(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】ボイラプラントおよびボイラプラントの制御方法
(51)【国際特許分類】
F22B 37/56 20060101AFI20231211BHJP
F22D 11/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
F22B37/56 Z
F22D11/00 G
(21)【出願番号】P 2019170501
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】和田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】椿▲崎▼ 仙市
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-194396(JP,A)
【文献】特開2016-142444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 37/00 - 37/78
F22B 1/00 - 3/08
F22D 1/00 - 11/06
C02F 1/66 - 1/68
C23F 11/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラと、
前記ボイラが生成した蒸気により作動する蒸気タービンと、
前記蒸気タービンから排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器と、
前記復水器で凝縮された前記ボイラ水を前記ボイラに供給する復水ポンプと、
前記ボイラに供給される前記ボイラ水にアンモニアを注入する注入部と、
前記注入部による前記アンモニアの注入量を制御する制御部と、を備え、
前記ボイラは、
前記復水ポンプから供給される前記ボイラ水を保持する第1蒸気ドラムと、
前記第1蒸気ドラムに保持された前記ボイラ水を前記熱源からの熱によって加熱して蒸気を生成する第1蒸発器と、
前記第1蒸気ドラムの圧力値を検出する圧力検出部と、を有し、
前記制御部は、前記圧力検出部が検出する圧力値の低下に応じて前記アンモニアの注入量を増加させるよう前記注入部を制御するボイラプラント。
【請求項2】
前記ボイラに供給される前記ボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から換算してpH値を算出するpH計測部を備え、
前記制御部は、前記pH計測部が計測するpH値が9.7以上かつ10.5以下となるように前記注入部による前記アンモニアの注入量を制御する請求項1に記載のボイラプラント。
【請求項3】
前記熱源は、熱回収可能な温度以上の排ガスであり、
前記ボイラは、
前記復水ポンプから供給される前記ボイラ水を保持する第2蒸気ドラムと、
前記第2蒸気ドラムに保持された前記ボイラ水を前記熱源からの熱によって加熱して蒸気を生成する第2蒸発器と、を有し、
前記第1蒸発器は、前記第2蒸発器よりも前記排ガスの流通方向の下流側に配置されている請求項1または請求項2に記載のボイラプラント。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1蒸気ドラムが保持する前記ボイラ水のpH値が9.5以上かつ10.0以下となるように前記注入部による前記アンモニアの注入量を制御する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のボイラプラント。
【請求項5】
前記ボイラに供給される前記ボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から換算してpH値を算出するpH計測部を備え、
前記pH計測部が前記復水器から前記第1蒸気ドラムに前記ボイラ水を供給する配管に設けられている請求項1に記載のボイラプラント。
【請求項6】
熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラと、前記ボイラが生成した蒸気により作動する蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器と、前記復水器で凝縮された前記ボイラ水を前記ボイラに供給する復水ポンプと、前記ボイラに供給される前記ボイラ水にアンモニアを注入する注入部と、を備えるボイラプラントの制御方法であって、
前記ボイラは、
前記復水ポンプから供給される前記ボイラ水を保持する第1蒸気ドラムと、
前記第1蒸気ドラムに保持された前記ボイラ水を前記熱源からの熱によって加熱して蒸気を生成する第1蒸発器と、を有し、
前記第1蒸気ドラムの圧力値を検出する圧力検出工程と、
前記圧力検出工程が検出する圧力値の低下に応じて前記アンモニアの注入量を増加させるよう前記注入部を制御する制御工程と、を備えるボイラプラントの制御方法。
【請求項7】
前記ボイラは、前記ボイラに供給される前記ボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から換算してpH値を算出するpH計測部を有し、
前記pH計測部が前記復水器から前記第1蒸気ドラムに前記ボイラ水を供給する配管に設けられている請求項6に記載のボイラプラントの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボイラプラントおよびボイラプラントの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電プラントでは、ガスタービンなどの排ガスからの排熱を回収することを目的として排熱回収ボイラ(HRSG:Heat Recovery Steam Generator)が設置される。排熱回収ボイラでは、流れ加速型腐食(FAC:Flow Accelerated Corrosion)によるトラブルが発生することが知られている。流れ加速型腐食は、例えば配管の中を流通する高温水などの水の水質や温度、流速など種々の影響因子が重なることで発生することが知られている。
