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特許7399410硬化性樹脂組成物、硬化体、セルロースナノファイバー材料、及びセルロースナノファイバー材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、硬化体、セルロースナノファイバー材料、及びセルロースナノファイバー材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20231211BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20231211BHJP
   C08L 3/00 20060101ALI20231211BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20231211BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20231211BHJP
   D01F 2/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L1/02
C08L3/00
C08L63/00 A
C08G59/20
D01F2/00 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020012516
(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021116395
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391017849
【氏名又は名称】山梨県
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】森長 久豊
(72)【発明者】
【氏名】埴原 俊介
(72)【発明者】
【氏名】芦澤 里樹
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-177437(JP,A)
【文献】特開2019-172995(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012643(WO,A1)
【文献】特開2012-177012(JP,A)
【文献】特開2018-095675(JP,A)
【文献】特開2018-127600(JP,A)
【文献】特表2014-532805(JP,A)
【文献】特開2019-189897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0216909(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
D01F 2/00
A23K 10/00-40/35、50/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバー材料と、モノマーと、架橋剤とを含む硬化性樹脂組成物であって、
前記セルロースナノファイバー材料は、ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料を含み、
前記セルロースナノファイバー材料は、前記セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、前記セルロースナノファイバー材料からエタノールとトルエン(体積比1:2)の混合溶剤で、ソックスレー抽出器で6時間沸騰還流して抽出される有機溶媒可溶分が、5質量部以上、50質量部以下である、硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物であって、前記セルロースナノファイバー材料は、ポリフェノールを含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物であって、前記セルロースナノファイバー材料は、前記セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、ペクチンを5質量部以上、20質量部以下含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物であって、前記架橋剤はポリアルキレンイミンを含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物であって、前記モノマーと前記架橋剤の合計を100質量部としたとき、前記架橋剤を10質量部以上、45質量部以下含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物であって、前記モノマーは、エポキシ化合物、環状カーボネート化合物、環状エステル化合物、アクリレート化合物、ビニル化合物、酸ハロゲン化物であるモノマー、ハロゲン化スルホニル基を有するモノマー、カルボキシ基を有するモノマー、アルデヒド基を有するモノマー、ケトン基を有するモノマーから成る群から選択される少なくとも一種を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物であって、前記モノマーは、リモネンオキシドを多官能化したエポキシ化合物を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物であって、前記モノマーは、植物由来の化合物を含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物であって、前記硬化性樹脂組成物を100質量部としたとき、前記セルロースナノファイバー材料を0.1質量部以上、10質量部以下含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~に記載の硬化性樹脂組成物からなる、硬化体。
【請求項11】
モノマーと架橋剤とを含む硬化性樹脂組成物に添加するフィラーとして用いるセルロースナノファイバー材料であって、
前記セルロースナノファイバー材料は、ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料を含み、
前記セルロースナノファイバー材料は、前記セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、前記セルロースナノファイバー材料からエタノールとトルエン(体積比1:2)の混合溶剤でソックスレー抽出器で6時間沸騰還流して抽出される有機溶媒可溶分が、5質量部以上、50質量部以下である、セルロースナノファイバー材料。
【請求項12】
請求項11に記載のセルロースナノファイバー材料であって、ポリフェノールを含む、セルロースナノファイバー材料。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のセルロースナノファイバー材料であって、前記セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、ペクチンを5質量部以上、20質量部以下含む、セルロースナノファイバー材料。
【請求項14】
請求項1113のいずれかに記載のセルロースナノファイバー材料の製造方法であって、
ブドウの果皮と水とを含む原料を、湿式解繊装置で解繊処理して水及びブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料を含むペーストを得る解繊工程を含む、製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のセルロースナノファイバー材料の製造方法であって、
さらに、前記ペーストを、アルコールで溶媒置換する工程を含む、
