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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】放熱シートの製造方法及び放熱シート
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20231208BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20231208BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C09K5/14 E
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023536119
(86)(22)【出願日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2023004938
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022021985
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520299474
【氏名又は名称】株式会社U-MAP
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】山浦 太陽
(72)【発明者】
【氏名】田中 基
(72)【発明者】
【氏名】和田 光祐
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 将太
(72)【発明者】
【氏名】松本 昌樹
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-160607(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047828(WO,A1)
【文献】特開2001-315244(JP,A)
【文献】特開2017-008321(JP,A)
【文献】特開2012-082295(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187940(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/002084(WO,A1)
【文献】特開2013-225541(JP,A)
【文献】国際公開第2013/057889(WO,A1)
【文献】特開2004-339485(JP,A)
【文献】特開2003-192913(JP,A)
【文献】特開2002-234952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
H01L23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状フィラーと、分散剤と、溶剤と、樹脂とを含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーをシート状に塗工してシート状成形体を得る成形工程と、
前記シート状成形体をプレスするプレス工程とを含む放熱シートの製造方法。
【請求項2】
前記スラリー調製工程の前に、シランカップリング剤を用いて前記繊維状フィラーの表面処理を実施する表面処理工程をさらに含む請求項1に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン及びオクチルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくも1種のアルコキシシランである請求項2に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項4】
前記繊維状フィラーを、目開き30~500メッシュの篩を用いて篩分けする篩分工程をさらに含み、
前記スラリー調製工程で用いる繊維状フィラーは、前記篩分工程で篩分けされた篩上の繊維状フィラーである請求項1又は2に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項5】
前記スラリー調製工程は、前記繊維状フィラーと、前記分散剤と、前記溶剤とを混合して混合物を得た後に、前記混合物と前記樹脂とを混合することによって前記スラリーを調製する請求項1又は2に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項6】
前記スラリー調製工程における前記繊維状フィラー、前記分散剤及び前記溶剤を混合するときの混合時間が0.5~30分である請求項5に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項7】
前記スラリー調製工程で用いる前記分散剤は、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及びアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも1種の分散剤である請求項1又は2に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項8】
前記分散剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びジメチルジメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種の分散剤である請求項7に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項9】
前記スラリー調製工程で用いる前記樹脂がシリコーン樹脂である請求項1又は2に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項10】
前記成形工程は、シート状に塗工した前記スラリーを3~60分の乾燥時間で乾燥する請求項1又は2に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項11】
前記プレス工程において前記シート状成形体をプレスするときのプレス圧が0.5~30MPaであり、プレス時間が5~60分である請求項1又は2に記載の放熱シートの製造方法。
【請求項12】
繊維状フィラーと樹脂とを含む熱伝導性樹脂組成物を成形してなる放熱シートであって、
前記繊維状フィラーが、AlNウィスカー、アルミナ繊維、チタニア繊維及びジルコニア繊維からなる群から選択される少なくとも1種の繊維状フィラーであり、
前記繊維状フィラーの平均繊維径に対する平均繊維長の比が10以上であり、
前記繊維状フィラーが前記放熱シートの面内方向に配向している放熱シート。
【請求項13】
