(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F15B 15/10 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
F15B15/10 H
(21)【出願番号】P 2019189502
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592185666
【氏名又は名称】管清工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091410
【氏名又は名称】澁谷 啓朗
(72)【発明者】
【氏名】塚越 秀行
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕真
(72)【発明者】
【氏名】畠井 秀
(72)【発明者】
【氏名】今野 浩行
(72)【発明者】
【氏名】石黒 正
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048917(JP,A)
【文献】特表2016-535206(JP,A)
【文献】登録実用新案第3208563(JP,U)
【文献】特表2017-504489(JP,A)
【文献】特開2006-000294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 7/06
F15B 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の加圧により膨張可能なチューブ状部材と、該チューブ状部材の外周面を被覆する拘束部材とを備えたアクチュエータであって、
前記拘束部材は、前記チューブ状部材の内部が加圧されたときに、所定方向への前記チ ューブ状部材の膨張を許容する膨張許容領域と、前記チューブ状部材の膨張を抑制する膨張抑制領域とを含み、
前記拘束部材は、その長さ方向の一端と他端との間が前記チューブ状部材に対して周方向に所定の角度ねじり回った状態で、
かつ、前記一端と前記他端との間のねじり回っているねじり角度を調整できるように被覆されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記拘束部材は、前記一端に対して前記他端がねじり回っているねじり角度が45°以上であることを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記拘束部材
の前記膨張許容領域は、前記一端と前記他端との間が前記チューブ状部材に対してねじり回される前の状態において、前記所定方向が前記チューブ状部材の長手方向と平行である
異方的な拡張性を有していることを特徴とする請求項1又は2記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記拘束部材は、前記長さ方向の一端が前記チューブ状部材に固定される一方、前記長さ方向の他端が前記チューブ状部材に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記膨張許容領域は、非伸縮性の面状繊維構造体を含む第1の面材に、
前記所定方向と直交する方向に延びる複数のスリットが前記所定方向に並んで設けられることで、異方的な拡張性が付与されてなることを特徴とする請求項1から4 のいずれか1項記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記膨張許容領域は、伸縮異方性を有する面状繊維構造体を含む第2の面材からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のアクチュエータ。
【請求項7】
内部の加圧により膨張可能なチューブ状部材と、該チューブ状部材の外周面を被覆する拘束部材とを備えたアクチュエータであり、前記拘束部材は、前記チューブ状部材の内部が加圧されたときに、所定方向への前記チューブ状部材の膨張を許容する膨張許容領域と、前記チューブ状部材の膨張を抑制する膨張抑制領域とを含み、前記拘束部材は、その長さ方向の一端と他端との間が前記チューブ状部材に対して周方向に所定の角度ねじり回った状態で被覆されているアクチュエータの製造方法であって、
前記拘束部材の前記一端を前記チューブ状部材に取り付ける一端取り付け工程と、
この一端取り付け工程の後に前記拘束部材の前記一端から前記他端までの間を前記チューブ状部材に対してねじり回し、前記膨張許容領域が前記所定方向への前記チューブ状部材の膨張を許容するようにするねじり回し工程と、
このねじり回し工程でねじり回された状態が維持されるように前記拘束部材の前記他端を前記チューブ状部材に取り付ける他端取り付け工程と、を備えて、前記チューブ状部材に前記拘束部材を被覆するものであり、
前記ねじり回し工程のねじり回しのねじり角度は調整可能であることを特徴とするアクチュエータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、チューブ状部材の側面に伸び易い領域と伸び難い領域とを設け、チューブ状部材を内部から加圧したときのチューブ状部材の変形を制御することで動作する、アクチュエータが開発されている。例えば、
図10(a)に示すように、特許文献1に開示されているアクチュエータ100は、チューブ状部材が2種類の布帛で覆われることで構成されており、一方の布帛には所定の1方向のみに伸び易い伸縮性を有する布帛102が用いられ、もう一方の布帛には全方向に伸び難い非伸縮性の布帛104が用いられている。更に、チューブ状部材の長手方向(図中左右方向)に対して、伸縮性を有する布帛102の伸び易い所定の1方向(図中の矢印方向)が角度θをなすように配置することで、
図10(b)に示すように、チューブ状部材を内部から加圧したときに、アクチュエータ100を螺旋形状に変形させることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、
