(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】電源回路
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
H02M3/155 H
H02M3/155 B
(21)【出願番号】P 2019014493
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】笠井 浩二
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-122879(JP,A)
【文献】特開2008-125220(JP,A)
【文献】特開2005-287165(JP,A)
【文献】特開2014-128038(JP,A)
【文献】特開2013-162539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H02M 3/00~ 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号
にスイッチング動作にて所定の処理を施して出力信号を生成するパワー回路と、誤差アンプにおいて前記出力信号の出力値と基準値とを比較して誤差信号を生成するとともに、該誤差信号とキャリア信号とから時比率を決定してスイッチング信号を生成し、該スイッチング信号を前記パワー回路に帰還させてフィードバックループを形成する制御回路と、を備え、
前記パワー回路は、前記スイッチング動作を行うスイッチング回路部を有し、
前記制御回路は、キャパシタを含み、前記フィードバックループの位相を補償する位相補償回路部と、前記スイッチング信号の前記時比率をモニタリングするスイッチングモニタ部と、を有し、
前記時比率の上限の所定値及び下限の所定値の判定は、前記スイッチングモニタ部により行い、
前記時比率が上限の所定値以上又は下限の所定値以下になったときに前記位相補償回路部を前記フィードバックループから切断するとともに、前記時比率が前記上限の所定値と下限の所定値との範囲内に復帰したときに前記位相補償回路部を前記フィードバックループに接続して、
前記キャパシタに蓄積された位相補償電圧の下でスイッチング動作を開始する、
ことを特徴とする電源回路。
【請求項2】
前記時比率の上限の所定値が100%で、前記時比率の下限の所定値が0%である、
ことを特徴とする請求項
1に記載の電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電源回路、特に、出力電圧の安定化を図ることができ、モータ制御回路として有用な電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電源回路は、出力電圧の安定化のために、出力電圧をモニタする回路を有し、出力電圧を分圧して誤差アンプで基準電圧と比較し、比較の結果ずれている場合、誤差電圧が出力されてフォトカプラを介して、1次側に伝えられる。1次側のPWMコントローラの一方に誤差電圧が入力され、PWMコントローラの他方に入力されるのこぎり波などのキャリア信号に基づきスイッチング動作の時比率が調整され、この時比率に基づきスイッチング動作を行い、出力電圧を一定に保つという、フィードバックループが形成されるのが一般的である(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、出力電圧が基準電圧より低くなると、誤差電圧が発せられ、この誤差電圧に基づき、PWMコントローラにより調整された時比率でスイッチング動作が行われる。その結果、スイッチング動作のON状態の比率が高いスイッチング電圧が発せられ、出力電圧が上昇して基準電圧に近づき誤差電圧が小さくなる。出力電圧が基準電圧を越えると、逆にスイッチング動作のOFF状態の比率が高いスイッチング電圧が発せられ、出力電圧が下がり基準電圧に近づき誤差電圧が小さくなる。このようにフィードバックループが形成されるため、何らかの外乱が加わったとしても常に時比率が調整され、定常状態が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、入力電力が不足しすぎると、時比率が100%になり、常にON状態でスイッチング動作が行われることになる。
【0006】
