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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】固化材の吐出方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023137654
(22)【出願日】2023-08-28
【審査請求日】2023-08-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000140694
【氏名又は名称】株式会社加藤建設
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】牧野 昌己
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 健二
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴哉
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-203226(JP,A)
【文献】特開2016-108824(JP,A)
【文献】特開2012-021304(JP,A)
【文献】特開2004-300915(JP,A)
【文献】特開2003-206526(JP,A)
【文献】特開2002-004266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームの上部に設けられた駆動輪と、フレームの下部に設けられた従動輪との間に巻き掛けられた無端状のチェーンに所定のピッチで複数の撹拌翼が設けられたトレンチャを用い、前記複数の撹拌翼を前記チェーンと共に周回移動させて地盤の掘削を行うと共に、原土とスラリ状の固化材とを撹拌混合して流動性を有する安定処理土を造成するトレンチャ式地盤改良方法に用いる固化材の吐出方法であって、
前記安定処理土は、撹拌混合直後の流動値が締固めをしない供試体の作製方法によって前記供試体を作製可能な流動値を有し、
前記固化材は、前記トレンチャの基端部側から先端部側に向かって前記トレンチャの長手方向に沿って設けられた固化材圧送管に合流接続される圧縮空気供給管を介して供給される圧縮空気により加圧されて前記トレンチャの先端部に設けられた固化材吐出部から吐出され、
前記固化材圧送管の断面積をS1と、前記固化材吐出部の固化材吐出口の断面積をS2としたとき、「S1>S2」の関係を有すると共に、
前記固化材吐出口における前記固化材の吐出圧力をPと、吐出抵抗をRとしたとき、「P>R」の関係を有し、
前記安定処理土の湿潤密度をρと、地盤改良体の上端から前記固化材吐出部までの深度をHとしたとき、「R≒ρ×H」の関係を有する、
ことを特徴とする固化材の吐出方法。
【請求項2】
フレームの上部に設けられた駆動輪と、フレームの下部に設けられた従動輪との間に巻き掛けられた無端状のチェーンに所定のピッチで複数の撹拌翼が設けられたトレンチャを用い、前記複数の撹拌翼を前記チェーンと共に周回移動させて地盤の掘削を行うと共に、原土とスラリ状の固化材とを撹拌混合して流動性を有する安定処理土を造成するトレンチャ式地盤改良方法に用いる固化材の吐出方法であって、
前記安定処理土は、撹拌混合直後の流動値が締固めをしない供試体の作製方法によって前記供試体を作製可能な流動値を有し、
前記固化材は、前記トレンチャの基端部側から先端部側に向かって前記トレンチャの長手方向に沿って設けられた固化材圧送管に合流接続される圧縮空気供給管を介して供給される圧縮空気により加圧されて前記トレンチャの先端部に設けられた固化材吐出部から吐出され、
前記固化材圧送管の断面積をS1と、前記固化材吐出部の固化材吐出口の断面積をS2としたとき、「S1>S2」の関係を有すると共に、
前記固化材吐出口における前記固化材の吐出圧力をPと、吐出抵抗をRとしたとき、「P>R」の関係を有し、
前記安定処理土の湿潤密度をρと、地盤改良体の上端から前記固化材吐出部までの深度をHとしたとき、「R≒ρ×H」の関係を有し、
前記固化材圧送管と前記圧縮空気供給管との接続部は、前記トレンチャの基端部側に設けられている、
ことを特徴とする固化材の吐出方法。
【請求項3】
フレームの上部に設けられた駆動輪と、フレームの下部に設けられた従動輪との間に巻き掛けられた無端状のチェーンに所定のピッチで複数の撹拌翼が設けられたトレンチャを用い、前記複数の撹拌翼を前記チェーンと共に周回移動させて地盤の掘削を行うと共に、原土とスラリ状の固化材とを撹拌混合して流動性を有する安定処理土を造成するトレンチャ式地盤改良方法に用いる固化材の吐出方法であって、
前記安定処理土は、撹拌混合直後の流動値が締固めをしない供試体の作製方法によって前記供試体を作製可能な流動値を有し、
前記固化材は、前記トレンチャの基端部側から先端部側に向かって前記トレンチャの長手方向に沿って設けられた固化材圧送管に合流接続される圧縮空気供給管を介して供給される圧縮空気により加圧されて前記トレンチャの先端部に設けられた固化材吐出部から吐出され、
前記固化材圧送管の断面積をS1と、前記固化材吐出部の固化材吐出口の断面積をS2としたとき、「S1>S2」の関係を有すると共に、
前記固化材吐出口における前記固化材の吐出圧力をPと、吐出抵抗をRとしたとき、「P>R」の関係を有し、
前記安定処理土の湿潤密度をρと、地盤改良体の上端から前記固化材吐出部までの深度をHとしたとき、「R≒ρ×H」の関係を有し、
前記固化材圧送管は、前記固化材圧送管の中間部に、前記固化材圧送管が折れ曲がる折曲部を有し、
前記圧縮空気供給管は、前記折曲部の外周側において、前記折曲部よりも下流側の前記固化材の送出方向に沿って接続されていて、
前記固化材と前記圧縮空気の合流部における前記固化材圧送管の圧力をP1と、前記圧縮空気供給管の圧力をP2としたとき、「P1<P2」の関係を有する、
ことを特徴とする固化材の吐出方法。
【請求項4】
フレームの上部に設けられた駆動輪と、フレームの下部に設けられた従動輪との間に巻き掛けられた無端状のチェーンに所定のピッチで複数の撹拌翼が設けられたトレンチャを用い、前記複数の撹拌翼を前記チェーンと共に周回移動させて地盤の掘削を行うと共に、原土とスラリ状の固化材とを撹拌混合して流動性を有する安定処理土を造成するトレンチャ式地盤改良方法に用いる固化材の吐出方法であって、
前記安定処理土は、撹拌混合直後の流動値が締固めをしない供試体の作製方法によって前記供試体を作製可能な流動値を有し、
