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特許7399208微細状繊維を含む散布液の散布装置及び微細状繊維を含む散布液の散布装置を用いた散布方法
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  • 特許-微細状繊維を含む散布液の散布装置及び微細状繊維を含む散布液の散布装置を用いた散布方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】微細状繊維を含む散布液の散布装置及び微細状繊維を含む散布液の散布装置を用いた散布方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 9/03 20060101AFI20231208BHJP
   B05B 1/02 20060101ALI20231208BHJP
   B05B 1/34 20060101ALI20231208BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20231208BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
B05B9/03
B05B1/02 101
B05B1/34 101
B05D7/24 303G
B05D1/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022060774
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023151259
(43)【公開日】2023-10-16
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591023642
【氏名又は名称】中越パルプ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095740
【弁理士】
【氏名又は名称】開口 宗昭
(74)【代理人】
【識別番号】100225141
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 安司
(72)【発明者】
【氏名】伊東 慶郎
(72)【発明者】
【氏名】萩原 総平
(72)【発明者】
【氏名】林 優衣
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-228473(JP,A)
【文献】特開2002-143662(JP,A)
【文献】特開2017-006857(JP,A)
【文献】特開2020-138346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 9/00-9/047
B05D 1/00-7/26
B01F 21/00-25/90
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細状繊維を含む散布液を散布する散布装置であって、
少なくとも、散布液投入口と循環戻り口とを備える貯蔵タンクと、
噴霧ノズルと、
循環口と、吐出口と、吸水口とを備える動力噴霧器と、
前記循環口に一端が接続し、他端を前記循環戻り口に接続する循環配管と、
前記吐出口に一端が接続し、他端が前記噴霧ノズルに接続した吐出配管と、
前記吸水口に一端が接続し、他端が前記貯蔵タンクに接続した吸水配管と、
前記貯蔵タンクに接続した吸水配管の吸込口に、前記貯蔵タンクの底面と前記吸込口との距離を維持するための部材とを備え、
前記噴霧ノズルは、螺旋状の溝を有する中子を備えた回転機構を有する噴霧ノズル又は、外気取り込み口を備えた泡状ノズルであり、
前記循環戻り口を介して、前記動力噴霧器と循環配管を用いて貯蔵タンク中の微細状繊維を含む散布液を循環させる微細状繊維を含む散布液の散布装置。
【請求項2】
微細状繊維を含む散布液を散布する散布装置であって、
少なくとも、散布液投入口を備える貯蔵タンクと、
噴霧ノズルと、
循環口と、吐出口と、吸水口とを備える動力噴霧器と、
前記循環口に一端が接続し、他端を前記散布液投入口に接続する循環配管と、
前記吐出口に一端が接続し、他端が前記噴霧ノズルに接続した吐出配管と、
前記吸水口に一端が接続し、他端が前記貯蔵タンクに接続した吸水配管と、