前記樹脂がシリコーン樹脂である請求項12に記載の放熱シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維状フィラーを含む放熱シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化及び高機能化が進んでいる。それに伴い、電子部品に対して高出力化及び高密度化が進んでいる。そのため、電子機器に使用される絶縁材料の熱伝導率を向上させることが重要な課題となっている。熱伝導率を向上させた絶縁材料には、例えば、無機フィラー及び樹脂を含むコンポジット材料が挙げられる。コンポジット材料を高熱伝導化するには、無機フィラー間で効率よく熱を伝導させることが重要である。無機フィラー間で効率よく熱を伝導させる方法として、例えば、無機フィラーとして繊維状フィラーを用いる方法が挙げられる。無機フィラーとして繊維状フィラーを用いることにより、コンポジット材料中に、伝熱経路となるネットワーク構造が繊維状フィラーによって形成され、これにより、コンポジット材料中を熱は効率よく伝導することができる。
【0003】
無機フィラーとして繊維状フィラーを用いたコンポジット材料として、例えば、AlNウィスカーを含有する樹脂組成物が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の樹脂組成物では、熱伝導性の高いAlNウィスカーによって放熱パスが効率的に形成されるので、樹脂組成物の熱伝導性は向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-073951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、AlNウィスカーや繊維状炭素などの繊維状フィラーには、樹脂との密着性が低いものが多い。そのため、繊維状フィラーと樹脂とを混合してコンポジット材料を作製した場合に、樹脂と繊維状フィラーとの間に空隙ができ、コンポジット材料の相対密度が低下することがあった。なお、コンポジット材料の相対密度低下の原因となる空隙の熱伝導性は高くない。そのため、相対密度が低下したコンポジット材料の熱伝導性は、期待された程、高くはならなかった。
【0006】
そこで、本発明は、無機フィラーとして繊維状フィラーを含む放熱シートの相対密度を向上させることができる放熱シートの製造方法及びその製造方法により製造された放熱シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を進めたところ、放熱シートを製造するために使用するスラリーに分散剤を添加することにより、相対密度の高い放熱シートを製造できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、以下を要旨とする。
[1]繊維状フィラーと、分散剤と、溶剤と、樹脂とを含むスラリーを調整するスラリー調製工程と、前記スラリーをシート状に塗工してシート状成形体を得る成形工程と、前記シート状成形体をプレスするプレス工程とを含む放熱シートの製造方法。
[2]前記スラリー調製工程の前に、シランカップリング剤を用いて前記繊維状フィラーの表面処理を実施する表面処理工程をさらに含む上記[1]に記載の放熱シートの製造方法。
[3]前記シランカップリング剤が、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン及びオクチルトリエトキシシランからなる群から選択される少なくも1種のアルコキシシランである上記[2]に記載の放熱シートの製造方法。
[4]前記繊維状フィラーを、目開き30~500メッシュの篩を用いて篩分けする篩分工程をさらに含み、前記スラリー調整工程で用いる繊維状フィラーは、前記篩分工程で篩分けされた篩上の繊維状フィラーである上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の放熱シートの製造方法。
[5]前記スラリー調整工程は、前記繊維状フィラーと、前記分散剤と、前記溶剤とを混合して混合物を得た後に、前記混合物と前記樹脂とを混合することによって前記スラリーを調整する上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の放熱シートの製造方法。
[6]前記スラリー調整工程における前記繊維状フィラー、前記分散剤及び前記溶剤を混合するときの混合時間が0.5~30分である上記[5]に記載の放熱シートの製造方法。
[7]前記スラリー調整工程で用いる前記分散剤は、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及びアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも1種の分散剤である上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の放熱シートの製造方法。
[8]前記分散剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びジメチルジメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種の分散剤である上記[7]に記載の放熱シートの製造方法。
[9]前記スラリー調整工程で用いる前記樹脂がシリコーン樹脂である上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の放熱シートの製造方法。
[10]前記成形工程は、シート状に塗工した前記スラリーを3~60分の乾燥時間で乾燥する上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の放熱シートの製造方法。
[11]前記プレス工程において前記シート状成形体をプレスするときのプレス圧が0.5~30MPaであり、プレス時間が5~60分である上記[1]~[10]のいずれか1つに記載の放熱シートの製造方法。
[12]繊維状フィラーと樹脂とを含む熱伝導性樹脂組成物を成形してなる放熱シートであって、前記繊維状フィラーが前記放熱シートの面内方向に配向している放熱シート。
[13]前記樹脂がシリコーン樹脂である上記[12]に記載の放熱シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無機フィラーとして繊維状フィラーを含む放熱シートの相対密度を向上させることができる放熱シートの製造方法及びその製造方法により製造された放熱シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[放熱シートの製造方法]
本発明の放熱シートの製造方法は、繊維状フィラーと、分散剤と、溶剤と、樹脂とを含むスラリーを調整するスラリー調製工程と、スラリーをシート状に塗工してシート状成形体を得る成形工程と、シート状成形体をプレスするプレス工程とを含む。これにより、無機フィラーとして繊維状フィラーを含む放熱シートの相対密度を向上させることができる。以下、各工程を詳細に説明する。
【0010】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程では、繊維状フィラーと、分散剤と、溶剤と、樹脂とを含むスラリーを調整する。
<繊維状フィラー>
