(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】電子機器筐体
(51)【国際特許分類】
H05K 5/06 20060101AFI20231208BHJP
H05K 5/02 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
H05K5/06 A
H05K5/02 Q
(21)【出願番号】P 2022077861
(22)【出願日】2022-05-11
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 将稀
(72)【発明者】
【氏名】大村 尚史
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-126297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/06
H05K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のフランジを有する第一のケースと、
前記第一のフランジとシール材を介して
接着された第二のフランジを有する第二のケースと、を備え、
前記第一のフランジと前記第二のフランジとの接合部の少なくとも一部に、
前記第一のケースと前記第二のケースとを分解する
分解用ネジ部が形成され、
前記分解用ネジ部は、前記第一のフランジの底を有するネジ穴に設けられたメネジと、このメネジに締結されたオネジと、前記第二のフランジに設けられ前記オネジの頭を覆う蓋部とで構成され、
前記蓋部には、前記オネジの軸方向にこのオネジの頭よりも小さい径の貫通穴が設けられていることを特徴とする電子機器筐体。
【請求項2】
前記貫通穴を通して前記オネジを前記メネジから緩める方向に回すことにより、前記オネジの頭が前記蓋部を押し上げることを特徴とする請求項
1に記載の電子機器筐体。
【請求項3】
前記
分解用ネジ部を構成する前記第二のフランジの前記蓋部または前記オネジの頭には、
摩擦低減材が塗布されていることを特徴とする請求項
2に記載の電子機器筐体。
【請求項4】
前記
分解用ネジ部を構成する前記第二のフランジの前記蓋部または前記オネジの頭には、分解時の接触位置に対応した面に
摩擦を軽減する表面処理加工が施されていることを特徴とする請求項
2に記載の電子機器筐体。
【請求項5】
前記
分解用ネジ部を構成する前記オネジの頭は、前記貫通穴よりも大きい径のフランジ部を有することを特徴とする請求項
1に記載の電子機器筐体。
【請求項6】
前記オネジには防錆のコーティングが施されていることを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の電子機器筐体。
【請求項7】
前記
分解用ネジ部を構成する前記第二のフランジ
の前記蓋部と前記第一のフランジ
の前記オネジの座面との間に、前記第二のケースの外に向けて開口部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の電子機器筐体。
【請求項8】
前記
分解用ネジ部を構成する前記第二のフランジ
の前記蓋部には、補強部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の電子機器筐体。
【請求項9】
前記第二のケースは、アルミダイカスト、鉄または銅からなる板金、または樹脂成型品であることを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の電子機器筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電子機器筐体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車工業製品において、車両の制御機器等の電子機器は、雨により被水する可能性のある位置または水没が懸念される位置に搭載される場合、筐体間で強固なシール機構を設けて被水から保護する必要がある。しかしながら、電子機器の内部のメンテナンスおよびリサイクルを行う際はケースを分解する必要があり、その分解作業に多くの工数をとられる。特に、液状ガスケットを用いて接合する場合、その接着力により分解し難いという問題がある。
【0003】
従来用いられる分解構造としては、特許文献1に示された方法がある。特許文献1に記載された電子機器筐体は、上下のケースのフランジ部分を液状ガスケットでシールした構造を持ち、ケースのフランジ間を固定するネジ以外に、一方に貫通したメネジを設け、他方に貫通穴を設けない部分を有している。分解時には、このメネジの部分にオネジを締め上げることにより貫通したメネジから突き出たオネジが他方のフランジに接触し、押し広げる力で対象ケースを分解することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の分解構造の場合、分解時のみオネジが挿入されるため通常時はネジ穴がむき出しになっており、雨水等の被水によってネジ穴が錆びることがある。その場合、オネジが挿入し難くなって分解に手間がかかる。また、オネジが挿入できる場合でも、被締結物であるケースにメネジを設けることが前提となり、ケースの材料選定に制約を受ける。
【0006】
