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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】水需要予測システム、および、その方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20231211BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20231211BHJP
   E03B 1/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/04
E03B1/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019106590
(22)【出願日】2019-06-06
(65)【公開番号】P2020201609
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健司
(72)【発明者】
【氏名】石飛 太一
(72)【発明者】
【氏名】小熊 基朗
【審査官】谷川 智秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-079229(JP,A)
【文献】特開平06-193100(JP,A)
【文献】特開2001-245432(JP,A)
【文献】特開平10-219758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
E03B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配水設備から配水管網を介して配水が行われる所定配水区について、基準期間毎の水需要量を予測する水需要予測システムであって、
メモリと、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラが水需要量の予測プログラムに基づいて実行することは、
前記配水設備が継続的に計測した、前記所定配水区の水需要量の実績値を、前記配水設備の監視制御システムから取得して、天候の情報と曜日の情報と共に、前記メモリに記録することと、
前記水需要量の予測に利用する関連条件を対応する過去情報から設定することと、当該関連条件は、天候の情報であることと、曜日の情報であることと、および、前記基準期間前の所定期間分の前記水需要量の実績値であることと、を含み、
前記メモリに記録されている過去所定期間の前記水需要量の実績値について、前記基準期間毎に過去の対応する前記関連条件を求め、当該関連条件と前記水需要量が予測される基準期間の関連条件との類似度をカーネルリッジ回帰モデルを用いて算出することと、
前記過去所定期間の複数の前記基準期間に対応する期間の少なくとも1つの前記水需要量の実績値に基づいて、前記類似度を参照しカーネルリッジ回帰モデルを用いて前記水需要量の予測計算を行うことと、
前記予測計算の結果を、前記監視制御システムに送信することと、
を含み、
前記水需要量の予測計算を行うことは、前記過去所定期間の基準期間のうち前記類似度が高い基準期間の前記水需要量の実績値であるほど、カーネルリッジ回帰モデルにおける前記水需要量の予測計算に優先的に利用することを含み、
前記水需要量の予測に利用する関連条件を設定することは、
前記基準期間前の所定期間分の水需要量の時刻毎の差分値を前記関連条件とすること、
前記基準期間前の所定期間分の水需要量のトータル値を前記関連条件に追加すること、そして、
前記曜日の情報を各曜日、祝日別に選択することと、を含み、前記曜日の情報を、三日以上の連休であって、その前日が平日であっても金曜ではない場合、当該前日を平日の金曜と、前記連休の初日を土曜と、そして、前記連休の最終日を日曜でなくともこれを日曜と、夫々みなす、
水需要予測システム。
【請求項2】
前記水需要量の予測計算を行うことは、前記水需要量を予測しようとしている前記基準期間における前記関連条件を入力データとし、前記過去所定期間の各基準期間における前記関連条件および水需要量実績値を学習データとしてカーネルリッジ回帰モデルを用いて前記類似度を算出し、前記類似度に基づき前記過去所定期間の各基準期間の水需要量から予測を行う、
請求項1記載の水需要予測システム。
【請求項3】
前記コントローラは、予測された水需要量と水需要量の実績値、所定時刻からの前記予測された水需要量と水需要量の実績値との積算誤差、及び、当該積算誤差の前記配水設備の配水池の水位換算値の少なくとも一つを表示する、
請求項1記載の水需要予測システム。
【請求項4】
前記水需要予測システムは、入力装置を介して、前記基準期間前の所定期間と前記過去所定期間を当該水需要予測システムに入力できるようにした、
