(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 57/021 20120101AFI20231211BHJP
【FI】
F16H57/021
(21)【出願番号】P 2020015805
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】米本 真也
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-062959(JP,A)
【文献】特開2013-113304(JP,A)
【文献】実開昭53-150379(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/021
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される変速機であって、
駆動源からの動力が入力される入力軸と、
前記入力軸と平行に延びる第1軸と、
前記第1軸に保持され、前記入力軸から動力が入力される第1ギヤと、
前記第1ギヤに対して前記第1軸の軸線方向の一方側に設けられ、前記第1軸を受ける第1軸受と、
前記第1軸に支持された第1プーリと、
前記入力軸と平行に延び、前記入力軸から動力が入力されるリバースアイドラ軸と、
前記入力軸と平行に延びる第2軸と、
前記第2軸に保持され、前記リバースアイドラ軸から動力が入力される第2ギヤと、
前記第2ギヤに対して前記一方側に設けられ、前記第2軸を受ける第2軸受と、
前記第2ギヤに対して前記軸線方向の他方側に設けられ、前記第2軸を受ける第3軸受と、
前記第3軸受に対して前記他方側に設けられ、前記第2軸に支持され、前記第1軸の動力が前記第1プーリを介して伝達される第2プーリと、
前記第3軸受に対して前記他方側に設けられ、前記第2軸に保持され、前記第2軸の動力を前記車両の駆動輪に向けて出力する第3ギヤと、
係合/解放により前記第1軸に対する前記第1ギヤの回転を禁止/許容する第1クラッチと、
係合/解放により前記第2軸に対する前記第2ギヤの回転を禁止/許容する第2クラッチと、を含み、
前記第1クラッチは、前記車両の前進時に係合され、前記車両の後進時に解放され、
前記第2クラッチは、前記車両の後進時に係合され、前記車両の前進時に解放され、
前記第1軸受には、玉軸受が用いられ、
前記第2軸受には、前記第1軸受よりも小さい定格荷重を有する玉軸受が用いられている、変速機。
【請求項2】
前記第1軸の外周と前記第1ギヤの内周との間に介在される第1ラジアルベアリングと、
前記第1ギヤと前記第1軸受との間に介在されて、前記第1ギヤおよび前記第1軸受のインナレースと当接する第1スラストベアリングと、
前記第2軸の外周と前記第2ギヤの内周との間に介在される第2ラジアルベアリングと、
前記第2軸に外嵌されて、前記第2ギヤと前記第2軸受との間に設けられ、前記第2軸受に当接する環状部材と、
前記第2ギヤと前記環状部材との間に介在されて、前記第2ギヤおよび前記環状部材と当接する第2スラストベアリングと、をさらに含む、請求項1に記載の変速機。
【請求項3】
前記第2スラストベアリングの外周端は、前記第2軸受のアウタレースの内周端よりも前記第2軸の軸径方向の外側に位置し、
前記環状部材の外周端部の前記第2軸受側は、前記第2軸受の前記アウタレースとの接触を避けるように切り欠かれている、請求項2に記載の変速機。
【請求項4】
車両に搭載される変速機であって、
駆動源からの動力が入力される入力軸と、
前記入力軸と平行に延びる第1軸と、
前記第1軸に保持され、前記入力軸から動力が入力される第1ギヤと、
前記第1ギヤに対して前記第1軸の軸線方向の一方側に設けられ、前記第1軸を受ける第1軸受と、
前記第1軸に支持された第1プーリと、
前記入力軸と平行に延び、前記入力軸から動力が入力されるリバースアイドラ軸と、
前記入力軸と平行に延びる第2軸と、
前記第2軸に保持され、前記リバースアイドラ軸から動力が入力される第2ギヤと、
前記第2ギヤに対して前記一方側に設けられ、前記第2軸を受ける第2軸受と、
前記第2ギヤに対して前記軸線方向の他方側に設けられ、前記第2軸を受ける第3軸受と、
前記第3軸受に対して前記他方側に設けられ、前記第2軸に支持され、前記第1軸の動力が前記第1プーリを介して伝達される第2プーリと、
前記第3軸受に対して前記他方側に設けられ、前記第2軸に保持され、前記第2軸の動力を前記車両の駆動輪に向けて出力する第3ギヤと、
前記第1軸の外周と前記第1ギヤの内周との間に介在される第1ラジアルベアリングと、
前記第1ギヤと前記第1軸受との間に介在されて、前記第1ギヤおよび前記第1軸受のインナレースと当接する第1スラストベアリングと、
前記第2軸の外周と前記第2ギヤの内周との間に介在される第2ラジアルベアリングと、
前記第2軸に外嵌されて、前記第2ギヤと前記第2軸受との間に設けられ、前記第2軸受に当接する環状部材と、
前記第2ギヤと前記環状部材との間に介在されて、前記第2ギヤおよび前記環状部材と当接する第2スラストベアリングと、を含み、
前記第1軸受には、玉軸受が用いられ、
前記第2軸受には、前記第1軸受よりも小さい定格荷重を有する玉軸受が用いられ、
前記第2スラストベアリングの外周端は、前記第2軸受のアウタレースの内周端よりも前記第2軸の軸径方向の外側に位置し、
前記環状部材の外周端部の前記第2軸受側は、前記第2軸受の前記アウタレースとの接触を避けるように切り欠かれている、変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、変速機を搭載した車両では、エンジンの動力がトルクコンバータを介して変速機に入力され、変速機で変速された動力がデファレンシャルギヤ(差動装置)などを介して駆動輪に伝達される。変速機としては、無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)や有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)が広く知られている。
【0003】
