(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】触媒電極、その製造方法およびそれを用いたギ酸酸化方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/72 20060101AFI20231211BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20231211BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20231211BHJP
C01B 3/22 20060101ALI20231211BHJP
C01G 3/02 20060101ALI20231211BHJP
C02F 1/461 20230101ALI20231211BHJP
C02F 1/72 20230101ALI20231211BHJP
C02F 1/30 20230101ALI20231211BHJP
【FI】
B01J23/72 M
B01J35/02 J
B01J37/16
C01B3/22 Z
C01G3/02
C02F1/461 101Z
C02F1/72 101
C02F1/30
(21)【出願番号】P 2020100190
(22)【出願日】2020-06-09
【審査請求日】2023-04-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年2月14日の2019年度弘前大学大学院理工学研究科物質創成化学コース修士論文発表会にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100210778
【氏名又は名称】角田 世治
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敏之
(72)【発明者】
【氏名】渡部 竜平
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/063393(WO,A1)
【文献】特開2011-147849(JP,A)
【文献】特開2010-207769(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104959141(CN,A)
【文献】特開平11-322301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 3/00 - 3/58
C01G 3/02
C02F 1/461
C02F 1/72
C02F 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基材の上に、n型有機半導体層及びp型有機半導体層がこの順に積層された触媒電極であって、前記p型有機半導体層に亜酸化銅及び金属銅を含む助触媒が担持されていることを特徴とする触媒電極。
【請求項2】
電極基材の上に、n型有機半導体層及びp型有機半導体層をこの順で積層し、前記p型有機半導体層上に亜酸化銅を担持した後、担持された亜酸化銅の一部を金属銅に還元することを特徴とする触媒電極の製造方法。
【請求項3】
電極基材の上に、n型有機半導体層及びp型有機半導体層がこの順に積層された触媒電極であって、前記p型有機半導体層に亜酸化銅を含む助触媒が担持されていることを特徴とする触媒電極。
【請求項4】
電極基材の上に、n型有機半導体層及びp型有機半導体層をこの順で積層した後、前記p型有機半導体層上に亜酸化銅を担持することを特徴とする触媒電極の製造方法。
【請求項5】
陽極室と陰極室とが塩橋で隔てられてなる二室型電解槽であって、陽極室は、作用極がギ酸溶液に浸漬されてなり、陰極室は、対極が電解質水溶液に浸漬されてなり、作用極と対極は導線により電源装置に接続されている二室型電解槽において、作用極に請求項1または3のいずれかに記載の触媒電極を用いてギ酸溶液中のギ酸を酸化することを特徴とするギ酸酸化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒電極、その製造方法およびそれを用いたギ酸酸化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光を吸収して触媒作用を示す物質である。この性質を利用して、光触媒は空気浄化、水浄化といった有害有機物質の分解技術、太陽光を利用した水素エネルギー生産技術などに利用されている。例えば、特許文献1の技術は、触媒電極に光触媒を用い、様々な有害有機物質を光触媒作用により酸化するものである。
