(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】電波干渉モニター装置、及び電波干渉モニター方法
(51)【国際特許分類】
H04B 17/345 20150101AFI20231208BHJP
H04B 17/391 20150101ALI20231208BHJP
H04W 16/18 20090101ALI20231208BHJP
H04W 24/08 20090101ALI20231208BHJP
G01R 29/08 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
H04B17/345
H04B17/391
H04W16/18
H04W24/08
G01R29/08 B
(21)【出願番号】P 2022009235
(22)【出願日】2022-01-25
【審査請求日】2022-08-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 直志
(72)【発明者】
【氏名】塩入 健
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0386759(US,A1)
【文献】国際公開第2019/004243(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/183967(WO,A1)
【文献】特開2019-169815(JP,A)
【文献】特開2008-236071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/345
H04B 17/391
H04W 16/18
H04W 24/08
G01R 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の信号源(110)が同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う所定の空間(6)内における電波干渉情報を表示する電波干渉モニター装置であって、
前記所定の空間内で複数の測定地点にて前記複数の信号源から送信される混在した無線信号を受信する受信部(20a)と、
前記各測定地点での前記混在した無線信号から、前記各信号源のいずれかから送信された信号かを分離する信号分離処理を行い、信号分離した前記各信号源のそれぞれから送信される信号の受信電力に基づき、前記各信号源のそれぞれから送信される信号間の干渉度合いを示す支配率を導出する支配率導出部(24a)と、
前記各測定地点での前記支配率導出部による前記支配率の導出結果に基づき、前記測定地点以外の地点における前記支配率を補間する補間処理部(44)と、
前記各測定地点での前記支配率導出部による前記支配率の導出結果、及び前記各測定地点以外の地点での前記補間処理部による前記支配率の補間結果に基づき、前記所定の空間における前記支配率の分布を表す支配率マップ(63)を生成する支配率マップ生成部(43)と、
前記所定の空間を規定するマップ領域(51)を有する画面(50)を表示部(34)に表示し、前記支配率マップ生成部で生成された前記支配率マップを、前記電波干渉情報として前記マップ領域に表示する表示制御部(45)と、
を有することを特徴とする電波干渉モニター装置。
【請求項2】
前記支配率導出部は、下式(1)により前記支配率を算出することを特徴とする請求項1に記載の電波干渉モニター装置。
支配率 =
前記各信号源から送信されるそれぞれの信号の受信電力の最大値
÷ 前記それぞれの信号の受信電力の総和×100 ・・・ (1)
【請求項3】
電波干渉モニタリング対象の周波数帯を設定する設定手段(41)をさらに有し、
前記支配率導出部は、前記複数の信号源のそれぞれから送信される前記設定手段により設定された周波数帯の信号を対象に前記支配率を導出することを特徴とする請求項1または2に記載の電波干渉モニター装置。
【請求項4】
前記設定手段は、前記電波干渉モニタリング対象の周波数帯として、3.7GHz帯、4.7GHz帯、28GHz帯のいずれかを設定することを特徴とする請求項3に記載の電波干渉モニター装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の電波干渉モニター装置を用い、複数の信号源(110)が同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う所定の空間(6)内の電波干渉情報を表示する電波干渉モニター方法であって、
前記所定の空間内で複数の測定地点を移動させながら前記複数の信号源から送信される混在した無線信号を受信する受信ステップ(S1、S2)と、
前記受信ステップにて受信した前記混在した無線信号から、前記各信号源のいずれかから送信された信号かを分離する信号分離処理を行い、信号分離した前記各信号源のそれぞれから送信される信号の受信電力に基づき、前記各信号源のそれぞれから送信される信号間の干渉度合いを示す支配率を導出する支配率導出ステップ(S3、S4)と、
前記各測定地点での前記支配率導出ステップによる前記支配率の導出結果に基づき、前記測定地点以外の地点における前記支配率を補間する補間処理ステップ(S7)と、
前記各測定地点での前記支配率導出ステップによる前記支配率の導出結果、及び前記各測定地点以外の地点での前記補間処理ステップによる前記支配率の補間結果に基づき、前記所定の空間における前記支配率の分布を表す支配率マップ(63)を生成する支配率マップ生成ステップ(S8)と、
前記所定の空間を規定するマップ領域(51)を有する画面(50)を表示部(34)に表示し、前記支配率マップ生成ステップで生成された前記支配率マップを、前記電波干渉情報として前記マップ領域に表示する表示制御ステップ(S9)と、
を含むことを特徴とする電波干渉モニター方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間内の各場所での同一の周波数帯の複数の無線信号の相互の電波干渉状況を可視化してモニターする電波干渉モニター装置、及び電波干渉モニター方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代通信規格5Gの実用化が始まっており、5Gの多岐に渡るニーズに応えるため、自治体や地域の企業などの様々な主体が柔軟に構築、利用可能なローカル5Gの検討が進められている。
【0003】
この中で、さらなるモバイルトラヒックの急増に対応するため、高効率な周波数利用技術である帯域内全二重通信(InBand Full-Duplex:以下、IBFDという)の適用が検討されている。
【0004】
