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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】リゾビウム属菌の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20231211BHJP
   C12R 1/41 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12R1:41
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019551169
(86)(22)【出願日】2018-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2018039397
(87)【国際公開番号】W WO2019082906
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017208572
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11426
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11427
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11428
(73)【特許権者】
【識別番号】000000169
【氏名又は名称】クミアイ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390034348
【氏名又は名称】ケイ・アイ化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 久紀
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聡信
(72)【発明者】
【氏名】服部 新吾
(72)【発明者】
【氏名】堀内 達也
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/067127(WO,A1)
【文献】特開昭60-118182(JP,A)
【文献】特開2009-201373(JP,A)
【文献】特開2010-252680(JP,A)
【文献】カナダ国特許発明第01288076(CA,C)
【文献】Yongmei Liu, et al.,Isolation and characterization of curdlan produced by Agrobacterium HX1126 using α-lactose as substrate,International Journal of Biological Macromolecules,vol.81,2015年,pp.498-503
【文献】Mustapha Missbah El Idrissi, et al.,Carbohydrates as carbon sources in rhizobia under salt stress,Symbiosis,vol.46,2008年,pp.33-44
【文献】Bissonnette N, et al.,Large-Scale Production of Rhizobium meliloti on Whey.,Appl Environ Microbiol.,52(4),1986年10月,pp.838-841
【文献】Pereira P.A.A., et al.,Preservation of rhizobia by lyophilization with trehalose.,Pesq Agropec Bras Brasilia,37(6),2002年06月,pp.831-839
【文献】McClure NC, et al.,Construction of a range of derivatives of the biological control strain agrobacterium rhizogenes K84: a study of factors involved in biological control of crown gall disease.,Appl Environ Microbiol.,64(10),1998年10月,pp.3977-3982
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-1株(FERM BP-11426)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-2株(FERM BP-11427)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-3株(FERM BP-11428)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株のいずれかであるリゾビウム(Rhizobium)属菌株の培養方法であって、マルトース、トレハロース、ラクトースから選ばれる1種又は2種以上である二糖類が培地中の炭素源のうち25質量%以上を占める液体培地を使用し、且つ、該培養液のpHを培養開始時から培養終了時まで5.0~7.0の範囲内に保持することを特徴とする、液体培養中及び培養終了時の培養液粘度の上昇を抑制することができる該リゾビウム(Rhizobium)属菌の培養方法。
【請求項2】
培養液量5L以上の大量培養であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1~2のいずれか1項に記載の方法で液体培養することを特徴とする、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-1株(FERM BP-11426)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-2株(FERM BP-11427)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-3株(FERM BP-11428)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株のいずれかであるリゾビウム(Rhizobium)属菌生菌体の製造方法。
