(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】回転ダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 9/14 20060101AFI20231211BHJP
F16F 9/34 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
F16F9/14 A
F16F9/34
(21)【出願番号】P 2020140496
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】室井 翔太
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-068273(JP,A)
【文献】特開2000-255259(JP,A)
【文献】特開平7-269624(JP,A)
【文献】特開2011-163472(JP,A)
【文献】特開平7-119781(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110141149(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/14
F16F 9/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に圧力室が形成されたハウジングと、前記圧力室に軸部が回転自在に収容される回転部材と、前記圧力室内に充填される粘性流体と、前記回転部材が一方向に回転すると前記軸部の周りに粘性流体の大流路を形成し、前記回転部材が他方向に回転すると前記大流路を閉じて前記回転部材の回転に制動トルクを与える弁機構とを備える回転ダンパにおいて、
前記弁機構は、
前記軸部の軸心に直交する方向に貫通して形成され、所定の軸心方向長さおよび所定の開口幅で開口して、内部に幅方向で対向する一対の内壁面を有する取付孔と、
前記取付孔の一方の開口側において一方の前記内壁面に連なる第1側壁面を有して前記軸部の外周に突出して形成され、前記圧力室の内壁に近接する高さを有すると共に、一部に高さが落ち込んで形成された前記粘性流体の第1流路を有する第1羽根部と、
前記取付孔の他方の開口側において他方の前記内壁面に連なる第2側壁面を有して前記軸部の外周に突出して形成され、前記圧力室の内壁に近接する高さを有すると共に、一部に高さが落ち込んで形成された前記粘性流体の第2流路を有する第2羽根部と、
前記取付孔の軸心方向に所定の隙間をもって嵌まる幅、および、前記第1羽根部の先端部から前記第2羽根部の先端部までに至って前記第1流路および前記第2流路を覆う長さを有し、前記取付孔に嵌められたときに、長さ方向の一端部側の第1側面を前記第1側壁面に押圧して前記第1流路を塞ぎ、長さ方向の他端部側の第2側面を前記第2側壁面に押圧して前記第2流路を塞ぐ弾性を発揮する弾性体と
から構成されることを特徴とする回転ダンパ。
【請求項2】
前記弾性体は、
前記第1羽根部の先端部と同等の高さに屈曲部端を有し、折り曲げ幅が前記取付孔の開口幅より大きくとられて、長さ方向の前記一端部側が長さ方向の中央部側に折り返して曲げられ、当該第1折り曲げ片の前面が前記第1流路を塞ぐ前記第1側面を形成し、折り曲げ幅の方向で前記第1折り曲げ片に対向する箇所の背面が、他方の前記内壁面と前記軸部の外周面とが前記取付孔の一方の開口で接して形成される第1稜線に当接し、
前記第2羽根部の先端部と同等の高さに屈曲部端を有し、折り曲げ幅が前記取付孔の開口幅より大きくとられて、長さ方向の前記他端部側が、前記第1折り曲げ片の形成された前記弾性体の側面と反対の側面において長さ方向の中央部側に折り返して曲げられ、当該第2折り曲げ片の前面が前記第2流路を塞ぐ前記第2側面を形成し、折り曲げ幅の方向で前記第2折り曲げ片に対向する箇所の背面が、一方の前記内壁面と前記軸部の外周面とが前記取付孔の他方の開口で接して形成される第2稜線に当接する形態に、
弾性を有する1枚の板状体が折り曲げられて構成されることを特徴とする請求項1に記載の回転ダンパ。
【請求項3】
前記弾性体は、弾性を有する1枚の板状体が、長さ方向の略中央部で、折り曲げ幅が前記取付孔の開口幅より大きくとられて、長さ方向に偶数回折り返し曲げられて構成され、長さ方向の前記一端部側に、端部が前記第1羽根部の先端部まで至って前記第1流路を塞ぐ前記第1側面を形成する第1折り曲げ片を有し、長さ方向の前記他端部側に、端部が前記第2羽根部の先端部まで至って前記第2流路を塞ぐ前記第2側面を形成する第2折り曲げ片を有することを特徴とする請求項1に記載の回転ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の方向に回転部材が回転すると回転部材の回転に制動トルクを与える弁機構を備える回転ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の回転ダンパとしては、例えば、特許文献1に開示された回転ダンパがある。
【0003】
この回転ダンパは、粘性流体を充填する圧力室を具備した円筒形状のハウジングと、このハウジングに組み込む回転軸と、回転軸に設けるチェック弁機構とを備える。回転軸の外周には一対の羽根部が形成されている。各羽根部には、回転方向に貫通する流通路と、段部とが形成されている。各羽根部の先端には、ハウジングの内周に接触するスペーサが被せられ、また、回転軸の外周には一対の弁体が取り付けられる。スペーサには、羽根部の流通路の位置に対応する流通路と、弁体を移動可能にした切り欠きとが形成されている。各弁体には、回転軸に沿った湾曲部と、この湾曲部に連続し、回転軸から直径方向に延びる弁部とが形成されている。これら湾曲部および弁部はチェック弁機構を構成する。
