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特許7399485液状製品の製造装置、液状製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】液状製品の製造装置、液状製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20231211BHJP
   A23F 3/16 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
A23L2/00 A
A23F3/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020538237
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028126
(87)【国際公開番号】W WO2020039804
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2018155611
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】下田 満哉
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-196249(JP,A)
【文献】日本農芸化学会大会講演要旨集,2012年,講演番号:2J17p12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
A23C 7/00
A23F 3/16
A23F 5/24
A47J 31/46
C12G 1/00
C12G 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液密に設けられた筒状の処理器と、
前記処理器の一端側に接続され、前記処理器の内部に液状体を流入させる送液ポンプと、
前記処理器の他端側に接続され、前記処理器の内部で流動する前記液状体の圧力を1MPa以上、12MPa以下に制御する圧力制御機構と、を有し、
前記送液ポンプから前記圧力制御機構まで連通する内部空間の容積に基づいて、前記液状体が前記内部空間に流入してから前記圧力制御機構を介して吐出されるまでの所要時間が3秒以上となるように、前記送液ポンプの運転条件を制御する液状製品の製造装置。
【請求項2】
前記運転条件を制御する制御部を有する請求項1に記載の液状製品の製造装置。
【請求項3】
前記送液ポンプは、アキュムレータを有さない請求項1または2に記載の液状製品の製造装置。
【請求項4】
前記圧力制御機構は、背圧弁である請求項1から3のいずれか1項に記載の液状製品の製造装置。
【請求項5】
前記圧力制御機構は、均質バルブである請求項1から3のいずれか1項に記載の液状製品の製造装置。
【請求項6】
前記送液ポンプに接続され、前記液状体を貯留する貯留部をさらに有し、
前記貯留部は、前記液状体の温度を調整する温度調整機構を有する請求項1から5のいずれか1項に記載の液状製品の製造装置。
【請求項7】
前記処理器に対し前記送液ポンプよりも上流側の経路内に、前記液状体を加熱する加熱機構を有し、
前記加熱機構と前記送液ポンプとの間の経路内に、加熱された前記液状体を冷却する冷却機構を有する請求項1から6のいずれか1項に記載の液状製品の製造装置。
【請求項8】
前記処理器の内部を洗浄する定置洗浄装置をさらに有する請求項1から7のいずれか1項に記載の液状製品の製造装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の液状製品の製造装置を用いた液状製品の製造方法であって、
前記内部空間に連続的に前記液状体を流入させるとともに、前記圧力制御機構を介して前記内部空間から連続的に前記液状体を吐出させ、前記液状製品を得る工程を有する液状製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状製品の製造装置、液状製品の製造方法に関するものである。
本願は、2018年8月22日に出願された日本国特願2018-155611号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、日常的に液状の食料品が数多く流通している。以下の説明では、常温において液状であり、媒質として水を含む食料品を「液状製品」と称する。各社においては、液状製品の差別化のために、付加価値を付与する検討が行われている。
【0003】
例えば、液状製品の付加価値として、液状製品を口にしたときの食感(口当たり)の改善が検討されている。液状製品の口当たりをより消費者に好かれるものとするため、液状製品に乳化剤、増粘剤や各種糖類を添加する方法が知られている。また、液状体を長期間熟成させたものを液状製品として販売することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3098639号公報
【文献】特開2006-42814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、口当たりの改良を行い液状製品の付加価値を高めるために、種々の方法が検討されてきたが、さらなる改良が求められていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、口当たりが改良された液状製品を容易に製造可能とする液状製品の製造装置を提供することを目的とする。また、液状製品の口当たりを容易に改良することが可能な液状製品の製造方法を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、液密に設けられた筒状の処理器と、前記処理器の一端側に接続され、前記処理器の内部に液状体を流入させる送液ポンプと、前記処理器の他端側に接続され、前記処理器の内部で流動する前記液状体の圧力を1MPa以上に制御する圧力制御機構と、を有し、前記送液ポンプから前記圧力制御機構まで連通する内部空間の容積に基づいて、前記液状体が前記内部空間に流入してから前記圧力制御機構を介して吐出されるまでの所要時間が3秒以上となるように、前記送液ポンプの運転条件を制御する液状製品の製造装置を提供する。