【0003】
発電プラントの配管などを通過する水の水質を維持する水処理方法として、揮発性物質処理(AVT:All Volatile Treatment)が知られている。また、AVTに比べて、アンモニアの供給量を増加させ、給水pHを高めに設定したHigh-AVT(高pH水処理)が知られている(例えば、特許文献1参照)。High-AVTでは、配管などを流通する水系統へ注入する薬品としてりん酸塩などを用いずに配管の流れ加速型腐食(以下、単に「腐食」という。)を従来に比べて抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、高圧側蒸気を発生させる高圧側ユニットおよび低圧側蒸気を発生させる低圧側ユニットを備える排熱回収ボイラにおいて、復水器で凝縮された復水(ボイラ水)を排熱回収ボイラ側に供給する給水系統にアンモニアを注入する薬剤注入手段を設けることが開示されている。特許文献1に開示される排熱回収ボイラは、低圧側ユニットの蒸気ドラム内のドラム水(ボイラ水)のpHを9.0以上とするように薬剤注入手段により給水系統にアンモニアを注入している。
【0006】
しかしながら、特許文献1には、薬剤注入手段により注入するアンモニアの注入量をどのようにして制御するのかについての具体的な開示はされていない。薬剤注入手段によるアンモニアの注入量の制御方法として、例えば、蒸気ドラムに設けられたサンプリング配管により蒸気ドラム内のドラム水(ボイラ水)を抽出し、抽出した蒸気ドラム内のドラム水(ボイラ水)のpH値(あるいは電気伝導率)を分析機器で測定し、蒸気ドラム内のドラム水(ボイラ水)のpH値の制御目標値(基準値)と測定したpH値に基づいて給水系統にアンモニアを注入する方法が考えられる。
【0007】
この場合、サンプリング配管を通じて蒸気ドラム内のドラム水(ボイラ水)の抽出位置から分析機器の位置まで蒸気ドラム内のドラム水(ボイラ水)が到達するまでの時間遅れが発生する。また、pH値を計測してからアンモニアの注入量を変更し、注入された薬剤が蒸気ドラムに到達するまでの時間遅れが発生する。
【0008】
そのため、蒸気ドラム内のドラム水(ボイラ水)のpH値が基準値を下回ってから薬剤注入手段により給水系統に注入されたアンモニアが蒸気ドラムに到達して蒸気ドラム内のドラム水(ボイラ水)のpH値を基準値内に戻すまでの間に、蒸気ドラム内のドラム水(ボイラ水)のpH値が基準値を下回る期間が発生してしまう。そして、蒸気ドラム内のドラム水(ボイラ水)のpH値が基準値を下回る期間において、配管の腐食が進行してしまう可能性がある。
【0009】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、蒸気ドラムが保持するボイラ水のpH値が低下してからpH値を増加させるまでの時間遅れを短縮して配管の腐食を抑制することが可能なボイラプラントおよびボイラプラントの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係るボイラプラントは、熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラと、前記ボイラが生成した蒸気により作動する蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器と、前記復水器で凝縮された前記ボイラ水を前記ボイラに供給する復水ポンプと、前記ボイラに供給される前記ボイラ水にアンモニアを注入する注入部と、前記注入部による前記アンモニアの注入量を制御する制御部と、を備え、前記ボイラは、前記復水ポンプから供給される前記ボイラ水を保持する第1蒸気ドラムと、前記第1蒸気ドラムに保持された前記ボイラ水を前記熱源からの熱によって加熱して蒸気を生成する第1蒸発器と、前記第1蒸気ドラムの圧力値を検出する圧力検出部と、を有し、前記制御部は、前記圧力検出部が検出する圧力値の低下に応じて前記アンモニアの注入量を増加させるよう前記注入部を制御する。
【0011】
本開示の一態様に係るボイラプラントの制御方法は、熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラと、前記ボイラが生成した蒸気により作動する蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器と、前記復水器で凝縮された前記ボイラ水を前記ボイラに供給する復水ポンプと、前記ボイラに供給される前記ボイラ水にアンモニアを注入する注入部と、を備えるボイラプラントの制御方法であって、前記ボイラは、前記復水ポンプから供給される前記ボイラ水を保持する第1蒸気ドラムと、前記第1蒸気ドラムに保持された前記ボイラ水を前記熱源からの熱によって加熱して蒸気を生成する第1蒸発器と、を有し、前記第1蒸気ドラムの圧力値を検出する圧力検出工程と、前記圧力検出工程が検出する圧力値の低下に応じて前記アンモニアの注入量を増加させるよう前記注入部を制御する制御工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、蒸気ドラムが保持するボイラ水のpH値が低下してからpH値を増加させるまでの時間遅れを短縮して配管の腐食を抑制することが可能なボイラプラントおよびボイラプラントの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の一実施形態に係るボイラプラントを示す概略構成図である。
【
図2】ボイラ水のpH値と流れ加速型腐食における配管の減肉速度との関係を示すグラフである。
【
図3】ボイラ水の温度と流れ加速型腐食における配管の減肉速度との関係を示すグラフである。
【
図4】気液二相流域におけるアンモニア分配率(気液分配率)と圧力値との関係を示すグラフである。
【
図5】本実施形態の排熱回収ボイラにおける低圧蒸気ドラムの圧力値の時間変化を示すグラフである。
【
図6】本実施形態の排熱回収ボイラにおける低圧蒸気ドラムのボイラ水のpH値の時間変化を示すグラフである。
【
