(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】チューブ付継手構造の製造方法及びチューブ付継手構造
(51)【国際特許分類】
B29C 65/56 20060101AFI20231211BHJP
B29C 35/08 20060101ALI20231211BHJP
F16J 15/14 20060101ALI20231211BHJP
F16L 13/12 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
B29C65/56
B29C35/08
F16J15/14 C
F16L13/12
(21)【出願番号】P 2023552081
(86)(22)【出願日】2023-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2023010927
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2022070639
(32)【優先日】2022-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511175004
【氏名又は名称】大生工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】向 恭男
(72)【発明者】
【氏名】小山 厚
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-514501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0186658(US,A1)
【文献】特開2012-37045(JP,A)
【文献】特開2019-143660(JP,A)
【文献】特開2016-147969(JP,A)
【文献】特表2015-520242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00- 65/82
B29C 35/08
F16J 15/00- 15/14
F16L 13/00- 29/04
C09J 1/00- 5/10
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取り付け穴を有する基体に接続チューブが取り付けられたチューブ付継手構造の製造方法であって、
中空円柱状の光硬化性ゲル状体を用意する工程と、
前記取り付け穴に前記光硬化性ゲル状体を装着する工程と、
前記光硬化性ゲル状体の中空孔内に前記接続チューブの端部を差し込む工程と、
光を照射して前記光硬化性ゲル状体を硬化させる工程と、
を含む、チューブ付継手構造の製造方法。
【請求項2】
前記光硬化性ゲル状体を用意する工程が、ゲル化前の光硬化性ゲル状体の溶液を成形型に流し込んで中空円柱状の光硬化性ゲル状体を作製することを含む請求項1に記載のチューブ付継手構造の製造方法。
【請求項3】
前記光硬化性ゲル状体を用意する工程が、あらかじめ作製した光硬化性ゲル状体の略中央に、前記接続チューブの外径より小さな内径を有する孔を作製することを含む請求項1に記載のチューブ付継手構造の製造方法。
【請求項4】
前記取り付け穴が、前記基体の表面から内部へ向けて拡径した逆テーパー形状を有する請求項1に記載のチューブ付継手構造の製造方法。
【請求項5】
前記基体が、前記取り付け穴の内面に環状、らせん状又は点状の凹凸を有する請求項1に記載のチューブ付継手構造体の製造方法。
【請求項6】
前記光硬化性ゲル状体が、多官能性ウレタン(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含む光硬化性組成物(A)と、ポリウレタン(B)と、を少なくとも含む請求項1~5のいずれか一項に記載のチューブ付継手構造の製造方法。
【請求項7】
前記光硬化性ゲル状体が、JIS K 6235に基づくデュロメータによる測定で硬度E1以上E30以下である、請求項6に記載のチューブ付継手構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本出願は、2022年4月22日に日本国において出願された特願2022-070639に基づき優先権を主張し、当該出願に記載された内容は、本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、チューブ付継手構造の製造方法及びチューブ付継手構造に関する。
