(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】経皮吸収型製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/70 20060101AFI20231211BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20231211BHJP
A61K 31/381 20060101ALI20231211BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231211BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
A61K9/70 401
A61K47/32
A61K31/381
A61P25/16
A61P25/14
(21)【出願番号】P 2019111104
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】594065582
【氏名又は名称】株式会社大石膏盛堂
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】原田 篤知
(72)【発明者】
【氏名】冨永 健治
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-515872(JP,A)
【文献】特表2017-515869(JP,A)
【文献】特表2015-522013(JP,A)
【文献】特開2014-177428(JP,A)
【文献】特開平02-124821(JP,A)
【文献】特開昭60-188315(JP,A)
【文献】特開平10-310523(JP,A)
【文献】特開2015-214505(JP,A)
【文献】特開2016-028078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膏体中の
ロチゴチンの結晶化を抑制する経皮吸収型製剤の製造方法であって、
ロチゴチン及び粘着基剤成分を有機溶剤に撹拌混合した膏薬液を40℃以上に加温し、これを剥離フィルム又は支持体上に塗膏した後
、乾燥工程で有機溶剤を除去することを
含み、
前記粘着基剤が、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイソブチレン及びポリイソプレンからなる群より選択される1種以上のゴム系粘着基剤であり、
前記有機溶剤がトルエンである、
方法。
【請求項2】
ロチゴチンとトルエンの配合比率が、重量比で1:5~1:30であることを特徴とする請求項
1に記載の経皮吸収型製剤の製造方法。
【請求項3】
前記膏薬液中のロチゴチンの含有量が3~8質量%であり、且つ粘着基剤層の厚さが50~150μmであることを特徴とする請求項
1または2に記載の経皮吸収型製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性薬物を含有する経皮吸収型製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性薬物の1つであるロチゴチン((6S)-6-{プロピル[2-(チオフェン-2-イル)エチル]アミノ}-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-1-オール)は、ドーパミン受容体作動薬であり、パーキンソン病やレストレスレッグス症候群の治療薬として開発され、これまでにロチゴチンを含有した経皮吸収型製剤であるニュープロパッチ(Neupro(登録商標)Patch)が国内外で承認されている。
【0003】
パーキンソン病は、嚥下障害、服薬の負担や不随意運動の発現等から、経皮吸収により血中濃度を一定に維持することが望まれており、これまでに種々の経皮吸収型製剤が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1にはアクリレート系又はシリコン系のポリマー接着剤を基剤とした経皮治療システムが開示されており、シリコン系ポリマーにはロチゴチンの溶解度を高めるため、親水性ポリマー又はグルセロールもしくはグルセロール誘導体が使用することが記載されている。特許文献2にはアクリレート系接着剤及びシリコン系接着剤並びにポリビニルピロリドンを特定の重量比で組み合わせたロチゴチン含有経皮吸収型製剤が開示されている。また、特許文献3にはシリコンを基剤とし、ロチゴチンの可溶化剤としてポリビニルピロリドンを含有する経皮吸収治療システムが開示されている。
【0005】
更に、特許文献4ではゴム系粘着剤を基剤とし、粘着剤中のロチゴチンの結晶成分の析出を抑制するためロジン系樹脂を含有した経皮吸収型製剤が開示されている。しかし、特許文献4の場合、粘着剤中に析出する結晶成分の大きさを200μm以下に制御できているが、結晶の析出を完全には防止できてはいない。
【0006】
