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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】油圧回路
(51)【国際特許分類】
   F16H 59/68 20060101AFI20231211BHJP
   F16H 61/12 20100101ALI20231211BHJP
   F16H 59/50 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
F16H59/68
F16H61/12
F16H59/50
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019159062
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021038767
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】三森 拓
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/216649(WO,A1)
【文献】特開2011-069427(JP,A)
【文献】特開平04-370456(JP,A)
【文献】特開2012-072844(JP,A)
【文献】米国特許第5083481(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0006979(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12
61/16-61/24
61/66-61/70
63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
係合要素を備える変速機の油圧回路であって、
元圧が入力され、その入力される前記元圧を所定のモジュレータ圧に調圧して出力するモジュレータバルブと、
前記モジュレータバルブから前記モジュレータ圧が入力され、その入力される前記モジュレータ圧をリニアソレノイド圧に調圧して出力するリニアソレノイドバルブと、
前記モジュレータバルブから前記モジュレータ圧が入力され、オン状態でその入力される前記モジュレータ圧を出力し、オフ状態で前記モジュレータ圧の出力を停止し、前記係合要素の係合過渡および係合保持のためにオン状態にされるオン/オフバルブと、
前記モジュレータバルブから前記モジュレータ圧が入力される第1入力ポートおよび第3入力ポートと、前記リニアソレノイドバルブから前記リニアソレノイド圧が入力される第2入力ポートと、前記オン/オフバルブから前記モジュレータ圧が入力される第4入力ポートと、制御位置とフェイル位置とに移動可能なスプールとを備え、前記スプールが前記制御位置に位置する状態で、前記第2入力ポートに入力される前記リニアソレノイド圧を前記係合要素に供給される油圧として出力し、前記スプールが前記フェイル位置に位置する状態で、前記第3入力ポートに入力される前記モジュレータ圧を前記係合要素に供給される油圧として出力するシフトバルブとを含み、
前記シフトバルブは、前記オン/オフバルブから前記第4入力ポートに前記モジュレータ圧が入力されるときに、その前記第4入力ポートに入力される前記モジュレータ圧と前記モジュレータバルブから前記第1入力ポートに入力される前記モジュレータ圧とが互いに打ち消し合って、前記スプールが前記制御位置に位置し、前記オン/オフバルブから前記第4入力ポートに前記モジュレータ圧の入力がないときに、前記スプールが前記フェイル位置に位置し、
前記モジュレータバルブは、前記モジュレータバルブが出力する前記モジュレータ圧が入力される第1のフィードバックポートと、前記係合要素に供給される油圧が入力される第2のフィードバックポートを備え、前記モジュレータバルブが出力する前記モジュレータ圧が前記第1のフィードバックポートに入力されることにより、前記元圧が第1のモジュレータ圧に減圧され、前記モジュレータバルブが出力する前記モジュレータ圧が前記第1のフィードバックポートに入力され、前記係合要素に供給される油圧が前記第2のフィードバックポートに入力されることにより、前記元圧が前記第1のモジュレータ圧よりも低い第2のモジュレータ圧に減圧される構成を有している、油圧回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載される変速機として、ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)が知られている。
【0003】
ベルト式の無段変速機は、プライマリプーリとセカンダリプーリとに無端状のベルトが巻き掛けられた構成を有している。プライマリプーリおよびセカンダリプーリの各プーリは、回転軸に固定的に支持される固定シーブと、回転軸にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されて、固定シーブにベルトを挟んで対向する可動シーブとを備えている。エンジンからの動力がプライマリプーリの回転軸に入力されると、プライマリプーリからベルトに動力が伝達され、ベルトからセカンダリプーリに動力が伝達される。また、プライマリプーリおよびセカンダリプーリの各可動シーブの移動により、プライマリプーリおよびセカンダリプーリに対するベルトの巻きかけ径が変化し、変速比(プーリ比)が連続的に無段階で変化する。
【0004】
ベルト式の無段変速機を搭載した車両では、たとえば、車両がスピードブレーカ(スピードバンプ)などの突起物を乗り越えたときや駆動輪が路面に対してスリップしている状態からグリップを取り戻したときに、プーリとベルトとの間でベルト滑りが発生するおそれがある。すなわち、車両の駆動輪が突起物を乗り越える際に路面から浮き上がったり、駆動輪が路面に対して滑ったりすると、アウトプット軸の回転数が上昇し、その後、駆動輪が路面に対してグリップしたときに、路面から駆動輪に入力されるトルクによりアウトプット軸の回転数が急減し、その急減によるイナーシャトルクでプーリに対してベルトが滑るおそれがある。
【0005】
ベルト滑りの発生を防止するため、セカンダリプーリと駆動輪との間の動力伝達経路上にクラッチを設けて、クラッチの伝達トルク容量(クラッチトルク容量)をベルトの伝達トルク容量(ベルトトルク容量) よりも小さく設定する技術が提案されている。クラッチトルク容量がベルトトルク容量よりも小さければ、路面から駆動輪に過大なトルクが入力された場合に、ベルトよりも先にクラッチが滑るため、ベルト滑りの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-231765号公報
