(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】スズ酸化物形成用組成物
(51)【国際特許分類】
C01G 19/02 20060101AFI20231208BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20231208BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20231208BHJP
C25B 11/093 20210101ALI20231208BHJP
【FI】
C01G19/02 C
C25B11/052
C25B11/077
C25B11/093
(21)【出願番号】P 2021562355
(86)(22)【出願日】2020-09-14
(86)【国際出願番号】 KR2020012366
(87)【国際公開番号】W WO2021060753
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0119109
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、チョン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ファン、イン-ソン
(72)【発明者】
【氏名】パク、フン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】イ、トン-チョル
(72)【発明者】
【氏名】ファン、キョ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、クァン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パン、チョン-オプ
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-517084(JP,A)
【文献】特開2005-219979(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1778259(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 19/02
C25B 11/052
C25B 11/077
C25B 11/093
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズ前駆体と、硫酸イオンと、溶媒と、を含み、
スズに対する硫酸イオンのモル比(硫酸イオン/スズ)が
3~10であり、
前記スズ前駆体は、スズアルコキシド化合物、スズ酢酸塩、硫酸スズ、およびスズ2-エチルヘキサノエートからなる群から選択される1つ以上である、
スズ酸化物形成用組成物。
【請求項2】
ルテニウム前駆体およびイリジウム前駆体からなる群から選択される1つ以上を含む白金族前駆体をさらに含み、
前記ルテニウム前駆体は、ルテニウムヘキサフルオリド(RuF
6)、ルテニウム(III)クロリド(RuCl
3)、ルテニウム(III)クロリド水和物(RuCl
3・xH
2O)、ルテニウム(III)ニトロシルクロリド(Ru(NO)Cl
3)、ヘキサアンミンルテニウム(III)クロリド(Ru(NH
3)
6Cl
3)、ルテニウム(III)ブロミド(RuBr
3)、ルテニウム(III)ブロミド水和物(RuBr
3・xH
2O)、ルテニウムヨージド(RuI
3)、およびルテニウム酢酸塩からなる群から選択される1つ以上の化合物であり、
前記イリジウム前駆体は、イリジウムクロリド水和物(IrCl
3・xH
2O)およびヘキサクロロイリジウム酸水素六水和物(H
2IrCl
6・6H
2O)からなる群から選択される1種以上の化合物である、
請求項1に記載のスズ酸化物形成用組成物。
【請求項3】
スズハロゲン化化合物と、硫酸イオンと、白金族前駆体と、溶媒と、を含み、
前記白金族前駆体は、ルテニウム前駆体およびイリジウム前駆体を含み、
スズに対する硫酸イオンのモル比(硫酸イオン/スズ)が
3~10であり、
前記ルテニウム前駆体は、ルテニウムヘキサフルオリド(RuF
6)、ルテニウム(III)クロリド(RuCl
3)、ルテニウム(III)クロリド水和物(RuCl
3・xH
2O)、ルテニウム(III)ニトロシルクロリド(Ru(NO)Cl