【0008】
本発明の一態様においては、前記運転条件を制御する制御部を有する構成としてもよい。
【0009】
本発明の一態様においては、前記送液ポンプは、アキュムレータを有さない構成としてもよい。
【0010】
本発明の一態様においては、前記圧力制御機構は、背圧弁である構成としてもよい。
【0011】
本発明の一態様においては、前記圧力制御機構は、均質バルブである構成としてもよい。
【0012】
本発明の一態様においては、前記送液ポンプに接続され、前記液状体を貯留する貯留部をさらに有し、前記貯留部は、前記液状体の温度を調整する温度調整機構を有する構成としてもよい。
【0013】
本発明の一態様においては、前記処理器に対し前記送液ポンプよりも上流側の経路内に、前記液状体を加熱する加熱機構を有し、前記加熱機構と前記送液ポンプとの間の経路内に、加熱された前記液状体を冷却する冷却機構を有する構成としてもよい。
【0014】
本発明の一態様においては、前記処理器の内部を洗浄する定置洗浄装置をさらに有する構成としてもよい。
【0015】
また、本発明の一態様は、上述の液状製品の製造装置を用いた液状製品の製造方法であって、前記内部空間に連続的に前記液状体を流入させるとともに、前記圧力制御機構を介して前記内部空間から連続的に前記液状体を吐出させ、前記液状製品を得る工程を有する液状製品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、口当たりが改良された液状製品を容易に製造可能とする液状製品の製造装置を提供することができる。また、液状製品の口当たりを容易に改良することが可能な液状製品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】液状製品の製造装置の説明図。
図2】実施例で用いた製造装置の説明図。
図3】実施例6の結果を示すグラフ。
図4】実施例6の結果を示すグラフ。
図5】実施例8の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る液状製品の製造装置、および液状製品の製造方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0019】
[液状製品の製造装置]
図1は、本実施形態にかかる液状製品の製造装置100を示す模式図である。
【0020】
ここで、本明細書において「液状」とは、常温において一定の流動性を有する状態であることを指す。この意味において「液状」には、物質が液体の状態であることに加え、物質がゲル状またはペースト状であることも含まれるものとする。
【0021】
また、本明細書において「液状製品」とは、常温において「液状」であり、媒質として水を含む食料品を指す。
【0022】
「液状製品」として、食料品であれば、水、果汁、牛乳、乳飲料、茶飲料、コーヒー飲料、スポーツ飲料、栄養ドリンク等のアルコールを含まない飲料、酎ハイ、清酒、ワイン、ウイスキー、ブランデー、焼酎等のアルコールを含む飲料を挙げることができる。
【0023】
図に示すように、製造装置100は、貯留部10と、配管11と、送液ポンプ20と、処理器30と、圧力調整弁(圧力制御機構)40と、配管41と、製品タンク50とを有している。また、製造装置100は、加熱部(加熱機構)60と、冷却部(冷却機構)70と、定置洗浄装置80と、制御部90と、を有している。
【0024】
製造装置100は、上述した被処理物である液状体1を静水圧処理し、続いて圧力調整弁40から連続的に加圧状態の液状体1を排出させることにより液状製品2を製造するために用いる。
以下、順に説明する。
【0025】
貯留部10は、原料である液状体1を貯留するタンクである。貯留部10は、温度調整機構15を有することとしてもよい。温度調整機構15は、貯留部10内に貯留される液状体1の温度を所望の温度に調整する。
【0026】
液状体1は、送液ポンプ12を用いて貯留部10から払い出される。液状体1は、配管11を介して下流側に流動する。送液ポンプ12は、いわゆる非容積型のポンプを用いることができる。
【0027】
配管11内の液状体1は、配管11の経路内に設けられた加熱部60で加熱され、殺菌される。加熱部60としては、配管11内の液状体1の加熱殺菌に通常用いられる装置を用いることができる。
【0028】
加熱部60で加熱された液状体1は、下流側に設けられた冷却部70で冷却される。冷却部70としては、配管11内の液状体1の冷却に通常用いられる装置を用いることができる。
【0029】
加熱部60および冷却部70は、それぞれ、プレート型熱交換機や多管式熱交換機を用いることができる。
【0030】
送液ポンプ20は、配管11が接続されている。送液ポンプ20は、配管11の内部を流動する液状体1を送液し、下流側に配置された処理器30の内部に流入させる。
【0031】
送液ポンプ20として、いわゆる容積型のポンプを用いることができる。また、送液ポンプ20は、脈動を抑制する構成のポンプを用いることができる。脈動を抑制する構成のポンプとして、多連型の往復動ポンプのように、アキュムレータを有さず脈動を抑制する構成のポンプを用いることができる。アキュムレータを有さないポンプを用いることにより、雑菌繁殖を抑制することができる。
【0032】
処理器30は、液密に設けられた筒状の部材である。処理器30は、例えば円柱状の内部空間を有する部材である。
【0033】
処理器30の一端側30a(入口側)に、多孔板を配置することにより、処理器30内に栓流を生じさせやすくすることができる。
【0034】
処理器30は、例えば、一端側30aを重力方向下方に向け、他端側30bを重力方向上方に向けて配置し、一端側30aから他端側30bに向けて処理器30が延在する姿勢で使用することができる。
【0035】