製造方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載のセルロースナノファイバー材料の製造方法であって、
化学処理(ただし、アルコールによる溶媒置換を除く)工程を含まない、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、硬化体、セルロースナノファイバー材料、及びセルロースナノファイバーの製造方法に関する。より詳細には、ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料を含む、硬化性樹脂組成物、硬化体、セルロースナノファイバー材料、及びセルロースナノファイバー材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーは、軽量で、かつ、鋼鉄の5倍以上の強度を有していることから、植物から得られる高性能のナノファイバーとして、その機能、製造方法、利用方法等について多くの研究が行われている。また、それらの研究の多くは、針葉樹、広葉樹などの木材パルプ由来の木材繊維を用いたものである。
【0003】
セルロースナノファイバーの製造方法は、薬品を使った化学的な分解、機械を使った物理的な分解等があり、これらの複数の方法を組み合わせて用いることによって、セルロースの繊維を分解し、ほぐし、更に細かい繊維に解繊するのが一般的である。具体的には、TEMPO酸化触媒で化学的に処理した後に物理的に分解する方法等が挙げられる。また、このようにして得られたセルロースナノファイバーを、樹脂組成物のフィラーとして用いることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、マトリックス樹脂に0.05~1質量%の平均繊維長0.05μm~100μmのセルロースナノファイバーを配合した樹脂組成物100質量部に対して、炭素繊維を50~250質量部配合してなる炭素繊維強化プラスチックが開示されている。また、特許文献2には、成分(A):軟化点80℃以上のビスフェノールF型エポキシ樹脂、成分(B):エポキシ当量250以下のビスフェノールF型エポキシ樹脂、成分(C):硬化剤、成分(D):セルロースナノファイバーを含むエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0005】
一方、ワインの製造工程では、ブドウの絞りかすが年間約2000トン発生する。よって、製造過程で発生する廃棄物の有効活用が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-1872号公報
【文献】特開2018-95675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の方法では、木材パルプ等に複数の物理的な機械処理及び化学処理を行わなければ、充分に解繊されたセルロースナノファイバー材料を得ることができなかった。また、そのようにして得たセルロースナノファイバー材料を用いた硬化性樹脂組成物からなる硬化体は、十分な機械的特性を得ることができないという問題があった。これは、従来のセルロースナノファイバー材料は、高い親水性を有するため、疎水性マトリックス中に混ぜた場合、凝集してしまい均一に混ざりにくいためと考えられる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来のパルプ由来のセルロースナノファイバー材料では困難であった、例えば、引張強度や変形の少なさといった、十分な機械的特性を有する硬化体そのような硬化体を製造することができる硬化性樹脂組成物、フィラー用セルロースナノファイバー材料、及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、セルロースナノファイバー材料と、モノマーと、架橋剤とを含む硬化性樹脂組成物であって、前記セルロースナノファイバー材料は、ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料を含み、前記セルロースナノファイバー材料は、前記セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、前記セルロースナノファイバー材料からエタノールとトルエン(体積比1:2)の混合溶剤でソックスレー抽出器で6時間沸騰還流して抽出される有機溶媒可溶分が、5質量部以上、50質量部以下である、硬化性樹脂組成物が提供される。
【0010】
本発明者は、鋭意検討を行ったところ、ブドウの果皮を含む原料に簡易な物理的処理を行うことによって、セルロースナノファイバーが適度に解繊され、また、ブドウの果皮由来の成分が残存したセルロースナノファイバー材料を得ることができ、従来のセルロースナノファイバー材料では困難であった、セルロースナノファイバーが硬化性樹脂組成物を構成するセルロースナノファイバー材料以外の成分、特に疎水性の成分中に高度に分散した硬化性樹脂組成物を得ることができ、機械的特性が改善することを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
本開示のセルロースナノファイバー材料を含む硬化性樹脂組成物において、セルロースナノファイバーが、疎水性の他の成分中に高度に分散した硬化性樹脂組成物となる原理は完全に解明されているわけではないが、以下のようなものであると推測される。すなわち、従来のセルロースナノファイバー材料は、セルロースナノファイバーとしての特性を充分発揮するためには、複数の物理的な機械処理及び化学処理を行わなければならず、その過程で、リグニン等の疎水成分が除去されるため、結果として得られたセルロースナノファイバー材料は、疎水性の化合物等と混合したとき凝集しやすかった。しかしながら、本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、柔軟性を有するブドウの果皮を原料とするため、化学処理を経ず、比較的軽度の物理的処理で充分に解繊されたセルロースナノファイバーを得ることができる。よって、得られたセルロースナノファイバー材料には、ブドウの果皮由来の成分が残存している。このブドウの果皮由来の成分と架橋剤とモノマーとの組み合わせによって、特には、ブドウの果皮由来の有機成分と架橋剤がセルロースナノファイバー材料の分散媒中で分散剤として働くことによって、セルロースナノファイバーが高度に分散したセルロースナノファイバー材料を含む硬化性樹脂組成物となるものと考えられる。
【0012】
また、本発明によれば、ワインの醸造工場等で発生するブドウの絞りかすを有効活用して、低コストかつ手間の少ない方法で新たな機能を有するセルロースナノファイバー材料を製造することができる。よって、本発明は、廃棄物の削減、廃棄物処理コストの削減、低コストかつ手間の少ない方法による新たな機能材料の創出という効果をも奏し、農業系廃棄物の有効活用が達成でき、循環型社会を形成できる。
【0013】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記セルロースナノファイバー材料は、ポリフェノールを含む。
好ましくは、前記セルロースナノファイバー材料は、前記セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、ペクチンを5質量部以上、20質量部以下含む。
好ましくは、前記セルロースナノファイバー材料は、前記セルロースナノファイバー材料を、固形分濃度4質量%で、水中に分散させた水分散液の回転数20rpmにおける粘度η20と、回転数100rpmにおける粘度η100との比であるη20/η100が、1~10である。
好ましくは、前記架橋剤はポリアルキレンイミンを含む。