【文献】特開2000-193081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、クラッチに油圧を供給する油圧回路によっては、係合状態のクラッチに一定圧を供給してその係合状態を維持する構成が採用されている。この構成を採用した油圧回路では、係合状態のクラッチに供給される油圧を増減できず、クラッチトルク容量を増減させることができない。そのため、クラッチトルク容量をベルトトルク容量よりも小さくすることによりベルト滑りの発生を防止する制御(クラッチヒューズ制御)を採用した無段変速機には、当該油圧回路を用いることはできない。
【0008】
本発明の目的は、クラッチヒューズ制御を採用したベルト式の無段変速機に好適に用いることができる、油圧回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明に係る油圧回路は、係合要素を備える変速機の油圧回路であって、元圧が入力され、その入力される元圧を所定のモジュレータ圧に調圧して出力するモジュレータバルブと、モジュレータバルブから出力されるモジュレータ圧が入力され、その入力されるモジュレータ圧を係合要素を係合させる係合圧に調圧して出力するソレノイドバルブと、モジュレータバルブから出力されるモジュレータ圧が入力されるモジュレータ圧入力ポートと、ソレノイドバルブから出力される係合圧が入力される係合圧入力ポートと、制御位置とフェイル位置とに移動可能なスプールとを備え、スプールが制御位置に位置する状態で、係合圧入力ポートに入力される係合圧を係合要素に供給される油圧として出力し、スプールがフェイル位置に位置する状態で、モジュレータ圧入力ポートに入力されるモジュレータ圧を係合要素に供給される油圧として出力するシフトバルブと、モジュレータバルブから出力されるモジュレータ圧が入力され、オン状態でその入力されるモジュレータ圧を出力し、オフ状態でモジュレータ圧の出力を停止し、係合要素の係合過渡および係合保持のためにオン状態にされるオン/オフバルブとを含み、シフトバルブは、オン/オフバルブから出力されるモジュレータ圧が入力されるときにスプールが制御位置に位置し、当該モジュレータ圧の入力がないときにスプールがフェイル位置に位置する構成を有している。
【0010】
この構成によれば、モジュレータバルブには、元圧が入力され、モジュレータバルブは、その元圧をモジュレータ圧に調圧して出力する。ソレノイドバルブには、モジュレータバルブから出力されるモジュレータ圧が入力され、ソレノイドバルブは、そのモジュレータ圧を係合圧に調圧して出力する。オン/オフバルブには、モジュレータバルブから出力されるモジュレータ圧が入力される。
【0011】
オン/オフバルブのオン状態では、オン/オフバルブからモジュレータ圧が出力され、そのモジュレータ圧がシフトバルブに入力されて、シフトバルブのスプールが制御位置に位置する。そして、この状態では、ソレノイドバルブから出力される係合圧がシフトバルブの係合圧入力ポートに入力され、その係合圧がシフトバルブから出力されて係合要素に供給される。
【0012】
係合圧は、ソレノイドバルブの通電を制御することにより増減可能である。係合圧の増減により係合要素の伝達トルク容量を増減させることができる。よって、この油圧回路は、係合要素の伝達トルク容量を無段変速機構のベルトの伝達トルク容量よりも小さくすることによりベルト滑りの発生を防止するクラッチヒューズ制御を採用した無段変速機に好適に用いることができる。
【0013】
一方、オン/オフバルブのオフ状態では、オン/オフバルブからのモジュレータ圧の出力が停止されるので、オン/オフバルブからシフトバルブへのモジュレータ圧の入力がない。そのため、スプールがフェイル位置に位置する。この状態では、モジュレータバルブから出力されるモジュレータ圧がモジュレータ圧入力ポートに入力され、そのモジュレータ圧が係合要素に供給される。
【0014】
電源喪失のフェイルが発生した場合、オン/オフバルブがオフ状態になるので、シフトバルブから係合要素にモジュレータ圧が供給される。これにより、係合要素が係合する。よって、係合要素が車両の走行のための動力を伝達/遮断するクラッチであっても、電源喪失のフェイルの発生時に、そのクラッチが係合状態になるので、変速機から車両の走行のための動力を出力させることができ、車両の走行を確保することができる。
【0015】
モジュレータバルブは、係合要素に供給される係合圧が入力されるフィードバックポートを有し、フィードバックポートに入力される係合圧に応じてモジュレータ圧が低減する構成を有していることが好ましい。
【0016】
これにより、ソレノイドバルブに入力されるモジュレータ圧が低減するので、そのモジュレータ圧とソレノイドバルブから出力される係合圧との差圧を低減でき、ソレノイドバルブのオーバライド特性を向上できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クラッチヒューズ制御を採用したベルト式の無段変速機に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
図2A】本発明の一実施形態に係る油圧回路の構成を示す回路図であり、入力トルクが高トルク状態であり、変速レンジがRレンジであるときの油圧の流れを併せて示す。
図2B】油圧回路の構成を示す回路図であり、入力トルクが高トルク状態であり、変速レンジがDレンジであるときの油圧の流れを併せて示す。
図2C】油圧回路の構成を示す回路図であり、入力トルクが低トルク状態であり、変速レンジがRレンジであるときの油圧の流れを併せて示す。
図2D】油圧回路の構成を示す回路図であり、入力トルクが低トルク状態であり、変速レンジがDレンジであるときの油圧の流れを併せて示す。
図3】ライン圧(PL圧)とクラッチモジュレータ圧との関係を示す図である。
図4】変速レンジ、走行状態、リニアソレノイドバルブの状態、オン/オフバルブの状態、係合クラッチおよびシフトバルブの出力圧の状態を一覧で示す図である。
図5】変形例に係る油圧回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【0021】
車両1は、エンジン2を駆動源として搭載し、たとえば、FR(Front-engine Rear-wheel-drive:フロントエンジン・リヤドライブ)レイアウトを採用している。エンジン2は、たとえば、3気筒4ストロークエンジンであり、クランクシャフト3が車両1の前後方向(以下、単に「前後方向」という。)に対して縦向きになる縦置きで車両1の前部に搭載される。エンジン2の動力は、変速ユニット4に入力される。変速ユニット4から出力される動力は、プロペラシャフト5を介して、デファレンシャルギヤ6に伝達され、デファレンシャルギヤ6から左右の駆動輪(後輪)7L,7Rに伝達される。
