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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】成形体製造チューブ
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20231211BHJP
   B28B 7/34 20060101ALI20231211BHJP
   F16L 11/10 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
E02D17/20 104C
B28B7/34 F
E02D17/20 104A
E02D17/20 104Z
F16L11/10 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019143663
(22)【出願日】2019-08-05
(65)【公開番号】P2021025291
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231431
【氏名又は名称】日本植生株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 博文
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 泰良
(72)【発明者】
【氏名】大倉 卓雄
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-032436(JP,U)
【文献】特開平09-088071(JP,A)
【文献】特開平07-223271(JP,A)
【文献】特開昭56-122424(JP,A)
【文献】特開2018-131698(JP,A)
【文献】特開2018-059336(JP,A)
【文献】特開平09-151460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
F16L 11/10
B28B 7/00-7/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントミルク、セメントモルタル、及び、生コンクリートの何れかであるスラリー状の水和材料がチューブ内で硬化した成形体を形成し、該成形体を格子状に配して法枠を形成するための成形体製造チューブであって、
前記水和材料の搬送路を、前記水和材料を濾過する筒状の周壁で取り囲むことにより形成されており、
前記周壁は、筒状で透水性のチューブ本体と、このチューブ本体の内面に積層された透水性の補助内層とを有し、
前記チューブ本体はポリエステル系繊維織物により形成され、
前記補助内層は、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、及び、セルロース系繊維の何れかを含む不織布により形成され且つ厚さが3mm以上で見掛比重が0.1~0.3であり、
前記不織布の繊維方向は、前記チューブ本体の長手方向に沿って配向されていることを特徴とする成形体製造チューブ。
【請求項2】
セメントミルク、セメントモルタル、及び、生コンクリートの何れかであるスラリー状の水和材料がチューブ内で硬化した成形体を形成し、該成形体を格子状に配して法枠を形成するための成形体製造チューブであって、
前記水和材料の搬送路を、前記水和材料を濾過する筒状の周壁で取り囲むことにより形成されており、
前記周壁は、筒状で透水性のチューブ本体と、このチューブ本体の内面に積層された透水性の補助内層とを有し、
前記チューブ本体はポリエステル系繊維織物により形成され且つ見掛比重が0.3~0.85であり、
前記補助内層は、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、及び、セルロース系繊維の何れかを含む不織布により形成され、
前記不織布の繊維方向は、前記チューブ本体の長手方向に沿って配向されていることを特徴とする成形体製造チューブ。
【請求項3】
前記チューブ本体と前記補助内層との重合間には、前記補助内層から染み出す前記水和材料を繋ぎ材として前記チューブ本体に張り付かせることにより耐曲げ補強層を形成させる浸透拡散隙間が確保されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成形体製造チューブ。
【請求項4】
前記補助内層は、少なくともセルロース系繊維を含んで形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の成形体製造チューブ。
【請求項5】
