培地コントロールと2時間インキュベートした。(N=3,平均値+SDをCaOx ctrlに正規化,Dunnettの多重比較による一元的ANOVA,
****p<0.0001,
*** p<0.001,
**p<0.01,
* p<0.05,CaOxコントロールとの比較)
【
図11】
図11は、CaOxによる腎上皮細胞の損傷がOEG
4 -(IP5)
2 によって抑制されることを示す。(A)RNAシークエンスで得られた相対的な遺伝子発現レベルのヒートマップと階層的なクラスタリング(CaOxとCaOx-OEG
4 -(IP5)
2 との間で差次的に発現する遺伝子 p<0.01、log
2 ratio=0.5、有意な特徴の数2000)。(B)培地群に対するCaOxの遺伝子発現レベルと、CaOx-OEG
4 -(IP5)
2 群の対応する値の遺伝子セット濃縮解析。中程度の対照群と比較して、CaOx群で差次的に上方制御又は下方制御された遺伝子の上位遺伝子オントロジー用語及び対応する正規化濃縮スコアがプロットされる(上位10の上方制御遺伝子オントロジー用語、すべてのFDR≦0.05及び下方制御遺伝子オントロジー用語FDR≦0.05を示す)。CaOx-OEG
4 -(IP5)
2 群で差次的に発現する遺伝子の対応する値が示される(FDR≦0.05は濃い青で示され、FDR>0.05は水色で示される)。(C)各治療群における炎症・免疫反応、細胞シグナル、ECM産生に関わる遺伝子の発現量。(D)CaOxのみを処理した細胞と比較して、RPTEC細胞を処理する前にCaOx-OEG
4 -(IP5)
2 とCaOxをプレインキュベートすることによる死細胞数の用量依存的な減少を、viability stainにより評価した(平均値+SDをCaOx ctrlに正規化,Dunnettの多重比較による一元的ANOVA,
****p<0.0001,
**p<0.01)。(E)CaOx沈着(黒いスポット)を示す明視野画像の例と、未処理、CaOxのみ、又はCaOx+10μM OEG
4 -(IP5)
2 処理を受けた細胞の細胞死を示す赤色蛍光画像の例(Leica CTR6000、10x対物レンズ、スケールバー:100μm)(すべての実験でN=3)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[用語と定義]
本明細書の文脈における用語「C1 ~C4 のアルキル」は、1、2、3又は4個の炭素原子を有する飽和直鎖状又は分岐状の炭化水素を示す。特定の実施形態では、1個の炭素-炭素結合が不飽和であってもよく、1個のCH2 部分が酸素(エーテルブリッジ)又は窒素(NH、又はRがメチル、エチル、又はn-又はiso-プロピルであるNR;アミノブリッジ)と交換されてもよい。C1 ~C4 のアルキルの非限定的な例としては、メチル、エチル、プロピル、プロプ-2-エニル、n-ブチル、2-メチルプロピル、tert-ブチル、ブト-3-エニル、プロプ-2-イニル及びブト-3-イニルが挙げられる。特定の実施形態では、C1 ~C4 のアルキルは、メチル、エチル、プロピル又はブチル部分である。
【0022】
本明細書の文脈における用語「C1 ~C6 のアルキル」は、1、2、3、4、5又は6個の炭素原子を有する飽和直鎖状又は分岐状の炭化水素を示す。1個の炭素-炭素結合が不飽和であってもよく、1個のCH2 部分が酸素(エーテルブリッジ)又は窒素(NH、又はRがメチル、エチル、又はn-又はiso-プロピルであるNR;アミノブリッジ)と交換されてもよい。C1 ~C6 のアルキルの非限定的な例としては、上記C1 ~C4 のアルキルで示した例に加え、3-メチルブト-2-エニル、2-メチルブト-3-エニル、3-メチルブト-3-エニル、n-ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、ペント-4-イニル、3-メチル-2-ペンチル及び4-メチル-2-ペンチルが挙げられる。特定の実施形態では、C5 アルキルは、ペンチル又はシクロペンチル部分であり、C6 アルキルは、ヘキシル又はシクロヘキシル部分である。
【0023】
本明細書において狭義で使用される場合の「非置換Cn アルキル」は、分子の部分間のブリッジとして使用される場合は-Cn H2n-部分、又は末端部分という文脈で使用される場合は-Cn H2n+1部分に関する。環状構造又は1個以上の(非芳香族)二重結合が存在する場合は、H原子が少なくなり得る。
【0024】
本明細書の文脈における用語「非置換Cn アルキル及び置換Cn アルキル」という用語は、環状構造、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン又はシクロヘキサン部分を含むか又はそれに連結される直鎖状アルキルを含み、注釈又は言及の文脈に応じて置換されていないか又は置換されていて、直鎖状アルキルの置換基を有する。炭素の総数と、必要に応じて、直鎖状又は環状構造内のN、O又はその他のヘテロ原子の合計はn個となる。
【0025】
化学式の文脈で使用される場合、以下の略語が使用される。
Me;メチル CH3
Et;エチル -CH2 CH3
Prop;プロピル -(CH2 )2 CH3 (n-プロピル;n-pr)又は-CH(CH3 )2 (iso-propyl;i-pr)
but;ブチル -C4 H9 、-(CH2 )3 CH3 、-CHCH3 CH2 CH3 、-CH2 CH(CH3 )2 又は-C(CH3 )3
【0026】
本明細書の文脈における用語「C4 ~C7 のシクロアルキル」は、4、5、6又は7個の炭素原子を有する飽和炭化水素環に関する。特定の実施形態では、1個の炭素-炭素結合が不飽和であってもよく、及び/又は1個のCH2 部分が酸素(エーテルブリッジ)又は窒素(NH、又はRがメチル、エチル、又はn-又はiso-プロピルであるNR;アミノブリッジ)と交換されてもよい。C4 ~C7 のシクロアルキルの非限定的な例としては、シクロプロパニル(-C4 H7 )、シクロペンテニル(C5 H9 )及びシクロヘキセニル(C6 H11)部分が挙げられる。特定の実施形態において、シクロアルキルは、1個のC1 ~C4 の非置換アルキル部分によって置換されている。特定の実施形態において、シクロアルキルは、1個以上のC1 ~C4 の非置換アルキル部分によって置換されている。
【0027】
広義の用語「置換アルキル」とは、上記で定義された広義のアルキルであって、炭素又は水素ではない原子、特にN、O、F、B、Si、P、S、Cl、Br及びIから選択される原子に共有結合しており、場合によってはこのグループの1個又は複数個の他の原子、水素、又は不飽和若しくは飽和の炭化水素(広義のアルキル又はアリール)に結合していてもよい。狭義では、置換アルキルとは、アミンNH2 、アルキルアミンNHR、イミドNH、アルキルイミドNR、アミノ(カルボキシアルキル)NHCOR又はNRCOR、ヒドロキシルOH、オキシアルキルOR、オキシ(カルボキシアルキル)OCOR、カルボニルO及びそのケタール又はアセタール(OR)2 、ニトリルCN、イソニトリルNC、シアネートCNO、イソシアネートNCO、チオシアネートCNS、イソチオシアネートNCS、フッ化物F、塩化物Cl、臭化物Br、ヨウ化物I、ホスホネートPO3 H2 、PO3 R2 、ホスフェートOPO3 H2 、OPO3R2 、スルフヒドリルSH、スルフアルキルSR、スルホキシドSOR、スルホニルSO2 R、スルファニルアミドSO2 NHR、スルフェートSO3 H及びスルフェートエステルSO3 Rから選択される基で1個又は複数個の炭素原子が置換された広義の上記定義のアルキルを示す。ここで、この段落で使用されるRの置換基は、本明細書でRに割り当てられている他の用途とは異なり、広義にはそれ自体が非置換又は置換されたC1 ~C12アルキルであり、狭義には、特に指定のない限り、Rはメチル、エチル又はプロピルである。
【0028】
