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特許7399378光学装置、照明装置、表示装置および光通信装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】光学装置、照明装置、表示装置および光通信装置
(51)【国際特許分類】
   F21S 2/00 20160101AFI20231211BHJP
   F21V 5/04 20060101ALI20231211BHJP
   G02F 1/13357 20060101ALI20231211BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20231211BHJP
【FI】
F21S2/00 481
F21V5/04 250
G02F1/13357
F21Y115:10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019145583
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021026951
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】316009762
【氏名又は名称】サターン ライセンシング エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Saturn Licensing LLC
【住所又は居所原語表記】25 Madison Avenue New York,NY,USA
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 徳昌
(72)【発明者】
【氏名】中木 謙一
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-119045(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0090179(KR,A)
【文献】特開2005-195708(JP,A)
【文献】特開2007-335209(JP,A)
【文献】特開2018-142002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 2/00
F21V 5/00
G02F 1/13357
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を集光して射出する複数のボールレンズと、
前記複数のボールレンズのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが発光面を有し、前記発光面が前記ボールレンズの焦点位置よりも前記ボールレンズに近い位置に配置され、前記ボールレンズ側に光を射出する複数の光源と
を備え、
前記複数のボールレンズとして、互いにレンズ径の異なる2種類以上のボールレンズを各種類ごとに複数、有する
光学装置。
【請求項2】
前記ボールレンズのレンズ径をD、前記光源の前記発光面と前記ボールレンズとの距離をΔLとしたとき、ΔL/Dが3.5%以下である
請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記ボールレンズのレンズ径をD、前記光源の前記発光面の円形換算の光源径をΦとしたとき、Φ/Dが38%以下である
請求項1に記載の光学装置。
【請求項4】
内面が反射面とされ、前記反射面が前記ボールレンズの周囲に位置するように配置され、前記光源からの光を前記ボールレンズに向けて反射する壁部、をさらに備える
請求項1に記載の光学装置。
【請求項5】
前記ボールレンズからの射出光の一部を透過し、他の一部を反射して前記ボールレンズへの戻り光とする光学シート、をさらに備える
請求項1に記載の光学装置。
【請求項6】
前記光源および前記ボールレンズを収容し、光射出面に前記光学シートが配置された光学ボックス、をさらに備える
請求項5に記載の光学装置。
【請求項7】
前記ボールレンズは、アレイ化されて一体化されている
請求項に記載の光学装置。
【請求項8】
前記光源の配光特性はランバートである
請求項1に記載の光学装置。
【請求項9】
前記ボールレンズはコリメートされた光を射出する
請求項1に記載の光学装置。
【請求項10】
前記ボールレンズは屈折率が一様な材質からなる
請求項1に記載の光学装置。
【請求項11】
光を集光して照明光として射出する複数のボールレンズと、
前記複数のボールレンズのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが発光面を有し、前記発光面が前記ボールレンズの焦点位置よりも前記ボールレンズに近い位置に配置され、前記ボールレンズ側に光を射出する複数の光源と
を備え、
前記複数のボールレンズとして、互いにレンズ径の異なる2種類以上のボールレンズを各種類ごとに複数、有する
照明装置。
【請求項12】
前記複数のボールレンズと前記複数の光源とが、全体として面光源を形成する
請求項11に記載の照明装置。
【請求項13】
光を集光して射出する複数のボールレンズと、
前記複数のボールレンズのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが発光面を有し、前記各発光面が前記各ボールレンズの焦点位置よりも前記各ボールレンズに近い位置に配置され、前記各ボールレンズ側に光を射出する複数の光源と
を備え、
前記複数のボールレンズとして、互いにレンズ径の異なる2種類以上のボールレンズを各種類ごとに複数、有する
表示装置。
【請求項14】
前記複数のボールレンズから射出された光を変調する光変調素子、をさらに備える
請求項13に記載の表示装置。
【請求項15】
少なくとも1つの前記ボールレンズが1画素を形成する
請求項13に記載の表示装置。
【請求項16】
光を集光して射出する複数のボールレンズと、
前記複数のボールレンズのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが発光面を有し、前記発光面が前記ボールレンズの焦点位置よりも前記ボールレンズに近い位置に配置され、前記ボールレンズ側に光を射出する複数の光源と
を有する光送信部、を備え、
前記光送信部は、前記複数のボールレンズとして、互いにレンズ径の異なる2種類以上のボールレンズを各種類ごとに複数、有する
光通信装置。
【請求項17】
光を集光する複数のボールレンズと、
前記複数のボールレンズのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが受光面を有し、前記受光面が前記ボールレンズの焦点位置よりも前記ボールレンズに近い位置に配置され、前記ボールレンズからの射出光を受光する複数の受光素子と
を有する光受信部、さらに備え、
前記光受信部は、前記複数のボールレンズとして、互いにレンズ径の異なる2種類以上のボールレンズを各種類ごとに複数、有する
請求項16に記載の光通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光源からの光を利用する光学装置、照明装置、表示装置および光通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(Light Emitting Diode)などのランバート配光の光を集光して所望の配光特性を得る方法が種々提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-11107号公報
【文献】特開2014-149915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光を集光して所望の配光特性を得るに際し、光利用効率が高いことが望ましい。
【0005】
効率良く所望の配光特性を得ることが可能な光学装置、照明装置、表示装置および光通信装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施の形態に係る光学装置は、光を集光して射出する複数のボールレンズと、複数のボールレンズのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが発光面を有し、発光面がボールレンズの焦点位置よりもボールレンズに近い位置に配置され、ボールレンズ側に光を射出する光源とを備え、複数のボールレンズとして、互いにレンズ径の異なる2種類以上のボールレンズを各種類ごとに複数、有する。
【0007】
本開示の一実施の形態に係る照明装置は、光を集光して照明光として射出する複数のボールレンズと、複数のボールレンズのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが発光面を有し、発光面がボールレンズの焦点位置よりもボールレンズに近い位置に配置され、ボールレンズ側に光を射出する光源とを備え、複数のボールレンズとして、互いにレンズ径の異なる2種類以上のボールレンズを各種類ごとに複数、有する。
【0008】
本開示の一実施の形態に係る表示装置は、光を集光して射出する複数のボールレンズと、複数のボールレンズのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが発光面を有し、各発光面が各ボールレンズの焦点位置よりも各ボールレンズに近い位置に配置され、各ボールレンズ側に光を射出する複数の光源とを備え、複数のボールレンズとして、互いにレンズ径の異なる2種類以上のボールレンズを各種類ごとに複数、有する。
【0009】