前記補助内層は、弾性率の異なる複数種の繊維を含んで形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の成形体製造チューブ。
【請求項6】
スラリー状の前記水和材料は、前記搬送路に流入するときの水比が60%よりも高く200%以下である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の成形体製造チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリー状の水和材料を充填硬化させて丸太状の成形体を製造する際等に好適に使用できる成形体製造チューブに関する。
なお、本明細書において「水和材料」は、セメント(粉体)に水を加えた混合素材をはじめ、この混合素材に砂を加えたモルタル素材や更に砂利をも加えたコンクリート素材など、水和反応によって硬化するもの(原料と水との混合物)を言う。またセメントには石膏なども含むものとする。
【背景技術】
【0002】
水和材料を充填硬化させて丸太状の成形体を製造する方法は公知である(例えば、特許文献1等参照)。この方法は、切土のり面に筒状の袋を縦横の格子状に配置した後、袋中へセメントモルタルを注入し、乾燥硬化させるというものである。
この種の技術分野(主に土木・建設など)では、セメントモルタルの水比(セメント及び砂の量に対して水を含ませる質量比率)を40%~60%程度に設定するのが一般的とされている。
なお、水比が60%を超えると、水和反応の進行中に水が十分に抜けないことが原因で、水和硬化後における水分の蒸発や排出を招来することになる。その結果、巣や空洞を多発させることになり、成形体の緻密性が不足することになって脆性が高くなる、という問題に繋がる。そのため、水比が60%を超えるような使用は不適である点が重要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2650611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で開示された成形体製造方法では、前記の事情に伴い、水比60%程度以下の低粘度、低流動性のセメントモルタルを使用せざるを得ない状況にあったため、セメントモルタルを筒状の袋へ注入する際には大形の注入ポンプを必要としていた。
なお、水比を60%程度以下に抑えたセメントモルタルを使用した場合では、成形体としては一般的な強度(圧縮強度20N/mm程度)が得られるだけであることを指摘しておかなければならない。
【0005】
大形の注入ポンプが必要であるということは、大形ポンプの搬入が可能な施工現場であることが必要条件とされる。また、大形の注入ポンプといえども、セメントモルタルの注入には長い時間を要することから工期を短縮できないということもあった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、大形の注入ポンプを要するといった設備的な制限を受け難く、且つ迅速な施工が可能であり、より高強度の成形体を得ることができる成形体製造チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
【0008】
即ち、本発明に係る成形体製造チューブは、スラリー状の水和材料の搬送路を、前記水和材料を濾過する筒状の周壁で取り囲むことにより形成されており、
前記周壁は、筒状で透水性のチューブ本体と、このチューブ本体の内面に積層された透水性の補助内層とを有し、
前記チューブ本体は織物により形成され、
前記補助内層は不織布により形成され、
前記不織布の繊維方向は、前記水和材料の搬送方向に配向されていることを特徴とする。
【0009】
ここで、本発明に係る成形体製造チューブの一態様として、前記チューブ本体の見掛比重が0.3~0.85である。
【0010】
また、本発明に係る成形体製造チューブの他態様として、前記チューブ本体と前記補助内層との重合間には、前記補助内層から染み出す前記水和材料を繋ぎ材として前記チューブ本体に張り付かせることにより耐曲げ補強層を形成させる浸透拡散隙間が確保されている。
【0011】
さらに、本発明に係る成形体製造チューブの他態様として、前記補助内層は、少なくともセルロース系繊維を含んで形成されている。
【0012】
また、本発明に係る成形体製造チューブの他態様として、前記補助内層は、弾性率の異なる複数種の繊維を含んで形成されている。
【0013】
