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特許7399599ルチル型酸化チタンオルガノゾルおよびルチル型酸化チタンオルガノゾルの製造方法並びにこのルチル型酸化チタンオルガノゾルを用いた高屈折率被膜形成用組成物および光学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】ルチル型酸化チタンオルガノゾルおよびルチル型酸化チタンオルガノゾルの製造方法並びにこのルチル型酸化チタンオルガノゾルを用いた高屈折率被膜形成用組成物および光学素子
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/053 20060101AFI20231211BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20231211BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20231211BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20231211BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20231211BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C01G23/053
C01G23/04 B
C09C1/36
C09C3/06
C09D7/62
C09D201/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022509994
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2021010719
(87)【国際公開番号】W WO2021193262
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2020055315
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020177781
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157107
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】三島 遼平
(72)【発明者】
【氏名】横山 伸幸
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-246351(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181241(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/165620(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/053
C01G 23/04
C09C 1/36
C09C 3/06
C09C 3/12
C09D 1/00
C09D 7/62
C09D 17/00
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zr、Ce、Sn、Feから選ばれる少なくとも1種の金属種の水和酸化物によって表面処理されたルチル型酸化チタン粒子と、
シランカップリング剤と、
解膠剤としての塩基性添加剤と、
非水溶性溶媒とを含有するルチル型酸化チタンオルガノゾルであって、
前記ルチル型酸化チタンオルガノゾル中のコロイド粒子に含まれるTi比率が酸化物換算で60質量%以上であり、
かつX線光電子分光分析による前記コロイド粒子の表面における前記金属種の比率が20~50質量%であり、
さらにX線光電子分光分析による前記コロイド粒子の表面におけるSiの比率が35質量%以下であることを特徴とするルチル型酸化チタンオルガノゾル。
【請求項2】
前記コロイド粒子の含有比率が酸化物換算で28質量%以上であり、かつ粘度が15mPa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載のルチル型酸化チタンオルガノゾル。
【請求項3】
前記非水溶性溶媒にて質量%で固形分5%に希釈し、光路長10mmで測定したときのヘーズ値が20%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のルチル型酸化チタンオルガノゾル。
【請求項4】
前記塩基性添加剤が、
水溶性アミンであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のルチル型酸化チタンオルガノゾル。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のルチル型酸化チタンオルガノゾルを含有することを特徴とする高屈折率被膜形成用組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の高屈折率被膜形成用組成物による被膜層を有することを特徴とする光学素子。
【請求項7】
前記被膜層の鉛筆硬度が6H以上であることを特徴とする請求項6に記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルチル型酸化チタンを非水溶性溶媒に分散したオルガノゾルおよび係る酸化チタンオルガノゾルの製造方法に関するものである。詳しくは、高い透明性と高い屈折率を有するオルガノゾルおよび係る酸化チタンオルガノゾルの製造方法に関するものである。
また、係るルチル型酸化チタンオルガノゾルを用いた高屈折率被膜形成用組成物および光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から酸化チタンを非水溶性溶媒に分散した酸化チタンオルガノゾルは、屈折率調整用のコート剤などとして、光学部品の反射防止膜を作製するために使用されており、各種の酸化チタンオルガノゾルが開発されている(特許文献1~3)。
【0003】
具体的には、特許文献1においては、スズ化合物共存下でヒドロゾルを作製した後、溶媒置換することによってオルガノゾルとしたものが開示されている。特許文献2においては、酸化チタンの表面をシランカップリング剤と12-ヒドロキシステアリン酸で処理した後、溶媒置換することによってオルガノゾルとしたものが開示されている。特許文献3においては、酸化チタンの表面を特定の構造式のシランカップリング剤で処理した後、溶媒置換することによってオルガノゾルとしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2006/1487
