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特許7399520改良ファスナーテープ、スライドファスナー、スキン製品及びファスナーテープの形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】改良ファスナーテープ、スライドファスナー、スキン製品及びファスナーテープの形成方法
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/34 20060101AFI20231211BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20231211BHJP
   A47C 31/02 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
A44B19/34
D03D1/00 C
A47C31/02 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022579810
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 CN2021111787
(87)【国際公開番号】W WO2022057523
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】202010990375.2
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010988754.8
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522496105
【氏名又は名称】▲開▼易(湖北)拉▲鏈▼制造有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 昌▲華▼
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/030442(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0037872(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112075728(CN,A)
【文献】国際公開第2011/027458(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/34
D03D 1/00
A47C 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高融点の経糸と緯糸とを縦横に織り交ぜて縦方向に延在する2本の織物テープからなる改良型のファスナーテープであって、断面図は、前記織物テープがそれぞれ、横方向に左右に配置され、緯糸によって接続される外側接続部および内側接続部を備えることを示し、当該ファスナーテープはさらに、高融点のファスナー歯および縫合糸を含み、前記ファスナー歯は、内側接続部の外側に縫合糸を介して縫合され、外側接続部は織物を接続するために使用され、前記内側接続部は、縫合糸で結合された歯縫合領域を含み、前記内側接続部の少なくとも歯縫合領域に低融点成分が設けられ、少なくとも前記歯縫合領域が硬化構造となるように、前記低融点成分が、縫合糸、経糸および緯糸とを熱溶着することを特徴とする、改良型のファスナーテープ。
【請求項2】
記外側接続部および前記内側接続部は、屈曲移行部分を介して接続され、前記硬化構造は、歯縫合領域から始まり、内側接続部と屈曲移行部との間の接合部まで延在している、請求項1に記載のファスナーテープ。
【請求項3】
前記内側接続部の厚みは、前記外側接続部の厚みよりも大きい、請求項1に記載のファスナーテープ。
【請求項4】
前記低融点成分が、低融点材料から作られ、糸、長いワイヤー、または長いシートの形をした長いストリップであり、あるいは、低融点成分は、低融点材料と高融点材料を混合することによって作られ、糸、長いワイヤー、または長いシートの形状をした長いストリップである、請求項1に記載のファスナーテープ。
【請求項5】
前記歯縫合領域のすべての経糸の集合体の一部が前記長いストリップからなる、請求項4に記載のファスナーテープ。
【請求項6】
低融点成分が、長いストリップからなる織物のストリップである、請求項4に記載のファスナーテープ。
【請求項7】
前記歯縫合領域に少なくとも2層の織物テープが設けられ、縦方向に延在するポケット状空間が、前記織物テープの2層の間に構築され、低融点成分は、前記ポケット状空間に設けられ、前記2層の織物テープを熱溶着している、請求項1~6のいずれか一項に記載のファスナーテープ。
【請求項8】
前記低融点成分が、前記内側接続部の外側に設けられている、請求項1~6のいずれか一項に記載のファスナーテープ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のファスナーテープを備え、さらにスライダーを備えたスライドファスナーであって、前記スライダーは、前記ファスナーテープの2つの織物テープに設けられたファスナー歯に結合され、前記スライダーは、前記ファスナー歯の2つの列に係合または分離するように構成されている、スライドファスナー。
【請求項10】
織物からなる外層を備え、該織物に開口部の形状の縫合部分が設けられているスキン製品であって、請求項9に記載のスライドファスナーの2本の織物テープの外側接続部が、縫合部分の2辺にそれぞれ取り付けられ、ファスナー歯を係合または分離することにより、織物の縫合部分をつなぎまたは開き、前記織物が布地、本革または人工皮革でできている、スキン製品。
【請求項11】
当該スキン製品が、衣類、シート、ソファ、マットレス、または装飾パネルである、請求項10に記載のスキン製品。
【請求項12】
ファスナーテープの形成方法であって、
高融点の経糸および緯糸を縦方向および横方向に織り交ぜて縦方向に延在する2本の織物テープを形成するステップであって、断面図は、前記織物テープがそれぞれ横方向に左右に配置され、緯糸によって接続される外側接続部および内側接続部を備えていることを示す、織物テープを形成するステップを含み、