本開示の一実施の形態に係る光通信装置は、光を集光して射出する複数のボールレンズと、複数のボールレンズのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが発光面を有し、発光面がボールレンズの焦点位置よりもボールレンズに近い位置に配置され、ボールレンズ側に光を射出する複数の光源とを有する光送信部、を備える。光送信部は、複数のボールレンズとして、互いにレンズ径の異なる2種類以上のボールレンズを各種類ごとに複数、有する。

【0010】
本開示の一実施の形態に係る光学装置、照明装置、表示装置または光通信装置では、光源からの光がボールレンズによって集光され、射出される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ランバート配光の光源の配光特性の一例を示す特性図である。
図2】反射壁を利用した光源の配光特性の一例を示す特性図である。
図3】ボールレンズとランバート配光の光源とを組み合わせた、本開示の第1の実施の形態に係る光学装置の配光特性の一例を示す特性図である。
図4】光線の射出方位角の半値幅の概要を示す説明図である。
図5】比較例に係る光学装置の一構成例を、射出光線の軌跡のシミュレーション結果と共に示す側面図である。
図6】第1の実施の形態に係る光学装置の一構成例を、射出光線の軌跡のシミュレーション結果と共に示す側面図である。
図7】比較例に係る光学装置と第1の実施の形態に係る光学装置との配光特性を比較して示した特性図である。
図8】第1の実施の形態に係る光学装置におけるアレイ化されたボールレンズの一例を示す側面図である。
図9】第1の実施の形態に係る光学装置におけるアレイ化されたボールレンズの一例を示す斜視図である。
図10】第1の実施の形態に係る光学装置におけるアレイ化されたボールレンズの一例を示す平面図である。
図11】第1の実施の形態に係る光学装置におけるアレイ化されたボールレンズの他の製造方法の一例を示す側面図である。
図12】光を制限するルーバーの一例を示す断面図である。
図13】ルーバーを用いた光学装置の配光特性の一例を示す特性図である。
図14】ボールレンズの寸法等についての説明図である。
図15】第1の実施の形態に係る照明装置および表示装置の第1の構成例を示す断面図である。
図16】第1の実施の形態に係る照明装置および表示装置の第2の構成例を示す断面図である。
図17】ボールレンズにおける再帰性反射についての説明図である。
図18】第1の実施の形態に係る光学装置において、光学シート層に拡散シートを用いた場合の光のリサイクル効果の概要を示す説明図である。
図19】球面収差の発生の概要を示す説明図である。
図20】球面におけるスネルの法則の概要を示す説明図である。
図21】ボールレンズに対して平行光を照射した際の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を示す側面図である。
図22】ボールレンズに対して平行光を照射した際の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を示す斜め上方斜視図である。
図23】ボールレンズに対して平行光を照射した際の射出光線の配光特性をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図24】第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズのレンズ径に対して光源径を種々変えた複数の構成例を示す構成図である。
図25】第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズのレンズ径に対して光源径を種々変えた場合の光学特性をシミュレーションした結果を示す説明図である。
図26】第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズのレンズ径に対して光源径を種々変えた場合の配光特性をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図27】第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズのレンズ径に対して光源径を種々変えた場合の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を示す側面図である。
図28】第1の実施の形態に係る光学装置において、レンズ径と光源径との関係が光利用効率に与える影響について示す説明図である。
図29】光学シートを用いた比較例に係る光学装置の配光特性の一例を示す特性図である。
図30】第1の実施の形態に係る光学装置において、図29に示した配光特性に近い配光特性を実現した例を示す特性図である。
図31】第1の実施の形態に係る光学装置において、光源の発光面が略正方形状である場合の構成例を示す構成図である。
図32図31の構成例の光学特性をシミュレーションした結果を示す説明図である。
図33図31の構成例の配光特性をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図34】第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズに対する光源の距離を種々変えた場合の光学特性をシミュレーションした結果を示す説明図である。
図35】第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズのレンズ径に対する光源の距離の割合とレンズを透過する光線、およびレンズを透過しない光線との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図36】第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズのレンズ径に対する光源の距離の割合と半値幅との関係をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図37】第1の実施の形態に係る光学装置において、光源からの光線をボールレンズに向けて反射する壁部を配置した場合と壁部を配置しなかった場合との光学特性をシミュレーションした結果を示す説明図である。
図38】第1の実施の形態に係る光学装置において、壁部を配置しなかった場合の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を示す側面図である。
図39】第1の実施の形態に係る光学装置において、壁部を配置した場合の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を示す側面図である。
図40】第1の実施の形態に係る光学装置において、壁部を配置した場合の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を壁部を透明化して示す側面図である。
図41】第1の実施の形態に係る光学装置において、壁部を配置した場合と壁部を配置しなかった場合との射出光線の配光特性をシミュレーションした結果を示す特性図である。
図42】アレイ化された壁部を備えた比較例に係る光学装置の一例を示す断面図である。
図43】アレイ化された壁部を備えた比較例に係る光学装置における壁部の一構成例を示す平面図である。
図44】第1の実施の形態に係る光学装置において、アレイ化された壁部を備えた構成例を示す断面図である。
図45】第1の実施の形態に係る光学装置において、アレイ化された壁部とボールレンズとの一構成例を示す平面図である。
図46】非ランバート配光の光源の一構成例を、射出光線の軌跡のシミュレーション結果と共に示す側面図である。
図47】非ランバート配光の光源の配光特性の一例を示す特性図である。
図48】第1の実施の形態に係る光学装置において、非ランバート配光の光源とボールレンズとを組み合わせた構成例を、射出光線の軌跡のシミュレーション結果と共に示す側面図である。
図49】第1の実施の形態に係る光学装置において、非ランバート配光の光源とボールレンズとを組み合わせた場合の配光特性の一例を示す特性図である。
図50図47に示す配光特性と図49に示す配光特性とを比較して示した特性図である。
図51】第1の実施の形態に係る光学装置において、複数のボールレンズの充填密度を高めた第1の構成例を示す平面図である。
図52】第1の実施の形態に係る光学装置において、複数のボールレンズの充填密度を高めた第2の構成例を示す平面図である。
図53図52に示した第2の構成例における複数のボールレンズの寸法例を示す平面図である。
図54】第2の実施の形態に係る光通信装置の一構成例を概略的に示すブロック図である。
図55】第2の実施の形態に係る光通信装置における光送信部の一構成例を概略的に示す断面図である。
図56】第2の実施の形態に係る光通信装置における光受信部の一構成例を概略的に示す断面図である。
図57】第2の実施の形態に係る光通信装置に対する比較例に係る光通信装置の第1の構成例を示す断面図である。
図58】第2の実施の形態に係る光通信装置に対する比較例に係る光通信装置の第2の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
0.比較例
1.第1の実施の形態(光学装置、照明装置、および表示装置)(図1図53
1.1 概要
1.2 詳細な構成条件および作用
1.3 効果
1.4 変形例
2.第2の実施の形態(光通信装置への適用例)(図54図58
2.1 構成
2.2 作用および効果
3.その他の実施の形態
【0013】
<0.比較例>
従来より、LEDなどのランバート配光を集光する方法が種々提案されている。例えば特許文献1(特開2014-11107号公報)には、複数のLEDが配列されたLED素子基板の上面に、半球状の複数のレンズを有するレンズアレイを配置する構成が提案されている。特許文献1に記載の技術では、LED素子基板の壁面に斜めの反射面を設けることで、まず、第1段階として、その反射面にLED素子からの光を当てて反射する。そして、第2段階として、その反射した光の方向をレンズアレイによって整える。このように特許文献1に記載の技術では、2つの手順を経て、光の方向を整えている。