【0022】
なお、エンジン2は、3気筒4ストロークエンジンに限定されない。エンジン2の気筒数は、3気筒に限らず、4気筒以上であってもよいし、2気筒以下であってもよい。また、エンジン2のストローク数は、4ストロークに限らず、2ストロークであってもよい。
【0023】
変速ユニット4は、外殻をなすユニットケース内に、トルクコンバータ8およびCVT9を備えている。
【0024】
トルクコンバータ8は、ロックアップ機構付きのトルクコンバータであり、フロントカバー11、ポンプインペラ12、タービンランナ13およびロックアップクラッチ(ロックアップピストン)14を備えている。
【0025】
フロントカバー11は、前後方向に延びる回転軸線を中心に略円板状に延び、その外周端部がエンジン2側と反対側である後側に屈曲した形状をなしている。フロントカバー11の中心部には、エンジン2のクランクシャフト3が相対回転不能に結合される。
【0026】
ポンプインペラ12は、フロントカバー11の後側に配置されている。ポンプインペラ12の外周端部は、フロントカバー11の外周端部に接続され、ポンプインペラ12は、フロントカバー11と一体回転可能に設けられている。
【0027】
タービンランナ13は、フロントカバー11とポンプインペラ12との間に配置されている。
【0028】
ロックアップクラッチ14は、フロントカバー11とタービンランナ13との間に位置している。ロックアップクラッチ14に対してタービンランナ13側の係合側油室15の油圧がフロントカバー11側の解放側油室16の油圧よりも高いと、その差圧により、ロックアップクラッチ14がフロントカバー11側に移動し、ロックアップクラッチ14がフロントカバー11に押し付けられて、ポンプインペラ12とタービンランナ13とが直結(ロックアップオン)される。
【0029】
逆に、解放側油室16の油圧が係合側油室15の油圧よりも高いと、その差圧により、ロックアップクラッチ14がタービンランナ13側に移動する。ロックアップクラッチ14がフロントカバー11から離間した状態では、ポンプインペラ12とタービンランナ13との直結が解除(ロックアップオフ)される。ロックアップオフの状態において、エンジントルクによりポンプインペラ12が回転すると、ポンプインペラ12からタービンランナ13に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ13で受けられて、タービンランナ13が回転する。このとき、トルクコンバータ8の増幅作用が生じ、タービンランナ13には、エンジントルクよりも大きなトルクが発生する。
【0030】
CVT9は、入力軸21、無段変速機構22、リバース伝達機構23および出力軸24を備えている。CVT9は、入力軸21が前後方向に延びる縦向きとなるように設けられている。
【0031】
入力軸21は、トルクコンバータ8の回転軸線上を延び、トルクコンバータ8のタービンランナ13と一体的に回転可能に設けられている。入力軸21には、入力軸ギヤ25が一体に形成されるか、または、別体に形成された入力軸ギヤ25が相対回転不能に支持されている。
【0032】
無段変速機構22は、プライマリ軸31、セカンダリ軸32、プライマリプーリ33、セカンダリプーリ34およびベルト35を備えている。
【0033】
プライマリ軸31は、その軸心が入力軸21の軸心に対して後側から見て右下方に離間した位置に配置されて、入力軸21と平行に延びている。セカンダリ軸32は、その軸心が入力軸21の軸心に対して後側から見て左上方に離間した位置に配置されて、入力軸21と平行に延びている。このように、入力軸21に対して、プライマリ軸31とセカンダリ軸32とが左右に分かれて配置されている。これにより、プライマリ軸31とセカンダリ軸32との上下方向の軸間距離を短くすることができ、CVT9の上下方向のサイズを小さくすることができる。そのため、車両1が商用車などの車室が低床化された車両であっても、その車両1への変速ユニット4の搭載を車両1の最低地上高を確保しつつ可能とすることができる。
【0034】
プライマリプーリ33は、プライマリ軸31に固定されたプライマリ固定シーブ41と、プライマリ固定シーブ41にベルト35を挟んで対向配置され、プライマリ軸31にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されたプライマリ可動シーブ42とを備えている。プライマリ可動シーブ42は、プライマリ固定シーブ41に対して前側に配置されている。
【0035】
プライマリ可動シーブ42に対してプライマリ固定シーブ41側と反対側、つまり前側には、シリンダ43が設けられている。シリンダ43は、内周端がプライマリ軸31に固定され、プライマリ軸31から軸径方向に延び、外周端部が後側に屈曲して延びている。プライマリ可動シーブ42の外周端は、シリンダ43の外周端部に回転径方向の内側から液密的に当接している。プライマリ可動シーブ42とシリンダ43との間は、油圧室(ピストン室)44として形成されている。
【0036】
セカンダリプーリ34は、セカンダリ軸32に固定されたセカンダリ固定シーブ45と、セカンダリ固定シーブ45にベルト35を挟んで対向配置され、セカンダリ軸32にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されたセカンダリ可動シーブ46とを備えている。セカンダリ可動シーブ46は、セカンダリ固定シーブ45に対して後側に配置されており、前後方向において、セカンダリ固定シーブ45とセカンダリ可動シーブ46との位置関係は、プライマリプーリ33のプライマリ固定シーブ41とプライマリ可動シーブ42との位置関係と逆転している。
【0037】
セカンダリ可動シーブ46に対してセカンダリ固定シーブ45と反対側、つまり後側には、ピストン47が設けられている。ピストン47は、内周端がセカンダリ軸32に固定され、セカンダリ軸32から軸径方向に延びている。セカンダリ可動シーブ46の外周端部は、後側に延出しており、ピストン47の外周端は、そのセカンダリ可動シーブ46の外周端部に回転径方向の内側から液密的に当接している。セカンダリ可動シーブ46とピストン47との間は、油圧室48として形成されている。
【0038】
無段変速機構22では、プライマリプーリ33およびセカンダリプーリ34の各油圧室44,48に供給される油圧が制御されて、プライマリプーリ33およびセカンダリプーリ34の各溝幅が変更されることにより、ベルト変速比(プライマリプーリ33とセカンダリプーリ34とのプーリ比)が一定の変速比範囲内で連続的に無段階で変更される。
【0039】