3)、ヘキサアンミンルテニウム(III)クロリド(Ru(NH
3)
6Cl
3)、ルテニウム(III)ブロミド(RuBr
3)、ルテニウム(III)ブロミド水和物(RuBr
3・xH
2O)、ルテニウムヨージド(RuI
3)、およびルテニウム酢酸塩からなる群から選択される1つ以上の化合物であり、
前記イリジウム前駆体は、イリジウムクロリド水和物(IrCl
3・xH
2O)およびヘキサクロロイリジウム酸水素六水和物(H
2IrCl
6・6H
2O)からなる群から選択される1種以上の化合物である、
スズ酸化物形成用組成物。
【請求項4】
前記溶媒は、水、アルコール類、およびケトン類からなる群から選択される1つ以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のスズ酸化物形成用組成物。
【請求項5】
組成物中の硫酸イオンの濃度が0.01~10Mである、
請求項1~4のいずれか一項に記載のスズ酸化物形成用組成物。
【請求項6】
組成物中のスズイオンの濃度が0.01~10Mである、
請求項1~5のいずれか一項に記載のスズ酸化物形成用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のスズ酸化物形成用組成物を480℃以上の温度で焼成するステップ(S1)を含む、スズ酸化物の形成方法。
【請求項8】
焼成の前に、50~300℃の温度で乾燥するステップ(S0)をさらに含む、
請求項7に記載のスズ酸化物の形成方法。
【請求項9】
前記焼成は30~120分間行う、
請求項7または8に記載のスズ酸化物の形成方法。
【請求項10】
前記焼成の温度は550℃以上である、
請求項7~9のいずれか一項に記載のスズ酸化物の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年9月26日付けの韓国特許出願第10-2019-0119109号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、高い収率でスズ酸化物を形成することができるスズ酸化物形成用組成物、およびそれを用いたスズ酸化物の形成方法に関する。
【背景技術】
【0003】
海水などの低価の塩水(Brine)を電気分解して水酸化物、水素、および塩素を生産する技術が広く知られている。このような電気分解工程は、通常、クロル-アルカリ(chlor-alkali)工程とも呼ばれており、既に、数十年間における商業運転によりその性能および技術の信頼性が立証された工程であるといえる。
【0004】
かかるクロル-アルカリ工程では、電解槽の内部にイオン交換膜を設けて電解槽内を陽イオン室と陰イオン室に仕切り、電解質として塩水を用いて陽極で塩素ガスを、陰極で水素および苛性ソーダを得るイオン交換膜法が、現在最も広く用いられている方法である。
【0005】
一方、クロル-アルカリ工程は、下記の電気化学反応式で示したような反応を経て行われる。
【0006】
陽極(Anode)反応:2Cl-→Cl2+2e-(E0=+1.36V)
陰極(Cathode)反応:2H2O+2e-→2OH-+H2(E0=-0.83V)
全体反応:2Cl-+2H2O→2OH-+Cl2+H2(E0=-2.19V)
【0007】
塩水の電気分解を行うに際し、電解電圧は、理論的な塩水の電気分解に必要な電圧に加えて、陽極の過電圧、陰極の過電圧、イオン交換膜の抵抗による電圧、および陽極と陰極との間の距離による電圧を何れも考慮しなければならず、これらの電圧の中でも、電極による過電圧が重要な変数として作用している。
【0008】
そこで、電極の過電圧を減少させることができる方法が研究されている。例えば、陽極としては、DSA(Dimensionally Stable Anode)と呼ばれる貴金属系電極が開発されて用いられており、陰極においても、過電圧が低く、且つ耐久性を有する優れた素材の開発が求められている。
【0009】
かかる陰極としては、ステンレス鋼またはニッケルが主に用いられており、近年、過電圧を減少させるために、ステンレス鋼またはニッケルの表面を酸化ニッケル、ニッケルとスズの合金、活性炭と酸化物の組み合わせ、酸化ルテニウム、白金などで被覆して用いる方法が研究されている。
【0010】