図7】本実施形態の排熱回収ボイラにおけるpH計測部が計測するpH値の時間変化を示すグラフである。
【
図8】本実施形態の排熱回収ボイラにおけるアンモニア注入部によるアンモニア溶液の注入量の時間変化を示すグラフである。
【
図9】比較例の排熱回収ボイラにおける低圧蒸気ドラムの圧力値の時間変化を示すグラフである。
【
図10】比較例の排熱回収ボイラにおける低圧蒸気ドラムのボイラ水のpH値の時間変化を示すグラフである。
【
図11】比較例の排熱回収ボイラにおけるpH計測部が計測するpH値の時間変化を示すグラフである。
【
図12】比較例の排熱回収ボイラにおけるアンモニア注入部によるアンモニア溶液の注入量の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示の一実施形態に係る発電プラント(ボイラプラント)100について、図面を参照して説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係るボイラプラント100を示す概略構成図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のボイラプラント100は、例えばガスタービンから排出される排ガス(燃焼ガス)の排熱を排熱回収ボイラで熱回収して蒸気を発生させるものであり、ガスタービン(図示略)と、発電機(図示略)と、排熱回収ボイラ10と、蒸気タービン20と、復水器30と、復水ポンプ40と、アンモニア注入部50と、循環ポンプ60と、給水ポンプ70と、pH計測部80と、制御部90と、を備える。
【0016】
ボイラプラント100は、ガスタービンおよび蒸気タービン20が発生する動力により発電機を回転駆動して発電を行う。熱回収をする排熱はガスタービンの排ガスに限定するのではなく、例えば高炉からの排ガスなど各種の高温の排ガスを用いてもよい。なお、以降の説明において、ボイラプラント100内の各構成で流通または保持される液状流体を総じてボイラ水を表する。
【0017】
排熱回収ボイラ(ボイラ)10は、ガスタービンにおける燃料の燃焼により生成される高温高圧の燃焼ガスによりタービンを回転駆動させた後の燃焼排ガス(熱源)からの熱によって蒸気を生成する装置である。
図1に示す排熱回収ボイラ10は、燃焼排ガスの温度レベルに対応して、本実施形態では例えば2つの排熱回収部を備え、それぞれ蒸気を発生する排熱回収部10aおよび排熱回収部10bを備える。
【0018】
排熱回収部10aが発生する蒸気は、排熱回収部10bが発生する蒸気よりも低圧である。なお、
図1に示す排熱回収ボイラ10は、それぞれ発生する蒸気の圧力が異なる2つの排熱回収部を備えるものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、排熱回収部を1つとしてもよい。また、例えば、それぞれ相対的に高圧、中圧、低圧の蒸気を発生する3つの排熱回収部を備えるものであってもよい。
【0019】
排熱回収部10aは、復水器30より供給されたボイラ水をガスタービンの燃焼排ガスにより加熱して蒸気を生成し、蒸気タービン20へ供給する。排熱回収部10aは、低圧蒸気ドラム(第1蒸気ドラム)11aと、低圧蒸発器(第1蒸発器)12aと、低圧節炭器13aと、低圧過熱器14aと、圧力計(圧力検出部)15aと、を備える。
【0020】
低圧蒸気ドラム11aは、復水ポンプ40を介して復水器30から供給されるボイラ水を保持する装置である。復水ポンプ40から配管Lw1を通じて低圧節炭器13aに供給されたボイラ水は、低圧節炭器13aから配管Lw2を通じて低圧蒸気ドラム11aに供給される。低圧蒸気ドラム11aは、低圧節炭器13aで加熱されたボイラ水を保持する。
【0021】
低圧蒸発器12aは、低圧蒸気ドラム11aに保持されたボイラ水を循環させながらガスタービンの燃焼排ガスによって加熱して低圧飽和蒸気を発生させる装置である。低圧蒸発器12aは、加熱したボイラ水と発生した低圧飽和蒸気を低圧蒸気ドラム11aへ供給する。低圧蒸発器12aは、排熱回収ボイラ10における燃焼排ガスの流通方向において、高圧蒸発器12bよりも下流側に配置されている。このため、ガスタービンの燃焼排ガス温度は、高圧蒸発器12bに比べて低圧蒸発器12aの方が低い。
【0022】
低圧節炭器13aは、復水ポンプ40から配管Lw1を通じて供給されるボイラ水をガスタービンの燃焼排ガスによって蒸発させずに加熱する装置である。低圧節炭器13aは、加熱したボイラ水を、配管Lw2を通じて低圧蒸気ドラム11aへ供給する。
【0023】
低圧過熱器14aは、低圧蒸気ドラム11aの鉛直上方側から導かれる低圧飽和蒸気をガスタービンの燃焼排ガスによって過熱する。低圧過熱器14aにより過熱された低圧蒸気は、配管Lv1aを介して蒸気タービン20の低圧側車室に供給される。
【0024】
圧力計15aは、低圧節炭器13aから配管Lw2を通じて供給されるボイラ水と、低圧蒸発器12aにより生成された低圧飽和蒸気が、気液二相で存在する低圧蒸気ドラム11aの圧力値を検出するセンサである。圧力計15aが検出した低圧蒸気ドラム11aの圧力値は、信号線S1を通じて制御部90に伝達される。制御部90は、信号線S1を通じて圧力計15aから伝達される圧力値を検出する(圧力検出工程)。
【0025】
排熱回収部10bは、復水器30より供給されたボイラ水をガスタービンの燃焼排ガスにより加熱して蒸気を生成し、蒸気タービン20へ供給する。排熱回収部10bは、高圧蒸気ドラム(第2蒸気ドラム)11bと、高圧蒸発器(第2蒸発器)12bと、高圧節炭器13bと、高圧過熱器14bと、圧力計(圧力検出部)15bと、を備える。
【0026】
高圧蒸気ドラム11bは、復水ポンプ40を介して復水器30から供給されるボイラ水を保持する装置である。復水ポンプ40から配管Lw1を通じて低圧節炭器13aに供給されたボイラ水は、低圧節炭器13aから配管Lw2、Lw3を通じて給水ポンプ70に供給される。給水ポンプ70へ供給されたボイラ水は、高圧節炭器13bを経由して高圧蒸気ドラム11bへ供給される。高圧蒸気ドラム11bは、高圧節炭器13bで加熱されたボイラ水を保持する。