【文献】国際公開WO2016/136763
【文献】特開2017-178736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような酸化チタンオルガノゾルにおいては、ゾルとしての透明性や粘度の経時安定性が要求され、また被膜層とした場合に光学素子の薄膜化や小型化が図れるという観点から高い屈折率も要求される。
【0006】
ここで、酸化チタンにはアナターゼ型とルチル型があり、ルチル型はアナターゼ型に比べて屈折率が高いという特徴がある。また、ルチル型はアナターゼ型に比べて光触媒活性が低いという特性があることから、ルチル型の酸化チタンを原料として用いると、光触媒活性による有機材料等の分解や変色を発生させにくいという特徴もある。
【0007】
従って、ルチル型の酸化チタンを用いることで高い透明性と高い屈折率を発現しつつ、さらに粘度の経時安定性に優れるオルガノゾルが望まれているのであるが、酸化チタン粒子は水性溶媒には良好な分散性を示すものの、非水溶性溶媒に対しては分散性が低いことから、オルガノゾルにおいては、係る全ての要求を高い次元で満足させることが難しいのが現状となっていた。
【0008】
今般、本願発明者らは鋭意検討の結果、ルチル型酸化チタンの表面に特定の金属種の水和酸化物を特定の表面比率となるように処理し、係る表面処理がなされたルチル型酸化チタン粒子をシランカップリング剤と塩基性添加剤の存在下で解膠させることによって、非水溶性溶媒中で高い透明性と高い屈折率を有する酸化チタンオルガノゾルを得ることができるという知見を得た。また、係る酸化チタンオルガノゾルは酸化チタン粒子を高濃度で含有しつつ、粘度の経時安定性にも優れた特性を有するものであるという知見を得た。
【0009】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、高い透明性と高い屈折率を有し、粘度の経時安定性に優れるルチル型酸化チタンオルガノゾルの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るルチル型酸化チタンオルガノゾルは、Zr、Ce、Sn、Feから選ばれる少なくとも1種の金属種の水和酸化物によって表面処理されたルチル型酸化チタン粒子と、シランカップリング剤と、解膠剤としての塩基性添加剤と、非水溶性溶媒とを含有するルチル型酸化チタンオルガノゾルであって、ルチル型酸化チタンオルガノゾル中のコロイド粒子に含まれるTi比率が酸化物換算で60質量%以上であり、かつX線光電子分光分析によるコロイド粒子の表面における金属種の比率が20~50質量%であり、さらにX線光電子分光分析によるコロイド粒子の表面におけるSiの比率が35質量%以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るルチル型酸化チタンオルガノゾルは、コロイド粒子の含有比率が酸化物換算で28質量%以上であり、かつ粘度が15mPa・s以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るルチル型酸化チタンオルガノゾルは、非水溶性溶媒にて質量%で固形分5%に希釈し、光路長10mmで測定したときのヘーズ値が20%以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るルチル型酸化チタンオルガノゾルは、塩基性添加剤が、水溶性アミンであることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る高屈折率被膜形成用組成物は、本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルを含有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る光学素子は、本発明の高屈折率被膜形成用組成物を含有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る光学素子は、被膜層の鉛筆硬度が6H以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、まず、Zr、Ce、Sn、Feという屈折率の高い金属種の水和酸化物を用い、係る金属種の水和酸化物が特定の表面比率となるようにルチル型酸化チタンの表面に被覆されているので、高い屈折率を発現するコロイド粒子を得ることができる。また、コロイド粒子中のTi比率を特定の範囲とすることによって、高い透明性を保ちながら、高い屈折率を発現するコロイド粒子を得ることができる。さらに、表面処理されたルチル型酸化チタン粒子をシランカップリング剤と塩基性添加剤の存在下で解膠(分散)させているので、非水溶性溶媒中で低粘度かつ粘度の経時安定性に優れたオルガノゾルを得ることができる。
また、オルガノゾルであることから、非水溶性樹脂との相溶性も良好なものとすることができる。
【0020】
本発明に係るルチル型酸化チタンオルガノゾルによれば、塩基性添加剤に水溶性アミンを用いることによって、表面処理されたルチル型酸化チタン粒子を非水溶性の溶剤に対して効果的に解膠(分散)させることができる。
【0021】
本発明に係る高屈折率被膜形成用組成物および光学素子によれば、本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルを用いているので、高い透明性を保ちながら、高い屈折率と高い硬度を発現する被膜を形成させることができ、光学素子の薄膜化や小型化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
【0023】
(基本構成)
まず、本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルの基本構成を説明する。
本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、Zr、Ce、Sn、Feから選ばれる少なくとも1種の金属種の水和酸化物によって表面処理されたルチル型酸化チタン粒子と、シランカップリング剤と、塩基性添加剤と、非水溶性溶媒を主要成分とすることを基本構成とするものである。