図10に示したような従来のアクチュエータ100は、所望の螺旋形状に変形させるために、伸び易い所定の1方向とチューブ状部材の長手方向とがなす角度θを調整する必要がある。しかしながら、角度θを変更するには、少なくとも伸縮性を有する布帛102の配置を変更する必要があるため、アクチュエータ100自体を作り直す必要があり、大変手間がかかるものであった。又、伸縮性を有する布帛102は、例えば矩形にカットされた状態で使用されるが、矩形の端縁が延在する方向と伸び易い所定の1方向とが平行や直交する関係ではないため、部材の歩留まりが悪く、更に、所望の角度θをなすように伸縮性を有する布帛102を配置することが困難であった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加圧時のアクチュエータの変形を容易に調整することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)内部の加圧により膨張可能なチューブ状部材と、該チューブ状部材の外周面を被覆する拘束部材とを備えたアクチュエータであって、前記拘束部材は、前記チューブ状部材の内部が加圧されたときに、所定方向への前記チューブ状部材の膨張を許容する膨張許容領域と、前記チューブ状部材の膨張を抑制する膨張抑制領域とを含み、前記拘束部材は、その長さ方向の一端と他端との間が前記チューブ状部材に対して周方向に所定の角度ねじり回った状態で被覆されているアクチュエータ。
【0008】
本項に記載のアクチュエータは、内部の加圧により膨張可能なチューブ状部材と、このチューブ状部材の外周面を被覆する拘束部材とを備えたものであり、拘束部材によってチューブ状部材が膨張したときの変形を制御することで動作するものである。そのために、拘束部材は、膨張許容領域と膨張抑制領域とを含んでいる。膨張許容領域は、チューブ状部材の内部が加圧されたときに、拘束部材がチューブ状部材を被覆した状態での所定方向へのチューブ状部材の膨張を許容する領域であり、膨張を許容する方向について異方性を有している。これに対し、膨張抑制領域は、何れの方向にも伸び難くなっていることで、チューブ状部材の内部が加圧されたときに、チューブ状部材の膨張を抑制するようになっている。
【0009】
更に、拘束部材は、その長さ方向の一端と他端との間がチューブ状部材に対して周方向に所定の角度ねじり回った状態で被覆している。すなわち、拘束部材は、チューブ状部材に被覆する際に、一端と他端との間がねじり回される所定の角度、換言すればねじり角度(ねじり量)が調整可能になっている。このため、拘束部材の膨張許容領域が膨張を許容する所定方向は、拘束部材のねじり角度に応じて、チューブ状部材の長手方向に対して変化することになる。
【0010】
従って、拘束部材のねじり角度の調整により、チューブ状部材の長手方向に対するチューブ状部材の膨張が許容される所定方向が変化することで、チューブ状部材の内部が加圧されたときの、アクチュエータの変形が容易に調整されるものとなる。加えて、拘束部材の膨張許容領域と膨張抑制領域とが、チューブ状部材の加圧時にアクチュエータが螺旋形状に変形するような配置にされることで、拘束部材のねじり角度の調整のみで、チューブ状部材の膨張が許容される所定方向とチューブ状部材の長手方向とがなす角度が変化するため、アクチュエータの螺旋変形が容易に調整されることとなる。これにより、アクチュエータのサンプル作成時等に、チューブ状部材の膨張を許容する所定方向等を複雑に考える必要がなくなり、用途や環境によって必要なねじり角度を容易に導くことが可能となるため、部材の歩留まりやコスト、手間が低減されるものである。
【0011】
(2)上記(1)項において、前記拘束部材は、前記一端に対して前記他端がねじり回っているねじり角度が45°以上であるアクチュエータ。
本項に記載のアクチュエータは、拘束部材の長さ方向の一端と他端との間のねじり角度が、45°以上であることで、特に加圧時に螺旋変形させる場合の、アクチュエータの用途に適した良好な変形量が得られるものである。
【0012】
(3)上記(1)(2)項において、前記拘束部材は、前記一端と前記他端との間が前記チューブ状部材に対してねじり回される前の状態において、前記所定方向が前記チューブ状部材の長手方向と平行であるアクチュエータ。
本項に記載のアクチュエータは、チューブ状部材に対してねじり回されて被覆する拘束部材の、ねじり回される前の状態を規定するものである。すなわち、拘束部材は、その長さ方向の一端と他端との間がチューブ状部材に対してねじり回される前の状態において、膨張許容領域によりチューブ状部材の膨張を許容する所定方向が、チューブ状部材の長手方向と平行になっている。このため、チューブ状部材の長手方向と平行な端縁を有する矩形の膨張許容領域を用いる場合に、膨張が許容される所定方向が矩形の端縁と平行な関係になる。これにより、膨張が許容される所定方向がチューブ状部材の長手方向と平行でない場合と比較して、特に下記(6)項に記載するような伸縮異方性を有する面状繊維構造体を用いたときに、その歩留まりが改善されるものである。
【0013】
(4)上記(1)から(3)項において、前記拘束部材は、前記長さ方向の一端が前記チューブ状部材に固定される一方、前記長さ方向の他端が前記チューブ状部材に着脱可能に取り付けられているアクチュエータ。
本項に記載のアクチュエータは、拘束部材の長さ方向の他端がチューブ状部材に着脱可能に取り付けられることで、一端と他端との間がねじり回される所定の角度、換言すればねじり角度(ねじり量)が、任意のタイミングで調整可能になっている。これにより、アクチュエータを使用する時等にも、ねじり角度を容易に調整可能となる。
【0014】
(5)上記(1)から(4)項において、前記膨張許容領域は、非伸縮性の面状繊維構造体を含む第1の面材に、複数のスリットが設けられることで、異方的な拡張性が付与されてなるアクチュエータ。
本項に記載のアクチュエータは、複数のスリットが設けられた第1の面材によって、拘束部材の膨張許容領域が構成されたものであり、第1の面材は、非伸縮性の面状繊維構造体を含んでいる。すなわち、第1の面材に含まれる面状繊維構造体は、何れの方向にも伸び難くなっており、このような第1の面材に対して、複数のスリットが設けられることで、他の方向と比較して少なくとも所定方向に広がり易くなるような、異方的な拡張性が付与されている。
【0015】
これにより、拘束部材の膨張許容領域を構成する第1の面材は、複数のスリットが開くことで所定方向へのチューブ状部材の膨張を許容するように所定方向に広がり、その所定方向が、拘束部材のねじり角度の調整によって変化するものである。このように、非伸縮性の面状繊維構造体にスリットを設けた構成で膨張許容領域を実現しながら、加圧時の変形が容易に調整されるものである。なお、第1の面材には、非伸縮性の面状繊維構造体の他にも、耐久性の向上等を目的として、例えば合成樹脂といった他の素材が含まれていてもよい。
【0016】
(6)上記(1)から(4)項において、前記膨張許容領域は、伸縮異方性を有する面状繊維構造体を含む第2の面材からなるアクチュエータ。
