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特許7399288プラント監視装置、プラント監視方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】プラント監視装置、プラント監視方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20231208BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022530478
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2021020739
(87)【国際公開番号】W WO2021251200
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2020102395
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】永野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真由美
(72)【発明者】
【氏名】江口 慶治
(72)【発明者】
【氏名】青山 邦明
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215863(JP,A)
【文献】特開2018-173948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントに関する複数のセンサー値毎の検出値の束を取得するセンサー値取得部と、
前記複数のセンサー値毎の検出値の束が集まって構成される単位空間を基準にして、取得した前記検出値の束のマハラノビス距離を求める距離演算部と、
前記マハラノビス距離が所定の閾値以内であるか否かに応じて、前記プラントの運転状態が正常であるか異常であるかを判定するプラントの異常の有無判定部と、
前記プラントの運転状態が異常と判定された場合、前記検出値の束のうち原因と推定される少なくとも1つのセンサー値について、検出値が高いことによる異常である高値異常か、検出値が低いことによる異常である低値異常かを特定する高値異常/低値異常判定部と、
前記少なくとも1つのセンサー値ごとに、低値異常か高値異常かの別と、前記プラントに生じ得る複数の異常原因と前記複数のセンサー値との関係を保持する故障部位推定データベースとに基づいて異常原因を推定する異常原因推定部と、
推定された前記異常原因を出力する出力部と、
を有し、
前記異常原因推定部は、前記複数のセンサー値ごとに、前記故障部位推定データベースにおいて当該センサー値について特定された低値異常か高値異常かの別に関連付けられた情報量と、当該センサー値に係る望大SN比とを乗算した値を求め、求めた前記値の総和に基づいて前記異常原因を推定する、
プラント監視装置。
【請求項2】
前記検出値の束に基づいて、前記複数のセンサー値のSN比を算出するSN比算出部を備え、
前記故障部位推定データベースは、異常原因とセンサー値とに関連付けて、異常原因の発生可能性の増加・減少を示す情報量を保持する
請求項1に記載のプラント監視装置。
【請求項3】
プラントに関する複数のセンサー値毎の検出値の束を取得するセンサー値取得部と、
前記複数のセンサー値毎の検出値の束が集まって構成される単位空間を基準にして、取得した前記検出値の束のマハラノビス距離を求める距離演算部と、
前記マハラノビス距離が所定の閾値以内であるか否かに応じて、前記プラントの運転状態が正常であるか異常であるかを判定するプラントの異常の有無判定部と、
前記プラントの運転状態が異常と判定された場合、前記検出値の束のうち原因と推定される少なくとも1つのセンサー値について、検出値が高いことによる異常である高値異常か、検出値が低いことによる異常である低値異常かを特定する高値異常/低値異常判定部と、
前記少なくとも1つのセンサー値ごとに、低値異常か高値異常かの別と、前記プラントに生じ得る複数の異常原因と前記複数のセンサー値との関係を保持する故障部位推定データベースとに基づいて、異常原因を推定する異常原因推定部と、
推定された前記異常原因を出力する出力部と、
を有し、
前記故障部位推定データベースにおいて、高値異常/低値異常が発生した際、通常より異常原因が発生し易くなるものには正の情報量、通常より異常原因が発生し難くなる可能性があるものには負の情報量が関連付けられている、
プラント監視装置
【請求項4】
プラントに関する複数のセンサー値毎の検出値の束を取得するステップと、
前記複数のセンサー値毎の検出値の束が集まって構成される単位空間を基準にして、取得した前記検出値の束のマハラノビス距離を求めるステップと、
前記マハラノビス距離が所定の閾値以内であるか否かに応じて、前記プラントの運転状態が正常であるか異常であるかを判定するステップと、
前記プラントの運転状態が異常と判定された場合、前記検出値の束のうち原因と推定される少なくとも1つのセンサー値について、検出値が高いことによる異常である高値異常か、検出値が低いことによる異常である低値異常かを特定するステップと、
前記少なくとも1つのセンサー値ごとに、低値異常か高値異常かの別と、前記プラントに生じ得る複数の異常原因と前記複数のセンサー値との関係を保持する故障部位推定データベースとに基づいて異常原因を推定するステップと、