IBFDは、既存の複信方式に対して理想的には周波数利用効率を2倍にすることができるが、新たに多くの干渉が発生する課題があり、様々な干渉量を取得し、その結果からIBFDの適用可否を判定する制御技術が必要となる。その実現のためには、時空間における例えば5G無線端末あるいは他の種々規格の端末の無線状況を把握し、複数の端末から空間に発射される電波の干渉状況を高速、高精度に測定する干渉モニタリング技術が必要であり、その一環として任意の地点における電磁波の到来方向を推定するシステムが必要となる。
【0005】
到来方向推定を行う従来のシステムとしては、例えば、直交する3つの偏波信号をそれぞれ受信する複数のアンテナの同位置での受信信号に基づいて電磁波の到来方向を推定するもの(例えば、特許文献1等)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された電波到来方向推定システムでは、例えば、3つのアンテナを、順次、同一の測定位置まで移動させて、各受信信号を、順次、取得した段階で電界強度を求め、さらにその電界強度に基づき、例えば、ビームフォーマ法、MUSIC法等の探査方法を適用して電波の到来方向を推定している。
【0008】
この従来の電波到来方向推定システムでは、測定位置での受信信号から複数の信号源からの信号を分離する点、分離した各信号源からの信号毎に、例えば、電界強度、掃引スペクトラム等を求める点については明記されておらず、空間における電波の干渉状態を把握するために、求めた到来方向、及びその他の特性を測定位置に対応して分離した無線信号(信号源)毎に可視化して表示することについても何等開示されていなかった。
【0009】
一方近年では、複数の無線局が例えば同一周波数帯域で無線信号の送受信を行う環境における干渉モニタリング技術が望まれている。特に、上記環境において、各無線局を信号源として該信号源から混在して飛来、伝播する複数の無線信号(同一周波数)を分離し、それぞれの無線信号について当該環境の各所における各解析項目の特性を見易く表示する機能が切望されている。
【0010】
しかしながら、この種の従来システムでは、到来方向の検出は行うことができたとして、それ以外の解析項目、例えば、各地点で受信される混在した信号の受信電力の分布に着目して電波の干渉状態を分かり易く可視化して表示できるようにはなっていなかった。各地点で受信される混在した信号の受信電力の分布が分かれば、例えば、IBFDの適用が可能なエリアか適していないエリアかの判断もつき易く、通信システムの混信を防いだ円滑な運用を行うためにも有用なものとなる。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、複数の信号源が同一周波数帯域で無線信号の送受信を行う環境における空間内各所での無線信号の相互干渉を、各所で受信される混在した信号の受信電力の分布の可視化によって容易に把握可能な電波干渉モニター装置、及び電波干渉モニター方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る電波干渉モニター装置は、複数の信号源(110)が同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う所定の空間(6)内における電波干渉情報を表示する電波干渉モニター装置であって、前記所定の空間内で複数の測定地点にて前記複数の信号源から送信される混在した無線信号を受信する受信部(20a)と、前記各測定地点での前記混在した無線信号から、前記各信号源のいずれかから送信された信号かを分離する信号分離処理を行い、信号分離した前記各信号源のそれぞれから送信される信号の受信電力に基づき、前記各信号源のそれぞれから送信される信号間の干渉度合いを示す支配率を導出する支配率導出部(24a)と、前記各測定地点での前記支配率導出部による前記支配率の導出結果に基づき、前記測定地点以外の地点における前記支配率を補間する補間処理部(44)と、前記各測定地点での前記支配率導出部による前記支配率の導出結果、及び前記各測定地点以外の地点での前記補間処理部による前記支配率の補間結果に基づき、前記所定の空間における前記支配率の分布を表す支配率マップ(63)を生成する支配率マップ生成部(43)と、前記所定の空間を規定するマップ領域(51)を有する画面(50)を表示部(34)に表示し、前記支配率マップ生成部で生成された前記支配率マップを、前記電波干渉情報として前記マップ領域に表示する表示制御部(45)と、を有することを特徴とする。
【0013】
この構成により、本発明の請求項1に係る電波干渉モニター装置は、複数の信号源が同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う所定の空間内での電波干渉モニタリングに際し、支配率マップから、空間内の任意の地点での支配率の分布、すなわち、電波の干渉を受け易いか、受け難いかの電波干渉状況を簡単に把握することができ、既存の測定器、測定システムでは実施が困難である複雑な無線通信環境での電波の干渉状況を容易に観測可能となる。また、支配率マップから把握することができる電波干渉状況(どの地点が電波の干渉を受け易いか、あるいは、受け難いか)を通信システムの制御に反映させることで、混信を防ぎ通信容量を増やす運用が可能となる。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る電波干渉モニター装置において、前記支配率導出部は、下式(1)により前記支配率を算出する構成であってもよい。
支配率 =
前記各信号源から送信されるそれぞれの信号の受信電力の最大値
÷ 前記それぞれの信号の受信電力の総和×100 ・・・ (1)
【0015】
この構成により、本発明の請求項2に係る電波干渉モニター装置は、任意の地点での各信号源から送信されるそれぞれの信号の受信電力の最大値と総和の割合の分布を支配率マップから目視によって容易に把握することができ、IBFDの適用が可能なエリアか適していないエリアかの判断も簡単に行うことができる。
【0016】
また、本発明の請求項3に係る電波干渉モニター装置は、電波干渉モニタリング対象の周波数帯を設定する設定手段(41)をさらに有し、前記支配率導出部は、前記複数の信号源のそれぞれから送信される前記設定手段により設定された周波数帯の信号を対象に前記支配率を導出する処理を行う構成であってもよい。
【0017】
この構成により、本発明の請求項3に係る電波干渉モニター装置は、電波干渉モニタリング対象の所望の周波数帯を設定することにより、当該周波数帯の無線信号の相互干渉状態を容易にモニターすることが可能となる。
【0018】
また、本発明の請求項4に係る電波干渉モニター装置において、前記設定手段は、前記電波干渉モニタリング対象の周波数帯として、3.7GHz帯、4.7GHz帯、28GHz帯のいずれかを設定する構成としてもよい。
【0019】
