(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】抗体または抗原結合フラグメントの結晶化
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20231208BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20231208BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231208BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20231208BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20231208BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20231208BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
C07K16/46
C07K19/00
C07K1/14
C12N15/13
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2022548676
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(86)【国際出願番号】 US2021017212
(87)【国際公開番号】W WO2021163031
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-09-26
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】アットウェル,シェイン クルメン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,リッキー ロン
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-532376(JP,A)
【文献】特表2016-512026(JP,A)
【文献】特表2018-526975(JP,A)
【文献】特表2019-506146(JP,A)
【文献】特表2019-503172(JP,A)
【文献】国際公開第2019/152642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質であって、前記バリアントCκ
は、ヒトCκ(ヒトカッパ軽鎖定常ドメイン)
において199位~203位
のアミノ酸
がQGTTS
であり、ヒトCκの198位および204位におけるアミノ酸が、前記バリアントCκにおいて欠失している(すべての位置はKabat番号付けに従って番号付けされている)、抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質。
【請求項2】
前記バリアントCκが、配列番号3
のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質。
【請求項3】
前記バリアントCκ
が、ヒトCκ
において126位(Kabat番号付けに従う)
のアミノ酸がアラニン
である、請求項1に記載の抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質。
【請求項4】
前記バリアントCκが、配列番号4
のアミノ酸配列を含む、請求項3に記載の抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質。
【請求項5】
前記バリアントCκ
が、ヒトCκ
において214位(Kabat番号付けに従う)
のアミノ酸がプロリン
である、請求項1または3に記載の抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質。
【請求項6】
前記バリアントCκが、配列番号5または6
のアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質。
【請求項7】
前記抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質が、ヒト軽鎖可変ドメイン(VL)およびヒト重鎖可変ドメイン(VH)をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質。
【請求項8】
前記抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質が、ヒトIgG CH1ドメインをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質。
【請求項9】
前記ヒトIgG CH1ドメインが、ヒトIgG1またはIgG4 CH1ドメインである、請求項8に記載の抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質。
【請求項10】
前記抗原結合フラグメントが、ヒトFabまたはFab’である、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗原結合フラグメント。
【請求項11】
ヒトCκを含む抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質の結晶構造を生成するための方法であって、
バリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質を生成することであって、前記バリアントCκ
は、ヒトCκ
において199位~203位
のアミノ酸
がQGTTS
であり、ヒトCκの198位および204位におけるアミノ酸が、前記バリアントCκにおいて欠失していることと(すべての位置はKabat番号付けに従って番号付けされている)、
前記バリアントCκを含む前記抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質を結晶化することとを含む、方法。
【請求項12】
抗原と、前記抗原に結合する抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質との複合体の結晶構造を生成するための方法であって、前記抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質が、ヒトCκを含み、前記方法が、
バリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質を生成することであって、前記バリアントCκ
は、ヒトCκ
において199位~203位
のアミノ酸
がQGTTS
であり、ヒトCκの198位および204位におけるアミノ酸が、前記バリアントCκにおいて欠失していることと(すべての位置はKabat番号付けに従って番号付けされている)、
前記抗原と、前記バリアントCκを含む前記抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質とを共結晶化することとを含む、方法。
【請求項13】
前記バリアントCκが、配列番号3
のアミノ酸配列を含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記バリアントCκが、ヒトCκ
において126位(Kabat番号付けに従う)
のアミノ酸がアラニン
である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
前記バリアントCκが、配列番号4
のアミノ酸配列を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記バリアントCκが、ヒトCκ
において214位(Kabat番号付けに従う)
のアミノ酸がプロリン
である、請求項11~12または14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記バリアントCκが、配列番号5または6
