(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】短繊維化アニオン変性セルロース繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 15/04 20060101AFI20231211BHJP
D01F 2/02 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C08B15/04
D01F2/02
(21)【出願番号】P 2019105933
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2018110032
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 穣
(72)【発明者】
【氏名】大和 恭平
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/030310(WO,A1)
【文献】特開2008-019344(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047218(WO,A1)
【文献】特開2017-203063(JP,A)
【文献】特開2017-110085(JP,A)
【文献】特開2009-298972(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105713099(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104448007(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105153316(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン変性セルロース繊維を、
酸解離定数pKa(多価有機酸の場合はpKa1)が-5.0以上4.0以下の有機酸を含有する溶媒中で糖鎖を切断する工程を含
み、前記溶媒中の無機酸の合計量が0.001質量%以下である、平均繊維長が1μm以上500μm以下である短繊維化アニオン変性セルロース繊維の製造方法。
【請求項2】
アニオン変性セルロース繊維の平均繊維長が700μm以上10000μm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アニオン性基含有セルロース繊維におけるアニオン性基の量が0.2mmol/g以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基がカルボキシ基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
糖鎖切断工程における処理液中のアニオン変性セルロース繊維の含有量と有機酸の含有量の比率〔アニオン変性セルロース繊維/有機酸〕が1/10以上1/0.1以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された短繊維化アニオン変性セルロース繊維に炭化水素基及び
共重合部からなる群より選択される1種以上の修飾基を導入する工程を含む、改質セルロース繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された短繊維化アニオン変性セルロース繊維、又は請求項6に記載の製造方法によって製造された改質セルロース繊維を微細化処理する工程を含む、平均繊維長が50nm以上300nm以下である微細セルロース繊維の製造方法。
【請求項8】
平均繊維長が400nm以上2000nm以下のアニオン変性セルロース繊維を、
酸解離定数pKa(多価有機酸の場合はpKa1)が-5.0以上4.0以下の有機酸を含有する溶媒中で糖鎖を切断する工程を含
み、前記溶媒中の無機酸の合計量が0.001質量%以下である、平均繊維長が50nm以上300nm以下である微細セルロース繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短繊維化アニオン変性セルロース繊維の製造方法及び当該製造方法で得られた短繊維化アニオン変性セルロース繊維を用いた改質セルロース繊維の製造方法、並びに微細セルロース繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限な資源である石油由来のプラスチック材料が多用されていたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を用いた材料が注目されている。
【0003】
通常、微細セルロース繊維の分散液は高粘度であり、樹脂を含有する塗料と混合すると著しく増粘し、塗工が困難となる。そのため上記のような系で用いる際は低粘度である微細セルロース繊維の分散液を用いる必要がある。
【0004】
低粘度の微細セルロース繊維の分散液を得る手法としては、無機酸、アルカリ、酵素などを用いた化学処理や機械処理によって原料セルロース繊維の繊維長を短くする方法が知られている。
【0005】
例えば、原料セルロース繊維を短くする方法として、特許文献1には酸化パルプに塩酸を添加、加熱して酸加水分解を行う方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には酸化パルプに酵素の一種であるセルラーゼを作用させて、加水分解処理を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-275659号公報
【文献】特開2010-235679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、腐食性が高く、取り扱い性の低い塩酸を用いており、安全性に課題がある。また、特許文献2では、酵素を用いているために高価なプロセスとなる。従って、より安価かつ簡易な製造方法が求められるところである。
【0009】
