(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】塊茎タンパク質の安定化
(51)【国際特許分類】
C07K 1/14 20060101AFI20231208BHJP
C07K 14/415 20060101ALI20231208BHJP
A23L 33/185 20160101ALI20231208BHJP
A23K 10/35 20160101ALI20231208BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20231208BHJP
【FI】
C07K1/14
C07K14/415
A23L33/185
A23K10/35
A23K20/147
(21)【出願番号】P 2021569515
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(86)【国際出願番号】 NL2020050334
(87)【国際公開番号】W WO2020242300
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-01-24
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500561528
【氏名又は名称】コオペラティ・コーニンクレッカ・アヴェベ・ユー・エイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロビン・エリック・ヤコーブス・スペルブリンク
(72)【発明者】
【氏名】マールテン・ホトセ・ウイルブリンク
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01920662(EP,A1)
【文献】特開2008-222716(JP,A)
【文献】国際公開第2008/092450(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0087628(US,A1)
【文献】特表2019-506876(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0003394(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0244272(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
A23L 5/40- 5/49;31/00-33/29
A23K 10/00-40/35;50/15
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤を単離するための方法であって、少なくとも以下の処理工程、
a)ジャガイモを処理して、天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤を含むジャガイモ処理水を得る工程;
b)天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤を前記ジャガイモ処理水から単離して、唯一の種類のジャガイモタンパク質として5~24重量%の天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤を含むpH2.5~4.0の水溶液を得る工程
を含み、
すべての処理工程が、40℃を超える温度への天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤の曝露を防ぐように実行されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
1時間あたり少なくとも5kgのタンパク質をもたらすように操作される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶液のpHが、3.5より低い、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液のpHが、3.0より低い、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
処理してジャガイモ処理水を得る前記工程が、ジャガイモのパルプ化、すりつぶし、すりおろし、粉砕、圧搾又は切断、及び任意に水との混合を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記処理が、デンプンを除去する工程を更に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤を単離する前記工程が、限外ろ過、透析ろ過、吸着、沈殿又はクロマトグラフィーの工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
グリコアルカロイドを除去する工程を更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液を乾燥させて、天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤粉末を得る、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
全温度曝露(TTE)が、250℃・時間未満である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
全温度曝露(TTE)が、200℃・時間未満である、請求項
1から10
のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤
の単離物であって、ジスルフィド架橋の量が、タンパク質1kgあたりのジスルフィド架橋として存在するシステインのg数として表されるとき、4~8g/kgである、天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤。
【請求項13】
最大200mg/kgタンパク質のグリコアルカロイド含有量を有する、請求項12に記載の天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤。
【請求項14】
請求項12に記載の天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤を含む、ヒト向け食品又は動物向け飼料製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