【背景技術】
【0003】
配管継手は、取付側ネジ穴加工部にネジ部をねじ込み、継手の反対側にホース若しくはチューブを取り付けて使用する。国や産業分野によってネジの規格が異なり、ホース若しくはチューブにも様々なサイズが存在すため互換性に欠ける。
【0004】
従来の一般的な継手とチューブ連結部の継手構造は、例えば
図5に示したように、軟質樹脂管10の差込スリーブ21を有する継手本体20と、この継手本体20の胴部22に螺合可能な袋ナット30と、軟質樹脂管10を挿通した状態で袋ナット30に収容させる割りリング状のチャックリング40とからなる。そして、この種の継手構造によれば、軟質樹脂管10を袋ナット30およびチャックリング40を介して継手本体20のスリーブ21に差し込み、袋ナット30を継手本体20の胴部22に締め込むことにより、チャックリング40を縮径させて、軟質樹脂管10を前記スリーブ21に締め付けて使用するが、部品点数が多くコストが嵩むうえ、チューブ取り付け作業工程及び取り付け側のネジ込みのトルク管理など作業工数も多い。
【0005】
また、取り付け側にはネジ穴加工を施してあることが、管用継手の原則となる。ネジ穴切削加工方法としては、例えば、まずセンタードリルにてセンター穴をあけ、続いてドリル加工にて下穴をあけた後、用途に応じてリーマ加工、ネジ切り、ザグリ加工など特定の加工を施す。ネジ切り加工には、下穴加工の後にタップ加工を施す。タップと呼ばれるネジ切り専用の刃物を用い、一定比率の回転速度と送り速度で穴に入れ、らせん状のネジ穴を作製する。ネジ穴加工には時間と工数がかかり、ネジ穴加工が多ければ多いほど製品コストが上がるという問題がある。
【0006】
一方、ガス配管に設けたネジ継手部からのガス漏れを予防したり、阻止するために、ネジ継手部の少なくとも螺合箇所の外側端部に、光硬化性樹脂組成物を塗布して被覆部を形成し、その被覆部に光を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化反応させてネジ継手部の保護層を形成するネジ継手部の保護方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法は、光硬化性樹脂組成物を用いてネジ継手部の気密性を保持するものであるが、チューブと継手の互換性や部品点数、作業時間の点では従来法と変わらず、さらに追加の時間と工数が掛かり、製品コストが上がるという問題点が残る。そこで、本発明は、互換性、作業性及び加工性が良好な配管継手を用いてチューブ付継手構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、接続チューブの外径より小さい孔を有する光硬化性ゲル状の円筒継手を使用するものである。接続チューブをこの孔に挿通することで、自己成型性を有する光硬化性ゲル状体が外側に広がり取り付け穴に密着することができ、続いて、光照射によりこの光硬化性ゲル状の円筒継手を硬化させることにより、チューブ取り付け穴の気密、接着性を保持するようにした。
すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
【0010】
(1)取り付け穴を有する基体に接続チューブが取り付けられたチューブ付継手構造の製造方法であって、中空円柱状の光硬化性ゲル状体を用意する工程(S1)と、取り付け穴に、この光硬化性ゲル状体を装着する工程(S2)と、光硬化性ゲル状体の中空孔内に接続チューブの端部を差し込む工程(S3)と、光を照射して光硬化性ゲル状体を硬化させる工程(S4)と、を含むチューブ付継手構造の製造方法。
(2)光硬化性ゲル状体を用意する工程が、ゲル化前の光硬化性ゲル状体の溶液を成形型に流し込んで中空円柱状の光硬化性ゲル状体を作製することを含む(1)に記載のチューブ付継手構造の製造方法。
(3)光硬化性ゲル状体を用意する工程が、あらかじめ作製した光硬化性ゲル状体の略中央に、接続チューブの外径より小さな孔を作製することを含む(1)に記載のチューブ付継手構造の製造方法。
(4)取り付け穴が、基体の表面から内部へ向けて拡径した逆テーパー形状を有する(1)に記載のチューブ付継手構造の製造方法。
(5)基体が、取り付け穴の内面に環状、らせん状又は点状の凹凸を有する(1)に記載のチューブ付継手構造体の製造方法。