本項に記載のアクチュエータは、伸縮異方性を有する面状繊維構造体を含む第2の面材によって、拘束部材の膨張許容領域が構成されたものである。すなわち、第2の面材に含まれる面状繊維構造体は、他の方向と比較して少なくとも所定方向に伸び易い伸縮性を有するものである。このような構成により、拘束部材の膨張許容領域を構成する第2の面材は、所定方向へのチューブ状部材の膨張を許容するように所定方向に伸び、その所定方向が、拘束部材のねじり角度の調整によって変化するものである。このように、伸縮異方性を有する面状繊維構造体で膨張許容領域を実現しながら、加圧時の変形が容易に調整されるものである。なお、第2の面材には、伸縮異方性を有する面状繊維構造体の他にも、耐久性の向上等を目的として、例えば合成樹脂といった他の素材が含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上記のような構成であるため、加圧時のアクチュエータの変形を容易に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係るアクチュエータの構成の一例を概略的に示す斜視図及び側面図である。
【
図2】
図1と異なるねじり角度に調整されたアクチュエータを概略的に示す斜視図及び側面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るアクチュエータの拘束部材の構造の一例を示す概略的な斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るアクチュエータの拘束部材の構造の、
図3と異なる例を示す概略的な斜視図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るアクチュエータの拘束部材の構造の、
図3及び
図4と異なる例を示す概略的な斜視図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係るアクチュエータの拘束部材の構造の、
図3~
図5と異なる例を示す概略的な斜視図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係るアクチュエータの評価基準を説明するための、加圧前後のアクチュエータを概略的に示す斜視図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係るアクチュエータの計測結果を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施の形態に係るアクチュエータの利用方法の例を説明するためのイメージ図である。
【
図10】従来のアクチュエータの螺旋変形を示す概略的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。なお、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。
図1は、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10の構成の一例を示しており、図示のアクチュエータ10は、内部の加圧によって膨張するチューブ状部材20と、チューブ状部材20の外周面を被覆する大略筒状の拘束部材30とを含んでいる。チューブ状部材20は、例えば合成ゴムや天然ゴム等の素材で形成され、何れの方向にも高い伸び率を有することが好ましい。
【0020】
拘束部材30は、その構成について詳しくは後述するが、チューブ状部材20に対してねじり回された状態で被覆している。すなわち、拘束部材30の長さ方向の一端30aが、
図1では図示されていない固定手段64(
図7参照)によりチューブ状部材20の外周に固定されると共に、拘束部材30の長さ方向の他端30bが、同じく固定手段64によりチューブ状部材20の外周に着脱可能に取り付けられている。拘束部材30の一端30a及び他端30bを固定及び取り付けるための固定手段64には、拘束部材30の素材等に応じた任意のものが利用でき、この際、拘束部材30の他端30bだけでなく一端30aについても、チューブ状部材20に対して着脱可能に取り付けられるものを使用してもよい。ここで、着脱可能に取り付けるとは、取り外すときに拘束部材30を構成する面材等が破壊されない程度に取り付けられていることであり、その際に特定の工具、方法を用いることを除外するものではない。更に、拘束部材30の一端30aから他端30bまでの間は、
図1(a)における右側からの側面視で、
図1(b)にも矢印で示すように、チューブ状部材20の外周面に沿って反時計回りの周方向にねじり回されている。
【0021】
図1の例では、拘束部材30の一端30aと他端30bとの間が、約180°のねじり角度TAでねじり回されている。一方、
図2には、拘束部材30が
図1と異なるねじり角度TAでねじり回された例を示しており、
図2の拘束部材30は、
図1の例と同じねじり方向に、約90°のねじり角度TAでねじり回されている。すなわち、拘束部材30は、少なくともその他端30bが、チューブ状部材20に着脱可能に取り付けられていることで、一端30aが固定された状態のまま、一端30aと他端30bとの間のねじり角度TAが、自在に調整されるようになっている。このため、拘束部材30は、180°や90°の他にも、45°~540°の範囲のねじり角度TAでねじり回されてもよく、そのねじり方向も
図1や
図2の例と反対方向であってもよい。
【0022】
ここで、本明細書におけるねじり角度TAは、以下のように定義される。すなわち、まず、非ねじり状態の拘束部材30において同じ周方向位置にある、拘束部材30の一端30aの基準点P1と他端30bの基準点P2とを設定する。そして、例えば
図1及び
図2に示すように、拘束部材30がねじり回された状態における、一端30aの基準点P1の周方向位置と、他端30bの基準点P2の周方向位置とを比較する。そして、それらの基準点P1とP2との間の、ねじりの回転軸(チューブ状部材20の中心軸C)を基準とした、ねじりの回転方向に異なる角度差を、ねじり角度TAとしている。
【0023】
なお、
図1及び
図2では、アクチュエータ10を模範的に示しており、全くねじれていない状態のチューブ状部材20に対して、ねじり回された状態の拘束部材30が取り付けられている。しかしながら、チューブ状部材20及び拘束部材30を構成する素材によっては、ねじり回された状態の拘束部材30の両端30a、30bがチューブ状部材20に取り付けられると、拘束部材30のねじれが僅かに戻り、その戻り分だけチューブ状部材20が拘束部材30とは反対方向にねじれることがある。このような状態であっても、チューブ状部材20に対する拘束部材30のねじり角度TA(ねじり量)は、拘束部材30のねじりの戻り角度が、チューブ状部材20の反対方向のねじり角度に等しいと考え、ねじれが戻る前と変わらないものとして扱うこととする。又、