とりわけ、食肉由来食品に伴う環境負荷に対する人々の意識の高まりにより、従来食品の菜食主義者及び完全菜食主義者向け類似物に対する需要が高まっている。しかしながら、植物性タンパク質は、依然として、様々な側面で動物由来製品と競合し得るものになっていない。1つの理由は、植物性タンパク質は、多くの場合、食品に調製される前に単離して加工する必要があることである。このような単離は、凝固の形態をとることがある。これは最も費用効果の高い方法であるが、タンパク質のすべての機能特性を失う結果にもなる。天然タンパク質は様々な特性を有し、これらの特性は食品又は飼料産業における天然タンパク質の使用を凝固タンパク質よりも興味深いものにしている。しかしながら、天然タンパク質の単離はより面倒である。
【0002】
天然タンパク質の単離、及びそのようなタンパク質の食品への加工時には、溶液中でタンパク質を使用することが好ましい。粉末の取り扱いは、特に大規模な場合、溶液の取り扱いよりも本質的に困難である。タンパク質溶液の使用には、タンパク質粉末の使用よりも、注入が容易であり、ポンピングが効率的であり、洗浄が速いという利点がある。しかし、過剰な量の液体の取り扱いを避けるために、希釈よりもむしろ濃縮されたタンパク質溶液を使用することが好ましい。
【0003】
根又は塊茎天然タンパク質溶液、特に少なくとも5重量%のタンパク質の濃度を有する溶液等の濃縮溶液の取り扱いにおける1つの問題は、そのような溶液において、タンパク質はゲルを形成する傾向があるということである。ゲル化すると、濃縮溶液は、粉末よりも取り扱いが更に困難になる。ゲル化したタンパク質溶液は、容器から取り出すことが困難であるため、ポンプで汲み上げたり注いだりすることができなくなり、したがって処理が困難になる。したがって、濃縮タンパク質溶液のゲル化を回避する方法を特定することが望ましい。
【0004】
従来から、根又は塊茎天然タンパク質は、様々な方法によって根又は塊茎から単離されている。そのような方法は通常、40℃を超える温度等、温度上昇を必要とする少なくとも1つの工程を含む。
【0005】
例えば、ジャガイモ澱粉廃液流れ(waste stream)からの塊茎タンパク質単離において、ジャガイモ液から澱粉及び繊維を分離した後には、一般に、タンパク質単離の効率を促進及び改善するために、脱澱粉液(destarched juice)を濃縮する工程が続く。濃縮を行うための費用効果の高い方法は、一般に、少なくとも40℃までの熱処理を含む。更に、天然ジャガイモタンパク質を含有する液体からの糖アルカロイドの除去は、通常、42℃の温度で行われる。
【0006】
更に、ジャガイモ澱粉処理流れは、一般に、おろし金、ポンプ、液体サイクロン、セパレーター及びデカンター等の機械装置からの排熱にさらされる。これにより液の温度が著しく上昇する。例えば、パルプ状の塊茎(tuber pulp)をふるいにかけて繊維を液から分離すると、温度は5~10℃上昇する可能性がある。デンプンを液から分離する液体サイクロンも同様の上昇をもたらすことがあり、ジャガイモ液の限外ろ過は通常、温度を3℃以上上昇させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2008/069650
【文献】EP2083634
【文献】WO2014/011042
【文献】WO2008/056977
【文献】WO2008/069651
【文献】WO2016/036243
【文献】EP1920662
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、天然タンパク質をより高い温度に曝露することが、特にタンパク質が長期間及び/又は高濃度で溶液中に保持される場合に、タンパク質がゲル化する傾向が増加する結果をもたらすことを開示する。結果として、本発明は、天然根又は塊茎タンパク質を単離する方法を提供する。この方法により、タンパク質のゲル形成を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】様々な温度に加熱した後での、長期保存時における16重量%のプロテアーゼ阻害剤タンパク質溶液の動的粘度。
【
図2】pH及び濃度の関数としての周囲条件下での長期保存時の粘度変化。A:16重量%、B:20重量%、C:24重量%。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、根又は塊茎天然タンパク質を単離するための方法を開示し、本方法は、少なくとも以下の処理工程、
a)根又は塊茎を処理して、根又は塊茎天然タンパク質を含む根又は塊茎処理水を得る工程;
b)前記根又は塊茎天然タンパク質を前記根又は塊茎処理水から単離して、少なくとも5重量%の根又は塊茎天然タンパク質を含む水溶液を得る工程
を含み、
すべての処理工程が、40℃を超える温度への天然タンパク質の曝露を防ぐように実行されることを特徴とする。
【0011】
本願発明は、少なくとも以下の処理工程、
a)ジャガイモを処理して、天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤を含むジャガイモ処理水を得る工程;
b)天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤を前記ジャガイモ処理水から単離して、唯一の種類のジャガイモタンパク質として少なくとも5重量%の天然ジャガイモプロテアーゼ阻害剤を含むpH2.5~4.0の水溶液を得る工程
を含み、
すべての処理工程が、40℃を超える温度への天然プロテアーゼ阻害剤の曝露を防ぐように実行されることを特徴とする、方法に関する。
【0012】
本発明は、根又は塊茎天然タンパク質の濃縮水溶液、及びそのような溶液から得られるタンパク質に関する。この関連で、濃縮とは、水溶液が、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも8重量%、より好ましくは少なくとも12重量%、更により好ましくは少なくとも15重量%を構成することを意味する。ただし、好ましくは、タンパク質濃度は、24重量%未満、好ましくは23重量%未満、より好ましくは22重量%未満である。好ましい濃縮タンパク質溶液は、5~24重量%、好ましくは8~20重量%の濃度を有する。
【0013】
本発明の方法によって得られる水溶液は、他の濃縮された根又は塊茎天然タンパク質溶液よりも高い安定性を有するという利点を有する。この関連で、安定性は物理的安定性であり、これは、本文脈において、本質的に、溶液がその物理的性質、特に粘度、色等を保持することを意味する。本文脈における粘度は、実施例に記述されているプロトコルを用いて、25℃でThermo社製HAAKE MARSモデルIIIレオメーターを使用して決定される動的粘度である。
【0014】
根又は塊茎天然タンパク質の単離中の高温曝露を回避することにより、こうして得られたタンパク質の濃縮溶液は、高温にさらされた同じ濃度の同じタンパク質の溶液よりもゲル化が少ないことが見出された。したがって、濃縮天然タンパク質溶液は、長期間にわたって流動性があり加工可能な状態を維持する。濃縮天然タンパク質溶液は、液体タンパク質溶液の処理における利点を有する。この文脈において、流動性があり且つ/又は加工可能であるとは、濃縮タンパク質溶液の動的粘度が、最大10Pa・s、好ましくは最大5Pa・sであることを意味する。本方法に従って得られた濃縮天然タンパク質溶液は、その物理的性質を保持しながら、周囲条件下で数週間又は数ヶ月間保持することができ、流動性があり加工可能な状態を保持する。