請求項1記載の水需要予測システム。
【請求項5】
前記水需要予測システムは、入力装置を介して、前記関連条件としての曜日の情報を当該水需要予測システムに入力できるようにし、当該曜日の複数の平日、休日、祝日の曜日情報から所定の曜日情報を選択できるようにした、
請求項1記載の水需要予測システム。
【請求項6】
前記水需要予測システムは、入力装置を介して、前記関連条件としての水需要量の実績値を時系列に入力できるようにし、時系列の実績値の中かから所定の実績値を選択できるようにした、
請求項1記載の水需要予測システム。
【請求項7】
配水設備から配水管網を介して配水が行われる所定配水区について、基準期間毎の水需 要量をコンピュータが予測する方法であって、
前記コンピュータは、
前記所定配水区の水需要量、前記所定配水区の天候情報、および、曜日情報を取得し、
前記基準期間の水需要量に対する関連条件として、前記基準期間前の所定期間の天候情報、曜日情報、および、前記基準期間前の所定範囲の水需要量を設定し、
過去所定期間の各基準期間における前記関連条件と、カーネルリッジ回帰モデルを用いて、前記水需要量を予測しようとしている基準期間の前記関連条件との類似度を算出し、類似度の高い条件を持つ基準期間の水需要量実績値を優先的に用いて、前記水需要量を予測しようとしている基準期間の水需要量を予測し、
前記水需要量の予測に利用する関連条件を設定することは、
前記基準期間前の所定期間分の水需要量の時刻毎の差分値を前記関連条件とすること、
前記基準期間前の所定期間分の水需要量のトータル値を前記関連条件に追加すること、そして、
前記曜日情報を各曜日、祝日別に選択することと、を含み、前記曜日情報を、三日以上の連休であって、その前日が平日であっても金曜ではない場合、当該前日を平日の金曜と、前記連休の初日を土曜と、そして、前記連休の最終日を日曜でなくともこれを日曜と、夫々みなす、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配水設備から配水管網を介して配水が行われる所定配水区について、基準期間毎の水需要量を予測する水需要予測システム、および、その方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上水道設備には、一般家庭を含む需要家に配水するための制御が適用されている。水需要は、日毎、所定時刻毎、曜日や時刻に応じて変動するだけでなく、天候や気温等の外部要因によっても変動する。そこで、水需要量を正確に予測しようとする従来例が存在する。
【0003】
例えば、特開2012-99049号公報には、過去の所定期間の中から予測日と同じ曜日の水需要量の実績値を取得し、その時刻別の平均をとって算出した1日24時間の水需要パターン値を用いて水需要予測を行う、配水量計画予測システムが開示されている。
【0004】
この配水量計画予測システムは、最新の水需要実績値を取得し、水需要パターン値(予測値)と実績値とのずれが所定の許容範囲を逸脱する場合、パターン値と実績値とのずれが少なくなるようにパターン値を補正するため、一定量をパターン値に加算または減算して、水需要予測精度を向上させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-99049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既述の配水量計画予測システムは、水需要が一律に増加または減少するようなケースでは、水需要の予測精度を向上できるものの、例えば、天候に合わせて洗濯時間が変更されるなど、水需要が時間的にシフト、前倒し、または、先送りされるようなケースでは、パターン値を補正することによって、水需要予測精度を逆に悪化させてしまう。そこで、本発明は、水需要量の変化が、一様でないようなケースでも、水需要量を精度よく予測できるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、配水設備から配水管網を介して配水が行われる所定配水区について、基準期間毎の水需要量を予測することであって、前記所定配水区の水需要量、前記配水区の天候情報、および、曜日情報を取得し、前記基準期間の水需要量に対する関連条件として、前記所定期間の天候情報、曜日情報、および、前記基準期間前の所定範囲の水需要量を設定し、過去所定期間の各基準期間における前記関連条件と、前記水需要量を予測しようとしている基準期間の前記関連条件との類似度を算出し、例えば、類似度の高い条件を持つ基準期間の水需要量実績値を優先的に用いることにより、前記水需要量を予測しようとしている基準期間の水需要量を予測する、というものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水需要量の変化が、一様でないようなケースでも、水需要量を精度よく予測できるシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】水需要予測システムとしての計算機システムを含む上水道システムのブロック図の一例である。
