(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】生物学的流体システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20231211BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/34 Z
(21)【出願番号】P 2021527118
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(86)【国際出願番号】 IL2019051264
(87)【国際公開番号】W WO2020105044
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-09-30
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(73)【特許権者】
【識別番号】521211033
【氏名又は名称】ジ インターディシプリナリー センター ヘルツリーヤ プロジェクツ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】THE INTERDISCIPLINARY CENTER HERZLIYA PROJECTS LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ゴメ,ギラッド ビニャミン
(72)【発明者】
【氏名】ワルド,イッダ イェホシュア
(72)【発明者】
【氏名】グリシュコ,アンドレイ
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-527093(JP,A)
【文献】特表2017-516473(JP,A)
【文献】国際公開第2018/013606(WO,A1)
【文献】特開2009-172858(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0151686(US,A1)
【文献】特開平11-070167(JP,A)
【文献】特開平09-287571(JP,A)
【文献】特表2010-502405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
C12P 1/00-41/00
C12Q 1/00-3/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を培養するか生理学的処理を実施するためのシステムにおいて、
流体駆動機構と、
2枚の柔軟なポリマーシートの間に形成された処理構造とを具え、当該構造が、
処理チャンバと、
当該チャンバの2つのポート間のダクトであって、当該ダクトを通って前記2つのポート間の流体の流れが可能であるダクトと、
前記ダクト内に規定された流れ駆動領域であって、当該流れ駆動領域の異なる柔軟な領域への選択的な押圧に応じて前記流体駆動機構と関与して前記2つのポート間の流体の流れを推進するように構成された流れ駆動領域と
、を具え、
前記駆動機構が、前記流れ駆動領域に関与して流体を推進するように構成された関与要素(engaging element)と磁気結合するように構成された磁気要素を有する駆動モータを具えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記流れ駆動領域がほぼ円形であり、前記流体駆動機構が流体を永続的に推進するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記処理構造の内部と外部との間のガス交換を可能にする通気構造を含む、請求項
1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記通気構造は、微生物を通過させずにガス交換を可能にするように構成される、請求項
3に記載のシステム。
【請求項5】
前記通気構造が、固体粒子を濾過するためのフィルタを含む、請求項3または4に記載のシステム。
【請求項6】
生物を前記チャンバに導入するための接種ポートを含む、請求項
1乃至5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記処理チャンバの対向する壁が、前記チャンバの縁以外の1つまたは複数の領域で互いに固定されている、請求項
1乃至6に記載のシステム。
【請求項8】
前記処理構造は使い捨てである、請求項
1乃至7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記駆動機構を含み、前記処理構造と関連するように構成されたベース構造を具える、請求項