このとき、定常状態を維持する制御から外れている状態であるため、出力電圧を基準電圧に近づけるため誤差電圧を積分する、コンデンサ(キャパシタ)を用いた積分要素がフィードバックループに存在する場合、制御的には過積分の状態となっており、このような状態で、入力電力が復帰すると、コンデンサは本来のレベルよりも過剰に充電されているため、出力の制御が復帰するまで、すなわち、コンデンサが適正なレベルまでに戻るのに時間がかかってしまい、その間は出力(電圧)が制御できない状態が長く続くという問題があった。
【0007】
また、出力が過電圧になっている場合、例えば、この電源回路の負荷がモータである場合、そのモータを加速するような外力が加わると、モータは発電機として機能して電源回路の出力に基準電圧を超える過電圧が掛かることがある。このような状態にあっては、電源回路はスイッチング動作を止め、時比率0%となり、同じく制御が外れた状態となってしまい、コンデンサに過剰に積分がかかった状態となってしまう。
【0008】
このような状態から、出力の過電圧が解消されると、コンデンサが適正な充電状態になるまで時間がかかってしまい、その間は制御ができないという問題があった。
【0009】
時比率が、0%になったときも、100%になったときも、その後、入力電圧の復帰又は出力電圧の異常が解消されるまで時間が掛かり、制御不能な状態が続いてしまい安定した電源回路を提供することができなかった。
【0010】
これらの課題に対処しようとする従来の電源回路にあっては、制御範囲を超えたことを誤差アンプの出力電圧をアナログ的に比較して判定し、制御範囲を超えたと判定したときに、位相補償回路部に対して強制的に放電し、あらかじめ決められた一定電圧に保つ、あるいは一定電流で充電するといった操作をするものがほとんどであり、制御部分を構成する部品の特性値のばらつきや環境温度、継時変化による部品の特性値の変動に対して、適切な判定、および位相補償回路に対する最適な操作を安定的に提供し続けるのは困難であり、結果スイッチング状態への復帰までに時間がかかるという問題は解決されていなかった。
【0011】
この発明は、スイッチング動作しているか否かというデジタル的な状態でその制御が外れたか否かを判定するため、制御から外れた状態を検出したとき、瞬時に判断することができ、より確実に、かつ迅速にフィードバックループから位相補償回路部の切断、接続を行うことができる。
【0012】
そこで、この発明の目的は、前記の課題を解決し、安定した電源回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、入力信号にスイッチング動作にて所定の処理を施して出力信号を生成するパワー回路と、誤差アンプにおいて前記出力信号の出力値と基準値とを比較して誤差信号を生成するとともに、該誤差信号とキャリア信号とから時比率を決定してスイッチング信号を生成し、該スイッチング信号を前記パワー回路に帰還させてフィードバックループを形成する制御回路と、を備え、前記パワー回路は、前記スイッチング動作を行うスイッチング回路部を有し、前記制御回路は、キャパシタを含み、前記フィードバックループの位相を補償する位相補償回路部と、前記スイッチング信号の前記時比率をモニタリングするスイッチングモニタ部と、を有し、前記時比率の上限の所定値及び下限の所定値の判定は、前記スイッチングモニタ部により行い、前記時比率が上限の所定値以上又は下限の所定値以下になったとき(以下「制御範囲外」という)に前記位相補償回路部を前記フィードバックループから切断するとともに、前記時比率が前記上限の所定値と下限の所定値との範囲内(以下「制御範囲内」という)に復帰したときに前記位相補償回路部を前記フィードバックループに接続して、前記キャパシタに蓄積された位相補償電圧の下でスイッチング動作を開始する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項1の発明では、スイッチング動作の制御範囲か否かを、スイッチング信号を基にスイッチングモニタ部により判定し、スイッチング動作が制御範囲外になったとき、キャパシタを含む位相補償回路部をフィードバックループから切断し、スイッチング動作が制御範囲内である定常状態に復帰したときに、位相補償回路部をフィードバックループに接続して、キャパシタに蓄積された位相補償電圧の下でスイッチング動作を開始する。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記時比率の上限の所定値が100%で、前記時比率の下限の所定値が0%である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、スイッチング動作の制御範囲か否か、すなわち、前記時比率が上限の所定値以上又は下限の所定値以下になったか否かをスイッチングモニタ部により判定するため、デジタル的な判定を行うことができ、高速での判定を可能としかつ、部品の特性値のばらつきや環境温度、継時変化の影響を受けることなく、制御範囲内である定常状態に復帰した時の出力電圧のオーバーシュート、アンダーシュートを抑制することができ、安定した電源回路を提供することができる。しかも、制御範囲内である定常状態への復帰はキャパシタに蓄積された位相補償電圧の下でなされるため、よりよい状態での復帰を可能とする。