スラリー調製工程で使用する繊維状フィラーには、例えば、AlNウィスカー、アルミナ繊維、チタニア繊維、ジルコニア繊維、その他のセラミックス繊維等が挙げられる。これらの繊維状フィラーは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの繊維状フィラーの中で、熱伝導性及び絶縁性の観点から、AlNウィスカーが好ましい。
【0011】
繊維状フィラーの平均繊維長は好ましくは25~500μmである。繊維状フィラーの平均繊維長が25μm以上であると、放熱シートの熱伝導性をさらに高くすることができる。繊維状フィラーの平均繊維長が500μm以下であると、放熱シートにおける繊維状フィラーの分散性を向上させることができる。また、繊維状フィラーの取り扱い性をさらに良好にすることができる。このような観点から、繊維状フィラーの平均繊維長は、より好ましくは35~400μmであり、さらに好ましくは40~300μmである。繊維状フィラーの平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0012】
繊維状フィラーの平均繊維径は好ましくは0.1~20μmである。繊維状フィラーの平均繊維径が0.1μm以上であると、繊維状フィラーの強度を改善することができるので、繊維状フィラーの取り扱い性がさらに良好にすることができる。繊維状フィラーの平均繊維径が20μm以下であると、放熱シート内において繊維状フィラー同士の隙間が生じさらに生じにくくなり、熱伝導パスを形成することが容易になる。このような観点から、繊維状フィラーの平均繊維径は、より好ましくは0.5~15μmであり、さらに好ましくは1~10μmである。繊維状フィラーの平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0013】
繊維状フィラーの平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)(以下、アスペクト比と呼ぶ)は好ましくは10以上である。繊維状フィラーのアスペクト比が10以上であると、放熱シート中において放熱パスが効率的に形成され、熱伝導率の高い放熱シートを得ることができる。このような観点から、繊維状フィラーのアスペクト比は、より好ましくは15以上であり、さらに好ましくは20以上であり、よりさらに好ましくは30以上である。また、繊維状フィラーのアスペクト比の範囲の上限値は、特に限定されないが、通常、1000以下である。
【0014】
<樹脂>
スラリー調製工程で使用する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの樹脂の中で、シリコーン樹脂が好ましい。
【0015】
<溶剤>
スラリー調製工程で使用する溶剤は、スラリー調製工程で使用する樹脂及び分散剤を溶解できるとともに、加熱により除去が容易である溶媒であれば、特に限定されない。例えば、樹脂がシリコーン樹脂である場合、スラリー調製工程で使用する溶剤は、溶解度パラメーター(SP値)の小さい無極性溶剤が好ましい。樹脂がシリコーン樹脂である場合、スラリー調製工程で使用する溶剤には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、リグロイン、ミネラルスピリット、塩素化炭化水素等が挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
<分散剤>
溶剤に対する繊維状フィラーの濡れ性を改善して繊維状フィラーの凝集を抑制するという観点から、スラリー調製工程で使用する分散剤は、好ましくは界面活性剤及びシランカップリング剤であり、より好ましくは界面活性剤である。界面活性剤には、例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。溶剤に対する繊維状フィラーの濡れ性を改善して繊維状フィラーの凝集を抑制するという観点から、これらの界面活性剤の中で、陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0017】
陰イオン性界面活性剤には、例えば、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物の塩、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、アルケニルコハク酸塩、アルカンスルフォン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルのリン酸エステルおよびその塩等が挙げられる。これらの陰イオン性界面活性剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。溶剤に対する繊維状フィラーの濡れ性を改善して繊維状フィラーの凝集を抑制するという観点から、これらの陰イオン性界面活性剤の中で、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステルが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステルがより好ましく、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルがさらに好ましく、次式(1)で表せるポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルがよりさらに好ましい。
【0018】
【化1】

式中、Rは炭素原子数1~20のアルキル基又は炭素原子数7~25のアルキルアリール基を表し、Rは水素原子又は-(CHCHO)を表し、Rは炭素原子数1~20のアルキル基又は炭素原子数7~25のアルキルアリール基を表し、nはエチレンオキサイドの付加数を表す1~20の整数である。
【0019】
非イオン性界面活性剤には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。溶剤に対する繊維状フィラーの濡れ性を改善して繊維状フィラーの凝集を抑制するという観点から、これらの非イオン性界面活性剤の中で、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、トルオレイン酸ソルビタンがより好ましい。
【0020】
溶剤に対する繊維状フィラーの濡れ性を改善して繊維状フィラーの凝集を抑制するという観点から、シランカップリング剤の中でアルコキシシランが好ましい。分散剤として使用するアルコキシシランには、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシラン、トリメチルメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのアルコキシシランは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。溶剤に対する繊維状フィラーの濡れ性を改善して繊維状フィラーの凝集を抑制するという観点から、これらのアルコキシシランの中で、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン及びトリメチルメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシシランが好ましく、ジメチルジメトキシランがより好ましい。
