(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】スピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 9/00 20060101AFI20231211BHJP
H04R 7/12 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
H04R9/00 B
H04R7/12 Z
(21)【出願番号】P 2020089024
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-130350(JP,A)
【文献】特開2011-172157(JP,A)
【文献】特開2010-272988(JP,A)
【文献】特開2009-194460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/00
H04R 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性シートで形成された振動シートと、前記振動シートのシート表面に設けられたボイスコイルと、前記ボイスコイルに磁界を与える磁界発生部と、が設けられたスピーカにおいて、
前記ボイスコイルには、前記振動シートの振動方向と交差する方向が電流方向となる駆動通電路が形成され、前記駆動通電路が前記磁界発生部の磁気ギャップ内に位置しており、
前記磁気ギャップの外側で前記振動シートに補強部材が固定され、前記補強部材は、少なくとも前記駆動通電路と前記振動方向で並ぶ位置で、シート表面に固定されており、前記補強部材に対向する支持体と前記補強部材との間に、前記振動シートの振動方向に弾性変形する弾性支持部材が設けられていることを特徴とするスピーカ。
【請求項2】
前記補強部材は、前記ボイスコイルを振動方向の両側で挟む位置にあってそれぞれが前記駆動通電路と並ぶ位置でシート表面に固定された一対の補強固定部と、前記磁気ギャップの外側で一対の前記補強固定部を連結する連結補強部とが、一体に形成されている請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
前記補強部材は、一対の前記補強固定部と、一対の前記連結補強部とが連続して一体に形成された枠形状である請求項2記載のスピーカ。
【請求項4】
前記弾性支持部材は、前記振動シートの振動方向の弾性係数よりも、前記磁気ギャップの内幅方向の弾性係数が高い請求項1ないし3のいずれかに記載のスピーカ。
【請求項5】
前記弾性支持部材は、板厚方向が前記振動方向に向けられ、板幅方向が前記内幅方向に向けられた板ばねである請求項4記載のスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート表面にコイルが設けられた振動シートを振動させて音圧を発生するスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にシート状の振動板を備えたスピーカに関する発明が記載されている。
振動板は湾曲させられており、振動板の一端部に、エッチングによってボイスコイルが平面コイル状に形成されている。磁気回路部は磁界が横断する磁気ギャップを有している。振動板の前記一端部は、ゴムなどから成る弾性部材で板厚方向の両側から挟まれ、一端部を挟んだ弾性部材が振動板と共に磁気ギャップ内に挿入されて、ボイスコイルが磁気ギャップ内に位置している。また、振動板の他端部は他の弾性部材を介してフレームに取り付けられている。
【0003】
特許文献1に記載されたスピーカは、磁気ギャップ内で弾性部材が容易に弾性変形するために、ボイスコイルを、磁気ギャップ内において可動状態で配置できる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたスピーカは、振動板の一端部を挟む弾性部材が磁気回路部の磁気ギャップ内に挿入されていることによって、振動板の一端部に設けられたボイスコイルが磁気回路部のヨークと擦れて損傷するのを防止できる利点を有している。しかしながら、磁気ギャップ内に弾性部材が入り込んでいるため、磁気ギャップの内幅寸法(ギャップ長寸法)が大きくなり、磁気回路部の磁気駆動効率が低下する。