具体的には、ベルト変速比が小さくされるときには、プライマリプーリ33の油圧室44に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ33のプライマリ可動シーブ42がプライマリ固定シーブ41側に移動し、プライマリ固定シーブ41とプライマリ可動シーブ42との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ33に対するベルト35の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ34のセカンダリ固定シーブ45とセカンダリ可動シーブ46との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、ベルト変速比が小さくなる。
【0040】
ベルト変速比が大きくされるときには、プライマリプーリ33の油圧室44に供給される油圧が下げられる。これにより、ベルト35に対するセカンダリプーリ34の推力がベルト35に対するプライマリプーリ33の推力よりも大きくなり、セカンダリプーリ34のセカンダリ固定シーブ45とセカンダリ可動シーブ46との間隔が小さくなるとともに、プライマリ固定シーブ41とプライマリ可動シーブ42との間隔が大きくなる。その結果、ベルト変速比が大きくなる。
【0041】
なお、図示されていないが、セカンダリプーリ34の油圧室48には、バイアススプリングが設けられている。バイアススプリングは、一端がセカンダリ可動シーブ46に弾性的に当接し、他端がピストン47に弾性的に当接している。バイアススプリングの弾性力により、セカンダリ可動シーブ46およびピストン47が互いに離間する方向に付勢されている。セカンダリ可動シーブ46には、油圧室48内の油圧およびバイアススプリングによる付勢力が付与され、ベルト35には、それに応じた挟圧が付与される。
【0042】
プライマリ軸31の前側の端部には、プライマリ入力ギヤ51が相対回転可能に支持されている。
【0043】
プライマリ入力ギヤ51とその後側に配置されるプライマリプーリ33との間に、前進クラッチ52が設けられている。前進クラッチ52は、油圧式の摩擦クラッチであり、油圧により係合し、プライマリ軸31に対するプライマリ入力ギヤ51の回転を禁止する。したがって、前進クラッチ52の係合状態では、プライマリ入力ギヤ51が回転すると、プライマリ軸31がプライマリ入力ギヤ51と一体に回転する。この係合状態の前進クラッチ52から油圧が開放されると、前進クラッチ52が解放される。前進クラッチ52の解放により、プライマリ軸31に対するプライマリ入力ギヤ51の回転が許容され、プライマリ入力ギヤ51が回転しても、その回転がプライマリ軸31に伝達されない。
【0044】
セカンダリ軸32の前側の端部には、セカンダリ入力ギヤ53が相対回転可能に支持されている。
【0045】
セカンダリ入力ギヤ53とその後側に配置されるセカンダリプーリ34との間には、後進クラッチ54が設けられている。後進クラッチ54は、油圧式の摩擦クラッチであり、油圧により係合し、セカンダリ軸32に対するセカンダリ入力ギヤ53の回転を禁止する。したがって、セカンダリ入力ギヤ53が回転すると、セカンダリ軸32がセカンダリ入力ギヤ53と一体に回転する。この係合状態の後進クラッチ54から油圧が開放されると、後進クラッチ54が解放される。後進クラッチ54の解放により、セカンダリ軸32に対するセカンダリ入力ギヤ53の回転が許容され、セカンダリ入力ギヤ53が回転しても、その回転がセカンダリ軸32に伝達されない。
【0046】
リバース伝達機構23は、入力軸21の動力(回転)を無段変速機構22を経由せずにセカンダリ軸32に伝達する機構である。リバース伝達機構23は、リバースアイドラ軸55、第1リバースギヤ56および第2リバースギヤ57を含む。
【0047】
リバースアイドラ軸55は、入力軸21と平行をなす前後方向に延びている。
【0048】
第1リバースギヤ56は、リバースアイドラ軸55と一体に形成されるか、または、リバースアイドラ軸55と別体に形成されて、リバースアイドラ軸55に相対回転不能に支持されている。
【0049】
出力軸24は、入力軸21に対して後側に間隔を空けて、入力軸21と同一軸線上に配置されている。出力軸24には、出力軸ギヤ58が一体に形成されるか、または、出力軸24と別体に形成された出力軸ギヤ58が相対回転不能に支持されている。これに対応して、セカンダリ軸32には、セカンダリプーリ34のピストン47の後側に隣接して、セカンダリ出力ギヤ59がスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。出力軸ギヤ58とセカンダリ出力ギヤ59とは、噛合している。
【0050】
車両1の前進走行時には、前進クラッチ52が係合されて、後進クラッチ54が解放される。エンジン2からトルクコンバータ8を介して入力軸21に入力される動力は、前進クラッチ52の係合により、入力軸ギヤ25からプライマリ入力ギヤ51を介してプライマリ軸31に伝達される。一方、入力軸21に入力される動力が入力軸ギヤ25からセカンダリ入力ギヤ53に伝達されて、セカンダリ入力ギヤ53が回転しても、後進クラッチ54の解放により、セカンダリ入力ギヤ53がセカンダリ軸32に対して空転し、セカンダリ軸32に動力が伝達されない。
【0051】
プライマリ軸31に伝達される動力は、プライマリプーリ33とセカンダリプーリ34とのプーリ比に応じたベルト変速比で変速されて、セカンダリ軸32に伝達される。そして、セカンダリ軸32に伝達される動力は、セカンダリ出力ギヤ59から出力軸ギヤ58を介して出力軸24に伝達され、出力軸24からプロペラシャフト5に伝達される。
【0052】
車両1の後進走行時には、前進クラッチ52が解放されて、後進クラッチ54が係合される。エンジン2からトルクコンバータ8を介して入力軸21に入力される動力は、後進クラッチ54の係合により、入力軸ギヤ25からリバース伝達機構23およびセカンダリ入力ギヤ53を介してセカンダリ軸32に伝達される。このとき、セカンダリ軸32は、車両1の前進時と逆方向に回転する。一方、入力軸21に入力される動力が入力軸ギヤ25からプライマリ入力ギヤ51に伝達されて、プライマリ入力ギヤ51が回転しても、前進クラッチ52の解放により、プライマリ入力ギヤ51がプライマリ軸31に対して空転し、プライマリ軸31に動力が伝達されない。
【0053】
セカンダリ軸32に伝達される動力は、セカンダリ出力ギヤ59から出力軸ギヤ58を介して出力軸24に伝達され、出力軸24からプロペラシャフト5に伝達される。
【0054】
<油圧回路>
図2A,2B,2C,2Dは、本発明の一実施形態に係る油圧回路101の構成を示す回路図である。
【0055】
油圧回路101は、前進クラッチ52および後進クラッチ54に油圧を供給するための回路であり、変速ユニット4の油圧回路にその一部として組み込まれている。
