(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】凹部内面の塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/32 20060101AFI20231211BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20231211BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20231211BHJP
B05D 1/38 20060101ALI20231211BHJP
B05D 7/22 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
B05D1/32 A
B05D7/00 K
B05D3/12 E
B05D1/38
B05D7/22 Z
(21)【出願番号】P 2020019116
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000110620
【氏名又は名称】ナニワ研磨工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【氏名又は名称】村上 太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】定金 正松
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-026787(JP,A)
【文献】特開昭61-025669(JP,A)
【文献】特開平09-287265(JP,A)
【文献】特開昭53-022130(JP,A)
【文献】特開昭51-025545(JP,A)
【文献】ハイクリーンセラ 落書・張紙防止塗料,大同塗料株式会社,2010年03月05日,p3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
E04F13/00-13/30
E04G23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部
からなる名前彫刻部を有する
石製表札、墓碑又は墓石の前記
名前彫刻部内面を塗装する方法であって、
乾燥によりゴム状に固化する液状組成物を前記
名前彫刻部以外の前記
石製表札、墓碑又は墓石の表面に均一に塗布して乾燥させることによりゴム状マスキング膜を形成するマスキング形成工程と、
前記ゴム状マスキング膜が形成された状態で前記
名前彫刻部の内面を塗装する塗装工程と、
前記塗装工程の後に、ゴム状に固化した前記ゴム状マスキング膜をその
コーナー部から手で引っ張ることによって前記
石製表札、墓碑又は墓石の表面から剥離するマスキング剥離工程と、
を有する、
名前彫刻部内面の塗装方法。
【請求項2】
請求項1に記載の
名前彫刻部内面の塗装方法において、前記
石製表札、墓碑又は墓石の表面は平坦面であり、前記ゴム状マスキング膜を形成するための前記液状組成物の塗布を塗装用ローラーを用いて行うことを特徴とする、
名前彫刻部内面の塗装方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の
名前彫刻部内面の塗装方法において、前記マスキング形成工程により形成されるゴム状マスキング膜は0.01mm以上0.20mm未満の膜厚を有する、
名前彫刻部内面の塗装方法。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載の
名前彫刻部内面の塗装方法において、前記液状組成物は、ゴムラテックスである、
名前彫刻部内面の塗装方法。
【請求項5】
請求項4に記載の
名前彫刻部内面の塗装方法において、前記液状組成物は硫黄成分を含む、
名前彫刻部内面の塗装方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の
名前彫刻部内面の塗装方法において、前記液状組成物として乾燥固化により透明化するものを用いる、
名前彫刻部内面の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、墓碑や表札等、表面に凹部が設けられた物品の凹部内面を塗装する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
墓碑や石製の表札等には、彫刻によって名入れがなされている。名前を表すべくて彫り込まれた凹部内は通常、白色等の塗装が施されている。
【0003】
この塗装は経年劣化によって劣化し、名前を読みづらくなったり、見栄えが悪くなってしまう。そのような場合、従来は塗装職人が色入れ作業(再塗装)を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、職人に依頼すると1名分の色入れに数万円程度を要していた。
【0006】
また、上記特許文献1に開示されているように、従来より、石材加工用マスキングシートが用いられているが、このようなマスキングシートを用いる場合、凹部の輪郭に沿ってマスキングシートを切り抜く必要があり、煩雑である
【0007】
本発明は、塗装に不慣れな素人でも、物品の表面の凹部内面を迅速・容易かつ低コストで塗装し得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、表面に凹部を有する物品の前記凹部内面を塗装する方法であって、乾燥によりゴム状に固化する液状組成物を前記凹部以外の前記物品の表面に均一に塗布して乾燥させることによりゴム状マスキング膜を形成するマスキング形成工程と、前記ゴム状マスキング膜が形成された状態で前記凹部の内面を塗装する塗装工程と、前記塗装工程の後に、ゴム状に固化した前記ゴム状マスキング膜を前記物品の表面から剥離するマスキング剥離工程と、を有する、凹部内面の塗装方法である。
【0009】
かかる本発明によれば、塗装作業に不慣れな素人でも、容易かつ迅速に凹部内面のみを塗装することができる。特に、マスキングとして従来広く用いられているマスキングテープ等を用いるのではなく、液状組成物を凹部以外の物品表面に塗布して乾燥させることによってゴム状マスキング膜を形成するので、マスキングテープを凹部の縁に沿ってカットする等の煩雑な作業が必要なく、凹部内面の塗装後はゴム状マスキング膜のコーナー部から手で引っ張ることで容易かつ迅速にに剥離することができる。
【0010】
