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特許7399513澱粉含有組成物の物性改良剤及び澱粉含有組成物の物性改良方法、並びに澱粉含有組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】澱粉含有組成物の物性改良剤及び澱粉含有組成物の物性改良方法、並びに澱粉含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/244 20160101AFI20231211BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20231211BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20231211BHJP
   A21D 2/10 20060101ALI20231211BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20231211BHJP
【FI】
A23L29/244
A23L7/10 Z
A23L7/109 C
A21D2/10
A21D13/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022179558
(22)【出願日】2022-11-09
【審査請求日】2023-03-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】倉内 達弘
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-135249(JP,A)
【文献】特開平07-327583(JP,A)
【文献】特開平05-038263(JP,A)
【文献】特開2007-295895(JP,A)
【文献】国際公開第2011/033807(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有すること
を特徴とする澱粉含有組成物の糊化状態安定剤
【請求項2】
前記低粘性グルコマンナンは、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有していること
を特徴とする請求項1記載の澱粉含有組成物の糊化状態安定剤
【請求項3】
澱粉を含有する組成物で、
該澱粉が糊化状態で添加されている澱粉含有組成物であるか、
該組成物が使用され若しくは作用するに際して、又は該澱粉が添加物としての目的を達し若しくは作用効果を奏するに際して、前記澱粉が糊化される澱粉含有組成物であって、
請求項1または請求項2記載の糊化状態安定剤が配合されていること
を特徴とする澱粉含有組成物。
【請求項4】
澱粉含有組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを有効成分とする糊化状態安定剤を配合すること
を特徴とする澱粉含有組成物の糊化状態の安定化方法。
【請求項5】
前記低粘性グルコマンナンは、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有していること
を特徴とする請求項4記載の澱粉含有組成物の糊化状態の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉含有組成物の物性改良剤及び澱粉含有組成物の物性改良方法、並びに澱粉含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、及びそれ以外の化成品等の様々な組成物に、澱粉が含まれている。これらの澱粉含有組成物に含まれる澱粉は、α澱粉の状態で添加されていることが多い。或いは、β澱粉の状態で添加されていても、当該組成物が使用され若しくは作用するに際して、又は当該澱粉が当該添加物としての目的を達し若しくは作用効果を奏するに際して、糊化(α化)される場合が殆どである。澱粉の糊化は、結晶状態にあるβ澱粉が水と共に加熱されたときに、熱により切断された糖鎖の隙間に水分子が入り込むことで起こる。糊化された澱粉は物性が変化し、例えば、食品では、パン等の焼成品の容積をより増し、餅、団子、タピオカパール、春巻きや餃子等の皮、蕎麦、うどん、中華麺その他の麺類、たれ類、とろみ類等の様々な食品に粘弾性のある特有の食感をもたらす。しかしながら、これらの食品が放置されると経時的に水分が抜けてα澱粉は再び結晶状態のβ澱粉に変化し、それに伴って粘弾性が低下し、最終的に硬化していく(老化(β化))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-79689号公報
【文献】特開平8-242784号公報
【文献】特開2003-253263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、澱粉含有組成物は、澱粉の糊化によって、当該組成物に良好な物性がもたらされるが、澱粉の状態はそれを含む系の水分量等によっては安定せず、例えば、食品では、粘弾性が弱かったり、糊状感が生じたりして食感が良くなかったり、また、パンが気泡が少なめでふんわりと焼き上がらなかったり、麺が伸び易かったり、また、過剰な付着性が生じて取扱い性が悪くなったりして、必ずしも良好な物性が得られないことがある。
【0005】