【0056】
油圧回路101には、クラッチモジュレータバルブ102、リニアソレノイドバルブ103、シフトバルブ104、オン/オフバルブ105およびマニュアルバルブ106が含まれる。
【0057】
クラッチモジュレータバルブ102は、オイルポンプ(図示せず)の発生油圧を調圧して得られる元圧であるライン圧(PL圧)を所定のクラッチモジュレータ圧(Pc圧)に調圧して出力するバルブである。クラッチモジュレータバルブ102は、略円筒状のスリーブ111を備えている。スリーブ111内には、スプール112およびスプリング113が設けられている。
【0058】
スリーブ111は、内径が互いに異なる第1内径部114、第2内径部115および第3内径部116を有している。第1内径部114、第2内径部115および第3内径部116は、スリーブ111の中心線方向の一方側からこの順に形成されている。第1内径部114の内径は、第2内径部115の内径および第3内径部116の内径よりも小さく、第2内径部115の内径は、第3内径部116の内径よりも小さい。
【0059】
スプール112は、スリーブ111の中心線方向に移動可能に設けられ、スプリング113により、中心線方向の一方側に弾性的に押圧されている。
【0060】
スプール112には、第1ランド部117、第2ランド部118および第3ランド部119が中心線方向の一方側からこの順に、互いに間隔を空けて設けられている。第1ランド部117は、スリーブ111の第1内径部114の内径に応じた外径を有する略円柱状に形成されている。第2ランド部118は、スリーブ111の第2内径部115の内径に応じた外径を有する略円柱状に形成されている。第3ランド部119は、スリーブ111の第3内径部116の内径に応じた外径を有する略円柱状に形成されている。スプール112の可動範囲では、スプール112の位置にかかわらず、第1ランド部117、第2ランド部118および第3ランド部119は、それらの少なくとも一部がそれぞれスリーブ111の第1内径部114、第2内径部115および第3内径部116とほぼ隙間のない状態で対向する。
【0061】
スリーブ111には、入力ポート121、出力ポート122、第1フィードバックポート123、第2フィードバックポート124および第3フィードバックポート125が形成されている。
【0062】
クラッチモジュレータバルブ102の各部の設計により、入力ポート121は、第3内径部116に設けられ、スプール112の移動に伴ってスプール112の第3ランド部119によって閉鎖される面積が変化する。また、出力ポート122は、第3内径部116に設けられ、スプール112の位置にかかわらず、第3ランド部119に閉鎖されない(開口面積が変化しないように)。第1フィードバックポート123は、第1内径部114に設けられ、スプール112の位置にかかわらず、第1ランド部117とスリーブ111の中心線方向の一方側の端面との間と連通する。第2フィードバックポート124は、第1内径部114と第2内径部115とに跨がる位置に設けられ、スプール112の位置にかかわらず、第1ランド部117と第2ランド部118との間と連通する。第3フィードバックポート125は、第2内径部115と第3内径部116とに跨がる位置に設けられ、スプール112の位置にかかわらず、第2ランド部18と第3ランド部119との間と連通する。
【0063】
リニアソレノイドバルブ103は、非通電時に全閉となるノーマルクローズタイプのリニアソレノイドバルブである。リニアソレノイドバルブ103の入力ポート131には、クラッチモジュレータバルブ102から出力されるクラッチモジュレータ圧が入力される。リニアソレノイドバルブ103(電磁コイル)への通電が制御されることにより、入力ポート131に入力されるクラッチモジュレータ圧がリニアソレノイド圧に調圧されて、そのリニアソレノイド圧が出力ポート132から出力される。
【0064】
シフトバルブ104は、クラッチモジュレータバルブ102から出力されるクラッチモジュレータ圧とリニアソレノイドバルブ103から出力されるリニアソレノイド圧とを選択的に出力するバルブである。シフトバルブ104は、略円筒状のスリーブ141を備えている。スリーブ141内には、スプール142およびスプリング143が設けられている。
【0065】
スプール142は、スリーブ141の中心線方向に制御位置とフェイル位置との間で移動可能に設けられ、スプリング143により、中心線方向の一方側、つまり制御位置側に弾性的に押圧されている。スプール142には、第1ランド部144、第2ランド部145および第3ランド部146が中心線方向の一方側からこの順に、互いに間隔を空けて設けられている。第1ランド部144、第2ランド部145および第3ランド部146は、スリーブ141の内径に応じた同一の外径を有する略円柱状に形成されている。
【0066】
スリーブ141には、第1入力ポート151、第2入力ポート152、第3入力ポート153、第4入力ポート154、第1出力ポート155および第2出力ポート156が形成されている。
【0067】
シフトバルブ104の各部の設計により、第1入力ポート151は、スプール142の位置にかかわらず、スリーブ141の中心線方向の一方側の端面と第1ランド部144との間と連通する。第2入力ポート152は、スプール142が制御位置に位置するときに、第1ランド部144と第2ランド部145との間と連通し、スプール142がフェイル位置に位置するときに、第1ランド部144により閉鎖される。第3入力ポート153は、スプール142が制御位置に位置するときに、第2ランド部145と第3ランド部146との間と連通し、スプール142がフェイル位置に位置するときに、第1ランド部144と第2ランド部145との間と連通する。第4入力ポート154は、スプール142の位置にかかわらず、第3ランド部146とスリーブ141の中心線方向の他方側の端面との間と連通する。第1出力ポート155は、スプール142の位置にかかわらず、第1ランド部144と第2ランド部145との間と連通する。第2出力ポート156は、スプール142の位置にかかわらず、第2ランド部145と第3ランド部146との間と連通する。
【0068】
オン/オフバルブ105は、ノーマルクローズタイプのオン/オフソレノイドバルブであり、通電によりオン状態(出力状態)になり、非通電によりオフ状態(出力停止状態)になる。オン/オフバルブ105の入力ポート161には、クラッチモジュレータバルブ102から出力されるクラッチモジュレータ圧が入力される。オン/オフバルブ105がオン状態では、出力ポート162からクラッチモジュレータ圧が出力され、そのクラッチモジュレータ圧がシフトバルブ104の第4入力ポート154に入力される。
【0069】