【0014】
特許文献1に記載の技術では、LED素子からの光は、第1段階としてLED素子基板において壁面反射を経るため、反射損失が発生する。さらに、第2段階として用いられるレンズアレイのレンズが半球状であるために、大きな屈折効果が得にくいという課題がある。
【0015】
上記特許文献1に記載の技術のように、LED素子の周りに窪みや土手を1次反射面として形成し、まず、光線方向を若干、整えた後、その上面に配置された集光レンズによってさらに光線方向を整える構成が、基本技術として、一般に知られている。
【0016】
これに対し、本開示の技術では、後述するように、上記特許文献1に記載の技術における1次反射面を必ずしも必要とはしない。代わりに、LED射出光を直接的にレンズへ入射させる構成が特徴であり、その特徴により、1次反射面で生じる反射損失が生じないため光利用効率を高くできる利点がある。
【0017】
特許文献2(特開2014-149915号公報)には、導光板方式の光源装置に関する技術が提案されている。特許文献2には、導光板に個々に形成された光線の射出ポイントを2次的な光源とみなし、その導光板の射出ポイントに平凸形状の集光レンズを配置することで、コリメート化された射出光を得る手法が提案されている。しかしながら、平凸レンズでは屈折面が片面のみになるため、屈折角を大きく得るには制限がある。
【0018】
導光板を経由して射出する光線は、光線ベクトルの方向がある程度限定される。上記特許文献2に記載の技術では、それを利用して、光線の射出範囲を導光板で第1次段階的に制限をかけた後、第2次段階的にレンズによってさらに光線方向を整えるという手順を踏む。
【0019】
上記特許文献1および特許文献2に記載の技術はいずれも、光源からの光を段階的に集光を行うものであり、レンズのみの屈折効果に全面的に依存する集光方法とは異なる。
【0020】
<1.第1の実施の形態>
[1.1 概要]
本開示の第1の実施の形態に係る光学装置は、例えば後述する図6等に示すように、光を集光して射出するボールレンズ2と、ボールレンズ1側に光を射出する光源1とを備える。ボールレンズ2は、利用する光に対して透明な材料からなる球形状のレンズである。光源1は、LED等からなり、ボールレンズ2の近傍に配置される。光源1は、発光面を有し、発光面がボールレンズ2の焦点位置よりもボールレンズ2に近い位置に配置されていることが好ましい。
【0021】
図1は、ランバート配光の光源1の配光特性の一例を示している。図2は、反射壁を利用した光源1の配光特性の一例を示している。図3は、ボールレンズ2とランバート配光の光源1とを組み合わせた、本開示の第1の実施の形態に係る光学装置の配光特性の一例を示している。図1ないし図3において、横軸は光線の射出方位角(deg)、縦軸は光線の強度(cd)を示す。特に断りのない限り、以降の配光特性を示す他の図においても同様である。
【0022】
図1に示したランバート配光の光源1は、例えば面実装タイプのLEDによくみられる特性である。図2は、例えば図1に示したランバート配光の光源1の周囲に円筒状の反射壁を設けて配光角度範囲を狭くした場合の特性を示している。
【0023】
図1に示したランバート配光の光源1の半値幅は例えば±60deg程度である。反射壁を利用した場合には、図2に示したように半値幅は例えば±50deg程度である。従来、光源1が図1に示したようなランバート配光である場合、光源1からの射出光を再集光することは困難である。例えば円筒状の反射壁を設けるだけでは図2に示したように半値幅を十分に小さくすることは困難である。これに対して第1の実施の形態に係る光学装置では、図3に示したように、例えば半値幅が±15deg程度となるように光線をコリメートすることが可能となる。
【0024】
なお、図3に示した特性は一例であり、第1の実施の形態に係る光学装置において、半値幅は適宜、調整され得る。例えば後述するように、ボールレンズ2のレンズ径Dと光源1の発光面に対するボールレンズ2との距離ΔLとの関係ΔL/Dや、ボールレンズのレンズ径Dと光源1の発光面の円形換算の光源径Φとの関係Φ/D等を調整することにより、半値幅は適宜、調整され得る。
【0025】
ここで、配光(光線の射出方位角に対する光線強度分布)の角度(射出方位角)の半値幅について説明する。図4は、光線の射出方位角の半値幅の概要を示している。図4において、横軸は光線の射出方位角(deg)、縦軸は光線の強度(cdまたはa.u.(任意単位))を示す。図4に示したように、光線の強度がピーク値の半分となる射出方位角の差を全値幅(Full Width at Half Maximum(FWHM))という。本明細書では、この全値幅の半分の値であるHWHM(Half Width at Half Maximum)を半値幅の意味で使用する。
【0026】
図5ないし図7に、より具体的な特性をシミュレーションした結果を示す。図5は、比較例に係る光学装置の一構成例を側面視した状態を、射出光線の軌跡のシミュレーション結果と共に示している。図6は、第1の実施の形態に係る光学装置の一構成例を側面視した状態を、射出光線の軌跡のシミュレーション結果と共に示している。図7は、比較例に係る光学装置と第1の実施の形態に係る光学装置との配光特性を比較して示している。
【0027】
図5に示した比較例に係る光学装置は、LED等のランバート配光の光源1の周囲が円筒状の壁部3で囲まれた構造とされている。壁部3の内面(壁面)は反射面4とされ、光源1からの光を散乱反射する。これにより、壁部3が無かった場合の半値幅が±60deg程度であった場合に、半値幅を例えば±50deg程度にすることができる。しかしながら、図5に示した比較例に係る光学装置では、壁部3の反射面4で反射される光線の割合が多くなり、散乱反射の影響を受けるため、効率の低下をもたらす欠点がある。例えば光利用効率は88.442%となる。
【0028】
これに対して、図6に示した第1の実施の形態に係る光学装置は、比較例に係る光学装置の構成に対して、光源1の上部にボールレンズ2が配置されている。壁部3は、光源1からの光をボールレンズ2に向けて反射するように、反射面4が光源1およびボールレンズ2の周囲に位置するように配置されている。ボールレンズ2は、例えば、レンズ径Dが7.1mm、屈折率nが1.49の一様な材質からなる。壁部3の内部径は、例えば7.0mmとなっている。図6に示した第1の実施の形態に係る光学装置では、発光面がボールレンズ2の焦点位置よりもボールレンズ2に近い位置となるように光源1が配置されている。これにより、光源1からの射出光のほとんどすべてをボールレンズ2のレンズ内に取り込み、光利用効率を改善している。図6に示した第1の実施の形態に係る光学装置では、例えば光利用効率は98.153%となる。またさらに、図6に示した第1の実施の形態に係る光学装置では、図7に示したように、図5に示した比較例に係る光学装置に比べて、射出光線の集光性が格段に上がり、半値幅15deg程度に集光可能となっている。つまり、図6に示した第1の実施の形態に係る光学装置では、光利用効率と集光性とを同時に高くすることが可能となっている。
【0029】
第1の実施の形態に係る光学装置は、LED素子等の1つの光源1に対し、1つのボールレンズ2を対応させることが基本構成であるが、光源1とボールレンズ2とをそれぞれ複数備えたアレイ状の構成にすることも可能である。光源1とボールレンズ2とをそれぞれ2次元平面様に配置し、アレイ化することにより、全体として面光源の構成にすることができる。
【0030】
図8ないし図10は、第1の実施の形態に係る光学装置におけるアレイ化されたボールレンズ2の一構成例を示している。図8は側面視した状態、図9は斜視した状態、図10は平面視した状態を示す。
【0031】
図8ないし図10には、例えば、一体成型によりアレイ化されたボールレンズ2の構成例を示す。ボールレンズ2以外の部分は一定の厚みのつば部(縁部)5となっている。なお、光源1は各ボールレンズ2ごとに設けられる。例えば光源1を一定のピッチで平面上に複数並べて、面光源を作成した場合においては、ボールレンズ2をアレイ化して光源1と組み合わせて配置することによって、集光性の高い配光特性を持ち、光利用効率の高い面光源が得られる。なお、図8ないし図10には、複数のボールレンズ2のすべてが一体化された構成例を示しているが、膨張収縮などの寸法変化に耐えうる範囲で設計上、平面内で複数のエリアに分割された構造であってもよい。また、図8ないし図10には、実線40で示したように、隣接する3つのボールレンズ2が間隔を空けて略正三角形の頂点位置に配置されるような構成とされている。これにより、輝度むらの少ない面光源を実現できる。なお、複数のボールレンズ2をできるだけ密度の高い状態で配置する場合、例えば、破線41で示したように、ボールレンズ2のレンズ径Dを大きくして、隣接する複数のボールレンズ2同士が接するような配置にすることも可能である。
【0032】
なお、アレイ化されたボールレンズ2は一体成型以外の方法で製造されてもよい。図11に、アレイ化されたボールレンズ2の他の製造方法の一例を示す。例えば、図8ないし図10におけるつば部5の部分で上下に分割されたような2つのアレイ部材を接着することにより、アレイ化されたボールレンズ2を製造するようにしてもよい。図11では、複数の半ボールレンズ(半球状レンズ)2Aとつば部5Aとが形成された第1のアレイ部材と、同様に複数の半ボールレンズ(半球状レンズ)2Bとつば部5Bとが形成された第2のアレイ部材とを接着することにより、アレイ化されたボールレンズ2を製造する方法を示している。
【0033】
図12は、光を制限するルーバー110の一例を示している。図13は、ルーバー110を用いた光学装置の配光特性の一例を示している。
【0034】