1乃至8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記2つのポリマーシートが互いに溶着されて、互いに溶着されていない前記2枚のシートの間に閉じられた内部空間の構造を形成し、これが前記処理構造の構造を規定する、請求項
1乃至9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記処理チャンバ内の温度を制御するように構成された温度制御ユニットを含む、請求項
1乃至10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記制御ユニットが、25℃~100℃または-20℃~4℃の範囲で温度を制御するように構成される、請求項
11に記載のシステム。
【請求項13】
温度センサまたは光センサのうちの少なくとも1つを含む、請求項
1乃至12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記温度センサまたは光センサのうちの少なくとも1つが、感知されたデータを通信するように構成された通信モジュールとデータ通信する、請求項
13に記載のシステム。
【請求項15】
前記光センサは分光光度計として構成されている、請求項
13または14に記載のシステム。
【請求項16】
前記処理チャンバを少なくとも照らすように構成された少なくとも1つの光源を含む、請求項
1乃至15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記少なくとも1つの光源が、レーザーまたはLED光源として構成される、請求項
16に記載のシステム。
【請求項18】
生理学的または化学的な処理を実施するためのシステムであって、
流体駆動機構を具え処理構造と関与するように構成されたベース構造であって、前記駆動機構は1または複数の磁気的な関与要素を駆動する駆動モータを有するベース構造を具え、
前記処理構造は2枚のポリマーシートの間に形成され、この構造は、
処理チャンバと、
当該チャンバの2つのポート間のダクトであって、当該ダクトを通って前記2つのポート間の流体の流れが可能であり、前記ダクト内に規定された流れ駆動領域であって、当該流れ駆動領域の異なる柔軟な領域への選択的な押圧に応じて前記流体駆動機構と関与して前記2つのポート間の流体の流れを推進するように構成された流れ駆動領域を有するダクトとを具え、
前記1または複数の磁気的な関与要素は前記駆動機構から物理的に分離されており、前記駆動モータと磁気的に結合し、それによって駆動され、前記流れ駆動領域との関与によって前記流体を推進させることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は生物学的流体システムに関し、具体的には培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的アッセイを実行し、微生物、細胞培養、または硬組織と軟組織を培養するための多くの既知のシステムが存在する。これらのシステムの多くは、ある程度の滅菌または作業時に何らかの保護手段を必要とするため、学生などの様々な集団が広く利用できない場合がある。したがって、そのようなシステムの可用性を向上させると、それらを使用および体験しようとする多くの集団の露出を促進する可能性がある。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、汚染物質の侵入を許さない方法で環境から隔離されたチャンバに流体が含まれる閉鎖システムで生物学的処理を実行することによって高度の滅菌を提供する生物学的流体システムに関する。生物学的流体、例えば液体または気体は、2つのポリマーシートの間に形成された生物学的処理構造内に含められるか処理され、これらは例えば接合によって互いに固定されて処理構造を規定する。この処理構造は、いくつかの実施形態では、生物を培養するための培養構造として使用することができる。「生物」のいくつかの非限定的な例は、微生物、細胞、組織である。ポリマーシートは、特にシステムが生物(例えば、微生物、動物または植物起源の細胞)の培養を目的とする場合、透明または半透明のポリマー材料でできていてもよい。前記構造は、生物学的成分を含む反応液体を収容するための1つまたは複数の処理チャンバと、構造内の液体循環を可能にするための1つまたは複数のダクトとを含む。この生物学的構造は柔軟であり、例えば1つまたは複数のダクトの領域といった様々な領域への選択的圧力を介して、流体が前記構造を通って循環して流れるように駆動される。
【0004】