さらに、本発明に係る成形体製造チューブの他態様として、前記補助内層は、厚さが3mm以上であり見掛比重が0.1~0.3である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る成形体製造チューブであれば、大形の注入ポンプを要するといった設備的な制限を受け難く、且つ迅速な施工が可能である。また、水和材料の充填硬化後にはより高強度の成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る成形体製造チューブの断面図(図2のA-A断面に相当)であって2層構造とした例である。
図2】本発明に係る成形体製造チューブを複数本用いて形成した単位構造体を示した斜視図である。
図3】複数の単位構造体を用いて格子形構造体を施行する状況を示した斜視図である。
図4】本発明に係る成形体製造チューブの製造過程を示した平面図である。
図5図4のV部の拡大図である。
図6】本発明に係る成形体製造チューブの製造過程を示した平面図である。
図7】本発明に係る成形体製造チューブの製造過程を示した正面図である。
図8】本発明に係る成形体製造チューブの別の製造過程を示した平面図である。
図9】本発明に係る成形体製造チューブの別の製造過程を示した正面図である。
図10】本発明に係る成形体製造チューブに補強層を設けた場合の断面図である。
図11】補強層を設ける方法としての一例を示した斜視図である。
図12】補助内層として好適に使用可能な繊維配向不織布を示したものであって(a)は平面図であり(b)は側面図である。
図13図12(b)のXIII部の拡大図である。
図14】結合水量と水比との関係を示したグラフである。
図15】結合水量と材齢との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
本実施形態に係る成形体製造チューブは、スラリー状の水和材料の搬送路を、前記水和材料を濾過する筒状の周壁で取り囲むことにより形成されている。
前記周壁は、筒状で透水性のチューブ本体と、このチューブ本体の内面に積層された透水性の補助内層とを有する。
前記チューブ本体は織物により形成されている。
前記補助内層は不織布により形成されている。
前記不織布の繊維方向は、前記水和材料の搬送方向に配向されている。
なお、本実施形態において、スラリー状の水和材料は、セメントミルク、セメントモルタル、及び、生コンクリートを含む概念である。
【0018】
図1は、本実施形態に係る成形体製造チューブ(以下、「本実施形態チューブ」と言う)1の断面図である。また、図2は本実施形態チューブ1の複数本を縦横に交差させて形成した単位構造体2を示しており、図3は、この単位構造体2を複数用いて傾斜地へ法枠(のりわく)用の格子形構造体3を施工した状況を示している。
これら図1乃至図3から明らかなように、本実施形態チューブ1は、両端が通り抜けたストレートの筒状を基本形体として形成されたものであって、内部に形成される貫通した筒孔が水和材料Wを注入、搬送するための搬送路5とされている。
なお、本実施形態チューブ1は、注入する水和材料Wが水比60%を超えてスラリー状とされている場合を、主な使用方法としている。例えば、水比100%~200%などとする。
ただ、このような水比にすることが限定されるわけではなく、水比60%以下の水和材料Wを使用することを除外するわけではない。また、本実施形態チューブ1は、少なくとも筒孔(搬送路5)の孔内全周に水和材料Wが接触するような送り量、更に言えば搬送路5を充満させるような送り量で使用することが推奨される。
【0019】
本実施形態チューブ1において、搬送路5を取り囲むように形成される筒状の周壁6は、搬送路5の方向(チューブ長手方向)に沿って水和材料Wを搬送しつつ、水和材料Wを積極的に濾過させ水和材料Wに含まれる水を周壁6外に排出させて水和反応が効率よく生起するように作用する。なお、図1において搬送路5から放射状に分散する複数の矢符は、水和材料Wから周壁6を介して排水が起こる様子を模式的に示したものである。
【0020】
更にこの周壁6は、水和反応が進むほどに硬くなる水和材料Wを棒状の硬化体Tへと形つくる成形作用と、水和材料Wが硬化体Tとなる過程でその外周層と一体化して、その後に全体として構成される成形体の機械的強度(曲げ強度や引っ張り強度)を高める補強作用をも奏する。
【0021】
図1では、周壁6がチューブ本体7とこのチューブ本体7の内面に積層された透水性の補助内層8とを有した2層構造のものを例示している。
【0022】
また図10に示すように、周壁6は、補助内層8の更に内面に補強層9が設けられた3層構造にすることも可能であり、その他にも、チューブ本体7や補助内層8をそれぞれ複数層の積層構造(図示略)にしたり、チューブ本体7の外側に被覆層を設ける構造(図示略)にしたりすることも可能である。
【0023】