記固化材は、前記トレンチャの基端部側から先端部側に向かって前記トレンチャの長手方向に沿って設けられた固化材圧送管に合流接続される圧縮空気供給管を介して供給される圧縮空気により加圧されて前記トレンチャの先端部に設けられた固化材吐出部から吐出され、
前記固化材圧送管の断面積をS1と、前記固化材吐出部の固化材吐出口の断面積をS2としたとき、「S1>S2」の関係を有すると共に、
前記固化材吐出口における前記固化材の吐出圧力をPと、吐出抵抗をRとしたとき、「P>R」の関係を有し、
前記安定処理土の湿潤密度をρと、地盤改良体の上端から前記固化材吐出部までの深度をHとしたとき、「R≒ρ×H」の関係を有し、
前記固化材圧送管の管径をD1と、前記圧縮空気供給管の管径をD2としたとき、「D1≧D2」の関係を有する、
ことを特徴とする固化材の吐出方法。
【請求項5】
請求項に記載の固化材の吐出方法であって、
前記折曲部において、前記折曲部よりも下流側の前記固化材圧送管の内周側の延長線と、前記折曲部よりも上流側の前記固化材圧送管の外周側との交点をX1、前記折曲部よりも上流側の前記固化材圧送管の内周側の延長線と、前記折曲部よりも下流側の前記固化材圧送管の外周側との交点をX2としたとき、
前記圧縮空気供給管は、前記折曲部における前記X1と前記X2の間の領域内で前記固化材圧送管に接続される、
ことを特徴とする固化材の吐出方法。
【請求項6】
請求項に記載の固化材の吐出方法であって、
前記固化材圧送管と前記圧縮空気供給管との接続部において、前記固化材圧送管の前記折曲部よりも上流側と前記圧縮空気供給管の前記接続部よりも上流側との間の劣角をθ1と、前記固化材圧送管の前記折曲部の上流側と下流側との間の劣角をθ2としたとき、
「θ1<90°」かつ「θ1+θ2≒180°」の関係を有する、
ことを特徴とする固化材の吐出方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の固化材の吐出方法であって、
前記トレンチャにおける前記従動輪よりも上側の位置にて前記固化材圧送管が分岐されていて、
前記従動輪の両側から前記撹拌翼の正面視で広角状に拡散するように吐出する、
ことを特徴とする固化材の吐出方法。
【請求項8】
請求項7に記載の固化材の吐出方法であって、
前記安定処理土の撹拌混合直後の流動値は、テーブルフロー値で110mm以上である、
ことを特徴とする固化材の吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原位置土(以下「原土」と略称する。)とスラリ状固化材とを撹拌混合して安定処理土を造成する地盤改良方法におけるスラリ状固化材の吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良方法におけるスラリ状固化材の吐出方法としては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
概略を説明すれば、この固化材の吐出方法は、固化材圧送管の先端部に扁平状かつ広角に拡散する拡散領域が設けられると共に、前記拡散領域よりも上流側に固化材の流速を高める加速領域が設けられていて、固化材圧送管の断面積をS1、前記拡散領域の入口の断面積をS2としたとき、両者の関係が「S1≧S2」となるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3628658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、施工中、前記拡散領域の先端部(固化材吐出口)における吐出抵抗は、安定処理土の流動性、比重(湿潤密度)及び固化材吐出口の位置(改良深度)等によって異なる。
【0006】
したがって、前記従来の固化材の吐出方法のように前記条件(S1≧S2)を充足する場合であっても、前記安定処理土の性状によっては、前記拡散領域の先端部(固化材吐出口)において固化材が撹拌翼の先端部まで到達されず不均質な安定処理土が造成されてしまうおそれがある点で、改善の余地が残されていた。
【0007】
そこで、本発明は、前記従来の固化材の吐出方法の技術的課題に鑑みて案出されたものであり、均質な安定処理土を造成することができる固化材の吐出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、その一態様として、フレームの上部に設けられた駆動輪と、フレームの下部に設けられた従動輪との間に巻き掛けられた無端状のチェーンに所定のピッチで複数の撹拌翼が設けられたトレンチャを用い、前記複数の撹拌翼を前記チェーンと共に周回移動させて地盤の掘削を行うと共に、原土とスラリ状の固化材とを撹拌混合して流動性を有する安定処理土を造成するトレンチャ式地盤改良方法に用いる固化材の吐出方法であって、前記安定処理土は、撹拌混合直後の流動値が締固めをしない供試体の作製方法によって前記供試体を作製可能な流動値を有し、前記固化材は、前記トレンチャの基端部側から先端部側に向かって前記トレンチャの長手方向に沿って設けられた固化材圧送管に合流接続される圧縮空気供給管を介して供給される圧縮空気により加圧されて前記トレンチャの先端部に設けられた固化材吐出部から吐出され、前記固化材圧送管の断面積をS1と、前記固化材吐出部の固化材吐出口の断面積をS2としたとき、「S1>S2」の関係を有すると共に、前記固化材吐出口における前記固化材の吐出圧力をPと、吐出抵抗をRとしたとき、「P>R」の関係を有する、ことを特徴としている。
【0009】
このように、本発明では、固化材圧送管に合流接続される圧縮空気供給管を介して供給される圧縮空気によって固化材が加圧されることにより、固化材吐出部における固化材の吐出圧力Pが吐出抵抗Rよりも大きくなるように設定されている。これにより、固化材を安定処理土の吐出抵抗に抗して撹拌翼の先端部まで到達させることが可能となり、均質な安定処理土を造成することができる。
【0010】
また、前記固化材の吐出方法の別の態様として、前記安定処理土の湿潤密度をρと、地盤改良体の上端から前記固化材吐出部までの深度をHとしたとき、「R≒ρ×H」の関係を有している。
【0011】
また、前記固化材の吐出方法のさらに別の態様として、前記固化材圧送管と前記圧縮空気供給管との接続部は、前記トレンチャの基端部側に設けられている、ことが望ましい。
【0012】
本発明によれば、固化材圧送管と圧縮空気供給管の接続部がトレンチャの基端部側に設けられていることから、固化材圧送管と圧縮空気供給管の接続部が固化材吐出口に近いトレンチャの先端部側に配置される場合に比べて、固化材圧送管と圧縮空気供給管の接続部から固化材吐出口までの距離、すなわちトレンチャの長手方向に沿うストレート部分を、より長く確保することが可能となる。これにより、固化材と圧縮空気の合流後の吐出圧力の低下が抑制され、固化材の安定した吐出を確保することができる。