アミノ置換アルキル又はヒドロキシル置換アルキルという用語は、1個又は複数個のアミン又はヒドロキシル基NH2 、NHR、NR2 又はOHによって修飾された上記定義によるアルキルを示す。この段落で使用されるR置換は、本明細書でRに割り当てられている他の用途とは異なり、広義にはそれ自体が非置換又は置換されたC1 ~C12アルキルであり、狭義には、特に指定のない限り、Rはメチル、エチル又はプロピルである。複数個の炭素を有するアルキルは、複数個のアミン又はヒドロキシルを含み得る。特に明記しない限り、用語「置換アルキル」は、アルキル鎖、末端メチル、又は水素への結合に加えて、各Cが多くても1個のアミン又はヒドロキシル基によってのみ置換されるアルキルを示す。
【0029】
カルボキシル置換アルキルという用語は、1個又は複数個のカルボキシル基COOH、又はその誘導体、特にカルボキシルアミドCONH2 、CONHR及びCONR2 、又はカルボン酸エステルCOORによって修飾される上記の定義によるアルキルを示し、Rは前段落で述べたような意味を有し、本明細書でRに割り当てられている他の意味とは異なる。
【0030】
アミノ置換アルキルの非限定的な例としては、末端部分として、-CH2 NH2 、-CH2 NHMe、-CH2 NHEt、-CH2 CH2 NH2 、-CH2 CH2 NHMe,-CH2 CH2 NHEt、-(CH2 )3 NH2 、-(CH2 )3 NHMe,-(CH2 )3 NHEt,-CH2 CH(NH2 )CH3 、-CH2 CH(NHMe)CH3 、-CH2 CH(NHEt)CH3 、-(CH2 )3 CH2 NH2 、-(CH2 )3 CH2 NHMe、-(CH2 )3 CH2 NHEt、-CH(CH2 NH2 )CH2 CH3 、-CH(CH2 NHMe)CH2 CH3 、-CH(CH2 NHEt)CH2 CH3 、-CH2 CH(CH2 NH2 )CH3 、-CH2 CH(CH2 NHMe)CH3 、-CH2 CH(CH2 NHEt)CH3 、-CH(NH2 )(CH2 )2 NH2 、-CH(NHMe)(CH2 )2 NHMe、-CH(NHEt)(CH2 )2 NHEt、-CH2 CH(NH2 )CH2 NH2 、-CH2 CH(NHMe)CH2 NHMe、-CH2 CH(NHEt)CH2 NHEt、-CH2 CH(NH2 )(CH2 )2 NH2 、-CH2 CH(NHMe)(CH2 )2 NHMe、-CH2 CH(NHEt)(CH2 )2 NHEt、-CH2 CH(CH2 NH2 )2 、-CH2 CH(CH2 NHMe)2 、及び-CH2 CH(CH2 NHEt)2 が挙げられ、2個の他の部分を架橋するアミノ置換アルキルとして、-CH2 CHNH2 -、-CH2 CHNHMe-、-CH2 CHNHEt-が挙げられる。
ヒドロキシ置換アルキルの非限定的な例としては、末端部分として、-CH2 OH、-(CH2 )2 OH、-(CH2 )3 OH、-CH2 CH(OH)CH3 、-(CH2 )4 OH、-CH(CH2 OH)CH2 CH3 、-CH2 CH(CH2 OH)CH3 、-CH(OH)(CH2 )2 OH、-CH2 CH(OH)CH2 OH、-CH2 CH(OH)(CH2 )2 OH、及び-CH2 CH(CH2 OH)2 が挙げられ、2個の他の部分を架橋するヒドロキシル置換アルキルとして、-CHOH-、-CH2 CHOH-、-CH2 CH(OH)CH2 -、-(CH2 )2 CHOHCH2 -、-CH(CH2 OH)CH2 CH2 -、-CH2 CH(CH2 OH)CH2 -、-CH(OH)(CH2 CHOH-、-CH2 CH(OH)CH2 OH、-CH2 CH(OH)(CH2 )2 OH、及び-CH2 CHCH2 OHCHOH-が挙げられる。
【0031】
「ハロゲン置換アルキル」という用語は、F、Cl、Br、Iから(独立して)選択される1個又は複数個のハロゲン原子によって修飾される上記の定義によるアルキルを示す。
【0032】
「フルオロ置換アルキル」という用語は、1個又は複数個のフッ化物基Fによって修飾される上記の定義によるアルキルを示す。フルオロ置換アルキルの非限定的な例としては、-CH2 F、-CHF2 、-CF3 、-(CH2 )2 F、-(CHF)2 H、-(CHF)2 F、-C2 F5 、-(CH2 )3 F、-(CHF)3 H、-(CHF)2 F、-C3F7 、-(CH2 )4 F、-(CHF)4 H、-(CHF)4 F、及び-C4 F9 が挙げられる。
【0033】
ヒドロキシル及びフルオロ置換アルキルの非限定的な例としては、-CHFCH2 OH、-CF2 CH2 OH、-(CHF)2 CH2 OH、-(CF2 )2 CH2 OH、-(CHF)3 CH2 OH、-(CF2 )3 CH2 OH、-(CH2 )3 OH、-CF2 CH(OH)CH3 、-CF2 CH(OH)CF3 、-CF(CH2 OH)CHFCH3 、及び-CF(CH2 OH)CHFCF3 が挙げられる。
【0034】
本明細書の文脈における用語「アリール」は、ヘテロ原子(例えば、N、O、S)を含み得る環状芳香族C5 ~C10炭化水素を示す。アリールの例としては、特に限定されないが、フェニル及びナフチル、並びに任意のヘテロアリールが含まれる。ヘテロアリールは、1個又は複数個の窒素、酸素、及び/又は硫黄原子を含むアリールである。ヘテロアリールの例としては、ピロール、チオフェン、フラン、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、オキサゾール、ピリジン、ピリミジン、チアジン、キノリン、ベンゾフラン、インドールが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書の文脈におけるアリール又はヘテロアリールは、さらに、1個又は複数個のアルキル基によって置換され得る。
【0035】
本明細書では、「医薬組成物」という用語は、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を、少なくとも1個の薬学的に許容される担体と組み合わせたものを示す。特定の実施形態において、本発明による医薬組成物は、局所的、非経口的又は注射による投与に適した形態で提供される。
【0036】
本明細書では、「薬学的に許容される担体」という用語は、当業者に公知の、溶媒、分散媒体、コーティング剤、界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、防腐剤、薬剤、薬剤安定剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味料、香味料、色素、及びこれらの組み合わせが含まれる。(例えば、Remington: the Science and Practice of Pharmacy, ISBN 0857110624 参照。)
【0037】
本発明の第1の態様は、共通の中央リンカーLによって連結された一般式(I)によって表されるシクロヘキサノールペンタキスエステル部分を2個以上含む化合物に関する。
ここで、Xは、OPO3
2-、OPSO2
2-又はOSO3
-から選択され、Lは、括弧内の式で特徴付けられるn個の個々の部分が付加される共通の中央リンカーであり、nは2~10の整数である。
【0038】
【0039】
一般式(I)及び本明細書中の直線は、個々の環炭素原子の立体化学が定義されていないことを示すことを意味する。この式は、任意のジアステレオマーを包含することを意味する。
【0040】
特定の実施形態では、nは2~8の値である。特定の実施形態では、nは2の値である。特定の実施形態では、nは3の値である。特定の実施形態では、nは4の値である。特定の実施形態では、nは6の値である。特定の実施形態では、nは8の値である。
【0041】
特定の実施形態では、2、3及び4から選択される。
【0042】
特定の実施形態では、中央リンカーLは、直鎖状又は分岐状のポリ(エチレングリコール)又はポリグリセロールを含む又はそれからなる。特定の実施形態では、中央リンカーLは、直鎖状又は分岐状アルキルを含む又はそれからなる。
【0043】
特定の実施形態では、中央リンカーLは、分子量が1000g/mol未満であり、特に、700g/mol未満であり、詳細には、500g/mol未満であり、より詳細には、400g/mol未満である。