【0021】
<配合量>
放熱シートの熱伝導性の観点及び放熱シートの空隙抑制の観点から、繊維状フィラーの配合量は、繊維状フィラー及び樹脂の合計100体積部に対して、好ましくは5~60体積部であり、より好ましくは10~50体積部であり、さらに好ましくは15~40体積部である。
スラリーの塗工性の観点から、溶剤の配合量は、繊維状フィラー及び樹脂の合計100質量部に対して、好ましくは10~80質量部であり、より好ましくは20~70質量部であり、さらに好ましくは30~60質量部である。
繊維状フィラーの凝集抑制の観点及び放熱シートの熱伝導性の観点から、分散剤の配合量は、繊維状フィラー100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.05~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~3質量部である。
【0022】
<混合>
繊維状フィラー、分散剤、溶剤及び樹脂を混合する装置は、繊維状フィラーの粉砕を抑制しながら混合することができる装置であれば、特に限定されない。例えば、繊維状フィラー、分散剤、溶剤及び樹脂は、攪拌混和機を使用して混合することができる。攪拌混和機には、回転する攪拌翼が備えられており、その攪拌翼により繊維状フィラー、分散剤、溶剤及び樹脂は混合される。また、繊維状フィラー、分散剤、溶剤及び樹脂は、高速かき混ぜ機(ディゾルバー)を使用して混合することもできる。高速かき混ぜ機では、回転したタービン状のブレードが容器内の原料に対流を起こさせ、それにより、原料を混合する。
【0023】
スラリー調整工程は、繊維状フィラーと、分散剤と、溶剤とを混合して混合物を得た後に、その混合物と樹脂とを混合することによってスラリーを調整することが好ましい。これにより、スラリー中の繊維状フィラーの分散をさらに改善することができ、その結果、放熱シートの相対密度をさらに向上させることができる。
【0024】
繊維状フィラー、分散剤、溶剤及び樹脂を混合するときの混合時間は、好ましくは0.5~30分である。乾燥状態の繊維状フィラーは凝集していることが多いが、上記混合時間が0.5分以上であると、繊維状フィラーの凝集をさらに十分に解くことができ、スラリー中の繊維状フィラーの分散をさらに改善することができる。そして、その結果、放熱シートの相対密度をさらに向上させることができる。上記混合時間が30分以下であると、混合中に繊維状フィラーが粉砕されることを抑制できる。このような観点から、上記混合時間は、より好ましくは1.0~15分であり、さらに好ましくは1.2~10分である。
【0025】
(成形工程)
成形工程では、スラリーをシート状に塗工してシート状成形体を得る。例えば、ドクターブレード法によってスラリーをシート状に成形することができる。ドクターブレード法は、スラリーをキャリアフィルム上に薄く延ばして成形体を得る方法である。スラリーを薄く延ばすためのブレード(刃)とキャリアフィルムとの間の間隔、及びキャリアフィルムを引くときの速度を調節することにより、シート状成形体の厚さを調整することができる。
【0026】
シート状に塗工したスラリーは、乾燥されて、シート状成形体となる。シート状に塗工したスラリーの乾燥時間は、好ましくは3~60分である。乾燥時間が3分以上であると、スラリー中の溶剤を十分に除去することができる。乾燥時間が60分以下であると、シート状成形体は硬化しすぎていないので、後述のプレス工程で、繊維状フィラーと樹脂との間に隙間が生じることを抑制することができる。このような観点から、乾燥時間は、より好ましくは5~30分であり、さらに好ましくは10~20分である。
【0027】
シート状に塗工したスラリーの乾燥温度は、好ましくは50~150℃である。乾燥温度が50℃以上であると、スラリー中の溶剤を十分に除去することができる。乾燥温度が150℃以下であると、シート状成形体は硬化しすぎていないので、後述のプレス工程で、繊維状フィラーと樹脂との間に隙間が生じることを抑制することができる。このような観点から、乾燥温度は、より好ましくは60~120℃であり、さらに好ましくは70~100℃である。
【0028】
(プレス工程)
プレス工程では、シート状成形体をプレスする。シート状成形体をプレスするときのプレス圧は、好ましくは0.5~30MPaである。プレス圧が0.5MPa以上であると、プレスによりシート状成形体の相対密度をさらに向上させることができる。プレス圧が30MPa以下であると、プレスにより生ずるシート状成形体の変形を抑制することができる。なお、プレスにより生ずるシート状成形体の変形が大きいと、繊維状フィラーと樹脂との間に隙間が発生しやすくなる。このような観点から、シート状成形体をプレスするときのプレス圧は、より好ましくは1.0~20MPaであり、さらに好ましくは1.5~7MPaである。
【0029】
シート状成形体をプレスするときのプレス時間は、好ましくは5~60分である。プレス時間が5分以上であると、プレスによりシート状成形体の相対密度をさらに向上させることができる。プレス時間が60分以下であると、プレスにより生ずるシート状成形体の変形を抑制することができる。なお、プレスにより生ずるシート状成形体の変形が大きくなると、繊維状フィラーと樹脂との間に隙間が発生しやすくなる。このような観点から、シート状成形体をプレスするときのプレス圧は、より好ましくは5~50分であり、さらに好ましくは5~45分である。
【0030】
シート状成形体をプレスするときのプレス温度は、室温(15~30℃)であることが好ましい。シート状成形体を室温でプレスすることにより、シート状成形体中の繊維状フィラーを面方向へ、さらに配向させながら、プレスにより生ずるシート状成形体の変形を抑制することができる。
【0031】
(表面処理工程)
本発明の放熱シートの製造方法は、スラリー調製工程の前に、表面処理工程をさらに含んでもよい。表面処理工程では、シランカップリング剤を用いて繊維状フィラーの表面処理を実施する。
【0032】
<シランカップリング剤>
繊維状フィラーと樹脂との間の親和性を向上させて、放熱シートの相対密度を向上させるという観点から、表面処理工程で使用するシランカップリング剤は、好ましくはアルコキシシランである。表面処理工程で使用するアルコキシシランには、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのアルコキシシランは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。繊維状フィラーと樹脂との間の親和性を向上させて、放熱シートの相対密度を向上させるという観点から、これらのアルコキシシランの中で、ジメチルジメトキシランが好ましい。
【0033】
<表面処理方法>