このように、本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、ルチル型酸化チタンを用い、係るルチル型酸化チタンの表面をZr、Ce、Sn、Feという屈折率の高い金属種の水和酸化物で処理していることから、光触媒活性を抑制でき、かつ高い屈折率を発現するコロイド粒子を得ることができるのである。また、表面処理されたルチル型酸化チタン粒子をシランカップリング剤と塩基性添加剤の存在下で解膠させているので、粘度の経時安定性に優れたオルガノゾルを得ることができるのである。
【0024】
本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルにおけるコロイド粒子の含有比率については、所望する透明度や屈折率に応じて適宜決定されることになるが、高屈折な塗膜を得るために酸化物換算で28質量%以上含有するものであることが好ましい。なお、含有比率の上限については特に限定されるものではないが、粘度の点から酸化物換算で60質量%以下とすることが好ましい。そしてその中でも、酸化物換算で29~45質量%とすることがより好ましい。
【0025】
ここで、本発明における「酸化物換算」とは、対象とする無機成分(上記の場合においてはオルガノゾル中の無機成分(酸化チタン中のTi分、金属種の水和酸化物中の金属分、シランカップリング剤中のSi分))を酸化物として計算した場合との意である。
また、具体的には、例えば上記のルチル型酸化チタンオルガノゾルにおいては、ルチル型酸化チタンオルガノゾルを925℃で2時間加熱した際、下式によって求められる値である。
酸化物換算(%)=(加熱後のルチル型酸化チタンオルガノゾルの質量/加熱前のルチル型酸化チタンオルガノゾルの質量)×100
【0026】
本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルの粘度についても、コロイド粒子の含有比率と同様に所望する透明度や屈折率に応じて適宜決定されることになるが、25℃において15mPa・s以下であることが好ましい。
【0027】
本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、コロイド粒子が均一に安定的に分散しているので、高い透明性を発現する。具体的には、非水溶性溶媒にて質量%で固形分5%に希釈し、光路長10mmで測定したときのヘーズ値が20%以下となる。
【0028】
(コロイド粒子)
本発明に用いられるルチル型酸化チタン粒子は、上記のとおり、コロイド粒子となるルチル型酸化チタン粒子の表面がZr、Ce、Sn、Feから選ばれる少なくとも1種の金属種の水和酸化物によって表面処理されているものであるが、コロイド粒子表面における金属種の比率は、X線光電子分光分析において20~50質量%であることを必要とする。また、係る表面比率に加えて、コロイド粒子に含まれるTiの比率が酸化物換算で60質量%以上であることも必要とする。
すなわち、本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、主成分であるチタンが一定量以上存在しており、かつ表面においては金属種の水和酸化物が特定の範囲の比率で存在しているコロイド粒子を用いることが必要なのであり、係る要件を具備することで、光触媒活性を抑制でき、かつ非水溶性溶媒中で高い透明性と高い屈折率を発現するコロイド粒子を得ることができるのである。
【0029】
ここで、X線光電子分光分析は、ESCAやXPSとも呼ばれる分析法であり、試料にX線を照射して放出される光電子を分析することによって元素の定性・定量分析を行う分析法であるが、軟X線を照射することから、試料の表層部(5nm程度の深さ)に存在する元素の分析法として広く用いられている。そして、本発明においては、係るX線光電子分光分析において、コロイド粒子表面における金属種の比率が20~50質量%(より好ましくは30~40質量%)であることを必要とする。
なお、コロイド粒子表面における金属種の比率が20質量%未満または50質量%を超える場合にはルチル型酸化チタンオルガノゾルの分散安定性が低くなり、ゲル化等を引き起こす恐れがある。
【0030】
コロイド粒子に含まれるTi比率は酸化物(TiO)換算で60~99質量%であるがコロイド粒子表面における金属種の比率の点から、60~90質量%(より好ましくは85~90質量%)であることが好ましい。
【0031】
(シランカップリング剤)
本発明に用いられるシランカップリング剤は、後記する塩基性添加剤とともに表面処理されたルチル型酸化チタン粒子を安定して非水溶性溶媒に解膠させるとともに、粘度の経時安定性に優れるオルガノゾルとするためのものである。
このように、本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、ルチル型酸化チタンを特定の表面形態の酸化チタン粒子とし、係る酸化チタン粒子をシランカップリング剤および塩基性添加剤という特定の材料で解膠させることによって、透明性、屈折率、粘度の経時安定性、非水溶性樹脂との相溶性の全てを満足させることができるオルガノゾルとすることができるのである。
【0032】
なお、シランカップリング剤としては公知のものを用いることができ、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができるが、その中でも低粘度のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製できる点からアクリロキシ基、メタクリロキシ基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましく、さらにその中でも3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いることが好ましい。
また、シランカップリング剤の含有量としては特に限定されないが、チタン(TiO)に対して3~60質量%とすることが好ましく、その中でもTiOに対して5~40質量%とすることが好ましく、さらにその中でもTiOに対して20~35質量%とすることが好ましい。含有量が3質量%未満である場合にはゾル化し難い恐れがあり、60質量%を超える場合には被膜となった際の屈折率が低くなる恐れがある。
【0033】
(塩基性添加剤)
本発明に用いられる塩基性添加剤は、シランカップリング剤とともに表面処理されたルチル型酸化チタン粒子を安定して非水溶性溶媒に解膠させるとともに、粘度の経時安定性に優れるオルガノゾルとするためのものである。
【0034】
ここで、塩基性添加剤としては、塩基性の材料であれば特に限定されず、水酸化ナトリウムやアンモニア水なども用いることができるが、安定した解膠性(分散性)を発現させることができる点から水溶性アミンを用いることが好ましい。なお、水溶性アミンが安定した解膠性(分散性)を発現させるメカニズムは不明であるが、オルガノゾルとするためであるにも関わらず「非水溶性」のアミンではなく「水溶性」のアミンを用いることと、係る水溶性アミンとシランカップリング剤とを組み合わせることで、本発明に用いる表面処理されたルチル型酸化チタン粒子を「非水溶性」の溶剤に高濃度で解膠させることができるのである。