一方、特許文献5では、溶剤法において、乾燥温度をロチゴチンの融点を10~25℃上回る温度とし、乾燥時間が15分を超えない条件とすることで粘着剤中の結晶の析出を完全に防止する方法が開示されている。使用する有機溶剤としては、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール及びテトラヒドロフランが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3984785号公報
【文献】特許第4883220号公報
【文献】特許第5026656号公報
【文献】特開2013-79220号公報
【文献】特許第5837883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、結晶性薬物、特にロチゴチンを含有する経皮吸収型製剤において、粘着基剤中での薬物の結晶の析出を防止し、薬物の安定性に優れ、且つ薬物の経皮吸収性に優れた経皮吸収型製剤の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
前述したようにシリコン系やゴム系の粘着剤を基剤とする場合、薬物の結晶の析出を抑制するためにポリビニルピロリドン等の可溶化剤やロジン系樹脂が配合されている。
【0010】
本発明者らは、ゴム系粘着剤を使用し、製剤物性の経時的な悪化のリスクを回避するために、可溶化剤やロジン系樹脂を配合しない処方について検討した。しかしながら、製造直後からロチゴチン由来の結晶が粘着基剤中に析出し、その後、経時的に結晶数の増加及び粒子径の増大が観察された。
【0011】
経時的な結晶の析出は、外観の変化や粘着力の低下並びに薬物の経皮吸収量の低下を引き起こす可能性があることから、粘着基剤中における結晶析出の防止が課題となった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、有機溶剤に撹拌混合した膏薬液を40~90℃に加温し、これをフィルム上に塗膏した後、速やかに乾燥工程で有機溶剤を除去することで粘着基剤中における結晶の析出を防止できることを見出した。
【0013】
前記目的に沿う本発明は、膏体中の有効成分の結晶化を抑制する経皮吸収型製剤の製造方法であって、結晶性の有効成分及び粘着基剤成分を有機溶剤に撹拌混合した膏薬液を40℃以上に加温し、これを剥離フィルム又は支持体上に塗膏した後、速やかに乾燥工程で有機溶剤を除去することを特徴とする経皮吸収型製剤の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0014】
本発明に係る経皮吸収型製剤の製造方法において、前記有効成分が、ロチゴチン、ドネペジル又はその塩、グラニセトロン又はその塩、ビソプロロール、エメダスチンフマル酸塩及びオキシブチニン塩酸塩からなる群より選択されるものであってもよい。
【0015】
本発明に係る経皮吸収型製剤の製造方法において、前記有効成分が、結晶化しやすいロチゴチンである場合、特に有益である。
【0016】
本発明に係る経皮吸収型製剤の製造方法において、前記有効成分がロチゴチンである場合、前記有機溶剤がトルエンであることが好ましい。
【0017】
本発明に係る経皮吸収型製剤の製造方法において、前記有効成分がロチゴチンであり、前記有機溶剤がトルエンである場合、ロチゴチンとトルエンの配合比率が、重量比で1:5~1:30であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る経皮吸収型製剤の製造方法において、前記膏薬液中のロチゴチンの含有量が3~8質量%であり、且つ粘着基剤層の厚さが50~150μmであることが好ましい。
【0019】
本発明に係る経皮吸収型製剤の製造方法において、前記粘着基剤がスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイソブチレン及びポリイソプレンからなる群より選択される1種以上のゴム系粘着基剤であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、製造時において、有機溶剤に撹拌混合した膏薬液を一定温度以上に加温することで、粘着基剤中における経時的な結晶の析出を防止し、外観の変化や粘着力の低下並びに薬物の経皮吸収量の低下を抑制することができ、例えば、パーキンソン病やレストレスレッグス症候群の治療薬として有用である経皮吸収型製剤及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明を具体化するための実施形態について説明し、本発明の理解に供する。本発明の一実施の形態に係る経皮吸収型製剤の製造方法(以下、「経皮吸収型製剤の製造方法」又は「製造方法」と略称する場合がある。)は、結晶性の有効成分及び粘着基剤成分を有機溶剤に撹拌混合した膏薬液を40℃以上、例えば、40~90℃に加温し、これを剥離フィルム又は支持体上に塗膏した後、速やかに乾燥工程で有機溶剤を除去することにより、膏体中での有効成分の結晶化を抑制することを特徴とする。
【0022】