好ましくは、前記モノマーと前記架橋剤の合計を100質量部としたとき、前記架橋剤を10質量部以上、45質量部以下含む。
好ましくは、前記モノマーは、エポキシ化合物、環状カーボネート化合物、環状エステル化合物、アクリレート化合物、ビニル化合物、酸ハロゲン化物であるモノマー、ハロゲン化スルホニル基を有するモノマー、カルボキシ基を有するモノマー、アルデヒド基を有するモノマー、ケトン基を有するモノマーから成る群から選択される少なくとも一種を含む。
好ましくは、前記モノマーは、リモネンオキシドを多官能化したエポキシ化合物を含む。
好ましくは、前記モノマーは、植物由来の化合物を含む。
好ましくは、前記硬化性樹脂組成物を100質量部としたとき、前記セルロースナノファイバー材料を0.1質量部以上、10質量部以下含む。
【0014】
本発明の別の観点によれば、上記の硬化性樹脂組成物からなる、硬化体が提供される。
【0015】
本発明の別の観点によれば、モノマーと架橋剤とを含む硬化性樹脂組成物に添加するフィラーとして用いるセルロースナノファイバー材料であって、前記セルロースナノファイバー材料は、ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料を含み、前記セルロースナノファイバー材料は、前記セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、前記セルロースナノファイバー材料からエタノールとトルエン(体積比1:2)の混合溶剤でソックスレー抽出器で6時間沸騰還流して抽出される有機溶媒可溶分が、5質量部以上、50質量部以下である、セルロースナノファイバー材料が提供される。
【0016】
以下、本観点による、種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記セルロースナノファイバー材料は、ポリフェノールを含む。
好ましくは、前記セルロースナノファイバー材料は、前記セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、ペクチンを5質量部以上、20質量部以下含む。
好ましくは、前記セルロースナノファイバー材料は、前記セルロースナノファイバー材料を、固形分濃度4質量%で、水中に分散させた水分散液の回転数20rpmにおける粘度η20と、回転数100rpmにおける粘度η100との比であるη20/η100が、1~10である。
【0017】
本発明の別の観点によれば、上記のセルロースナノファイバー材料の製造方法であって、湿式解繊装置で解繊処理して水及びブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料を含むペーストを得る解繊工程を含む、製造方法が提供される。
【0018】
以下、本観点による、種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記製造方法は、さらに、前記ペーストを、アルコールで溶媒置換する工程を含む。
好ましくは、前記製造方法は、化学処理(ただし、アルコールによる溶媒置換を除く)工程を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実験例1及び実験例2に係るセルロースナノファイバー材料の製造工程及び実験例1及び実験例2に係るセルロースナノファイバー材料の外観写真を示す図である。
図2図2は、比較例に係るセルロースナノファイバー材料の製造工程及び比較例にかかるセルロースナノファイバー材料の外観写真を示す図である。
図3図3は、本発明に係る応力-のび曲線を示し、最大応力及び変形しにくさの度合いの評価方法を示す。
図4図4は、セルロースナノファイバー材料1を用いた硬化体の外観写真を示す。
図5図5は、セルロースナノファイバー材料1を用いた硬化体の引張強度評価結果を示す。
図6図6は、セルロースナノファイバー材料1を用いた硬化体の変形のしにくさの度合いの評価結果を示す。
図7図7は、本発明に係るセルロースナノファイバー材料2を用いた硬化体の外観写真を示す。
図8図8は、セルロースナノファイバー材料2を用いた硬化体の引張強度評価結果を示す。
図9図9は、セルロースナノファイバー材料2を用いた硬化体の変形のしにくさの度合いの評価結果を示す。
図10図10は、セルロースナノファイバー材料3を用いた硬化体の引張強度の評価結果を示す。
図11図11は、セルロースナノファイバー材料3を用いた硬化体の変形のしにくさの度合いの評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を例示して本発明について詳細な説明をする。本発明は、これらの記載によりなんら限定されるものではない。以下に示す本発明の実施形態の各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0021】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、セルロースナノファイバー材料と、モノマーと、架橋剤とを含む。以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
1. セルロースナノファイバー材料
本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、モノマーと架橋剤とを含む硬化性樹脂組成物に添加するフィラーとして用いるセルロースナノファイバー材料である。本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、ブドウの果皮由来のセルロースナノファイバー材料を含み、ブドウ由来の成分を含むため、マトリックス中で、該有機成分と架橋剤とが分散剤の役割を果たし、モノマー中にセルロースナノファイバーが高度に均一に分散した構造となるものと考えられる。
【0023】
本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料を含む。本発明において、ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料とは、ブドウ科の植物の果皮に含まれるセルロースナノファイバーと、ブドウ科の植物の果皮に含まれるセルロース以外の成分とを含むセルロースナノファイバー材料を意味する。ブドウの果皮は、例えば、ブドウを搾汁した後に得られる絞りカスを使用することができる。本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、ブドウの果皮を湿式解繊装置で解繊処理したブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料であることが好ましく、その具体的な製造方法は後述の通りである。ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料は、凍結乾燥されたものであってもよい。ブドウの果皮は、適度な柔軟性を有するため加工が容易であり、また、ブドウの果皮由来の成分は、セルロースナノファイバーのモノマーを含むマトリックスに対する分散性を向上するのに寄与すると考えられる。
【0024】
本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、ブドウの果皮のセルロースナノファイバーを含み、例えば、ブドウの果梗のセルロースナノファイバー等のブドウの果皮以外の箇所のセルロースナノファイバーや、他の植物のセルロースナノファイバーを含むこともできる。本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、本発明に係る硬化性樹脂組成物に含まれるセルロースナノファイバー材料を100としたとき、ブドウの果皮由来のセルロースナノファイバー材料を30質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが更により好ましく、100質量%、すなわち、ブドウの果皮由来のセルロースナノファイバー材料のみで、ブドウの果皮以外の箇所及び他の植物のセルロースナノファイバー材料を含まないものとすることもできる。