本発明は、安価かつ簡易な短繊維化アニオン変性セルロース繊維の製造方法に関する。また、当該製造方法で得られた短繊維化アニオン変性セルロース繊維を用いた改質セルロース繊維の製造方法、及び微細セルロース繊維の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の〔1〕~〔4〕に関する。
〔1〕アニオン変性セルロース繊維を、有機酸を含有する溶媒中で糖鎖を切断する工程を含む、平均繊維長が1μm以上500μm以下である短繊維化アニオン変性セルロース繊維の製造方法。
〔2〕〔1〕に記載の製造方法によって製造された短繊維化アニオン変性セルロース繊維に修飾基を導入する工程を含む、改質セルロース繊維の製造方法。
〔3〕〔1〕に記載の製造方法によって製造された短繊維化アニオン変性セルロース繊維、又は〔2〕に記載の製造方法によって製造された改質セルロース繊維を微細化処理する工程を含む、平均繊維長が50nm以上300nm以下である微細セルロース繊維の製造方法。
〔4〕平均繊維長が400nm以上2000nm以下のアニオン変性セルロース繊維を、有機酸を含有する溶媒中で糖鎖を切断する工程を含む、平均繊維長が50nm以上300nm以下である微細セルロース繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安価かつ簡易な短繊維化アニオン変性セルロース繊維の製造方法を提供することができる。また、当該製造方法で得られた短繊維化アニオン変性セルロース繊維を用いた改質セルロース繊維の製造方法、及び微細セルロース繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らが前記課題について検討したところ、驚くべきことに、セルロース繊維にアニオン性基が導入されたセルロース繊維を、有機酸を含有する溶媒中で処理することで、無機酸、アルカリ、酵素などを用いることなく短繊維化できることを見出した。このメカニズムは不明であるが、アニオン性基の導入により糖鎖が切断されやすくなったためであると推定される。また、無機酸として塩酸を用いた場合には、耐腐食性の設備が必要になってくるだけではなく、セルロース繊維への著しい着色が問題となることがあったが、有機酸を含有する溶媒中で処理することで、耐着色性に優れ、白色性が高い短繊維化アニオン変性セルロース繊維が得られること、かかる製造方法で得られた白色性の高い短繊維化アニオン変性セルロース繊維を更に微細化処理することで、透明性の高い微細セルロース繊維を得ることができることについても新たに見出した。
【0013】
〔短繊維化アニオン変性セルロース繊維の製造方法〕
本発明の短繊維化アニオン変性セルロース繊維の製造方法は、アニオン変性セルロース繊維を、有機酸を含有する溶媒中で糖鎖を切断する工程(以下、「糖鎖切断工程」とも称する)を含む。当該糖鎖切断工程により、従来のような無機酸による分解、アルカリ分解、酵素による分解によらずとも、有機酸によりアニオン変性セルロース繊維の糖鎖を切断することができるため、安価かつ簡易な製造方法とすることができる。
【0014】
糖鎖切断工程に用いられるアニオン変性セルロース繊維としては、原料のセルロース繊維にアニオン性基が導入された繊維を使用することができる。原料のセルロース繊維としては、環境面から好ましくは天然セルロース繊維であり、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられる。また、アニオン性基としては、糖鎖切断効率の観点から、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基が好ましく、カルボキシ基がより好ましい。このようなアニオン変性セルロース繊維は、後述するアニオン性基の導入工程で得られたものを使用してもよいし、別途調製されたアニオン変性セルロース繊維を使用してもよい。
【0015】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)としては、例えば、製造時のアルカリ存在下で生じるナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン及びアルミニウムイオン等の金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン等のオニウムイオンや、これらの金属イオンを酸で置換して生じるプロトン等が挙げられる。糖鎖切断効率の観点から、ナトリウムイオン、プロトンが好ましく、プロトンがより好ましい。
【0016】
糖鎖切断工程に用いられるアニオン変性セルロース繊維の平均繊維長、平均繊維径は特に限定されるものではない。平均繊維長は、好ましくは700μm以上であり、また、好ましくは10000μm以下であり、より好ましくは5000μm以下であり、更に好ましくは3000μm以下である。平均繊維径は、好ましくは5μm以上であり、また、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下であり、更に好ましくは100μm以下である。アニオン変性セルロース繊維の平均繊維長、平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0017】
糖鎖切断工程に用いられるアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量は、糖鎖切断効率の観点から、好ましくは0.2mmol/g以上であり、より好ましくは0.4mmol/g以上であり、更に好ましくは0.6mmol/g以上であり、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性及びコストの観点から、好ましくは3.0mmol/g以下であり、より好ましくは2.7mmol/g以下であり、更に好ましくは2.5mmol/g以下であり、更に好ましくは2.0mmol/g以下である。アニオン性基の含有量は、例えば、後述する追酸化処理や還元処理などによって調整することができる。なお、「アニオン性基含有量」とは、アニオン変性セルロース繊維を構成するセルロース中のアニオン性基の総量を意味し、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0018】
