(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】耐腐紙の分解制御方法
(51)【国際特許分類】
D21H 19/12 20060101AFI20231208BHJP
A01G 9/029 20180101ALI20231208BHJP
A01G 13/00 20060101ALI20231208BHJP
D21H 21/28 20060101ALI20231208BHJP
D21H 21/38 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
D21H19/12
A01G9/029 A
A01G13/00 302Z
D21H21/28
D21H21/38
(21)【出願番号】P 2022545286
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008531
(87)【国際公開番号】W WO2022044387
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2020141809
(32)【優先日】2020-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231981
【氏名又は名称】日本甜菜製糖株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593002540
【氏名又は名称】株式会社大和化成研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】太田 泰臣
(72)【発明者】
【氏名】奥濱 良明
(72)【発明者】
【氏名】中尾 誠一郎
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-342452(JP,A)
【文献】特表昭60-501317(JP,A)
【文献】特開昭49-35138(JP,A)
【文献】特表2007-527472(JP,A)
【文献】特表2016-510366(JP,A)
【文献】特開2019-15000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 19/12
A01G 9/029
A01G 13/00
D21H 21/28
D21H 21/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐腐紙の分解制御方法であって、
前記耐腐紙が、セルロース繊維を含む紙とカルボン酸架橋剤とを含む耐腐紙であって、前記セルロース繊維と前記カルボン酸架橋剤が少なくとも一部において結合していることを特徴とし、
前記耐腐紙をアルカリ処理する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記耐腐紙をpH9以上の溶液でアルカリ処理する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ処理が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム、水酸化タリウム、ジアンミン銀(I)水酸化物、テトラアンミン銅(II)水酸化物、水酸化トリメチルスルホニウム、水酸化ジフェニルヨードニウム、炭酸アンモニウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸銀(I)、炭酸鉄(II)、炭酸銅(II)、生石灰、ケイ酸石灰、苦土石灰、硫酸石灰、及び石灰窒素からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質、又はアルカリ電解水を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記カルボン酸架橋剤が、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記カルボン酸架橋剤が、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カルボン酸架橋剤が、前記セルロース繊維を含む紙に対して、乾燥質量当たり0.3~20.0質量%の割合で含有されることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記耐腐紙が次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋触媒をさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至請求項6のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記架橋触媒を、前記カルボン酸架橋剤の質量に対して、0.1~30質量%の割合で含有することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
セルロース繊維を含む紙にカルボン酸架橋剤を含む加工液を適用する工程、
該加工液が適用された紙を加熱処理する工程、及び
該加熱処理された紙をアルカリ処理する工程、を含む
耐腐紙の分解性が制御された、耐腐紙の製造方法。
【請求項10】
前記加熱処理された紙をpH9以上の溶液でアルカリ処理する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アルカリ処理が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム、水酸化タリウム、ジアンミン銀(I)水酸化物、テトラアンミン銅(II)水酸化物、水酸化トリメチルスルホニウム、水酸化ジフェニルヨードニウム、炭酸アンモニウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸銀(I)、炭酸鉄(II)、炭酸銅(II)、生石灰、ケイ酸石灰、苦土石灰、硫酸石灰、及び石灰窒素からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質、又はアルカリ電解水を用いて実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記カルボン酸架橋剤が、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、請求項9乃至請求項11のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記カルボン酸架橋剤が、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、請求項9乃至請求項12のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記加工液が、前記カルボン酸架橋剤を、1.0~20.0質量%の濃度で含有することを特徴とする、請求項9乃至請求項13のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記加熱処理の温度が、30~300℃の範囲内の雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項9乃至請求項14のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記加熱処理の温度が、150~220℃の範囲内の雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項9乃至請求項14のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記加熱処理が、加熱ロール及び/又は加熱盤との接触加熱により行われることを特徴とする、請求項9乃至請求項14のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記加工液が適用された紙と加熱ロール及び/又は加熱盤と接触する部分の温度が、150~250℃であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記加工液が適用された紙と加熱ロール及び/又は加熱盤と接触する部分の温度が、190~220℃であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記加工液が、次亜リン酸カリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋触媒をさらに含むことを特徴とする、請求項9乃至請求項19のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記加工液が、前記架橋触媒を、前記カルボン酸架橋剤の質量に対して、0.1~30質量%の範囲で含むことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記耐腐紙が、育苗鉢体用原紙である、請求項1乃至請求項8のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記耐腐紙が、育苗鉢体用原紙である、請求項9乃至請求項21のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法により製造された育苗鉢体用原紙を使用する、育苗鉢体の製造方法。