当該方法はさらに、
高融点のファスナー歯を形成し、前記ファスナー歯を、縫合糸を介して前記内側接続部の外側に縫合する、縫合ステップであって、前記外側接続部は織物を接続するために使用され、前記内側接続部は、縫合糸で結合された歯縫合領域を含み、前記内側接続部の少なくとも歯縫合領域に低融点成分が設けられており、低融点成分の溶融温度は、前記ファスナー歯、前記縫合糸、前記緯糸、および前記経糸の溶融温度よりも低く、前記織物テープの経糸および緯糸を織り交ぜ、低融点成分を配置した後、前記ファスナー歯を、縫合糸を介して縫合する、縫合ステップと、
高融点の前記縫合糸、前記経糸、前記緯糸、および前記ファスナー歯が溶融しない一方で、低融点成分が溶融するように、低融点成分の溶融温度に適合した加熱温度で内側接続部を加熱するステップと、
低融点成分を冷却して、前記低融点成分を硬化させ、周囲の縫合糸、経糸、および緯糸を熱溶着させ、これにより、前記低融点成分が付与された領域を硬化構造とするステップと、
を含んでなる、ファスナーテープの形成方法。
【請求項13】
前記内側接続部の厚さが前記外側接続部の厚さよりも大きくなるように、前記内側接続部の経糸の径、または前記内側接続部における経糸および緯糸の交絡層数を増加させる、請求項12に記載のファスナーテープの形成方法。
【請求項14】
前記低融点成分の溶融温度と、前記織物テープの高融点素材からなる縫合糸、緯糸及び経糸の溶融温度との差を、50℃~90℃にする、請求項12に記載のファスナーテープの形成方法。
【請求項15】
前記内側接続部を構成する全経糸の集合体の一部に前記低融点成分を添加する、請求項12に記載のファスナーテープの形成方法。
【請求項16】
当該方法は、内側接続部と、内側接続部に対して屈曲する外側接続部と、外側接続部と内側接続部とを接続する屈曲移行部とを形成するために、前記ファスナー歯が織物テープに縫合された後、ファスナー歯の側面に沿って織物テープを曲げ、低温加熱によって予備成形するステップと、低融点成分の溶融温度に適合した加熱温度で内側接続部を加熱して、低融点成分を溶融させるステップとをさらに含む、請求項12~15のいずれか一項に記載のファスナーテープの形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ファスナーテープ、スライドファスナー、スキン製品、並びに、ファスナーテープの形成方法に関する。詳しくは、本開示は、左右に配置された2本の織物テープと、織物テープの内側に縫合されたファスナー歯とを含むファスナーテープを備えた隠しスライドファスナーに関する。ファスナー歯がかみ合う際、織物テープを強く引っ張っても(左右方向に引っ張る力が大きく)、ファスナー歯がファスナーテープの表側にはっきりと露出しにくく、それによってファスナー歯が隠れてしまう。
【背景技術】
【0002】
市場には多くの種類の隠しスライドファスナーがある。通常、隠しスライドファスナーの左右の織物テープの内側にファスナー歯が縫合されている。織物テープを左右方向に強く引っ張ると、スライドファスナーのファスナー歯を縫う縫合糸が、経糸、緯糸に対してスライドし得る。その結果、左右の織物テープの間に明らかな隙間ができ、後ろから隠れていたファスナー歯が直接露出する。家具のシートや自動車のシート、装飾パネルなどに使用される隠しスライドファスナーは、スライドファスナーの正面から見た隙間を少なくしてファスナー歯の露出を抑え、見栄えを良くすることが期待されている。
【0003】
上記の問題に対する解決策は、1976年に出願された実用新案出願公告昭51-4826号および2012年に出願された中国特許出願公開第200980161353.7号において最初に開示された。実用新案出願公告昭51-4826号は、隠しスライドファスナーを開示している。隠しスライドファスナーは織物テープを有する。織物テープは、本体部と、ファスナー歯を縫い付ける歯縫合部と、屈曲部とを有する。歯縫合部と歯縫合部側の屈曲部との一部領域に、合成樹脂液を含浸させて硬化させた硬化部が設けられる。硬化部にファスナー歯を縫合糸で縫い付けます。左右のファスナー歯が噛み合うと、左右の織物テープの屈曲部が安定して密着し、左右の屈曲部に隙間が生じるのを防止する。このように、係合状態の左右のファスナー歯は、隠しスライドファスナーの露出面から見えず、安定して隠蔽される。この設計の最大の問題点は、ファスナー歯を歯縫合部に縫い付ける際に、歯縫合部(硬化部)にミシンの針が通りにくいことである。このため、ファスナー歯の縫製がスムーズに行えず、縫針が折れやすく、硬化部に対して縫合糸が動くことがある。
【0004】
また、実用新案出願公告昭51-4826号では、隠しスライドファスナーの変形解決策では、合成樹脂液を含浸させた織物テープの部分領域を硬化させる代わりに、織物テープの部分領域の表面(織物テープの外面)に合成樹脂フィルム体を固定することによって、織物テープの部分領域を硬化させる。その結果、合成樹脂フィルム体が織物テープの一部領域に固着することにより、織物テープの一部領域が硬化する。このようにフィルム体を締結することにより、左右のファスナーエレメントを係合させたときに、左右の織物テープの屈曲部同士も安定して密着し、ファスナーエレメントを安定して隠蔽することができる。しかしながら、フィルム本体を締結することによりエレメント取付け部を硬化させる方法では、隠しスライドファスナーにも前述の欠点がある。また、フィルム体を織物テープに固定する際に、フィルム体がずれやすい。また、織物テープに対してフィルム体がずれると、織物テープの意図した位置を安定して硬化させることができず、隠しスライドファスナーの隠蔽性が低下する。
【0005】