【0004】
回転軸が右回転すると、羽根部の流通路を介して弁体の弁部に粘性流体が作用し、チェック弁機構は、弁体を羽根部から離れる方向へ回転させる。したがって、羽根部の大きな流通路が開放され、粘性流体は大きな制動力を受けること無く、羽根部の流通路およびスペーサの切り欠きを通過する。このため、回転軸は楽に回転する。一方、回転軸が左回転すると、弁部が粘性流体によって羽根部の流通路に押し付けられて、その流通路が遮断される。したがって、粘性流体は羽根部の大きな流通路を通過できず、回転軸の外周のわずかな隙間を流れることになる。このため、回転軸の回転には大きな制動力がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された上記従来の回転ダンパは、製造時、回転軸の外周に一対の弁体を取り付けると共に、回転軸の一対の各羽根部にそれぞれスペーサを被せた状態で、回転軸をハウジングの圧力室に組み込む必要がある。このため、回転軸のハウジングへの挿入時、回転軸の外周に一対の弁体を取り付けた状態に保つと共に、各羽根部にスペーサを被せた状態に保持しておくことが難しく、上記従来の回転ダンパは、製造時の組立性が劣り、組立作業の自動化が困難であった。
【0007】
また、上記従来の回転ダンパは、ダンパ動作開始時、羽根部から離れた位置にある弁部が粘性流体によって羽根部の流通路に押し付けられるのに間が生じ、羽根部の流通路遮断動作が瞬時に行われない。このため、上記従来の回転ダンパは、回転軸の回転に制動力がかからないフリー回転から、回転軸の回転に制動がかかるダンパ回転への移行にもたつきが生じ、遅れが生じた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
内部に圧力室が形成されたハウジングと、圧力室に軸部が回転自在に収容される回転部材と、圧力室内に充填される粘性流体と、回転部材が一方向に回転すると軸部の周りに粘性流体の大流路を形成し、回転部材が他方向に回転すると大流路を閉じて回転部材の回転に制動トルクを与える弁機構とを備える回転ダンパにおいて、
弁機構が、
軸部の軸心に直交する方向に貫通して形成され、所定の軸心方向長さおよび所定の開口幅で開口して、内部に幅方向で対向する一対の内壁面を有する取付孔と、
取付孔の一方の開口側において一方の内壁面に連なる第1側壁面を有して軸部の外周に突出して形成され、圧力室の内壁に近接する高さを有すると共に、一部に高さが落ち込んで形成された粘性流体の第1流路を有する第1羽根部と、
取付孔の他方の開口側において他方の内壁面に連なる第2側壁面を有して軸部の外周に突出して形成され、圧力室の内壁に近接する高さを有すると共に、一部に高さが落ち込んで形成された粘性流体の第2流路を有する第2羽根部と、
取付孔の軸心方向に所定の隙間をもって嵌まる幅、および、第1羽根部の先端部から第2羽根部の先端部までに至って第1流路および第2流路を覆う長さを有し、取付孔に嵌められたときに、長さ方向の一端部側の第1側面を第1側壁面に押圧して第1流路を塞ぎ、長さ方向の他端部側の第2側面を第2側壁面に押圧して第2流路を塞ぐ弾性を発揮する弾性体と
から構成されることを特徴とする。
【0009】
本構成によれば、回転部材の軸部のハウジングへの組み込み時、回転部材の軸部に形成された取付孔に弾性体が嵌められた状態で、回転部材の軸部がハウジングの圧力室に組み込まれる。このとき、弾性体は、長さ方向の一端部側の第1側面を第1羽根部の第1側壁面に押圧し、長さ方向の他端部側の第2側面を第2羽根部の第2側壁面に押圧する弾性を発揮することで、回転部材の軸部に形成された取付孔の内部に保持され、取付孔から抜け落ちない状態にある。したがって、回転部材の軸部のハウジングへの組み込み時、弁機構を構成する弾性体は、回転部材の軸部に形成された取付孔に保持された状態に保たれるので、回転部材の軸部のハウジングへの組み込みが容易に行えるようになる。このため、本構成による回転ダンパでは、製造時の組立性が向上し、組立作業の自動化が容易になる。
【0010】
また、回転部材が一方向に回転すると、弾性体の第1側面の背面が第1流路に向かう方向、第2側面の背面が第2流路に向かう方向へ、粘性流体によって押されて、第1側面が第1流路、第2側面が第2流路を堅固に塞ぐ。このため、第1流路および第2流路を通る粘性流体の大きな流れが遮られて、第1羽根部および第2羽根部の回転に抗する力が粘性流体から第1羽根部および第2羽根部に作用し、回転部材の回転には大きな制動力が加わる。
【0011】
一方、回転部材が他方向に回転すると、第1羽根部の高さが一部落ち込んで形成された第1流路を粘性流体が通って、弾性体の発揮する、その長さ方向の一端部側の第1側面を第1側壁面に押圧する弾性力に抗して、粘性流体は第1側面を仰け反らせる。同時に、第2羽根部の高さが一部落ち込んで形成された第2流路を粘性流体が通って、弾性体の発揮する、その長さ方向の他端部側の第2側面を第2側壁面に押圧する弾性力に抗して、粘性流体は第2側面を仰け反らせる。第1側面および第2側面がそれぞれ仰け反ると、弾性体の第1側面の先端と圧力室の内壁との間、および、弾性体の第2側面の先端と圧力室の内壁との間にそれぞれ隙間が生じ、粘性流体は、これらの隙間を流路にして大きな流れを形成する。このため、第1羽根部および第2羽根部の回転に抗する大きな力が粘性流体から第1羽根部および第2羽根部に作用しなくなり、回転部材はスムーズに回転するようになる。
【0012】