【請求項25】
前記耐腐紙が、農業用紙マルチシート用原紙である、請求項1乃至請求項8のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記耐腐紙が、農業用紙マルチシート用原紙である、請求項9乃至請求項21のうちいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用資材、水産用資材、建築用資材等に使用できる、一定期間の腐敗に耐え得る所謂耐腐紙において、耐腐性と易分解性を両立させる方法に関し、すなわち、耐腐紙の分解制御方法、並びに分解性が制御された耐腐紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、四角柱状あるいは六角柱状に加工された紙製の鉢体を用いて植物を栽培する、育苗移植栽培法が広く実用されている。この栽培法は、具体的には、紙で作られた四角柱状あるいは六角柱状の鉢体に培養土を詰め、播種し、灌水管理下にて苗を育て、育苗の完了した苗を鉢に付けたままの状態の苗、すなわち鉢苗で圃場に植え付けて栽培するものである。
上記の育苗移植栽培法で使用する鉢体に用いられる紙(育苗鉢体用原紙)に求められる主な特性として、例えば(1)鉢体の製造時の折り曲げ、引っ張り等の機械的な加工に耐える乾燥時の紙力を有すること、(2)育苗中の微生物による分解に対する耐性、すなわち耐腐性および、圃場への植付けにおける機械的、人為的な取扱いに耐える湿潤時の紙力を有すること、そして(3)圃場への植付け後には容易に分解する等の特性を挙げることができる。すなわち育苗中には分解の進行を抑制させて植付け時に十分な強度を保持する一方で、圃場に植付けた後に速やかに分解するという相反する両特性を有することが求められる。
【0003】
紙の特性を生かしつつ、上記要求特性の実現を図った育苗鉢体用原紙の加工方法として種々の提案がなされている。
例えば特許文献1及び特許文献2には、鉢体製造に耐える強度と、育苗条件に耐えかつ移植後において自然に崩壊する程度の耐腐性の付与を目指して、紙のセルロースの水酸基をジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)などの尿素N-置換誘導体であるホルムアルデヒド系薬剤を用いて、化学的に架橋封鎖する方法が開示されている。
また特許文献3及び特許文献4には、育苗期間中や育苗終了後の土壌への移植の際には育苗ポットとしての形態と強度を維持すると共に、圃場に植付け後に速やかに分解する性質の実現を目指した、紙基材上に熱可塑性生分解性樹脂層を設けた積層シートを用いて作製された育苗ポットや、該分解期間を制御するべく、該生分解性樹脂層の構成成分の検討を図った育苗ポットが提案されている。
【0004】
また、目的とする農作物等を生育する際に、雑草の防除や地温の調整(保温)効果を始め、土壌水分の保持、土壌浸食の防止、肥料の流亡防止、病害虫の発生抑制などの効果を狙い、畑の土壌面に敷くマルチシートが使用されている。マルチシートには従来、ポリエチレンフィルムや塩化ビニルフィルムなどの化学製品が使用されてきたが、これらフィルムは生分解性が殆ど無いため、農作物等の収穫後に使用済みのフィルムの回収作業並びに廃棄処理の必要がある。そのため、農業従事者の負担を減らし、環境への負荷が少ないマルチシ-トとして土中で腐敗、分解する紙製マルチシートに関する提案が為され、例えば特許文献6には、防黴剤および/または抗菌剤を有した紙マルチシートが開示されている。
上記マルチシートに用いられる紙(農業用被覆材原紙)に求められる主な特性としては、育苗鉢体用原紙と同様に、(i)マルチシート製造時の機械的な加工、並びに、土壌への展張に耐える乾燥時の紙力、(ii)土と接触する部分においての土中の微生物による分解に対する耐性、(iii)使用後における速やかな分解特性などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-100793号公報
【文献】特公平02-023640号公報
【文献】特許第4763123号公報
【文献】特開2004-121054号公報
【文献】特表2001-508139号公報
【文献】特開平9-205901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1及び特許文献2の方法では、十分な耐腐性は付与できるが、ホルムアルデヒド系薬剤であるDMDHEUには極微量のホルムアルデヒドが含まれていることもあるため、環境への影響を考慮する必要性がある。なおこれまでにセルロース質繊維のヒドロキシ基を架橋封鎖するために、ホルムアルデヒド系薬剤の代替として架橋剤としてポリカルボン酸を架橋剤として用い、しわ回復性や強度など湿潤性能を高める技術が開示されている(特許文献5)。しかし、このような技術によって農業分野で用いられる育苗鉢体用原紙において重要な要求特性である紙の耐腐性が備わるかは全く開示されておらず、仮に耐腐性が得られた場合において、圃場への植付け後の分解促進については一切議論されていない。
また特許文献3及び特許文献4に挙げるように、熱可塑性生分解性樹脂層を育苗ポットに適用することにより、圃場に植付け後に育苗ポットが分解する性質の付与を図った技術が開示されているが、育苗時と植付け後とで任意に分解を制御する技術はまだ確立されていない。
【0007】
さらに特許文献6に記載の紙マルチシートは、パルプ繊維のみからなり、生分解速度の制御には限界があった。
【0008】
本発明は、耐腐性と易分解性を両立させた耐腐紙を提供すること、すなわち、生分解の開始を制御可能とする方法を提供することを目的とする。詳細には、例えば、育苗中など所望の期間、土中の微生物による分解に対する耐性、すなわち耐腐性を有し、圃場への植付け時には十分な強度(紙力)を保持し、かつ、圃場への植付け後や、農作物収穫後において所望の分解性を付与することができる、耐腐性の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、従来のホルムアルデヒド系薬剤(DMDHEU)に替えて、遊離ホルムアルデヒド発生のないポリカルボン酸架橋剤を採用し、これをセルロース繊維のヒドロキシ基の封鎖に用いることで、環境への負荷を軽減しつつ、育苗鉢体用原紙や農業用被覆材原紙等の育苗用紙に求められる耐腐性を付与すること、さらに、アルカリ処理を施すことにより易分解性を付与することができることを見出した。
そして本発明者らは、ポリカルボン酸架橋剤による反応の条件をより詳細に検討すること、そしてアルカリ処理条件をより詳細に検討することにより、様々な条件に応じた所望の耐腐性と易分解性を紙に付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記(1)~(26)の実施態様が提供される。
(1)耐腐紙の分解制御方法であって、
前記耐腐紙が、セルロース繊維を含む紙とカルボン酸架橋剤とを含む耐腐紙であって、前記セルロース繊維と前記カルボン酸架橋剤が少なくとも一部において結合していることを特徴とし、
前記耐腐紙をアルカリ処理する工程を含む、方法。
(2)前記耐腐紙をpH9以上の溶液でアルカリ処理する工程を含む、(1)に記載の方法。
(3)前記アルカリ処理が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム、水酸化タリウム、ジアンミン銀(I)水酸化物、テトラアンミン銅(II)水酸化物、水酸化トリメチルスルホニウム、水酸化ジフェニルヨードニウム、炭酸アンモニウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸銀(I)、炭酸鉄(II)、炭酸銅(II)、生石灰、ケイ酸石灰、苦土石灰、硫酸石灰、及び石灰窒素からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質、又はアルカリ電解水を用いて実施される、(1)に記載の方法。
(4)前記カルボン酸架橋剤が、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、(1)乃至(3)のうちいずれか一項に記載の方法。
(5)前記カルボン酸架橋剤が、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、(1)乃至(4)のうちいずれか一項に記載の方法。
(6)前記カルボン酸架橋剤が、前記セルロース繊維を含む紙に対して、乾燥質量当たり0.3~20.0質量%の割合で含有されることを特徴とする、(1)乃至(5)のうちいずれか1項に記載の方法。
(7)前記耐腐紙が次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋触媒をさらに含むことを特徴とする、(1)乃至(6)のうちいずれか1項に記載の方法。
(8)前記架橋触媒を、前記カルボン酸架橋剤の質量に対して、0.1~30質量%の割合で含有することを特徴とする、(7)に記載の方法。
(9)セルロース繊維を含む紙にカルボン酸架橋剤を含む加工液を適用する工程、
該加工液が適用された紙を加熱処理する工程、及び
該加熱処理された紙をアルカリ処理する工程、を含む