チューブ本体7は、繊維素材を含んだ織物により形成されたものとするのが好適である。織物を形成する繊維素材としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエステル系繊維を含むものとすればよい。
このようにして成るチューブ本体7は、厚さを0.08mm以上にするのが好適である。また、チューブ本体7は、見掛比重を0.3~0.85とするのが好適である。
なお、チューブ本体7の見掛比重は、前記チューブ本体7を構成する織物自体の見掛比重を意味する。
チューブ本体7の厚さを0.08mm以上にすることで、チューブ本体7自体はもとより、周壁6の全体として(本実施形態チューブ1として)の曲げ強度や引張強度を向上させることができるという利点がある。
また、チューブ本体7の見掛比重を0.3~0.85にすることで、水和材料Wが水和反応を起こしつつ乾燥硬化する際に、水和材料Wがチューブ本体7(織物)に含浸するだけでなく、チューブ本体7から外側へも幾らか染み出しやすくなり、チューブ本体7と水和材料Wとの一体化が生じやすくなるという利点がある。
チューブ本体7の見掛比重が0.85以下であると、水和材料Wからの本実施形態チューブ1外への排水進みやすくなり、その結果、水和材料Wが十分に硬化しやすくなる。チューブ本体7の見掛比重が0.3以上だと、水和材料Wからの排水の速度が緩やかとなり水和材料Wを十分に搬送しやすくなる。チューブ本体7の見掛比重のより好ましい下限値として0.35、チューブ本体7の繊維素材にポリエステル系繊維を用いる場合に特に好ましい下限値として0.4が例示できる。チューブ本体7の見掛比重のより好ましい上限値として0.8、チューブ本体7の繊維素材にポリエステル系繊維を用いる場合に特に好ましい上限値として0.75が例示できる。
【0024】
本実施形態のチューブ1は、周壁6に補助内層8を設けたこと(図1参照)により、この補助内層8がチューブ本体7と共同して、成形体(本実施形態チューブ1と内部の硬化体Tとが一体化したもの)の機械的強度(曲げ強度や引っ張り強度)を一層高める作用を奏する。またこの補助内層8は、硬化後の硬化体Tに万が一、破断が起こった際には、破片の飛び出し(突出)や飛び散り、落下などを防止する作用をも奏する。
【0025】
補助内層8は、不織布により形成することができる。好ましくは、使用する不織布は、繊維方向をチューブ長手方向に配向させたものとするのがよい。
【0026】
またこの不織布は、弾性率の異なる複数種の繊維を含んで形成されたものとするのがよい。このように弾性率の異なる繊維を複合的に使用することで、本実施形態チューブ1のチューブ長手方向に作用する引っ張り力に対して、一次破断、二次破断といった具合に破断の発生タイミングを分散することができる。そのため、本実施形態チューブ1は、チューブ長手方向に沿った縦弾性係数(ヤング率)が大きくなり、剛性が高くなる(破断し難くなる)。
【0027】
補助内層8を形成する不織布に含ませる繊維としては、具体的にはナイロンやポリエステルなどの有機合成繊維や、ラミー繊維(苧麻)などのセルロース系繊維を適宜、採用可能である。なお、不織布に含ませる繊維は、長繊維であることに限らず短繊維としてもよいが、短繊維とする場合、繊維相互がチューブ長手方向において絡まりや撚り等を介して繋がっていることが好ましい。
【0028】
不織布の内部において繊維の弾性率を異ならせるという意味においては、有機合成繊維とセルロース系繊維との組み合わせとしたり、有機合成繊維同士でも弾性率が異なる種類の組み合わせとしたりすればよい。
【0029】
不織布がセルロース系繊維を含むことは、本実施形態チューブ1(周壁6であり且つチューブ本体7でもあると言える)に対して、主としてチューブ長手方向に沿った伸度を抑えるうえで有益となる。ただ、不織布がセルロース系繊維を含むだけで不織布の粘りを高めることは難しいため、好ましくは、不織布がセルロース系繊維とともに有機合成繊維を含むことにより、不織布の延性をも高めさせておくのが好適ということになる。
【0030】
なお、有機合成繊維としてナイロンを採用する場合は、可及的に径方向の外側寄りとなる配置とするのが好ましい。このような配置とすることで、有機合成繊維による延性作用を一層、高めさせることができる。また、補助内層8の厚み方向中央で区切った際に内側部分よりも外側部分にナイロンを多く配置することが好ましい。
【0031】
また、セルロース系繊維(なかでもラミー繊維等)は耐アルカリ性に優れており、また伸びの小ささや弾性率の高さ等の物性的特徴を、硬化したセメントモルタルの物性に近似させることができるので、水和材料Wをセメントモルタルとする場合には、補助内層8を形成する不織布に対してセルロース系繊維(なかでもラミー繊維等)を含ませることが好適であると言える。