ルーバー110には、図12に示したように、例えば、幅Aの遮光層(光吸収層)111と幅Bの光透過層112とが、一定の割合の寸法で交互に設けられている。図12では図示を省略しているが、ルーバー110は、光源1の上部に配置される。光源1からの光線は部分的に遮光層111で遮光される。ルーバー110の厚みdaとの関係で、ルーバー110において光透過層112を透過する透過光線の最大角度θaは、tan(θa)=da/Bから、θa=atan(da/B)により決まる。光源1からの光線は、透過光線の角度がθa以下となるように範囲制限を受ける。これにより、光学装置としての配光特性は図13に示したようになる。
【0035】
光学装置として希望の方向の光を得るために、図12に示したようなルーバー110を用いる方法もある。ルーバー110では、特定方向の光以外をルーバー110に吸収させて排除することで、特定方向の光を残す。しかしながら、ルーバー110を用いる方法では、利用しない方向の光線を吸収させて損失化することで排除するため、所望の方位角の光線は得られるものの、一般的に、光利用効率がとても悪い。
【0036】
第1の実施の形態では、光源1からの光線をボールレンズ2により集光してコリメートする方法を示すが、効率良く光線を集光するために最適なボールレンズ2のレンズ径Dや、ボールレンズ2の大きさに対する光源1の最適なサイズ(光源径Φ)と最適な位置関係等の構成条件が存在する。これらの最適な構成条件については、後に詳述する。
【0037】
ここで、図14を参照して、第1の実施の形態に係る光学装置における最適な構成条件を説明するのに先だって、ボールレンズ2の寸法等の定義について説明する。図14では、説明上、光学装置として使用した場合とは逆方向から平行光線をボールレンズ2に入射させた状態を示している。
【0038】
以下に示したように、ボールレンズ2に関する各種パラメータを定義する。
d:入射ビーム径
D:ボールレンズ2のレンズ径(直径)
EFL:ボールレンズ2の焦点距離
BFL:ボールレンズ2のバックフォーカス
n:ボールレンズ2の材質の屈折率
nm:物体空間(像空間)の屈折率(空気の場合は1)
NA:開口率
【0039】
EFL=nD/4(n-1)
BFL=EFL-D/2
【0040】
【数1】
【0041】
ここで、ボールレンズ2に平行光線を入射した場合の出射時のボールレンズ2の接平面位置における光線透過領域径をΦqとする。光線透過領域径Φqは、後に最適な構成条件を説明するために、光源1の発光領域の基準比較として用いる説明上の領域Qの直径である。第1の実施の形態に係る光学装置では、領域Qの位置に近いところに光源1を光源径Φの大きさで配置することが望ましい。後述するように、光源1として、Φ/D<38%の範囲以内に光源径Φが収まるサイズの微小光源をボールレンズ2に接して配置することが好ましい。
【0042】
第1の実施の形態に係る光学装置は、照明装置、および表示装置として使用することが可能である。
【0043】
図15は、第1の実施の形態に係る照明装置および表示装置の第1の構成例を示している。図15に示した表示装置は、光変調素子としての液晶表示素子120と、第1の実施の形態に係る光学装置によって構成された直下型のバックライト(照明装置)とを備えている。液晶表示素子120は、照明装置からの照明光を変調することで画像表示を行う光変調素子である。
【0044】
照明装置は、光源配置層10と、射出集光機能層20と、光学シート層130とを備えている。光源配置層10には、複数の光源1がアレイ状に設けられている。射出集光機能層20には、複数の光源1に対応する複数のボールレンズ2がアレイ状に設けられている。複数の光源1は、複数のボールレンズ2のそれぞれに対応して設けられ、それぞれが発光面を有し、各発光面が各ボールレンズ2の焦点位置よりも各ボールレンズ2に近い位置に配置され、各ボールレンズ2側に光を射出する。各ボールレンズ2は、各光源1からの光を集光して光学シート層130を介して液晶表示素子120に向けて射出する。複数のボールレンズ2と複数の光源1とが、全体として面光源を形成している。
【0045】
なお、液晶表示素子120のような光変調素子を用いることなく、表示装置を構成することも可能である。例えば、複数の光源1と複数のボールレンズ2とをそれぞれアレイ状に配置し、少なくとも1つの光源1と少なくとも1つのボールレンズ2との組によって1画素を形成するようにしてもよい。各画素ごとに光源1による光の射出強度を調整することによって、画像表示を行うことが可能となる。この場合、光学シート層130は構成から省いてもよい。
【0046】
光学シート層130は、例えば光拡散層131と光学フィルム132とを有し、複数のボールレンズ2からの照明光の輝度の面内強度の均一化や、後述する再帰性効果等による光利用効率の向上を図ることが可能となっている。
【0047】
図16は、第1の実施の形態に係る照明装置および表示装置の第2の構成例を示している。図16に示した表示装置は、図15に示した表示装置の構成に対して、照明装置の部分を光学ボックス140内に収納した構造とされている。
【0048】
図15および図16に示した照明装置および表示装置では、一般的に利用されているアタッチメントレンズとは異なり、ボールレンズ2が球形であるために、ボールレンズ2に対して外部から入射する光線に対して、再帰性反射効果が得られる。これにより、光学シート層130で一部の光が反射してボールレンズ2側への戻り光となった場合に、その戻り光を再度、光学シート層130への入射光として光利用効率を向上させることができる。
【0049】
図17を参照して、ボールレンズ2における再帰性反射について説明する。
一般的に、ボールレンズ2に入射角2αで入射した光は、表面で屈折し、ボールレンズ2内で反射され、再び表面で屈折をしてボールレンズ2から出射して行くことが知られている。この場合、ボールレンズ2では、入射角を2αとすると出射角も2αと等しくなるため、入射した方向に光を返す機能が出現する。これを再帰性反射と言い、理想的には、あらゆる方向から入射した光に対しても常に入射した方向に光を返すが、ある程度の範囲制限がある。第1の実施の形態に係る光学装置では、ボールレンズ2は、球形であるがゆえに、この再帰性を発現するため、光学シート層により反射され、ボールレンズ2に入射される戻り光は再びその光のやってきた方向にボールレンズ2の全反射により再射出される。
【0050】
この再帰性効果が生じることを有効に生かすことで、光利用効率の改善が行える。特に、一旦ボールレンズ2から射出された光線を1次光として、光学シート層130等の外部の構成部材による反射光を1次反射光とすると、この1次反射光をボールレンズ2で再反射して2次光として射出することが可能であって、その光線射出方位が入射方位と一致するという性質がある。これらの光線反射の繰り返しは、反射光がなくなるまで、n回行われる。このサイクルをリサイクル効果と呼称すると、第1の実施の形態では、ボールレンズ2の利用によって、従来に例を見ないレベルで有効にリサイクル効果を発現させることが可能であり、そのような従来のレンズ方式にない特徴を有するため、最終的な射出光線を増加させることができ、光利用効率の改善が図れる。
【0051】
図18は、第1の実施の形態に係る光学装置において、光学シート層130に拡散シートを用いた場合の光のリサイクル効果の概要を示している。
【0052】
図18には、光源部100の上部に光学シート層130(拡散シート)が配置されている構成例を示す。光源部100は、複数のアレイ状のボールレンズ2がプレート30上に配置された構成とされている。プレート30には、光源1(図18では図示を省略)からの光をボールレンズ2に向けて反射する壁部が設けられている。
【0053】
光学シート層130(拡散シート)としては、例えば、低損失の屈折レンズ系拡散シートWhite Optics(登録商標) DF-90を用いることができる。拡散シートの分光透過率Tr1は既知で固定値であるものとする。光源部100からの1次入射光L1のうち一部は分光透過率Tr1に応じた1次透過光として拡散シートから出射され、他の一部は拡散シートで反射されて1次反射戻り光Lr1となる。1次反射戻り光Lr1は、光源部100で再反射されて、2次入射光L2として拡散シートに再入射する。光源部100からの2次入射光L2のうち一部は分光透過率Tr1に応じた2次透過光として拡散シートから出射され、他の一部は拡散シートで反射されて2次反射戻り光Lr2となる。以降、同様にしてn次入射光Lnのうち一部が分光透過率Tr1に応じたn次透過光として拡散シートから出射される、リサイクルプロセスが繰り返される。
【0054】
以上のようなリサイクルプロセスを行う場合の透過光の全光束を積分球で測定する場合、1次透過光~n次透過光のすべての射出光線が合算されて測定される。拡散シートの有無で総光束を比較すると、分光透過率は1次透過光を単独で計測した場合に比べて、2次透過光~n次透過光がある分、高く測定される。このような測定方法で、リサイクル効果の程度を推定することができる。リサイクル効果の存在で透過率が上がって計測される分は、2次透過光~n次透過光の総和である
【0055】
一般的に、散逸する光線(ランバート配光)を効率良く再集光することは大変困難である。第1の実施の形態に係る光学装置は、以下の点がポイントとして挙げられる。
(1)光源1(主にLED)をボールレンズ2の焦点位置よりもボールレンズ2に近い位置に配置することにより、光源1の配光がランバートであるにもかかわらず、そのほとんどを、ボールレンズ2に取り込むことができるようにする構成となっている。これにより、他の段階的集光手続きを経ないで効率の良い集光が行える。
(2)光源1が、アレイ状に平面内に2次元整列配置されている場合に、ボールレンズ2側も光源1に対応させてアレイ状に配置することで、平面状のコリメート光源の作成が可能となる。
(3)ボールレンズ2が球形であることにより、発光面に再帰性反射性が付加される。ボックス化にも適している。
【0056】
[1.2 詳細な構成条件および作用]