耐腐紙の分解性が制御された耐腐紙の製造方法。
(10)前記加熱処理された紙をpH9以上の溶液でアルカリ処理する工程を含む、(9)に記載の方法。
(11)前記アルカリ処理が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム、水酸化タリウム、ジアンミン銀(I)水酸化物、テトラアンミン銅(II)水酸化物、水酸化トリメチルスルホニウム、水酸化ジフェニルヨードニウム、炭酸アンモニウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸銀(I)、炭酸鉄(II)、炭酸銅(II)、生石灰、ケイ酸石灰、苦土石灰、硫酸石灰、及び石灰窒素からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質、又はアルカリ電解水を用いて実施される、(9)に記載の方法。
(12)前記カルボン酸架橋剤が、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、(9)乃至(11)のうちいずれか一項に記載の方法。
(13)前記カルボン酸架橋剤が、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、及びそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、(9)乃至(12)のうちいずれか一項に記載の方法。
(14)前記加工液が、前記カルボン酸架橋剤を、1.0~20.0質量%の濃度で含有することを特徴とする、(9)乃至(13)のうちいずれか一項に記載の方法。
(15)前記加熱処理の温度が、30~300℃の範囲内の雰囲気下で行われることを特徴とする、(9)乃至(14)のうちいずれか一項に記載の方法。
(16)前記加熱処理の温度が、150~220℃の範囲内の雰囲気下で行われることを特徴とする、(9)乃至(14)のうちいずれか一項に記載の方法。
(17)前記加熱処理が、加熱ロール及び/又は加熱盤との接触加熱により行われることを特徴とする、(9)乃至(14)のうちいずれか一項に記載の方法。
(18)前記加工液が適用された紙と加熱ロール及び/又は加熱盤と接触する部分の温度が、150~250℃であることを特徴とする、(17)に記載の方法。
(19)前記加工液が適用された紙と加熱ロール及び/又は加熱盤と接触する部分の温度が、190~220℃であることを特徴とする、(17)に記載の方法。
(20)前記加工液が、次亜リン酸カリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋触媒をさらに含むことを特徴とする、(9)乃至(19)のうちいずれか1項に記載の方法。
(21)前記加工液が、前記架橋触媒を、前記カルボン酸架橋剤の質量に対して、0.1~30質量%の範囲で含むことを特徴とする、(20)に記載の方法。
(22)前記耐腐紙が、育苗鉢体用原紙である、(1)乃至(8)のうちいずれか1項に記載の方法。
(23)前記耐腐紙が、育苗鉢体用原紙である、(9)乃至(21)のうちいずれか1項に記載の方法。
(24)(23)に記載の方法により製造された育苗鉢体用原紙を使用する、育苗鉢体の製造方法。
(25)前記耐腐紙が、農業用紙マルチシート用原紙である、(1)乃至(8)のうちいずれか1項に記載の方法。
(26)前記耐腐紙が、農業用紙マルチシート用原紙である、(9)乃至(21)のうちいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セルロースの架橋剤としてホルムアルデヒド系薬剤(DMDHEU)の代替としてカルボン酸架橋剤を用い、そして架橋処理後にアルカリ処理を施すことにより、環境への負荷が軽減される耐腐紙を提供できるとともに、育苗中および圃場への植付け時、あるいは、農作物生育の際には十分な強度を保持し、且つ、圃場への植付け後、そして農作物収穫後の分解を早め、所望の分解性を耐腐紙に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1-1】
図1-1は、原紙2により作成したDMDHEU架橋原紙が接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて2週間埋没した後に展開された写真である。
【
図1-2】
図1-2は、原紙2により作成した5%クエン酸架橋原紙が接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて2週間埋没した後に展開された写真である。
【
図1-3】
図1-3は、原紙2により作成した10%クエン酸架橋原紙が接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて2週間埋没した後に展開された写真である。
【
図1-4】
図1-4は、原紙2により作成した15%クエン酸架橋原紙が接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて2週間埋没した後に展開された写真である。
【
図2-1】
図2-1は、原紙2により作成したDMDHEU架橋原紙が接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて4週間埋没した後に展開された写真である。
【
図2-2】
図2-2は、原紙2により作成した5%クエン酸架橋原紙が接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて4週間埋没した後に展開された写真である。
【
図2-3】
図2-3は、原紙2により作成した10%クエン酸架橋原紙が接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて4週間埋没した後に展開された写真である。
【
図2-4】
図2-4は、原紙2により作成した15%クエン酸架橋原紙が接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて4週間埋没した後に展開された写真である。
【
図3-1】
図3-1は、原紙2により作成したDMDHEU架橋原紙が非接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて2週間埋没した後に展開された写真である。
【
図3-2】
図3-2は、原紙2により作成した5%クエン酸架橋原紙が非接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて2週間埋没した後に展開された写真である。
【
図3-3】
図3-3は、原紙2により作成した10%クエン酸架橋原紙が非接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて2週間埋没した後に展開された写真である。
【
図3-4】
図3-4は、原紙2により作成した15%クエン酸架橋原紙が非接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて2週間埋没した後に展開された写真である。
【
図4-1】
図4-1は、原紙2により作成したDMDHEU架橋原紙が非接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて4週間埋没した後に展開された写真である。
【
図4-2】
図4-2は、原紙2により作成した5%クエン酸架橋原紙が非接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて4週間埋没した後に展開された写真である。
【
図4-3】
図4-3は、原紙2により作成した10%クエン酸架橋原紙が非接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて4週間埋没した後に展開された写真である。
【
図4-4】
図4-4は、原紙2により作成した15%クエン酸架橋原紙が非接触加熱で処理した後に、[A]未処理、[B]アルカリ処理(h)、又は[C]アルカリ処理(j)を経て、続けて4週間埋没した後に展開された写真である。
【
図5】
図5は、原紙1及び原紙2から作製した育苗鉢体の写真である。
【
図6】
図6は、DMDHEU架橋原紙(原紙1)により作製した育苗鉢体にコマツナを播種し3週間育苗し、その後アルカリ未処理(a)のまま、又はアルカリ処理(b)してから、プランターへ移植しさらに3週間栽培した後の苗の成長状況及び鉢体の分解状況を撮影した写真である。
【
図7】
図7は、5%クエン酸架橋原紙(原紙1)により作製した育苗鉢体にコマツナを播種し3週間育苗し、その後アルカリ未処理(a)のまま、又はアルカリ処理(b)してから、プランターへ移植しさらに3週間栽培した後の苗の成長状況及び鉢体の分解状況を撮影した写真である。
【
図8】
図8は、10%クエン酸架橋原紙(原紙1)により作製した育苗鉢体にコマツナを播種し3週間育苗し、その後アルカリ未処理(a)のまま、又はアルカリ処理(b)してから、プランターへ移植しさらに3週間栽培した後の苗の成長状況及び鉢体の分解状況を撮影した写真である。
【
図9】
図9は、15%クエン酸架橋原紙(原紙1)により作製した育苗鉢体にコマツナを播種し3週間育苗し、その後アルカリ未処理(a)のまま、又はアルカリ(b)処理してから、プランターへ移植しさらに3週間栽培した後の苗の成長状況及び鉢体の分解状況を撮影した写真である。