マニュアルバルブ106は、車室内に配設されたシフトレバーの手動操作に伴って変位するスプール171を備え、入力ポート172に入力される油圧をシフトレバーの位置に対応した前進出力ポート173または後進出力ポート174から出力するバルブである。
【0070】
具体的には、CVT9は、たとえば、P(パーキング)レンジ、R(リバース)レンジ、N(ニュートラル)レンジおよびD(ドライブ)レンジを含む変速レンジを有している。変速レンジの切り替えを指示するため、車両1の車室内には、シフトレバー(セレクトレバー)が配設されている。シフトレバーの可動域には、変速レンジに対応して、Pポジション、Rポジション、NポジションおよびDポジションが設定されている。
【0071】
マニュアルバルブ106の入力ポート172には、シフトバルブ104の第1出力ポート155から出力される油圧(クラッチモジュレータ圧またはリニアソレノイド圧)が入力される。シフトレバーがDポジションに位置する状態では、入力ポート172に入力される油圧が前進出力ポート173から出力される。また、シフトレバーがRポジションに位置する状態では、入力ポート172に入力される油圧が後進出力ポート174から出力される。
【0072】
前進出力ポート173には、前進クラッチ油路175の一端が接続されている。前進クラッチ油路175の他端は、前進クラッチ52に接続されている。これにより、前進出力ポート173から出力される油圧は、前進クラッチ油路175を通して、前進クラッチ52に供給される。また、前進クラッチ油路175の途中には、分岐油路176の一端が分岐して接続されている。分岐油路176の他端は、クラッチモジュレータバルブ102の第2フィードバックポート124に接続されている。そのため、前進出力ポート173から出力される油圧は、前進クラッチ油路175から分岐油路176を通してクラッチモジュレータバルブ102の第2フィードバックポート124にも入力される。
【0073】
後進出力ポート174には、後進クラッチ油路177の一端が接続されている。後進クラッチ油路177の他端は、後進クラッチ54に接続されている。これにより、後進出力ポート174から出力される油圧は、後進クラッチ油路177を通して、後進クラッチ54に供給される。
【0074】
<回路動作>
図3は、ライン圧(PL圧)とクラッチモジュレータ圧P1,P2,P3,P4との関係を示す図である。図4は、変速レンジ、走行状態、リニアソレノイドバルブ103の状態、オン/オフバルブ105の状態、係合クラッチおよびシフトバルブ104の出力圧の状態を一覧で示す図である。
【0075】
なお、図2A~2Dおよび図4の各図では、前進クラッチ52が「C1」と記され、後進クラッチ54が「C2」と記されている。
【0076】
車両1には、各部を制御するため、マイコンを含む構成の複数のECUが搭載されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。複数のECUのうちの1つにより、変速レンジおよび走行状態に応じて、油圧回路101の動作が制御される。
【0077】
車両1では、CVT9の入力軸21に入力される入力トルクが所定未満の低トルク状態である場合、ECUにより、クラッチヒューズ制御が実行される。入力トルクが所定以上の高トルク状態である場合には、クラッチヒューズ制御は実行されない。クラッチヒューズ制御は、路面から駆動輪7L,7Rに過大なトルクが入力された場合に、無段変速機構22のベルト35よりも先に前進クラッチ52または後進クラッチ54が滑るようにする制御である。具体的には、クラッチヒューズ制御では、ベルト35の伝達トルク容量よりも前進クラッチ52または後進クラッチ54の伝達トルク容量が小さくなるように、前進クラッチ52または後進クラッチ54に供給される油圧(係合圧)、つまりリニアソレノイドバルブ103が出力するリニアソレノイド圧が調圧される。
【0078】
入力トルクが高トルク状態であるときには、リニアソレノイドバルブ103およびオン/オフバルブ105への通電が遮断されて、リニアソレノイドバルブ103からのリニアソレノイド圧およびオン/オフバルブ105からのクラッチモジュレータ圧の出力が停止される。
【0079】
このとき、図2Aおよび図2Bにグレー太線で示されるように、クラッチモジュレータバルブ102の出力ポート122から出力されるクラッチモジュレータ圧がシフトバルブ104の第1入力ポート151および第3入力ポート153に入力される。第1入力ポート151に入力されるクラッチモジュレータ圧により、シフトバルブ104のスプール142がスプリング143の弾性力に抗してフェイル位置(高トルク、フェイル)に位置する。この状態では、第3入力ポート153がスプール142の第1ランド部144と第2ランド部145との間を介して第1出力ポート155と連通する。そのため、第1入力ポート151に入力されるクラッチモジュレータ圧は、第1出力ポート155から出力されて、マニュアルバルブ106の入力ポート172に入力される。
【0080】
変速レンジがRレンジであるときには、シフトレバーがRポジションに位置しているので、図2Aに示されるように、マニュアルバルブ106の入力ポート172に入力されるクラッチモジュレータ圧が後進出力ポート174から後進クラッチ油路177に出力される。これにより、後進クラッチ油路177を通して後進クラッチ54にクラッチモジュレータ圧が供給され、後進クラッチ54がクラッチモジュレータ圧で係合する。
【0081】
また、クラッチモジュレータバルブ102の出力ポート122から出力されるクラッチモジュレータ圧は、クラッチモジュレータバルブ102の第1フィードバックポート123に入力される。そのため、クラッチモジュレータバルブ102のスプール112の第1ランド部117がクラッチモジュレータ圧とこのクラッチモジュレータ圧を受ける受圧面積との積による圧力を受け、その圧力がスプリング113の弾性力と釣り合う位置にスプール112が移動する。これにより、クラッチモジュレータバルブ102の入力ポート121における第3ランド部119によって閉鎖される面積が増え、ライン圧が一定のクラッチモジュレータ圧P1に減圧され、そのクラッチモジュレータ圧P1が出力ポート122から出力される。
【0082】
変速レンジがDレンジであるときには、シフトレバーがDポジションに位置しているので、図2Bに示されるように、マニュアルバルブ106の入力ポート172に入力されるクラッチモジュレータ圧が前進出力ポート173から前進クラッチ油路175に出力される。これにより、前進クラッチ油路175を通して前進クラッチ52にクラッチモジュレータ圧が供給され、前進クラッチ52がクラッチモジュレータ圧で係合する。
【0083】
