(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】ガス絶縁機器の診断装置、診断方法、およびこの診断方法を用いるガス絶縁機器
(51)【国際特許分類】
H02B 13/065 20060101AFI20231208BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20231208BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
H02B13/065 E
G01N1/22 L
G01N27/416 321
(21)【出願番号】P 2022581113
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005262
(87)【国際公開番号】W WO2022172399
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】衣川 勝
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523608(JP,A)
【文献】特開2002-118912(JP,A)
【文献】特開平9-856(JP,A)
【文献】特開2013-217851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 9/30 - 9/52
H01H 33/00 - 33/26
H01H 33/60 - 33/99
H02B 13/00 - 13/08
G01R 31/08 - 31/11
G01N 1/22
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機フッ素化合物と酸素を含むガスとを混合したガスを絶縁ガスとして封入された接地タンクを有するガス絶縁機器の診断装置であって、
前記接地タンクから採取した前記絶縁ガスにおける酸素濃度を測定する酸素濃度測定部と、
前記酸素濃度と、予め入力された酸素濃度閾値とを比較し、前記酸素濃度が前記酸素濃度閾値以上の場合、前記絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる状態と判定し、前記酸素濃度が前記酸素濃度閾値より小さい場合、前記絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態と判定する診断部と、
を備えるガス絶縁機器の診断装置。
【請求項2】
前記診断部は、前記絶縁ガスの劣化度合を示す酸素濃度劣化値を算出し、前記酸素濃度劣化値に基づいて、前記絶縁ガスの劣化度合を表示し、
前記酸素濃度劣化値は、初期状態の絶縁ガスにおける酸素濃度である初期酸素濃度と前記酸素濃度閾値との差に対する、前記酸素濃度と前記酸素濃度閾値との差の割合であることを特徴とする請求項1に記載のガス絶縁機器の診断装置。
【請求項3】
前記接地タンクから前記絶縁ガスを採取するガス採取袋が設けられたガス採取部をさらに備え、
前記ガス採取部から前記酸素濃度測定部に前記絶縁ガスを供給することを特徴とする請求項1または2に記載のガス絶縁機器の診断装置。
【請求項4】
前記酸素濃度測定部に接続され、前記接地タンクから採取した前記絶縁ガスを前記酸素濃度測定部に流入させる前に、前記絶縁ガスに含まれるHFガスを吸着するHFガス吸着材が充填されたHFガス吸着部をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断装置。
【請求項5】
前記酸素濃度測定部に接続され、前記接地タンクから採取した前記絶縁ガスを前記酸素濃度測定部に流入させる前に、前記絶縁ガスに含まれる有機ガスを吸着する有機ガス吸着材が充填された有機ガス吸着部をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断装置。
【請求項6】
前記有機ガス吸着部は、前記酸素濃度測定部と、前記接地タンクから採取した前記絶縁ガスに含まれるHFガスを吸着するHFガス吸着材が充填されたHFガス吸着部との間に設けられることを特徴とする請求項5に記載のガス絶縁機器の診断装置。
【請求項7】
前記酸素濃度測定部は、
前記絶縁ガスが流入する酸素測定室と、
前記酸素測定室に設置され、前記絶縁ガスにおける酸素濃度を測定する酸素濃度計と、を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断装置。
【請求項8】
前記酸素測定室に接続され、前記酸素測定室から流出する前記絶縁ガスを大気へ放出するガス放出口をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載のガス絶縁機器の診断装置。
【請求項9】
前記酸素濃度測定部に接続され、前記酸素濃度測定部から流出する前記絶縁ガスの流量を計測する流量計をさらに備える請求項1から8のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断装置。
【請求項10】
前記酸素濃度測定部は、
前記接地タンクから採取した前記絶縁ガスにおける酸素濃度を計測するガス検知管と、
前記ガス検知管に接続され、前記絶縁ガスを前記ガス検知管に吸引する吸引器と、
を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断装置。
【請求項11】
有機フッ素化合物と酸素を含むガスとを混合したガスを絶縁ガスとして封入された接地タンクを有するガス絶縁機器の診断方法であって、
前記接地タンクから前記絶縁ガスを採取するガス採取ステップと、
前記絶縁ガスにおける酸素濃度を測定する酸素濃度測定ステップと、
前記酸素濃度と、予め入力された酸素濃度閾値とを比較し、前記酸素濃度が前記酸素濃度閾値以上の場合、前記絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる状態と判定し、前記酸素濃度が前記酸素濃度閾値より小さい場合、前記絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態と判定する診断ステップと、
を備えるガス絶縁機器の診断方法。
【請求項12】
前記酸素濃度閾値は、予め前記ガス採取ステップにより採取された前記絶縁ガスを前記酸素濃度測定ステップと同じ測定方法で測定された酸素濃度と、前記絶縁ガスにおける耐電圧との関係により決定されることを特徴とする請求項11に記載のガス絶縁機器の診断方法。
【請求項13】
前記診断ステップにおいて、前記絶縁ガスの劣化度合を示す酸素濃度劣化値を算出し、前記酸素濃度劣化値に基づいて、前記絶縁ガスの劣化度合を表示し、
前記酸素濃度劣化値は、初期状態の絶縁ガスにおける酸素濃度である初期酸素濃度と前記酸素濃度閾値との差に対する前記酸素濃度と前記酸素濃度閾値との差の割合であることを特徴とする請求項11または12に記載のガス絶縁機器の診断方法。
【請求項14】
前記ガス採取ステップにおいて、前記接地タンクから前記絶縁ガスをガス採取袋により採取することを特徴とする請求項11から13のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断方法。
【請求項15】
前記ガス採取ステップにおいて、前記接地タンクから採取した前記絶縁ガスに含まれるHFガスをHFガス吸着材により吸着させることを特徴とする請求項11から14のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断方法。
【請求項16】
前記ガス採取ステップにおいて、前記接地タンクから採取した前記絶縁ガスに含まれる有機ガスを有機ガス吸着材により吸着させることを特徴とする請求項11から15のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断方法。
【請求項17】
前記ガス採取ステップにおいて、前記接地タンクから採取した前記絶縁ガスに含まれるHFガスをHFガス吸着材により吸着させてから、前記有機ガスを前記有機ガス吸着材により吸着させる順にすることを特徴とする請求項16に記載のガス絶縁機器の診断方法。
【請求項18】
前記酸素濃度測定ステップにおいて、前記絶縁ガスが流入する酸素測定室に設置された酸素濃度計により前記絶縁ガスにおける酸素濃度を測定することを特徴とする請求項11から17のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断方法。
【請求項19】
前記酸素測定室から流出する前記絶縁ガスを大気へ放出することにより、前記酸素測定室における気圧を大気圧と同様にすることを特徴とする請求項18に記載のガス絶縁機器の診断方法。