【0003】
しかし、従来の光触媒を用いた触媒電極は、暗所下では作用しないものであった。そのため、夜間など光が届かない環境では用いることができなかった。この課題を解決するため、近年、光照射下及び暗所下のいずれにおいても同一の酸化反応を起こすことができる触媒電極が提供されている(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. Mater. Chem. A, 2017, vol. 5, p.7445-7450
【文献】Int. J. Electrochem. Sci., 2019, vol.14, p.3315-3325
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1及び2に記載の触媒電極は、電極基板上に、n型有機半導体層とp型有機半導体層を積層した構造のものである。この触媒電極は、光吸収で生じた正孔により有機物を酸化する光触媒作用と、電極表面に吸着した有機物を光を使わずに酸化する触媒作用を併せ持つので、光照射下及び暗所下のいずれにおいても作用するものである。
しかし、非特許文献1及び2の触媒電極が酸化分解できる化合物はチオール基を有する有機物に限られていた。そのため、ギ酸をはじめとする有害性がある有機酸を触媒作用によって酸化分解することができず、実用上問題があった。
そこで、本発明は、ギ酸の酸化に対して光触媒作用および触媒作用を示し、光照射下および暗所下のいずれにおいてもギ酸を酸化できる触媒電極と、その製造方法およびその触媒電極を用いたギ酸酸化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、電極基材上にn型有機半導体とp型有機半導体とが積層された触媒電極において、p型有機半導体の表面に助触媒として亜酸化銅を担持した場合、光照射下及び暗所下のいずれにおいてもギ酸を酸化できることを見いだした。かかる知見に基づいて更に研究を進め、本発明の完成に至った。即ち上記の課題は、以下に示す構成からなる発明により解決される。
【0008】
(1) 電極基材の上に、n型有機半導体層及びp型有機半導体層がこの順に積層された触媒電極であって、前記p型有機半導体層に亜酸化銅及び金属銅を含む助触媒が担持されていることを特徴とする触媒電極。
(2) 電極基材の上に、n型有機半導体層及びp型有機半導体層をこの順で積層し、前記p型有機半導体層上に亜酸化銅を担持した後、担持された亜酸化銅の一部を金属銅に還元することを特徴とする触媒電極の製造方法。
(3) 電極基材の上に、n型有機半導体層及びp型有機半導体層がこの順に積層された触媒電極であって、前記p型有機半導体層に亜酸化銅を含む助触媒が担持されていることを特徴とする触媒電極。
(4) 電極基材の上に、n型有機半導体層及びp型有機半導体層をこの順で積層した後、前記p型有機半導体層上に亜酸化銅を担持することを特徴とする触媒電極の製造方法。
(5)陽極室と陰極室とが塩橋で隔てられてなる二室型電解槽であって、陽極室は、作用極がギ酸溶液に浸漬されてなり、陰極室は、対極が電解質水溶液に浸漬されてなり、作用極と対極は導線により電源装置に接続されている二室型電解槽において、作用極に(1)または(3)のいずれかに記載の触媒電極を用いてギ酸溶液中のギ酸を酸化することを特徴とするギ酸酸化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ギ酸の酸化に対して光触媒作用および触媒作用を示し、光照射下および暗所下のいずれにおいてもギ酸を酸化できる触媒電極と、その製造方法、およびその触媒電極を用いたギ酸酸化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の触媒電極の構成を示す断面図である。
【
図3】実施例1の触媒電極の作成に用いた亜酸化銅を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【
図4】実施例1の触媒電極の作成に用いた亜酸化銅のX線回折パターンである。
【
