(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】PINダイオードスイッチ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/15 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
H01P1/15
(21)【出願番号】P 2019130955
(22)【出願日】2019-07-16
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 治夫
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-162602(JP,A)
【文献】実開平07-029901(JP,U)
【文献】特開2007-208800(JP,A)
【文献】特開2003-179402(JP,A)
【文献】特開2000-286601(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/365888(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を受ける入力端子と、
第1及び第2出力端子と、
一端が前記入力端子に接続され、他端が前記第1出力端子に接続された第1伝送線路と、
アノードが前記第1伝送線路の他端に接続され、カソードが接地端子に接続された第1PINダイオードと、
一端が前記入力端子に接続され、他端が前記第2出力端子に接続された第2伝送線路と、
アノードが前記第2伝送線路の他端に接続され、カソードが接地端子に接続された第2PINダイオードと、
を具備し、
前記第1PINダイオードの第1接合面積は、前記第2PINダイオードの第2接合面積
の1/2以下である
PINダイオードスイッチ。
【請求項2】
前記第1及び第2伝送線路の各々の長さは、使用波長の概略1/4の長さである
請求項
1に記載のPINダイオードスイッチ。
【請求項3】
前記第1出力端子から信号を出力する場合、前記第1PINダイオードには逆方向バイアスが印加され、前記第2PINダイオードには順方向バイアスが印加され、
前記第2出力端子から信号を出力する場合、前記第1PINダイオードには順方向バイアスが印加され、前記第2PINダイオードには逆方向バイアスが印加される
請求項1
又は2に記載のPINダイオードスイッチ。
【請求項4】
逆方向バイアスが印加された前記第1PINダイオードのインピーダンスは、逆方向バイアスが印加された前記第2PINダイオードのインピーダンスより高い
請求項1乃至
3のいずれかに記載のPINダイオードスイッチ。
【請求項5】
前記第1PINダイオードの前記アノードに電気的に接続された第1制御端子と、
前記第2PINダイオードの前記アノードに電気的に接続された第2制御端子と、
をさらに具備し、
前記第1制御端子及び前記第2制御端子には、制御回路からバイアス電圧が印加される
請求項1乃至4のいずれかに記載のPINダイオードスイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高周波信号を扱うPINダイオードスイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波信号(RF信号)の通過経路を2系統に切り換える高周波スイッチとして、ダイオードを用いて構成されたダイオードスイッチが使用されている。例えば、ダイオードとして、順方向特性をあまり損なうことなく逆方向耐圧を向上できるPINダイオードが利用されている。
【0003】
このような高周波スイッチにおいて、逆方向バイアスが印加されて開放状態(オフ状態)に設定されたPINダイオードのインピーダンスが十分高くならないと、当該PINダイオードに電流が流れ、高周波信号に損失が発生してしまう。このため、高周波スイッチを伝送する高周波信号の挿入損失が大きくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、挿入損失を低減することが可能なPINダイオードスイッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係るPINダイオードスイッチは、入力信号を受ける入力端子と、第1及び第2出力端子と、一端が前記入力端子に接続され、他端が前記第1出力端子に接続された第1伝送線路と、アノードが前記第1伝送線路の他端に接続され、カソードが接地端子に接続された第1PINダイオードと、一端が前記入力端子に接続され、他端が前記第2出力端子に接続された第2伝送線路と、アノードが前記第2伝送線路の他端に接続され、カソードが接地端子に接続された第2PINダイオードとを具備する。前記第1PINダイオードの第1接合面積は、前記第2PINダイオードの第2接合面積より小さい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係るスイッチ装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るPINダイオードスイッチの回路図である。
【
図3】
図3は、PINダイオード用のバイアス回路の回路図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るインピーダンスチャートである。
【
図5】
図5は、比較例に係るPINダイオードスイッチの回路図である。
【
図6】
図6は、比較例に係るインピーダンスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0009】
[1] スイッチ装置1の構成
図1は、実施形態に係るスイッチ装置1のブロック図である。スイッチ装置1は、PINダイオードスイッチ2、及び制御回路3を備える。