【0027】
高圧蒸発器12bは、高圧蒸気ドラム11bに保持されたボイラ水を循環させながらガスタービンの燃焼排ガスによって加熱して高圧飽和蒸気を発生させる装置である。高圧蒸発器12bは、加熱したボイラ水と発生した高圧飽和蒸気を高圧蒸気ドラム11bへ供給する。高圧蒸発器12bは、排熱回収ボイラ10における燃焼排ガスの流通方向において、低圧蒸発器12aよりも上流側に配置されている。このため、ガスタービンの燃焼排ガス温度は、低圧蒸発器12aに比べて高圧蒸発器12bの方が高い。
【0028】
高圧節炭器13bは、給水ポンプ70から供給される給水であるボイラ水をガスタービンの燃焼排ガスによって蒸発させずに加熱する装置である。高圧節炭器13bは、加熱したボイラ水を高圧蒸気ドラム11bへ供給する。
【0029】
高圧過熱器14bは、高圧蒸気ドラム11bの鉛直上方側から導かれる高圧飽和蒸気をガスタービンの燃焼排ガスによって過熱する。高圧過熱器14bにより過熱された高圧蒸気は、配管Lv1bを介して蒸気タービン20の高圧側車室に供給される。
【0030】
圧力計15bは、高圧節炭器13bから配管Lw3を通じて供給されるボイラ水と、高圧蒸発器12bにより生成された高圧飽和蒸気が、気液二相で存在する高圧蒸気ドラム11bの圧力値を検出するセンサである。圧力計15bが検出した高圧蒸気ドラムの圧力値は、信号線S2を通じて制御部90に伝達される。制御部90は、信号線S2を通じて圧力計15bから伝達される圧力値を検出する。
【0031】
蒸気タービン20は、排熱回収ボイラ10が生成した蒸気(低圧蒸気および高圧蒸気)により作動する装置である。蒸気タービン20は、蒸気によりタービン翼(図示略)が回転軸(図示略)回りに回転することで動力を発生する。蒸気タービン20が発生する動力は、発電機(図示略)の回転軸に伝達される。
【0032】
復水器30は、蒸気タービン20で回転動力を発生する仕事に用いられた蒸気を凝縮してボイラ水を生成する装置である。復水器30は、蒸気タービン20から排出される蒸気を冷却水(図示略)で冷却することにより、蒸気を凝縮させる。
【0033】
復水ポンプ40は、復水器30で生成されたボイラ水を排熱回収ボイラ10に供給する装置である。復水ポンプ40は、復水器30で生成されたボイラ水を、配管Lw1を通じて低圧節炭器13aに供給する。復水ポンプ40から低圧節炭器13aに供給されるボイラ水の供給量は、配管Lw1に設置されたバルブV1により調整される。
【0034】
アンモニア注入部50は、排熱回収ボイラ10に供給されるボイラ水にアンモニア溶液を注入する装置である。アンモニア注入部50は、アンモニアを水に溶解させて生成したアンモニア溶液を復水ポンプ40の下流側に配置された配管Lw1に注入する。アンモニア注入部50が配管Lw1に注入するアンモニア溶液の注入量は、制御部90が信号線S3を通じて伝達する制御信号により制御される。なお、アンモニア注入部50からのアンモニア溶液の注入先は、復水ポンプ40の下流側に限定するものではない。
【0035】
循環ポンプ60は、配管Lw2に配置されるとともに低圧節炭器13aで加熱されたボイラ水を、配管Lw1を通じて低圧節炭器13aへ循環させるための装置である。循環ポンプ60の上流側には、低圧節炭器13aへ循環させるボイラ水の流量を調節するためのバルブV2が設けられている。
【0036】
給水ポンプ70は、配管Lw3に配置されるとともに低圧節炭器13aで加熱されたボイラ水を、配管Lw2、Lw3を通じて高圧節炭器13bへ導くための装置である。給水ポンプ70の上流側には、高圧節炭器13bへ導くボイラ水の流量を調節するためのバルブV3が設けられている。給水ポンプ70の下流側で配管Lw4が分岐し、高圧過熱器14bに連結され、過熱低減のためにボイラ水が高圧過熱器14bへ搬送されるように構成されている。配管Lw4には、配管Lw4から高圧過熱器14bへ供給するボイラ水の流量を調節して、供給されたボイラ水の噴霧により高圧過熱器14bで過熱された高圧蒸気の過熱度を調整するためのバルブV4が設けられている。
【0037】
pH計測部80は、配管Lw1に設けられ、復水ポンプ40から供給されるボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から換算してpH値を算出する装置である。pH計測部80は、例えば、ボイラ水のpH値を直接的に計測する装置である。また、pH計測部80は、例えば、ボイラ水の電気伝導率を計測し、電気伝導率とpH値とを対応付けて予め記憶されたテーブルを参照し、計測した電気伝導率からpH値を算出する装置であってもよい。
【0038】
制御部90は、ボイラプラント100の各部を制御する装置である。制御部90には、信号線S1を通じて圧力計15aが検出する低圧蒸気ドラム11aの圧力値が伝達される。制御部90には、信号線S2を通じて圧力計15bが検出する高圧蒸気ドラム11bの圧力値が伝達される。制御部90は、信号線S3を通じてアンモニア溶液の注入量を制御する制御信号をアンモニア注入部50に伝達する。制御部90は、信号線(図示略)を通じてバルブV1,V2,V3,V4の開度を調整する制御信号を各バルブに伝達する。
【0039】
次に、本実施形態のボイラプラント100におけるボイラ水のpH値の管理方法について、図面を参照して説明する。
図2は、ボイラ水のpH値と流れ加速型腐食における一例としての配管材料における配管の減肉速度との関係を示すグラフである。
図3は、ボイラ水の温度と流れ加速型腐食における一例としての配管材料における配管の減肉速度との関係を示すグラフである。
図4は、気液二相流域におけるアンモニアの分配率(気液分配率)と圧力値との関係を示すグラフである。
図2と
図3は、縦軸が対数の片対数グラフである。
【0040】
図2において、配管は例えば炭素鋼により形成されており、ボイラ水の温度は例えば180℃であり、ボイラ水に溶存する酸素濃度は例えば5μg/リットル以下であるものを例示している。
図3において、配管は例えば炭素鋼により形成されており、ボイラ水のpH値は例えば9.0であるものを例示している。