また、回転部材の回転が停止すると、第1流路および第2流路を流れる粘性流体の流れが止まって、第1側面および第2側面をそれぞれ仰け反らせる力が粘性流体から第1側面および第2側面に作用しなくなる。したがって、弾性体は、粘性流体によって抑え込まれていた自身の弾性力を発揮して、長さ方向の一端部側の第1側面を第1側壁面に押圧し、長さ方向の他端部側の第2側面を第2側壁面に押圧する元の形状に、直ちに復帰する。よって、第1側壁面および第2側壁面にそれぞれ形成された第1流路および第2流路は弾性体の第1側面および第2側面によって直ちに塞がれ、粘性流体の流れが遮断されて、回転部材の回転に制動がかかるダンパ状態に直ちに移行する。このため、回転部材の回転に制動がかからないフリー回転から、回転部材の回転に制動がかかるダンパ回転への移行動作は、瞬時に行われるようになる。
【0013】
また、本発明は、弾性体が、
第1羽根部の先端部と同等の高さに屈曲部端を有し、折り曲げ幅が取付孔の開口幅より大きくとられて、長さ方向の一端部側が長さ方向の中央部側に折り返して曲げられ、当該第1折り曲げ片の前面が第1流路を塞ぐ第1側面を形成し、折り曲げ幅の方向で第1折り曲げ片に対向する箇所の背面が、他方の内壁面と軸部の外周面とが取付孔の一方の開口で接して形成される第1稜線に当接し、
第2羽根部の先端部と同等の高さに屈曲部端を有し、折り曲げ幅が取付孔の開口幅より大きくとられて、長さ方向の他端部側が、第1折り曲げ片の形成された弾性体の側面と反対の側面において長さ方向の中央部側に折り返して曲げられ、当該第2折り曲げ片の前面が第2流路を塞ぐ第2側面を形成し、折り曲げ幅の方向で第2折り曲げ片に対向する箇所の背面が、一方の内壁面と軸部の外周面とが取付孔の他方の開口で接して形成される第2稜線に当接する形態に、
弾性を有する1枚の板状体が折り曲げられて構成されることを特徴とする。
【0014】
本構成によれば、弾性体の長さ方向の一端部側における第1折り曲げ片の折り曲げ幅が取付孔の開口幅より大きくとられるので、当該第1折り曲げ部が取付孔に挿入されることで、当該第1折り曲げ部は元の折り曲げ幅に戻る弾性を取付孔の開口幅方向に発揮する。このため、回転部材の軸部のハウジングへの組み込み時、この弾性により、第1折り曲げ片の前面が第1側壁面に押圧されると共に、第1折り曲げ片に対向する箇所の背面が第1稜線に押圧されて、弾性体は、長さ方向の一端部側において第1側壁面と第1稜線との間に挟持される。同時に、弾性体の長さ方向の他端部側における第2折り曲げ片の折り曲げ幅も取付孔の開口幅より大きくとられるので、当該第2折り曲げ部が取付孔に挿入されることで、当該第2折り曲げ部は元の折り曲げ幅に戻る弾性を取付孔の開口幅方向に発揮する。このため、回転部材の軸部のハウジングへの組み込み時、この弾性により、第2折り曲げ片の前面が第2側壁面に押圧されると共に、第2折り曲げ片に対向する箇所の背面が第2稜線に押圧されて、弾性体は、長さ方向の他端部側において第2側壁面と第2稜線との間に挟持される。したがって、回転部材の軸部のハウジングへの組み込み時、弁機構を構成する弾性体は、長さ方向の一端部側の第1折り曲げ部および他端部側の第2折り曲げ部が回転部材の軸部に形成された取付孔内に保持された状態に保たれるので、回転部材の軸部のハウジングへの組み込みが容易に行えるようになる。
【0015】
また、回転部材が一方向に回転すると、第1折り曲げ片に対向する箇所の弾性体背面が第1流路に向かう方向、第2折り曲げ片に対向する箇所の弾性体背面が第2流路に向かう方向へ、粘性流体によって押されて、第1折り曲げ片の前面に形成される第1側面が第1流路、第2折り曲げ片の前面に形成される第2側面が第2流路を堅固に塞ぐ。
【0016】
一方、回転部材が他方向に回転すると、第1羽根部の高さが一部落ち込んで形成された第1流路を粘性流体が通って、弾性体の発揮する、第1折り曲げ片の前面に形成される第1側面を第1側壁面に押圧する弾性に抗して、粘性流体は、第1折り曲げ片およびそれに対向する弾性体背面を仰け反らせる。同時に、第2羽根部の高さが一部落ち込んで形成された第2流路を粘性流体が通って、弾性体の発揮する、第2折り曲げ片の前面に形成される第2側面を第2側壁面に押圧する弾性に抗して、粘性流体は、第2折り曲げ片およびそれに対向する弾性体背面を仰け反らせる。第1折り曲げ片およびそれに対向する弾性体背面が仰け反ると、弾性体の長さ方向の一端部側は、第1折り曲げ片の後方に形成される弾性体背面が第1稜線を支点として背面側に屈曲する。同時に、第2折り曲げ片およびそれに対向する弾性体背面が仰け反ると、弾性体の長さ方向の他端部側は、第2折り曲げ片の後方に形成される弾性体背面が第2稜線を支点として背面側に屈曲する。弾性体の長さ方向の一端部側および他端部側がこのようにそれぞれ背面側に屈曲すると、第1折り曲げ部の屈曲部端と圧力室の内壁との間、および、第2折り曲げ部の屈曲部端と圧力室の内壁との間にそれぞれ隙間が生じ、粘性流体はこれらの隙間を流路にして大きな流れを形成する。
【0017】
また、回転部材の回転が停止すると、第1流路および第2流路を流れる粘性流体の流れが止まって、弾性体の長さ方向の一端部側および他端部側をそれぞれ仰け反らせる力が粘性流体から各側に作用しなくなる。したがって、弾性体は、粘性流体によって抑え込まれていた自身の弾性力を発揮して、第1折り曲げ片の前面に形成される第1側面を第1側壁面に押圧し、第2折り曲げ片の前面に形成される第2側面を第2側壁面に押圧する元の形状に、直ちに復帰する。
【0018】
また、本発明は、弾性体が、弾性を有する1枚の板状体が、長さ方向の略中央部で、折り曲げ幅が取付孔の開口幅より大きくとられて、長さ方向に偶数回折り返し曲げられて構成され、長さ方向の一端部側に、端部が第1羽根部の先端部まで至って第1流路を塞ぐ第1側面を形成する第1折り曲げ片を有し、長さ方向の他端部側に、端部が第2羽根部の先端部まで至って第2流路を塞ぐ第2側面を形成する第2折り曲げ片を有することを特徴とする。