【0013】
また、固化材圧送管と圧縮空気供給管の接続部をトレンチャの外部に配置した場合、当該接続部と固化材吐出口との距離がより大きく離間してしまうことから、例えば固化材圧送管の途中に湾曲部等が形成されるなど、当該湾曲部等によって圧縮空気により加圧された固化材の圧力が減衰してしまうおそれがある。これに対して、本発明では、固化材圧送管と圧縮空気供給管の接続部が、固化材吐出口が配置されるトレンチャに設けられていることで、前記接続部の下流側において圧縮空気により加圧された固化材の圧力の減衰が抑制され、より安定した固化材の吐出を確保することができる。
【0014】
また、前記固化材の吐出方法のさらに別の態様として、前記固化材圧送管は、前記固化材圧送管の中間部に、前記固化材圧送管が折れ曲がる折曲部を有し、前記圧縮空気供給管は、前記折曲部の外周側において、前記折曲部よりも下流側の前記固化材の送出方向に沿って接続されていて、前記固化材と前記圧縮空気の合流部における前記固化材圧送管の圧力をP1と、前記圧縮空気供給管の圧力をP2としたとき、「P1<P2」の関係を有する、ことが望ましい。
【0015】
本発明によれば、固化材と圧縮空気の合流に際して、固化材圧送管と圧縮空気供給管とは、固化材圧送管の折曲部の外周側において、当該折曲部よりも下流側の固化材の送出方向に沿って接続されている。これにより、固化材圧送管と圧縮空気供給管との接続部において、固化材の流れと圧縮空気の流れとの干渉が抑制され、固化材の流れに対して圧縮空気をより円滑に合流させることができる。
【0016】
また、圧縮空気供給管の圧力が、固化材圧送管の圧力よりも大きくなるように設定されていることで、圧縮空気の合流に際し、固化材圧送管の圧力と圧縮空気供給管の圧力との圧力差に伴い発生する負圧に基づく吸引効果によって、固化材を圧送するポンプの負荷が軽減され、より安定した固化材の圧送が可能となる。
【0017】
また、前記固化材の吐出方法のさらに別の態様として、前記固化材圧送管の管径をD1と、前記圧縮空気供給管の管径をD2としたとき、「D1≧D2」の関係を有する、ことが望ましい。
【0018】
本発明によれば、固化材圧送管の管径が圧縮空気供給管の管径と同等以上に設定されていることで、圧縮空気の流速が固化材の流速と同等以上となり、固化材に対して圧縮空気を円滑に合流させることができる。特に、折曲部の外周側で合流させる場合は、折曲部の内周側に比べて外周側の流速が早く、折曲部の内周側よりも外周側の管内圧力が低くなるため、固化材圧送管と圧縮空気供給管の管径が上記関係(D1≧D2)に設定されることで、固化材の流れに対して圧縮空気をより円滑に合流させることができる。
【0019】
また、前記固化材の吐出方法のさらに別の態様として、前記折曲部において、前記折曲部よりも下流側の前記固化材圧送管の内周側の延長線と、前記折曲部よりも上流側の前記固化材圧送管の外周側との交点をX1、前記折曲部よりも上流側の前記固化材圧送管の内周側の延長線と、前記折曲部よりも下流側の前記固化材圧送管の外周側との交点をX2としたとき、前記圧縮空気供給管は、前記折曲部における前記X1と前記X2の間の領域内で前記固化材圧送管に接続される、ことが望ましい。
【0020】
本発明によれば、圧縮空気供給管が、折曲部におけるX1とX2の間の領域内で固化材圧送管に接続されている。このため、圧縮空気供給管がX1とX2の間の領域外で固化材圧送管に接続される場合に比べて、圧縮空気によって固化材の流れが阻害され難く、固化材の流れに対して圧縮空気を円滑に合流させることが可能となる。これにより、圧縮空気によって固化材の流れが効果的に補助され、より安定した固化材の吐出を確保することができる。
【0021】
また、前記固化材の吐出方法のさらに別の態様として、前記固化材圧送管と前記圧縮空気供給管との接続部において、前記固化材圧送管の前記折曲部よりも上流側と前記圧縮空気供給管の前記接続部よりも上流側との間の劣角をθ1と、前記固化材圧送管の前記折曲部の上流側と下流側との間の劣角をθ2としたとき、「θ1<90°」かつ「θ1+θ2≒180°」の関係を有する、ことが望ましい。
【0022】
本発明によれば、「θ1<90°」かつ「θ1+θ2≒180°」の関係を有することで、固化材圧送管の折曲部の内角(劣角)が鈍角となり、かつ接続後の固化材圧送管と圧縮空気供給管の延出方向が一致することとなる。このように、固化材圧送管が緩やかに折れ曲がり、合流後の固化材の流れの方向と圧縮空気の流れの方向とが一致する(同一方向となる)ことで、固化材の流れに対して圧縮空気をより円滑に合流させることができる。
【0023】
すなわち、固化材圧送管の折曲部の内角(劣角)が鋭角である場合、折曲部における固化材の通流抵抗が大きくなり、ポンプの負荷が増大してしまう。これに対して、本発明では、固化材圧送管の折曲部の内角(劣角)が鈍角となっていることで、折曲部における固化材の通流抵抗が低減され、ひいてはポンプの負荷を低減することができる。
【0024】
また、接続後の固化材圧送管と圧縮空気供給管の延出方向が一致しない場合、合流後における圧縮空気の流速及び圧力の損失が増大してしまう。これに対して、本発明では、接続後の固化材圧送管と圧縮空気供給管の延出方向が一致していることで、合流後における圧縮空気の流速及び圧力の損失が低減され、当該合流後における圧縮空気の流速及び圧力を増大させることが可能となり、固化材の吐出圧力を効果的に向上させることができる。
【0025】
なお、θ1とθ2との和は、固化材圧送管の曲げ加工の誤差や、固化材圧送管と圧縮空気供給管の接続加工の誤差を含み、概ね180°(具体的には170°~190°)であればよく、±10°程度の誤差を許容する。
【0026】
また、前記固化材の吐出方法のさらに別の態様として、前記安定処理土の撹拌混合直後の流動値は、テーブルフロー値で110mm以上である、ことが望ましい。
【0027】
撹拌混合直後の安定処理土のテーブルフロー値が110mm未満であった場合、原土の土質性状によっては、粘性の増加と共に撹拌混合時の抵抗が上昇して当該撹拌混合直後の改良土がポーラス状となり、不均質な改良体となるおそれがある。これに対して、本発明のように、撹拌混合直後の安定処理土のテーブルフロー値を110mm以上とすることで、均質な改良体を形成することができる。
【0028】
なお、前述の安定処理土のテーブルフロー値110[mm]は、粘性土が塑性状態から液状状態の限界となる含水比(液性限界)におけるテーブルフロー値が概ね110[mm]となることによるものである。