【0041】
排熱回収ボイラ10では、腐食が発生し易い条件になると流れ加速型腐食という配管の腐食が発生することが知られている。
図2に示すように、ボイラ水の温度を一定としてボイラ水のpH値を変化させた場合、pH値が9.0を上回るとpH値の増加に伴って配管の減肉速度が急激に減少し、pH値が9.5を超えると配管の減肉速度が極め低くなる。そのため、流れ加速型腐食を抑制するには、ボイラ水のpH値を9.5以上に維持することが望ましい。この傾向は図示していないが、ボイラ水の温度が変化しても同様であり、pH値を9.5以上に維持することが好ましい。
【0042】
また、
図3に示すように、ボイラ水のpH値を9.0で一定としてボイラ水の温度を変化させた場合、ボイラ水の温度が約150℃のときに配管の減肉速度が極大となる。そのため、流れ加速型腐食を抑制するには、ボイラ水の温度が約100~200℃となり、従来は流れ加速型腐食を生じ易かった箇所において、ボイラ水のpH値を9.5以上に維持することが特に望ましい。
【0043】
また、
図4に示すように、液相のアンモニア濃度に対する気相のアンモニア濃度の比率であるアンモニアの分配率[NH
3(V:気相)/NH
3(L:液相)]は、ボイラ水の圧力が小さいほど大きくなる傾向にある。すなわち、蒸気ドラム内の圧力が小さくなると、それに伴って液相から気相へと揮発するアンモニアの量が増加し、アンモニアの分配率が上昇する。アンモニアの分配率が上昇すると液相であるドラム水のアンモニア濃度が低下し、それに伴ってpH値が低下してしまう。
図2に示すように、pH値が低下すると、流れ加速型腐食の抑制効果が減少して腐食発生の影響が大きくなってしまう。
【0044】
以上をまとめると、
図2からわかることは、流れ加速型腐食を抑制するには、ボイラ水のpH値を9.5以上に維持することが望ましいことである。また、
図3からわかることは、pH値を9.5以上に維持されない場合には、ドラム水の温度が約100~200℃となる箇所において流れ加速型腐食の影響が大きくなることである。
【0045】
また、
図4からわかることは、ボイラ水の圧力が低くなるとボイラ水のアンモニア濃度が低下してボイラ水のpH値が低下するために、流れ加速型腐食の抑制効果が減少して腐食発生の影響が大きくなることである。以上の点を踏まえると、排熱回収ボイラ10において、流れ加速型腐食の影響を抑制するためには、流れ加速型腐食が最も発生しやすい箇所において、ボイラ水のpH値を9.5以上に維持することが望ましい。
【0046】
そこで、本実施形態の排熱回収ボイラ10において、pH値が9.5以上に維持されない場合に、流れ加速型腐食が最も発生しやすい箇所について検討する。本実施形態の排熱回収ボイラ10において、気液二相となり、ボイラ水のpH値の低下の発生し易くなる箇所は、低圧蒸気ドラム11aおよび高圧蒸気ドラム11bである。また、低圧蒸気ドラム11aに供給される低圧蒸気の圧力は、高圧蒸気ドラム11bに供給される高圧蒸気の圧力よりも低い。そのため、高圧蒸気ドラム11bよりも、低圧蒸気ドラム11aの方が蒸気ドラムの圧力が低く、アンモニア濃度が低下してpH値が低下しやすい。
【0047】
さらに、本実施形態の排熱回収ボイラ10において、排熱回収部10aの低圧蒸発器12aは、排熱回収ボイラ10における燃焼排ガスの流通方向において、排熱回収部10bの高圧蒸発器12bよりも下流側に配置されている。したがって、低圧蒸発器12aが熱源である燃焼排ガスの温度は、高圧蒸発器12bが熱源である燃焼排ガスの温度よりも低い。復水器30で生成されたボイラ水は、復水ポンプ40により、低圧節炭器13a、低圧蒸気ドラム11a、低圧蒸発器12aに供給、加熱されることで、ボイラ水は、流れ加速型腐食の抑制効果が減少して腐食発生の影響が大きい、約100~200℃の温度に達する。
【0048】
以上のことから、本実施形態においては、pH値が9.5以上に維持されない場合には、流れ加速型腐食が最も発生しやすい箇所が低圧蒸気ドラム11aであることが分かる。そこで、本実施形態では、流れ加速型腐食を抑制するために、低圧蒸気ドラム11aに保持されるボイラ水のpH値を9.5以上に維持するように管理することとした。低圧蒸気ドラム11aに保持されるボイラ水のpH値を9.5以上に維持することで、その他の箇所においてもボイラ水のpH値が9.5以上に維持され、排熱回収ボイラ10の全体の流れ加速型腐食を適切に抑制することができる。
【0049】
次に、低圧蒸気ドラム11aが保持するボイラ水のpH値が低下してからpH値を増加させるまでの時間遅れを短縮するために制御部90が実行する動作について図面を参照して説明する。
図5-
図8は、本実施形態の排熱回収ボイラ10について説明する図である。
図9-
図12は、比較例の排熱回収ボイラについて説明する図である。
図5-
図12のグラフにおいて、時刻T1-T6は等間隔で示しているが、各時刻の間の期間の長さは必ずしも一定ではない。
【0050】
本実施形態の排熱回収ボイラ10は、低圧蒸気ドラム11aの圧力の低下に応じて、アンモニア注入部50によるアンモニア溶液の注入量を増加させることにより、低圧蒸気ドラム11aでアンモニア濃度が低下したボイラ水のアンモニア濃度を上昇させてpH値を増加させるものである。一方、比較例の排熱回収ボイラは、pH計測部80が計測するpH値の低下に応じて、アンモニア注入部50によるアンモニア溶液の注入量を増加させることにより、低圧蒸気ドラム11aでアンモニア濃度が低下したボイラ水のアンモニア濃度を上昇させてpH値を増加させるものである。
【0051】
以下、本実施形態の排熱回収ボイラ10の制御部90が実行する動作について図面を参照して説明する。
図5は、本実施形態の排熱回収ボイラ10における低圧蒸気ドラム11aの圧力値の時間変化を示すグラフである。
図6は、本実施形態の排熱回収ボイラ10における低圧蒸気ドラム11aのボイラ水のpH値の時間変化を示すグラフである。
図7は、本実施形態の排熱回収ボイラ10におけるpH計測部80が計測するpH値の時間変化を示すグラフである。