また、振動板の一端部が磁気ギャップ内で振動させられるときに、弾性部材の剪断抵抗力が発生するため、振動板を振動させる際の抵抗力が大きくなり、振動板で十分な音圧を発生するためには過大なボイス電流が必要になる。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、磁気ギャップの内幅寸法(ギャップ長寸法)を可能な限り小さくでき、しかもコイルを狭いギャップ内に位置決めすることができるスピーカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、可撓性シートで形成された振動シートと、前記振動シートのシート表面に設けられたボイスコイルと、前記ボイスコイルに磁界を与える磁界発生部と、が設けられたスピーカにおいて、
前記ボイスコイルには、前記振動シートの振動方向と交差する方向が電流方向となる駆動通電路が形成され、前記駆動通電路が前記磁界発生部の磁気ギャップ内に位置しており、
前記磁気ギャップの外側で前記振動シートに補強部材が固定され、前記補強部材は、少なくとも前記駆動通電路と前記振動方向で並ぶ位置で、シート表面に固定されており、前記補強部材に対向する支持体と前記補強部材との間に、前記振動シートの振動方向に弾性変形する弾性支持部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明のスピーカでは、前記補強部材は、前記ボイスコイルを振動方向の両側で挟む位置にあってそれぞれが前記駆動通電路と並ぶ位置でシート表面に固定された一対の補強固定部と、前記磁気ギャップの外側で一対の前記補強固定部を連結する連結補強部とが、一体に形成されているものが好ましい。
【0009】
さらに、本発明のスピーカでは、前記補強部材が、一対の前記補強固定部と、一対の前記連結補強部とが連続して一体に形成された枠形状であることが好ましい。
【0010】
本発明のスピーカでは、前記弾性支持部材は、前記振動シートの振動方向の弾性係数よりも、前記磁気ギャップの内幅方向の弾性係数が高いことが好ましい。
【0011】
本発明のスピーカは、例えば、前記弾性支持部材は、板厚方向が前記振動方向に向けられ、板幅方向が前記内幅方向に向けられた板ばねである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスピーカは、磁気ギャップの外側で且つボイスコイルの駆動通電路と並ぶ位置で振動シートに固定された補強部材が設けられている。そのため、磁気ギャップ内で振動シートが撓みにくくなり、磁気ギャップの内幅寸法(ギャップ長寸法)が短くても、ボイスコイルが磁界発生部を構成するヨークに擦れて損傷するなどの問題を防止しやすい。
【0013】
本発明のスピーカは、補強部材を支持する弾性支持部材が設けられているため、磁気ギャップ内でボイスコイルを位置決めすることが可能である。特に、弾性支持部材を、前記振動シートの振動方向の弾性係数よりも、前記磁気ギャップの内幅方向の弾性係数が高いものとすると、ボイスコイルを磁気ギャップ内でその内幅方向に動かないように位置決めでき、しかも振動板が振動するときの抵抗力も小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図1に示したスピーカの磁界発生部の構造を示す部分斜視図、
【
図4】
図1に示したスピーカの第1発音部の構造を示す分解斜視図、
【
図5】
図1に示したスピーカに設けられた振動シートと補強部材および弾性支持部材を示す正面図、
【
図6】本発明の変形例を示す
図5に相当する正面図、
【
図7】本発明の変形例を示す
図5に相当する正面図、
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態のスピーカ1は、Y1-Y2方向が縦方向、X1-X2方向が左右方向、Z1-Z2方向が上下方向である。
図1に示される実施形態のスピーカ1は、Y1側に位置する第1発音部10とY2側に位置する第2発音部20が一体化されて構成されている。第1発音部10と第2発音部20は、縦方向(Y1-Y2方向)において対称形状である。第1発音部10と第2発音部20は構造が同じであり、第1発音部10が振動シート11を有し、第2発音部20が振動シート21を有している。第1発音部10の振動シート11と第2発音部20の振動シート21は、同じ周波数で振動させられる。あるいは、振動シート11と振動シート21は、互いに異なる周波数帯域で振動させられる。さらには、振動シート11と振動シート21が互いに異なるボイス電流で振動させられて、ステレオ音響を発生することも可能である。