【0015】
理論に拘束されるものではないが、現在、40℃より高い温度は、タンパク質の三次元構造を安定化するジスルフィド結合の切断につながると考えられている。構造的に無傷のタンパク質は、ゲル化の影響を受けにくい。相当な量のジスルフィド結合が壊れているタンパク質は、ゲル化の影響をより影響を受けやすい。したがって、天然タンパク質の単離中に高温を回避することは、こうして得られたタンパク質がゲル化の影響を受けにくくなるという効果を有する。
【0016】
より高いタンパク質濃度は、ゲル化の傾向の増大につながる。したがって、濃縮溶液中に存在するタンパク質が、本明細書で定義されている高温に曝露されていないことが特に重要である。
【0017】
通常はゲル化の影響を受けやすい高濃度溶液は、40℃を超える温度への天然タンパク質の曝露を防ぐようにすべての処理工程が実行される分離プロセスを適用することにより、低粘度を維持することができる。したがって、本発明はまた、安定した濃縮タンパク質溶液を得るための方法又はタンパク質溶液を安定化するための方法であって、すべての処理工程が、40℃を超える温度への天然タンパク質の曝露を防ぐように実行されることを特徴とする、本明細書に記載の方法を開示する。
【0018】
タンパク質が40℃を超える温度に曝露されていない単離プロセスを適用することで、時間内でのゲル形成が回避されることは予想外のことである。ゲル化する傾向のあるほとんどの物質は、高温に曝露された後に冷却するとゲル化する。ほとんどの物質では、温度を上げるとゲル形成が回避され、更にはゲルが溶解する。根又は塊茎天然タンパク質の濃縮溶液の本発明では、より低い温度により、タンパク質溶液の貯蔵中のゲル形成を回避する。したがって、天然タンパク質溶液の処理は、40℃未満の温度で実行する必要があり、濃縮タンパク質溶液の保存は、ゲル形成を回避するために、好ましくは、低温で行われるべきであり、例えば、最大25℃、好ましくは最大20℃、より好ましくは最大15℃、更により好ましくは最大5℃で行われるべきである。
【0019】
更に、還元剤の存在はまた、ジスルフィド結合の切断につながり、そのことによって、ゲル化に対するタンパク質の感受性を強めることが見出されている。しかしながら、SO2又は亜硫酸水素塩等の還元剤の添加は、ジャガイモ液の褐変を防ぐためにジャガイモの処理において一般的に行われている。
【0020】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、タンパク質を単離するための方法、安定した濃縮タンパク質溶液を得るための方法、又はタンパク質溶液を安定化するための方法であって、最終溶液中の亜硫酸塩の量は、800ppm未満、好ましくは500ppm未満、より好ましくは200ppm未満、更により好ましくは100ppm未満である、方法を提供する。この濃度の亜硫酸塩を含む溶液はまた、粘度安定性の向上をも示す。好ましくは、粘度安定性の向上は、タンパク質が40℃超の温度に曝露されることを防ぐことによっても達成されるが、記載された低濃度の亜硫酸塩を適用することによって粘度安定性の向上が得られるという洞察は、40℃超の温度へのタンパク質の曝露を回避することによって粘度安定性の向上が達成され得るという洞察と無関係である。
【0021】
本発明はまた、例えばアミノ酸の順序、三次元構造、並びに機能特性、例えば、酵素活性、水中での溶解性及び/又はテクスチャー化特性の点で構造的に無傷である、濃縮溶液としての、又は前記濃縮溶液を乾燥した後のタンパク質粉末としての、単離された天然タンパク質に関する。このタンパク質は、従来の方法で処理されたタンパク質よりも、タンパク質内のジスルフィド結合の量が多いことを特徴とする。
【0022】
本文脈において、根又は塊茎天然タンパク質は、根又は塊茎から単離された天然タンパク質である。根又は塊茎天然タンパク質は、根又は塊茎由来天然タンパク質、又は根又は塊茎に由来する天然タンパク質と呼ばれることがある。根又は塊茎という用語は、その通常の意味を与えられるべきであり、あらゆる種類の根又は塊茎植物に見られるあらゆる根又は塊茎を指す。好ましくは、本文脈における根又は塊茎は、人間の食料生産との関係において栽培され得る食用の根又は塊茎である。通常、根又は塊茎天然タンパク質は、1つのタイプの根又は塊茎からの単一のタイプのタンパク質、又は1つのタイプの根又は塊茎からの特定のタンパク質画分を指すが、特別な場合には、根又は塊茎天然タンパク質は、2種類以上の根又は塊茎に由来する天然タンパク質の混合物を含み得る。
【0023】
好ましくは、本文脈における根又は塊茎は、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、サツマイモ(Ipomoea batatas)、キャッサバ(Manihot esculenta、異名M. utilissimaを含み、マニオク、マンジョカ又はユカとも呼ばれる。M. palmata、異名M. dulcisをも含み、ユカドゥルセ(yuca dulce)とも呼ばれる。)、ヤムイモ(Dioscorea spp)、及び/又はサトイモ(Colocasia esculenta)を含む。より好ましくは、根又は塊茎は、ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ又はヤムイモであり、更により好ましくは、根又は塊茎は、ジャガイモ、サツマイモ又はキャッサバであり、更により好ましくは、根又は塊茎は、ジャガイモ又はサツマイモであり、最も好ましくは、根又は塊茎は、ジャガイモ(Solanum tuberosum)である。
【0024】
したがって、好ましい根又は塊茎天然タンパク質は、天然ジャガイモタンパク質、天然サツマイモタンパク質、天然キャッサバタンパク質、天然ヤムイモタンパク質、及び/又は天然サトイモタンパク質である。
【0025】
好ましくは、根又は塊茎天然タンパク質は、天然根又は塊茎プロテアーゼ阻害剤、天然根又は塊茎パタチン、又はプロテアーゼ阻害剤とパタチンとを含む混合物を含む。プロテアーゼ阻害剤とパタチンを含む混合物は、全根又は塊茎タンパク質と呼ばれることがある。
【0026】
最も好ましくは、根又は塊茎天然タンパク質は、ジャガイモ(Solanum tuberosum)に由来し、すなわち、天然ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害剤、天然ジャガイモパタチン、又はジャガイモ由来プロテアーゼ阻害剤とジャガイモ由来パタチンとを含む混合物を含む。このような混合物は、全ジャガイモタンパク質(total potato protein)と呼ばれることがある。
【0027】