【0029】
また、上記の撹拌混合直後の安定処理土の流動値とは、試料土(原土)に固化材を添加して撹拌混合開始から15~20分以内の安定処理土であって、固化材のゲル化(硬化)が進行していない安定処理土を意味する。
【0030】
また、前記固化材の吐出方法のさらに別の態様として、前記トレンチャにおける前記従動輪よりも上側の位置にて前記固化材圧送管が分岐されていて、前記従動輪の両側から前記撹拌翼の正面視で広角状に拡散するように吐出する、ことが望ましい。
【0031】
本発明によれば、固化材吐出部において、分岐形成された固化材圧送管によって従動輪の両側から吐出すると共に、撹拌翼の正面視にて広角状に拡散する構成となっている。このため、トレンチャの移動に際して撹拌翼の幅方向のほぼ全域にわたって固化材を行き渡らせることが可能となる。このように、トレンチャの撹拌範囲において固化材が拡散されて広く行き渡ることにより、原土と固化材の撹拌混合性を向上させ、より均質な安定処理土を造成することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、固化材吐出部における固化材の吐出圧力が吐出抵抗よりも大きくなるように設定されていることで、固化材を安定処理土の吐出抵抗に抗して撹拌翼の先端部まで到達させることが可能となる。これにより、均質な安定処理土を造成することができ、安定処理土の品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係る地盤改良装置の構成を示す概略図である。
図2図1に示すトレンチャの拡大断面図であって、(a)はトレンチャの正面図、(b)はトレンチャの側面図である。
図3図2に示す固化材圧送管(第1配管)と圧縮空気供給管(第2配管)の合流部の拡大図であって、(a)は圧縮空気供給管(第2配管)が固化材圧送管(第1配管)の外周側に合流した態様、(b)は圧縮空気供給管(第2配管)が固化材圧送管(第1配管)の内周側に合流した態様、(c)は固化材圧送管(第1配管)の折曲部が角状に形成された態様を示す図である。
図4図2に示す固化材吐出部の拡大図であって、(a)は固化材吐出部の正面図、(b)は固化材吐出部の側面図である。
図5図4に示す固化材吐出部を単体で表示した図であって、(a)は固化材吐出部の平面図、(b)は図5(a)のA-A線断面図、(c)は図5(a)のB-B線断面図である。
図6図4に示すトレンチャの固化材吐出部近傍の平面図であって、固化材吐出部から吐出された固化材の吐出の軌跡を表した図である。
図7図4に示す固化材吐出部の変形例を示す図であって、(a)は固化材吐出部の平面図、(b)は図7(a)のC-C線断面図、(c)は図7(a)のD-D線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明に係る固化材の吐出方法の実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、下記の実施形態では、本発明をトレンチャ式地盤改良方法に適用した例を示している。
【0035】
(地盤改良装置の構成)
図1は、本実施形態に係るトレンチャ式地盤改良装置の概略図を示している。図2は、トレンチャ4の拡大断面図であって、(a)はトレンチャ4の正面図、(b)はトレンチャ4の側面図を示している。なお、各図の説明では、各図中の上側であって鉛直方向上側を「上」とし、各図中の下側であって鉛直方向下側を「下」として説明する。
【0036】
本実施形態に係るトレンチャ式地盤改良装置は、図1に示すように、建設機械であるバックホウ1を母機(ベースマシン)として構成され、履帯1bの上部に旋回可能に設けられたベース1aの前部に、ブーム2及びアーム3が回動可能に連結されると共に、このブーム2及びアーム3の先端に、混合撹拌ヘッドであるトレンチャ4が着脱可能に有する。バックホウ1は、計画された改良深度Hまでトレンチャ4を地中に貫入し、ブーム2及びアーム3を操作してトレンチャ4を前後に水平掘進させることにより、土壌の掘削と共に固化材の混合撹拌を行う。
【0037】
トレンチャ4は、特に図2に示すように、フレーム40の上部に設けられた油圧モータ44により回転駆動される駆動輪41と、フレーム40の下端部に設けられた従動輪42と、に無端状のドライブチェーン43が巻き掛けられることにより構成されている。そして、ドライブチェーン43の外周側には、複数の撹拌翼45が概ね等間隔(等ピッチ)で装着されていて、当該各撹拌翼45には、幅方向に沿って複数のカッター刃46が並列に配置されている。
【0038】
また、フレーム40の下部には、下方へ開口する固化材吐出部47が設けられていて、当該固化材吐出部47からスラリ状の固化材Mが吐出される。ここで、固化材Mは、例えば図1に示すポンプGPにより加圧され、トレンチャ4の長手方向(フレーム40)に沿ってトレンチャ4の内部を貫通するように設けられた固化材圧送管である第1配管51を通じて、固化材吐出部47へと圧送される。また、固化材Mは、ポンプGPに加えて、例えば図1に示すコンプレッサCPにより加圧された圧縮空気によっても加圧される。具体的には、コンプレッサCPに接続された圧縮空気供給管である第2配管52が、トレンチャ4の上部で第1配管51に合流接続されていて、当該第2配管52を通じて圧送される圧縮空気により、第1配管51を通じて固化材吐出部47へと導かれる固化材Mがさらに加圧される構成となっている。
【0039】
なお、第2配管52は、トレンチャ4の上部であって、かつトレンチャ4の外部において第1配管51に合流接続されることが望ましい。すなわち、第2配管52は、トレンチャ4の上部において第1配管51に合流接続されることにより、トレンチャ4の長手方向に沿って配置される第1配管51のストレート部をより長く確保することが可能となっている。また、第2配管52は、トレンチャ4の外部において第1配管51に合流接続されることにより、第1配管51との接続作業やメンテナンス作業を容易に行うことが可能となっている。
【0040】
以上のような構成から、油圧モータ44により回転駆動される駆動輪41の回転に伴ってドライブチェーン43と共に前記各撹拌翼45が上下方向へ周回移動しつつ、固化材吐出部47から固化材Mが吐出されることによって、地盤の掘削と共に、この掘削された原土と固化材Mとの撹拌混合が行われる。
【0041】
(第1配管と第2配管の接続構成)
図3は、第1配管51と第2配管52の合流部の拡大図であって、(a)は第2配管52が第1配管51の外周側に合流した態様を示し、(b)は第2配管52が第1配管51の内周側に合流した態様を示し、(c)は第1配管51の折曲部510が角状に形成された態様を示している。なお、図3の各図の説明では、第1配管51の折曲部510よりも上流側を、第1配管上流部511と定義し、第1配管51の折曲部510よりも下流側を、第1配管下流部512と定義する。