図2】水需要量データ管理テーブルの一例である。
図3】曜日・天候データ管理テーブルの一例である。
図4】水需要予測条件の設定画面の一例である。
図5】予測条件管理テーブルの一例である。
図6】カーネルリッジ回帰モデルの説明図である。
図7】予測日と学習日の直近水需要量データの関係を説明するグラフである。
図8】予測日と学習日の直近水需要量データの関係を説明するグラフである。
図9】予測日と学習日の直近水需要量データの関係を説明するグラフである。
図10】水需要量予測データ管理テーブルの一例である。
図11】予測結果表示データ管理テーブルの一例である。
図12】予測結果表示画面の一例である。
図13】モデルパラメータ管理テーブルの一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態に本発明が限定されることはない。
【0011】
図1に、上水道システム102のブロック構成図を示す。上水道システムは、配水設備100と、配水設備の監視制御システム(SCADA)103と、水需要を予測するための計算機システム101と、監視制御システム103と計算機システム101とを接続するネットワーク111とを備える。
【0012】
配水設備は、浄水場104、ポンプ105、配水池106、配水管網109、計測器107,108を備え、監視制御システム103は、ポンプ105、計測器107,108を監視し、そして、制御する。
【0013】
浄水場104で浄水された水は、ポンプ105によって配水池106まで圧送され、配水池106にいったん貯留された後、配水管網109を経て需要家110まで配水される。ポンプ105、水位計107、流量計108は、それぞれポンプ105の運転状態(ON/OFF状態)、配水池106の水位、需要家110への配水量(水需要量)を1分周期で計測し、監視制御システム103まで送信する。
【0014】
監視制御システム103は、配水設備から配水管網109を介して配水している、対象配水区の水需要量計測値(1分単位)を取得し、その1時間分の総和をとって毎時の1時間単位需要量を集計し、ネットワーク111を介して、計算機システム101に送信する。
【0015】
上水道システム102の外部に存在する、気象情報提供システム(気象情報源)112は、対象配水区を含むエリアの天候情報の実績値、翌日・翌々日等の近い将来の天候情報の予報値を、最新値が得られる毎に、ネットワーク111を介して、計算機システム101に配信する。
【0016】
計算機システム101は、ネットワーク111を介して、監視制御システム103から水需要量データと、気象情報提供システム112から天候情報データ(予報含む)と、を取得し、毎日(基準期間毎)、上記取得データを用いて所定時刻から(例えば0時)から24時間先までの時間需要量の予測計算を行い、ネットワーク111を介して予測結果を監視制御システム103に送信する。
【0017】
監視制御システム103は、上記水需要量予測結果を取得し、水需要量予測結果に合わせた、上記所定時刻から24時間先までの1時間毎の水運用計画(浄水場104の水の浄水計画、ポンプ105の運転計画、配水池106の貯水計画など)を立案し、上記水運用計画に基づいて浄水場104の浄水設備やポンプ105の運用制御を行う。上述のようにして、日々の水需要予測およびそれに基づく水運用計画立案が行われ、需要家に適切な量の水を供給するように上記水運用計画に基づいて上水道システムの運用制御が行われている。
【0018】
計算機システム101は、コントローラ(CPU)、記憶装置(RAM、ハードディスク、フラッシュメモリ等)、入力部121(キーボード、マウス等)、表示部122(ディスプレイ、プリンタ等)等、一般的なコンピュータハードウェアを備える。
【0019】
記憶装置には、データ取得部123、予測条件設定部124、水需要量予測部125、予測結果表示部126、モデルパラメータ決定部127が、コントローラがプログラムを実行することによって実現される機能モジュールとして設定されている。各機能モジュールを、手段、ユニット等と言い換えてもよい。
【0020】
記憶装置には水需要量データ管理テーブル131、曜日・天候データ管理テーブル132、予測条件管理テーブル133、モデルパラメータ管理テーブル134、水需要量予測データ管理テーブル135、予測結果表示データ管理テーブル136が記憶されている。コントローラが、上記モジュールを実行する際に、これらテーブルを利用する。
【0021】
データ取得部123は、監視制御システム103から送信された水需要量実績データ、および、気象情報提供システム112から送信された天候情報データを取得して、所定のテーブルに登録する。