【0044】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、上記で定義された中央リンカーL及び一般式(I)によって示された2個以上の部分からなる。
【0045】
特定の実施形態では、本発明の化合物において構成される任意の部分(I)の任意のXは、互いに独立して、OPO3
2-、OPSO2
2-又はOSO3
-から選択される。
【0046】
特定の実施形態では、本発明の化合物において構成される任意の特定の部分(I)のXの全てが同じであり、OPO3
2-、OPSO2
2-又はOSO3
-から選択される。
【0047】
特定の実施形態では、本発明の化合物において構成される全ての部分(I)のXの全てがOPO3
2-である。
【0048】
特定の実施形態では、本発明の化合物において構成される全ての部分(I)のXの全てがOPSO2
2-である。
【0049】
特定の実施形態では、本発明の化合物において構成される全ての部分(I)のXの全てがOSO3
-である。
【0050】
特定の実施形態では、中央リンカーLは、分子量が1000g/mol未満、特に、700g/mol未満である直鎖状又は分岐状のポリ(エチレングリコール)又はポリグリセロールを含む又はそれからなる。
【0051】
特定の実施形態では、中央リンカーLは、一般式(I)のシクロヘキサノールエステル部分を分離するポリグリセロール鎖又はポリ(エチレングリコール)鎖が結合している中央コアAを含む。
【0052】
特定の実施形態では、中央コアAは、存在する場合、置換又は非置換のC1 ~C4 のアルキル、置換又は非置換のC4 ~C7 のシクロアルキル、又は置換又は非置換の5員又は6員のアリールから選択することができる。
【0053】
連結部分は、一般的に、比較的低コストで合成しやすく、化合物中の2個以上のシクロヘキサノールペンタキシエステル部分の組み立てを容易にするように設計された、単純で代謝に適合したリンカーである。特定の実施形態では、連結部分は、水素以外の置換基、例えば、酸素、窒素、フッ素又は化合物の吸収、分布、代謝処理、排泄又は毒性の質を調整するために医薬化学の技術分野で知られている他の置換基から選択される1個以上の置換基で置換された炭化水素であってもよい。
【0054】
連結部分Lが、置換C1 ~C4 のアルキル、置換C4 ~C7 のシクロアルキル、又は置換5員又は6員のアリールであるか又はそれらを含む実施形態では、置換は、酸素を含む1個又は複数の機能(非限定的な例:-OH又は=O)、窒素を含む1個又は複数の機能(非限定的な例:NH2 、NHRN 、NRN
2、RN は非置換C1 ~C4 のアルキルから選択される)、1個又は複数のフッ素置換、又は酸素、窒素又はフッ素置換のいずれかの組み合わせである。
【0055】
一般式(I)で表される化合物の特定の実施形態では、連結部分Lはペプチドリンカーである。一般式(I)で表される部分は、タンパク質を構成するアミノ酸の側鎖、特にシクロヘキサノエステル部分の化学的結合を容易にする側鎖を有するものに共有結合させることができる。好ましい結合機能を有するそのようなアミノ酸の例としては、非限定的な例として、セリン及びスレオニンが挙げられる。
【0056】
特定の実施形態では、一般式(I)で表されるシクロヘキサノールペンタキシエステル部分のいずれか1個は、独立して一般式(Ia)及び(Ib)から選択される。
ここで、各Xは、(独立して)上記の定義であり、Lは連結部分である。
【0057】
【0058】
特定の実施形態では、化合物は一般式(II)で表される。
ここで、各Xは、互いに独立して、OPO3
2-、OPSO2
2-、OSO3
-又はCO2
-とすることができる。Lは、上記で定義した共通の中央リンカー(本明細書では「連結部分」とも呼ばれる)である。
【0059】
【0060】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(IIi)、(IIii)又は(IIiii)で表される。
ここで、各Xは、互いに独立して、OPO3
2-、OPSO2
2-、OSO3
-又はCO2
-とすることができ、Lは、上記で定義した共通の中央リンカー(本明細書では「連結部分」とも呼ばれる)である。
【0061】
【0062】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(II)、(IIi)、(IIii)又は(IIiii)で表される。
ここで、連結部分Lは、式-(O-CH2 -CH2 )m -O-で表されるポリ(エチレングリコール)から選択され、mは、1~12の値であり、特に、mは、2、3又は4から選択される。
【0063】
特定の実施形態では、連結部分Lは、-(O-CH2 -CH(OH)-CH2 )m -O-で表されるポリグリセロールから選択され、mは、1~12の値であり、特に、mは、2、3又は4から選択される。
【0064】
特定の実施形態では、一般式(I)で表される部分の全てが、一般式(Ia)又は(Ib)である。
【0065】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(II)、(IIi)、(IIii)又は(IIiii)で表され、各Xが、OPO3
2-であり、連結部分Lが直鎖状のポリ(エチレングリコール)又はポリグリセロールである。
【0066】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(II)、(IIi)、(IIii)又は(IIiii)で表され、分子量が1000g/mol~1500g/molである。
【0067】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(II)、(IIi)、(IIii)又は(IIiii)で表され、各Xが、OPO3
2-であり、連結部分Lが直鎖状のポリ(エチレングリコール)又はポリグリセロールであり、分子量が1000g/mol~1500g/molである。
【0068】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(IIiv)、(IIv)又は(IIvi)で表され、Lは、上記で定義した共通の中央リンカー(本明細書では「連結部分」とも呼ばれる)である。
【0069】
【0070】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(IIvii)、(IIviii)又は(IIix)で表される。
【0071】
【0072】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)又は(IId)で表される。
【0073】
【0074】
【0075】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(IIe)又は(IIf)で表される。
【0076】
【0077】
特定の実施形態では、化合物(IIa)(OEG2 -(IP5* )2 )及び化合物(IIb)(OEG2 -(IP5)2 )は、1204.04g/molの分子量を有する。一実施形態では、化合物(IIc)(PO1-1)及び化合物(IIe)は、1298.15g/molの分子量を有する。一実施形態では、化合物(IId)(OEG8 -(IP5)2 )及び化合物(IIf)は、1474.36g/molの分子量を有する。
【0078】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(IIk)、(IIm)又は(IIn)で表される。
【0079】
【0080】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(IIg)、(IIh)又は(IIj)で表される。
ここで、kは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12から選択される整数である。
【0081】
【0082】
特定の実施形態では、本発明の化合物は一般式(III)で表される。