前記貯蔵タンクに接続した吸水配管の吸込口に、前記貯蔵タンクの底面と前記吸込口との距離を維持するための部材とを備え、
前記噴霧ノズルは、螺旋状の溝を有する中子を備えた回転機構を有する噴霧ノズル又は、外気取り込み口を備えた泡状ノズルであり、
前記散布液投入口を介して、前記動力噴霧器と循環配管を用いて貯蔵タンク中の微細状繊維を含む散布液を循環させる微細状繊維を含む散布液の散布装置。
【請求項3】
微細状繊維を含有する分散体を、前記分散体の容量の5~10倍の水を用いて希釈して、第一の希釈体を調製する第一の希釈工程と、
第一の希釈体を水で希釈して所定の濃度の微細状繊維を含有する散布液とする第二の希釈工程とを有する混合工程と、
前記微細状繊維を含有する散布液を、貯蔵タンクと、循環配管と、動力噴霧器とを利用して、循環させる循環工程と、
噴霧ノズルを利用して、所定の場所へ散布する散布工程と
を備える微細状繊維を含む散布液の散布装置を用いた散布方法。
【請求項4】
微細状繊維の濃度が0.1~15%の範囲にある微細状繊維を含有する分散体を水で希釈して第一の希釈体を調製する第一の希釈工程と、
第一の希釈体を、第一の希釈体の等倍以上の水で希釈して、微細状繊維の濃度が0.001~0.5%の濃度の微細状繊維を含有する散布液とする第二の希釈工程とを有する混合工程と、
前記微細状繊維を含有する散布液を、貯蔵タンクと、循環配管と、動力噴霧器とを利用して、循環させる循環工程と、
噴霧ノズルを利用して、所定の場所へ散布する散布工程と
を備える微細状繊維を含む散布液の散布装置を用いた散布方法。
【請求項5】
前記循環工程は、常時循環させて、微細状繊維を含む散布液が常に流動状態である、請求項3又は4に記載の微細状繊維を含む散布液の散布装置を用いた散布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細状繊維を含む散布液の散布装置及び微細状繊維を含む散布液の散布装置を用いた散布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、耕種農業や畜産農業等の農業分野全般において、収穫量の増大や畜舎の環境を改善する等の様々な用途のために、各種散布装置を使用して、農場や畜舎等に、各種有効成分を含有する散布液を散布・噴霧している。
【0003】
本願出願人は、特許文献1に、環境負荷が小さく安全性の高い噴霧剤として活用できる植物栽培剤を提供するという課題を解決するために、セルロースナノ繊維を含有し、植物に直接または間接に添加若しくは散布または噴霧され、殺虫有効成分がセルロースナノ繊維である植物栽培剤を開示した。
【0004】
また、本願出願人は特許文献2に、家畜等の生育環境を容易に整えることができ、かつ、従業員の労働環境を改善するという課題を解決するために、1~100μmのマイクロ繊維或いは、3~1000nmのナノ繊維の繊維幅を有する繊維を含有する畜舎用環境改善養分散液を開示した。
【0005】
さらに、特許文献3には、施肥装置を詰まらせない均一な施肥、および液体肥料と混合する前の事前希釈または事前スラリーを必要としない施肥として、(a)農業用生物活性物質、殺菌剤、殺虫剤、除草剤、および/または植物成長調節剤。(b)フィブリルまたはミクロフィブリルまたはナノフィブリル構造化剤、および(c)補助界面活性剤を含む組成物が開示されている。しかしながら、具体的に農場や畜舎等に散布した等という実施例は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許6639036号
【文献】特許6867613号
【文献】特表2020-531420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
耕作規模や畜産農業の規模によるところもあるが、農業分野全体においては、一般的に、比較的多くの量の散布液を耕作地や畜舎等に散布・噴霧する。そして、この散布液の量に比例して、散布・噴霧に要する時間は、長くなるのが通常である。
【0008】
一方、セルロースナノファイバーを初めとする微細状繊維等は、アスペクト比の高い繊維状の物質であるため、微細状繊維を含有する散布液の散布時間の経過とともに、微細状繊維が散布装置のノズル等に詰まってしまい、持続的に散布を行うことができないと考えられる。そのため、繊維幅1~100μmのマイクロ繊維の微細状繊維を含有する散布液を散布する場合には特に、ノズル等の分解洗浄を頻繁に行う必要があり、効率的に散布液を散布・噴霧することができないという問題が想定される。