【請求項20】
前記酸素測定室から流出する前記絶縁ガスの流量を流量計により計測することを特徴とする請求項18または19に記載のガス絶縁機器の診断方法。
【請求項21】
前記酸素濃度測定ステップにおいて、吸引器を用いてガス検知管に前記ガス採取ステップで採取された前記絶縁ガスを吸引し、前記ガス検知管を用いて前記絶縁ガスにおける酸素濃度を測定することを特徴とする請求項11から17のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断方法。
【請求項22】
有機フッ素化合物と酸素を含むガスとを混合したガスを絶縁ガスとして封入された接地タンクを有し、請求項11から21のいずれか1項に記載のガス絶縁機器の診断方法を用いて前記絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる状態かを診断するガス絶縁機器。
【請求項23】
前記有機フッ素化合物はハイドロフルオロオレフィンであることを特徴とする請求項22に記載のガス絶縁機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス絶縁機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁開閉装置などのガス絶縁機器は、高電圧が印加される導体を金属製の接地タンク内に収納し、接地タンク内の気密の空間に絶縁ガスを封入することで、絶縁性能が確保されている。
従来、このようなガス絶縁機器に使用される絶縁ガスとして、例えばSF6が広く用いられてきた。しかし、SF6は、絶縁性能が高いが、地球温暖化に対する影響を示す地球温暖化係数(GWP、Global Warming Potential)が大きい。このため、環境負荷低減の観点から、SF6を代替する絶縁ガスが検討されている。この中で、地球温暖化係数が低くて環境性に優れており、かつ、絶縁性能の良いハイドロフルオロオレフィンガス、フルオロケトンガス等のフッ素(F)と炭素(C)を含む有機フッ素化合物のガスは絶縁ガスの代替ガスの候補と提案されている。
【0003】
一般に、有機フッ素化合物のガスに、空気等の環境負荷が小さいガスを混合することにより絶縁性能の向上に有効であり、且つ経済的である。
特許文献1では、フルオロケトンガスと空気と混合した絶縁ガスに関する技術が開示されている。また、特許文献2では、ハイドロフルオロオレフィンガスと空気と混合した絶縁ガスが開示されている。有機フッ素化合物と空気と混合したガスは絶縁ガスとしてガス絶縁機器などに用いられる。
【0004】
一方、ガス絶縁機器の動作に起因する内部放電により、混合した絶縁ガス中の有機フッ素化合物は分解または酸化が発生し、分解ガス等の生成ガスが生成する。ガス絶縁機器の絶縁ガスにおける有機フッ素化合物のガス濃度は必要な絶縁性能を確保する条件となる。有機フッ素化合物が分解または酸化により消費されると、ガス絶縁機器の絶縁性能が低下することとなる。この状態を便宜上絶縁ガスの劣化と呼ぶことにする。ガス絶縁機器の絶縁性能を評価するため、絶縁ガス中の有機フッ素化合物のガス濃度を評価して絶縁ガスの劣化度合を診断する作業が必須である。
【0005】
有機フッ素化合物のガス濃度を精度よく測定するには、GC/MS等の特殊な分析装置では可能である。しかし、ガス絶縁機器における絶縁ガスを採取して、GC/MS等の分析装置により絶縁ガス中の有機フッ素化合物のガス濃度を測定して劣化診断を行うことは、専門的な分析技能が必要であり、現場での作業には効率的ではなく、不向きである。
このため、特許文献3では、ガス絶縁機器に絶縁ガス濃度監視部及び分解ガス濃度監視部を設けることにより、内部放電により発生する混合ガス中の代替ガス及びこの代替ガスの分解ガスの濃度を検出し、混合ガスの劣化度合による絶縁性能の低下有無を判断している。ガス濃度の検出方法として、レーザ照射、熱伝導率変化あるいは赤外線照射による検知について述べられている。
【0006】
しかしながら、レーザ照射、赤外線照射によるガス濃度の検知は、有機フッ素化合物のガスと、有機フッ素化合物のガスから分解され、類似した構成を持つ分解ガスからの信号が干渉し、ガス濃度の測定精度を高めることは困難である。
また、ガスの熱伝導率は、ガスの平均分子量に主に依存する。有機フッ素化合物の分解または酸化により,平均分子量は低下する。しかし,HF等,反応性の高い分解ガスは,ガス絶縁機器に設けられた吸着剤等へ徐々に吸着される。そのため,絶縁ガス中の有機フッ素化合物のガス濃度が一定でも、HF等の分子量の小さいガスの減少に伴い,熱伝導率も変化する。よって,熱伝導率による有機フッ素化合物の正確な測定は困難である。
【0007】
また、特許文献4には、絶縁ガスの劣化診断に関して、生成された分解ガスを検知管で検出する技術が開示されている。しかしながら、本開示の発明者は、ハイドロフルオロオレフィンガスと空気と混合した絶縁ガスから分解された主な分解ガスのフッ化水素(HF)を検知管(フッ化水素用No.17ガステック製およびフッ化水素用No.17LLガステック製の検知管)を用いて検出を試みたが、ハイドロフルオロオレフィンガスおよびHF以外のフッ素を含む分解ガスからの信号が干渉し、HFのガス濃度を測定できないことを確認した。分解ガスの検出により有機フッ素化合物が混合された絶縁ガスの劣化診断を行うのも困難である。
【0008】
有機フッ素化合物と空気などと混合した絶縁ガスの場合、従来の単独種類のガスに比べて、有機フッ素化合物からの分解ガス、およびガス絶縁機器の水分吸着剤等と反応して吸収されるガス種の干渉により、絶縁ガス中の有機フッ素化合物のガス濃度、または分解ガスの濃度を定量することが難しい。これにより、有機フッ素化合物と空気などと混合したガスを絶縁ガスとして用いたガス絶縁機器において、絶縁ガスの劣化度合から影響されるガス絶縁機器に使用される絶縁ガスの劣化度合を精度よく評価することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2014-506376号公報
【文献】特許第6656496号公報
【文献】特開2007-273282号公報
【文献】特開2019-47602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、ガス絶縁機器に使用される絶縁ガスの劣化度合の評価精度を向上できるガス絶縁機器の診断方法および診断装置を提供し、かつ、この診断方法を用いる環境負荷が少ないガス絶縁機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係るガス絶縁機器の診断装置は、有機フッ素化合物と酸素を含むガスとを混合したガスを絶縁ガスとして封入された接地タンクを有するガス絶縁機器の診断装置であって、接地タンクから採取した絶縁ガスにおける酸素濃度を測定する酸素濃度測定部と、酸素濃度と、予め入力された酸素濃度閾値とを比較し、酸素濃度が酸素濃度閾値以上の場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる状態と判定し、酸素濃度が酸素濃度閾値より小さい場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態と判定する診断部とを備える。
本開示に係るガス絶縁機器の診断方法は、有機フッ素化合物と酸素を含むガスとを混合したガスを絶縁ガスとして封入された接地タンクを有するガス絶縁機器の診断方法であって、接地タンクから絶縁ガスを採取するガス採取ステップと、絶縁ガスにおける酸素濃度を測定する酸素濃度測定ステップと、酸素濃度と予め入力された酸素濃度閾値とを比較し、酸素濃度が酸素濃度閾値以上の場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる状態と判定し、酸素濃度が酸素濃度閾値より小さい場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態と判定する診断ステップとを備える。
本開示に係るガス絶縁機器は、有機フッ素化合物と酸素を含むガスとを混合したガスを絶縁ガスとして封入された接地タンクを有し、接地タンクから絶縁ガスを採取するガス採取ステップと、絶縁ガスにおける酸素濃度を測定する酸素濃度測定ステップと、酸素濃度と、予め入力された酸素濃度閾値とを比較し、酸素濃度が酸素濃度閾値以上の場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる状態と判定し、酸素濃度が酸素濃度閾値より小さい場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態と判定する診断ステップとを備えるガス絶縁機器の診断方法を用いて絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる状態かを診断する。