【請求項4】
さらに、生菌体を凍結乾燥することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項5】
請求項3~4のいずれか1項に記載の方法で製造することで得られる、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-1株(FERM BP-11426)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-2株(FERM BP-11427)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-3株(FERM BP-11428)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株のいずれかである該リゾビウム(Rhizobium)属菌の培養物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リゾビウム(Rhizobium)属菌の培養方法等に関する。詳細には、リゾビウム属菌の液体培養中及び培養終了時の培養液粘度を低く保ち、且つ、生菌数が向上するような培地組成・培養条件等により、その後の生菌体濃縮・分離工程などを簡便且つ効率的とする培養方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
根頭がんしゅ病は、主に土壌中に生息する細菌である病原性リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)(異名:アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))、病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)(異名:アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes))、病原性リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)(異名:アグロバクテリウム・ヴィティス(Agrobacterium vitis))(以下、本明細書において、これらを総称して「根頭がんしゅ病菌」という場合もある)が、植物体に感染し、「根頭がんしゅ」と呼ばれるがんしゅ(癌腫)を形成することにより、樹勢などを低下させたり、激しい場合は植物体を衰弱・枯死させる植物病の一種である。この根頭がんしゅ病は、日本国内においては、主に果樹や花卉に発生していることから、特に、果樹及び花卉の農業生産現場や公園等の樹木管理に深刻な被害をもたらす植物病である。
【0003】
根頭がんしゅ病では、前記根頭がんしゅ病菌のいずれもがTi(tumor-inducing)プラスミドを保有しており、かかる保有するTiプラスミドの一部(T-DNA領域)が、植物細胞核DNAに形質転換されることにより腫瘍化が誘導される。一度腫瘍が形成されると、根頭がんしゅ病菌を除去しても腫瘍は増殖を続け、植物体の衰弱・枯死などを引き起こす。従って、現状の技術では、植物体が根頭がんしゅ病を一度発病してしまうと、治療することは困難である。そのため、根頭がんしゅ病に関しては、植物体が根頭がんしゅ病菌に感染しないように予防措置をとることが重要である。
【0004】
このような根頭がんしゅ病菌の感染に対する予防措置としては、従来、根頭がんしゅ病菌に汚染された土壌に対して、土壌全体を加熱滅菌したり、クロルピクリン剤や臭化メチル剤等の土壌殺菌剤を用いて土壌を薫蒸消毒したり、根頭がんしゅ病菌がグラム陰性であるため、グラム陰性細菌用抗生物質で当該土壌を処理したりすることがなされてきた。しかし、このような方法では、当該土壌に含まれる、根頭がんしゅ病菌以外の有用土壌細菌も殺菌・除去されてしまうので、当該土壌の土質が改悪される。このように改悪された土壌を、本来の植物栽培に適した土壌に回復させるには、有機肥料の投与等が必要であるため、多大な経費・労力と、多時間とを要するという問題が生じる。さらに、土壌殺菌剤を用いた土壌の薫蒸消毒では、土壌殺菌剤の毒性がきわめて高く、作業者及び周辺住民の健康を害する危険性がある。
【0005】
そこで、上記に代わる方法として、近年、非病原性菌を生物農薬として用いる防除方法が提案されている。特に有効なものとして、非病原性リゾビウム属菌を生物農薬として用いる方法が提案され、例えば、非病原性のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株、ARK-2株、ARK-3株は高い根頭がんしゅ病防除効果及び植物種子発芽率向上効果を発揮するため、これらを用いた微生物農薬等が有望であることが開示されている(特許文献1)。
【0006】
しかし、リゾビウム属菌、特に上記ARK-1株、ARK-2株、ARK-3株などは、生産培養時などで菌体の増殖に不可欠な栄養成分を十分量添加して菌体増殖性を向上させると、培養液粘度が上昇し、培養時の攪拌や、培養終了後の生菌体濃縮又は分離が困難となる。例えば、遠心分離で菌体を濃縮又は分離する際に、同じ遠心力で生菌体回収を試みると粘度が高いほど菌体が沈降しにくくなり、上清に菌体が漏れてしまう。その結果、製造時の生菌体回収ロスが大きくなりコスト増加に繋がる。
【0007】
微生物の培養液を低粘度化する方法としては、液体培地中で細胞を培養し多糖類を分泌させて多糖類を製造する際に、金属塩を10~100mM含有させ培養液を低粘度化する方法(特許文献2)、オウレオバシジウム(Aureobasidium)属菌を変異処理してその培養液を低粘度化する方法(特許文献3)などが知られている。しかし、特許文献2に記載されている方法は、主として植物細胞の液体培養時に多糖類を分泌させて多糖類を製造する方法であり、リゾビウム属菌培養液の低粘度化には適さない。また、特許文献3に記載されている変異処理方法は、リゾビウム属菌の変異処理による培養液の低粘度化が可能か不明であり、さらに、変異処理により菌体増殖性及び根頭がんしゅ病防除効果等の菌株の性質も変異する可能性があるというリスクが存在する。そして、リゾビウム属菌の培養液の低粘度化に関しては、現在までのところ報告は見当たらない。