【0009】
また、セルロースナノファイバーを初めとする微細状繊維が各種溶媒中に存在する場合には、微細状繊維同士が相互に凝集してしまい、散布装置内において、微細状繊維が沈降し、偏在化してしまう可能性が高い。そのため、微細状繊維を含有する散布液の濃度を均一に保ったまま、散布液を散布・噴霧することができないという問題が想定される。
【0010】
本発明は、以上の問題に鑑み、耕種農業や畜産農業等の農業分野全般の現場において、多量の微細状繊維を含む散布液を効率的に行うことができる散布装置及び微細状繊維を含む散布液の散布装置を用いた散布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、微細状繊維を相互に凝集させないようにするために、散布液を流動状態とすることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明の微細状繊維を含む散布液の散布装置は、少なくとも、循環戻り口と散布液投入口を備える貯蔵タンクと、噴霧ノズルと、循環口と、吐出口と、吸水口とを備える動力噴霧器と、前記循環口に一端が接続し、他端を前記散布液投入口に投入する循環配管と、前記吐出口に一端が接続し、他端が前記噴霧ノズルに接続した吐出配管と、前記吸水口に一端が接続し、他端が前記貯蔵タンクに接続した吸水配管と、前記貯蔵タンクに接続した吸水配管の吸込口に、前記貯蔵タンクの底面と前記吸込口との距離を維持するための部材とを備える。
【0013】
また、微細状繊維を含む散布液の散布装置を用いた散布方法は、微細状繊維を含有する分散体前記分散体の容量の5~10倍の水で希釈して第一の希釈体を調製する第一の希釈工程と、第一の希釈体を水で希釈して所定の濃度の微細状繊維を含有する散布液とする第二の希釈工程とを有する混合工程と、前記微細状繊維を含有する散布液を、前記貯蔵タンクと、前記循環配管と、動力噴霧器とを利用して、循環させる循環工程と、前記噴霧ノズルを利用して、所定の場所へ散布する散布工程とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、耕種農業や畜産農業等の農業分野全般の現場において、多量の微細状繊維の散布を効率的に行うことができる散布装置及び散布装置を用いた散布方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本願発明の一実施の形態の微細状繊維を含む散布液の散布装置の概念図である。
図2】螺旋状の溝を有する中子を備えた回転機構を有する噴霧ノズルである。
図3】外気取り込み口を備えた泡状ノズルである。
図4】本願発明の一実施の形態の貯蔵タンクの底面と吸水口との距離を維持するための部材の一実施形態である。
図5】本願発明の一実施の形態の貯蔵タンクの底面と吸水口との距離を維持するための部材の他の一実施形態である。
図6】微細状繊維を含有する散布液の一部の様子を示したものである。
図7】微細状繊維を含有する散布液を散布する様子を示したものである。
図8】比較例1において調製した液の一部の様子を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。ただし、以下の実施形態は、発明の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0017】
(用語の定義)
本発明に係る微細状繊維との用語は、繊維幅が1~100μm、繊維長が0.1~10mmであるマイクロ繊維と繊維幅が3~1000nm、繊維長が1~200μmであるナノ繊維とを含む概念のものである。
また、その由来成分及びその製造方法等は、特許第6867613号公報に記載の微細状繊維の製造方法や特許第6704551号公報に記載の天然高分子としてセルロースを用いたセルロースナノファイバー及びセルロースナノクリスタル水溶液の調製方法や両公報に記載の他の原料等を由来成分とする微細状繊維の製造方法を参照することができる。
微細状繊維を含む分散体との用語は、微細状繊維と溶媒とからなる微細状繊維を含有する分散液のみならず、粉末状の微細状繊維を、溶媒を用いて分散させた微細状繊維を含有する分散液を含む概念のものである。
【0018】
(微細状繊維を含む散布液の散布装置)
まず、図1を参照して、本発明の実施の形態に係る微細状繊維を含む散布液の散布装置1を説明する。