【0019】
請求項2の発明によれば、時比率を100%か0%かで判定するため、デジタル制御に適しており、より速く復帰させて制御範囲内である定常状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図2~
図4と共に実施の形態1による電源回路を示すものであり、本図は回路図である。
【
図2】時比率0%無負荷状態で負荷を掛けたときの各成分の特性を示すグラフ図であり、(a)は実施の形態1の電源回路のもので、(b)は無対策の電源回路のものである。
【
図3】時比率100%状態で、入力電圧を上げたときの各成分の特性を示すグラフ図であり、(a)は実施の形態1の電源回路のもので、(b)は無対策の電源回路のものである。
【
図4】
図3と同様に、時比率100%状態で、入力電圧を上げたときの各成分の特性を示すグラフ図であり、
図3(a)の時間スケールを拡大したもので、(b)は
図3(a)より時間幅を4倍したもの(c)は
図3(a)より時間幅を100倍にしたものである。
【
図5】実施の形態2による電源回路を示すもので、回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態1)
以下、この発明を図示の実施の形態1に基づいて説明する。この実施の形態1はDC-DCコンバータとしてのスイッチングレギュレーションに適用したもので、出力電圧と基準電圧とを比較し、その誤差電圧に基づき、入力電圧にスイッチング動作を加え制御するいわゆるフィードバックループを構成する。
【0022】
図1において、電源回路1は、入力電圧をスイッチング動作の下で変圧して出力電圧を生成するパワー回路10と、前記出力電圧と基準電圧とを比較して誤差電圧を生成するとともに、該誤差電圧とキャリア信号とから時比率を決定してスイッチング信号を生成し、該スイッチング信号を前記パワー回路に帰還させてフィードバックループを形成する制御回路20とを備える。
【0023】
パワー回路10は、入力電圧がかかる入力端子11と、該入力端子11に入力された電圧をスイッチングさせるスイッチング回路部12と、スイッチング電圧を整流平滑し降圧された電圧を出力する出力端子14とを有する。
【0024】
図中、パワー回路10の前記スイッチング回路部12を境に左側部分を入力側、右側部分を出力側といい、制御回路20においては後述するフォトカプラ24を境に左側部分を入力側、右側部分を出力側という。
【0025】
パワー回路10では、入力端子11から入力された電圧を、スイッチング回路12でスイッチングし、整流平滑回路でスイッチング電圧を整流平滑して出力端子14に出力するようになっている。
【0026】
制御回路20は、前記出力端子14にかかる出力電圧を分圧し、基準電圧と比較する誤差アンプ21と、キャパシタ22を含み上記フィードバックループの位相を補償し安定させる位相補償回路部23と、前記誤差アンプ21の誤差電圧を入力側に伝達する第1のフォトカプラ24と、第1のフォトカプラ24を介して受けた誤差アンプ21の誤差電圧とのこぎり波とを比較し、前記スイッチング回路部12を所定値内の範囲の時比率で動作させるPWMコントローラ25と、前記誤差アンプ21の誤差電圧が所定値内の範囲の時比率であるかを判定するスイッチングモニタ部26と、前記スイッチングモニタ部26で判定し所定値内の時比率でない場合に前記位相補償回路部23をフィードバックループから切断するための第2のフォトカプラ27とを有する。
【0027】
この実施の形態1にあっては、時比率の上限の所定値が100%、時比率の下限の所定値が0%に設定されている。従って、キャパシタ22が過充電になっているときは、時比率100%でスイッチング回路部12がON状態を維持しつづけ、キャパシタ22が過放電になっているときは、時比率0%でスイッチング回路部12がOFF状態を維持しつづけられることになる。なお、回路設計上或いは部品の特性上、時比率を100%や0%にできない場合には、その許容される範囲内の最大又は最小の時比率で設計してもよい。