この構成により、本発明の請求項4に係る電波干渉モニター装置は、3.7GHz帯、4.7GHz帯、28GHz帯のいずれかの周波数帯を選択的に設定して、当該設定した周波数帯の無線信号の相互干渉状態をモニターすることができる。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の請求項5に係る電波干渉モニター方法は、請求項1ないし4のいずれかに記載の電波干渉モニター装置を用い、複数の信号源(110)が同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う所定の空間(6)内の電波干渉情報を表示する電波干渉モニター方法であって、前記所定の空間内で複数の測定地点を移動させながら前記複数の信号源から送信される混在した無線信号を受信する受信ステップ(S1、S2)と、前記受信ステップにて受信した前記混在した無線信号から、前記各信号源のいずれかから送信された信号かを分離する信号分離処理を行い、信号分離した前記各信号源のそれぞれから送信される信号の受信電力に基づき、前記各信号源のそれぞれから送信される信号間の干渉度合いを示す支配率を導出する支配率導出ステップ(S3、S4)と、前記各測定地点での前記支配率導出ステップによる前記支配率の導出結果に基づき、前記測定地点以外の地点における前記支配率を補間する補間処理ステップ(S7)と、前記各測定地点での前記支配率導出ステップによる前記支配率の導出結果、及び前記各測定地点以外の地点での前記補間処理ステップによる前記支配率の補間結果に基づき、前記所定の空間における前記支配率の分布を表す支配率マップ(63)を生成する支配率マップ生成ステップ(S8)と、前記所定の空間を規定するマップ領域(51)を有する画面(50)を表示部(34)に表示し、前記支配率マップ生成ステップで生成された前記支配率マップを、前記電波干渉情報として前記マップ領域に表示する表示制御ステップ(S9)と、を含むことを特徴とする。
【0021】
この構成により、本発明の請求項5に係る電波干渉モニター方法は、該電波干渉モニター方法を適用した電波干渉モニター装置を用いることで、複数の信号源が同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う所定の空間内での電波干渉モニタリングに際し、支配率マップから、空間内の任意の地点での支配率の分布、すなわち、電波の干渉を受け易いか、受け難いかの電波干渉状況を簡単に把握することができ、既存の測定器、測定システムでは実施が困難である複雑な無線通信環境での電波の干渉状況を容易に観測可能となる。また、支配率マップから把握することができる電波干渉状況(どの地点が電波の干渉を受け易いか、あるいは、受け難いか)を通信システムの制御に反映させることで、混信を防ぎ通信容量を増やす運用が可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、複数の信号源が同一周波数帯域で無線信号の送受信を行う環境における空間内各所での無線信号の相互干渉を、各所で受信される混在した信号の受信電力の分布の可視化によって容易に把握可能な電波干渉モニター装置、及び電波干渉モニター方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】現状の電波干渉モニタリング対象の無線環境を説明するための概念図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電波干渉モニター装置の電波干渉モニタリング対象のエリア内での複数の測定地点を対象とする電波干渉測定手順を示す概念図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る電波干渉モニター装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】
図3における干渉モニタリング装置の解析処理部における支配率導出部の詳細構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る電波干渉モニター装置の電波干渉モニター処理動作を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る電波干渉モニター装置の電波干渉モニター処理動作における支配率マップのモニター画面の表示形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る電波干渉モニター装置、及び電波干渉モニター方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0025】
(概要)
まず、本発明に係る電波干渉モニター装置、及びこれを用いた電波干渉モニター方法の概要について
図1、
図2を参照して説明する。
【0026】
現状の干渉モニタリング技術においては、例えば、
図1に示す構成を有する無線環境をモニタリング対象とするものがある。
図1に示す無線環境において、矢印付きの実線が通信信号を表し、矢印付きの点線が干渉状態を発生させる無線信号を表している。
【0027】
図1においては、基地局A0の無線サービスエリア内に所在する端末A1と端末A2とがそれぞれ基地局A0を介して図示しない相手先と通信状態にあり、かつ、基地局B0の無線サービスエリア内に所在する端末B1と端末B2とがそれぞれ基地局B0を介して図示しない相手先と通信状態にある無線環境が想定されている。このような無線環境にあっては、例えば、基地局A0及び基地局B0、端末A1、A2、B1、B2を信号源とし、各信号源から送信される信号間に各所で複雑な干渉状態が発生することがある。
【0028】
図1に示すような複雑な無線通信環境を対象とする干渉モニタリング技術について、従来は、あるエリア内の複数の測定地点で無線信号の受信、到来方向の推定処理を行う方法が存在しながらも、各測定地点で混在する複数の信号源のいずれかから送信された信号を分離し、到来方向を推定し、各測定地点に対応してその到来方向の推定結果を観測できるようになっていなかった。加えて、従来の干渉モニタリング技術では、各測定地点に対応して各信号源から送信された信号の受信電力を解析し、その解析結果データ、若しくは解析結果データから算出される派生データ(例えば、後述する支配率の導出結果)を可視化して表示する点についても考慮されていなかった。
【0029】
一方、本発明に係る電波干渉モニター装置1は、例えば
図2に示すように、複数の信号源A、B、C、D(符号110で示す)が無線信号の送受信を行う電波干渉モニターエリア6の空間内をモニタリング対象としている。信号源A、B、C、Dとしては、同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う基地局、移動端末等が想定されている。
【0030】