【0032】
補助内層8は、透水性を備えていることが必須となる。補助内層8は、見掛比重が0.1~0.3であることが好適である。該見掛比重を0.1~0.3にすることで、水和材料Wが水和反応を起こしつつ乾燥硬化する際に、水和材料Wが補助内層8(不織布)に含浸するだけでなく、補助内層8から外側のチューブ本体7へも積極的に染み出すようになり、補助内層8とチューブ本体7と水和材料Wとの一体化が生じやすくなるという利点がある。
なお、補助内層8の見掛比重は、前記補助内層8を構成する不織物自体の見掛比重を意味する。
補助内層8の見掛比重が0.3以下であると、水和材料Wから本実施形態チューブ1外への排水進みやすくなり、その結果、水和材料Wが十分に硬化しやすくなる。補助内層8の見掛比重が0.1以上であると、水和材料Wからの排水の速度が緩やかとなり水和材料Wを十分に搬送しやすくなる。
また、補助内層8は厚さ3mm以上にするのが好適である。厚さ3mm以上にすることで、補助内層8自体はもとより、周壁6の全体として(本実施形態チューブ1として)の曲げ強度や引張強度を向上させることができるという利点がある。
【0033】
チューブ本体7と補助内層8との重合間は、1箇所又は複数箇所で結合されている。そのため、これらチューブ本体7と補助内層8との重合間は、隙間無く面接触したものではなく、水和材料Wによる浸透拡散隙間が確保される。
すなわち、チューブ本体7と補助内層8とは、部分的に結合されている。
【0034】
この浸透拡散隙間では、チューブ本体7及び補助内層8に含浸した水和材料Wが繋ぎ材となって面状に広がり、チューブ本体7や補助内層8を形成している繊維を含んで耐曲げ補強層(「層」として厚さ方向に明確な輪郭を有するとは限らないが、ここでは水和材料Wと各繊維とが混ざり合ったマトリックスを構成したものを「層」として呼称した)が形成されるものとなる。
前記耐曲げ補強層の厚みは、好ましくは0.1~5mm、より好ましくは0.2~3mmである。
【0035】
このようなチューブ本体7と補助内層8との結合は、縫着によって行うのが好適である。このように縫着を採用することにより、水和材料Wがチューブ本体7と補助内層8との重合間(織物-不織布間)に浸透しやすいものとなる。
なお、縫着以外にも、例えばコ字状ステープルなどを用いた締結を始めとして、接着や溶着などを採用することができる。
また、結合箇所は、本実施形態チューブ1の長手方向に延びている。すなわち、非結合箇所は、本実施形態チューブ1の長手方向に延びている。本実施形態チューブ1は、これにより、本実施形態チューブ1の長手方向に延びる耐曲げ補強層を形成できるため、より一層高強度の成形体を得ることができる。
【0036】
また、結合部は本実施形態チューブ1の径方向対向位置(直径両端位置)に配置することが好ましく、このような配置とすることで周壁6の製造が容易となる。また水和材料Wを注入する前の段階において周壁6(本実施形態チューブ1)を平坦でコンパクトな形体に保持できるため、好適と言える。
【0037】
周壁6に補強層9を設けた場合(図10参照)は、この補強層9がチューブ本体7や補助内層8により得られる成形体の機械的強度(曲げ強度や引っ張り強度)を更に一層高める作用を奏する。
【0038】
このような補強層9は、強度的観点から透水性をチューブ本体7や補助内層8と同等まで高くできない場合も想定される。また、そもそも補助内層8による補強作用を期待できるので、この補強層9を必ずしも、周壁6の内面全体に及ぶように設ける必要はない。また、補強層9を設けることで、高コスト化や重量化が生じることも可及的に回避するのが好ましい。
【0039】
これらの事情に伴い、補強層9は、チューブ本体7と補助内層8との二層構造体に対し、追加的に付設する方法を採用することができる。
【0040】
すなわち、図11に示すように、2層構造体6’をレール形の支持台11に刺し通し、支持台11の上面にガイドさせつつ、補強層9の形成材料12を2層構造体6’と支持台11との隙間へ挿入させるようにする。なお、支持台11に2層構造体6’を刺し通す前に、支持台11上に補強層9の形成材料12を敷いておいてもよい。
【0041】
そして、支持台11の上方に設けた縫製装置13により、2層構造体6’に対して補強層9を縫着させるようにすればよい。縫着に代えて、接着剤による接着や加熱による溶着、カシメ止め、面ファスナーによる係着、コ字状ステープルによる締結など、適宜連結方法を採用してもよい。
【0042】
このような補強層9については、配向をランダムにした不織布より形成されたものとするのが好適である。この不織布を形成する繊維素材については、特に限定されるものではない。