【0025】
本発明においてブドウとは、ブドウ科の植物であれば特に制限はないが、例えば、カベルネソーヴィニヨン種、メルロー、マスカット・ベーリーA、甲州、ピノ・ノワール、甲斐ノワール、シャルドネ、ケルナーから選ばれる少なくとも1種を含むものとすることができる。ブドウは、カベルネソーヴィニヨン、メルロー、マスカット・ベーリーA、甲州から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0026】
本発明において、セルロースナノファイバー材料は、セルロースナノファイバーを含む、植物由来の複数の種類の成分を含む。植物由来の複数の成分としては、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、ペクチン、その他の有機成分等が挙げられる。
【0027】
本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、前記セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、セルロースナノファイバー材料からエタノールとトルエン(体積比1:2)の混合溶剤でソックスレー抽出器で6時間沸騰還流して抽出される有機溶媒可溶分が、5質量部以上、50質量部以下である。有機可溶分は、7質量部以上、46質量部以下であることがより好ましく、11質量部以上、43質量部以下であることが更により好ましい。本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、有機可溶分を上記数値範囲内とすることで、樹脂マトリックス中に高度に分散することができるセルロースナノファイバー材料となるものと考えられる。なお、有機可溶分は、例えば、日本木材学会編、「木質科学実験マニュアル」、文永堂出版、2000年、P93-94、やJISP8180に記載の方法によって測定することができる。具体的な測定方法は実験例に記載の通りである。
【0028】
本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、ポリフェノールを含むことが好ましい。ポリフェノールは、フォーリン試薬で呈色し吸光光度計で測定することができる。また、本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、ペクチンを3質量部以上、20質量部以下含むことが好ましく、6質量部以上、17質量部以下含むことがより好ましく、9質量部以上、14質量部以下含むことがさらにより好ましい。セルロースナノファイバー材料に含まれるペクチンは酵素で加水分解後、高速液体クロマトグラフでガラクツロン酸量として測定することができる。
【0029】
本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、セルロースを5質量部以上、25質量部以下含むことが好ましく、10質量部以上、20質量部以下含むことが好ましい。
【0030】
本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、ヘミセルロースを3質量部以上、23質量部以下含むことが好ましく、8質量部以上、18質量部以下含むことが好ましい。
【0031】
本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、セルロースナノファイバー材料を100質量部としたとき、リグニンを17質量部以上、44質量部以下含むことが好ましく、22質量部以上、39質量部以下含むことが好ましい。
【0032】
なお、セルロースナノファイバー材料に含まれる、セルロース、ヘミセルロース、リグニンの量は、例えば、日本木材学会編集、木質科学実験マニュアル、P92-97に記載の方法で分析することができる。具体的な測定方法は実験例に記載の通りである。本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、各成分を上記数値範囲内とすることで、マトリックス中に高度に分散することができるセルロースナノファイバー材料となるものと考えられる。なお、各成分の分析にあたっては、凍結乾燥等によって水を除去したセルロースナノファイバー材料が用いられる。
【0033】
本発明に係るセルロースナノファイバーの繊維幅は、3~100nmであることが好ましい。また、本発明に係るセルロースナノファイバーの繊維長は、100nm~10μmとすることができる。
【0034】
2. セルロースナノファイバー材料の製造方法
本発明に係るセルロースナノファイバー材料の製造方法は、ブドウの果皮と水とを含む原料を、湿式解繊装置で解繊処理して、水及びブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料を含むペーストを得る解繊工程を含むことができる。解繊処理に用いる湿式解繊装置は特に制限がなく、ブドウの果皮と水とを含む原料に含まれるセルロースナノファイバー材料の解繊を促進するものであればよい。湿式解繊装置は、例えば、石臼式摩砕機(グラインダー、ディスクミル、摩砕機等)、高圧ホモジナイザー、リファイナー(ディスクリファイナー、コニカルリファイナー等)、2軸エクストルーダ、ウォータージェット法、水中カウンターコリジョン法、ビーズミル、ボールミル、マイクロフルイダイザー等である。解繊装置は、好ましくは石臼式摩砕機、及び高圧ホモジナイザーであり、更に好ましくは石臼式摩砕機である。石臼式摩砕機は、例えば、ディスクミルである。解繊処理は、1種又は2種以上の装置による処理を組み合わせて行うことができる。ディスクミルを用いる場合、例えば、回転数は1500~2000rpmとすることができ、ディスクミルを通過させる回数であるパス数は5~20パスとすることができる。また、解繊処理時は、固形分濃度を0.5~10質量%とすることができ、1~7質量%とすることがより好ましい。
【0035】
解繊処理後のセルロースナノファイバー材料が水に分散したペースト状の水分散液は、チキソ性を有することが好ましい。具体的には、セルロースナノファイバー材料を固形分濃度4質量%で水に分散させたペースト状の水分散液は、回転速度20rpmで測定した粘度η20が500~5000mPa・Sであることが好ましく、1000~3000mPa・Sであることがより好ましい。また、セルロースナノファイバー材料を固形分濃度4質量%で水に分散させたペーストは、回転速度100rpmで測定した粘度η100が100~1000mPa・Sであることが好ましく、200~800mPa・Sであることがより好ましい。回転数20rpmにおける粘度η20と、回転数100rpmにおける粘度η100の比η20/η100は、1~10であることが好ましく、2~8であることがより好ましい。各粘度は、20℃で、B型回転式粘度計で測定することができ、例えばJISK5101-6-2に従って、測定することができる。
【0036】
本発明に係るセルロースナノファイバー材料の製造方法は、さらに、解繊処理後の水及びブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料を含むペーストを、アルコールで溶媒置換する工程を含むことが好ましい。溶媒置換工程は、セルロースナノファイバー材料と水とを含むペーストから少なくとも一部の水を除去し、アルコールに置換する工程を意味し、例えば、以下の方法で行うことができる。まず、解繊工程で得られたペーストを遠沈管に入れ、必要に応じて水を添加して、遠心分離を行い、上清を除去する。続いて、残った沈殿物にアルコールを添加し、遠心分離を行い、上清を除去する。アルコールの添加・遠心分離・上清除去の工程は、必要に応じて複数回繰り返すことが好ましい。この工程を行うことで、セルロースナノファイバーの凝集が抑制され、セルロースナノファイバーがモノマーを含むマトリックスにより高度に分散するようになる。