処理器30の一端側30aには、送液ポンプ20が接続されている。また、処理器30の他端側30bには、圧力調整弁40が接続されている。
【0036】
圧力調整弁40は、送液ポンプ20、処理器30および圧力調整弁40と連通する内部空間Sの内部圧力に維持した状態で、液状体1を流動させる機能を有する。本実施形態の液状製品の製造装置100において、設定圧力は1MPa以上である。また、圧力調整弁40の設定圧力は12MPa以下とすることができる。
【0037】
圧力調整弁40としては、通常知られた構成の装置を用いることができる。
例えば、圧力調整弁40として、公知の背圧弁を用いることができる。背圧弁としては、流入路と排出路と、流入路と排出路とが接続される凹部と、凹部に設けられ排出路端部を閉塞する弁体(ダイヤフラム)と、弁体を排出路端部に押し付ける押し付け部材と、を備える構成が知られている。押し付け部材としては、弁体を押し付けるエアシリンダーと、エアシリンダーに供給する圧縮空気の圧力を調整する調整機構と、を有する構成が知られている。また、押し付け部材として、弁体を押し付けるスプリングと、スプリングを圧縮させ弁体を押し付ける圧力を調整する調整ボルトとを有する構成を採用することもできる。
【0038】
背圧弁においては、高圧の液状体1が流入路を介して凹部に流れ込む。液状体1の圧力が押し付け部材の押し付ける力(圧力)を超えると、弁体が排出路端部から離れ、排出路端部が開口する。これにより、内部空間Sから高圧の液状体1が排出される。
【0039】
また、圧力調整弁40として、公知の高圧ホモジナイザーに含まれる均質バルブを用いることもできる。均質バルブとしては、吐出孔が形成されたバルブシートと、吐出孔の出口に対向して配置されたバルブ本体とを備える構成が知られている。
【0040】
均質バルブにおいては、高圧の液状体1が吐出孔を通過する。吐出孔から流れ出る高圧の液状体1は、急激に圧力が低下するとともに急激に速度が増加し、上記バブルシートとバルブ本体の隙間に強力なずり応力(せん断応力)を生じさせる。このような液状体1は、吐出孔の出口に対向して配置されたバルブ本体に衝突しながら下流側に流れる。
【0041】
このような圧力調整弁40では、設定圧力を適宜調整可能である。
【0042】
圧力調整弁40が背圧弁である場合、押し付け部材により弁体を押し付ける圧力を調整することで、設定圧力を適宜調整可能である。
【0043】
圧力調整弁40が均質バルブである場合、吐出孔の径、吐出孔とバルブ本体との離間距離などを調整することで、設定圧力を適宜調整可能である。
【0044】
これにより、設定圧力に調整された高圧の液状体1が内部空間Sから排出される。液状体1は、圧力調整弁40から排出されることで液状製品2となる。
【0045】
圧力調整弁40は、内部空間Sにおいて最も高い位置(重力方向において最も上方の位置)となるように、処理器30に接続することができる。このような位置に接続することにより、処理器30内に気体が混入した際、内部空間Sを流動する液状体1が流動しにくく気体が溜まりやすいいデッドスペースが生じ難い。そのため、処理器30内の気体を排出させやすくなる。
【0046】
製品タンク50は、配管41が接続されている。製品タンク50は、液状製品2を貯留する。
【0047】
また、配管41には、経路内に三方弁42が設けられている。三方弁42には、配管43を介して定置洗浄装置80が接続されている。
【0048】
定置洗浄装置80は、定期的または液状体1の交換に際して、水、熱水、洗浄液、酸、アルカリ溶液、水蒸気等を内部空間に導入し、処理器30を分解することなく内部空間を自動的に洗浄、殺菌するための装置である。定置洗浄装置80としては、通常知られた構成のものを適宜採用することができる。
【0049】
制御部90は、送液ポンプ12、温度調整機構15、加熱部60、冷却部70、送液ポンプ20、圧力調整弁40を制御する。例えば、制御部90は、送液ポンプ20を制御して、液状体1が内部空間Sを流動する際の所要時間を調整することができる。また、制御部90は、圧力調整弁40を制御して、内部空間Sを流動する液状体1の圧力を調整することができる。また、制御部90は、温度調整機構15、加熱部60、冷却部70を制御して、送液ポンプ20を介して内部空間Sに流入する液状体1の温度を制御することができる。
【0050】
乳化物の調製を目的とする圧力式ホモジナイザーと上述の製造装置100は、液状体1を加圧送液し、加圧状態の液状体1を一気に除圧する機構を有する点で共通する。しかし、圧力式ホモジナイザーにおいては、乳化作用は処理圧力と除圧する機構(均質バルブ、背圧弁)の形状にのみ依存するのに対して、本願の製造装置100においては、処理圧力のみならず圧力保持時間(所要時間)が重要な因子である。そのため、製造装置100と圧力式ホモジナイザーとは、本質的に異なる装置である。
【0051】
[液状製品の製造方法]
このような製造装置100を用いて液状製品2を製造する場合、例えば、次のような製造方法を採用することができる。
【0052】
まず、貯留部10から払い出された液状体1を、加熱部60で加熱殺菌する。加熱殺菌は、液状体1の種類や、製造する液状製品の要求品質に応じて、適宜設定された条件(温度および加熱時間)で行う。
【0053】
次いで、加熱部60で加熱された液状体1を冷却部70で冷却する。詳しくは後述するが、処理器30で行う連続圧力処理は、液状体1の液温の影響を受ける。そのため、冷却部70では、液状体1が処理器30での連続圧力処理に適した温度になるように、液状体1を冷却する。
【0054】
次いで、送液ポンプ20を用いて、処理器30に液状体1を流入させる。送液ポンプ20は、処理器30内に液状体1が満たされた後も、連続的に処理器30内に液状体1を流入させる。これにより、内部空間Sの液状体1の圧力(静圧)が上昇する。
【0055】
このとき、圧力調整弁40を有する製造装置100では、内部空間Sに流入した液状体1が、内部空間Sにおいて圧力調整弁40の設定圧力に加圧された状態で内部空間Sを流動する。内部空間Sで流動する液状体1の圧力は、1MPa以上とする。また、液状体1の圧力は、11MPa以下とすることができ、6MPa以下としてもよい。