推定された前記異常原因を出力するステップと、
を有し、
前記異常原因を推定するステップにおいて、前記複数のセンサー値ごとに、前記故障部位推定データベースにおいて当該センサー値について特定された低値異常か高値異常かの別に関連付けられた情報量と、当該センサー値に係る望大SN比とを乗算した値を求め、求めた前記値の総和に基づいて前記異常原因を推定する、
プラント監視方法。
【請求項5】
コンピュータに、
プラントに関する複数のセンサー値毎の検出値の束を取得するステップと、
前記複数のセンサー値毎の検出値の束が集まって構成される単位空間を基準にして、取得した前記検出値の束のマハラノビス距離を求めるステップと、
前記マハラノビス距離が所定の閾値以内であるか否かに応じて、前記プラントの運転状態が正常であるか異常であるかを判定するステップと、
前記プラントの運転状態が異常と判定された場合、前記検出値の束のうち原因と推定される少なくとも1つのセンサー値について、検出値が高いことによる異常である高値異常か、検出値が低いことによる異常である低値異常かを特定するステップと、
前記少なくとも1つのセンサー値ごとに、低値異常か高値異常かの別と、前記プラントに生じ得る複数の異常原因と前記複数のセンサー値との関係を保持する故障部位推定データベースとに基づいて異常原因を推定するステップと、
推定された前記異常原因を出力するステップと、
を実行させるためのプログラムであって、
前記異常原因を推定するステップにおいて、前記複数のセンサー値ごとに、前記故障部位推定データベースにおいて当該センサー値について特定された低値異常か高値異常かの別に関連付けられた情報量と、当該センサー値に係る望大SN比とを乗算した値を求め、求めた前記値の総和に基づいて前記異常原因を推定する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラントの運転状態を監視するプラント監視装置、プラント監視方法およびプログラムに関する。
本願は、2020年6月12日に、日本に出願された特願2020-102395号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン発電プラントや原子力発電プラント、あるいは化学プラントといった各種のプラントでは、プラントが正常に運転されていることを監視するため、温度や圧力といったプラントの各センサーの状態量を取得し、これらの状態量に基づきプラントの運転状態を監視しているが、異常が発生した場合には原因推定機能が求められる。
【0003】
例えば、以下の特許文献1の監視装置は、該当プラントのコンピュータから、そのプラントの各センサーの状態量をオンラインで取得し、マハラノビス-タグチ法(以下、MT法とする)などを用いて異常か否かを判定する。この監視装置は、異常と判定すると、異常の原因を特定する機能を有している。
【0004】
MT法では、複数のセンサーごとの状態量の集まりである状態量の束が複数集まって構成される単位空間を予め準備しておき、プラントから状態量の束を取得すると、単位空間を基準にして、この状態量の束のマハラノビス距離(以下、MD距離とする)を求め、このマハラノビス距離が予め定められた閾値以内であるか否かに応じて、プラントの運転状態等が正常であるか否かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-215863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MT法によれば、マハラノビス距離に基づいてセンサーごとの望大SN比を算出することで、マハラノビス距離が増大したセンサーを特定することができる。従来のMT法はあるセンサーに着目した場合、当該センサーが高値である場合にも、低値である場合にも、マハラノビス距離は増大するため、高値/低値の異常を区別ができない。
【0007】
本開示の目的は、高値/低値とで、発生し易くなる異常と発生し難くなる異常の原因の情報を付加し、より信頼性がある故障部位推定用のデータベース作成方法および異常原因推定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様によれば、プラント監視装置は、プラントに関する複数のセンサー値毎の検出値の束を取得する取得部と、前記複数のセンサー値毎の検出値の束が集まって構成される単位空間を基準にして、前記取得部が取得した前記検出値の束のマハラノビス距離を求める距離算出部と、前記マハラノビス距離が所定の閾値以内であるか否かに応じて、前記プラントの運転状態が正常であるか異常であるかを判定する判定部と、各センサー値について望大SN比が高値または低値により発生しているかの判定部と、を有する。
【0009】
一態様によれば、故障部位推定データベースとして、特定の異常原因がセンサーの高値異常により発生し易くなるか、低値異常により発生し易くなるか、および、異常原因がセンサー値が高値の異常により発生し難くなるか、低値の異常により発生し難くなるかについての情報を付加することで実現する。
【0010】
一態様によれば、望大SN比の高値/低値異常の区別、および、本発明の故障部位推定データベースとして、特定の異常原因がセンサー値が高値/低値の異常により発生し易くなるか発生し難くなるかの情報を組合せて、より信頼性がある異常原因を推定が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