【0022】
予測条件設定部124は、計算機システム101の管理者が入力部121によって入力した予測開始時刻、水需要量に対する関連条件(天候、曜日、直近所定期間の水需要量など)、および、予測計算に用いる直近過去日(学習日)の日数などの予測計算に用いる条件を所定のテーブルに設定する。
【0023】
水需要量予測部125は、予測日および過去所定期間の各日における上記関連条件データなどを用いて、カーネルリッジ回帰モデルに基づき、予測日における水需要量の予測を行い、予測結果を監視制御システム103へ配信する。
【0024】
予測結果表示部126は、上記水需要予測結果の表示画面を作成し、これを表示部122へ表示する。
【0025】
モデルパラメータ決定部127は、水需要量の予測計算に用いるカーネルリッジ回帰モデルのモデルパラメータを決定する。
【0026】
水需要量データ管理テーブル131は、1時間毎の水需要量計測値を管理するためのデータ群である。
【0027】
曜日・天候データ管理テーブル132は、日毎の曜日情報および天候情報(予報含む)を管理するためのデータ群である。
【0028】
予測条件管理テーブル133は、予測開始時刻、水需要量に対する関連情報(天候、曜日、直近所定期間の水需要量など)、および、予測計算に用いる直近過去日(学習日)の日数などの、予測計算のための条件を管理するためのデータ群である。
【0029】
モデルパラメータ管理テーブル134は、水需要量の予測計算に用いるカーネルリッジ回帰モデルのモデルパラメータを管理するためのデータ群である。
【0030】
水需要量予測データ管理テーブル135は、1時間毎の水需要量予測値を管理するためのデータ群である。
【0031】
予測結果表示データ管理テーブル136は、予測開始時刻からの1時間毎の水需要量予測値、計測値(実績値)、水需要量積算誤差、および、上記積算誤差の配水池水位換算値などの、予測結果の表示情報を管理するためのデータ群である。
【0032】
計算機システム101は、以下の処理(1)~(5)を実行することにより、現在の水需要量に関連する条件と近い条件を持つ過去日での水需要量を参考にした、水需要の予測を実現して、水需要量の変化に合わせた高精度な水需要予測を達成する。
【0033】
(1)水需要量・天候情報の取得
(2)予測条件の設定
(3)水需要量の予測
(4)水需要量予測結果の表示
(5)モデルパラメータの決定
以下、(1)~(5)を、図2~13に基づいて説明する。水需要量・天候情報の取得処理(1)について、監視制御システム103は、対象配水区の1時間単位の水需要量を集計する毎に、最新の水需要量計測値とその計測時刻を、ネットワーク111を介して計算機システム101に送信する。
【0034】
計算機システム101のデータ取得部123は、上記送信された水需要量計測値(実績値)とその計測時刻を逐次取得し、水需要量データ管理テーブル131に登録する。図2に、データ取得部123によって登録された水需要量データ管理テーブル131の一例を示す。
【0035】
気象情報提供システム112は、対象配水区を含むエリアの天候情報の実績値、翌日の天候情報の予報値を、1日1回、ネットワーク111を介して計算機システムに配信する。
【0036】
データ取得部123は、上記配信された天候情報を取得し、天候情報を最高気温、晴の有無、雨の有無、雪の有無の情報に分類し、日付、曜日(月曜~日曜、祝日)、実績/予報の区別とともに曜日・天候データ管理テーブル132に登録(更新)する。図3に、データ取得部123によって登録された曜日・天候データ管理テーブル132の一例を示す。
【0037】
予測条件の設定処理(2)について説明する。一般に、1日の水需要量(24時間分の時系列)は、その日の天候、最高気温、曜日、直近の水需要量(時系列)などの影響を受けて変化し、それらの水需要に関連する条件が類似する日同士は同様の水需要となる傾向にある。
【0038】
よって、計算機システム101は、予測日当日と類似する上記関連条件を持つ過去の水需要実績データ(複数日データ可)を用いて予測日の水需要を予測する。予測条件の設定処理(2)は、上記の水需要予測の計算に必要となる、予測開始時刻、水需要量に対する関連条件、予測計算において参照する直近過去日の日数などの、水需要予測計算に必要な前提条件(予測条件)を事前に設定しておくものである。
【0039】
計算機システム101の管理者は、入力部121より、上記の予測開始時刻、水需要量に対する関連条件(上記の天候、最高気温、曜日、直近の水需要量などの中から選定)、予測計算において参照する直近過去日の日数を入力する。そして、計算機システムの予測条件設定部124は、上記設定された予測条件を予測条件管理テーブル133に登録する。
【0040】