しかしながら、このように電極の表面にコーティング層を導入する方法のうち、スズを含むコーティング層を導入する場合には、コーティング層の導入過程中に生じ得る中間生成物の高い揮発性により、コーティング層中のスズ収率が低く、コーティング層の組成も均一ではないという問題があり、飛散されたコーティング層は設備の汚染を誘発する恐れがある。これを解決するために、複雑なイオンを有するスズ前駆体を使用した場合もあるが、この場合、複雑な合成過程を経る必要があるため、前駆体の製造が難しく、コストが増加するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】KR2017-0086104A
【文献】KR2006-0052940A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、製造が簡単であり、かつ高い収率でスズ酸化物を形成することができるスズ酸化物形成用組成物、およびそれを用いたスズ酸化物の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、スズ前駆体と、硫酸イオンと、溶媒と、を含み、スズに対する硫酸イオンのモル比(硫酸イオン/スズ)が1以上である、スズ酸化物形成用組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記スズ酸化物形成用組成物を480℃以上の温度で焼成するステップ(S1)を含む、スズ酸化物の形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るスズ酸化物形成用組成物は、製造が容易であり、かつ高い収率でスズ酸化物を形成することができ、従来の電極製造工程などにも同様に適用可能であるため経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスズ酸化物形成用組成物を互いに異なる温度で焼成させた時のXRDグラフを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0018】
本明細書および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0019】
[スズ酸化物形成用組成物]
本発明の発明者は、スズ前駆体と硫酸イオンが同時に存在し、かつ組成物中の硫酸イオンとスズのモル比が1以上である場合、スズ前駆体からスズ酸化物が形成される過程における中間生成物の揮発を抑えることができ、これにより、最終的に形成されるスズ酸化物の収率が飛躍的に高くなることができることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
具体的に、本発明は、スズ前駆体と、硫酸イオンと、溶媒と、を含み、スズに対する硫酸イオンのモル比(硫酸イオン/スズ)が1以上である、スズ酸化物形成用組成物を提供する。
【0021】
前記スズ前駆体からスズ酸化物が形成され、前記スズ前駆体としては、高温条件下でスズ酸化物に転換されることができるものであれば使用可能である。例えば、前記スズ前駆体は、スズ自体のイオン、すなわち、スズイオンであってもよく、または、塩化スズ(IIまたはIV)を含むスズハロゲン化化合物(スズハロゲン化化合物の水和物も含まれる)、スズイソプロポキシドを含むスズアルコキシド化合物、スズ酢酸塩、硫酸スズ、スズ2-エチルヘキサノエートからなる群から選択される化合物であってもよい。かかるスズ前駆体を用いる場合、後でスズ酸化物が容易に形成されるとともに、溶媒中にスズ前駆体が均一に分布されることができ、均一な物性のスズ酸化物が形成可能である。
【0022】
前記スズ前駆体のスズ酸化物形成用組成物中における濃度は、スズ前駆体の種類と溶媒の種類、および溶媒に対するスズ前駆体の溶解度などによって変わり得るが、一般には、スズイオンを基準として0.01~10M、好ましくは0.05~5Mであってもよい。スズ前駆体の濃度がこれより低い場合には、形成されるスズ酸化物の量が少ないため、コストの点から経済的ではなく、これより大きい場合には、組成物中に添加されるべき硫酸イオンの量が過度に増加し、製造ステップ中または製造後に取り扱いにくく、一部の場合では、沈殿物が生じ得るため、スズ酸化物の生成が均一ではない恐れがある。
【0023】
前記硫酸イオン(SO4