【0035】
なお、水溶性アミンとしては、tert-ブチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミンなどの水溶性アルキルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールなどの水溶性アルカノールアミン、ピリジンなどの複素環式アミン、DISPERBYK-108、DISPERBYK-109、DISPERBYK-180(ビックケミー・ジャパン株式会社製)などのアミン系分散剤などを挙げることができるが、その中でも低粘度のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製できる点からtert-ブチルアミン、DISPERBYK-108を用いることが好ましい。
また、塩基性添加剤の含有量としては特に限定されないが、チタン(TiO)に対して0.5~30質量%とすることが好ましく、その中でもTiOに対して1~20%質量%とすることが好ましい。含有量が0.5質量%未満である場合にはゾル化し難い恐れがあり、30質量%を超える場合には後記する高屈折率被膜形成用組成物とした際に、塩基性添加剤が高屈折率被膜形成用組成物中のバインダーと反応を起こしてゲル化する等の不具合が発生する恐れがある。
【0036】
(非水溶性溶媒)
本発明に用いられる非水溶性溶媒は、溶解性パラメータ(SP値、Fedors法)が10未満の非水溶性溶媒であれば良く、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、シクロヘキサノールアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのアセテート類、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など、各種の非水溶性溶媒を用いることができる。そしてその中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのアセテート類を用いることが好ましい。
【0037】
(高屈折率被膜形成用組成物)
本発明の高屈折率被膜形成用組成物は、本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルを含有するものであることから、基材に悪影響を及ぼすことなく、高透明性かつ高屈折率の被膜を形成させることができる。
本発明の高屈折率被膜形成用組成物において、本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルと混合する樹脂は熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、UV硬化樹脂等を使用できるが、特にUV硬化樹脂を使用することが好ましい。UV硬化樹脂にはベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート等の単官能および2官能の架橋性モノマーや、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリス[エチルオキシ(メタ)アクリレート]等の多官能の架橋性モノマーを挙げることが出来る。なお、これらの単官能、2官能、多官能の架橋性モノマーは1種または2種以上混合して用いることもできる。
なお、本発明の高屈折率被膜形成用組成物における本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルの含有量については、所望する屈折率に応じて適宜決定されることになるが、高屈折率の塗膜を形成させるために30~80質量%とすることが好ましい。
【0038】
(重合開始剤)
本発明の高屈折率被膜形成用組成物作成において、本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルと混合する樹脂の種類に応じて、重合開始剤を使用することになるが、重合開始剤の種類は特に限定されるものではなく、公知の重合開始剤を用いることができる。重合開始剤の種類としては、ラジカル開始剤、イオン重合開始剤、光重合開始剤が挙げられる。なお、樹脂にUV硬化樹脂を使用する場合には、光重合開始剤を用いることが好ましい。具体的には、ラジカル開始剤として、アゾイソブチルニトリル、1,1‘-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、ジ-tert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、などが挙げられ、光重合開始剤としては1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、3-ヒドロキシベンゾフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフエノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプ ロパン-1-オン、モノアシルフォスフィンオキサイド、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフエノン、2,4-ジエチルチオキサントン等を挙げることができ、これらの重合開始剤は1種または2種以上混合して用いることもできる。
【0039】
(光学素子)
本発明の光学素子は、本発明の高屈折率被膜形成用組成物による被膜層を有するものであることから、薄膜にもかかわらず高屈折率の被膜が形成された光学素子を得ることができ、光学素子の薄膜化や小型化を図ることができる。
【0040】
(製造方法)
本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルの製造方法は、(1)ルチル型酸化チタンのヒドロゾルを製造する工程、(2)Zr、Ce、Sn、Feから選ばれる少なくとも1種の金属種の水和酸化物でルチル型酸化チタンの表面を処理する工程、(3)表面処理したルチル型酸化チタンのヒドロゾルを非水溶性溶媒に溶媒置換してオルガノ懸濁液とする工程、(4)オルガノ懸濁液に塩基性添加剤およびシランカップリング剤を添加してオルガノゾルを形成する工程を備えるものである。