経皮吸収型製剤の製造方法は、例えば、下記のような工程を含んでいる。まず、薬効を有する有効成分以外の粘着基剤成分を、それぞれ所定の割合で有機溶剤(トルエン、ヘキサン、酢酸エチル等)に加え、撹拌混合して均一な溶解物を得る。次に溶解物を撹拌しながら所定の温度まで加温した後、有効成分を加えて撹拌混合して均一な膏薬液を得る。あるいは、粘着基剤成分の攪拌混合の段階から加温した条件で有効成分の添加及び撹拌混合を行ってもよい。また、粘着基剤成分を撹拌混合する際に有効成分を同時に加えて膏薬液の調製を行うこともできる。
【0023】
次に、40℃以上に加温した膏薬液を剥離フィルム上に塗膏し、乾燥ダクトを通過させて有機溶剤を除去した後、粘着基剤層に支持体を貼り合わせる。あるいは、40℃以上に加温した膏薬液を支持体上に塗膏して、乾燥ダクトを通過させて有機溶剤を除去した後、剥離フィルムを貼り合わせてもよい。
【0024】
経皮吸収型製剤の有効成分は、膏体中で結晶化する可能性のある結晶性のものである限りにおいて特に制限されず、その具体例としては、ロチゴチン、ドネペジル又はその塩、グラニセトロン又はその塩、ビソプロロール、エメダスチンフマル酸塩及びオキシブチニン塩酸塩が挙げられる。
【0025】
粘着基剤に対する有効成分の含有量は、有効成分の種類等により適宜調節される。例えば、有効成分がロチゴチンであるの場合、粘着基剤に対する有効成分の含有量は、1~10質量%、好ましくは3~8質量%である。有効成分の含有量が1質量%未満では、薬効成分の経皮吸収量が少なく、十分な治療効果が得られにくい。他方、有効成分の含有量が10質量%を超えると、経皮吸収量が過量となり、更には粘着基剤中で有効成分の結晶が析出しやすくなる傾向があるため、好ましくない。
【0026】
膏薬液の調製に用いることができる溶媒としては、有効成分及び粘着性基剤の両者を溶解させることが可能な限りにおいて、沸点が40℃以上の任意の有機溶媒を用いることができ、例えば、トルエン、ヘキサン、酢酸エチル等が好ましく用いられる。有効成分がロチゴチンの場合、特に好ましい有機溶媒はトルエンである。
【0027】
経皮吸収型製剤の製造及び膏薬液の調製に用いられる粘着基剤成分としては、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイソブチレン及びイソプレン等のゴム系粘着基剤が挙げられ、これらの1種を単独で、又は任意の2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体としては、SIS-5002、5505、5229(商品名、JSR(株))、クインタック3520、3421(商品名、日本ゼオン(株))、クレイトンD-1161J(商品名、クレイトンポリマージャパン(株))等が挙げられ、1種又は2種以上を組合せて使用することもできる。
【0029】
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の配合量については、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは15~40質量%である。この配合量が上記15質量%より少なくなるにつれ、粘着剤の凝集力や保型性等が低下する傾向にあり、10質量%未満ではその傾向がより顕著になるため好ましくない。他方、上記40質量%を超えると粘着剤の凝集力が増加して粘着力の低下や作業性の低下等を招き易くなる傾向にあり、50質量%を超えるとその傾向がより顕著になるため好ましくない。
【0030】
ポリイソブチレンとしては、B-10、B-12、B-15、N-50、N-80、N-100、N-150(商品名、BASF(株))、JSR065(商品名、JSR(株))、テトラックス3T、4T、5T、6T(商品名、JXTGエネルギー(株))等が挙げられ、1種又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0031】
ポリイソブチレンの配合量については、3~30質量%であり、より好ましくは5~20質量%である。この配合量が上記3質量%より少なくなるにつれ、貼付剤の粘着力が低下する傾向にあり、他方、30質量%を超えるにつれ粘着剤の凝集力が低下して長期保存時の粘着剤の保型性が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0032】
粘着基剤中におけるゴム系粘着基剤成分の配合割合は、例えば10~50質量%の範囲内である。
【0033】
膏薬液は、粘着付与剤を含んでいてもよい。粘着付与剤としては、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、スチレン系樹脂、ロジン系樹脂、キシレン系樹脂、石油系樹脂等が用いられる。なかでも凝集性、有効成分の安定性の観点から石油系樹脂が特に好ましい。また、石油系樹脂は必要に応じてロジン系樹脂と併用することができるが、長期保存時の粘着剤の保型性の観点から、粘着付与剤の主成分としては石油系樹脂が好ましい。
【0034】