【発明の効果】
【0012】
本開示係るガス絶縁機器の診断方法と診断装置によれば、ガス絶縁機器に封入される絶縁ガスにおける酸素濃度を測定することによりガス絶縁機器に封入される絶縁ガスの劣化度合を評価するため、従来技術と比較して、分解ガスからの信号干渉により有機フッ素化合物のガス濃度を正確に測定できないことを回避でき、絶縁ガスの劣化度合の評価精度を向上することができる。
本開示係る診断方法を用いるガス絶縁機器によれば、地球温暖化対策上有利な有機フッ素化合物と空気などの酸素を含むガスとを混合した絶縁ガスを使用し、ガス絶縁機器に封入される絶縁ガスにおける酸素濃度を測定することによりガス絶縁機器に封入される絶縁ガスの劣化度合を評価するため、従来技術と比較して、分解ガスからの信号干渉により有機フッ素化合物のガス濃度を正確に測定できないことを回避でき、絶縁ガスの劣化度合の評価精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示に係るガス絶縁機器における放電によりHFO―1234yfガスの減少量と酸素濃度との相関関係を示す図である。
【
図2】本開示に係るガス絶縁機器における放電試験により絶縁ガス中の酸素濃度と耐電圧との関係を示す概念図である。
【
図3】本開示の実施の形態1に係るガス絶縁機器の構成図である。
【
図4】本開示の実施の形態1に係るガス絶縁機器における絶縁ガスの劣化度合を診断する診断方法を実施する診断処理の流れを示す図である。
【
図5】本開示の実施の形態2に係るガス絶縁機器の構成図である。
【
図6】本開示の実施の形態2に係るガス絶縁機器から外された酸素濃度測定部とガス採取部との接続イメージ図である。
【
図7】本開示の実施の形態2に係るガス絶縁機器における絶縁ガスの劣化度合を診断する診断方法を実施する診断処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
有機フッ素化合物と酸素を含むガスと混合したガスを絶縁ガスとして用いるガス絶縁機器において、ガス絶縁機器の使用に伴い、絶縁ガス中の有機フッ素化合物が放電による分解または酸化が発生して絶縁ガスの劣化が進み、絶縁性能が低下する。有機フッ素化合物は主に酸素との化学反応により消費される。消費された有機フッ素化合物ガスの減少量は酸素の減少量に相関し、絶縁ガスにおける有機フッ素化合物ガスの減少量は酸素濃度に相関する。
有機フッ素化合物ガスの減少量が絶縁性能に直接影響する。ガス絶縁機器における絶縁ガスの絶縁性能は、例えば、ガス中で絶縁破壊を発生させる電圧の評価によって測定でき、耐電圧として数値化することができる。耐電圧の値が大きいほど絶縁性能が高いと評価できる。耐電圧の測定は、例えば実機を模擬した試験系を用いて実施される。
【0015】
実施の形態を用い、絶縁ガスにおける酸素濃度を測定してガス絶縁機器に封入される絶縁ガスの劣化度合を診断すること説明する前に、混合した絶縁ガス中の有機フッ素化合物ガスの減少量は絶縁ガスにおける酸素濃度により評価できることについて説明する。
以下、有機フッ素化合物であるハイドロフルオロオレフィン(Hydrofluoroolefin、HFO)ガスと空気と混合したガスを絶縁ガスとしてガス絶縁機器に用いられる場合を例に、絶縁ガス中の有機フッ素化合物ガスの減少量と酸素の減少量とは相関し、放電による有機フッ素化合物ガスの減少量は酸素濃度で評価できることを説明する。
【0016】
ハイドロフルオロオレフィンガスをHFOで表示する。HFOと空気とを混合した絶縁ガスの雰囲気において放電試験を行うと、HFOの分解または酸化が発生する。HFOの分解または酸化は、主にHFOと空気中のO2(酸素)と化学反応し、主要生成ガスとしてHF(フッ化水素)、CO2(二酸化炭素)、CF4(四フッ化炭素)が生成する。生成ガス中のHFガス、CF4ガスはHFOの分解ガスとも呼ぶ。
この場合の化学反応式は式(1)に示す。
【0017】
【数1】
式(1)において、化学反応式の係数であるa、b、c、dはHFOの種類によって値が決定される。
放電により消費されたHFOの減少量、O
2の減少量はそれぞれΔHFO、ΔOで表示する。ΔHFOは次の式(2)で表記し、ΔOは次の式(3)で表記する。
【0018】
【0019】
【数3】
式(2)において、HFO
oは初期状態における絶縁ガス中のHFOのガス量であり、HFO
iは放電後の絶縁ガス中のHFOのガス量である。
式(3)において、O
oは初期状態における絶縁ガス中のO
2のガス量であり、O
iは放電後の絶縁ガス中のO
2のガス量である。
ここで、HFO、O
2のガス量とは、HFO、O
2の単位体積当たりの分子の数である。HFO、O
2の減少量とは、放電前後の分子の数の差である。ガス量とガスの減少量との単位はmolである。
式(2)と式(3)において、初期状態のガス量から放電後のガス量を引くのは、ΔHFO、ΔOを全て正の値にするためである。
式(1)により、ΔHFOとΔOとの関係を次の式(4)のように表記する。
【0020】
【数4】
生成されたHF、CO
2、CF
4のガス量をそれぞれHF、CO
2、CF
4で示す。式(1)により、生成されたHF、CO
2、CF
4のガス量とΔOとの関係を次の式(5)、式(6)、式(7)のように表記する。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
これらの式を用い、放電後の酸素濃度について説明する。
絶縁ガスにおいて、空気中のN2(窒素)、CO2(二酸化炭素)、Ar(アルゴン)などガスの合計ガス量は放電により影響されず、放電前後とも同様であり、Noと表記する。なお、空気中のCO2は、式(1)、式(6)に示す生成ガス中のCO2と異なるものである。
放電後の絶縁ガス全体のガス量は、O2のガス量Oi、HFOのガス量HFOi、N2などの合計ガス量No、および生成ガスのHF、CO2、CF4のガス量の合計であるため、放電後の酸素濃度mを次の式(8)のように表記する。
【0025】
【数8】
式(3)~式(7)により、式(8)を式(9)のように表記できる。
【0026】
【数9】
式(9)に基づいて、ΔOを次の式(10)のように表記する。
【0027】
【数10】
式(4)、式(10)により、ΔHFOを次の式(11)のように表記できる。
【0028】
【0029】
上述のように、係数a、b、c、d、eはHFOの種類により値が決定される。初期状態における絶縁ガス中のO2のガス量Oo、HFOのガス量HFOo、および、N2などの合計ガス量Noとも既知または測定可能な値である。このため、式(11)により、放電によりHFOの減少量ΔHFOは、放電後の絶縁ガスにおける酸素濃度mにより定量的に評価できる。
【0030】
次に、ハイドロフルオロオレフィンガスの1種であるHFO―1234yfと空気と混合した絶縁ガスを例に、上述の式に具体的な係数を入れ、放電後のHFO―1234yfの減少量ΔHFOを絶縁ガスにおける酸素濃度mにより計算する。
【0031】
HFO―1234yfの化学式は、CF3CF=CH2である。HFO―1234yfと空気と混合した絶縁ガスの雰囲気において放電試験を行うと、絶縁ガスの分解または酸化が発生する。HFO―1234yfとO2との化学反応が引き起こされ、主要生成ガスとしてHF、CO2、CF4が生成する。
この場合の化学反応式は式(12)で示す。式(12)は、式(1)における各係数が、a=2、b=5、c=4、d=5、e=1となる化学反応式である。
【0032】
【数12】
各係数、a=2、b=5、c=4、d=5、e=1となるため、ΔHFOと酸素濃度mとの関係について、式(11)を次の式(13)に書き換えられる。
【0033】
【数13】
仮に、HFO―1234yfのガス量HFO
oが10molに対して、空気のガス量が90molで混合した絶縁ガスの場合に、放電によりHFO―1234yfガスの減少量ΔHFO(単位mol)と酸素濃度m(mol/mol、単位%)との関係を
図1に示す。
図1は、式(13)に基づいて放電後のΔHFOと酸素濃度mを計算した結果を示すΔHFOと酸素濃度mとの相関関係を示す図である。
【0034】
図1において、初期状態を点X
o、繰り返し放電による放電後の状態を点X
5で示す。
放電回数の増加により、矢印Xで示すように、初期状態X
oから放電後の状態X
5へと変わる
。初期状態X
oから放電後の状態X
5へ、HFO―1234yfとO