ベルト式の無段変速機では、エンジンからの動力が入力されるインプット軸が無段変速機構のプライマリ軸に動力を伝達可能に接続されており、インプット軸に入力される動力は、インプット軸からプライマリ軸に伝達される。無段変速機構では、セカンダリ軸がプライマリ軸と間隔を空けて平行に配置されて、プライマリ軸に支持されるプライマリプーリとセカンダリ軸に支持されるセカンダリプーリとの間に無端状のベルトが巻き掛けられている。これにより、インプット軸からプライマリ軸に伝達される動力は、プライマリプーリからベルトに伝達され、ベルトからセカンダリプーリに伝達される。そして、セカンダリプーリに伝達される動力がセカンダリ軸を介してアウトプット軸に伝達され、アウトプット軸からデファレンシャルギヤを介して左右の駆動輪に動力が伝達される。
【0004】
また、無段変速機には、車両の前後進を切り替えるための前後進切替機構が含まれる。前後進切替機構の方式としては、インプット軸とプライマリ軸との間に遊星歯車機構を介在させる遊星歯車式や、インプット軸と平行にリバースアイドラ軸を設ける平行軸ギヤ式が知られている。遊星歯車式では、遊星歯車機構の状態により、アウトプット軸に伝達される動力の方向が切り替えられ、平行軸ギヤ式では、リバースアイドラ軸を経由させずに動力を伝達するか経由させて伝達するかにより、アウトプット軸に伝達される動力の方向が切り替えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無段変速機では、平行軸ギヤ式の前後進切替機構を採用することにより、インプット軸とプライマリ軸とを軸線方向にオーバラップさせて配置して、全長の短縮を図ることができる。しかし、その構成では、遊星歯車式の前後進切替機構を採用した構成と比較して、リバースアイドラ軸が追加となる分、軸や軸周りの構成に工夫を凝らさないとコストが高くついてしまう。
【0007】
本発明の目的は、平行軸ギヤ式の前後進切替機構を採用した構成において、コストの低減を図ることができる、変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係る変速機は、車両に搭載される変速機であって、駆動源からの動力が入力される入力軸と、入力軸と平行に延びる第1軸と、第1軸に保持され、入力軸から動力が入力される第1ギヤと、第1ギヤに対して第1軸の軸線方向の一方側に設けられ、第1軸を受ける第1軸受と、入力軸と平行に延び、入力軸から動力が入力されるリバースアイドラ軸と、入力軸と平行に延びる第2軸と、第2軸に保持され、リバースアイドラ軸から動力が入力される第2ギヤと、第2ギヤに対して一方側に設けられ、第2軸を受ける第2軸受と、を含み、第1軸受には、玉軸受が用いられ、第2軸受には、第1軸受よりも小さい定格荷重を有する玉軸受が用いられている。
【0009】
この構成によれば、入力軸と平行に延びる第1軸には、第1ギヤが設けられている。第1ギヤには、入力軸からの動力が入力される。また、入力軸と平行に延びる第2軸には、第2ギヤが設けられている。入力軸と平行に、リバースアイドラ軸が設けられており、第2ギヤには、入力軸からの動力がリバースアイドラ軸を介して入力される。そのため、第1軸および第2軸は、それぞれ第1ギヤおよび第2ギヤに入力される入力軸からの動力により互いに逆方向に回転する。したがって、入力軸から第1ギヤを介して第1軸に動力を伝達するか、入力軸から第2ギヤを介して第2軸に動力を伝達するかを切り替えることにより、車両の前進および後進を切り替えることができる。
【0010】
第1軸には、その軸線方向の一方側から第1軸受および第1ギヤがこの順に設けられ、第2軸には、その軸線方向の一方側から第2軸受および第2ギヤがこの順に設けられることにより、第1軸と第2軸とにおいて、軸受とギヤとの並び順が同じになっている。そのため、少なくとも第1軸における第1軸受および第1ギヤが設けられる部分と第2軸における第2軸受および第2ギヤが設けられる部分とで構成を共通にすることができ、ひいては、第1軸と第2軸との構成を共通化して、第1軸および第2軸に同一部品を用いることができる。その結果、変速機を構成する部品の種類の数を削減でき、変速機の製造コストを低減することができる。
【0011】
第1軸受および第2軸受には、玉軸受が用いられている。車両の前進時に入力軸から第1軸に動力が伝達され、車両の後進時に入力軸からリバースアイドラ軸を介して第2軸に動力が伝達される場合、入力軸から第1軸に動力が伝達される頻度が入力軸から第2軸に動力が伝達される頻度よりもはるかに多く、第2軸よりも第1軸に負荷が多くかかる。そのため、第1軸受には相対的に大きい定格荷重を有する玉軸受が用いられることにより、第1軸を第1軸受で安定して受けることができる。一方、第2軸受には相対的に小さい定格荷重を有する玉軸受が用いられることにより、第2軸を第2軸受で安定して受けつつ、第2軸受のコストおよび質量を低く抑えることができる。
【0012】
よって、平行軸ギヤ式の前後進切替機構を採用した構成において、コストの低減を図ることができる。
【0013】
変速機は、第1軸の外周と第1ギヤの内周との間に介在される第1ラジアルベアリングと、第1ギヤと第1軸受との間に介在されて、第1ギヤおよび第1軸受のインナレースと当接する第1スラストベアリングと、第2軸の外周と第2ギヤの内周との間に介在される第2ラジアルベアリングと、第2軸に外嵌されて、第2ギヤと第2軸受との間に設けられ、第2軸受のインナレースに当接する環状部材と、第2ギヤと環状部材との間に介在されて、第2ギヤおよび環状部材と当接する第2スラストベアリングとをさらに含む構成であってもよい。
【0014】
第1軸の外周と第1ギヤの内周との間に第1ラジアルベアリングが介在されることにより、第1軸の外周と第1ギヤの内周との間における摺動抵抗を低減することができる。第1ギヤと第1軸受との間に第1スラストベアリングが介在されて、その第1スラストベアリングに第1ギヤおよび第1軸受のインナレースが当接されることにより、第1ギヤと第1軸受のインナレースとの間における摺動抵抗を低減することができる。
【0015】
第1軸と第2軸との構成を共通化した場合、第1軸受に定格荷重が相対的に大きい玉軸受を用い、第2軸受に定格荷重が相対的に小さい玉軸受を用いることにより、第2軸受と軸線方向に隣接する部分に隙間(空間)が生じる。第2ギヤと第2軸受との間に環状部材が設けられることにより、その隙間を環状部材で埋めることができる。
【0016】