なお、後記するとおり、本発明の製造方法の各工程における具体的な方法(手法)は一般的なものや公知のものを用いることになるが、本発明の製造方法はその順番が重要となる。
【0041】
(ルチル型酸化チタンのヒドロゾルを製造する工程)
ルチル型酸化チタンのヒドロゾルを製造する方法については、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。一般的には、水溶性スズ化合物(ルチル化剤)を水に溶解して加熱加水分解することによって水溶性スズ化合物の一部を析出させた後、水溶性チタン化合物を添加して加水分解し、塩類を除去した後、強酸または強アルカリを配合して解膠する方法や、水溶性スズ化合物と水溶性チタン化合物を水に溶解して加水分解し、塩類を除去した後、強酸または強アルカリを配合して解膠する方法などが挙げられる。
【0042】
水溶性チタン化合物としては、硫酸チタニル、四塩化チタン、硫酸チタンなどが挙げられ、水溶性スズ化合物(ルチル化剤)としては、硫酸スズ、塩化スズ、硝酸スズなどが挙げられる。また、強酸としては、塩酸、硝酸などの一価の酸、シュウ酸などの有機酸が挙げられ、強アルカリとしては、水酸化ナトリウムや、tert-ブチルアミン、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミンなどのアミン系材料が挙げられる。
【0043】
水溶性スズ化合物の添加量については、SnOとしてルチル型酸化チタン(TiO)に対して50質量%以下である必要があり、その中でも、SnOとしてルチル型酸化チタン(TiO)に対して1~25質量%であることが好ましい。一方、強酸または強アルカリの配合量については特に限定されずゾル化する量であればよい。
【0044】
(Zr、Ce、Sn、Feから選ばれる少なくとも1種の金属種の水和酸化物でルチル型酸化チタンの表面を処理する工程)
Zr、Ce、Sn、Feから選ばれる少なくとも1種の金属種の水和酸化物でルチル型酸化チタンの表面を処理する工程についても、方法自体は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。一般的には、ルチル型酸化チタンのヒドロゾルにZr、Ce、Sn、Feから選ばれる少なくとも1種の金属種の水溶性化合物を添加し、その後、酸またはアルカリでpH調整する方法や、ルチル型酸化チタンのヒドロゾルに酸またはアルカリを用いてpHを維持しながらZr、Ce、Sn、Feから選ばれる少なくとも1種の金属種の水溶性化合物の水溶液を添加する方法などが挙げられる。
【0045】
Zr、Ce、Sn、Feから選ばれる少なくとも1種の金属種の水溶性化合物の添加量については、結果的にX線光電子分光分析において20~50質量%となる量であればよいが、ルチル型酸化チタン(TiO)に対して1~50質量%(より好ましくは8~33質量%)配合することが好ましい。
【0046】
(表面処理したルチル型酸化チタンのヒドロゾルを非水溶性溶媒に溶媒置換してオルガノ懸濁液とする工程)
表面処理したルチル型酸化チタンのヒドロゾルを非水溶性溶媒に溶媒置換してオルガノゾルとする工程(溶媒置換工程)についても、方法自体は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。一般的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)などの水溶性溶媒を用いて、表面処理したルチル型酸化チタンのヒドロゾル(懸濁液)と非水溶性溶媒を相溶させた後、限外ろ過、透析、エバポレーションなどの手法によって、溶媒置換する方法が挙げられる。また、その後、濃縮することによって、表面処理したルチル型酸化チタンの濃度を所定の濃度まで上げることもできる。
【0047】
(オルガノ懸濁液に塩基性添加剤およびシランカップリング剤を添加してオルガノゾルを形成する工程)
オルガノ懸濁液に塩基性添加剤およびシランカップリング剤を添加する工程についても、方法自体は特に限定されるものではなく、同時に添加してもよいし、別々に添加しても構わない。また、一度に添加してもよいし、徐々に添加しても構わない。
オルガノゾルを形成する工程についても、方法自体は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。一般的には、ビーズミル、ディスパー、ホモジナイザーなどの分散器具を用いて、凝集や分散不足(解膠不良)が発生しないようにすることによって形成を行う。
【0048】
(水熱処理工程)
本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルの製造方法は、さらに、コロイド粒子を高温高圧容器中で水熱処理する工程を含んでも良い。係る工程を行うことで、ルチル型酸化チタンの屈折率をより高めることができる。
水熱処理工程を行うタイミングとしては、ルチル型酸化チタンを製造する工程、ルチル型酸化チタンの表面を処理する工程、ルチル型酸化チタンのヒドロゾルを非水溶性溶媒に溶媒置換してオルガノ懸濁液とする工程、オルガノ懸濁液に塩基性添加剤およびシランカップリング剤を添加してオルガノゾルを形成する工程のいずれの工程の後でも構わないが、チタニア粒子の結晶化を促進するという点でルチル型酸化チタンを製造する工程の後が好ましい。
また、水熱処理工程における温度は100~250℃(より好ましくは150~200℃)、圧力は0.1~4MPa(より好ましくは0.5~2MPa)、処理時間は5~72時間(より好ましくは5~24時間)であることが好ましい。
【実施例
【0049】
次に、本発明に係るルチル型酸化チタンオルガノゾルを実施例および比較例に基づいて詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
(工程A:ルチル型酸化チタンのヒドロゾルの作製)
まず、硫酸チタニル303g(TiOとして100g)と、硫酸スズ6.2g(SnOとして3.0g、TiOに対して3質量%)を、1690.8gの水に溶解した後、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7.0に調整した。
次に、析出したチタン水和酸化物とスズ水和酸化物の混合物を濾別、水洗し、固形分12.0%のケーキを作製した。
最後に、このケーキ858.3gに濃塩酸278gと水863.7gを徐々に加え、攪拌しながらケーキを解膠することによって、ルチル型酸化チタンヒドロゾル2000g(TiO濃度5質量%)を作製した。
【0051】
(工程B:金属種の水和酸化物によるルチル型酸化チタン粒子の表面処理)
工程Aで得られたルチル型酸化チタンヒドロゾルに、金属種の水和酸化物の原料として、オキシ塩化ジルコニウム8水和物26.1g(ZrOとして10g、TiOに対して10質量%)を添加した。