第1の実施の形態に係る光学装置は、有効な集光性を得る目的で、ボールレンズ2の球面収差を活用している。収差は、像を扱う光学系では、嫌われる特性であるが、第1の実施の形態に係る光学装置では、この球面収差の基本的性質を活用して、光線のボールレンズ2への取り込み効率を上げる工夫をしている。このため、球面収差の一般的な性質について、まず説明する。
【0057】
図19は、球面収差の発生の概要を示している。図20は、球面におけるスネルの法則の概要を示している。
【0058】
図19では、光軸に平行な光線LAおよび光線LBが、曲率半径rの球面状の屈折面に入射する様子を示しており、屈折率n1=1の媒質(空気)から、屈折率n2が1より大きい媒質Xへ入射した場合として作図してある。また、図19では、光線LAは、光線LBよりも光軸から離れた位置にあり、光線LBは、より光軸に近い位置にあるものとしている。
【0059】
光線LAおよび光線LBのそれぞれが、曲率を持った球面状の媒質Xと空気との界面に対して入射角θ1A,θ1Bで入射する。この場合、図19に示したように、光線LAおよび光線LBのそれぞれは、入射角θ1A,θ1Bが互いに異なった状態で媒質Xに入射する。
【0060】
つまり、光線LAの入射角θ1Aは相対的に大きく、光線LBの入射角θ1Bは相対的に小さくなっている。ここで、図20に示したように、屈折率n1の媒質から屈折率n2の媒質へと入射角θ1で入射した光線が屈折角θ2で屈折する場合、スネルの法則により、n1sinθ1=n2sinθ2の関係が成り立つ。図19の場合にも、屈折時には、媒質の屈折率n1,n2(n1<n2)と入射角θ1A,θ1Bと屈折角θ2A,θ2Bとの間にはスネルの法則が成り立っている。このため、入射角の大きい光線LAは、光線LBよりもより大きく屈折することになる。したがって、θ1A>θ1B、θ2A>θ2Bの関係性によって光線LAは光線LBが収束する点kよりもより手前の点mに収束する。この収束点の位置の差を球面収差、あるいは軸上収差と呼ぶ。
【0061】
この軸上収差は、特に、第1の実施の形態に係る光学装置において利用するような曲率の大きいボールレンズ2の場合、より大きい。このことは、ボールレンズ2では、光軸から遠いレンズ周辺部を透過する光を、レンズ近傍に集めようとする作用(光線屈折量)が大きいことを示している。
【0062】
図21および図22は、ボールレンズ2に対して平行光を照射した際の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を示している。図21は側面視した状態、図22は斜め上方視した状態を示す。図23は、ボールレンズ2に対して平行光を照射した際の射出光線の配光特性をシミュレーションした結果を示している。
【0063】
図21ないし図23では、説明上、光学装置として使用した場合とは逆方向から平行光線をボールレンズ2に入射させた状態でのシミュレーション結果を示している。また、図21ないし図23では、図21および図22に示したように、ボールレンズ2のレンズ径Dと同じ径の円形状の発光領域を有する仮想光源101からの平行光線をボールレンズ2に入射させた状態でのシミュレーション結果を示している。シミュレーションの放射強度は1Wで算出している。
【0064】
図23から分かるように、ボールレンズ2に対して平行光線を入射しても射出光線の配光角度範囲が最大±90degと、直角に曲がる範囲まで幅広く広がる配光が得られることが分かる。
【0065】
図23では、平行光線をボールレンズ2に入射して、焦点を形成させる特性を調べたが、図21および図22に示した光線軌跡を逆にたどる感覚で、ランバート配光を代表とする広範囲の配光の光源1(例えばLED)を利用して集光させることを考える。この場合には、ボールレンズ2を利用すれば、光源1からの射出角度の大きな光線も、ボールレンズ2にとても大きな屈折角で入光させ、取り込んで利用することが可能になるようにできることを示唆していると言える。第1の実施の形態に係る光学装置の技術は、このような収差の性質を生かしていることによって、可能になっている。
【0066】
次に、LED等の光源1をボールレンズ2に配置する際の最適な構成条件について述べる。
【0067】
(レンズ径Dと光源径Φとの関係)
ボールレンズ2の寸法等の定義については、上述した図14に示したとおりである。ボールレンズ2は球形であるため、レンズ径Dとレンズ材の屈折率nが決まれば、他の焦点距離EFLや開口率NAなどの諸元は一様に決定され単純化しやすい。上述したように、焦点距離EFLからボールレンズ2の半径(D/2)を引いたものが、バックフォーカスBFLである。
【0068】
平行光線をボールレンズ2に入射した場合、上述したように球面収差があるため、ボールレンズ2を透過する光線の収束点は1点固定されない。このため、多数の光線の集合状態全体の光線群を想定して説明する。平行光線をボールレンズ2に入射した場合の光線群の軌跡の集合は、図21の破線に示すように、バックフォーカスBFLの最大の長さを円錐の高さとみなす円錐様で占められる立体の範囲に固まっているとみなすことができる。そこで、説明の都合上、便宜的に、図14に示したように、円錐の底面に該当する直径Φqの領域Qを考えることにする。
【0069】
特に、この円錐領域の底面を形成する円形領域Qの直径Φqに着目して、光源1の光源径Φが、円形領域Qの直径Φq内に収まる範囲の場合と収まらない場合とにおいて、ボールレンズ2による集光状態等をシミュレーションした結果を、図25ないし図28に示す。
【0070】
図24は、第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズ2のレンズ径Dに対して光源径Φを種々変えたシミュレーション上の複数の構成例を示している。図25は、第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズ2のレンズ径Dに対して光源径Φを種々変えた場合の光学特性をシミュレーションした結果を示している。図26は、第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズ2のレンズ径Dに対して光源径Φを種々変えた場合の配光特性をシミュレーションした結果を示している。図27は、第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズ2のレンズ径Dに対して光源径Φを種々変えた場合の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を示している。図28は、第1の実施の形態に係る光学装置において、レンズ径Dと光源径Φとの関係が光利用効率に与える影響について示している。図28において、横軸はΦ/D(%)、縦軸は光線割合(%)を示す。図28には、ボールレンズ2を透過する光線割合とボールレンズ2を透過しない光線割合とについて、Φ/Dとの関係を示す。
【0071】
図25ないし図28では、図24に示したように光源1として光源径Φの円盤状の面光源をボールレンズ2に接する位置に配置した場合のシミュレーション結果を示している。図25ないし図28では、図24に示したように、ボールレンズ2のレンズ径Dは一定とし、光源径Φを種々変えた複数の構成例についてのシミュレーション結果を示している。シミュレーション上、円盤状の面光源である光源1の発光面全体から均等にランバートな光線をボールレンズ2の方向に射出する。図24には光源1の光源径Φとの比較のため、上述の図14に示した説明上の円形領域Qについても図示している。
【0072】
図25には、光学特性として、光源径Φの値[mm]と、レンズ径Dに対する光源径Φの比率(Φ/D)[%]と、レンズ(ボールレンズ2)を透過する光線割合[%]と、レンズ(ボールレンズ2)を透過しない光線割合[%]と、ボールレンズ2からの射出光線の半値幅[deg]との関係についてシミュレーションした結果を示す。なお、図25において「レンズを透過しない光線割合」にはボールレンズ2の内部で吸収等される成分は含まない。実質的に、ボールレンズ2に入射しない光線割合を示す。以降の他のシミュレーション結果を示す図においても同様である。
【0073】
図25に示したように、レンズ径Dに対する光源径Φの比率(Φ/D)が、上述の領域Qに相当する20%である場合には、半値幅は10degが得られ、また、光源1から射出される光線の90%弱がボールレンズ2から射出され、光利用効率も高いことが分かる。また、図25ないし図28のシミュレーションした結果から、目的とする集光度合いに応じて光源径Φを加減することによって、半値幅を調整できることが分かる
【0074】
図29は、光学シートを用いた比較例に係る光学装置の配光特性の一例を示している。図30は、第1の実施の形態に係る光学装置において、図29に示した配光特性に近い配光特性を実現した例を示している。
【0075】
図29は、ボールレンズ2を用いる代わりに、輝度を向上させるプリズムシートを含む光学シートを2枚重ねして用いた構成により得られる配光特性の例であり、半値幅±38deg程度となっている。図30は、Φ/D=83%の場合に、半値幅±39deg程度で、図29に示した配光特性に近い配光特性が得られる。すなわち、図29に示す、光学シートを用いた比較例に係る光学装置よりもよりよい集光性を得るためには、Φ/Dは最低83%以下であればよいことが分かる。
【0076】
図25ないし図28のシミュレーション結果から、光源径Φが領域Qの直径Φqより大きくなるにつれ、集光効率は低下し、半値幅が増加する。また、光源径Φが領域Qの直径Φqより大きくなるにつれ、ボールレンズ2の外周部に光線が入光する割合が増加するため、上述の球面収差の原理説明のとおり、屈折角の大きい光線が増加することによって光線の配光分布の広がりが大きくなり、半値幅が増加する。この様子は、図27に示した光線の軌跡でも確認できる。
【0077】
以上の説明では、光源1の発光面が円形状である場合を例にしているが、実際のLED素子の発光面は矩形状であることが多い。そこで、光源1の発光面が矩形状である場合の特性を説明する。