上記態様のうち少なくとも1つの態様によれば、プラント監視装置は、センサの異常により原因が発生する可能性が低くなる事象の情報を負値に設定することで、故障の真因をより信頼性良く推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係るプラント監視装置の概要を説明するための図である。
図2】第1の実施形態に係るプラント監視装置の機能構成を示す概略ブロック図である。
図3】第1の実施形態に係る故障部位推定データベースの一例を示す図である。
図4】マハラノビス距離の概念を示す概念図である。
図5】第1の実施形態に係る故障部位推定データベースの更新方法を示すフローチャートである。
図6】第1の実施形態に係るプラントの監視処理を示すフローチャートである。
図7】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〈第1の実施形態〉
図1は、第1の実施形態に係るプラント監視装置20の概要を説明するための図である。
本実施形態に係るプラント監視装置20は、複数の評価項目があるプラント1の運転状態を監視するための装置である。プラント監視装置20は、プラント1の各部に設けられた検出器から評価項目ごとの状態量を示す検出値を取得する。そして、プラント監視装置20は、マハラノビス・タグチ法を利用し、取得した検出値に基づいてプラント1の運転状態が正常であるか異常であるかを判定する。
【0014】
《プラントの構成》
本実施形態に係るプラント1は、ガスタービン複合発電プラントであり、ガスタービン10と、ガスタービン発電機11と、排熱回収ボイラ12と、蒸気タービン13と、蒸気タービン発電機14と、制御装置40と、を備える。なお、他の実施形態では、プラント1は、ガスタービン発電プラント、原子力発電プラント、化学プラントであってもよい。
【0015】
ガスタービン10は、圧縮機101と、燃焼器102と、タービン103とを備える。
【0016】
圧縮機101は、吸気口から取り込んだ空気を圧縮する。圧縮機101には、評価項目の一つである圧縮機101の車室内の温度を検出するための検出器として、温度センサ101A、101Bが設けられている。例えば、温度センサ101Aは圧縮機101の車室入口の温度(入口空気温度)を検出し、温度センサ101Bは車室出口の温度(出口空気温度)を検出するようにしてもよい。
【0017】
燃焼器102は、圧縮機101から導入された圧縮空気に燃料Fを混合して燃焼させ、燃焼ガスを生成する。燃焼器102には、評価項目の一つである燃料Fの圧力を検出するための検出器として、圧力センサ102Aが設けられている。
【0018】
タービン103は、燃焼器102から供給された燃焼ガスにより回転駆動する。タービン103には、評価項目の一つである車室内の温度を検出するための検出器として、温度センサ103A、103Bが設けられている。例えば、温度センサ103Aはタービン103の車室入口の温度(入口燃焼ガス温度)を検出し、温度センサ103Bは車室出口の温度(出口燃焼ガス温度)を検出するようにしてもよい。
【0019】
ガスタービン発電機11は、タービン103のロータと、圧縮機101を介して連結され、ロータの回転により発電する。ガスタービン発電機11には、評価項目の一つである潤滑油の温度を検出するための検出器として、温度計11Aが設けられている。
【0020】
排熱回収ボイラ12は、タービン103から排出された燃焼ガス(排ガス)で水を加熱して、蒸気を生成する。排熱回収ボイラ12には、評価項目の一つであるドラムの水位レベルを検出するための検出器として、レベル計12Aが設けられている。
【0021】
蒸気タービン13は、排熱回収ボイラ12からの蒸気で駆動する。蒸気タービン13には、評価項目の一つである車室内の温度を検出するための検出器として、温度センサ13Aが設けられている。また、蒸気タービン13から排出される蒸気は、復水器132で水に戻されて、給水ポンプを介して排熱回収ボイラ12に送られる。
【0022】
蒸気タービン発電機14は、蒸気タービン13のロータ131と連結され、ロータ131の回転により発電する。蒸気タービン発電機14には、評価項目の一つである潤滑油の温度を検出するための検出器として、温度計14Aが設けられている。
【0023】
なお、上述の評価項目は一例であり、これに限られることはない。プラント1の他の評価項目として、例えばガスタービン発電機11の出力、タービン103の車室内の圧力、タービン103または蒸気タービン13のロータの回転速度、振動等が設定されていてもよい。この場合、これら評価項目の状態量を検出する図示しない検出器がプラント1の各部に設けられる。
【0024】
制御装置40は、プラント1の動作を制御するための装置である。また、制御装置40は、プラント監視装置20によりプラント1の運転状態が異常であると判定された場合、プラント監視装置20からの制御信号に従って、プラント1各部の動作を制御するようにしてもよい。
【0025】
《構成》
図2は、第1の実施形態に係るプラント監視装置20の機能構成を示す概略ブロック図である。