そして、第2軸の外周と第2ギヤの内周との間に第2ラジアルベアリングが介在されることにより、第2軸の外周と第2ギヤの内周との間における摺動抵抗を低減することができる。第2ギヤと環状部材との間に第2スラストベアリングが介在されて、その第2スラストベアリングに第2ギヤおよび環状部材が当接され、環状部材に第2軸受が当接されることにより、第2ギヤと第2軸受との間における摺動抵抗を抵抗することができる。
【0017】
第2スラストベアリングの外周端が第2軸受のアウタレースの内周端よりも第2軸の軸径方向の外側に位置する構成では、環状部材の外周端部の第2軸受側が第2軸受のアウタレースとの接触を避けるように切り欠かれていることが好ましい。
【0018】
これにより、第2軸の回転時に環状部材が第2軸受のアウタレースに摺擦することを防止でき、環状部材と第2軸受のアウタレースとの間での摺動抵抗の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、平行軸ギヤ式の前後進切替機構を採用した構成において、コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る変速ユニットの構成を示す断面図である。
【
図2】CVTの構成を図解的に示すスケルトン図である。
【
図3】プライマリ軸の前端部を
図1よりも拡大して示す断面図である。
【
図4】セカンダリ軸の前端部を
図1よりも拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
<変速ユニット>
図1は、本発明の一実施形態に係る変速ユニット1の構成を示す断面図である。なお、
図1以降の断面図では、断面を表すハッチングの付与が省略されている。
【0023】
変速ユニット1は、車両に搭載されて、走行用の駆動源としてのエンジン2(E/G)2が発生する動力を変速するユニットである。車両は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)レイアウトを採用している。
【0024】
エンジン2は、たとえば、3気筒4ストロークエンジンであり、クランクシャフトが車体の前後方向に対して縦向きになる縦置きで搭載される。エンジン2の気筒数は、3気筒に限らず、4気筒以上であってもよいし、2気筒以下であってもよい。また、エンジン2のストローク数は、4ストロークに限らず、2ストロークであってもよい。
【0025】
変速ユニット1は、外殻をなすユニットケース3内に、トルクコンバータ4およびCVT(Continuously Variable Transmission:無段変速機)5を備えている。
【0026】
<ユニットケース>
ユニットケース3は、第1ケース11、第2ケース12および第3ケース13の3分割で構成されている。第1ケース11、第2ケース12および第3ケース13は、たとえば、アルミ合金製であり、ダイカスト法によって鋳造される。
【0027】
第1ケース11、第2ケース12および第3ケース13は、前側(エンジン2側)からこの順に並べられている。第1ケース11と第2ケース12とがボルトで締結され、第2ケース12と第3ケース13とがボルト17で締結されることにより、第1ケース11、第2ケース12および第3ケース13は、一体化されている。
【0028】
<トルクコンバータ>
トルクコンバータ4は、第1ケース11内に収容されている。トルクコンバータ4は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンハブ23、タービンランナ24、ロックアップ機構25およびステータ26を備えている。
【0029】
フロントカバー21は、車両(車体)の前後方向に延びる回転軸線を中心に略円板状に延び、その外周端部がエンジン2側と反対側(後述する無段変速機構42側)である後側に屈曲した形状をなしている。フロントカバー21の中心部は、前側に膨出している。この膨出した部分には、エンジン2のクランクシャフトが相対回転不能に結合される。
【0030】
ポンプインペラ22は、フロントカバー21の後側に配置されている。ポンプインペラ22の外周端部は、フロントカバー21の外周端部に接続され、回転軸線を中心にフロントカバー21と一体回転可能に設けられている。ポンプインペラ22の内面には、複数のブレード27が放射状に並べて配置されている。
【0031】
タービンハブ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されている。
【0032】
タービンランナ24は、タービンハブ23に固定されている。タービンランナ24のポンプインペラ22との対向面には、複数のブレード28が放射状に並べて配置されている。
【0033】
ロックアップ機構25は、ロックアップピストン31およびダンパ機構32を備えている。
【0034】
ロックアップピストン31は、略円環板状をなし、その内周端部がタービンハブ23に外嵌されて、フロントカバー21とタービンランナ24との間に位置している。ロックアップピストン31に対してタービンランナ24側の係合側油室33の油圧がフロントカバー21側の解放側油室34の油圧よりも高いと、その差圧により、ロックアップピストン31がフロントカバー21側に移動する。そして、ロックアップピストン31がフロントカバー21に押し付けられると、ポンプインペラ22とタービンランナ24とが直結(ロックアップオン)される。逆に、解放側油室34の油圧が係合側油室33の油圧よりも高いと、その差圧により、ロックアップピストン31がタービンランナ24側に移動する。ロックアップピストン31がフロントカバー21から離間した状態では、ポンプインペラ22とタービンランナ24との直結が解除(ロックアップオフ)される。
【0035】
ダンパ機構32は、ポンプインペラ22とタービンランナ24との直結時にエンジン2からの振動を減衰するための機構である。
【0036】
ステータ26は、ポンプインペラ22とタービンランナ24との間に配置されている。
【0037】
ロックアップオフの状態において、エンジントルクによりポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ24に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ24のブレード28で受けられて、タービンランナ24が回転する。このとき、トルクコンバータ4の増幅作用が生じ、タービンランナ24には、エンジントルクよりも大きなトルクが発生する。