「流体」という用語には、液体、気体、およびプラズマが含まれるが、これらに限定されないことに留意されたい。
【0005】
処理構造はある程度伸縮性および収縮性であり、例えば処理構造に対して横方向の力を加えることによって、流体およびその中の生物学的成分の流れさせることができる。処理構造に横方向の力を加えると、筋肉組織や腱などの細胞または組織の培養が刺激される場合がある。
【0006】
前記構造内で実行される生物学的処理には、微生物、(動物または植物細胞の)細胞培養物、軟組織および硬組織の培養、等温PCRなどの生物学的アッセイ、イムノアッセイ、タンパク質ベースのアッセイ、化学分析、クロマトグラフィー、または他の化学的および生化学的分析が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0007】
本開示の第1の態様では、細胞または微生物などの生物を培養するためのシステムが提供される。このシステムは、互いに固定された2枚のポリマーシートの間に形成された培養構造を含む。これらのシートは、単層または多層のポリマーシートを含む、様々なポリマー材料で作ることができる。ポリマーは、例えば、ポリアミドおよび/またはポリエチレンを含むナイロンであり得る。培養構造は、微生物を培養するために構成された少なくとも1つのチャンバと、それぞれが少なくとも1つのチャンバの2つのポートの間を連結する少なくとも1つのダクトとで形成される。少なくとも1つのダクトは、蠕動作用によって2つのポート間のダクトを通って流体の流れを推進する流体駆動機構と関与(engagement)するように構成された流れ駆動領域を有する。「第1のポート」という用語は、便宜上一方のポートに使用され、「第2のポート」はもう一方のポートに使用される。「第1」または「第2」としてのポートの修飾には階層的な意味はなく、説明を合理化するためにのみ使用される。流体は両方向、つまり第1のポートから2番目のポートへ、またはその逆に流れることができる。流体に言及するときは、液体、溶液、気体など、流れる能力のある物質を含むと解釈する必要がある。流体駆動機構は、作用速度、すなわち、単位時間または所定の動作時間のいずれかに推進する流体の速度に関して制御可能であり得る。例えば、流体駆動機構は、所定のサイクル、例えば1時間に1回、または1日に数回、動作時間の所定の間隔などで動作するように設定でき、各動作は数秒または数分続きであり得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、第1のポートはチャンバの片側、例えば上側に配置され、第2のポートは別の側、例えば下側に配置される。ポート間の液体の流れ、例えば下部の第2ポートと上部の第1ポートの間の流れが、処理チャンバ内で液体を循環させる。この実施形態では、第2のポートから第1のポートへの流れは、チャンバの下部からその上部への液体の循環を引き起こし、一方で第1の上部ポートから第2のポートへの流れは、チャンバの上部から液体中に空気の泡立ちを引き起こす。
【0009】
いくつかの実施形態では、システムは、微生物を培養するために構成された少なくとも1つのチャンバを培地リザーバに連結する入口ダクトをさらに含む。培地リザーバは、少なくとも1つのチャンバ内で微生物の増殖に適した増殖培地を含む。増殖培地は、手動の力をかけるか、増殖培地を培地リザーバから少なくとも1つのチャンバに向かって動かす培地駆動機構のいずれかによって駆動される。培地リザーバは、培養構造の一部であるか、またはそれに接続可能であり得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、システムは、微生物を培養するように構成された少なくとも1つのチャンバを、少なくとも1つのチャンバから排出された培地を受け入れるように構成された排出リザーバに連結する出口ダクトをさらに含む。排出された培地は、手動の力をかけるか、排出培地を少なくとも1つのチャンバから排出リザーバに向かって動かす排出駆動機構のいずれかによって駆動される。排出リザーバは、培養構造の一部であるか、またはそれに接続可能であり得る。
【0011】
ダクトの流れ駆動領域は、円の少なくとも一部をトレースするように作成することができ、ほぼ円形とすることができる。流体駆動機構は、液体を永続的に推進させ、流体を双方向に循環可能にする蠕動ポンプとして構成されている。
【0012】
いくつかの実施形態では、駆動機構は、流れ駆動領域に関与しそれを通して流体を推進するように構成された少なくとも1つの関与要素を含む。この関与要素は、駆動機構から物理的に分離されており、駆動される駆動モータに磁気的に結合されて、それによって流体を推進させることができる。
【0013】