また、澱粉の老化の進行については、従来の老化防止剤として、特許文献1(特開平7-79689号公報)には、有効成分としてグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤が記載されている。しかしながら、乳化剤は、食品の味及び香りを低下させてしまう。また、特許文献2(特開平8-242784号公報)には、有効成分としてトレハロースが記載されている。しかしながら、トレハロースは、食品に甘味を与えてしまう。また、特許文献3(特開2003-253263号公報)には、有効成分として不凍蛋白質が記載されている。しかしながら、不凍蛋白質は、食品に苦味を与えてしまう。このように、従来の老化防止剤は、特に、食品に十分に適しておらず、その効果も十分ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、澱粉含有組成物において、澱粉の糊化状態が安定することによって当該組成物に良好な物性をもたらし、特に食品では、粘弾性を有し糊状感の無い良好な食感、焼成時の容積増し、麺の伸び防止、付着性の抑制が実現され、且つ、糊化した澱粉の老化を防止することができる澱粉含有組成物の物性改良剤及びその物性改良方法、並びにこれによって物性が改良された澱粉含有組成物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0008】
本発明に係る澱粉含有組成物の糊化状態安定剤は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る澱粉含有組成物の糊化状態の安定化方法は、澱粉含有組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを有効成分とする糊化状態安定剤を配合することを特徴とする。
【0010】
これによれば、当該低粘性グルコマンナンによって微細な膨潤粒子からなる緻密な骨格構造が形成される。当該骨格構造は優れた保水性を有し、安定して水分を保持した微細な膨潤粒子がα化した澱粉ゲルの中に入り込むと、緻密な骨格構造が澱粉ゲルマトリックスと相互作用を起こして、澱粉ゲルマトリックスを構造的に安定化させると共に、離水による老化を防止することができる。
【0011】
また、本発明に係る澱粉含有組成物は、澱粉を含有する組成物で、該澱粉が糊化状態で添加されている澱粉含有組成物であるか、該組成物が使用され若しくは作用するに際して、又は該澱粉が添加物としての目的を達し若しくは作用効果を奏するに際して、前記澱粉が糊化される澱粉含有組成物であって、本発明に係る糊化状態安定剤が配合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、澱粉含有組成物において、澱粉の糊化状態が安定することによって当該組成物に良好な物性をもたらすことができる。特に食品では、粘弾性を有し糊状感の無い良好な食感、焼成時の容積増し、麺の伸び防止、付着性の抑制が実現され、且つ、糊化した澱粉の老化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本実施形態に係る澱粉含有組成物の物性改良剤及び澱粉含有組成物の物性改良方法について説明する。本願でいう「物性改良」とは、組成物中の澱粉の糊化状態の安定性の向上を意味し、すなわち、当該組成物に応じた良好な糊化状態を安定的に維持する効果のことである。本実施形態では、澱粉を含有する組成物として、本発明に係る物性改良剤及び物性改良方法を特に好適に使用することができる「食品」を例にして説明するが、これ以外の、澱粉がα澱粉の状態で添加されている組成物に対しても適用することができる。更に、β澱粉の状態で添加されても、その組成物が使用され若しくは作用するに際して、又は当該澱粉が当該添加物としての目的を達し若しくは作用効果を奏するに際して、糊化(α化)される組成物に対しても適用することができる。
【0014】
本実施形態に係る澱粉含有組成物の物性改良剤は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有する。
【0015】
本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、こんにゃく粉、或いはこんにゃく粉等から抽出、精製したグルコマンナン(改質グルコマンナンとの対比で「通常のグルコマンナン」と表記する場合がある)を改質した改質グルコマンナンであって、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンである。ここで、「25℃における1%水溶液の粘度」は、グルコマンナン3.0gを310gの精製水に分散した後、95℃で3分間加熱して最終重量を300gに調整して取得したゾルの25℃における粘度(溶液温度25℃±1℃で1時間静置後に測定した粘度)をいう。粘度の測定には、B型回転粘度計を使用する。ローターの回転数を60rpmとし、回転し始めてから40秒後の測定値とする。ローターは、予測される試料の凡その粘度に応じて、当該粘度が1000mPa・s以上の試料にはNo.3、当該粘度が500mPa・s以上1000mPa・s未満の試料にはNo.2、当該粘度が500mPa・s未満の試料にはNo.1のローターを使用する。
【0016】
本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、グルコマンナンを低分子化することによって製造することができる。グルコマンナンは、グルコースとマンノースとが所定の割合でβ-1,4-グリコシド結合した水溶性多糖類である。グルコマンナンは、一例として、こんにゃく芋に主成分として含有されており、このような原料から抽出、精製される。原料としてのグルコマンナンには、一例として、こんにゃく芋等のグルコマンナンを主成分とする原料を細かくした粉末や、更にそれをアルコール洗浄や精製によって不純物を除去したりグルコマンナンの純度を高めたりした粉末等の、何れの形態(段階)のものを用いてもよい。市販製品を用いてもよく、当該市販製品でいえば、一例として、「こんにゃく粉(荒粉、製粉等)」として流通する製品や、こんにゃく粉を原料とする「グルコマンナン」として流通する製品等、何れを用いてもよい。原料のグルコマンナンを低分子化する方法は限定されない。例えば、酸加水分解、熱加水分解、粉砕処理、酵素処理等の方法を用いればよい。