2は放電により反応して消費され、HFO―1234yfのガス量が減少し、縦軸に示すHFO―1234yfの減少量ΔHFOが増加し、横軸に示す酸素濃度mが減少する傾向となる。
【0035】
放電前の初期状態X
oでは、絶縁ガス全体の合計ガス量は100molである。絶縁ガスにおけるHFO―1234yfのガス量HFO
oは10molである。空気中のO
2が21%とすると、初期状態のO
2のガス量O
oは18.9molであり、初期状態の絶縁ガスにおける酸素濃度mは18.9%である。なお、空気中にN
2、CO
2、Arなどが79%占めるため、合計ガス量N
oは放電前後とも71.1molとなる。
図1に示すように、初期状態X
oにおいて、ΔHFOが0molに対して酸素濃度mは18.9%である。
【0036】
式(4)~(7)に基づいて、放電により、HFO―1234yfが1mol消費され、ΔHFOが1molの場合、O2の減少量ΔOは2.5molとなる。HFは2mol、CO2は2.5mol、CF4は0.5mol生成される。生成ガスの合計が5molになる。
【0037】
さらに放電が続き、放電後の状態X5となる。式(4)~(7)に基づいて、HFO―1234yfが5mol消費されると、空気中のO2は12.5mol消費される。HFは10mol、CO2は12.5mol、CF4は2.5mol生成される。HFO―1234yfとO2は合計17.5mol消費される。生成ガスの合計が25molになる。絶縁ガス全体の合計ガス量は、初期の100molに対し、放電後は107.5molになる。
【0038】
放電により、HFO―1234yfが初期の10molから5mol消費されて5molになる。ΔHFOが5molである。HFO―1234yfのガス濃度は、初期の10%に対して、放電後の4.65%(=5mol/107.5mol)になる。
O
2の量は、初期の18.9molに対し、放電によりΔOが12.5mol消費されて6.4molになる。酸素濃度mは、初期の18.9%に対して、放電後の5.95%(=6.4mol/107.5mol)になる。
図1に示すように、放電後の状態X
5において、ΔHFOが5molに対して酸素濃度mは5.95%である。
【0039】
図1に示すように、HFO―1234yfガスの減少量ΔHFOと酸素濃度mとは1次直線的な相関関係がある。放電によりHFO―1234yfと酸素とが消費され、分解ガスなどの生成ガスが生成し、絶縁ガス全体のガス量が変化するが、式(13)に基づいて、絶縁ガス中の酸素濃度mからΔHFOを推算することができる。
HFO―1234yf以外のほかの種類のHFOの場合においても同様に、式(11)に基づいて、絶縁ガス中の酸素濃度mからΔHFOを推算することができる。
【0040】
このように、酸素濃度から有機フッ素化合物のガス量を推算できるため、酸素濃度と耐電圧とも相関関係となり、絶縁ガスにおける酸素濃度により絶縁ガスの劣化度合を評価できる。分解ガスの信号干渉により精度良く測定できない有機フッ素化合物のガス濃度の代わりに、簡易な酸素濃度の測定を実施するため、従来技術より絶縁ガスの劣化度合の評価精度を向上することが可能である。
【0041】
本開示の発明者は、有機フッ素化合物の一種とドライエアとを混合したガスを絶縁ガスとして用いるガス絶縁機器の実機を模擬した装置において放電試験を行い、放電後の有機フッ素化合物のガス濃度をGC-MSにより定量分析、酸素濃度を検知管により計測を実施した。放電回数の増加に伴い、有機フッ素化合物のガス濃度と酸素濃度との間には、1次直線に近似する相関関係を示している。これにより、絶縁ガスにおける酸素濃度により当該絶縁ガス中の有機フッ素化合物のガス量を評価できることを検証した。
【0042】
なお、HFOと空気とを混合した絶縁ガスは放電により、上記の式(1)、式(12)の化学反応式に示す生成ガスのほかに、CO(一酸化炭素)、H2O(水)等が生成する場合がある。CO、H2O等は、混合した絶縁ガスにおける主要生成ガスの比率に比べて微量である場合、絶縁ガス全体のガス量への影響を考慮しなくても良い。上記の説明ではCO、H2O等の生成ガスの影響は考慮しない場合における有機フッ素化合物と酸素濃度との相関関係である。
【0043】
一方、有機フッ素化合物の種類によって、生成されたCOとH2O等の生成ガスの影響を考慮しないといけない場合がある。また、ガス絶縁機器に設置される吸着剤の種類により、有機フッ素化合物から生成された分解ガス等が吸着される場合もある。これらのガスにより、絶縁ガス全体のガス量が影響されるため、式(11)に示すような原理的な相関関係ではない可能性がある。
ただし、ガス絶縁機器において、放電により絶縁ガス中の有機フッ素化合物ガスと酸素とは反応して消費されるため、測定される絶縁ガスにおける酸素濃度により当該絶縁ガス中の有機フッ素化合物のガス量を反映するため、絶縁ガスの劣化度合を評価することができる。
【0044】
絶縁ガスの劣化度合の評価精度を高めるため、ガス絶縁機器の実機または実機を模擬した装置により、絶縁ガスの劣化度合と絶縁性能を確保できる状態との関係を予め測定することが望ましい。すなわち、放電による有機フッ素化合物ガスの減少量を反映する酸素濃度と、絶縁ガスの絶縁性能を表す耐電圧との関係を予め測定しておくことが望ましい。
【0045】
図2は、ガス絶縁機器の実機または実機を模擬した装置を用いて、使用開始前の初期状態における酸素濃度と耐電圧、および一定期間の使用を模擬した放電試験により絶縁ガス中の酸素濃度と耐電圧の関係を示す概念図である。
図2において、横軸は酸素濃度m(単位%)、縦軸は耐電圧V(単位kv)である。
図2に示す、酸素濃度mと耐電圧Vとの関係を示すデータの取得は、ガス絶縁機器の実機を模擬した試験用チャンバーに、有機フッ素化合物とドライエアとを混合した絶縁ガスを入れ、繰り返し放電の回数、電流、および電圧を変え、都度耐電圧Vと酸素濃度mを測定する。
【0046】
図2において、放電前の初期状態を点Y
oで示す。繰り返し放電により、絶縁ガス中の有機フッ素化合物と酸素が消費され、絶縁ガスが劣化して絶縁性能が低下していく。絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる絶縁ガスの使用限界に達した状態となる絶縁性能下限状態を点Y
thで示す。
放電回数の増加により、矢印Yで示すように、初期状態Y
oから絶縁性能下限状態Y
thへと変わる。初期状態Y
oから絶縁性能下限状態Y
thへ、横軸に示す酸素濃度mが減少し、縦軸に示す耐電圧Vが低下する傾向となる。
【0047】
初期状態Yoにおいて、酸素濃度は初期酸素濃度mo、対応する耐電圧は初期耐電圧Voとなる。
絶縁性能下限状態Ythにおいて、絶縁性能の下限状態を示す耐電圧の下限値は耐電圧閾値Vthとなり、この状態における酸素濃度は酸素濃度閾値mthとなる。この絶縁ガスにおける酸素濃度閾値mthは、耐電圧と酸素濃度との関係より決定されており、必要な絶縁性能を確保できる酸素濃度の下限値となる。耐電圧閾値Vthは、ガス絶縁機器の仕様によるものである。
【0048】
ガス絶縁機器の実機または実機を模擬した装置を用いて、まずは、初期状態Y
oにおける初期耐電圧V
oと初期酸素濃度m
oとを測定しておく。この後、繰り返し放電を行い、都度放電後の耐電圧Vと酸素濃度mとを測定する。耐電圧Vと酸素濃度mとの関係に基づいて、耐電圧閾値V
thに対応する酸素濃度閾値m
thを予め求めておく。
図2において、絶縁性能下限状態Y
thにおいて、必要な絶縁性能の下限状態を表す耐電圧の値は耐電圧閾値V
thとなり、耐電圧閾値V
thに対応する酸素濃度は酸素濃度閾値m
thとなる。
【0049】
酸素濃度閾値mthを求める時の酸素濃度mの測定は、ガス絶縁機器の実際の使用状態における絶縁ガスの劣化診断に実施される酸素濃度測定と同様な測定方法で行う必要がある。これにより、分解ガス及びガス絶縁機器に設置される吸着剤等による影響を取り入れた状態で酸素濃度を測定できるため、実際の使用状態における絶縁ガスの劣化度合の評価精度を高めることが可能となる。
ガス絶縁機器に使用される絶縁ガスの劣化診断において、絶縁ガスにおける酸素濃度mを測定し、予め取得しておいた酸素濃度閾値mthと比較することで、絶縁ガスが必要な絶縁性能を確保できる状態であるかを判断する。
【0050】
以下、本開示に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書で使用する各図においては、共通する要素に同一の符号を付けるものとする。また、本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。
【0051】
実施の形態1.