【0019】
本構成によれば、弾性体の長さ方向の略中央部における、折り返し曲げ部の折り曲げ幅が取付孔の開口幅より大きくとられるので、当該折り返し曲げ部が取付孔に挿入されることで、当該折り返し曲げ部は元の折り曲げ幅に戻る弾性を取付孔の開口幅方向に発揮する。このため、回転部材の軸部のハウジングへの組み込み時、その弾性により、弾性体の長さ方向の一端部側に形成される第1折り曲げ片の前面が第1側壁面および一方の内壁面に押圧されると共に、弾性体の長さ方向の他端部側に形成される第2折り曲げ片の前面が第2側壁面および他方の内壁面に押圧されて、弾性体は、第1側壁面および一方の内壁面と、第2側壁面および他方の内壁面との間に挟持される。したがって、回転部材の軸部のハウジングへの組み込み時、弁機構を構成する弾性体は、長さ方向の一端部側の第1折り曲げ片および他端部側の第2折り曲げ片が回転部材の軸部に形成された取付孔内に保持された状態に保たれるので、回転部材の軸部のハウジングへの組み込みが容易に行えるようになる。
【0020】
また、回転部材が一方向に回転すると、第1折り曲げ片の背面が第1流路に向かう方向、第2折り曲げ片の背面が第2流路に向かう方向へ、粘性流体によって押されて、第1折り曲げ片の前面に形成される第1側面が第1流路、第2折り曲げ片の前面に形成される第2側面が第2流路を堅固に塞ぐ。
【0021】
一方、回転部材が他方向に回転すると、第1羽根部の高さが一部落ち込んで形成された第1流路を粘性流体が通って、弾性体の発揮する、第1折り曲げ片の前面に形成される第1側面を第1側壁面に押圧する弾性に抗して、粘性流体は第1折り曲げ片の先端部側を仰け反らせる。同時に、第2羽根部の高さが一部落ち込んで形成された第2流路を粘性流体が通って、弾性体の発揮する、第2折り曲げ片の前面に形成される第2側面を第2側壁面に押圧する弾性に抗して、粘性流体は第2折り曲げ片の先端部側を仰け反らせる。第1折り曲げ片の先端部側および第2折り曲げ片の先端部側が仰け反ると、第1折り曲げ片の先端部と圧力室の内壁との間、および、第2折り曲げ片の先端部と圧力室の内壁との間にそれぞれ隙間が生じ、粘性流体はこれらの隙間を流路にして大きな流れを形成する。
【0022】
また、回転部材の回転が停止すると、第1流路および第2流路を流れる粘性流体の流れが止まって、弾性体の長さ方向の一端部側および他端部側をそれぞれ仰け反らせる力が粘性流体から各側に作用しなくなる。したがって、弾性体は、粘性流体によって抑え込まれていた自身の弾性力を発揮して、第1折り曲げ片の前面に形成される第1側面を第1側壁面に押圧し、第2折り曲げ片の前面に形成される第2側面を第2側壁面に押圧する元の形状に、直ちに復帰する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、組立作業の自動化が容易になると共に、回転部材の回転に制動がかからないフリー回転から、回転部材の回転に制動がかかるダンパ回転への移行動作を瞬時に行える回転ダンパを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態による回転ダンパの外観斜視図である。
【
図2】一実施形態による回転ダンパの一方の側から見た分解斜視図である。
【
図3】一実施形態による回転ダンパの他方の側から見た分解斜視図である。
【
図4】(a)は、一実施形態による回転ダンパを構成するハウジングの正面図、(b)は縦断面図である。
【
図5】(a)は、一実施形態による回転ダンパを構成するシャフトの斜視図、(b)は平面図である。
【
図6】(a)は、一実施形態による回転ダンパの横断面図、(b)は縦断面図である。
【
図7】(a)は、一実施形態による回転ダンパを構成するベーンの斜視図、(b)は側面図である。
【
図8】(a)は、
図7に示すベーンが
図5に示すシャフトに形成された取付孔に取り付けられた状態を一方向から見た斜視図、(b)は別の方向から見た斜視図である。
【
図9】(a)は、
図7に示すベーンが
図5に示すシャフトに形成された取付孔に取り付けられた部分の破断断面を一方向から見た斜視図、(b)はその断面を別の方向から見た斜視図である。
【
図10】
図7に示すベーンが仰け反った状態を示す断面図である。
【
図11】(a)は、本発明の他の実施形態による回転ダンパを構成するベーンの斜視図、(b)は側面図である。
【
図12】(a)は、
図11に示すベーンが
図5に示すシャフトに形成された取付孔に取り付けられた状態を一方向から見た斜視図、(b)は、ベーンがシャフトに形成された取付孔に取り付けられた部分の破断断面を一方向から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明による回転ダンパを実施するための形態について説明する。なお、各図において同一または相当する部分には同一符号を付して説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態による回転ダンパ1の外観斜視図、
図2は回転ダンパ1の一方の側から見た分解斜視図、
図3は他方の側から見た分解斜視図である。
【0027】
回転ダンパ1は、ハウジング2、シャフト3、ベーン4、摺動部材5、Oリング6,7、およびキャップ8を主な構成要素として備える。
【0028】
ハウジング2は、一端が開口し、他端が閉塞した円筒形状をしており、その内部空間に形成される圧力室2aには、シリコーンオイル等の図示しない粘性流体が充填される。また、ハウジング2の閉塞端側の外部には、略直方体状をした係止部2cが設けられている。圧力室2aには、