【0017】
酸加水分解による方法では、グルコマンナンを酸性溶液中で加熱することにより加水分解し、アルカリにより中和した後に乾燥することによって、低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。使用する酸は、クエン酸、リンゴ酸、次亜塩素酸、リン酸、酢酸、塩酸、硫酸等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。また、使用するアルカリは、クエン酸ナトリウム、重曹、水酸化ナトリウム等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。更に、乾燥方法は、熱風乾燥、ドラム乾燥、スプレー乾燥、フラッシュ乾燥、真空凍結乾燥等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、スラリーから水分を蒸発させて乾燥物を分離できればよい。得られた乾燥物を、必要に応じて粉砕等により粉末化してもよい。また、乾燥方法は複数種類を使用してもよい。また、スラリーのpH、加熱温度、加熱時間を調整することによって粘度を調整できる。
【0018】
熱加水分解による方法では、乾燥状態のグルコマンナン粉末の状態、水若しくはアルコール水溶液にグルコマンナンを分散したスラリーの状態、又は、水にグルコマンナンを溶解した水溶液の状態等で加熱することにより加水分解した後に乾燥することによって、低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。乾燥方法は、上記列挙した各方法により行うことができる。
【0019】
粉砕処理による方法では、グルコマンナンを粉砕することによって低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。粉砕方法は、ターボミル、カッターミル、ハンマーミル、スタンプミル、ロールミル、ボールミル、ピンミル、ジェットミル、石臼等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。粉砕処理は加水状態で行うこともでき、粉砕後は、通常の乾燥方法(例えば、スラリーの乾燥方法として上記列挙した各方法)により乾燥させることができる。
【0020】
酵素処理による方法では、グルコマンナンを酵素により分解することによって低分子化された低粘性グルコマンナンを得ることができる。使用する酵素は、マンナナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、これらのうちから複数種類を使用してもよい。酵素は、使用する酵素の至適条件で作用させることが好ましい。また、必要に応じて処理後のスラリーを前述の酸加水分解法と同様にして乾燥させ、得られた乾燥物を粉砕等により粉末化してもよい。
【0021】
なお、グルコマンナンを低分子化する前後において、グルコマンナン粒子(粉末等)を適宜所定のメッシュサイズの篩や風力によって分級してもよい。分級によればグルコマンナン粒子(粉末等)はその粒子サイズ(粒子径)によって分離されるが、当該分級は分子篩としての効果を所定程度発揮することから、例えば、所定のメッシュサイズの篩を使用して分級することで、グルコマンナンの粘度を微調整できる。従って、グルコマンナンの低分子化における一工程として分級を実施してもよい。
【0022】
このように、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、通常のグルコマンナンよりも分子量が小さく、粘性が低い。グルコマンナンを水和させると膨潤して網目構造を有する骨格構造が形成される。このとき、当該低粘性グルコマンナンによれば、微細な膨潤粒子からなる緻密な骨格構造が形成される。当該骨格構造は優れた保水性を有し、安定して水分を保持した微細な膨潤粒子がα化した澱粉ゲルの中に入り込むと、緻密な骨格構造が澱粉ゲルマトリックスと相互作用を起こして、澱粉ゲルマトリックスを構造的に安定化させると共に、離水による老化を防止することができる。
【0023】
当該物性改良効果は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンにあって、発揮され得る。当該粘度が20mPa・sよりも低いと、骨格構造が弱く不安定で、保水性が弱くなる。一方、当該粘度が800mPa・sよりも高いと、骨格構造が粗く不安定であると共に、グルコマンナンの分子鎖が長く分子間の相互作用が強くなることから、経時的に分子鎖が凝集し、骨格構造が収縮して離水してしまい、保水性が弱くなる。また、膨潤粒子が大き過ぎると澱粉ゲルの中に入り込めない。更には、当該粘度が20mPa・sよりも低くても800mPa・sよりも高くても、上記のように骨格構造が不安定で、澱粉ゲルマトリックスとの相互作用が得られないか弱くなる。その結果、本願の物性改良効果を得ることができない。
【0024】
また、本願の物性改良効果が得られず、澱粉の状態が不安定であると、澱粉に糊状感等が生じて食感が悪くなることがあるが、通常のグルコマンナン又はそれよりも粘度が低いものの800mPa・sよりも高いグルコマンナンを配合した場合も、当該グルコマンナンに曵糸性及び糊状感が生じることで食感が悪くなり、また、組成物が機械や容器に付着し、粘りも強く、取扱い性が悪くなる。これに対して、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンによれば、通常のグルコマンナンよりも粘性が低くなることから、曵糸性及び糊状感は生じず、上記のような、グルコマンナンによる食感の低下は問題にならない。また、取扱い性が良く、特に加水して混練する際の作業性が極めて良好になる。