糖鎖切断工程に用いられる有機酸を含有する溶媒としては、実質的に無機酸、アルカリ、酵素などを含まない溶媒を使用することができる。ここで、有機酸としては、例えばカルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、(芳香族)スルホンアミドなどが挙げられる。その他、フェノール、エノール、チオフェノール、オキシムなども有機酸として用いることができる。カルボン酸としては飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸などが挙げられる。カルボン酸におけるカルボキシ基の数は限定されず、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸のいずれであってもよい。飽和脂肪酸としては、酢酸などが挙げられる。芳香族カルボン酸としては、サリチル酸などが挙げられる。ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸などが挙げられる。また、置換基を有するヒドロキシ酸などのカルボン酸であってもよく、乳酸、リンゴ酸、クエン酸などが挙げられる。スルホン酸としてはトシル酸などが挙げられる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、取り扱い性の観点から、リンゴ酸、クエン酸、マレイン酸が好ましい。また、酸強度の観点から、有機酸の酸解離定数pKa(多価有機酸の場合はpKa1)が、好ましくは-5.0以上4.0以下である。また、溶媒としては、例えば、水、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、イソプロパノール(IPA)などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、取り扱い性及びコストの観点から、水が好ましい。実質的に無機酸を含まない溶媒としては、好ましくは溶媒中の無機酸の合計量が0.001質量%以下であり、より好ましくは0.0001質量%以下である溶媒が挙げられるが、意図せずに混入した極微量の不純物として無機酸を含む溶媒も使用できる。同様に実質的にアルカリを含まない溶媒としては、好ましくは溶媒中のアルカリの合計量が0.01質量%以下であり、より好ましくは0.001質量%以下である溶媒が挙げられるが、意図せずに混入した極微量の不純物としてアルカリを含む溶媒であれば使用でき、実質的に酵素を含まない溶媒としては、好ましくは溶媒中の酵素の合計量が0.01質量%以下であり、より好ましくは0.001質量%以下である溶媒が挙げられるが、意図せずに混入した極微量の不純物として酵素を含む溶媒であれば使用できる。
【0019】
糖鎖切断工程に用いられる有機酸の炭素数は、耐着色性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは4以上である。
【0020】
糖鎖切断工程における処理液は、アニオン変性セルロース繊維と有機酸を含有する溶媒とを含むものであるが、任意に無機塩類、無機微粒子、有機微粒子、界面活性剤、防腐剤などを含んでいてもよい。糖鎖切断工程における処理液中のアニオン変性セルロース繊維の含有量は、生産性の観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上であり、更に好ましくは5.0質量%以上であり、また、取り扱い性の観点から、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下である。また、処理液中の有機酸の濃度は、反応効率の観点から、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、また、廃液処理の観点から、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下である。
【0021】
糖鎖切断工程における処理液中のアニオン変性セルロース繊維の含有量と有機酸の含有量の比率〔アニオン変性セルロース繊維/有機酸〕は反応効率の観点から、好ましくは1/0.1以下であり、より好ましくは1/0.3以下であり、また、生産性の観点から、好ましくは1/25以上であり、より好ましくは1/10以上である。
【0022】
糖鎖切断工程の処理温度としては、生産性の観点から、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは65℃以上である。常圧で溶媒が水を含む溶媒の場合、処理速度の観点から、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは70℃以上であり、更に好ましくは80℃以上である。常圧における沸点及びコストの観点から、好ましくは110℃以下であり、より好ましくは105℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。なお、糖鎖切断工程は加圧下で行ってもよい。
【0023】
糖鎖切断工程の処理時間としては、短繊維化アニオン変性セルロース繊維を得る観点から、好ましくは30分以上であり、より好ましくは1時間以上であり、更に好ましくは2時間以上であり、更に好ましくは4時間以上である。また、上限は特に限定されないが、生産性の観点から、好ましくは1000時間以下であり、より好ましくは500時間以下であり、更に好ましくは100時間以下であり、更に好ましくは50時間以下、更に好ましくは10時間以下である。なお、処理時間とは、処理温度に到達して、処理温度の条件を維持している時間を指す。
【0024】