プラント監視装置20は、センサー値取得部201、単位空間記憶部202、MD距離算出部203、プラントの異常の有無判定部204、望大SN比算出部205、異常センサー抽出部206、高値異常/低値異常の判定部207、故障部位推定データベース208、異常原因推定部209、異常原因出力表示部210を備える。
【0026】
センサー値取得部201は、プラント1に設けられた複数の検出器それぞれから検出値を取得する。各検出器は複数の評価項目のそれぞれに対応している。すなわち、センサー値取得部201は、複数の評価項目ごとの検出値の集まりである検出値の束を取得する。センサー値取得部201は、所定の取得周期(例えば1分)ごとに検出値の束を取得して、単位空間記憶部に記録する。
【0027】
単位空間記憶部202は、正常なプラントから取得された検出値の束の組み合わせを、マハラノビス距離の単位空間として記憶する。
【0028】
MD距離算出部203は、センサー値取得部201が取得した検出値の束を諸元として、単位空間記憶部202が記憶する単位空間に基づいて、プラント1の状態を示すマハラノビス距離を算出する。マハラノビス距離は、単位空間として表される基準の標本と新たに得られた標本との違いの大きさを表す尺度である。
【0029】
プラントの異常の有無判定部204は、MD距離算出部203が算出したマハラノビス距離に基づいてプラント1に異常が生じているか否かを判定する。具体的には、プラントの異常の有無判定部204は、マハラノビス距離が所定の閾値以上である場合に、プラント1に異常が生じていると判定する。閾値には、通常3以上の値が設定される。
【0030】
望大SN比算出部205は、プラントの異常の有無判定部204がガスタービンTに異常が生じていると判定した場合に、センサー値取得部201が取得した検出値の束に基づいて、タグチメソッドに係る望大SN比(Signal-Noise Ratio)を算出する。例えば、望大SN比算出部205は、直交表分析による項目有無の望大SN比を求める。望大SN比が大きいほど、その検出値に係る評価項目に異常がある可能性が高いと判断できる。
【0031】
異常センサー抽出部206は、望大SN比算出部205が算出した望大SN比に基づいて、マハラノビス距離の増大への寄与が高いセンサー値である少なくとも1つの異常センサーを抽出する。異常センサー抽出部206は、例えば、複数のセンサー値のうち望大SN比が高い上位の所定数のセンサー値を異常センサーとして抽出してよい。また例えば、異常センサー抽出部206は、複数のセンサー値のうち望大SN比が所定の閾値以上であるセンサー値を異常センサーとして抽出してよい。
【0032】
高値異常/低値異常の判定部207は、複数のセンサー値のそれぞれについて、発生した異常が、当該センサー値の検出値が高いことによる異常である高値異常か、検出値が低いことによる異常である低値異常かを特定する。つまり高値異常/低値異常の判定部207は、マハラノビス距離の増大が検出値の増加により生じるのか、減少により生じるのかを特定する。具体的には、高値異常/低値異常の判定部207は、センサー値取得部201が取得した検出値の束の値をセンサー値ごとに増加または減少させたときのマハラノビス距離を算出し、当該値の変化によるマハラノビス距離の増減に基づいて、高値異常か低値異常かの別を特定する。検出値の増加によりマハラノビス距離の増大が生じる場合、当該センサー値が高値異常であることが分かり、検出値の減少によりマハラノビス距離の増大が生じる場合、当該センサー値が低値異常であることが分かる。(特願2019-063575)
【0033】
故障部位推定データベース208は、評価項目と異常原因と高値異常か低値異常かの別との関係を表す故障部位推定データベースを作成する。図3は、第1の実施形態に係る故障部位推定データベースの一例を示す図である。具体的には、故障部位推定データベースは、高値異常および低値異常に係る各評価項目(図3の縦軸)および各異常原因(図3の横軸)について、当該異常原因が生じたときに、当該評価項目において関連付けられた異常がみられることについての情報量を保持する。情報量の値が大きいほど、関連付けられた評価項目において同様の異常がみられるときに、故障部位推定データベース208が記憶する情報量のうち、実際に発生した高値異常または低値異常に係る情報量は、例えば以下の式(1)によって表される。
【0034】
【数1】
【0035】
ここで、Iは情報量、xは事象の発生件数、wはデータの信頼度に基づく重み係数を示す。
例えば、異常原因が現実に発生し、その報告書等に基づいて異常原因が特定されたときの重み係数wは、保守員によって生成されたFTAのデータ(FT:Fault Tree)に基づいて異常原因が特定されたときの重み係数wより大きくてよい。また、例えば、オフライン解析やシミュレーションなど、報告書より精度が高い手法に基づいて異常原因が特定されたときの重み係数wは、異常原因が現実に発生し、その報告書等に基づいて異常原因が特定されたときの重み係数wより大きくてよい。
【0036】
他方、センサー異常発生時に起こり難くなる原因は、例えば以下の式(2)によって表され負値となる。
【0037】
【数2】
【0038】
実際に発生していない高値異常または低値異常に係る情報量の算出に用いられる重みwは、実際に発生した高値異常または低値異常に係る情報量の算出に用いられる重みwより大きくてよい。
【0039】