【0025】
本実施形態に係る物性改良剤による物性改良効果によって、澱粉含有食品に対しては、粘弾性を有し糊状感の無い良好な食感が得られ、パン等はふんわりと焼き上がり気泡が均一に含まれて柔らかい食感に仕上がり、麺の伸びが防止され、付着性が抑えられる。
【0026】
本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、前述のように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある。後述の実施例によれば、当該粘度は、より好適には25mPa・s~500mPa・sの範囲にあることが好ましく、更に好適には30mPa・s~300mPa・sの範囲にあることが好ましい。
【0027】
また、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンにおいて、十分な物性改良効果を発揮し得る適度な緻密さ及び強度を有する安定した骨格構造が形成可能な物性の有無を示す(粘度の下限値を評価する)一つの基準としては、低粘性グルコマンナンが単独でアルカリによるゲル形成能を有することである。すなわち、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンにあっては、アルカリ条件下で加熱されることでゲル化する性質を有している(表2)。一方、当該粘度が20mPa・sを下回る過度に低粘性のグルコマンナンでは、形成される骨格構造の強度が弱すぎて単独でアルカリによるゲル形成能を有せず、例えば高分子の(高粘性の)通常のグルコマンナン等を所定量混合したりしなければゲル化しない。このような過度に低粘性のグルコマンナンは、物性改良効果を殆ど発揮しない。
【0028】
また、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンは、レーザー回折型粒度分布測定法により測定される粒度分布における体積平均粒子径(MV:Mean Volume Diameter)が10μm~160μmの範囲にあることが好ましく、より好適には10μm~100μmにあることが好ましい。ここでいう体積平均粒子径(MV)は、レーザー回折型粒度分布測定法により測定される体積基準の粒度分布における算術平均径である。これによれば、低粘性グルコマンナンの粉末を小さくすることで、例えば水分量の少ない系のような、粉末を溶解させにくい系においても溶解しやすくなって、物性改良効果がより安定して得られ易くなる。なお、粒子径範囲の下限を10μmとしているのは、これより微細な低粘性グルコマンナンの製造が困難であることや、2次凝集が起こり易くなることによる。
【0029】
当該粒子径を10μm~160μmの範囲に調整するには、通常のグルコマンナンを低粘性化(低分子化)した後の低粘性グルコマンナンを、メッシュサイズ100~500程度の篩により分級すればよく、10μm~100μmの範囲に調整するには、メッシュサイズ180~500程度の篩により分級すればよい。なお、本願では、メッシュサイズ100を目開き154μm、メッシュサイズ180を目開き91μm、メッシュサイズ500を目開き26μmとする。その他、風力分級等を使用して分級してもよい。一方、予めグルコマンナンの粒子径を10μm~160μmの範囲に調整した後に、低粘性化(低分子化)してもよい。つまり、グルコマンナンの低粘性化(低分子化)工程と、粒子径調整工程との先後は限定されない。
【0030】
本実施形態に係る物性改良剤は、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンの粉末としているが、この形態に限定されない。例えば、粉末の低粘性グルコマンナンを、デキストリン等の賦形剤その他糖類等の結着剤と混合して造粒し、顆粒やペレット等に成形してもよい。また、低粘性グルコマンナンの粉末や成形物を、カプセル等に内包してもよい。また、低粘性グルコマンナンの粉末や成形物を、水等に溶解させてペーストにしたり、アルコール等の貧溶媒に分散させたりしてもよい。こうした形態にすることで、良溶媒の澱粉含有組成物に混合した際にダマになり難くすることができる。
【0031】
また、本実施形態に係る物性改良剤は、本発明の目的を達し得る範囲で、低粘性グルコマンナンに加えて、上記の造粒に係る賦形剤や結着剤以外にも、用途に応じて、多糖類、甘味料、着色料、香料等の添加物や、公知の老化防止剤を含有していてもよい。多糖類としては、寒天(例えば、低強度寒天等)、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガム、フェヌグリークガム、タマリンドガム、アルギン酸塩、ペクチン、カラヤガム、アラビアガム、アラビノガラクタン、大豆多糖類、通常のグルコマンナン(特に、本発明の目的を達し得る範囲の含有量に限る)等が挙げられる。
【0032】
ここで、本実施形態に係る澱粉含有組成物の物性改良方法は、澱粉含有組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを有効成分とする物性改良剤、すなわち、これまで説明した本実施形態に係る物性改良剤を配合する方法である。
【0033】