【0037】
溶媒置換工程に用いるアルコールは、セルロースナノファイバーの凝集抑制に寄与するものであれば特に制限がないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ペンタノールが挙げられ、好ましくはブタノールであり、更に好ましくはtert-ブタノールである。
【0038】
本発明に係るセルロースナノファイバー材料の製造方法は、上記のアルコールによる溶媒置換工程以外には化学処理工程を含まないことが好ましい。化学処理工程は、薬剤や酵素等を用いた処理工程を意味し、具体的には、TEMPO触媒酸化やリン酸エステル化等が挙げられる。従来のパルプ由来のセルロースナノファイバーは、化学処理なしで、充分に解繊させることが難しかった。しかし、本発明に係るセルロースナノファイバー材料の製造方法によれば、例えば上記のTEMPO触媒酸化やリン酸エステル化等の化学処理工程なしでも、比較的軽度の物理的な解繊処理のみで充分にセルロースナノファイバーを解繊させることができる。また、本発明に係るセルロースナノファイバー材料の製造方法は、化学処理工程を要さないため、得られたセルロースナノファイバー材料には、有機成分が多く残存し、それによって、セルロースナノファイバーの樹脂マトリックスに対する分散性がより向上すると考えられる。本発明に係る製造方法によれば、従来の複雑な工程を行わずに、従来よりも均一な硬化性樹脂組成物及び機械的強度に優れた硬化体を得ることができ、低コストかつ手間が少ない製法で新たな機能材料を得ることができるという利点がもたらされる。
【0039】
本発明に係るセルロースナノファイバー材料は、上記解繊工程の後、又は、上記解繊工程及び溶媒置換工程を経た後、凍結乾燥することが好ましい。凍結乾燥の方法は特に制限されないが、例えば、冷凍トラップ装置で、-20℃で排気された蒸気をトラップしながらポリカデシケータで真空乾燥を行うことができる。
【0040】
3. 硬化性樹脂組成物
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、上記のセルロースナノファイバー材料と、モノマーと、架橋剤とを含む。セルロースナノファイバー材料については上記したとおりである。以下、本発明に係る架橋剤、モノマー、その他の成分について説明する。
【0041】
3-1.架橋剤
本発明に係る硬化性樹脂組成物は架橋剤を含む。架橋剤は、本発明に係るモノマーを硬化させることができれば特に制限はないが、ポリアルキレンイミンを含むことが好ましい。架橋剤、特にポリアルキレンイミンは、セルロースナノファイバー材料が樹脂マトリックスに分散する際に分散剤として機能すると考えられる。
【0042】
ポリアルキレンイミンは、モノマーに対して開環付加反応を進行させるとともに架橋反応を進行させる反応性を有するものであるため架橋剤として用いることができる。ポリアルキレンイミンは、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ジメチルエチレンイミン、ペンチレンイミン、ヘキシレンイミン、ヘプチレンイミン、オクチレンイミンといった炭素数2~8のアルキレンイミン、特に炭素数2~4のアルキレンイミンの1種又は2種以上を常法により重合して得られるポリマー、並びにそれらを種々の化合物と反応させて化学的に変性させたポリマー等を用いることが可能である。また、これらを併用して用いてもよい。また、ポリアルキレンイミンの構造としては特に限定されず、直鎖状のポリアルキレンイミン、分岐構造を有するポリアルキレンイミンの何れも用いることができる。
【0043】
ポリアルキレンイミンは、様々な分子量をとりうるが、その重量平均分子量は300~100,000の範囲内である。特に重量平均分子量が300~70,000、中でも500~30,000、とりわけ600~10,000の範囲であるとより好ましい。
【0044】
ポリアルキレンイミンの分岐構造については、分岐の程度として分子骨格中に存在する第一級アミノ基、第二級アミノ基及び第三級アミノ基の存在比で表すことができる。分岐構造は、特に限定されるものではないが、例えば、第一級アミノ基、第二級アミノ基及び第三級アミノ基が全体のアミノ基に対してそれぞれ25~45モル%、35~50モル%、20~35モル%を占めているものが好ましい。特に第一級アミノ基、第二級アミノ基及び第三級アミノ基が全体のアミノ基に対してそれぞれ30~40モル%、30~40モル%、25~35モル%を占めているものがより好ましい。
【0045】
ポリアルキレンイミンの中でも、特に、ポリエチレンイミンを用いることが好ましい。さらにポリエチレンイミンは、分岐構造を有するものを用いることが好ましい。分岐構造を有するポリエチレンイミン(以下、BPEIとする。)は、例えば、下記式(1)で表されるような第一級、第二級、及び第三級アミンを含むBPEIが好ましい。このようなBPEIは、例えば、エチレンイミンを酸触媒の存在下、開環重合させることにより合成することができる。もちろん、市販のBPEI、例えば、日本触媒社から市販されているエポミン(登録商標)(型番:SP-003、SP-006、SP-012、SP-018、SP-200及びP-1000)、和光純薬工業社から市販されているBPEI(販売元コード161-17831(平均分子量約600)、販売元コード167-17811(平均分子量約1,800)、及び販売元コード164-17821(平均分子量約10,000))、などを用いてもよい。
【0046】
【化1】
【0047】
3-2.モノマー
モノマーは、架橋剤で硬化させることができるモノマーはであれば特に制限はないが、例えば、ポリアルキレンイミンで硬化し得るモノマーであることが好ましい。モノマーは、エポキシ化合物、環状カーボネート化合物、環状エステル化合物、アクリレート化合物、ビニル化合物、酸ハロゲン化物であるモノマー、ハロゲン化スルホニル基を有するモノマー、カルボキシ基を有するモノマー、アルデヒド基を有するモノマー、ケトン基を有するモノマーから成る群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、エポキシ化合物を含むことがより好ましい。モノマーがエポキシ化合物を含む場合、エポキシ化合物は、リモネンオキシドを多官能化して得られるエポキシ化合物であることが好ましい。
【0048】
上記したように、モノマーはエポキシ基を有することが好ましい。モノマーの官能基数は、2~6官能であることが好ましく、2~4官能であることがより好ましく、3~4官能であることがより好ましい。硬化性樹脂組成物を硬化させた際の収率を高くすることができ、得られる硬化体の耐熱性を向上させることができるという観点から、モノマーは4官能であることが好ましく、4官能エポキシ化合物であることがより好ましい。また、別の側面として、モノマーの官能基数が2官能以下である場合に比べ、3~4官能である場合にはより高い引張強度を有するため好ましく、4官能である場合に特に高い引張強度を有するためより好ましい。
【0049】
モノマーは、植物由来の化合物を含むことが好ましい。モノマーが植物由来の化合物を含む場合、本発明に係る硬化性樹脂組成物は、ブドウの果皮由来のセルロースナノファイバー材料と、植物由来の化合物を含むモノマーとを含む、すなわち、その原料の多くを植物成分由来の再生可能資源とした機能性材料となる。
【0050】