【0008】
このような背景技術の中、当業界では、リゾビウム属菌の液体培養中及び培養終了時の培養液粘度を上昇させないような培養技術等の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際特許第2012/067127号
【文献】特開平5-207888号公報
【文献】特開2007-319150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、リゾビウム属菌の液体培養中及び培養終了時の培養液粘度を低く保つことができ、その後の濃縮や生菌体分離などが容易且つ効率的となるような培養方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行った結果、二糖類が培地中の炭素源のうち25質量%以上を占める培地を使用し、且つ、培養液のpHを培養開始時から培養終了時まで5.0~7.0の範囲内に保持してリゾビウム属菌を液体培養することで、リゾビウム属菌の培養中及び培養終了時の培養液粘度を低く保つことができ且つ生菌数の向上も可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)二糖類が培地中の炭素源のうち25質量%以上を占める培地を使用してリゾビウム属菌を液体培養し、且つ、該培養液のpHを培養開始時から培養終了時まで5.0~7.0の範囲内に保持することを特徴とする、リゾビウム属菌の培養方法。
(2)二糖類が、マルトース、トレハロース、ラクトース、スクロースから選ばれる1種又は2種以上である、(1)に記載の方法。
(3)リゾビウム属菌が、リゾビウム・ラジオバクター、リゾビウム・リゾゲネス、リゾビウム・ヴィティスのいずれかである、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)リゾビウム属菌が非病原性である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)リゾビウム属菌が、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株(FERM BP-11426)、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株(FERM BP-11427)、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株(FERM BP-11428)、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株のいずれかである、(1)又は(2)に記載の方法。
(6)培養液量5L以上の大量培養であることを特徴とする、(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7)二糖類が培地中の炭素源のうち25質量%以上を占める培地を使用し、且つ、培養液のpHを培養開始時から培養終了時まで5.0~7.0の範囲内に保持してリゾビウム属菌を液体培養し、この培養液から生菌体を濃縮及び/又は分離することを特徴とする、リゾビウム属菌生菌体の製造方法。
(8)さらに、生菌体を凍結乾燥することを特徴とする、(7)に記載の方法。
(9)二糖類が、マルトース、トレハロース、ラクトース、スクロースから選ばれる1種又は2種以上である、(7)又は(8)に記載の方法。
(10)リゾビウム属菌が、リゾビウム・ラジオバクター、リゾビウム・リゾゲネス、リゾビウム・ヴィティスのいずれかである、(7)~(9)のいずれか1つに記載の方法。
(11)リゾビウム属菌が非病原性である、(7)~(10)のいずれか1つに記載の方法。
(12)リゾビウム属菌が、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株(FERM BP-11426)、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株(FERM BP-11427)、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株(FERM BP-11428)、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株のいずれかである、(7)~(9)のいずれか1つに記載の方法。
(13)培養液量5L以上の大量培養により製造することを特徴とする、(7)~(12)のいずれか1つに記載の方法。
(14)二糖類が培地中の炭素源のうち25質量%以上を占める液体培地を使用し、且つ、該培養液のpHを培養開始時から培養終了時まで5.0~7.0の範囲内に保持しながら液体培養することで得られる、リゾビウム(Rhizobium)属菌の培養物。
(15)二糖類が培地中の炭素源のうち25質量%以上を占める培地を使用して下記のリゾビウム属菌を液体培養し、且つ、該培養液のpHを培養開始時から培養終了時まで5.0~7.0の範囲内に保持することを特徴とする、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株(FERM BP-11426)またはリゾビウム・ヴィティス ARK-2株(FERM BP-11427)またはリゾビウム・ヴィティス ARK-3株(FERM BP-11428)の培養方法。