【0056】
液状体1が送液ポンプ20により内部空間Sに流入してから圧力調整弁40を介して排出されるまでの所要時間は、内部空間Sの容積と、送液ポンプ20の運転条件とに基づいて定まる。上記所要時間は、3秒以上とすることができる。また、上記所要時間は、60秒以下とすることができる。
【0057】
次いで、内部空間Sの液状体1の圧力が圧力調整弁40の設定圧力に達すると、内部空間Sの液状体1は、圧力調整弁40内の流路の隙間を通過して、圧力調整弁40の下流側に排出される。その後、内部空間Sの液状体1の圧力を圧力調整弁40の設定圧力に維持することで、内部空間Sの液状体1は、圧力調整弁40の下流側に連続的に排出される。
【0058】
液状体1の圧力(静圧)は、圧力調整弁40の設定圧力から配管41内の液状体1の圧力にまで、急激に低下する。圧力が急激に低下する際、液状体1には強いずり応力が発生する。
発明者は、液状体1を一定時間加圧しておくことと、加圧状態から除圧する過程で発生するずり応力とによって、液状体1の物理的性質に影響を与えているものと考えている。
【0059】
圧力調整弁40を通過する液状体1には、狭い隙間を高速で通過するために強力なずり応力が発生すると考えられる。加えて、圧力調整弁40を通過した後の液状体1には、急激な流路の拡大や、配管内壁やバルブ本体への液状体1の衝突により、キャビテーションを伴う衝撃波が発生すると考えられる。
【0060】
後述の実施例で示すように、本発明においては、圧力保持時間が一定の場合、処理圧力を増加させるに従って、液状体1の口当たりが改善され、処理効果が最大となる処理圧力を超えると、液状体1の口当たりの改善効果が減少する。
また、処理圧力が高くなるほど、より短い所要時間で口当たりが改善される。
すなわち、液状体1に加えられる圧力の大きさと圧力保持時間の適切な組み合わせ、および急激な除圧操作によって、本発明の効果が発現されることがわかる。
【0061】
液状体1は、内部空間Sにおいて所定時間加圧された後、圧力調整弁40においてずり応力を受けることで液状製品2になる。詳しくは後述するが、得られる液状製品2は、口当たりが良好なものとなる。
【0062】
水は、水素結合ネットワーク性の(水素結合のネットワークが密に形成された)液体である。以上の結果について、発明者は、本発明の液状製品の製造方法により、水の水素結合ネットワーク状態が変化したためと考えた。この水素結合ネットワークの変化が、官能評価における「口当たり」に影響を及ぼしたものと考えられる。
【0063】
発明者は、上述したような本発明の効果について、液状体1を加圧下で保持することにより、時間の経過とともに水素結合ネットワークに変化を生じ、次いで、加圧下で保持した液状体1を急激に除圧することで、生じるずり応力によって水素結合ネットワークに不可逆的な変化が生じ、口当たりが改善された液状製品2になると考えた。
【0064】
上述のように、本実施形態の製造装置100において、液状体1は、1MPa以上に加圧された状態で3秒以上保たれた後、圧力調整弁40を通過する際に急激に圧力が低下する、という圧力変化を伴いながら、連続的に圧力調整弁40を通過する。そのため、製造装置100では、連続的に液状製品2を製造することができ、高い生産効率を実現することができる。
【0065】
従来の考え方によれば、乳化剤や増粘剤等の添加剤を加えたり、長時間の熟成を行ったりすることにより、液状体1の口当たりの改善を行い、液状製品を得ていた。しかし、添加剤を加えることによって液状製品の口当たりを改善する場合、液状製品の味に影響を及ぼすことがある。また、長時間の熟成により液状製品の口当たりを改善する場合、液状製品の製造に長時間を必要とするため、生産効率が低下する。
【0066】
これに対し、本発明では、添加剤を加えることなく、また熟成と比べて短時間のうちに、液状製品の口当たりを改善することができる。
【0067】
したがって、以上のような構成の液状製品の製造装置によれば、口当たりが改良された液状製品を容易に製造可能となる。
【0068】
また、以上のような構成の液状製品の製造方法によれば、液状製品の口当たりを容易に改良することが可能となる。
【0069】
なお、本実施形態の液状製品の製造装置100では、圧力調整弁40を用いることとしたが、圧力調整弁40の代わりに、処理器30の他端側30bの開口径を絞ることで液状体1の圧力を調整する圧力制御機構を構成してもよい。その場合、送液ポンプ20から他端側30bにおいて開口径が絞られた部分までの連通する空間が内部空間Sに該当する。
【0070】
この場合、他端側30bの開口径(オリフィス径)と、送液ポンプ20での送液速度と、を制御することで、内部空間Sにおける液状体1の圧力を制御することができる。
【0071】
また、本実施形態の液状製品の製造装置100では、送液ポンプ20から圧力調整弁40までが1つの閉じられた空間を形成し処理器30として機能することとしたが、これに限らない。例えば、送液ポンプ20から圧力調整弁40までの流路内に、圧力調整弁40と同様の構成の第2の圧力制御機構をさらに備え、送液ポンプ20から圧力調整弁40(第1の圧力制御機構)までを2つの空間に区切る構成としてもよい。
【0072】
この場合、例えば、第2の圧力制御機構における設定圧力と、圧力調整弁40の設定圧力とを異ならせることができる。例えば、第2の圧力制御機構における設定圧力(一次圧力)を10MPa~100MPaとし、圧力調整弁40における設定圧力(二次圧力)を1MPa~12MPaとすることができる。
【0073】
この場合、第2の圧力制御機構から圧力調整弁40までの連通する空間が内部空間Sに該当する。液状製品の製造装置が第2の圧力制御機構を有する場合には、液状体1が第2の圧力制御機構から圧力調整弁40までの空間に流入してから圧力調整弁40を介して吐出されるまでの所要時間が3秒以上となるように、運転条件を制御することができる。
【0074】