図4に、予測条件設定部124によって表示部122に表示される予測条件設定のための表示画面の一例である。この表示画面は、水需要量に対する関連条件に関して、その代表的なものとして、当日の天候、最高気温、曜日、直近の水需要量(時系列)などの中から、対象配水区に対して適切なものを、管理者が選択できるように構成されている。
【0041】
直近の水需要量(時系列)を選択した場合、管理者は、何時間分の直近水需要量を予測計算に用いるか、その期間も入力する。例えば、予測開始時刻を0時、直近水需要量の期間を8時間とした場合、16時~0時(24時)までの水需要量時系列データを用いて翌日0~24時までの水需要予測が行われる。
【0042】
管理者は、直近の水需要量(時系列)を選択した場合、水需要量を「水需要量時系列データ単独」で予測計算に用いるか、「水需要量時系列データ+差分データ」として用いるか、「水需要量時系列データ+トータル量データ」として用いるかのいずれかを選択する。
【0043】
後述するように、上記水需要量に対する関連条件として、直近水需要量時系列データだけでなく、その差分データまたはトータル量データを予測計算に用いることにより、特徴の異なる予測計算(実績値トレンドとの波形が似た予測、実績値との積算誤差が小さい予測など)が可能となる。
【0044】
管理者は、曜日情報を選択した場合、曜日情報を「平日・休日別(2区分)」として予測計算に用いるか、「各曜日・祝日別(8区分)」として用いるか、「各曜日・祝日別(8区分)とするが3日以上の連休の所定の曜日を変更」して用いるか、のいずれかを選択する。
【0045】
「各曜日・祝日別(8区分)とするが3日以上の連休の所定の曜日を変更」とは、3日以上の連休の前日を金曜に変更し、その初日を土曜に変更し、その最終日を日曜に変更するものである。配水区によっては上記のように曜日変更した方が水需要量の予測精度が向上する場合があるためである。例えば、「金(祝)・土・日」の3連休の場合、その前日は木曜であるが休日前の平日であるため金曜の水需要量と類似のパターンを示す場合がある。また、例えば「土・日・月(祝)」の3連休の場合、その最終日の月曜(祝日)は祝日であるが平日前の祝日であるため日曜の水需要量と類似のパターンを示す場合がある。よって上記の曜日の変更をした方が、予測精度の向上につながる。
【0046】
図5に、予測条件設定部124によって登録された予測条件管理テーブル133の一例を示す。図5における予測条件管理テーブル133の設定内容は、図4に示すように予測条件の設定が行われたときの設定内容に対応している。
【0047】
上記のようにして、予測条件設定部124によって、予測条件の設定処理が行われる。
【0048】
次に、水需要量の予測処理(3)について説明する。計算機システム101は、予測日の水需要量に対する関連条件データ(天候、最高気温、曜日、直近の水需要時系列など)、直近の過去所定期間の各日の水需要量に対する上記関連条件データ、および上記各日の予測対象時間帯に対応する水需要実績データを用いて、予測日当日と類似する上記関連条件データを持つ直近過去所定期間の少なくとも一日の水需要量実績値を優先的に利用して予測日当日の水需要予測を行う。
【0049】
例えば、予測日当日における上記関連条件データと直近過去所定期間の各日における上記関連条件データとの類似度を算出し、類似度が高い関連条件データを持つ、過去日の予測対象時間帯の水需要量実績値が優先されるようなモデル式を用いて(例えば、各過去日の類似度に応じて水需要実績値の重み付き平均を取る)予測計算を行う。計算機システム101は、上記のような類似度に基づく予測計算のモデルとして、例えば、カーネルリッジ回帰モデルを利用する。
【0050】
カーネルリッジ回帰モデルについて、図6を用いて説明する。XY平面上に○で示す実績データ(学習データ)が与えられているとき、X座標の値Xnewの入力に対応するY座標の値Ynewを予測することを考える。このときYnewは、Xnewの付近にある実績データのY座標に近い値を取ると予想でき、Xnewから遠い実績データについてはあまり考慮する必要がない。よってN個の実績データ(学習データ)が与えられたとき、入力Xnewに対応するYの値Ynewは、
【数1】
と表すことができる。カーネルリッジ回帰モデルは上記の考え方に基づくものであり、(式1)における入力データと実績データとの近さを表す関数をガウスカーネル関数で表し、それに対する乗数を実績データのY座標値でなくパラメータで表したモデルであり、以下のように定式化される。
【0051】
Yt:時刻tにおける水需要量(時刻刻みは1時間単位)、
Z1:予測日の晴れの有無を表すバイナリ変数(1:有、0:無)、
Z2:予測日の雨の有無を表すバイナリ変数、
Z3:予測日の雪の有無を表すバイナリ変数、
Z4:予測日の最高気温、
