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特許7399663発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系予備発泡粒子および発泡成形体。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系予備発泡粒子および発泡成形体。
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/224 20060101AFI20231211BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20231211BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20231211BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C08J9/224 CET
C08L25/04
C08L23/04
C08L83/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019179816
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054957
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】落越 忍
(72)【発明者】
【氏名】逸見 龍哉
(72)【発明者】
【氏名】木口 太郎
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-224410(JP,A)
【文献】特表2006-518795(JP,A)
【文献】特開2019-065074(JP,A)
【文献】特開2015-017155(JP,A)
【文献】特開2001-164028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
C08J 9/00-9/42
C08L 25/04
C08L 23/04
C08L 83/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に、ポリエチレンワックスおよびポリシロキサンが存在してなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、
上記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体100重量部に対して、ポリエチレンワックス0.01~0.2重量部、およびポリシロキサン0.01~0.06重量部を含有し、
上記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に高級脂肪酸金属塩が塗布されていないことを特徴とする発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
安息角が28度以下であることを特徴とする、請求項1に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
上記ポリエチレンワックスの重量平均分子量が、600以上、2500以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項4】
上記ポリシロキサンが、メチルフェニルポリシロキサンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を、予備発泡させてなることを特徴とするポリスチレン系予備発泡粒子。
【請求項6】
請求項5に記載のポリスチレン系予備発泡粒子を成形してなることを特徴とする発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系発泡粒子および発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、発泡成形体の原料であり、水蒸気等の加熱媒体を用いて発泡および成形することができ、比較的安価であるため、一般的に広く利用されている。
【0003】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、例えば、ポリスチレン系樹脂粒子の水性懸濁液中で、当該粒子に発泡剤(例えば、ブタン、ペンタン等の易揮発性の脂肪族炭化水素)を含浸させる方法によって製造することができる。
【0004】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子から、所望の形状の発泡成形体を製造する方法として、一般的には、(1)発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を、加熱媒体を用いて予備発泡させて、予備発泡粒子とする予備発泡工程、(2)予備発泡粒子を、壁面に多数の小孔が穿設された閉鎖型の金型内に充填する充填工程、(3)金型の小孔から加熱媒体を導入して、予備発泡粒子をその軟化点以上の温度に加熱し、予備発泡粒子を互いに融着させることにより、所望の形状に成形する成形工程、および、(4)冷却した後、金型内から発泡成形体を取り出す取出し工程、を含む方法が用いられている。
【0005】
当該方法により製造される発泡成形体は、所望の形状に成形し易く、軽量であり、かつ断熱性及び緩衝性に優れることから、種々の用途に適用することができ、例えば、食品容器等の包装材料(トレー)、魚函等の輸送用梱包材等として使用されている。
【0006】
上記予備発泡工程において、予備発泡粒子同士が結合(合着ともいう)した状態(ブロッキングともいう)となり、塊を生じる場合がある。ブロッキングが発生すると、予備発泡粒子の生産性が低下する。したがって、ブロッキングを解消するために、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子のコアとなる樹脂粒子本体の表面を、特定の物質からなるブロッキング抑制剤等の外添剤で被覆することが知られている。
【0007】
例えば、特許文献1には、樹脂粒子本体の表面をメチルフェニルポリシロキサンで被覆してなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、樹脂粒子本体の表面を、非イオン界面活性剤およびメチルフェニルポリシロキサンで被覆してなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が開示されている。
【0009】
一方、特許文献3には、成形サイクルを短縮し、かつ、得られる発泡成形体の強度および表面光沢を高めるために、樹脂粒子本体の表面を、25℃での屈折率が1.45以上であるメチルフェニルシリコーンオイル、および高級脂肪酸金属塩で被覆することが開示されている。
【0010】
また、特許文献4には、発泡成形体と他部材との接触による擦れ音(不快音)を抑制するために、予備発泡粒子の表面に、特定量の炭化水素系ワックスとジメチルポリシロキサンとを付着させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2018-058957号公報
【文献】特開2018-168265号公報
【文献】特開2007-246705号公報
【文献】特開2015-17155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した従来技術では、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性、予備発泡工程におけるブロッキングの防止、および成形工程における装置の汚染の低減に加えて、成形サイクルの短縮の面で、改善の余地がある。
【0013】