前記物品の表面は平坦面である場合、前記ゴム状マスキング膜を形成するための前記液状組成物の塗布を塗装用ローラーを用いて行うことが好ましい。これにより、簡単な作業で均一にムラ無く液状組成物を平坦な物品表面に塗布できる。
【0011】
剥離する際にマスキング膜がこまかくちぎれてしまうことを防止するため、好ましくは、前記マスキング形成工程により形成されるゴム状マスキング膜は0.01mm以上0.20mm未満の膜厚を有し、より好ましくは0.02mm以上0.10mm未満の膜厚を有する。膜厚が0.01mm未満の場合、ゴムマスキング膜が容易に引きちぎられてしまい、剥離作業が煩雑となる。一方、膜厚が0.20mmを超えると液だれし易くなり、凹部内面に未塗装部が生じる可能性が高くなる。前記液状組成物は、物品表面への塗布時に、液だれにより前記表面上から前記凹部内面に流入しない程度の粘性を有することが好ましい。液状組成物の粘性は、増粘剤の添加量を調整することによって適宜調整できる。
【0012】
前記液状組成物は、天然ゴムラテックス若しくは合成ゴムラテックス等のゴムラテックスであってよく、未加硫ゴムラテックスであってもよいし加硫型ゴムラテックスであってもよい。また、液状組成物として、ゴム状に乾燥固化する適宜の合成樹脂組成物を用いることもできる。天然ゴムラテックスとしては、例えば、株式会社レヂテックス製の天然ゴムラテックス(濃縮タイプ)を本発明の用途に適した粘度に調整して使用することができる。その他の合成樹脂組成物としては、例えば、ハギテック製の液状塗料PROTや、ファインケミカルジャパン製のラバーコートや、ユタカメイク製の液体ゴムBE-1などを挙げることができる。
【0013】
液状組成物がゴムラテックスである場合、特に未加硫ゴムを成分として含むゴムラテックスの場合には、液状組成物が硫黄成分を含んでいてもよい。これにより、物品の表面に塗布して乾燥させる際に、未加硫ゴム成分の加硫が進み、ゴム状マスキング膜の弾性強度が一層向上して、より剥離し易くなる。
【0014】
また、天然ゴムラテックスは通常、乾燥固化前は白濁しており、乾燥固化により透明化する。したがって、天然ゴムラテックスを液状組成物として用いれば、液状組成物が乾燥固化したことを目視により容易に確認でき、塗装工程を適切なタイミングで実施できる。乾燥固化により透明度が増すものであれば天然ゴムラテックスに限らず、適宜の樹脂組成物を用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塗装に不慣れな素人でも、容易且つ迅速に凹部内面のみを綺麗に塗装することができ、塗装職人に依頼するよりも低コストで凹部内面を塗装できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1~
図3は本発明の一実施形態に係る石製表札(物品)の名前彫刻部(凹部)内面の塗装方法を示している。
【0018】
石製表札1は、平坦な表面2に彫刻によって名前が彫られており、名前彫刻部は所定深さの凹部3となっている。
【0019】
まず、
図1に示すように、液状組成物を含浸させた塗装用ローラー4を用いて液状組成物を凹部3以外の表札1の表面2全体に均一に塗布する。なお、墓碑等、表面のうちの限られた小領域に名前彫刻部が設けられている場合には、名前彫刻部周辺に液状組成物を塗布すればよく、必ずしも表面全体に塗布する必要はない。なお、塗装用ローラー4は、液状組成物を含浸可能なスポンジ状若しくは布製等の外周面を有する。
【0020】
液状組成物としては、例えば、株式会社レヂテックス製の天然ゴムラテックス(濃縮タイプ)の増粘品を用いることができる。例えば、塗布時の粘度を6000~8000cps、より好ましくは6500~7500cpsの範囲内に調整して用いることができる。この天然ゴムラテックスは、天然ゴム60~70重量%、アンモニア0.5~0.8重量%、水30~40重量%、増粘剤1重量%未満を含有するものが好ましい。これに代えて、低アンモニアゴムラテックスを用いることもできる。また、硫黄成分を含有していてもよい。
【0021】
液状組成物の塗布量は、厚塗りしすぎると液だれにより凹部3内に液状組成物が入り込むおそれが大きくなるため、乾燥固化後のゴム状マスキング膜の膜厚が0.20mm未満、より好ましは0.10mm未満となる程度とすることが好ましい。また、薄塗りしすぎると塗料が透過してマスキングとしての効果が不十分になるとともに剥離時に引きちぎれやすくなるため、乾燥固化後のゴム状マスキング膜の膜厚が0.01mm以上、より好ましくは0.02mm以上となる程度とすることが好ましい。勿論、液状組成物の粘度や乾燥固化後のマスキング膜の物性により、上記膜厚は適宜調整でき、上記範囲内に限定されるものではない。例えば、液状組成物の粘度が十分に大きい場合には、乾燥固化後のゴム状マスキング膜の膜厚が1.0mm程度に比較的厚く形成されるように液状組成物を表面に塗布することもできる。
【0022】
なお、液状組成物の塗布後の乾燥は、液状組成物の組成等や環境等にもよるが、晴天下の室外であれば数十分程度で十分に固化させることができる。
【0023】
天然ゴムラテックスは、物品の表面2に塗布すると白化する。したがって、塗りムラを容易に確認できる。また、天然ゴムラテックスは、乾燥固化すると透明化する。したがって、乾燥固化したか否かを目視により容易に確認できる。
【0024】
表札1の表面2に塗布した液状組成物が乾燥固化して、
図2に示すようにゴム状マスキング膜5が形成された後、スプレー塗料等を用いて凹部3の内面を塗装する。勿論、筆入れによって凹部3の内面を塗装してもよい。
【0025】
凹部3の内面塗装後、好ましくは塗料の乾燥後、ゴム状マスキング膜5をコーナー部から手で引っ張ることによって表面2から剥離する。この際、マスキング膜5がゴム状であるため、引っ張った部分が適度に延び、表面2との密着部に随時空隙を生じさせつつ剥離されていくようになるため、比較的軽い力で容易かつ迅速にゴム状マスキング膜5を剥離することができる。
【0026】
上記実施形態では表札1の名前彫刻部内面を塗装する方法について説明したが、本発明は、墓碑や墓石の戒名彫刻部の色入れや、その他適宜の物品の表面に設けられた凹部内面を塗装する方法に適用できる。また、本発明において「物品」とは、墓碑や墓石、玄関先の塀など、所定の場所に移動不可の状態で固定的に設置された構造物を含むものとする。
【符号の説明】
【0027】
1 物品
2 表面
3 凹部
4 塗装用ローラー
5 ゴム状マスキング膜