Wi:予測日の曜日を表すバイナリ変数(平日・休日別に区分するときW1のみの1変数、月曜~日曜・祝日別に区分するとき月曜~日曜・祝日に対応するW1~W8の8変数)
とし、水需要量に対する関連条件データ(天候、最高気温、曜日、直近水需要時系列)からなる入力データ(ベクトル)を
Xt=(Yt,Yt-1,・・・,Yt-m+1,Z1,Z2,Z3,Z4,Wi)
とするとき、時刻t+n(n=1,・・・,24)における水需要量Yt+nを、
【数2】
ここで、N:学習データの日数
αi:回帰パラメータ(i=1,・・・,N)
(Xt(i),Yt+n(i)):直近過去N日間における第i日のモデル学習データ(予測日の入出力データと同じ時刻に対応した過去日の入出力ペアデータ)を用いて予測する。ここで、k(Xt,Xt(i))は、予測日の入力データXtと過去第i日の学習用入力データXt(i)との近さを表すガウスカーネル関数であり、
【数3】
ここで、||Xt-Xt(i)||:入力データ(ベクトル)Xt、Xt(i)の距離(L2ノルム、各ベクトルの各成分の残差平方和の平方根をとったもの)
β:ハイパーパラメータ(β>0)
で定義される。ガウスカーネル関数は0~1の連続値をとり、予測日の入力データXtと過去第i日の学習用入力データXt(i)との距離が近いほど1に近い値をとり、距離が遠いほど0に近い値をとる。よって予測日の入力データ(水需要量に対する関連条件データ:天候、最高気温、曜日、直近水需要時系列)に類似する(距離の近い)入力データを持つ過去日のデータほど予測値に対する影響が大きくなり、予測日の入力データに類似する(距離の近い)入力データを持つ過去日のデータを優先的に利用した予測が行われる。
【0052】
上記の説明において、予測日および過去日(学習日)に対応する入力データベクトルを、天候、最高気温、曜日、直近水需要時系列から構成しているが、ここで水需要時系列のみに着目し、図7の例に示すように、予測日に対応する水需要量データと2つの学習日1、2に対応する水需要データがある場合を想定する。
【0053】
このとき各日における他の条件(天候、最高気温、曜日)は同一と仮定する。学習日1データ(直近水需要量)は予測日データより常に所定量だけ上回るものとし、学習日2データは予測日データから上記所定量だけ上下に変動しているものとする。このとき一般に、上記他の条件が同一であれば、予測日および学習日1、2の予測開始時刻以降の水需要量データにおいても、上記の関係がある程度継続する傾向にあると予想される。上述のように2つの入力データベクトルの距離(塁維持度)はL2ノルム、すなわち各成分の誤差の2乗和で計算されるため、予測日データと2つの学習日1、2データとの距離は同程度となり、図7に示すように、学習日データ1、2の予測時間帯の水需要実績が予測日当日の水需要予測に同程度に反映された予測結果となりやすい(図7はイメージ図でありこの通りになるとは限らない)。
【0054】
ここで、もし入力データベクトルの成分として直近水需要時系列の各時刻の前時刻との差分値を追加した場合、予測日データと学習日1データの直近水需要時系列の各差分値が同程度の値を取るため、予測日データとの距離(類似度)は学習日2データより学習日1データの方が近くなり、図8に示すように、学習日1データの予測時間帯の水需要実績が予測日当日の水需要予測に大きく反映された予測結果、すなわち予測日の実績値より所定量だけ上回る実績値と似た波形の予測結果となりやすい。ただしこの場合、予測値が実績値を常に上回るため、水需要予測の積算誤差が増加することになる。水需要の予測誤差は配水池水位の実績と予測の誤差として現れるため、積算誤差の増加は、配水池水位の上下限水位からの逸脱につながる可能性がある。よって水運用のためには、水需要の予測結果が常に実績を上回るよりも、積算誤差が大きくならないよう予測値が実績値付近を上下変動する予測結果の方が望ましい場合がある。
【0055】
次に、もし入力データベクトルの成分として直近水需要時系列のトータル値を追加した場合、予測日データと学習日2データの直近水需要時系列のトータル値が同程度の値を取るため、予測日データとの距離(類似度)は学習日1データより学習日2データの方が近くなり、図9に示すように、学習日2データの予測時間帯の水需要実績が予測日当日の水需要予測に大きく反映された予測結果、すなわち予測日の実績値から所定量だけ上下に変動した予測結果となりやすい。この場合、実績値と水需要量トータル値が近くなりやすいため、水需要予測の積算誤差の低減が期待できるようになる。
【0056】
よって、予測日および過去日(学習日)に対応する入力データベクトルに、新たに直近水需要時系列の差分値またはトータル値を追加することにより、水需要実績と波形の似ている予測結果や積算誤差の小さい予測結果などを選ぶことができるようになる。この入力データベクトルへの上記差分値または上記トータル値の追加は、上記予測条件の設定処理(2)において説明した水需要に対する関連条件データとして直近水需要量を選択したときの差分データ追加、トータル量追加に対応しており、計算機システム101の管理者は、水需要予測の目的に応じて、上記の選択を切り替えればよい。