システムは、処理構造の内部と外部環境との間のガス交換を可能にするための通気構造を具えることができる。ベント構造は、(i)導入されたガス中の粒子を濾過するための、HEPAフィルタ、紙またはプラスチック製フィルタ、活性炭フィルタなどのフィルタ、(ii)処理構造へのガスの導入、または処理構造から環境への余剰ガスの流れのいずれかを可能にする一方向弁のうちの少なくとも1つを具える。
【0014】
いくつかの実施形態では、通気構造は、例えばスワンネック形状を有することによって、微生物を通すことなくガス交換を可能にするように構成される。
【0015】
処理構造は、培養に必要な生物学的成分を含む処理チャンバから細胞が隔離されるように細胞を保持するように構成された導入領域を有し得る。この隔離は、培養プロセスの開始時間を制御するのに有用である。この隔離は、以下で実現することができる:(i)微生物と培養チャンバをつなぐスワンネック形状のダクトであって、微生物をチャンバ内に移動させるためにポリマーシートに力を加える必要がある;(ii)微生物領域と培養チャンバを分離するシーリング部材であって、このシーリング部材は、微生物をチャンバに導入できるようにするために破断または破壊可能である;または(iii)スワンネック形状のダクトとシーリング部材の組み合わせ。処理構造はまた、微生物をチャンバに導入するための接種ポートを含み得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、処理チャンバは、液体の存在下または内圧の上昇(例えば、微生物のガス状生成物による)において、壁の弾性によるチャンバの寸法の実質的な拡大を防ぐために、その対向する壁が例えばレーザー溶着によって互いに固定されている1つまたは複数の領域を含む。
【0017】
処理構造は、好ましくは使い捨てであり得る。
【0018】
このシステムはさらに、前記駆動機構を含み前記培養構造と関連するように構成されたベース構造を具える。
【0019】
いくつかの実施形態では、システムは、処理構造内、特に培養チャンバ内の流体の温度を感知するための少なくとも1つの温度センサを含む温度制御ユニットを具える。感知された温度は温度制御ユニットの動作に作用して、処理構造内、より具体的には培養チャンバ内の温度範囲を維持することができる。温度制御ユニットは、培地内の温度範囲を25℃~100℃に維持する。
【0020】
システムは、培養チャンバ内の流体からの光反射または流体を通る光透過を感知するための少なくとも1つの光源および少なくとも1つの光センサをさらに含み得る。光源は、LED光源とレーザー光源のうちのいずれか1つから選択することができる。
【0021】
感知されたデータは、データを格納または処理するために、通信モジュールによって外部ユニットに通信され得る。
【0022】
本開示の別の態様は、2つのポリマーシートの間に形成された培養構造を提供する。この構造は、(i)培養チャンバ、(ii)ダクトを通る2つのポート間の流体の流れを可能にするためのチャンバの2つのポート間のダクト、および(iii)ダクト内に規定されて2つのポート間の流体の流れを推進するための流体駆動機構と関与するように構成された流れ駆動領域を含む。
【0023】
本開示の別の態様は、流体駆動機構および2つのポリマーシートの間に形成された生物学的構造を含む生物学的流体システムを提供する。この構造は、(i)少なくとも1つのチャンバ、(ii)チャンバの2つのポート間および/または2つのチャンバ間の流体の流れを可能にする少なくとも1つのダクト、および(iii)少なくとも1つの1つのダクト内に規定されて2つのポート間の流体の流れを推進する流体駆動機構と関与するように構成された流れ駆動領域を含む。
【0024】
本開示のさらに別の態様は、2つのポリマーシートの間に形成され、破断または破壊可能なシーリングによって培養チャンバから隔離された、生物を貯蔵するための培養前貯蔵区画を有する培養構造を提供する。シーリングは、例えば指押しといった外力、またはシーリングを破って接種ポートを介して生物を培養チャンバに生物を移動させるように構成された作動構造によって破断または破壊され得る。培養チャンバは、生物の培養に適した栄養素を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、培養構造は、ダクトを通る2つのポート間の流体の流れを可能にするためのチャンバの2つのポート間のダクトをさらに含み、ダクト内に規定されて2つのポート間の流体の流れを推進する流体駆動メカニズムと関与するように構成された流れ駆動領域を有し得る。
【0026】
本開示のさらに別の態様は、滅菌された閉鎖システムにおいて化学反応を実施するために、上記の流体システムの構造を利用する。