実用新案出願公告昭51-4826号に存在する問題を解決するために、日本のYKK株式会社は、中国特許出願公開第200980161353.7号において隠しスライドファスナーを提案した。隠しスライドファスナー歯縫合部分は、連続した筒状の袋生地からなる筒状の袋生地部分にフィルム体が包まれている。筒状袋地部は、屈曲部側の上縫合糸が通過する上目通過領域を有する。筒状袋生地部に巻き付けられたフィルム体の一方の端縁が上縫合糸よりも屈曲部側に寄っていると、上縫合糸がファスナー歯に縫合される。筒状袋生地部でフィルム体を包み込んで固定するので、筒状袋生地部内でフィルム体が動き難く、針穴突起が露出しない。しかし、ファスナー歯を縫う縫合糸の引っ張り力がフィルム本体と筒状袋生地部に左右方向にかかると、筒状の袋生地部分自体はきつくないので、生地も伸びて大きな隙間ができてしまう。また、フィルム体は比較的硬度が高いため、縫合糸を縫う際にファスナー歯の縫製がスムーズにできず、針が折れやすく、フィルム体に対して縫合糸が動き隙間を増加してしまい得る。
【0006】
中国特許出願公開第200980161353.7号の技術的解決策に存在する問題を解決するために、中国特許出願公開第201721282792.1号は、スライドファスナー用の織物テープを提案している。織物テープは、フィルム体をファスナー歯連結部のシート状経糸として使用している。シート状の経糸の硬度は、周囲の他の経糸および緯糸の硬度よりも大きい。シート状の経糸と緯糸とが織り合わされて、ファスナー歯連結部の少なくとも一部が形成される。しかしながら、この改良構造では、左右方向に引っ張る力が加わると、ファスナー歯の接続部が緩いため、経糸が伸びてずれやすく、その結果、縫合糸が動きやすくなり、大きな隙間ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実用新案出願公告昭51-4826号
【文献】中国特許出願公開第200980161353.7号
【文献】中国特許出願公開第201721282792.1号
【発明の概要】
【0008】
先行技術に開示された内容によれば、隠しスライドファスナーの2本の織物テープを左右方向に強く引っ張ると、2本の織物テープの間に隙間ができてファスナー歯が露出しやすい。この問題は、ファスナー歯の接続部分の剛性や、織物テープを引っ張る際に縫合糸が左右逆の引っ張り力を加えることによる経糸の変形や、ファスナー歯連結部に対する縫合糸の滑り等の要因に直結する。これらの問題のすべてではないにしてもほとんどを解決するために、本開示は改良されたファスナーテープを提案する。ファスナーテープは、高融点の経糸と緯糸とを縦横方向に織り交ぜて縦方向に延在する2本の織物テープからなる。横方向に左右に配置され、緯糸によって連結された外側接続部と内側接続部とが断面図に示されている。ファスナーテープはさらに、高融点のファスナー歯および縫合糸を含む。ファスナー歯は、縫合糸によって内側接続部の外側に縫合される。外側接続部は、織物を接続するために使用される。内側接続部は、縫合糸で結合された歯縫合領域を含む。内側接続部の少なくとも歯縫合領域に低融点成分が設けられている。低融点成分は、少なくとも歯縫合領域が硬化構造に形成されるように、縫合糸、経糸、および緯糸を熱溶着する。
【0009】
経糸は織物テープの長手方向(縦方向)に延在する糸であり、緯糸は経糸に対して実質的に垂直な方向の糸である。織物テープは、縦方向および横方向に織り合わされた経糸と緯糸とを含む。織物テープはまた、既存の織物テープ製造プロセスによって容易に実施できる、多層製造プロセスによって構築された中央のポケット状空間を有する2層または3層の織物テープを備え得る。緯糸は、外側接続部から内側接続部まで延在する。このため、外側接続部と内側接続部とは主に緯糸によって連結され、緯糸は織物テープを左右方向に引っ張る引っ張り力を負担する。高融点の経糸、緯糸、ファスナー歯、および縫合糸の溶融温度は、低融点成分の溶融温度よりも高い。したがって、ファスナーテープは、少なくとも低融点成分と、低融点成分よりも融点が高い高融点成分とを含む。本開示において、高融点成分と低融点成分とは異なる定義を有する。高融点成分と低融点成分とは、融点の異なる2つの部品または材料でできている。高融点の経糸、緯糸、ファスナー歯、および縫合糸は、溶融プロセスを容易にするために、溶融温度に基づいて低融点成分と区別される。低温加熱では高融点成分は溶融せず、低融点成分が溶融し、高融点成分が熱溶着する。この特徴により、本開示は、ファスナーテープおよびスライドファスナーを製造し、本開示の目的を達成する。
【0010】
織物テープは、ファスナー歯をさらに縫い付けてファスナーテープを形成するものであり、ファスナー歯は縫合糸によって内側接続部の外側に連結されている。このため、内側接続部には、縫合糸が結合されて縫合糸が通過可能な歯縫合領域が設けられている。低融点成分が経糸および緯糸を熱溶着するとき、実際には縫合糸を熱溶着してファスナー歯を互いに固定する。
【0011】
熱溶着には2つの意味がある。第1の意味は、低融点成分が加熱により部分的または完全に溶融し、冷却後にランプ(塊)を形成することである。第2の意味は、溶融した後、低融点成分が周囲の未溶融の高融点の経糸、緯糸、および縫合糸を溶着することである。温度が下がると、溶融した低融点成分が硬くなり、低融点成分によって縫合糸、経糸、緯糸が固く結合され、一体となって硬化構造を形成する。これにより、経糸が左右方向の引っ張り力で引っ張られてもずれることがなく、縫合糸が硬化した組織に固定されて動かなくなるため、ファスナー歯が動きにくくなる。
【0012】
本開示の目的を達成するための熱溶着の意味によれば、低融点成分は、粒状、短繊維状、長繊維状、長いストリップ、または、(長いストリップまたは繊維から織られた)織物のストリップであり得る。また、低融点成分は、織物テープに直接付与してもよいし、織物テープの外側に付与してもよいし、経糸に添加してもよいし、低温経糸に加工してもよいし、上述した溶液に混合してもよい。技術常識として、実際のスライドファスナー加工では、染色が必要なスライドファスナーの場合、低融点成分の溶融温度は染色温度より高くする必要がある。さらに、融解温度は、毎日の周囲温度および関連規格で指定された安全な使用温度よりも高くなければならない。既存の隠しスライドファスナーの織物テープとファスナー歯は、ナイロンやプラスチックなどの高分子材料でできている。一般に、先行技術におけるポリマー材料の融解温度に従って、適切な低融点材料を柔軟に選択して、低融点成分を製造することができる。例えば、高融点の経糸、緯糸、縫合糸、ファスナー歯を融点約260℃のポリマー素材にすれば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリラウリルアミド(PA12)など、融点の低い材料を使用して、ファスナーテープの低融点成分を加工(成形)することができる。工程管理を容易にするために、織物テープの低融点成分と高融点縫合糸、緯糸、および経糸との溶融温度差は、少なくとも約50℃~90℃、つまり、低融点成分の溶融温度が少なくとも約170℃~210℃である。ファスナーテープにおける高融点の経糸、緯糸、ファスナー歯、および縫合糸も、異なる温度等級または異なる種類の高融点材料から製造され得る。