ここで、各Xは、互いに独立して、OPO3
2-、OPSO2
2-又はOSO3
-から選択され、Lは、上記で定義した共通の中央リンカー(本明細書では「連結部分」とも呼ばれる)である。
【0083】
【0084】
一般式(III)で表される化合物の特定の実施形態では、連結部分Lが一般式(IIIa)で表される。
ここで、o、p及びqは、互いに独立して、1~12の値であり、o、p及びqの合計が30以下である。
【0085】
【0086】
特定の実施形態では、Aは、炭素原子(C)、ヒドロキシ-、アミノ-、ハロゲン-、又はカルボキシ-置換又は非置換のC4 ~C7 のシクロアルキル、又は、ヒドロキシ-、アミノ-、ハロゲン-、又はカルボキシ-置換又は非置換のアリールから選択される。特定の実施形態では、Aは、炭素原子である。
【0087】
特定の実施形態では、Rは、水素原子及びC1 ~C3 非置換又は窒素、酸素及び/又はハロゲン置換のアルキルから選択される。特定の実施形態では、Rは、水素原子又は非置換アルキルである。
【0088】
一般式(III)の特定の実施形態では、Lが一般式(IIIa)で表され、o、p及びqは、互いに独立して、2~4の値である。
【0089】
一般式(III)の特定の実施形態では、Lが一般式(IIIa)で表され、o、p及びqの合計が15以下である。
【0090】
一般式(III)の特定の実施形態では、Lが一般式(IIIa)で表され、o、p及びqは、互いに独立して、2~4の値であり、o、p及びqの合計が15以下である。
【0091】
特定の実施形態では、Rは、水素原子及びC1 ~C3 非置換又は窒素、酸素及び/又はハロゲン置換のアルキルから選択される。特定の実施形態では、Rは、水素原子又は非置換アルキルである。
【0092】
一般式(III)の特定の実施形態では、連結部分Lが一般式(IIIb)で表される。
ここで、o、p及びqは、互いに独立して、1~12の値であり、o、p及びqの合計が30以下である。
【0093】
【0094】
特定の実施形態では、Aは、炭素原子(C)、ヒドロキシ-、アミノ-、ハロゲン-、又はカルボキシ-置換又は非置換のC4 ~C7 のシクロアルキル、又は、ヒドロキシ-、アミノ-、ハロゲン-、又はカルボキシ-置換又は非置換のアリールから選択される。特定の実施形態では、Aは、炭素原子である。
【0095】
特定の実施形態では、Rは、水素原子及びC1 ~C3 非置換又は窒素、酸素及び/又はハロゲン置換のアルキルから選択される。特定の実施形態では、Rは、水素原子又は非置換アルキルである。
【0096】
一般式(III)の特定の実施形態では、Lが一般式(IIIb)で表され、o、p及びqは、互いに独立して、2~4の値である。
【0097】
一般式(III)の特定の実施形態では、Lが一般式(IIIb)で表され、o、p及びqの合計が15以下である。
【0098】
一般式(III)の特定の実施形態では、Lが一般式(IIIb)で表され、o、p及びqは、それぞれ独立して、2~4の値であり、o、p及びqの合計が15以下である。
【0099】
一般式(III)の特定の実施形態では、Lが一般式(IIIa)又は(IIIb)で表され、Aが炭素原子である。一般式(III)の特定の実施形態では、Lが一般式(IIIa)又は(IIIb)で表され、Aが、置換又は非置換のC1 ~C4 アルキルから選択される。一般式(III)の特定の実施形態では、Lが一般式(IIIa)又は(IIIb)で表され、Aが、置換又は非置換のC4 ~C7 のシクロアルキルから選択される。一般式(III)の特定の実施形態では、Lが一般式(IIIa)又は(IIIb)で表され、Aが、置換又は非置換の5員又は6員のアリールから選択される。
【0100】
一般式(III)の特定の実施形態では、連結部分Lが一般式(IIIc)で表される。
ここで、u、v及びwは、互いに独立して、1~12の値であり、特に2~4の値であり、u、v及びwの合計が30以下であり、特に12以下である。
【0101】
【0102】
特定の実施形態では、Rは、水素原子及びC1 ~C3 非置換又は窒素、酸素及び/又はハロゲン置換のアルキルから選択され、特にRは、水素原子又は非置換アルキルである。
【0103】
特定の実施形態では、一般式(III)で表される化合物は、1500g/mol~2500g/molの分子量を有する。
【0104】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(IIId)又は一般式(IIIe)で表される。
【0105】
【0106】
特定の実施形態では、化合物(IIId)((OEG)3 -(IP5)3 )は、1922.21g/molの分子量を有する。特定の実施形態では、化合物(IIIe)((OEG4 )3 -(IP5)3 )は、2318.69g/molの分子量を有する。
【0107】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(IV)で表される。
ここで、各Xは、互いに独立して、OPO3
2-、OPSO2
2-又はOSO3
-から選択され、Lは、上記で定義した共通の中央リンカー(本明細書では「連結部分」とも呼ばれる)である。
【0108】
【0109】
一般式(IV)で表される化合物の特定の実施形態では、連結部分Lは、一般式(IVa)で表される。
ここで、o、p、q及びsは、互いに独立して、1~12の値であり、o、p、q及びsの合計が40以下である。
【0110】
【0111】
特定の実施形態では、Aは、炭素原子(C)、ヒドロキシ-、アミノ-、ハロゲン-、又はカルボキシ-置換又は非置換のC4 ~C7 のシクロアルキル、又は、ヒドロキシ-、アミノ-、ハロゲン-、又はカルボキシ-置換又は非置換のアリールから選択される。特定の実施形態では、Aは、炭素原子である。
【0112】
特定の実施形態では、o、p、q及びsは、互いに独立して、2~4の値である。特定の実施形態では、o、p、q及びsの合計が20以下である。
【0113】
特定の実施形態では、o、p、q及びsは、互いに独立して、2~4の値であり、o、p、q及びsの合計が20以下である。
【0114】
一般式(IV)で表される化合物の特定の実施形態では、Lが一般式(IVa)であり、Aは、置換又は非置換のC1 ~C4 アルキルから選択される。特定の実施形態では、Lが一般式(IVa)であり、Aが、置換又は非置換のC4 ~C7 のシクロアルキルから選択される。特定の実施形態では、Lが一般式(IVa)であり、Aが、置換又は非置換の5員又は6員のアリールから選択される。
【0115】
一般式(IV)で表される化合物の特定の実施形態では、連結部分Lは、一般式(IVb)で表される。
ここで、o、p、q及びsは、互いに独立して、1~12の値であり、特に2~4の値であり、o、p、q及びsの合計が40以下であり、特に20以下である。
【0116】
【0117】
一般式(IV)で表される化合物の特定の実施形態では、連結部分Lは、一般式(IVc)で表される。
ここで、u、v、w及びyは、互いに独立して、1~12の値であり、特に2~4の値であり、u、v、w及びyの合計が40以下であり、特に12以下である。
【0118】
【0119】
特定の実施形態では、一般式(IV)で表される化合物は、2500g/mol~3000g/molの分子量を有する。
【0120】
特定の実施形態では、化合物は、一般式(IVd)又は一般式(IVe)で表される。
【0121】
【0122】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、ナトリウム塩として提供される。特定の実施形態では、本発明の化合物は、カリウム塩として提供される。特定の実施形態では、本発明の化合物は、マグネシウム塩として提供される。
【0123】
本発明はさらに、本発明の化合物の合成に有用な中間生成物、具体的には一般式(Va)、(Vb)又は(Vc)で表される化合物を包含する。
ここで、OPMBは、O-(ビスパラメトキシベンジル)ホスフェート部分であり、kは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12から選択される整数である。