図5】実施例2の触媒電極に担持された助触媒を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【
図6】実施例2の触媒電極のX線回折パターンである。
【
図7】試験例1の触媒電極のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
<触媒電極>
本発明の触媒電極の構成例を
図1に示す。本発明の触媒電極10は、電極基材12の上に、n型有機半導体層14及びp型有機半導体層16がこの順に積層された触媒電極10であって、p型有機半導体層16に亜酸化銅及び金属銅を含む助触媒18が担持されているものである。
【0013】
(電極基材)
電極基材12には導電性を有する材料を用いる。例えば、導電性透明ガラス基材、金属基材、炭素系基材等が挙げられる。具体的には、例えば、インジウム-スズオキシド(ITO)等で被覆された導電性透明ガラス基材、グラファイト、ダイヤモンド、ガラス状炭素等の炭素系基材等が挙げられる。電極基材12の抵抗値は、例えば、5~100Ω/cm2、好ましくは8~20Ω/cm2のものが用いられる。また、電極基材12の形状は種々の形状を採用することができるが、光照射の効率を上げるために電極表面積が大きい板状のものが好ましい。
【0014】
(n型/p型有機半導体層)
電極基材12の表面上には、n型有機半導体層14とp型有機半導体層16とがこの順に積層されている。n型有機半導体層14はn型有機半導体材料を含んで構成される。また、p型有機半導体層16はp型有機半導体材料を含んで構成される。n型有機半導体層の厚さは50~800nm程度、好ましくは100~650nm程度である。また、p型有機半導体層16の厚さは20~500nm程度、好ましくは30~350nm程度である。n型有機半導体層14とp型有機半導体層16の界面ではpn接合が形成されている。
【0015】
n型有機半導体材料は、特に限定されるものではないが、ペリレン誘導体、ナフタレン誘導体、フラーレン類、カーボンナノチューブ類およびグラフェン類などを用いることができる。ここで、ペリレン誘導体、ナフタレン誘導体、フラーレンまたはフラーレン類、グラフェンまたはグラフェン類とは、それぞれペリレン、ナフタレン、フラーレン、グラフェンの基本骨格を有する化合物を意味する。
【0016】
特に好適なn型有機半導体材料は、ヘキサペリヘキサベンゾコロネン、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボキシル-ビスベンズイミダゾール又はフラーレン類(C60等)、カーボンナノチューブ類が挙げられる。
【0017】
p型有機半導体材料についても特に限定されるものではないが、大環状の配位子化合物又はその金属錯体を用いることができる。大環状の配位子化合物とは、金属の配位子となり得る不対電子を有する原子を環上に含む有機化合物であり、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などが挙げられる。ここで、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体とは、それぞれフタロシアニン、ナフタロシアニン、ポルフィリンの基本骨格を有する化合物を意味する。また、その金属錯体とは、金属イオンが大環状の配位子化合物の配位基に結合した金属錯体である。金属イオンには、Co、Pt、Os、Mn、Ir、Fe、Rh、Cu、Zn、Ni、Pb、Pd又はRuなどのイオンを挙げることができる。
【0018】
p型有機半導体材料のその他の例としては、導電性高分子を挙げることができる。導電性高分子の具体例としては、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン共重合体等が挙げられる。
【0019】
p型有機半導体材料の好ましい例は、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体が挙げられる。特に、無金属フタロシアニン、鉄フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、銅フタロシアニン、鉛フタロシアニン、クロロアルミニウムフタロシアニン又はコバルトフタロシアニンが好ましい。
【0020】
(助触媒)