石油系樹脂としては、脂肪族系炭化水素樹脂、脂環族系飽和炭化水素樹脂が挙げられ、中でも粘着力、粘着基剤との相溶性、耐老化性の観点から脂環族系飽和炭化水素樹脂が好ましい。
【0035】
脂環族系飽和炭化水素樹脂としては、具体的には、アルコンP-90、アルコンP-100、アルコンP-115、アルコンP-125、アルコンP-140(商品名、荒川化学工業(株))等が挙げられ、1種又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0036】
粘着付与剤の配合量は、5~50質量%であり、好ましくは10~40質量%である。配合量については10質量%よりも少なくなるにつれ、長時間の貼付を可能とする十分な粘着力が得難い傾向があり、5質量%より少なくなるとこの傾向がより顕著になるため好ましくない。他方、40質量%を超えるにつれ、剥離時の痛みや皮膚のかぶれが発生し易くなる傾向が見られ、50質量%を超えるとこの傾向がより顕著になるため好ましくない。
【0037】
また、粘着基剤に、有効成分の溶解性を増加させるための溶解剤を更に含有させてもよい。このような溶解剤としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、クエン酸トリエチル等が挙げられ、中でも製造後における有効成分の結晶析出を長期間にわたり抑制できる点を考慮するとポリエチレングリコールが好ましい。
【0038】
ポリエチレングリコールの平均分子量は1000~25000が好ましく、7000~25000が特に好ましい。このようなポリエチレングリコールとしては、PEG#1540、PEG#4000、PEG#6000、PEG#20000(商品名、日油(株))等が挙げられる。このような溶解剤は2種以上混合して使用してもよく、溶解剤の配合量は、充分な経皮吸収性、貼付剤としての充分な凝集力の維持及び有効成分の安定性を考慮し、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下の範囲内で適宜配合される。5質量%を超えるにつれ、粘着剤の凝集力が低下し、貼付剤の粘着力が低下する傾向にあり、10質量%を超えるとその傾向がより顕著になるため好ましくない。
【0039】
膏薬液は、上記成分以外に、抗酸化剤、可塑剤等の追加成分をさらに含んでいてもよい。抗酸化剤としては、トコフェロール及びこれらのエステル誘導体、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、オキシベンゾン、ペンタエリスリチルテトラキス[3-(3、5-ジ―t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート等が好ましい。
【0040】
可塑剤は、貼付剤の粘着性を調整する目的で配合される。可塑剤としては、流動パラフィン、液状ゴム(ポリブテン、液状イソプレンゴム等)、クロタミトン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリアセチン、ミリスチン酸イソプロピル等が挙げられ、中でも粘着基剤との相溶性の点から流動パラフィンが特に好ましい。
【0041】
このような可塑剤は2種以上混合して用いてもよく、貼付剤としての充分な凝集力の維持を考慮し、5~50質量%、好ましくは10~40質量%の範囲内で使用するのが好ましい。5質量%未満では粘着剤の凝集力が増加して粘着力の低下や作業性の低下等を招き易くなる傾向にあり、50質量%を超えると粘着剤の凝集力が低下して保型性が低下する傾向がより顕著になるため好ましくない。
【0042】
膏薬液を40℃以上に加温し、支持体又は剥離フィルム上に塗膏後、乾燥させることにより有効成分を含む粘着基剤層が形成される。塗膏の方法は特に制限されず、ロールコーター法、ドクターブレード法等の任意の公知の方法を用いることができる。
【0043】
粘着基剤層の厚さは、30~200μm、好ましくは50~150μmである。厚さが30μm未満では、持続的な有効成分の経皮吸収が得られず、十分な治療効果が得られにくい。また、200μmを超えると塗膏後の乾燥が困難となり、膏薬中にトルエンが残存しやすくなるため、好ましくない。
【0044】
膏薬液を上記の温度まで加温した後、塗膏するまでの間に膏薬液の温度が低下した場合、有効成分の結晶析出の防止効果が小さくなるため、塗膏時まで膏薬液を上記の温度範囲内に保持するために保温する必要がある。
【0045】
本発明の経皮吸収型製剤は、有機溶剤に撹拌混合した膏薬液を加温し、これを剥離フィルム上に塗膏した後、乾燥ダクトを通過させて有機溶剤を除去した後、粘着基剤層に支持体を貼り合わせて製造する。あるいは、加温した膏薬液を支持体上に塗膏した後、乾燥ダクトを通過させて有機溶剤を除去した後、剥離フィルムを貼り合わせてもよい。加温条件は40℃以上が好ましい。温度が40℃未満では、塗膏後に粘着基剤中でロチゴチンの結晶が析出しやすくなる傾向があり、好ましくない。有機溶剤には、トルエン、ヘキサン及び酢酸エチル等が使用されるが、薬物の溶解性や、塗膏後の結晶析出防止の観点から、トルエンが好ましく、ロチゴチンとトルエンの配合比率は、重量比で1:3~1:50、好ましくは1:5~1:30である。ロチゴチン重量に対してトルエン重量が3倍未満では、膏薬液中でロチゴチンが溶解しにくくなり、また、塗膏後に粘着基剤中でロチゴチンの結晶が析出しやすくなる傾向がある。他方、ロチゴチン重量に対してトルエン重量が30倍を超えると、膏薬液の粘度が低下し、塗膏が困難となり、更には、乾燥工程後に膏薬中にトルエンが残存しやすくなるため、好ましくない。