2-)は、スズ前駆体からスズ酸化物が形成されるまでの過程で生成される中間生成物の揮発を抑え、最終的に製造されるスズ酸化物の収率を高める役割を果たす。前記硫酸イオンは、溶媒に溶解されて硫酸イオンを発生させることができる化合物の形態で溶媒に添加されることができ、例えば、硫酸(H2SO4)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硫酸カルシウム(CaSO4)、硫酸カリウム(K2SO4)、および硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)からなる群から選択される1種以上の化合物を溶媒に溶解させることで生成されることができる。
【0024】
スズ酸化物形成用組成物中における硫酸イオンの濃度は、組成物中におけるスズ前駆体の種類および濃度や、溶媒の種類によって変わり得るが、一般に0.01~10M、好ましくは0.05~5Mであってもよい。硫酸イオンの濃度がこれより少ない場合には、硫酸イオンの機能が十分に発揮されないためスズ酸化物の収率が低下し、これより大きい場合には、穏やかな乾燥-焼成過程で硫酸イオンが適当に除去されず、多量の不純物として働く恐れがある。
【0025】
一方、本発明が提供する組成物中の、スズに対する硫酸イオンのモル比(硫酸イオン/スズ)は、1以上、好ましくは3以上であってもよい。また、20以下または15以下、好ましくは10以下であってもよい。組成物中のスズ成分に対する硫酸イオン成分のモル比がこれより少ない場合には、前述の硫酸イオンの機能が十分に実現されず、本発明の組成物から形成されるスズ酸化物の収率が低下する恐れがある。また、逆に、組成物中のスズ成分に対する硫酸イオン成分のモル比がこれより大きい場合には、過度に存在する硫酸イオンが、スズ酸化物の形成後にも不純物として残るなどの問題が発生する恐れがある。
【0026】
前記溶媒は、スズ前駆体と硫酸イオンが均一に溶解されるようにする役割を果たし、前記溶媒としては、スズ前駆体と硫酸イオンに対して溶解性を有し、かつ、後続のスズ酸化物の生成ステップでスズ酸化物の生成に悪影響を与えず、容易に除去されるものであれば特に制限されずに使用可能である。特に、水、アルコール類(例えば、エタノール、イソプロパノール、またはn-ブタノール)、およびケトン類(例えば、ジメチルケトン、ジエチルケトン、またはメチルエチルケトン)からなる群から選択される1種以上を溶媒として使用可能であり、特に、水、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、およびメチルエチルケトンからなる群から選択される1種以上が好ましい。かかる溶媒を用いる場合、スズ酸化物形成用組成物の安定性を確保することができるとともに、後で均一なスズ酸化物が形成可能である。
【0027】
一方、前記溶媒は、溶解される溶質の分散度の向上や、溶解性の改善のために、追加的な成分をさらに含んでもよい。例えば、溶質の分散度の向上のために、エトキシエタノールまたはブトキシエタノールをさらに含んでもよく、溶解性の改善のために、塩酸または過酸化水素をさらに含んでもよい。
【0028】
本発明において、前記スズ酸化物形成用組成物は、白金族前駆体をさらに含んでもよい。スズ酸化物形成用組成物が白金族前駆体をさらに含む場合、最終的には、スズ酸化物と白金族酸化物を含む複合金属酸化物が形成されることができる。
【0029】
前記白金族前駆体としては、ルテニウム前駆体および/またはイリジウム前駆体が使用可能であり、具体的に、前記白金族前駆体がルテニウム前駆体である場合、ルテニウムヘキサフルオリド(RuF6)、ルテニウム(III)クロリド(RuCl3)、ルテニウム(III)クロリド水和物(RuCl3・xH2O)、ルテニウム(III)ニトロシルクロリド(Ru(NO)Cl3)、ヘキサアンミンルテニウム(III)クロリド(Ru(NH3)6Cl3)、ルテニウム(III)ブロミド(RuBr3)、ルテニウム(III)ブロミド水和物(RuBr3・xH2O)、ルテニウムヨージド(RuI3)、およびルテニウム酢酸塩からなる群から選択される1種以上の化合物を白金族前駆体として使用でき、好ましくは、ルテニウム(III)クロリド水和物(RuCl3・xH2O)、ルテニウム(III)ニトロシルクロリド(Ru(NO)Cl3)、ヘキサアンミンルテニウム(III)クロリド(Ru(NH3)6Cl3)、およびルテニウム酢酸塩からなる群から選択される1種以上が使用できる。前記挙げられたルテニウム前駆体を用いる場合、ルテニウム酸化物およびスズ酸化物を含む複合金属酸化物を容易に形成することができるとともに、収率が高いという利点がある。
【0030】