異常原因推定部209は、故障部位推定データベースから、M*2行N列の行列を生成する。(ここでM*2の部分は高値/低値異常の区別のため2倍になる)故障部位推定データベースは、M個の評価項目と高値異常および低値異常とに関連付けて情報量を保持している。そのため、異常原因推定部209は、M個の評価項目のそれぞれについて、高値異常/低値異常の判定部207にて関連付けられた情報量を読み出すことで、M*2行N列の行列を生成する。そして、異常原因推定部209は、各評価項目の望大SN比を要素とする1行M*2列のベクトルと、生成したM*2行N列の行列との乗算を行うことで、異常原因の確からしさを要素とするN行1列のベクトルを得る。そして、異常原因推定部209は、得られたN行1列のベクトルのうち要素の値が大きい行に係る異常原因が、プラント1に発生した異常原因であると推定する。つまり、異常原因推定部209は、異常原因ごとに、各評価項目の望大SN比とその項目の異常に係る情報量との加重和を算出し、当該加重和に基づいて異常原因を推定する。
【0040】
異常原因出力表示部210は、異常原因推定部209が推定した異常原因を確からしさの順に出力する。出力の例としては、ディスプレイへの表示、外部へのデータの送信、シートへの印刷、音声出力などが挙げられる。
【0041】
《MT法について》
図4は、マハラノビス距離の概念を示す概念図である。
まず、MT法によるプラント監視方法の概要について、図4を用いて説明する。
【0042】
図4に示すように、プラント監視装置20のセンサー値取得部201が、プラント1の第1検出値および第2検出値を検出値の束Bとして取得すると仮定する。例えば、第1検出値は「ガスタービン出力」、第2検出値は「ボイラ水位」である。MT法では、複数の検出値の束Bの集合体であるデータ群を、基準データ群である単位空間Sとし、ある時点で取得された検出値の束Aのマハラノビス距離Dを算出する。
【0043】
マハラノビス距離Dは、単位空間Sにおける検出値の分散や相関に応じて重み付けがなされた距離であり、単位空間Sにおけるデータ群との類似度が低いほど大きい値となる。ここで、単位空間Sを構成する検出値の束Bのマハラノビス距離の平均は1となり、プラント1の運転状態が正常である場合、検出値の束Aのマハラノビス距離Dは概ね4以下に収まる。しかしながら、プラント1の運転状態が異常となると、異常の程度に応じてマハラノビス距離Dの値は大きくなる。
【0044】
このため、MT法では、マハラノビス距離Dが、予め定められた閾値Dc以内であるか否かに応じで、プラント1の運転状態が正常であるか異常であるかを判定する。例えば、検出値の束A1のマハラノビス距離D1は、閾値Dc以下であるため、この検出値の束A1を取得した時点におけるプラント1の運転状態は正常であると判定される。また、検出値の束A2のマハラノビス距離D2は、閾値Dcよりも大きいため、この検出値の束A2を取得した時点におけるプラント1の運転状態は異常であると判定される。
【0045】
なお、閾値Dcは、例えば単位空間Sを構成する複数の検出値の束Bそれぞれのマハラノビス距離のうち、最大のマハラノビス距離よりも大きい値に設定することが好ましい。また、このとき、プラント1の固有の特性等を考慮して、閾値Dcを定めることが好ましい。閾値Dcは、作業者によりプラント監視装置20を介して変更できるようにしてもよい。
【0046】
《プラント監視装置20の動作》
以下、プラント監視装置20の動作について説明する。
プラント監視装置20は、監視処理を開始する前に、プラント1が正常に運転している間、プラント1から検出値の束を収集して単位空間記憶部202に検出値の束を蓄積する。なお、プラント監視装置20は、監視対象のプラント1と同様の構成を有する他のプラント1の正常時の検出値の束を取得し、単位空間記憶部202に記録してもよい。
【0047】
(プラント1の監視処理)
単位空間記憶部202に単位空間が記録され、また故障部位推定データベース208に故障部位推定データベースが記録されると、プラント監視装置20は、所定の監視タイミング(例えば、1時間おきのタイミング)で、以下に示す監視処理を実行する。
図6は、第1の実施形態に係るプラント1の監視処理を示すフローチャートである。
【0048】
プラント監視装置20が監視処理を開始すると、センサー値取得部201は、プラント1から検出値の束を取得する(ステップS31)。MD距離算出部203は、ステップS31で取得された検出値の束を諸元として、単位空間記憶部202が記憶する単位空間に基づいて、マハラノビス距離を算出する(ステップS32)。
【0049】
次に、プラントの異常の有無判定部204は、ステップS32で算出したマハラノビス距離に基づいてプラント1に異常が生じているか否かを判定する(ステップS33)。プラントの異常の有無判定部204がプラント1に異常が生じていないと判定した場合(ステップS33:NO)、プラント監視装置20は、監視処理を終了し、次回の監視タイミングを待機する。
【0050】
他方、プラントの異常の有無判定部204がプラント1に異常が生じていると判定した場合(ステップS33:YES)、望大SN比算出部205は、ステップS31で取得された検出値の束と、ステップS32で算出されたマハラノビス距離とに基づいて、各評価項目についてタグチメソッドに係る望大SN比を算出する(ステップS34)。
【0051】