【0042】
図3(a)に示すように、本実施形態では、トレンチャ4の上端側の外部にて円弧状に折り曲げられた第1配管51の折曲部510の近傍(具体的には、後述するX1とX2の間の領域Yの範囲)に、第2配管52が合流接続される構成となっている。これにより、第2配管52により圧送された圧縮空気Aが第1配管51の内部へと流入し、この圧縮空気Aによって第1配管51を流れる固化材Mがさらに加圧されて固化材吐出部47(図2参照)へ圧送される。
【0043】
ここで、第1配管51の折曲部510において、第1配管下流部512の内周側512aの延長線L1と、第1配管上流部511の外周側511bとの交点をX1、第1配管上流部511の内周側511aの延長線L2と、第1配管下流部512の外周側512bとの交点をX2としたとき、第2配管52は、折曲部510におけるX1とX2との間の領域Y内にて第1配管51に接続されている。そして、本実施形態では、前記領域Y内において、第2配管52は、第1配管下流部512の中心よりも外周側512b側、具体的には最も外周側512bに偏移した位置に接続されている。
【0044】
また、図3(a)に示すように、第1配管51の管径D1は、第2配管52の管径D2と同等以上に設定されていて、「D1≧D2」の関係を有する。なお、本実施形態では、第1配管51の管径D1は、第2配管52の管径D2に対して相対的に大きく設定されている。なお、第1配管51の管径D1と第2配管52の管径D2との関係については、「D1>D2」であることが望ましく、「D1×0.5≧D2」とすることがさらに望ましい。
【0045】
また、図3(a)に示すように、第1配管51と第2配管52との接続部では、第1配管上流部511と第2配管52との間の劣角をθ1とし、第1配管上流部511と第1配管下流部512との間の劣角をθ2としたとき、「θ1<90°」かつ「θ1+θ2≒180°」の関係を有するように構成されている。ここで、θ1とθ2の和は、第1配管51の曲げ加工の誤差や、第1配管51と第2配管52との接続加工の誤差を含み、概ね180°(具体的には170°~190°)であればよく、±10°程度の誤差を許容する。
【0046】
また、本実施形態の他の態様として、図3(b)に示すように、折曲部510におけるX1とX2との間の領域Y内であって、第2配管52は、第1配管下流部512の中心よりも内周側512a側に偏移した位置にて接続されてもよい。なお、図3(b)は、第2配管52が第1配管下流部512の最も内周側512aに偏移した位置で接続された例を示している。
【0047】
また、図3(a)、図3(b)では、折曲部510が円弧状に折り曲げられた態様を例示したが、図3(c)に示すように、折曲部510は、角状に折り曲げられてもよい。また、第2配管52は、図3(c)に示すように、折曲部510におけるX1とX2との間の領域Y内において、第1配管下流部512の中心の近傍となる径方向中間位置に接続されてもよい。
【0048】
(安定処理土の流動性)
前記トレンチャ4による撹拌混合により安定処理土を造成するにあたり、当該安定処理土は、撹拌混合直後の流動値が締固めをしない供試体の作製方法により供試体を作製可能な流動値を有している必要がある。
【0049】
なお、上記「締固めをしない供試体の作製方法」とは、「JGS0821」に記載の供試体作製方法であって、安定処理土をモールドに3層程度に分けて入れ、各層ごとに気泡の除去を行って供試体を作製する方法を意味している。
【0050】
「JGS0821」では、気泡除去の操作として、(1)コンクリート床などに軽くモールドを打ち付ける(タッピング)、(2)木槌でモールドをたたく、(3)振動テーブルにモールドを置く、などを行う旨が記載されている。よって、当該方法にて安定処理土をモールドに充填して供試体を作製するには、当該安定処理土に一定以上の流動性が必要となる。換言すれば、流動性を有する安定処理土とは、地盤の掘削とともに固化材と撹拌混合処理した直後に一定以上の流動性を有しており、当該安定処理土の供試体の作製にあたり、気泡を抜く程度の前記タッピングにてモールドにて詰められる程度の安定処理土である。
【0051】
具体的には、上記一定の流動性を有する安定処理土としては、撹拌混合直後における安定処理土のテーブルフロー値が110[mm]であることが望ましい。
【0052】
なお、前述の安定処理土のテーブルフロー値110[mm]は、粘性土が塑性状態から液状状態の限界となる含水比(液性限界)におけるテーブルフロー値が概ね110[mm]となることによるものである。
【0053】
また、上記撹拌混合直後の安定処理土の流動値とは、試料土(原土)に固化材Mを添加して撹拌混合開始から15~20分以内の安定処理土であって、固化材Mのゲル化(硬化)が進行していない安定処理土を意味する。原土の土質性状によっても異なるが、テーブルフロー値にて110[mm]未満であると、粘性の増加と共に撹拌混合の抵抗が上昇して混合撹拌直後の改良土はポーラス状となり、不均質な改良体となるおそれがあるためである。さらに望ましくは、安定処理土のテーブルフロー値が120[mm]以上であることにより、十分な撹拌混合が可能となるとともに、より均質な改良体の造成が期待できる。
【0054】
なお、本実施形態では、上記安定処理土の流動値の指標の一例としてテーブルフロー値を例示するが、当該安定処理土の流動値の指標としては、前記テーブルフロー試験に限るものではなく、スランプ試験やベーン試験等により定めることも可能である。
【0055】
(固化材の吐出圧力の具体例)
以下に、第1配管51と第2配管52の合流部における固化材Mと圧縮空気Aの具体的な諸数値の一例を示す。
【0056】
(1)固化材について
以下に、固化材添加量を100[kg/m]、水セメント比を100[%]、固化材の比重を3.06、時間当たりの施工量を50[m/h]、第1配管51の管径を1.5[インチ]とした場合の第1配管51内の固化材Mの流速S1を例示する。
まず、原土1mあたりに圧送される固化材量Mx[L]を算出する。
原土1mあたりの固化材量Mx=固化材添加量×(1/固化材の比重+水セメント比)となるため、
Mx=100[kg/m]×(1/3.06+100[%])
≒133[L]
続いて、上記原土1mあたりに圧送される固化材量Mxを基に、時間あたりの固化材の圧送量Vx[L/h]を算出する。
時間あたりの固化材の圧送量Vx=原土1mあたりの固化材量×時間あたりの施工量となるため、