のアミノ酸配列を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体、抗原結合フラグメント、または融合タンパク質が、ヒトVLおよびヒトVHをさらに含む、請求項11~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質が、ヒトIgG CH1ドメインをさらに含む、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ヒトIgG CH1ドメインが、ヒトIgG1またはIgG4 CH1ドメインである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記抗原結合フラグメントが、ヒトFabまたはFab’である、請求項11~20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モノクローナル抗体(mAb)もしくは抗原結合フラグメント、例えば、FabもしくはFab’、または融合タンパク質、およびFab/Fab’/mAb:抗原複合体の結晶化を改善するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体治療薬は、最も重要な薬物クラスの1つである。2019年の終わりまでに、免疫疾患、感染疾患、心血管疾患、がんおよびその他を治療する90個のモノクローナル抗体薬物が、米国および欧州において承認されており、2018年において1150億ドルの売り上げを計上している(Kaplon,et al.,Mabs,2020.12(1):1703531、Lu,et al.J Biomed Sci.2020;27:1)。かつては、げっ歯類抗体がヒトでの使用のために開発されたが、これに長期間のヒト化抗体が続き、これは過去20年間にわたってファージおよび酵母ディスプレイのような(Parmley and Smith,Gene,1988.73(2):305-18、Boder and Wittrup,Nat.Biotechnol.,1997.15(6):553-7)またはヒト生殖系列レパートリーを有するげっ歯類の免疫化による(Lonberg,Handb.Exp.Pharmacol.,2008.(181):69-97)完全にヒトの発見プラットフォームにシフトした。これらのプラットフォームにおいて、操作は、ヒト化のためには必要でないが、他の問題(親和性、交差反応性、翻訳後修飾、疎水性、静電気、粘度、および免疫原性)に対処するために使用され続けている。さらに、特に、抗体薬物コンジュゲートおよび二重特異性抗体のように新たな抗体由来フォーマットが開発されていることから、抗体の特徴付けはより複雑になり続けている(Carter and Lazar,Nat.Rev.Drug Disc.,2018.17(3)197-223)。
【0003】
抗体構造のモデリングは、特に、疎水性、安定性、電荷/双極子モーメントおよび脱アミド化傾向などの特性について、潜在的な治療薬の挙動を予測することの不可欠な部分になっている(Xu Y,et al.,Mabs,2019.11(2)239-264)。このモデリングは、典型的には、公開されている結晶構造に基づく。CDR構造、特に重鎖CDR3をモデリングすることの困難性に起因して、高度に類似した(または同一の)Fab結晶構造の結晶構造に対するモデリングは、抗体特性の予測の正確さを改善するはずである。利用可能な場合、高解像度のFab構造は、計算のための最良の基礎を提供する。
【0004】
Fab:抗原複合体の構造は、さらに大きな価値を有する。それは、上記のためのFabの結晶構造を供給し得、エピトープ:パラトープ情報も供給し得る。Fab:抗原複合体構造を取得することは、抗原およびFabの相対的な3次元位置を、個々の原子の精度まで直接的に決定するための唯一の方法である。エピトープを、推測するのでなく、見ることができる。アミノ酸側鎖を調べ、親和性および交差反応性におけるその役割に関する仮説を形成し、計算を行って、親和性(向上または低下)および交差反応性を予測および操作し得る。加えて、Fab:抗原複合体の構造は、他の変異を考慮するときに参照され得、異なるアッセイフォーマットの妥当性を決定することにおける必須のクロスチェックとなり得る。
【0005】
しかしながら、結晶構造決定は、困難で費用がかかる(Slabinski,et al.,Protein Sci,2007.16(11):2472-82)。最も困難なステップは、精製タンパク質からの十分に秩序化された結晶の生成である傾向がある。タンパク質の結晶化可能性を妨げ得る、純度、安定性、無秩序(ドメイン、ループまたは末端間)、表面電荷および疎水性などの、多くの要因が存在する(McPherson,Crystallization of biological macromolecules,1999.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY)。十分に回折する結晶を取得するには、数日もしくは数年かかり得るか、または著しい努力の後に単に放棄される場合がある。
【0006】
Fabの結晶化および構造決定は、多くの他のタンパク質クラス、特に、膜タンパク質と比較して容易であるが、広範なスクリーニングおよび結晶化方法の最適化は依然として必要である。他のタンパク質のように、いくつかのFabは、著しい結晶最適化を必要とし、全く手に負えないFabの例が存在する。Fab:抗原複合体は、しばしば抗原単独よりも結晶化することが容易であるが(それゆえの、Fabの「結晶化シャペロン」としての使用)(Griffin,et al.,Clin.Exp.Immunol.,2011.165(3):285-91)、依然として困難であり得、大規模なスクリーニングおよび最適化を必要とし得る。結晶化および構造精密化において必要とされる数日から数か月にわたる個々の注意のために、これらの2つのステップは、配列から最終構造までのプロセスにおいて最も高価である。困難なケースは、総平均に対して特にそして否定的に強い影響がある。Fab結晶化に必要とされる努力が、おそらく、なぜそのように少ない構造が操作または計算のために使用されているのかを説明している。
【0007】
EdmundsonおよびBorrebaeckは、ヒトFabの軽鎖定常ドメイン(CL)と重鎖第1定常ドメイン(CH1)との間の結晶充填相互作用およびβシート形成を調べ、ベータシートを形成する傾向を有する3つの交互残基である「充填トライアド(packing triad)」の重要性を観察した。(Edmundson and Borrebaeck,Immunotechnology,1998.3(4):309-17)。
【0008】
κ鎖のヒトCLドメインを含むFab、例えば、ヒトFabおよび/またはヒトFab:抗原複合体の結晶化を改善するための必要性が存在する。
【発明の概要】
【0009】
詳細な説明
ヒト抗体軽鎖カッパ定常ドメイン(Cκ)を含むヒト抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質、およびFab/Fab’/mAb:抗原複合体の結晶化を著しく改善する方法および組成物が本明細書で提供される。本明細書に記載の方法および組成物は、ヒトCκを含む、大部分のヒトFab、いくつかのヒトmAb、およびヒトFabまたはmAbを含む融合タンパク質に普遍的に適用され得、それらの結晶化を著しく改善し得る(それらをより迅速に、より高い解像度に、より低い濃度で、および/または不均一な混合物から結晶化する可能性を高くすることを含む)。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】ウサギFab結晶構造における例示的なGストランドベータシート充填を示す。
図1Aは、4ZTO.pdbにおけるHC:HCおよびLC:LCベータ充填を示す。重鎖を黒色および淡灰色で示す。軽鎖を濃灰色および白色で示す。
【
図1B】
図1Bは、4JO1.pdbにおけるHC:LCベータ充填を示す。
【
図2A】ヒトCκ FGループのウサギ様LC:LC充填との不適合性を示す。
図2Aは、4NZU.pdbからのヒトFab(濃灰色)の、4ZTOからのウサギFab結晶充填(中灰色および淡灰色)に対する構造アラインメントを示す。これは、ウサギCκ FGループ(中灰色)が、より長く、バルジしているヒトCκ FGループとは異なり、よりコンパクトであり、ベータシート充填とより適合性であることを示す。
【
図2B】
図2Bは、ヒト、マウスおよびウサギのCκドメインおよびCλドメインのFGループの配列アラインメントを示す。ウサギFGループは2残基短く、これはCλドメインからのFGループに似ている。
【
図2C】
図2Cは、第2の干渉の潜在的部位がヒトK126側鎖であることを示す。
【
図3A】Cκ構築物における結晶充填を示す。
図3Aは、デュピルマブ親Fabにおける結晶充填を示す。Gストランドベータ充填は存在しない。
【
図3B】
図3Bは、結晶カッパ(crystal kappa)バージョンにおける結晶充填の1つの平面を示す。各カッパ定常(淡灰色)は、近くのCH1ドメイン(黒色)とベータシートを形成する。