【0038】
<CVT>
CVT5は、第2ケース12および第3ケース13内に収容されている。CVT5は、インプット軸41、無段変速機構42、アウトプット軸43およびリバース伝達機構44を備えている。変速ユニット1は、エンジン2の後側に、CVT5のインプット軸41が車両の前後方向に延びる縦向きとなる縦置きで、インプット軸41が後下がりに傾斜するように配置されている。
【0039】
インプット軸41は、中空軸に形成されて、トルクコンバータ4の回転軸線上を延びている。インプット軸41の前端部は、トルクコンバータ4内に挿入されて、タービンハブ23とスプライン嵌合している。
【0040】
なお、以下の説明において、インプット軸41の軸線(軸心)が延びる方向を「軸線方向」という。また、軸線方向と直交する方向、つまりインプット軸41の径方向を「軸径方向」という。
【0041】
インプット軸41の後端部は、第2ケース12内に配置された機械式のオイルポンプ45に回転可能に支持されている。具体的には、オイルポンプ45は、ポンプケース46と、ポンプケース46に後側から接合されるポンプカバー47と、ポンプケース46内のスペースに配置されるポンプギヤ48と、ポンプギヤ48に相対回転不能に結合されるポンプ軸49とを備えている。ポンプカバー47は、第2ケース12に固定され、ポンプケース46内のスペースを後側から閉鎖している。ポンプケース46の前端部には、前側に開放されて、後側に略円柱状に凹んだ軸受凹部51が形成されている。インプット軸41の後端部は、軸受凹部51内に挿入されて、インプット軸41の周面と軸受凹部51の内周面との間に介在されるボールベアリング52を介してポンプケース46に回転可能に支持されている。言い換えれば、インプット軸41の後端部にボールベアリング52が外嵌され、そのボールベアリング52が軸受凹部51に嵌入されることにより、インプット軸41の後端部は、ボールベアリング52を介してポンプケース46に回転可能に支持されている。
【0042】
ポンプ軸49は、ポンプケース46およびポンプカバー47を貫通して設けられている。ポンプ軸49は、ポンプケース46から前側に延び、インプット軸41にその内周面との間に隙間を空けて挿通されている。ポンプ軸49の前端部は、トルクコンバータ4のフロントカバー21に達し、そのフロントカバー21の中心部に相対回転不能に接続されている。これにより、エンジン2の動力によりフロントカバー21が回転すると、フロントカバー21と一体にポンプ軸49およびポンプギヤ48が回転し、オイルポンプ45から油圧が発生する。
【0043】
無段変速機構42は、プライマリ軸54、セカンダリ軸55、プライマリプーリ56、セカンダリプーリ57およびベルト58を備えている。
【0044】
プライマリ軸54およびセカンダリ軸55は、第1ケース11と第2ケース12との間において、インプット軸41と平行に延び、その軸心まわりに回転可能に設けられている。
【0045】
プライマリプーリ56は、プライマリ軸54に固定されたプライマリ固定シーブ61と、プライマリ固定シーブ61にベルト58を挟んで対向配置され、プライマリ軸54に軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されたプライマリ可動シーブ62とを備えている。プライマリ可動シーブ62は、プライマリ固定シーブ61に対して前側に配置されている。プライマリ可動シーブ62に対してプライマリ固定シーブ61側と反対側、つまり前側には、シリンダ63が設けられ、プライマリ可動シーブ62とシリンダ63との間には、油圧室(ピストン室)64が形成されている。
【0046】
セカンダリプーリ57は、セカンダリ軸55に固定されたセカンダリ固定シーブ65と、セカンダリ固定シーブ65にベルト58を挟んで対向配置され、セカンダリ軸55に軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されたセカンダリ可動シーブ66とを備えている。セカンダリ可動シーブ66は、セカンダリ固定シーブ65に対して後側に配置されている。セカンダリ可動シーブ66に対してセカンダリ固定シーブ65と反対側、つまり後側には、ピストン67が設けられ、セカンダリ可動シーブ66とピストン67との間には、油圧室68が形成されている。
【0047】
ベルト58は、無端状に形成され、プライマリ固定シーブ61とプライマリ可動シーブ62との間に挟まれた状態でプライマリプーリ56に巻き掛けられるとともに、セカンダリ固定シーブ65とセカンダリ可動シーブ66との間に挟まれた状態でセカンダリプーリ57に巻き掛けられている。
【0048】
無段変速機構42では、プライマリプーリ56およびセカンダリプーリ57の各油圧室64,68に供給される油圧が制御されて、プライマリプーリ56およびセカンダリプーリ57の各溝幅が変更されることにより、ベルト変速比(プライマリプーリ56とセカンダリプーリ57とのプーリ比)が一定の変速比範囲内で連続的に無段階で変更される。
【0049】
具体的には、ベルト変速比が小さくされるときには、プライマリプーリ56の油圧室64に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ56のプライマリ可動シーブ62がプライマリ固定シーブ61側に移動し、プライマリ固定シーブ61とプライマリ可動シーブ62との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ56に対するベルト58の巻き掛け径が大きくなり、セカンダリプーリ57のセカンダリ固定シーブ65とセカンダリ可動シーブ66との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、ベルト変速比が小さくなる。
【0050】
ベルト変速比が大きくされるときには、プライマリプーリ56の油圧室64に供給される油圧が下げられる。これにより、ベルト58に対するセカンダリプーリ57の推力がベルト58に対するプライマリプーリ56の推力よりも大きくなり、セカンダリプーリ57のセカンダリ固定シーブ65とセカンダリ可動シーブ66との間隔が小さくなるとともに、プライマリ固定シーブ61とプライマリ可動シーブ62との間隔が大きくなる。その結果、ベルト変速比が大きくなる。