Vx=133[L]×50[m/h]
≒6634[L/h]
上記時間あたりの固化材の圧送量Vxを基に、第1配管51内における固化材Mの流速Sx[m/秒]を算出する。
固化材の流速S1=1秒あたりの固化材の圧送量÷第1配管の流路断面積となるため、
S1=6634[L/h]÷(1000×60×60)÷〔{(38.1[mm]÷1000)×3.14}÷4〕
=1.62[m/秒]
このように、第1配管51では、固化材Mは、1.62[m/秒]の速度で圧送されることになる。なお、第1配管51に圧縮空気供給管である第2配管52を合流接続させない場合、管路抵抗により固化材吐出部47近傍の第1配管51の管内圧力は、0.2[MPa]以下となる場合がある。
【0057】
(2)圧縮空気について
以下に、コンプレッサによる圧縮空気Aの供給量を2.8[m/分]、第2配管52の管径を1.5[インチ]とした場合の第2配管52内の圧縮空気Aの流速S2を例示する。
圧縮空気の流速S2=圧縮空気の供給量÷第2配管の流路断面積となるため、
=2.8[m/分]÷60÷〔{(38.1[mm]÷1000)×3.14}÷4〕
=40.95[m/秒]
このように、第2配管52では、圧縮空気Aは、40.95[m/秒]の速度で供給されることになる。なお、このときの第2配管52の管内圧力は、約0.7[MPa]である。
【0058】
上述のように、第1配管51の管内圧力P1は約0.1~0.2[MPa]であり、第2配管52の管内圧力P2は約0.7[MPa]であることから、第1配管51と第2配管52の合流部では「P1<P2」の関係となっている。
【0059】
また、本実施形態では、第1配管下流部512にて、第1配管下流部512の外周側511bに第2配管52が第1配管下流部512に沿って接続されている。このため、1.62[m/秒]の速度で圧送される固化材Mに41.0[m/秒]の速度で供給される圧縮空気Aが合流することによって、固化材Mは、合流後の第1配管下流部512における圧力が上昇すると共に、第1配管下流部512における圧送速度が加速され、固化材吐出部47より吐出されることとなる。
【0060】
(固化材の吐出圧力と吐出抵抗との関係)
第1配管51を流れる固化材Mに合流する圧縮空気Aは、コンプレッサにより1~2.5[m/分]で約0.7[MPa]に加圧された圧縮空気であって、当該圧縮空気Aを固化材Mが流れる第1配管51に合流させることで、当該合流部から固化材吐出部47までの固化材Mの圧力Pは常時0.3[MPa]以上に維持される。したがって、第1配管51の管径(通常は1.5~2.0インチ)、固化材の圧送量Vx[L/分]及び圧送距離等にもよるが、固化材吐出部47における固化材Mの吐出圧力Pは、常時0.3[MPa]以上に維持されることとなる。
【0061】
ここで、例えば安定処理土の湿潤密度ρを1.6[t/m]、地盤改良部の上端部から固化材吐出部47までの深度Hを13[m]とした場合、固化材吐出部47の固化材吐出口470における吐出抵抗Rは、以下の計算式に基づき算出することができる。
固化材吐出部における吐出抵抗R=安定処理土の湿潤密度ρ×地盤改良部の上端部から固化材吐出部までの深度Hとなるため、
R=1.6×13
=20.8[t/m
≒0.21[MPa]
このように、固化材吐出部47の固化材吐出口470では、固化材Mの吐出圧力Pが0.3[MPa]、吐出抵抗Rが0.21[MPa]となり、「P>R」の関係を有するものとなっている。
【0062】
(固化材吐出部の構成)
図4は、固化材吐出部47の近傍の拡大図であって、(a)は固化材吐出部47の正面図を示し、(b)は固化材吐出部47の側面図を示している。図5は、固化材吐出部47を単体で表示した図であって、(a)は固化材吐出部47の平面図を示し、(b)は図5(a)のA-A線に沿って切断した断面図を示し、(c)は図5(a)のB-B線に沿って切断した断面図を示している。図6は、トレンチャ4の固化材吐出部47近傍の平面図であって、当該固化材吐出部47から吐出された固化材Mの吐出の軌跡を表している。
【0063】
図4に示すように、固化材吐出部47は、トレンチャ4の従動輪42の上部において二股状に分岐形成された一対の第1固化材吐出部471と第2固化材吐出部472とを含む。第1固化材吐出部471は、従動輪42の幅方向の一方側において下方へ開口し、第2固化材吐出部472は、従動輪42の幅方向の他方側において下方へ開口する。なお、第1固化材吐出部471及び第2固化材吐出部472は、同一の形状を有する。
【0064】
また、固化材吐出部47は、図5に示すように、概ね一定の外径を有する円管状の吐出基部473と、吐出基部473の先端部に設けられ、平面視が六角形状を有する吐出先端部474と、を有する。なお、本実施形態では、吐出基部473と吐出先端部474とが一体に形成されている。吐出基部473は、横断面が円環状を呈し、内部に概ね一定の内径R1を有する吐出通路473aを有する。吐出先端部474は、上流側が吐出通路473aに接続されて先端側に向かって内径R2が徐々に小さくなる円錐テーパ部474aと、円錐テーパ部474aの下流側に設けられ、トレンチャ4の幅方向に相当する二面幅に沿って概ね矩形溝状に切り欠かれた切欠き溝475と、を有する。また、内径R2のテーパ角θxは鋭角に設定されていて、吐出通路473aから円錐テーパ部474aへ比較的緩やかに縮径する構成となっている。
【0065】
このように、固化材吐出部47は、図5(b)(c)に示すように、吐出先端部474に円錐テーパ部474a及び切欠き溝475が設けられていることで、円錐テーパ部474aの内壁に沿って流れる固化材Mが、切欠き溝475の長手方向、すなわちトレンチャ4の幅方向に拡がることで、偏平ラッパ状に拡散して吐出されるようになっている。より具体的には、円錐テーパ部474aの内壁に沿って流れる固化材Mは、図5(b)(c)に破線の矢印で示すように、切欠き溝475の短手方向では切欠き溝475の内壁に衝突することにより拡散が規制され、切欠き溝475の長手方向のみに拡散することにより、前記偏平ラッパ状に拡散することとなる。この際、固化材Mの拡散角度θm(図4参照)は、円錐テーパ部474aのテーパ角度θtと同等となる。
【0066】
ここで、円錐テーパ部474aは、図5(b)に示す断面において形成されている必要がある。換言すれば、本実施形態では、円錐テーパ部474aの形成の都合上、全周に円錐テーパ部474aが形成された態様を例示しているが、図5(c)に示す断面においては、必ずしも円錐テーパ部474aが形成されている必要はない。
【0067】