図3は本開示の実施の形態1に係るガス絶縁機器1の構成を示す構成図である。
図3に示すように、ガス絶縁機器1は、有機フッ素化合物と空気などの酸素を含むガスとを混合したガスを絶縁ガスとして封入された接地タンク2と、接地タンク2に接続された診断装置3とを有する。
ガス絶縁機器1は、例えばGIS(Gas Insulated Switchgear、ガス絶縁開閉装置)であり、接地タンク2には断路器,遮断器等の開閉機器が収納されている。
【0052】
接地タンク2は、例えば、ガス区分され絶縁ガスが封入されたガス室が複数設けられる構成でも良い。接地タンク2内に封入された絶縁ガスは、以下では、有機フッ素化合物ガスであるハイドロフルオロオレフィンガスと空気とを混合したガスが使用されることを例として説明する。
ガス絶縁機器1の使用に伴い、放電により生成される、ハイドロフルオロオレフィンガスの分解または酸化による生成ガスが増加し、絶縁ガスの劣化が発生する。診断装置3は、接地タンク2内に封入される絶縁ガスにおける酸素濃度を測定することにより、絶縁ガスの劣化度合を診断するガス絶縁機器1の診断装置となる。
【0053】
接地タンク2には検査用の絶縁ガスを取り出すための流出バルブ4が接続されている。診断装置3は、流出バルブ4を介して接地タンク2に接続される。接地タンク2内に封入される絶縁ガスを流出させる以外、流出バルブ4は常時閉の状態となる。
診断装置3に設置された流量調整バルブ5は流出バルブ4に接続されており、接地タンク2から流出バルブ4を介して診断装置3に流入する絶縁ガスの流量を調整する。なお、流量調整バルブ5は流出バルブ4に接続された状態であれば、診断装置3の外側に設置されても良い。
また、診断装置3は接地タンク2に常時に接続されなくても良い。接地タンク2内に封入される絶縁ガスにおける酸素濃度を測定する際に、診断装置3は流出バルブ4を介して接地タンク2に接続する。
【0054】
次に、診断装置3の構成について説明する。
図3に示すように、診断装置3は、HFガス吸着部11と、有機ガス吸着部12と、酸素濃度測定部13と、診断部16と、流量計17と、ガス放出口18とが設けられている。
図3に示す矢印は絶縁ガスの流れ方向6を表している。診断装置3において、接地タンク2から流出する絶縁ガスは、HFガス吸着部11および有機ガス吸着部12を経由して、酸素濃度測定部13に流入する順となる。また、酸素濃度測定部13から流出する絶縁ガスは流量計17に流入し、最終的にはガス放出口18から大気に放出される。絶縁ガスは地球温暖化対策上有利な有機フッ素化合物と空気などの酸素を含むガスとを混合したものであるため、大気へ放出することができる。
【0055】
酸素濃度測定部13は、絶縁ガスが流入する酸素測定室14と、酸素測定室14に設置され、絶縁ガスにおける酸素濃度を測定する酸素濃度計15とを含む。酸素濃度測定部13の酸素濃度計15は、例えば、ジルコニア式酸素濃度計を用いている。
流量計17を介して酸素測定室14に接続するガス放出口18を設けることにより、酸素測定室14における気圧を大気圧にする。絶縁ガスは酸素測定室14から流量計17を通り、ガス放出口18から大気に開放され、酸素測定室14において絶縁ガスの圧力は大気圧と同様に、約1気圧である。このため、気圧の影響に対する校正の必要がなく、酸素濃度計15により絶縁ガスにおける酸素濃度を正確に測定することができる。
【0056】
診断装置3は、酸素濃度測定部13の酸素測定室14に流入する絶縁ガスにおける酸素濃度を酸素濃度計15により測定し、診断部16にて測定された酸素濃度に基づいて絶縁ガスの劣化度合を判定する。
診断部16は、酸素濃度計15に接続されており、酸素濃度計15から出力された酸素濃度の測定結果と、予め入力された所定の酸素濃度閾値mthとを比較することにより、絶縁ガスの劣化度合を判定する。
【0057】
診断部16は、酸素濃度が所定の酸素濃度閾値mth以上の場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる状態と判定する。すなわち、この場合、診断部16は、絶縁ガスはまだ使用可能であり、使用限界に達していない状態と判定する。一方、診断部16は、酸素濃度が所定の酸素濃度閾値mthより小さい場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態と判定する。すなわち、この場合、診断部16は、絶縁ガスの劣化度合は使用限界に達した状態と判定する。
また、診断部16は、酸素濃度が所定の酸素濃度閾値mthより小さく、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態と判定した場合、絶縁ガスの劣化度合が使用限界に達したとのアラームを発信することができる。
【0058】
さらに、診断部16は、絶縁ガスの劣化度合を示す酸素濃度劣化値Zを式(14)により算出することができる。
【0059】
【数14】
酸素濃度劣化値Z(単位%)は、初期状態となるガス絶縁機器使用前の絶縁ガスにおける初期酸素濃度m
oと酸素濃度閾値m
thとの差に対する酸素濃度mと酸素濃度閾値m
thとの差の割合である。診断部16は、酸素濃度劣化値Zに基づいて、絶縁ガスの劣化度合の判定処理を行う。
【0060】
初期状態では酸素濃度mは初期酸素濃度moであるため、Z=100%であり、酸素濃度mが酸素濃度閾値mthまで低減すると、Z=0%である。酸素濃度劣化値Zが小さいほど、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態に近くなることを表す。
酸素濃度劣化値Zそのものを表示してもよいし,いくつかの区分に分けて酸素濃度劣化値Zの数値の意味合いを表示してもよい。これらの表示方法により,絶縁ガスの劣化具合を,直感的に把握しやすくなる。
例えば、Z=100~40%の場合は「正常」と表示し、Z=40~20%の場合は「メンテナンス時期が近づいています」と表示し、Z=20~0%の場合は「メンテナンスを早急に行ってください」と表示し,Zが0%以下の場合には,「装置を停止し,直ちにメンテナンスを行ってください」と表示することができる。必要に応じて判定条件を複数の区分に分けて絶縁ガスの劣化度合を表示しても良い。このように、酸素濃度mが酸素濃度閾値mthに対する比較ではなく、酸素濃度mが初期酸素濃度moと酸素濃度閾値mthとの比較結果に応じて、絶縁ガスの劣化度合を表示することができる。
【0061】
次に、診断装置3に設けられた吸着部であるHFガス吸着部11及び有機ガス吸着部12について説明する。
HFガス吸着部11は、絶縁ガスに含まれるハイドロフルオロオレフィンガスの分解ガスのHFガスをHFガス吸着材より吸着させるHFガス吸着部となる。有機ガス吸着部12は、絶縁ガスに含まれる有機ガスを有機ガス吸着材より吸着させる有機ガス吸着部となる。ハイドロフルオロオレフィンガスと空気とを混合した絶縁ガスはHFガス吸着部11と有機ガス吸着部12とを経由してから酸素濃度測定部13にて酸素濃度が測定されることが好ましい。
ハイドロフルオロオレフィンガスの分解ガスのHFガスは、酸素濃度計15のプローブにダメージを与えるため、予めHFガス吸着部11で除去しておく。HFガス吸着部11には、分解ガスのHFガスを除去するため、HFガスを吸着する吸着材、例えば、酸化カルシウム(CaO)粒などが充填されている。
【0062】
また、絶縁ガス中の有機フッ素化合物は、酸素濃度計15のプローブの熱により酸化反応が発生し、酸素が消費される可能性がある。実際の絶縁ガスにおける酸素濃度の測定精度に影響するため、予め有機ガス吸着部12で除去しておく。
有機ガス吸着部12には、絶縁ガスに含まれる有機ガスを吸着する有機ガス吸着材、例えば、ゼオライトまたは活性炭が充填されている。
ここで、有機ガスは、絶縁ガスの成分である有機フッ素化合物、有機フッ素化合物の分解ガス中の有機物ガス、および不純物ガス中の有機物を含む。例えば、絶縁ガス中の有機フッ素化合物がハイドロフルオロオレフィンガスである場合、ハイドロフルオロオレフィンガス、分解ガス中のCF4、および混合した絶縁ガスにおける不純物ガス中の有機物は有機ガスであり、有機ガス吸着部12で除去する。
【0063】