本発明の一実施形態は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性に優れ、予備発泡工程におけるブロッキングを防止し、成形工程における装置の汚染を低減でき、さらに成形サイクルを短縮し得る、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系予備発泡粒子および発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に、適切な量のポリエチレンワックスおよびポリシロキサンを塗布することにより、外添剤のブレンド工程における発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性を良好な状態に維持し、予備発泡工程におけるブロッキングを防止しつつ、予備発泡粒子の表面から外添剤が剥離することによる装置の汚染を抑制し、さらに、成形サイクルを短縮し得る、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が得られることを確認し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
【0015】
〔1〕発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に、ポリエチレンワックスおよびポリシロキサンが存在してなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、上記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体100重量部に対して、ポリエチレンワックス0.01~0.2重量部、およびポリシロキサン0.01~0.06重量部を含有することを特徴とする発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【0016】
〔2〕安息角が28度以下であることを特徴とする、〔1〕に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【0017】
〔3〕上記ポリエチレンワックスの重量平均分子量が、600以上、2500以下であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【0018】
〔4〕上記ポリシロキサンが、メチルフェニルポリシロキサンである、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【0019】
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を、予備発泡させてなることを特徴とするポリスチレン系予備発泡粒子。
【0020】
〔6〕〔5〕に記載のポリスチレン系予備発泡粒子を成形してなることを特徴とする発泡成形体。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態によれば、成形サイクルを短縮し、かつ、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性に優れ、予備発泡工程におけるブロッキングを防止し、装置の汚染を低減できる、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系予備発泡粒子および発泡成形体を提供するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0023】
本明細書においては、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子そのもの(それ自体)を「発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体」と称し、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に外添剤(ブロッキング抑制剤)等が塗布されたものを「発泡性ポリスチレン系樹脂粒子」と称し、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させてなる粒子を「ポリスチレン系予備発泡粒子」と称する。
【0024】
〔1.発泡性ポリスチレン系樹脂粒子〕
〔本発明の一実施形態の概要〕
発泡成形体の成型工程において、予備発泡粒子の表面に付着した外添剤の作用等により、予備発泡粒子間の融着性が低下し、発泡成形体の強度が低下するという問題がある。その一方で、予備発泡粒子間の融着性が高すぎると、取り出し工程において、発泡成形体の冷却に時間がかかり、成形サイクルが長くなるという問題がある。また、温度が十分に下がらないうちに金型から発泡成形体を取り出すと、発泡成形体の変形が生じるという問題がある。
【0025】
外添剤として、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸金属塩を用いると、上記の問題が解消され得るが、当該高級脂肪酸金属塩は、粒子の空気輸送に用いられる装置のフィルター、および、金型の小孔等に付着して目詰まりを起こし易く、装置の汚染による生産性の低下の問題を引き起こすことがある。
【0026】
これに対し、上述の特許文献1および2に記載される発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、ブロッキング抑制剤として液状のメチルフェニルポリシロキサンを含むことから、粉体による目詰まりの問題が解消されているが、樹脂粒子の流動性が比較的低い。したがって、流動性およびハンドリング性の点において、改善の余地がある。
【0027】
一方、特許文献3に記載される発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、高級脂肪酸金属塩(特に、ステアリン酸亜鉛)を含んでいるため、装置の汚染が進行し易いという問題がある。
【0028】
また、特許文献4に記載される予備発泡粒子は、発泡成形体の擦れ音を抑制するために、多量の炭化水素系ワックスおよびジメチルポリシロキサンを予備発泡粒子に付着させる必要があり、当該粒子の流動性およびハンドリング性に劣るという問題がある。
【0029】
本発明の一実施形態では、上述した技術課題を解決するものである。すなわち、本発明の一実施形態では、外添剤のブレンド工程における発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性を良好な状態に維持し、予備発泡工程におけるブロッキングを防止しつつ、予備発泡粒子の表面から外添剤が剥離することによる装置の汚染を抑制し、さらに、成形サイクルを短縮し得る。
【0030】
本発明の一実施形態に係る発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に、ポリエチレンワックスおよびポリシロキサンが塗布されてなる粒子である。本明細書中では、「本発明の一実施形態に係る発泡性ポリスチレン系樹脂粒子」を、単に「本発泡性ポリスチレン系樹脂粒子」と称する場合もある。
【0031】
〔発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体〕
本発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を構成する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体は、構成単位としてスチレン単位を含む基材樹脂と、発泡剤とを含む発泡性樹脂からなる粒子である。
【0032】
(基材樹脂)
本明細書において、基材樹脂を構成する「スチレン単位」とは、スチレン単量体に由来する構成単位である。基材樹脂は、基材樹脂が含む全構成単位の質量を100重量%としたとき、スチレン単位の質量が60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。
【0033】