【0057】
ここで、回帰パラメータαi(i=1,・・・,N)は、予測計算を行う毎に、全ての過去日の学習データをそれぞれ(式2)に入力したときの予測結果に対する誤差の2乗和と、学習データに対する過適合防止のための正則化項からなる評価関数Rを最小化するように決定される。
【0058】
【数4】
上記評価関数Rは回帰パラメータαiの関数であり、Rを最小化する回帰パラメータαiは解析的に算出可能である(数式は省略)。よって予測計算を行う毎に、時刻tまでに得られた予測日の入力データXt、過去日(学習データ日)の入出力データXt(i)、Yt+n(i)を用いて、回帰パラメータαiが算出でき、(式2)より予測対象時間t+nにおける水需要量予測値Yt+nが算出できる。nをn=1,・・・,24まで変化させて上記計算を繰り返すことにより(パラメータαiもn毎に算出)、予測対象時間帯(時刻t+1から時刻t+24までの24時間分)の水需要量予測値が算出できる。
【0059】
上記正則化項には学習データに対する過適合の防止の度合いを規定するパラメータλ(記載なし)が含まれている。上記カーネル関数に含まれるβと上記正則化項に含まれるλはハイパーパラメータ(アルゴリズム挙動を制御するパラメータ)であり、所定過去期間のデータを用いて、上記の計算を用いて算出された水需要量の予測値と実績値との誤差の2乗和を最小にするように、総当たり法などで事前に決定しておく。
【0060】
よって、予測日の水需要量に対する関連条件データ(天候、最高気温、曜日、直近の水需要時系列など)、直近の過去所定期間の各日の水需要量に対する上記関連条件データ、および上記各日の予測対象時間帯に対応する水需要実績データを用いて、カーネルリッジ回帰モデルに基づいて、予測日当日と類似する上記関連条件データを持つ直近過去所定期間の日(複数可)の水需要量実績値を優先的に利用した予測日当日の水需要量の予測計算が可能となる。
【0061】
水需要量の予測処理(3)は、基本的に1日1回、予測開始時刻までの最新の水需要量計測値を取得した時点で行われるが、後述するように、水需要予測誤差が拡大したと計算機システム101の管理者が判断した場合、管理者の指示により水需要量の予測処理(再予測)を行うことができる。
【0062】
計算機システム101の水需要量予測部125は、予測条件管理テーブル133より、水需要予測に必要となる、予測開始時刻、水需要量に対する関連条件(天候、最高気温、曜日、直近の水需要時系列など)、直近過去日の日数(学習データの日数)を取得する。
【0063】
そして、水需要量予測部125は、水需要量データ管理テーブル131、および曜日・天候データ管理テーブル132より、予測日、所定過去日(学習日)における予測開始時刻までの直近水需要量実績値、天候、最高気温、曜日のデータ、および所定過去日(学習日)における予測時間帯における水需要実績値データを取得する。
【0064】
このとき水需要量予測部125は、上記処理(2)にて行った設定内容に合わせて、曜日情報の区分変更(平日・休日別/曜日・祝日別/曜日・祝日別+3日以上の連休の所定の曜日変更)、および上記入力データベクトルへの水需要量時系列データ関連情報追加(水需要量時系列データ単独/水需要量時系列データ+差分データ/水需要量時系列データ+トータル量データ)を行う。そして水需要量予測部125は、モデルパラメータ管理テーブル134より、上記カーネルリッジ回帰モデルのハイパーパラメータβ、λを取得する。
【0065】
水需要量予測部125は、上記取得したデータを用いて、上述のカーネルリッジ回帰モデルに基づく予測計算を用いて、予測日の予測時間帯における水需要量予測値の算出を行い、その予測結果を水需要量予測データ管理テーブル135に登録するとともに、ネットワーク111を介して監視制御システム103に配信する。この結果、監視制御システム103では、配信された水需要予測結果に基づくポンプ105の運転計画や配水池106の計画水位を策定できるようになる。図10に、水需要量予測部125によって登録された水需要量予測データ管理テーブル135の一例を示しておく。
【0066】
上記のようにして、水需要量予測部125によって、水需要量の予測処理が行われる。
【0067】
次に、水需要量予測結果の表示処理(4)について説明する。この処理(4)は、上記処理(3)による最新の水需要量予測結果が得られる毎に、また上記処理(1)による最新の水需要量計測値(実績値)が得られる毎に実行される。計算機システム101の予測結果表示部126は、水需要量予測データ管理テーブル135より最新の予測結果を取得し、水需要量データ管理テーブル131より最新の水需要量実績値を取得し、予測開始時刻(1時)からの各時刻までの予測誤差(=予測値-実績値)の総和をとって水需要量の積算誤差を算出する。