なお、補強層9の透水性がチューブ本体7や補助内層8の透水性に及ばないものであるとしても、水和材料Wの押し込み圧などが水和材料Wに対しての背圧となり、この背圧が補強層9にかかることになるので、補強層9へは水和材料Wが十分に浸透することになり、補助内層8やチューブ本体7への水和材料Wの浸透を妨げるものではないので、問題はない。
【0043】
次に、図2に例示した単位構造体2について説明する。
この単位構造体2は、傾斜地などの斜面に沿わせつつ高低方向に配置する主筒部2aと、この主筒部2aに直交するようにしつつ、互いに並行するように交差して設けられた枝筒部2bとを有している。主筒部2aと全ての枝筒部2bとは、それらの交差部において相互連通している。
主筒部2a及び各枝筒部2bが、長さは異なるもののそれぞれ本実施形態チューブ1であることは既に説明したところである。
主筒部2aと枝筒部2bとによってコの字状に囲まれる空間には、樹脂製、天然素材製、金属製などの索条を編んだネットや、或いは多孔シート、不織布などにより形成された植え床シート14が張り渡されている。この植え床シート14の上に植物の種や苗などを植生させるように使用する。
【0044】
このような単位構造体2を、図3に例示したように傾斜地(平坦地などでも可)に対し、主筒部2aが傾斜地の高低方向に向くようにして並べて行き、隣り合う単位構造体2の間では、高さ位置の一致する枝筒部2b同士を互いに連通させるようにしつつ接続してゆく。このようにして、法枠(のりわく)用の格子形構造体3を施工する。
なお、枝筒部2bの連結は、接着剤による接着や加熱による溶着、カシメ止め、面ファスナーによる係着、コ字状ステープルによる締結、連結紐による締結など、適宜連結方法を採用可能である。
【0045】
図4乃至図7は、単位構造体2を製造する第1手順を示している。この第1手順では、まず図4及び図5に示すように、主筒部2aの半体(半周)を形成する長帯材15aと、枝筒部2bの半体(半周)を形成する短帯材15bとを切り出し、これら長帯材15aと短帯材15bとを交差させて結合(矢符P参照)させる。結合は縫着により行うのが強度面で好適であるが、その他にも強度を確保できるのであれば接着、溶着、コ字状ステープルによる締結などによって行うことも可能である。
【0046】
本実施形態では、長帯材15aや短帯材15bは、チューブ本体7用の形成素材と補助内層8用の形成素材とを重ね合わせたものとする。
【0047】
そして、このように長帯材15aと短帯材15bとを交差結合させて成る結合体を2組準備したうえで、これら2組の結合体を、図6及び図7に示すように、搬送路5に向ける面同士が対向するように重ね合わせて、外形の輪郭を縫着等の方法によって結合(矢符Q参照)する。当然ながら、輪郭と言っても主筒部2aや枝筒部2bの筒端となる部位は非結合にして開口させておく。
【0048】
長帯材15a及び短帯材15bにおいて、結合箇所は長手方向に沿った両側縁であって、互いに離れているので、これら両側の側縁間に生じた非結合部により、本実施形態チューブ1(主筒部2aや枝筒部2b)の搬送路5(図1参照)が形成されることになる。
なお、結合の方法が縫着に限定されないことは前記と同様である。
【0049】
ところで、図8及び図9は、単位構造体2を製造するに際しての第2手順を示している。この第2手順が、前記した第1手順(図4乃至図7)と最も異なるところは、長帯材15aや短帯材15bを切り出す前の帯状素材(チューブ本体7用の形成素材と補助内層8用の形成素材との二枚重ね状態)について、周壁6を一周させるための重ね合わせを行い、この重ね合わせた状態から長帯材15aや短帯材15bの輪郭に沿って結合を行い、その後、この結合ラインに沿って切り出し(矢符S参照)を行うという手順である。
【0050】
以上、詳説したところから明らかなように、本実施形態チューブ1では、周壁6を形成するチューブ本体7や補助内層8において、水和反応を迅速且つ確実に生じさせることができる程度に、水和材料Wから本実施形態チューブ1外への排水を効率よく行わせ、それでいて、水和材料Wを本実施形態チューブ1末端まで確実に搬送できるように、水和材料Wから本実施形態チューブ1外への排水が早すぎることのないようにする構成としている。
【0051】
そのため、水比の高い水和材料Wを使用することができる。これにより、水和材料Wをチューブ本体7や補助内層8に含浸させ、場合によってはこれらチューブ本体7と補助内層8との間に繊維混入構造の耐曲げ補強層(繊維含有組織)を形成させることも可能にしてある。その結果、水和材料Wの水和停止後(硬化後)には一般的な成形体に比べ、引張強度や曲げ強度が、より高強度となる成形体を得ることができる。
【0052】