図4(a)に示すハウジング2の正面図のように、圧力室2aの内周の対向する位置に隔壁2bが一対備えられている。隔壁2bは、断面形状が略扇形形状をして、ハウジング2の軸心に向かって所定高さで突出している。
図4(b)は、
図4(a)のIVb-IVb線に沿って破断して矢視方向から見たハウジング2の縦断面図である。隔壁2bは、ハウジング2の深さ方向の内周に形成されており、ハウジング2の開放端側には、圧力室2aの内周に隔壁2bが存在しない接合内径部2eが形成されている。また、ハウジング2の内部の閉塞端側の端面には、小径の円柱状に開口する軸支部2dがシャフト3の軸部3aと同軸に形成されている。
【0029】
図5(a)はシャフト3の斜視図、
図5(b)は平面図である。シャフト3は、軸部3a、フランジ部3b、第1羽根部3c、第2羽根部3d、取付孔3e、小径部3fおよび被取付部3gを主な構成要素とする回転部材を構成する。
【0030】
小径部3fは軸部3aの端部に形成され、シャフト3は、この小径部3fがハウジング2の軸支部2dに挿入され、フランジ部3bが接合内径部2eの内周に外周が接して、
図6(b)に示す回転ダンパ1の縦断面図に示すように、ハウジング2に取り付けられる。
図6(b)は、
図6(a)の回転ダンパ1の横断面図におけるVIb-VIb線に沿って回転ダンパ1を破断して、矢視方向から見た回転ダンパ1の縦断面図である。シャフト3のこの取付により、軸部3aはハウジング2の圧力室2aに回転自在に収容される。隔壁2bの頂部2b1は、軸部3aの外周と極僅かな隙間を有する曲面形状をしており、軸部3aの外周は隔壁2bの頂部2b1に近接する。また、シャフト3のこの取付により、圧力室2aは、軸部3aの外周と一対の隔壁2bにより、
図6(a)に示すように、第1圧力室2a1と第2圧力室2a2、および、第3圧力室2a3と第4圧力室2a4とに区画される。
【0031】
フランジ部3bは、軸部3aの軸心方向において、ハウジング2の閉塞端側に圧力室2aを区画する。圧力室2aにおける軸部3aの外周には、軸部3aの直径方向に突出して、断面形状が略台形形状の第1羽根部3cおよび第2羽根部3dが形成されている。各羽根部3c,3dは、軸部3aの外周の対向する位置に、圧力室2aの内壁に近接する高さをそれぞれ有して、一対備えられている。軸部3aの軸心方向におけるフランジ部3b寄りにおける第1羽根部3cには粘性流体の第1流路3c1、第2羽根部3dには粘性流体の第2流路3d1が設けられている。各流路3c1,3d1は、各羽根部3c,3dの一部高さが落ち込んで形成されている。
【0032】
また、第1流路3c1および第2流路3d1間における軸部3aには、その軸心に直交する方向に貫通して、ベーン4の取付孔3eが形成されている。ベーン4は、
図7(a)に斜視図、
図7(b)に側面図が示され、弾性を有する1枚の板状体、例えば、ステンレス板が折り曲げられて、形成されている。
図8(a)はベーン4が取付孔3eに取り付けられた状態を一方向から見た斜視図、
図8(b)は別の方向から見た斜視図である。また、
図9(a)は、ベーン4が取付孔3eに取り付けられた部分の破断断面を一方向から見た斜視図、
図9(b)はその断面を別の方向から見た斜視図である。
【0033】
取付孔3eは、所定の軸心方向長さL1および所定の開口幅W1(
図5(b)参照)で開口して、内部に幅方向で対向する一対の内壁面3e1,3e2(
図9参照)を有する。第1羽根部3cは、取付孔3eの一方の開口側において一方の内壁面3e1に連なって面一となる第1側壁面3c2を有して、軸部3aの外周に突出して形成されている。また、第2羽根部3dは、取付孔3eの他方の開口側において他方の内壁面3e2に連なって面一となる第2側壁面3d2を有して、軸部3aの外周に突出して形成されている。
【0034】
ベーン4は、取付孔3eの軸心方向両端に所定の僅かな隙間をもって嵌まる幅W2(
図7(a)参照)、および、第1羽根部3cの先端部から第2羽根部3dの先端部までに至って、第1流路3c1および第2流路3d1を覆う長さL2(
図7(b)参照)を有する弾性体を構成する。このベーン4は、取付孔3eに嵌められたときに、長さ方向の一端部側の第1側面4a1を第1側壁面3c2に押圧して第1流路3c1を塞ぎ、長さ方向の他端部側の第2側面4a2を第2側壁面3d2に押圧して第2流路3d1を塞ぐ弾性を発揮する。
【0035】
第1羽根部3c、第2羽根部3d、取付孔3eおよびベーン4は、シャフト3が一方向に回転すると、第1流路3c1および第2流路3d1によって軸部3aの周りに粘性流体の大流路を形成し、シャフト3が他方向に回転するとその大流路を閉じてシャフト3の回転に制動トルクを与える弁機構を構成する。
【0036】
本実施形態では、ベーン4は、
図9に示すように取付孔3eに取り付けられたとき、第1羽根部3cの先端部と同等の高さに屈曲部端4b1を有し、折り曲げ幅w(
図7(b)参照)が取付孔3eの開口幅W1より大きくとられて、長さ方向の一端部側が長さ方向の中央部側に折り返して曲げられている。そして、当該第1折り曲げ片4c1の前面が第1流路3c1を塞ぐ第1側面4a1を形成する。また、折り曲げ幅wの方向で第1折り曲げ片4c1に対向する箇所の背面4d1が、第1稜線3h1に当接する。第1稜線3h1は、他方の内壁面3e2と軸部3aの外周面とが取付孔3eの一方の開口で接して形成される。
【0037】
また、ベーン4は、