(16)二糖類が培地中の炭素源のうち25質量%以上を占める培地を使用して下記のリゾビウム属菌を液体培養し、且つ、該培養液のpHを培養開始時から培養終了時まで5.0~6.0の範囲内に保持することを特徴とする、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株の培養方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リゾビウム属菌の培養中及び培養終了時の培養液粘度を低く保つ(粘度上昇を抑制する)ことができ、その後の濃縮や生菌体分離などが容易となる。また、培養期間中に常時pH調整を行うことで、培養液の粘度上昇抑制だけでなく培養終了時のリゾビウム属菌生菌数の向上も可能となり、工業生産等において非常に効率的な生菌製造ができる。本発明は、工業生産などを想定した培養液量5L以上の大量培養において特に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、リゾビウム属菌の培養方法等に関するものであるが、本発明の対象となるリゾビウム属菌としては、例えば、リゾビウム・アラミ(Rhizobium alamii)、リゾビウム・アルカリソリ(Rhizobium alkalisoli)、リゾビウム・セルロシライティカム(Rhizobium cellulosilyticum)、リゾビウム・ダエジェオネンス(Rhizobium daejeonense)、リゾビウム・エンドフィティカム(Rhizobium endophyticum)、リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)、リゾビウム・ファバエ(Rhizobium fabae)、リゾビウム・ガリカム(Rhizobium gallicum)、リゾビウム・ギアルディニ(Rhizobium giardinii)、リゾビウム・グラハミ(Rhizobium grahamii)、リゾビウム・ハイナネンセ(Rhizobium hainanense)、リゾビウム・フアウトレンス(Rhizobium huautlense)、リゾビウム・ガレガーエ(Rhizobium galegae)、リゾビウム・インディカ(Rhizobium indica)、リゾビウム・インディカス(Rhizobium indicus)、リゾビウム・インディゴフェラエ(Rhizobium indigoferae)、リゾビウム・ラリームーレイ(Rhizobium larrymoorei)、リゾビウム・レグミノサルム(Rhizobium leguminosarum)、リゾビウム・ロイカエナエ(Rhizobium leucaenae)、リゾビウム・ロエセンス(Rhizobium loessense)、リゾビウム・ルピニ(Rhizobium lupini)、リゾビウム・ラシタナム(Rhizobium lusitanum)、リゾビウム・メソシニカム(Rhizobium mesosinicum)、リゾビウム・ミルオネンス(Rhizobium miluonense)、リゾビウム・モンゴレンス(Rhizobium mongolense)、リゾビウム・マルチホスピティウム(Rhizobium multihospitium)、リゾビウム・ナガージュナ・ナガレンシス(Rhizobium nagarjuna nagarensis)、リゾビウム・オリゼ(Rhizobium oryzae)、リゾビウム・ファゼオリ(Rhizobium phaseoli)、リゾビウム・ピシ(Rhizobium pisi)、リゾビウム・ピュセンス(Rhizobium pusense)、リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)、リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)、リゾビウム・ルビ(Rhizobium rubi)、リゾビウム・セレニティレデゥセンス(Rhizobium selenitireducens)、リゾビウム・ソリ(Rhizobium soli)、リゾビウム・スラエ(Rhizobium sullae)、リゾビウム・ティベティカム(Rhizobium tibeticum)、リゾビウム・トリフォリ(Rhizobium trifolii)、リゾビウム・トロピシ(Rhizobium tropici)、リゾビウム・ツクストレンス(Rhizobium tuxtlense)、リゾビウム・アンディコラ(Rhizobium undicola)、リゾビウム・ヴァリダム(Rhizobium validum)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)などが挙げられ、これらを人工的に改変(変異処理や遺伝子組み換えなど)した株も対象となる。
【0015】
本発明は、上記したリゾビウム属菌の中でも、リゾビウム・ラジオバクター、リゾビウム・リゾゲネス、リゾビウム・ヴィティスへの適用が好適である。本発明の培養方法等は、このように根頭がんしゅ病菌、非病原性リゾビウム属菌のいずれのリゾビウム属菌にも適用できるが、特に、非病原性であるリゾビウム・ヴィティス(異名:アグロバクテリウム・ヴィティス(Agrobacterium vitis))F2/5(pT2TFXK)株(米国特許第7141395号明細書参照)、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株、リゾビウム・リゾゲネス(異名:アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter))K84株(商品名:バクテローズ(登録商標)、日本農薬株式会社製品)などに適用するのが好適であり、この他の天然由来又は人工的な変異処理や遺伝子組み換えなどがされた非病原性リゾビウム属菌を使用することもできるが、なかでも、非病原性のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株、ARK-2株、ARK-3株、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株への適用は非常に好適である。
【0016】
この非病原性リゾビウム属菌のうち、ARK-1菌株、ARK-2菌株及びARK-3菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(現独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター:〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2010年(平成22年)10月14日付で上記名称で寄託された後、2011年(平成23年)10月31日付けで国際寄託に移管されており、その受託番号は、ARK-1菌株はFERM BP-11426であり、ARK-2菌株はFERM BP-11427であり、そしてARK-3菌株はFERM BP-11428である。