シランカップリング剤を用いて繊維状フィラーの表面処理を実施するときの表面処理方法には、例えば、乾式法、湿式法等が挙げられる。乾式法は、ヘンシェルミキサー、ブレンダー等の高速攪拌機で、繊維状フィラー及びシランカップリング剤を攪拌混合し、繊維状フィラーの表面にシランカップリング剤を修飾する方法である。シランカップリング剤をおよそ1質量%の濃度に希釈して得られたシランカップリング剤含有有機溶剤もしくはシランカップリング剤含有水溶液をスプレーなどによって繊維状フィラーに噴霧し、繊維状フィラーの表面に均一に分散するようにシランカップリング剤を繊維状フィラーに添加することが好ましい。シランカップリング剤を希釈する有機溶剤には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。湿式法は、スラリーまたは溶液中で繊維状フィラーとシランカップリング剤を反応させて、繊維状フィラーの表面にシランカップリング剤を修飾する方法である。繊維状フィラーとシランカップリング剤を反応させる溶液として、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。反応後、繊維状フィラーは、ろ過、遠心分離、デカンテーションなどの方法で溶液から分離され、そして乾燥される。また、溶液に含まれている状態で繊維状フィラーを使用してもよい。乾式法では、表面処理中に繊維状フィラーが粉砕されるおそれがあるので、湿式法が好ましい。
【0034】
シランカップリング剤を用いて繊維状フィラーの表面処理を実施するときの温度は、好ましくは0~50℃、より好ましくは10~35℃である。また、シランカップリング剤を用いて繊維状フィラーの表面処理を実施するときの処理時間は、好ましくは0.1~5時間、より好ましくは0.2~2時間である。シランカップリング剤を用いて繊維状フィラーの表面処理を実施するときのシランカップリング剤の使用量は、繊維状フィラー100質量部に対して、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0035】
(篩分工程)
本発明の放熱シートの製造方法は、表面処理工程で表面処理された繊維状フィラーを、目開き30~500メッシュの篩を用いて篩分けする篩分工程をさらに含んでもよい。そして、スラリー調整工程で用いる繊維状フィラーは、篩分工程で篩分けされた篩上の繊維状フィラーであってもよい。これにより、スラリー調整工程で用いる繊維状フィラーから、伝熱経路となるネットワーク構造の形成にあまり寄与しない短い繊維状フィラーを除去することができる。その結果、面方向の熱伝導率がさらに高い放熱シートを得ることができる。
【0036】
篩分工程後の繊維状フィラーの平均繊維長は好ましくは50~500μmである。繊維状フィラーの平均繊維長が50μm以上であると、放熱シートの熱伝導性をさらに高くすることができる。繊維状フィラーの平均繊維長が500μm以下であると、放熱シートにおける繊維状フィラーの分散性を向上させることができる。また、繊維状フィラーの取り扱い性をさらに良好にすることができる。このような観点から、繊維状フィラーの平均繊維長は、より好ましくは100~400μmであり、さらに好ましくは150~300μmである。繊維状フィラーの平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0037】
篩分工程後の繊維状フィラーの平均繊維径は好ましくは0.1~20μmである。繊維状フィラーの平均繊維径が0.1μm以上であると、繊維状フィラーの強度を改善することができるので、繊維状フィラーの取り扱い性がさらに良好にすることができる。繊維状フィラーの平均繊維径が20μm以下であると、放熱シート内において繊維状フィラー同士の隙間が生じさらに生じにくくなり、熱伝導パスを形成することが容易になる。このような観点から、繊維状フィラーの平均繊維径は、より好ましくは0.5~15μmであり、さらに好ましくは1.0~10μmである。繊維状フィラーの平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
篩分工程後の繊維状フィラーの平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)(以下、アスペクト比と呼ぶ)は好ましくは10以上である。繊維状フィラーのアスペクト比が10以上であると、放熱シート中において放熱パスが効率的に形成され、熱伝導率の高い放熱シートを得ることができる。このような観点から、繊維状フィラーのアスペクト比は、より好ましくは15以上であり、さらに好ましくは20以上である。また、繊維状フィラーのアスペクト比の範囲の上限値は、特に限定されないが、通常、200以下である。
【0039】
表面処理工程において湿式法で表面処理された繊維状フィラーを乾燥しないで、篩分工程後に乾燥してもよい。また、表面処理工程において、湿式法で表面処理され、乾燥された繊維状フィラーを、篩分工程で篩い分けしてもよい。
【0040】
[放熱シート]
本発明の放熱シートは、繊維状フィラーと樹脂とを含む熱伝導性樹脂組成物を成形してなるものであり、繊維状フィラーが放熱シートの面内方向に配向している。これにより、面方向の熱伝導率が高い放熱シートを得ることができる。本発明の放熱シートは、例えば、本発明の放熱シートの製造方法により製造することができる。本発明の放熱シートの製造方法では、繊維状フィラー、樹脂及び溶剤を含むスラリー(熱伝導性樹脂組成物)には分散剤が配合されている。その結果、スラリー中で、繊維状フィラーの凝集が十分に解かれるとともに、スラリー中の繊維状フィラーの分散性も向上する。そして、スラリーをシート状に塗工すると、繊維状フィラーは塗工方向に容易に配向するので、繊維状フィラーが放熱シートの面内方向に配向している放熱シートを容易に製造することができる。
【0041】
(厚さ)
本発明の放熱シートの厚さは、好ましくは100~5000μmである。放熱シートの厚さが100μm以上であると、放熱シートの絶縁性を改善することができる。放熱シートの厚さが5000μm以下であると、放熱シートの厚さ方向の熱伝導性を改善することができる。このような観点から本発明の放熱シートの厚さは、より好ましくは150~2000μmであり、さらに好ましくは200~1000μmである。なお、本発明の放熱シートでは、繊維状フィラーが放熱シートの面内方向に配向しているので、本発明の放熱シートの厚さを容易に1000μm以下にすることができる。
【0042】
(面方向の熱伝導率)
本発明の放熱シートの面方向の熱伝導率は、好ましくは3W/m・K以上である。放熱シートの面方向の熱伝導率が3W/m・K以上であると、放熱シートの一部が加熱されて発生した熱が、放熱シート全体に容易に伝導することができる。その結果、放熱シートの一部が加熱されて発生した熱が、放熱シート全体から放熱されるので、放熱シートの一部が加熱されて発生した熱を容易に放熱することができる。このような観点から、本発明の放熱シートの面方向の熱伝導率は、より好ましくは4W/m・K以上であり、さらに好ましくは5W/m・K以上である。なお、本発明の放熱シートの面方向の熱伝導率の範囲の上限値は、特に限定されないが、通常、15W/m・K以下である。また、放熱シートの面方向の熱伝導率は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0043】