【
図3C】
図3Cは、CκドメインのGストランド(白色)とCH1ドメインのGストランド(濃灰色)との間に形成されたベータシートを示す。シートは、Cκ T205からS211およびCH1 N216からR222に伸長し(残基を結晶構造において順次番号付けする)、これは擬似対称であり、Cκ V208(205位、Kabat番号付け番号付けに従う)とCH1 V219(Kabat番号付け)との間に中心を置く。
【
図4A】結晶カッパ設計の結晶構造を示す。
図4Aは、ヒトIL4R細胞外ドメインと複合体形成したデュピルマブFabの結晶カッパバージョン(上部右)の結晶構造を示す。
【
図4B】
図4Bは、セクキヌマブFabと複合体形成したヒトIL17二量体の結晶カッパバージョン(上部中央)の結晶構造を示す。
【
図5A】カラム画分結晶化を示す。サイズ排除クロマトグラフィーからのカラム画分を、4つの条件での蒸気拡散結晶化実験において直接使用する。
図5Aは、クロマトグラムを示す。
【
図5B】
図5Bは、9日目のすべての結晶化ドロップの画像を示す。
【
図5C】
図5Cは、各条件に割り当てられたスコアを示し、ここで、結晶性のもののすべては90以上でスコア化されている。
【
図6A】結晶カッパ設計を使用する完全長mAbの結晶化および構造決定を示す。
図6Aは、完全長mAbの結晶を示す画像である。
【
図6B】
図6Bは、得られた構造のリボンダイアグラムであり、抗体重鎖を黒色で(棒で示すFcグリコシル化を含む)、抗体軽鎖を淡灰色で示す。
【
図7A】結晶カッパ設計を使用するペプチド-Fab複合体の結晶化を示す。
図7Aは、4時間後の、タウペプチドに融合したL14H18の結晶カッパ軽鎖の結晶を示す画像である。
【
図7B】
図7Bは、Fab軽鎖(灰色)のN末端への大部分が秩序化されたGly-Serリンカーを用いて、L14H18 Fabに結合したタウペプチド(白色)の得られた2.3Åの構造のリボンダイアグラムである。Fab重鎖を黒色で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一態様では、バリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質であって、バリアントCκは、ヒトCκの199位~203位(位置はKabat番号付けに従って番号付けされている、配列番号1の92位~96位に対応する)におけるアミノ酸QGTTSを含み、ヒトCκの198位および204位(位置はKabat番号付けに従って番号付けされている、配列番号1の91位および97位に対応する)におけるアミノ酸は、バリアントCκにおいて欠失している、抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、ヒトCκの126位(Kabat番号付けに従う、配列番号1の19位に対応する)におけるアラニンをさらに含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、ヒトCκの214位(Kabat番号付けに従う、配列番号1の107位に対応する)におけるプロリンをさらに含む。
【0012】
別段の指定がない限り、本明細書に記載の抗体または抗原結合フラグメントにおけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat番号付けシステムに従う(Kabat et al,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th edition,Bethesda,MD:U.S.Dept.of Health and Human Services,Public Health Service,National Institutes of Health,1991)。
【0013】
いくつかの実施形態では、配列番号3を含むバリアントCκドメインを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、配列番号4を含むバリアントCκドメインを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、配列番号5を含むバリアントCκドメインを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、配列番号6を含むバリアントCκドメインを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質が本明細書で提供される。
【0014】
いくつかの実施形態では、抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質は、ヒト軽鎖可変ドメイン(VL)およびヒト重鎖可変ドメイン(VH)をさらに含む。いくつかの実施形態では、抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質は、ヒトIgG CH1ドメイン、例えば、ヒトIgG1またはIgG4 CH1ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態では、抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質は、ヒトIgGヒンジ領域(例えば、ヒトIgG1またはIgG4ヒンジ領域)の一部をさらに含む。
【0015】
別の態様では、バリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質のライブラリーであって、バリアントCκは、ヒトCκの199位~203位におけるアミノ酸QGTTSを含み、ヒトCκの198位および204位におけるアミノ酸は、バリアントCκにおいて欠失している(すべての位置はKabat番号付けに従って番号付けされている)、ライブラリーが本明細書で提供される。
【0016】
別の態様では、本明細書に記載のバリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質の結晶構造を生成するための方法が本明細書で提供される。そのような方法は、バリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質を結晶化することであって、バリアントCκは、ヒトCκの199位~203位におけるアミノ酸QGTTSを含み、ヒトCκの198位および204位におけるアミノ酸は、バリアントCκにおいて欠失している(すべての位置はKabat番号付けに従って番号付けされている)、結晶化することを含み得る。いくつかの実施形態では、方法は、本明細書に記載のバリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質のライブラリーを構築することをさらに含む。例えば、バリアントCκは、ヒトCκの199位~203位におけるアミノ酸QGTTSを含み得、ヒトCκの198位および204位におけるアミノ酸は、バリアントCκにおいて欠失している(すべての位置はKabat番号付けに従って番号付けされている)。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号3を含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号4を含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号5を含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号6を含む。
【0017】
ヒトCκドメインを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質の結晶構造を生成するための方法もまた本明細書で提供される。そのような方法は、バリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質を生成することであって、バリアントCκは、ヒトCκの199位~203位におけるアミノ酸QGTTSを含み、ヒトCκの198位および204位におけるアミノ酸は、バリアントCκにおいて欠失している(すべての位置はKabat番号付けに従って番号付けされている)、生成することと、バリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質を結晶化することと、を含み得る。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、ヒトCκの126位(Kabat番号付けに従う)におけるアラニンをさらに含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、ヒトCκの214位(Kabat番号付けに従う)におけるプロリンをさらに含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号3を含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号4を含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号5を含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号6を含む。