【0051】
セカンダリプーリ57の油圧室68には、バイアススプリング69が設けられている。バイアススプリング69は、一端がセカンダリ可動シーブ66に弾性的に当接し、他端がピストン67に弾性的に当接している。バイアススプリング69の弾性力により、セカンダリ可動シーブ66およびピストン67が互いに離間する方向に付勢されている。セカンダリ可動シーブ66には、油圧室68内の油圧およびバイアススプリング69による付勢力が付与され、ベルト58には、それに応じた挟圧が付与される。
【0052】
また、インプット軸41には、軸線方向の中央部に、入力ギヤ81が一体に形成されている。これに対応して、プライマリ軸54には、入力ギヤ81と噛合するプライマリ入力ギヤ82が相対回転可能に支持されている。これらの互いに噛合する入力ギヤ81およびプライマリ入力ギヤ82とオイルポンプ45との間のスペースを利用して、プライマリ軸54に対するプライマリ入力ギヤ82の回転を許容/禁止する前進クラッチ83が設けられている。前進クラッチ83の一部は、オイルポンプ45と軸径方向に重なっている(軸線方向に見て重なっている)。
【0053】
前進クラッチ83は、クラッチドラム84、クラッチハブ85およびクラッチピストン86を備えている。クラッチドラム84は、内周端がプライマリ軸54に固定され、プライマリ軸54から軸径方向に延び、外周端部がプライマリ入力ギヤ82側、つまり前側に屈曲して延びている。クラッチハブ85は、プライマリ入力ギヤ82と一体に形成され、プライマリ入力ギヤ82から後側に延出する円筒状をなし、クラッチドラム84の外周端部に対して軸径方向の内側から間隔を空けて対向している。クラッチピストン86は、クラッチドラム84とクラッチハブ85との間に、軸線方向に移動可能に設けられている。クラッチピストン86は、クラッチドラム84に液密的に当接しており、クラッチドラム84とクラッチピストン86との間には、クラッチピストン86に作用する油圧が供給される油圧室87が形成されている。また、クラッチピストン86は、リターンスプリング88により、後側に弾性的に付勢されている。
【0054】
クラッチドラム84の外周端部とクラッチハブ85とに軸径方向に挟まれる空間において、クラッチドラム84に保持されるクラッチプレートとクラッチハブ85に保持されるクラッチディスクとが軸線方向に交互に並んでいる。油圧室87に供給される油圧により、クラッチピストン86が前側に移動してクラッチプレートを後側から押圧すると、クラッチプレートとクラッチディスクとが圧接し、前進クラッチ83が係合する。前進クラッチ83の係合により、プライマリ軸54に対するプライマリ入力ギヤ82の回転が禁止され、プライマリ入力ギヤ82が回転すると、プライマリ軸54がプライマリ入力ギヤ82と一体に回転する。前進クラッチ83の係合状態から油圧が開放されると、リターンスプリング88の付勢力により、クラッチピストン86が後側に移動し、クラッチディスクとクラッチプレートとの圧接が解除されて、前進クラッチ83が解放される。前進クラッチ83の解放により、プライマリ軸54に対するプライマリ入力ギヤ82の回転が許容され、プライマリ入力ギヤ82が回転しても、その回転がプライマリ軸54に伝達されない。
【0055】
セカンダリ軸55には、セカンダリ入力ギヤ91が相対回転可能に支持されている。セカンダリ入力ギヤ91は、軸線方向において、入力ギヤ81とオイルポンプ45との間に配置されている。また、セカンダリ入力ギヤ91とオイルポンプ45との間のスペースを利用して、セカンダリ軸55に対するセカンダリ入力ギヤ91の回転を許容/禁止する後進クラッチ92が設けられている。後進クラッチ92の一部は、オイルポンプ45と軸径方向に重なっている(軸線方向に見て重なっている)。
【0056】
後進クラッチ92は、クラッチドラム93、クラッチハブ94およびクラッチピストン95を備えている。クラッチドラム93は、内周端がセカンダリ軸55に固定され、セカンダリ軸55から軸径方向に延び、外周端部がセカンダリ入力ギヤ91側、つまり前側に屈曲して延びている。クラッチハブ94は、セカンダリ入力ギヤ91と一体に形成され、セカンダリ入力ギヤ91から後側に延出する円筒状をなし、クラッチドラム93の外周端部に対して軸径方向内側から間隔を空けて対向している。クラッチピストン95は、クラッチドラム93とクラッチハブ94との間に、軸線方向に移動可能に設けられている。クラッチピストン95は、クラッチドラム93に液密的に当接しており、クラッチドラム93とクラッチピストン95との間には、クラッチピストン95に作用する油圧が供給される油圧室96が形成されている。また、クラッチピストン95は、リターンスプリング97により、後側に弾性的に付勢されている。
【0057】
クラッチドラム93の外周端部とクラッチハブ94とに軸径方向に挟まれる空間において、クラッチドラム93に保持されるクラッチプレートとクラッチハブ94に保持されるクラッチディスクとが軸線方向に交互に並んでいる。油圧室96に供給される油圧により、クラッチピストン95が前側に移動してクラッチプレートを後側から押圧すると、クラッチプレートとクラッチディスクとが圧接し、後進クラッチ92が係合する。後進クラッチ92の係合により、セカンダリ軸55に対するセカンダリ入力ギヤ91の回転が禁止され、セカンダリ入力ギヤ91が回転すると、セカンダリ軸55がセカンダリ入力ギヤ91と一体に回転する。後進クラッチ92の係合状態から油圧が開放されると、リターンスプリング97の付勢力により、クラッチピストン95が後側に移動し、クラッチディスクとクラッチプレートとの圧接が解除されて、後進クラッチ92が解放される。後進クラッチ92の解放により、セカンダリ軸55に対するセカンダリ入力ギヤ91の回転が許容され、セカンダリ入力ギヤ91が回転しても、その回転がセカンダリ軸55に伝達されない。
【0058】
アウトプット軸43は、インプット軸41に対して後側に間隔を空けて、インプット軸41と同一軸線上に配置されている。言い換えれば、インプット軸41とアウトプット軸43とは、軸線方向に間隔を空けてそれぞれ前後に、車両の前後方向に沿った縦向きに延びる共通の軸線を有するように配置されている。アウトプット軸43には、出力伝達ギヤ101が一体に形成されている。これに対応して、セカンダリ軸55には、出力伝達ギヤ101と噛合するセカンダリ出力ギヤ102が相対回転不能に支持されている。