電波干渉モニターエリア6を対象に電波干渉モニタリングを行う本発明に係る電波干渉モニター装置1では、電波干渉モニターエリア6の空間内の複数の地点を到来信号の測定を行う測定地点と規定し、例えば、点線矢印で示す移動a、移動b、移動c、移動d、移動eを行いつつ、これら複数の測定地点を順次移動しながら無線信号の測定を実施してその解析結果を収集する。
【0031】
さらに本発明に係る電波干渉モニター装置1では、各測定地点で収集した無線信号の解析結果を分析して電波干渉状態をモニターする指標となる所定の解析項目に関する電波干渉情報を生成するとともに、必要に応じて、各測定地点(あるいはその隣接地点)における上記電波干渉情報を表示する制御を行う。本実施形態では、上記電波干渉情報として、例えば、各測定地点で収集した無線信号の受信電力の解析結果に基づいて各測定地点における電波の干渉度合いを示す支配率を算出し、電波干渉モニターエリア6全体の支配率の分布を支配率マップ63(
図6参照)として表示するようになっている。支配率は、各測定地点で受信された無線信号から分離された、各信号源110から送信される混在する信号の受信電力の最大値と当該混在する信号の受信電力の総和との割合(
図4参照)によって規定される電波の干渉度合いを示す一つのパラメータである。
【0032】
本発明に係る電波干渉モニター装置1では、例えば
図2に示す電波干渉モニターエリア6の空間内の各地点に対応する電波干渉情報、すなわち、支配率マップ63の表示制御については、例えば、後述の基本モニター画面50(
図6参照)を用い、該基本モニター画面50を構成するマップ領域(
図6における電波干渉モニターエリア表示領域51参照)に上記支配率マップ63を可視化して表示するようになっている。基本モニター画面50は、本発明の画面を構成する。
【0033】
次に、本発明の一実施形態に係る電波干渉モニター装置1の構成について
図3を参照して説明する。
【0034】
図3に示すように、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1は、アンテナ装置10、干渉モニタリング装置20、データ処理装置30を備えて構成されている。
【0035】
アンテナ装置10は、上述した電波干渉モニターエリア6(
図2参照)を構成する所定の空間内の各所で、複数の信号源110から送信される混在した無線信号を受信するものである。アンテナ装置10の具体的な構成としては、例えば、特許文献1に記載されているような直交する3偏波をそれぞれ受信可能な3つのアンテナを複数のアンテナ素子として回転体にて回転させる構成、あるいは、アレーアンテナの各アンテナ素子を複数のアンテナ素子とする構成がある。
【0036】
本実施形態に係る電波干渉モニター装置1は、周辺の無線環境から到来する到来信号、すなわち、電波干渉モニターエリア6内で複数の信号源110から送信される混在した無線信号をアンテナ装置10に設けられる複数のアンテナ素子で受信し、各アンテナ素子の受信信号を干渉モニタリング装置20、及びデータ処理装置30で信号処理することにより、各信号源110から送信される信号を分離し、分離された信号を所定の解析項目、例えば、受信電力について解析するとともに、各信号源110から送信される信号毎の受信電力の解析結果データに基づいて支配率等の諸特性を測定するものである。
【0037】
また、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1は、例えばローカル5G環境での使用が可能なものであり、捕捉する到来信号の周波数帯としては、例えば、4.6GHz~4.8GHz及び28.2GHz~29.1GHz等の帯域が想定されている。電波干渉モニター装置1は、ローカル5G環境での使用に限定されるものではなく、例えば、WiFiなどの他の無線システムでの使用にも適用できるものである。
【0038】
なお、電波干渉モニター装置1において、アンテナ装置10は、上述した構成に限られるものではない。上述した周波数帯での無線信号の受信電力等の諸特性を網羅的に取得できるものであれば、アンテナの種別、数、配列、駆動方式等について種々の方式が適用可能である。
【0039】
干渉モニタリング装置20は、
図3に示すように、周波数変換部21、AD変換部22、信号分離部23、信号解析部24を有している。
【0040】
周波数変換部21は、アンテナ装置10により受信された受信信号(無線信号)を入力し、該受信信号を中間周波数帯の信号(IF信号)に変換する処理を行う。
【0041】
AD変換部22は、周波数変換部21で周波数変換された受信信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換して信号分離部23に出力する。AD変換部22は、アンテナ装置10、周波数変換部21とともに受信部20aを構成している。
【0042】
信号分離部23は、AD変換部22から入力するデジタル信号、すなわち、上述した電波干渉モニターエリア6の所定の空間内の各測定地点での混在した無線信号から、複数の信号源110のいずれかから送信された信号を分離する信号分離処理を行う。
【0043】
信号解析部24は、信号分離部23で分離された信号(当該測定地点への到来信号)を入力し、該到来信号を対象に電波干渉モニターに必要とされる項目について解析する信号処理を実施する。本実施形態では、解析対象とされる項目(解析項目)としては、例えば、信号分離部23により信号分離された各信号源110のそれぞれから送信される信号の受信電力が想定されており、さらには、各信号源110のそれぞれから送信される信号の受信電力の解析結果に基づいてこれらの信号の干渉状態を示す支配率を算出する処理が想定されている。
【0044】
これを実現すべく、信号解析部24は、例えば、
図4に示す構成を有する支配率導出部24aを備える。支配率導出部24aは、複数の受信電力計測部25a、25b、25c、25dと、最大電力値検出部26、総和電力値検出部27、及び支配率算出部28を有している。受信電力計測部25a、25b、25c、25d等の受信電力計測部25は、推定される信号源110の数(推定信号源数)に対応して設けられるものであり、
図4においては、例えば、推定信号源数が4の場合の構成を例示している。受信電力計測部25a、25b、25c、25dは、信号分離部23との間に該信号分離部23により分離された信号の入力経路を有し、その経路数は、例えば、推定信号源数×アンテナ装置10に備わるアンテナ素子数となっている。また、受信電力計測部25a、25b、25c、25dには、最大電力値検出部26及び総和電力値検出部27との間に、それぞれ、例えば、推定信号源数に対応する数の出力経路が設けられている。なお、信号分離部23には、アンテナ装置10に備わるアンテナ素子数に対応する数の入力経路が設けられ、上記アンテナ素子での受信信号をそれぞれの入力経路から入力し、各信号源110から送信される信号毎に分離して受信電力計測部25a、25b、25c、25dの上記入力経路へと出力するようになっている。