図1及び
図2に示された符号D、θについては後述する。
【0024】
続いて、
図3~
図6には、拘束部材30の具体的な構成の例を示している。まず、
図3を確認すると、拘束部材30は、膨張許容領域32と膨張抑制領域40とを含み、
図3の実施形態では、膨張許容領域32が第1の面材34により構成され、膨張抑制領域40が第3の面材42により構成されている。又、
図3の実施形態の拘束部材30は、第1の面材34と第3の面材42とが向かい合うように配置された状態で、
図3における夫々の上下端に位置する、チューブ状部材20の長手方向に延在する第1の面材34の端縁近傍と第3の面材42の端縁近傍とが接合されて、筒状に加工される。第1の面材34(膨張許容領域32)と第3の面材42(膨張抑制領域40)とを接合する方法は、夫々を形成する素材に応じた適切な方法が採用され、例えば縫製や熱溶着によって接合される。熱溶着での接合としては、ヒートシールや超音波或いは高周波ウェルダー溶着等を用いることができる。
【0025】
拘束部材30の膨張許容領域32は、チューブ状部材20の内部が加圧されたときに、所定方向Dへのチューブ状部材20の膨張を許容するものであり、
図3の実施形態では、後述する複数のスリット50が設けられることで、所定方向Dへ広がるようになっている。すなわち、
図3の膨張許容領域32は、その他の方向(特に所定方向Dと直交する方向)と比較して所定方向Dへ広がり易い、異方的な拡張性を有している。
図3の実施形態での所定方向Dは、チューブ状部材20の長手方向と平行な方向である。このような膨張許容領域32を構成する第1の面材34は、本実施形態では非伸縮性の面状繊維構造体と合成樹脂とを含む複合面材であり、これらが組み合わされて形成されている。面状繊維構造体は、何れの平面方向にも伸び難いシート状のものであって、このような面状繊維構造体に対して、コーティング、ラミネート、含浸等の任意の方法で、それ自体が伸縮性を有する或いは有さない合成樹脂が組み合わされている。面状繊維構造体には、例えば織布、編布、不織布といった非伸縮性の任意の布帛が利用され、合成樹脂には、面状繊維構造体の素材や組み合わせ方法等に応じた任意の樹脂が利用される。なお、第1の面材34は、非伸縮性の面状繊維構造体のみを含んでいてもよく、そのような面状繊維構造体及び合成樹脂に加えて他の素材を含んでいてもよい。又、伸縮性の面状繊維構造体を用いてもよいが、その場合には
図3における所定方向D及びそれと直交する方向との双方の破断伸度が、100%未満であればよい。
【0026】
更に、第1の面材34には、複数のスリット50が設けられており、これら複数のスリット50が、
図3の実施形態では、所定方向Dと直交する角度で等間隔に設けられ、互いに所定方向Dに隣接していることで、第1の面材34に対して、
図3における左右方向である所定方向Dに広がり易くなるという、異方的な拡張性が付与されている。すなわち、第1の面材34は、所定方向Dには複数のスリット50の各々が開くことで広がり易いが、各スリット50の延在方向である所定方向Dと直交する方向には、第1の面材34に含まれる面状繊維構造体の影響で伸び難くなっている。複数のスリット50の隣接するスリット50同士の間隔は、例えば3mm~10mmの範囲で任意の間隔に設定してよい。又、
図3の実施形態では、スリット50の各々が第1の面材34の一方の端縁から他方の端縁まで延在する長さで、第1の面材34の略全体にわたって、複数のスリット50が設けられている。このような複数のスリット50は、例えば型抜き加工や自動裁断機によるスリット加工等によって設けられる。
【0027】
一方、拘束部材30の膨張抑制領域40は、チューブ状部材20の内部が加圧されたときに、チューブ状部材20の膨張を抑制するように、如何なる方向へも伸び難くなっている。このような膨張抑制領域40を構成する第3の面材42は、第1の面材34と同様に、非伸縮性の面状繊維構造体と合成樹脂とを含んでいる。非伸縮性の面状繊維構造体は、如何なる方向へも伸び難いものであり、例えば織布、編布、不織布といった任意の布帛が利用される。非伸縮性の面状繊維構造体と組み合わされる合成樹脂は、それ自体が伸縮性を有していても有していなくてもよく、任意の樹脂が利用される。そして、非伸縮性の面状繊維構造体と合成樹脂とは、第1の面材34を構成する面状繊維構造体及び合成樹脂と同様に、コーティング、ラミネート、含浸といった任意の方法で組み合わされる。このようにして形成される第3の面材42の伸び難さは、主に非伸縮性の面状繊維構造体によって付与されるものである。なお、複数のスリット50が設けられていない点を除いて、第3の面材42が第1の面材34と同様の素材で形成されていてもよく、第3の面材42が非伸縮性の面状繊維構造体のみを含んでいてもよい。又、伸縮性の面状繊維構造体を用いてもよいが、その場合には
図3における所定方向D及びそれと直交する方向との双方の破断伸度が、100%未満であればよい。
【0028】
次に、
図4(b)を参照すると、
図4の実施形態の拘束部材30は、筒状に丸められた第1の面材34により構成されており、第1の面材34の、チューブ状部材20の長手方向(
図4(b)における左右方向)に延在する端縁より内側(
図4(b)における上側)の部位同士が接合されることで、接合部分48が形成されている。第1の面材34は、
図4(a)に示すように、一方の端縁から他方の端縁まで延在するようなスリット50は設けられていないが、複数のスリット50の各々の長さは、
図3に示した第1の面材34と同様である。すなわち、
図4(a)の第1の面材34は、
図3の第1の複合面材34より端縁間の幅が大きく、スリット50の各々が、第1の面材34の幅方向の中央近傍に設けられている。
【0029】
このような構成により、第1の面材34は、幅方向の中央近傍に位置するスリット50が設けられた領域36と、その両側に位置するスリット50が設けられていない領域38とを有している。
図4では、スリット50が設けられていない領域38を着色して図示している。これにより、スリット50が設けられた領域36には、複数のスリット50の各々が直交する方向である所定方向Dに広がり易いという、異方的な拡張性が付与され、スリット50が設けられていない領域38には、何れの平面方向にも伸び難いという、非伸縮性の面状繊維構造体の性質が発揮される。
【0030】
そして、上記のような構成の第1の面材34は、第1の面材34の幅方向の両端縁近傍に位置する、スリット50が設けられていない領域38同士が接合されることで、