天然は、本文脈において、タンパク質加工の技術分野で従来から知られている用語である。自然環境内で発生するタンパク質は、天然であると考えられる。天然環境からタンパク質を単離すると、タンパク質は容易に分解及び/又は変性し、すなわち、その三次元構造及び機能性を少なくともある程度失う。したがって、天然タンパク質は、著しく分解されておらず著しく変性されていないタンパク質を意味すると理解される。したがって、本文脈における天然タンパク質は、本質的に、その天然の酵素活性及びその天然の三次元構造を保持するタンパク質である。
【0028】
タンパク質の天然性の程度は、可溶化実験によって試験することができる。非天然タンパク質は、天然タンパク質と比べて水中での溶解度が大幅に低下する。タンパク質の溶解度は、タンパク質を水中に分散させ、得られた液体を2つの画分に分割し、1つの画分を800gで5分間遠心分離にかけ、非溶解物質のペレットを調製し、上澄みを回収することで決定され得る。上澄み及び未処理溶液中のタンパク質含有量を測定し、上澄み中のタンパク質含有量を未処理溶液中のタンパク質含有量の百分率として表すことにより、溶解度が決定される。タンパク質含有量を決定するための便利な方法は、Sprint高速タンパク質分析装置(CEM社)を使用して、280nmでの吸光度を測定することによるものである。本文脈において、タンパク質の溶解度が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%である場合、タンパク質は天然であると考えられる。
【0029】
本明細書で定義されるパタチンは、根又は塊茎タンパク質、好ましくはジャガイモタンパク質であり、塊茎において貯蔵タンパク質として機能する酸性糖タンパク質である。根及び塊茎加工産業では、根又は塊茎のどちらのタンパク質がパタチンと考えられるかが一般的に知られている。本文脈において、パタチンは、全タンパク質の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%が、SDS-PAGEで測定して35kDaより多い分子量を有する、根又は塊茎タンパク質画分を指す。
【0030】
本明細書で定義されるプロテアーゼ阻害剤は、根又は塊茎タンパク質、好ましくはジャガイモタンパク質であり、天然形態においてプロテアーゼのプロテアーゼ活性を阻害することができる。どの根又は塊茎タンパク質がプロテアーゼ阻害剤と考えられるかは一般的な知見である。本文脈において、プロテアーゼ阻害剤とは、全タンパク質の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%が、SDS-PAGEで測定して最大35kDaの分子量を有する、根又は塊茎タンパク質画分を指す。
【0031】
SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)は、タンパク質の分子量を決定するための一般的に知られている技術である。
【0032】
本文脈において、根又は塊茎天然タンパク質を単離することは、上記で定義されたように根又は塊茎に天然の形態で天然に存在するタンパク質が、タンパク質に著しい影響を与えることなく、前記根又は塊茎から抽出されることを意味する。したがって、天然タンパク質が著しく分解されることはなく、著しく変性することはない。つまり、アミノ酸の順序、三次元構造及び機能特性は、根又は塊茎で生じるタンパク質と比較して、基本的に無傷となる。
【0033】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、根又は塊茎タンパク質の唯一の種類としての、根又は塊茎天然タンパク質に適用される。根又は塊茎タンパク質の唯一の種類としての根又は塊茎パタチンを含む溶液は、パタチンに関して定義されたもの以外の種類の根又は塊茎タンパク質を含まない。同様に、根又は塊茎タンパク質の唯一の種類としての根又は塊茎プロテアーゼ阻害剤を含む溶液は、プロテアーゼ阻害剤に関して定義されたもの以外の種類の根又は塊茎タンパク質を含まない。これらの実施形態において、本発明は、純粋な根又は塊茎パタチン単離物、又は純粋な根又は塊茎プロテアーゼ阻害剤単離物、例えばジャガイモプロテアーゼ阻害剤単離物を得ることを可能にする。ただし、本方法は、プロテアーゼ阻害剤とパタチンとを含む、根又は塊茎天然タンパク質分離物を得るために実施されてもよい。
【0034】
根又は塊茎タンパク質の唯一の種類としての根又は塊茎パタチンを含む溶液は、プロテアーゼ阻害剤の選択的吸収等の公知の方法によって得ることができる。根又は塊茎タンパク質の唯一の種類としての根又は塊茎プロテアーゼ阻害剤を含む溶液は、パタチンの選択的沈殿及び/又はパタチンの選択的吸収等の公知の方法によって得ることができる。パタチン又はプロテアーゼ阻害剤の選択的吸収を達成する方法は、WO2008/069650に記載されている。
【0035】
濃縮タンパク質溶液は、当技術分野で周知のとおり、デンプン、繊維、細胞破片、糖、塩等の様々な他の根又は塊茎由来成分を更に含み得る。しかしながら、好ましくは、濃縮タンパク質溶液は、多かれ少なかれ純粋な天然タンパク質を含み、例えば、総乾燥物(DM)を基準として、少なくとも50重量%のタンパク質、好ましくは少なくとも75重量%DM、より好ましくは少なくとも85重量%DM、更により好ましくは少なくとも90重量%DM、そして最も好ましくは少なくとも95重量%DMタンパク質を含む。タンパク質量は、CEM社製Sprint高速タンパク質分析装置を使用して決定することができる。
【0036】
濃縮根又は塊茎天然タンパク質溶液を得るために、少なくとも2つの工程を実行する必要がある。根又は塊茎は、天然タンパク質を含む根又は塊茎処理水を得るために処理されなければならず(工程a)、前記天然タンパク質は、根又は塊茎天然タンパク質の濃縮溶液を得るために前記処理水から単離されなければならない(工程b)。両方の工程は本質的に公知の工程である。しかしながら、これらの工程及び適用され得る他の任意の工程は、安定した物理的性質を有する濃縮タンパク質溶液を得るために、40℃を超える温度に天然タンパク質が曝露されることを防ぐように実行されるべきであることが見出された。
【0037】
したがって、本文脈において、タンパク質溶液又は懸濁液は40℃を超える温度で処理されるべきではなく、溶液から粉末への処理は40℃を超える温度で実行されるべきではない。
【0038】
より高い処理温度の使用は、タンパク質が熱の適用によって影響を受けない状況に限定される。例えば、ジャガイモ全体は、ジャガイモ内のタンパク質に影響を与えることなく、短時間の熱曝露に供することができる。これは、ジャガイモの内部が、そのような処理の状況において、40℃を超えるほど速く加熱されないためである。したがって、ブランチング、滅菌、水蒸気剥離等の短時間の熱曝露工程は、40℃を超える温度で実行される工程にもかかわらず、本方法に含まれる工程であり得る。
【0039】
しかしながら、好ましくは、本文脈においてタンパク質を単離するためのすべての処理工程は、40℃未満の温度で実施され、且つ/又はいずれの処理工程も、40℃を超える温度を適用することはない。
【0040】