【0045】
受信電力計測部25a、25b、25c、25dは、例えば、アンテナ装置10に設けられている各アンテナ素子で受信され、信号分離部23によって分離された信号(各信号源110からそれぞれ送信される信号)をそれぞれ入力し、該分離されたそれぞれの信号の受信電力を計測するものである。受信電力計測部25a、25b、25c、25dでの受信電力の計測結果は、最大電力値検出部26、総和電力値検出部27にそれぞれ出力される。
【0046】
最大電力値検出部26は、受信電力計測部25a、25b、25c、25dから受信電力計測値をそれぞれ入力し、そのうちの最大値を検出する。
【0047】
総和電力値検出部27は、受信電力計測部25a、25b、25c、25dから受信電力計測値をそれぞれ入力し、入力した受信電力計測値の総和を算出する処理を行う。
【0048】
支配率算出部28は、最大電力値検出部26により検出された最大値である受信電力計測値と、総和電力値検出部27により算出された受信電力計測値の総和に基づいて支配率を算出する機能部である。ここで支配率算出部28は、上記支配率を、下式(1)を用いて算出するようになっている。
支配率 =
各信号源から送信されるそれぞれの信号の受信電力の最大値(MAX)
÷ 前記それぞれの信号の受信電力の総和(Σ)×100 ・・・ (1)
【0049】
上記(1)式により算出された支配率は、電波干渉モニターエリア6内での電波(各信号源110からそれぞれ送信される信号)の干渉状態の分布を示すものである。すなわち、上記(1)式に基づき算出されることを踏まえると、上述した支配率は、例えば、非常に大きい受信電力の信号が存在し、他に小さい受信電力の信号が多数存在する状況下においては、非常に大きな受信電力の信号の他の受信電力の信号に対する支配率が高いという判定が行えることになる。この判定はまた、無線信号が混んでおらず、そのため、周辺の電波の影響が小さい状態での安定した通信が行えるという状況判断へと結びつくこととなる。これに対し、いずれの信号の受信電力の値にも大きな差がない(例えば、どの信号の受信電力も同レベルの)場合には、支配率が低いという判定が行えることとなる。この判定はまた、無線信号が混んでおり、周辺の電波の影響を受け易く、通信が不安定なものとなるという状況判断に結びつくこととなる。
【0050】
上述した構成を有する信号解析部24の支配率導出部24aによる各信号源110からそれぞれ送信される信号の受信電力及び支配率の導出結果は、例えば、入力部33より入力された測定地点の位置情報を付加したうえでデータベース32に格納される。なお、測定地点の位置情報は、入力部33からの入力に代えて位置測位センサーで得られた位置情報を用いてもよい。
【0051】
干渉モニタリング装置20は、上述した周波数変換部21、AD変換部22、信号分離部23、信号解析部24(支配率導出部24aを有する)を備えることで、全体として、複数の測定地点を移動させながら複数の信号源110から送信される混在した無線信号を受信し、受信した混在した無線信号から、各信号源110のいずれかから送信された信号かを分離する信号分離処理を行い、信号分離した各信号源110のそれぞれから送信される信号の受信電力に基づき、各信号源110のそれぞれから送信される信号間の干渉度合いを示す支配率を導出し、該支配率の算出結果をデータベース32に格納する運用が可能となる。
【0052】
データ処理装置30は、例えば、PC(パーソナル・コンピュータ)で実現され、干渉モニタリング装置20における受信信号の解析結果に基づいて電波干渉状態をモニターするための情報(電波干渉情報)を生成するデータ処理を行う。データ処理装置30は、制御部31、データベース32、入力部33、表示部34を有して構成されている。
【0053】
制御部31は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、電波干渉モニター装置1の機能を実現するための所定の情報処理や、アンテナ装置10、干渉モニタリング装置20を対象とする統括的な制御を行うCPU(Central Processing Unit)、CPUを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)あるいはHDD(Hard Disc Drive)などの不揮発性メモリ、CPUが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を有している。
【0054】
上述したコンピュータ装置は、CPUがRAMを作業領域としてROMあるいはHDDなどの不揮発性メモリに格納されたプログラムを実行することにより制御部31として機能する。具体的に制御部31では、CPUがRAMの作業領域で上記不揮発性メモリに格納された各プログラムを実行することにより、
図3に示すように、モニター条件設定部41、アンテナ制御部42、支配率マップ生成部43、補間処理部44、表示制御部45の各機能を実現する。ここでモニター条件設定部41、アンテナ制御部42は、干渉モニタリング装置20及びアンテナ装置10を制御する装置制御部31aとしての機能部を構成し、支配率マップ生成部43、補間処理部44、表示制御部45は、干渉モニタリング装置20における受信信号の解析結果に基づき電波干渉情報を生成する等のデータ処理を行うデータ制御部31bとしての機能部を構成している。
【0055】
モニター条件設定部41は、電波干渉モニターエリア6での電波干渉状態のモニター条件を設定するための機能部であり、例えば、電波干渉状態のモニタリング対象となる無線信号の周波数の設定等を行えるようになっており、本発明の設定手段を構成する。モニター条件設定部41は、電波干渉モニタリング対象の周波数帯として、例えば、5Gの運用を考慮し、3.7GHz帯、4.7GHz帯、28GHz帯のいずれかを設定する構成であってもよい。干渉モニタリング装置20の信号解析部24では、複数の信号源110のそれぞれから送信されるモニター条件設定部41により設定された周波数帯の信号を対象に各項目の解析処理を行う。特に、支配率導出部24aは、モニター条件設定部41により設定された周波数帯の信号を対象に支配率を導出する処理を行うことになる。
【0056】
アンテナ制御部42は、アンテナ装置10におけるアンテナ方向などの機械的な制御を行う。
【0057】
支配率マップ生成部43は、干渉モニタリング装置20で信号分離部23によって分離された各信号源110からそれぞれ送信される信号について支配率導出部24aによる各測定地点に対応する支配率の導出結果(データベース32に格納されている)及び後述する補間処理部44によって補間される測定地点以外の地点における支配率の補間結果に基づいて、電波干渉モニターエリア6における支配率の分布を表す支配率マップ63(