次に、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH6.0に調整し、析出物を濾別、水洗したのち、水を添加することによって、ジルコニウムの水和酸化物で表面処理されたルチル型酸化チタン粒子の懸濁液1000g(TiO濃度10質量%)を作製した。
【0052】
(工程C:ルチル型酸化チタンオルガノゾルの作製)
工程Bで得られた懸濁液に、イソプロパノール1000gを加え、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート1000gと相溶させた後、段階的にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを添加しながら、限外ろ過を行い、全量が383g(無機系酸化物含有率(酸化物換算)の計算値が30質量%)となるように溶媒置換した。
次に、シランカップリング剤として3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン20g(TiOに対して20質量%)と、塩基性添加剤としてtert-ブチルアミン5g(TiOに対して5質量%)を加え、ビーズミルで分散処理を行うことによって、実施例1のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0053】
(実施例2)
工程Cにおいて、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランの添加量を35g(TiOに対して35質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0054】
(実施例3)
工程Bにおいて、オキシ塩化ジルコニウム8水和物の添加量を130.5g(ZrOとして50g、TiOに対して50質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0055】
(実施例4)
工程Bにおいて、金属種の水和酸化物の原料をオキシ塩化ジルコニウム8水和物から塩化スズ17.3g(SnOとして10g、TiOに対して10質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0056】
(実施例5)
工程Cにおいて、tert-ブチルアミンの添加量を10g(TiOに対して10質量%)に変更したこと以外は実施例4と同様にして、実施例5のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0057】
(実施例6)
工程Cにおいて、塩基性添加剤をtert-ブチルアミンからアミン系分散剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製:DISPERBYK-108、TiOに対して5質量%)に変更したこと以外は実施例4と同様にして、実施例6のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0058】
(実施例7)
工程Cにおいて、シランカップリング剤を3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランから3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに変更したこと以外は実施例4と同様にして、実施例7のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0059】
(実施例8)
工程Cにおいて、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで、全量が256g(無機系酸化物含有率の計算値が45質量%)になるように溶媒置換すること以外は実施例7と同様にして、実施例8のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0060】
(実施例9)
工程Cにおいて、非水溶性溶媒をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからメチルエチルケトンに変更したこと以外は実施例7と同様にして、実施例9のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0061】
(実施例10)
工程Cにおいて、非水溶性溶媒をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから酢酸エチルに変更したこと以外は実施例7と同様にして、実施例10のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0062】
(実施例11)
工程Cにおいて、非水溶性溶媒をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからメチルイソブチルケトンに変更したこと以外は実施例7と同様にして、実施例11のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0063】
(実施例12)
工程Cにおいて、非水溶性溶媒をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからメチルアミルケトンに変更したこと以外は実施例7と同様にして、実施例12のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0064】
(実施例13)
工程Cにおいて、非水溶性溶媒をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからトルエンに変更したこと以外は実施例7と同様にして、実施例13のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0065】
(実施例14)
工程Aにおいて、得られたルチル型酸化チタンヒドロゾルを水熱処理(温度:200℃、処理時間:10時間、圧力:1.6MPa、装置名:オーエムラボテック社製高圧マイクロリアクター MMJ-200)したこと以外は実施例7と同様にして、実施例14のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0066】
(比較例1)
工程Bにおいて、オキシ塩化ジルコニウム8水和物を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0067】