【0017】
そして本発明では、このようなリゾビウム属菌を液体培養により培養する。液体培養に際しては、まず、上記のようなリゾビウム属菌の種菌を入手する。この種菌は、上記寄託菌株や市販品株を平板培地などで培養して得る方法以外であっても、天然に普遍的に存在する菌株であれば当業者は自ら単離することにより入手可能であり、外来種の菌株や閉鎖環境中で突然変異を起こした菌株についても、公知のものであれば独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NRBC)のような生物遺伝資源機関などから入手することができる。天然に全く存在しない、例えば人為的に遺伝子を組み換えた菌株は、自ら実験室内などで作成し或いは他者から譲渡された菌株又はそれらを純粋培養して得た菌株を種菌として用いてもよい。
【0018】
この種菌は、本培養の前に少量の培地で前培養(拡大培養)を行い、菌数を一定程度増やしておくのが好ましい。この前培養は、培養スケールが小さいこと等から、炭素源や培養期間中のpHなどに特段の制限はなく、リゾビウム属菌の前培養方法として公知の培地や培養条件を適宜利用可能である。
【0019】
次に、本培養である該リゾビウム属菌の液体培養を行うが、この本培養の培地に用いる炭素源としては、二糖類が培地中の炭素源のうち25質量%以上、好ましくは40質量%以上、更に好ましくは55質量%以上、最も好ましくは70質量%以上を占めるようにする。使用する二糖類の例としては、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、マンノビオース、メリビオース、メリビウロース、ネオラクトース、ガラクトスクロース、シラビオース、ルチノース、ビシアノース、キシロビオース、プリメベロースなどが挙げられ、マルトース、トレハロース、スクロース、ラクトースから選ばれる1種又は2種以上を用いるのが好適例として示されるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
培地に用いる二糖類以外の成分は、リゾビウム属菌液体培養に用いることができるものでよく、微生物の液体培養に通常使用される、炭素源、窒素源、無機塩類等が示される。例えば、炭素源として、デンプン、糖蜜等の糖類、クエン酸等の有機酸など(但し、上記した二糖類との比率が維持されるような使用量)、窒素源として、酵母エキス、大豆ペプチド、肉エキス、ペプトン等の有機窒素源や、アンモニア、硫酸アンモニウム、燐酸アンモニウム、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩や硝酸塩等の無機窒素源などが利用できる。無機塩としては、リン酸、カリウム、マグネシウム、マンガン、ナトリウム等の塩類が挙げられ、ビタミン等の微量有機栄養素も添加可能である。また、消泡剤としてはリゾビウム属菌の生育に影響がなく、消泡効果を有するいずれの消泡剤(例えばシリコーン系、ポリエーテル系など)も利用できる。
【0021】
このような培地を用いてリゾビウム属菌を液体培養するが、本培養の培養条件は、好気的条件下に、例えば通気撹拌や振盪培養等によって培養することができ、流加培養を行うこともできる。培養温度条件及び培養時間は特に限定はないが、培養温度は10~40℃程度、好ましくは15~35℃程度の範囲から選択され、培養時間は24~72時間程度が目安として示される。
【0022】
更に、この本培養において、培養開始時から培養終了時まで常に培養液のpHを5.0~7.0、より好ましくは5.5~7.0に保持(維持)しながら培養を行う。例えば、ARK-1菌株またはARK-2菌株またはARK-3菌株を培養する場合には培養液のpHを5.0~7.0、より好ましくは5.5~7.0、最も好ましくは6.0~7.0に保持(維持)しながら培養を行い、K84菌株を培養する場合には培養液のpHを5.0~7.0、より好ましくは5.0~6.5、最も好ましくは5.0~6.0に保持(維持)しながら培養を行うのが良い。これにより、培養液の粘度上昇を抑制するだけでなく、培養終了時のリゾビウム属菌生菌数の向上も可能となる。pHを保持するための方法は特に限定されないが、通常、リゾビウム属菌の液体培養液pHは培養が進むとともに徐々に上昇していく場合が多いため、リン酸、硫酸等の酸を用いてpH上昇を抑制する方法が好適である。一方、pHを上昇させたい場合は水酸化ナトリウムやアンモニア等の塩基を用いれば良い。また、酢酸と酢酸ナトリウムの組み合わせ、リン酸水素2カリウムとリン酸2水素カリウムの組み合わせ等、弱酸とその塩あるいは弱塩基とその塩をあらかじめ培地に配合するか培養中に適宜添加し、それらの緩衝作用を用いる方法なども例示される。
【0023】
なお、前記培養操作は全て無菌的に行い、培地成分やpH調整に用いる材料には滅菌したものを用いる。滅菌方法としては、典型的にはオートクレーブを用いた蒸気滅菌が採用されるが、高温や高圧に耐えない材料においては、適当な代替手段を採ってもよい。蒸気滅菌以外の滅菌方法としては火炎滅菌、乾熱滅菌などの加熱による方法、γ線、X線、波長200~280nmの紫外線(UV-C)のような電離放射線又はマイクロ波や高周波のような非電離放射線などの電磁波照射による滅菌方法、酸化エチレンガスなどによるガス滅菌、エタノール滅菌、過酸化水素低温プラズマ滅菌、グルタルアルデヒド、フタルジアルデヒド、次亜塩素酸、過酢酸などによる化学滅菌などの化学作用による滅菌方法、濾過滅菌などの分離除去による滅菌方法などを挙げることができるが、特に限定されない。
【0024】
このような培養法により得られたリゾビウム属菌の培養液は、そのまま微生物農薬又は原体として利用することができるが、これは実使用時に多量の培養液が必要となる。運送及び保管等を考慮すると、生菌体の濃縮及び/又は製剤化等を行い、より高濃度でコンパクトな形態とすることによりコスト低減に繋がる。生菌体を濃縮する方法としては、遠心分離や膜濃縮等の通常の方法が挙げられる。本発明においては、液体培養終了時の粘度が高くないため、この濃縮工程を非常に簡便且つ効率的に行うことができる。また、製剤化の方法としては凍結乾燥、流動層乾燥及びスプレードライ乾燥等の方法が挙げられるが、特に凍結乾燥組成物とすることが好適である。また、乾燥等により製剤化する際には保護剤(タンパク質及びその加水分解物、炭水化物、糖アルコール、アミノ酸及びその塩類、イオン性ハロゲン化物塩など)を培養終了時の培養液あるいは濃縮液に添加することが好ましい。