【0124】
【0125】
本発明の合成に有用な別の化合物は、一般式(VIa)、(VIb)又は(VIc)で表される。
ここで、kは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11及び12から選択される整数である。
【0126】
【0127】
特定の実施形態では、化合物(IVd)((OEG)4 -(IP5)4 )は、2520.20g/molの分子量を有する。特定の実施形態では、化合物(IVe)((OEG4 )4 -(IP5)4 )は、3048.84g/molの分子量を有する。
【0128】
本発明の別の態様は、医薬品としての使用に関するものである。
【0129】
本発明の第2の態様は、病理学的結晶化、特にカルシウム塩の病理学的結晶化、さらにはシュウ酸カルシウム塩及び/又はリン酸カルシウム塩の病理学的結晶化に関連する症状の治療又は予防に使用するための本発明の化合物に関するものである。
【0130】
広義において、本発明による化合物のそのような使用は、本発明の第1の態様に従って本明細書に記載した任意の化合物の使用を包含するが、さらに、共通の中央リンカーLによって連結された一般式(I)で表される2個以上のシクロヘキサノールペンタキスエステル部分を含む、特にそれからなる化合物の構造的にわずかに広い化学空間を包含する。
ここで、Xは、OPO3
2-、OPSO2
2-又はOSO3
-であり、nは2~10の整数であり、Lは、直鎖状又は分岐状のアルキルを含み又はそれからなる連結部分であって、任意で酸素、窒素、(フッ素)によって置換され、特に連結部分は、分子量が1000g/mol未満であり、特に、700g/mol未満であり、詳細には、500g/mol未満であり、より詳細には、400g/mol未満である。
【0131】
【0132】
特定の実施形態では、病理的結晶化に関連する症状の治療又は予防に使用するための化合物は、一般式(I)による2、3、4、6又は8個の部分を含む。特定の実施形態では、2、3又は4個の部分が分子内に含まれる。
【0133】
特定の実施形態では、本発明の病理学的結晶化に関連する症状の治療又は予防に使用するための化合物は、一般式(VII)で表される。
ここで、kは、1~20、特に1~10、より詳細には1、2、3、4、5及び6から選択される整数である。
【0134】
【0135】
本発明の化合物が特に有用である患者における病理学的なシュウ酸カルシウム又はリン酸カルシウム結晶化による病理学的カルシウム結晶化に関連する症状としては、腎石灰化症、腎結石症、皮膚石灰化症、腎結石、心血管死亡率(特に慢性腎臓病患者の場合)、慢性腎臓病の進行、腎移植グラフトの失敗などが挙げられる。病理学的結晶化は、慢性腎臓病患者の罹患率と関連することが示されており、特に、その症状が、原発性及び続発性高シュウ酸尿症、デント病、バーター症候群、遠位尿細管性アシドーシス、神経因性膀胱、常染色体優勢多発性嚢胞腎疾患、シュウ酸カルシウム腎結石形成、ストルバイト結石及び腎石灰化である。したがって、本発明の化合物は、一般的に慢性腎臓病患者に適応される。
【0136】
特に高い活性を示す本発明の一実施形態は、上記の適応症に対して、同様のCaOx阻害効果(
図2)を有する新規の2価のIP5化合物(OEG
4 -(IP5)
2 、OEG
8 -(IP5)
2 、OEG
2 -(IP5)
2 )を使用することである。本発明者らは以前、イノシトールヘキサリン酸(IP6)類似体に基づいた一連の小分子を開発した(PCT/EP2012/004088、PCT/EP2016/080657)。この小分子は、ヒトの尿中のCaOx結晶の核生成と成長を減少させることができ、薬物動態(PK)特性が改善されている。さらに、それらの化合物は、CaOx結晶の腎上皮細胞への付着を妨げ、in vitroでのCaOx処理で細胞保護効果を示すことが明らかにされている。これらの初期のIP6類似体は、生体内で達成可能な濃度範囲でCaOx結晶化を完全に阻害することができなかったが、本発明者らは驚くべきことに、CaOx結晶化を阻害する効力がIP5部分の組み合わせに大きく依存することを発見した。そこで、本発明者らは、オリゴ(エチレングリコール)リンカー(OEG)を用いて2個のイノシトールペンタリン酸(IP5)分子を連結することで、分子の総負電荷量を増加させた新規多価IP5化合物を開発した。以前に開発された最も強力な化合物であるIP5-mono-PEG2(OEG
2 -IP5)と比較して、トリス(エチレングリコール)化合物OEG
4 -(IP5)
2 で連結されたbis-IP5は、CaOx結晶化をコントロールの50%以下に抑制する効力が2500倍に増加した(
図1)。この結論は、ヒトの尿のCaOx結晶化傾向を測定するin vitroの分析結果から導き出されたものである。
【0137】
化合物は、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、局所、静脈内、又は特に皮下投与のために製剤化されてもよい。任意に、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤が存在してもよい。
【0138】
本発明の別の態様によれば、上記の病理学的カルシウム結晶化に関連する症状のいずれかを治療又は予防する方法であって、それを必要とする対象者に上記のいずれかの一般式で規定される化合物を投与することを含む方法が提供される。
【0139】
当業者は、本明細書に具体的に記載されている任意の化合物が、その薬学的に許容される塩として存在することを認識している。薬学的に許容される塩は、イオン化した化合物及び反対に帯電した対イオンを含む。薬学的に許容されるカチオン性塩の形態の非限定的な例としては、アルミニウム、ベンザチン、エチレンジアミン、リジン、マグネシウム、メグルミン、カリウム、プロカイン、ナトリウム、トロメタミン及び亜鉛が挙げられる。
【0140】
医薬品の組成と投与
本発明の別の態様は、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関するものである。さらなる実施形態では、組成物は、本明細書に記載されているような、少なくとも2つの薬学的に許容される担体を含む。
【0141】
特定の実施形態では、本発明の化合物は、典型的には、薬物の容易に制御可能な投与量を提供し、患者に簡潔で容易な取り扱い可能な製品を与えるために、医薬品の投与形態に配合される。
【0142】
本発明の医薬組成物は、経口投与、非経口投与、又は直腸投与のために製剤化することができる。また、本発明の医薬組成物は、固体形態(カプセル、錠剤、丸薬、顆粒、粉末又は坐薬を含むがこれらに限定されない)、又は液体形態(溶液、懸濁液又は乳濁液を含むがこれらに限定されない)で構成することができる。
【0143】
本発明の化合物の投与方法は、特定の薬剤の薬力学的特性及びその投与様式と投与経路;投与対象者の種、年齢、性別、健康状態、症状、体重;症状の性質と程度;同時治療の種類;治療の頻度;投与経路、患者の腎機能及び肝機能、求める効能等の既知の要因によって変化する。特定の実施形態では、本発明の化合物は、1日1回の投与でもよいし、1日の総投与量を1日2回、3回又は4回に分けて投与してもよい。
【0144】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物又は組み合わせは、約50kg~70kgの対象者に対して、約1mg~1000mgの有効成分(複数可)の単位投与量とすることができる。化合物、医薬組成物、又はそれらの組み合わせの治療上有効な投与量は、対象者の種、体重、年齢、及び個々の状態、治療される障害又は疾患又はその重症度に依存する。通常の技術を有する医師、臨床医又は獣医師であれば、障害や疾患の予防、治療、進行の抑制に必要な各有効成分の有効量を容易に決定することができる。
【0145】