また、本実施形態の液状製品の製造装置100では、処理器30の上流側で液状体1の加熱殺菌を行うこととしているが、これに限らず、処理器30における連続圧力処理の後に加熱殺菌することもできる。連続圧力処理の後に加熱殺菌することにより、前もって連続圧力処理した用水を使用して液状混合物を調製した後に加熱殺菌する、といった製造工程が実現可能となり、既存の製造工程に導入しやすく好ましい。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例
【0076】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
(処理装置)
本実施例においては、図2に示す製造装置200を用いて各試料の圧力処理を行った。図2に示す符号は、図1と共通している。
【0078】
送液ポンプ20として、日本精密科学株式会社製NP-KX-500(J)型無脈流ポンプを用いた。
処理器30として、ステンレスチューブを用いた。
圧力調整弁40として、TESCOM社製26-1700シリーズのピストンセンサー方式のバルブを用いた。
【0079】
[実施例1]
処理器30として用いたステンレスチューブについて、両端が閉じていると仮定したときの容積は15mlであった。送液ポンプ20から圧力調整弁40まで連通する内部空間Sの容積は、ステンレスチューブの容積と同じ15mLとして以下の検討を行った。
【0080】
市販のペットボトル入りのミネラルウォーターを液状体1として用い、送液ポンプ20を用いて送液速度60mL/分で送液した。液状体1が送液ポンプ20により内部空間Sに流入してから圧力調整弁40を介して排出されるまでの所要時間は、15秒であった。液状体1は、圧力調整弁40を介して大気圧下に排出させた。
【0081】
(実施例1-1-1~1-1-9)
圧力調整弁40の設定圧力を、表1に示すように設定して処理を行い、実施例1-1-1~1-1-9の各試料を調製した。処理は恒温室で行い、液状体1の温度は恒温室の温度を制御することで10℃に調整した。
【0082】
(実施例1-2-1~1-2-9)
圧力調整弁40の設定圧力を、表2に示すように設定して処理を行い、実施例1-2-1~1-2-9の各試料を調製した。処理は恒温室で行い、液状体1の温度は恒温室の温度を制御することで20℃に調整した。
【0083】
(実施例1-3-1~1-3-9)
圧力調整弁40の設定圧力を、表3に示すように設定して処理を行い、実施例1-3-1~1-3-9の各試料を調製した。処理は恒温室で行い、液状体1の温度は恒温室の温度を制御することで30℃に調整した。
【0084】
(実施例1-4-1~1-4-9)
圧力調整弁40の設定圧力を、表4に示すように設定して処理を行い、実施例1-4-1~1-4-9の各試料を調製した。処理は恒温室で行い、液状体1の温度は恒温室の温度を制御することで40℃に調整した。
【0085】
(実施例1-5-1~1-5-9)
圧力調整弁40の設定圧力を、表5に示すように設定して処理を行い、実施例1-5-1~1-5-9の各試料を調製した。処理は恒温室で行い、液状体1の温度は恒温室の温度を制御することで50℃に調整した。
【0086】
(比較例1-1~1-5)
市販のペットボトル入りミネラルウォーターそのものを比較例1-1~1-5の試料とした。
【0087】
(評価)
評価は、処理の翌日に3名の官能評価により行った。評価は、評価者が試料を口に含んだときの「口当たりのなめらかさ」、すなわち口腔内の物理的感覚について行った。
【0088】
官能評価は、市販のペットボトル入りのミネラルウォーターそのものである比較例1-1~1-5の試料を「0」と評価し、各評価者が最もなめらかな口当たりと想定する仮想の試料を「10」として、0から10までの11段階で評価した。
結果は、3名の評価結果の算術平均値として求めた。
【0089】
評価結果を下記表1~5に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
評価の結果、連続圧力処理を施した試料は、いずれも未処理の試料よりも口当たりがよくなった。また、最も適した処理圧力は、各処理温度に応じて異なることが分かった。処理温度が高いほど、最も適した処理圧力は低くなる傾向がある。
【0096】
なお、本発明で採用する連続圧力処理という処理形式の効果については、別途バッチ式の静水圧処理との比較を行い確認した。
【0097】
(確認実験)
上記実施例において優れた効果が認められた実施例1-2-4と同じ温度、圧力、加圧保持時間(20℃、4.0MPa、15秒)にて、下記方法で静水圧処理を行った。
【0098】
(方法)
実施例1で用いたものと同じ市販のペットボトル入りのミネラルウォーターを、容積100mLのポリエチレンテレフタレート製のボトルに充填した。
その際、ボトルの上部に空間(ヘッドスペース)が生じないように注意して、ミネラルウォーターをボトルに充填した。
【0099】
このようにミネラルウォーターを充填したボトルを、卓上CIP装置(エヌピーエーシステム社製)を用いて静水圧処理した。静水圧処理の条件は、圧力4.0MPa、処理温度20℃、圧力保持時間(所要時間)15秒とし、加圧および除圧に要した時間はそれぞれ5秒以内とした。ボトルが変形することにより、ボトル内のミネラルウォーターは加圧され、静水圧処理された試料が得られた。
【0100】
上述の方法で評価したところ、上述の条件で静水圧処理した試料は、市販のペットボトル入りのミネラルウォーターそのものと差がなく、口当たりの改善は全く認められなかった。
【0101】
また、試料の口当たりのなめらかさは、常温下で1か月以上、100℃で30分間加熱後も持続した。さらに確認したところ、試料の口当たりのなめらかさは、常温下で3か月以上持続することが分かった。
【0102】
[実施例2]
(実施例2-1)
処理器30として用いたステンレスチューブについて、両端が閉じていると仮定したときの容積は3mlであった。送液ポンプ20から圧力調整弁40まで連通する内部空間Sの容積は、ステンレスチューブの容積と同じ3mLとして以下の検討を行った。
【0103】