糖鎖切断工程の処理圧力としては、設備負荷低減の観点から、好ましくは0.02MPa以上であり、より好ましくは0.04MPa以上であり、更に好ましくは0.08MPa以上であり、また、同様の観点から、好ましくは0.25MPa以下であり、より好ましくは0.20MPa以下であり、更に好ましくは0.12MPa以下である。
【0025】
本発明の短繊維化アニオン変性セルロース繊維の製造方法は、原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入する工程を更に含むことができる。ここで、アニオン性基の導入工程としては、公知の方法を使用することができる。例えば、カルボキシ基を導入する場合には、原料のセルロース繊維に対して、触媒として2,2,6,6,-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を使用し、更に次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を併用して酸化する方法などを用いることができる。TEMPOを触媒として原料のセルロース繊維の酸化を行うことにより、セルロース構成単位のC6位の基(-CH2OH)が選択的にカルボキシ基に変換される。なお、更に追酸化処理又は還元処理を行うことで、アルデヒドを除去してもよいし、更に精製処理を行って純度の高いカルボキシ基含有セルロース繊維を得ることもできる。また、スルホン酸基を導入する方法としては、原料のセルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。また、リン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態の原料のセルロース繊維に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、原料のセルロース繊維の分散液にリン酸又はリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の短繊維化アニオン変性セルロース繊維の製造方法では、糖鎖切断効率の観点から、糖鎖切断工程の前処理工程あるいは後処理工程として、無機酸、アルカリ、酵素などを用いた従来の分解処理工程を併用することもできるが、コストや環境負荷の観点からは、糖鎖切断工程のみであることが好ましい。
【0027】
〔短繊維化アニオン変性セルロース繊維〕
かくして短繊維化アニオン変性セルロース繊維が得られる。本発明の製造方法で得られる短繊維化アニオン変性セルロース繊維の平均繊維長は、1μm以上であり、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、また、500μm以下であり、好ましくは400μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。短繊維化アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.1μm以上であり、また、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは100μm以下である。短繊維化アニオン変性セルロース繊維の平均繊維長、平均繊維径は、後述の実施例に記載の方法により測定される。また、本発明の製造方法で得られる短繊維化アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量や、カウンターイオンについては、糖鎖切断工程に用いられるアニオン変性セルロース繊維と同様であるが、必要に応じて適宜変更することができる。
【0028】
短繊維化アニオン変性セルロース繊維は、その原料として天然セルロース繊維を使用していることに起因して、セルロースI型結晶構造を有している。セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうちのセルロースI型結晶領域量の占める割合のことを意味する。
【0029】
短繊維化アニオン変性セルロース繊維のセルロースI型結晶化度は、機械物性発現の観点から、好ましくは30%以上であり、また、短繊維化アニオン変性セルロース繊維を得る観点から、好ましくは95%以下である。なお、本明細書において、セルロースI型結晶化度は、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0030】
本発明の製造方法で得られる短繊維化アニオン変性セルロース繊維は、更に微細化処理をすることで、高濃度でありながら粘度が低くハンドリング性に優れる微細化セルロース繊維を含有する分散体を調製可能であり、日用雑貨品、家電部品、家電部品用梱包資材、自動車部品、三次元造形用材料等の様々な工業用途に好適に使用することができる。即ち、本発明においては、短繊維化アニオン変性セルロース繊維、又は後述する改質セルロース繊維を微細化処理する工程を含む、平均繊維長が好ましくは50nm以上300nm以下である微細セルロース繊維の製造方法についても提供するものである。
【0031】
〔微細セルロース繊維の製造方法〕
本発明の製造方法で得られる短繊維化アニオン変性セルロース繊維は、必要に応じて更に微細化処理を行いナノスケールの微細セルロース繊維(ナノファイバー)として使用することができる。更なる微細化処理としては、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いた機械的な微細化処理などが挙げられる。
【0032】
本発明の製造方法で得られる短繊維化アニオン変性セルロース繊維をナノファイバー化すると、従来の無機酸、アルカリ、酵素などを用いた加水分解処理を経て得られる微細セルロース繊維と同様に、繊維を低アスペクト比化することができ、低粘度の分散液を得ることができる。このような微細セルロース繊維としては、平均繊維長が好ましくは50nm以上300nm以下であり、平均繊維径が好ましくは2nm以上10nm以下であり、低粘度の分散体を得る観点から、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が、好ましくは5以上であり、より好ましくは20以上であり、また、好ましくは150以下であり、より好ましくは100以下である。このような微細セルロース繊維の平均繊維長、平均繊維径、平均アスペクト比は、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて測定することができる。