次に、プラント監視装置20は、評価項目を1つずつ選択し、各評価項目について以下に示すステップS36からステップS41の処理を行う(ステップS35)。
まず、高値異常/低値異常の判定部207は、ステップS31で取得した検出値の束のうち、ステップS35で選択されたセンサー値を所定量増加させる(ステップS36)。次に、MD距離算出部203は、ステップS36で変化させた検出値の束を諸元として、単位空間記憶部202が記憶する単位空間に基づいて、マハラノビス距離を算出する(ステップS37)。
【0052】
高値異常/低値異常の判定部207は、異常センサーに係る検出値の増加によってマハラノビス距離が増大したか、減少したか、変化しないかを判定する(ステップS38)。例えば、高値異常/低値異常の判定部207は、マハラノビス距離の差分が所定の閾値以下である場合に、マハラノビス距離が変化しないと判定してよい。
マハラノビス距離が増大した場合(ステップS38:増大)、高値異常/低値異常の判定部207は、ステップS35で抽出された異常センサーに高値異常があると判定する(ステップS39)。他方、マハラノビス距離が減少した場合(ステップS38:減少)、高値異常/低値異常の判定部207は、ステップS35で抽出された異常センサーに低値異常があると判定する(ステップS40)。マハラノビス距離が変化しない場合(ステップS38:不変)、高値異常/低値異常の判定部207は、ステップS35で抽出された異常センサーに分類できないと判定する(ステップS41)。
【0053】
異常原因推定部209は、故障部位推定データベース208を用いてM*2行N列の行列を生成する(ステップS42)。ステップS34で算出された各評価項目の望大SN比と高値異常か低値異常かの別を加えた、1行M*2列のベクトルと、異常原因推定部209、ステップS42で生成したM*2行N列の行列との乗算を行うことで、異常原因の確からしさを要素とするN行1列のベクトルを得る(ステップS43)。なお、分類できないとされた望大SN比の項目は0とする。次に、異常原因推定部209は、各異常原因を、得られたベクトルが表す確からしさの降順にソートする(ステップS44)。このとき、異常原因推定部209は、通常より発生し難くなる場合は負数とする。そして、異常原因出力表示部210は、異常原因推定部209が推定した異常原因を、ソートされた順に出力する(ステップS45)。例えば、異常原因出力表示部210は、最も確からしさが高い異常原因をディスプレイに表示させ、利用者の操作により、次の異常原因の表示指令を受け付けた場合に、次に確からしさが高い異常原因をディスプレイに表示させる。また例えば、異常原因出力表示部210は、異常原因のリストを、確からしさの降順にシートに印刷する。
【0054】
《作用・効果》
このように、第1の実施形態によれば、プラント監視装置20は、マハラノビス距離に基づいて異常があると判定した場合に、各センサー値の異常と、プラント1に生じ得る複数の異常原因と異常別の前記複数のセンサー値との関係を保持する故障部位推定データベースとに基づいて異常原因を推定する。
これにより、プラント監視装置20は、各センサー値に高値側の異常があるか低値側の異常があるかで切り分けて異常原因の推定を行うことができる。したがって、プラント監視装置20は、異常原因の推定結果に発生する可能性が低い事象を除去することができる。
【0055】
また、第1の実施形態に係る故障部位推定データベースは、原因と高値/低値の異常センサーとに関連付け、当該異常原因の発生可能性の増加・減少を示す情報量を保持する。そして、プラント監視装置20は、複数のセンサー値ごとに、故障部位推定データベースにおいて当該センサー値について特定された異常に関連付けられた情報量と、当該センサー値に係る望大SN比とを乗算した値を求め、求めた値の総和に基づいて異常原因を推定する。これにより、望大SN比が高いセンサー値に係る情報量が大きい異常原因の確からしさが高くなり、望大SN比が高いセンサー値に係る情報量が小さい異常原因の確からしさが低くなる。したがって、プラント監視装置20は、異常原因の推定結果に発生する可能性が低い事象を除去することができる。
なお、他の実施形態ではこれに限られない。例えば、他の実施形態に係るプラント監視装置20は、各センサー値の望大SN比を要素とする1行M*2列のベクトルと、故障部位推定データベースの値を要素とするM*2行N列の行列の各行ベクトルとのコサイン類似度を算出することにより、異常の異常原因の確からしさを要素とするN行1列のベクトルを得てもよい。なお、コサイン類似度は、ベクトルの内積(各望大SN比と異常原因に係る情報量との加重和)を各ベクトルのノルムの積で除算した値である。例えば、他の実施形態に係るプラント監視装置20は、行列計算によらず、異常の異常原因ごとに、各センサー値の望大SN比と異常原因の情報量との加重和を求めてもよい。
【0056】
また、第1の実施形態に係る故障部位推定データベースは、異常原因と、当該異常原因が生じたときに発生する可能性が高いセンサー値の異常とに関連付けて、正の情報量を保持する。他方、第1の実施形態に係る故障部位推定データベースは、異常原因と、当該異常原因が生じたときに発生しない可能性が高いセンサー値の異常とに関連付けて、負の情報量を保持する。これにより、プラント監視装置20は、発生しない可能性が高い異常原因の確からしさを積極的に下げることができる。したがって、プラント監視装置20は、異常原因の推定結果に発生する可能性が低い事象を除去することができる。
