(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】助手席用エアバッグ装置および助手席用エアバッグ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 21/231 20110101AFI20231208BHJP
B60R 21/205 20110101ALI20231208BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/205
(21)【出願番号】P 2022532410
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019227
(87)【国際公開番号】W WO2021256160
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2020104627
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】結野 秀一
(72)【発明者】
【氏名】立和名 竜ノ佑
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-157603(JP,A)
【文献】特開2020-050181(JP,A)
【文献】特開2017-056910(JP,A)
【文献】特開2015-016840(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0082807(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のインストルメントパネルの上面に接地した状態で該インストルメントパネルの上方および該インストルメントパネルと助手席の乗員との間に膨張展開するエアバッグクッションと、該インストルメントパネルの内側に固定されて該エアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えた助手席用エアバッグ装置であって、
前記エアバッグクッションは、
当該エアバッグクッションの車幅方向両側の側部を形成する一対のサイドパネルと、
当該エアバッグクッションの中央に配置されて前記一対のサイドパネルの縁同士を互いにつなぐ帯状のメインパネルと、
を有し、
前記一対のサイドパネルは、
前記インストルメントパネルの上方に位置している前側領域と、
前記インストルメントパネルと前記乗員との間に位置していて前記前側領域よりも下方にまで延びている拘束領域と、
前記一対のサイドパネルの下縁のうち前記前側領域と前記拘束領域の境界に形成されていて上方に湾曲して窪んでいる凹部と、
前記前側領域に含まれていて前記インストルメントパネルの上面に沿って車両前方に鋭角状に延びている鋭角部と、
を有し、
前記メインパネルは、前記インストルメントパネルの上面に接触する箇所に形成され前記インフレータの一部が挿入された状態で該インフレータに接続される貫通孔を有し、
前記エアバッグクッションはさらに、
前記一対のサイドパネルの鋭角部を含んで形成されて前記インストルメントパネルの上面に沿って前記メインパネルの貫通孔から車両前方に楔形に突出するように膨張して当該エアバッグクッションの自立姿勢を保持する前側膨張部と、
前記
メインパネルの貫通孔よりも車両後方にて前記一対のサイドパネルの拘束領域を含んで形成されて当該エアバッグクッションの他の部位よりも上下に寸法が大きい乗員拘束部と、
を有することを特徴とする助手席用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグクッションはさらに、当該エアバッグクッションの内側における前記メインパネルの貫通孔の周囲に設けられて前記インフレータを覆ってガスを所定の方向に導くディフューザを有することを特徴とする請求項1に記載の助手席用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記一対のサイドパネルの上縁は、直線に近似する形状に延びていることを特徴とする請求項1または2に記載の助手席用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記一対のサイドパネルの上縁は、下方に湾曲して窪んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の助手席用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記エアバッグクッションはさらに、
前記メインパネルの縁と前記一対のサイドパネルの縁とが当該エアバッグクッションの内側に屈曲した状態で接合されている内側縫い代部と、
前記メインパネルの長手方向両側の端部が前記一対のサイドパネルの鋭角部からさらに車両前方に延びた状態で上下に重なって接合されている外側縫い代部と、
を有し、