【0033】
本発明における微細セルロース繊維の他の製造態様として、ナノファイバー化されたアニオン変性セルロースを原料に用いる態様も挙げられる。より具体的には、平均繊維長が400nm以上2000nm以下のアニオン変性セルロース繊維を、有機酸を含有する溶媒中で糖鎖を切断する工程を含む、平均繊維長が50nm以上300nm以下である微細セルロース繊維の製造方法が挙げられる。なお、原料であるナノファイバー化されたアニオン変性セルロース繊維は公知の方法で調製することができる。
【0034】
〔改質セルロース繊維の製造方法〕
また、本発明の製造方法で得られる短繊維化アニオン変性セルロース繊維は、必要に応じて更に任意の修飾基で改質して使用することもできる。以下に、本発明の製造方法で得られる短繊維化アニオン変性セルロース繊維を用いた、改質セルロース繊維の製造方法を説明する。
【0035】
本発明の改質セルロース繊維の製造方法は、短繊維化アニオン変性セルロース繊維に修飾基を導入する工程を含む。なお、任意に、修飾基の導入工程の前、あるいは後における繊維を溶媒中に分散させて機械的な微細化処理を行い、改質された微細セルロース繊維を製造することもできる。
【0036】
修飾基の導入工程は、公知の方法で行うことができ、修飾用の化合物としては、アニオン性基又は水酸基との結合様式に応じて適切なものを選択すればよい。
【0037】
例えば、結合様式がイオン結合の場合には、修飾用の化合物として第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物等が挙げられる。これらの化合物には、修飾基として各種の炭化水素基、例えば鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基等の炭化水素基や、共重合部位等を導入することができる。これらの基や部位は単独で又は2種以上を組み合わせて導入されていてもよい。
【0038】
結合様式が共有結合の場合には、アニオン性基を修飾するか、あるいは水酸基を修飾するかに応じて適切な修飾用の化合物が用いられる。アニオン性基を修飾する場合、例えばアミド結合を介して修飾する場合には、修飾用の化合物として例えば第1級アミン及び第2級アミンを用いることが好ましい。エステル結合を介して修飾する場合には、修飾用の化合物として例えばブタノール、オクタノール及びドデカノール等のアルコールを用いることが好ましい。ウレタン結合を介して修飾する場合には、修飾用の化合物として例えばイソシアネート化合物を用いることが好ましい。これらの化合物には、修飾基として各種の炭化水素基、例えば鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基等の炭化水素基や、共重合部位等を導入することができる。これらの基や部位は単独で又は2種以上を組み合わせて導入されていてもよい。
【0039】
水酸基を修飾する場合、例えばエステル結合を介して修飾する場合には、修飾用の化合物として例えば酸無水物(例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸)や、酸ハライド(例えば、カプリル酸クロライド、ラウリン酸クロライド及びステアリン酸クロライド)を用いることが好ましい。エーテル結合を介して修飾する場合には、修飾用の化合物として例えばエポキシ化合物(例えば、酸化アルキレン及びアルキルグリシジルエーテル)、アルキルハライド並びにその誘導体(例えばメチルクロライド、エチルクロライド及びオクタデシルクロライド)が好ましい。ウレタン結合を介して修飾する場合には、修飾用の化合物として例えばイソシアネート化合物を用いることが好ましい。これらの化合物には、修飾基として各種の炭化水素基、例えば鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基等の炭化水素基や、共重合部位等を導入することができる。これらの基や部位は単独で又は2種以上を組み合わせて導入されていてもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。なお、この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「室温」とは25℃を示す。
【0041】
〔セルロース繊維、アニオン変性セルロース繊維および短繊維化アニオン変性セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長〕
測定対象のセルロース繊維にイオン交換水を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:11.185μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:1000μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定する。セルロース繊維を10000本以上測定し、それらの平均ISO繊維径を平均繊維径をとして、平均ISO繊維長を平均繊維長として算出する。
【0042】
〔アニオン変性セルロース繊維、短繊維化アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基含有量〕
乾燥質量0.5gの、測定対象のセルロース繊維を100mLビーカーにとり、イオン交換水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製する。セルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名:AUT-710)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定する。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出する。