【0013】
上記構造設計において、低融点成分が設けられる領域に関しては、低融点成分を内側接続部全体に設けて、内側接続部全体のすべての隣接する経糸および緯糸を熱溶着することができる。また、内側接続部の歯縫合領域のみに低融点成分を設けてもよい。低融点成分の数、低融点成分の分布領域の範囲等は、ファスナーテープが貼付される対象物が負担すべき引っ張り力に関係する。たとえば、ファスナーテープが高い引っ張り力の自動車シートに適用される場合、低融点成分は可能な限り屈曲移行部の近くにある必要がある。引っ張り力の弱い衣類にファスナーテープを貼付する場合には、歯縫合領域に低融点成分を設けてもよい。このように、低融点成分が高融点の経糸、緯糸、縫合糸を熱溶着して硬化構造を形成する領域については、内側接続部全体を硬化構造とすることができ、歯縫合領域のみを硬化構造として設定することもできる。あるいは、硬化構造は、歯縫合領域から内側接続部と屈曲移行部との接合部まで延在することができる。これらはすべて実行可能なオプションである。
【0014】
上記の技術的解決策によれば、低融点成分は、高融点の縫合糸、経糸、および緯糸に熱溶着されて、少なくとも歯縫合領域において硬化構造を形成する。従来技術と比較して、本開示の設計は、従来の織物テープ製造プロセスに基づいて低融点成分を設定し、加熱によって低融点成分を溶融および塊(ランプ)にして硬化構造を形成することのみを必要とする。プロセスは簡単で、硬化構造は安定しており、信頼性がある。また、歯縫合領域の経糸は、硬化組織により左右方向の引っ張り力に強い。左右のファスナー歯がかみ合った後、正面から見た2つの織物テープの隙間を減らすために、織物テープを左右方向に引っ張ったとき、硬化構造により、歯縫合部に対する縫合糸の左右の動きを抑えることができる。織物テープの最終的な加熱プロセスは、低融点成分を加熱および溶融して硬化構造を形成するプロセスと組み合わせることができる。
【0015】
さらなる技術的解決策では、外側接続部と内側接続部とは屈曲移行部を介して接続される。硬化構造は、歯縫合領域から始まり、内側接続部と屈曲移行部との間の接合部まで延在する。この延長設計により、スライダーの底板が通過するための安定したギャップが屈曲移行部とファスナー歯との間に形成され、スライダーが容易に上下に動くことができるようになる。さらに、前面から見た2つの織物テープ間のギャップは、ファスナー歯がかみ合った後、さらに減少する。外側接続部内側接続部とは、屈曲移行部を介して接続され、これは、外側接続部と内側接続部とが屈曲移行部を介して実際に接続されていることを規定するだけでなく、外側接続部と内側接続部とが相対的な屈曲配置角度を有することも規定する。さらに、相対的な屈曲配置角度により、ファスナー歯を内側接続部の一方の側に縫い付けて隠しスライドファスナーを形成することができる。曲げ加工または曲げ構造は、通常、スライドファスナーが最終的に熱固定されるときに実施または形成される。
【0016】
さらなる技術的解決法では、内側接続部の厚さは、外側接続部の厚さよりも大きい。この設計により、内側接続部の、特に硬化構造の剛性が向上する。
【0017】
さらなる技術的解決法では、低融点成分は、低融点材料から作られ、糸、長いワイヤー、または長いシートの形をした長いストリップである。あるいは、低融点成分は、低融点材料と高融点材料とを混合することによって作られ、糸、長いワイヤー、または長いシートの形状をした長いストリップである。あるいは、低融点成分は、長いストリップでできた織物のストリップである。すなわち、長いストリップは、フィラメントを紡績加工した糸であってもよいし、押出加工により形成された直径1mm以下の細い棒状または厚さ1mm未満の長いフレーク状のものであってもよい。長いストリップは、低融点材料のみで作られた低温糸であってもよいし、高融点材料に低融点材料を添加した混紡糸であってもよい。織物のストリップは、経糸および緯糸として長いストリップから織られた独立したピース、または経糸と高融点緯糸として長いストリップとから織られた独立したピースであってもよい。
【0018】
さらなる技術的解決法では、歯縫合領域内のすべての経糸の集合が部分的に長いストリップから作られる。すなわち、長いストリップの低融点成分が高融点の経糸と混合されて織物テープの経糸を形成する。すべての経糸の集合体の一部として、長いストリップが緯糸と織り合わされ、低融点成分を含む織物層が直接歯縫合領域に形成される。
【0019】
更なる技術的解決法では、少なくとも2層の織物テープが歯縫合領域に設けられ、長手方向(縦方向)に延在するポケット状空間が2層の織物テープの間に構築され、低融点成分は、ポケット状空間に提供され、2層の織物テープを熱溶着する。この構成によれば、ポケット状空間を構築した状態で、低融点成分をポケット状空間内に配置することができる。ポケット状空間に設けられる低融点成分は、粒状、短繊維状、長繊維状、長尺状、短冊状の織物(長いストリップを織ったもの)であってもよい。
【0020】
さらなる技術的解決策では、低融点成分は、内側接続部の外側に設けられる。低融点成分は、接合またはシームなどの手段により、内側接続部の外側にあらかじめ取り付けられている。低融点成分が溶融すると、周囲の緯糸と経糸とが熱溶着する。特に、低融点成分が短冊状の織物である場合には、内側接続部の外側に短冊状の織物を容易に設けることができる。