p型有機半導体層16上には、助触媒18が担持される。助触媒18は、亜酸化銅(Cu2O)と金属銅(Cu)とを含んで構成される。助触媒18の形状は、層状や粒子状など種々の形状のものを用いることができる。表面積を増す観点から、粒子状や多孔質状であることが好ましい。
また、助触媒18は、p型有機半導体層16の表面を完全に被覆している必要はなく、部分的に覆うように担持されていればよい。また、亜酸化銅と金属銅は、それぞれ別個の層又は粒子としてp型有機半導体層16上に担持されていても、混合物からなる層又は粒子として担持されていてもよい。p型有機半導体層16が亜酸化銅あるいは金属銅と互いに接した状態で担持されていることが好ましい。
助触媒18の担持量に特に制限はなく、様々に選択することができる。例えば、p型半導体層16表面上に0.4mg/cm2程度の量で担持すると十分な活性が得られて好ましい。また、助触媒18中の亜酸化銅と金属銅の質量比に制限はなく、様々な質量比のものを好ましく用いることができる。
【0021】
<ギ酸の酸化>
本発明の触媒電極は、光触媒作用および触媒作用によりギ酸を酸化(HCOOH→CO2+2H++2e-)できるものである。これにより、光照射下及び暗所下のいずれにおいてもギ酸を酸化できる。また、光照射下では、光触媒作用と触媒作用の両作用によりギ酸の酸化を誘起するので、光触媒作用のみを持つ従来の触媒電極と比較して効果的にギ酸を酸化できる。
本発明の触媒電極の使用雰囲気に特に制限はなく気相中や液相中で好ましく用いることができる。特に好ましくは、作用極と対極を設置した電解槽において、本発明の触媒電極を作用極として用いて電解槽内のギ酸溶液に浸漬し、作用極を光照射下または暗所下において、液相中のギ酸を酸化するものである。電解槽としては、一室型電解槽や二室型電解槽など種々の形態のもの選択することができる。また、電解方法に制限はなく、定電流電解または定電圧電解のいずれの方法を選択してもよい。
【0022】
図2は、本発明の触媒電極10を二室型電解槽20において用いた構成例を示す模式図である。二室型電解槽20は、陽極室22と陰極室24とが塩橋26で隔てられてなる。陽極室22は、作用極30がギ酸溶液38に浸漬されてなる。作用極30として本発明の触媒電極10を用いる。陰極室24は、対極34が電解質水溶液32に浸漬されてなる。陰極室24には、電解方法に合わせ、適宜、参照極36を電解質水溶液32に浸漬して設置する。作用極30の電極基材12、対極34及び参照極36は導線42により電源装置40に接続されている。
【0023】
ギ酸溶液38は、ギ酸の濃度に特に制限はないが、pHが0以上であることが好ましい。ギ酸溶液38の溶媒には、ギ酸が溶解する水やエタノールなどの極性溶媒、有機溶媒などを用いることができる。対極34は、対極34の還元反応に合わせて種々のものを選択することができる。例えば、対極34において水素イオンを還元して水素を生成する場合には、白金電極、金電極等の貴金属電極等を用いる。電解質水溶液32は、例えばリン酸や硫酸などの酸を含む酸性水溶液が好ましい。特に好ましくは、リン酸水溶液である。電解質水溶液32のpHは5以下が好ましく、より好ましいpHは2以下である。
電源装置40は、ポテンショスタット、関数発生器、クーロンメーターなどで構成される。電源装置40により、適宜、作用極30に電圧を印加してもよい。
作用極30に光を照射する光源(図示せず)は特に制限はないが、本発明の触媒電極は波長が近赤外線以下の光を吸収して光触媒作用を示すので、波長約1200nm以下の光を含む光源を用いることが好ましい。光源としては、例えば、太陽光、ハロゲンランプ、キセノンランプ、水銀ランプ、蛍光灯、LEDなどを好適に用いることができる。
このような構成において、光照射の有無にかかわらず、本発明の触媒電極10(30)はギ酸溶液38中のギ酸を酸化することができる。
【0024】
本発明の触媒電極が、ギ酸の酸化に対して光触媒作用および触媒作用を示すメカニズムは、後述の実施例を踏まえると次のように推定される。
(光触媒作用による酸化)本発明の触媒電極に光を照射すると、n型/p型有機物半導体層の光吸収によって励起電子と正孔が発生する。正孔は、p型有機半導体層の価電子帯上端を経由して亜酸化銅の価電子帯上端に移動し、亜酸化銅の表面でギ酸の酸化を誘起すると考えられる。
(触媒作用による酸化)暗所下では、助触媒中の金属銅が通常の触媒(熱触媒)として作用し、ギ酸の酸化を誘起すると考えられる。また、ギ酸の酸化に伴って電子が放出される。