【0078】
図31は、第1の実施の形態に係る光学装置において、発光面が円形状の光源1に代えて、LEDパッケージ等の発光面が略正方形状の光源1Aを設けた場合の構成例を示している。図32は、図31の構成例の光学特性をシミュレーションした結果を示している。図33は、図31の構成例の配光特性をシミュレーションした結果を示している。図33には、比較例として、光源径Φが2.0の円形状の光源1の配光特性も示す。
【0079】
図31に示したように、光源1AをLEDパッケージとしたときの蛍光体重点発光部領域(実質的な発光領域)1Bが1辺の長さaの略正方形をなしている場合、発光面積a2を同面積の円に換算すると、その円の半径rは、a2=πr2の関係より、r=a/√πとなる。
【0080】
ちなみに、図32に示す事例では、a=2mmの場合に、r=2/√3.14=1.128379167程度になると計算される。したがって、略正方形状の光源1Aを円形状の光源1に換算した場合、光源径Φが2r相当の2.25675833となる。この場合には、Φ/Dが約38%であり、光線利用率が80パーセント弱であり、前述の図29に示した、光学シートを用いた比較例に係る光学装置などと比較するとかなり良好な集光特性が得られることになる。
【0081】
(ボールレンズ2と光源1との距離について)
以上のように、所定の光利用効率や集光程度を得るために必要な光源1の光源径Φとボールレンズ2のレンズ径Dとの寸法比率(Φ/D)が決定される。そして、ボールレンズ2のレンズ径Dが決定されると、ボールレンズ2を平面内に、アレイ化して複数配置する場合には、例えば図10に示したように、隣接する3つのボールレンズ2が略正三角形の頂点位置に配置されるような構成がとられる。
【0082】
光源1についても同様にして、平面内にアレイ化して複数配置する場合には、ボールレンズ2に対応するように配置密度や相対位置が決定できる。したがって、より小さいレンズ径Dで高密度にボールレンズ2をアレイ化して配置する場合には、光源1はそれに応じての光源径Φに設計する必要がある。また、ボールレンズ2と光源1の発光面との距離ΔLについて最適な値を設計する必要がある。
【0083】
第1の実施の形態に係る光学装置では、光線を射出させるために、光源1をボールレンズ2にほぼ接する近接位置に配置する。具体的には、例えばレンズ径D=6mmのボールレンズ2の場合、光源1は、ボールレンズ2の直下おおよそ200ミクロン弱の近傍より大きく離れない程度に配置するのが望ましい。ΔL/Dでは、3.5%以下が望ましいといえる。これは図34ないし図36に示すシミュレーション結果を踏まえてのことである。
【0084】
図34は、第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズ2に対する光源1の距離ΔLを種々変えた場合の光学特性をシミュレーションした結果を示している。図35は、第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズ2のレンズ径Dに対する光源1の距離ΔLの割合とボールレンズ2を透過する光線、およびボールレンズ2を透過しない光線との関係をシミュレーションした結果を示している。図36は、第1の実施の形態に係る光学装置において、ボールレンズ2のレンズ径Dに対する光源1の距離ΔLの割合と半値幅との関係をシミュレーションした結果を示している。
【0085】
ΔL/Dが3.5%以下が望ましいといえる点について説明する。図34には、Φ/Dを38%と一定にした場合の光学特性を示す。図34には光学特性として、ボールレンズ2に対する光源1の距離ΔL[μm]と、レンズ径Dに対する距離ΔLの比率(ΔL/D)[%]と、レンズ(ボールレンズ2)を透過する光線割合[%]と、レンズ(ボールレンズ2)を透過しない光線割合[%]と、ボールレンズ2からの射出光線の半値幅[deg]との関係についてシミュレーションした結果を示す。図35において、横軸はΔL/D[%]、縦軸は光線割合[%]を示す。図36において、横軸はΔL/D[%]、縦軸は半値幅[deg]を示す。図36には、シミュレーション結果に基づいてΔL/Dと半値幅との関係を線形変換した結果も示す。
【0086】
図35のシミュレーション結果から、ΔL/Dは3.5%以下程度に収めることが効率面では望ましい。また、図35のシミュレーション結果から、距離ΔLが半値幅に与える影響度合いは、光源径Φの変化の場合に比較するとはるかに少なく、ΔL/Dの1[%]の変化に対しては、(ΔWH)/(ΔL/D)=-0.28[deg/%]程度となる。なお、ΔWHは半値幅を示す。使用するボールレンズ2のレンズ径Dに対する距離ΔLの割合ΔL/Dが3.5%を超える使用方法では、ボールレンズ2に入らない光線割合が増加し、目的とする集光から外れる光線割合が増加してしまう。
【0087】
ここまでをまとめると、集光効率がほぼ90%得られ、かつ、半値幅10deg以下を実現し得る条件としては、光源1の発光領域を光源径Φの円形とみなしたとき、Φ/D<20%以下であることを第一の条件とする。
【0088】
また、上記に準ずる実用的範囲として、Φ/D<38%の範囲において、集光効率が80%、半値幅15deg~18degが得られ、第二の利用可能域条件とできる。
【0089】
さらに、半値幅は、光源径Φを大きくするにつれて広がり、30deg以下の半値幅でよい用途においては、Φ/Dは50%まで緩和できる。それを超えると、損失が増加し、一般には実用域とはみなされなくなる。
【0090】
しかしながら、ボールレンズ2だけではなく、上述の図16に示したように内面(壁面)が反射面4とされた壁部3を配置することで、上述の条件を外れても実用可能となり得る場合がある。
【0091】
(光源1からの光線をボールレンズ2に向けて反射する壁部3を配置した場合の特性)
図37は、第1の実施の形態に係る光学装置において、光源1からの光線をボールレンズ2に向けて反射する壁部3を配置した場合と壁部3を配置しなかった場合との光学特性をシミュレーションした結果を示している。図38は、第1の実施の形態に係る光学装置において、壁部3を配置しなかった場合の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を示している。図39は、第1の実施の形態に係る光学装置において、壁部3を配置した場合の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を示している。図40は、第1の実施の形態に係る光学装置において、壁部3を配置した場合の射出光線の軌跡をシミュレーションした結果を壁部3を透明化して示している。図41は、第1の実施の形態に係る光学装置において、壁部3を配置した場合と壁部3を配置しなかった場合との射出光線の配光特性をシミュレーションした結果を示している。
【0092】
図37には、壁部3を配置した場合と壁部3を配置しなかった場合とのそれぞれについて、光学特性として、ボールレンズ2に対する光源1の距離ΔL[μm]と、レンズ径Dに対する距離ΔLの比率(ΔL/D)[%]と、レンズ(ボールレンズ2)を透過する光線割合[%]と、レンズ(ボールレンズ2)を透過しない光線割合[%]と、ボールレンズ2からの射出光線の半値幅[deg]との関係についてシミュレーションした結果を示す。
【0093】
図37に示すように、壁部3を配置することにより、ボールレンズ2に取り込める光線が増加し、ほぼすべて取り込むことができる。これは、図38ないし図40に示すように、ボールレンズ2に取り込めない光線が壁部3の反射面4で反射してボールレンズ2に入射するためである。壁部3を配置しない場合には、図38および図41に示すように、光源1からの光線が横方向に広がる関係で、ボールレンズ2から射出される光線の射出方位角が広がる。図41から、壁部3を配置することにより、光線の射出方位角をある程度規制できる効果が得られていることが分かる。この事例においては、ボールレンズ2への光線の光取り込みを補助する処理を加えることが、迷光を削減することに有効であることを示している。
【0094】
以上のような壁部3を利用する方法は、アレイ化する場合にも有効である。図42は、アレイ化された壁部3(プレート30)を備えた比較例に係る光学装置の一例を示している。図43は、アレイ化された壁部3(プレート30)を備えた比較例に係る光学装置における壁部3(プレート30)の平面構成例を示している。図44は、第1の実施の形態に係る光学装置において、アレイ化された壁部3(プレート30)を備えた構成例を示している。図45は、第1の実施の形態に係る光学装置において、アレイ化された壁部3(プレート30)とボールレンズ2との平面構成例を示している。
【0095】
図42および図43に示した比較例に係る光学装置は、アレイ化された複数の光源1と、プレート30とを備えている。プレート30には、複数の光源1のそれぞれに対応する位置に、円筒状もしくはすり鉢状の孔部31が設けられている。孔部31の周囲に光源1からの光線を反射する反射面4が設けられている。また、図42および図43に示した比較例に係る光学装置は、プレート30の上側に輝度の均一化および輝度の向上を図るための光学シート層130が配置されている。これに対し、図44および図45に示した第1の実施の形態に係る光学装置は、プレート30の孔部31にボールレンズ2を配置した構成とされている。なお、ボールレンズ2は図8ないし図10に示した構成例のように複数のボールレンズ2が一体化されたアレイ構造であってもよい。
【0096】
(光源1がランバートではない場合の例)
以上までの説明は、使用する光源1の配光特性がランバート配光であることを前提として行ってきたが、第1の実施の形態に係る光学装置は、光源1がランバート配光ではない場合にも適用可能である。一般的に光源の配光は様々であり、配光の広がりが大きいものや、あるいはそれをある程度狭めて集光用途向けとしたものなどバリエーションがある。
【0097】