図8は、本実施形態の排熱回収ボイラ10におけるアンモニア注入部50によるアンモニア溶液の注入量の時間変化を示すグラフである。
【0052】
制御部90は、
図5に示すように、時刻T1において、圧力計15aが検出する低圧蒸気ドラム11aの圧力値がP2から低下することを検出する。制御部90は、
図8に示すように、時刻T1において、圧力計15aが検出する圧力値の低下に応じてアンモニア溶液の注入量をQ1から増加させるようアンモニア注入部50を制御する(制御工程)。
【0053】
制御部90は、圧力計15aが検出する圧力値がP2からP1まで漸次低下する際に、アンモニア溶液の注入量をQ1からQ2まで漸次増加させるようアンモニア注入部50を制御する。
図5では、圧力値P1が低下した時刻T1と同時にアンモニア溶液の注入量を増加開始しているが、圧力値P1が所定の閾値を下回った際の時刻T1よりも若干の時間が経過して圧力値P1の確実な低下を確認した時点で、アンモニア溶液の注入量を増加開始してもよい。
【0054】
図6に示すように、時刻T1において、低圧蒸気ドラム11aの低圧蒸気の圧力が低下すると、アンモニアの分配率が増加するため、ボイラ水に溶解するアンモニアの量が減少する。ボイラ水のアンモニア濃度の低下に伴って低圧蒸気ドラムのボイラ水のpH値がpH1からpH2まで漸次低下する。
【0055】
図6に示すように、pH値がpH2まで低下したボイラ水のpH値は、時刻T2において増加を開始する。pH値は、pH2からpH1まで増加すると一定となる。時刻T2でpH値が増加を開始するのは、時刻T1で注入量の増加を開始したアンモニア溶液が溶解したボイラ水が低圧節炭器13aを経由して低圧蒸気ドラム11aに到達して低下したアンモニア濃度が再上昇するからである。
【0056】
図7に示すように、時刻T3において、pH計測部80が計測するpH値の減少が開始する。pH計測部80が計測するpH値は、pH3からpH4まで漸次低下して一定となる。時刻T3でpH計測部80が計測するpH値が減少を開始するのは、低圧蒸気ドラム11aの低圧蒸気の圧力低下に伴ってpH値が減少したボイラ水が、低圧蒸発器12aと低圧蒸気ドラム11aとの間で循環加熱されることで蒸気が生成され、蒸気タービン20を経由して復水器30で凝縮され、復水ポンプ40を経由してpH計測部80に到達するからである。すなわち、
図6に示した低圧蒸気ドラム11aのボイラ水のpH値の変化よりも遅れてpH計測部80のpH値が低下する。
【0057】
図7に示すように、pH値がpH4まで低下したボイラ水のpH値は、時刻T4において増加を開始する。pH値は、pH4からpH3まで増加すると一定となる。時刻T4でpH値が増加を開始するのは、時刻T1で注入量の増加を開始したアンモニア溶液が溶解したボイラ水が、低圧節炭器13aを経由して低圧蒸気ドラム11aに到達し、低圧蒸発器12aと低圧蒸気ドラム11aとの間で循環加熱されることで蒸気となった後に蒸気タービン20を経由して復水器30で凝縮され、復水ポンプ40を経由してpH計測部80に到達するからである。
【0058】
以上のように、本実施形態の制御部90は、圧力計15aが検出する低圧蒸気ドラム11aの低圧蒸気の圧力の低下に応じて速やかにアンモニア溶液の注入量を増加させるようアンモニア注入部50を制御する。そのため、低圧蒸気ドラム11aの低圧蒸気の圧力の低下によってボイラ水のアンモニア濃度が減少し、pH値が減少したボイラ水のpH値を速やかに増加させるようにアンモニア溶液の注入量を即座に増加することができる。すなわち、低圧蒸気ドラム11aのボイラ水のpH値の低下をpH計測部80で計測する前に、アンモニア溶液の注入量を増加開始することができる。
【0059】
図6および
図7に示すように、低圧節炭器13a,低圧蒸発器12a,低圧過熱器14a,蒸気タービン20,復水器30,復水ポンプ40を循環するアンモニア溶液(ボイラ水)のpH値が低下する期間は、低圧蒸気ドラム11aの低圧蒸気の圧力が低下を開始してから、速やかにアンモニア注入部50から注入されて、注入されたアンモニア溶液が溶解したボイラ水が低圧蒸気ドラム11aに到達するまでの期間(時刻T1から時刻T2までの期間)に抑制される。
【0060】
以下、比較例の排熱回収ボイラの制御部90が実行する動作について図面を参照して説明する。
図9は、比較例の排熱回収ボイラにおける低圧蒸気ドラム11aの圧力値の時間変化を示すグラフである。
図10は、比較例の排熱回収ボイラにおける低圧蒸気ドラム11aのボイラ水のpH値の時間変化を示すグラフである。
図11は、比較例の排熱回収ボイラにおけるpH計測部80が計測するpH値の時間変化を示すグラフである。
図12は、比較例の排熱回収ボイラにおけるアンモニア注入部50によるアンモニア溶液の注入量の時間変化を示すグラフである。
【0061】
制御部90は、
図9に示すように、時刻T1において、圧力計15aが検出する低圧蒸気ドラム11aの圧力値がP2から低下することを検出する。比較例の排熱回収ボイラにおいて、本実施形態とは異なり制御部90は、時刻T1において、アンモニア溶液の注入量を増加させない。そのため、
図12に示すように、時刻T1から時刻T3に至るまで、アンモニア注入量はQ1のまま維持される。
【0062】
図10に示すように、時刻T1において、低圧蒸気ドラム11aの圧力値が低下すると、アンモニアの分配率が増加するため、ボイラ水に溶解するアンモニアの量が減少する。ボイラ水のアンモニア濃度の低下に伴って低圧蒸気ドラムのボイラ水のpH値がpH1からpH2まで漸次低下する。これは、比較例も本実施形態(
図6参照)でも同じである。
【0063】
制御部90は、
図11に示すように、時刻T3において、pH計測部80が計測するpH値がpH3から低下することを検出する。制御部90は、
図12に示すように、時刻T3において、pH計測部80が計測するpH値の低下に応じてアンモニア溶液の注入量をQ1から増加させるようアンモニア注入部50を制御する。制御部90は、pH計測部80が計測するpH値がpH3からpH4まで漸次低下する際に、アンモニア溶液の注入量をQ1からQ2まで漸次増加させるようアンモニア注入部50を制御する。