【0018】
別の態様では、抗原と、抗原に結合する抗体、抗原結合フラグメントまたは融合タンパク質(例えば、ヒトFabもしくはFab’)との複合体の結晶構造を生成するための方法であって、抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質は、ヒトCκを含み、方法は、バリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質を生成することであって、バリアントCκは、ヒトCκの199位~203位におけるアミノ酸QGTTSを含み、ヒトCκの198位および204位におけるアミノ酸は、バリアントCκにおいて欠失している(すべての位置はKabat番号付けに従って番号付けされている)、生成することと、抗原と、バリアントCκを含む抗体、抗原結合フラグメント(例えば、ヒトFabもしくはFab’)または融合タンパク質とを共結晶化することと、を含む方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、ヒトCκの126位(Kabat番号付けに従う)におけるアラニンをさらに含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、ヒトCκの214位(Kabat番号付けに従う)におけるプロリンをさらに含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号3を含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号4を含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号5を含む。いくつかの実施形態では、バリアントCκは、配列番号6を含む。
【0019】
本明細書で使用される場合、本開示の文脈で(特に特許請求の範囲の文脈で)使用される「a」、「an」、「the」という用語および同様の用語は、本明細書において別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方をカバーすると解釈されるべきである。
【0020】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、抗原に結合する免疫グロブリン分子を指す。抗体の実施形態には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体が含まれる。抗体は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA)および任意のサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のものであり得る。
【0021】
例示的な抗体は、4つのポリペプチド鎖:鎖間ジスルフィド結合を介して架橋されている2つの重鎖(HC)および2つの軽鎖(LC)から構成される免疫グロブリンG(IgG)型抗体である。4つのポリペプチド鎖の各々のアミノ末端部分は、抗原認識に主に関与する約100~125個以上のアミノ酸の可変領域を含む。4つのポリペプチド鎖の各々のカルボキシ末端部分は、エフェクター機能に主に関与する定常領域を含有する。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域から構成される。IgGアイソタイプは、さらにサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)に分割され得る。
【0022】
VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存されている領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、超可変領域にさらに細分され得る。CDRはタンパク質の表面上に露出しており、抗原結合特異性のための抗体の重要な領域である。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRから構成されており、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置される。本明細書では、重鎖の3つのCDRを「HCDR1、HCDR2、およびHCDR3」と称し、軽鎖の3つのCDRを「LCDR1、LCDR2、およびLCDR3」と称する。CDRは、抗原との特異的相互作用を形成する残基の大部分を含有する。アミノ酸残基のCDRへの割り当ては、Kabat(Kabat et al.,“Sequences of Proteins of Immunological Interest”,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))、Chothia(Chothia et al.,“Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins”,Journal of Molecular Biology,196,901-917(1987)、Al-Lazikani et al.,“Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins”,Journal of Molecular Biology,273,927-948(1997))、North(North et al.,“A New Clustering of Antibody CDR Loop Conformations”,Journal of Molecular Biology,406,228-256(2011))、またはIMGT(www.imgt.orgで利用可能な国際的なImMunoGeneTicsデータベース;Lefranc et al.,Nucleic Acids Res.1999;27:209-212を参照のこと)に記載されているものを含む、周知のスキームに従って行われ得る。
【0023】
「抗原結合フラグメント」という用語は、抗原のエピトープと特異的に相互作用する能力を保持する抗体の部分を指す。抗原結合フラグメントの例としては、FabまたはFab’が挙げられるが、これらに限定されない。「Fab」フラグメントは、重鎖可変領域(VH)および重鎖第1定常ドメイン(CH1)を伴う、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)を含む抗体軽鎖全体からなる。各Fabフラグメントは、抗原結合に関して一価である。すなわち、それは、単一の抗原結合部位を有する。Fab’フラグメントは、抗体ヒンジ領域からの1つ以上の残基を含むCH1ドメインのカルボキシル末端における数個のさらなる残基を有することによって、Fabフラグメントと異なる。本明細書に記載のFabまたはFab’は、ヒトFabもしくはFab’、またはヒトCLを含むキメラFabもしくはFab’であり得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、「融合タンパク質」という用語は、ヒト抗体または抗体フラグメントの重鎖または軽鎖のいずれかのアミノ末端またはカルボキシル末端で異種ペプチドまたはポリペプチドに直接連結されたヒト抗体または抗体フラグメントを含む組換えタンパク質を指す。
【0025】
図面の簡単な説明
図1A~1Bは、ウサギFab結晶構造における例示的なGストランドベータシート充填を示す。
図1Aは、4ZTO.pdbにおけるHC:HCおよびLC:LCベータ充填を示す。重鎖を黒色および淡灰色で示す。軽鎖を濃灰色および白色で示す。
図1Bは、4JO1.pdbにおけるHC:LCベータ充填を示す。
【0026】
図2A~2Cは、ヒトCκ FGループのウサギ様LC:LC充填との不適合性を示す。