(厚さ方向の熱伝導率に対する面方向の熱伝導率の熱伝導率比(面方向/厚さ方向))
本発明の放熱シートの厚さ方向の熱伝導率に対する面方向の熱伝導率の熱伝導率比(面方向/厚さ方向)は、好ましくは3.5以上である。上記熱伝導率比(面方向/厚さ方向)が3.5以上であると、放熱シートが有する熱伝導能力を面方向に集中できるので、放熱シートの面方向の熱伝導性をさらに改善することができる。このような観点から、本発明の放熱シートの上記熱伝導率比(面方向/厚さ方向)は、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは6以上であり、よりさらに好ましくは7以上であり、よりさらに好ましくは8以上であり、特に好ましくは9以上である。なお、放熱シートの厚さ方向の熱伝導率は低くなるが、放熱シートを薄くすることにより、放熱シートの厚さ方向の熱伝導性は改善される。また、本発明の放熱シートの上記熱伝導率比(面方向/厚さ方向)の範囲の上限値は、特に限定されないが、通常、15以下である。放熱シートの厚さ方向の熱伝導率及び面方向の熱伝導率は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0044】
(相対密度)
本発明の放熱シートの相対密度は、好ましくは90%以上である。本発明の放熱シートの相対密度が90%以上であると、放熱シートの熱伝導性をさらに改善することができる。このような観点から、放熱シートの相対密度は、より好ましくは93%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。放熱シートの相対密度の範囲の上限値は100%である。なお、相対密度は、放熱シートの密度を、放熱シートの理論密度で割り算することにより算出することができる。放熱シートの密度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。放熱シートの理論密度は、放熱シートを構成する樹脂の密度、放熱シートを構成する繊維状フィラーの密度、及び放熱シートにおける樹脂及び繊維状フィラーの体積比から算出することができる。
【0045】
(樹脂及び繊維状フィラー)
本発明の放熱シートを構成する樹脂及び繊維状フィラーは、本発明の放熱シートの製造方法で使用する樹脂及び繊維状フィラーと同様であるので、本発明の放熱シートを構成する樹脂及び繊維状フィラーの説明は省略する。
【0046】
(繊維状フィラーの割合)
放熱シートの熱伝導性の観点及び放熱シートの空隙抑制の観点から、本発明の放熱シートにおける繊維状フィラーの割合は、繊維状フィラー及び樹脂の合計100体積%に対して、好ましくは5~50体積%であり、より好ましくは10~45体積%であり、さらに好ましくは15~35体積%である。放熱シートにおける繊維状フィラーの割合が小さくても、伝熱経路となる繊維状フィラーのネットワーク構造を放熱シートの内部に形成することができる。したがって、放熱シートにおける繊維状フィラーの割合が小さくても、放熱シートの熱伝導率を高くすることができる。
【実施例
【0047】
以下、本発明について、実施例により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[繊維状フィラーの評価]
(繊維状フィラーの平均繊維長、平均繊維径、平均アスペクト比)
繊維状フィラーの平均繊維長、平均繊維径、平均アスペクト比はSEM(走査型電子顕微鏡、日本電子株式会社、JMS-7001F)から50個以上の繊維 を選び出して以下の計算式より体積平均とした。
(平均繊維長)=Σ(V×l)/ΣV
(平均繊維径)=Σ(V×d)/ΣV
(平均アスペクト比)=Σ(V×(l/d))/ΣV
:n個目の繊維の繊維長
:n個目の繊維の繊維径
:n個目の繊維の体積=(d/2)×l×π
【0048】
[放熱シートの評価]
(相対密度)
放熱シートの相対密度は、アルキメデス法により放熱シートの実測比重を測定し、その値を理論比重で割り算することにより算出した。
具体的には、比重測定キット(エー・アンド・ディー社製、商品名「AD-1653」)を用いて、放熱シートの空気中の重さ及び水中の重さを測定し、その測定結果及び水の密度から放熱シートの実測比重を算出した。
次に、スラリーの固形分を構成する各材料の比重及びその構成比から放熱シートの理論比重を算出した。
そして、以下の式より放熱シートの相対密度(%)を算出した。
放熱シートの相対密度(%)=(実測比重/理論比重)×100
【0049】
(面方向熱伝導率)
放熱シートの面方向熱拡散率は、熱拡散率測定装置(Netzsch社製、商品名「LFA447 Nanoflash」)を用いてIn-Plane法により測定した。放熱シートの比熱はスラリーの固形分を構成する各材料の比熱とその構成比から算出した。放熱シートの実測比重は上述の相対密度の測定方法と同様にして測定した。そして、放熱シートの面方向熱伝導率を以下の式より算出した。
放熱シートの面方向熱伝導率=面方向熱拡散率×比熱×実測比重
【0050】
(厚さ方向熱伝導率)
放熱シートの厚さ方向熱拡散率は熱拡散率測定装置(Netzsch社製、商品名「LFA447 Nanoflash」)を用いレーザーフラッシュ法にて測定した。放熱シートの比熱及び実測比重は上述の放熱シートの面方向熱拡散率の測定方法と同様にして測定した。そして、放熱シートの厚さ方向熱伝導率を以下の式より算出した。
放熱シートの厚さ方向熱伝導率=厚さ方向熱拡散率×比熱×実測比重
【0051】
[放熱シートの作製]
(放熱シート1の作製)
<表面処理工程>
AlNウィスカー1(株式会社U-MAP製、商品名「Thermalnite(登録商標)短繊維破砕タイプ(微粉除去)」)100質量部に対して、1質量部のシランカップリング剤(ダウ・東レ株式会社製、商品名「DOWSIL Z-6329 Silane」、ジメチルジメトキシシシラン)及び100質量部のトルエンと400質量部のメタノールと5質量部の分散剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「プライサーフ215C」)を添加して、40分混合した後、750μm(24メッシュ)の篩に通して、表面処理AlNウィスカーを得た。
【0052】
<スラリー調整工程>
得られた表面処理AlNウィスカー、表面処理AlNウィスカー100質量部に対して5質量部の分散剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「プライサーフ215C」、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル)、並びに表面処理AlNウィスカー及び後述のシリコーン樹脂の合計100質量部に対して50質量部のトルエンを攪拌機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎ARE-310」)を用いて7.5分混合した。その後、表面処理AlNウィスカー及びシリコーン樹脂の合計100体積部に対して70体積部のシリコーン樹脂(旭化成株式会社製、商品名「ELASTOSIL LR3303/20」、ジメチルシリコーン)を、上記攪拌機を用いてさらに1.5分混合してスラリー(熱伝導樹脂組成物)を作製した。