【0021】
本開示は、改良されたファスナーテープを用いたスライドファスナーをさらに提案する。スライドファスナーは、2つの織物テープとスライダーを含み、スライダーは、ファスナーテープの2つの織物テープに設けられたファスナー歯に結合され、スライダーは、ファスナー歯の2つの列に係合または分離するように構成されている。
【0022】
本開示はさらに、スライドファスナーを用いたスキン製品を提案する。スキン製品は織物で作られた外層を含み、織物には開口部として形成された縫合部分が設けられている。スライドファスナーの2本の織物テープの外側接続部を縫合部分の2辺にそれぞれ取り付け、ファスナー歯を噛み合わせたり離したりして織物の縫合部分を繋いだり開いたりする。織物は、テキスタイル(布地)、本革、人工皮革のいずれかである。
【0023】
さらなる技術的解決法では、スキン製品は衣服、シート、ソファ、マットレス、または装飾パネルである。
【0024】
本開示はさらに、縦方向に延在し、高融点の経糸および緯糸を縦方向と横方向とに織り交ぜることによって作られる2つの織物テープを形成することを含む、ファスナーテープを形成する方法を提案する。横方向の左右に配置され、緯糸によって連結された外側接続部と内側接続部とが断面図で示されている。この方法は、高融点のファスナー歯および縫合糸を形成することをさらに含む。ファスナー歯は、縫合糸によって内側接続部の外側に縫合される。外側接続部は、織物を接続するために使用される。内側接続部は、縫合糸で結合された歯縫合領域を含む。内側接続部の少なくとも歯縫合領域に低融点成分が設けられており、低融点成分の溶融温度は、ファスナー歯、縫合糸、緯糸、および経糸の溶融温度よりも低い。織物テープの経糸と緯糸とを織り交ぜ、低融点成分を配置した後、ファスナー歯は縫合糸を介して縫合される。低融点成分は溶けるが、高融点の縫合糸、経糸、緯糸、ファスナー歯は溶けないように、内側接続部は、低融点成分の融解温度に適合した加熱温度で加熱される。低融点成分が冷却されることにより、低融点成分が硬化して周囲の縫合糸、経糸、緯糸を熱溶着することで、低融点成分が設けられた領域が硬化構造となる。
【0025】
低融点成分は、溶融し、冷却後に硬化する。
【0026】
さらに改善された解決法では、内側接続部のすべての経糸の集まりが低融点成分を含む。すべての経糸の集合には、内側接続部のすべての経糸が含まれる。すなわち、低融点材料からなる低温経糸や、上述した、低融点の長いストリップを付加した織物テープを作成するための経糸を内側接続部に添加してもよい。このように、経糸および緯糸の少なくとも一部は高融点成分に属し、経糸の他の部分は低融点成分に属し、織物テープが半径方向の強度を失うのを防止する。すべての経糸の集合体における低温経糸は、溶融して、縫合糸および他の高溶融の経糸および緯糸を溶着して、硬化構造を形成し得る。
【0027】
上述した解決策は、以下の有利な技術的効果を有する。第1に、低融点成分については、内側接続部を低融点成分の融点に合わせた加熱温度で加熱すると、低融点成分が溶けて、周囲の高融点の縫合糸、経糸、緯糸が融着する。加熱・冷却後の低融点成分の形状はほとんど変化しないため、硬化構造を形成することができ、内部接続部の接続力を維持し得る。第2に、低融点成分は、既存の製造プロセスに基づいて追加される。プロセスは簡単で、硬化構造は安定しており、信頼性がある。また、織物テープの最終熱固定プロセスと、低融点成分を加熱溶融して硬化構造を形成するプロセスを1つにまとめることができるため、別途加熱プロセスを設ける必要がない。
【0028】
さらなる技術的解決法では、内側接続部の厚さが外側接続部の厚さよりも大きくなるように、内側接続部の経糸の直径、または内側接続部における経糸および緯糸の交絡層数を増加させる。
【0029】
さらなる技術的解決法では、方法は、ファスナー歯が、相対的な屈曲配置角度を有する内側接続部および外側接続部、並びに、外側接続部と内側接続部とを接続する屈曲移行部を形成するために、織物テープに縫合された後、織物テープをファスナー歯の側面に沿って曲げ、低温加熱によって予備成形するステップと、低融点成分の溶融温度に適合した加熱温度で内側接続部を加熱して、低融点成分を溶融させる、ステップとを含む。スライドファスナーが冷却された後、2つの織物テープのファスナー歯にスライダーが設けられる。スライダーは、2列のファスナー歯に結合され、2列のファスナー歯と係合または分離するように構成される。低温とは、低融点成分の溶融温度よりも低い加熱温度を指し、この温度で織物テープの予備成形および曲げが行われる。
【0030】
本開示による形成方法は、上述した特徴および利点を有し、ファスナーテープ、スライドファスナーおよびスキン製品に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本開示の技術的解決策によるスライドファスナーを有するスキン製品の織物の構造図である。
図2】本開示の技術的解決策によるファスナーテープの第1の構造図である。
図3】本開示の技術的解決策によるファスナーテープの第2の構造図である。
図4】本開示の技術的解決策によるファスナーテープの第3の構造図である。
図5】本開示の技術的解決策による織物テープの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本開示の技術的解決策によるファスナーテープ、スライドファスナー、並びに、スキン製品の構造及び形成方法をさらに詳細に説明する。以下に開示される様々な実施形態は、同等または代替の実施であると明示的に述べられていない限り、それらが機能において直接関連または相乗的でない場合でも、選択的に適用または一実施形態に組み合わせられ得る。
【0033】