図2Aは、4NZU.pdbからのヒトFab(濃灰色)の、4ZTOからのウサギFab結晶充填(中灰色および淡灰色)に対する構造アラインメントを示す。これは、ウサギCκ FGループ(中灰色)が、より長く、バルジしているヒトCκ FGループとは異なり、よりコンパクトであり、ベータシート充填とより適合性であることを示す。
図2Bは、ヒト、マウスおよびウサギのCκドメインおよびCλドメインのFGループの配列アラインメントを示す。ウサギFGループは2残基短く、これはCλドメインからのFGループに似ている。
図2Cは、第2の干渉の潜在的部位がヒトK126側鎖であることを示す。
【0027】
図3A~3Cは、Cκ構築物における結晶充填を示す。
図3Aは、デュピルマブ親Fabにおける結晶充填を示す。Gストランドベータ充填は存在しない。
図3Bは、結晶カッパ(crystal kappa)バージョンにおける結晶充填の1つの平面を示す。各カッパ定常(淡灰色)は、近くのCH1ドメイン(黒色)とベータシートを形成する。
図3Cは、CκドメインのGストランド(白色)とCH1ドメインのGストランド(濃灰色)との間に形成されたベータシートを示す。シートは、Cκ T205からS211およびCH1 N216からR222に伸長し(残基を結晶構造において順次番号付けする)、これは擬似対称であり、Cκ V208(205位、Kabat番号付け番号付けに従う)とCH1 V219(Kabat番号付け)との間に中心を置く。
【0028】
図4A~4Bは、結晶カッパ設計の結晶構造を示す。
図4Aは、ヒトIL4R細胞外ドメインと複合体形成したデュピルマブFabの結晶カッパバージョン(上部右)の結晶構造を示す。
図4Bは、セクキヌマブFabと複合体形成したヒトIL17二量体の結晶カッパバージョン(上部中央)の結晶構造を示す。
【0029】
図5A~5Cは、カラム画分結晶化を示す。サイズ排除クロマトグラフィーからのカラム画分を、4つの条件での蒸気拡散結晶化実験において直接使用する。
図5Aは、クロマトグラムを示す。
図5Bは、9日目のすべての結晶化ドロップの画像を示す。
図5Cは、各条件に割り当てられたスコアを示し、ここで、結晶性のもののすべては90以上でスコア化されている。
【0030】
図6A~6Bは、結晶カッパ設計を使用する完全長mAbの結晶化および構造決定を示す。
図6Aは、完全長mAbの結晶を示す画像である。
図6Bは、得られた構造のリボンダイアグラムであり、抗体重鎖を黒色で(棒で示すFcグリコシル化を含む)、抗体軽鎖を淡灰色で示す。
【0031】
図7A~7Bは、結晶カッパ設計を使用するペプチド-Fab複合体の結晶化を示す。
図7Aは、4時間後の、タウペプチドに融合したL14H18の結晶カッパ軽鎖の結晶を示す画像である。
図7Bは、Fab軽鎖(灰色)のN末端への大部分が秩序化されたGly-Serリンカーを用いて、L14H18 Fabに結合したタウペプチド(白色)の得られた2.3Åの構造のリボンダイアグラムである。Fab重鎖を黒色で示す。
【実施例】
【0032】
実施例1:FabおよびFab:抗原複合体の結晶化
ウサギFab結晶充填の分析およびヒト結晶化可能カッパの設計
36個の公開されているウサギFab結晶構造および専有のウサギFab結晶構造における結晶充填相互作用の目視検査は、定常ドメインベータストランド-ベータストランド結晶充填が一般的であることを示す(表I)。19個の寄託されているウサギFab構造(Fab複合体を含む)の68%において、LC-LCベータ相互作用が生じ、2つのFab分子にわたる連続的なベータシートを形成する(
図1A)。これらの構造の3分の1以上はまた、HC:HCベータ充填相互作用を有する。全体として、構造の84%は、定常ドメインのGストランドにおいて何らかの種類のベータシート充填相互作用を形成する。社内の経験は類似しているが、HC:HCおよびLC:LCの両方の結晶充填相互作用を有するFabの例がより多く、HC:LC充填を有する例はより少ない(表Iおよび
図1B)。HC:HCおよびLC:LCの両方を形成するFabの結晶、またはHC:LC充填相互作用を形成するFabの結晶は、定常ドメインの連続的なカラムを有し、各ドメインは典型的なFab HC:LC相互作用ならびに別のドメインとのベータシートを形成する。
【表1】
【0033】
数十個のヒトFab構造の調査は、そのような相互作用を示さない。ヒトFab構造の、ウサギFabへのアラインメントは、ヒトCκドメイン中に存在するより長いFGループが、ベータシート充填相互作用を妨げる屈曲しバルジしているコンフォメーションを形成することを示す(
図2A)。このより長いFGループは、マウスCκによって共有されるが、ウサギCκドメインによっては(ラムダ定常ドメインCλによっても)共有されない(
図2B)。ウサギ充填相互作用に対してアラインしたヒトFabの目視検査はまた、ヒトCκリジン126(K126、Kabat番号付け)が、ドメインの反対側のベータシート充填に対する障害であり得ることを示唆する(
図2C)。
【0034】
ヘキサヒスチジン(H6)タグ付きFabフラグメントのいくつかのバリアントを、CκのFGループまたはK126を変異させることによって生成し、結晶化に対するその影響を試験する。FGループの場合、これは、構造的に相同なTおよびV(それぞれ、197位および205位、Kabat番号付けに従う)の間のセプタマーヒト配列HQGLSSP(198位~204位、Kabat番号付けに従う)を、五量体ウサギ配列QGTTS(199位~203位、Kabat番号付けに従う)で置換することからなる。得られた変異体は、198位のヒスチジンおよび205位のプロリンの欠失により、2残基短く、本明細書においてΔQGTTSΔ(198位~204位、Kabat番号付けに従う、配列番号3を参照のこと)または「結晶カッパ」設計と称される。いくつかのバリアントにおいて、K126をアラニンに変異させる(K126A、Kabat番号付け、配列番号2、4、6を参照のこと)。
【0035】
結晶充填分析とは別に、C末端の鎖間ジスルフィドはFab構造においてほとんど秩序化されていないことが観察される。これは、コンフォメーションの不均一性に起因し得るかまたは不均一な酸化に起因し得る。これに対処するために、2つのバリアントを設計する。「GEP*」と呼ばれる1つのバリアントを、C末端カッパ鎖システインをプロリンに(C214P、Kabat番号付けに従う、配列番号5または6を参照のこと)、IgG4重鎖システイン127をアラニンに(C127A、Kabat番号付けに従う)変異させることによりジスルフィド結合を除去することによって生成する。「ESKCGGH6」と呼ばれる第2の設計を、カッパシステインをプロリンに変異させ(C214P、Kabat番号付けに従う)、Tyr229をシステインに変異させることにより(Y229C、Kabat番号付けに従う)重鎖のC末端に新たなジスルフィドパートナーを作製することによって生成する。
【0036】
Fabの結晶化
これらの変異を単独でまたは組み合わせでのいずれかで組み込む前後の2つのFab(G6およびデュピルマブ)の結晶化の結果を表IIに示す。1つのFabは、公開されているデュピルマブ(Dupixent(商標))配列(https://www.kegg.jp/entry/D10354で入手可能である)に由来する。第2のFabは、細胞表面受容体に対する内部の発見努力の一部である。2つの96ウェル結晶化スクリーニングを、同一に精製し、およそ10mg/mlに調整し、無関係なFab結晶でストリークシードした(核形成に起因する確率的差異を排除するために)Fabに使用し、同じ時点で分析する(9日)。両方の親Fabは、少しの条件で結晶性ヒットを生成し、デュピルマブFab結晶でさえ、2.0Åのデータセットおよび構造をもたらす。K126A変異(表II)もジスルフィドバリアントのいずれも(示さず)、有意により多くの結晶を伴う条件をもたらさない。最も劇的な差異は、ΔQGTTSΔ FGループ(すなわち、結晶カッパ設計)を組み込んだ際のものである。この設計を有するFabは、G6 Fabについては192個のうちおよそ90~114個の条件で、デュピルマブFabについては192個のうちおよそ113~136個の条件で結晶をもたらす。これらのスクリーニングから直接回収した(すなわち、後のスクリーニングにおいて最適化していない)結晶は、高解像度のデータセットをもたらす(表II)。最良のデュピルマブFabは、ΔQGTTSΔ単独(CK1.0)から1.4Åに回折し、最良のG6 Fabは、ΔQGTTSΔ変異のK126Aおよび鎖内ジスルフィドとの組み合わせ(CK1.5)から1.15Åに回折する。
【表2】
【0037】
操作されたFabの結晶構造