前記外側縫い代部は、前記前側膨張部の前端から延びた状態になっていることを特徴とする請求項1または2に記載の助手席用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のインストルメントパネルと助手席の乗員との間に膨張展開するエアバッグクッションを備えた助手席用エアバッグ装置および助手席用エアバッグ装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両は、エアバッグ装置がほぼ標準装備されている。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、ガス圧で膨張展開するエアバッグクッションを利用して乗員を受け止めて保護する。エアバッグ装置は、設置箇所や用途に応じて様々な種類がある。例えば、運転席では、ステアリングの中央にフロントエアバッグが設けられている。また、助手席では、インストルメントパネルやその周辺部位にパッセンジャエアバッグが設けられている。
【0003】
各種エアバッグ装置のエアバッグクッションは、乗員を効率よく拘束できるよう、周囲の構造物などに応じて形状が工夫されている。例えば特許文献1に記載のエアバッグ1は、助手席用のものであって、インストルメントパネルIの上で自立ができるよう、前方膨張部11がインストルメントパネルIとウインドシールドWとに押し付けられるように接触する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
引用文献1では、前方膨張部11の底部11aの最前端部Bが円弧形状になってもよいと述べられている(段落0036参照)。しかしながら、最前端部Bの円弧形状の程度によってはエアバッグ1の自立姿勢の保持に影響が出るおそれがある。例えば、最前端部Bの円弧形状の曲率半径が大きいと、前面部11bもウインドシールドW側に大きく張り出して、前面部11bがウインドシールドWにより強く干渉してしまう。このような場合には、例えば前方膨張部11がウインドシールドWに干渉して跳ね上がった状態になり、底部11aがインストルメントパネルIから浮いてエアバッグ1がインストルメントパネルIから反力を得難くなったり、前面部11bに谷折り状のくぼみができて乗員からの荷重が吸収し難くなったりするおそれがある。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、インストルメントパネルの上で自立姿勢を保ち乗員を効率よく拘束可能な助手席用エアバッグ装置および助手席用エアバッグ装置の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる助手席用エアバッグ装置の代表的な構成は、車両のインストルメントパネルの上面に接地した状態でインストルメントパネルの上方およびインストルメントパネルと助手席の乗員との間に膨張展開するエアバッグクッションと、インストルメントパネルの内側に固定されてエアバッグクッションにガスを供給するインフレータとを備えた助手席用エアバッグ装置であって、エアバッグクッションは、当該エアバッグクッションの車幅方向両側の側部を形成する一対のサイドパネルと、一対のサイドパネルの縁同士を互いにつなぐ帯状のメインパネルと、を有し、一対のサイドパネルは、インストルメントパネルの上面に沿って車両前方に鋭角状に延びている鋭角部を有し、エアバッグクッションはさらに、メインパネルの縁と一対のサイドパネルの縁とが当該エアバッグクッションの内側に屈曲した状態で接合されている内側縫い代部と、メインパネルの長手方向両側の端部が一対のサイドパネルの鋭角部からさらに車両前方に延びた状態で上下に重なって接合されている外側縫い代部と、を有することを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、エアバッグクッションは、帯状のメインパネルによってインストルメントパネルの上面に接触する。特に、サイドパネルの鋭角部によって形成されるエアバッグクッションの前側膨張部では、メインパネルの外側縫い代部が前端からさらに前方に延びるよう形成されているため、前端が丸まり難くなっている。このようにエアバッグクッションに先細りの前側膨張部を効率よく形成することで、インストルメントパネルとウインドシールドとの間に好適に入り込んでインストルメントパネルに接地し、エアバッグクッションの自立姿勢を保持することができる。
【0009】
上記のエアバッグクッションには、一対のサイドパネルの鋭角部を含んでいてインストルメントパネルの上面に沿って車両前方に楔形に突出するように膨張する前側膨張部が形成されていて、外側縫い代部は、前側膨張部の前端から延びた状態になっていてもよい。この楔形の前側膨張部によれば、前端が外側縫い代部になっているため丸まり難く、インストルメントパネルとウインドシールドとの間に好適に入り込んで、インストルメントパネルに平坦な面をもって接触できるため、エアバッグクッションの自立姿勢を保持することができる。
【0010】
上記のメインパネルは、インストルメントパネルの上面に接触する箇所に形成されインフレータの一部が挿入された状態でインフレータに接続される貫通孔を有してもよい。インストルメントパネルの内側に固定されているインフレータにメインパネルの貫通孔を接続することで、エアバッグクッションをインストルメントパネルの上面に効率よく接地せせることが可能になる。
【0011】