(6)光硬化性ゲル状体が、多官能性ウレタン(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含む光硬化性組成物(A)と、ポリウレタン(B)と、を少なくとも含む(1)~(5)のいずれかに記載のチューブ付継手構造の製造方法。
(7)光硬化性ゲル状体が、JIS K 6235に基づくデュロメータによる測定で硬度E1以上E30以下である、(6)に記載のチューブ付継手構造の製造方法。
(8)取り付け穴を有する基体と、取付け穴に光硬化性樹脂により取り付けられた接続チューブと、を含み、光硬化性樹脂は、接続部位において取付け穴と接続チューブの隙間を塞ぐような形状で硬化した樹脂である、チューブ付継手構造。
(9)光硬化性樹脂が、JIS K 6235に基づくデュロメータによる測定で硬度E75以上である、(8)に記載のチューブ付継手構造。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、チューブや取り付け穴の大きさや規格ごとに配管継手を用意することなく互換性、作業性及び加工性が良好なチューブ付継手構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、1つの実施形態に係るチューブ付継手構造の製造方法の工程フロー図である。
【
図2】
図2は、1つの実施形態に係る中空円柱状の光硬化性ゲル状体を作製する工程を表す模式図である。
【
図3】
図3は、1つの実施形態に係るチューブ付継手構造の製造工程(S2~S4)を示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、他の実施形態に係るチューブ付継手構造の製造方法を示す断面模式図である。
【
図5】
図5は、従来技術における一般的な継手構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
1. 定義
<光硬化性ゲル状体>
本明細書において、「光硬化性ゲル状体」とは、可視光又は紫外線などの光照射により硬化し得るゲル状、グミ状、ゼリー状となった材料を総括したものをいう。ゲル状体(ゲル材料)は、三次元に架橋された高分子ネットワークを有し、この高分子ネットワークの内部に水又は有機溶媒を含んで膨潤したソフトマテリアルである。水を含んでゲル化したものはハイドロゲル、有機溶媒を含んでゲル化したものはオルガノゲル等と呼ばれる。ゲル材料は、従来、紙おむつ、コンタクトレンズ、高吸水性樹脂、徐放剤等の日用品や、食品、化粧品等に利用されており、近年では、ハップ剤やドラッグデリバリーシステム、再生医療基材等の医療用材料、リチウムイオンポリマー電池等の電子材料、衝撃吸収剤や制振・防音材料等、その応用は多岐にわたる。ところが、ゲル材料は一般に機械強度が低く、わずかな応力で破壊されてしまうため、安定な機械強度を必要とする用途には適さなかったが、本実施形態の光硬化性ゲル状体は、光照射前は使用面の形状に合わせて変形する自己成型性と、光照射後は硬化することにより高い機械的強度を有する。
【0015】
このようなゲル材料に光硬化性を付与する材料としては、2つの化学が広範に用いられる。1つはアクリレートであり、他方はエポキシである。アクリレートに基づく系は、光で生成するラジカル化学種が引き金となる。光開始および重合におけるラジカルの半減期は比較的短いので、活性な照射が行われている時にだけ重合は起こる。エポキシに基づく系は、カチオンメカニズムを通じて硬化し、このメカニズムによって、通常オニウム塩の形で潜在する酸が、UV線によってフラグメント化して強酸を生じ、次いで、これがエポキシ基の自己付加を開始してエーテル結合を生成させる。堅い系では、カチオン中心はマトリックスに捕捉された状態になり、ポストベーク(post-bake)が、マトリックスの可動性を、したがって硬化を増大させるために使用され得る。柔らかいシリコーンエポキシでは、重合は室温で継続し得る。光硬化性ゲル状体の硬化物を「光硬化性樹脂」と称する場合がある。
【0016】
<基体>
本明細書において、「基体」とは、継手と接続される配管又は装置のことをいい、例えば、流体が内部を通る流体機器が挙げられる。流体が水の場合の流体機器の例としては水栓などがある。一方、流体が空気の場合は、空気圧配管継手ユニットなどが例示される。一般的な組立装置や製造装置においては、操作容易性や簡便性からアクチュエータとして空気圧シリンダが使用され、空気圧シリンダに対する圧縮空気の供給を制御するために方向制御弁、圧力制御弁および流量制御弁などを有する空気圧システムが利用されることが多い。このような空気圧システムは空気圧源から空気圧シリンダや方向制御弁などの空気圧作動機器に圧縮空気を供給するためにホースやチューブなどからなる多数本の空気圧配管を有しており、このような空気圧配管を、配管継手ユニットを介して空気圧源に接続するようにしている。