以上のように、本実施形態では、固化材吐出部47から拡散するように固化材Mが吐出されることにより、トレンチャ4の水平掘進に伴い、固化材Mは、図6にハッチングで示すようなトレンチャ4の幅全体に広がる軌跡となる。
【0068】
図7は、固化材吐出部47の変形例を示す図であって、(a)は固化材吐出部47の平面図を示し、(b)は図7(a)のC-C線に沿って切断した断面図を示し、(c)は図7(a)のD-D線に沿って切断した断面図を示している。
【0069】
固化材吐出部47の他の態様(変形例)として、固化材吐出部47は、図7に示すように、吐出基部473と吐出先端部474とが、別体に形成されていてもよい。具体的には、内部に一定の内径R1を有する吐出基部473の先端部に、トレンチャ4の幅方向に沿って概ね矩形溝状に切り欠かれた切欠き溝475を有する吐出先端部474が取り付けられている。さらに、吐出先端部474は、切欠き溝475の長手方向両端部に当該切欠き溝475の長手方向の開口を閉塞する一対の閉塞部材476が設けられている。これにより、吐出先端部474は、トレンチャ4の幅方向において吐出通路473aよりも拡大し、かつトレンチャ4の幅方向に直交する方向において吐出通路473aよりも縮小する、偏平状の開口部OPが構成されている。
【0070】
このように、当該変形例に固化材吐出部47では、吐出先端部474において偏平状の開口部OPが構成されていることで、吐出通路473aを流れる固化材Mが、トレンチャ4の幅方向に拡大する切欠き溝475の長手方向に拡散すると共に、当該拡散が閉塞部材476によって規制され、図7(b)(c)に破線の矢印で示すように、トレンチャ4の正面視においてトレンチャ4の幅方向に偏平ラッパ状に拡散して吐出されるようになっている。この際、固化材Mの拡散角度θm(図4参照)は、開口部OPにおいて吐出通路473aの開口縁部と各閉塞部材476の先端部内側縁とを結んでなるテーパ角度θtと同等となる。
【0071】
(本実施形態の作用効果)
従来の固化材の吐出方法のように前記条件(S1≧S2)を充足する場合でも、安定処理土の性状によっては、固化材吐出口の先端部において固化材が撹拌翼の先端部まで到達されず不均質な安定処理土が造成されてしまうおそれがある点で、改善の余地が残されていた。
【0072】
具体的には、例えば固化材吐出量が少量(約60L/分)の場合、ポンプGPの圧送圧力は0.7[MPa]程度となる。この場合において、第1配管51に第2配管52を合流接続させない場合、管路抵抗により固化材吐出部47近傍における固化材Mの管内圧力は、0.2[MPa]以下まで低下することがある。
【0073】
改良深度Hや安定処理土の流動値によっても異なるが、上記の場合、固化材Mの吐出圧力Pと吐出抵抗Rとの関係が「P≦R」となってしまう。これにより、一時的に固化材吐出部47の固化材吐出口470が閉塞され、当該固化材吐出口470において固化材Mが撹拌翼45の先端部まで到達されない問題を招来してしまう。すなわち、固化材吐出口470の閉塞が続いた場合、固化材圧送管内の圧力Pが上昇して「P>R」となることによって、一時的に固化材吐出口470から吐出されるものの、安定した固化材Mの吐出がなされず、不均質な安定処理土の造成を招来し、安定処理土の品質が低下してしまうおそれがある。
【0074】
これに対して、本実施形態に係る固化材の吐出方法では、固化材圧送管である第1配管51に圧縮空気供給管である第2配管52を合流接続し、第2配管52を介して供給される圧縮空気Aによって固化材Mを加圧することにより、固化材吐出部47における固化材Mの吐出圧力Pが吐出抵抗Rよりも大きくなるように設定されている。これにより、安定処理土の吐出抵抗Rに抗して固化材Mを撹拌翼45の先端部まで到達させることが可能となり、その結果、均質な安定処理土の造成に寄与し、安定処理土の品質向上を図ることができる。
【0075】
ここで、安定処理土の湿潤密度ρを1.6[t/m]、地盤改良部の上端部から固化材吐出部47までの深度Hを13[m]とした場合、前述の試算の通り、吐出抵抗Rが0.21[MPa]程度となるため、「P>R」の関係を確保するには、固化材Mの吐出圧力Pを、少なくとも0.3[MPa]以上とすることが望ましい。
【0076】
また、上記吐出抵抗Rの算出に際しては、安定処理土の湿潤密度をρと、地盤改良体の上端から固化材吐出部47までの深度をHとしたとき、「R≒ρ×H」の関係となる。ここで、当該吐出抵抗Rの算出にあたり「R=ρ×H」ではなく「R≒ρ×H」としたのは、実際には安定処理土の湿潤密度ρや深度H以外にも様々な要素の影響があるためである。
【0077】
また、本実施形態では、第1配管51と第2配管52の接続部がトレンチャ4の基端部側、すなわち長手方向のアーム3側に設けられている。このため、第1配管51と第2配管52の接続部が固化材吐出部47の近傍であるトレンチャ4の先端部側に配置される場合に比べて、第1配管51と第2配管52との接続部から固化材吐出部47までの距離、すなわちトレンチャ4の長手方向に沿うストレート部を、より長く確保することが可能となる。これにより、固化材Mに圧縮空気Aが合流した後の固化材Mの吐出圧力Pの低下が抑制され、固化材Mの安定した吐出を確保することができる。
【0078】
また、第1配管51と第2配管52の接続部をトレンチャ4の外部に配置した場合、当該接続部と固化材吐出部47との距離がより大きく離間してしまうことから、例えば第1配管51の途中に湾曲部等が形成されるなど、かかる湾曲部等によって圧縮空気Aにより加圧された固化材Mの圧力が減衰してしまうおそれがある。これに対して、本実施形態では、第1配管51と第2配管52の接続部が、固化材吐出部47が配置されるトレンチャ4に設けられていることにより、当該接続部の下流側において圧縮空気Aによって加圧された固化材Mの圧力の減衰が抑制され、より安定した固化材Mの吐出を確保することができる。
【0079】
また、本実施形態では、固化材Mと圧縮空気Aの合流に際して、第1配管51と第2配管52は、第1配管51の折曲部510の外周側において、当該折曲部510よりも下流側の固化材Mの送出方向に沿って接続されている。これにより、第1配管51と第2配管52との接続部において、固化材Mの流れと圧縮空気Aの流れとの干渉が抑制され、固化材Mの流れに対して圧縮空気Aをより円滑に合流させることができる。
【0080】
また、本実施形態では、第2配管52の圧力P2が、第1配管51の圧力P1よりも大きくなる、すなわち「P1<P2」の関係を有する構成となっている。このため、圧縮空気Aの合流に際し、第1配管51の圧力P1と第2配管52の圧力P2との圧力差に伴って発生する負圧に基づく吸引効果により、固化材Mを圧送するポンプGPの負荷が軽減されて、より安定した固化材Mの圧送が可能となる。