【0064】
図11では、pH計測部80が計測するpH値がpH3から低下した時刻T3と同時にアンモニア溶液の注入量の増加を開始しているが、他の態様であってもよい。例えば、pH値がpH3を下回った際の時刻T3よりも若干の時間が経過し、pH値がpH3から確実に低下したことを確認した時点で、アンモニア溶液の注入量の増加を開始してもよい。
【0065】
図10に示すように、pH値がpH2まで低下したボイラ水のpH値は、時刻T4において増加を開始する。pH値は、pH2からpH1まで増加すると一定となる。時刻T4でpH値が増加を開始するのは、時刻T3で注入量の増加を開始したアンモニア溶液が溶解するボイラ水が低圧節炭器13aを経由して低圧蒸気ドラム11aに到達するからである。
【0066】
以上のように、比較例の制御部90は、pH計測部80が計測するpH値の低下に応じてアンモニア溶液の注入量を増加させるようアンモニア注入部50を制御する。そのため、低圧蒸気ドラム11aの低圧蒸気の圧力の低下によってボイラ水に溶解するアンモニアの量が減少しても、速やかに対応しない保留期間を経過した後にアンモニア溶液を補充することになり、即座にアンモニア濃度を再上昇させる処置をすることができない。
【0067】
図10に示すように、低圧節炭器13a,低圧蒸発器12a,低圧過熱器14a,復水器30,復水ポンプ40を循環するボイラ水のpH値が低下する期間は、低圧蒸気ドラム11aの低圧蒸気の圧力が低下を開始する時刻T1から、ボイラ水のpH値の低下をpH計測部80が計測したことに応じてアンモニア注入部50から注入されたアンモニア溶液が溶解するボイラ水が低圧蒸気ドラム11aに到達してアンモニア濃度を再上昇するまでの期間(時刻T1から時刻T4までの期間)を要する。
【0068】
本実施形態と比較例とを対比すると、本実施形態および比較例のいずれにおいても、低圧蒸気ドラム11aにおいて、ボイラ水のpH値が低下する時刻は時刻T1である。低圧蒸気ドラム11aにおいて、ボイラ水のpH値が再び増加する時刻は、本実施形態では時刻T2であるのに対し、比較例では時刻T4となる。すなわち、低圧蒸気ドラム11aにおいて、ボイラ水のpH値が低下するために流れ加速型腐食の抑制効果が低下する期間は、比較例よりも本実施形態よりの方が、時刻T2から時刻T4までの期間だけ短くすることができる。
【0069】
時刻T2から時刻T4までの期間は、時刻T2から時刻T3までの期間と、時刻T3から時刻T4までの期間とを合計した期間である。時刻T2から時刻T3までの期間は、低圧蒸気ドラム11aで生成された蒸気が蒸気タービン20を経由して復水器30で凝縮され、復水ポンプ40を経由してpH計測部80に到達するまでの期間である。時刻T3から時刻T4までの期間は、アンモニア注入部50で注入されたアンモニア溶液が溶解したボイラ水が、低圧蒸気ドラム11aに到達してアンモニア濃度が再上昇するまでの期間である。
【0070】
前述したように、本実施形態では、従来は流れ加速型腐食を生じ易かった低圧蒸気ドラム11aに対して、流れ加速型腐食を抑制するために、低圧蒸気ドラム11aに保持されるボイラ水のpH値を9.5以上に維持するように管理することとする。また、本実施形態では、アンモニア溶液を過剰に注入してコストアップとすることを避けるため、低圧蒸気ドラム11aに保持されるボイラ水のpH値を10.0以下に維持するように管理することとする。
【0071】
以上の管理条件に沿って、本実施形態の制御部90は、低圧蒸気ドラム11aが保持するボイラ水のpH値が9.5以上かつ10.0以下となるようにアンモニア注入部50によるアンモニア溶液の注入量を制御する。具体的には、制御部90は、pH計測部80が計測するpH値が9.7以上かつ10.5以下となるようにしてアンモニア注入部50によるアンモニア溶液の注入量を制御する。
【0072】
制御部90により調整されるpH値の範囲の上限値および下限値は、pH計測部80が計測するpH値の範囲(9.7以上かつ10.5以上)の方が、低圧蒸気ドラム11aが保持するボイラ水のpH値の範囲(9.5以上かつ10.0以下)よりも大きい。これは、排熱回収部10aにおいて、ボイラ水の圧力が低下してアンモニア濃度が最も低下しやすい箇所が、低圧蒸気ドラム11aだからである。本実施形態のボイラプラント100においては、pH計測部80が計測するpH値の範囲を9.7以上かつ10.5以上とすることで、低圧蒸気ドラム11aが保持するボイラ水のpH値の範囲を9.5以上かつ10.0以下とすることができる。
【0073】
以上説明した実施形態に記載のボイラプラント(100)は、例えば以下のように把握される。
本開示に係るボイラプラント(100)は、熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラ(10)と、ボイラ(10)が生成した蒸気により作動する蒸気タービン(20)と、蒸気タービン(20)から排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器(30)と、復水器(30)で凝縮されたボイラ水を前記ボイラ(10)に供給する復水ポンプ(40)と、ボイラ(10)に供給されるボイラ水にアンモニアを注入する注入部(50)と、注入部(50)によるアンモニア溶液の注入量を制御する制御部(90)と、を備え、ボイラ(10)は、復水ポンプ(40)から供給されるボイラ水を保持する第1蒸気ドラム(11a)と、第1蒸気ドラム(11a)に保持されたボイラ水を熱源からの熱によって加熱して蒸気を生成する第1蒸発器(12a)と、第1蒸気ドラム(11a)の圧力値を検出する圧力検出部(15a)と、を有し、制御部(90)は、圧力検出部(15a)が検出する圧力値の低下に応じてアンモニアの注入量を増加させるよう注入部(50)を制御する。
【0074】