一方、本発明において、前記白金族前駆体がイリジウム前駆体である場合、イリジウムクロリド水和物(IrCl3・xH2O)およびヘキサクロロイリジウム酸水素六水和物(H2IrCl6・6H2O)からなる群から選択される1種以上の化合物を白金族前駆体として使用できる。ルテニウム前駆体の場合と同様に、前記挙げられたイリジウム前駆体を用いる場合、イリジウム酸化物およびスズ酸化物を含む複合金属酸化物を容易に形成することができるとともに、収率が高いという利点がある。
【0031】
[スズ酸化物の形成方法]
本発明は、前述のスズ酸化物形成用組成物を用いてスズ酸化物を形成する方法を提供する。具体的に、本発明は、上述のスズ酸化物形成用組成物を480℃以上の温度で焼成するステップ(S1)を含むスズ酸化物の形成方法を提供する。
【0032】
本ステップでの高温焼成により、硫酸イオンの存在下でスズ前駆体がスズ酸化物に転換されるが、転換に必要な十分なエネルギーを供給するために、焼成の温度は480℃以上、好ましくは550℃以上であってもよい。焼成の温度がこれより低い場合には、酸化物への転換に必要な十分なエネルギーが供給されないため、均一なスズ酸化物が形成されない恐れがある。特に、焼成の温度が550℃以上である場合、スズ酸化物の形成と、スズ酸化物形成用組成物中に含まれている硫酸イオンの除去が円滑に行われることができる。
【0033】
本ステップでの焼成は、30分以上、好ましくは60分以上行われることができる。焼成時間がこれより短い場合には、十分なスズ酸化物が形成されない恐れがある。
【0034】
本ステップでの焼成は、組成物の状態で直ちに行われてもよく、組成物を他の対象に塗布してから行われてもよい。例えば、前記スズ酸化物形成用組成物を金属基材に塗布してから焼成することで、金属基材の表面にスズ酸化物を含むコーティング層を形成することもできる。前記塗布は、例えば、ドクターブレード、ダイキャスト、コンマコーティング、スクリーン印刷、スプレー噴射、エレクトロスピニング、ロールコーティング、およびブラッシングからなる群から選択される何れか一つの方法により行われることができる。このように組成物を塗布した後に焼成する場合、塗布および焼成の過程が複数回繰り返されることができる。
【0035】
本発明のスズ酸化物の形成方法は、焼成の前に、50~300℃、好ましくは50~200℃の温度で乾燥するステップ(S0)をさらに含んでもよい。このように焼成前に乾燥ステップを経る場合、スズ酸化物がより容易に形成されることができる。前記乾燥は、5~60分、好ましくは5~30分間行われることができる。
【0036】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例および実験例を挙げてより詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例および実験例によって制限されるものではない。本発明による実施例は、様々な他の形態に変形可能であり、本発明の範囲が下記で詳述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0037】
[実施例1]
溶媒である脱イオン水に塩化スズ(II)二水和物および硫酸(H2SO4)を溶解させてスズ酸化物形成用組成物を製造した。組成物中のスズ成分に対する硫酸イオン(SO4
2-)のモル比は3になるようにした。
【0038】
[実施例2]
スズ前駆体としてスズ2-エチルヘキサノエートを溶解させたことを除き、実施例1と同様に行ってスズ酸化物形成用組成物を製造した。
【0039】
[実施例3]
硫酸スズ(SnSO4)を直接溶解させたことを除き、実施例1と同様に行ってスズ酸化物形成用組成物を製造した。
【0040】
[実施例4]
塩化ルテニウム三水和物、塩化イリジウム三水和物、および塩化スズ(II)二水和物をRu:Ir:Snのモル比が35:20:45となるように、過量の1Mの硫酸水溶液に溶解させ、スズ酸化物形成用組成物を製造した。組成物中のスズ成分に対する硫酸イオン(SO4
2-)のモル比は8になるようにした。
【0041】
[実施例5]
スズ前駆体として硫酸スズを直接溶解させたことを除き、実施例4と同様に行ってスズ酸化物形成用組成物を製造した。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、硫酸を溶解させなかったことを除き、同様に行ってスズ酸化物形成用組成物を製造した。
【0043】
[比較例2]
実施例2において、硫酸を溶解させなかったことを除き、同様に行ってスズ酸化物形成用組成物を製造した。