また、HFガスにより、有機ガス吸着部12に詰められているゼオライト等に対するダメージを防ぐため、絶縁ガスを有機ガス吸着部12より先にHFガス吸着部11に通過させることが好ましい。このため、有機ガス吸着部12を、HFガス吸着部11と酸素濃度測定部13との間に設け、接地タンクから採取された絶縁ガス中のHFガスをHFガス吸着材により吸着させてから、絶縁ガス中の有機ガスを有機ガス吸着材により吸着させる順にする。
なお、酸素濃度測定部13の酸素濃度計15は、HFガスと有機ガスが除去された残りの絶縁ガスが混合ガスであっても、絶縁ガスにおける酸素濃度を精度よく測定することができる。
【0064】
酸素濃度測定部13の流れ方向6の先に、流量計17が接続されている。流量計17は例えば、積算流量計が用いられる。
接地タンク2から診断装置3に絶縁ガスを流入する前に、流出バルブ4から酸素濃度測定部13までの接続チューブ、吸着部等の隙間には、残留ガスが存在する。絶縁ガスの測定にはこれらの隙間にある残留ガスを絶縁ガスで置換する必要がある。このため、少なくともこれらの隙間の体積分以上の残留ガスを含んだ絶縁ガスを大気へ放出してから、酸素濃度測定部13にて酸素濃度を計測する。
【0065】
酸素濃度測定部13に酸素濃度の測定に供給される絶縁ガスは残留ガスを含まないものであることを確認するため、流量計17により、酸素濃度測定部13の酸素測定室14から流出する絶縁ガスの流量を計測する。計測される絶縁ガスの流量(単位m3/s)および流出時間(単位s)の積から、酸素測定室14から流出する絶縁ガスの流出量(単位m3)を求める。酸素測定室14から流出する絶縁ガスの流出量はこれらの隙間の体積より多く、残留ガスを含む絶縁ガスの完全流出を確認する。
【0066】
図3に示す診断装置3において、流量計17は、酸素測定室14とガス放出口18との間に設けられており、酸素測定室14に流出する絶縁ガスの流量を計測し、ガス放出口18から放出する絶縁ガスの流量を計測するものでもある。
なお、酸素測定室14の前後において、絶縁ガスの流量に差がないため、流量計17は酸素測定室14と吸着部との間に設置しても良い。
また、流量計17は,吸着部より絶縁ガスの流れ方向6の上流側、例えば流量調整バルブ5とHFガス吸着部11との間に設置してもよい。このとき,流量計17が絶縁ガスに含まれる生成ガスにより損傷しない材質で構成し,かつ,吸着部でのガス吸着による流量の減少分を考慮することが必要である。
【0067】
次に、診断装置3における各構成の接続関係について説明する。
図3に示すように、接地タンク2と診断装置3のHFガス吸着部11とは、流出バルブ4、流量調整バルブ5、第1接続チューブ31、第1バルブ32を介して接続されている。
診断装置3のHFガス吸着部11と有機ガス吸着部12とは、第2バルブ33、第2接続チューブ34、および第3バルブ35を介して接続されている。
有機ガス吸着部12と酸素濃度測定部13とは、第4バルブ36および第3接続チューブ37を介して接続されている。
酸素濃度測定部13と流量計17とは、第4接続チューブ38を介して接続されている。
【0068】
診断装置3に設けられている複数のバルブは部品間を遮断するためのものである。HFガス吸着部11の前後にそれぞれ設けられている第1バルブ32と第2バルブ33は、例えば、使用時以外は閉の状態にすることにより、HFガス吸着部11に詰められるHFガス吸着剤を外気と遮断し、吸着剤の変質による吸着性能の低下を防ぐことができる。また、有機ガス吸着部12の前後にそれぞれ設けられている第3バルブ35と第4バルブ36は、使用時以外は閉の状態にすることにより、有機ガス吸着部12に詰められるゼオライトまたは活性炭が変質による吸着性能の低下を防ぐことができる。
【0069】
なお、診断装置3の各部の間に設けられているバルブを必要に応じて設ければ良いが、接続構成により省略することも可能である。例えば、HFガス吸着部11と有機ガス吸着部12とが互いに隔離された状態で一体型となる場合、HFガス吸着部11と有機ガス吸着部12との間の第2バルブ33と第3バルブ35は、少なくとも1つは省略することが可能である。
【0070】
次に、ガス絶縁機器1における絶縁ガスの劣化度合を診断する診断方法について、
図4を用いて説明する。
図4は、実施の形態1に係るガス絶縁機器1の診断装置である診断装置3による絶縁ガスにおける酸素濃度を測定し、絶縁ガスの劣化度合を診断する診断方法を実施する診断処理の流れを示す図である。
【0071】
ガス絶縁機器1における絶縁ガスの劣化度合についての診断処理の作業を開始する前に、流出バルブ4、および流量調整バルブ5は閉の状態となる。作業を開始すると、ガス絶縁機器1の診断処理はステップS1へと移行する。
ステップS1では、接地タンク2内に封入される絶縁ガスを診断装置3に流入させるため、第1バルブ32、第2バルブ33、第3バルブ35、および第4バルブ36を開の状態にする。
【0072】
次に、ガス絶縁機器1の診断処理はステップS2へと移行する。
ステップS2では、先に流出バルブ4を開の状態にし、次に流量調整バルブ5を調整しながら開の状態にし、接地タンク2内に封入される絶縁ガスを診断装置3に流入させる。
この時、流量計17で計測される絶縁ガスの流量を確認しながら、絶縁ガスの流量が所定の流量になるように、流量調整バルブ5を調整する。ここで、所定の流量とは、例えば、HFガス吸着部11、有機ガス吸着部12による吸着効率を高めるために最適化されたガスの供給量である。
【0073】
次に、ガス絶縁機器1の診断処理はステップS3へと移行する。
ステップS3では、絶縁ガスを診断装置3に流入させるように所定の待機時間が経過するまで待機する。接地タンク2から診断装置3へ、絶縁ガス中のHFガスをHFガス吸着材により吸着させ、および、絶縁ガス中の有機ガスを有機ガス吸着材により吸着させてから、絶縁ガスを診断装置3に流入させる。
この時、流出バルブ4から酸素濃度測定部13までの接続チューブ、吸着部等の隙間の残留ガスを絶縁ガスで置換が完了するまで待機する。流量計17で計測される酸素測定室14から流出する絶縁ガスの流量に基づいて、残留ガスを含んだ絶縁ガスの完全流出を確認する。このように、酸素測定室14に供給される前記絶縁ガスの流量を計測し、酸素濃度が測定される絶縁ガスは残留ガスが含まれないものを確認してから、酸素濃度mを測定する次のステップに進む。
ステップS1~S3は、接地タンク2から絶縁ガスを採取するガス採取ステップとなる。
【0074】
次に、ガス絶縁機器1の診断処理はステップS4へと移行する。
ステップS4は、酸素濃度測定部13に流入する絶縁ガスにおける酸素濃度mを測定する酸素濃度測定ステップである。
接地タンク2から流出する絶縁ガスは、流出バルブ4、流量調整バルブ5、第1接続チューブ31および第1バルブ32を介してHFガス吸着部11に流入する。絶縁ガスは、HFガス吸着部11にて吸着材よりHFガスが除去される。続いて、HFガス吸着部11から流出する絶縁ガスは有機ガス吸着部12に流入し、有機ガス吸着部12にて吸着材より有機ガスが除去される。
【0075】
残留ガスを含んだ絶縁ガスを大気に放出した後、酸素測定室14に流入する残留ガスを含まない絶縁ガスは、HFガスおよび有機ガスが除去された残りの絶縁ガスである。酸素測定室14に設置された酸素濃度計15により、この残りの絶縁ガスにおける酸素濃度mを精度よく測定することができる。
酸素濃度測定部13で絶縁ガスにおける酸素濃度mを測定した後、酸素濃度測定部13から流出する絶縁ガスは、流量計17を通り、ガス放出口18から大気へ放出される。
【0076】
酸素濃度mの測定を終了した後、ガス絶縁機器1の診断処理はそれぞれステップS5、ステップS6へと移行する。
ステップS5では、流出バルブ4、および流量調整バルブ5を閉の状態にする。ステップS6は絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態であるか否かと判定する診断ステップである。ステップS5とステップS6は順番を前後にする制限がなく、酸素濃度測定ステップ完了後に実行すれば良い。
【0077】
ステップS6では、ステップS4で測定された酸素濃度mが診断部16に入力される。診断部16は、測定された酸素濃度mと予め入力された酸素濃度閾値mthとを比較し、絶縁ガスの劣化度合の判定処理を実行する。