なお、他の実施形態においては、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る故障部位推定データベースは、異常原因と、当該異常原因が生じたときに発生しない可能性が高いセンサー値の異常とに関連付けて、情報量ゼロを保持してもよい。この場合にも、負の情報量を有する場合と比較して異常原因の確からしさは大きく下がらないものの、各センサー値の異常を切り分けて異常原因の推定を行うことで、異常原因の推定結果に発生する可能性が低い事象を除去することができる。
【0057】
また、第1の実施形態に係るプラント監視装置20は、異常原因が生じたときの前記検出値の束に基づいて、各センサー値について、特定された異常に関連付けられた情報量を増加させ、特定されなかった異常に関連付けられた情報量を減少させるように、故障部位推定データベースを更新する。これにより、プラント監視装置20は、自動的に逆の方向に係る情報量を有する故障部位推定データベースを生成することができる。なお、他の実施形態においてはこれに限られず、負の情報量は、作業員によって手動で入力されてもよい。
【0058】
また、第1の実施形態に係るプラント監視装置20は、複数のセンサー値のうち望大SN比が大きい少なくとも1つの異常センサーについて、情報量を更新する。これにより、プラント監視装置20は、故障部位推定データベースにおいて各センサー値の情報量にメリハリをつけることができる。
【0059】
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
【0060】
〈コンピュータ構成〉
図7は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ90は、プロセッサ91、メインメモリ92、ストレージ93、インタフェース94を備える。
上述のプラント監視装置20は、コンピュータ90に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ93に記憶されている。プロセッサ91は、プログラムをストレージ93から読み出してメインメモリ92に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ91は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ92に確保する。プロセッサ91の例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
【0061】
プログラムは、コンピュータ90に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータ90は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ91によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【0062】
ストレージ93の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ93は、コンピュータ90のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース94または通信回線を介してコンピュータ90に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ90に配信される場合、配信を受けたコンピュータ90が当該プログラムをメインメモリ92に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ93は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0063】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、当該プログラムは、前述した機能をストレージ93に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0064】
上述した実施形態に係るプラント監視装置20は、単独のコンピュータ90によって構成されるものであってもよいし、プラント監視装置20の構成を複数のコンピュータ90に分けて配置し、複数のコンピュータ90が互いに協働することでプラント監視装置20として機能するものであってもよい。
【0065】
〈付記〉
各実施形態に記載のプラント監視装置、プラント監視方法およびプログラムは、例えば以下のように把握され得る。
【0066】
(1)第1の態様によれば、プラント監視装置(20)は、プラント(1)に関する複数のセンサー値毎の検出値の束を取得するセンサー値取得部(201)と、前記複数のセンサー値毎の検出値の束が集まって構成される単位空間を基準にして、前記センサー値取得部(201)が取得した前記検出値の束のマハラノビス距離を求める距離算出部(203)と、前記マハラノビス距離が所定の閾値以内であるか否かに応じて、前記プラント(1)の運転状態が正常であるか異常であるかを判定するプラントの異常の有無判定部(204)と、前記プラントの運転状態が異常と判定された場合、前記検出値の束のうち原因と推定される少なくとも1つのセンサー値について、検出値が高いことによる異常である高値異常か、検出値が低いことによる異常である低値異常かを特定する高値異常/低値異常判定部(207)と、前記少なくとも1つのセンサー値ごとに、低値異常か高値異常かの別と、前記プラントに生じ得る複数の異常原因と傾向別の前記複数のセンサー値との関係を保持する故障部位推定データベースとに基づいて、異常原因を推定する異常原因推定部(209)と、推定された前記異常原因を出力する出力部(210)と、を有する。