図1に示されるように、本開示は、織物1で作られた外層を含むスキン製品を提案する。織物1は、テキスタイル(布地)、本革、または人工皮革で作られる。スキン製品は、目に見えない加工が必要な衣類、シート、ソファ、マットレス、または装飾パネルである。織物1には、開口部を形成する縫合部分11が設けられている。スライドファスナー2の2本の織物テープ3は、縫合部分11の両側に縫合され、織物1の縫合部分11を連結または開放する。スライドファスナー2は、ファスナーテープとスライダー21とを含む。ファスナーテープは、2本の織物テープ3と、織物テープ3に縫合されたファスナー歯22と、ファスナー歯22を縫うための縫合糸23とを有する。ファスナー歯22および縫合糸23は、高温ナイロンなどの高融点材料からできている。織物テープ3は細長く、長手方向(縦方向)に延在する。ファスナー歯22は、長手方向に延在し、それぞれの織物テープ3の側部位置に配置される。隠しスライドファスナー2の2つの織物テープ3が縫合部分11の両側に接続された後、縫合部分11の両側が2つの織物テープ3を反対方向に引っ張る結果、2つの織物テープの間の隙間が大きくなる。
【0034】
図5に示されるように、織物テープ3は、縦方向(Y)に延び、縦方向および横方向(X-Y)に織り合わされた経糸mおよび緯糸pを含み、これらは高融点繊維フィラメント素材からできている。経糸mは織物テープ3の縦方向(Y)に延在する糸であり、緯糸pは経糸mと略直交する方向(X)に延在する糸である。経糸と緯糸とが絡み合い、単層の織物テープを形成する。特定の用途では、2層または3層の織物テープを形成し得る。多層織物テープにポケット状空間が設けられ得る。ポケット状空間は縦方向に延在する。本開示では、経糸m、緯糸p、ファスナー歯22、および縫合糸23は、通常約260℃の溶融温度と、通常110℃~170℃の熱固定温度を有する高融点ポリエステルからできている。
【0035】
図1図4に示されるように、織物テープ3の断面図は、織物テープ3が2つの大きな領域、すなわち、内側接続部31と外側接続部32とを含み、これらは、緯糸pによって相互接続される外側接続部32を示している。内側接続部31は、外側接続部32に対して屈曲しており、両者は屈曲移行部dで接続されている。織物テープ3が曲げられた後、内側接続部31と外側接続部32との間に開いた安定ギャップ30が形成される。内側接続部31と外側接続部32と屈曲移行部dとは緯糸pによって連結されている。内側接続部31は、ファスナー歯22を取り付けるように構成され、外側接続部32は、織物1の縫合部分11の2つの側面のうちの1つを連結するために使用される。縫合糸23で内側接続部31を縫合する。2本の織物テープ3の外側接続部32は、結合糸12を介して織物1の裏側に縫合され、縫合部分11の両側に位置する。スライダー21は、2列のファスナー歯22に結合され、ファスナー歯22の2つの列を係合または分離して、織物1の縫合部分11を連結または開放するように構成されている。相対的な屈曲配置角度を有する内側接続部31および外側接続部32の内側にファスナー歯22が縫合されると、隠しスライドファスナー2が形成される。一般に、ファスナー歯22は、先ず、縫合糸23を介して縫合され、次に曲げ処理が行われる。屈曲構造は、通常、スライドファスナー2を加熱予備成形する際に形成される。
【0036】
図5に示されるように、織物テープ3は、X方向に沿って内側接続部31、屈曲移行部d、外側接続部32を順次備えている。内側接続部31は、外側オーバーロック領域aと、オーバーロック領域aから右方に延在する歯縫合領域bと、歯縫合領域bから内側(屈曲移行部d)に向かって延在する内側延在部Cとを含む。屈曲移行部34dと屈曲移行部34dの外側に位置する外側接続部32とは、内側延在部Cから右方に延在して形成されている。縫合糸23は、歯縫合領域bを通ってファスナー歯22と内側接続部31とを接続する。
【0037】
縫合糸23は、ファスナー歯22と内側接続部31とをミシンで接続する。内側接続部31は、縫合糸23で結合された歯縫合領域bをもたらす。縫合糸23が歯縫合領域bを通過すると、歯縫合領域bには2列の貫通部位4が形成される。それぞれの貫通部位4には、縫合糸23が通されている。貫通部位4を介して、歯縫合領域bの経糸および緯糸は、縫合糸23の包囲および仮位置決めを達成する(最終位置決めは、後述する低融点成分Lが溶着された後にのみ達成される)。この目的のために、歯縫合領域bは、縫合糸23を取り囲む貫通部位4を少なくとも含む。
【0038】
スライドファスナーのファスナーテープは、少なくとも低融点成分Lと、低融点成分Lよりも溶融温度が高い高融点成分とを含む。低融点成分Lおよび高融点成分は、溶融温度が異なる2つの材料から作られている。本開示は、溶融温度差によってスライドファスナーを製造する。ファスナー歯22、縫合糸23、経糸m、緯糸pは、いずれも高融点成分である。この実施形態では、高融点および低融点は、例示的かつ差別化された説明を目的として、相対的な定義としてのみ提供されている。
【0039】
図5に示されるように、内側接続部31では、低融点成分Lが歯縫合領域b、さらには内側延在部cに設けられている。低融点成分Lが熱溶着して縫合糸23と固定される前は、経糸mはX方向の大きな引っ張り力に耐える能力がないため、縫合糸23によって容易に引っ張られてずれる。しかし、溶融後、歯縫合領域bと内側延在部Cとが硬化構造に形成されるように、低融点成分Lは、熱溶着により、縫合糸23、経糸m、緯糸pを接続して固定する。硬化構造は、歯縫合領域bから始まり、内側接続部31と曲げ移行部dとの間の接合部dまで内側に延在する。歯縫合領域bの経糸m、内側延在部Cも、硬化構造により、X方向、すなわち左右方向の大きな引っ張り力に耐えることができ、その結果、亀裂が入りにくい。また、縫合糸23は硬化構造内に固定され、滑りにくい。すなわち、熱溶着により硬化構造が形成された後、図5に示される縫合糸23は、貫通部位4において滑りにくい。
【0040】
熱溶着には2つの意味がある。第1の意味は、加熱により低融点成分Lが部分的または完全に溶融し、冷却後に塊(ランプ)を形成することである。第2の意味は、溶融後、低融点成分Lが周囲の未溶融の高融点の経糸m、緯糸p、および縫合糸23を溶着することである。溶融される場合、低融点成分Lは、完全にまたは部分的に溶融することができ、例えば、そのコアが溶融しないように制御され得る。特定の溶融度は、低融点成分Lの数および達成されるべき硬度、並びに、経糸の直径および内側接続部31の厚さに関連する。少なくとも加熱温度は、低融点成分Lが溶融して内側接続部31から流出しない温度範囲内に制御されるべきである。温度が下がると、溶融した低融点成分Lが硬くなり、低融点成分Lによって、縫合糸23、経糸m、緯糸pが固着して一体の硬化構造を形成する。このように、X方向、すなわち左右方向の引っ張り力によって経糸が引っ張られてもずれることはなく、縫合糸23は硬化構造に固定されて動かず、これにより、ファスナー歯22が動きにくくなる。