市販のペットボトル入りのミネラルウォーターを液状体1として用い、図2に示す送液ポンプ20を用いて送液速度12mL/分で送液した。液状体1が送液ポンプ20により内部空間Sに流入してから圧力調整弁40を介して排出されるまでの所要時間は、15秒であった。圧力調整弁40を介して圧力処理後の液状体1を大気圧下に排出させ、実施例2-1の試料を得た。処理は恒温槽で行い、液状体1の温度は恒温室の温度を制御することで20℃に調整し、処理圧力は4MPaで行った。
【0104】
(実施例2-2)
送液ポンプ20による送液速度を30mL/分(所要時間6.0秒)としたこと以外は、実施例2-1と同様にして、実施例2-2の試料を得た。
【0105】
(実施例2-3)
送液ポンプ20による送液速度を60mL/分(所要時間3.0秒)としたこと以外は、実施例2-1と同様にして、実施例2-3の試料を得た。
【0106】
(比較例2-1)
市販のペットボトル入りミネラルウォーターそのものを比較例2-1の試料とした。
【0107】
(評価)
実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を下記表6に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
評価の結果、連続圧力処理を施した試料は、いずれも未処理の試料よりも口当たりがよくなった。また、評価を行った範囲であれば、圧力処理に要する所要時間が長いほど、なめらかさが増した。
【0110】
[実施例3]
(実施例3-1~3-6)
処理器30として用いたステンレスチューブについて、両端が閉じていると仮定したときの容積は15mlであった。送液ポンプ20から圧力調整弁40まで連通する内部空間Sの容積は、ステンレスチューブの容積と同じ15mLとして以下の検討を行った。
【0111】
市販の牛乳を液状体1として用い、図2に示す送液ポンプ20を用いて送液速度60mL/分で送液した。液状体1が送液ポンプ20により内部空間Sに流入してから圧力調整弁40を介して排出されるまでの所要時間は、15秒であった。圧力調整弁40を介して圧力処理後の液状体1を大気圧下に排出させ、試料を得た。
【0112】
圧力調整弁40の設定圧力を、表7に示すように設定して処理を行い、実施例3-1~3-6の各試料を調製した。処理は恒温室で行い、液状体1の温度は恒温室の温度を制御することで40℃に調整した。
【0113】
(比較例3-1)
市販の牛乳そのものを比較例3-1の試料とした。
【0114】
(評価)
実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を下記表7に示す。
【0115】
【表7】
【0116】
評価の結果、連続圧力処理を施した試料は、いずれも未処理の試料よりも口当たりがよくなった。
【0117】
[実施例4]
(実施例4-1~4-5)
市販のペットボトル入り緑茶飲料を液状体1として用い、恒温室の温度を30℃に制御したこと以外は、実施例3と同様にして試料を得た。その際、圧力調整弁40の設定圧力を、表8に示すように設定して処理を行い、実施例4-1~4-5の各試料を調製した。
【0118】
(比較例4-1)
市販のペットボトル入り緑茶飲料そのものを比較例4-1の試料とした。
【0119】
(評価)
実施例1と同様にして試料の口当たりの評価を行った。
【0120】
また、渋みの変化についても官能評価を行った。
評価は、処理の翌日に3名の官能評価により行った。評価は、評価者が試料を口に含んだときに感じる「渋み」について行った。
【0121】
官能評価は、市販のペットボトル入り緑茶飲料そのものである比較例4-1の試料を「0」と評価し、各評価者が最も渋みが軽減されたと想定する仮想の試料を「-10」として、0から-10までの11段階で評価した。
結果は、3名の評価結果の算術平均値として求めた。
【0122】
評価結果を下記表8に示す。
【0123】
【表8】
【0124】
評価の結果、連続圧力処理を施した試料は、いずれも未処理の試料よりも口当たりがよくなった。また、連続圧力処理を施した試料は、いずれも未処理の試料よりも渋みが軽減した。
【0125】
[実施例5]
(実施例5-1)
処理器30として用いたステンレスチューブについて、両端が閉じていると仮定したときの容積は15mlであった。送液ポンプ20から圧力調整弁40まで連通する内部空間Sの容積は、ステンレスチューブの容積と同じ15mLとして以下の検討を行った。
【0126】
エチルアルコール(以下、エタノール)を精製水で希釈し、2体積%エタノール水溶液を調製した。エタノール水溶液を液状体1として用い、送液ポンプ20を用いて送液速度60mL/分で送液した。
【0127】
液状体1を、圧力調整弁40の設定圧力(処理圧力)4MPa、恒温室温度(液状体1の処理温度)20℃、所要時間15秒で連続的に処理し、圧力調整弁40からを介して、圧力処理後の液状体1を大気圧カに排出させ、実施例5-1の試料を得た。
【0128】
(実施例5-2)
液状体1として4体積%エタノール水溶液を用いたこと以外は、実施例5-1と同様にして実施例5-2の試料を得た。
【0129】
(実施例5-3)
液状体1として6体積%エタノール水溶液を用いたこと以外は、実施例5-1と同様にして実施例5-3の試料を得た。
【0130】
(比較例5-1)
2体積%エタノール水溶液を連続圧力処理することなく、比較例5-1の試料とした。
【0131】
(比較例5-2)
4体積%エタノール水溶液を連続圧力処理することなく、比較例5-2の試料とした。
【0132】
(比較例5-3)
6体積%エタノール水溶液を連続圧力処理することなく、比較例5-3の試料とした。
【0133】
<ヘッドスペース法による評価>
試料4mlを、容積12mlのヘッドスペース分析用容器(内径14mm、深さ80mm)に採取し、テフロン(登録商標)製セプタム付のスクリューキャップで密閉した。密封した容器を、30℃の恒温槽で10分間保持し、気液平衡を達成させた。
【0134】