【0016】
図4に第1発音部10の構造が示されている。以下では、主に第1発音部10の構造と動作を主体として説明する。
図4に示されるように、第1発音部10は支持体12を有している。支持体12は支持筐体または支持基台である。支持体12は底壁部12aと縦壁部12bとが一体に形成されている。支持体12には左右方向(X1-X2方向)で対向する側壁部13,13が固定されている。側壁部13,13も支持体12の一部を構成している。支持体12の縦壁部12bの上部にはY2方向に突出する支持リブ12cが一体に形成されている。底壁部12aのY2側に向く端部は肉厚部12dとなっており、肉厚部12dのY2方向に向く端面が固定面12eとなっている。支持体12の縦壁部12bの中央部に円形穴である開口部12fが形成されている。
【0017】
図1に示されるように、第2発音部20にも支持体22が設けられている。第1発音部10の支持体12と同様に、支持体22には、底壁部22a、縦壁部22b、支持リブ22c、肉厚部22d、固定面22e、開口部22fが一体に形成されている。また支持体22のX1-X2方向の両側に側壁部23,23が固定されている。第1発音部10の支持体12と第2発音部20の支持体22は、共に非磁性材料で形成されていることが好ましい。
【0018】
図2と
図3に示されるように、第1発音部10の支持体12に形成された固定面12eと、第2発音部20の支持体22に形成された固定面22eとの間に、一対の側方支持部材15が挟まれるようにして固定されている。側方支持部材15は非磁性材料で形成されており、支持体12と支持体22の一部として機能している。一対の側方支持部材15はX1-X2方向に間隔を空けて、それぞれのY1側の端面が支持体12の固定面12eに固定され、Y2側の端面が支持体22の固定面22eに固定されている。
【0019】
図2と
図3に示されるように、第1発音部10の支持体12に形成された固定面12eと、第2発音部20の支持体22に形成された固定面22eとの間で、且つX1-X2方向に離れて位置する一対の側方支持部材15,15との間に形成された空間内に、磁界発生部30が設けられている。
【0020】
図2と
図3に示されるように、磁界発生部30は、磁性材料で形成された第1対向ヨーク31と第2対向ヨーク32を有している。
図1に示されるように、第1対向ヨーク31は、第1発音部10に設けられた支持体12の固定面12eに固定され、第2対向ヨーク32は第2発音部20に設けられた支持体22の固定面22eに固定されている。磁界発生部30では、第1対向ヨーク31と第2対向ヨーク32との間に磁石組立体33が位置している。
図4に示されるように、磁石組立体33は、磁性材料で形成された下部ヨーク34と、その上の重ねられた磁石35と、さらにその上に位置する磁性材料で形成された上部ヨーク36とで構成されている。
【0021】
図3と
図4に示されるように、第1対向ヨーク31と磁石組立体33との間には、X1-X2方向に間隔を空けて一対のスペーサ37が設けられている。スペーサ37は非磁性材料で形成されている。左右のスペーサ37には互いに対向する方向に延びる薄板部37aが一体に形成されている。それぞれのスペーサ3がは、第1対向ヨーク31と磁石組立体33の双方に固定され、薄板部37aが、第1対向ヨーク31と磁石組立体33との間に介在している。一対のスペーサ37によって、第1対向ヨーク31と磁石組立体33とが互いに固定されている。また第1対向ヨーク31と磁石組立体33との間隔が薄板部37aの板厚で決められ、
図1と
図3に示されるように、第1対向ヨーク31と磁石組立体33との間に、微小な間隔の磁気ギャップG1が形成されている。
【0022】
図2に示されるように、磁界発生部30には、第2対向ヨーク32と磁石組立体33とを連結するスペーサ38が、X1側とX2側に設けられている。このスペーサ38にも薄板部38aが形成されている。この薄板部38aが第2対向ヨーク32と磁石組立体33との間に挟まれて、第2対向ヨーク32と磁石組立体33との間隔が決められ、
図1と
図3に示されるように、第2対向ヨーク32と磁石組立体33との間に、微小な間隔の磁気ギャップG2が形成されている。
【0023】
図1と