エポキシ化合物は、下記式(2)で表されるリモネンオキシド(植物成分であるリモネンの酸化誘導体)を多官能化することにより得ることができ、架橋性を有することが好ましい。
【0051】
【化2】
【0052】
リモネンオキシドは、柑橘類の植物成分リモネンの酸化誘導体として得ることができる。また、例えば和光純薬工業製(R)-リモネンオキシド等の市販のものを用いてもよい。
【0053】
リモネンオキシドは、一例として、シス体及びトランス体の異性体混合物が挙げられる。リモネンオキシドの反応性については、トランス体の構造のものがアミン等の求核試薬と反応しやすいと考えられており、用いるリモネンオキシドの構造によっては、以下で述べるエポキシ化合物を含む硬化性樹脂組成物の物性に関係があると考えられる。硬化性樹脂組成物に含まれるリモネンオキシドのシス体及びトランス体の含有量は特に限定されないが、全リモネンオキシド中にトランス体のリモネンオキシドを40モル%以上含有することが好ましく、70モル%以上含有することがより好ましい。特にリモネンオキシドのトランス体は、アミン等の求核試薬と反応しやすいため、ポリアルキレンイミンとの架橋反応を形成しやすく架橋物としてより高い耐熱性を有するものが得られると考えられるためである。すなわち、硬化性樹脂組成物から得られる硬化体において、より高い耐熱性を有する硬化体を得るためにはトランス体のリモネンオキシドを45モル%以上含んでいることがより好ましい。また、リモネンオキシドのトランス体が45モル%以上においては、45モル%、50モル%、55モル%、60モル%、65モル%、70モル%、75モル%、80モル%、85モル%、90モル%、95モル%、100モル%から選択される任意の2つの数値の範囲で表されるモル%のトランス体のリモネンオキシドを含んでいてもよい。
【0054】
多官能エポキシ化合物は、上記リモネンオキシドを原料として、多官能化することにより得ることができる。リモネンオキシドを多官能化できる化合物であれば特に限定されないが、例えば、ラジカル発生剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の存在下、リモネンオキシドと多官能チオールとをエン-チオール反応させることにより簡易に多官能エポキシ化合物を得ることができるため好ましい。
【0055】
多官能チオールは、特に限定されず、分子内に2つ以上のチオール基を有する化合物であればよい。多官能チオールとしては、例えば、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、2,5-ヘキサンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、2,9-デカンジチオール、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ジチオエリスリトール、1,2-ベンゼンジチオール、1,2-ベンゼンジメタンジチオール、3,4-ジメルカプトトルエン、4-クロロ-1,3-ベンゼンジチオール、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリスメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、エチレングリコールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、その他エステル結合を有する化合物として、フタル酸ビス(2-メルカプトプロピルエステル)、フタル酸ビス(2-メルカプトブチルエステル)、エチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、ジエチレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、プロピレングリコールビス(3-メルカプトブチレート)、1,3-ブタンジオールビス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、プロピレングリコールビス(2-メルカプトイソブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトイソブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトイソブチレート)などが挙げられる。上記の多官能チオールは、単独で使用しても、複数種を併用してもよい。
【0056】
また、多官能チオールの数平均分子量は、100~10000が好ましく、100~5000がより好ましく、100~2000がより好ましく、100~1000がより好ましく、100~500がより好ましい。
【0057】
例えば、下記式(3)~(5)で表される2官能~4官能のチオールを用いることが好ましい。
【0058】
【化3】
【0059】
【化4】
【0060】
【化5】
【0061】
多官能エポキシ化合物をリモネンオキシドと多官能チオールにより合成する場合は、多官能チオールとして上記式(3)~(5)の化合物を用いることで、それぞれ下記式(6)~(8)で表される2官能~4官能の多官能エポキシ化合物が得られる。多官能エポキシ化合物は、その合成時に多段階の反応を経由する必要がなく、例えば、特許文献1に記載されたようなエポキシ化合物の合成と比べて簡便である。また、多官能エポキシ化合物は、反応性の高い官能基(例えば、アクリレート基やメタアクリレート基)を有していないため貯蔵時の安定性も高いため好ましい。
【0062】
【化6】
【0063】
【化7】
【0064】
【化8】
【0065】
不必要な副反応を有さないという観点からは、多官能エポキシ化合物は、式(3)で表される多官能チオールを用いて得られる、式(6)で表される多官能エポキシ化合物を含むことができる。また、副反応が生じないことと、耐熱性や機械的強度といった特性を両立する観点からは、トランス体を例えば70モル%以上含むリモネンオキシドに由来する、式(6)で表される多官能エポキシ化合物を用いることができる。
【0066】
多官能エポキシ化合物の合成に際し、リモネンオキシドに対する多官能チオールの含有量は特に限定されないが、組成物中のチオール基数をリモネンオキシドにおける炭素-炭素二重結合基数に対して0.05当量~2.0当量とするのが好ましく、0.2当量~1.5当量とするのがより好ましい。
【0067】
多官能エポキシ化合物の合成に際し、リモネンオキシド及び多官能チオールに加えてラジカル発生剤を含んでいてもよい。ラジカル発生剤は、熱、光などによりラジカルを発生させるものを言う。ラジカル発生剤としては、アゾ化合物や有機過酸化物などが挙げられ、これらを併用して用いてもよい。ラジカル発生剤の含有量は特に限定されないが、リモネンオキシド及び多官能チオールを含む組成物100質量部に対して0.1~10質量部の範囲とするのが好ましい。
【0068】
アゾ化合物の具体例としては、2,2'-アゾビスプロパン、2,2'-ジクロロ-2,2'-アゾビスプロパン、1,1'-アゾ(メチルエチル)ジアセテート、2,2'-アゾビスイソブタン、2,2'-アゾビスイソブチルアミド、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2'-アゾビス-2-メチルプロピオン酸メチル、2,2'-ジクロロ-2,2'-アゾビスブタン、2,2'-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2'-アゾビスイソ酪酸ジメチル、3,5-ジヒドロキシメチルフェニルアゾ-2-メチルマロノジニトリル、2,2'-アゾビス-2-メチルバレロニトリル、4,4'-アゾビス-4-シアノ吉草酸ジメチル、2,2'-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル等を挙げることができる。