【0028】
上述の制御範囲内とは、この上限の所定値と下限の所定値との間の範囲内(時比率100%及び0%に達しない範囲)において、当該電源回路1の制御が行われている状態であり、制御範囲外とは、制御範囲を逸脱した状態、すなわち、時比率100%又は0%に達した状態である。
【0029】
次に実施の形態1の電源回路1の動作について説明する。
【0030】
先ず、制御範囲内にある状態では、上述した通り、パワー回路10の入力端子11に所定値内の範囲の電圧が掛かると、スイッチング回路部12でスイッチングされ、整流平滑回路を介して出力端子14に出力電圧が生じる。
【0031】
また、制御回路20では、前記出力端子14にかかる電圧を分圧して、前記誤差アンプ21により基準電圧と比較される。その結果、出力電圧が基準電圧より低いときは時比率を上げ、基準電圧より高いときは時比率を下げるように制御される。
【0032】
誤差アンプ21で比較した得た誤差電圧は、第1のフォトカプラ24を介して電源回路1の入力側に伝達される。
【0033】
出力端子14は、キャパシタ22を含む位相補償回路部23に接続されており、誤差アンプ21の出力電圧がキャパシタ22に充電される。
【0034】
また、位相補償回路部23の後段は第2のフォトカプラ27の出力側にあるスイッチ部27aを介して第1のフォトカプラ24に接続されている。
【0035】
また、位相補償回路部23は、位相のずれを一定限度内に収まるようにしてフィードバックループ内で発振が生じないように位相補償するものでもある。
【0036】
制御回路20の入力側では、第1のフォトカプラ24で受けた誤差電圧を、PWMコントローラ25のコンパレータ25aに入力され、該コンパレータ25aでは誤差電圧と時比率の基準となるのこぎり波(キャリア信号)とが比較され、誤差電圧に応じた時比率のPWM信号がスイッチング信号としてPWMコントローラ25から出力される。
【0037】
時比率が決められるとそのスイッチング信号が、パワー回路10のスイッチング回路部12に伝送され、スイッチング回路部12はこの時比率に基づきスイッチング動作、すなわち、スイッチング回路部12のON、OFFが行われる。
【0038】
また、PWMコントローラ25の出力は、スイッチングモニタ部26に接続されており、時比率が0%か100%になったか否かが検知される。このスイッチングモニタ部26により時比率=0%又は100%が検知されると、その出力信号が第2のフォトカプラ27側に伝送される。なお、上記状態は時比率が制御範囲内(0%,100%以外)であるため、第2のフォトカプラ27は動作しない。
【0039】
次に、時比率が0%(制御範囲外)で、かつ、無負荷状態から、負荷10Aをかけたときの電源回路1の動作を、
図2とともに説明する。
【0040】
上述のように出力電圧が過電圧になると、出力電圧を基準電圧に保とうとして、時比率が低下し、時比率0%に達すると制御範囲外となり、このままではスイッチング回路部12はOFF状態を維持し続けることになり、位相補償回路部23のキャパシタ22が過放電状態となってしまう。
【0041】
そこで、時比率が0%になると、第2のフォトカプラ27が動作して、そのスイッチ部27aをOFFして位相補償回路部23をフィードバックループから切断することで、キャパシタ22の放電が断たれ、その過放電が解消される。
【0042】
この状態では、誤差アンプ21による出力電圧と基準電圧との比較(サンプリング)が為されたまま、スイッチング回路部12は時比率が0%であるためOFF状態が維持される。
【0043】
時比率が0%とは、上述のように、出力(負荷)が過電圧になった制御範囲外の状態であり、スイッチングモニタ部26が時比率0%を検知すると、第2のフォトカプラ27のスイッチ部27aがOFF状態し、スイッチング動作が行われていない状態となる。
【0044】
この状態で出力端子14に負荷をかけると、出力電圧が基準電圧より下がるため、前記誤差アンプ21により、時比率を上げる方向、すなわち、ON状態の比率を高くする誤差電圧が、位相補償回路部23の影響を受けることなく直ちに発せられる。
【0045】
そして、この誤差電圧は、第1のフォトカプラ24を介して電源回路1の入力側に伝達される。
【0046】
電源回路1の入力側では、PWMコントローラ25から時比率を上げる方向のスイッチング信号を発せられて、スイッチング回路部12に伝達され、ON状態の比率が高いスイッチング動作が開始される。
【0047】