【
図10】
図10は、DMDHEU架橋原紙(原紙2)により作製した育苗鉢体にコマツナを播種し3週間育苗し、その後アルカリ未処理(a)のまま、又はアルカリ処理(b)してから、プランターへ移植しさらに3週間栽培した後の苗の成長状況及び鉢体の分解状況を撮影した写真である。
【
図11】
図11は、10%クエン酸架橋原紙(原紙2)により作製した育苗鉢体にコマツナを播種し3週間育苗し、その後アルカリ未処理(a)のまま、又はアルカリ処理(b)してから、プランターへ移植しさらに3週間栽培した後の苗の成長状況及び鉢体の分解状況を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
育苗鉢体は一般に木質繊維を含有する紙で製造されるため、湿潤時において紙力が低下し、さらに育苗時には鉢体に培養土が充填されるため培養土中の微生物により分解される。また紙マルチシート(農業用被覆材)も、土壌との接触面において土中の微生物により分解される。この分解作用は、一般的には土壌微生物の生産するセルラーゼ(セルロース分解酵素)によって、紙の木質繊維を構成するセルロースが加水分解されることにより進行する。
本発明者らは、このセルラーゼによるセルロースの分解反応をセルロースのヒドロキシ基を遊離ホルムアルデヒドの発生のない架橋剤によって封鎖することにより抑制する、すなわち、紙のセルロースとカルボン酸架橋剤とを反応させる処理をなすことで、紙に耐腐性を付与することを図った。
さらにカルボン酸架橋剤を作用させることにより紙に耐腐性を付与した後、該紙に対してアルカリ処理を施すことにより、一旦付与した耐腐性を消失させ、セルラーゼによる分解促進が可能となること、このとき、該アルカリ処理条件を変更することにより分解性を制御し、分解に至るまでの期間が調整可能となることを見出し、本発明に至ったものである。
以下、本発明について詳述する。
【0014】
〔耐腐紙の分解制御方法〕
[耐腐紙]
本発明の耐腐紙の分解制御方法において、対象となる耐腐紙は、セルロース繊維を含む紙と、カルボン酸架橋剤とを含む耐腐紙であり、前記セルロース繊維と前記カルボン酸架橋剤が少なくとも一部において結合していることを特徴とする。すなわち本発明が対象とする耐腐紙において、前記セルロース繊維と架橋していないカルボン酸架橋剤が含まれていてもよい。
【0015】
<紙>
本発明で用いられる紙、すなわち耐腐紙の原料となる紙(原紙ともいう)は、セルロース繊維を主成分として含有するものであれば、その原料パルプの種類やセルロース繊維の含有量は特に限定されない。例えば、通常の製紙材料として使用するパルプを含有する紙が挙げられる。より具体的には、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ;楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材繊維パルプ;古紙を原料とする脱墨パルプなどを挙げることができ、これらを単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。特に、漂白していない未晒のパルプからなるものを好適に用いることができる。パルプ繊維の原料となる木材は、針葉樹材でも広葉樹材でもよく、また混合して使用してもよい。これらの他に、ポリエチレン、ポリエステル、ビニロン、レーヨン、合成パルプ、ポリ乳酸などの化学繊維を含有させてもよい。
本発明で使用する紙には、必要に応じて、バインダー、填料、紙力増強剤、サイズ剤、歩留まり向上剤、防腐剤等の通常抄紙に用いられる各種助剤を含有することができる。また、後述するカルボン酸架橋剤との反応が妨げられない範囲で、澱粉、ポリビニルアルコール等によりサイズ処理されていてもよく、無機顔料を主成分とするコート層やレジンコート層を有していてもよい。
【0016】
本発明で用いられる紙の坪量は、特に限定されないが、例えば20~200g/m2とすることができ、また例えば30~100g/m2とすることができ、40~60g/m2とすることができる。
【0017】
<カルボン酸架橋剤>
本発明で使用するカルボン酸架橋剤として、ジカルボン酸、ポリカルボン酸などのカルボン酸架橋剤を用いることができる。前記カルボン酸架橋剤としては、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、タートレートモノコハク酸、イミノジコハク酸、ブタンテトラカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメチルビニルエーテル-コ-マレエートコポリマー、ポリメチルビニルエーテル-コ-イタコネートコポリマー、アクリル酸系ポリマー、及びマレイン酸系ポリマー、並びにそれらの塩を挙げることができる。
中でも好適なカルボン酸架橋剤として、クエン酸、ブタンテトラカルボン酸、イミノジコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、及びそれらの塩を挙げることができる。
【0018】
上記カルボン酸架橋剤の含有量、すなわち処理対象となる紙への使用量(適用量)は、該紙の種類(パルプ種、セルロース含有量、坪量等)などにもよるが、例えば本発明の耐腐紙を育苗鉢体に加工後、該鉢体を用いた育苗中および植付け時において十分な強度を維持することができるように、また本発明の耐腐紙を紙マルチシートに加工後、該紙マルチシートを土壌上に展張する際、そして紙マルチシートを敷設した土壌における農作物等の育成時において十分な強度を有するように、適宜調整することができる。たとえば、処理対象となる紙の乾燥質量100質量%に対し、0.3~25.0質量%となる割合で使用(適用)することができる。好ましい態様において0.3~20.0質量%の割合にて、例えば2.4~20.0質量%の割合にて、2.4~17.0質量%の割合にて、7.5~20.0質量%の割合にて、7.5~17.0質量%の割合にて、10.0~17.0質量%の割合にて、またより好ましい態様では13.0~17.0質量%の割合でカルボン酸架橋剤を使用(適用)することができる。カルボン酸架橋剤の使用量(適用量)を0.3質量%以上の割合とすることで、育苗時や移植時、展張時や農作物等育成時に破れが発生し難い耐腐性を付与することができる。
【0019】
<架橋触媒>
上記耐腐紙には、カルボン酸架橋剤に加えて、反応を促進し短時間で行う目的で、架橋触媒を併用することができる。
架橋触媒としては、次亜リン酸ナトリウムや次亜リン酸カリウムなどのアルカリ金属次亜リン酸塩、リン酸塩、アルカリ金属亜リン酸塩、アルカリ金属ポリリン酸塩、リン酸水素二ナトリウムなどのアルカリ金属二水素リン酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属水素リン酸塩、ポリリン酸、次亜リン酸、リン酸、アリルホスフィン酸などのリン酸塩、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム、硝酸マグネシウム、硝酸亜鉛、ホウ弗化マグネシウム、ホウ弗化亜鉛などの金属塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムのようなアンモニウム塩、モノエタノールアミン塩酸塩のような有機アミン塩などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記架橋触媒の使用量は、使用するカルボン酸架橋剤の種類、並びに該カルボン酸架橋剤に対する触媒の反応性など、触媒の種類により作用が異なるため一概に限定できないが、通常、カルボン酸架橋剤の質量(100質量%)に対し、0.1~40質量%の割合で使用することができる。好ましい態様において、0.1~30質量%の割合にて、例えば10~30質量%の割合にて、また15~25質量%の割合とすることができる。
【0021】
<アルカリ処理する工程>
本発明の耐腐紙の分解制御方法は、上記耐腐紙をアルカリ処理する工程を含むことを特徴とする。
アルカリ処理は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、テトラアルキルアンモニウムの水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、及び炭酸水素塩の水溶液、並びに水酸化物、及び酸化物をアンモニア水に溶解して得られるアンミン錯体の水酸化物、その他に、アルキルスルホニウム、及びアルキルヨードニウムの水酸化物等の塩基性物質を含有する水溶液にての処理が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム、水酸化タリウム、ジアンミン銀(I)水酸化物、テトラアンミン銅(II)水酸化物、水酸化トリメチルスルホニウム、水酸化ジフェニルヨードニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸銀(I)、炭酸鉄(II)、及び炭酸銅(II)等の塩基性物質を含有するアルカリ水溶液、又はアルカリ電解水に上記耐腐紙を浸漬する、また該アルカリ水溶液又はアルカリ電解水を上記耐腐紙に塗布又は噴霧することにより実施可能である。また上記塩基性物質を粉体又は粒状の形態にて、例えば生石灰、ケイ酸石灰、苦土石灰、硫酸石灰、石灰窒素を散布する方法も可能である。耐腐紙全体に対して均一なアルカリ処理を実施できる観点からは、アルカリ水溶液又はアルカリ電解水への浸漬によってアルカリ処理を行うことが好ましい。