本明細書に記載の有利な効果を達成するために、タンパク質の全温度曝露を最小限に保つことが好ましい。全温度曝露は、時間(単位:時間)と温度(単位:℃。水は0℃で凍結するため)との積として定義され、TTEと呼ばれる。好ましくは、TTEは、250℃・時間未満、より好ましくは、200℃・時間未満である。
【0041】
工程aにおいて、根又は塊茎を処理して、天然タンパク質を含む根又は塊茎処理水を得る。天然タンパク質は、由来元(origin)の根又は塊茎に生じるタンパク質であり、処理水に溶解する。そのような処理は、例えば、根又は塊茎のパルプ化(pulping)、すりつぶし、すりおろし(rasping)、粉砕、圧搾又は切断、及び任意に水との混合を含む。
【0042】
好ましい実施形態では、処理された(パルプ化、すりつぶし、すりおろし、粉砕、圧搾、切断等がされた)根又は塊茎は、水と混合され、デンプンだけでなく天然タンパク質を含む根又は塊茎ジュースが得られる。そのような処理水は、当技術分野で知られているように、例えば、デカンテーション、サイクロン、又はろ過によるデンプンを除去する工程に供され、天然タンパク質を含む根又は塊茎処理水が得られる。そのような実施形態では、根又は塊茎処理水は、好ましくは、デンプン単離後に得られるジャガイモ果汁(PFJ)等の、デンプン産業からの廃棄物である。
【0043】
他の好ましい実施形態では、根又は塊茎は、例えばチップ及びフライのような加工された根又は塊茎製品の基礎となる根又は塊茎の形状を形成するように切断することによって、処理される。そのような切断は、水の存在下で行われると、根又は塊茎天然タンパク質を含む根又は塊茎処理水をもたらす。
【0044】
一実施形態では、根又は塊茎は、根又は塊茎を切断するために、ウォータージェット流によって処理されてよい。別の実施形態では、根又は塊茎は、例えば水の存在下で、切断ナイフによって処理されてよい。そのような切断プロセスから生じる水は、根又は塊茎天然タンパク質を含み、その結果、工程aの意味での根又は塊茎処理水となる。
【0045】
工程aによる処理は、根又は塊茎全体、又は皮をむいた根又は塊茎に対して行われ得る。
【0046】
工程bでは、根又は塊茎天然タンパク質を根又は塊茎処理水から単離して、根又は塊茎天然タンパク質を含む濃縮水溶液を得る。これを達成する方法は基本的に知られている。処理水からタンパク質を単離するための好ましい方法としては、限外ろ過、透析ろ過、等電点沈殿、熱沈殿、複合体形成、吸着若しくはクロマトグラフィー、又はこれらの方法の2つ以上の組み合わせが挙げられる。任意に、根又は塊茎天然タンパク質の前記濃縮溶液を得るために、前記単離工程の後に、限外ろ過、透析ろ過、逆浸透、又は凍結濃縮等による濃縮工程が続く。
【0047】
天然タンパク質を単離するための好ましい技術は、限外濾過(UF)を使用することである。限外ろ過は、5kDa~500kDaの分子量範囲の溶質を分離するため、低分子量溶質からのタンパク質の分離に使用することができる。UF膜は、直径1~20nmの範囲の細孔を有し得る。好ましいUF膜は異方性UF膜である。好ましくは、限外ろ過膜は、ポリフッ化ビニリデン、再生セルロース、ポリエーテルスルホン(PES)又はポリスルホン(PS)を含む。UF膜は、管状、渦巻、中空繊維、プレート及びフレームとして、又は交差回転によって誘導されるせん断の変更ユニットとして実装され得る。
【0048】
巨大分子を保持する限外ろ過膜の能力は、従来的に、その分子量カットオフ(molecular weight cut-off;MWCO)の点から規定される。MWCO値が10kDaであるということは、膜が、供給溶液から、10kDaの分子量を有する分子の90%を保持できることを意味する。本文脈における好ましいMWCOは、1~300kDaの膜であり、好ましくは2~250kDa、より好ましくは3~200kDa、より好ましくは5~150kDaである。いくつかの実施形態では、5~20kDaの膜が使用され、好ましくは5~10kDaが使用される。他の実施形態では、30~200kDaの膜が使用され、好ましくは50~150、より好ましくは80~120が使用される。
【0049】
プロテアーゼ阻害剤は、好ましくは、上記で定義された分子量カットオフを有するPES又はPS膜を使用して得られる。プロテアーゼ阻害剤は、3~7、好ましくは3.2~4.5のpHでUFに供することができる。
【0050】
パタチンは、好ましくは、PES、PS、又は上記で定義された分子量カットオフを有する再生セルロース膜を使用して得られる。パタチンは、4.0~8.0のpH値、好ましくは6.0~7.5のpH値で、UFに供することができる。不純物を除去した後、pHをpH7~10に上げて、膜を通過する高流束を実現することができる。本発明の文脈において、好ましくは、単離工程の後に、以下に記載される、pH調整工程が続く。
【0051】
タンパク質単離のための更に好ましい技術は、透析ろ過(DF)である。透析ろ過は、水又は食塩水、好ましくは食塩水に対して、限外ろ過と同じ膜を通して、実行することができる。透析ろ過の後には、好ましくは、限外ろ過又は逆浸透等の濃縮工程が続き、好ましくは限外ろ過が続く。
【0052】
好ましい実施形態では、濃縮後に得られた根又は塊茎天然タンパク質は、乾物含量の75%を超えるタンパク質含有量を有する。ここでのタンパク質含有量は、ケルダール窒素含有量に6.25を掛けたものとして定義される。好ましくは、タンパク質含有量は、乾燥物を基準として表して、80%超、より好ましくは85%超、更により好ましくは90%超、更により好ましくは95%超である。
【0053】
タンパク質の単離は、例えばEP2083634、WO2014/011042に記載のとおり、吸着及び溶出によって、又は当技術分野で知られている他の方法によって、実行することができる。
【0054】
根又は塊茎天然タンパク質は、当技術分野で知られているとおり、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーによって、更に単離することができる。根又は塊茎天然タンパク質を単離するための他の技術としては、当技術分野で知られているとおり、等電点電気泳動、等電点沈殿及び複合体形成が挙げられる。
【0055】
本発明の方法は工業規模で適用されることが好ましい。したがって、本方法は、好ましくは、1時間あたり少なくとも5kgのタンパク質、より好ましくは1時間あたり少なくとも25kgのタンパク質、更により好ましくは1時間あたり少なくとも50kgのタンパク質をもたらすように操作される。
【0056】
本発明の方法は、さらなる処理工程を含み得るが、その場合、本明細書で定義されたとおり、タンパク質が40℃を超える温度に曝露されることを防ぐように、そのような処理工程が実行されることを条件とする。
【0057】
一実施形態では、本方法は、グリコアルカロイドを除去する工程を更に含む。グリコアルカロイドを除去する工程は、活性炭、疎水性樹脂、又は様々な種類の粘土への吸着、クロマトグラフィー、酸抽出、酵素変換、又は発酵等の公知の手段によって達成することができる。代表的な技術は、WO2008/056977及びWO2008/069651に記載されている。