(比較例2)
工程Bにおいて、塩化スズの添加量を206g(SnOとして60g、TiOに対して60質量%)に変更したこと以外は実施例4と同様にして、比較例2のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0068】
(比較例3)
工程Cにおいて、塩基性添加物、シランカップリング剤を添加せず、有機系分散剤50g(ビックケミー・ジャパン株式会社製:DISPERBYK-111、TiOに対して50質量%)を添加したこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のルチル型酸化チタンオルガノゾルの製造を試みたが、製造中にゲル化してしまい、ルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製することができなかった。
【0069】
(比較例4)
工程Cにおいて、tert-ブチルアミンを添加しなかったこと以外は実施例4と同様にして、比較例4のルチル型酸化チタンオルガノゾルの製造を試みたが、ゾル化を行うことができず、ルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製することができなかった。
【0070】
(比較例5)
工程Aにおいて、硫酸スズの添加量を155g(SnOとして75g、TiOに対して75質量%)に変更に変更すること以外は実施例4と同様にしてルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した。
【0071】
(物性値の測定および粘度の経時安定性およびヘーズ値の評価)
実施例1~14および比較例1~5のルチル型酸化チタンオルガノゾルについて、物性値の測定および粘度の経時安定性およびヘーズ値の評価を行った。各物性値の測定方法を以下に示すとともに、結果を表1に示す。

乾燥固形分:1g程度の一定量(W)のルチル型酸化チタンオルガノゾルを乾燥皿に測り取り、150℃で2時間加熱することで乾固させ、乾固質量(w)を測定し、下式に基づいて計算した。
乾燥固形分(%)=(w/W)×100

強熱残分(酸化物換算):1g程度の一定量(W)のルチル型酸化チタンオルガノゾルを乾燥皿に測り取り、925℃で2時間加熱した後の残分質量(h)を測定し、下式に基づいて計算した。
強熱残分(%)=(h/W)×100

コロイド粒子の表面における金属種の比率:X線光電子分光装置(島津製作所社製:ESCA-3400)を用いて測定した。

平均粒子径:実施例1~14および比較例1~5のルチル型酸化チタンオルガノゾルを、各ルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した際に使用した非水溶性溶媒にて固形分5質量%に希釈し、係る希釈液をゼータ電位計・粒子径測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-1000)を用いて測定し、D50の値を平均粒子径とした。

粘度:レオメーター(サーモフィッシャ-サイエンティフィック社製:HAAKE MARS60、6cmコーンプレート、回転数60rpm)を用い、25℃における粘度を測定した。

粘度の経時安定性:ルチル型酸化チタンオルガノゾルを密閉容器に入れ、40℃の恒温機にて2週間静置した時、レオメーター(サーモフィッシャ-サイエンティフィック社製:HAAKE MARS60、6cmコーンプレート、回転数60rpm)を用い、25℃における粘度を測定した。

ヘーズ値(HAZE値):実施例1~14および比較例1~5のルチル型酸化チタンオルガノゾルを、各ルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した際に使用した非水溶性溶媒にて固形分5質量%に希釈し、係る希釈液を光路長10mmの石英セルに入れ、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製ヘーズメーター:NDH-4000)でヘーズ値を測定した。
【0072】
【表1】
【0073】
その結果、表1に示すとおり、実施例1~14のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、初期粘度が低く、粘度の経時安定性も良好であり、透明性も高いオルガノゾルが得られた。
これに対して、比較例1のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、硫酸スズ(ルチル化剤)由来のSnは存在するものの金属種(Sn)の割合が低いことから、初期粘度が高く、経時における粘度上昇も大きい、不安定なルチル型酸化チタンオルガノゾルとなった。また、解膠が不十分であることから、コロイド粒子の平均粒子径も大きく、ヘーズ値が高い、透明性についても劣るルチル型酸化チタンオルガノゾルとなった。
比較例2のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、金属種の表面比率が高過ぎることから、初期粘度が高く、経時における粘度上昇も大きい、不安定なルチル型酸化チタンオルガノゾルとなった。また、解膠が不十分であることから、コロイド粒子の平均粒子径も大きく、ヘーズ値が高い、透明性についても劣るルチル型酸化チタンオルガノゾルとなった。
比較例3のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、分散剤(DISPERBYK-111)を多量に用いていることから、非水溶性溶媒への解膠自体は行うことができたが、シランカップリング剤および塩基性添加剤を用いていないことから、作製中にゲル化を起こしてしまった。
比較例4のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、シランカップリング剤は用いているものの塩基性添加剤を用いていないことから、非水溶性溶媒への解膠(ゾル化)自体が出来なかった。
比較例5のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、コロイド粒子中のTi比率が低いことから、ヘーズ値が高い、透明性が著しく劣るルチル型酸化チタンオルガノゾルとなった。また、初期粘度が高く、経時における粘度上昇も大きい、不安定なルチル型酸化チタンオルガノゾルとなった。
【0074】
(高屈折率被膜形成用組成物の作製:実施例15~28、比較例6~10)
実施例1~14および比較例1~5の各ルチル型酸化チタンオルガノゾルを用いて、高屈折率被膜形成用組成物を作製した。