【0010】
PINダイオードスイッチ2は、入力端子10、第1出力端子11、及び第2出力端子12を備える。PINダイオードスイッチ2は、入力端子10に入力された入力信号を、第1出力端子11及び第2出力端子12の一方から出力信号として出力する。入力信号は、高周波信号(RF(radio frequency)信号)である。
【0011】
PINダイオードスイッチ2は、高周波信号を扱う。例えば、第1出力端子11には、低雑音増幅器が接続され、第2出力端子12には、低雑音増幅器の飽和回避のための迂回ラインが接続される。
【0012】
制御回路3は、PINダイオードスイッチ2に制御信号を供給し、PINダイオードスイッチ2の動作を制御する。
【0013】
図2は、
図1に示したPINダイオードスイッチ2の回路図である。PINダイオードスイッチ2は、入力端子10、第1出力端子11、第2出力端子12、第1伝送線路13、第2伝送線路14、第1PINダイオード15、及び第2PINダイオード16を備える。
【0014】
第1伝送線路13の一端は、入力端子10に接続され、第1伝送線路13の他端は、第1PINダイオード15のアノード、及び第1出力端子11に接続される。第1PINダイオード15のカソードは、接地端子GNDに接続される(すなわち、接地される)。
【0015】
第2伝送線路14の一端は、入力端子10に接続され、第2伝送線路14の他端は、第2PINダイオード16のアノード、及び第2出力端子12に接続される。第2PINダイオード16のカソードは、接地される。
【0016】
伝送線路13、14は、1/4波長線路で構成される。すなわち、伝送線路13、14は、スイッチ装置1が扱う高周波信号の波長λの概略1/4の長さの伝送線路である。伝送線路13、14は、例えばマイクロストリップ線路で構成される。伝送線路13、14は、入力される高周波信号に対して高いインピーダンス、理想的には無限大のインピーダンスを有する線路として機能する。
【0017】
PINダイオード15、16は、P型半導体層と、N型半導体層と、これらの間に挟まれた高比抵抗層(intrinsic層、真性半導体層)とを備え、PIN接合を有するダイオードである。PINダイオード15、16に順方向バイアスを印加すると、短絡状態(オン状態)になる。PINダイオード15、16に逆方向バイアスを印加すると、開放状態(オフ状態)となる。
【0018】
第1PINダイオード15の接合面積は、第2PINダイオード16の接合面積より小さく設定される。具体的には、第1PINダイオード15の接合面積は、第2PINダイオード16の接合面積の1/2以下に設定される。接合面積とは、PIN接合部の面積である。真性半導体層は、P型半導体層及びN型半導体層に比べて十分膜厚が薄い。よって、PINダイオード15の接合面積は、PN接合の面積と言い換えることもできる。
図2では、接合面積が相対的に大きい第2PINダイオード16を、2個のPINダイオードが並列接続された記号により等価的に示している。PINダイオードは、その接合面積が小さくなるほど、その容量が小さくなる。
【0019】
なお、PINダイオード15、16には、バイアスを印加するためのバイアス回路が接続される。
図2では、PINダイオード15、16に接続されるバイアス回路の図示を省略している。
【0020】
図3は、PINダイオード用のバイアス回路の回路図である。
図3では、第1PINダイオード15用のバイアス回路を示しているが、第2PINダイオード16にも
図3と同じバイアス回路が接続される。
【0021】
バイアス回路20は、制御端子21、伝送線路22、23、及びキャパシタ24を備える。
【0022】
制御端子21は、キャパシタ24の一方の電極と、伝送線路22の一端とに接続される。キャパシタ24の他方の電極は、接地される。伝送線路22の他端は、第1PINダイオード15のアノードに接続される。伝送線路23の一端は、第1PINダイオード15のカソードに接続され、その他端は、接地される。
【0023】
伝送線路22、23は、1/4波長線路で構成される。
【0024】
バイアス回路20は、第1PINダイオード15に、順方向バイアス又は逆方向バイアスを印加する。制御端子21には、制御回路3からバイアス電圧(正電圧、及び負電圧)が印加される。制御端子21に印加されたバイアス電圧は、伝送線路22を介して、第1PINダイオード15のアノードに印加される。伝送線路23は、第1PINダイオード15のカソードに0Vを印加する。
【0025】
これにより、制御端子21に正のバイアス電圧が印加された場合、バイアス回路20は、第1PINダイオード15に順方向バイアスを印加することができる。また、制御端子21に負のバイアス電圧が印加された場合、バイアス回路20は、第1PINダイオード15に逆方向バイアスを印加することができる。
【0026】
[2] 動作
上記のように構成されたスイッチ装置1の動作について説明する。
【0027】
まず、高周波信号を入力端子10から第1出力端子11に伝送する動作について説明する。制御回路3は、第1PINダイオード15に逆方向バイアスを印加し、第2PINダイオード16に順方向バイアスを印加する。よって、第1PINダイオード15は、開放状態になり、第2PINダイオード16は、短絡状態になる。
【0028】
図4は、実施形態に係るインピーダンスチャート(スミスチャートともいう)である。
【0029】
第1PINダイオード15は、開放状態である。よって、
図2の“A”から見たインピーダンスは、
図4の“A”点に示すように、高インピーダンスとなる。
【0030】
第2PINダイオード16は、短絡状態である。よって、
図2の“B”から見たインピーダンスは、
図4の“B”点に示すように、低インピーダンスとなる。
【0031】
また、
図2の“C”から見たインピーダンスは、第2伝送線路14の効果により、
図4の“C”点に示すように、高インピーダンスとなる。