アルカリ水溶液又はアルカリ電解水への浸漬または塗布する方法としては、ロールコータ、バーコータ、ドクターコータ、ブレードコータ、カーテンコータ等の公知の塗工または含浸装置を用いることができる。
上記アルカリ処理に用いる水溶液又はアルカリ電解水のpHは8以上、好ましくは9以上とすることができる。該水溶液のpHは、例えばpH9~pH13、またpH10~pH12、あるいはpH11~pH13とすることができる。
上記アルカリ処理の際の温度・時間は、選択する塩基の種類やアルカリ水溶液のpH、濃度、アルカリ電解水のpH等によって種々変更されるが、一般に常温(20±5℃)、3時間~24時間程度の範囲から種々選択できる。
【0022】
〔分解性が制御された耐腐紙の製造方法〕
本発明はまた、分解性が制御された耐腐紙の製造方法も対象とする。
本発明が対象とする耐腐紙において、前記カルボン酸架橋剤と、前記紙に含まれるセルロース繊維との結合を形成するための処理は、該カルボン酸架橋剤を紙に塗布するなどして適用し、その後、該紙を加熱して該カルボン酸架橋剤の反応を進行させればよい。
すなわち本発明に係る、分解性が制御された耐腐紙の製造方法は、前記カルボン酸架橋剤と、所望により前記架橋触媒とを含む加工液を調製し、該加工液を対象の紙(セルロース繊維を含む紙)の少なくとも一部に適用する工程と、該加工液が適用された紙を加熱処理する工程と、加熱処理された紙をアルカリ処理する工程を含むことを特徴とする。
【0023】
<原紙を抄紙する工程>
本実施形態において、原紙は、抄紙法で製造されていることが好ましい。抄紙法を用いることによって、複数の種類の繊維の混抄を容易に行うことができる。
抄紙法は、一般に、原料となる短繊維を混合した後にシート化する方法である。抄紙法には、大きく分けて乾式法と湿式法がある。乾式法は、具体的には、短繊維を乾式ブレンドした後に、気流を利用してネット上に集積して、シートを形成する方法である。シート形成に際して水流等を利用することもできる。一方、湿式法は、短繊維を液体媒体中で分散混合させた後に、ネット上に集積して、シートを形成する方法である。これらの中では、水を媒体として使用する湿式抄紙法が好ましく選択される。
【0024】
湿式抄紙法では、短繊維を含有する水性スラリーを、抄紙機に送液し、短繊維を分散させた後、脱水、搾水および乾燥して、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機およびこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用される。
【0025】
抄紙法で原紙を製造する際には、パルプ繊維が水分を含んでいるため、乾燥させる工程が必要となる。乾燥工程における乾燥は、通常、好ましくは100℃以上、より好ましくは120~140℃程度の温度で行われる。乾燥工程では、多筒式ドライヤー、ヤンキードライヤー、アフタードライヤー、バンドドライヤー、赤外線ドライヤー等の乾燥機が使用される。
【0026】
<加工液を適用する工程>
本工程において、前述のカルボン酸架橋剤と、所望により前記架橋触媒とを水で適正濃度に希釈・配合した加工液を用いることができる。該加工液は、本発明の効果を損なわない範囲において、紙の加工に通常使用され得るその他添加剤を含んでいてもよい。
【0027】
上記加工液において、前述のカルボン酸架橋剤の配合量は、紙への適用量などを考慮し適宜設定され得、例えば、0.3~25.0質量%の濃度の範囲とすることができる。好ましい態様において、該加工液中の該カルボン酸架橋剤の配合量を、1.0~20.0質量%の範囲、5.0~20.0質量%の範囲、7.5~15.0質量%の範囲、10.0~15.0質量%の範囲、あるいは、12.5~15.0質量%の範囲とすることができる。
また、架橋触媒を使用する場合には、その使用量は、カルボン酸架橋剤の質量(100質量%)に対し、0.1~40質量%の割合で使用することができる。好ましい態様において、0.1~30質量%の割合にて、例えば10~30質量%の割合にて、また15~25質量%の割合とすることができる。
なお上記加工液の溶媒は、カルボン酸架橋剤や架橋触媒を溶解することができ、紙への適用性や各工程における操作性を考慮し適宜選択され得、例えば水などを用いることができる。
また上記加工液は、そのpH値がより酸性側(pH7未満)にて適用に付すことが好適である。例えばpH値が6以下、あるいはpH値が5以下、若しくは4以下の加工液を用いることができ、またpH4未満の加工液を用いることができる。
【0028】
上記加工液の紙への適用方法は、所定量のカルボン酸架橋剤を紙に付着させ得る方法であれば特に限定されない。好ましくは、所定量のカルボン酸架橋剤を紙全体に均一に付着させ得る方法を採用し得、例えば、該加工液の蒸気に紙を晒す方法、該加工液に紙を浸漬する方法、該加工液を紙に塗布又は噴霧する方法等が挙げられる。浸漬または塗布する方法としては、ロールコータ、バーコータ、ドクターコータ、ブレードコータ、カーテンコータ等の公知の塗工または含浸装置を用いることができる。また、抄紙工程において工業的な処理をする場合、該加工液をサイズプレス工程やゲートロール工程において紙に塗布することもできる。抄紙工程で塗布を行う場合、乾燥工程を通じて加工液を乾燥させることができる。
【0029】
<加熱処理する工程>
加工液の紙への適用後、該紙の加熱処理を行う。ここでの熱処理は、先に適用したカルボン酸架橋剤の反応を進行させ、また反応を完結させるためのものである。
加熱処理方法としては、紙に対して通常行われる加熱方法であれば特に制限なく用いることができ、接触加熱法、非接触加熱法のいずれであってもよい。例えば、前記紙の片面を、所定温度に加熱されたシリンダー乾燥機のシリンダー面(加熱ロール、加熱盤)等に接触加熱する方法や、熱風循環式乾燥機中などの高温雰囲気下に所定の時間曝すことより処理する非接触加熱による方法、遠赤外線乾燥機による処理方法等が挙げられる。
加熱処理の温度は、加熱処理方法にもよるが、例えば30~300℃とすることができ、100~250℃が好ましく、150~220℃がより好ましく、また190~220℃とすることもできる。加熱処理の時間は加熱処理方法によって異なり、熱風循環式乾燥機などによる非接触加熱の場合は、例えば30秒~60分、より好ましくは1~15分であり、またシリンダー乾燥機などによる加熱ロール及び/又は加熱盤などによる接触加熱の場合は、例えば0.5秒~30分、より好ましくは1秒~3分である。この場合、加工液が適用された紙と加熱ロール及び/又は加熱盤などと接触する部分の温度は、例えば150~250℃とすることができ、190~220℃が好ましい。
【0030】
また、加工液の紙への適用後、熱処理を行う前に、必要に応じて予備乾燥させて紙の水分率を調整してもよい。ここでの水分調整(予備乾燥)は、カルボン酸架橋剤の反応が事実上進行しないように管理された条件が望まれる。例えば、ショートループドライヤー、連続タンブラルドライヤー、テンター型ドライヤー、ドラムドライヤーなど公知の乾燥手段を用いて行うことができる。なおこの段階での紙の水分率の調整は必須ではなく、原紙の製造段階(抄紙工程)において実施してもよい。
【0031】
前述したとおり、本発明に係る耐腐紙は、セルロース繊維とカルボン酸架橋剤が少なくとも一部において結合を形成してなるものである。
この結合は、セルロース繊維のヒドロキシ基とカルボン酸架橋剤のエステル結合の形成によるものであり、エステル結合の特性吸収が強く現れる赤外線吸収スペクトルの測定により、該結合の形成を確認できる。
具体的には、赤外線吸収スペクトルにおいて、1730cm-1付近にエステルのC=O伸縮振動由来のピークが観測された場合、この結合構造が導入されたことが確認される。
また、核磁気共鳴(NMR)スペクトルによって、すなわちエステルに隣接した水素のシグナルが、未処理(未架橋)のものと比較して低磁場移動することを確認することによっても、前記結合の形成を確認できる。
【0032】
<アルカリ処理する工程>
前記紙の加熱処理を行った後、アルカリ処理を行う。本工程は、カルボン酸架橋剤の適用とその後の加熱処理により形成された、セルロース繊維のヒドロキシ基とカルボン酸架橋剤のエステル結合を分解させるためのものである。
アルカリ処理は、前述したように、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム、水酸化タリウム、ジアンミン銀(I)水酸化物、テトラアンミン銅(II)水酸化物、水酸化トリメチルスルホニウム、水酸化ジフェニルヨードニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸銀(I)、炭酸鉄(II)、及び炭酸銅(II)等の塩基性物質を含有するアルカリ水溶液、又はアルカリ電解水に上記加熱処理後の紙を浸漬すればよく、また該水溶液又は電解水を上記加熱処理後の紙に塗布や噴霧してもよい。上記塩基を粉体又は粒状の形態にて、例えば生石灰、ケイ酸石灰、苦土石灰、硫酸石灰、石灰窒素を散布する方法も可能である。紙全体に対して均一なアルカリ処理を実施できる観点からは、アルカリ水溶液又はアルカリ電解水への浸漬が好ましい。