【0025】
なお、本発明は、工業生産などにおける培養液量5L以上の大量培養時(大量液体培養時)に特に効果を発揮することが特徴である。大量培養においては、培養液粘度の上昇は攪拌不良、通気不良に陥りやすく、また、培養終了後の濃縮工程が極めて困難となる場合が非常に多い。本発明は、このような大量培養においても十分な効果を奏する。
【0026】
このようにして培養されたリゾビウム属菌生菌体や、ここから得られた製剤等は、非病原性菌であれば根頭がんしゅ病防除などの生物農薬として使用できる。例えば、この生物農薬を植物体(種子を含む)又は土壌に適用(地上散布処理、土壌灌注処理、植物を菌液に浸漬する処理、植物に菌粉を粉衣する処理等)することにより農園芸作物を根頭がんしゅ病などから防除することができる。
【0027】
この生物農薬の施用対象植物の種類は特に制限されないが、具体的にはリンゴ、バラ、スモモ、オウトウなどのバラ科植物、キクなどのキク科植物、ブドウなどのブドウ科植物、トマトなどのナス科植物を例示することができる。前記のARK-1株及びARK-3株は、上記植物のいずれに対しても高い根頭がんしゅ病防除効果を発揮する。また、ARK-2株は、上記植物のうち、特にバラ、ブドウ及びトマトに対して根頭がんしゅ病防除効果を発揮する。K84株は、上記植物のうち、特にリンゴ、バラ、キクに対して根頭がんしゅ病防除効果を発揮する。
【0028】
このようにして、二糖類が培地中の炭素源のうち25質量%以上を占める培地を使用してリゾビウム属菌を液体培養し、且つ、該培養液のpHを培養開始時から培養終了時まで5.0~7.0の範囲内に保持することで、リゾビウム属菌の培養中及び培養終了時の培養液粘度を低く保つ(粘度上昇を抑制する)ことができ、その後の濃縮や生菌体分離が容易且つ効率的となり、また、生菌数の向上も可能となり、工業生産等において非常に効率的となる。
【0029】
なお、本発明において「炭素源」とは、炭素、水素、酸素から構成される、液体培養中にリゾビウム属菌に資化され得る化合物(主として糖類や有機酸)を意味する。
【実施例
【0030】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。なお、下記実施例の操作は全て無菌的に行った。また、以下の記載において「部」は質量部を表す。
【0031】
<NA(Nutrient Agar)平板培地の調製>
肉エキス5部、ペプトン10部、塩化ナトリウム5部、寒天15部及び水1000部を混合し、加熱して完全に溶解させた後、シャーレに流し入れ、冷却して、NA平板培地を調製した。
【0032】
<前培養用培地の調製>
大豆ペプチド17部、酵母エキス3部、グルコース2.5部、塩化ナトリウム5部及び水1000部を混合して前培養用培地を調製した。
【0033】
<試験例1>
リゾビウム・ヴィティス ARK-1菌株のグリセリンストックを解凍して前記NA培地に画線法にて接種し、28℃の恒温室内で1日間静置培養して種菌とした。まず、前記前培養培地に種菌より一白金耳量を接種し、28℃の恒温室内で190rpmのロータリーシェーカーを用いて1日間前培養を行った。次に、本培養培地成分として大豆ペプチドを102部、酵母エキスを18部、塩化ナトリウムを30部、ディスホームNQH-7403(消泡剤)を30部及び水6000部を混合して調製した培地をコントロールとし、別途炭素源としてマルトース、グルコース、フルクトース、マンニトール、トレハロース、ラクトース、スクロース、デンプンを各120部添加した6Lの8種培地成分及びコントロールに前培養液をそれぞれ接種して、10Lジャーファーメンターを用いて28℃で2日間本培養を行った。本培養中、各培養液のpHが7を超えないようにリン酸を用いてpH7以下制御(おおよそpH6.5~7.0の範囲)で培養を行った。
【0034】
そして、培養終了時の各培養液粘度(mPa・s)及び生菌数(cfu/ml)を常法により測定した。その結果を下記表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
この結果から、グルコース、フルクトース及びマンニトールを炭素源とした場合の培養液粘度はかなり上昇し、デンプンを炭素源とした場合は培養液粘度が低い結果であったが、ARK-1菌株はデンプンを資化できないためにコントロールと同程度の粘度、生菌数であると推察された。これら炭素源と比較して、マルトース、トレハロース、ラクトース及びスクロースを炭素源とした場合は培養液が低粘度であり、培養終了時の生菌数も十分であって、二糖類を炭素源として用いて培養を行い且つ培養期間中のpH調整を行うと、ARK-1菌株培養液粘度の上昇が抑制され且つ生菌数も向上することが明らかとなった。
【0037】
また、種菌及び前培養は上記と同様に行い、本培養培地成分として大豆ペプチドを102部、酵母エキスを18部、塩化ナトリウムを30部、ディスホームNQH-7403を30部及び水6000部を混合して調製した培地に、別途炭素源としてマルトース、トレハロース、ラクトース、スクロースを各120部添加した6Lの4種培地成分にそれぞれ前培養液を接種して、10Lジャーファーメンターを用いて28℃で2日間本培養を行う試験も行った。なお、この培養期間中、培養液のpH制御は行わずに培養を行った。
【0038】
そして、培養終了時の各培養液pH、培養液粘度及び生菌数を常法により測定した。その結果を下記表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
この結果、グルコースなど二糖類以外を炭素源とした場合ほどではないものの、いずれも同じ二糖類を炭素源としてpH調整を行った場合と比較して、培養液粘度はやや上昇し、生菌数もやや少ないことが示された。以上より、炭素源として二糖類を使用し、且つ、培養期間中にpH調整を行うことが、ARK-1菌株培養液の粘度上昇抑制及びARK-1菌株の生菌数向上という点において非常に有効であることが明らかとなった。