【0081】
また、本実施形態では、第1配管51の管径D1が第2配管52の管径D2と同等以上、すなわち「D1≧D2」の関係を有するように設定されている。このため、圧縮空気Aの流速が固化材Mの流速と同等以上となり、固化材Mに対して圧縮空気Aを円滑に合流させることができる。とりわけ、折曲部510の外周側で合流させる場合、折曲部510の内周側に比べて外周側の流速が早いことから、折曲部510の内周側よりも外周側の管内圧力が低くなる。このため、第1配管51の管径D1が第2配管52の管径D2以上、すなわち上記「D1≧D2」を有するように設定されることで、固化材Mの流れに対して圧縮空気Aをより円滑に合流させることができる。
【0082】
また、本実施形態では、第1配管下流部512の内周側512aの延長線L1と第1配管上流部511の外周側511bとの交点をX1、第1配管上流部511の内周側511aの延長線L2と第1配管下流部512の外周側512bとの交点をX2としたとき、第2配管52が、折曲部510におけるX1とX2の間の領域Y内で第1配管51側に接続されている。このため、第1配管51がX1とX2の間の領域Y外で第1配管51に接続される場合に比べて、圧縮空気Aによって固化材Mの流れが阻害され難く、固化材Mの流れに対して圧縮空気Aを円滑に合流させることが可能となる。これにより、圧縮空気Aによって固化材Mの流れが効果的に補助され、より安定した固化材の吐出を確保することができる。
【0083】
また、本実施形態では、第1配管51の折曲部510よりも上流側と第2配管52の接続部よりも上流側との間の劣角をθ1、第1配管51の折曲部510の上流側と下流側との間の劣角をθ2としたとき、「θ1<90°」かつ「θ1+θ2≒180°」の関係を有する構成となっている。このため、第1配管51の折曲部510の内角(劣角)が鈍角となり、かつ、接続後における第1配管51と第2配管52の延出方向が一致することとなる。このように、第1配管51が緩やかに折れ曲がり、合流後の固化材Mの流れの方向と圧縮空気Aの流れの方向とが一致する(同一方向となる)ことで、固化材Mの流れに対して圧縮空気Aをより円滑に合流させることができる。
【0084】
すなわち、第1配管51の折曲部510の内角(劣角)が鋭角である場合には、折曲部510における固化材Mの通流抵抗が大きくなり、ポンプGPの負荷が増大してしまう。これに対して、本実施形態では、第1配管51の折曲部510の内角(劣角)が鈍角となっていることで、折曲部510における固化材Mの通流抵抗が低減され、ひいてはポンプGPの負荷を低減することができる。
【0085】
また、接続後の第1配管51と第2配管52の延出方向が一致しない場合には、合流後における圧縮空気Aの流速や圧力の損失が増大してしまう。これに対して、本実施形態では、接続後における第1配管51と第2配管52の延出方向が一致することで、合流後における圧縮空気Aの流速や圧力の損失が低減されて、当該合流後における圧縮空気Aの流速や圧力を増大させることが可能となる。これにより、固化材Mの吐出圧力Pを効果的に向上させることができる。
【0086】
なお、上記の関係式「θ1+θ2≒180°」においてθ1とθ2との和は、第1配管51の曲げ加工の誤差や、第1配管51と第2配管52との接続加工の誤差を含んでいるため、概ね180°、具体的には170°~190°であればよく、±10°程度の誤差を許容する。
【0087】
また、本実施形態では、撹拌混合直後における安定処理土のテーブルフロー値が110[mm]となっている。撹拌混合直後の安定処理土のテーブルフロー値が110[mm]未満であった場合、原土の土質性状によっては、粘性の増加と共に撹拌混合時の抵抗が上昇して当該撹拌混合直後の改良土がポーラス状となり、不均質な改良体となるおそれがある。これに対して、本実施形態のように、撹拌混合直後の安定処理土のテーブルフロー値を110[mm]以上とすることで、均質な改良体を形成することができる。
【0088】
また、本実施形態では、固化材吐出部47において、分岐形成された第1配管51によって従動輪42の両側から吐出すると共に、撹拌翼45の正面視にて各固化材吐出部47の固化材吐出口470から広角状に拡散する構成となっている。このため、トレンチャ4の移動に際して、撹拌翼45の幅方向のほぼ全域にわたって固化材Mを行き渡らせることが可能となる。このように、トレンチャ4の撹拌範囲において固化材Mが拡散されて広く行き渡ることにより、原土と固化材Mの撹拌混合性を向上させ、より均質な安定処理土を造成することができる。
【0089】
本発明は、前記実施形態において例示した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適用対象の仕様等に応じて自由に変更することができる。
【0090】
特に、第1配管51と第2配管52との接続位置については、上記実施形態で例示した態様に限定されるものではなく、トレンチャ4の内外や折曲部510の前後を問わず、適用するトレンチャ式地盤改良装置の仕様等に応じて自由に変更可能である。
【符号の説明】
【0091】
1…バックホウ(ベースマシン)
2…ブーム
3…アーム
4…トレンチャ
40…フレーム
41…駆動輪
42…従動輪
43…チェーン
44…油圧モータ
45…撹拌翼
46…カッター刃
51…第1配管(固化材圧送管)
510…折曲部
511…第1配管上流部
511a…第1配管上流部の内周側
511b…第1配管上流部の外周側
512…第2配管下流部
512a…第2配管上流部の内周側
512b…第2配管上流部の外周側
52…第2配管(圧縮空気供給管)
GP…ポンプ
CP…コンプレッサ
M…固化材
A…圧縮空気
P…吐出圧力
R…吐出抵抗
【要約】
【課題】均質な安定処理土を造成することができる固化材の吐出方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る固化材の吐出方法では、固化材圧送管である第1配管51に圧縮空気供給管である第2配管52を合流接続し、第2配管52を介して供給される圧縮空気Aによって固化材Mを加圧することにより、固化材吐出部47における固化材Mの吐出圧力Pが吐出抵抗Rよりも大きくなるように設定されている。これにより、安定処理土の吐出抵抗Rに抗して固化材Mを撹拌翼45の先端部まで到達させることが可能となり、その結果、均質な安定処理土の造成に寄与し、安定処理土の品質向上を図ることができる。
【選択図】図3
図1
図2
図3
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図7