【0058】
別の実施形態では、本方法は、特に脂質及び微粒子を除去するための、凝集の工程を含んでよい。凝集は、例えばWO2016/036243に記載されていとおり、実施することができる。
【0059】
本方法は、ろ過の工程、好ましくは精密ろ過の工程を更に含み得る。
【0060】
更に、本方法は、タンパク質、デンプン、又は他の根若しくは塊茎成分の単離を助けるための様々な他の公知の工程を含み得る。例えば、本方法は、1つ又は複数のろ過工程、1つ又は複数のpH調整工程、1つ又は複数の遠心分離工程、並びにサイクロン化工程を含み得る。当技術分野で周知であるとおり、溶液のpHの調整は、酸又は塩基の添加によって実施することができる。適切な酸は、例えば、塩酸、クエン酸、酢酸、ギ酸、リン酸、硫酸及び乳酸であり、適切な塩基は、例えば、水酸化ナトリウム又はカリウム、塩化アンモニウム、炭酸ナトリウム又はカリウム、カルシウム及びマグネシウムの酸化物及び水酸化物である。
【0061】
濃縮根又は塊茎天然タンパク質溶液の物理的特性を安定させるために、濃縮根又は塊茎天然タンパク質溶液は、2.5より高いpH、好ましくは2.75より高いpHを有することが更に好ましい。この実施形態は、任意の根又は塊茎天然タンパク質に適しているが、特に、根又は塊茎プロテアーゼ阻害剤、特にジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害剤に適している。このpH値は、記載されているとおり、酸又は塩基を適切に添加することによって達成され得る。
【0062】
濃縮根又は塊茎天然タンパク質溶液の物理的特性を安定させるために、濃縮根又は塊茎天然タンパク質溶液は、4.0よりも低く、好ましくは3.5よりも低く、好ましくは3.25よりも低く、より好ましくは3.0よりも低いpHを有することが更に好ましい。この実施形態は、任意の根又は塊茎天然タンパク質に適しているが、特に、根又は塊茎由来のパタチン及びプロテアーゼ阻害剤、特にジャガイモ由来のプロテアーゼ阻害剤に適している。このpH値は、記載されているとおり、酸又は塩基を適切に添加することによって達成され得る。
【0063】
プロテアーゼ阻害剤及び/又はパタチンを含む濃縮根又は塊茎天然タンパク質溶液の物理的特性を安定させるために、濃縮溶液のpHは、2.5より高いこと、好ましくは2.75より高いこと、且つ3.5より低いこと、好ましくは3.25よりも低いこと、より好ましくは3.0よりも低いことが非常に好ましい。このpH値は、記載されているとおり、酸又は塩基を適切に添加することによって達成され得る。
【0064】
4.0未満、好ましくは2.5~4.0、より好ましくは2.5~3.5のpHにおけるタンパク質溶液の安定化は、微生物の増殖を低減し、したがって溶液の微生物的安定性を高めるという追加の利点を有する。
【0065】
更に、プロテアーゼ阻害剤及び/又はパタチンを含む濃縮根又は塊茎天然タンパク質溶液は、800ppm未満、好ましくは500ppm未満、好ましくは200ppm未満、好ましくは100ppm未満の亜硫酸塩濃度を有することが好ましい。
【0066】
非常に好ましい実施形態では、本方法は、濃縮溶液を乾燥させる工程を更に含む。乾燥工程は、周知であり、蒸発、噴霧乾燥、凍結乾燥等を含み得る。そのような乾燥は、ゲル化の影響を受けにくい根又は塊茎天然タンパク質粉末をもたらす。
【0067】
本発明は更に、天然プロテアーゼ阻害剤に関し、ここで、ジスルフィド架橋の量は、タンパク質1kgあたりのジスルフィド架橋として存在するシステインのg数として表わされるとき、4~8g/kgである。
【0068】
本発明は更に、天然パタチンに関し、ここで、ジスルフィド架橋の量は、タンパク質1kgあたりのジスルフィド架橋として存在するシステインのg数として表されるとき、6~24g/kgである。
【0069】
本発明は更に、根又は塊茎天然タンパク質に関し、ここで、ジスルフィド架橋の量は、タンパク質1kgあたりのジスルフィド架橋として存在するシステインのg数として表されるとき、4~24g/kg、好ましくは6~24g/kg、より好ましくは12~24g/kg、更により好ましくは18g/kgである。ジスルフィド架橋の量は、天然タンパク質の等級に依存する。プロテアーゼ阻害剤は4~8g/kgのジスルフィド架橋を含み、パタチンは6~24g/kgのジスルフィド架橋を含む。ジスルフィド架橋の量は、好ましくは40~235mmol/kg(タンパク質)、より好ましくは60~235mmol/kg(タンパク質)、更により好ましくは120mmol/kg(タンパク質)、更により好ましくは180mmol/kg(タンパク質)である。記載された量のジスルフィド架橋を有するタンパク質は、特に濃縮溶液中に存在する場合、ゲル化の影響を受けにくい。
【0070】
単位タンパク質あたりのジスルフィド架橋の量は、遊離チオール濃度とそれに続くジスルフィド結合の減少量の決定によって測定され得る。追加で曝露されたチオールの以後の定量化により、試料中に存在したジスルフィド架橋の量が得られる。この量は、必要に応じて、タンパク質1kgあたりのシステインのグラム数、又はタンパク質1kgあたりのシステインのモル数として表すことができる。
【0071】
遊離チオールは、試料を、例えば、エルマン試薬(5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、DTNB)、4,4'-ジチオジピリジン(4-DPS)、モノブロモビマン(mBBr)、又はベンゾフラザン、例えば7-フルオロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-スルホネート(SBD-F)若しくは4-(アミノスルホニル)-7-フルオロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(ABD-F)と反応させることで、分光光度法により定量化され得る。
【0072】
好ましくは、前記タンパク質は、最大200mg/kg DM、より好ましくは最大で100mg/kg DM、更により好ましくは50mg/kg DMのグリコアルカロイド含有量を有する。更に好ましくは、前記タンパク質は、総乾燥物(DM)を基準として、少なくとも50重量%のタンパク質、好ましくは少なくとも75重量%DM、より好ましくは少なくとも85重量%DM、更により好ましくは少なくとも90重量%DM、最も好ましくは少なくとも95重量%DMのタンパク質という、Sprintによって決定された、タンパク質含有量を有する。
【0073】
非常に好ましい実施形態では、前記天然タンパク質は、天然ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害剤、天然ジャガイモ由来パタチン、又はプロテアーゼ阻害剤及びパタチンを含む天然全ジャガイモタンパク質である。