図6参照)を生成する機能部である。
図4に示す支配率導出部24aの構成要素中、最大電力値検出部26、総和電力値検出部27、及び支配率算出部28の演算機能については支配率マップ生成部43に設け、支配率導出部24aの受信電力計測部25a、25b、25c、25dが計測した各信号の受信電力をデータベース32に格納しておき、該受信電力に基づき上記演算機能によって支配率を算出する構成としてもよい。
【0058】
補間処理部44は、信号解析部24の支配率導出部24aでの支配率導出処理によって導出され、データベース32に格納されている各測定地点での支配率の導出結果に基づき、測定地点以外の地点における各信号源のそれぞれから送信される信号間の干渉度合いを示す上記支配率を導出する支配率の補間処理を行う機能部である。補間処理のアルゴリズムとしては、例えば、最近傍補間、双一次補間、双三次補間等が適用される。補間処理による支配率の導出結果(補間結果)は、例えば、RAMに保存される。これにより、支配率マップ生成部43は、前述したように、RAMに保存された測定地点以外の地点における支配率の補間結果と、データベース32に格納されている既定の測定地点における支配率の導出結果とに基づいて支配率マップ63(
図6参照)を生成することとなる。
【0059】
表示制御部45は、電波干渉モニターエリア6を規定するマップ領域(電波干渉モニターエリア表示領域51)を有する基本モニター画面50(
図6参照)を表示部34に表示し、支配率マップ生成部43で生成された支配率マップ63を、電波干渉情報として上記マップ領域に表示する表示制御を行う機能部である。
図6に示す基本モニター画面50の構成において、電波干渉モニターエリア表示領域51は上記マップ領域を構成する。
【0060】
データベース32は、干渉モニタリング装置20の支配率算出部24aによって導出された測定地点における支配率の導出結果、支配率に先立って算出されるそれぞれの信号の受信電力等を格納するための機能部である。
【0061】
入力部33は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、キーボード、マウス等の入力装置により構成されている。本実施形態において、入力部33は、支配率マップ生成対象の周波数設定、電波干渉モニター処理の開始、あるいは終了を入力する機能(操作部としての機能)を備えていてもよい。
【0062】
表示部34は、上記各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。本実施形態において、表示部34は、電波干渉モニターのための各種画面(一例として、
図6に示す支配率マップ63を有する基本モニター画面50)を表示する機能を有している。表示部34は、設定パラメータやコマンドなどを入力可能とするためにタッチパネル等で構成されていてもよい。
【0063】
次に、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1の電波干渉モニター処理動作について
図5に示すフローチャートを参照して説明する。ここでは特に、信号解析部24が、
図4に示す支配率導出部24aを有する構成であることを前提として説明する。
【0064】
この電波干渉モニター処理を開始するには、電波干渉モニター装置1を電波干渉モニターエリア6内の最初の測定地点へと移動させる(ステップS1)。
【0065】
移動先の最初の測定地点への到着後、データ処理装置30の入力部33で電波干渉モニター処理に関する所定の開始操作が行われると、電波干渉モニター装置1では、データ処理装置30の装置制御部31aからアンテナ装置10及び干渉モニタリング装置20を制御することにより、無線信号の受信を行わせる(ステップS2)。
【0066】
ここでデータ処理装置30では、アンテナ制御部42がアンテナ装置10を対象に受信電力の測定に必要な制御を行う。これに合わせて装置制御部31aが、モニター条件設定部41により予め設定した周波数帯の無線信号をアンテナ装置10で受信させ、該受信信号に基づき当該周波数帯の無線信号を測定させるように干渉モニタリング装置20を駆動制御する。この駆動制御により、干渉モニタリング装置20では、アンテナ装置10による当該測定地点での受信信号が周波数変換部21により周波数変換され、該周波数変換後の無線信号がAD変換部22でアナログ信号からデジタル信号に変換されて信号分離部23に入力する。信号分離部23は、入力する無線信号から当該測定地点でその周囲から到来する複数の信号源成分(各信号源110からそれぞれ送信される信号)をそれぞれ分離する信号分離処理を実施し(ステップS3)、該分離した信号源成分を信号解析部24へ入力する。
【0067】
引き続き、信号解析部24は、信号分離部23により分離されて入力する各信号を解析する解析処理を実施する。ここで信号解析部24は、信号分離部23により分離されて入力する各信号を支配率導出部24aに入力する。支配率導出部24aは、入力されるそれぞれの信号の受信電力を計測したうえで、該それぞれの信号の受信電力に基づき、支配率を導出する処理を実施する(ステップS4)。
【0068】
具体的に、ステップS4での支配率導出処理では、信号分離部23により分離された各信号が支配率導出部24aの受信電力計測部25a、25b、25c、25dにそれぞれ入力される。受信電力計測部25a、25b、25c、25dは、入力されるそれぞれの信号の受信電力を計測したうえで、該受信電力計測値を最大電力値検出部26及び総和電力値検出部27に送出する。次いで、最大電力値検出部26は受信電力計測部25a、25b、25c、25dより入力する受信電力値の最大値を検出し、一方で、総和電力値検出部27は受信電力計測部25a、25b、25c、25dより入力する受信電力値の総和を検出し、それぞれの検出値を支配率算出部28に送出する。さらに支配率算出部28は、最大電力値検出部26が検出した上記受信電力値の最大値と、総和電力値検出部27が検出した上記受信電力値の総和に基づき、上述した(1)式を用いて支配率を算出する処理を実施する。
【0069】
引き続き、支配率導出部24aは、上記ステップS4にて算出した支配率を電波干渉モニターエリア6内の当該測定地点での位置情報に関連付けてデータベース32に格納させる処理を実行する(ステップS5)。ここでデータベース32は、電波干渉モニターエリア6内の各測定地点の位置情報が予め記録されている構成であってもよい。
【0070】