上記のエアバッグクッションはさらに、当該エアバッグクッションの内側におけるメインパネルの貫通孔の周囲に設けられてインフレータを覆ってガスを所定の方向に導くディフューザを有してもよい。ディフューザを設けることで、エアバッグクッションを効率よく膨張展開させることが可能になる。
【0012】
上記の一対のサイドパネルの上縁は、直線に近似する形状に延びていてもよい。この構成によって、エアバッグクッションが膨張展開したときにウインドシールドに向かって過度に凸に膨らむことを抑え、前述したエアバッグクッションの前側膨張部を、ウインドシールドとインストルメントパネルとの間に円滑に挿入することが可能になる。
【0013】
上記の一対のサイドパネルの上縁は、下方に湾曲して窪んでいてもよい。この構成によっても、エアバッグクッションが膨張展開したときにウインドシールドに向かって過度に凸に膨らむことを抑え、前述したエアバッグクッションの前側膨張部を、ウインドシールドとインストルメントパネルとの間に円滑に挿入することが可能になる。
【0014】
上記の一対のサイドパネルはさらに、鋭角部を含んでインストルメントパネルの上方に位置している前側領域と、インストルメントパネルと乗員との間に位置していて前側領域よりも下方にまで延びている拘束領域と、当該一対のサイドパネルの下縁のうち前側領域と拘束領域の境界に形成されていて上方に湾曲して窪んでいる凹部と、を有してもよい。
【0015】
上記構成によれば、エアバッグクッションに乗員が接触したときに、エアバッグクッションはサイドパネルの凹部を起点にして乗員の進入方向に応じた角度にたわみ、乗員をより好適に拘束することができる。
【0016】
本発明にかかる助手席用エアバッグ装置の製造方法の代表的な構成は、車両のインストルメントパネルの上面に接地した状態でインストルメントパネルの上方およびインストルメントパネルと助手席の乗員との間に膨張展開するエアバッグクッションを備えた助手席用エアバッグ装置の製造方法であって、インストルメントパネルの上面に沿って車両前方に鋭角に延びている鋭角部を有する一対のサイドパネルを製造する工程と、一対のサイドパネルの縁同士を帯状のメインパネルによってつなぎ、メインパネルの長手方向両側の端部を一対のサイドパネルの鋭角部からさらに車両前方に延びて上下に重ねた状態にする工程と、メインパネルの端部同士の間の開口から当該エアバッグクッションの表裏を反転させる工程と、メインパネルの端部同士を接合する工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
前述した作用および効果を有する助手席用エアバッグ装置は、当該製造方法によって製造することが可能である。すなわち、当該製造方法によれば、自立姿勢を好適に保持して乗員を効率よく拘束することができるエアバッグクッションを備えた助手席用エアバッグ装置が製造可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、インストルメントパネルの上で自立姿勢を保ち乗員を効率よく拘束可能な助手席用エアバッグ装置および助手席用エアバッグ装置の製造方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態にかかる助手席用エアバッグ装置の概要を例示する図である。
【
図2】
図1(b)のエアバッグクッションの概略的なA-A断面図である。
【
図3】
図2のエアバッグクッションの概要を例示した図である。
【
図4】
図3(a)のエアバッグクッションの前側膨張部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
(助手席用エアバッグ装置)
図1は、本発明の実施形態にかかる助手席用エアバッグ装置100の概要を例示する図である。
図1(a)は助手席用エアバッグ装置100の作動前の車両を例示した図である。
図1(a)その他の図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0022】
本実施形態では、助手席用エアバッグ装置100を、左ハンドル車における助手席用(前列右側の座席104)のパッセンジャバッグとして実施している。以下では、前列右側の座席104を想定して説明を行うため、例えば車幅方向の車外側とは車両右側を意味し、車幅方向の車内側とは車両左側を意味する。また、上方とは座席104に正規に着座した姿勢の乗員114(
図2参照)から見て頭部の方向のことであり、下方とは当該乗員114から見て下肢部の方向のことである。
【0023】
助手席用エアバッグ装置100のエアバッグクッション108(
図1(b)参照)は、当該車両のインストルメントパネル102に設けられた収容部106に収容されている。収容部106は、座席104の車両前方に設置されていて、エアバッグクッション108の他にガス発生装置であるインフレータ110(
図2参照)も収納されている。
【0024】
図1(b)は
図1(a)の助手席用エアバッグ装置100の作動後の車両を例示した図である。エアバッグクッション108は袋状であって、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製または接着すること等によって形成されている。