11個の結晶形態を包含する、59個のデータセットを、G6バリアントについて収集する。構造を7個について解析し、5個の結晶形態について精密化する:P212121 43×75×165Åセル(5個の精密化された構造)、P43212 77×77×330(3)、P212121 66×74×91(1)、P1 53×65×67 85×71×84(1)、およびC2 206×103×70 β=92.7°(1)。11個の結晶形態を包含する、44個のデータセットを、デュピルマブFabバリアントについて収集する。構造を4個について解析し、3個のデータセットについて精密化する:P21 53×66×135 β=91.6°(1)、P212121 59×73×105(1)、P43212 74×74×185(1)。
【0038】
親を含む、ΔQGTTSΔなしのFabバリアントの構造は、伸長したベータシート相互作用を有して充填しない。例えば、親デュピルマブFabは、様々なタイプの相互作用を有して充填するが、連続的なベータシートを形成するものはない(
図3A)。一方、ΔQGTTSΔ FGループを有するFabに由来するすべての構造は充填し、CκドメインのGストランドとCH1ドメインのGストランドとの間にベータシートを形成する(
図3Bおよび3C)。この相互作用は、ウサギFab結晶充填において見られるものと類似しているが、同一ではない。これは、
図1Bに見られるものと同じストランドを含むが、より広範であり、
図1Aに見られるH:HまたはL:L相互作用のように両側に7個の残基を含む。このベータシートの疑似対称中心は、Cκ V208(205位、Kabat番号付けに従う)とCH1 V219(Kabat番号付け)との間にある。
【0039】
K126A変異は、結晶充填または回折品質に影響を与えないようである。G6 Fabについての最高解像度の構造はこの変異を組み込むが、変異の影響は体系的でない。例えば、デュピルマブFabについての最高解像度の構造は、FGループ変異ΔQGTTSΔのみを組み込む。ジスルフィド除去(C127A+GEP*)も鎖内ジスルフィド(ESKC+GEP*)も、結晶充填または回折に影響を与えないようである。鎖内ジスルフィドが秩序化された構造が取得される。この領域における温度因子は、鎖間ジスルフィドが秩序化された他の構造において見られるように、平均よりも高い。
【0040】
Fab:抗原複合体の結晶化
結晶化変異をFab:抗原複合体に適用する。G6 Fabの場合、FabのCK1.5バリアントを利用する。なぜなら、それは、Fab単独のように最良に回折したからである。デュピルマブFabおよび他の4つの複合体については、CK1.0(すなわち、ΔQGTTSΔのみ)を利用する。すべてのCH1ドメインは、IgG4であり、同じC末端ヘキサヒスチジン(H6)タグを有する(配列番号7)。親複合体(すなわち、Fabに適用された結晶化操作なしの抗原:Fab複合体)はいずれも、用いた限られたスクリーニングおよび時間枠で結晶を生成しない(表III)。すべての操作された複合体は、結晶を生成する(G6受容体複合体についての4個の条件(192個のうち)からH4受容体複合体についての87個の条件まで)(
図4Cおよび表III)。6個の複合体のうち4個は、大部分がより低い解像度で、構造をもたらす。GITR複合体結晶は、構造を解析する際に実際はFab単独であり、TIGIT複合体結晶は、データセットをもたらすのに十分には良好に回折しない。デュピルマブおよびセクキヌマブの両方についての結晶は、それらのそれぞれの3および3.2Åの解像度に到達するための最適化を必要とする(
図4A~4B)。最初のスクリーニングからの結晶は、前者の場合は5Åに回折し、後者についてはまったく回折しない。
【表3】
【0041】
セクキヌマブ:IL17複合体は低解像度であるが回折する結晶を生成することから、それをCH1ドメインアイソタイプおよびC末端のさらなる比較のために選択する。5残基短く、配列DKRVESKで終わるIgG4バージョン(タグなし、配列番号11)、DKRVH6で終わるもの(タグ付き、配列番号12)、およびH6タグあり(配列番号10)またはH6タグなし(配列番号9)の配列KSCで終わるIgG1バージョンの4つの新たな構築物を作製する。これらを、以前のように10mg/mlで、また5mg/mlで、精製およびスクリーニングする。より短いIgG4バージョンは、元よりも少ない結晶を生成する(元のタグ付きバージョンについての54個に対して、タグ付きについては24個、タグなしについては18個)。IgG1バージョンは、同様の数の結晶を伴う条件を与える(元についての54個に対して、タグ付きは88個、タグなしは43個)。10mg/mlのIgG4タグ付きバージョンは、最初は回折しないが最適化後に3.2Åをもたらす親のように、4.2Åに回折する。一方、10mg/mlのIgG1タグ付きバージョンは、最初のスクリーニングから直接2.7Åのデータセットをもたらし、5mg/mlのIgG1タグなしバージョンは、最初のスクリーニングから2.4Åのデータセットをもたらす。
【0042】
カラム画分結晶化(CFC)
操作されたFabの堅固な結晶化は、カラム画分から直接の結晶化を可能にする。G6 FabのΔQGTTSΔバリアントは、カラム画分から直接結晶化したときに、精製および濃縮されたサンプルと同じ結晶形態を10mg/mlで生成する(
図5A~5C)。CFC構造は、2.4Åの相当な解像度にある(1.4Åに対して)。
【0043】
本明細書に記載の設計は、いくつかのターゲットに適用され、匹敵するアイソタイプおよびC末端を利用し、同じ精製、結晶化および結晶回収手順を使用し(可能な限り並行して)、核形成の変動を減らすために結晶シーディングを利用し、同じ経過時間で結晶化実験を評価し、同じ科学者にすべての実験にわたって精製および結晶化を実施させた。
【0044】
バリアントCκドメイン(ΔQGTTSΔ)は、ヒトFabについて結晶化の頻度を50倍改善した。G6親Fab(完全ヒト)は、1つのみの条件で結晶をもたらすが、ΔQGTTSΔを含有するG6バリアントは、およそ90~114個の条件で結晶をもたらす。デュピルマブ親Fabは、4個の条件で結晶をもたらすが、ΔQGTTSΔを含有するデュピルマブバリアントは、およそ113~136個の条件で結晶をもたらす。さらに、Cκドメインの改変FGループ(「結晶化可能カッパ(Crystallizable Kappa」」または「結晶カッパ」)は、Fab:抗原複合体の結晶化を可能にするが、改善倍率を計算することはできない。なぜなら、結晶カッパ設計なしで結晶をもたらすものはないからである。大部分の結晶カッパバージョンは、複合体について30~90個の結晶化条件をもたらす(注:統計は、1つの比較的控えめな時点での2つのプレートからのものである)。
【0045】
Fabの結果と比較すると、複合体についての結果は希望を与えるものではない。結晶カッパを使用する複合体はすべて結晶を生成し、これはあらゆる努力に対する著しい利点であるが、6個のうち4個のみが、解析および精密化をするために十分に良好な複合体データセットをもたらし、これらはより低い解像度に向かう傾向がある。1つ(h2155+GITR)は、Fab単独の結晶を生成する。
【0046】
ヒトIL4Rと複合体形成したデュピルマブFabの3.0Åの構造は、IL4およびIL13の結合と実質的に重複するエピトープを示し、これは、そのブロッキング活性を説明する(
図4A)。エピトープの中心部分はCDループであり(Ul-Haq 2016)、これは、なぜデュピルマブがこの領域において非常に異なる配列を有するカニクイザルIL4Rとの交差反応性を有しないかを説明する(L
67L
68対Q
67S
68)。3.0ÅのセクキヌマブIL17複合体(およびその2.4Åの改善された構造)は、両方のIL17鎖の各Fab結合部分である、不連続なエピトープでIL17二量体に結合した2つのFabを示す(
図4B)。H4複合体は、非対称ユニットにおいて3つのFabと結晶充填配置をもたらす(示さず)。Fabの1つは、CK設計に典型的な2つのHC:LCベータ充填相互作用を形成する。別のFabは、LC側に1つを形成し、HC側には何も形成しない。そして、第3のFabは、第2のものとHC:LC相互作用を形成し、そのLCは、LC:LCベータ充填相互作用を形成する。これは、そのような相互作用が見られた唯一のものである。
【0047】
セクキヌマブ構築物の追加の精密化は、IgG4構築物のC末端を短縮させ、初めてIgG1バージョンを含み、H6タグ付きバージョン対タグなしバージョンの比較をした。回収目的のために結晶をより混雑しないようにするために、10mg/mlを5mg/mlと比較する。このシリーズにおいて、IgG1バージョンは、IgG4よりも良好に挙動し、タグ付き(10mg/mlの)バージョンについては2.7Åのデータセットを、タグなしFab(5mg/mlの)バージョンについては2.4Åのデータセットを直接的にもたらし、一方、CK1.0構築物からの3.0Åのデータセットは、多数の結晶の最適化およびスクリーニングの後に取得される。興味深いことに、G1、G4(2つのバージョン)(タグ付きおよびタグなし)はすべて同形の結晶を生成する。
