(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】風船及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A63H 27/10 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
A63H27/10 H
A63H27/10 F
(21)【出願番号】P 2022066231
(22)【出願日】2022-04-13
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】520186956
【氏名又は名称】株式会社アイポケット
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 渡
【審査官】鈴木 崇雅
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-301276(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0076911(US,A1)
【文献】特開平08-112456(JP,A)
【文献】特開2013-172823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気より軽い気体を充填して浮遊させる風船であって、
前記風船の内面に、該風船の構成部材を劣化させる物質が塗布又は付着されて
おり、
前記風船の構成部材が、ゴム又は紙のいずれかであり、
前記風船の構成部材がゴムの場合、該ゴムを劣化させる物質がアセトンであり、
前記風船の構成部材が紙の場合、該紙を劣化させる物質がセルラーゼであることを特徴とする風船。
【請求項2】
前記風船の構成部材は紙であり、前記紙が、竹繊維を用いた竹繊維紙であることを特徴とする請求項1に記載の風船。
【請求項3】
空気より軽い気体を充填して浮遊させる風船の製造方法であって、
前記風船の構成部材が、ゴム又は紙のいずれかであり、
前記風船に、前記風船の構成部材がゴムの場合、該ゴムを劣化させる物質であるアセトン、若しくは前記風船の構成部材が紙の場合、該紙を劣化させる物質であるセルラーゼを注入した後、
又は、前記風船の構成部材がゴムの場合、該ゴムを劣化させる物質であるアセトン、若しくは前記風船の構成部材が紙の場合、該紙を劣化させる物質であるセルラーゼとともに、前記空気より軽い気体を充填し、
前記風船の内面に前記風船の構成部材を劣化させる物質を付着させることを特徴とする風船の製造方法。
【請求項4】
前記風船の構成部材は紙であり、前記紙が、竹繊維を用いた竹繊維紙であることを特徴とする請求項3に記載の風船の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風船及びその製造方法に関するものであり、詳しくは、風船の構成部材の劣化を促進させることが可能な風船に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、イベントや祝賀行事の演出としてバルーンリリースが行われている。バルーンリリースは風船飛ばしとも呼ばれ、ヘリウム等の空気より軽い気体を注入した風船を空へ飛ばす演出であり、視覚的に華やかであるため非常に人気がある。
【0003】
一方で、例えば、ゴム風船を空に飛ばした場合、上空約8000メートルまで上昇し、破裂してスパゲティー状の破片になって拡散しながら地上や海に落ちるとされており、落下した破片を動物や魚が食べた場合、動物や魚の生態に影響を及ぼすことが考えられるため一部で問題視されている。
【0004】
そのため、このような問題に対して、これまでに環境に優しい風船として生分解性材料を用いた風船が提案されている(特許文献1)。この提案によれば、自然環境を破壊することなく、容易に自然に帰る風船を提供できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の風船は、製造に際して加工が難しく、また、コストがかかるといった問題があり一般に普及しづらいものであった。
【0007】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、簡便かつ低コストで環境に負荷がかからない風船とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
第1に、本発明の風船は、空気より軽い気体を充填して浮遊させる風船であって、
前記風船の内面に、該風船の構成部材を劣化させる物質が塗布又は付着されていることを特徴とする。
第2に、前記第1の発明の風船において、前記風船の構成部材が、ゴム、プラスチック、紙のいずれかであり、該ゴム又はプラスチックを劣化させる物質が有機溶剤であり、紙を劣化させる物質がセルラーゼであることが好ましい。
第3に、前記第2の発明の風船において、前記有機溶剤が、アセトン、リモネン、アルコールから選ばれる物質であることが好ましい。
第4に、前記第1の発明の風船において、前記紙が、竹繊維を用いた竹繊維紙であることが好ましい。
第5に、本発明の風船の製造方法は、空気より軽い気体を充填して浮遊させる風船の製造方法であって、
前記風船に、前記風船の構成部材を劣化させる物質を注入した後、又は前記風船の構成部材を劣化させる物質とともに、前記空気より軽い気体を充填し、
前記風船の内面に前記風船の構成部材を劣化させる物質を付着させることを特徴とする。
第6に、前記第5の発明の風船の製造方法において、前記風船の構成部材及び該構成部材を劣化させる物質が、前記第2に記載の構成部材及び物質であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の風船及びその風船の製造方法によれば、簡便かつ低コストで、環境に負荷がかからない風船を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の風船の一実施形態を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の風船の製造方法の一実施形態を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
図1は、本発明の風船の一実施形態を示す概略断面図である。
【0012】