【0041】
<試験例2>
リゾビウム・ヴィティス ARK-2株、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株及びアグロバクテリウム・ラジオバクター K84株のグリセリンストックを解凍して前記NA培地に画線法にて接種し、28℃の恒温室内で1日間静置培養して種菌とした。まず、前記前培養培地に種菌より一白金耳量を接種し、28℃の恒温室内で190rpmのロータリーシェーカーを用いて1日間前培養を行った。次に、本培養培地成分として大豆ペプチドを102部、酵母エキスを18部、塩化ナトリウムを30部、ディスホームNQH-7403(消泡剤)を30部及び水6000部を混合して調製した培地をコントロールとし、別途炭素源としてマルトース、グルコース、マンニトールを各120部添加した6Lの3種培地成分及びコントロールに前培養液をそれぞれ接種して、10Lジャーファーメンターを用いて28℃で2日間本培養を行った。本培養中、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株は、各培養液のpHが7.0を超えないようにリン酸を用いてpH7.0以下制御、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株は各培養液のpHが6.0を超えないようにリン酸を用いてpH6.0以下制御、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株の炭素源にグルコースを用いた培養のみアンモニア水を用いてpH5.0以上の制御を加えた。
【0042】
培養終了後の各培養液粘度(mPa・s)及び生菌数(cfu/ml)を常法により測定した。その結果を下記表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
単糖類であるグルコース及び糖アルコール類であるマンニトールと比較して、二糖類であるマルトースを炭素源とした場合は、培養液粘度が低粘度であり、生菌数も十分であった。リゾビウム・ヴィティス ARK-2株、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株及びアグロバクテリウム・ラジオバクター K84株もリゾビウム・ヴィティス ARK-1株と同様に、二糖類を炭素源として用いて培養を行い且つ培養期間中のpH調整を行うと培養液粘度の上昇が抑制され且つ生菌数も向上した。
【0045】
<試験例3>
種菌及び前培養は試験例1と同様とし、本培養培地成分として大豆ペプチドを306部、酵母エキスを54部、塩化ナトリウムを90部、マルトースを360部、ディスホームNQH-7403を90部及び水18000部を混合して調製した18Lの培地成分に前培養液を接種して、30Lジャーファーメンターを用いて28℃で2日間本培養を行った。本培養中の培養液pHが4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0を超えないような9種の系に分け、それぞれリン酸を用いて各培養液pHが設定を超えないように(設定pHから-0.5以内の範囲内で)制御して培養を行った。また、コントロールとして培養液のpH制御無しで培養を行ったものも用意した。
【0046】
そして、培養終了時の各培養液pH、培養液粘度及び生菌数を常法により測定した。その結果を下記表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
この結果、コントロールの培養終了時pHは8.3であり、表3に示されるようにpH7.5以上では培養液粘度がやや高く、pH4.5以下では増殖性が悪かった。これと比較して、pH5.0~7.0の範囲では培養液が低粘度であり、特にpH5.5~7.0では生菌数も極めて向上することが明らかとなった。
【0049】
<試験例4>
ARK-1菌株の他に、リゾビウム・ヴィティス ARK-2菌株、リゾビウム・ヴィティス ARK-3菌株、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株を用い、種菌の取得及び前培養の方法は試験例1と同様とし、本培養培地成分として大豆ペプチドを102部、酵母エキスを18部、塩化ナトリウムを30部、マルトースを120部、ディスホームNQH-7403を30部及び水6000部を混合して調製した6Lの培地成分に前培養液を接種して、10Lジャーファーメンターを用いて28℃で2日間本培養を行った。なお、本培養中の培養液pHが7.0を超えないようにリン酸を用いて制御した場合と、pH制御をしない場合の2種類の試験を行い、これらの培養終了時の各培養液の粘度及び生菌数を常法により測定した結果を下記表5に示した。
【0050】
【表5】
【0051】
この結果から、ARK-2菌株及びARK-3菌株においても、ARK-1菌株と同様に、本培養中の培養液pHの制御が生菌数の向上と培養液粘度の低下に極めて有効であることが明らかとなった。また、K84株においても、上記3菌株よりもやや効果は低いものの、やはり本培養中の培養液pHの制御が生菌数の向上と培養液粘度の低下に有効であることが明らかとなった。
【0052】
<試験例5>
リゾビウム・ヴィティス ARK-1株の他に、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株、アグロバクテリウム・ラジオバクター K84株を用い、種菌の取得及び前培養の方法は試験例2と同様とし、本培養培地成分として大豆ペプチドを102部、酵母エキスを18部、塩化ナトリウムを30部、マルトースを120部、ディスホームNQH-7403を30部及び水6000部を混合して調製した6Lの培地成分に前培養液を接種して、10Lジャーファーメンターを用いて28℃で2日間本培養を行った、なお、本培養中の培養液pHが6.0を超えないようにリン酸を用いて制御した場合と、pH制御をしない場合の2種類の試験を行い、これらの培養終了時の各培養液の粘度及び生菌数を常法により測定した。結果を下記表6に示す。
【0053】
【表6】
【0054】