【0044】
[比較例3]
実施例1において、組成物中のスズ成分に対する硫酸イオン(SO4
2-)のモル比が0.7になるようにしたことを除き、同様に行ってスズ酸化物形成用組成物を製造した。
【0045】
[比較例4]
実施例4において、溶媒としてn-ブタノールを使用したことを除き、同様に行ってスズ酸化物形成用組成物を製造した。
【0046】
前記実施例および比較例で製造したスズ酸化物形成用組成物の成分および含量比を下記表1にまとめた。
【0047】
【0048】
<実験例1.製造されたスズ酸化物形成用組成物の収率の確認>
前記実施例1~4および比較例1~2で製造したスズ酸化物形成用組成物を焼成し、焼成結果得られたスズ酸化物の重量から収率を計算した。収率は下記式1および2を用いて計算し、その結果を表2に示した。
【0049】
[式1]
収率={(焼成後の試料の重量)/(焼成前の試料中のSnモル数XSnO2の分子量)}X100
【0050】
金属前駆体としてスズ前駆体のみを含んでいる実施例1~3および比較例1および2は、前記式1により収率を計算した。
【0051】
[式2]
収率=(焼成後の試料の重量)/{(焼成前の試料中のRuモル数XRuO2の分子量)+(焼成前の試料中のIrモル数XIrO2の分子量)+(焼成前の試料中のSnモル数XSnO2の分子量)}X100
【0052】
金属前駆体として、スズ前駆体以外にルテニウムおよびイリジウム前駆体をさらに含む実施例4は、前記式2により収率を計算した。
【0053】
【0054】
上記の結果から、スズ前駆体と硫酸イオンをともに含む本発明の実施例のスズ酸化物形成用組成物を焼成した際に、より高い収率が示し、特に比較例3から、スズと硫酸イオンの割合が本発明の範囲を満たさない場合、十分な程度の収率が得られないという点を確認した。
【0055】
<実験例2.焼成温度によるXRDおよび収率変化の確認>
また、焼成温度を450℃、480℃、530℃、550℃、および580℃に変化させてXRDを確認し、純粋なSnO
2を対照群として
図1に示した。
【0056】
図1に示したように、480℃未満の温度で焼成した場合には、スズ酸化物が容易に形成されないことを確認し、480℃以上の温度では、殆どのスズ前駆体がスズ酸化物に転換されることを確認した。
【0057】
また、前記実施例1のスズ酸化物形成用組成物を互いに異なる2つの温度で焼成し、その収率を計算した。その結果を下記表3に示した。
【0058】
【0059】
前記表3から、焼成温度が550℃未満である場合、収率が100%を上回ることが確認でき、これは、硫酸イオンが完全に除去されなかったためであることが確認された。これに関連して、収率が100%を上回る場合に得られた結果を元素分析した結果、硫黄の含量が7.6%と計算された。
【0060】
一方、焼成温度が550℃以上である場合には、殆どの硫酸イオンが除去され、収率が100%に収まることを確認した。このことから、本発明のスズ酸化物形成用組成物を用いる場合、スズ酸化物の形成が必要であり、かつ硫酸イオンとは関系のない領域では、相対的に低い温度で焼成を行って焼成過程におけるエネルギー使用量を低減することができ、硫酸イオンの除去が重要な領域では、550℃以上の温度で焼成を行って殆どの硫酸イオンを除去することができるという点を確認した。
【0061】
<実験例3.電極への適用時のEDS分析>
白色アルミナでブラスト処理したチタン拡張基材を10%のシュウ酸水溶液(90℃)で2時間前処理して凹凸を形成した後、蒸留水で洗浄し、乾燥して金属基材を準備した。準備した金属基材に、実施例4、5、および比較例3のスズ酸化物形成用組成物を塗布した後、70℃で乾燥し、550℃で10分間焼成した。組成物の塗布量が20g/m2になるまで前記塗布、乾燥、および焼成を繰り返した後、最終的に550℃で60分間焼成して電極を製造した。製造された電極の表面をEDS分析し、電極コーティング層中に存在する各金属成分のモル比を計算し、これを表4に示した。
【0062】
【0063】
EDS分析結果、実施例4および5では、電極コーティング層の各金属成分の割合が、スズ酸化物形成用組成物中での各金属前駆体の割合と類似であって、スズ前駆体の殆どがルテニウムおよびイリジウムと同様に酸化物に転換されたのに対し、比較例3では、その割合が異なり、スズ前駆体がルテニウムおよびイリジウムに比べて相対的に少なくスズ酸化物に転換されたという点を確認した。