本発明の医薬組成物は、滅菌等の従来の製薬処理を行うことができ、及び/又は、従来の不活性な希釈剤、潤滑剤、又は緩衝剤、並びに、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝剤等のアジュバントを含むことができる。これらは、標準的なプロセス、例えば、従来の混合、造粒、溶解又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。医薬組成物を調製するための多くのそのような手順及び方法は、当技術分野では公知である(例えば、L. Lachman et al. The Theory and Practice of Industrial Pharmacy, 4th Ed, 2013 (ISBN 8123922892)参照)。
【0146】
本明細書では、単一の分離可能な特徴のための代替案が「実施形態」としてレイアウトされているが、そのような代替案は自由に組み合わせて、本明細書に開示されている本発明の個別の実施形態を形成することができる。
【0147】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに説明され、そこからさらなる実施形態及び利点を引き出すことができる。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0148】
実施例1:IIc(OEG
4
-(IP5)
2
)の合成
工程1:
試薬:DMF、水素化ナトリウム、p-メトキシベンジルクロリド。
ミオイノシトール-1,3,5-オルトホルメートを窒素雰囲気下の乾燥DMFに溶解し、0℃~5℃に冷却した後、水素化ナトリウム(2.2当量)を少しずつ加える。室温で1時間撹拌した後、p-メトキシベンジルクロリド(2.3当量)を滴下して加える。混合物を室温で12時間撹拌した後、水を加え、酢酸エチルで抽出する。真空下で溶媒を除去し、残渣はジエチルエーテルで結晶化した。収率70%。
【0149】
工程2:
試薬:メタノール、2N塩酸。
工程1の生成物を10volのメタノールに溶解し、1volの2N塩酸を加え、50℃で3時間加熱する。冷却後、混合物を水酸化アンモニウム30%で中和し、室温で一晩放置する。形成された固体をろ過し、水で洗浄し、乾燥させる。ジエチルエーテルで結晶化させると、化合物2が白っぽい固体として得られる。収率80%。
【0150】
工程3:
試薬:DMF、水素化ナトリウム、p-メトキシベンジルクロライド。
工程2の生成物を窒素雰囲気下の乾燥DMFに溶解し、0℃~5℃で冷却した後、水素化ナトリウム(2当量)を少しずつ加える。室温で1時間後、混合物を0℃~5℃で冷却し、p-メトキシベンジルクロリド(2当量)を加える。室温で12時間後、混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出する。残渣をヘキサン/酢酸エチル(6/4)で溶出するカラムクロマトグラフィーで精製し、ジエチルエーテルで結晶化させる。収率35%。
【0151】
工程4:
試薬:ジクロロメタン、p-トルエンスルホニルクロリド、トリエチルアミン。
テトラエチレングリコールを乾燥ジクロロメタンに溶解し、トリエチルアミン(3当量)を加え、次にp-トルエンスルホニルクロリド(2.5当量)を加える。室温で12時間撹拌した後、真空下で溶媒を除去し、残渣を酢酸エチル/ヘキサン(7/3)で溶出するカラムクロマトグラフィーで精製する。収率80%。
【0152】
工程5:
試薬:DMF、水素化ナトリウム、ビス(p-トルエンスルホン酸)トリエチレングリコール(工程4)
工程3の生成物を窒素雰囲気下の乾燥DMFに溶解し、0℃~5℃に冷却した後、水素化ナトリウム(1.1当量)を少しずつ加える。室温で1時間撹拌した後、混合物を再び0℃~5℃に冷却し、DMF(3vol)中の化合物4(0.5当量)の溶液を加える。室温で12時間撹拌した後、混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出する。溶媒を除去した後、混合物をヘキサン/酢酸エチルで溶出するクロマトグラフィーで精製する。収率40%。
【0153】
工程6:
試薬:ジクロロメタン、トリフルオロ酢酸。未精製。
工程5の生成物をジクロロメタン(10vol)に溶解し、トリフルオロ酢酸(2vol)を加える。室温で2時間撹拌した後、真空下で溶媒を除去し、残渣をさらに精製することなく次の工程で使用する。定量的収率。
【0154】
工程7:
試薬:DMF、5-メチルテトラゾール、ジベンジルオキシ-ジイソプロピルホスホロアミド、過酸化水素。
工程6の生成物を窒素雰囲気下で乾燥DMF(10vol)に溶解し、5-メチルテトラゾール(9当量)を加え、-10℃に冷却した後、ジベンジルオキシ-ジイソプロピルホスホロアミド(6当量)を滴下して加える。室温で12時間撹拌した後、混合物を0℃~5℃に冷却し、過酸化水素30%(9当量)を滴下して加える。室温で1時間撹拌した後、水を加え、混合物を酢酸エチルで抽出する。溶媒を除去した後、残渣をクロロホルム/メタノール(96/4)で溶出するカラムクロマトグラフィーで精製する。収率40%。
【0155】
工程8:
試薬:水素、Pd/C。マグネシウムエトキシドによるマグネシウム塩の形成。
工程7の生成物をメタノール(15vol)に溶解し、Pd/C 10%を加えて、室温、常圧で24時間かけて水素化する。触媒をろ過した後、減圧下で溶媒を除去すると、酸としての化合物8が得られる。定量的収率。マグネシウム塩の形成は、化合物8の水溶液にマグネシウムエトキシドの水溶液を加えた後、真空下で溶媒を蒸留することにより行われる。
【0156】
実施例2:(OEG
4
)
4
-(IP5)
4
の合成
OEG
4 -(IP5)
2 の合成(実施例1;
図4)で記載したように、ミオイノシトール-1,3,5-オルトホルメートから出発して、3段階で化合物5(PMB=p-メトキシベンジル;
図7)を調製した。
【0157】
工程Aの試薬(
図7):P-トルエンスルホニルクロリド;ジクロロメタン、トリエチルアミン。カラムクロマトグラフィー。収率80%。
【0158】
工程Bの試薬(
図7):トリメチロールプロパン、DMF、水素化ナトリウム。カラムクロマトグラフィー。収率45%。
【0159】
工程Cの試薬(
図7):メタノール、水素、Pd/C。収率80%。
【0160】
工程Dの試薬(
図7):P-トルエンスルホニルクロリド、ジクロロメタン、トリエチルアミン。カラムクロマトグラフィー。収率70%。
【0161】
工程Eの試薬(
図7):
図7に示した化合物5、DMF、水素化ナトリウム。カラムクロマトグラフィー。収率20%。
【0162】
工程Fの試薬(
図7):ジクロロメタン、トリフルオロ酢酸。定量的収率。
【0163】
工程Gの試薬(
図7):DMF、ジベンジル-N,N-ジイソプロピルホスホロアミダイト、5-メチルテトラゾール。カラムクロマトグラフィー。収率30%。
【0164】
工程Hの試薬(
図7):メタノール、水素、Pd/C。収率90%。その後、ナトリウム塩の形成、定量的収率。
【0165】
実施例3:CaOx結晶化の阻害
シュウ酸カルシウム(CaOx)結晶化を阻害する化合物の有効性を比較するために、尿中での簡単なin vitro試験を行った。すなわち、ヒトの尿(pH 6.2)を化合物と混合した後、CaOx結晶化を誘発する1mMシュウ酸ナトリウムを添加した。室温で7時間放置した後、結晶化を光学顕微鏡で測定し、自動画像解析を用いて、形成されたCaOx結晶タイプ、すなわちCaOx一水和物(COM)とCaOx二水和物(COD)を検出、分類、定量化した。
【0166】
本発明者らは、3種類の新規2価IP5構造体がいずれも、in vitroで同様のCaOx阻害効果を示し、4μmol/LでCaOx結晶化を完全に阻害することを見出した(
図1)。リンカーの長さは、阻害効果に重要な影響を与えなかった。従前に開発された最も強力な化合物であるIP5-mono-PEG2(OEG
2 -IP5)(PCT/EP2012/004088及びPCT/EP2016/080657)と比較して、OEG
4 -(IP5)
2 は、CaOx結晶化をコントロールの50%以下に阻害する効力が2500倍に増加した(
図1)。