本開示に係るボイラプラント(100)によれば、ボイラ水に溶解するアンモニアの濃度が低下する要因となる第1蒸気ドラム(11a)の蒸気の圧力の低下に応じて、速やかにアンモニアの注入量を増加させるよう注入部(50)が制御される。そのため、第1蒸気ドラムが保持するボイラ水のpH値が低下してからpH値を増加させるまでの時間遅れを短縮し、第1蒸気ドラム(11a)のボイラ水のpH値が低くなる期間を短くすることができる。
【0075】
本開示に係るボイラプラント(100)は、ボイラ(10)に供給されるボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から換算してpH値を算出するpH計測部(80)を備え、制御部(90)は、pH計測部(80)が計測するpH値が9.7以上かつ10.5以下となるように注入部(50)によるアンモニアの注入量を制御する。pH計測部が計測するpH値を9.7以上とすることで、流れ加速型腐食が発生し易い機器でのpH値を9.5以上とすることができる。このため流れ加速型腐食による配管の減肉速度が低下して腐食量を抑制できる状態とすることができる。また、pH計測部が計測するpH値を10.5以下とすることで、ボイラ水にアンモニアを過剰に注入してコストアップになることを抑制することができる。
【0076】
本開示に係るボイラプラント(100)において、熱源は、熱回収可能な温度以上にある排ガスであり、ボイラ(10)は、復水ポンプ(40)から供給されるボイラ水を保持する第2蒸気ドラム(11b)と、第2蒸気ドラム(11b)に保持されたボイラ水を熱源からの熱によって加熱して蒸気を生成する第2蒸発器(12b)と、を有し、第1蒸発器(12a)は、第2蒸発器(12b)よりも排ガスの流通方向の下流側に配置されている。
【0077】
本開示に係るボイラプラント(100)によれば、第1蒸発器(12a)は、第2蒸発器(12b)よりも排ガスの流通方向の下流側に配置されている。そのため、第1蒸発器(12a)が発生する蒸気の圧力と温度は、第2蒸発器(12b)が発生する蒸気の圧力と温度よりも低くなるように配置されている。そのため、第2蒸気ドラム(11b)よりも、第1蒸気ドラム(11a)の方がボイラ水の圧力が低下してアンモニア濃度が低下しやすい。本開示に係るボイラプラント(100)によれば、アンモニア濃度が低下しやすい第1蒸気ドラム(11a)の蒸気の圧力の低下に応じて速やかにアンモニアの注入量を増加させ、流れ加速型腐食の発生を適切に抑制することができる。
【0078】
本開示に係るボイラプラント(100)において、制御部(90)は、第1蒸気ドラム(11a)が保持するボイラ水のpH値が9.5以上かつ10.0以下となるように注入部(50)によるアンモニアの注入量を制御する。
本開示に係るボイラプラント(100)によれば、第1蒸気ドラム(11a)が保持するボイラ水のpH値を9.5以上とすることにより、流れ加速型腐食による配管の減肉速度を抑制した状態を維持することができる。また、第1蒸気ドラム(11a)が保持するボイラ水のpH値を10.0以下とすることで、ボイラ水にアンモニアを過剰に注入してコストアップになることを抑制することができる。
【0079】
以上説明した各実施形態に記載のボイラプラント(100)の制御方法は、例えば以下のように把握される。
本開示に係るボイラプラント(100)の制御方法は、熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラ(10)と、ボイラ(10)が生成した蒸気により作動する蒸気タービン(20)と、蒸気タービン(20)から排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器(30)と、復水器(30)で凝縮されたボイラ水を前記ボイラ(10)に供給する復水ポンプ(40)と、ボイラ(10)に供給されるボイラ水にアンモニアを注入する注入部(50)と、を備えるボイラプラント(100)の制御方法であって、ボイラ(10)は、復水ポンプ(40)から供給されるボイラ水を保持する第1蒸気ドラム(11a)と、第1蒸気ドラム(11a)に保持されたボイラ水を熱源からの熱によって加熱して蒸気を生成する第1蒸発器(12a)と、を有し、第1蒸気ドラム(11a)の圧力値を検出する圧力検出工程と、圧力検出工程が検出する圧力値の低下に応じてアンモニアの注入量を増加させるよう注入部(50)を制御する制御工程と、を備える。
【0080】
本開示に係るボイラプラント(100)の制御方法によれば、ボイラ水に溶解するアンモニアの濃度が低下する要因となる第1蒸気ドラム(11a)の圧力値の低下に応じて、速やかにアンモニアの注入量を増加させるよう注入部(50)が制御される。そのため、第1蒸気ドラムが保持するボイラ水のpH値が低下してからpH値を増加させるまでの時間遅れを短縮して流れ加速型腐食の抑制効果が低下する期間を短くして、腐食を抑制することができる。
【0081】
〔他の実施形態〕
以上の説明において、アンモニア注入部50は、気相のアンモニアを水に溶解させたアンモニア溶液を復水ポンプ40の下流側に配置される配管Lw1に注入するものであったが、他の態様であってもよい。例えば、アンモニア注入部50は、気相のアンモニアを配管Lw1に直接的に吹き込んで気相のアンモニアをボイラ水に溶解させるようにしてもよい。また、アンモニア注入部50がアンモニア溶液あるいは気相のアンモニアを注入する箇所は、復水器30から低圧節炭器13aに至るまでの任意の位置としてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10 排熱回収ボイラ
10a,10b 排熱回収部
11a 低圧蒸気ドラム(第1蒸気ドラム)
11b 高圧蒸気ドラム(第2蒸気ドラム)
12a 低圧蒸発器(第1蒸発器)
12b 高圧蒸発器(第2蒸発器)
13a 低圧節炭器
13b 高圧節炭器
14a 低圧過熱器
14b 高圧過熱器
15a,15b 圧力計(圧力検出部)
20 蒸気タービン
30 復水器
40 復水ポンプ
50 アンモニア注入部
60 循環ポンプ
70 給水ポンプ
80 pH計測部
90 制御部
100 発電プラント(ボイラプラント)
S1,S2,S3 信号線
V1,V2,V3,V4 バルブ