本発明の散布装置1は、循環戻り口3と散布液投入口4を備える貯蔵タンク2と、噴霧ノズル5と、循環口6と、吐出口7と、吸水口8とを備える動力噴霧器9と、前記循環口6に一端が接続し、他端を前記循環戻り口3に接続する循環配管10と、前記吐出口7に一端が接続し、他端が前記噴霧ノズル5に接続した吐出配管11と、前記吸水口8に一端が接続し、他端が前記貯蔵タンク2に接続した吸水配管12と、前記貯蔵タンク2に接続した吸水配管12の吸込口13に、前記貯蔵タンク2の底面と前記吸込口13との距離を維持するための部材14とを備える。
【0019】
貯蔵タンク2は、少なくとも、循環戻り口3と、微細状繊維を含む散布液を供給するための散布液投入口4、動力噴霧器の吸水口8へ接続するための接続部15を備える。また、前記循環戻り口は、前記散布液投入口4に循環配管10が接続でき更にホース等を用いて吸込口13に繋ぎ込むようにしてもよい。
また、貯蔵タンク2の底面は、前記部材14が低い位置となるように傾斜をつけてもよく、その場合は残液量を減らすことができる。
さらに、貯蔵タンク2には加温機構、冷却機構、加圧機構及び攪拌機構等を備えていてもよい。
【0020】
噴霧ノズル5としては特に制限されず市販されている一般的なノズルを用いることができるが、特に最適なノズル形状について図2及び図3を用いて説明する。
図2は、螺旋状の溝16を有する中子17を備えた回転機構(旋回機構)を有する噴霧ノズルである。回転機構(旋回機構)とは、流体の移動を利用して流体に回転流を生じさせる仕組みを有する機構のことをいう。この回転流により繊維の沈降を防ぎ、凝集繊維による閉塞の可能性を低減できる。動力噴霧機などの外部動力により回転流を促しても良いが、流動形状のみで回転流が生じて沈降を抑制することができるとことができて省エネルギーや故障トラブル面からみても更に良い。
図3は、外気取り込み口18を備えた泡状ノズルである。泡状ノズルとは、気泡相と液相を生じるノズルのことをいう。泡状ノズルを用いることによって、微細状繊維は、気泡相の外表面に吸着するように膜状に広がり、気泡相を囲むことで均一に分散する作用が生じており、結果として繊維の凝集・沈降を防ぎ均一な噴霧状態とし良好な結果を生じている。このような泡状ノズルでは、外気を効率的に取り込むためには内圧が外圧より低いことが必要条件となる。そのため外気取り込み口18の前流路と後流路に散布液の通過する細孔24と25を設けてあり、その細孔の大きさが24より25の方が大きいことで18から外気を取り込む吸引力が生じる。
【0021】
循環口6と、吐出口7と、吸水口8とを備える動力噴霧器9は、ガソリンや電気などの動力源を用いて、液体の農薬等を散布する機械として用いられているものであれば、特に制限なく用いることができる。具体的には、水中ポンプ、電池式噴霧器等を例示することができる。
【0022】
動力噴霧器9の循環口6に一端が接続し、他端を前記循環戻し口3と接続した循環配管10、吐出口7に一端が接続し、他端が前記噴霧ノズル5に接続した吐出配管11及び吸水口8に一端が接続し、他端が前記貯蔵タンク2に接続した吸水配管8としては、この種の配管として用いられているものであれば、特に制限なく使用することができる。また、配管とは液体を移送する手段をいい、その目的に合致するものであれば特に制限なく、例えばステンレスパイプ、塩ビ配管、ビニルホースなどが利用できる。
【0023】
前記循環戻り口3を介して、前記動力噴霧器9と循環配管10を用いて、貯蔵タンク2から送液した散布液を循環戻し口3から、散布液を貯蔵タンク2に再度投入することによって、散布液を流動状態とすることができる。このことを散布液の循環という。
【0024】
貯蔵タンク2に接続した吸水配管12の吸込口13に、前記貯蔵タンク2の底面と前記吸込口13との距離を維持するための部材14は、吸水配管12の吸込口13が、貯蔵タンク2の底面に接しないようにするために、用いるものである。係る目的を達成できる形状であれば、部材14の形状については特には制限されないが、以下に、具体的な部材の形状についていくつか例を提示する。
【0025】
図4を用いて、貯蔵タンクの底面と吸水口との距離を維持するための部材の一実施形態について説明する。本実施形態における部材14は、既存のストレーナー19に錘20を複数個接続したものである。このようにすることによって、物理的にストレーナー19が底面に直接接触しないようにし、貯蔵タンクの底面21と吸水口13との距離を維持することができる。