【0046】
支持体は、経皮吸収型製剤の製造に用いられるものを特に制限なく用いることができるが、有効成分の放出に影響しないものが望ましい。支持体の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ナイロン等の合成樹脂のフィルム、シート状多孔質体、シート状発泡体、紙、織布及び不織布並びにこれらの積層体等が挙げられる。
【0047】
剥離フィルムは、経皮吸収型製剤の製造に用いられるものを特に制限なく用いることができるが、その具体例としては、シリコン処理を施したポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、剥離紙、セロファン、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられ、その厚さは10~100μmが好ましい。
【0048】
経皮吸収型製剤の形態としては、パッチ剤及びテープ剤等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明の特徴、作用効果及び実施形態の一例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1
表1に記載の配合で、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリイソブチレン、脂環族飽和炭化水素樹脂及び流動パラフィンにトルエンを加え、撹拌混合して溶解物を得た。その後、溶解物を撹拌しながら、80℃まで加温した後、ロチゴチンを加え、均一になるまで混合し、膏薬液を得た。膏薬液をシリコン処理したポリエステル製のフィルムに、膏体重量が75g/m2になるように塗膏し、乾燥ダクトを通過させてトルエンを除去した後、ポリエステル製のフィルムを貼り合わせた。その後、約4.5cm×約4.5cmの正方形に裁断した。
【0051】
実施例2
表1に記載の配合で、スチレン-イソプレンゴム、ポリイソプレン、脂環族飽和炭化水素樹脂、流動パラフィン及びマクロゴール20000にトルエンを加え、撹拌混合して溶解物を得た。その後、溶解物を撹拌しながら、90℃まで加温した後、ロチゴチンを加え、均一になるまで混合し、膏薬液を得た。膏薬液をシリコン処理したポリエステル製のフィルムに、膏体重量が113g/m2になるように塗膏し、乾燥ダクトを通過させてトルエンを除去した後、ポリエステル製のフィルムを貼り合わせた。その後、約4.5cm×約4.5cmの正方形に裁断した。
【0052】
実施例3
表1に記載の配合で、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイソブチレン、脂環族飽和炭化水素樹脂及び流動パラフィンにトルエンを加え、撹拌混合して溶解物を得た。その後、溶解物を撹拌しながら、40℃まで加温した後、ロチゴチンを加え、均一になるまで混合し、膏薬液を得た。膏薬液をシリコン処理したポリエステル製のフィルムに、膏体重量が56g/m2になるように塗膏し、乾燥ダクトを通過させてトルエンを除去した後、ポリエステル製のフィルムを貼り合わせた。その後、約4.5cm×約4.5cmの正方形に裁断した。
【0053】
実施例4
表1に記載の配合で、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリイソブチレン、脂環族飽和炭化水素樹脂、流動パラフィン及びマクロゴール6000にトルエンを加え、撹拌混合して溶解物を得た。その後、溶解物を撹拌しながら、40℃まで加温した後、ロチゴチンを加え、均一になるまで混合し、膏薬液を得た。膏薬液をシリコン処理したポリエステル製のフィルムに、膏体重量が75g/m2になるように塗膏し、乾燥ダクトを通過させてトルエンを除去した後、ポリエステル製のフィルムを貼り合わせた。その後、約4.5cm×約4.5cmの正方形に裁断した。
【0054】
実施例5
表1に記載の配合で、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリイソブチレン、脂環族飽和炭化水素樹脂及び流動パラフィンにトルエンを加え、撹拌混合して溶解物を得た。その後、溶解物を撹拌しながら、60℃まで加温した後、ロチゴチンを加え、均一になるまで混合し、膏薬液を得た。膏薬液をシリコン処理したポリエステル製のフィルムに、膏体重量が113g/m2になるように塗膏し、乾燥ダクトを通過させてトルエンを除去した後、ポリエステル製のフィルムを貼り合わせた。その後、約4.5cm×約4.5cmの正方形に裁断した。
【0055】
実施例6