【0025】
図2は、
図1(b)のエアバッグクッション108の概略的なA-A断面図である。
図2に例示するように、エアバッグクッション108は、インストルメントパネル102の上面に接地した状態で、インストルメントパネル102の上方およびインストルメントパネル102と座席104の乗員114との間に膨張展開し、乗員114を車両前方から拘束する。
【0026】
エアバッグクッション108の内部には、ガス発生装置であるインフレータ110の一部が挿入されている。インフレータ110は、インストルメントパネル102の内側にスタッドボルト(図示省略)を使用して固定されていて、所定のセンサから送られる衝撃の検知信号に起因して作動し、エアバッグクッション108にガスを供給する。エアバッグクッション108は、インフレータ110からのガスによって膨張を始め、その膨張圧でカバー107(
図1(a)参照)を開裂等して座席104に向かって膨張展開する。
【0027】
インフレータ110は、本実施例ではディスク型(円盤型)のものを採用している。現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ110としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0028】
ディフューザ116は、インフレータ110からのガスを整流する部材であり、エアバッグクッション108の内側にてインフレータ110を覆うように設けられている。ディフューザ116は、ガスを流す開口が所定の箇所に設けられている。ディフューザ116を設けることで、エアバッグクッション108を効率よく膨張展開させることが可能になる。
【0029】
図3は、
図2のエアバッグクッション108の概要を例示した図である。
図3(a)は、
図2の膨張展開時のエアバッグクッション108の斜視図である。エアバッグクッション108は、中央のメインパネル118と、左右一対のサイドパネル120によって構成されている。エアバッグクッション108の車両後側は、寸法が上下に大きい乗員拘束部122になっている。
【0030】
エアバッグクッション108の車両前側の前側膨張部124は、インストルメントパネル102(
図2参照)の上面102aに沿って、車両前方に楔形に突出するように膨張する。前側膨張部124は、インストルメントパネル102とウインドシールド112との間の空間に入り込み、インストルメントパネル102の上面102aに面接触して、当該エアバッグクッション108の自立姿勢を保持する。
【0031】
図3(b)は、
図3(a)のサイドパネル120を例示した図である。サイドパネル120は、当該エアバッグクッション108(
図3(a)参照)の車幅方向(左右)で対称な形状に一対設けられて、当該エアバッグクッション108の車幅方向両側の側部を形成する。
【0032】
サイドパネル120のうちの前側領域126は、インストルメントパネル102(
図2参照)の上方に位置する領域である。前側領域126のうちの車両前側は、上述した楔型の前側膨張部124の車幅方向の側部を形成する鋭角部128になっている。鋭角部128は、インストルメントパネル102の上面102aに沿って車両前方に鋭角状に延びている。
【0033】
サイドパネル120のうちの拘束領域130は、エアバッグクッション108(
図2参照)の乗員拘束部122を形成する部分であり、インストルメントパネル102と乗員114との間に位置し、前側領域126よりも下方にまで延びている。拘束領域130には、エアバッグクッション108の内部からガスを排出するベントホール132が設けられている。
【0034】
サイドパネル120のうち、前側領域126と拘束領域130とに連続して延びる上縁134は、直線に近似する形状に傾斜して延びている。サイドパネル120の上縁134が直線に近似した形状であることで、エアバッグクッション108(
図2参照)が膨張展開したときにウインドシールド112に向かって過度に凸に膨らむことが抑えられる。この構成によって、前側膨張部124をウインドシールド112とインストルメントパネル102との間の空間に円滑に挿入することが可能になる。
【0035】
サイドパネル120の下縁135のうち、前側領域126と拘束領域130の境界には、凹部136が形成されている。凹部136は、上方に湾曲して窪んだ形状になっている。凹部136は、エアバッグクッション108が膨張展開したときに、インストルメントパネル102(
図2参照)の上面102aと意匠面102bとの角付近に位置する部分である。凹部136を設けることで、エアバッグクッション108に乗員114が接触したときに、エアバッグクッション108の乗員拘束部122は乗員114の進入方向に応じた角度にたわんで荷重を吸収することができ、乗員114をより好適に拘束することが可能になる。
【0036】
図3(c)は、
図3(a)のメインパネル118を例示した図である。メインパネル118は、長尺な帯状になっていて、一対のサイドパネル120(