図5を用いて、貯蔵タンクの底面と吸水口との距離を維持するための部材の他の一実施形態について説明する。本実施形態における部材14は、吸水口13と接続部を有する板22に、錘20を複数接続し、錘間の領域23に、目開き300μm以上の格子状のメッシュ或いは、目開き200μm以上のスリット状のメッシュを張る。このようにすることによって、吸い込み部の面積を広くとり、吸い込み流速を下げることで、底面に存在する可能性のある砂等の重量異物を吸い上げないようにすることができる。
また、図示しないが、貯蔵タンクの底面と吸水口との距離を維持するための部材の他の一実施形態としては、貯蔵タンクの底部に堆積存在する砂などの重量異物を直接吸い上げないように、底部から距離を維持するために、例えば、底面1cm程度上の位置を最下部とする開口部10cm程度のフランジをタンク2の側面に設けて、(つまり、前記フランジが貯蔵タンクの底面から1cm程度嵩上げした位置に設ける。)吸水配管を接続する、或いは、動力噴霧器を直接繋いで、これを吸水口とする等の形態がある。
【0026】
本発明に係る散布装置においては、微細状繊維を含有する散布液の流路のいずれかの箇所に、用いる微細繊維の繊維長さに応じて目開き300μm以上の格子状のメッシュ或いは、用いる微細繊維の繊維幅に応じて目開き200μm以上のスリット状のメッシュを使用するようにするとよい。尚、スリット状の方がより繊維を通過させ易くし、砂などの重量異物を容易に除去できる。使用するノズルの開口径によりスリット幅を細くし、これを通過できるサイズの微細繊維を選定しても良い。但し微細状繊維のサイズを細かくすることは薬液コスト増に繋がることもあるので用途に応じて選定する必要がある。
一方、特に畜産用途など0.9mm以上のノズル径利用の場合、本発明に係る散布装置においては、目開き300μm未満の格子状のメッシュ或いは目開き200μm未満のスリット状のメッシュは、使用しないようにするとより安価な薬液でも効率的に噴霧できてよい。目開き300μm未満の格子状のメッシュ或いは目開き200μm未満のスリットを用いた場合には、微細状繊維が前記メッシュ或いはスリット状のメッシュに詰まってしまい、散布を継続して行うことができないからである。
ここで、本願発明における微細状繊維を含有する散布液の散布装置が、貯蔵タンクの底面と吸水口との距離を維持するための部材や前記メッシュを備えることの必要性は以下の通りである。
耕種農業や畜産農業等の現場においては、収穫量の増大や畜舎の環境を改善する等の用途のため通常200~10000Lの各種有効成分等を含有する散布液を連続的に散布している。また、散布装置や貯蔵タンクを半屋外や屋外に保管することもある。このような状況を鑑みると、貯蔵タンクの中に砂、小石等の重量異物或いはビニール等の軽量異物が存在する必然性が高くなるといえる。
また、前記用途のために、通常散布する散布液には、繊維幅が1~100μmのマイクロ繊維や繊維幅が3~1000nmのナノ繊維の微細状繊維を意図して配合することはない。
以上のことから、貯蔵タンク中に重量異物が存在する可能性の高い散布装置において、前記の幅の微細状繊維を含有する散布液を200~10000L散布するために必要な散布装置が求められている。すわなち、貯蔵タンクの底面と吸水口との距離を維持するための部材は、貯蔵タンクの底面に存在する砂、小石等の重量異物、およびビニール等の大きな軽量異物を吸い込まないようにするためのものでもある。仮に、重量異物等を吸入口に、吸い込んでしまった場合には、ここに、微細状繊維が堆積したりノズル先端を閉塞したり設備内面に損傷を与えたりするからである。ビニール等の大きな軽量異物の場合はノズル手前に貼り付いて閉塞させることがある。
また、前記本発明で用いる目開き300μm以上の格子状のメッシュ或いは、用いる微細繊維の繊維幅に応じて目開き200μm以上のスリット状のメッシュよりも、細かいものを使用した場合には、これらに付着・堆積・閉塞してしまい、散布液を散布することができなくなるためである。
【0027】
(微細状繊維を含む散布液の散布方法)
次に、本発明に係る微細状繊維を含む散布液散布装置を用いた微細状繊維を含む散布液の散布方法について説明する。
通常、耕作規模や畜産農業において、微細状繊維を含有する散布液中の微細状繊維の濃度は、0.001~0.5%程度である。また、通常、流通する微細状繊維を含む分散液の微細状繊維の濃度は、0.1~15%の範囲のものであり、多くは、1~3%程度の範囲のものである。したがって、微細状繊維を含有する散布液とするためには、前記分散液を希釈する必要がある。また、粉末状の微細状繊維を用いた場合も、粉末状の微細状繊維に水等の溶媒を加えて、微細状繊維を含有する散布液を調製する必要がある。