図9に示すように取付孔3eに取り付けられたとき、第2羽根部3dの先端部と同等の高さに屈曲部端4b2を有する。ベーン4は、折り曲げ幅wが取付孔3eの開口幅W1より大きくとられて、長さ方向の他端部側が、第1折り曲げ片4c1の形成されたベーン4の側面と反対の側面において、長さ方向の中央部側に折り返して曲げられている。そして、当該第2折り曲げ片4c2の前面が第2流路3d1を塞ぐ第2側面4a2を形成する。また、折り曲げ幅wの方向で第2折り曲げ片4c2に対向する箇所の背面4d2が、第2稜線3h2に当接する。第2稜線3h2は、一方の内壁面3e1と軸部3aの外周面とが取付孔3eの他方の開口で接して形成される。
【0038】
シャフト3には、軸部3aに同軸に、フランジ部3bを挟んで被取付部3gが形成されている。被取付部3gは、
図6(b)に示すように軸部3aが圧力室2aに収容されると、ハウジング2から突出する。被取付部3gとフランジ部3bとの間には、
図5(b)に示すようにフランジ部3bの側から、摺動部材取付部3iおよびOリング装着部3jが形成されている。
【0039】
摺動部材5は、薄肉の中空円板で、
図6(b)に示すように、シャフト3の摺動部材取付部3iに取り付けられて、シャフト3とキャップ8との間に介在する。この摺動部材5により、シャフト3とキャップ8の各接触面に生じる摩耗が低減される。本実施形態では、摺動部材5は高分子化合物で形成され、その耐摩耗性が確保されている。Oリング6はゴム等の弾性部材から形成され、シャフト3のOリング装着部3jに取り付けられる。このOリング6により、シャフト3とキャップ8との間から、圧力室2aに充填された粘性流体が漏れるのが防止されている。
【0040】
キャップ8は、一端にフランジ部を有する中空円筒形状をしている。このキャップ8は、円筒部外周の接合外径部8a(
図2,
図3参照)がハウジング2の接合内径部2e(
図4(b)参照)に
図6(b)に示すように接してハウジング2に取り付けられることで、ハウジング2の開口端を塞ぐ。接合外径部8aにはOリング装着部8b(
図2,
図3参照)が形成されている。Oリング7はゴム等の弾性部材から形成され、キャップ8のOリング装着部8bに
図6(b)に示すように取り付けられる。このOリング7により、キャップ8とハウジング2との間から、圧力室2aに充填された粘性流体が漏れるのが防止されている。
【0041】
このような構成をした回転ダンパ1は、例えば、一方の物体を他方の物体に対して開閉させるヒンジ装置などに用いられる。この場合、ハウジング2の係止部2cは一方の物体に固定され、シャフト3の被取付部3gは、回転制動がかけられる制動対象物、つまり、他方の物体に取り付けられる。
【0042】
本実施形態の回転ダンパ1によれば、シャフト3の軸部3aのハウジング2への組み込み時、シャフト3の軸部3aに形成された取付孔3eにベーン4が嵌められた状態で、シャフト3の軸部3aがハウジング2の圧力室2aに組み込まれる。このとき、ベーン4は、長さ方向の一端部側の第1側面4a1を第1羽根部3cの第1側壁面3c2に押圧し、長さ方向の他端部側の第2側面4a2を第2羽根部3dの第2側壁面3d2に押圧する弾性を発揮することで、シャフト3の軸部3aに形成された取付孔3eの内部に保持され、取付孔3eから抜け落ちない状態にある。
【0043】
本実施形態では、ベーン4の長さ方向の一端部側における第1折り曲げ片4c1の折り曲げ幅wが取付孔3eの開口幅W1より大きくとられるので、当該第1折り曲げ部4e1が取付孔3eに挿入されることで、当該第1折り曲げ部4e1は元の折り曲げ幅wに戻る弾性を取付孔3eの開口幅方向に発揮する。このため、シャフト3の軸部3aのハウジング2への組み込み時、この弾性により、第1折り曲げ片4c1の前面が第1側壁面3c2に押圧されると共に、第1折り曲げ片4c1に対向する箇所の背面4d1が第1稜線3h1および他の内壁面3e2に押圧されて、ベーン4は、長さ方向の一端部側において第1側壁面3c2と第1稜線3h1および他の内壁面3e2との間に挟持される。同時に、ベーン4の長さ方向の他端部側における第2折り曲げ片4c2の折り曲げ幅wも取付孔3eの開口幅W1より大きくとられるので、当該第2折り曲げ部4e2が取付孔3eに挿入されることで、当該第2折り曲げ部4e2は元の折り曲げ幅wに戻る弾性を取付孔3eの開口幅方向に発揮する。このため、シャフト3の軸部3aのハウジング2への組み込み時、この弾性により、第2折り曲げ片4c2の前面が第2側壁面3d2に押圧されると共に、第2折り曲げ片4c2に対向する箇所の背面4d2が第2稜線3h2および一方の内壁面3e1に押圧されて、ベーン4は、長さ方向の他端部側において第2側壁面3d2と第2稜線3h2および一方の内壁面3e1との間に挟持される。
【0044】
したがって、シャフト3の軸部3aのハウジング2への組み込み時、弁機構を構成するベーン4は、長さ方向の一端部側の第1折り曲げ部4e1および他端部側の第2折り曲げ部4e2がシャフト3の軸部3aに形成された取付孔3e内に保持された状態に保たれるので、シャフト3の軸部3aのハウジング2への組み込みが容易に行えるようになる。このため、本実施形態による回転ダンパ1では、製造時の組立性が向上し、組立作業の自動化が容易になる。
【0045】
また、シャフト3が
図9に示す一方向Aに回転すると、各圧力室2a1~2a4における粘性流体が流動し、第1折り曲げ片4c1に対向する箇所の背面4d1が第1流路3c1に向かう方向、第2折り曲げ片4c2に対向する箇所の背面4d2が第2流路3d1に向かう方向へ、粘性流体によって押される。このため、第1折り曲げ片4c1の前面に形成される第1側面4a1が第1流路3c1、第2折り曲げ片4c2の前面に形成される第2側面4a2が第2流路3d1を堅固に塞ぎ、第1流路3c1および第2流路3d1を通って各圧力室2a1,2a2間および各圧力室2a3,2a4間を行き来する粘性流体の大きな流れが遮られる。したがって、第1羽根部3cおよび第2羽根部3dの回転に抗する力が粘性流体から第1羽根部3cおよび第2羽根部3dに作用し、シャフト3の回転には大きな制動力が加わる。この際、粘性流体は、ベーン4の周囲とシャフト3の周囲とハウジング2の内周壁との間に形成される僅かな隙間を通る。