この結果、リゾビウム・ヴィティス ARK-1株、リゾビウム・ヴィティス ARK-2株、リゾビウム・ヴィティス ARK-3株及びアグロバクテリウム・ラジオバクター K84株において本培養中のpH制御が培養液粘度の上昇の抑制及び生菌数の向上に極めて有効であることが明らかとなった。
【0055】
<試験例6>
リゾビウム・ヴィティス ARK-1株を用い、種菌及び前培養は試験例2と同様とし、本培養培地成分として大豆ペプチドを306部、酵母エキスを54部、塩化ナトリウムを90部、マルトースを360部、ディスホームNQH-7403を90部及び水18000部を混合して調製した18Lの培地成分に前培養液を接種して、30Lジャーファーメンターを用いて28℃で2日間本培養を行った。本培養中の培養液pHが5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0を超えないような7種の系に分け、それぞれリン酸を用いて各培養液pHが設定を超えないように(設定pHから-0.5以内の範囲内で)制御して培養を行った。また、コントロールとして培養液のpH制御無しで培養を行った。本培養終了後の培養液を遠心分離して上澄みを捨て、菌体濃縮物を得た。凍結乾燥用保護剤水溶液として、トレハロース20部、グルタミン酸ナトリウム10部、システイン塩酸塩8部、カルボキシメチルセルロースナトリウム1部及び水61部を混合し、若干量の水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整して凍結乾燥用保護剤水溶液を調製した。菌体濃縮物50部と凍結乾燥用保護剤水溶液50部を混合し、水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpH7に再度調整し、生菌原液を調製した。該生菌原液7.0gを10mL容バイアル瓶に取り、-80℃に設定したディープフリーザーで予備凍結した後、凍結乾燥装置(VirTis25L Genesis SQ Super ES-55、SP Industries,Inc.製品)を用いて、200m Torr程度に減圧して凍結乾燥を48時間実施し、凍結乾燥組成物を得た。バイアル瓶内の凍結乾燥組成物の全質量は2.0g、水分含量は7.9質量%であった。得られた凍結乾燥組成物は、密封したバイアル瓶の状態で6℃の冷蔵室又は28℃の恒温室で静置保存した。
【0056】
<凍結乾燥直後の生菌生存率評価>
試験例6の凍結乾燥組成物中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌数濃度(cfu/g)を常法により測定し、これに凍結乾燥組成物の全質量(g)を乗じて、凍結乾燥組成物中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株総生菌数(cfu)を求めた。この総生菌数を前記生菌原液7g中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の総生菌数で除し、凍結乾燥直後のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌生存率(%)を算出した。
【0057】
<保存安定性の生菌生存率評価>
各保存日数時の凍結乾燥組成物中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌数濃度(cfu/g)を常法により測定し、これに凍結乾燥組成物の全質量(g)を乗じて、凍結乾燥組成物中のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株総生菌数(cfu)を求めた。この総生菌数を前記凍結乾燥直後の総生菌数で除し、各保存日数時のリゾビウム・ヴィティス ARK-1株の生菌生存率(%)を算出した。
【0058】
各pH制御時で培養した培養液を用いた生菌原液の凍結乾燥前のバイアル瓶当り総生菌を下記表7に示す。
【0059】
【表7】
【0060】
各pH制御時で培養した培養液を用いた凍結乾燥組成物の凍結乾燥直後の生菌生存率(%)の結果を下記表8に示す。
【0061】
【表8】
【0062】
各pH制御時で培養した培養液を用いた凍結乾燥組成物の6℃での保存安定性の結果を下記表9に示す。
【0063】
【表9】
【0064】
各pH制御時で培養した培養液を用いた凍結乾燥組成物の28℃での保存安定性の結果を下記表10に示す。
【0065】
【表10】
【0066】
表8より、凍結乾燥直後の生菌生存率は、本培養中のpH制御の有無で著しい差は見られなかったが、表9及び表10に示されている通り、保存安定性はpH7.5以上では保存安定性が低い結果であったが、pH6.0~7.0以下制御の範囲では6℃保存及び28℃保存共に高い保存安定性を示した。本培養中のpHを7.0以下に制御することは、培養液の粘度の上昇の抑制及び生菌数の向上に加え、凍結乾燥組成物の保存安定性の向上にも極めて有効である。
【0067】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0068】
本発明は、リゾビウム属菌の液体培養中及び培養終了時の培養液粘度を低く保つことができ、その後の濃縮や生菌体分離などが容易且つ効率的となるような培養方法等を提供することを目的とする。
【0069】
そして、二糖類(例えば、マルトース、トレハロース、ラクトース、スクロースなど)が培地中の炭素源のうち25質量%以上を占める培地を使用し、且つ、培養液のpHを培養開始時から培養終了時まで5.0~7.0の範囲内に保持してリゾビウム属菌を液体培養することで、上記課題を解決する。
【受託番号】
【0070】
本発明で寄託されている微生物の受託番号を下記に示す。
(1)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-1株(FERM BP-11426)
(2)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-2株(FERM BP-11427)
(3)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK-3株(FERM BP-11428)