図4(b)に示すように、筒状に加工されており、これによって拘束部材30を形成している。すなわち、複数のスリット50が設けられた領域36により、拘束部材30の膨張許容領域32を形成すると共に、接合部分48を含む、複数のスリット50が設けられていない領域38により、拘束部材30の膨張抑制領域40を形成している。なお、第1の面材34の接合部分48を接合する方法には、縫製や熱溶着といった任意の接合方法を用いてよい。更に、接合部分48が、第1の面材34の
図4(b)における下側の端縁に位置していてもよく、
図4(b)に示す接合部分48の位置からそのような端縁まで広がっていてもよい。又、接合の際の拘束部材30の端縁の重ね方等は任意であり、端部同士を突き合わせてもよく、端縁を折り曲げた状態で重ねてもよい。又、第1の面材34における、スリット50が設けられた領域36とスリット50が設けられていない領域38との位置関係及び夫々の大きさ、換言すれば、第1の面材34により拘束部材30が形成されたときの、膨張許容領域32と膨張抑制領域40との位置関係及び夫々の大きさは、任意に設定してよい。
【0031】
更に、
図5(b)を参照すると、
図5の実施形態の拘束部材30は、膨張許容領域32が第2の面材54により構成され、膨張抑制領域40が第3の面材42により構成されている。
図5の拘束部材30は、第2の面材54と第3の面材42とが向かい合うように配置された状態で、
図5(b)における夫々の上下端に位置する、チューブ状部材20の長手方向に延在する第2の面材54の端縁近傍と第3の面材42の端縁近傍とが接合されて、筒状に加工される。第2の面材54(膨張許容領域32)と第3の面材42(膨張抑制領域40)とを接合する方法は、夫々を形成する素材に応じた適切な方法が採用され、例えば縫製や熱溶着によって接合される。
【0032】
図5の実施形態において、拘束部材30の膨張許容領域32は、チューブ状部材20の内部が加圧されたときに、所定方向Dへのチューブ状部材20の膨張を許容するように、所定方向Dへ伸びるようになっている。すなわち、膨張許容領域32は、その他の方向(特に所定方向Dと直交する方向)と比較して所定方向Dへ伸び易い、伸縮異方性を有している。
図5の実施形態における、拘束部材30の膨張許容領域32が有するチューブ状部材20の膨張を許容する所定方向Dは、チューブ状部材20の長手方向と平行な方向である。
【0033】
上記のような膨張許容領域32を構成する第2の面材54は、
図5(a)に示すように、本実施形態では面状繊維構造体56と合成樹脂58とを含む複合面材であり、これらが組み合わされて形成されている。面状繊維構造体56は、
図5における左右方向である所定方向Dに伸び易く、所定方向Dと直交する方向には伸び難くなっており、伸縮異方性を有している。面状繊維構造体56には、前記のような伸縮異方性を有する、例えば織布、編布、不織布といった任意の布帛が利用される。これに対し、合成樹脂58は、所定方向Dに対して平行な方向と直交する方向との双方に伸び易く、換言すれば、如何なる平面方向にも伸び易くなっている。或いは、合成樹脂58は、面状繊維構造体56と組み合わされた状態で、面状繊維構造体56の伸縮異方性を阻害しないような柔軟性を有するものであればよい。合成樹脂58には、前記のような伸縮性を有しつつ、後述するような面状繊維構造体56との組み合わせ方法に応じた任意の樹脂が利用される。なお、第2の面材54は、伸縮異方性を有する面状繊維構造体56のみを含んでいてもよく、そのような面状繊維構造体56及び合成樹脂58に加えて他の素材を含んでいてもよい。
【0034】
そして、面状繊維構造体56と合成樹脂58とは、例えば、面状繊維構造体56に合成樹脂58をコーティングする方法、面状繊維構造体56と合成樹脂58のフィルムとを接着剤や熱等を用いてラミネートする方法、面状繊維構造体56を合成樹脂58に含浸する方法等、任意の方法で組み合わせてよい。このようにして形成される第2の面材54は、主に面状繊維構造体56の影響により、所定方向Dに伸び易い伸縮異方性を有することになる。一方、膨張抑制領域40を構成する第3の面材42は、
図3に示したものと同じものであり、ここでは詳しい説明を省略する。
【0035】
続いて、
図6を参照すると、
図6の拘束部材30は、筒状に丸められた第2の面材54により構成されており、第2の面材54の、チューブ状部材20の長手方向(
図6における左右方向)に延在する端縁より内側(
図6における上側)の部位同士が接合されることで、接合部分48が形成されている。第2の面材54は、
図5の第2の面材54と同様のものであって、
図5(a)に示したような面状繊維構造体56と合成樹脂58とを含んでいる。従って、面状繊維構造体56と合成樹脂58とが組み合わされて形成される第2の面材54は、チューブ状部材20の長手方向と平行な所定方向Dに伸び易い、伸縮異方性を有している。
【0036】
一方、第2の面材54の接合部分48は、例えば伸び難い糸や縫製方法で縫製されている結果、所定方向Dにも伸び難くなっている。従って、拘束部材30は、第2の面材54の接合部分48によって、チューブ状部材20の膨張を抑制する膨張抑制領域40が構成され、第2の面材54の、接合部分48よりも
図6における上方に位置する、チューブ状部材20の外周面を略一周している部分によって、所定方向Dへのチューブ状部材20の膨張を許容する膨張許容領域32が構成されている。なお、第2の面材54の接合部分48を接合する方法は、縫製に限定されることなく、接合部分48を所定方向Dにも伸び難くさせる方法であれば、例えば別素材を加えて或いは加えずに縫製や熱溶着するといった、任意の接合方法を用いてよい。更に、接合部分48が、第2の面材54の
図6における下側の端縁に位置していてもよく、
図6に示す接合部分48の位置からそのような端縁まで広がっていてもよい。又、接合の際の拘束部材30の端縁の重ね方等は任意であり、端部同士を突き合わせてもよく、端縁を折り曲げた状態で重ねてもよい。
【0037】
ここで、
図3~
図6に示した拘束部材30は、何れも、その長さ方向の両端30a、30b(
図1及び
図2参照)が、チューブ状部材20に対して取り付けられる前の状態である。このため、これらの拘束部材30は、まず、一端30aがチューブ状部材20に固定され、その状態では、各拘束部材30の膨張許容領域32によりチューブ状部材20の膨張が許容される所定方向Dが、チューブ状部材20の長手方向と平行になっている。その後、拘束部材30の一端30aから他端30bまでの間が、チューブ状部材20に対して所望のねじり方向及び所望のねじり角度TAにねじり回され、このねじり回された状態が維持されるように、他端30bが着脱可能にチューブ状部材20に取り付けられる。
【0038】
すると、ねじり回される前はチューブ状部材20の長手方向と平行であった、膨張許容領域32による膨張許容の所定方向Dが、