【0167】
本発明者らは、まず、阻害濃度以下の化合物では、結晶化がCOMからCODにシフトし、さらに化合物の濃度を上げると、予想外の効率でCaOxの成長を完全に抑制できることを確認した。試験したすべての2価IP5構造体は、in vitro試験において、生体内で期待される低マイクロモル濃度で完全なCaOx阻害効果を示した(
図2、表1)。
【0168】
本発明者らは、CaOx結晶化阻害効果は、分子上のリン酸基の数に依存し、すべてのOEG
x -(IP5)
2 化合物で4μmol/Lで完全な結晶化阻害効果が認められた(表1)。また、IP6と他の化合物をそれぞれ30μM又は100μMまで試したが、完全なCaOx阻害には至らなかった(
図3、表1)。OEG鎖の長さやリンカーの長さがCaOx結晶化に与える影響はほとんどなく、主にCOM-COD形成力学に影響を与えていることがわかった。さらに、pHを5.5に下げると、OEG
4 -(IP5)
2 よりもOEG
2 -IP5の活性が急激に低下する。化合物OEG
2 -IP5を100μMに設定しても、<50%の完全な阻害又はCOMの阻害には至らなかった。加えて、化合物OEG
4 -(IP5)
2 は、0.3μMでCOM阻害、2.4μMで50%完全阻害を保持していた(
図1、表1)。化合物(OEG
4 )
3 -(IP5)
3 は、0.04μMでCOM阻害、2.4μMで完全阻害を示した(
図8、表1)。
【0169】
【0170】
実施例4:OEG
4
-(IP5)
2
における初期段階の前駆体の安定化によるCaOx結晶化の阻害について
t=10分間での初期結晶化の走査型電子顕微鏡(SEM)実験では、COM形状と円形の両方のナノサイズ粒子の両方の存在が示されたが、500nMのOEG
4 -(IP5)
2 ではナノサイズ粒子のみが検出された(
図9B)。阻害剤を0.5μM~10μM添加した場合、t=1時間でもナノサイズ粒子が存在していたが、コントロール試料ではマイクロメートルサイズのCOM結晶が優勢であったことから、OEG
4 -(IP5)
2 によって初期段階のナノサイズCaOx粒子が安定化されていることが示唆された。
【0171】
さらに、OEG
4 -(IP5)
2 が、用量依存的に、主にCOMからCODへの結晶化に移行し、COD面に特異的な成長阻害を示すことをSEM実験で確認した(
図9A)。これらの結果から、OEG
4 -(IP5)
2 は、結晶の核生成や成長の速度、結晶の多形性や形状など、いくつかの段階で結晶化プロセスを変化させることがわかった。
【0172】
実施例5:OEG
4
-(IP5)
2
において、in vitroでOEG
2
-IP5よりも効率的にCaOxの腎上皮細胞への付着を阻害することについて
IP6類似体のCaOx結晶に対するin vitroでの腎近位尿細管上皮細胞(RPTECs)への抗付着効果を、微分干渉顕微鏡を用いて検討した。OEG
4 -(IP5)
2 、OEG
2 -IP5及び(OEG
2 )
2 -IP4を比較すると、それぞれ200nM、4μM、100μM以上の濃度では、コントロールと比較して、CaOxの付着率が25%以下になることがわかった(
図10A~
図10D)。クエン酸塩処理は、100μMまでのCaOx付着に対する検出可能な保護をもたらさなかった。さらに、OEG
4 -(IP5)
2 は、CaOx付着を阻害するだけでなく、事前結合したCaOx結晶の結合をマイクロモルの低濃度で逆転させた(
図10E)。
【0173】
実施例6:OEG
4
-(IP5)
2
におけるCaOx誘発細胞傷害に対する細胞保護効果について
RPTECsのRNAシークエンスでは、培地コントロールと、OEG
4 -(IP5)
2 コントロールと、OEG
4 -(IP5)
2 と予め混合したCaOxで処理した細胞との間で同様の遺伝子発現プロファイルが見られたが、CaOx処理のみで劇的な変化が引き起こされた(
図11A)。培地サンプル上のCaOxで異なって発現する遺伝子の遺伝子セットのエンリッチメント解析を行ったところ、文献と一致するように、主に免疫・炎症反応に関わる遺伝子が変化していることがわかった。また、構造的な変化(例:微小管の組織化)やタンパク質の修飾・シグナル作用(例:ペプチジルグルタミン酸の修飾、小胞体-核のシグナル伝達経路)も明らかになった(
図11B)。培地サンプル上のCaOxと、OEG
4 -(IP5)
2 サンプル上のCaOxで発現量の異なる上位10個のエンリッチメント遺伝子セットを比較すると、同様の変化が見られ、OEG
4 -(IP5)
2 とCaOxを事前に混合することで、CaOxによるトランスクリプトームの変化を防ぐことができることが示された(
図11B)。CaOx群では、TNFα及びTGFβシグナル伝達経路遺伝子、細胞表面糖タンパク質、C-X-Cモチーフケモカインリガンド及び補体カスケード遺伝子の発現が、他のすべての治療群と比較して上昇していた(
図11C)。さらに、CaOx結晶を処理すると、エチジウムホモダイマー-1の染色で明らかなように、細胞膜の損傷が引き起こされたが、OEG
4 -(IP5)
2 によって用量依存的に防止された(
図11D及び
図11E)。
【0174】
材料と方法
材料
化合物は、Chimete Srl社(Tortona、Italy)によってカスタム合成された。フィチン酸十二ナトリウム塩は、BiosynthAG社(Thal、Switzerland)から入手した。ヒトの尿は、Lee Biosolutions社(Maryland Heights、Missouri)から入手した。シュウ酸塩アッセイキット(MAK315)、カルシウム比色分析キット(MAK022)、ビストリス、シュウ酸ナトリウム、10%中性緩衝ホルマリン溶液、及びMowiol 4-88は、Sigma-Aldrich社(St.Louis、Missouri)から入手した。塩化ナトリウムと塩化カルシウム脱水物は、Merck社(Kenilworth、New Jersey)から入手した。シュウ酸カルシウム一水和物は、abcr社(Karlsruhe、Germany)から入手した。8ウェルグラスボトムスライド(80827)は、ibidi社(Martinsried、Germany)から入手した。クエン酸三ナトリウム二水和物分析グレード、Nunc Lab-Tek IIチャンバースライド、細胞培養プレート、哺乳動物細胞用の生/死生存率/細胞毒性キット、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Thermo Fisher Scientific社(Rochester,NY)から入手した。RPTEC/TERT1細胞、ProxUp基礎培地及びサプリメントは、Evercyte社(Vienna、Austria)から入手した。RNeasyキットは、Quiagen社(Hilden、Germany)から、TrueSeq RNAキットは、Illumina社(San Diego、California)から入手した。
【0175】
CaOxスクリーニングアッセイと分析
ヒトの尿は50mLの分注で-20℃において保存した。解凍後、アリコートを遠心分離し、0.45μmのシリンジフィルターでろ過し、pHを6.2に設定した。ヒトの尿サンプルのシュウ酸塩濃度を、シュウ酸塩アッセイキットを用いてキットのプロトコルに従って測定したところ、使用したサンプルでは100μM未満であった。ナトリウムと化合物の希釈液をBis Tris緩衝液(50mM、150mM NaCl、pH6.2)で調製した。尿と化合物をエッペンドルフチューブに入れて混合し、続いてシュウ酸ナトリウムを添加した。総容量1mLの最終測定用混合液には、尿90%、シュウ酸ナトリウム(1mM)5%、化合物希釈液5%が含まれていた。シュウ酸ナトリウムを添加した直後に、最終的なアッセイ混合物をボルテックスし、イメージングスライド(8ウェルガラスボトムチャンバー、ibidi)に加えた。1ウェルあたり400μLを加え、各サンプルに2つのウェルを用意した。結晶化は、Leica CTR6000顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社、Wetzlar、Germany)の明視野モードを用いて、室温で7時間インキュベートした後に評価した。可視化には、40倍の対物レンズによる画像を使用した。定量化には、2つのウェル/サンプルと、それぞれ5つの20倍対物レンズ像を使用した。シュウ酸ナトリウムを添加しないと、結晶化は観察できなかった。