また、PWMコントローラ25のスイッチング信号がスイッチングモニタ部26に出力されると、第2のフォトカプラ27を介してスイッチ部27aがONにされて、位相補償回路部23がフィードバックループに接続され、同時に、位相補償が行われる。このとき、位相補償回路部23がフィードバックループに接続されることにより、キャパシタ22で蓄えられた位相補償電圧が第1のフォトカプラ24に出力され、スイッチング動作がその位相補償電圧の下で開始されることになる。
【0048】
図2は、スイッチング回路部12の動作が開始された状態における出力電圧の変化をグラフにしたもので、(a)は実施の形態1の電源回路、(b)が無対策の電源回路の出力電圧の変化を示す。
【0049】
図中、上段グラフが出力電圧を、中段グラフがスイッチング状態を、下段グラフが負荷電流を示す。中段グラフの直線部分(左側)が非スイッチング状態を、やや幅広でハッチングで示す部分(右側)がスイッチング状態を示す。
【0050】
また、グラフ図において、上段グラフの出力電圧のボルテージは基準電圧に対する差分を示す。
【0051】
この実施の形態1の電源回路1の場合(
図2(a))、負荷をかけたとほぼ同時に、出力電圧は最小値-440mV,最大値120mVの変化であったのに対して、無対策の電源回路にあっては、出力電圧が最小値-2.2V,最大値80mVの変化であった。
【0052】
このように実施の形態1の電源回路1によれば、無対策の電源回路に比較して出力電圧の変化率を約1/5に抑えることができ、出力電圧がより安定した電源回路であることが理解できる。
【0053】
また次に、入力電圧が不足した状態における電源回路1の動作について
図3及び
図4とともに説明する。
図3及び
図4は、入力電圧が25.6Vから37.6Vに復帰したものである。
【0054】
上述のように入力電圧が不足すると、出力電圧を基準電圧に保とうとして、時比率が上昇し、時比率100%に達すると制御範囲外となり、このままではスイッチング回路部12はON状態を維持し続けることになり、位相補償回路部23のキャパシタ22が過充電状態となってしまう。
【0055】
そこで、時比率が100%になると、第2のフォトカプラ27が動作して、そのスイッチ部27aをOFFして位相補償回路部23をフィードバックループから切断することで、キャパシタ22への充電が断たれ、その過充電が解消される。
【0056】
この状態では、誤差アンプ21による出力電圧と基準電圧との比較(サンプリング)が為されたまま、スイッチング回路部12は時比率が100%であるためON状態が維持される。
【0057】
そして、時比率が100%とは、上述のように、入力電圧が低下して、スイッチング回路部12がON状態を維持している状態で、スイッチングモニタ部26により時比率100%を検知して、第2のフォトカプラ27のスイッチ部27aがOFFの状態で制御範囲外となり、スイッチング動作が行われていない状態である。
【0058】
この状態で入力電圧が上昇すると、出力電圧が一瞬、基準電圧より上がるため、前記誤差アンプ21により、時比率を下げる方向、すなわち、OFF状態の比率を高くする誤差電圧が、位相補償回路部23の影響を受けることなく直ちに発せられる。
【0059】
そして、この誤差電圧は、第1のフォトカプラ24を介して電源回路1の入力側に伝達される。
【0060】
電源回路1の入力側では、PWMコントローラ25が時比率を下げる方向の信号を受け、スイッチング回路部12に伝達され、OFF状態の比率が高いスイッチング動作が開始される。
【0061】
また、PWMコントローラ25のPWM信号がスイッチングモニタ部26に出力されると、第2のフォトカプラ27を介してスイッチ部27aがONにされて、位相補償回路部23がフィードバックループに接続され、同時に動作して、スイッチング動作の位相補償が行われる。このとき、位相補償回路部23がフィードバックループに接続されることにより、キャパシタ22で蓄えられた位相補償電圧が第1のフォトカプラ24に出力され、スイッチング動作がその位相補償電圧の下で開始されることになる。
【0062】
図3、
図4は、スイッチング回路部12の動作が開始された状態における出力電圧の変化をグラフ図にしたもので、
図3(a)、
図4(a)(b)は実施の形態1の電源回路1のものを、
図3(b)が無対策の電源回路のものを示す。
【0063】
図中、上段グラフが出力電圧を、中段グラフがスイッチング状態を、下段グラフが入力電圧を示す。中段グラフの直線部分が非スイッチング状態、やや幅広でハッチングで示す部分がスイッチング状態を示す。
【0064】