【0041】
低融点成分Lは、相対的に融点が低い材料からなり、溶融後に塊状化し得る。もちろん、実際のスライドファスナー処理では、染色が必要なスライドファスナーの場合、低融点成分Lの溶融温度は染色温度より高くなければならない。さらに、融解温度は、毎日の周囲温度および関連規格で指定された安全な使用温度よりも高くなければならない。一般に、先行技術における様々なポリマー材料の融点に基づいて、この実施形態における低融点成分Lは、150℃~180℃の融点を有するポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、またはポリラウリルアミド(PA12)を含む。織物テープ3における低融点成分Lと他の高融点成分との溶融温度差は、約50℃~90℃である。このように、低融点成分Lが溶融しても、高融点の経糸m、緯糸p、縫合糸23、ファスナー歯22が溶融変形することはない。
【0042】
上述した構造設計において、低融点成分Lを設けられるための領域は、内側接続部31の外側オーバーロック領域aまで延在し得る。
【0043】
上述した技術的解決策によれば、低融点成分Lは、熱溶着によって縫合糸23、経糸m、および緯糸pに固定的に接続され、少なくとも歯縫合領域bにおいて硬化構造を形成する。従来技術と比較して、本開示の設計は、伝統的な経糸と緯糸との織り合わせ処理に基づいて低融点成分Lを設定し、加熱により低融点成分Lを溶融して塊にするだけでよい。処理は簡単で、塊の構造は安定しており、信頼性がある。また、歯付け領域bの経糸mは、硬化構造により左右方向の引っ張り力に抗する能力を有している。この硬化構造により、左右のファスナー歯がかみ合った後、織物テープ3が左右方向に引っ張られて2つの織物テープ3の正面から見た隙間が小さくなる時、歯縫合領域bに対する縫合糸23の左右の動きが抑制され得る。歯縫合領域bに硬化構造を形成する加熱工程と、織物テープ3の最終的な熱固定工程とを組み合わせて、硬化構造の熱固定を実現することができる。
【0044】
さらなる技術的解決策では、内側接続部31の厚さW1は、外側接続部32の厚さW2よりも大きく、内側接続部31の、特に硬化構造の剛性を高める。
【0045】
本実施形態において、低融点成分Lの形状は、織物テープ3への低融点成分Lの付与の仕方によって異なり、粒状、短繊維状、長繊維状のいずれの形状などであってもよい。さらなる技術的解決策では、低融点成分Lは、低融点材料から作られ、糸、長いワイヤ、または長いシートの形をした長いストリップである。低融点成分Lは、低融点材料と高融点材料とを混合した糸、長いワイヤー、または長いシートの形状をした長いストリップであってもよい。低融点成分Lはまた、長いストリップからできた織物のストリップ形状であってもよい。すなわち、長いストリップは、フィラメントを紡績加工した糸であってもよいし、押出加工により形成された直径1mm以下の細い棒や厚さ1mm未満の長いフレークであってもよい。長いストリップは、低融点材料からできていてもよいし、高融点材料に低融点材料を添加して作成されてもよい。
【0046】
低融点成分Lは、ハイブリッド織り構造、内部挿入構造、上下接続構造を介して織物テープ3上に形成される。具体的には、第1のタイプは、ハイブリッド織り構造である。図2に示されるように、歯縫合領域bおよび内側延在部Cに位置する経糸mは、部分的に低融点の長いストリップからなる。すべての経糸の集合体の一部として、長いストリップが緯糸pに織り込まれ、低融点成分Lを含む織物層が直接歯縫合領域bに形成される。低融点成分Lを含む織物層を加熱すると、低融点成分Lのみが溶融し、他の部分は溶融せずに低融点成分Lと溶着する。
【0047】
第2のタイプは、内部挿入構造である。図3に示されるように、内側接続部31は、2層の織物テープ3、すなわち、第1の織物層311と第2の織物層312とを有している。それぞれのテープ層は、経糸mと緯糸pとによって織り込まれている。第1の織物層311と第2の織物層312との間には、縦方向に延在するポケット状空間5が形成される。ポケット状空間5が形成されると、低融点成分Lがポケット状空間5に供給される。低融点成分Lが第1の織物層311と第2の織物層312とを熱溶着した後、硬化構造が形成される。第1の織物層311および第2の織物層312は、硬化構造の上側および下側に配置され、互いに対して移動することができない。この実施形態では、ポケット状空間5は、歯縫合領域bから外側オーバーロック領域および内側延在部Cまでの2つの側面に延在している。別の実施形態では、ファスナーテープが張力の弱い衣服に適用される場合、ポケット状空間5および低融点成分Lは、歯縫合領域bにのみ設けられ得る。ポケット状空間5に設けられた低融点成分Lは、粒状、短繊維状、長繊維状、長尺状、短冊状の織物(長いストリップを織ったもの)であってもよい。短冊状の織物は、経糸および緯糸として長いストリップから織られた独立片であってもよく、経糸および高融点緯糸として長いストリップから織られた独立片であってもよい。織物テープが織られるとき、織物片はポケット状空間5内に提供される。織物片が溶融する前は、織物片は柔らかい状態である。
【0048】
この実施形態では、2つの解決策を組み合わせることができる。すなわち、すべての経糸の集合体の一部としての長いストリップは、緯糸pと直接織り込まれ、そして、ポケット状空間5は、少なくとも歯縫合領域bに構成され、その中に低融点成分Lを備える。
【0049】