SPMEファイバーを用いて、容器内のヘッドスペースに揮発したエタノールを10分間サンプリングし、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製、GCMS-2010Plus)を用いて定量した。4回繰り返して測定し、各測定結果の算術平均および標準偏差を求めた。
【0135】
測定結果の算術平均および標準偏差を「(算術平均)±(標準偏差)」として下記表9~11に示す。
【0136】
【表9】
【0137】
【表10】
【0138】
【表11】
【0139】
測定の結果、エタノール水溶液を連続圧力処理した実施例5-1~5-3の各試料は、いずれのエタノール濃度においても、未処理の比較例5-1~5-3の試料よりもヘッドスペースへ揮発したエタノール量が多いことが確認できた。
【0140】
この結果について、発明者は、連続圧力処理によって、水溶液中におけるエタノール分子の会合状態が変化したことに起因した現象であると考えている。連続圧力処理によって、会合状態にある水溶液中のエタノール分子が減少し、単分散したエタノール分子が増えた結果、ヘッドスペース中にエタノールが揮発しやすくなったと考えることができる。
【0141】
なお、実施例5-2の試料と比較例5-2の試料とを口に含み、口腔内刺激を評価したところ、実施例5-2の試料は比較例5-2の試料と比べ、口腔内刺激が大幅に低下することを確認した。発明者は、エタノールによる口腔内刺激は、エタノールの会合体により引き起こされると考えている。実施例5-2の試料は、連続圧力処理によって会合状態にある水溶液中のエタノール分子が減少したため、口腔内刺激が低減したと考えられる。
【0142】
[実施例6]
(実施例6-1)
処理器30として用いたステンレスチューブについて、両端が閉じていると仮定したときの容積は15mlであった。送液ポンプ20から圧力調整弁40まで連通する内部空間Sの容積は、ステンレスチューブの容積と同じ15mLとして以下の検討を行った。
【0143】
精製水を液状体1として用い、圧力調整弁40の設定圧力(処理圧力)3MPa、恒温室温度(液状体1の処理温度)30℃、所要時間15秒で連続的に処理し、実施例6-1の試料を得た。
【0144】
(比較例6-1)
連続的圧力処理を行う前の精製水そのものを比較例6-1の試料とした。
【0145】
<表面張力の測定>
本実施例では、各試料について、Wilhelmy法(プレート法)により表面張力の精密測定を行った。実施例6-1の試料については、試料の調製後すぐに表面張力の測定を行った。
(測定条件)
白金プレート:協和界面科学株式会社製、24mm×10mm×厚さ0.1mm
電子天秤:OHAUS社製、PA114JPモデル
恒温プレート:AS ONE社製、COOL PLATE
試料温度:25±0.2℃
【0146】
アルマイト製の直径60mmのシャーレに試料を採取した。試料の量は、試料の液面がシャーレ底面から約3mmの高さ位置となるまでとした。
【0147】
試料を採取したシャーレを恒温プレート上に置き、温度制御を行った。試料の温度が設定温度に到達した後、すぐに表面張力を測定した。
その後、最初の表面張力の測定から0.5、1.0、2.0、3.0時間経過したときに、それぞれ表面張力を測定した。表面張力の測定は、それぞれ5回行い、各測定値の算術平均値を、求める表面張力として採用した。
本測定方法によると、標準偏差0.1mN/m以下の精度で表面張力を測定することができた。
【0148】
測定結果を図3に示す。図3は、各試料の表面張力の測定結果を示すグラフである。図に示すグラフは、横軸が経過時間(放置時間)(単位:時間)、縦軸が表面張力(単位:mN/m)を示す。
【0149】
比較例6-1の試料について上記方法で表面張力を測定したところ、0時間放置時の表面張力の測定値は、72.0mN/mであった。
【0150】
実施例6-1の試料について表面張力を測定したところ、0時間放置時の表面張力の測定値は、73.2mN/mであった。実施例6-1の試料の表面張力は、比較例6-1の試料の表面張力と比べて明らかに高かった。
【0151】
また、図に示すように、実施例6-1の試料の表面張力は、0.5、1.0、2.0、3.0時間経過した後にも、比較例6-1の試料の表面張力と比べて明らかに高かった。
【0152】
以上の結果より、精製水に本発明の圧力処理を施し得られた試料は、本発明の圧力処理を行っていない精製水と比べて、液体表面の物理的性質が異なっていることが分かった。
【0153】
<比熱の測定>
また、各試料について、示差走査熱量計(X-DSC7000、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて比熱を測定した。実施例6-1の試料の比熱は、予め比熱を測定した比較例6-1の試料を基準物質とし、銀製セルを用いて測定した。測定時の昇温速度は、2℃/分であった。
【0154】
比熱は下記式(1)により計算した。
【0155】
【数1】
【0156】
図4は、比熱の測定結果を示すグラフである。図4に示すグラフの横軸は、測定温度(単位:℃)、縦軸は、測定温度における比熱(単位:J/(kg・℃))を示す。
【0157】
比較例6-1の試料(未処理の精製水)の比熱は、30℃の4178J/kg・℃から80℃の4196J/kg・℃まで上昇した。
【0158】
一方、実施例6-1の試料(圧力処理水)の比熱は、30℃の4086J/kg・℃から80℃の4083J/kg・℃まで、温度の影響はほとんど認められなかった。
また、実施例6-1の試料の比熱は、比較例6-1の試料に比べて2.2~2.7%小さくなった。
【0159】
以上の結果より、実施例6-1の試料は、比較例6-1の試料とは物理的な性質が異なっていることが明らかとなった。
【0160】
水は、水素結合ネットワーク性の(水素結合のネットワークが密に形成された)液体である。発明者は、実施例6で示す結果は、本発明の液状製品の製造方法により、水の水素結合ネットワーク状態が変化したためと考えた。この水素結合ネットワークの変化が、官能評価における「口当たり」に影響を及ぼしたものと考えられる。
【0161】
[実施例7]
(実施例7-1~7-3)