【0027】
このため、化学反応を実現するためのシステムが提供される。このシステムは、互いに固定された2つのポリマーシートの間に形成された反応構造を具える。この反応構造は、それぞれが化学成分を保持するように構成された第1および第2のチャンバと、第1および第2のチャンバとの間を連結する少なくとも1つのダクトとで形成される。
【0028】
いくつかの実施形態では、第1および第2のチャンバのそれぞれは、連結ダクトを介して追加の化学成分を保持する1つまたは複数の追加のチャンバに連結され得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、第1および第2のチャンバは、破断または破壊可能なシーリングによって分離されている。シーリングは、例えば指押しといった外力、またはシーリングを破って化学成分を一方のチャンバから他方のチャンバに移動させるように構成された作動構造によって破断または破壊され得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、反応構造は、チャンバの1つへのガスの導入またはチャンバからのガスの除去を可能にする1つまたは複数の一方向弁を含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、反応構造は、第1および第2のチャンバのいずれかの2つのポート間を連結し、2つのポート間のダクトを通って流れる流体を蠕動作用を介して推進する流体駆動機構と関与するように構成された流れ駆動領域を含む流れ駆動ダクトを具える。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本明細書に開示される主題をよりよく理解し、それが実際にどのように実施され得るかを例示するために、添付の図面を参照して、非限定的な例としてのみ実施形態について説明する。
【
図1】
図1A~1Cは、本開示のマクロ流体システムの例の概略図の斜視図である。
図1Aは、マクロ流体システムの培養構造とベース構造とを別々に示す。
図1Bは、ベース構造に付随する培養構造とともに、流れ駆動領域に関与する関与要素を示す。
図1Cは、本開示の伸長機構マクロ流体システムの動作スキームを示す。
【
図2】
図2A~2Bは、化学反応を実現するための本開示の流体システムの実施例の概略上面図である。
図2Aはシステムの2つのチャンバ構造を示し、
図2Bはシステムの3つのチャンバ構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本開示は、微生物培養または複数の生物学的アッセイなどの生物学的処理を実行するためのマクロ流体システムに関する。
図1Aは、微生物を培養するために構成されたマクロ流体システムの概略図の斜視図である。システム100は、レーザー溶着によって互いに溶着された2つのポリマーシート104と106の間に形成された培養構造102を含む。2枚のシートは互いに溶着されて、互いに溶着されていない2枚のシートの間に閉じられた内部空間の構造を形成する。この空間は、他の構造の中でもとりわけ、微生物および細菌細胞、成長培地、抗生物質、ウイルス粒子、核酸、酵素などの生物学的成分を収容し、それによって培養の基礎として機能するように構成された培養チャンバ108を形成する。培養チャンバ108は、チャンバ108の上部と下部にそれぞれ2つのポート110Aおよび110Bを有する。2つのポート110A、110Bは、液体や気体などの流体がそこを通って流れることを可能にするように構成されたダクト112によって互いに連結されている。ダクト112は、流れ駆動領域114として機能するように構成されたほぼ円形の領域を有する。
【0034】
培養構造102は、その四隅に4つの貫通孔116を有し、ベース構造120に設けられた4つの吊り下げ部材118に培養構造102を吊り下げて密着させることができるようになっている。ベース構造120は、当該ベース構造から取り外し可能である関与部材(engaging members)122A、122Bと磁気的に結合するように構成された駆動機構(図示せず)を具える。培養構造102とベース構造が連合したときに、関与部材122A、122Bは流動駆動領域114と関与し、駆動機構によって駆動され、それによって培養構造102内の流体を推進するように構成される。培養チャンバ108は、対向する壁、すなわち2つのポリマーシートが互いに溶着されている複数の領域を有する。これらの溶着領域124により、その中の流体の圧力および壁の弾性/柔軟性の増加によるチャンバ108の膨らみが防止される。
【0035】