澱粉含有組成物に物性改良剤を配合する方法、すなわち物性改良剤の添加方法は特に限定されない。上記のように、本実施形態に係る物性改良剤の形態は限定されないため、その形態、並びに澱粉含有組成物の種類及び状態に応じた方法で適宜添加すればよい。本実施形態に係る物性改良剤は、そのままの状態で直接添加することができるが、添加時に、上記のように、ペーストにしたり、貧溶媒に分散させたりしてから添加しても勿論よい。また、添加時において、澱粉含有組成物における澱粉はβ澱粉の状態でも糊化されたα澱粉の状態でもよく、澱粉含有組成物は加熱(加温)された状態であっても非加熱(非加温)(例えば、室温)の状態であっても冷却された状態であってもよい。更に、澱粉含有組成物は製造段階でも、完成品でもよく、また、当該完成品の使用段階(例えば、製品として完成された食品の調理段階)でもよい。このうち、澱粉含有組成物が製造段階である場合は、物性改良剤を、澱粉中に添加してもよく、澱粉以外の配合成分に添加してもよい。特許請求の範囲でいう「澱粉含有組成物に物性改良剤を配合すること」は、上記の何れの場合の配合方法も含む。
【0034】
次に、本実施形態に係る澱粉含有組成物は、本実施形態に係る物性改良剤が配合されている組成物である。組成物は、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、及びそれ以外の化成品等の様々な組成物を含む。そして、本実施形態に係る澱粉含有組成物は、澱粉がα澱粉の状態で添加される組成物を含む。更に、本実施形態に係る澱粉含有組成物は、澱粉がβ澱粉の状態で添加されても、その組成物が使用され若しくは作用するに際して、又は当該澱粉が当該添加物としての目的を達し若しくは作用効果を奏するに際して、糊化(α化)される組成物を含む。つまり、本実施形態に係る澱粉含有組成物は、澱粉をβ澱粉の状態で含有している場合、及び糊化されたα澱粉の状態で含有している場合の何れもあり得る。また、本実施形態に係る澱粉含有組成物は、澱粉以外の配合成分は限定されず、澱粉のみからなるものも含む。
【0035】
物性改良剤の含有量(配合量)は限定されないが、後述の実施例によれば、水分を含む澱粉含有組成物100質量%においては、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンが少なくとも0.01質量%~5.0質量%配合されている場合、当該澱粉含有組成物の物性改良効果が得られ、より好適には0.03質量%~3.0質量%の範囲で配合されていることが好ましい(表11、表12)。また、澱粉100質量部に対して、本実施形態に係る低粘性グルコマンナンが少なくとも0.02質量部~10.0質量部配合されている場合、当該澱粉含有組成物の物性改良効果が得られ、より好適には0.06質量部~6.0質量部の範囲で配合されていることが好ましい(表11、表12)。物性改良剤の配合量が少な過ぎると十分な物性改良効果が得られ難くなり、逆に多過ぎると澱粉含有組成物の粘性が相対的に高くなって、曵糸性や糊状感が生じ易くなり、付着性も高くなる。
【0036】
澱粉含有組成物の一形態として、澱粉含有食品であることが特に好ましい。食品としては、餅、団子、タピオカパール、春巻きや餃子等の皮、蕎麦、うどん、中華麺その他の麺類、パン、蒸しパンその他のパン類、たれ類、とろみ類等が挙げられる。これらの澱粉含有食品に対して、粘弾性を有し糊状感の無い良好な食感が得られ、パン等はふんわりと焼き上がり気泡が均一に含まれて柔らかい食感に仕上がり、麺の伸びが防止され、付着性が抑えられる。
【実施例
【0037】
精製こんにゃく粉である通常のグルコマンナン(伊那食品工業社製、イナゲル マンナン100A、「イナゲル」は登録商標。)(マンナン1)、及び、当該グルコマンナンをそれぞれ低粘性化(低分子化)した改質グルコマンナンである低粘性グルコマンナン(マンナン2-18:粘度が比較的高いものも含まれているが、ここでは、通常のグルコマンナンよりも低粘性化したという趣旨で、便宜的に「低粘性グルコマンナン」と総称する)を、澱粉含有組成物としての所定の澱粉含有食品に添加して、その物性を評価した。なお、比較例として、グルコマンナン無添加の澱粉含有食品も同時に製造して、併せてその物性を評価した。
【0038】
<グルコマンナンの低粘性化(低分子化)>
マンナン2-11は、マンナン1を酸加水分解により低分子化したものを分級して得た。すなわち、50%アルコール水溶液にマンナン1を分散させてスラリーを取得し、これにクエン酸を添加して酸性に調整し、加熱した後、クエン酸ナトリウムを添加して中和した。その後、スラリーを熱風乾燥させたものを、200メッシュ(目開き77μm)の篩により分級して、マンナン2-11を得た。
マンナン2-11は、酸加水分解処理におけるpH条件(スラリーを酸性に調整する際のpH)及び加熱条件(加熱温度及び加熱時間)を変更することにより、それぞれ粘度の異なる低粘性グルコマンナンに製造した。
それぞれに設定した具体的条件は、以下の通りである。
マンナン2 pH:4.5 加熱条件:90℃で2時間
マンナン3 pH:5.5 加熱条件:80℃で2時間
マンナン4 pH:5.0 加熱条件:75℃で3時間
マンナン5 pH:5.0 加熱条件:80℃で3時間
マンナン6 pH:4.5 加熱条件:85℃で2時間
マンナン7 pH:4.0 加熱条件:80℃で2時間
マンナン8 pH:4.0 加熱条件:70℃で4時間
マンナン9 pH:3.5 加熱条件:65℃で1時間
マンナン10 pH:2.5 加熱条件:55℃で1時間
マンナン11 pH:2.5 加熱条件:55℃で2時間
【0039】
マンナン12は、マンナン1を石臼により粉砕し、200メッシュの篩により分級して得た。
【0040】
マンナン13は、マンナン1を酵素処理により低分子化したものを分級して得た。すなわち、50%アルコール水溶液にマンナン1を分散させてスラリーを取得し、これにマンナナーゼを添加して40℃で1時間加熱した。スラリーを熱風乾燥させたものを、200メッシュの篩により分級して、マンナン13を得た。
【0041】