【0017】
空気圧配管継手ユニットを空気圧源と空気圧作動機器との間に配置し、配管継手ユニットを中継して空気圧作動機器と空気圧源とを接続するようにすると、空気圧作動機器の増加や変更に際しては、空気圧配管継手ユニットに空気圧配管を介して空気圧作動機器を接続することにより、空気圧システムの組み替えを容易に行うことができる。このような配管継手ユニットとしては、それぞれ複数の連通孔が形成されるとともにそれぞれの連通孔に連通するクイック継手などの継手が設けられた2つの継手ブロックを有するものが使用されており、空気圧システムには複数の空気圧配管継手ユニットが使用されることになる。
【0018】
<接続チューブ>
ICやLSI等の量産品の製造装置は、複数の部分に分解された状態で製造ラインにまで搬送されて製造ラインにおいて組み立てて使用されることになる。そのため、製造装置の組み立て時に多数のホースやチューブを連結する作業が不可避であり、チューブ相互を容易に連結し得るようにするために、空気圧配管継手装置が使用されている。このような空気圧配管継手装置を使用すると、複数のチューブの中から特定のチューブ同士を確実に連結させることができ、誤配管のおそれをなくすことができる。
【0019】
この接続チューブの材質、断面形状、大きさは特に限定されない。材質は、例えば金属(例えば、ステンレス鋼や真鍮など)、例えばセラミックス(例えば、アルミナや炭化ケイ素など)、例えば樹脂(例えば、ニトリルゴムやエチレンプロピレンゴム等の合成ゴム、ポリプロピレンやポリアミド等の合成樹脂など)何れであっても良い。また、これら素材の複合材でも良く、フレキシブルな素材、例えばゴムや樹脂は好ましい。接続チューブの断面形状は、耐圧性に優れることから、円形が好ましい。
【0020】
2. チューブ付継手構造の製造方法
次に、チューブ付継手構造の製造方法について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、1つの実施形態に係るチューブ付継手構造の製造方法の工程フロー図である。本実施形態に係る製造方法は、中空円柱状の光硬化性ゲル状体を用意する光硬化性ゲル状体の作製工程(S1)と、取り付け穴に光硬化性ゲル状体を装着する装着工程(S2)と、光硬化性ゲル状体の中空孔内へ接続チューブの端部を差し込む差し込み工程(S3)と、光を照射して光硬化性ゲル状体を硬化させる光照射工程(S4)と、を含む。
【0021】
<光硬化性ゲル状体の作製工程(S1)>
本工程で作製される光硬化性ゲル状体は、グミ状であって使用面の形状に合わせた自己成形性を有し、かつ光照射によって成形された形を維持したまま硬化し得るものが好ましい。一例として、多官能ウレタン(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含む光硬化性組成物と、ポリウレタンと、を用いてもよい。多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、イソシアネート基とヒドロキシ基とを反応させたウレタン結合、およびアクリル基を有する。アクリル基は、アクリロイル基およびメタアクリロイル基(「メタクロイル基」ともいう。)の少なくとも一方である。多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、モノマーよりも、オリゴマーである方が好ましい。オリゴマーは、単量体(モノマーともいう。)の連結単位が比較的小さく、モノマーの数が2以上で1000以下程度の重合体を意味する。多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、「多官能」であるから、官能基(アクリル基、アクリロイル基)の数が2以上、好ましくは3以上のものを意味する。