培養チャンバは、最初は微生物を培養チャンバから隔離した状態で製造することができる。微生物は、接種ポート130に連結されたスワンネック形状(swan-necked、白鳥の首)の領域128、および/またはその破断または破壊時に微生物のチャンバ108への導入を可能にする破断可能または破壊可能なシーリング部材132によって、培養チャンバ108から分離された微生物チャンバ126に貯蔵され得る。
【0036】
ベース構造120は、培養構造102とベース構造120が連合されたときに、培養チャンバ108と密着するように構成された熱源134を付随している。熱源134は、培養チャンバを32℃~42℃といった所定の温度範囲に維持するように構成される。熱源134は、熱源134の動作を制御して所望の温度範囲を維持するように構成された温度制御(図示せず)ユニットとデータ通信することができる。この制御ユニットは、周囲温度および/または、培養チャンバや流動駆動領域といった培養構造の1つまたは複数の温度を感知するための1つまたは複数の温度センサを含み得る。
【0037】
ベース構造120にはスリット136が形成されており、これは培養構造とベース構造との結合時に、ダクト112と培養チャンバ108のうちの少なくとも1つに面するように構成されている。ベース構造120内には分光光度計が含まれ、培養構造104内の流体のスペクトルプロファイルを測定して微生物の成長や密度を示すデータを得るように構成される。分光光度計は、500~700nmの波長で照明するように構成することができる。いくつかの実施形態では、分光光度計は、少なくとも5つの異なる波長で培養構造内の流体を測定するように構成される。
【0038】
ベース構造120はまた、培養構造の少なくとも一部を照明するように構成された光源を含み得る。この光源は、光合成細胞の培養のために、425~450nmおよび/または600~700nmの波長でスリット136または追加のスリット138を通して照明することができる。
【0039】
図1Bは、本開示のシステムを例示しており、ベース構造120は、吊り下げ部材118を貫通穴116に挿入することによって、培養構造102に付随される。この例では、2つの関与要素122Aおよび122Bが駆動機構に磁気的に引き付けられ、関与要素が流れ駆動領域112へ取り付けられる。関与要素122Aおよび122Bは駆動機構によって駆動されて、流れ駆動領域112に沿って矢印Aの方向に回転し、これにより培養チャンバ108の上部からその下部へガスが流れ、液体にガスが入って泡立つ。また、駆動機構が関与要素を矢印Aの反対方向に駆動すると、培養チャンバ108の下部から液体がダクト112を通ってチャンバ108の上部へと流れる。このように、駆動機構および関与要素122A、122Bは、双方向の蠕動ポンプとして構成される。
【0040】
熱源134は、培養チャンバ108と熱的に接触し、細胞の培養といった生物学的処理に適した特定の範囲の所望の温度を維持するようにチャンバ108を加熱するように構成されている。
【0041】
スリット136はダクト112に面しており、分光光度計、またはベース構造120内に収容され得る他の任意の光学測定装置の測定を可能にする。光遮断部材137が、スリット136の領域に取り付けられており、ダクト112の測定部分を周囲光から実質的に遮断しつつ、その中の流れを可能にするように構成される。この部材137は、測定の間に反復条件を誘発し、測定の信頼性が高まる。
【0042】
図1Cは、本開示のシステムの実施形態の一例の概略図である。伸長機構(図示せず)の4つの部材140が、培養構造102の四隅の貫通穴116に挿入され、矢印A1~A4の少なくとも1つの方向に移動して培養構造102に力を加え、その柔軟な特性のためにストレッチするように構成される。このメカニズムは、筋肉組織や腱など、いくつかの種類の細胞培養または組織の培養を強化することができる。
【0043】
図2A~2Bは、本開示による化学反応を実施するためのシステムの2つの実施形態の概略図である。
図2A~2Bは、2枚のポリマーシートの間に形成された反応構造202を示す。反応構造202は、第1のチャンバ242および第2のチャンバ244を有し、それぞれが化学成分を含んでいる。化学成分は、液体または気体の形態の流体であってもよいし、固体粒子で作られてもよい。ダクト246は、それぞれ第1および第2のチャンバ242、244のポート248、250の間を連結している。
【0044】
図2Aにおいて、チャンバ242は、追加の化学成分を保持する追加のチャンバ252と連結されている。チャンバ242への追加の化学成分の導入は、破断可能なシーリング部材232によって阻止されており、その破断時に、チャンバ252に貯蔵された化学成分がチャンバ242に自由に導入される。