マンナン14-18は、マンナン1を酸加水分解により低分子化したものを分級して得た。すなわち、50%アルコール水溶液にマンナン1を分散させてスラリーを取得し、これにクエン酸を添加してpH4.5に調整し、90℃で2時間加熱した後、クエン酸ナトリウムを添加して中和した。その後、スラリーを熱風乾燥させたものを、ジェットミルにより粉砕した後、篩により分級して、マンナン14-18を得た。
マンナン14-18は、酸加水分解処理におけるpH条件及び加熱条件については上記の設定に合わせ、一方、篩のメッシュサイズを変更することにより、それぞれ粘度の異なる低粘性グルコマンナンに製造した。
それぞれに使用した篩は、以下の通りである。
マンナン14 メッシュサイズ 80(目開き178μm)
マンナン15 メッシュサイズ100(目開き154μm)
マンナン16 メッシュサイズ180(目開き 91μm)
マンナン17 メッシュサイズ300(目開き 45μm)
マンナン18 メッシュサイズ400(目開き 34μm)
【0042】
<通常のグルコマンナン及び低粘性グルコマンナンの粘度及び粒子径>
表1に、マンナン1及びマンナン2-18の粘度を、粒子径と共に示す。表中の「1%粘度」は、発明を実施するための形態の欄で説明した「25℃における1%水溶液の粘度」を表す。また、表中の「粒子径」は、発明を実施するための形態の欄で説明した「体積平均粒子径(MV)」を表す。
【0043】
【表1】
【0044】
<低粘性グルコマンナンのアルカリによるゲル形成能>
表1に示す低粘性グルコマンナンのうち、最も粘度の低いマンナン8-11について、アルカリ条件下でのゲル形成能の有無を確認した。確認方法は、先ず、マンナンを水に分散させた後、水に溶かした水酸化カルシウムを混合して、最終的に、マンナン:5質量%、水酸化カルシウム:0.25質量%、水:残部(合計:100質量%)に調整した。当該調整液を容器に流し込み、容器ごと90℃で1時間加熱を行い、冷却後にゲル化したか否か確認した。
【0045】
なお、参考として、マンナン8-11について、25℃における2%水溶液の粘度(グルコマンナン6.0gを310gの精製水に分散した後、95℃で3分間加熱して最終重量を300gに調整して取得したゾルの25℃における粘度)、及び25℃における3%水溶液の粘度(グルコマンナン9.0gを310gの精製水に分散した後、95℃で3分間加熱して最終重量を300gに調整して取得したゾルの25℃における粘度)も測定した。測定方法は、発明を実施するための形態の欄で説明した「25℃における1%水溶液の粘度」の測定方法と同じ方法で行った。表2に、結果を25℃における1%水溶液の粘度と共に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s以上のマンナン8、9はゲル化したが、当該粘度が15mPa・sのマンナン10及び当該粘度が4mPa・sのマンナン11はゲル化しなかった。なお、マンナン8、9よりも粘性の高い(分子量の大きい)マンナン1-7、12-18は当然にアルカリ条件下でのゲル形成能を有すると考えられる。
【0048】
<試験1>
表3に示す配合にて白玉団子を製造した。白玉粉にグルコマンナン(マンナン1-18の何れか)を加えて混合した後、水を加えてよく練合せた(製造量:500g)。続いて、1個10gに丸めて、沸騰水中で6分茹でた後、冷水に入れて冷却して白玉団子を製造した。また、グルコマンナン無添加の比較例(比較例1)として、当該グルコマンナンの配合分を水に置換した配合にて、それ以外は上記と同じ方法で白玉団子を製造した。
【0049】
【表3】
【0050】
以下に示すように、製造した白玉団子を4℃で7日間保存して、製造直後と比較した食感の変化及び硬化率を評価することで、粘弾性、糊状感といった澱粉の糊化状態や、老化について評価した。
【0051】
(食感の変化)
製造直後の白玉団子及び7日後の白玉団子をそれぞれ食して、以下の基準で、それぞれ評価することで、製造直後と比較した食感の変化を評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多かった評価を評価結果とした。
A:十分に粘弾性があって糊状感は無く非常に好ましい食感である。
B:Aよりは劣るが、粘弾性があって糊状感は無く好ましい食感である。
C:粘弾性が弱く硬めで好ましくない食感である、又は粘弾性が弱くやや糊状感を感じて好ましくない食感である。
D:完全に硬化している、又は糊状感を強く感じて非常に好ましくない食感である。
【0052】
(硬化率)
製造直後の白玉団子及び7日後の白玉団子の強度[g/cm]を、テクスチャーアナライザを用いて以下の条件でそれぞれ測定し、7日後における製造直後に対する硬化率[%]を算出した。
強度の測定条件:
測定機器:テクスチャーアナライザ(英弘精機社製、TA.XT plus)
プランジャ:断面積1cmの円柱状
進入速度:20mm/分
測定温度:20℃
測定値:進入距離20mm迄における最高強度を測定値「強度」とした。
硬化率[%]=(7日後の強度[g/cm]/製造直後の強度[g/cm])×100
結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合した実施例1-実施例14では、粘弾性を有し糊状感の無い好ましい食感を有する白玉団子を安定して製造することができた(製造直後の食感:評価B以上)。また、これらは、7日後の硬化率が240%以下で、グルコマンナン無添加及び当該粘度が範囲外のグルコマンナンを配合した比較例1-比較例5(硬化率:522%以上)と比較して顕著な老化防止効果が認められて、粘弾性を有し糊状感の無い好ましい食感が7日以上に亘って維持された(7日後の食感:評価B以上)。更に、このような糊化状態の安定化及び老化防止には、低粘性グルコマンナンの粘度範囲が25mPa・s~500mPa・sがより好ましく、30mPa・s~300mPa・sがより好ましいことが示された。また、低粘性グルコマンナンの粒子径(MV)としては、10μm~160μmの範囲が好ましく、10μm~100μmの範囲がより好ましいことが示された。