本願は、この様な問題点を解決するためになされたものであって、被水してもネジ穴が錆びることがなく、ケースを分解する時に容易にケース間を分離できる構造を持った電子機器筐体を得ること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に係わる電子機器筐体は、第一のフランジを有する第一のケースと、前記第一のフランジとシール材を介して接着された第二のフランジを有する第二のケースと、を備え、前記第一のフランジと前記第二のフランジとの接合部の少なくとも一部に、前記第一のケースと前記第二のケースとを分解する分解用ネジ部が形成され、前記分解用ネジ部は、前記第一のフランジの底を有するネジ穴に設けられたメネジと、このメネジに締結されたオネジと、前記第二のフランジに設けられ前記オネジの頭を覆う蓋部とで構成され、前記蓋部には、前記オネジの軸方向にこのオネジの頭よりも小さい径の貫通穴が設けられたものである。
【発明の効果】
【0008】
本願によれば、前記第一のフランジと前記第二のフランジとの接合部の少なくとも一部に、前記第一のケースと前記第二のケースとを分解するネジ部が設けられており、このネジ部にオネジをメネジが締結された状態で設けられている。そのため、オネジがメネジのネジ穴を塞ぐように形成されているのでネジ穴が露出することなく、被水に対してネジ穴が錆びることがない。また、分解時に別途オネジを用意することはなく、締結されたオネジとメネジを使用して第一のケースと第二のケースの分解が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係わる電子機器筐体の各構成要素に分解した状態を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係わる電子機器筐体の外観を示す斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係わる電子機器筐体の
図2のAA断面を示す模式図である。
【
図4】実施の形態1に係わる電子機器筐体のネジ部の断面を示す模式図である。
【
図5】実施の形態1に係わる電子機器筐体のネジ部を拡大した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本願の実施の形態1による電子機器筐体の全体を各構成要素に分解した状態を示す斜視図である。
図1において、電子機器筐体20は、メネジ3が設けられた第一のフランジ2を有する第一のケース1と、貫通穴6aとオネジ7bのネジの頭を覆う蓋部9に形成された貫通穴6bが設けられた第二のフランジ5を有する第二のケース4とで構成されている。また、第一のケース1の第一のフランジ2と第二のケース4の第二のフランジ5とはその接合部にシール材となる液状ガスケット8を挟んで構成されており、オネジ7aの締付け力によって、シール材は第一のフランジ2と第二のフランジ5の接合部の全体に広がり、ケースの内部が封止されるシール構造となっている。また、分解時の分解のためのオネジ7bが設けられている。
【0011】
図1では、電子機器筐体20に格納される部品である電子機器、基板、ケーブルおよびコネクタ等についての図示を省略する。また、電子機器筐体20の外部との接続についての図示も省略する。また、後述する
図2から
図5においても同様の扱いとする。なお、各図の中の符号は対応する部位は同一符号で表すものとする。
図2は、電子機器筐体20の外観を示す斜視図である。また、
図3は、
図2のAA断面となるネジ部の断面を示す模式図である。第一のフランジ2と第二のフランジ5の接合部には、筐体の締結用のネジ部10aと分解用のネジ部10bとが設けられている。分解用のネジ部10bは、少なくとも第一のフランジ2と第二のフランジ5の接合部の少なくとも一部に設けられる。オネジ7bの頭の上に、蓋部9があり、オネジ7bの頭よりも径の小さい貫通穴6bが設けられている。
【0012】
通常は、
図3に示すように締結用のネジ部10aでは、オネジ7aがメネジ3に締結された状態であり、分解用のネジ部10bでも、オネジ7bがメネジ3に締結された状態となっている。電子機器筐体20を分解するときは、まず、筐体のすべての締結用のネジ部10aのオネジ7aをドライバ等の工具を使用してメネジ3から取り外す。つぎに、分解用のネジ部10bに対し貫通穴6bを通して工具を使用し、オネジ7bの頭を緩める方向にネジを回す。オネジ7bの頭に設けられたフランジ部が蓋部9と接触し、蓋部9を押し上げる。この力が第一のケース1と第二のケース4とを分解する分解力として働き、第一のフランジ2と第二のフランジ5の間にある液状ガスケット8の接着力に打ち勝って電子機器筐体20を分解することができる。
このように、ドライバ等の工具を使用して、簡単に電子機器筐体20を分解することが可能である。
【0013】
以上のように、分解用のネジ部10bは通常はオネジ7bがメネジ3に締結された状態であるため、メネジ3のネジ穴がむき出しの状態にならず、雨水等の被水による錆びに強い構造となっている。
また、オネジ7a、7bに防錆用のコーティングを施すことによって、被水による錆びの進行を抑えることができ、分解時の作業が容易になる。
また、
図3に示すように、オネジ7bの頭に貫通穴6bよりも径の大きなフランジ部を有するネジを用いることにより、ネジの頭と工具とが篏合するために必要な貫通穴6bの径を確保することが容易となる。
【0014】
また、
図3に示すように、分解用のオネジ7bの頭に設けたフランジ部には摩擦低減材11が塗布されており、オネジ7bのフランジ部と接触する蓋部9には接触する範囲に表面処理加工面12が設けられている。このようにすることで、分解時にオネジ7bのフランジ部と蓋部9が接触するが、摩擦低減材により接触による傷付きが緩和される。また、分解時にオネジ7bのフランジ部と蓋部9が接触するが、蓋部9の接触面に
摩擦を軽減する表面処理加工面12を設けることにより接触による傷付きをより緩和できる。
【0015】