アルカリ水溶液又はアルカリ電解水への浸漬または塗布する方法としては、ロールコータ、バーコータ、ドクターコータ、ブレードコータ、カーテンコータ等の公知の塗工または含浸装置を用いることができる。
上記アルカリ処理に用いる水溶液又はアルカリ電解水のpHは8以上、好ましくは9以上とすることができる。該水溶液のpHは、例えばpH9~pH13、またpH10~pH12、あるいはpH11~pH13とすることができる。
上記アルカリ処理の際の温度・時間は、選択する塩基の種類やアルカリ水溶液のpH、濃度、又はアルカリ電解水のpH等によって種々変更されるが、一般に常温(20±5℃)、3時間~24時間程度の範囲から種々選択できる。
【0033】
[育苗鉢体用原紙及び育苗鉢体]
本発明が対象とする耐腐紙は、育苗鉢体用原紙として好適に用いることができる。すなわち、前記耐腐紙からなる、育苗鉢体用原紙の分解制御方法、分解性が制御された育苗鉢体用原紙の製造方法、並びに、該育苗鉢体用原紙からなる育苗鉢体の製造方法も本発明の対象である。
【0034】
また本発明が対象とする耐腐紙は、農業用紙マルチシート用原紙(被覆材原紙)として好適に用いることができる。すなわち、前記耐腐紙からなる、農業用紙マルチシート用原紙の分解制御方法、並びに、分解性が制御された農業用紙マルチシートの製造方法も本発明の対象である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、実施例における試験サンプルの性能の測定、評価は、次の方法で行なった。
なお下記評価において、引張強度の数値が高いほど、サンプル中のセルロースの分解が抑制されていることを示すものである。
(1)引張強度(水処理後 及び 酵素処理後)
JIS P8113:1998「紙および及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法」に準じた方法により、定速伸張形引張試験機((株)島津製作所製、オートグラフ引張試験機)を使用して、引張強度の測定を実施した。
測定用のサンプルの大きさを60mm×100mmとし、水処理後又は酵素処理後のサンプルを、チャックスパン50mm、引張速度10mm/minで伸長し、破断時の強度を測定した。同測定は8回繰り返し、平均値(及び標準偏差)を算出した。
<水処理>
上記大きさに切断した測定用サンプルを、水(室温:20℃±5℃)に24時間浸した後、上記手順にて引張強度を測定した。
<酵素処理>
上記大きさに切断した測定用サンプル(後述するアルカリ処理を行った場合には、アルカリ処理後のサンプル)を、セルラーゼ(オノズカS/ヤクルト薬品工業(株)製)濃度1%・pH5.0に調整した酵素液の入った恒温器(45℃)にて72時間連続処理した。
(2)埋没処理後 引張強度
原紙サンプルを30mm×70mmで切り出し、切り出したサンプル(後述するアルカリ処理を行った場合には、アルカリ処理後のサンプル)を、水分率を50%に調整したネギ用培土(ニッテン葱培土(北海道)/日本甜菜製糖(株)製、pH 6.4、EC 1.29dS/m)に埋没させ、温度30℃、湿度90%の人工気象器((株)日本医化器械製作所製)内に静置した。静置後2週間後又は4週間後にサンプルを取り出し、埋没処理サンプル(2週間)、埋没処理サンプル(4週間)とした。
埋没処理後のサンプルについて、JIS P8113:1998「紙および及び板紙-引張特性の試験方法-第2部:定速伸張法」に準じた方法により、定速伸張形引張試験機((株)島津製作所製、オートグラフ引張試験機)を使用して、引張強度測定を実施した。埋没処理後のサンプルをチャックスパン30mm、引張速度100mm/minで伸長し、破断時の強度を測定した。同測定は4回繰り返し、平均値(及び標準偏差)を算出した。
(3)耐腐指数
酵素耐腐指数=[引張強度(酵素処理)/引張強度(水処理)]×100
埋没処理 耐腐指数=[引張強度(埋没処理)/引張強度(水処理)]×100
酵素耐腐指数は酵素処理による耐腐性を示す指標であり、本発明に係る効果を考慮した場合、求められる指標値(要求強度)は概ね75以上である。
埋没処理 耐腐指数は埋没処理による耐腐性を示す指標であり、本発明に係る効果を考慮した場合、求められる指標値(要求強度)は概ね75以上である。
【0036】
<実施例1>クエン酸処理及びアルカリ処理後の引張強度測定(1)(酵素処理)
〈クエン酸処理〉
原料となる紙(未晒クラフト紙(薬剤未処理):坪量53g/m2の未漂白のクラフトパルプ紙、以下「原紙1」と称する)を、クエン酸(カルボン酸架橋剤)と次亜リン酸ナトリウム(架橋触媒)を下記表1に示す濃度となるように調整した加工液に、3分間浸漬した(温度:常温(20℃~30℃))。浸漬後、しぼりローラーに通して薬剤をしぼった。なお、加工液浸漬前後の原紙1の質量を測定し、加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(クエン酸量)を算出した(表1参照)。
その後、乾燥ローラーで浸漬した原紙1を乾燥させた後に、220℃に調整した加熱ロ
ーラーにて4.5秒間の接触加熱処理を行い、クエン酸加工紙を得た。
〈DMDHEU処理〉
ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)系薬剤(有効成分:DMDHEU、濃度3.6質量%)を用いて、上記クエン酸処理と同様の処理を行い、DMDHEU架橋原紙を得た。加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(DMDHEU量)を表1に示す。
【0037】
【0038】
〈アルカリ処理〉
上記手順にて得られたクエン酸加工紙(10%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙を、下記条件にてアルカリ処理し、処理後に水でリンスした。
(a)炭酸カルシウム4質量%水溶液に、常温(20℃±5℃)下で24時間浸漬した。
(b)炭酸カリウム4質量%水溶液に、常温(20℃±5℃)下で24時間浸漬した。
【0039】
〈引張強度の測定〉
アルカリ処理前のクエン酸加工紙(10%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙について、前述の手順にて水処理後の引張強度を測定した。
またアルカリ処理前のクエン酸加工紙(10%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙、並びに、アルカリ処理(a)又は(b)後のクエン酸加工紙(10%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙について、前述の手順にて酵素処理を行い、酵素処理後の引張強度を測定し、酵素耐腐指数を算出した。
得られた結果を表2に示す。
【0040】
【0041】
表2に示すように、クエン酸加工紙(10%)は、水処理のみのサンプルと比べて、酵素処理を行ったサンプル、アルカリ処理(a)と酵素処理を行ったサンプルの順に引張強度が低下していたものの、80前後の酵素耐腐指数を有し、十分な耐腐性を有していた。一方、アルカリ処理(b)と酵素処理を行ったサンプルにあっては引張強度が測定できないほどに分解が進行した。
この結果は、アルカリ処理(b):炭酸カリウム4質量%水溶液によるアルカリ処理を施すことで、クエン酸架橋における脱エステル化が進行し、一度耐腐性を施した原紙に再度分解性を付与できる、すなわち、クエン酸加工紙は、炭酸カリウム液で分解をコントロールできることを示唆するものであった。
一方、DMDHEU架橋原紙は、水処理のみのサンプルと比べ、酵素処理を行ったサンプル、並びにアルカリ処理と酵素処理(a)又は(b)を行ったサンプルのいずれにおいても引張強度が多少低下していたものの、酵素耐腐指数はおよそ80を超え、十分な耐腐性を有していた。従って、DMDHEU架橋原紙においては、アルカリ処理による分解促進効果は確認されなかった。
【0042】
<実施例2>クエン酸処理及びアルカリ処理後の引張強度測定(2)(酵素処理)
〈クエン酸処理〉
原料となる紙(未晒クラフト紙(薬剤未処理):坪量53g/m2の化学繊維を混抄した未漂白のクラフトパルプ紙、以下「原紙2」と称する)を、クエン酸(カルボン酸架橋剤)と次亜リン酸ナトリウム(架橋触媒)を下記表3に示す濃度となるように調整した加工液に、3分間浸漬した(温度:常温(20℃~30℃))。浸漬後、しぼりローラーに通して薬剤をしぼった。なお、加工液浸漬前後の原紙2の質量を測定し、加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(クエン酸量)を算出した(表3参照)。
その後、乾燥ローラーで浸漬した原紙2を乾燥させた後に、220℃に調整した加熱ローラーにて4.5秒間の接触加熱処理を行い、クエン酸加工紙を得た。
〈DMDHEU処理〉
ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)系薬剤(有効成分:DMDHEU、濃度7.2質量%を用いて、上記クエン酸処理と同様の処理を行い、DMDHEU架橋原紙を得た。加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(DMDHEU量)を表3に示す。