さらに次の測定地点が存在するか否かをチェックする(ステップS6)。具体例として、例えば、ユーザによる入力部33からの次の測定地点が存在することを示す指令、または次の測定地点が存在しないことを示す指令(若しくは支配率マップ生成の指令)のいずれかの指令があったかによって次の測定地点が存在するか否かをチェックする。なお、次の測定地点が存在するか否かのチェックについては、上述の手動で行うチェックの他に、電波干渉モニター装置1が自走機能を有するものとし、次の測定地点が存在するか否かのチェックを自動で行うようにしてもよい。ここで次の測定地点が存在すると判定された場合(ステップS6でYES)、当該電波干渉モニター装置1を次の測定地点へ移動させ(ステップS1)、装置制御部31aからの制御により上述したステップS2~S6までの処理を続行する。その後、次の測定地点が存在すると判定されている間(ステップS6でYES)はステップS1~S6までの処理を継続し、次の測定地点が存在しないと判定された場合(ステップS6でNO)はステップS7へと移行する。
【0071】
ステップS7において、補間処理部44は、それまでにデータベース32に格納された既定の測定地点に対応する支配率の導出結果に基づいて、測定地点以外の地点に対応する支配率(当該地点に到来する各信号源110からそれぞれ送信される信号の干渉状態を示す)を算出する支配率の補間処理を実行する(ステップS7)。
【0072】
ステップS7での支配率の補間処理の終了後、例えば、入力部33での電波干渉情報を表示するための所定の表示開始操作を受け付けると、支配率マップ生成部43は、既定の測定地点に対応する支配率の導出結果をデータベース32から読み出し、該既定の測定地点に対応する支配率の導出結果と、上記ステップS7での支配率の補間処理によって導出された支配率、すなわち、支配率の補間結果とに基づき、電波干渉モニターエリア6の所定の空間における支配率の分布を表す支配率マップ63(
図6参照)を生成する処理を実行する(ステップS8)。
【0073】
引き続き、表示制御部45は、ステップS8で生成された支配率マップ63を電波干渉情報として表示部34に表示する制御を行う(ステップS9)。支配率マップ63の表示制御は、上述した所定の表示開始操作に応じて、例えば、
図6に示すような電波干渉モニターエリア6を模したマップ領域(電波干渉モニターエリア表示領域51参照)を有する基本モニター画面50を用い、上記マップ領域に支配率マップ63を配置する表示形態で実現することができる。
【0074】
ステップS9における支配率マップ(電波干渉情報)の表示制御の実施中、入力部33での所定の終了操作に応じて基本モニター画面50を閉じ、一連の電波干渉モニター処理動作を終了することができる。
【0075】
次に、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1の電波干渉モニター処理動作中(
図5のステップS9参照)における支配率マップ63の表示形態について
図6を参照して詳細に説明する。
【0076】
前述したように、表示制御部45は、支配率マップ63を、例えば、基本モニター画面50を用いて表示するようになっている。
図6に示すように、基本モニター画面50は、電波干渉モニターエリア6(例えば、
図2に示す手順による電波干渉モニタリング対象領域の平面配置イメージ)を模したエリア画像51a、及び格子状に区分けされた格子状マップ画像51bが重ね合わされた電波干渉モニターエリア表示領域51と、各種の操作を行う操作部領域52とを有している。操作部領域52は、各種指令等に係る操作を行う部分であり、この例の場合は、電波干渉モニターエリア表示領域51に表示される情報の拡大縮小の指示操作を行う機能部で構成されている。操作部領域52は、他の操作機能を有する構成であってもよいことはいうまでもない。
【0077】
基本モニター画面50において、格子状マップ画像51bを構成する縦、横の線(点線)の交点は、電波干渉モニターエリア6における既定の測定地点(
図5のステップS1参照)に相当する。
【0078】
表示制御部45は、
図5のステップS8にて生成した支配率マップ63を、同ステップS9において電波干渉モニターエリア表示領域51に重ねて表示するようになっている。
【0079】
図6に示すように、支配率マップ63は、電波状況画像63cを含み、エリア画像51aと、格子状マップ画像51bと、電波状況画像63cと、を透視可能状態に重ねて表示する画面構造を有している。電波状況画像63cは、既定の測定地点、及び測定地点以外の地点を含む各所における電波の干渉状態を、支配率というパラメータを使い、支配率の高い、あるいは低い状態を色の濃淡によって表現した画像であり、例えば、色が濃いほど支配率が高く、色が薄くなるほどに支配率が低いことを示すようになっている。
図6において、電波状況画像63cの濃淡は、ハッチング(網掛け模様)の種別によって区別されており、同種のハッチングの領域は、それぞれ、同じ値の支配率を表している。各測定地点でのそれぞれの信号源から送信される信号の受信電力に基づいて導出した支配率の高さを色の濃淡によって表現する支配率マップ63を用いることで、例えば、濃い色の領域では支配率が高く、安定した通信が期待できる等の干渉状況判断ができ、逆に、薄い色の領域では支配率が低く、電波の干渉を受けやすく、通信が不安定化せざるを得ないといった干渉状況判断が行えるようになる。
【0080】
上述した構成を有する支配率マップ63によれば、電波状況画像63cの色の濃淡から、例えば、支配率が低く、電波が混み合っていて干渉を受け易い(IBFD適用不可の)状況、あるいは、支配率が高く、電波が混み合っておらず、干渉を受け難い(IBFD適用可の)状況等、任意の所望の地点における電波の干渉状況を容易に判断できるようになり、その状況判断を通信システムの制御に適用することによって、例えば、混信を防ぎ通信容量を増やすといった運用を容易に実現可能となる。
【0081】
上述したように、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1は、複数の信号源110が同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う電波干渉モニターエリア6の所定の空間内で複数の測定地点にて複数の信号源110から送信される混在した無線信号を受信する受信部20aと、各測定地点での混在した無線信号から、各信号源110のいずれかから送信された信号かを分離する信号分離処理を行い、信号分離した各信号源110のそれぞれから送信される信号の受信電力に基づき、各信号源110のそれぞれから送信される信号間の干渉度合いを示す支配率を導出する支配率導出部24aと、各測定地点での支配率導出部24aによる支配率の導出結果に基づき、測定地点以外の地点における支配率を補間する補間処理部44と、各測定地点での支配率導出部24aによる支配率の導出結果、及び各測定地点以外の地点での補間処理部44による支配率の補間結果に基づき、所定の空間における支配率の分布を色の濃淡によって表す支配率マップ63を生成する支配率マップ生成部43と、所定の空間を規定する電波干渉モニターエリア表示領域51(マップ領域)を有する基本モニター画面50を表示部34に表示し、支配率マップ生成部43で生成された支配率マップ63を、電波干渉情報としてマップ領域に表示する表示制御部45と、を有する構成である。