参考までに記載すると、一般的な(従来の)成形体では、圧縮強度がせいぜい20N/mmであったのに対し、本実施形態チューブ1を用いて製造した成形体では、平均69N/mm(最大80N/mm)が得られることが、本発明者らの行った実験により確認されている。
【0053】
また、本実施形態チューブ1を用いることにより、前記のように水比の高い水和材料Wを使用することができるので、大形の注入ポンプを要するといった設備的な制限を受け難く、且つ迅速な施工が可能となっているものである。
【0054】
また、本実施形態チューブ1では、機械的強度(曲げ強度や引っ張り強度)を高めた構成としてあるので、配設作業中や注入作業中の損傷を防止できることは言うまでもない。
【0055】
図14は、各材齢(0日(〇)、7日(□)、18日(△)、1年(×))における結合水量と水比との関係を示したグラフであり、水比25%から200%までの結合水量を、傾向にしたがって予測したものである。結合水量は、水和材料Wが水和反応を起こすうえで必要とされる水分量であって、自由水を除いた水分と言うこともできる。一般的には、水比を40%~60%に設定することが常識とされており、この水比であれば結合水量は37%以下で水和停止になるとされている。なお、結合水量は次式により求めることができる。
結合水量=(m―m)/m
:乾燥質量
:加熱質量
この図14から明らかなように、一般的な上限とされる水比60%以下の水和材料Wでは、結合水量が37%以下であることが確認される。これに対して本実施形態チューブ1を用いた水和材料Wの水和反応では、水比を100%~200%に想定しているものであり、この場合は結合水量も40%を超えるようにできるであろうことが読み取れる。
【0056】
また図15は、各水比(25%(〇)、60%(□)、100%(△)、200%(×))における結合水量と材齢との関係を示したグラフであり、水比100%及び200%のときの水和反応を、傾向にしたがって予測したものである。
この図15から明らかなように、水比を高めたものほど、短い材齢水和反応が起こる傾向になるであろうことが読み取れる。そのため、養生期間の短縮が可能となる。
【0057】
これらのことから考察すれば、本実施形態チューブ1を用いた水和反応では、水比を高く設定できるために、水和材料Wは水和熱により失われる筈の水分が、常に給水されるような状況下に保たれることになる。そのため、水中養生と同じ効果が維持されることになり、水和反応が長く継続して発生することによって硬化体Tとして構造の緻密化が図られていると考えることができる。
【0058】
また、水和材料Wは水のような液体に近い状態であるから、空気が混合される余地が極めて低くなるか又は皆無となる。そのため、水和反応によって得られる硬化体Tは、緻密な組織を有したものとなり、高強度になると考えることができる。
【0059】
一方で、本実施形態チューブ1は、周壁6が高い透水性を有していることで、注入後に満水状態として水和反応が開始された後は、水和材料Wの水比を早く下げることができるものであり、それによって余剰となる自由水を迅速に排水でき、故に水和反応が高効率で且つ活発化されて、水和停止(硬化)までの養生期間を短くできる利点に繋がっているものと推察される。
【0060】
また、本実施形態チューブ1を用いることで、周壁6の繊維とセメントとの複合材料を形成することができ、セメントの脆性が補強され、成形体に擬延性が発揮される。すなわち、亀裂の成長による破壊が成形体に生じにくくなり、成形体が粘り強いものとなる。
【0061】
次に、図12及び図13に基づいて、本実施形態チューブ1の補助内層8として好適に採用可能となる繊維配向不織布20を説明する。
【0062】
この繊維配向不織布20では、帯状に形成された複数本の親水帯21と、同じく帯状に形成された複数本の疎水帯22とが互いに帯長手方向(図12(a)の左右方向)を並行させていると共に、これら親水帯21と疎水帯22とが帯幅方向(図12(a)及び(b)の上下方向)で交互配置となるようにして設けられている。
【0063】
繊維配向不織布20を形成している繊維は、繊維方向を親水帯21及び疎水帯22の帯長手方向に合致させつつ単一方向に揃えられている。この繊維には、仮撚り糸を用いるのが好適である。
【0064】
ここにおいて仮撚り糸は、例えばポリエステル等より成る長繊維に対し、一旦、撚りをかけて熱セットし、その後に撚りを戻す加工を施した糸(ウーリー糸とも言う)である。
【0065】
このような仮撚り糸は、螺旋を引き延ばしたような撚り癖(緩慢な捲縮性)が糸全長にわたって残留しており、また毛羽だった状態となっている。従って、仮撚り糸を束(トウ)にしたときには、それ自体でふんわりとした嵩高性や吸水性が得られるようになっている。