【0055】
<試験2>
表5に示す配合にて中華麺を製造した。強力粉にグルコマンナン(マンナン1-18の何れか)を加えて混合した後、食塩及び重曹を溶解させた水を加えてよく練合せた(製造量:500g)。続いて、製麺機(さぬき麺機社製、さぬきM305型P、「さぬき」は登録商標。)を用いて中華麺の生麺を製造した。生麺200gを1分茹でた後、重量[g]を測定し、茹で麺200g分を市販の中華麺のスープに入れて中華麺を製造した。また、グルコマンナン無添加の比較例(比較例6)として、当該グルコマンナンの配合分を水に置換した配合にて、それ以外は上記と同じ方法で中華麺を製造した。
【0056】
【表5】
【0057】
以下に示すように、製造した中華麺を室温で10分間静置して、製造直後と比較した食感の変化及び吸水率を評価することで、麺のコシ、麺の糊状感、麺の伸びといった澱粉の糊化状態や、老化について評価した。
【0058】
(食感の変化)
製造直後の中華麺(茹で麺200gをスープに入れた直後の中華麺)、及び10分後の中華麺をそれぞれ食して、以下の基準で、それぞれ評価することで、製造直後と比較した食感の変化を評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多かった評価を評価結果とした。
A:十分にコシがあって糊状感は無く非常に好ましい食感である。
B:Aよりは劣るが、コシがあって糊状感は無く好ましい食感である。
C:コシが弱く、伸びや糊状感を感じて好ましくない食感である。
D:コシが非常に弱く、Cよりも伸びや糊状感を感じて非常に好ましくない食感である。
【0059】
(吸水率)
10分後の中華麺のスープを除去した麺の重量[g]を測定し、10分後における茹でた直後に対する吸水率[%]を算出した。
吸水率[%]=(10分後の麺の重量[g]/茹でた直後の麺の重量[g])×100
=(10分後の麺の重量[g]/200)×100
結果を表6に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
表6に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合した実施例15-実施例28では、コシがあって糊状感が無い好ましい食感を有する中華麺を安定して製造することができた(製造直後の食感:評価B以上)。また、これらは、10分後の吸水率が134%以下で、グルコマンナン無添加及び当該粘度が範囲外のグルコマンナンを配合した比較例6-比較例10(吸水率:153%以上)と比較して顕著に麺の伸びが防止されて、コシがあって糊状感が無い好ましい食感が10分以上に亘って維持された(10分後の食感:評価B以上)。更に、このような糊化状態の安定化及び老化防止には、低粘性グルコマンナンの粘度範囲が25mPa・s~500mPa・sがより好ましく、30mPa・s~300mPa・sがより好ましいことが示された。また、低粘性グルコマンナンの粒子径(MV)としては、10μm~160μmの範囲が好ましく、10μm~100μmの範囲がより好ましいことが示された。
【0062】
<試験3>
表7に示す配合にて団子等生地を製造した。上新粉にグルコマンナン(マンナン1-18の何れか)を加えて混合した後、水を加えてよく練合せた(製造量:500g)。続いて、1枚:50mm×50mm×(厚さ)3mmの正方形のシートに加工して、沸騰水中で6分茹でた後、冷水に入れて冷却して団子等生地を製造した。また、グルコマンナン無添加の比較例(比較例11)として、当該グルコマンナンの配合分を水に置換した配合にて、それ以外は上記と同じ方法で団子等生地を製造した。
【0063】
【表7】
【0064】
製造した団子等生地に上部からプランジャを密着させた後、テクスチャーアナライザを用いて上部へ引き上げた際に要した引き上げ強度[g/cm]から、団子等生地の付着性を評価した。なお、付着性が大きい程、当該引き上げ強度が大きい値になる。
引き上げ強度の測定条件:
測定機器:テクスチャーアナライザ(英弘精機社製、TA.XT plus)
プランジャ:断面積2cmの円柱状
引き上げ速度:20mm/分
測定温度:20℃
結果を表8に示す。
【0065】
【表8】
【0066】
表8に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合した実施例29-実施例42は、引き上げ強度:19g/cm以下で、グルコマンナン無添加及び当該粘度が範囲外のグルコマンナンを配合した比較例11-比較例15の引き上げ強度:27g/cm以上と比較して、顕著に付着性の低減が認められた。更に、付着性の低減には、低粘性グルコマンナンの粘度範囲が25mPa・s~500mPa・sがより好ましく、30mPa・s~300mPa・sがより好ましいことが示された。また、低粘性グルコマンナンの粒子径(MV)としては、10μm~160μmの範囲が好ましく、10μm~100μmの範囲がより好ましいことが示された。
【0067】
<試験4>
表9に示す配合にてパンを製造した。強力粉(市販製品である強力粉1、強力粉2及び強力粉3)とグルコマンナン(マンナン1-18の何れか)とを混合した後、更にドライイースト、塩、上白糖、脱脂粉乳、生乳、水を加えて捏ね、更に無塩バターを加えて捏ね上げた(捏ね上げ温度:26℃)。続いて、温度28℃、湿度75%の条件で90分一次発酵させ、ガス抜きをした後、更に30分発酵させた。続いて、それを210gずつに二分割し、25分のベンチタイムを経て、内寸:125mm×125mm×(高さ)125mmのパン型にそれぞれ入れて成型した後、温度38℃、湿度85%の条件で1時間最終発酵させた。こうして製造した生地を上火210℃、下火240℃で45分焼成してパンを製造した。また、グルコマンナン無添加の比較例(比較例16)として、当該グルコマンナンの配合分を水に置換した配合にて、それ以外は上記と同じ方法でパンを製造した。