【0022】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリエーテルポリオール若しくはポリエステルポリオールと、イソシアネート化合物との反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより製造可能である。多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートであっても、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートであっても良い。
【0023】
光重合開始剤は、ウレタン(メタ)アクリレートとの共存下において、可視光または紫外線に代表される光の照射によりウレタン(メタ)アクリレートのラジカル重合を開始できる組成物(成分)である。光重合開始剤としては、例えば、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-1-プロパノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン化合物; ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン化合物; ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物; チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン化合物; 4,4’-ジメチルアミノチオキサントン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、α-アシロキシムエステル、ベンジル、メチルベンゾイルホルメート(「バイアキュア55」)、2-エチルアンスラキノン等のアンスラキノン化合物; ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシド化合物等の1または2以上を用いることができる。特に好ましい光重合開始剤は、アシルフォスフィンオキシド化合物であって、さらに好ましい光重合開始剤は、ビスアシルホスフィンオキシド系の光重合開始剤であり、その中でも特により好ましい光重合開始剤は、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドである。
【0024】
ポリウレタンは、ポリオール化合物(単に、「ポリオール」ともいう。)、イソシアネート化合物(単に、「イソシアネート」ともいう。)および水酸基付与添加剤としてのアクリレートモノマーを、少なくとも含む熱硬化性組成物を加熱して合成することができる。ポリウレタン以外にも、一般に用いられるポリエステルなどの樹脂、熱可塑性エラストマー等が使用可能である。また、これらの樹脂を複数組み合わせるか、炭素素材、金属粉体及びガラス繊維などを合わせて使用してもよい。
【0025】
この光硬化性ゲル状体の作製方法は、熱硬化性組成物と光硬化性組成物とを混合する混合工程と、混合工程後の混合物を熱硬化させる熱硬化工程(ゲル化工程)と、を含む。光硬化性組成物:熱硬化性組成物は、質量比にて、25:75~55:45の範囲内である。光硬化性組成物:熱硬化性組成物は、好ましくは、質量比にて、41:59~50:50の範囲内である。熱硬化性組成物に属するアクリレートモノマーは、好ましくは、ヒドロキシエチルアクリレートおよび/またはペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレートである。
【0026】
次に、より具体的かつ例示的な光硬化性ウレタンゲル状体の製造方法について説明する。
【0027】
溶媒としての脱水アセトンに、光重合開始剤を溶解する。次に、その溶解物を多官能ウレタン(メタ)アクリレートに添加する。光重合開始剤と多官能ウレタン(メタ)アクリレートと脱水アセトンの混合物は、90~100℃の温度にて加熱される。こうして、光硬化性組成物ができあがる。一方、ポリウレタンの主剤であるポリオール化合物に水酸基付与添加剤(アクリレートモノマー)を添加し、混合する。この結果、ポリオール化合物にアクリロイル基が導入される。次に、その混合物に、硬化剤であるイソシアネート化合物を添加して攪拌する。こうして、熱硬化性組成物ができあがる。次に、上述の光硬化性組成物と熱硬化性組成物とを攪拌混合し、加熱する。加熱温度は、熱硬化性組成物が硬化可能な温度であれば制約はないが、好ましくは80℃以上120℃以下、より好ましくは90℃以上110℃以下である。光硬化性組成物と熱硬化性組成物との混合物は、好ましくは、成形型に入れてから加熱される。こうして、光硬化性ウレタンゲル状体ができあがる。この成形型の構造は、特に限定されないが、リング型の成形型を用いると、中空円柱状の光硬化性ゲル状体を作製することができるため好ましい。