診断部16は、m≧mth、酸素濃度mが酸素濃度閾値mth以上の場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる状態と判定し、ステップS7へと移行する。ステップS7では、絶縁ガスの継続使用が可能であることを示し、例えば「絶縁ガス継続使用」とのサインを発信する。
また、診断部16は、m<mth、酸素濃度mが所定の酸素濃度閾値mthより小さい場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態と判定し、ステップS8へと移行する。ステップS8では、絶縁ガスの劣化度合が使用限界に達したとのアラームを発信するアラーム発信ステップとして、例えば、絶縁ガスの交換を催促するための「絶縁ガス交換」とのサインを発信する。
また、診断部16は、式(14)を用いて酸素濃度劣化値Zを算出し、酸素濃度劣化値Zに基づいて、複数の区分に分けて絶縁ガスの劣化度合を表示しても良い。
これでガス絶縁機器1の絶縁ガスの診断処理を終了する。
【0078】
上述のように、ガス絶縁機器1またはガス絶縁機器1を模擬した装置を用いて所定の使用期間を模擬した放電試験を行った状態において、耐電圧Vと酸素濃度mとを測定し、耐電圧Vと酸素濃度mとの関係から耐電圧閾値Vthに対応する酸素濃度閾値mthを予め求めておく。酸素濃度mの測定は、ガス絶縁機器1の実際の使用状態における酸素濃度mの測定方法と同じ測定条件で行う。
すなわち、実施の形態1の場合では、HFガスと有機ガスが除去された絶縁ガスを約1気圧の状態にし、酸素測定室にて酸素濃度計により絶縁ガスにおける酸素濃度mを測定し、耐電圧の測定データと合わせて酸素濃度閾値mthを予め求めておく。
【0079】
実施の形態1の場合では、酸素測定室14に流入する絶縁ガスはHFガスおよび有機ガスが除去されたガスである。このため、酸素濃度計15により酸素濃度の測定は、HFガスおよび有機ガスが除去された絶縁ガスにおける酸素濃度を測定するものである。この場合、放電により有機フッ素化合物ガスの減少量は、HFガスおよび有機ガスが除去された絶縁ガスにおける酸素濃度mにより定量的に評価できる。
例えば、ハイドロフルオロオレフィンガスと空気を含むガスとを混合した絶縁ガスを用いる場合、ΔHFOは、式(11)を用いて、係数c=0、e=0とすることにより、酸素濃度mにより定量的に評価できる。
【0080】
ガス絶縁機器1における絶縁ガスの劣化度合を診断する診断方法を実施するタイミングとして、年次検査などの定期的な検査タイミング、または絶縁性能低下の症候がある際に都度評価することが可能である。
また、診断装置3は、耐電圧の確認作業が必要な時に都度セットしてもよいし、ガス絶縁機器1に常設してもよい。常設の場合は、流出バルブ4、および流量調整バルブ5等を遠隔操作し、流量計17で計測された絶縁ガスの流量の値と酸素濃度測定部13で計測された酸素濃度の値をリアルタイムで遠隔で受信することで、遠隔での耐電圧の確認が可能になる。これにより、世界中に点在する各社のガス絶縁機器の耐電圧を、メンテナンス会社の1拠点から、速やかに確認することが可能になる。また、ガス絶縁機器1が設置された現場で絶縁ガスの劣化診断を作業する場合、作業者は分析技術などの専門知識を有してなくても処理が可能である。これにより、絶縁ガスの劣化度合についての診断効率を高めることができる。
【0081】
実施の形態1に係るガス絶縁機器の診断装置、ガス絶縁機器の診断方法によれば、絶縁ガスにおける酸素濃度を計測することによりガス絶縁機器に封入される絶縁ガスの劣化度合を評価するため、従来技術と比較して、分解ガスからの信号干渉により有機フッ素化合物のガス濃度を正確に測定できないことを回避でき、絶縁ガスの劣化度合の評価精度を向上することができる。
実施の形態1に係る診断方法を用いるガス絶縁機器によれば、地球温暖化対策上有利な有機フッ素化合物と空気などの酸素を含むガスとを混合した絶縁ガスを使用し、ガス絶縁機器に封入される絶縁ガスにおける酸素濃度を測定することによりガス絶縁機器に封入される絶縁ガスの劣化度合を評価するため、従来技術と比較して、分解ガスからの信号干渉により有機フッ素化合物のガス濃度を正確に測定できないことを回避でき、絶縁ガスの劣化度合の評価精度を向上することができる。また、絶縁ガスの劣化度合についての診断効率を高めることを可能である。
【0082】
実施の形態2.
実施の形態2では、本開示の実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を使用し、同一または対応する部分についての説明は省略する。以下、図面を参照して、実施の形態2に係るガス絶縁機器100について説明する。
【0083】
図5は本開示の実施の形態2に係るガス絶縁機器100の構成を示す構成図である。ガス絶縁機器に封入される絶縁ガス中の酸素濃度を測定するため、実施の形態1では酸素濃度計が用いられるのに対して、実施の形態2に係るガス絶縁機器100ではガス検知管が用いられる。
図5に示すように、ガス絶縁機器100は、絶縁ガスが封入された接地タンク2と、接地タンク2に接続された診断装置103とを有する。
【0084】
診断装置103は、接地タンク2内に封入される絶縁ガスにおける酸素濃度を測定することにより、絶縁ガスにおける絶縁ガスの劣化度合を診断するガス絶縁機器100の診断装置となる。
診断装置103は、流出バルブ4を介して接地タンク2に接続される。診断装置103は、ガス採取部50と、酸素濃度を測定する酸素濃度測定部60とを有する。
【0085】
診断装置103に設置された流量調整バルブ5は流出バルブ4に接続されており、接地タンク2から流出バルブ4を介して診断装置103に流入する絶縁ガスの流量を調整する。なお、流量調整バルブ5は流出バルブ4に接続された状態であれば、診断装置103の外側に設置されても良い。
また、
図5において、矢印は絶縁ガスの流れ方向56を示している。絶縁ガスは、接地タンク2からガス採取部50へ、さらに酸素濃度測定部60へと流れる。
【0086】
ガス採取部50は、絶縁ガスを採取するガス採取袋21が設けられている。ガス採取袋21はフレキシブルであるため、ガス採取袋21に流入する絶縁ガスの圧力は、周囲の大気と同じ1気圧となる。ガス検知管22に供給される絶縁ガスの圧力は1気圧であり、圧力差による影響がないため、ガス検知管22により酸素濃度を正確に測定することができる。
【0087】
酸素濃度測定部60は、酸素濃度を測定するガス検知管22、および絶縁ガス吸引用の吸引器23を有する。ガス検知管22は、例えば、ガステック製ガス検知管No.31Bを用いる。このガス検知管は、絶縁ガスにおいて、測定対象である酸素の他に、有機フッ素化合物ガスであるハイドロフルオロオレフィンガス、および有機フッ素化合物ガスの分解ガスなどが共存しても、絶縁ガスにおける酸素濃度が測定できる。吸引器23はガス検知管22に絶縁ガスを吸引するように、絶縁ガスの流れ方向56においてガス検知管22の先に設けられている。
【0088】
接地タンク2とガス採取部50のガス採取袋21とは、流出バルブ4、流量調整バルブ5、採取袋接続チューブ41、採取袋流入バルブ42を介して接続されている。
ガス採取袋21とガス検知管22とは、採取袋流出バルブ43、検知管接続チューブ44を介して接続されている。
【0089】
また、診断装置103は、診断部26を有する。診断部26は、ガス検知管22で測定された酸素濃度に基づいて、絶縁ガスの劣化度合を判定する。ガス検知管22で測定された酸素濃度は、自動または診断処理を行う作業者により手動で診断部26に入力される。診断部26は、測定された酸素濃度が所定の酸素濃度閾値以上の場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できる状態と判定し、酸素濃度が所定の酸素濃度閾値より小さい場合、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態と判定する。
また、診断部26は、酸素濃度が所定の酸素濃度閾値より小さく、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態と判定した場合、絶縁ガスの劣化度合が使用限界に達したとのアラームを発信することができる。