これにより、プラント監視装置は、各センサー値に高値側の異常があるか低値側の異常があるかで切り分けて異常原因の推定を行うことができる。したがって、プラント監視装置は、異常原因の推定結果に発生する可能性が低い事象を除去することができる。
「取得する」とは、新たに値を得ることである。例えば、「取得する」は、値を受信すること、値の入力を受け付けること、記憶媒体から値を読み出すこと、ある値から他の値を算出することなどを含む。
「特定する」とは、第1の値を用いて複数の値を取り得る第2の値を定めることである。例えば、「特定する」は、第1の値から第2の値を算出すること、故障部位推定データベースを参照して第1の値に対応する第2の値を読み出すこと、第1の値をクエリとして第2の値を検索すること、第1の値に基づいて複数の候補の中から第2の値を選択することなどを含む。
【0067】
(2)第2の態様によれば、第1の態様に係るプラント監視装置(20)が、前記検出値の束に基づいて、前記複数のセンサー値の望大SN比を算出する望大SN比算出部(205)を備え、前記故障部位推定データベースは、異常原因とセンサー値とに関連付けて、異常原因の発生可能性の増加・減少を示す情報量を保持し、前記異常原因推定部(209)は、前記複数のセンサー値ごとに、前記故障部位推定データベースにおいて当該センサー値について特定された低値異常か高値異常かの別に関連付けられた情報量と、当該センサー値に係る前記望大SN比とを乗算した値を求め、求めた前記値の総和に基づいて前記異常原因を推定するものであってよい。
これにより、望大SN比が高いセンサー値に係る情報量が大きい異常原因の確からしさが高くなり、望大SN比が高いセンサー値に係る情報量が小さい異常原因の確からしさが低くなる。したがって、プラント監視装置は、異常原因の推定結果に発生する可能性が低い事象を除去することができる。
【0068】
(3)第3の態様によれば、第1または第2の態様に係るプラント監視装置(20)において、前記故障部位推定データベースにおいて、異常原因と、低値異常および高値異常のうち当該異常原因が生じたときに発生する可能性が高いものとに、正の情報量が関連付けられ、異常原因と、低値異常および高値異常のうち当該異常原因が生じたときに発生しない可能性が高いものに、負の情報量が関連付けられるものであってよい。
これにより、プラント監視装置は、発生しない可能性が高い異常原因の確からしさを積極的に下げることができる。したがって、プラント監視装置は、異常原因の推定結果に発生する可能性が低い事象を除去することができる。
【0069】
(4)第4の態様によれば、第3の態様に係るプラント監視装置において、低値異常および高値異常のうち前記故障部位推定データベースにおいて、前記異常原因が生じたときに発生しない可能性が高いものに関連付けられた情報量の絶対値は、当該異常原因が生じたときに発生する可能性が高いものに関連付けられた情報量の絶対値より大きいものであってよい。
【0070】
(5)第5の態様によれば、プログラムは、コンピュータに、プラントに関する複数のセンサー値毎の検出値の束を取得するステップと、前記複数のセンサー値毎の検出値の束が集まって構成される単位空間を基準にして、前記取得部が取得した前記検出値の束のマハラノビス距離を求めるステップと、前記マハラノビス距離が所定の閾値以内であるか否かに応じて、前記プラントの運転状態が正常であるか異常であるかを判定するステップと、前記プラントの運転状態が異常と判定された場合、前記検出値の束のうち原因と推定される少なくとも1つのセンサー値について、検出値が高いことによる異常である高値異常か、検出値が低いことによる異常である低値異常かを特定するステップと、前記少なくとも1つのセンサー値ごとに、低値異常か高値異常かの別と、前記プラントに生じ得る複数の異常原因と前記複数のセンサー値との関係を保持する故障部位推定データベースとに基づいて、異常原因を推定するステップと、推定された前記異常原因を出力するステップと、を実行させる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
プラント監視装置は、センサの異常により原因が発生する可能性が低くなる事象の情報を負値に設定することで、故障の真因をより信頼性良く推定できる。
【符号の説明】
【0072】
1 プラント
20 プラント監視装置
201 センサー値取得部
202 単位空間記憶部
203 MD距離算出部
204 プラントの異常の有無判定部
205 望大SN比算出部
206 異常センサー抽出部
207 高値異常/低値異常の判定部
208 故障部位推定データベース
209 異常原因推定部
210 異常原因出力表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7