図46は、非ランバート配光の光源1の一構成例を、射出光線の軌跡のシミュレーション結果と共に示している。図47は、非ランバート配光の光源1の配光特性の一例を示している。図48は、第1の実施の形態に係る光学装置において、非ランバート配光の光源1とボールレンズ2とを組み合わせた構成例を、射出光線の軌跡のシミュレーション結果と共に示している。図49は、第1の実施の形態に係る光学装置において、非ランバート配光の光源1とボールレンズ2とを組み合わせた場合の配光特性の一例を示している。図50は、図47に示す配光特性と図49に示す配光特性とを比較して示している。
【0098】
図46に示した非ランバート配光の光源1は、LEDの上に樹脂レンズが搭載されたLEDパッケージとなっており、図47に示したように光線の射出方位角が、既にある程度狭い配光を有するものとなっている。
【0099】
図48には、図46に示した非ランバート配光の光源1とボールレンズ2とを組み合わせた構成例を示す。図46に示した非ランバート配光の光源1は、既に樹脂レンズが搭載されたLEDパッケージとなっているので、そのLEDパッケージ全体の大きさをおおよそ6mmとし、その大きさを光源1の光源径Φとみなすと、上述の領域Qを想定して、Φ/Dが20%になるようにボールレンズ2のレンズ径Dを求めると、D=30mmと求められる。
【0100】
図48には、レンズ径D=30mm、屈折率n=1.49の樹脂製のボールレンズ2を光源1の上部に配置した場合の光線軌跡を示している。図49および図50に示したように、ボールレンズ2を配置したことによって、半値幅は大幅に削減され集光性が向上していることが分かる。このように、完全平行光は望めないが、ある程度の集光性を求める場合、第1の実施の形態に係る光学装置の手法は幅広く有効でありいろいろ活用できることが分かる。図49および図50に示したように、非ランバート配光の光源1からの光線をロスなく集光可能であるため、光線方向を一方向に揃えることができる。
【0101】
(ボールレンズ2の平面配列の最適化)
次に、図8ないし図10に示したように複数のボールレンズ2をアレイ化する場合に、複数のボールレンズ2をできるだけ高密度で配置する方法について説明する。複数のボールレンズ2をできるだけ高密度で配置することで、輝度むらを低減できる。ここでは、簡単のため、2次元的な平面内に複数の円を配置するものとして説明する。複数のボールレンズ2の配置密度(充填密度)を向上させる配置組み合わせ事例としては、円を用いて敷き詰める方法によって、幾種類も幾何数学的なパターンが知られている。第1の実施の形態に係る光学装置の技術においてもそれらの方法により充填密度を高める手法が応用でき、一種類の半径のボールレンズ2だけではなく、2種類以上のボールレンズ2を組み合わせてアレイ化を図ることで、充填密度の向上を行い、光学的な輝度むら低減に寄与するほか、単位面積当たりの輝度を向上させることができる。
【0102】
図51は、第1の実施の形態に係る光学装置において、複数のボールレンズ2の充填密度を高めた第1の構成例を示している。
【0103】
複数のボールレンズ2の充填密度は、「実際に敷き詰められたボールレンズ2の投影面積(円の合計面積)/(敷き詰められる領域面積)」の比率で示される。図51の場合で説明すると、ボールレンズ2が配置される長方形全体の面積と、長方形の内部に包含されている円部分との面積比率であって、以下のようになる。
【0104】
ボールレンズ2が半径r=1の1種類として、縦(√3×6)×横(15)の大きさの長方形内部にボールレンズ2を最密充填した場合、複数の円の総面積は、面積πの円の総数45個分なので、
π×45=141.3717 ……(A)
【0105】
長方形の面積は、
縦(√3×6)×横(15)=155.8845727 ……(B)
【0106】
充填密度は、以下のように求められる。
式(A)/式(B)=0.906899682
【0107】
図52は、第1の実施の形態に係る光学装置において、複数のボールレンズ2の充填密度を高めた第2の構成例を示している。図53は、図52に示した第2の構成例における複数のボールレンズ2の寸法例を示している。
【0108】
図52では、複数の第1のボールレンズ21に加え、第1のボールレンズ21よりも径の小さい第2のボールレンズ22を補助レンズとして配列した構成例を示している。
【0109】
ここでは、簡単のため、2次元的な平面内に大きい円(第1のボールレンズ21)と小さい円(第2のボールレンズ22)との大小、2種類の円を配置するものとして説明する。
【0110】
図52および図53は、半径1の大きい円に加え、半径0.414214(=√2-1)の小さい円を隙間に配置することにより、最密充填した場合の配置例となっている。なお、図53に示したように、大きい円の半径が1、隣接する3つの円の中心を結んだ線によって形成される三角形が45°の直角二等辺三角形であることから、三角形の斜辺は√2となる。したがって、小さい円の半径は(√2-1)となる。
【0111】
このことから、縦(11)×横(15)の大きさの長方形内部に第1および第2のボールレンズ21,22を最密充填した場合、複数の大きい円の総面積は41.25πとなり、複数の小さい円の総面積は41.25×(√2-1)2×πとなる。長方形の面積に対する大小、2種類の円の総面積の比率が充填密度であり、以下のように求められる。
【0112】
[(41.25π+41.25×(√2-1)2×π)/(11×15)]=0.920151185
【0113】
このように、充填密度は0.920151185で、1種類の大きさのボールレンズ2を配置する場合よりも充填密度をさらに向上することができている。
【0114】
なお、互いにレンズ径の異なる3種類以上のボールレンズ2を配置するようにしてもよい。
【0115】
[1.3 効果]
以上説明したように、第1の実施の形態に係る光学装置、照明装置、および表示装置によれば、光源1からの光をボールレンズ2によって集光し射出するようにしたので、効率良く所望の配光特性を得ることが可能となる。
【0116】
特に、第1の実施の形態に係る光学装置によれば、光源1の発光面をボールレンズ2の焦点位置よりもボールレンズ2に近い位置に配置することにより、光源1の射出配光がランバートであったとしても、そのほとんどを、ボールレンズ2に取り込むことができる。ボールレンズ2以外の段階的集光手続きを経ないで効率の良い集光が行える。
【0117】
また、第1の実施の形態に係る光学装置によれば、光源1がアレイ状に平面内に2次元整列配置されている場合において、ボールレンズ2側も同様にアレイ状に整列配置することで、平面状の略コリメート光源の作成が可能となる。
【0118】
また、第1の実施の形態に係る光学装置によれば、ボールレンズ2が球形であることにより、発光面に再帰性反射性が付加されることで、アレイ化やボックス化に適している。
【0119】
第1の実施の形態に係る光学装置において、光源1の光源径Φと使用するボールレンズ2のレンズ径Dとの関係は、例えばレンズ材の屈折率nが1.4~1.8である場合において、Φ/D=38%以下が望ましい。また、ボールレンズ2に対する光源1の発光面の距離ΔLに関し、ΔL/D=3.5%以下となるように、ボールレンズ2と光源1とが近接配置されることが望ましい。ただし、ボールレンズ2と光源1とを、ΔL/D=3.5%以下に近接配置できない場合であっても、ボールレンズ2と光源1との周囲を囲む反射面4を設けることにより、光利用効率を実用範囲に維持することが可能となる。第1の実施の形態に係る光学装置において、光源1の射出光線の配光は、ランバートでなくとも、集光効果は発現できるが、その際には、上記光源1の光源径Φと使用するボールレンズ2のレンズ径Dとの関係の条件を満たすことがより有効である。
【0120】
なお、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。以降の他の実施の形態の効果についても同様である。
【0121】
[1.4 変形例]
以上の説明では、光源1の色について言及しなかったが、色の異なる複数の光源1をアレイ状に配置してもよい。
【0122】
<2.第2の実施の形態>
次に、本開示の第2の実施の形態について説明する。なお、以下では、上記第1の実施の形態に係る光学装置の構成要素と略同じ部分については、同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0123】
[2.1 構成]
第1の実施の形態に係る光学装置は、例えば可視光または近赤外光を用いた光通信装置に適用することが可能である。
【0124】
図54は、本開示の第2の実施の形態に係る光通信装置210の一構成例を概略的に示している。
【0125】
光通信装置210は、送信部211Tと、受信部211Rとを備えている。
【0126】
送信部211Tは、送信信号処理部212Tと、光送信部213Tとを有している。送信信号処理部212Tは、送信信号を生成して光送信部213Tに出力する。光送信部213Tは、送信信号処理部212Tからの送信信号を光信号に変換して射出する。
【0127】
受信部211Rは、光受信部213Rと、受信信号処理部212Rとを有している。光受信部213Rは、光送信部213Tからの光信号を受信して電気的な信号に変換する。受信信号処理部212Rは、受信部213Rからの光電変換された信号を受信信号として処理する。
【0128】
図55は、光送信部213Tの一構成例を概略的に示している。
【0129】
光送信部213Tは、つば部5を有する1次元的または2次元的にアレイ化された複数のボールレンズ2と、複数のボールレンズ2のそれぞれに対応して設けられた複数の光源1とを備えている。光源1とボールレンズ2の機能は、照明光ではなく光信号を射出するということ以外は、基本的に上記第1の実施の形態に係る光学装置と同様である。
【0130】
図56は、光受信部213Rの一構成例を概略的に示している。
【0131】