【0028】
図2は、そのような成形型を用いて中空円柱状の光硬化性ゲル状体を作製する工程を表す模式図である。例えば、シリコーンなどで作製した成形型1に、ゲル化前の光硬化性ゲル状態の溶液(
図2では、単に、「溶液」と表示した。)を注入する。光硬化性ゲル状体が上述した熱硬化性組成物と光硬化性組成物とから構成される場合は、最初に加熱することによりゲル化させることができる。室温まで冷却し、ゲル化が完了した後に、成形型から光硬化性ゲル状体を取り出すことで、中空円柱状の光硬化性ゲル状体2を作製することができる。なお、本明細書において、用語「中空円柱状」とは、断面外周及び断面内周が円に限定されるものではなく、楕円、四角形以上の多角形を含む概念であり、更に、外周面がテーパー角を有する円錐台や角錐台をも含む概念である。
【0029】
他の実施形態では、あらかじめ作製した光硬化性ゲル状体の略中央に、接続チューブの外径より小さな孔を作製することで、中空円柱状の光硬化性ゲル状体を作製してもよい。光硬化性ゲル状体2は、光照射による硬化前は3次元ネットワークの形成が不十分であるため柔らかく、通常の穴あけ工具により容易に切削加工することができる。その際、接続チューブの外径より0~10%程度小さな孔径を有することが好ましい。光硬化性ゲル状体2は、所定の弾力性を有することから、接続チューブを差し込むと外側に拡張して自己成形を行い密着、さらに接着性を高めることができるからである。
【0030】
この光硬化性ウレタンゲル状体の硬度は、JIS K 6253に基づくタイプE デュロメータによる硬度にて、好ましくは、E1以上E30以下であり、より好ましくはE3以上E10以下であることが好ましい。上記硬度範囲を持つ光硬化性ウレタンゲル状体は、ネジ穴に詰めて管用継手として使用する場合に適したものとなる。特に、ワンタッチ継手の代わりにチューブの取り付けに当該ゲル状体を使用する場合には、取り付け先のネジ穴に当該ゲル状体を詰めやすく、かつチューブを当該ゲル状体に挿入して貫通させることも容易である。また、当該ゲル状体は、適度な硬度を有し、液状化もせず、チューブおよびネジ穴とのシール性も確保できることから、管用継手の用途に適している。
【0031】
<装着工程(S2)>
次に、取り付け穴に光硬化性ゲル状体を装着する。本工程(S2)から後続する工程(S3、S4)について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、本実施形態に係るチューブ付継手構造の製造工程(S2~S4)を示す断面模式図である。本工程において、孔3を有する光硬化性ゲル状体2を取り付け穴4に装着する。取り付け穴4の形状は特に限定されず、その断面が円形であっても多角形であってもよい。また、取り付け穴4の内面もネジ山があってもなくてもよいが、光硬化性ゲル状体2との密着性を向上する観点からある程度の表面粗さを有することが好ましい。
図3では、取り付け穴4にはネジ加工6が施されているが、このネジ山の形状に合わせて光硬化性ゲル状体2が拡張し、基体5との密着・接着性をより高めることができるため好ましい。
【0032】
ここで、光硬化性ゲル状体2は、基体5の取り付け穴4の形状に合わせてあらかじめ数種類作製しておく。光硬化性ゲル状体2の断面形状は、取り付け穴4の開口部よりやや大きめの外径を有する円形又は多角形であることが好ましい。光硬化性ゲル状体2は、所定の弾力性を有することから、取り付け穴4の形状に合わせて変形させることができるからである。これにより、取り付け穴の大きさに厳密に適合した継手を用意する必要がなく、インチやミリメートルの規格が異なってもほぼ同じ大きさの取り付け穴については同じ大きさの光硬化性ゲル状体2を継手として使用することができる。
【0033】
<差し込み工程(S3)>
次に本工程では、取り付け穴4に取り付けられた光硬化性ゲル状体2の中空孔内3へ接続チューブ7の端部を差し込む。これにより、光硬化性ゲル状体2は外側に拡張して取り付け穴4の内面に密着・接着させることができる。
【0034】
<光照射工程(S4)>