また、クラッチモジュレータバルブ102の出力ポート122から出力されるクラッチモジュレータ圧は、クラッチモジュレータバルブ102の第1フィードバックポート123に入力される。そのため、クラッチモジュレータバルブ102のスプール112の第1ランド部117がクラッチモジュレータ圧とこのクラッチモジュレータ圧を受ける受圧面積との積による圧力を受ける。さらに、前進クラッチ油路175に出力されるクラッチモジュレータ圧が分岐油路176を通してクラッチモジュレータバルブ102の第3フィードバックポート125に入力される。そのため、クラッチモジュレータバルブ102では、スプール112の第2ランド部118および第3ランド部119が第3フィードバックポート125に入力されるクラッチモジュレータ圧を新たに受け、スプール112には、第2ランド部118と第3ランド部119との受圧面積の差にクラッチモジュレータ圧を乗じた値の圧力が作用する。その結果、クラッチモジュレータバルブ102の入力ポート121における第3ランド部119によって閉鎖される面積が増え、ライン圧がクラッチモジュレータ圧P1よりも低い一定のクラッチモジュレータ圧P2に減圧され、そのクラッチモジュレータ圧P2が出力ポート122から出力される。
【0084】
なお、油圧回路101に電源喪失のフェイルが発生した場合、リニアソレノイドバルブ103およびオン/オフバルブ105への通電が遮断されるので、油圧回路101の動作は、入力トルクが高トルク状態であるときの動作と同様になる。
【0085】
入力トルクが低トルク状態であるときには、リニアソレノイドバルブ103への通電が制御される。この通電の制御により、リニアソレノイドバルブ103の出力ポート132から可変に調圧されるリニアソレノイド圧が出力される。出力ポート132から出力されるリニアソレノイド圧は、シフトバルブ104の第2入力ポート152に入力される。また、オン/オフバルブ105に通電されて、オン/オフバルブ105がオン状態にされる。これにより、オン/オフバルブ105の出力ポート162からクラッチモジュレータ圧が出力され、その出力されたクラッチモジュレータ圧がシフトバルブ104の第4入力ポート154に入力される。
【0086】
このとき、図2Cおよび図2Dにグレー太線で示されるように、クラッチモジュレータバルブ102の出力ポート122から出力されるクラッチモジュレータ圧がシフトバルブ104の第1入力ポート151および第3入力ポート153に入力される。これにより、第1入力ポート151に入力されるクラッチモジュレータ圧と第4入力ポート154に入力されるクラッチモジュレータ圧とが互いに打ち消し合い、シフトバルブ104のスプール142は、スプリング143の弾性力により、制御位置(低トルク、係合過渡)に位置する。
【0087】
また、第2入力ポート152がスプール142の第1ランド部144と第2ランド部145との間を介して第1出力ポート155と連通する。そのため、第2入力ポート152に入力されるリニアソレノイド圧は、図2Cおよび図2Dにグレー中線で示されるように、第1出力ポート155から出力されて、マニュアルバルブ106の入力ポート172に入力される。
【0088】
変速レンジがRレンジであるときには、図2Cに示されるように、マニュアルバルブ106の入力ポート172に入力されるクラッチモジュレータ圧が後進出力ポート174から後進クラッチ油路177に出力される。これにより、後進クラッチ油路177を通して後進クラッチ54にリニアソレノイド圧が供給される。リニアソレノイドバルブ103への通電を制御して、リニアソレノイド圧を増減させることにより、後進クラッチ54の係合と解放とを切り替えることができ、また、後進クラッチ54を係合状態に保持することができる。
【0089】
また、クラッチモジュレータバルブ102の出力ポート122から出力されるクラッチモジュレータ圧は、クラッチモジュレータバルブ102の第1フィードバックポート123に入力される。そのため、クラッチモジュレータバルブ102のスプール112の第1ランド部117がクラッチモジュレータ圧とこのクラッチモジュレータ圧を受ける受圧面積との積による圧力を受ける。さらに、シフトバルブ104では、第3入力ポート153と第2出力ポート156とがスプール142の第2ランド部145と第3ランド部146との間を介して連通している。そのため、第3入力ポート153に入力されるクラッチモジュレータ圧が第2出力ポート156から出力される。第2出力ポート156から出力されるクラッチモジュレータ圧は、クラッチモジュレータバルブ102の第2フィードバックポート124に入力される。そのため、クラッチモジュレータバルブ102では、スプール112の第1ランド部117および第2ランド部118が第2フィードバックポート124に入力されるクラッチモジュレータ圧を受け、スプール112には、第1ランド部117と第2ランド部118との受圧面積の差にクラッチモジュレータ圧を乗じた値の圧力がさらに作用する。その結果、ライン圧がクラッチモジュレータ圧P1よりも低い一定のクラッチモジュレータ圧P3に減圧され、そのクラッチモジュレータ圧P3が出力ポート122から出力される。
【0090】
変速レンジがDレンジであるときには、図2Dに示されるように、マニュアルバルブ106の入力ポート172に入力されるクラッチモジュレータ圧が前進出力ポート173から前進クラッチ油路175に出力される。これにより、前進クラッチ油路175を通して前進クラッチ52にクラッチモジュレータ圧が供給される。リニアソレノイドバルブ103への通電を制御して、リニアソレノイド圧を増減させることにより、前進クラッチ52の係合と解放とを切り替えることができ、また、前進クラッチ52を係合状態に保持することができる。
【0091】
また、変速レンジがRレンジであるときと同様に、クラッチモジュレータバルブ102のスプール112の第1ランド部117が第1フィードバックポート123に入力されるクラッチモジュレータ圧による圧力を受け、第1ランド部117および第2ランド部118が第2フィードバックポート124に入力されるクラッチモジュレータ圧を受ける。さらに、前進クラッチ油路175に出力されるリニアソレノイド圧が分岐油路176を通してクラッチモジュレータバルブ102の第3フィードバックポート125に入力される。そのため、クラッチモジュレータバルブ102では、スプール112の第2ランド部118および第3ランド部119が第3フィードバックポート125に入力されるリニアソレノイド圧を受け、スプール112には、第2ランド部118と第3ランド部119との受圧面積の差にリニアソレノイド圧を乗じた値の圧力が作用する。その結果、ライン圧がクラッチモジュレータ圧P3よりも低い一定のクラッチモジュレータ圧P4に減圧され、そのクラッチモジュレータ圧P4が出力ポート122から出力される。
【0092】
<作用効果>