また、実施の形態1に係る診断部16と同様に、診断部26は、式(14)を用いて酸素濃度劣化値Zを算出し、酸素濃度劣化値Zに基づいて、複数の区分に分けて絶縁ガスの劣化度合を表示しても良い。
【0090】
なお、実施の形態1と同様に、診断装置103は、ガス絶縁機器100に常設される必要がなく、耐電圧の確認作業が必要な時に都度セットすれば良い。
また、ガス採取部50と酸素濃度測定部60とを常時接続の状態にしなくても良い。この場合、ガス採取部50を接地タンク2に接続した状態で、ガス採取袋21により絶縁ガスを採取しておく。接地タンク2にから絶縁ガスの採取完了後に、ガス採取袋21を接地タンク2から外し、
図6に示すように、酸素濃度測定部60のガス検知管22に接続して酸素濃度測定を行うことができる。
図6に示すように、ガス採取部50のガス採取袋21は、両端に採取袋流入バルブ42と採取袋流出バルブ43が取り付けられている状態で持ち出すことが可能である。例えば、複数の接地タンクからガス採取袋によりそれぞれの絶縁ガスを採取してから、まとめてガス検知管により酸素濃度の測定を行うことができる。これにより、ガス絶縁機器の絶縁ガスの劣化度合についての診断効率を高めることが可能である。
【0091】
次に、ガス絶縁機器100における絶縁ガスの劣化度合を診断する診断方法について、
図7を用いて説明する。
図7は、実施の形態2に係るガス絶縁機器100の絶縁ガスの劣化度合を診断する診断方法を実施する診断処理の流れを示す図である。
図7は、最初にガス採取部50と酸素濃度測定部60とが接続されない状態で、ガス採取部50のガス採取袋21により絶縁ガスを採取しておく。絶縁ガスの採取完了後に、ガス採取部50と酸素濃度測定部60とを接続して酸素濃度を測定する流れを示すものである。
【0092】
ガス絶縁機器100の絶縁ガスの診断処理を開始する前に、流出バルブ4、および流量調整バルブ5は閉の状態である。作業を開始すると、ガス絶縁機器100の診断処理はステップS11へと移行する。
ステップS11では、接地タンク2内に封入される絶縁ガスをガス採取袋21に流入させる準備を行う。このため、採取袋流入バルブ42を開の状態にし、採取袋流出バルブ43を閉の状態にする。
【0093】
次に、絶縁ガスの診断処理はステップS12へと移行する。
ステップS12では、先に流出バルブ4を開の状態にし、次に流量調整バルブ5を調整しながら開の状態にし、接地タンク2内に封入される絶縁ガスをガス採取袋21に流入させる。ガス採取袋21を膨張させた後、流量調整バルブ5を一旦閉める。
【0094】
次に、絶縁ガスの診断処理はステップS13へと移行する。
ステップS13では、採取袋流出バルブ43を開の状態にし、ガス採取袋21に残留された空気を含む絶縁ガスを放出する。S12、S13はガス採取袋21に残留された空気を除去するためのステップである。S12、S13を複数回繰り返すことにより、ガス採取袋21に残留された空気を除去しても良い。また、ガス採取袋21に残留された空気を手動で押し出しても良い。
【0095】
次に、絶縁ガスの診断処理はステップS14へと移行する。
ステップS14では、採取袋流出バルブ43を閉の状態にし、流量調整バルブ5を調整しながら開の状態にし、接地タンク2内に封入される絶縁ガスをガス採取袋21に流入させて採取する。ガス採取袋21に絶縁ガスを所定の容量で充填させた後、流出バルブ4、流量調整バルブ5および採取袋流入バルブ42を閉の状態にする。ここで、所定の容量とは、ガス検知管22で酸素濃度を測定する際に使用するガスの容量より多いことである。例えば、ガス検知管22で酸素濃度を測定する際に使用するガスの容量の2倍である。
ステップS11~S14は、接地タンク2から絶縁ガスを採取するガス採取ステップである。
【0096】
次に、ガス採取袋21に採取された絶縁ガスにおける酸素濃度を測定する酸素濃度測定ステップに進む。絶縁ガスの診断処理はステップS15へと移行する。
ステップS15では、
図6に示すように、ガス採取袋21を両端に設けられた採取袋流入バルブ42と採取袋流出バルブ43とが閉の状態で接地タンク2から外し、酸素濃度測定部60のガス検知管22に接続する。
【0097】
次に、絶縁ガスの診断処理はステップS16へと移行する。
ステップS16では、ガス検知管22に取り付けた吸引器23を用いてガス採取袋21に採取された絶縁ガスを吸引し、ガス検知管22に絶縁ガスを流入させる。吸引器23を事前に引っ張って中を真空にしておく。採取袋流入バルブ42が閉の状態で、採取袋流出バルブ43を開き、吸引器23の中が大気圧に戻るまでガス採取袋21からガス検知管22に絶縁ガスが流れ、ガス検知管22に絶縁ガスを充填させる。
図6において、矢印はガス採取袋21に採取された絶縁ガスがガス検知管22へと流れる流れ方向66を示している。
【0098】
次に、絶縁ガスの診断処理はステップS17へと移行する。
ステップS17は、ガス検知管22に流入する絶縁ガスにおける酸素濃度mを測定する酸素濃度測定ステップである。
【0099】
酸素濃度mの測定を終了した後、絶縁ガスの診断処理はステップS18へと移行する。
ステップS18では、絶縁ガスの劣化度合が必要な絶縁性能を確保できない状態であるか否かと判定する診断ステップである。ステップS18では、ステップS17で測定された酸素濃度mが診断部26に入力される。診断部26は、測定された酸素濃度mと予め入力された酸素濃度閾値mthとを比較し、絶縁ガスの劣化度合の判定処理を実行する。診断部26で行われる判定処理は、実施の形態1における診断部16の処理と同様である。
【0100】
また、ステップS18以降のステップS19、S20はそれぞれ実施の形態1におけるステップS7、S8と同様であるため、説明を省略する。
これでガス絶縁機器100の絶縁ガスの診断処理を終了する。
【0101】
実施の形態2では実施の形態1と同様に、ガス絶縁機器100またはガス絶縁機器100を模擬した装置を用いて所定の使用期間を模擬した放電試験を行った状態において、耐電圧Vと酸素濃度mとを測定し、耐電圧Vと酸素濃度mとの関係から耐電圧閾値Vthに対応する酸素濃度閾値mthを予め求めておく。酸素濃度mの測定は、ガス絶縁機器100の実際の使用状態における酸素濃度mの測定方法と同じ測定条件で行う。すなわち、実施の形態2の場合では、ガス採取袋を用いて接地タンク2から絶縁ガスを採取し、ガス検知管により絶縁ガスにおける酸素濃度mを測定し、耐電圧の測定データと合わせて酸素濃度閾値mthを予め求めておく。
【0102】
実施の形態2において、ガス検知管で測定された絶縁ガスは、HFガスおよび有機ガスが除去されず、接地タンク2に封入される絶縁ガスと同様なものである。このため、例えば、ガス絶縁機器100においてハイドロフルオロオレフィンガスと空気を含むガスとを混合した絶縁ガスを用いる場合、ΔHFOは式(11)を用いて、酸素濃度mにより定量的に評価できる。
【0103】
実施の形態2に係るガス絶縁機器の診断装置、ガス絶縁機器の診断方法によれば、実施の形態1と同様な効果を奏す。
【0104】
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能である。例えば、ガス採取袋で採取された絶縁ガスをHF吸着部および有機ガス吸着部を経由させてから酸素濃度測定部の酸素測定室にて酸素濃度計により測定しても良い。このとき,ガス採取袋の絶縁ガスを酸素測定室へ送り込むために,ガス採取袋に圧力を加えるか,酸素濃度測定部側から絶縁ガスを吸引すれば良い。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0105】
1、100 ガス絶縁機器、2 接地タンク、3、103 診断装置、4 流出バルブ、5流量調整バルブ、第1カレントミラー回路、5 第2カレントミラー回路、6、56、66 流れ方向、11 HFガス吸着部、12 有機ガス吸着部、13、60 酸素濃度測定部、14 酸素測定室、15 酸素濃度計、16、26 診断部、17 流量計、18 ガス放出口、21 ガス採取袋、22 ガス検知管、23 吸引器、32 第1バルブ、33 第2バルブ、35 第3バルブ、36 第4バルブ、41 採取袋接続チューブ、42 採取袋流入バルブ、43 採取袋流出バルブ、50 ガス採取部