本発明の風船1は、空気より軽い気体2(以下、浮揚性ガスともいう)を充填して浮遊させる風船であって、風船1の内面に、該風船1の構成部材11を劣化させる物質3(以下、劣化物質ともいう)が塗布又は付着されているものである。なお、本発明において、塗布とは、少なくとも劣化物質を含む物質からなる層が部分的にでも風船1の内面に形成されている状態を意味し、付着とは、少なくとも劣化物質を含む物質が、風船1の内面に部分的にでも接触している状態を意味する。
【0013】
本実施形態の風船1に充填する浮揚性ガス2としては、通常、風船を上空に浮遊させるために充填する気体であれば制限なく、例えば、ヘリウムガス、水素、アンモニアガス等を用いることができ、これらの中でも、安全性等の観点からヘリウムガスを好適に用いることができる。
【0014】
本発明の風船1の構成部材11としては、通常、風船の材料として用いられているものであれば制限なく、例えば、ゴム、フィルム状のプラスチック、紙等を例示することができる。ゴムとしては、天然ゴムを含むものを挙げることができる。
【0015】
プラスチックとしては、各種樹脂フィルムを用いることができ、具体的には、スチロール(ポリスチレン)やポリエチレン、ポリ乳酸系材料を含む生分解性プラスチック等を挙げることができる。
【0016】
紙としては、一般的な洋紙、和紙やパラフィン紙、また、近年特に開発が進んでいる竹を原料として用いた竹繊維紙を用いることができる。なお、風船1として上記各種材料を用いる場合には、浮揚性ガス2を充填した状態で確実に上昇させる必要があるため、可能な限り厚みの薄い材料を用いて軽量とすることが考慮される。
【0017】
浮揚性ガス2を充填させて浮遊可能とする風船1としては、例えば、素材がグラシン紙(パラフィン紙)の紙風船の場合、膨らましたときのサイズが直径約9cmで風船の重さ1gのものが一般に入手可能である。また、素材が天然ゴムの風船の場合、膨らましたときのサイズが直径約23cmで、風船の重さ2gのものが一般に入手可能である。
【0018】
本発明においては、風船1の内面に、風船1の構成部材11の劣化物質3が塗布又は付着されているが、この劣化物質3は、上記各種構成部材11に応じて各々選択的に用いる。例えば、風船1の構成部材11がゴム又はプラスチックの場合、劣化物質3として有機溶剤を含む物質を用いることができ、有機溶剤としては、具体的にはアセトン、リモネン、アルコール等を用いることができる。これらの中でも、アセトン、リモネンを好適に用いることができ、特に、プラスチックとしてスチロール(ポリスチレン)を用いる場合には、リモネンを好適に用いることができる。
【0019】
また、風船1の構成部材11として紙を用いる場合には、紙の劣化物質3としてセルラーゼを含む物質を用いることができる。セルラーゼは、β-1,4-グルカングルカノヒドロラーゼとも呼ばれ、紙の原材料であるセルロースのβ-1,4-グリコシド結合を加水分解して、主にオリゴ糖の一種であるセロビオースを生成する酵素である。すなわち、セルロースを原料として含む紙類全般を構成部材11とする風船1に対して、セルラーゼ含む劣化物質3を用いることにより、落下後の風船1を通常よりも早く自然に帰することが可能となる。
【0020】
本発明においては、上記のとおり、風船1の構成部材11に応じて選択した劣化物質3を内側に塗布、又は付着させるが、その量や濃度は、風船1を飛ばすまでの時間や浮遊時間等を考慮して適宜調整することができる。濃度を調整する物質としては、劣化物質3の劣化性能を阻害しない物質であれば特に制限なく、例えば、水やアルコール等を用いることができる。また、本発明においては、より確実に風船1の内面に劣化物質3を定着させるために、劣化物質3に対して、糊成分等の定着成分を添加することもできる。定着成分としては天然由来のものが好ましく、例えば、CMC(カルボキシメチルセルロース)や澱粉糊等を用いることができる。また、劣化物質3が確実に塗布又は付着されていることが視認できるように、着色剤を添加することもできる。
【0021】
また、劣化物質3を風船1の内側に塗布又は付着させる方法としては、風船1を裏返して、浮揚性ガス2を充填する状態における内側を外側にした状態で、劣化物質3の液槽に浸漬したり、劣化物質3を塗布又はスプレー噴霧して付着させた後、裏返して元に戻す方法を採用することができる。
【0022】
一方で、本発明においては、劣化物質3を風船1の内側に塗布又は付着させた状態で長期間放置すると、風船1に浮揚性ガス2を充填して膨らませる段階で構成部材11の劣化が進みすぎ、所望の条件で風船1を浮遊させることが困難となる場合がある。そのため、風船1内面への劣化物質3の塗布又は付着は、可能な限り風船1を飛ばす直前に行うことが望ましい。
【0023】
風船1を飛ばす直前に風船1の内面に劣化物質3を塗布又は付着させる方法としては、例えば、
図2に示すように、風船1のガス注入口12に、浮揚性ガス注入用ノズル21及び劣化物質注入用ノズル31を挿入し、浮揚性ガス2と劣化物質3を同時に充填することにより行うことができる。なお、劣化物質3を風船1の内側に均一に付着させるために、劣化物質注入用ノズル31の先端にスプレーノズルを装着し、劣化物質3を霧状に噴霧するのがより好ましい。また、先に風船1内に劣化物質3を噴霧又は注入した後、浮揚性ガス2を充填することもできる。
【0024】
上記方法により製造した本発明の風船1は、内面に劣化物質3が均一に塗布又は付着しているため、浮遊途中で徐々に風船1の構成部材11を内側から劣化、分解し、地上や海上に落下した後、通常よりも早く自然に帰することが可能となる。また、内面に劣化物質3が付着しているため、浮遊の際に露や雨等により風船1の外側が濡れた場合でも、劣化物質3にそれらの影響が及ぶことはなく、当初に想定した条件で風船1を落下させたり、構成部材11を分解させることが可能となる。
【0025】
以上、実施形態に基づき本発明の風船を説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。
【0026】
例えば、風船1内に劣化物質3の溶液を導入し、内面に馴染ませた後、余分な溶液を排出することにより内面に均一に劣化物質3の層を形成することもできる。
【0027】
以上の説明のとおり、上記構成の風船によれば、簡便かつ低コストで、環境に負荷がかからない風船とすることが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1 風船
11構成部材
12 ガス注入口
2 空気より軽い気体(浮揚性ガス)
21 浮揚性ガス注入用ノズル
3 風船の構成部材を劣化させる物質(劣化物質)
31 劣化物質注入用ノズル