市販のペットボトル入りのミネラルウォーターを液状体1として用い、処理圧力と、液状体1が送液ポンプ20により内部空間Sに流入してから圧力調整弁40を介して排出されるまでの所要時間と、を変更して処理を行った。
【0162】
処理器30として用いたステンレスチューブについて、両端が閉じていると仮定したときの容積が異なる3種類を用意した。各ステンレスチューブの容積は、それぞれ3ml、6mlおよび15mlであった。
【0163】
送液ポンプ20を用いて送液速度を60mL/分で送液した。処理圧力は4.0MPa、7.0MPaおよび10.0MPaであった。
【0164】
以上の条件により、液状体1が送液ポンプ20により内部空間Sに流入してから圧力調整弁40を介して圧力処理後の液状体1を大気圧下に排出させ、実施例7の試料を得た。
【0165】
処理は恒温槽で行った。液状体1の温度は恒温槽の温度を制御することで20℃に調整した。
【0166】
(比較例7)
市販のペットボトル入りミネラルウォーターそのものを比較例7の試料とした。
【0167】
(評価)
実施例1と同様にして評価を行った。処理圧力毎に口当たりが最もなめらかになる処理条件を下記表12に示す。
【0168】
【表12】
【0169】
評価の結果、実施例7の条件の範囲であれば、処理圧力が高くなるほど、同等の結果(口当たりのなめらかさ)を得るための所要時間を短縮できることが分かった。
【0170】
[実施例8]
(実施例8-1~8-3)
実施例7-1~7-3の処理で得られた試料、及び比較例7の試料を、大気開放した状態にて25℃で4日以上保管し、試料に空気を飽和溶解させることで、それぞれ実施例8-1~8-3、比較例8の試料を得た。
【0171】
得られた各試料について、疎水性の固体表面との界面における性質の違いを確認した。近年の研究によれば、疎水性の固体表面と水との界面においては、水分子は、通常の液体内部の水よりも氷に近い秩序だった構造になっていると考えられている。発明者は、本発明における連続圧力処理により、水の水素結合ネットワークなど水の構造に関わる性質が影響を受けるのであれば、疎水性の固体表面との界面においても、未処理の水と処理後の水とに差が生じるのではないかと考えた。
【0172】
実施例8においては、疎水性の固体としてポリエチレンを採用し、ポリエチレン壁に接する水の挙動の違いから、本発明の連続圧力処理の効果を確認した。
【0173】
<ポリエチレン壁における過飽和溶存空気の気泡発生>
10mLポリエチレン製シリンジを用い、シリンジ内に気泡が入らないように注意しながら、各試料を10mL吸い上げた。シリンジ周りの水滴を完全にふき取った後、試料が入ったシリンジの質量を精秤した。秤量した質量をW1とする。
【0174】
次いで、試料を含むシリンジを、先端の開口部を重力方向下方として、35℃の恒温水槽に3時間保持した。この保持により、シリンジ内の試料の溶存空気が一部シリンジ内面で気泡となり、生じた気泡によってシリンジの開口部から試料がシリンジ外に排出される。
【0175】
上記保持の後、シリンジを恒温水槽から取り出して、シリンジ周りの水滴を完全にふき取った後、試料が入ったシリンジの質量を精秤した。秤量した質量をW2とする。
【0176】
求めたW1とW2との差が、恒温水槽内に保持したシリンジにおいて、シリンジ内部に発生した気泡の量に対応すると捉え、試料1000mLあたりの気泡発生量Qを下記式(2)より算出した。
Q=(W1-W2)×1000÷10 …(2)
【0177】
さらに、シリンジ内に発生した気泡には、35℃における飽和水蒸気圧に対応する水蒸気が含まれるため、分圧から正味の空気発生量を求めた。
【0178】
各試料について、上記空気発生量を求めた。測定結果を図5に示す。
【0179】
なお、25℃の水に対する空気の飽和溶解度(体積基準)は0.0165、35℃の水に対する空気の飽和溶解度は0.0140である。そのため、25℃で空気を飽和溶解させた水を35℃に昇温した場合、25℃の空気飽和水に溶解する空気と、35℃の空気飽和水に溶解する空気との差の理論値は、水1Lあたり2.5mLである。
【0180】
評価の結果、比較例8の試料(未処理)よりも、実施例8-1~8-3の試料の方が、空気発生量が顕著に増加した。実施例8-2の試料においては、上記理論値の98%の空気が気泡となることが確認できた。
【0181】
以上の結果は、シリンジの疎水性内壁に接した水の構造の違いに起因すると考えられる。過飽和の空気は、疎水性の固体表面に扁平なナノバブルを形成することが知られている。実施例8-1~8-3の試料は、比較例8の試料と比べ、過飽和状態の気体分子が疎水性の固体表面に向けて拡散し、扁平なナノバブルが膨張して気泡となりやすい構造となっていると考えられる。この「構造」の違いとしては、上述した水の水素結合ネットワーク状態の違いが考えられる。
【0182】
比較例8の試料(未処理水)は、疎水性の固体表面において氷に近い秩序だった構造となっていると考えられる。このように秩序だった構造の部分が、水中に溶存する気体が固液界面へ拡散してナノバブルが膨張することを抑制していると考えられる。
【0183】
対して、実施例8-1~8-3の試料(処理水)は、疎水性の固体表面において氷に近い秩序だった構造となりにくいと考えられる。そのため、水中に溶存する気体が固液界面へ拡散することを抑制する因子が小さく、結果、疎水性の固体表面でナノバブルが膨張しやすいと考えられる。
【0184】
上記のような水の「構造」の違いが、水の口当たりのなめらかさと関係していると推量される。なお、図5の結果は、試料調製から3ヶ月間以上にわたって持続することを確認した。
【0185】
以上の結果より、本発明が有用であることが確認できた。
【符号の説明】
【0186】
10…貯留部、11…配管、12…送液ポンプ、15…温度調整機構、20…送液ポンプ、30…処理器、40…圧力調整弁(圧力制御機構)、41…配管、42…三方弁、43…配管、50…製品タンク、60…加熱部(加熱機構)、70…冷却部(冷却機構)、80…定置洗浄装置、90…制御部、100,200…製造装置
図1
図2
図3
図4
図5