【0025】
なお、前述のように電解槽において触媒電極を用いる場合、励起電子およびギ酸から放出された電子は導線を経由して対極に輸送される。対極では輸送された電子を消費した水素生成(2H++2e-→H2)が起こる。したがって、本発明の触媒電極を用いれば、光照射下及び暗所下のいずれにおいても、ギ酸を酸化して水素を製造することが可能である。
【0026】
<触媒電極の製造方法>
本発明の触媒電極の好適な製造方法は、電極基材の上に、n型有機半導体層及びp型有機半導体層をこの順で積層し、p型有機半導体層上に亜酸化銅を担持した後、担持された亜酸化銅の一部を金属銅に還元するものである。以下に詳細に説明する。
【0027】
まず、電極基材12の上に、n型有機半導体材料を含むn型有機半導体層14を積層する。次に、n型有機半導体層14の上に、p型有機半導体材料を含むp型有機半導体層14を積層する。
n型有機半導体材料は、前述のように、ペリレン誘導体、ナフタレン誘導体、フラーレン類、カーボンナノチューブ類およびグラフェン類などを用いることができる。また、p型有機半導体材料は、前述のように、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、金属フタロシアニンなどを用いる。n型有機半導体層14とp型有機半導体層16との間において良好なpn接合を形成する材料を用いる。
n型及びp型有機半導体層12,14のいずれも公知の方法で積層することができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、電気化学的被覆(電析)、塗布等が挙げられる。この中でも、均一に被覆するためには、真空蒸着法が好ましい。
【0028】
次に、p型有機半導体層16上に、助触媒18として亜酸化銅を担持する。亜酸化銅それ自体は公知の合成法により得られたものを用いることができる。亜酸化銅を担持する方法としては、スパッタリング法、電気化学的被覆(電析)、塗布等を用いることができる。例えば、塗布による場合は、粉末状の亜酸化銅を水やアルコールなどに分散させ、その分散液をp型有機半導体層16上に塗布して乾燥させて担持する。なお、ここで得られた亜酸化銅を助触媒として担持した触媒電極について、触媒電極の他の態様のところでも詳述する。
【0029】
次に、助触媒18としてp型有機半導体層上に担持された亜酸化銅の一部を金属銅に還元する。亜酸化銅の還元は、亜酸化銅を還元剤に接触させることで行う。還元剤としては、ヒドラジン、ヒロドキノン、ギ酸などを用いることができる。具体的には、例えば、ギ酸水溶液に、亜酸化銅を担持した触媒電極を浸漬するといった方法により行う。これにより、助触媒18は、亜酸化銅と金属銅とを含んで構成されたものとなり、本発明の触媒電極が得られる。
【0030】
<触媒電極の他の態様>
本発明の触媒電極の他の態様は、電極基材の上に、n型有機半導体層及びp型有機半導体層がこの順に積層された触媒電極であって、前記p型有機半導体層に亜酸化銅を含む助触媒が担持されている触媒電極である。すなわち、この触媒電極は、前述の触媒電極の製造方法において、亜酸化銅の一部を金属銅に還元する工程を省いて得られたものであり、助触媒に金属銅を含まないものである。
この触媒電極を、例えば
図2に示すような電解槽において、ギ酸酸化のためにギ酸溶液38に浸漬すると、ギ酸の還元作用により触媒電極に担持された亜酸化銅の一部が金属銅に還元される。このように、その場反応により、助触媒は亜酸化銅と金属銅とを含むものに変化し、ギ酸の酸化に対して光触媒作用および触媒作用を示すようになるので好ましく用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0032】
<触媒電極の作成>
(実施例1)
電極基材はインジウム-スズオキシド(ITO)で被覆された導電性透明ガラス基板(以下「ITO基板」と表記する)(旭硝子社製、抵抗 8Ω/cm2)を用いた。ITO基板を1.5cm×1cmに切り出し、0.5cm×1cmの部分に銀含有エポキシ系接着剤(藤倉化成社製、D-500)を用いて、導線を取り付けた。さらに、銀部位(硬化した接着剤の表面)は、電解質水溶液との接触を防ぐためにエポキシ系接着剤を被覆し絶縁した。
【0033】