【0069】
有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジtert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド及びジクミルパーオキサイド等が挙げられる。
【0070】
3-3.硬化性樹脂組成物
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、セルロースナノファイバー材料と、モノマーと、架橋剤とを含み、ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料と、エポキシ化合物と、ポリアルキレンイミンを含むことが好ましく、ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料と、リモネンオキシドを多官能化したエポキシ化合物と、ポリアルキレンイミンを含むことがより好ましい。上記三成分の組み合わせによって、より高度に均一に分散した硬化性樹脂組成物となると考えられ、また、植物由来の再生資源を多く活用した機能性材料を得ることができる。更に、本発明に係る硬化性樹脂組成物は、セルロースナノファイバー材料と、上記のリモネンオキシドを多官能化したエポキシ化合物と、架橋剤としてBPEI含むことが好ましい。リモネンオキシドにおいて開環付加反応するエポキシ部位は、その立体障害に由来して反応がしづらいことが分かっているが、BPEIとの組み合わせにおいては良好に開環付加反応が進行するためである。また、この組み合わせの場合、硬化性樹脂組成物は加熱をしない状態であれば架橋反応を進行させることを抑えることができ、硬化性樹脂組成物の状態で安定的に貯蔵しておくことが可能である。
【0071】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料の配合量、モノマーの種類及び配合量、並びに架橋剤の種類及び配合量を組み合せることによって、硬化性樹脂性組成物から得られる硬化体の強度、硬度若しくは耐熱性等の性質、又は硬化体の収率等を調整することが可能である。
【0072】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、モノマーと架橋剤の合計を100質量部としたとき、架橋剤を10質量部以上、45質量部以下含むことが好ましく、モノマーを55質量部以上、90質量部以下含むことが好ましい。
【0073】
モノマーが2官能の場合は、本発明に係る硬化性樹脂組成物は、モノマーと架橋剤の合計を100質量部としたとき、架橋剤を15~45質量部含むことが好ましく、20~45質量部含むことがより好ましく、25~45質量部含むことがより好ましく、28~43質量部含むことがより好ましい。
【0074】
モノマーが3官能の場合は、本発明に係る硬化性樹脂組成物は、モノマーと架橋剤の合計を100質量部としたとき、架橋剤を10~40質量部含むことがより好ましく、15~40質量部含むことがより好ましく、20~40質量部含むことがより好ましく、21~35質量部含むことがより好ましい。
【0075】
モノマーが4官能の場合は、本発明に係る硬化性樹脂組成物は、モノマーと架橋剤の合計を100質量部としたとき、架橋剤を10~40質量部含むことが好ましく、15~40質量部含むことがより好ましく、20~40質量部含むことがより好ましく、22~36質量部含むことがより好ましい。
【0076】
上記の様に、モノマー及び架橋剤の混合割合、モノマーの官能基数を調整することや、又は架橋剤の種類を変更することで硬化体の性質を作り分けることができる。また、モノマーの官能基数を調整することで、接着力を調整することができ、高い接着強度が求められる実用の場面においても使用可能である。
【0077】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂組成物を100質量部としたとき、セルロースナノファイバー材料を0.1質量部以上、10質量部以下含むことが好ましく、0.3質量部以上、8質量部以下含むことがより好ましく、0.5質量部以上、5質量部以下含むことが特により好ましい。セルロースナノファイバー材料を上記数値範囲とすることによって、本発明に係る硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化体は、優れた機械的特性、具体的には高い引張強度及び変形のしにくさの度合いを有する。
【0078】
4. 硬化性樹脂組成物の製造方法
硬化性樹脂組成物の製造方法については、特に限定されず、少なくともセルロースナノファイバー材料と、モノマーと、架橋剤とを常法により均一に混合することによって簡易に得ることができる。混合に際しては、溶剤等を用いた希釈は特に必須とはされないが、硬化性樹脂組成物は、例えば、得られる硬化性樹脂組成物の粘度調整のために、一般的な溶剤を硬化性樹脂組成物の製造過程で用いることが可能であり、含むことができる。
【0079】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、少なくともセルロースナノファイバー材料、モノマー及び架橋剤を含み、必要に応じて他に重合禁止剤、光重合開始剤、熱重合開始剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、密着剤、離型剤、顔料、染料等を添加することが可能である。
【0080】
5.硬化体
本発明に係る硬化体は、上記の硬化性樹脂組成物からなる。上記の硬化性樹脂組成物に含まれるモノマーと架橋剤との硬化反応を進行させることにより硬化体を得ることができる。上記硬化反応を進行させる方法は、特に限定されるものではないが、簡易的には、硬化性樹脂組成物を空気中にて加熱をすることで硬化反応を進行させることができ、容易に硬化体を得ることができる。硬化体は、その性質から工業的には、成形体、接着剤、封止材、塗料、コーティング剤等に適用することが可能である。
【0081】
本発明に係る硬化体は、短冊状試験片(130mm×30mm×1mm)としたときの引張強度、すなわち、引張試験における最大応力が、10MPa以上であることが好ましく、15MPa以上であることがより好ましく、20MPa以上であることが更により好ましい。また、本発明に係る硬化体は、短冊状試験片(130mm×30mm×1mm)を用いて引張試験を行った際の、応力(MPa)-のび(mm)曲線の初期段階における傾き(応力/のび)が、15MPa/mm以上であることが好ましく、17MPa/mm以上であることがより好ましく、20MPa/mm以上であることが更により好ましい。なお、硬化体は、本願発明にかかる硬化性樹脂組成物を、例えば、100℃、24時間、空気中で加熱することで得ることができる。
【0082】
本発明の硬化体からなる成形体を形成する方法としては、例えば、硬化性樹脂組成物を所望の形状を有する金型に注入又は塗工した後に該硬化性樹脂組成物を加熱により硬化させ、金型等から離型することで得る方法が挙げられる。例えば、接着剤として用いる場合では、接着対象物となる基材としては、特に限定されず、一般的にはプラスチック、ガラス、金属、木材、紙等の様々な材質のものを用いることができる。硬化体を作製するに際しては、目的の用途に応じて種々の方法を採用することができる。例えば、コーティング等の表面保護を目的とした硬化体を形成させる場合は、基材上に硬化性樹脂組成物を所望の厚さで塗工し、有機溶剤を含有する場合には溶剤を揮発させ、次いで加熱により組成物を硬化させて硬化膜を形成する方法が用いられる。接着させる方法としては、特に限定はされず、硬化性樹脂組成物を有する接着剤を接着対象として、例えば、上記基材から選択した任意の基材に塗布し、別の基材と接触させ硬化させることにより接着する方法を採用することができる。
【実施例