【0068】
【表9】
【0069】
以下に示すように、製造したパンを室温で48時間静置して、製造直後と比較した食感の変化、及びグルコマンナン無添加のパンと比較した高さ比率を評価することで、容積、柔らかさといった澱粉の糊化状態に起因するパンの仕上がり具合、及び澱粉の老化に起因するその持続性について評価した。
【0070】
(食感及びその持続性)
製造直後のパン及び48時間後のパンをそれぞれ食して、以下の基準で、それぞれ評価することで、製造直後と比較した食感の変化を評価した。評価は10名のパネラーが独立して行い、最も多かった評価を評価結果とした。
A:小さな気泡が均一に含まれており、柔らかく美味しい。
B:Aよりは劣るが、気泡が均一に含まれており、柔らかく美味しい。
C:気泡が少なく、硬めで美味しさに欠ける。
D:気泡がCよりも更に少なく、食感が悪い。
【0071】
(高さ比率)
製造直後のパン及び48時間後のパンについて、その高さ(底面から最も高い部位迄を底面から垂直に測定した長さ)[mm]をそれぞれ測定し、製造直後及び48時間後それぞれについてグルコマンナン無添加のパン(比較例16)の高さ[mm]に対する高さ比率[%]を算出した。なお、パンの高さの増減は、パンの容積の増減と把握することができる。
高さ比率[%]=(算出対象である(グルコマンナン添加の)パンの高さ[mm]/グルコマンナン無添加のパンの高さ[mm])×100
結果を表10に示す。
【0072】
【表10】
【0073】
表10に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合した実施例43-実施例56では、グルコマンナン無添加の比較例16(製造直後の高さ:110mm)及び当該粘度が範囲外のグルコマンナンを配合した比較例17-比較例20(製造直後の高さ比率:93%以下)と比較して顕著に容積が増して(製造直後の高さ:120mm以上、高さ比率:109%以上)ふんわりとした外観に仕上がり、気泡が均一に含まれてふんわりとして柔らかく美味しい食感を有するパンを安定して製造することができた(製造直後の食感:評価B以上)。また、これらは、48時間後の高さ比率が116%以上で、ふんわりとした外観が維持され、気泡が均一に含まれてふんわりとして柔らかく美味しい食感も48時間以上に亘って維持された(48時間後の食感:評価B以上)。更に、このような焼成品の糊化状態の安定化及び老化防止には、低粘性グルコマンナンの粘度範囲が25mPa・s~500mPa・sがより好ましく、30mPa・s~300mPa・sがより好ましいことが示された。また、低粘性グルコマンナンの粒子径(MV)としては、10μm~160μmの範囲が好ましく、10μm~100μmの範囲がより好ましいことが示された。
【0074】
<試験5>
表11に示す配合にて白玉団子を製造した。白玉粉にグルコマンナン(マンナン2)を加えて混合した後、水を加えてよく練合せた(製造量:500g)。1個10gに丸めて、沸騰水中で6分茹でた後、冷水に入れて冷却して白玉団子を製造した。
【0075】
【表11】
【0076】
製造した白玉団子における澱粉の糊化状態や老化について試験1と同じ方法で評価した。結果を表12に示す(実施例1の結果を再掲する)。
【0077】
【表12】
【0078】
表12に示すように、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを配合した実施例57-実施例62及び実施例1は、試験1の結果と同じく、粘弾性を有し糊状感の無い好ましい食感を有する白玉団子を安定して製造することができた(製造直後の食感:評価B以上)。また、これらは、7日後の硬化率が230%以下で、顕著な老化防止効果が認められて、粘弾性を有し糊状感の無い好ましい食感が7日以上に亘って維持された(7日後の食感:評価B以上)。
【0079】
また、水分を含む澱粉含有食品(白玉団子)100質量%においては、25℃における1%水溶液の粘度が低粘性グルコマンナンが少なくとも0.01質量%~5.0質量%配合されている場合、その物性改良効果が得られ(実施例57-実施例62、実施例1)、より好適には0.03質量%~3.0質量%の範囲で配合されていることが好ましいことが示された(実施例58-実施例61、実施例1)。また、澱粉(白玉粉)100質量部に対して、当該低粘性グルコマンナンが少なくとも0.02質量部~10.0質量部配合されている場合、その物性改良効果が得られ(実施例57-実施例62、実施例1)、より好適には0.06質量部~6.0質量部の範囲で配合されていることが好ましいことが示された(実施例58-実施例61、実施例1)。
【要約】
【課題】澱粉含有組成物において、澱粉の糊化状態が安定することによって当該組成物に良好な物性をもたらし、特に食品では、粘弾性を有し糊状感の無い良好な食感、焼成時の容積増し、麺の伸び防止、付着性の抑制が実現され、且つ、糊化した澱粉の老化を防止することができる。
【解決手段】本発明に係る澱粉含有組成物の糊化状態安定剤は、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを含有する。本発明に係る澱粉含有組成物の糊化状態の安定化方法は、澱粉含有組成物に、25℃における1%水溶液の粘度が20mPa・s~800mPa・sの範囲にある低粘性グルコマンナンを有効成分とする糊化状態安定剤を配合する。
【選択図】なし