表1に記載の配合で、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、脂環族飽和炭化水素樹脂及び流動パラフィンにトルエンを加え、撹拌混合して溶解物を得た。その後、溶解物を撹拌しながら、60℃まで加温した後、ロチゴチンを加え、均一になるまで混合し、膏薬液を得た。膏薬液をシリコン処理したポリエステル製のフィルムに、膏体重量が150g/m2になるように塗膏し、乾燥ダクトを通過させてトルエンを除去した後、ポリエステル製のフィルムを貼り合わせた。その後、約4.5cm×約4.5cmの正方形に裁断した。
【0056】
比較例1
表1に記載の配合で、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、脂環族飽和炭化水素樹脂及び流動パラフィンにトルエンを加え、撹拌混合して溶解物を得た。その後、ロチゴチンを加え、均一になるまで混合し、膏薬液を得た。膏薬液をシリコン処理したポリエステル製のフィルムに、膏体重量が75g/m2になるように塗膏し、乾燥ダクトを通過させてトルエンを除去した後、ポリエステル製のフィルムを貼り合わせた。その後、約4.5cm×約4.5cmの正方形に裁断した。
【0057】
比較例2
表1に記載の配合で、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、脂環族飽和炭化水素樹脂及び流動パラフィンにトルエンを加え、撹拌混合して溶解物を得た。その後、溶解物を撹拌しながら、30℃まで加温した後、ロチゴチンを加え、均一になるまで混合し、膏薬液を得た。膏薬液をシリコン処理したポリエステル製のフィルムに、膏体重量が113g/m2になるように塗膏し、乾燥ダクトを通過させてトルエンを除去した後、ポリエステル製のフィルムを貼り合わせた。その後、約4.5cm×約4.5cmの正方形に裁断した。
【0058】
【0059】
試験例1(膏薬の観察)
実施例1~6及び比較例1~2で得られた製剤をアルミ包材に包装し、室温及び60℃条件下に2週間保存し、開始時及び保存後の膏薬中におけるロチゴチンの結晶析出状態を目視及び顕微鏡で観察した。結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
試験例1において、膏薬液を室温及び30℃に加温した比較例1~2は、塗膏直後から、膏薬中にロチゴチン由来の結晶が析出し、その後、経時的に結晶数の増加及び粒子径の増大が観察された。一方、膏薬液を40℃~90℃に加温した実施例1~6は、実施例3において、保存中に極わずかに結晶が観察されたものの、その他の実施例において、結晶の析出は認められなかった。このことから、本発明の経皮吸収型製剤は、有機溶剤に撹拌混合した膏薬液を一定温度以上に加温することで、膏薬中における結晶の析出を抑制できることが確認された。
【0062】
試験例2(皮膚透過試験)
ヘアレスマウス(雌、7週齢)の冷凍皮膚を解凍した後、直径20mmの円形に打ち抜き、皮膚を調製した。実施例5、実施例6及び市販製剤のニュープロ(登録商標)パッチ9mg(含量9mg/20cm2)を直径12mmの円形に打ち抜いた後、剥離フィルムを取り除き、皮膚の角質層側に貼付して、横型拡散セルに装着した。拡散セルの外部ジャケット内に37℃の温水を循環させ、セル内部を一定の温度条件に保ち、レセプター側の拡散セルには、pH4.5に調製したリン酸塩緩衝液を充満させ、撹拌子で撹拌しながら、経時的に0.1mLずつサンプリングした。サンプリング後のレセプター溶液には、同量のpH4.5のリン酸塩緩衝液を添加した。サンプリングにより採取した溶液をHPLCにて分析し、薬物濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0063】
【0064】
試験例2において、実施例5及び6は、市販製剤と比べて、遜色がない皮膚透過性を示した。このことから、本発明の経皮吸収型製剤は、優れた薬物の経皮吸収性を示すことが確認された。
【0065】
試験例3(安定性試験)
実施例1、4、5及び6で得られた製剤をアルミ包材に包装し、60℃条件下に2週間保存した。その後、膏薬中のロチゴチン含量及び分解物についてHPLCを用いて測定し、薬物安定性を評価した。結果を表4に示す。
【0066】
【0067】
試験例3において、実施例1、4、5及び6は、60℃に2週間保存した条件下でもロチゴチンの含量に変化はなく、明らかな分解生成物も認められなかった。このことから、本発明の経皮吸収型製剤は、優れた薬物安定性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の経皮吸収型製剤は、製造時において、有機溶剤に撹拌混合した膏薬液を40℃以上に加温することで、粘着基剤中における経時的な結晶の析出を防止し、外観の変化や粘着力の低下並びに薬物の経皮吸収量の低下を抑制することができる。また、膏薬中での薬物安定性、薬物の経皮吸収性に優れた経皮吸収型製剤としてパーキンソン病やレストレスレッグス症候群の治療薬として産業上大変有用である。