図1及び
図2に示すように、拘束部材30のねじれに伴ってねじられたように変化し、拘束部材30のねじり角度TAに応じた大きさで、チューブ状部材20の長手方向に対して角度θをなす態様となる。このような状態のアクチュエータ10は、例えば
図10に示した従来のアクチュエータ100のように、チューブ状部材20の内部の加圧によって螺旋形状への変形が促されることになる。なお、
図3~
図6の実施形態では、拘束部材30がねじり回される前の状態で、膨張許容領域32による膨張許容の所定方向Dがチューブ状部材20の長手方向と平行になっているが、これに限定されるものではない。すなわち、拘束部材30がねじり回される前から、膨張許容領域32による膨張許容の所定方向Dがチューブ状部材20の長手方向と角度をなすように、拘束部材30が形成されていてもよい。
【0039】
更に、アクチュエータ10は、
図1及び
図2のように、拘束部材30がねじり回された状態でチューブ状部材20に取り付けられた後に、チューブ状部材20の両端に、管状のコネクタ60(
図7(b)参照)が接続される。ここで、上記のような構成のアクチュエータ10を動作させるためには、チューブ状部材20の内部の圧力を制御する必要があり、それは任意の圧力供給手段によってチューブ状部材20の少なくとも一方の端部から空気等の流体が供給されることで実現される。コネクタ60は、そのような圧力供給手段と接続するため、或いは、チューブ状部材20の一方の端部側を塞ぐ何等かの手段と接続するためのコネクタである。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10について、実施例を挙げて説明するが、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10は、実施例の内容に限定されるものではない。
内部の加圧により膨張可能なチューブ状部材20の外周面に、下記の表1及び表2に示すような構成の拘束部材30を被覆して、実施例1~6及び比較例1、2のアクチュエータを準備した。
【0041】
【0042】
【0043】
表1において、「パターンA」と示されている拘束部材30は、チューブ状部材20に対してねじり回されて取り付けられる前の状態が、
図5に示した実施形態に対応するものである。すなわち、「パターンA」の拘束部材30は、伸縮異方性を有する面状繊維構造体56を含む、膨張許容領域32を構成する第2の面材54と、非伸縮性の面状繊維構造体を含む、膨張抑制領域40を構成する第3の面材42とが、向かい合うように配置された状態で、夫々の端縁近傍同士が表1に示される接合手段により接合されて、筒状に加工されたものである。
【0044】
又、表1及び表2において、「パターンB」と示されている拘束部材30は、チューブ状部材20に対してねじり回されて取り付けられる前の状態が、
図4に示した実施形態に対応するものである。すなわち、「パターンB」の拘束部材30は、等間隔で複数のスリット50が設けられた領域36と複数のスリット50が設けられていない領域38とを有する、それ自体は非伸縮性の面状繊維構造体で形成された第1の面材34が、筒状に丸められた状態で、表1又は表2に示される接合手段によって、スリット50が設けられていない領域38に相当する端縁の近傍同士が接合されることで形成されたものである。そして、「パターンB」の拘束部材30は、スリット50が設けられた領域36により、所定方向Dに広がり易い異方的な拡張性が付与された膨張許容領域32が構成され、面材の接合部分48を含むスリット50が設けられていない領域38により、膨張抑制領域40が構成されたものである。
【0045】
更に、表1の接合手段に示されている「縫製」は、ミシン糸を用いて本縫いにより縫製を行ったことを示しており、表1及び表2の接合手段に示されている「高周波ウェルダー」は、出力電流50Aで5秒の条件で、高周波ウェルダーにより熱溶着したことを示している。又、表1及び表2のねじり角度の項は、拘束部材30の一端30aと他端30bとの間のねじり角度TAを示している。このため、ねじり角度の項に「0°」と記載された比較例1、2は、拘束部材30がチューブ状部材20に対してねじり回されずに取り付けられたものである。これに対し、実施例1~6は、ねじり角度の項に記載された大きさの角度で、全て同じねじり方向にねじり回されたものとなっている。
【0046】
表1及び表2の膨張許容領域及び膨張抑制領域の項は、拘束部材30の膨張許容領域32及び膨張抑制領域40を構成する素材と、夫々の素材の、拘束部材30がねじり回される前の状態を基準とした伸縮性とを示している。素材として記載されている「布帛A」、「布帛B」、「複合面材」と、実施例及び比較例でチューブ状部材20として用いたゴムチューブとについては、下記に詳しい情報を示す。なお、本発明における破断伸度は、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、テンシロン万能材料試験機)を用い、標線間距離50mm(L0)とし、25mm×150mmの試料を速度200mm/minで引張り、試料が破断するときの標線間距離(L)を測定し、以下の式にて算出された値である。
破断伸度(%)={(L-L0)/L0}×100
【0047】
〔チューブ状部材〕
ゴムチューブ:外径11.6mm、内径8mm、宗田ゴム社製
〔拘束部材用素材〕
布帛A:伸縮性織布(破断伸度が縦370%、横200%)、一方向に伸びる生地(スーパーストレッチ)
布帛B:非伸縮性織布(破断伸度が縦45%、横50%)、ナイロンオックス生地
複合面材:非伸縮性織布と樹脂との複合体(破断伸度が縦85%、横30%)、TPUターポリン、ダイニック社製(品番 U-2424AM-130)
【0048】
ここで、表1の比較例1及び実施例1の膨張許容領域の項には、「布帛A」と記載されているが、これは、
図5に示した膨張許容領域32を構成する第2の面材54が、伸縮異方性を有する面状繊維構造体56としての布帛Aのみで形成されることを示している。又、それと同じ項には、「長さ方向に対して15°の方向へ伸縮」とも記載されているが、これは、拘束部材30がねじり回される前の状態で、布帛Aが有する伸び易い所定方向Dがチューブ状部材20の長手方向と15°の角度をなすように、布帛Aが配置されることを示している。更に、比較例1及び実施例1の膨張抑制領域の項には、「布帛B」と記載されているが、これは、
図5に示した膨張抑制領域40を構成する第3の面材42が、非伸縮性の面状繊維構造体としての布帛Bのみで形成されることを示している。なお、実施例1は、伸び易い所定方向Dがチューブ状部材20の長手方向と予め15°の角度をなしている状態から、チューブ状部材20に対して拘束部材30がねじり回されているが、その際のねじり方向は、チューブ状部材20の長手方向に対する所定方向Dの角度が、15°からより大きくなるような方向である。