【0074】
本発明は更に、上記で定義された根又は塊茎天然タンパク質を含む、食品又は飼料製品を提供する。好ましくは、食品又は飼料製品は、0.1~10重量%、より好ましくは0.5~5重量%の天然タンパク質を含む。そのような食品又は飼料製品は、従来的な理由で根又は塊茎天然タンパク質が含められ得る一方で、特に高濃度で存在する場合、ゲル化する傾向が低いという利点を有する。
【0075】
根又は塊茎パタチンに関する本発明は、更に以下の項目で説明することができる。
【0076】
1. 根又は塊茎天然パタチンを単離するための方法であって、少なくとも以下の処理工程、
a)根又は塊茎を処理して、根又は塊茎天然パタチンを含む根又は塊茎処理水を得る工程;
b)前記根又は塊茎天然パタチンを前記根又は塊茎処理水から単離して、唯一のタイプのジャガイモタンパク質として少なくとも5重量%の根又は塊茎天然パタチンを含むpH3.5未満の水溶液を得る工程
を含み、
すべての処理工程が、40℃を超える温度への天然タンパク質の曝露を防ぐように実行されることを特徴とする、方法。
【0077】
2. 1時間あたり少なくとも5kgのタンパク質をもたらすように操作される、項目1に記載の方法。
【0078】
3. 水溶液のpHが、2.5より高く、好ましくは2.75より高い、項目1又は2に記載の方法。
【0079】
4. 前記水溶液のpHが3.25より低い、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0080】
5. 処理して根又は塊茎処理水を得る前記工程が、前記根又は塊茎のパルプ化、すりつぶし、すりおろし、粉砕、圧搾又は切断、及び任意に水との混合を含む、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0081】
6. 前記処理が、デンプンを除去する工程を更に含む、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
【0082】
7. 根又は塊茎天然パタチンを単離する前記工程が、限外ろ過、透析ろ過、吸着、沈殿又はクロマトグラフィーの工程を含む、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
【0083】
8. グリコアルカロイドを除去する工程を更に含む、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
【0084】
9. 前記根又は塊茎天然パタチンが、天然ジャガイモパタチン、天然サツマイモパタチン、天然キャッサバパタチン、天然ヤムイモパタチン、又は天然サトイモパタチンである、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0085】
10. 前記根又は塊茎天然パタチンが天然ジャガイモパタチンを含む、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
【0086】
11. 前記水溶液を乾燥させて、根又は塊茎天然パタチン粉末を得る、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
【0087】
12. 全温度曝露(TTE)が、250℃・時間未満、好ましくは200℃・時間未満である、項目1~11のいずれか一項に記載の方法。
【0088】
13. ジスルフィド架橋の量が、タンパク質1kgあたりのジスルフィド架橋として存在するシステインのg数として表されるとき、6~24g/kgである、項目1~12のいずれか一項によって得られる根又は塊茎天然パタチン。
【0089】
14. 最大200mg/kgタンパク質のグリコアルカロイド含有量を有する、項目13に記載の根又は塊茎天然パタチン。
【0090】
15. 項目13又は14に記載の根又は塊茎天然パタチンを含む、ヒト向け食品又は動物向け飼料製品。
【0091】
根又は塊茎全タンパク質に関する本発明は、更に以下の項目で説明することができる。
【0092】
1. 根又は塊茎天然タンパク質を単離するための方法であって、少なくとも以下の処理工程、
a)根又は塊茎を処理して、根又は塊茎天然タンパク質を含む根又は塊茎処理水を得る工程;
b)前記根又は塊茎天然タンパク質を前記根又は塊茎処理水から単離して、少なくとも5重量%の根又は塊茎天然タンパク質を含むpH2.5~4.0の水溶液を得て、ここで、前記根又は塊茎天然タンパク質は、天然パタチン及び天然プロテアーゼ阻害剤を含む、工程
を含み、
すべての処理工程が、40℃を超える温度への天然タンパク質の曝露を防ぐように実行されることを特徴とする、方法。
【0093】
2. 1時間あたり少なくとも5kgのタンパク質をもたらすように操作される、項目1に記載の方法。
【0094】
3. 水溶液のpHが、2.75より高い、項目1又は2に記載の方法。
【0095】
4. 前記水溶液のpHが3.5より低い、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0096】
5. 前記処理して根又は塊茎処理水を得る工程が、前記根又は塊茎のパルプ化、すりつぶし、すりおろし、粉砕、圧搾又は切断、及び任意に水との混合を含む、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0097】
6. 前記処理が、デンプンを除去する工程を更に含む、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
【0098】
7. 根又は塊茎天然パタチンの前記単離が、限外ろ過、透析ろ過、吸着、沈殿又はクロマトグラフィーの工程を含む、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
【0099】
8. グリコアルカロイドを除去する工程を更に含む、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
【0100】
9. 前記根又は塊茎天然タンパク質が、天然ジャガイモタンパク質、天然サツマイモタンパク質、天然キャッサバタンパク質、天然ヤムイモタンパク質、又は天然サトイモタンパク質である、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0101】
10. 前記水溶液を乾燥して、根又は塊茎天然タンパク質粉末を得る、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
【0102】
11. 全温度曝露(TTE)が、250℃・時間未満、好ましくは200℃・時間未満である、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
【0103】
12. ジスルフィド架橋の量が、タンパク質1kgあたりのジスルフィド架橋として存在するシステインのg数として表されるとき、4~24g/kgである、項目1~11のいずれか一項によって得られる天然プロテアーゼ阻害剤及び天然パタチンを含む根又は塊茎天然タンパク質。