【0043】
【0044】
〈アルカリ処理〉
上記手順にて得られたクエン酸加工紙(10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙を、下記条件にてアルカリ処理し、処理後に水でリンスした。
(c)炭酸カリウム2質量%水溶液に、常温(20℃±5℃)下で24時間浸漬した。
(d)炭酸カリウム1質量%水溶液に、常温(20℃±5℃)下で12時間浸漬した。
(e)炭酸カリウム1質量%水溶液に、常温(20℃±5℃)下で3時間浸漬した。
【0045】
〈引張強度の測定〉
アルカリ処理前のクエン酸加工紙(10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙について、前述の手順にて水処理後の引張強度を測定した。
またアルカリ処理前のクエン酸加工紙(10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙、並びに、アルカリ処理(c)~(e)後のクエン酸加工紙(10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙について、前述の手順にて酵素処理を行い、酵素処理後の引張強度を測定し、酵素耐腐指数を算出した。
得られた結果を表4に示す。
【0046】
【0047】
表4に示すように、クエン酸加工紙(10%)及びクエン酸加工紙(15%)はいずれも、水処理のみのサンプルと比べて、酵素処理を行ったサンプルは90を超える酵素耐腐指数を有し、十分な耐腐性を有していた。
一方、アルカリ処理(c)と酵素処理を行ったサンプルにあっては、何れのクエン酸加工紙も引張強度が測定できないほどに分解が進行した。この結果は、アルカリ処理(c):炭酸カリウム2質量%水溶液の24時間浸漬によるアルカリ処理を施すことで、クエン酸架橋における脱エステル化が進行し、一度耐腐性を施した原紙に再度分解性を付与できる、すなわち、クエン酸加工紙は、炭酸カリウム液で分解をコントロールできることを示唆するものであった。
また、アルカリ処理(d)と酵素処理を行ったサンプル、及びアルカリ処理(e)と酵素処理を行ったサンプルは、何れのクエン酸加工紙においても、水処理のみのサンプルと比べて引張強度が低下していたが、いずれも紙の形状を保っていた。なお、何れのクエン酸加工紙においても、アルカリ処理時間が長いほど(アルカリ処理(d))引張強度が低下していた。またクエン酸加工紙(10%)に比べ、クエン酸加工紙(15%)の方が引張強度・酵素耐腐指数ともにやや高い結果となった。
これらの結果は、アルカリ処理で使用する炭酸カリウム水溶液の濃度及び浸漬時間によってクエン酸加工紙の分解レベルを制御できること、また、クエン酸架橋の強さと脱エステル化のしやすさに相関があることを示唆するものであった。
一方、DMDHEU架橋原紙は、水処理のみのサンプルと比べ、酵素処理を行ったサンプル、並びにアルカリ処理と酵素処理(c)~(e)を行ったサンプルのいずれにおいても引張強度が多少低下していたものの、酵素耐腐指数はおよそ80を超え、十分な耐腐性を有していた。従って、DMDHEU架橋原紙においては、濃度や浸漬時間といった処理条件を変更しても、アルカリ処理による分解促進効果は確認されなかった。
【0048】
<実施例3>クエン酸処理及びアルカリ処理後の引張強度測定(3)(酵素処理)
〈クエン酸処理〉
前記原紙2を、クエン酸(カルボン酸架橋剤)と次亜リン酸ナトリウム(架橋触媒)を下記表5に示す濃度となるように調整した加工液に、3分間浸漬した(温度:常温(20℃~30℃))。浸漬後、しぼりローラーに通して薬剤をしぼった。なお、加工液浸漬前後の原紙2の質量を測定し、加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(クエン酸量)を算出した(表5参照)。
その後、乾燥ローラーで浸漬した原紙2を乾燥させた後に、(i)220℃に調整した加熱ローラーにて4.5秒間の接触加熱処理、又は(ii)190℃に調整した乾燥器(オーブン)にて3分間の熱源に非接触の加熱処理を行い、クエン酸加工紙を得た。
〈DMDHEU処理〉
ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)系薬剤(有効成分:DMDHEU、濃度3.6質量%)を用いて、上記クエン酸処理と同様の処理を行い、DMDHEU架橋原紙を得た。加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(DMDHEU量)を表5に示す。
【0049】
【0050】
〈アルカリ処理〉
上記手順にて得られた(i)接触加熱処理又は(ii)非接触加熱処理のクエン酸加工紙(5%、10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙を、下記条件にてアルカリ処理し、処理後に水でリンスした。
(f)炭酸カリウム2質量%水溶液に、常温(20℃±5℃)下で24時間浸漬した。
(g)水酸化カルシウム飽和水溶液(水1Lに対して水酸化カルシウム2gを添加して得たもの、以下同じ)に、常温(20℃±5℃)下で24時間浸漬した。
【0051】
〈引張強度の測定〉
アルカリ処理前のクエン酸加工紙(5%、10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙について、前述の手順にて水処理後の引張強度を測定した。
またアルカリ処理前のクエン酸加工紙(5%、10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙、並びに、アルカリ処理(f)又は(g)後のクエン酸加工紙(5%、10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙について、前述の手順にて酵素処理を行い、酵素処理後の引張強度を測定し、酵素耐腐指数を算出した。
得られた結果を表6(接触加熱処理)及び表7(非接触加熱処理)に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
表6に示す接触加熱処理の場合、クエン酸加工紙(10%)及びクエン酸加工紙(15%)はいずれも、酵素処理を行ったサンプルは90前後の酵素耐腐指数を有し、十分な耐腐性を有していた。一方、クエン酸加工紙(5%)にあっては、酵素処理後において一定の引張強度を有していたものの、酵素耐腐指数は40となり、クエン酸架橋の度合いが弱いことが示唆される結果となった。
また、アルカリ処理(f)又は(g)と酵素処理を行ったサンプルにおいては、全てのクエン酸加工紙において引張強度が著しく低下し、ほとんどのサンプルにおいて引張強度が測定できないほどに分解が進行した。
【0055】
また表7に示す非接触加熱処理の場合、クエン酸加工紙(5%)、クエン酸加工紙(10%)及びクエン酸加工紙(15%)の全てにおいて、酵素処理を行ったサンプルは90超の酵素耐腐指数を有し、十分な耐腐性を有していた。
またアルカリ処理(f)と酵素処理を行ったサンプルにおいては、クエン酸処理濃度が低くなるにつれて引張強度・酵素耐腐指数が著しく減少したが、クエン酸加工紙(5%)においてもなんとか紙の形状を保っていた
一方、アルカリ処理(g)と酵素処理を行ったサンプルにおいては、全てのクエン酸加工紙において引張強度が測定できないほどに分解が進行した。
【0056】
以上の結果より、接触加熱処理では、10%以上のクエン酸濃度にて処理したクエン酸加工紙において一定の耐腐性を付与できること、一方でアルカリ処理(g):水酸化カルシウム飽和水溶液の24時間浸漬によりクエン酸架橋における脱エステル化が進行し、一度耐腐性を施した原紙に再度分解性を付与できることを示唆する結果となった。
また非接触加熱処理では5%以上のクエン酸濃度にて処理したクエン酸加工紙において一定の耐腐性を付与できること、一方でアルカリ処理(g):水酸化カルシウム飽和水溶液の24時間浸漬によりクエン酸架橋における脱エステル化が進行し、一度耐腐性を施した原紙に再度分解性を付与できることを示唆する結果となった。
これらの結果は、アルカリ処理で使用する液の種類によってクエン酸加工紙の分解レベルを制御できること、また、クエン酸架橋の強さと脱エステル化のしやすさに相関があることを示唆するものであった。
なお、非接触加熱処理によるサンプルは、接触加熱処理によるサンプルに比べ酵素処理後の引張強度・酵素耐腐指数ともに高く、またアルカリ処理(f):炭酸カリウム2質量%水溶液の24時間浸漬を経た後においても耐腐性を有しており、加熱処理方法によってもクエン酸加工紙の分解をコントロールできることを示唆する結果を得られた。
【0057】
なお表6及び表7に示すように、DMDHEU架橋原紙は、水処理のみのサンプルと比べ、酵素処理を行ったサンプル、並びにアルカリ処理(f)~(g)と酵素処理を行ったサンプルのいずれにおいても引張強度が多少低下していたものの、酵素耐腐指数はおよそ80を超え、十分な耐腐性を有していた。従って、DMDHEU架橋原紙においては、アルカリ種類の条件を変更しても、アルカリ処理による分解促進効果は確認されなかった。また、加熱処理方法の違いによる効果の差は確認されなかった。
【0058】
<実施例4>クエン酸処理及びアルカリ処理後の引張強度測定(4)(埋没処理)