まず、UV硬化樹脂(商品名:紫光UV-7605B、三菱ケミカル株式会社製、URL:https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/coating-mat/tech/1205785_9232.html、多官能のウレタンアクリレート樹脂、鉛筆硬度3H~4H)16.7gを、各実施例および各比較例のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した際に使用した非水溶性溶媒9.0gに溶解した(樹脂A)。
次に、重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.3gとビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド0.3gを、各実施例および各比較例のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した際に使用した非水溶性溶媒7.0gに溶解した(重合開始剤A)。
次に、樹脂A25.7gと重合開始剤A7.6gを混合してバインダーを作製した。
最後に、実施例1~14および比較例1~5のルチル型酸化チタンオルガノゾル100g、各実施例および各比較例のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した際に使用した非水溶性溶媒50g、バインダー33.3gを混合することによって、実施例15~28および比較例6~10の高屈折率被膜形成用組成物を作製した。
【0075】
UV硬化樹脂をフェノキシエチル(メタ)アクリレート(鉛筆硬度2H)に変更したこと以外は実施例21と同様にして、実施例29の高屈折率被膜形成用組成物を作製した。
【0076】
UV効果樹脂をフェノキシエチル(メタ)アクリレート(鉛筆硬度2H)に変更したこと以外は比較例8と同様にして、比較例11の高屈折率被膜形成用組成物を作製した、
【0077】
(粘度およびヘーズ値の評価)
実施例15~29および比較例6~11の高屈折率被膜形成用組成物について、25℃における粘度と、各実施例および各比較例のルチル型酸化チタンオルガノゾルを作製した際に使用した非水溶性溶媒にて固形分5質量%に希釈し、光路長10mmで測定したときのヘーズ値を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
その結果、表2に示すとおり、実施例15~29の高屈折率被膜形成用組成物は、初期粘度が低く透明性も高い高屈折率被膜形成用組成物が得られた。
これに対して、比較例6、7の高屈折率被膜形成用組成物は、金属種の割合が低かったり、金属種の表面比率が高過ぎたりすることから、透明性、粘度ともに劣る高屈折率被膜形成用組成物となった。
比較例8、11の高屈折率被膜形成用組成物は、ゲル化したルチル型酸化チタンオルガノゾルを用いていることから、透明性に劣り、粘度が著しく劣る高屈折率被膜形成用組成物となった。
比較例9の高屈折率被膜形成用組成物は、ゾル化が出来なかったルチル型酸化チタンオルガノゾルを用いているため、透明性が著しく劣る高屈折率被膜形成用組成物となった。
比較例10の高屈折率被膜形成用組成物は、コロイド粒子中のTi比率が低いルチル型酸化チタンオルガノゾルを用いているため、透明性、粘度ともに劣る高屈折率被膜形成用組成物となった。
【0080】
(光学素子の作製:実施例30~44、比較例12~17)
実施例15~29および比較例6~11の各高屈折率被膜形成用組成物を用いて、光学素子を作製した。
まず、実施例15~29および比較例6~11の各高屈折率被膜形成用組成物を、70mm×55mm×1.3mmのミクロスライドガラスプレート(松浪硝子工業株式会社製)に、温度25℃、湿度50%の環境下で、500rpm×3秒の条件でスピンコートした。
次に、80℃で30分乾燥した後、580mJ/cmの紫外線を照射することによって、表層に膜厚2μmの被膜層を形成した、実施例30~44および比較例12~17の光学素子を作製した。
【0081】
(ヘーズ値、屈折率、鉛筆硬度の評価)
実施例30~44および比較例12~17の光学素子について、ヘーズ値、屈折率、鉛筆硬度の評価を行った。
具体的には、ヘーズ値については、高屈折率皮膜形成用組成物を塗布したガラス板をヘーズメーター(日本電色工業株式会社製ヘーズメーター:NDH-4000)を用いて測定することによって評価を行った。
屈折率については、高屈折率皮膜形成用組成物を塗布したガラス板をエリプソメーター(株式会社溝尻光学研究所製:DVA-FL3G、波長633nm)にて測定することによって評価を行った。
鉛筆硬度については、JISK5600-5-4に則って評価した。具体的には、電動鉛筆引っかき硬度試験機(株式会社安田精機製作所:No.553-M)を用い、H~9Hの試験用鉛筆で9.8Nの荷重にて引っかき、その後、目視で傷が確認された箇所が0~2箇所であった鉛筆の硬度のうち、最も硬度の高い鉛筆硬度を評価結果とした。
【0082】
【表3】
【0083】
その結果、表3に示すとおり、実施例30~44の光学素子は、透明性が高く、かつ屈折率の高い被膜層が形成された光学素子が得られた。特に、実施例43の光学素子は、水熱処理を行ったルチル型酸化チタンオルガノゾルを含有する高屈折率被膜形成用組成物を用いているため、より屈折率の高い被膜層が形成された光学素子が得られた。
また、被膜層は、ルチル型酸化チタンオルガノゾルの粒子表面に存在するシランカップリング剤がUV硬化樹脂と重合することで強固なネットワークを形成することから、被膜層の鉛筆硬度はUV硬化樹脂自体が持つ鉛筆硬度(4Hや2H)を上回る硬度となる、という優れたものとなった。特に、UV硬化樹脂が単官能型の架橋性モノマーであっても鉛筆硬度が6Hという優れた鉛筆硬度を示すものとなった。
これに対して、比較例12、13、14、16、17の光学素子は、コロイド粒子の凝集が認められ、塗膜のヘーズ値が高いため、大きな屈折率の向上は認められなかった。
さらに、比較例14、17の光学素子は、シランカップリング剤の代わりに有機系分散剤を使用したルチル型酸化チタンオルガノゾルを用いたものであることから、UV硬化樹脂との重合が発生せず、被膜層の鉛筆硬度はUV硬化樹脂自体が持つ鉛筆硬度(4Hや2H)から変わらないまま、という結果となった。
比較例15の光学素子は、膜の平滑性が得られなかったため屈折率が計測できない被膜層が形成された光学素子となった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のルチル型酸化チタンオルガノゾルは、光学部品の反射防止膜、撮像素子用薄膜、ハードコート膜などに用いることができる。