【0028】
(混合工程)
本発明の混合工程は、混合工程(A)又は混合工程(B)のいずれかを選択することができる。
混合工程(A)は、微細状繊維を含有する分散体を、この分散体の容量の5~10倍の水で希釈して、第一の希釈体を調製する第一の希釈工程と、第一の希釈体を水で希釈して所定の濃度の微細状繊維を含有する散布液とする第二の希釈工程とを有する工程である。
より具体的に、混合工程(A)の一例を説明すると、微細状繊維を含有する分散体の容量が200Lである場合には、これを1000~2000Lの水を用いて希釈し、次いで、所望の濃度となるように、水で希釈して微細状繊維を含有する散布液とする。なお、このときの希釈方法は特に制限されず、前記水の一部を貯蔵タンクに貯水し、次いで、微細状繊維を含有する分散体を投入し、混合撹拌し、微細状繊維同士の絡み合いをほぐしながら、残りの水を投入する等の方法を用いてもよい。
【0029】
混合工程(B)は、微細状繊維を含有する分散体を水で希釈して0.1%以上の濃度の第一の希釈体を調製する第一の希釈工程と、第一の希釈体を、第一の希釈体の等倍以上の水で希釈して、所定の濃度の微細状繊維を含有する散布液とする第二の希釈工程とを有する工程である。
より具体的に、混合工程(B)の一例を説明すると、微細状繊維を含有する分散体の濃度が1%である場合には、これを、水を用いて0.1%以上の濃度にし、次いで、第一の希釈体の容量と等倍以上の水で希釈して、所定の濃度の微細状繊維を含有する散布液とする。なお、このときの希釈方法は特に制限されず、前記水の一部を貯蔵タンクに貯水し、次いで、微細状繊維を含有する分散体を投入し、混合撹拌し、微細状繊維同士の絡み合いをほぐしながら、残りの水を投入する等の方法を用いてもよい。
【0030】
このような混合工程とすることで、第一の希釈工程において、微細状繊維にシェアを付与して、第二の希釈工程を実施する前に、微細状繊維同士の絡み合いをほぐすことができる。また、微細状繊維を含む散布液中の微細状繊維同士が凝集してしまうことを防ぐことができる。一方、本発明に係る混合工程を行わないで、微細状繊維を含む分散体に単に水を加えて所定の濃度とすると、微細状繊維同士が凝集してしまい、微細状繊維を含む散布することが困難となる。
なお、貯蔵タンク2に加温機構、冷却機構、加圧機構及び攪拌機構等を備えた場合には、適宜、加温、冷却、加圧、攪拌等を行ってもよい。
【0031】
(循環工程)
循環工程は、微細状繊維を含有する散布液を、貯蔵タンクと、循環配管と、動力噴霧器とを利用して、循環戻り口を介して、貯蔵タンクと循環配管との間で、微細状繊維を含む分散体や微細状繊維を含有する散布液を循環させる工程である。このような工程とすることで、動力噴霧器を使用して、貯蔵タンク中の散布液を常に流動状態とするように貯蔵タンクに散布液を戻すことができる。したがって、混合工程と同様に、微細状繊維を含む散布液中の微細状繊維同士が凝集したまま存在してしまうことを防ぐことができ、また、貯蔵タンク中の微細状繊維の濃度差をも防ぐことができる。
また、本発明の循環工程は、混合工程における第一の希釈工程及び第二の希釈工程において、本工程を行うことにより、更に良好な分散状態を得ることができる。
【0032】
(散布工程)
散布工程は、噴霧ノズルを利用して、所定の場所へ微細状繊維を含む散布液を散布する散布工程である。
動力噴霧器の吸水量は、1~75L/min、圧力は、1MPa以上、好ましくは、3MPa以上とすればよい。
一般的に、CNF分散液は、チキソ性を有する分散液であることが知られており、シェアが低下すれば固体状を呈し、シェアが高まれば液状になる。内径20mm(半径10mm)の配管内部にCNFを流して外付けの電磁流量計で流量を測定する場合に1分間に5L以下の流量になると流量計のカウントが難しくなる。この流速以下で固体の性質を呈し始めるため配管外側に繊維が沈降堆積始めるためである。この閾値の流速は内径と流量から下のように計算することができ、この流速値0.27 m / s以上で常に液を動かし続けることにより、良好な散布性を維持することができる。使用設備の配管サイズやノズル口径などは用途により異なるが、給水量、流量をこの流速を維持できる範囲で自由に設定することで解決することができる。