【0059】
リバース伝達機構44は、インプット軸41の動力(回転)をセカンダリ入力ギヤ91に伝達する機構である。リバース伝達機構44には、リバースアイドラ軸103、第1リバースギヤ104および第2リバースギヤ105が含まれる。リバースアイドラ軸103は、軸線方向に延び、第1ケース11と第2ケース12とに跨がって、第1ケース11および第2ケース12に回転可能に支持されている。第1リバースギヤ104は、リバースアイドラ軸103と一体に形成されて、入力ギヤ81と噛合している。第2リバースギヤ105は、第1リバースギヤ104の後側において、リバースアイドラ軸103と一体に形成され、セカンダリ入力ギヤ91と噛合している。
【0060】
アウトプット軸43とプライマリ軸54との間には、アダプタ111が設けられている。アダプタ111は、たとえば、アルミ合金製であり、ダイカスト法によって鋳造される鋳物である。アダプタ111は、アウトプット軸43とプライマリ軸54との間を軸径方向に延びている。アダプタ111の上端部は、後側に突出しており、その突出した部分には、前側に略円柱状に凹んだ凹部112が形成されている。アウトプット軸43の前端部は、凹部112内に挿入されている。アウトプット軸43の周面と凹部112の内周面との間には、ラジアルベアリング113が介在されている。アウトプット軸43の前端部は、ラジアルベアリング113を介して、アダプタ111に回転可能に支持されている。また、アウトプット軸43には、出力伝達ギヤ101が形成されている部分と凹部112内に挿入される部分との間に、軸径方向に沿った円環状の段差面が形成されている。段差面とアダプタ111との間には、スラストベアリング114が介在されている。これにより、アウトプット軸43の前端部は、ラジアルベアリング113およびスラストベアリング114を介して、アダプタ111に回転可能に支持されている。
【0061】
また、アダプタ111には、後側に略円柱状に凹んだ凹部115が形成されている。プライマリ軸54の後端部は、凹部115に挿入されている。プライマリ軸54の周面と凹部115の内周面との間には、ボールベアリング116が介在されている。プライマリ軸54の後端部は、ボールベアリング116を介して、アダプタ111に回転可能に支持されている。
【0062】
アダプタ111の下端部には、前側からボルト117が挿通される。そして、そのボルト117により、アダプタ111は、第3ケース13に取り付けられている。
【0063】
<油供給構造>
第2ケース12の底部には、変速ユニット1の各部へのオイルの供給を制御するためのバルブボディ121が設けられている。
【0064】
また、第2ケース12の底部には、ストレーナ122が設けられている。ストレーナ122は、バルブボディ121と横並びで配置される濾過部123と、濾過部123から延出する管部124とを備えている。管部124は、濾過部123の下部から前側に延出して、バルブボディ121の下側を延びている。管部124は、濾過部123の内部と連通する中空の管状に形成されている。
【0065】
第2ケース12には、オイルパン125が下側から複数のボルト126で固定されている。ストレーナ122の管部124の先端部127は、オイルパン125の中央部に位置しており、先端部127の下面には、オイルを吸い込むための吸込口が形成されている。
【0066】
オイルポンプ45のポンプギヤ48の回転により吸引力が発生し、その吸引力により、オイルパン125に溜まったオイルが吸込口から管部124内に吸い込まれる。管部124内に吸い込まれたオイルは、管部124内を濾過部123に向けて流れ、濾過部123内に設けられた濾過材を通過する。オイルが濾過材を通過することにより、オイル中に含まれる異物が濾過材に捕獲されて、オイル中から異物が除去される。濾過材を通過したオイルは、オイルポンプ45を経由して、バルブボディ121に供給される。そして、バルブボディ121から無段変速機構42などのオイルの供給を必要とする各部に作動油または潤滑油としてオイルが供給される。
【0067】
<動力伝達経路>
図2は、CVT5の構成を図解的に示すスケルトン図である。
【0068】
車両の前進時には、前進クラッチ83が係合されて、後進クラッチ92が解放される。エンジン2からトルクコンバータ4を介してインプット軸41に入力される動力は、前進クラッチ83の係合により、入力ギヤ81からプライマリ入力ギヤ82を介してプライマリ軸54に伝達される。一方、インプット軸41に入力される動力が入力ギヤ81からセカンダリ入力ギヤ91に伝達されて、セカンダリ入力ギヤ91が回転しても、後進クラッチ92の解放により、セカンダリ入力ギヤ91がセカンダリ軸55に対して空転し、セカンダリ軸55に動力が伝達されない。
【0069】
プライマリ軸54に伝達される動力は、プライマリプーリ56とセカンダリプーリ57とのプーリ比に応じたベルト変速比で変速されて、セカンダリ軸55に伝達される。そして、セカンダリ軸55に伝達される動力は、セカンダリ出力ギヤ102から出力伝達ギヤ101を介してアウトプット軸43に伝達される。
【0070】
車両の後進時には、前進クラッチ83が解放されて、後進クラッチ92が係合される。エンジン2からトルクコンバータ4を介してインプット軸41に入力される動力は、後進クラッチ92の係合により、入力ギヤ81からリバース伝達機構44およびセカンダリ入力ギヤ91を介してセカンダリ軸55に伝達される。このとき、セカンダリ軸55は、車両の前進時と逆方向に回転する。一方、インプット軸41に入力される動力が入力ギヤ81からプライマリ入力ギヤ82に伝達されて、プライマリ入力ギヤ82が回転しても、前進クラッチ83の解放により、プライマリ入力ギヤ82がプライマリ軸54に対して空転し、プライマリ軸54に動力が伝達されない。
【0071】
セカンダリ軸55に伝達される動力は、セカンダリ出力ギヤ102から出力伝達ギヤ101を介してアウトプット軸43に伝達される。
【0072】
そして、アウトプット軸43に伝達される動力は、アウトプット軸43からプロペラシャフトに出力されて、プロペラシャフトからリヤデファレンシャルギヤ(リヤデフ)およびドライブシャフトを介して左右の後輪に伝達される。