図4に示されるように、第1発音部10の支持体12の一部であるX1側の側壁部13とX2側の側壁部13との間に振動シート11が配置されている。振動シート11はV1-V2方向が縦方向で長手方向となる長方形状である。また、振動シート11は、V1-V2方向が振動方向である。振動シート11は、縦方向の上方(V1方向)の端部が固定側端部11aであり、縦方向の下方(V2方向)の端部が駆動側端部11bとなっている。振動シート11の固定側端部11aは、支持体12のZ1側端部に設けられた支持リブ12cの上面に接着されて固定されている。振動シート11は自由状態では平面形状であるが、縦方向(V1-V2方向)が曲率方向となるように湾曲変形させられて、駆動側端部11bが、磁気ギャップG1の内部に挿入されている。
【0024】
振動シート11は弾性を有する可撓性シートであり、合成樹脂材料で形成された樹脂シートを基本として構成されている。振動シート11は、ポリイミド樹脂やPET樹脂で形成されたシート基材(ベースフィルム)の表面に金属膜として銅箔層が積層されたいわゆるフレキシブル回路基板(FPC)で構成されている。振動シート11は、少なくとも、固定側端部11aと駆動側端部11bを除くほぼ全域に銅箔層が設けられている。あるいは、駆動側端部11bを除く全域に銅箔層が設けられている。銅箔層が設けられていることにより、振動シート11の剛性を高め、適度な弾性を与えることができる。
【0025】
図4と
図5に示されるように、振動シート11の駆動側端部11bには、シート表面に沿ってボイスコイル40が設けられている。ボイスコイル40は、振動シート11のシート表面に沿って導体層が周回する平面巻き形状である。平面巻きのボイスコイル40は、シート表面と直交してY1-Y2方向に延びる仮想の中心線の周りを周回するように多重に巻かれている。ボイスコイル40は、上部駆動通電路41と下部駆動通電路42を有している。上部駆動通電路41と下部駆動通電路42の電流方向Iは、振動シート11の振動方向(V1-V2方向)と直交している。
図1に示されるように、磁気ギャップG1内において、上部駆動通電路41は第1対向ヨーク31と上部ヨーク36との間に位置し、下部駆動通電路42は、第1対向ヨーク31と下部ヨーク34との間に位置している。
【0026】
ボイスコイル40は、シート基材の表面に設けられた銅箔層をエッチングして形成されたコイル層である。
図5に示されるように、シート表面には、コイル層を構成する導体層の一端に導通する端子部43aと、導体層の他端に導通する端子部43bが形成されている。なお、ボイスコイル40は、予め細い導線を平面的に周回させて平面巻きコイル構造とし、これを振動シート11のシート表面に接着して構成してもよい。ボイスコイル40は、振動シート11の駆動側端部11bにおいてY1側に向くシート表面に設けられている。あるいはボイスコイル40は駆動側端部11bにおいてY2側に向くシート表面に形成されていてもよい。または、Y1側に向くシート表面とY2側に向くシート表面の双方に形成されていてもよい。
【0027】
図1と
図2に示されるように、振動シート11の駆動側端部11bでは、Y1側に向くシート表面に補強部材50が固定されている。補強部材50は、合成樹脂材料や非磁性の金属板など、Y1-Y2方向での曲げ剛性が、振動シート11の同方向への曲げ剛性よりも高い材料で形成されている。
【0028】
図4と
図5にも示されるように、補強部材50は、一対の補強固定部51a,51bと一対の連結補強部52,52とが連続して一体に形成された枠形状である。一対の補強固定部51a,51bは、ボイスコイル40を振動方向(V1-V2方向)の両側で挟む位置に固定されている。補強固定部51aはボイスコイル40の上部駆動通電路41とV1側で並ぶ位置でシート表面に固定され、補強固定部51bは下部駆動通電路42とV2側で並ぶ位置でシート表面に固定されている。補強固定部51aと補強固定部51bは、上部駆動通電路41および下部駆動通電路42よりも電流方向Iの長さ寸法が大きく、ボイスコイル40の上部駆動通電路41および下部駆動通電路41は、電流方向Iの全長にわたって補強固定部51a,51bで補強されている。
【0029】