【0053】
<成形工程>
ドクターブレード法により、キャリアフィルム(日東電工株式会社製、商品名「NITOFLON Films 920UL」、厚さ0.1μm、テフロン(登録商標)フィルム)の上に0.6mmの厚さで、スラリー調整工程で作製したスラリーを塗工し、80℃で15分乾燥させ、シート状成形体を作製した。
【0054】
<プレス工程>
平板プレス機(株式会社柳瀬製作所製)を用いて、シート状成形体に対して、150℃、圧力15MPaの条件で40分の加熱プレスを行い、厚さ0.33mmの放熱シート1を作製した。放熱シート1の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0055】
(放熱シート2)
表面処理を実施しなかった以外は放熱シート1と同様な方法で放熱シート2を作製した。放熱シート2の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0056】
(放熱シート3)
<スラリー調整工程>
AlNウィスカー1(株式会社U-MAP製、商品名「Thermalnite(登録商標)短繊維破砕タイプ(微粉除去)」)、AlNウィスカー100質量部に対して5質量部の分散剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「プライサーフ215C」、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル)、並びに表面処理AlNウィスカー及び後述のシリコーン樹脂の合計100質量部に対して50質量部のトルエンを攪拌機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎ARE-310」)を用いて7.5分混合した。その後、表面処理AlNウィスカー及びシリコーン樹脂の合計100体積部に対して70体積部のシリコーン樹脂(旭化成株式会社製、商品名「ELASTOSIL LR3303/20」、ジメチルシリコーン)を、上記攪拌機を用いてさらに1.5分混合してスラリー(熱伝導樹脂組成物)を作製した。
【0057】
<成形工程>
ドクターブレード法により、キャリアフィルム(日東電工株式会社製、商品名「NITOFLON Films 920UL」、厚さ0.1μm、テフロン(登録商標)フィルム)の上に0.6mmの厚さで、スラリー調整工程で作製したスラリーを塗工し、80℃で15分乾燥させ、シート状成形体を作製した。
【0058】
<プレス工程>
平板プレス機(株式会社柳瀬製作所製)を用いて、シート状成形体に対して、150℃、圧力15MPaの条件で40分の加熱プレスを行い、厚さ0.25mmの放熱シート3を作製した。放熱シート3の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0059】
(放熱シート4)
分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(花王株式会社製、商品名「レオドールSP-O30V」)を使用した以外は放熱シート3と同様な方法で放熱シート4を作製した。放熱シート4の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0060】
(放熱シート5)
分散剤としてジメチルジメトキシシラン(ダウ・東レ株式会社製、商品名「DOWSIL Z-6329 Silane」)を使用した以外は放熱シート3と同様な方法で放熱シート5を作製した。放熱シート5の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0061】
(放熱シート6)
分散剤を使用しない以外は、放熱シート3と同様な方法で放熱シート6を作製しようとした。しかし、スラリー調製工程の混合時にAlNウィスカーが凝集塊を形成し、塗工可能なスラリーを作製できなかった。したがって、放熱シート6は作製できなかった。
【0062】
(放熱シート7)
<スラリー調整工程>
AlNウィスカー2(株式会社U-MAP製、商品名「Thermalnite(登録商標)短繊維破砕タイプ」)(微粉の除去なし)、AlNウィスカー100質量部に対して5質量部の分散剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「プライサーフ215C」、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル)、並びに表面処理AlNウィスカー及び後述のシリコーン樹脂の合計100質量部に対して50質量部のトルエンを攪拌機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎ARE-310」)を用いて7.5分混合した。その後、表面処理AlNウィスカー及びシリコーン樹脂の合計100体積部に対して70体積部のシリコーン樹脂(旭化成株式会社製、商品名「ELASTOSIL LR3303/20」、ジメチルシリコーン)を、上記攪拌機を用いてさらに1.5分混合してスラリー(熱伝導樹脂組成物)を作製した。
【0063】
<成形工程>
ドクターブレード法により、キャリアフィルム(日東電工社製、商品名「NITOFLON Films 920UL」、厚さ0.1μm、テフロン(登録商標)フィルム)の上に0.6mmの厚さで、スラリー調整工程で作製したスラリーを塗工し、80℃で15分乾燥させ、シート状成形体を作製した。
【0064】
<プレス工程>
平板プレス機(株式会社柳瀬製作所製)を用いて、シート状成形体に対して、150℃、圧力15MPaの条件で40分の加熱プレスを行い、厚さ0.33mmの放熱シート7を作製した。放熱シート7の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0065】
(放熱シート8)
スラリー調整工程を以下のように変更したが以外は放熱シート7と同様な方法で放熱シート8を作製した。放熱シート8の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
<スラリー調整工程>
AlNウィスカー2(株式会社U-MAP製、商品名「Thermalnite(登録商標)短繊維破砕タイプ」)(微粉の除去なし)、AlNウィスカー100質量部に対して5質量部の分散剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「プライサーフ215C」、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル)、表面処理AlNウィスカー及びシリコーン樹脂の合計100質量部に対して50質量部のトルエン、並びに、表面処理AlNウィスカー及びシリコーン樹脂の合計100体積部に対して70体積部のシリコーン樹脂(旭化成株式会社製、商品名「ELASTOSIL LR3303/20」、ジメチルシリコーン)を攪拌機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎ARE-310」)を用いて7.5分混合してスラリー(熱伝導樹脂組成物)を作製した。