なお、スイッチング状態を示す中段グラフで、入力電圧が復帰するまで、時比率100%であるが非スイッチング状態であるため直線で示され、入力電圧の復帰とほぼ同時にハッチングで示すスイッチング状態になったものである。
【0065】
この実施の形態1の電源回路1の場合(
図3(a))、入力電圧を上げたとほぼ同時に、出力電圧は2.4Vに上昇後直ちに下がり、-360mVまで落ちた後、再び僅かに上昇するもののスイッチング動作が開始されると基準値に復帰した。
【0066】
これに対して、無対策の電源回路にあっては、出力電圧が一旦4.24Vに一気に上昇した後、徐々に落ちて-2.20Vまで落ち、その後再び上昇し基準値を超えたときにスイッチング動作が開始されて、その後やや落ちて基準値へと復帰した。
【0067】
この
図3(a)と(b)とを比較して相違する点は、出力電圧の変化量もさることながら、基準電圧に至るまでの時間である。実施の形態1の電源回路1にあっては一瞬で基準電圧に復帰しているが、無対策の電源回路にあっては実施の形態1の電源回路1の数百倍の時間がかかっているのが分かる。
図3(a)と(b)とは時間幅が同じスケールで示したものであるが、
図4(a)は
図3(a)より時間幅をやや拡大(4倍)したもので、
図4(b)は時間幅をさらに拡大(100倍)したものである。
【0068】
このように実施の形態1の電源回路1によれば、無対策の電源回路に比較して入力電圧の復帰後の出力電圧がスイッチング状態にあるまでの時間が数百倍も早く、出力電圧がより安定した電源回路であることが理解できる。
【0069】
(実施の形態2)
以下、この発明を図示の実施の形態2に基づいて説明する。
【0070】
図5は、この実施の形態2に係る電源回路2を示す回路図である。この実施の形態2では、制御範囲から逸脱した時点の、位相補償回路部23の
位相補償電圧をホールドするサンプルホールド回路30を有する点で上記実施の形態1と構成が異なり、よって、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0071】
前記第2のフォトカプラ27には2つのスイッチ部27a、27bが備えられ、一方のスイッチ部27aは前記実施の形態1のものと同様に、フィードバックループからキャパシタ22を含む位相補償回路部23の切断、接続するもので、他方のスイッチ部27bが前記サンプルホールド回路30に組み込まれたスイッチ部である。
【0072】
サンプルホールド回路30の一端は、位相補償回路部23のキャパシタ22と第2のフォトカプラ27のスイッチ部27aとの間に接続され、他端は、第2のフォトカプラ27のスイッチ部27aと第1のフォトカプラ24との間に接続されている。
【0073】
そして、時比率0%又は時比率100%になったとき、第2のフォトカプラ27のスイッチ部27aがOFFになって位相補償回路部23がフィードバックループから切断すると同時に、前記第2のフォトカプラ27のスイッチ27bがOFFになって、位相補償回路部23のキャパシタ22に蓄積された位相補償電圧を保持(ホールド)する。
【0074】
このサンプリング状態を維持するのは、キャパシタ22の自己放電、スイッチのリーク電流によりキャパシタ22電圧が変動していたとしても、スイッチング制御が復帰した時に、サンプリングホールドした位相補償電圧の下でスイッチング動作を行うことができ、フィードバック制御として理想に近い復帰状態であるとともに、出力電圧のオーバーシュート、アンダーシュートを抑制することができる。なお、サンプルホールド回路30の遅延が問題にならない場合は、スイッチ部27aを省略することが可能である。
【0075】
このように、実施の形態2の電源回路2によれば、スイッチング制御の復帰時のオーバーシュートやアンダーシュートを抑制できるため、電源回路2としての安定性を更に増すことができる。
【0076】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記2つの実施の形態1、2にあっては、非絶縁型の電源回路に用いたが、本発明はこれに限らず、絶縁型の電源回路にも適用することができる。また、電圧電源回路について説明したが、電流を制御する電流電源回路にも適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 電源回路
2 電源回路
10 パワー回路
12 スイッチング回路部
20 制御回路
21 誤差アンプ
22 キャパシタ
23 位相補償回路部
26 スイッチングモニタ部
30 サンプルホールド回路