補強部材50の補強固定部51a,51bは、振動シート11からX1-X2方向の両側に突出しており、振動シート11から離れた位置で、補強固定部51aの両端部と補強固定部51bの両端部が、連結補強部52,52で連結されている。なお、X1-X2方向の幅寸法が広い振動シート11の場合には、連結補強部52,52が振動シート11のシート表面に固定されていてもよい。この場合、一対の連結補強部52,52は、ボイスコイル40の上部駆動通電路41および下部駆動通電路41を電流方向Iの両側で挟む位置において、シート表面に固定される。
【0030】
図2に示されるように、支持体12,22の一部として機能している側方支持部材15,15と、補強部材50との間に弾性支持部材55が設けられている。
図3にも示されるように、弾性支持部材55は、支持側固定端55aが側方支持部材15に形成されたスリット内に挿入されて固定され、補強側固定端55bが補強部材50を挟むようにして補強部材50に固定されている。
【0031】
弾性支持部材55は、金属製の板ばねであり、X1-X2方向に曲率を有して湾曲している。この板ばねは、その板厚方向が振動シート11の振動方向(V1-V2方向)に向けられ、その板幅方向が、磁気ギャップG1の内幅方向(Y1-Y2)に向けられている。すなわち、弾性支持部材55は、振動シート11の振動方向(V1-V2方向)での弾性係数よりも、磁気ギャップG1の内幅方向(Y1-Y2方向)の弾性係数が高くなっている。そのため、補強部材50および振動シート11は、振動方向(V1-V2方向)に振動できるが、磁気ギャップG1の内幅方向(Y1-Y2方向)には動きにくくなっている。また、弾性支持部材55の弾性力によって、ボイスコイル40の中心が、磁気ギャップG1内においてZ1-Z2方向の中心に位置決めされる。なお、弾性支持部材55は樹脂製の板ばねなどであってもよい。
【0032】
図5に示されるように、弾性支持部材55は4個設けられており、弾性支持部材55によって、四角形の枠形状の補強部材50の4つの角部が支持されている。それぞれの弾性支持部材55の補強側固定端55bは、X1-X2方向に対して角度θの向きで補強部材50に固定されている。θは30度以上で60度未満が好ましく、例えば45度である。補強部材50は4つの弾性支持部材55で支持され、しかもそれぞれの補強側固定端55bが斜めに向けられているため、補強部材50は、X-Z平面と平行な状態で位置決めされるようになり、ボイスコイル40もX-Z平面と平行な状態で磁気ギャップG1に位置決めされる。
【0033】
第2発音部20は、第1発音部10とX1-X2方向で対称形状である。第2発音部20に設けられた、振動シート21とボイスコイル40の構造は、第1発音部10に設けられた振動シート11およびボイスコイル40と同じである。また、振動シート21のY2側に向くシート表面に補強部材50が固定されており、側方支持部材15,15と補強部材50との間に弾性支持部材55が設けられている。
【0034】
次に、スピーカ1の発音動作を説明する。
図4に示されている振動シート11の駆動側端部11bに設けられた端子部43a,43bを介してボイスコイル40にボイス電流が与えられる。また、第2発音部20の振動シート21に設けられたボイスコイル40にもボイス電流が与えられる。それぞれのボイス電流によって、第1発音部10の振動シート11と第2発音部20の振動シート21が振動させられる。以下、第1発音部10の振動シート11の動作の詳細を説明するが、第2発音部20の振動シート21の動作も同じである。
【0035】
第1発音部10の振動シート11に設けられたボイスコイル40にボイス電流が与えられると、上部駆動通電路41と下部駆動通電路42において、I方向で互いに逆向きとなる電流と、磁気ギャップG1内において上部駆動通電路41と下部駆動通電路42を互いに逆向きに横断する磁束とによる電磁力によって、振動シート11に、シート面に沿う縦方向(V1-V2方向)の振動が与えられる。
【0036】
振動シート11は、V1-V2方向に波打つように変形し、振動シート11からZ1方向とY2方向に向かう音圧が発生する。振動シート11からはY1方向へも音圧が発生するが、振動シート11のY1側に位置する空間は、左右が側壁部13,13で仕切られ、さらに、底壁部12aと縦壁部12bによっても仕切られている。そのため、振動シート11からZ1方向とY2方向に与えられる音圧と、Y1側の空間に与えられる音圧とが干渉しにくくなっている。また、縦壁部12bに開口部12fが形成されているため、側壁部13,13および底壁部12aと縦壁部12bとで仕切られた空間が密閉されることなく、振動シート11に密閉空間が大きな抵抗力を作用させることを避けることができる。