【0046】
一方、シャフト3が
図9に示す他方向Bに回転すると、各圧力室2a1~2a4における粘性流体が流動し、第1羽根部3cの高さが一部落ち込んで形成された第1流路3c1を粘性流体が通って、ベーン4の発揮する、第1折り曲げ片4c1の前面に形成される第1側面4a1を第1側壁面3c2に押圧する弾性に抗して、粘性流体は、第1折り曲げ片4c1およびそれに対向する背面4d1を仰け反らせる。同時に、第2羽根部3dの高さが一部落ち込んで形成された第2流路3d1を粘性流体が通って、ベーン4の発揮する、第2折り曲げ片4c2の前面に形成される第2側面4a2を第2側壁面3d2に押圧する弾性に抗して、粘性流体は、第2折り曲げ片4c2およびそれに対向する背面4d2を仰け反らせる。
【0047】
第1折り曲げ片4c1およびそれに対向する背面4d1が仰け反ると、ベーン4の長さ方向の一端部側は、第1折り曲げ片4c1の後方に形成される背面4d1が第1稜線3h1を支点として
図10に示す断面図のように背面側に屈曲する。同時に、第2折り曲げ片4c2およびそれに対向する背面4d2が仰け反ると、ベーン4の長さ方向の他端部側は、第2折り曲げ片4c2の後方に形成される背面4d2が第2稜線3h2を支点として
図10に示す断面図のように背面側に屈曲する。ベーン4の長さ方向の一端部側および他端部側がこのようにそれぞれ背面側に屈曲すると、第1折り曲げ部4e1の屈曲部端4b1と圧力室2aの内壁との間、および、第2折り曲げ部4e2の屈曲部端4b2と圧力室2aの内壁との間にそれぞれ隙間が生じ、粘性流体はこれらの隙間を流路にして、第1圧力室2a1にある粘性流体は第1流路3c1を経由して第2圧力室2a2へ向かう大きな流れを、第3圧力室2a3にある粘性流体は第2流路3d1を経由して第4圧力室2a4へ向かう大きな流れを、形成する。このため、第1羽根部3cおよび第2羽根部3dの回転に抗する大きな力が粘性流体から第1羽根部3cおよび第2羽根部3dに作用しなくなり、シャフト3はスムーズに回転するようになる。
【0048】
また、シャフト3の回転が停止すると、第1流路3c1および第2流路3d1を流れる粘性流体の流れが止まって、ベーン4の長さ方向の一端部側および他端部側をそれぞれ仰け反らせる力が粘性流体からこれら各側に作用しなくなる。したがって、ベーン4は、粘性流体によって抑え込まれていた自身の弾性力を発揮して、第1折り曲げ片4c1の前面に形成される第1側面4a1を第1側壁面3c2に押圧し、第2折り曲げ片4c2の前面に形成される第2側面4a2を第2側壁面3d2に押圧する元の形状に、直ちに復帰する。よって、第1側壁面3c2および第2側壁面3d2にそれぞれ形成された第1流路3c1および第2流路3d1はベーン4の第1側面4a1および第2側面4a2によって直ちに塞がれ、粘性流体の流れが遮断されて、シャフト3の回転に制動がかかるダンパ状態に直ちに移行する。このため、シャフト3の回転に制動がかからないフリー回転から、シャフト3の回転に制動がかかるダンパ回転への移行動作は、瞬時に行われるようになる。
【0049】
次に、本発明の他の実施形態による回転ダンパ1について、説明する。
【0050】
この他の実施形態による回転ダンパ1は、上記の一実施形態による回転ダンパ1と同様なハウジング2、シャフト3、摺動部材5、Oリング6,7、およびキャップ8を主な構成要素として備えるが、ベーン4に代えて、
図11に示す形態のベーン41が採用されている点だけが、上記の一実施形態による回転ダンパ1と相違する。
【0051】
図11(a)はベーン41の斜視図、
図11(b)は側面図である。ベーン41も、取付孔3eの軸心方向両端に所定の僅かな隙間をもって嵌まる幅W2、および、第1羽根部3cの先端部から第2羽根部3dの先端部までに至って、第1流路3c1および第2流路3d1を覆う長さL2を有する弾性体を構成する。
【0052】
図12(a)は、ベーン41が取付孔3eに取り付けられた状態を一方向から見た斜視図、
図12(b)は、ベーン41が取付孔3eに取り付けられた部分の破断断面を一方向から見た斜視図である。
【0053】
このベーン41は、取付孔3eに嵌められたときに、長さ方向の一端部側の第1側面41a1を第1側壁面3c2に押圧して第1流路3c1を塞ぎ、長さ方向の他端部側の第2側面41a2を第2側壁面3d2に押圧して第2流路3d1を塞ぐ弾性を発揮する。
【0054】
ベーン41も、弾性を有する1枚の板状体、例えば、ステンレス板が折り曲げられて形成されているが、その折り曲げの形態が、上記の一実施形態による回転ダンパ1とは異なる。すなわち、ベーン41は、ステンレス板等が、長さ方向の略中央部で、折り曲げ幅w(
図11(b)参照)が取付孔3eの開口幅W1より大きくとられて、所定の折り返し長さで長さ方向に偶数回、本実施形態では2回折り返し曲げられて、構成されている。長さ方向の一端部側には、端部41b1が第1羽根部3cの先端部まで至って第1流路3c1を塞ぐ第1側面41a1を形成する第1折り曲げ片41c1を有する。また、長さ方向の他端部側には、端部41b2が第2羽根部3dの先端部まで至って第2流路3d1を塞ぐ第2側面41a2を形成する第2折り曲げ片41c2を有する。
【0055】