【0049】
一方、表1及び表2において、膨張許容領域及び膨張抑制領域の項に記載されている「複合面材」は、
図4に示した第1の面材34として「複合面材」が用いられたことを示している。又、表1及び表2において、膨張許容領域の項に記載されている「長さ方向に3mmの等間隔で複数のスリット」は、拘束部材30がねじり回される前の状態で、チューブ状部材20の長手方向に3mmの等間隔で、領域36に複数のスリット50が形成されていることを示している。他方、膨張抑制領域の項に「スリット無し領域(接合部分)」と記載されているものは、
図4に示したように、面材の接合部分48を含むスリット50が設けられていない領域38によって、膨張抑制領域40が構成されることを示している。
【0050】
上記のような構成の実施例1~6及び比較例1、2のアクチュエータを試料として、加圧時の変形を評価するための試験を行った。評価結果は表1及び表2の下方に示している。試験では、各試料のアクチュエータに空気供給装置を接続した状態で、チューブ状部材20内の圧力が0.3MPaになるように空気を注入し、そのときのアクチュエータの変形を、形状、ピッチ角、螺旋軸距離、螺旋直径を用いて評価した。形状の項に記載されている「螺旋」は、チューブ状部材20の加圧時にアクチュエータが螺旋形状に変形したことを示し、「円形」は、チューブ状部材20の加圧時にアクチュエータが円形に変形したことを示している。
【0051】
ここで、変形評価の試験にあたり、各試料のアクチュエータには、
図7(a)に示すように、拘束部材30の膨張許容領域32の、チューブ状部材20の周方向についての中央線を標線Lとして記し、更に、標線Lの長さ方向の中央点LCを記している。なお、
図7(a)には、拘束部材30がねじり回された状態でチューブ状部材20に取り付けられることで、チューブ状部材20及び拘束部材30に用いられた素材の強度の関係上、チューブ状部材20と拘束部材30との双方が、互いに反対方向にねじり回った状態のアクチュエータを図示している。このため、
図7(a)のチューブ状部材20は、真直ぐではなく僅かにねじり回った状態で図示されている。
【0052】
そして、上記のように標線L及び中央点LCが記されたアクチュエータに対し、
図7(b)に示すように、管状のコネクタ60からチューブ状部材20へ空気を注入すると、螺旋形状(又は円形)に変形した。このとき、中央点LCにおいて交差する、螺旋形状の螺旋軸Sに平行な線と標線Lとにより形成される角度を、ピッチ角PAとして計測した。又、拘束部材30の長さ方向の一端30a及び他端30bから、螺旋軸Sに向けて垂線を引き、螺旋軸S上でのそれらの垂線間の距離を、螺旋軸距離SRとして計測した。更に、中央点LCを挟んで、螺旋形状の互いに反対の外側方向に位置する、拘束部材30の螺旋端部30c、30dに、螺旋軸Sと平行な接線を引き、両接線間の距離を螺旋直径SDとして計測した。
【0053】
まず、拘束部材30のねじりの有無のみが条件として異なる、比較例1及び実施例1の試験結果を確認すると、双方とも螺旋形状に変形しているが、ピッチ角PAは比較例1よりも実施例1の方が小さく、螺旋軸距離SRは比較例1よりも実施例1の方が大きく、螺旋直径SDは比較例1よりも実施例1の方が小さくなっている。このことから、予め螺旋形状に変形するように形成された拘束部材30に対し、更にねじりが加えられることで、変形量が調整されることが分かる。次に、拘束部材30のねじり角度TAの大きさのみが条件として異なる、比較例2及び実施例2~6の試験結果を確認するが、これらのピッチ角PA、螺旋軸距離SR、及び螺旋直径SDの計測結果は、
図8にもグラフ化して示している。
【0054】
表1及び表2を確認すると、拘束部材30がねじり回されてない比較例2が、円形に変形しているのに対し、拘束部材30がねじり回された実施例2~6は、何れも螺旋形状に変形している。このことから、通常は円形への変形を促すように形成された拘束部材30に対し、ねじりが加えられることで、螺旋形状への変形が促されることが分かる。又、
図8も参照して、拘束部材30のねじり角度TAが大きくなると、ピッチ角PA及び螺旋直径SDが小さくなると共に、螺旋軸距離SRが大きくなっている。このことから、拘束部材30のねじり角度TAを変えることによっても、変形量が調整されることが分かる。特に、拘束部材30のねじり角度TAが180°以上になると、ピッチ角PA及び螺旋軸距離SRの変化が大きくなることが分かる。なお、本試験では、実施例1~6のアクチュエータを繰り返し加圧して変形させることも行ったが、何れのアクチュエータも加圧を繰り返しても同じ形状になり、変形の再現性が高いことが判明している。
【0055】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10は、
図1及び
図2に示されているように、内部の加圧により膨張可能なチューブ状部材20と、このチューブ状部材20の外周面を被覆する拘束部材30とを備えたものであり、拘束部材30によってチューブ状部材20が膨張したときの変形を制御することで動作するものである。そのために、拘束部材30は、
図3~
図6に示すように、膨張許容領域32と膨張抑制領域40とを含んでいる。膨張許容領域32は、チューブ状部材20の内部が加圧されたときに、拘束部材30がチューブ状部材20を被覆した状態での所定方向Dへのチューブ状部材20の膨張を許容する領域であり、膨張を許容する方向について異方性を有している。これに対し、膨張抑制領域40は、何れの方向にも伸び難くなっていることで、チューブ状部材20の内部が加圧されたときに、チューブ状部材20の膨張を抑制するようになっている。
【0056】
更に、
図1及び
図2に戻り、拘束部材30は、チューブ状部材20を被覆する際に、拘束部材30の長さ方向の一端30aがチューブ状部材20に固定されると共に、長さ方向の他端30bがチューブ状部材20に着脱可能に取り付けられており、更に、一端30aと他端30bとの間がチューブ状部材20に対して周方向に所定の角度ねじり回った状態で被覆している。すなわち、拘束部材30は、長さ方向の他端30bがチューブ状部材20に着脱可能に取り付けられることで、一端30aと他端30bとの間がねじり回される所定の角度、換言すればねじり角度TA(ねじり量)が調整可能になっている。このため、拘束部材30の膨張許容領域32が膨張を許容する所定方向Dは、拘束部材30のねじり角度TAに応じて、チューブ状部材20の長手方向に対して変化することになり、図示の例では、チューブ状部材20の長手方向に対して角度θをなす方向に向いている。