5 L/min × 0.001m3/L÷60 s / min ÷ ( 0.01 m × 0.01 m × π) ≒ 0.27 m/s
【0033】
(除去工程)
除去工程は、前記混合工程、循環工程、散布工程を通じて、貯蔵タンク側の吸水配管先端につけた部材を利用して貯蔵タンクの中に砂、小石等の重量異物或いはビニール等の軽量異物を除去する工程である。本発明において用いられる部材は、底面と吸入口との距離を維持するためのものであるから、貯蔵タンクの底面に存在する可能性のある砂等の重量異物を吸い上げないようにすることができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
図1に示す微細状繊維を含む散布液の散布装置と基本構成が同じ装置及び図2に示す部材と基本構成が同じ部材を用いて、以下の工程により、散布液を作成し、これを養鶏場において散布した。
まず、貯蔵タンクに、CNF分散体(CNF濃度2%、中越パルプ工業株式会社製、商品名:nanoforest-Sファーム)10Lと水を100L加えて第一の希釈体とした。次いで、水を290L加えてCNFを含有する散布液(CNF濃度0.05%)とした。散布液の一部の様子を図6に示す。図6から、CNFの分散性に優れた散布液を調製することができたことがわかる。
次いで、動力噴霧器を作動させ、貯蔵タンクと循環配管を用いて散布液を循環させながら、噴霧ノズルを用いて、調製した散布液を全量散布した。なお、400Lの散布液を散布するに要した時間は、40分であった。図7に散布液を散布した様子を示す。
散布後の噴霧ノズル及び部材を確認したところ、噴霧ノズルには、CNFが付着していなかった。また、貯蔵タンクの底面に砂等の重量異物が残存していることが確認できた。この結果から、散布装置内の配管や噴霧ノズル等がつまることなく、また、吸入口から重量異物を吸い上げることなく、400Lの散布液を散布することができたといえる。
また、養鶏場の従事者の評価は、餌にかかっても鶏の餌食いが落ちないため助かっている。というものであった。
【0036】
(比較例1)
図1に示す微細状繊維を含む散布液の散布装置の貯蔵タンクに、CNF分散体(CNF濃度2%、中越パルプ工業株式会社製、商品名:nanoforest-Sファーム)10Lと水を390L加えて散布液とした。散布液の一部の様子を図8に示す。図8から、CNF同士の凝集体がほぐれず、CNFが沈降したままとなって、散布液とすることができなかった。
【0037】
(実施例2)
実施例1において、400Lの散布液を散布した後に、続けて、同様の操作を6回行い合計約2800Lの散布液を散布した。なお、散布に要した時間は、300分であった。実施例1と同様に、散布後の噴霧ノズル及び部材を確認したところ、噴霧ノズル等には、CNFが付着していなかった。また、貯蔵タンクの底面に砂等の重量異物が残存していることが確認できた。この結果から、噴霧ノズルがつまることなく、また、吸入口から重量異物を吸い上げることなく、約2800Lの散布液を散布することができたといえる。
【0038】
(実施例3)
CNF分散体(CNF濃度1.57wt%、中越パルプ工業株式会社製、商品名:nanoforest-Sファーム)を水で希釈し0.1wt%とし、動力噴霧器(株式会社工進社製 型番:ES-10P)に噴霧ノズル(株式会社麻場社製 スーパージェットI型)を接続し噴霧実験を行った。噴霧器の条件は中圧設定、約5L、タンクへの戻し循環を行った。
噴霧ノズルの詳細については以下の通りである。
ノズルヘッド部と0.5mのパイプ部、更にグリップを備えたノズルで、パイプ内部に真鍮製の中子が備わっており、グリップを回すことで中子がノズルヘッド内で前後し、ケーシングと中子の位置が変わり、遠近の調整、更に噴霧の停止が可能なノズルである。中子の先端部の外周部に2本のらせん状の溝が備えてあり、流体はこの溝を通り噴口へ供給されることで常に回転運動しながら噴口2mmφより噴出される。供給圧力1.5MPaで広角時6.0L/min狭角時7.5L/min吐出できるノズルである。
所定量噴霧後、ノズルを取り外して内部状態を確認し、付着したCNFを収集し、105℃で12時間以上乾燥させて付着物重量を測定した。また、噴霧実験前後の残液重量から噴霧量を測定し、噴霧量に対する付着物重量を求めた。また、実施例3~5、比較例2,3について同様に行った。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例4)