この他の実施形態による回転ダンパ1によれば、ベーン41の長さ方向の略中央部における、折り返し曲げ部41eの折り曲げ幅wが取付孔3eの開口幅W1より大きくとられるので、当該折り返し曲げ部41eが取付孔3eに挿入されることで、当該折り返し曲げ部41eは元の折り曲げ幅wに戻る弾性を取付孔3eの開口幅方向に発揮する。このため、シャフト3の軸部3aのハウジング2への組み込み時、その弾性により、ベーン41の長さ方向の一端部側に形成される第1折り曲げ片41c1の前面が第1側壁面3c2および一方の内壁面3e1に押圧されると共に、ベーン41の長さ方向の他端部側に形成される第2折り曲げ片41c2の前面が第2側壁面3d2および他方の内壁面3e2に押圧されて、ベーン41は、
図12(b)に示すように、第1側壁面3c2および一方の内壁面3e1と、第2側壁面3d2および他方の内壁面3e2との間に挟持される。したがって、シャフト3の軸部3aのハウジング2への組み込み時、弁機構を構成するベーン41は、長さ方向の一端部側の第1折り曲げ片41c1および他端部側の第2折り曲げ片41c2がシャフト3の軸部3aに形成された取付孔3e内に保持された状態に保たれるので、シャフト3の軸部3aのハウジング2への組み込みが容易に行えるようになる。このため、この他の実施形態による回転ダンパ1でも、製造時の組立性が向上し、組立作業の自動化が容易になる。
【0056】
また、シャフト3が
図12に示す一方向Aに回転すると、各圧力室2a1~2a4における粘性流体が流動し、第1折り曲げ片41c1の背面41d1が第1流路3c1に向かう方向、第2折り曲げ片41c2の背面41d2が第2流路3d1に向かう方向へ、粘性流体によって押される。このため、第1折り曲げ片41c1の前面に形成される第1側面41a1が第1流路3c1、第2折り曲げ片41c2の前面に形成される第2側面41a2が第2流路3d1を堅固に塞ぎ、第1流路3c1および第2流路3d1を通って各圧力室2a1~2a4間を行き来する粘性流体の大きな流れが遮られる。したがって、第1羽根部3cおよび第2羽根部3dの回転に抗する力が粘性流体から第1羽根部3cおよび第2羽根部3dに作用し、シャフト3の回転には大きな制動力が加わる。
【0057】
一方、シャフト3が
図12に示す他方向Bに回転すると、各圧力室2a1~2a4における粘性流体が流動し、第1羽根部3cの高さが一部落ち込んで形成された第1流路3c1を粘性流体が通って、ベーン41の発揮する、第1折り曲げ片41c1の前面に形成される第1側面41a1を第1側壁面3c2に押圧する弾性に抗して、粘性流体は第1折り曲げ片41c1の先端部側を仰け反らせる。同時に、第2羽根部3dの高さが一部落ち込んで形成された第2流路3d1を粘性流体が通って、ベーン41の発揮する、第2折り曲げ片41c2の前面に形成される第2側面41a2を第2側壁面3d2に押圧する弾性に抗して、粘性流体は第2折り曲げ片41c2の先端部側を仰け反らせる。第1折り曲げ片41c1の先端部側および第2折り曲げ片41c2の先端部側が仰け反ると、第1折り曲げ片41c1の先端部と圧力室2aの内壁との間、および、第2折り曲げ片41c2の先端部と圧力室2aの内壁との間にそれぞれ隙間が生じ、粘性流体はこれらの隙間を流路にして大きな流れを形成する。このため、第1羽根部3cおよび第2羽根部3dの回転に抗する大きな力が粘性流体から第1羽根部3cおよび第2羽根部3dに作用しなくなり、シャフト3はスムーズに回転するようになる。
【0058】
また、シャフト3の回転が停止すると、第1流路3c1および第2流路3d1を流れる粘性流体の流れが止まって、ベーン41の長さ方向の一端部側および他端部側をそれぞれ仰け反らせる力が粘性流体から各側に作用しなくなる。したがって、ベーン41は、粘性流体によって抑え込まれていた自身の弾性力を発揮して、第1折り曲げ片41c1の前面に形成される第1側面41a1を第1側壁面3c2に押圧し、第2折り曲げ片41c2の前面に形成される第2側面41a2を第2側壁面3d2に押圧する元の形状に、直ちに復帰する。よって、第1側壁面3c2および第2側壁面3d2にそれぞれ形成された第1流路3c1および第2流路3d1はベーン41の第1側面41a1および第2側面41a2によって直ちに塞がれ、粘性流体の流れが遮断されて、シャフト3の回転に制動がかかるダンパ状態に直ちに移行する。このため、この他の実施形態による回転ダンパ1においても、シャフト3の回転に制動がかからないフリー回転から、シャフト3の回転に制動がかかるダンパ回転への移行動作は、瞬時に行われるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明による回転ダンパ1は、洋式トイレの便座・便蓋ユニットにおける便座・便蓋の開閉用や、ピアノの鍵盤を覆う蓋の開閉用のヒンジ装置を始め、物体間を開閉自在に支持する他の開閉装置にも同様に適用することが出来る。
【符号の説明】
【0060】
1…回転ダンパ、2…ハウジング、2a…圧力室、2a1…第1圧力室、2a2…第2圧力室、2a3…第3圧力室、2a4…第4圧力室、2b…隔壁、2b1…隔壁2bの頂部、2c…係止部、2d…軸支部、2e…接合内径部、3…シャフト(回転部材)、3a…軸部、3b…フランジ部、3c…第1羽根部、3c1…第1流路、3c2…第1側壁面、3d…第2羽根部、3d1…第2流路、3d2…第2側壁面、3e…取付孔、3e1…一方の内壁面、3e2…他方の内壁面、3f…小径部、3g…被取付部、3h1…第1稜線、3h2…第2稜線、3i…摺動部材取付部、3j…Oリング装着部、4,41…ベーン(弾性体)、4a1,41a1…第1側面、4a2,41a2…第2側面、4b1,4b2…屈曲部端、41b1,41b2…端部、4c1,41c1…第1折り曲げ片、4c2,41c2…第2折り曲げ片、4d1,4d2,41d1,41d2…背面、4e1…第1折り曲げ部、4e2…第2折り曲げ部、41e…折り返し曲げ部、5…摺動部材、6,7…Oリング、8…キャップ、8a…接合外径部、8b…Oリング装着部