具体的には、220dtex/72fのポリエステルウーリー糸を、約1800本/束×11束で約400mm幅のトウにして用いた。
【0066】
図13に示すように、親水帯21と疎水帯22とは、繊維配向不織布20の繊維密度に粗密差を生じさせることで互いの組成を異ならせたものである。当然に、親水帯21が相対的に「粗」となる部位であり、疎水帯22が相対的に「密」となる部位である。
なお、親水帯21は、その帯長手方向を繊維方向に合致させた「凸堤」の形体として厚肉に形成され、疎水帯22は、その帯長手方向を繊維方向に合致させた「凹溝」の形体として薄肉に形成されたものとしてある。
【0067】
このように、親水帯21は疎水帯22に比べて低密であって、またふんわりとして厚肉(嵩高)であるので、組成中における厚さ方向の水の浸透性が高いと言える。勿論、親水帯21は厚さ方向だけでなく帯幅方向や帯長手方向でも水の浸透性が高い。これらのことによって、親水帯21は、保水性が高い組成を有していると言うことができる。
【0068】
一方、疎水帯22は親水帯21に比べて高密であって、また圧縮されて薄肉であるので、組成中における厚さ方向の水の浸透性が低いと言える。勿論、疎水帯22は厚さ方向だけでなく帯幅方向や帯長手方向でも水の浸透性が低い。これらのことによって、疎水帯22は、疎水性(水が馴染み難い特性であり「親水性」に対する対義語として使用した)が高い組成を有していると言うことができる。
【0069】
疎水帯22の隣には親水帯21が寄り添っている配置であるので、疎水帯22に沿って水が流れる状況が保持される場合には、疎水帯22上の水が隣接の親水帯21に吸水され易いという現象を伴うことになる。すなわち、疎水帯22は、隣接の親水帯21への給水の役割や、親水帯21を満水状態に保持する役割をも担っていることになる。
【0070】
ところで、繊維配向不織布20において親水帯21と疎水帯22とを作り分けるための形成方法としては、ニードルパンチによる交絡を行うのがよい。このようにして形成すると、疎水帯22では親水帯21に比べて繊維の交絡箇所が多く、且つ交絡強度も高くなるので、疎水帯22自体が高強度となり、好適と言える。
【0071】
図例の繊維配向不織布20は、親水帯21と疎水帯22とが並んで平面となる片側面(図12(b)及び図13の各右側)に裏当て層23が備えられたものとしている。この場合、前記したように疎水帯22の部位でニードルパンチによる交絡が行われることで、この部位(疎水帯22)での交絡は、繊維配向不織布20と裏当て層23との積層固定に利用される。すなわち、疎水帯22は、繊維配向不織布20と裏当て層23とを積層固定するうえでの層間固定部を兼ねたものとなるので、疎水帯22がニードルパンチによる交絡によって高強度になることは繊維配向不織布20の全体としても高強度になることに繋がり、この点でも好適と言える。
【0072】
ニードルパンチによる交絡は、針の抜き刺しを行うことに伴って、図13に模式的に示したように往復両方向で交絡を行うことによる特徴的な相互交絡構造が得られることになる。すなわち、裏当て層23を形成する繊維の一部が繊維配向不織布20内で交絡していると共に、繊維配向不織布20を形成する繊維の一部が裏当て層23内で交絡していることになる。
【0073】
そのため、繊維配向不織布20と裏当て層23との層間がしっかりと固定されるという利点がある。
【0074】
裏当て層23は、繊維配向方向をランダムにする不織布によって形成することができる。このようにすることで、幅方向の強度が高くなる。
【0075】
具体的には、裏当て層23は、スパンボンド不織布(例えば、東洋紡社製の商品名:エクーレ3151A等)やメルトブローン不織布のようなランダム配向不織布とするのがよい。
【0076】
ところで、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0077】
例えば、本発明チューブの周壁は、チューブ本体の外面に補助内層や補強層が積層される構成としてもよい。
補助内層の不織布を形成している繊維には、短繊維を使用することが除外されるものではなく、長繊維に対して短繊維を混合させたり短繊維のみを使用したりすることも可能である。
【符号の説明】
【0078】
1:成形体製造チューブ(本実施形態チューブ)、2:単位構造体、2a:主筒部、2b:枝筒部、3:格子形構造体、5:搬送路、6:周壁、7:チューブ本体、8:補助内層、9:補強層、11:支持台、12:形成材料、13:縫製装置、14:床シート、15a:長帯材、15b:短帯材、20:繊維配向不織布、21:親水帯、22:疎水帯、23:裏当て層、T:硬化体、W:水和材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15