導線を取り付けたITO基板に、真空蒸着法によりn型有機半導体層とp型有機半導体層を積層した。n型有機半導体材料には、ペリレン誘導体である3,4,9,10-ペリレンテトラカルボキシル-ビスベンズイミダゾール(以下「PTCBI」と表記する)を、p型有機半導体材料には金属フタロシアニンであるコバルトフタロシアニン(以下「CoPc」と表記する)を用いた。導線を取り付けたITO基板を真空蒸着装置(アルバック機工社製、VPC-260)に取り付け、真空度約1.0×10-3Pa、蒸着速度0.03nm/秒の条件下で、ITO基板のITO被覆側にPTCBIを厚さ約280nmで積層した。次に、積層されたPTCBIの上に、真空度が約1.0×10-3Pa、0.03nm/秒の蒸着速度で、CoPcを厚さ約60nmで積層した。ここで得られた触媒電極を「ITO/PTCBI/CoPc」と称する。
【0034】
次に、ITO/PTCBI/CoPcへ亜酸化銅(Cu
2O)を担持した。
1mol/Lの硫酸金属銅(II)水溶液10mLを1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム100mLに加え、これを1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液200mlに80℃で加えた。得られた沈殿物を濾別し、不活性ガス中で乾燥させて、粉末状の亜酸化銅を得た。得られた亜酸化銅を走査電子顕微鏡で観察した結果、粒子径は100~500nmであった(
図3)。また、粉末エックス線回折(リガク社製、SmartLab9kW)により評価したところ、X線回折パターン(
図4)から亜酸化銅に由来するピークが確認できた。金属銅や他の銅化合物に由来するピークは観察されなかった。
得られた亜酸化銅10mgを1mLのメタノールに懸濁し、10mg/mLの懸濁液を得た。この懸濁液を、ITO/PTCBI/CoPcのCoPc側の表面に40μL滴下し、室温で風乾した後、80℃で30分加熱し、亜酸化銅を担持した。得られた触媒電極を実施例1とした。
【0035】
(比較例1)
実施例1で得られたITO/PTCBI/CoPcを、亜酸化銅を担持せずにそのまま用いて比較例1の触媒電極とした。
【0036】
(比較例2)
実施例1において、PTCBI及びCoPcを積層せず、それ以外は実施例1と同様にして、ITO基板に亜酸化銅を担持したものを作成し、比較例2の触媒電極とした。
【0037】
<ギ酸酸化能力の評価>
(実験装置・実験方法)
ギ酸の酸化実験は、
図2に例示した構成の塩橋で隔てられた二室型電解槽を用いて行った。二室型電解槽は次のように構成した。
まず、塩橋は次の方法で作成した。寒天1.3gと硝酸カリウム4.74gを約10mLの蒸留水に加え、それらを温浴中で溶解させて二室セルの架橋部位に流し込み、冷却して固化させた。
次に、陽極室に作用極として実施例1、比較例1又は2の触媒電極を、陰極室には対極の白金線と参照極(銀-塩化銀電極)を設置した。電解質水溶液として、陽極室(作用極側)には2.5mol/Lギ酸水溶液(pH=5)を、陰極室(対極側)にはリン酸水溶液(pH=0)をそれぞれ入れた。対極、参照極、作用極は、ポテンショスタット(北斗電工社製、HA-301)に接続した。さらに、ポテンショスタットには、関数発生器(北斗電工社製、HB-104)及びクーロンメーター(北斗電工社製、HF-201)を接続した。実験に先立って、陽極室及び陰極室にアルゴンガスを30分間通気し、電解質水溶液中の溶存酸素を取り除いた。
触媒電極のITO基板の非被覆面側から光量100mW/cm
2で光照射し、+0.6V(vs.Ag/AgCl)の電位を印加しながら電気分解を行った。暗所下(光照射をしない条件)においても同様にして電気分解を行った。また、電気分解の際、対極で生じる水素の生成量を、ガスクロマトグラフ(ジーエルサイエンス社製、GC-3200;キャリアガス、Ar;カラム、モレキュラーシーブ5Å)によって測定した。
なお、この実験系において、光照射下の測定結果は光触媒作用と触媒作用の合計を示す。また、暗所下の測定結果は触媒作用のみを示す。
【0038】
(実施例1、比較例1~2の評価)
実施例1、比較例1~2の触媒電極を用いて、光照射下または暗所下で3時間の電気分解を行い、水素発生量を測定した。表1には3時間後の水素生成量の測定結果を示す。
【表1】
【0039】