【0057】
従って、拘束部材30のねじり角度TAの調整により、チューブ状部材20の長手方向に対するチューブ状部材20の膨張が許容される所定方向Dを変化させることができるため、チューブ状部材20の内部を加圧したときの、アクチュエータ10の変形を容易に調整することができる。加えて、拘束部材30の膨張許容領域32と膨張抑制領域40とを、チューブ状部材20の加圧時にアクチュエータ10を螺旋形状に変形させるような配置にすることで、拘束部材30のねじり角度TAの調整のみで、チューブ状部材20の膨張が許容される所定方向Dとチューブ状部材20の長手方向とがなす角度θが変化するため、アクチュエータ10の螺旋変形を容易に調整することが可能となる。例えば、表1及び表2に示した実施例2~6では、ねじり角度TAの変化によって、螺旋変形するアクチュエータ10のピッチ角PA、螺旋軸距離SR、螺旋直径SDが変化しており、所望の螺旋変形を容易に実現できることが分かる。これにより、アクチュエータ10のサンプル作成時等に、チューブ状部材20の膨張を許容する所定方向D等を複雑に考える必要がなくなり、部材の歩留まりやコスト、手間を低減することができる。
【0058】
又、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10は、拘束部材30の長さ方向の一端30aと他端30bとの間のねじり角度TAが、表1及び表2に示した実施例2~6のように45°以上であることで、ピッチ角の変形が見られる。特に、ねじり角度TAが180°以上になると、ピッチ角以外の螺旋直径や螺旋軸距離の変化が大きくなっており、このようにねじり角度TAを変化させることで、加圧時に螺旋変形させる場合の、アクチュエータ10の用途に適した良好な変形量を得ることが可能となる。
【0059】
更に、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10は、チューブ状部材20に対してねじり回されて被覆する拘束部材30が、ねじり回される前の状態において、
図3~
図6に示したように、膨張許容領域32によりチューブ状部材20の膨張を許容する所定方向Dが、チューブ状部材20の長手方向と平行になっている。このため、チューブ状部材20の長手方向と平行な端縁を有する矩形の膨張許容領域32を用いる場合に、膨張が許容される所定方向Dが矩形の端縁と平行な関係になる。これにより、膨張が許容される所定方向Dがチューブ状部材20の長手方向と平行でない場合と比較して、特に
図5及び
図6に示すような伸縮異方性を有する面状繊維構造体56を用いたときに、その歩留まりを改善することができる。
【0060】
又、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10は、
図3及び
図4に示すように、複数のスリット50が設けられた第1の面材34によって、拘束部材30の膨張許容領域32が構成されたものであり、第1の面材34は、非伸縮性の面状繊維構造体を含んでいる。すなわち、第1の面材34に含まれる面状繊維構造体は、何れの方向にも伸び難くなっており、このような第1の面材34に対して、複数のスリット50が設けられることで、他の方向と比較して少なくとも所定方向Dに広がり易くなるような、異方的な拡張性が付与されている。これにより、拘束部材30の膨張許容領域32を構成する第1の面材34は、複数のスリット50が開くことで所定方向Dへのチューブ状部材20の膨張を許容するように所定方向Dに広がり、その所定方向Dを、拘束部材30のねじり角度TAの調整によって変化させることができる。このように、非伸縮性の面状繊維構造体にスリット50を設けた構成で膨張許容領域32を実現しながら、加圧時の変形を容易に調整することができる。
【0061】
しかも、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10は、
図5及び
図6に示すように、伸縮異方性を有する面状繊維構造体56を含む第2の面材54によって、拘束部材30の膨張許容領域32が構成されたものであってもよい。すなわち、第2の面材54に含まれる面状繊維構造体56は、他の方向と比較して少なくとも所定方向Dに伸び易い伸縮性を有するものである。このような構成により、拘束部材30の膨張許容領域32を構成する第2の面材54は、所定方向Dへのチューブ状部材20の膨張を許容するように所定方向Dに伸び、その所定方向Dを、拘束部材30のねじり角度TAの調整によって変化させることができる。このように、伸縮異方性を有する面状繊維構造体56で膨張許容領域32を実現することによっても、加圧時の変形を容易に調整することができる。
【0062】
ここで、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10は、例えば、配管内移動装置や人工筋肉といった用途で利用される。まず、配管内移動装置は、ガス管や排水管等の管路を対象として、亀裂等の問題の調査や堆積物の洗浄等を行うためのものであって、加圧時に伸長して推進力を付与する推進ユニットと、加圧時に変形して配管内で装置の位置を維持する支持ユニットとが組み合わされて構成されている。本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10は、そのような配管内移動装置の支持ユニットとして利用される場合、拘束部材30のねじり角度TAの調整により、
図9(a)に示すように、螺旋直径SDの大きさが変化するため、サイズの異なる配管径を有する複数の配管に対応することが可能となる。
【0063】
一方、人工筋肉は、空気圧によって収縮するものであり、介護ロボットやリハビリ等に用いられるものである。本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10は、そのような人工筋肉として利用される場合、拘束部材30のねじり角度TAの調整により、
図9(b)に示すように、螺旋軸距離SRの大きさが変化するため、加圧時の引張り距離(引張り力、変化量)を調整することができる。しかしながら、本発明の実施の形態に係るアクチュエータ10は、上述した用途に限定されることなく、様々な用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10:アクチュエータ、20:チューブ状部材、30:拘束部材、30a:一端、30b:他端、32:膨張許容領域、34:第1の面材、40:膨張抑制領域、50:スリット、54:第2の面材、56:面状繊維構造体、D:所定方向、TA:ねじり角度