【0073】
<プライマリ軸周りの構造>
図3は、プライマリ軸54の前端部を
図1よりも拡大して示す断面図である。
【0074】
プライマリ軸54は、第1プライマリ軸131と第2プライマリ軸132とに分割して構成されている。第1プライマリ軸131は、第2プライマリ軸132の前側に配置されている。プライマリプーリ56は、第2プライマリ軸132に支持されている。第1プライマリ軸131の後側の端部には、後端面から略円柱状に凹んだ空間を有する接続凹部133が形成されている。第2プライマリ軸132の前側の端部は、接続凹部133内に挿入されて、接続凹部133内において、第2プライマリ軸132の外周面は、接続凹部133の内周面とスプライン嵌合している。
【0075】
第1プライマリ軸131の前側の端部には、ボールベアリング141のインナレース142が相対回転不能に外嵌されている。ボールベアリング141のアウタレース143は、第1ケース11に相対回転不能に保持されている。これにより、第1プライマリ軸131は、ボールベアリング141を介して、第1ケース11に回転可能に支持されている。また、第2プライマリ軸132の前側の端部は、ボールベアリング144を介して、第2ケース12に回転可能に支持されている。第2プライマリ軸132の後端部、つまりプライマリ軸54の後端部は、前述したように、ボールベアリング116を介して、アダプタ111に回転可能に支持されている。
【0076】
第1プライマリ軸131は、その外径が前側の端部から後側に向かって2段階で大きくされている。これにより、第1プライマリ軸131の外周面には、2箇所で段差が生じ、第1プライマリ軸131は、それらの段差部分に、軸径方向に沿った円環状の段差面145,146を有している。
【0077】
ボールベアリング141のインナレース142は、段差面145に当接している。プライマリ入力ギヤ82には、支持穴147が軸線方向に貫通して形成されており、その支持穴147には、第1プライマリ軸131の段差面145,146の間の部分が挿通されている。プライマリ入力ギヤ82の内周、つまり支持穴147の周面と第1プライマリ軸131の外周との間には、ラジアルベアリング148が介在されている。
【0078】
プライマリ入力ギヤ82の内周部149は、ボールベアリング141のインナレース142に後側から対向しており、そのインナレース142および内周部149は、それらの間に介在されるスラストベアリング151に前後から当接している。また、プライマリ入力ギヤ82の内周部149とその後側の段差面146との間には、スラストベアリング152および環状部材153が前側からこの順に設けられている。スラストベアリング152には、内周部149および環状部材153が前後から当接し、環状部材153は、段差面146に当接している。
【0079】
これにより、プライマリ入力ギヤ82は、ボールベアリング141と段差面146との間で軸線方向に位置決めされている。
【0080】
<セカンダリ軸周りの構造>
図4は、セカンダリ軸55の前端部を
図1よりも拡大して示す断面図である。
【0081】
セカンダリ軸55は、第1セカンダリ軸161と第2セカンダリ軸162とに分割して構成されている。第1セカンダリ軸161は、第2セカンダリ軸162の前側に配置されている。セカンダリプーリ57は、第2セカンダリ軸162に支持されている。第1セカンダリ軸161の後側の端部には、後端面から略円柱状に凹んだ空間を有する接続凹部163が形成されている。第2セカンダリ軸162の前側の端部は、接続凹部163内に挿入されて、接続凹部163内において、第2セカンダリ軸162の外周面は、接続凹部163の内周面とスプライン嵌合している。
【0082】
第1セカンダリ軸161の前側の端部には、ボールベアリング171のインナレース172が相対回転不能に外嵌されている。ボールベアリング171には、第1プライマリ軸131を受けるボールベアリング141よりもサイズおよび定格荷重が小さいものが採用されている。ボールベアリング171のアウタレース173は、第1ケース11に相対回転不能に保持されている。これにより、第1セカンダリ軸161は、ボールベアリング171を介して、第1ケース11に回転可能に支持されている。また、第2セカンダリ軸162の前側の端部は、ボールベアリング174を介して、第2ケース12に回転可能に支持されている。第2セカンダリ軸162の後端部は、
図1に示されるように、ローラベアリング175を介して、第3ケース13に回転可能に支持されている。
【0083】
第1セカンダリ軸161は、
図3に示される第1プライマリ軸131と見比べて理解されるように、第1プライマリ軸131と同一の部品である。したがって、第1セカンダリ軸161は、第1プライマリ軸131と同様に、その外径が前側の端部から後側に向かって2段階で大きくされている。これにより、第1セカンダリ軸161の外周面には、2箇所で段差が生じ、第1セカンダリ軸161は、それらの段差部分に、軸径方向に沿った円環状の段差面176,177を有している。
【0084】
ボールベアリング171と段差面176との間には、環状部材181が介在されている。環状部材181は、段差面176に当接し、ボールベアリング171は、環状部材181に当接している。環状部材181は、略円環板状をなし、その外周端部の前側部分は、ボールベアリング171のアウタレース173との接触を避けるため、軸径方向の外側ほど薄くなるように切り欠かれている。セカンダリ入力ギヤ91には、支持穴178が軸線方向に貫通して形成されており、その支持穴178には、第1セカンダリ軸161の段差面176,177の間の部分が挿通されている。セカンダリ入力ギヤ91の内周、つまり支持穴178の周面と第1セカンダリ軸161の外周との間には、ラジアルベアリング179が介在されている。
【0085】
セカンダリ入力ギヤ91の内周部182は、環状部材181に後側から対向しており、その環状部材181および内周部182は、それらの間に介在されるスラストベアリング183に前後から当接している。また、セカンダリ入力ギヤ91の内周部182とその後側の段差面177との間には、スラストベアリング184および環状部材185が前側からこの順に設けられている。スラストベアリング184には、内周部182および環状部材185が前後から当接し、環状部材185は、段差面177に当接している。