実施例1の触媒電極を用いた場合、光照射下及び暗所下のいずれにおいてもギ酸の酸化に伴うアノード電流と水素の発生が確認できた。アノード電流の値および水素生成量は、いずれも暗所下よりも光照射下の方が大きかった。この結果から、実施例1の触媒電極は光触媒作用と触媒作用の両作用によりギ酸を酸化していることがわかった。
比較例1の触媒電極では、光照射下でわずかにギ酸の酸化に伴うアノード電流が発生した。しかし、暗所下ではアノード電流が観察されず、水素の発生も確認されなかった。この結果から、比較例1は、光触媒作用をほとんど示さず、触媒作用については全く示さないことが確認された。
比較例2の触媒電極では、光照射下及び暗所下のいずれにおいてもギ酸の酸化に伴うアノード電流と水素の発生が確認された。アノード電流の値及び水素生成量は、光照射下と暗所下でほぼ同じであった。この結果から、比較例2は、触媒作用は示すが、光触媒作用はほとんど示さないことがわかった。
また、実施例1と比較例1を比較すると、助触媒を担持することにより、ギ酸の酸化に対する触媒作用が発現し、光触媒活性も、大きく向上することがわかった。
【0040】
(実施例2)
実施例1の触媒電極を、暗所下で3時間の電気分解に供した後、純水で洗浄し、実施例2の触媒電極とした。
【0041】
(実施例2の評価)
実施例2の触媒電極の助触媒を走査電子顕微鏡により観察した結果(
図5)、p型有機半導体層の表面には粒子状の助触媒が担持されていることが確認できた。また、実施例2の電極触媒をX線回折によって評価したところ、
図6に示すように亜酸化銅と金属銅のピークが観察された。
この結果から、実施例2の助触媒は、亜酸化銅と金属銅とを含んで構成されることが確認された。また、実施例1の触媒電極をギ酸溶液に浸漬すると、亜酸化銅の一部がギ酸との接触により金属銅に還元されることがわかった。
【0042】
実施例2の触媒電極を用い、実施例1と同様の方法でギ酸の酸化能力を評価した。その結果、光照射下及び暗所下のいずれにおいてもギ酸の酸化に伴うアノード電流が発生し、対極において水素発生が確認できた。さらに、実施例1と同様に、光照射下におけるアノード電流値及び水素発生量は、いずれも暗所下より増大した。また、光照射下及び暗所下におけるアノード電流の値と水素発生量についても、実施例1と同等であった。
【0043】
以上の結果から、実施例2の触媒電極は、助触媒が亜酸化銅と金属銅とを含む構成であり、ギ酸の酸化に対して光触媒作用及び触媒作用を示すことが確認できた。また、実施例1の電極触媒は、作成時は助触媒に金属銅を含まないが、その場反応により亜酸化銅と金属銅とを含む構成の助触媒が生成する結果、ギ酸の酸化に対して光触媒作用及び触媒作用を示すようになることがわかった。
【0044】
このように、実施例1および2の触媒電極は、ギ酸の酸化に対して光触媒作用および触媒作用を示し、光照射下および暗所下のいずれにおいてもギ酸を酸化することができた。
【0045】
(試験例1)
比較例2の触媒電極を、2.5mol/Lギ酸水溶液(pH=5)に暗所下で3時間浸漬した後、純水で洗浄して乾燥して、試験例1の触媒電極を得た。
【0046】
試験例1の触媒電極をX線回折によって評価したところ、
図7に示すように亜酸化銅と金属銅のピークが観察され、ギ酸水溶液への浸漬により亜酸化銅の一部が金属銅に還元されていることが確認できた。この結果から、実施例1のように触媒電極に担持された亜酸化銅は、電気分解を行わない環境下であっても、ギ酸との接触により一部が還元され、亜酸化銅と金属銅を含む助触媒になるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の触媒電極とその製造方法によれば、有害性のあるギ酸の酸化分解除去を、光照射下及び暗所下のいずれにおいても効果的に行うことができる触媒電極が得られるので、電極触媒を用いる種々の技術分野に利用可能である。また、本発明の触媒電極を用いれば、水素キャリアとして着目されるギ酸から、効率的に水素を得ることも可能となる。したがって、本発明は、環境関連産業、エネルギー産業、その他広範な産業分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 触媒電極
12 電極基材
14 n型有機半導体層
16 p型有機半導体層
18 助触媒
20 二室型電解槽
22 陽極室
24 陰極室
26 塩橋
30 作用極
32 電解質水溶液
34 対極
38 ギ酸溶液
40 電源装置
42 導線