【0066】
(放熱シート9)
<スラリー調整工程>
AlNウィスカー1(株式会社U-MAP製、商品名「Thermalnite(登録商標)短繊維破砕タイプ(微粉除去)」)、AlNウィスカー100質量部に対して5質量部の分散剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「プライサーフ215C」、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル)、並びに表面処理AlNウィスカー及び後述のシリコーン樹脂の合計100質量部に対して50質量部のトルエンを攪拌機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎ARE-310」)を用いて7.5分混合した。その後、表面処理AlNウィスカー及びシリコーン樹脂の合計100体積部に対して70体積部のシリコーン樹脂(旭化成株式会社製、商品名「ELASTOSIL LR3303/20」、ジメチルシリコーン)を上記攪拌機に投入し、さらに1.5分混合してスラリー(熱伝導樹脂組成物)を作製した。
【0067】
<成形工程>
ドクターブレード法により、キャリアフィルム(日東電工株式会社製、商品名「NITOFLON Films 920UL」、厚さ0.1μm、テフロン(登録商標)フィルム)の上に0.6mmの厚さで、スラリー調整工程で作製したスラリーを塗工し、80℃で5分乾燥させ、シート状成形体を作製した。
【0068】
<プレス工程>
平板プレス機(株式会社柳瀬製作所製)を用いて、シート状成形体に対して、150℃、圧力15MPaの条件で40分の加熱プレスを行い、厚さ0.25mmの放熱シート3を作製した。放熱シート3の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0069】
(放熱シート10)
成形工程における乾燥時間を5分から10分に変更した以外は放熱シート9と同様な方法で放熱シート10を作製した。放熱シート10の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0070】
(放熱シート11)
成形工程における乾燥時間を5分から15分に変更した以外は放熱シート9と同様な方法で放熱シート11を作製した。放熱シート11の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0071】
(放熱シート12)
成形工程における乾燥時間を5分から20分に変更した以外は放熱シート9と同様な方法で放熱シート12を作製した。放熱シート12の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0072】
(放熱シート13)
成形工程における乾燥時間を5分から30分に変更した以外は放熱シート9と同様な方法で放熱シート13を作製した。放熱シート13の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0073】
(放熱シート14)
<表面処理工程>
AlNウィスカー1(株式会社U-MAP製、商品名「Thermalnite(登録商標)短繊維破砕タイプ(微粉除去)」)100質量部に対して、1質量部のシランカップリング剤(ダウ・東レ社製、商品名「DOWSIL Z-6329 Silane」、ジメチルジメトキシシシラン)及び100質量部のトルエンと400質量部のメタノールと5質量部の分散剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「プライサーフ215C」)を添加して、40分混合した後、45μm(325メッシュ)の篩にかけ、篩上を回収し、表面処理AlNウィスカーを得た。
【0074】
<スラリー調整工程>
得られた表面処理AlNウィスカー、表面処理AlNウィスカー100質量部に対して5質量部の分散剤(第一工業製薬株式会社製、商品名「プライサーフ215C」、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル)、並びに表面処理AlNウィスカー及び後述のシリコーン樹脂の合計100質量部に対して50質量部のトルエンを攪拌機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎ARE-310」)を用いて7.5分混合した。その後、表面処理AlNウィスカー及びシリコーン樹脂の合計100体積部に対して70体積部のシリコーン樹脂(旭化成株式会社製、商品名「ELASTOSIL LR3303/20」、ジメチルシリコーン)を、上記攪拌機を用いてさらに1.5分混合してスラリー(熱伝導樹脂組成物)を作製した。
【0075】
<成形工程>
ドクターブレード法により、キャリアフィルム(日東電工株式会社製、商品名「NITOFLON Films 920UL」、厚さ0.1μm、テフロン(登録商標)フィルム)の上に0.6mmの厚さで、スラリー調整工程で作製したスラリーを塗工し、80℃で15分乾燥させ、シート状成形体を作製した。
【0076】
<プレス工程>
平板プレス機(株式会社柳瀬製作所製)を用いて、シート状成形体に対して、室温(25℃)、圧力2MPaの条件で40分の加熱プレスを行い、厚さ0.3mmの放熱シート14を作製した。放熱シート14の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0077】
(放熱シート15)
プレス工程におけるプレス温度を室温から150℃に、プレス圧を2MPaから15MPaに変更した以外は放熱シート14と同様な方法で放熱シート15を作製した。放熱シート15の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、AlNウィスカーは放熱シートの面内方向に配向していた。
【0078】
評価結果を表1~6に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
以上の実施例及び比較例から、AlNウィスカー、樹脂及び溶剤を含むスラリーに分散剤を添加することにより、AlNウィスカーを用いても、放熱シートの相対密度が高くすることができることがわかった。
【要約】
本発明の放熱シートの製造方法は、繊維状フィラーと、分散剤と、溶剤と、樹脂とを含むスラリーを調整するスラリー調製工程と、スラリーをシート状に塗工してシート状成形体を得る成形工程と、シート状成形体をプレスするプレス工程とを含む。本発明の放熱シートは、繊維状フィラーと樹脂とを含む熱伝導性樹脂組成物を成形してなる放熱シートであり、繊維状フィラーが放熱シートの面内方向に配向している。本発明によれば、無機フィラーとして繊維状フィラーを含む放熱シートの相対密度を向上させることができる放熱シートの製造方法及びその製造方法に頼製造された放熱シートを提供することができる。