最後に、接続チューブ7が差し込まれた光硬化性ゲル状体2は、可視光又は紫外線を照射可能な光照射装置8を用いて硬化され、ポリウレタンとなる。接続チューブ7が差し込まれた光硬化性ウレタンゲル状体2は、その表面から光照射され、硬化可能である。硬化深度は、深いほど好ましく、硬化深度は15mm若しくはそれ以上であるのがより好ましい。光照射装置8としては、可視光を照射可能であって、特に限定はされないが、例えば光の波長が400~650nmの光源を有する照明器具が使用できる。光硬化性ゲル状体を硬化させる際の光照射時間の目安は、光源照度との兼ね合いにもなるが、例えば1~300秒、好ましくは10~200秒、より好ましくは20~150秒であり、光照射の1~60分後、特には5~30分後には光硬化性ゲル状体は弾力性を失い機械的強度の高い硬化物を得ることができる。
【0035】
3.他の実施形態に係る製造方法
図4は、他の実施形態に係るチューブ付継手構造の製造方法を示す模式図である。
図4Aは、基体5の取り付け穴4の形状が、基体5の表面から内部へ向けて拡径した逆テーパー形状となっている点で上記実施形態とは異なる。光硬化性ゲル状体2は、取り付け穴4の形状に従って自己成型性を有するから、取り付け穴4の深部にいくほど拡径し、光照射による硬化後は取り付けたチューブを引き抜きにくくしている。これにより、チューブ取り付け穴の気密シール性を保持するとともに機械的強度も増加すると考えられる。
【0036】
図4Bは、基体5の取り付け穴4の内面に溝9を有する点で上記実施形態とは異なる。溝9は、取り付け穴の内面に環状、又はらせん状に形成されてよく、一重又は多重に形成されてもよい。あるいは、溝9は、取り付け穴4の内面に形成された点状(ドット状)の凹凸であってもよい。これにより光硬化性ゲル状体2が硬化した後の硬化物が溝9に係止することでチューブ取り付け穴の気密シール性を保持するとともに機械的強度も増加すると考えられる。
【0037】
4.チューブ付継手構造
本発明の異なる視点において、取り付け穴を有する基体と、この取付け穴に光硬化性樹脂により取り付けられた接続チューブと、を含むチューブ付継手構造が提供される。ここで、上記光硬化性樹脂は、接続部位において取付け穴と接続チューブの隙間を塞ぐような形状で硬化した樹脂であることを特徴とする。光硬化性樹脂としては、光硬化性ウレタンゲル状体を硬化した後のポリウレタンであることが好ましい。
【0038】
このポリウレタンの硬度は、JIS K 6253に基づくタイプE デュロメータによる硬度にて、好ましくは、E60以上E100以下(E100は測定限度)であり、より好ましくはE70以上E100以下、さらにより好ましくはE75以上E100以下である。ポリウレタンが上述の硬度であると、例えば、ネジ穴に光硬化性ウレタンゲル状体を詰めて、チューブを挿入して当該ゲル状体を光硬化させた後に、チューブおよび光硬化物が容易に抜けることなく、長時間の使用にも耐える強靭な管用継手を得ることができる。
【0039】
5.作用効果
本実施形態のチューブ付継手構造の製造方法は、接続チューブの外径より小さな孔を有する光硬化性ゲル状体を継手として使用することで、チューブ外面と継手自体が接着するとともにチューブを取り付ける際に継手が外側に広がり取り付け穴に密着(自己成型性)する。これにより、チューブのサイズごとの配管継手を用意する必要がなくなり気密性も向上する。また、従来のようにネジ加工を必要とせず、製品のネジ加工コストを大幅に削減することができる。
【0040】
あるいは、従来技術と同様に取り付け穴にネジ加工が施されていてもそのまま使用することができ、チューブ差し込みによりネジ山の間に継手自体が広がって気密シールをより高めることができる。ネジ加工の規格が異なってもネジ穴の直径に合った光硬化性ゲル状体継手を使用することで、すべてのネジに対する互換性を有する点で汎用性が高い。さらに、光照射により硬化させることで取り付け穴に密着させることができ、気密シール性を有することからシールテープなどによる気密性確保のための作業が不要となり作業工数も大幅に削減することでコスト的にも有利である。
【0041】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
光硬化性組成物:熱硬化性組成物は、質量比にて、50:50とした。