【0048】
結晶化の速度に関して、記載されるすべての結晶は1週間以内に成長し、より頻繁にチェックしたものについては、結晶は数時間以内に出現する。濃度に関して、カラム画分結晶化実験は、少なくともFab単独について、0.1mg/mlほど希薄なサンプルから結晶を取得することが可能であることを示す。必要とされる濃度についての意義に加えて、CFCは他の潜在的な利点を有する。例えば、カラムピークの前縁におけるタンパク質の特性は、おそらく後縁とは異なり、一方または他方が構造を決定することにおいてより生産的であり得る。CFC実験と、Fabが高濃度で結晶化条件の半分以上で結晶化するという事実とは、Fabについて、結晶カッパ設計が、スクリーニング条件の劇的に単純化されたセットを可能にするはずであることを示唆する。
【0049】
結論として、FabおよびFab:抗原複合体について結晶形成の頻度を劇的に改善し、Fab(およびFab:ペプチド複合体)について高解像度の構造をもたらし、大部分の場合に、Fab:タンパク質複合体の少なくとも低解像度のデータセットおよび構造もたらし得る、ヒト定常カッパドメインの結晶化可能なバリアント(バリアントCκ)が本明細書で提供される。結晶カッパ設計は、ひと握りの条件のスクリーニングにおける希薄なサンプルからの一晩の結晶化を可能にするようである。結晶カッパ設計は、より小さなスクリーニングおよびより少ないタンパク質を使用してさえもFab構造決定を堅固にし、困難なターゲットとのFabシャペロン複合体を含む、複合体構造決定を加速するはずである。
【0050】
材料および方法
操作および分子生物学
ウサギFab結晶充填の分析を、Protein DatabankおよびEli Lillyの専有構造データベースにおいて利用可能な構造を利用してPymolにおいて行う。様々な種からのLC定常ドメインのアラインメントは、BLASTを利用する。デュピルマブおよびセクキヌマブの可変ドメインのアミノ酸配列を、the Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomesウェブサイト(www.kegg.jp、Kanehisa 2000)、エントリーD10354およびD09967から取得する。h2155およびh22G2の配列を、特許US2013108641およびUS2016176963から取得する。発現ベクターを、対応するDNAフラグメントをgblockとして合成し(IDT、Coralville IA)、標準的な技術を使用して哺乳動物発現ベクター中にクローニングすることによって作製する。
【0051】
発現および精製
Fabおよび抗原ECDを、哺乳動物細胞培養CHO細胞において発現させる。タンパク質含有細胞培養上清を回収し、清澄化した培地を、結合バッファーとしてPBSバッファー+15mM イミダゾール、pH7.5を使用するHis Trap(商標)Excel(GE Healthcare)を使用する固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって精製する。次いで、タンパク質を、PBS+0.3Mイミダゾール、pH7.4中の10カラム体積勾配溶出で溶出する。溶出液を収集し、Millipore 10KDaスピンコンセントレーターを使用して濃縮する。濃縮IMACプールを、Superdex75またはSuperdex200(GE Healthcare)のいずれかのカラムにロードする。タンパク質を、結晶化トレー用に10mg/mlに再度濃縮する。
【0052】
タンパク質を、分析用サイズ排除クロマトグラフィー(Waters)およびSDS-PAGEゲルによって特徴付ける(データは示さず)。
【0053】
結晶化および構造決定
すべてのサンプルを5~10mg/mlに濃縮し、Qiagen Classics IIおよびPEG結晶化スクリーニングを使用して、1:1の比率で蒸気拡散シッティングドロップ中室温に調整する。ドロップを、Fab結晶化のための関連するFab結晶シード、および複合体結晶化のための複合体結晶シードと直ちにクロスシード(cross seed)する。結晶化トレーの画像を、1日目、4日目、および9日目に撮影する。液体窒素中で凍結する前に、結晶を、追加の10%のその結晶化ウェルにおいて使用される沈殿剤および25%のグリセロールを補充したウェル溶液、または、それが凍結保護に十分な濃度の凍結保護品質の沈殿剤(PEG 400、PEG MME 550、PEG MME 2Kなど)を含む場合は、母液のいずれかからなる凍結防止剤溶液に移す。
【0054】
構造決定回折データセットを、以下のソースで収集する:Advanced Proton SourceのLilly Research Collaborative Access Team(LRL-CAT)Beamline 31-ID(Argonne,IL)、Advanced Light SourceのBeamline ALS-502(Berkley,CA)、Diamond Light SourceのBeamline I04-1(Oxfordshire,UK)。データを、MOSFLM(Leslie AGW&Powell HR.In:Read RJ,&Sussman JL(Eds.),Evolving methods for macromolecular crystallography:the structural path to the understanding of the mechanism of action of CBRN Agents.Dordrecht:Springer Netherlands.2007)およびCCP4 suite of programs(Winn,et al.,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr,2011.67(Pt 4):235-42)を使用して統合および縮小する。最初の分子置換ソリューションを、Phaser(CCP4 suite)(McCoy,et al.,J.Appl.Crystallogr.,2007.40(Pt 4):658-674)を使用して取得する。モデルを、COOT(Emsley,et al.,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr,2010.66(Pt 4):486-501)を使用して構築し、Refmac(Murshudov,et al.,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr,2011.67(Pt 4)):355-67)またはBuster(Bricogne,et al.BUSTERバージョン2.11.5.Cambridge,United Kingdom:Global Phasing Ltd.2011)を使用して精密化し、内部で開発したプロトコルを使用して検証する。
【0055】
実施例2:完全長モノクローナル抗体(mAb)の結晶化およびX線構造決定
Fabフラグメントに加えて、結晶カッパ設計を利用して、以下のように完全長IgG抗体を結晶化し得る。抗体の軽鎖を、標準的な分子生物学技術を使用して標準的な発現ベクター中で結晶カッパ設計を用いて改変する。次いで、軽鎖を、対応する重鎖とともに、抗体を分泌するのに適切な発現システム、例えば、HEK293またはチャイニーズハムスター卵巣細胞において発現させる。次いで、抗体を、MabSelectカラム(GE Healthcare)を用いたカラム精製などの技術を使用して培地から精製し、例えば、5mg/mlに濃縮する。次いで、蒸気拡散の方法を利用して、精製抗体からのタンパク質結晶の成長のための条件をスクリーニングする。次いで、結晶を、単離、移送および凍結し、その後、X線データを収集する。次いで、標準的な技術を使用して、分子置換によって、例えばソフトウェアPhaserを使用し、次いで原子モデルを精密化して、構造をそのデータから決定し得る。
【0056】
1つの抗体構造は、結晶カッパ設計を、IgG4-P(S241P(Kabat番号付けに従う)、またはS228P(EUインデックス番号付けに従う)を有するIgG4)アイソタイプ抗体のカッパ軽鎖に組み込むことから得られた。21℃での96ウェルスクリーニング(ComPAS,Qiagen)から、18%エタノール+100mM Tris HCl(pH8.5)を含むいくつかの条件が結晶をもたらした。これらの条件を最適化することによって、回折する結晶および4Åのデータセットを、20%エタノール、21℃から取得した。このデータセットの分子置換ソリューションは、完全長抗体の構造(2つの重鎖、2つの軽鎖およびグリコシル化)をもたらし、そのコンフォメーションは、2つの既知のヒトIgG4構造(5DK3.pdbおよび6GFE.pdb)のコンフォメーションとは著しく異なっており、既知のヒトIgG1構造(1HZH.pdb)により類似している。結晶カッパ設計は、抗体における他の接触点と同様に、結晶充填に寄与した。