第3のタイプは上下接続構造である。図4に示されるように、低融点成分Lまたは低融点成分Lを織り込んだ織物のストリップは、内側接続部31の上外側および/または下外側に設けられる。低融点成分Lは、歯縫合領域bから外側のオーバーロック領域と内側延在部Cとの両側に延在し、ファスナー歯22が縫合糸23を介して縫合される。低融点成分Lが溶融すると、周囲の縫合糸23、緯糸p、経糸mが溶着する。同様の実施形態において、低融点成分Lまたは低融点成分Lを織り込んだ織物のストリップは、内側接続部31の片側のみに設けられてもよい。具体的な設計方法は、本発明の目的を満たすべきである。
【0050】
本開示は、ファスナーテープを形成する方法をさらに提案する。ファスナーテープは、織物テープ3を含む。織物テープ3は、高融点の経糸mおよび緯糸pを備えている。経糸mと緯糸pとは、縦横方向に織り込まれている。断面図では、織物テープ3は、横方向左右に配置され、緯糸pによって連結された外側接続部32と内側接続部31とを有している。ファスナーテープはさらに、高融点のファスナー歯22および縫合糸23を含む。ファスナー歯22は、縫合糸23を介して内側接続部31の片側に縫合される。外側接続部32は、織物を連結するために使用される。内側接続部31は、縫合糸23で結合された歯縫合領域bを有する。内側接続部31の少なくとも歯縫合領域bには、さらに低融点成分Lが設けられている。低融点成分Lの溶融温度は、ファスナー歯22、縫合糸23、緯糸P、経糸mの溶融温度よりも低い。織物テープ3における、低融点成分Lの溶融温度と、高融点材料からなる縫合糸23、緯糸p、経糸mの溶融温度との温度差は、少なくとも約50℃~90℃、例えば、50℃、70℃、90℃、100℃、110℃である。織物テープ3の経糸mと緯糸pとが織り合わされて低融点成分Lが形成された後、ファスナー歯22が縫合糸23を介して縫合される。さらに、内側接続部31を低融点成分Lの溶融温度に合わせた加熱温度で加熱し、低融点成分Lを溶融して塊にする。このとき、高融点の縫合糸23、経糸m、緯糸p、ファスナー歯22は溶融していない。低融点成分Lは、冷却後に硬化し、低融点成分Lが設けられた領域が硬化構造となるように、周囲の縫合糸23、経糸m、緯糸pと熱溶着する。従来技術と比較して、本開示では、ファスナー歯22が縫合されるとき、歯縫合領域bの低融点成分Lはまだ未溶着状態にある。したがって、本開示の設計は、ミシンのミシン針を傷つけることがなく、ミシン針が衝撃によってぶつかるという問題を回避することができる。
【0051】
また、内側接続部31において、外側縫合領域及び内側延在部Cにも低融点成分Lが付与されている。低融点成分Lが溶融した後、内側接続部31全体が硬化構造となる。
【0052】
低融点成分Lは、内側接続部31を構成するすべての経糸の集合体に部分的に添加される。低融点部には、長いストリップなどの低融点素材を使用した低温経糸mが採用される。すなわち、内側接続部31では、経糸mおよび緯糸pの少なくとも一部が高融点成分であり、高融点経糸mに低融点材料からなる低温経糸mを混入する。低温経糸mは、純粋な低融点繊維糸であってもよいし、低融点材料を含む経糸m、すなわち混紡糸や混紡糸であってもよい。これらの低融点材料を含む経糸mも硬化組織を形成し得る。
【0053】
低融点成分Lの硬化は、低融点成分Lを溶融させた後、冷却する際に生じる特性である。本開示では、この特性を巧みに利用して、低融点成分Lによる縫合糸23、経糸m、緯糸pの熱溶着を実現し、硬化構造を得ている。
【0054】
さらなる技術的解決策では、内側接続部31の厚さが外側接続部32の厚さよりも大きくなるように、内側接続部31の経糸mの直径が増加するか、或いは、内側接続部31の経糸mと緯糸pとの織り合わせ層の数を増加させる。
【0055】
さらなる技術的解決法では、ファスナー歯22が織物テープ3に縫合された後、織物テープ3がファスナー歯22の側面に沿って曲げられ、低温加熱により予め成形され、相対的な屈曲配置角度を有する外側接続部32および内側接続部31、並びに、外側接続部32と内側接続部31とを接続する屈曲移行部dを形成する。そして、内側接続部31を低融点成分Lの融解温度に合わせた加熱温度で加熱して、低融点成分Lを溶融させる。
【0056】
スライドファスナーが冷却された後、スライダー21が2つの織物テープのファスナー歯22上に設けられる。スライダー21は、2列のファスナー歯22に結合され、2列のファスナー歯22を係合または分離するように構成される。低融点成分Lは、織物テープ3の予備曲げに基づいて溶融するため、曲げ処理が容易になり、硬化構造が屈曲移行部dに十分に接近して延在し得る。図1に示されるように、上下方向から見ると、2列のファスナー歯22が互いに噛み合った後、左右に設けられた2つの屈曲移行部dの上端が突き合わされ、ギャップは非常に小さい。この硬化構造により、外側接続部32が左右方向に無理に引っ張られても、左右に設けられた2つの屈曲移行部dの上端間で角度θを維持できるように、内側接続部31における経糸mや縫合糸23が変形したり移動したりし難く、隙間が少なくなる。加熱温度は、一般に約110℃~130℃に制御され、織物テープ3の屈曲および変形を予備的に実現し、織物テープ3上で第1のヒートセット(熱固定)を行うことができる。ヒートセットの目的は、経糸mおよび緯糸pの内部応力を除去して、織物テープ3が製造後に安定したままになるようにすることである。低融点成分Lを溶融する工程と、最終的に織物テープ3を熱固定する工程とを一体化することにより、エネルギー消費を低減し、硬化構造の熱固定を実現する。その後の低融点成分Lの溶融工程において、織物テープ3を第2のヒートセット(2次熱固定)してもよい。
【0057】
染色が必要なスライドファスナーの場合、染色温度は低融点成分Lが溶融する温度よりも低くなるように制御される。また、染色工程は、低融点成分Lの溶融工程と最終熱固定工程の後に配置することが好ましい。
【符号の説明】
【0058】
1 織物
2 スライドファスナー
3 織物テープ
4 貫通部位
5 ポケット状空間
11 縫合部分
21 スライダー
22 ファスナー歯
23 縫合糸
31 内側接続部
32 外側接続部
311 第1の織物層
312 第2の織物層
a 外側オーバーロック領域
b 歯縫合領域
c 内側延在部
d 屈曲移行部
L 低融点成分
m 経糸
p 緯糸
X 横方向
Y 縦方向
図1
図2
図3
図4
図5