【0068】
そして、予測結果表示部126は、算出した積算誤差を配水池106の断面積で割算して配水池106の水位換算値を算出する。そして予測結果表示部126は、上記取得および算出した水需要量の予測日、実績値、積算誤差、および水需要量積算誤差の配水池水位換算値を予測結果表示データ管理テーブル136に登録するとともに、上記データをグラフ表示した予測結果表示画面を作成し、表示部122に表示する。
【0069】
図11に、予測結果表示部126によって登録された予測結果表示データ管理テーブル136の一例を示す。また、図12に、予測結果表示部126によって作成された予測結果表示画面の一例を示す。
【0070】
上記のようにして、予測結果表示部126によって、水需要量予測結果の表示処理が行われる。
【0071】
計算機システム101の管理者は、上記予測結果表示画面を閲覧し、水需要予測誤差が拡大しているかどうかの判断を行い、拡大していると判断した場合、最新のデータを用いた水需要の再予測を行うことができる。再予測を行う場合、管理者は、上記処理(2)のように、入力部121より、新たな予測開始時刻(現時刻)を入力し、上記予測開始時刻からの再予測を指示する。
【0072】
そして、水需要量予測部125は、上記処理(3)のように、最新の水需要量実績値、天候データなどを用いて新たな予測開始時刻から24時間先までの水需要量の予測計算を行い、予測結果を水需要量予測データ管理テーブル135に登録し、および、監視制御システム103へ配信する。これにより、予測誤差が拡大した場合であっても、最新のデータを用いた水需要の再予測計算が可能となる。
【0073】
次に、モデルパラメータの決定処理(5)について説明する。この処理(5)は、例えば、年1回、または、半年に1回など定期的に行われればよい。モデルパラメータ決定部127は、上記カーネルリッジ回帰モデルのパラメータβ、λの初期値(十分大きな値)を設定し、現在から直近の過去所定期間(例えば3ヶ月)の各日を予測日に設定し、水需要予測部125を呼び出して各予測日の予測時間帯における上記水需要の予測処理(3)を実行する。このとき予測に用いる条件は予測条件管理テーブル133に登録されているものを用いる。
【0074】
そして、モデルパラメータ決定部127は、水需要量データ管理テーブル131より各予測日の水需要量実績値を取得し、全ての予測時間帯、予測日における予測値と実績値との予測誤差の2乗和を算出する。
【0075】
モデルパラメータ決定部127は、上記パラメータβ、λの値を所定値だけ減少させながら上記予測処理を繰り返し、上記算出された予測誤差の2乗和を最小にするパラメータβ、λの値を最適なパラメータ値としてモデルパラメータ管理テーブル134に登録する。図13にモデルパラメータ管理テーブル134の一例を示す。
【0076】
上記のようにして、モデルパラメータ決定部127によって、モデルパラメータの決定処理が行われる。
【0077】
既述の実施形態において、モデルパラメータの補正が継続されて、カーネルリッジ回帰モデルの学習が進むと、計算機システム101は、水需要量を予測する時点での関連条件だけに基づいて水需要量を予測することができる。
【0078】
以上述べたように、本発明の実施の形態によれば、予測日の水需要量に対する関連条件データ(天候、最高気温、曜日、直近の水需要時系列など)、直近の過去所定期間の各日の水需要量に対する上記関連条件データ、および上記各日の予測対象時間帯に対応する水需要実績データを用いて、予測日当日と類似する上記関連条件データを持つ直近過去所定期間の日(複数可)の水需要量実績値を優先的に利用して予測日当日の水需要予測を行っている。その結果、水需要量の変化に近い過去日の水需要量を参考にして予測が行われるようになるため、水需要量の変化に合わせた高精度な水需要予測が可能となる。
【符号の説明】
【0079】
100…配水設備
101…計算機システム
102…上水道システム
103…監視制御システム
104…浄水場
105…ポンプ
106…配水池
107…水位計
108…流量計
109…配水管網
110…需要家
111…ネットワーク
121…入力部
122…表示部
123…データ取得部
124…予測条件設定部
125…水需要量予測部
126…予測結果表示部
127…モデルパラメータ決定部
131…水需要量データ管理テーブル
132…曜日・天候データ管理テーブル
133…予測条件管理テーブル、
134…モデルパラメータ管理テーブル
135…水需要量予測データ管理テーブル
136…予測結果表示データ管理テーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図13