CNF分散体(CNF濃度1.57wt%、中越パルプ工業株式会社製、商品名:nanoforest-Sファーム)を水で希釈し0.1%wt%とし、動力噴霧器(株式会社工進社製 型番:ES-10P)に噴霧ノズル(株式会社工進社製 泡状除草用PA-284)を接続し噴霧実験を行った。噴霧器の条件は中圧設定、約5L、タンクへの戻し循環を行った。
噴霧ノズルの詳細については以下の通りである。
1つのノズルヘッドを備えたノズルで、流体は8mmφの開口部を通り、更に1mmφの開口部を経てノズルヘッドへ供給され、ノズルヘッド側面に外気取り込み用の1mmφの開口を2カ所備え、1mmφからの供給圧力で外気を取り込みながら泡状になり、5.3mmφの開口を通過して噴射口へ供給される。2mm角の噴口入口には、更に2.7mmφの開口部が2個備わり、ここを通過後に最終的に噴霧されるノズルである。
【0040】
(実施例5)
CNF分散体(CNF濃度1.57wt%、中越パルプ工業株式会社製、商品名:nanoforest-Sファーム)を水で希釈し0.1wt%とし、動力噴霧器(株式会社工進社製 型番:ES-10P)に噴霧ノズル(株式会社丸山製作所社製 BigM)を接続し噴霧実験を行った。噴霧器の条件は中圧設定、約5L、タンクへの戻し循環を行った。
噴霧ノズルの詳細については以下の通りである。
ノズルヘッド内部に旋回する中子を備えたノズルで、旋回部の外形に沿って、2本の螺旋状の溝が備えてあり、流体はこの溝を通り0.9mmφの噴口へ供給されることで中子が回転するノズルである。供給圧力1.5MPaで0.72L/min吐出できるノズルであり、噴口に対する流量が少ない。
【0041】
(比較例2)
CNF分散体(CNF濃度1.57wt%、中越パルプ工業株式会社製、商品名:nanoforest-Sファーム)を水で希釈し0.1wt%とし、動力噴霧器(株式会社工進社製 型番:ES-10P)に噴霧ノズル(株式会社工進社製 縦型二頭口PA-292)を接続し噴霧実験を行った。噴霧器の条件は中圧設定、約5L、タンクへの戻し循環を行った。
噴霧ノズルの詳細については以下の通りである。
2つのノズルヘッドを備えたノズルで、内部に2層こし網を備え、流体は8mmの開口部を通り、内部に2層こし網へ供給され、第一網(丸孔D:0.5mmφ,P:1.2mm,開口率27%の45°千鳥パンチングプレート)、第2網(1辺4.5mmの正方形の頂点に4個の1.6mmφの穴を備える)を通り、噴口1.1mmより噴霧されるノズルである。
【0042】
(比較例3)
CNF分散体(CNF濃度1.57wt%、中越パルプ工業株式会社製、商品名:nanoforest-Sファーム)を水で希釈し0.1%wt%とし、動力噴霧器(株式会社工進社製 型番:ES-10P)に噴霧ノズル(ヤマホ工業株式会社製 スーパーズームP-700)を接続し噴霧実験を行った。噴霧器の条件は中圧設定、約5L、タンクへの戻し循環を行った。
噴霧ノズルの詳細については以下の通りである。
ノズルヘッド部と1m以上のパイプ部、更にグリップを備えたノズルである。グリップを回すことでノズルヘッド手前の吹き出し口が前後に出入りすることでノズルとの間隔が短長し、噴口からのスプレー角度を調節できる。ケーシング内で前後し、ケーシングと中子の位置が変わり、遠近の調整、更に噴霧の停止が可能なノズルである。中子の先端部の外周部に2本の直線状の溝が備えてあり、流体はこの溝を通り噴口へ供給されることで常に回転運動しながら噴口2mmφより噴出される。中子の側面には2カ所の凸部が配置されている。供給圧力1.5MPaで広角時5.76L/min狭角時7.17L/min吐出できるノズルである。
【0043】
【表1】
【0044】
ノズル内部に漉し網が付いた比較例2は内部付着が多い結果となった。時間当り噴霧量が少ないと管内流速が落ち付着しやすい傾向であるが実施例5では付着量が抑えられた。ノズルまでの導入配管が長く、沈降しやすい持ち手つきの実施例3と比較例3では、実施例3の方が良好だった。実施例3,5の結果より、回転機構を有する噴霧ノズルでは良好な噴霧状態を維持できる。また流量の少ないと詰まり易い傾向となるが、実施例4では巻き込むエアによりCNFの凝集が抑えられている。
以上より、外気取り込み口を備える泡状ノズル、螺旋状の溝を有する中子を備えた回転機構を有する噴霧ノズルが適切であることが明らかとなった。また、旋回誘導部の溝は螺旋状が良く、溝幅は広い方が良いことが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8