以上のように、クラッチモジュレータバルブ102には、ライン圧が入力され、クラッチモジュレータバルブ102は、そのライン圧をクラッチモジュレータ圧に調圧して出力する。リニアソレノイドバルブ103には、クラッチモジュレータバルブ102から出力されるクラッチモジュレータ圧が入力され、リニアソレノイドバルブ103は、そのクラッチモジュレータ圧をリニアソレノイド圧に調圧して出力する。オン/オフバルブ105には、クラッチモジュレータバルブ102から出力されるクラッチモジュレータ圧が入力される。
【0093】
オン/オフバルブ105のオン状態では、オン/オフバルブ105からクラッチモジュレータ圧が出力され、そのクラッチモジュレータ圧がシフトバルブ104に入力されて、シフトバルブ104のスプール142が制御位置に位置する。そして、この状態では、リニアソレノイドバルブ103から出力されるリニアソレノイド圧がシフトバルブ104の第2入力ポート152に入力され、そのリニアソレノイド圧がシフトバルブ104から出力されて前進クラッチ52または後進クラッチ54に供給される。
【0094】
リニアソレノイド圧は、リニアソレノイドバルブ103の通電を制御することにより増減可能である。リニアソレノイド圧の増減により前進クラッチ52または後進クラッチ54の伝達トルク容量を増減させることができる。よって、油圧回路101は、クラッチヒューズ制御を採用した車両1に搭載される変速ユニット4に好適に用いることができる。
【0095】
一方、オン/オフバルブ105のオフ状態では、オン/オフバルブ105からのクラッチモジュレータ圧の出力が停止されるので、オン/オフバルブ105からシフトバルブ104へのクラッチモジュレータ圧の入力がない。そのため、スプール142がフェイル位置に位置する。この状態では、クラッチモジュレータバルブ102から出力されるクラッチモジュレータ圧がクラッチモジュレータ圧入力ポートに入力され、そのクラッチモジュレータ圧が前進クラッチ52または後進クラッチ54に供給される。
【0096】
電源喪失のフェイルが発生した場合、オン/オフバルブ105がオフ状態になるので、シフトバルブ104から前進クラッチ52または後進クラッチ54にクラッチモジュレータ圧が供給される。これにより、前進クラッチ52または後進クラッチ54が係合する。よって、電源喪失のフェイルの発生時に、前進クラッチ52または後進クラッチ54が係合状態になるので、変速ユニット4から車両1の走行のための動力を出力させることができ、車両1の走行を確保することができる。
【0097】
クラッチモジュレータバルブ102は、前進クラッチ52または後進クラッチ54に供給されるリニアソレノイド圧が入力される第2フィードバックポート124を有しており、クラッチモジュレータバルブ102では、第2フィードバックポート124に入力されるリニアソレノイド圧に応じてクラッチモジュレータ圧が低減する。
【0098】
これにより、リニアソレノイドバルブ103に入力されるクラッチモジュレータ圧が低減するので、そのクラッチモジュレータ圧とリニアソレノイドバルブ103から出力されるリニアソレノイド圧との差圧を低減でき、リニアソレノイドバルブ103のオーバライド特性を向上できる。
【0099】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0100】
たとえば、前述の実施形態に係る油圧回路101では、ノーマルクローズタイプのオン/オフバルブ105が用いられて、オン/オフバルブ105がオンの状態で、オン/オフバルブ105の出力ポート162からクラッチモジュレータ圧が出力され、そのクラッチモジュレータ圧がシフトバルブ104の第4入力ポート154に入力されるとした。この油圧回路101の構成に限らず、図5に示される油圧回路201の構成が採用されてもよい。
【0101】
油圧回路101では、ノーマルクローズタイプのオン/オフバルブ105が用いられているのに対し、油圧回路101では、そのノーマルクローズタイプのオン/オフバルブ105に代えて、ノーマルオープンタイプのオン/オフバルブ202が用いられている。ノーマルオープンタイプのオン/オフバルブ202は、通電によりオフ状態(出力停止状態)になり、非通電によりオン状態(出力状態)になる。オン/オフバルブ202の入力ポート203には、クラッチモジュレータバルブ102から出力されるクラッチモジュレータ圧が入力される。オン/オフバルブ202がオン状態では、出力ポート204からクラッチモジュレータ圧が出力され、そのクラッチモジュレータ圧がシフトバルブ104の第1入力ポート151に入力される。
【0102】
入力トルクが高トルク状態であるとき、また、フェイル状態であるときには、オン/オフバルブ105への通電が遮断される。このとき、オン/オフバルブ105の出力ポート204からクラッチモジュレータ圧が出力され、そのクラッチモジュレータ圧がシフトバルブ104の第1入力ポート151に入力される。第1入力ポート151に入力されるクラッチモジュレータ圧により、シフトバルブ104のスプール142がスプリング143の弾性力に抗してフェイル位置(高トルク、フェイル)に位置する。
【0103】
入力トルクが低トルク状態であるときには、オン/オフバルブ105に通電されて、オン/オフバルブ105がオン状態にされる。これにより、オン/オフバルブ105の出力ポート162からのクラッチモジュレータ圧の出力が停止するので、シフトバルブ104のスプール142は、スプリング143の弾性力により、制御位置(低トルク、係合過渡)に位置する。
【0104】
よって、油圧回路201の構成によっても、油圧回路101の構成の場合と同様の作用効果を奏することができる。しかも、油圧回路201の構成では、シフトバルブ104の第4入力ポート154をドレンポートとして、油圧を入力しなくてよいので、油圧回路101よりも構成が簡素ですむ。
【0105】
また、前述の実施形態では、CVT9が縦置きされるとしたが、油圧回路101は、入力軸が車両1の左右方向に延びるように横置きされる変速機を含む変速ユニットに適用することもできる。
【0106】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0107】
4:変速ユニット(変速機)
9:CVT(変速機)
52:前進クラッチ(係合要素)
54:後進クラッチ(係合要素)
101:油圧回路
102:クラッチモジュレータバルブ(モジュレータバルブ)
103:リニアソレノイドバルブ(ソレノイドバルブ)
104:シフトバルブ
105:オン/オフバルブ
124:第2フィードバックポート(フィードバックポート)
142:スプール
151:第1入力ポート(モジュレータ圧入力ポート)
152:第2入力ポート(係合圧入力ポート)
153:第3入力ポート(モジュレータ圧入力ポート)
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5