【0057】
図6A~6Bは、完全長mAbの結晶化および構造決定を示す。
図6Aは、完全長mAbの結晶を示す画像である。
図6Bは、得られた構造のリボンダイアグラムであり、抗体重鎖を黒色で(棒で示すFcグリコシル化を含む)、抗体軽鎖を淡灰色で示す。
【0058】
実施例3:融合タンパク質の生成によるFab:抗原ペプチド複合体の結晶化
その抗原ペプチドとの複合体中のFabの結晶構造決定を、2つの方法で達成し得る。第1に、そしてより典型的には、抗原ペプチドを、購入し得るか、または種々の技術を使用して調製し得る(Chandrudu S,Simerska P,Toth I.Chemical methods for peptide and protein production.Molecules.2013 Apr 12;18(4):4373-88)。次いで、このペプチドを可溶化し、モルでのFabの濃度に等しいかまたはそれを超える最終濃度でFabに添加し得る。次いで、結晶カッパ Fab単独についてと同様に、複合体の結晶化および構造決定を達成する。第2の技術(これは、ペプチドを購入する必要性を取り除く)は、ペプチドのコード配列を、Fdまたはカッパ軽鎖のいずれかのオープンリーディングフレーム中に直接挿入して、Fab発現ベクターの構築の間にペプチドとFd/カッパ軽鎖との間に適切なリンカーを有する融合タンパク質を生成することである。次いで、融合タンパク質において、ペプチドは、正確な1対1の化学量論で、リンカーによってFabに繋ぎ止められる。繋ぎ止めはまた、ペプチドの有効濃度を増加させ、低親和性ペプチドが結晶または得られる構造において出現しない状況を回避するという利点を有する。繋ぎ止めは、結晶中の抗原ペプチドの存在を保証する。
【0059】
Fab:抗原ペプチド複合体を、抗タウ抗体L14H18(WO2017/005734)およびその同族タウペプチド抗原について以下のように取得した。既知のエピトープ、TPPKSPSSAKSRLQTAPVPM(配列番号18)を包含するタウペプチド(アミノ酸231~250)を、それらの27個のアミノ酸に翻訳するDNA配列を、オープンリーディングフレームのシグナル配列とFab鎖の成熟開始との間に組み込むことによって、L14H18 FabのFd-His6または結晶カッパ軽鎖のいずれかのN末端に、GSリンカー(配列番号19)を用いて融合した。タウペプチド-リンカー-Fd-His/結晶カッパ軽鎖バージョンおよびFd-His/タウペプチド-リンカー-結晶カッパ軽鎖バージョンの両方を、CHO細胞において発現させ、固定化金属アフィニティークロマトグラフィーおよびゲルろ過によって精製し、4.5mg/mlに濃縮し、市販のスクリーニングにおいて結晶化した。数十個の条件が、ClassicおよびPEGスクリーニング(Qiagen)において両方のバージョンについて結晶を生成した。結晶カッパ融合物について、20%PEG 3350/200mM酒石酸カリウムナトリウムからの1.22Åの構造、および100mM酢酸ナトリウムpH4.6/25%PEG 4000/200mM硫酸アンモニウムからの2.3Åの構造の2つの複合体構造を解析および精密化した。構造の両方は、FabのCDRに結合した1つのヘリカルターンを有する大部分が伸長されたペプチドを示し、リンカー部分における秩序の程度でのみ異なった。
【0060】
図7A~7Bは、タウペプチド-Fab複合体の結晶化を示す。
図7Aは、4時間後の、タウペプチドに融合したL14H18の結晶カッパ軽鎖の結晶を示す画像である。
図7Bは、Fab軽鎖(灰色)のN末端への大部分が秩序化されたGSリンカーを用いて、L14H18 Fabに結合したタウペプチド(白色)の得られた2.3Åの構造のリボンダイアグラムである。Fab重鎖を黒色で示す。
【0061】
配列表
野生型ヒトカッパ軽鎖定常ドメイン(Cκ)アミノ酸配列(配列番号1)
RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
ヒトCκ K126Aバリアントアミノ酸配列(配列番号2)
RTVAAPSVFIFPPSDEQLASGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
ヒトCκ ΔQGTTSΔバリアントアミノ酸配列(配列番号3)
RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTQGTTSVTKSFNRGEC
ヒトCκ K126A ΔQGTTSΔバリアントアミノ酸配列(配列番号4)
RTVAAPSVFIFPPSDEQLASGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTQGTTSVTKSFNRGEC
ヒトCκ ΔQGTTSΔ GEP*バリアントアミノ酸配列(配列番号5)
RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTQGTTSVTKSFNRGEP
ヒトCκ K126A ΔQGTTSΔ GEP*バリアントアミノ酸配列(配列番号6)
RTVAAPSVFIFPPSDEQLASGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTQGTTSVTKSFNRGEP
ヒトIgG4 CH1ドメインESKYGH6バリアントアミノ酸配列(配列番号7)
ASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGHHHHHH
ヒトIgG4 CH1ドメインESKYGH6 C127Aバリアントアミノ酸配列(配列番号8)
ASTKGPSVFPLAPASRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGHHHHHH
野生型ヒトIgG1タグなしCH1ドメインアミノ酸配列(配列番号9)
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSC
ヒトIgG1タグ付きCH1ドメインアミノ酸配列(配列番号10)
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCHHHHHH
ヒトIgG4タグなしCH1ドメイン(配列番号11)
ASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESK
ヒトIgG4タグ付きCH1ドメイン(配列番号12)
ASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVHHHHHH
野生型マウスCκアミノ酸配列(配列番号13)
RADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSPIVKSFNRNEC
野生型ウサギCκアミノ酸配列(配列番号14)
GDPVAPTVLIFPPAADQVATGTVTIVCVANKYFPDVTVTWEVDGTTQTTGIENSKTPQNSADCTYNLSSTLTLTSTQYNSHKEYTCKVTQGTTSVVQSFNRGDC
野生型ヒトラムダ軽鎖定常ドメイン(Cλ)アミノ酸配列(配列番号15)
GQPKANPTVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADGSPVKAGVETTKPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS
野生型マウスCλアミノ酸配列(配列番号16)
QPKSSPSVTLFPPSSEELETNKATLVCTITDFYPGVVTVDWKVDGTPVTQGMETTQPSKQSNNKYMASSYLTLTARAWERHSSYSCQVTHEGHTVEKSLSRADCS
野生型ウサギCλアミノ酸配列(配列番号17)
QPAVTPSVILFPPSSEELKDNKATLVCLISDFYPRTVKVNWKADGNSVTQGVDTTQPSKQSNNKYAASSFLHLTANQWKSYQSVTCQVTHEGHTVEKSLAPAECS
タウペプチド(配列番号18)
TPPKSPSSAKSRLQTAPVPM
GSリンカー(配列番号19)
GGGSGGG
【配列表】