【0082】
この構成により、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1は、複数の信号源110が同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う所定の空間内での電波干渉モニタリングに際し、支配率マップ63から、電波干渉モニターエリア6内の任意の地点での支配率の分布、すなわち、電波の干渉を受け易いか、受け難いかの電波干渉状況を簡単に把握することができ、既存の測定器、測定システムでは実施が困難である複雑な無線通信環境での電波の干渉状況を容易に観測可能となる。また、支配率マップ63から把握することができる電波干渉状況(どの地点が電波の干渉を受け易いか、あるいは、受け難いか)を通信システムの制御に反映させることで、混信を防ぎ通信容量を増やす運用が可能となる。
【0083】
また、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1において、支配率導出部24aは、下式(1)により支配率を算出する構成を有している。
支配率=各信号源110から送信されるそれぞれの信号の受信電力の最大値÷それぞれの信号の受信電力の総和×100 ・・・ (1)
【0084】
この構成により、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1は、任意の地点での各信号源110から送信されるそれぞれの信号の受信電力の最大値と総和の割合の分布を支配率マップ63から目視によって容易に把握することができ、IBFDの適用が可能なエリアか適していないエリアかの判断も簡単に行うことができる。
【0085】
また、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1は、電波干渉モニタリング対象の周波数帯を設定するモニター条件設定部41をさらに有し、支配率導出部24aは、複数の信号源110のそれぞれから送信されるモニター条件設定部41により設定された周波数帯の信号を対象に上記支配率を導出する構成である。
【0086】
この構成により、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1は、電波干渉モニタリング対象の所望の周波数帯を設定することにより、当該周波数帯の無線信号の相互干渉状態(支配率マップ63)を容易にモニターすることが可能となる。
【0087】
また、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1において、モニター条件設定部41は、電波干渉モニタリング対象の周波数帯として、3.7GHz帯、4.7GHz帯、28GHz帯のいずれかを設定する構成である。
【0088】
この構成により、本実施形態に係る電波干渉モニター装置1は、3.7GHz帯、4.7GHz帯、28GHz帯のいずれかの周波数帯を選択的に設定して、当該設定した周波数帯の無線信号の相互干渉状態(支配率マップ63)をモニターすることができる。
【0089】
また、本実施形態に係る電波干渉モニター方法は、上述したいずれかの構成を有する電波干渉モニター装置1を用い、複数の信号源110が同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う電波干渉モニターエリア6の所定の空間内の電波干渉情報を表示する電波干渉モニター方法であって、所定の空間内で複数の測定地点を移動させながら複数の信号源110から送信される混在した無線信号を受信する受信ステップ(S1、S2)と、受信ステップにて受信した混在した無線信号から、各信号源110のいずれかから送信された信号かを分離する信号分離処理を行い、信号分離した各信号源110のそれぞれから送信される信号の受信電力に基づき、各信号源110のそれぞれから送信される信号間の干渉度合いを示す支配率を導出する支配率導出ステップ(S3、S4)と、各測定地点での支配率導出ステップによる支配率の導出結果に基づき、測定地点以外の地点における支配率を補間する補間処理ステップ(S7)と、各測定地点での支配率導出ステップによる支配率の導出結果、及び各測定地点以外の地点での補間処理ステップによる支配率の補間結果に基づき、所定の空間における支配率の分布を色の濃淡によって表す支配率マップ63を生成する支配率マップ生成ステップ(S8)と、所定の空間を規定する電波干渉モニターエリア51(マップ領域)を有する基本モニター画面50を表示部34に表示し、支配率マップ生成ステップで生成された支配率マップ63を、電波干渉情報としてマップ領域に表示する表示制御ステップ(S9)と、を含む構成を有している。
【0090】
この構成により、本実施形態に係る電波干渉モニター方法は、該電波干渉モニター方法を適用した電波干渉モニター装置1を用いることで、複数の信号源110が同一の周波数帯域の無線信号の送受信を行う所定の空間内での電波干渉モニタリングに際し、支配率マップ63から、電波干渉モニターエリア6内の任意の地点での支配率の分布、すなわち、電波の干渉を受け易いか、受け難いかの電波干渉状況を簡単に把握することができ、既存の測定器、測定システムでは実施が困難である複雑な無線通信環境での電波の干渉状況を容易に観測可能となる。また、支配率マップ63から把握することができる電波干渉状況(どの地点が電波の干渉を受け易いか、あるいは、受け難いか)を通信システムの制御に反映させることで、混信を防ぎ通信容量を増やす運用が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上のように、本発明に係る電波干渉モニター装置、及び電波干渉モニター方法は、複数の信号源が同一周波数帯域で無線信号の送受信を行う環境における空間内各所での無線信号の相互干渉を、各所で受信される混在した信号の受信電力の分布の可視化によって容易に把握可能であるという効果を奏し、同一の周波数帯の複数の無線信号の相互干渉をモニタリング対象とする電波干渉モニター装置、及び電波干渉モニター方法全般に有用である。
【符号の説明】
【0092】
1 電波干渉モニター装置
6 電波干渉モニターエリア(空間)
10 アンテナ装置(受信部)
20a 受信部
20b 解析処理部
24 信号解析部
24a 支配率導出部
34 表示部
41 モニター条件設定部(設定手段)
43 支配率マップ生成部
44 補間処理部
45 表示制御部
50 基本モニター画面(画面)
51 電波干渉モニターエリア表示領域(マップ領域)
63 支配率マップ
110 信号源