光受信部213Rは、つば部5を有する1次元的または2次元的にアレイ化された複数のボールレンズ2と、複数のボールレンズ2のそれぞれに対応して設けられた複数の光検出素子(受光素子)220とを備えている。ボールレンズ2は、光(光信号)を集光して光検出素子220に向けて集光する。光検出素子220は、受光面を有し、その受光面がボールレンズ2の焦点位置よりもボールレンズに近い位置に配置され、ボールレンズ2からの射出光を受光する。光検出素子220は、上記第1の実施の形態に係る光学装置における光源1に対応する位置に配置される。
【0132】
[2.2 作用および効果]
従来、衛星通信などに用いられている電磁波領域においては、限りある送信電力の制約の中で、遠方へ電磁波を伝達するために、電磁波をパラボラアンテナ等の集中手段を用いて、射出方位の指向性を高めることなどが行われており、このパラボラアンテナの重量が重く、衛星機器などに搭載するには限りがあった。
【0133】
上記第1の実施の形態に係る光学装置の集光原理方法を用いて、非可視光の電磁波領域においても軽量化の応用可能性が生じる。現状の一例として、ミリ波に対する同様の考え方がある。この例では、レンズがボールレンズ2ではないため、アレイ化する際の充填密度がうまく稼げない。
【0134】
第2の実施の形態に係る光通信装置210に対する比較例として、ミリ波帯の光通信装置の構成例を図57および図58に示す。図57および図58には、ミリ波帯の光通信装置における送信部の構成例を示す。
【0135】
図57に示した比較例に係る光通信装置は、導波管150とミリ波レンズ151とを組み合わせた構成とされている。図58に示した比較例に係る光通信装置は、カセグレン方式のアンテナであり、ミリ波レンズ(1次放射器)161と、副反射鏡162と、主反射鏡163とを組み合わせた構成とされている。
【0136】
光は電磁波の一種ではあるが 電磁波と異なる性質がある。X線、ガンマ線などの放射線も極めて波長の短い電磁波の一種であり、また、可視光は目に見える領域の電磁波になっているが、波長がナノメートルオーダーの域にあるものである。可視光より波長の長い、マイクロ波やミリ波のようなレーダー用の電波に対しては、上記第1の実施の形態に係る光学装置と類似の集光性を誘電体レンズを用いて構成したアンテナの構成例がある。
【0137】
そこで、可視光ならではの特徴をいくつか述べる。赤外線よりも長波長なマイクロ波、およびミリ波は、可視光より波長が長いために回折性が光より強く、障害物などで回折現象により方向直進性が妨げられて、弱まるなどの現象が現れやすく、可視光の波長に比較した場合には、やはり特定の方向に直進しにくい側面がある。
【0138】
一方で、可視光より波長の短い、紫外線以下の波長の短い方向の電磁波は、直進性はより高まるが、生物に有害なエネルギーを有しており、地球大気により吸収されやすいため通信には適さない。例えば、人工衛星などに当該電磁波を利用した無線装置搭載して通信を地上と行う場合を考えたケースにおいては、大気等に吸収されてしまって届かないという不都合を生じる。このことから、直進性が高く、空気に吸収されたりしない電磁波が可視光となっており、通信用の電磁波の中では比較的、取り扱いやすい。
【0139】
しかしながら、可視光の中でも、青い光は大気中で散乱を受ける関係で、地上に向けて上空から垂直に送信する場合には、赤方向の光線がより望ましく、特に可視光に近い近赤外線の領域では、肉眼視はできないものの、赤外線よりもさらに長波長の電波を利用するよりは、回折しにくく直進性が高い。この性質は、霧などの中でも鮮明に対象を撮影できるような赤外線カメラが実用化されていることなどからも自明であると考えられる。そうしたことから、上記第1の実施の形態に係る光学装置の技術を、例えば赤外LED等に当てはめて利用することは、通信用の送信側に用いた場合にメリットが大きいと考えられる。また、光源1の光変換効率の向上時には、光通信化すれば、パラボラアンテナが不要になる可能性があり、航空宇宙分野等においてもまた、軽量化による進化が可能になる。
【0140】
その他の構成、動作および効果は、上記第1の実施の形態に係る光学装置と略同様であってもよい。
【0141】
<3.その他の実施の形態>
本開示による技術は、上記各実施の形態の説明に限定されず種々の変形実施が可能である。
【0142】
例えば、本技術は以下のような構成を取ることもできる。
以下の構成の本技術によれば、光源からの光をボールレンズによって集光し射出するようにしたので、効率良く所望の配光特性を得ることが可能となる。
【0143】
(1)
光を集光して射出するボールレンズと、
発光面を有し、前記発光面が前記ボールレンズの焦点位置よりも前記ボールレンズに近い位置に配置され、前記ボールレンズ側に光を射出する光源と
を備える
光学装置。
(2)
前記ボールレンズのレンズ径をD、前記光源の前記発光面と前記ボールレンズとの距離をΔLとしたとき、ΔL/Dが3.5%以下である
上記(1)に記載の光学装置。
(3)
前記ボールレンズのレンズ径をD、前記光源の前記発光面の円形換算の径を光源径Φとしたとき、Φ/Dが38%以下である
上記(1)または(2)に記載の光学装置。
(4)
内面が反射面とされ、前記反射面が前記ボールレンズの周囲に位置するように配置され、前記光源からの光を前記ボールレンズに向けて反射する壁部、をさらに備える
上記(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の光学装置。
(5)
前記ボールレンズからの射出光の一部を透過し、他の一部を反射して前記ボールレンズへの戻り光とする光学シート、をさらに備える
上記(1)ないし(4)のいずれか1つに記載の光学装置。
(6)
前記光源および前記ボールレンズを収容し、光射出面に前記光学シートが配置された光学ボックス、をさらに備える
上記(5)に記載の光学装置。
(7)
前記ボールレンズを複数備え、
前記光源は、前記各ボールレンズごとに設けられている
上記(1)ないし(6)のいずれか1つに記載の光学装置。
(8)
複数の前記ボールレンズは、アレイ化されて一体化されている
上記(7)に記載の光学装置。
(9)
前記ボールレンズとして、互いにレンズ径の異なる2種類以上のボールレンズを、それぞれ複数備え、
前記光源は、前記各種類ごとのボールレンズごとに設けられている
上記(1)ないし(6)のいずれか1つに記載の光学装置。
(10)
前記光源の配光特性はランバートである
上記(1)ないし(9)のいずれか1つに記載の光学装置。
(11)
前記ボールレンズはコリメートされた光を射出する
上記(1)ないし(10)のいずれか1つに記載の光学装置。
(12)
前記ボールレンズは屈折率が一様な材質からなる
上記(1)ないし(11)のいずれか1つに記載の光学装置。
(13)
光を集光して照明光として射出するボールレンズと、
発光面を有し、前記発光面が前記ボールレンズの焦点位置よりも前記ボールレンズに近い位置に配置され、前記ボールレンズ側に光を射出する光源と
を備える
照明装置。
(14)
前記ボールレンズを複数備え、
前記光源は、前記各ボールレンズごとに設けられ、
複数の前記ボールレンズと複数の前記光源とが、全体として面光源を形成する
上記(13)に記載の照明装置。
(15)
光を集光して射出する複数のボールレンズと、
前記複数のボールレンズのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが発光面を有し、前記各発光面が前記各ボールレンズの焦点位置よりも前記各ボールレンズに近い位置に配置され、前記各ボールレンズ側に光を射出する複数の光源と
を備える
表示装置。
(16)
前記複数のボールレンズから射出された光を変調する光変調素子、をさらに備える
上記(15)に記載の表示装置。
(17)
少なくとも1つの前記ボールレンズが1画素を形成する
上記(15)に記載の表示装置。
(18)
光を集光して射出するボールレンズと、
発光面を有し、前記発光面が前記ボールレンズの焦点位置よりも前記ボールレンズに近い位置に配置され、前記ボールレンズ側に光を射出する光源と
を有する光送信部、を備える
光通信装置。
(19)
光を集光するボールレンズと、
受光面を有し、前記受光面が前記ボールレンズの焦点位置よりも前記ボールレンズに近い位置に配置され、前記ボールレンズからの射出光を受光する受光素子と
を有する光受信部、さらに備える
上記(18)に記載の光通信装置。
【符号の説明】
【0144】
1…光源、1A…略正方形状の光源(LEDパッケージ)、1B…蛍光体重点発光部領域(実質的な発光領域)、2…ボールレンズ、2A,2B…半ボールレンズ(半球状レンズ)、3…壁部、4…反射面(壁面)、5,5A,5B…つば部(縁部)、10…光源配置層、20…射出集光機能層、21…ボールレンズ(第1のボールレンズ)、22…ボールレンズ(第2のボールレンズ、補助レンズ)、30…プレート(壁部)、31…孔部、40…実線(略正三角形)、41…破線、100…光源部、101…仮想光源、110…ルーバー、111…遮光層(光吸収層)、112…光透過層、120…液晶表示素子(光変調素子)、130…光学シート層、131…光拡散層、132…光学フィルム、140…光学ボックス、150…導波管、151…ミリ波レンズ、161…ミリ波レンズ(1次放射器)、162…副反射鏡、163…主反射鏡、210…光通信装置、211T…送信部、211R…受信部、212T…送信信号処理部、212R…受信信号処理部、213T…光送信部、213R…光受信部、220…光検出素子(受光素子)、LA…光線、LB…光線、L1…1次入射光、L2…2次入射光、Ln…n次入射光、Tr1…分光透過率、Lr1…1次反射戻り光、Lr2…2次反射戻り光、D…レンズ径、Φ…光源径、Φq…光線透過領域径(領域Qの直径)、ΔL…光源の発光面とボールレンズとの距離。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49
図50
図51
図52
図53
図54
図55
図56
図57
図58