図3(b)参照)の縁同士を互いに縫製等によってつなぐ。メインパネル118の長手方向の両側の端部138a、138bは、サイドパネル120の上縁134および下縁135に沿って車両前方に次第に接近したのち、サイドパネル120の鋭角部128の先端から延びた位置で互いに縫製等によって接合され、外側縫い代部144(
図5(a)参照)を形成する。
【0037】
メインパネル118には、インフレータ110(
図2参照)に接続される貫通孔140が設けられている。貫通孔140は、メインパネル118のうちインストルメントパネル102の上面102aに接触する箇所に形成されている。貫通孔140の周囲には、インフレータ110のスタッドボルトを挿入するボルト孔142も設けられている。貫通孔140は、ボルト孔142を利用する等して、インフレータ110の一部が挿入された状態でインフレータ110に接続される。
【0038】
メインパネル118の貫通孔140をインフレータ110(
図2参照)と共にインストルメントパネル102の内側に固定することで、エアバッグクッション108をインストルメントパネル102の上面102aに効率よく接地させることが可能になる。なお、上述したディフューザ116もまた、エアバッグクッション108の内側におけるメインパネル118の貫通孔140の周囲に縫製等によって設けられる。
【0039】
図4は、
図3(a)のエアバッグクッション108の前側膨張部124の拡大図である。
図4(a)は、
図3(a)の前側膨張部124を車幅方向の左側から例示している。前側膨張部124の前端には、外側縫い代部144が形成されている。外側縫い代部144は、メインパネル118の端部138a、138b(
図5(a)参照)を上下に縫製等によって接合させた部分である。従来のエアバッグクッションでは縫い代は内側に形成されるが、当該エアバッグクッション108の前側膨張部124ではあえて外側に位置する外側縫い代部144を形成することで、前側膨張部124の前端が丸まることなくより鋭角に膨張展開できるよう工夫している。
【0040】
図4(b)は、
図3(b)のエアバッグクッション108の前側膨張部124を前方斜め上から見た斜視図である。外側縫い代部144は、メインパネル118の長手方向両側の端部138a、138bが、一対のサイドパネル120の鋭角部128からさらに車両前方に延びた状態で上下に重なって接合することで形成されている。このようにして、外側縫い代部144は、前側膨張部124の前端に車幅方向に延びるように形成される。
【0041】
図5は、
図4(b)の前側膨張部124の各断面図である。
図5(a)は、
図4(b)の前側膨張部124のB-B断面図である。外側縫い代部144を設けることで、前側膨張部124は丸まることなく楔形に膨張展開する。そのため、前側膨張部124の底面146はより平坦になっていて、インストルメントパネル102(
図2参照)の上面102aに広く面接触することが可能になる。これによって、エアバッグクッション108は、インストルメントパネル102の上で効率よく自立することが可能になる。
【0042】
図5(b)は、
図4(b)の前側膨張部124のC-C断面図である。前側膨張部124のうち、前端以外の箇所には、内側縫い代部148が形成されている。内側縫い代部148は、メインパネル118の縁とサイドパネル120の縁とがエアバッグクッション108の内側に屈曲した状態で接合されている。内側縫い代部148は、メインパネル118とサイドパネル120との接合箇所のすべてに形成されている。すなわち、エアバッグクッション108は、前側膨張部124の前端の外側縫い代部144以外では、縫い代は内側に形成されていて、縫い代が乗員114(
図2参照)や他の構造物に接触しない構成になっている。
【0043】
上述したように、サイドパネル120の鋭角部128およびメインパネル118の端部側によって形成される前側膨張部124では、メインパネル118の端部138a、138bの外側縫い代部144が前端からさらに前方に延びるよう形成されていて、前側膨張部124の前端が丸まり難くなっている。したがって、前側膨張部124は、先細りの楔形に膨張展開する。この形状の前側膨張部124であれば、インストルメントパネル102(
図2参照)とウインドシールド112との間に好適に挿入されつつ、平坦な底面146(
図5(a)参照)を形成してインストルメントパネル102に面接触でき、エアバッグクッション108の自立姿勢を保持することができる。これによって、エアバッグクッション108は、自立姿勢を保持して乗員114を効率よく拘束することが可能になる。
【0044】
(助手席用エアバッグ装置の製造方法)
以下に、上述したエアバッグクッション108を備えた助手席用エアバッグ装置100の製造方法について説明する。
【0045】
当該製造方法は、まず、一対のサイドパネル120(
図3(b)参照)を製造する工程から構成される。サイドパネル120は、インストルメントパネル102(
図2参照)の上面102aに沿って車両前方に鋭角に延びている鋭角部128を有するよう製造される。
【0046】
続く工程では、一対のサイドパネル120の縁同士を帯状のメインパネル118(
図3(c)参照)によってつなぐ処理が行われる。このとき、メインパネル118の長手方向両側の端部138a、138bは、一対のサイドパネル120の鋭角部128からさらに車両前方に延びて上下に重ねられた状態になるよう処理される。