【0083】
1. セルロースナノファイバー材料の製造
(実験例1)
1-1.ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料の製造
ワイン醸造工程で発生した赤ワイン用ブドウ(カベルネ・ソービニヨン)の搾りかす5質量部対し、水95質量部加えた原料を、ディスクミル(増幸産業製マスコロイダー、MKCA6)で1800rpm、で18パス解繊処理し、ブドウの果皮のセルロースナノファイバーを含むペーストを得た。これを凍結乾燥することによって、セルロースナノファイバー材料1を得た(図1参照)。
【0084】
(実験例2)
1-2.溶媒を水からtert-ブタノールに置換したブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料の製造
1-1で得られたブドウの果皮のセルロースナノファイバーを含むペーストを、固形分0.3gになるように遠沈管50mlに入れ、30mlまで水を入れ、遠心力12000×gで10分間遠心分離を行った。つづいて、上清を捨て、tert-ブタノールを添加し、塊が無いように薬さじでよく混ぜた。更に、これに30mlまでtert-ブタノールを入れ、遠心力12000×gで10分間遠心分離を行った。上清を捨て、tert-ブタノールを入れて遠心分離をする置換操作を繰り返した。20℃で液が凍ったら、解凍して置換操作を行った。置換後、冷蔵庫で凍らせ、-20℃で蒸気をトラップしながらポリカデシケータで真空乾燥を行うことで、綿状のセルロースナノファイバー材料2を得た(図1参照)。
【0085】
比較例
1-3.ブドウの果梗のセルロースナノファイバー材料の製造
白ワイン用ブドウ(甲州種)の果梗10質量部に、水90質量部加えた原料を、ディスクミル(増幸産業製マスコロイダー、MKCA6)で1800rpm、で18パス解繊処理し、ブドウの果梗のセルロースナノファイバーを含むペーストを得た。これを凍結乾燥することによって、セルロースナノファイバー材料3を得た(図2参照)。
【0086】
2.セルロースナノファイバー材料の評価
日本木材学会編、木質科学実験マニュアルに記載の方法に従って、得られたセルロースナノファイバー材料を以下の方法で成分分析した。結果を表1に示す。
【0087】
<灰分>
セルロースナノファイバー材料をるつぼに入れて秤量後、蓋を少し開けたままるつぼをマッフル炉に入れて600℃で加熱し、蓋をしめてデシケーター内で放冷後秤量した。加熱前後の質量を比較することによって、灰分を求めた。
【0088】
<有機溶媒可溶分>
セルロースナノファイバー材料2gを円筒ろ紙に取り、ソックスレー抽出器に入れ、エタノールとトルエン(体積比1:2)の混合溶剤150mlを加えて6時間沸騰還流して、有機溶媒可溶成分を抽出した。抽出終了後、フラスコに溶液を移して溶媒を除去した後、フラスコを105±3℃の乾燥機中で2時間乾燥した。デシケーター内で放冷後秤量し、増加した重量を有機溶媒可溶分とした。
【0089】
<ホロセルロース>
木材中のセルロースとヘミセルロースを含むホロセルロースの量を、亜塩素酸ナトリウム法で測定した。上述の有機溶媒可溶分の分析で得た、脱脂後セルロースナノファイバー材料を、300mlフラスコに取り、蒸留水150ml、亜塩素酸ナトリウム1.0g及び酢酸0.2mlを加え、小型三角フラスコでゆるく蓋をして、70~80℃の湯浴上でときどき軽く内容物を振りながら、1時間加熱した。続いて、冷やさずに亜塩素酸ナトリウム1.0g及び酢酸0.2mlを加えて、繰り返し内容物が白くなるまで処理した。白色内容物をガラスろ過器を用いて吸引濾過し、冷水及びアセトンで洗浄後、105±3℃の乾燥機中で乾燥し、デシケーター内で放冷後秤量し、増加した重量をホロセルロース量とした。
【0090】
<セルロース>
上述の有機溶媒可溶分の分析で得た脱脂後セルロースナノファイバー材料を、100mlビーカーに入れ、17.5%水酸化ナトリウム水溶液5mlを加えて室温で5分間放置した。内容物を、ガラスろ過器を用いて吸引濾過し、蒸留水、10%酢酸、ついで蒸留水で順次洗浄した。洗浄後、105±3℃の乾燥機中で乾燥し、デシケーター内で放冷後秤量し、増加した重量をセルロース量とした。
【0091】
<ヘミセルロース>
ホロセルロース量から、セルロース量を引いたものをヘミセルロース量とした。
【0092】
<リグニン>
セルロースナノファイバー材料に含まれるリグニンの量を、硫酸法を用いて分析した。上述の有機溶媒可溶分の分析で得た、脱脂後セルロースナノファイバー材料1gを、50mlビーカーにとり、72%硫酸15mlを加え、ガラス棒で充分に撹拌し室温で4時間静置後、内容物を560mlの蒸留水で1lの三角フラスコに移した。リービッヒ冷却管をつけて、ホットプレートで4時間加熱還流して、炭水化物を加水分解した。放冷後、フラスコ内の黒色沈殿物を、ガラス濾過器を用いて吸引濾過した。ろ取した沈殿物を熱水、ついで冷水で洗浄後、105±3℃の乾燥機中で乾燥し、デシケーター内で放冷後秤量し、増加した重量をリグニンの量とした。
【0093】
<ペクチン>
セルロースナノファイバー材料20mgを、1mlマイクロチューブに取り、ペクチン分解酵素20mgを加えて加水分解を行った。十分に加水分解を行った後に、高速液体クロマトグラフ示差屈折率検出器(日本分光、RI-2031 plus)によりペクチン量を測定した。
【0094】
【表1】
【0095】
3.硬化性樹脂組成物の製造
(実験例4~15)
以下の化学式(8)で示されるエポキシ化合物に、架橋剤(ポリエチレンイミン(平均分子量600))を加えた。さらに、凍結乾燥して得た粉末状のブドウ搾りかす由来セルロースナノファイバー材料1~3を、硬化性樹脂組成物全体を100質量%としたとき、0~3質量%になるように(架橋剤とモノマーの合計量を100質量部とした時、1~3.1質量部となるよう)加えて混ぜ合わせ、実験例4~15の硬化性樹脂組成物を調整した。得られた硬化性樹脂組成物を100℃、24時間、空気中で加熱することで、短冊状試験片(130mm×30mm×1mm)を得た。
【0096】
【化9】
【0097】
3.樹脂組成物の評価方法
3-1.硬化体の外観の評価
短冊状硬化体試験片の外観を目視及び光学顕微鏡(オリンパス社製GX51)で観察した。結果を図4、7に示す。
【0098】
3-2.硬化体の引張強度及び変形しにくさの度合いの評価
短冊状試験片の引張強度及び変形しにくさの度合いを、万能試験機(ORIENTEC社製 RTC-1300)で評価した。引張強度は引張試験における最大応力(MPa)とし、変形しにくさの度合いは同試験における応力(MPa)-のび(mm)曲線の初期段階における傾き(応力/のび)で評価した(図3参照)。結果を図5、6、8~11に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料1を添加した実験例は、セルロースナノファイバー材料が樹脂マトリックス中に比較的良好に分散してした。セルロースナノファイバー材料1を1~3質量%添加した場合、樹脂の引張強度及び変形のしにくさの度合いは、無添加の場合のそれぞれ最大で約2.2倍、約2倍だった。
【0101】
ブドウの果皮のセルロースナノファイバー材料2に溶媒置換処理を行ったセルロースナノファイバー材料2を添加した実験例では、いずれの添加濃度においても樹脂中への分散性がさらに向上していることがわかる。得られた強化樹脂の引張強度及び変形しにくさの度合いは、それぞれ最大で無添加樹脂の約3.3倍、約3倍まで向上した。
【0102】
ブドウの果梗のセルロースナノファイバー材料3を添加した実験例では、変形のしにくさの度合いは、無添加のものに比べて1.9~2.0倍程度向上した。引張強度は無添加のものと大きな変化はなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11