【0086】
これにより、セカンダリ入力ギヤ91は、ボールベアリング171と段差面177との間で軸線方向に位置決めされている。
【0087】
<作用効果>
以上のように、インプット軸41と平行に延びる第1プライマリ軸131には、プライマリ入力ギヤ82が設けられている。プライマリ入力ギヤ82には、インプット軸41からの動力が入力される。また、インプット軸41と平行に延びる第1セカンダリ軸161には、セカンダリ入力ギヤ91が設けられている。インプット軸41と平行に、リバースアイドラ軸103が設けられており、セカンダリ入力ギヤ91には、インプット軸41からの動力がリバースアイドラ軸103を介して入力される。そのため、第1プライマリ軸131および第1セカンダリ軸161は、それぞれプライマリ入力ギヤ82およびセカンダリ入力ギヤ91に入力されるインプット軸41からの動力により互いに逆方向に回転する。したがって、インプット軸41からプライマリ入力ギヤ82を介して第1プライマリ軸131に動力を伝達するか、インプット軸41からセカンダリ入力ギヤ91を介して第1セカンダリ軸161に動力を伝達するかを切り替えることにより、車両の前進および後進を切り替えることができる。
【0088】
第1プライマリ軸131には、ボールベアリング141およびプライマリ入力ギヤ82がこの順に設けられ、第1セカンダリ軸161には、その軸線方向の一方側からボールベアリング171およびセカンダリ入力ギヤ91がこの順に設けられることにより、第1プライマリ軸131と第1セカンダリ軸161とにおいて、軸受とギヤとの並び順が同じになっている。そのため、少なくとも第1プライマリ軸131におけるボールベアリング141およびプライマリ入力ギヤ82が設けられる部分と第1セカンダリ軸161におけるボールベアリング171およびセカンダリ入力ギヤ91が設けられる部分とで構成を共通にすることができる。そこで、第1プライマリ軸131と第1セカンダリ軸161との構成が共通化されて、第1プライマリ軸131および第1セカンダリ軸161には、同一部品が用いられている。その結果、変速ユニット1を構成する部品の種類の数を削減でき、変速ユニット1の製造コストを低減することができる。
【0089】
インプット軸41からプライマリ入力ギヤ82を介して第1プライマリ軸131に動力が伝達される頻度がインプット軸41からセカンダリ入力ギヤ91を介して第1セカンダリ軸161に動力が伝達される頻度よりもはるかに多く、第1セカンダリ軸161よりも第1プライマリ軸131に負荷が多くかかる。そのため、ボールベアリング141に相対的に大きい定格荷重を有するものが用いられることにより、第1プライマリ軸131をボールベアリング141で安定して受けることができる。一方、ボールベアリング171には相対的に小さい定格荷重を有するものが用いられることにより、第1セカンダリ軸161をボールベアリング171で安定して受けつつ、ボールベアリング171のコストおよび質量を低く抑えることができる。
【0090】
また、第1プライマリ軸131の外周とプライマリ入力ギヤ82の内周との間には、ラジアルベアリング148が介在されている。これにより、第1プライマリ軸131の外周とプライマリ入力ギヤ82の内周との間における摺動抵抗を低減することができる。プライマリ入力ギヤ82とボールベアリング141との間には、スラストベアリング151が介在されて、そのスラストベアリング151にプライマリ入力ギヤ82およびボールベアリング141のインナレース142が当接している。これにより、プライマリ入力ギヤ82とボールベアリング141のインナレース142との間における摺動抵抗を抵抗することができる。
【0091】
第1セカンダリ軸161の外周とセカンダリ入力ギヤ91の内周との間には、ラジアルベアリング179が介在されている。これにより、第1セカンダリ軸161の外周とセカンダリ入力ギヤ91の内周との間における摺動抵抗を低減することができる。また、セカンダリ入力ギヤ91と環状部材181との間にスラストベアリング183が介在されて、そのスラストベアリング183にセカンダリ入力ギヤ91および環状部材181が当接し、環状部材181にボールベアリング171が当接している。これにより、セカンダリ入力ギヤ91とボールベアリング171との間における摺動抵抗を抵抗することができる。
【0092】
また、環状部材181の外周端部のボールベアリング171側がボールベアリング171のアウタレース173との接触を避けるように切り欠かれている。これにより、第1セカンダリ軸161の回転時に環状部材181がボールベアリング171のアウタレース173に摺擦することを防止でき、環状部材181とボールベアリング171のアウタレース173との間での摺動抵抗の発生を抑制することができる。
【0093】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0094】
たとえば、前述の実施形態では、変速ユニット1は、エンジン2の後側に、CVT5のインプット軸41が車両の前後方向に延びる縦向きとなる縦置きで配置されているとした。しかしながら、これに限らず、本発明は、エンジン2の左側または右側に、CVTの入力軸(インプット軸)が車両の左右方向に延びるように横置きされる変速ユニットに適用することもできる。
【0095】
また、無段変速機構42の動力伝達方式は、ベルト式に限らず、チェーン式またはトロイダル式であってもよい。
【0096】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1:変速ユニット(変速機)
41:インプット軸(入力軸)
54:プライマリ軸(第1軸)
55:セカンダリ軸(第2軸)
82:プライマリ入力ギヤ(第1ギヤ)
91:セカンダリ入力ギヤ(第2ギヤ)
103:リバースアイドラ軸
131:第1プライマリ軸(第1軸)
141:ボールベアリング(第1軸受)
142:インナレース
148:ラジアルベアリング(第1ラジアルベアリング)
151:スラストベアリング(第1スラストベアリング)
161:第1セカンダリ軸(第2軸)
171:ボールベアリング(第2軸受)
173:アウタレース
179:ラジアルベアリング(第2ラジアルベアリング)
181:環状部材
183:スラストベアリング(第2スラストベアリング)