【0047】
続いて、外側縫い代部144(
図4(b)参照)を形成する前において、メインパネル118の端部138a、138b同士の間を開口させ、この開口からエアバッグクッション108の表裏を反転させる工程が行われる。この工程によって、サイドパネル120とメインパネル118とをつないだときの縫い代は、エアバッグクッション108の内側に位置することになり、内側縫い代部148(
図5(b)参照)が形成される。
【0048】
内側縫い代部148(
図5(b)参照)を形成した後は、メインパネル118の端部138a、138b同士を上下に縫製等によって接合する工程が行われ、外側縫い代部144(
図5(a)参照)が形成される。これによって、楔形の前側膨張部124を有し、自立姿勢の保持が可能なエアバッグクッション108の製造が完了する。
【0049】
上記製造方法で製造されるエアバッグクッション108は、ディフューザ116(
図2参照)の設置にも役立つ。従来、エアバッグクッションは、各パネル部材を縫製した後、インフレータ用の貫通孔140(
図3(c)参照)を利用して表裏を反転させていた。しかし、この方法では、貫通孔140の周囲にディフューザ116を設ける場合、エアバッグクッションを反転させた後にディフューザ116をエアバッグクッションの内部に入れて縫製等の作業を行わねばならず、ディフューザ116の設置作業に手間がかかっていた。一方、当該製造方法であれば、インフレータ用の貫通孔140ではなく、前側膨張部124の前端を開口させてエアバッグクッション108を反転させるため、反転させる処理の前にディフューザ116を貫通孔140の周囲に設けることができる。すなわち、当該製造方法であれば、ディフューザ116をあらかじめメインパネル118により簡単に設置することが可能である。
【0050】
また、当該製造方法であれば、ディフューザ116は、折り畳んで仮縫製処理を施した状態にしてメインパネル118に設置することも可能である。仮縫製は、ある程度以上の力がかかったときに糸が破断やほつれ等を起こして解消される構成の縫製である。ディフューザ116を折り畳んで仮縫製を施すことで、エアバッグクッション108の収納時におけるディフューザ116の位置ずれを防ぐことができる。そして、ガスの圧力がかかったときには、仮縫製を解消させてディフューザ116を展開させ、ディフューザ116のガスの整流作用によってエアバッグクッション108を円滑に膨張展開させることができる。このような仮縫製を施したディフューザ116を設けるにあたって、上述した前側膨張部124の前端を開口させてエアバッグクッション108を反転させる処理を行う当該製造方法は、極めて有益である。
【0051】
(変形例)
以下、上述した各構成要素の変形例について説明する。
図6は、
図3(b)のサイドパネル120の変形例(サイドパネル200)である。
図6では既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0052】
サイドパネル200では、上縁202が下方に湾曲して窪んだ状態になっている。エアバッグクッション108(
図2参照)の上面は、ガスを受給したときに、その圧力によってある程度はウインドシールド112に向かって丸みを帯びた状態に凸に膨らむ。そこで、あらかじめ上縁202が湾曲して窪んだサイドパネル200であれば、エアバッグクッション108が膨張展開したときの丸みを抑え、ウインドシールド112に向かって過度に凸になることを防ぐことができる。したがって、サイドパネル200を利用することによっても、楔形の前側膨張部124を効率よく形成し、前側膨張部124をウインドシールド112とインストルメントパネル102との間の空間に円滑に挿入することが可能になる。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0054】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、車両のインストルメントパネルと助手席の乗員との間に膨張展開するエアバッグクッションを備えた助手席用エアバッグ装置および助手席用エアバッグ装置の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
100…助手席用エアバッグ装置、102…インストルメントパネル、102a…インストルメントパネルの上面、102b…インストルメントパネルの意匠面、104…座席、106…収容部、107…カバー、108…エアバッグクッション、110…インフレータ、112…ウインドシールド、114…乗員、116…ディフューザ、118…メインパネル、120…サイドパネル、122…乗員拘束部、124…前側膨張部、126…前側領域、128…鋭角部、130…拘束領域、132…ベントホール、134…サイドパネルの上縁、135…サイドパネルの下縁、136…凹部、138a、138b…メインパネルの端部、140…貫通孔、142…ボルト孔、144…外側縫い代部、146…前側膨張部の底面、148…内側縫い代部、200…変形例のサイドパネル、202…サイドパネルの上縁