【0037】
図5に示されるように、振動シート11の駆動側端部11bでは、ボイスコイル40の上部駆動通電路41と並ぶ位置に補強部材50の補強固定部51aが固定され、下部駆動通電路42と並ぶ位置に補強固定部51bが固定されて、補強固定部51aと補強固定部51bとが連結補強部52で連結されている。すなわち、振動シート11には、ボイスコイル40を囲むようにして枠形状の補強部材50が固定されている。そのため、ボイスコイル40に電磁力が作用し、振動シート11にV1-V2方向の振動が与えられるときに、振動シート11の駆動側端部11bおよびボイスコイル40が撓むのを防止でき、ボイスコイル40が、常に平面状態を保ちながら磁気ギャップG1内に位置できるようになる。よってボイスコイル40が、その変形に起因して第1対向ヨーク31に当たって擦れるなどの現象を防止しやすい。
【0038】
また、補強部材50は、磁気ギャップG1の外側で、第1対向ヨーク31と磁石組立体33と当たらないように配置されている。したがって、第1対向ヨーク31と磁石組立体33の距離を接近させ、磁気ギャップG1のY1-Y2方向の内幅寸法(ギャップ長寸法)を小さくすることができる。磁気ギャップG1の内幅寸法を小さくすることで、ボイスコイル40を横断する磁束密度を高くでき、低電力で、振動シート11を駆動することが可能になる。
【0039】
また、補強部材50は弾性支持部材55,55を介して側方支持部材15,15に支持されているため、補強部材50で囲まれているボイスコイル40を、磁気ギャップG1内で位置決めすることができる。弾性支持部材55,55は、振動方向(V1-V2方向)の弾性係数(曲げ弾性率)よりも、磁気ギャップG1の内幅方向(Y1-Y2方向)の弾性係数が高くなっている。そのため、振動シート11の駆動側端部11bとボイスコイル40が、磁気ギャップG1内でY1-Y2方向に動きにくくなっており、磁気ギャップG1のY1-Y2方向の内幅寸法を小さくしても、ボイスコイル40が第1対向ヨーク31に当たったり擦れる現象が生じにくい。
【0040】
そのため、従来のように、磁気ギャップG1内でボイスコイル40のY1-Y2方向への動きを規制するための磁性流体や弾性体などを磁気ギャップG1内に介在させる必要がない。また、磁気ギャップG1内に磁性流体などを介在させるとしても粘度の高いものを介在させる必要はない。そのため、磁気ギャップG1の内幅寸法を小さくしても、ボイスコイル40の振動方向(V1-V2方向)への動きに対する抵抗力も小さくすることができる。
【0041】
図6と
図7に、本発明のスピーカ1に使用される振動シート11の変形例が示されている。
図6に示す変形例では、補強部材50のZ1側の補強固定部51aが、振動シート11の幅方向(X1-X2方向)に連続しているが、Z2側の補強固定部53は途中が途切れている。
図7に示す変形例では、補強部材50のZ1側の補強固定部54と、Z2側の補強固定部53が、共に途中で途切れている。
【0042】
これら変形例でも、補強部材50が、弾性支持部材55で支持され、弾性支持部材55は、振動方向(V1-V2方向)の弾性係数よりも、磁気ギャップG1の内幅方向(Y1-Y2方向)の弾性係数が高くなっているため、振動シート11の駆動側端部11bとボイスコイル40を、内幅寸法の小さい磁気ギャップG1内で位置決めする効果を発揮することができる。
【0043】
前記振動シート11の動作および作用効果は、第2発音部20の振動シート21においても同じである。また、振動シート11,21は、半円形に湾曲していてもよいし、大きな曲率でわずかに湾曲し、あるいはほぼ平面状態に位置しているものであってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 スピーカ
10 第1発音部
11 振動シート
12 支持体
15 支持体の一部となる側方支持部材
20 第2発音部
21 振動シート
22 支持体
30 磁界発生部
31 第1対向ヨーク
32 第2対向ヨーク
33 磁石組立体
34 下部ヨーク
35 磁石
36 上部ヨーク
40 ボイスコイル
41 上部駆動通電路
42 下部駆動通電路
50 補強部材
51a,51b 補強固定部
52 連結補強部
55 弾性支持部材
G1,G2 磁気ギャップ