また、締結用のネジ部10aのメネジ3も、分解用のネジ部10bのメネジ3も第一のフランジの側に設けられており、第二のフランジ5の側にメネジを切ることはなく、第二のケース4の材料選定にネジを切ることによる制約を受けることがない。例えば、アルミダイカスト、鉄または銅からなる板金、または、樹脂成型品を用いることが可能である。これにより軽量化および低コスト化を図ることが可能になる。
【0016】
図4は、分解用のオネジ7bの頭にフランジ部を設けたことにより、ゴム等でできた吸着ビット13を工具として使用し、搬送、吸着、ネジ締め、ネジ緩めをすることが可能となる例を示したものである。このような吸着ビット13を用いることによって、電子機器筐体20の組立および分解の作業の自動化、標準化が可能となる。
また、オネジ7aとオネジ7bの頭にフランジ部を設けたことによりオネジに雨水等が溜まらない形状となっており、錆びにくい構造になっている。そのため、組立、分解時に、ネジの頭のフランジの平面でネジへの吸着ビット13の吸着が可能になり、吸着ビット13の径を小さく設定することが可能である。
【0017】
図5は、電子機器筐体20の分解用のネジ部10bの構造を拡大した斜視図で示したものである。
図5においてオネジ7bが締結されている第一のフランジ2の座面と第二のフランジ5に設けられた蓋部9との間に、開口部14が第二のケース4の外に向けて設けられている。また、蓋部9には補強部となるリブ15が設けられている。
このように開口部14を設けることにより、オネジ7bと第二のフランジ5の間に雨水等が浸入した場合でも、開口部14によって雨水等が排出され溜まることがない。
また、補強部となるリブ15を設けることにより、分解時の第二のケース4、第二のフランジ5の変形、破損を防止することが可能になる。ただしリブの形、位置は図に限定されるものではなく、分解時のオネジ7bと蓋部9との接触による分解力に耐えられる構造であれば別の形状、位置でもよい。
【0018】
なお、本願の実施の形態1では、第一のケース1を下に、第二のケース4を上にした状態で説明したが、上下左右等の向きについて制約はない。
また、分解用のネジ部10bは1つとして説明したが、ケースの周囲の複数箇所に設けてもよい。締結用のネジ部10aについても7個として図示したが、個数に制約はない。
電子機器筐体は、第一のケースと第二のケースの2つとしたが、より複雑な形状を持ったものでも可能である。また、2つ以上の複数のケースに分割されている場合でも同様な構成が可能であり、同様な効果を奏することが可能である。
【0019】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【0020】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0021】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0022】
(付記1)
第一のフランジを有する第一のケースと、
前記第一のフランジとシール材を介して接合された第二のフランジを有する第二のケースと、を備え、
前記第一のフランジと前記第二のフランジとの接合部の少なくとも一部に、
前記第一のケースと前記第二のケースとを分解するネジ部が形成され、
前記ネジ部にはオネジとメネジが締結されていることを特徴とする電子機器筐体。
(付記2)
前記ネジ部は、前記第一のフランジに設けられた前記メネジと、このメネジに締結された前記オネジと、前記第二のフランジに設けられた前記オネジを覆う蓋部とで形成され、
前記蓋部には、前記オネジの軸方向にこのオネジの頭よりも小さい径の貫通穴が設けられていることを特徴とする付記1に記載の電子機器筐体。
(付記3)
前記貫通穴を通して前記オネジを前記メネジから緩める方向に回すことにより、前記オネジの頭が前記蓋部を押し上げることを特徴とする付記2に記載の電子機器筐体。
(付記4)
前記ネジ部を構成する前記第二のフランジの前記蓋部または前記オネジの頭には、摩耗低減材が塗布されていることを特徴とする付記3に記載の電子機器筐体。
(付記5)
前記ネジ部を構成する前記第二のフランジの前記蓋部または前記オネジの頭には、分解時の接触位置に対応した面に摩耗を軽減する表面処理加工が施されていることを特徴とする付記3または付記4に記載の電子機器筐体。
(付記6)
前記ネジ部を構成する前記オネジの頭は、前記貫通穴よりも大きい径のフランジ部を有することを特徴とする付記2から付記5のいずれか1項に記載の電子機器筐体。
(付記7)
前記オネジには防錆のコーティングが施されていることを特徴とする付記1から付記6のいずれか1項に記載の電子機器筐体。
(付記8)
前記ネジ部を構成する前記第二のフランジには、前記第一のフランジとの間に、前記第二のケースの外に向けて開口部が設けられていることを特徴とする付記1から付記7のいずれか1項に記載の電子機器筐体。
(付記9)
前記ネジ部を構成する前記第二のフランジには、補強部が設けられていることを特徴とする付記1から付記8のいずれか1項に記載の電子機器筐体。
(付記10)
前記第二のケースは、アルミダイカスト、鉄または銅からなる板金、または樹脂成型品であることを特徴とする付記1から付記9のいずれか1項に記載の電子機器筐体。
【符号の説明】
【0023】
1 第一のケース、2 第一のフランジ、3 メネジ、4 第二のケース、5 第二のフランジ、6a、6b 貫通穴、7a、7b オネジ、8 液状ガスケット、9 蓋部、10a 締結用のネジ部、10b 分解用のネジ部、11 摩擦低減材、12 表面処理加工面、13 吸着ビット、14 開口部、15 リブ、20 電子機器筐体。