【0176】
同様の方法で結晶種の阻害を評価した。結晶化は、上記のように尿中の1mMシュウ酸ナトリウムで誘発し、その後、室温で1.5時間放置した後、化合物を各ウェルに直接添加した。サンプルは、化合物を添加する前のt=1.5時間と、その後のt=7時間で撮影された。
【0177】
結晶の定量化と分類は、Matlab(バージョンR2016b又はR2018b)で行った。すなわち、エッジ検出と流域アルゴリズムを用いて結晶をセグメント化し、続いて各結晶の形状、強度、テクスチャの特徴を抽出した。抽出された特徴は、COM(クラス0)、COD(クラス1)、決定されていない構造(クラス2)、バックグラウンドノイズ(クラス3)を区別するための半教師あり分類アプローチの入力とした。3次構造のサポートベクターマシン(SVM)分類器を学習し、テスト画像の分類に使用した。
【0178】
すべてのテスト画像は、バッチ処理アプリを使用して処理された。CaOx結晶化を阻害する化合物の有効性は、各結晶タイプの視野あたりの総面積を分析することで比較した。各実験(N=3)において、COM、COD、未分類の3つの結晶クラスの総面積の合計をコントロールに対して正規化した。結晶化プロセス自体には固有のばらつきがあるため、各実験で正規化することで、実験間のばらつきの影響を低減させた。
【0179】
走査型電子顕微鏡
SEM用のCaOx結晶は、1mMのNaOx、2mMのCaCl2 、表示濃度の化合物を含むBis Tris緩衝液(50mM、150mM NaCl、pH6.2)で調製した。24ウェルプレートの底に12mmの丸いガラスカバースリップを置いた。まず、CaCl2 と阻害剤の20倍最終濃度と、NaOxの10倍最終濃度のストック液をBis Tris緩衝液で調製した。アッセイ混合液は、エッペンドルフチューブに、まず800μLのBis Tris緩衝液を加え、続いて50μLのCaCl2 (20倍濃度)と50μLの阻害剤(20倍濃度)を加え、ボルテックスして調製した。その後、100μLのNaOx(最終濃度10倍)を加え、アッセイ混合物をボルテックスして、準備した24ウェルプレートに直ちに加えた。1ウェルあたり400μL、1サンプルあたり2ウェルを用意した。サンプルを室温で示された時間だけインキュベートした。試料を二重蒸留水(ddH2 O)で1回洗浄し、室温で乾燥させる前に、Leica CTR6000顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社)を用いて明視野モードでサンプル画像を撮影した。乾燥プロセスが結晶形態に与える影響が少ないことを確認するため、乾燥後に再び明視野顕微鏡でサンプルを撮影した。乾燥後、ガラスカバースリップを銀色の塗料でSEMスタブに取り付け、CCU-010 Metal Sputter Coater(Safematic, Bad Ragaz, Switzerland)を用いて6nmのプラチナ/パラジウム層をコーティングした。サンプルは、TLD検出器を使用して二次電子モードでMagellan 400 FESEM顕微鏡(Thermo Fisher Scientific社、Rochester、NY)を使用して画像化された。
【0180】
細胞実験
RPTEC/TERT1ヒト近位尿細管細胞(Evercyte)を、ProxUpサプリメント(Evercyte)を混合したProxUp基礎培地(Evercyte、DMEM/Ham′s F12、Hepes緩衝液、GlutaMAXTM)で、メーカーの推奨に従って37℃、5%CO2 で培養した。細胞は定期的にマイコプラズマ感染の検査を行った。
【0181】
細胞の生存率は、生/死生存率/細胞毒性キット(ThermoFisher Scientific社)を用いて評価した。細胞を24ウェルプレートで培養し、播種から48時間後(コンフルエントに達した時点)に150μg/cm2 のシュウ酸カルシウム一水和物(abcr)をProxUp basalで化合物とプレミックスして処理した。48時間処理後、生/死生存率/細胞毒性キット(ThermoFisher Scientific社)を用いて、キットのプロトコルに従って染色し、細胞生存率を測定した。画像は、Leica CTR6000顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製、3ウェル/サンプル、3画像/ウェル)を用いた落射蛍光顕微鏡により得られ、赤色蛍光ドットの数を定量した。
【0182】
RPTEC細胞へのCaOxの付着を定量化するために、8ウェルのNunc Lab Tekチャンバースライド(ThermoFisher Scientific社)で細胞を培養し、48時間後にコンフルエントになったところで、ProxUp基礎培地(pHを6.9に設定)に化合物をプレミックスしたCOM(abcr)で37℃、5%CO2 で30分間処理した。細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で2回洗浄し、10%中性緩衝ホルマリンで15分間固定した後、PBSで洗浄し、最後にddH2 Oですすいだ。スライドのチャンバーを外し、Mowiolで細胞をマウントした。Leica CTR6000顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社)のDICモード、63倍オイル対物レンズで画像を取得し(1サンプルにつき3ウェル、1ウェルにつき8枚の画像)、結晶占有面積を定量化した。
【0183】
RNAシークエンシング
細胞は、細胞生存率アッセイに記載された通りに培養した。4つの処理グループは、培地対照(ProxUp basal)、150μg/cm2 シュウ酸カルシウム一水和物(abcr)のみ、150μg/cm2 シュウ酸カルシウム一水和物(abcr)と10μM OEG4 -(IP5)2 のプレミックス、10μM OEG4 -(IP5)2 のみ、から構成した。トータルRNAは、RNeasyキット(Quiagen社)を用いて、メーカーのプロトコルに従って抽出した。mRNAを精製し、TrueSeq RNAキットを用いてRNAseqライブラリーをプレパラート化した。シークエンスはNovaseq 6000 (Illumina社)を用いて行った。読み取り値は、STARツールを用いてヒト参照ゲノムGRCh38.p10にアライメントし、Kallistoプログラムを用いて転写産物の定量化を行った。遺伝子モデルの定義にはEnsembl release 91を使用した。有意に異なる遺伝子のヒートマップと階層的クラスタリングのために、全サンプルの平均値と比較してlog2fold変化を計算し、log2fold変化>4とした。遺伝子セット濃縮分析は、Webgestalt.org(v2019)41で実行された。GSEAの入力は、アンサンブル遺伝子IDを持つ遺伝子リストと、2つの処理グループ間の差次的発現の指標となるランキングスコア(-log10
* p-value * sign (log2 ratio))である。差次的に発現する遺伝子を遺伝子オントロジー(生物学的プロセス機能データベース)と比較し、参照セットとしてヒトゲノム-タンパク質コーディングを使用した。選択された遺伝子の発現レベルを比較するために、正規化された遺伝子数を使用した。
【0184】
データ解析
統計解析及びグラフは、特に記載のない限り、GraphPad Prism (La Jolla, California)を用いて作成された。データは平均+SDで表した。投与群と対照群の比較には、通常の一元配置分散分析(ANOVA)とポストホックDunnettの多重比較を用いた。画像解析は、特に記載のない限り、Matlab version R2018b及びR2016b(MathWorks, Natick, Massachusetts)を用いて行った。