アニオン性基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)
【0043】
〔分散体又は分散液中の固形分含有量〕
ハロゲン水分計(島津製作所社製、商品名:MOC-120H)を用いて行う。サンプル1gに対して150℃恒温で30秒ごとの測定を行い、質量減少が0.1%以下となった値を固形分含有量とする。
【0044】
〔短繊維化アニオン変性セルロース繊維における結晶構造の確認〕
短繊維化アニオン変性セルロース繊維の結晶構造は、X線回折計(リガク社製、「RigakuRINT 2500VC X-RAY diffractometer」)を用いて以下の条件で測定することにより確認する。
測定条件は、X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:40kv、管電流:120mA、測定範囲:回折角2θ=5~45°、X線のスキャンスピード:10°/minとする。測定用サンプルは面積320mm2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製する。また、セルロースI型結晶構造の結晶化度は得られたX線回折強度を、以下の式(A)に基づいて算出する。
セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6-I18.5)/I22.6]×100 (A)
〔式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【0045】
〔アニオン変性セルロース繊維の調製〕
調製例1(広葉樹の酸化パルプ)
ユーカリ由来の広葉樹漂白クラフトパルプ(CENIBRA社製)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。
【0046】
まず、広葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、該パルプ質量100gに対し、TEMPO1.6g、臭化ナトリウム10g、次亜塩素酸ナトリウム28.4gをこの順で添加した。自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名:AUT-701)でpHスタット滴定を用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持した。反応を30分(20℃)行った後、水酸化ナトリウムの滴下を停止し、酸化セルロース繊維を得た。得られた酸化セルロース繊維を希塩酸を添加しカウンターイオンをナトリウムイオンからプロトンへと変換した後、イオン交換水で十分に洗浄し、次いで脱水処理を行い、固形分25.7%の酸化セルロース繊維を得た。この酸化セルロース繊維の平均繊維径は39μm、平均繊維長は1003μm、カルボキシ基含有量は1.0mmol/gであった。
【0047】
実施例1
〔短繊維化アニオン変性セルロース繊維の調製〕
マグネティックスターラー、攪拌子を備えたバイアル瓶に、調製例1で得られたアニオン変性セルロース繊維を絶乾質量で0.72g仕込んだ。続いて、リンゴ酸(和光純薬工業社製)を3.6g仕込み、処理液の質量が36gとなるまで、イオン交換水を添加した。処理液を90℃で6時間反応させることで、短繊維化アニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を得た。この短繊維化アニオン変性セルロース繊維の平均繊維長は180μm、平均繊維径は42μmであった。また、この短繊維化アニオン変性セルロース繊維のセルロースI型結晶化度は74%であった。
【0048】
実施例2~9、比較例2
表1に記載の条件とした以外は実施例1と同様の方法で、短繊維化アニオン変性セルロース繊維の水懸濁液(実施例6ではDMF懸濁液)を得た。
【0049】
比較例1
アニオン変性セルロース繊維に代えて、広葉樹の漂白クラフトパルプ(CENIBRA社製)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、セルロース繊維の水懸濁液を得た。
【0050】
【0051】
試験例1(耐着色性)
反応後の懸濁液を20℃で、10000×gの条件で、1分間遠心分離し、不溶残渣を集めた後、その色合いを目視で判断し、以下の評価基準に基づいて耐着色性を評価した。結果を表1に示す。
評価A:白色(着色なし)
評価B:うすい赤色~ピンク色(やや着色)
評価C:茶色~褐色(大きく着色)
耐着色性はA>B>Cの序列で評価され、耐着色性Aで糖鎖切断工程における着色が無く、白色性(および微細化処理した際の透明性)が高いこと、耐着色性Bで実使用に支障を来さない程度の白色性(および微細化処理した際の透明性)を有していることを示す。
【0052】
表1より、本発明によると、短繊維化対象のセルロース繊維として、アニオン性基を含有するものを選択することで、有機酸を用いても十分に短繊維化が進行し、なおかつ着色がないことが分かった。
一方、比較例1に示すように、短繊維化対象のセルロース繊維として、アニオン性基を含有しないものでは、有機酸を用いても十分に短繊維化が進行しないことが分かった。また比較例2に示すように、無機酸である塩酸を用いると、耐腐食性の設備が必要になってくるだけではなく、著しく着色する課題があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製造方法によって得られた短繊維化アニオン変性セルロース繊維を用いることで、高濃度でありながら粘度が低くハンドリング性に優れる微細化セルロース繊維を含有する分散体を調製可能であり、日用雑貨品、家電部品、家電部品用梱包資材、自動車部品、三次元造形用材料等の様々な工業用途に好適に使用することができる。