【0032】
よって、入力端子10から入力された高周波信号は、第2PINダイオード16では反射され、ほとんどの信号成分が第1出力端子11から出力される。
【0033】
逆方向バイアスが印加された、接合面積の小さい第1PINダイオード15は、その容量が小さいため、第2PINダイオード16より高インピーダンスとなる。このため、挿入損失を大幅に低減することが可能となる。
【0034】
さらに、接合面積の大きい第2PINダイオード16には順方向バイアスが印加されているため、第2PINダイオード16は短絡状態になる。よって、第2伝送線路14の効果により、
図2の“C”から見たインピーダンスは開放に近くなり、挿入損失の低減に大幅に寄与する。
【0035】
次に、高周波信号を入力端子10から第2出力端子12に伝送する動作について説明する。制御回路3は、第1PINダイオード15に順方向バイアスを印加し、第2PINダイオード16に逆方向バイアスを印加する。よって、第1PINダイオード15は、短絡状態になり、第2PINダイオード16は、開放状態になる。
【0036】
入力端子10から入力された高周波信号は、第1PINダイオード15では反射され、ほとんどの信号成分が第2出力端子12から出力される。
【0037】
なお、接合面積が大きい第2PINダイオード16は、逆方向バイアスが印加された場合、そのインピーダンスが十分高くならない可能性がある。しかし、入力端子10から第2出力端子12への経路は、低雑音増幅器の飽和回避のための迂回ラインに接続されるので、挿入損失が増加しても問題とはならない。
【0038】
[3] 比較例
次に、比較例について説明する。
図5は、比較例に係るPINダイオードスイッチ2の回路図である。
【0039】
比較例に係るPINダイオードスイッチ2は、入力端子10、第1出力端子11、第2出力端子12、第1伝送線路13、第2伝送線路14、第1PINダイオード17、及び第2PINダイオード16を備える。
【0040】
第1PINダイオード17のアノードは、第1伝送線路13の他端に接続される。第1PINダイオード17のカソードは、接地される。第1PINダイオード17の接合面積は、第2PINダイオード16の接合面積と同じである。すなわち、第1PINダイオード17の接合面積は、実施形態で示した第1PINダイオード15の接合面積より大きい。
【0041】
高周波信号を入力端子10から第1出力端子11に伝送する動作について説明する。第1PINダイオード17には逆方向バイアスが印加され、第2PINダイオード16には順方向バイアスが印加される。よって、第1PINダイオード17は、開放状態になり、第2PINダイオード16は、短絡状態になる。
【0042】
図6は、比較例に係るインピーダンスチャートである。
【0043】
図5の“D”から見たインピーダンスは、
図6の“D”点に示すように、高インピーダンスとなる。
図5の“E”から見たインピーダンスは、
図6の“E”点に示すように、低インピーダンスとなる、さらに、
図5の“F”から見たインピーダンスは、第2伝送線路14の効果により、
図6の“F”点に示すように、高インピーダンスとなる。
【0044】
一般的に、PINダイオードの接合面積とインピーダンスとは強い相関があり、接合面積を小さくすると、逆方向バイアス印加時には高インピーダンスとなるが、順方向バイアス印加時には低インピーダンスまで下がらなくなる。また、接合面積を大きくすると、順方向バイアス印加時には低インピーダンスとなるが、逆方向バイアス印加時にインピーダンスが十分高くならない。
【0045】
よって、比較例では、逆方向バイアスが印加された第1PINダイオード17は、そのインピーダンスが十分高くならない。これは、
図6の“D”点のインピーダンスが、
図4の“A”点のインピーダンスより低いことから理解できる。これにより、第1PINダイオード17による挿入損失が発生する。
【0046】
一方、本実施形態では、第1PINダイオード15の接合面積を、第2PINダイオード16の接合面積より小さくしている。これにより、高周波信号を入力端子10から第1出力端子11に出力する場合に、挿入損失を低減することができる。
【0047】
[4] 実施形態の効果
以上詳述したように本実施形態では、PINダイオードスイッチ2は、入力信号を受ける入力端子10と第1出力端子11との間の第1経路と、入力端子10と第2出力端子12との間の第2経路とを切り換える。第1経路には、第1伝送線路13及び第1PINダイオード15が設けられる。第2経路には、第2伝送線路14及び第2PINダイオード16が設けられる。そして、第1PINダイオード15の接合面積は、第2PINダイオード16の接合面積より小さく設定される。具体的には、第1PINダイオード15の接合面積は、第2PINダイオード16の接合面積の1/2以下に設定される。
【0048】
従って本実施形態によれば、高周波信号を入力端子10から第1出力端子11へ伝送する場合に、挿入損失を大幅に低減できる。
【0049】
上記実施形態で示したPINダイオードスイッチは、高周波信号を送受信するアンテナ装置、又はレーダ装置の受信器に適用可能である。
【0050】
上記実施形態では、伝送線路は、使用波長λの1/4の長さである1/4波長線路としている。しかし、丁度この長さでなくとも、この長さと概略同じ長さであれば、本実施形態の動作を実現でき、このような構成は本発明の範疇に含まれる。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1…スイッチ装置、2…PINダイオードスイッチ、3…制御回路、10…入力端子、11…出力端子、12…出力端子、13…伝送線路、14…伝送線路、15…PINダイオード、16…PINダイオード、17…PINイオード、20…バイアス回路、21…制御端子、22…伝送線路、23…伝送線路、24…キャパシタ。