【0104】
13. 最大200mg/kgタンパク質のグリコアルカロイド含有量を有する、項目12に記載の根又は塊茎天然タンパク質。
【0105】
15. 項目12又は13に記載の根又は塊茎天然パタチンを含む、ヒト向け食品又は動物向け飼料製品。
【0106】
明確化及び簡潔な説明のために、同一又は別個の実施形態の一部として特徴が本明細書に記載されているが、本発明の範囲は、記載された特徴の全部又は一部の組み合わせを有する実施形態を含み得ることが理解されよう。次に、下記の非限定的例により本発明を説明する。
【実施例】
【0107】
動的粘度は、HAAKE RheoWinソフトウェアを使用し、Z40ローターDIN53019/ISO 3219(RV/RS/MARSでは低慣性)及びZ40カップ(Φ=40mm)を備えた、Thermo社製HAAKE MARSモデルIIIレオメーターを使用して決定される。タンパク質濃縮物の動的粘度(η)は、次の3つのフェーズでプロトコルを適用することにより、25℃にて測定される。
1) 振動(f=0.100Hz)
2) せん断速度の増加(0.1~1,000l/s)
3) せん断速度の低下(1,000~0.1l/s)
工程2)において最小せん断速度で決定した値を、Pa・s単位での動的粘度(η)の測度として使用する。粘度が10Pa・s以下であるとき、溶液は加工可能であり流動性があると考えた。
【0108】
ケルダール測定値に対して較正したCEM社製Sprint高速タンパク質分析装置を使用して、タンパク質濃度を決定した。Sprintにより、タンパク質結合色素の信号の消失を測定する。消失が多いほど、多くのタンパク質が存在する。このシステムは、検出されるすべての窒素が、遊離アミノ酸、ペプチド、又はその他の窒素源ではなく、タンパク質に由来するように充分に透析したタンパク質試料に関するケルダール測定値を使用して較正される。次に、6.25を乗じることで、窒素数をタンパク質含有量に変換する。
【0109】
(実施例1)
すべての処理工程を15~25℃の温度で実行し、ジャガイモを粉砕してデンプンを除去した。EP1920662に記載されている方法2を使用して、得られたジャガイモ果汁を処理し、単離されたプロテアーゼ阻害剤を得た。
【0110】
単離されたジャガイモタンパク質を16重量%の濃度で得た。pHを2.8に調整し、タンパク質溶液を35、39、43、47℃の温度に4時間曝露し、周囲条件(20~25℃)にて保存した。保存前(0週目)、並びに1、2、4、9、18及び52週後に、粘度を決定した。
【0111】
結果は、40℃を超える温度にさらされなかった材料は、(動的粘度の点で)物理的安定性を保持し、流動性があり加工可能な状態を維持することを示す。40℃を超える温度にさらされた材料はゲルを形成し、到着時には処理ができなくなっているため、保存又は出荷はできない。更に
図1を参照されたい。
【0112】
【0113】
(実施例2)
実施例1で得た濃度16重量%のジャガイモプロテアーゼ阻害剤を、30、33、36及び39℃の温度に、3、6又は12時間曝露した。続いて、タンパク質を周囲条件(20~25℃)下で保存し、1日後に粘度を決定した。
【0114】
結果は、より高い温度及びより長い曝露時間がゲル化する傾向の増加をもたらすことを示す。加工温度を最小限に抑える必要があるだけでなく、タンパク質がより高い温度にさらされる時間も最小限に抑える必要がある。
【0115】
【0116】
(実施例3)
実施例1において得られたジャガイモプロテアーゼ阻害剤を濃縮して、限外ろ過により16、20及び24重量%のタンパク質濃縮物を得た。その後、pHを2.5、2.75、3.0の値に調整し、溶液を周囲条件(20~25℃)下で保存した。直後、並びに1、2、4、9、18、及び52週間後に、溶液の粘度を決定した。
【0117】
結果は、このタンパク質がゲル化する傾向がpH及び濃度に依存することを示す。2.5より高いpH、好ましくは2.75より高いpHが好ましい。同様に、ゲル化する傾向は濃度に依存する。流動性を維持し処理可能な状態を維持するために、タンパク質濃度は、好ましくは24重量%未満である。更に、
図2a(16重量%)、2b(20重量%、及び2c(24重量%)も参照されたい。
【0118】
【0119】
(実施例4)
実施例1、2、及び3の結果をプールして、タンパク質のゲル化傾向に対する温度履歴の関連性についての洞察を得た。タンパク質材料の全温度曝露を曝露時間及び温度から計算した。時間-温度積を全温度曝露(TTE)と称して、粘度に対してプロットした。
図3を参照されたい。
【0120】
結果は、タンパク質試料のTTEがゲル化傾向の重要な予測因子であることを示す。好ましくは、TTEは、250℃・時間未満、より好ましくは、200℃・時間未満である。
【0121】
【0122】
(実施例5)
すべての処理工程を15~25℃の温度で実行し、ジャガイモを粉砕してデンプンを除去した。得られたジャガイモ果汁を、EP1920662に記載の方法1を使用して処理し、溶液としてジャガイモタンパク質パタチンを単離しました。
【0123】
溶液を8重量%の濃度に希釈し、塩酸を使用してpH値を3.5、3.0、2.7、2.3、2.0、及び1.7に調整し、周囲温度(20~25℃)にて6日間保存した。粘度を目視により決定し、5時間後、22時間後、及び5日後のゲル形成を評価した。
【0124】
結果は、pHがこのタンパク質にとってのゲル形成の妥当な予測因子であることを示す。加工可能な状態を維持するには、pHは、3.5より低くなければならず、好ましくは3.0より低くなければならない。
【0125】
【0126】
(実施例6)
実施例1で得たジャガイモプロテアーゼ阻害剤を16重量%の濃度で使用した。続いて、pHを3.3の値に調整し、亜硫酸水素ナトリウムを添加して、示された濃度に到達させ、周囲温度又は40℃のいずれかで保存した。溶液の粘度を1日後に測定した。
【0127】
【0128】
表6の結果は、ジャガイモタンパク質溶液の粘度が温度に依存することを示す。亜硫酸塩濃度が高いと、保存時の粘度が高くなり、この効果は温度が高いほど強くなる。
【0129】
(実施例7)
別の実験において、タンパク質濃度は低いが亜硫酸塩レベルは高いという場合の、パタチンに対する亜硫酸塩の影響を調査した。実施例5で得たジャガイモタンパク質(パタチン)溶液を、脱塩水により約5.3重量%の濃度に希釈した。濃縮クエン酸の溶液を、しっかりと攪拌しながら添加した(1/10部の40%クエン酸)。溶液を2つの部分に分け、6%のSO2溶液を添加して、最終的な亜硫酸塩濃度を0.9g/Lにした。基準として、同量の脱塩水を添加した。pHを10MのHClで1.8~1.9に設定した。CEM社製Sprint高速タンパク質分析装置を使用して、最終的なタンパク質含有量を決定した。
【0130】
【0131】
結果は、パタチンタンパク質溶液の安定性における亜硫酸塩の存在の悪影響を明確に示す。