49.75質量部の多官能ウレタン(メタ)アクリレート:KRM8904(ダイセル・オルネクス株式会社製、残存水酸基なし、Mw:1800)、0.25質量部の光重合開始剤:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(名称:Omnirad 819、IGM Resins B.V.社製)、48.46質量部の「ポリオール化合物とイソシアネート化合物とのセット(PC―30、株式会社ポリシス製)」、1.54質量部の水酸基付与添加剤ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート(名称:PETRA、ダイセル・オルネクス株式会社製)および溶媒としての0.74質量部の脱水アセトンを混合し、加熱して、光硬化性ウレタンゲル状体を作製した。ここで、質量部とは配合率を表す質量%と同義であり、配合総量の100質量部は、20gである。具体的な光硬化性ウレタンゲル状体の製造方法は、次の通りである。
【0043】
まず、脱水アセトンに光重合開始剤を溶解し、その溶解物を多官能ウレタン(メタ)アクリレートに添加した。光重合開始剤と多官能ウレタン(メタ)アクリレートと脱水アセトンの混合物は、脱水アセトンの揮発による気泡が目視確認されなくなるまで攪拌しながら、大気中にて95℃の温度にて加熱した。
【0044】
また、ポリウレタンの主剤であるポリオール化合物に水酸基付与添加剤を添加し、室温で撹拌した。その後、攪拌物に、硬化剤であるイソシアネート化合物を混合して攪拌した。主剤と硬化剤の配合比(主剤:硬化剤)は、質量比にて、おおよそ、100:85とした。
【0045】
その後、上述の光重合開始剤と多官能ウレタン(メタ)アクリレートとを混合した光硬化性組成物と、水酸基付与添加剤とポリオール化合物とイソシアネート化合物とを混合して得られた熱硬化性組成物とを攪拌混合し、シリコーンレジン製の成形型に流し込み、100℃×2時間で加熱硬化させた。次に、加熱後のゲル状体を成形型から取り出し、ゲル状体の硬度を測定した。成形型は、
図2に示したような凹型の中央に突起のある形状を有する。これにより、成形型から取り出したゲル状体は、中空円柱状の形態であり、中央の孔に容易に接続チューブを差し込むことができる。
【0046】
熱硬化後の光硬化性ウレタンゲル状体の硬度は、JIS K 6253『加硫ゴムの硬さ試験方法』に基づき、タイプE デュロメータ(新潟精機株式会社製、名称:ADM―E)を用いて測定した。
光硬化性ウレタンゲル状体の硬度(「E硬度」と称する。)はE1以上E30以下を合格とし、E1未満またはE30を超える場合には不合格とした。当該硬度がE1以上E30以下の範囲だと、ネジ穴に詰めて管用継手として使用する場合に適したものとなる。特に、ワンタッチ継手の代わりにチューブの取り付けに当該ゲル状体を使用する場合には、取り付け先のネジ穴に当該ゲル状体を詰めやすく、かつチューブを当該ゲル状体に挿入して貫通させることも容易である。また、当該ゲル状体は、適度な硬度を有し、液状化もせず、チューブおよびネジ穴とのシール性も確保できることから、管用継手の用途に適しているからである。
【0047】
続いて、成形型から取り出したゲル状体を基体の取り付け穴に装着した。そして、装着したゲル状体の中央孔にチューブを十分な深さまで差し込んだ。次に、ゲル状体の上部から、アイリスオーヤマ株式会社製の光照射装置(型番:LWK-1300Z、可視光LEDライト使用、照度:1300lm、照射時間:120秒)を用いて光照射を行い、上記光硬化性ウレタンゲル状体を光硬化した。光硬化後、雰囲気温度まで冷却させ、基体に取り付けたチューブが取付穴に密着して固定化されていることを確認した。
また、光硬化性ウレタンゲル状体の光硬化後のウレタン硬化体のE硬度を測定した結果、E81であり、チューブ及び光硬化物が容易に抜けることなく、長時間の使用にも耐える強靭な管用継手を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、例えば、流体機器や空気圧配管用継手として利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 成形型
2 光硬化性ゲル状体
3 孔
4 取り付け穴
5 基体
6 ネジ加工
7 接続チューブ
8 光照射装置
9 溝
【要約】
互換性、作業性及び加工性が良好な配管継手を用いてチューブ付継手構造を提供する。このチューブ付き継手構造の製造方法は、中空円柱状の光硬化性ゲル状体を用意する工程(S1)と、取り付け穴に、この光硬化性ゲル状体を装着する工程(S2)と、光硬化性ゲル状体の中空孔内へ接続チューブの端部を差し込む工程(S3)と、光を照射して光硬化性ゲル状体を硬化させる工程(S4)と、を含む。