前述の<実施例3>の〈クエン酸処理〉及び〈DMDHEU処理〉で作成した、(i)220℃に調整した加熱ローラーにて4.5秒間の接触加熱処理、又は(ii)190℃に調整した乾燥器(オーブン)にて3分間の熱源に非接触の加熱処理の、クエン酸加工紙(5%、10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙を用いて、埋没処理後の引張強度測定を実施した。なお、加工液の塗布量(浸漬塗布量)並びに有効成分量(クエン酸量、DMDHEU量)は表5の通りである。
【0059】
〈アルカリ処理〉
上記手順にて得られた(i)接触加熱処理又は(ii)非接触加熱処理のクエン酸加工紙(5%、10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙を、下記条件にてアルカリ処理した。
(h)炭酸カリウム2質量%水溶液に、常温(20℃±5℃)下で24時間浸漬した。
(j)水酸化カルシウム飽和水溶液に、常温(20℃±5℃)下で24時間浸漬し、処理後に水でリンスした。
【0060】
〈引張強度の測定〉
アルカリ処理前のクエン酸加工紙(5%、10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙について、前述の手順にて水処理後の引張強度を測定した。
またアルカリ処理前のクエン酸加工紙(5%、10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙、並びに、アルカリ処理(h)又は(j)後のクエン酸加工紙(5%、10%又は15%クエン酸処理)及びDMDHEU架橋原紙について、前述の手順にて埋没処理(2週間、4週間)を行い、埋没処理後の引張強度を測定し、埋没処理 耐腐指数を算出した。
得られた結果を表8(接触加熱処理)、表9(非接触加熱処理)にそれぞれ示す。また、表8で表される接触加熱処理したDMDHEU架橋原紙及びそれぞれのクエン酸架橋原紙が、アルカリ処理(h)/(j)さらに埋没処理(2週間、4週間)後に原紙展開した様子を、
図1-1乃至
図2-4の写真で確認でき、表9で表される非接触加熱処理したDMDHEU架橋原紙及びそれぞれのクエン酸架橋原紙が、アルカリ処理(h)/(j)さらに埋没処理(2週間、4週間)後に原紙展開した様子を、
図3-1乃至
図4-4の写真で確認できる。
【0061】
【0062】
【0063】
表8に示す接触加熱処理の場合、クエン酸加工紙(10%)及びクエン酸加工紙(15%)はいずれも、土壌埋没後2週間及び4週間後において、およそ8割以上の耐腐指数を有しており、十分な耐腐性を有していた。一方、クエン酸加工紙(5%)にあっては、土壌埋没後2週間及び4週間後において一定の強度は有しているものの、2週間後の耐腐指数は52、4週間後には25に低下し、クエン酸架橋の度合いが弱いことが示唆される結果となった。
また、アルカリ処理(h)後に埋没処理を行ったサンプルにおいて、クエン酸加工紙(15%)においては4週間の埋没処理後においても紙の形状を保っていたが、2週間経過後には耐腐指数が15、4週間後には9に低下した。
さらにアルカリ処理(j)と埋没処理を行ったサンプルでは全てのクエン酸濃度において2週間後には引張強度が測定できないほどに分解が進行した。
図1-1乃至
図2-4の各原紙の展開写真からも表8の引張強度に相当する原紙状態が目視で確認できた。
【0064】
表9に示す非接触加熱処理の場合、土壌埋没後2週間後においてはクエン酸加工紙(5%)、クエン酸加工紙(10%)及びクエン酸加工紙(15%)の全てにおいて、土壌埋没後4週間後においてはクエン酸加工紙(10%)及びクエン酸加工紙(15%)において、およそ9割以上の耐腐指数を有しており、十分な耐腐性を有していた。一方、クエン酸加工紙(5%)にあっては、土壌埋没後4週間後において一定の強度は有しているものの、4週間後の耐腐指数は57に低下し、クエン酸架橋の度合いが弱いことが示唆される結果となった。
また、アルカリ処理(h)後に埋没処理を行ったサンプルにおいて、クエン酸加工紙(5%)、クエン酸加工紙(10%)及びクエン酸加工紙(15%)の全てにおいて、土壌埋没後2週間後及び4週間後においても紙の形状を保っていたが、クエン酸加工紙(5%)及びクエン酸加工紙(10%)においては土壌埋没2週間後にて既に耐腐指数が50を下回り、クエン酸架橋の度合いが弱いことが示唆される結果となった。
さらにアルカリ処理(j)と埋没処理を行ったサンプルでは全てのクエン酸濃度において2週間後には引張強度が測定できないほどに分解が進行した。
図3-1乃至
図4-4の各原紙の展開写真からも表9の引張強度に相当する原紙状態が目視で確認できた。
【0065】
以上の結果より、接触加熱処理では、10%以上のクエン酸濃度にて処理したクエン酸加工紙において一定の耐腐性を付与でき、特にアルカリ処理(j):水酸化カルシウム飽和水溶液の24時間浸漬によりクエン酸架橋における脱エステル化が進行し、一度耐腐性を施した原紙に再度分解性を付与できることを示唆する結果となった。
また非接触加熱処理では5%以上のクエン酸濃度にて処理したクエン酸加工紙において一定の耐腐性を付与でき、特にアルカリ処理(j):水酸化カルシウム飽和水溶液の24時間浸漬によりクエン酸架橋における脱エステル化が進行し、一度耐腐性を施した原紙に再度分解性を付与できることを示唆する結果となった。
これらの結果は、土壌埋没試験においても、アルカリ処理で使用する液の種類によってクエン酸加工紙の分解レベルを制御できること、また、クエン酸架橋の強さと脱エステル化のしやすさに相関があることを示唆するものであった。
なお、非接触加熱処理によるサンプルは、接触加熱処理によるサンプルに比べ埋没処理後の引張強度・耐腐指数ともに高く、またアルカリ処理(h):炭酸カリウム2質量%水溶液の24時間浸漬を経た後においても耐腐性を有しており、加熱処理方法によってもクエン酸加工紙の分解をコントロールできることを示唆する結果を得られた。
【0066】
また表8及び表9に示すように、DMDHEU架橋原紙を用いたサンプルは、水処理のみのサンプルと比べ、2週間の埋没処理を行ったサンプル、並びにアルカリ処理(h)~(j)と2週間の埋没処理を行ったサンプルのいずれにおいても、引張強度が多少低下していたものの、耐腐指数はおよそ8割以上を達成し、十分な耐腐性を有していた。従って
2週間の埋没試験では、DMDHEU架橋原紙においては、アルカリ種類や加熱処理方法の違いによる分解促進効果の差はほとんど確認されなかった。
また4週間の埋没処理を行った場合、水処理のみのサンプルと比べ、引張強度が多少低下していたものの、9割程度の耐腐指数を有し、十分な耐腐性を有していた。一方で、埋没前にアルカリ処理(h)又は(j)を行ったサンプルは、埋没後を2週間後と比べ、4週間経過後に引張強度及び耐腐指数が低下しており、DMDHEU架橋原紙においてもアルカリ処理によって若干の分解促進効果を確認できた。
【0067】
<実施例5>育苗鉢体の栽培試験
[原紙・鉢体の制作]
前述の<実施例1>のように、原紙1からDMDHEU処理したDMDHEU架橋原紙(濃度3.6質量%、接触加熱)及びクエン酸処理した10%クエン酸架橋原紙(クエン酸濃度10.0質量%・次亜リン酸Na濃度2.0質量%、接触加熱)を作成した。さらに、同様に、5%クエン酸架橋原紙(クエン酸濃度5.0質量%・次亜リン酸Na濃度1.0質量%、接触加熱)及び15%クエン酸架橋原紙(クエン酸濃度15.0質量%・次亜リン酸Na濃度3.0質量%、接触加熱)も作成した。
また前述の<実施例3>のように、原紙2からDMDHEU処理したDMDHEU架橋原紙(濃度3.6質量%、接触加熱)及びクエン酸処理した10%クエン酸架橋原紙(クエン酸濃度10.0質量%・次亜リン酸Na濃度2.0質量%、接触加熱)を作成した。
上記のように作成した6種類原紙をそれぞれ、DMDHEU架橋原紙(原紙1)、5%クエン酸架橋原紙(原紙1)、10%クエン酸架橋原紙(原紙1)、15%クエン酸架橋原紙(原紙1)、DMDHEU架橋原紙(原紙2)、10%クエン酸架橋原紙(原紙2)とも称する。
上記6種類原紙から、
図5のような育苗鉢体を作成した。該育苗鉢体は、底がなく、根の下方向への伸長の自由度が高い筒形状になっている。
【0068】
[栽培試験]
上記6種類原紙により作成した育苗鉢体にスーパー培土(日本甜菜製糖製)を充填しコマツナを播種し3週間育苗した。その後、火山灰土壌と道内葱培土(日本甜菜製糖製)を2:1で混合したものを入れたプランターに移植し3週間(22日間)栽培した。プランターへの移植前に水酸化カルシウム飽和水溶液に、16時間浸すもの(以下、アルカリ処理)及びアルカリ未処理のものを設け、3週間(22日間)栽培後、植物生育への影響を観察にて評価した。そして育苗鉢体を回収し、鉢体分解程度を評価した。
図6~
図11はそれぞれ上記6種類原紙により作成した育苗鉢体で育苗したコマツナの生長状況及びそれぞれ鉢体の分解状況の写真である。
【0069】
図6及び
図10から、アルカリ処理及び未処理の鉢体両者ともに鉢体の形は維持され、破れも観察されず、外観上の相違は認められなかった。
図7、
図8、
図9、
図11から、アルカリ処理した育苗鉢体は、ほぼ分解された。未処理の育苗鉢体は、鉢体の形は維持され、破れも観察されなかった。そして、
図6~
図11から、アルカリ処理による植物生育への影響は確認されなかった。