基材樹脂は、スチレンの単独重合体であってもよい。また、基材樹脂は、スチレン単量体と、スチレン単量体以外の単量体との共重合体であってもよい。スチレン単量体以外の単量体としては、エチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、スチレン系誘導体、アクリル酸エステル等が挙げられる。上記スチレン系誘導体としては、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、t-ブチルスチレンおよびクロルスチレン等が挙げられる。上記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これらのスチレン単量体以外の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
上記共重合体の具体例としては、スチレン-エチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-αメチルスチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル系共重合体等が挙げられる。
【0035】
(発泡剤)
発泡剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン等の脂肪族炭化水素;シクロブタン、シクロペンタン等の脂環族炭化水素;メチルクロライド、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素;等が挙げられる。その中でも、発泡力が良好である点から、ブタンがより好ましい。これら発泡剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体における発泡剤の含有量は、最終製品である発泡成形体の所望する倍率で適時選定されるが、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体100重量部に対し、3.0重量部以上であることが好ましく、3.5重量部以上であることがより好ましく、また、5.0重量部以下であることが好ましく、4.5重量部以下であることがより好ましい。発泡剤の含有量が上記範囲であれば、予備発泡工程において加熱時間が長くなることを防ぎ、ブロッキングを抑制すると共に、発泡成形体の製造にかかる時間を短縮し、成形工程の成形サイクルを短くすることができる。
【0037】
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の製造方法)
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の製造方法としては、懸濁重合法およびシード重合法等、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
【0038】
上記懸濁重合法は、例えば、以下(1)~(5)を含む方法である:(1)水、スチレン単量体を含む単量体、分散剤、重合開始剤、および任意でその他の添加剤(可塑剤、気泡調整剤、難燃剤および難燃助剤等)を混合し、水性懸濁液を作製する;(2)次に、水性懸濁液を所定の温度まで昇温する;(3)次に、所定の温度にて所定の時間、水性懸濁液を反応させて重合反応を行うことにより、添加剤を含む基材樹脂(基材樹脂組成物とも称する)を得る;(4)上記(3)の途中、または上記(3)の後に、上記基材樹脂組成物に発泡剤を含浸させる;(5)次に、発泡剤を含む基材樹脂組成物の表面に、任意で帯電防止剤を添加(塗布)する。
【0039】
上記シード重合法は、例えば、以下(1)~(5)を含む方法である:(1)水、シードとなるポリスチレン系樹脂粒子(ポリスチレン系樹脂種粒子とも称する)、分散剤、重合開始剤、および任意でその他の添加剤(可塑剤、気泡調整剤、難燃剤および難燃助剤等)を混合し、水性懸濁液を作製する;(2)次に、水性懸濁液を所定の温度まで昇温する;(3)次に、所定の温度にて、水性懸濁液に所定の時間を掛けてスチレン単量体を含む単量体を添加すると同時に、水性懸濁液を反応させて重合反応を行うことにより、添加剤を含む基材樹脂(基材樹脂組成物とも称する)を得る;(4)上記懸濁重合法と同じである;(5)上記懸濁重合法と同じである。
【0040】
ポリスチレン系樹脂種粒子の構成単位も、基材樹脂の構成単位に包含される。
【0041】
〔ポリエチレンワックス〕
本発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を構成するポリエチレンワックスは、エチレンの重合、ポリエチレンの熱分解等により得られるポリエチレンであり、ポリシロキサンと協働して、ブロッキング抑制剤および融着促進剤として作用する。
【0042】
ポリエチレンワックスは、ポリエチレンワックス粒子、例えば、ポリエチレンワックスを粒状に微粉末化した粉体を好適に使用できる。
【0043】
ポリエチレンワックスの重量平均分子量は、600以上であることが好ましく、800以上であることがより好ましく、また、2500以下であることが好ましく、2200以下であることがより好ましい。ポリエチレンワックスの重量平均分子量が600以上である場合は、ブロッキング抑制作用が高まる。また、ポリエチレンワックスの重量平均分子量が2500以下である場合は、融着促進作用が高まり、発泡成形体が良好な融着性を示す。ワックスの重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)法にしたがって測定される数値である。
【0044】
ポリエチレンワックスの融点は、ブロッキング抑制作用および融着促進作用を向上させる観点から、90℃以上であることが好ましく、95℃以上であることがより好ましく、また、130℃以下であることが好ましく、126℃以下であることがより好ましい。ワックスの融点は、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定される数値である。
【0045】
ポリエチレンワックスは、単独で用いてもよく、異なる重量平均分子量および融点を有する2種以上のポリエチレンワックスを組み合わせて用いてもよい。
【0046】
ポリエチレンワックスの塗布量は、発泡性スチレン系樹脂粒子本体100重量部に対して、0.01重量部以上であることが好ましく、0.1重量部以上であることがより好ましく、また、0.2重量部以下であることが好ましく、0.15重量部以下であることがより好ましい。ポリエチレンワックスの塗布量が0.01重量部未満であると、塗布による効果が示されず、予備発泡工程におけるブロッキングが増加する。ポリエチレンワックスの塗布量が0.2重量部を超えると、最終製品である発泡成形体の融着性が悪化し、発泡成形体の強度が低下する。
【0047】
ポリエチレンワックスを発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体に塗布する方法としては、塗布ムラを生じずに、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に均一に塗布することができる方法であればよく、特に限定されない。ポリエチレンワックスを、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体および後述のポリシロキサンと混合する方法が好適である。なお、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体に塗布されたポリエチレンワックスは、実質的にその全量が発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体に付着する。
【0048】
〔ポリシロキサン〕
本発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を構成するポリシロキサンは、ポリエチレンワックスと協働して、ブロッキング抑制剤および融着促進剤として作用する。
【0049】
ポリシロキサンの25℃における屈折率は、1.40以上であることが好ましく、1.42以上であることがより好ましい。また、屈折率の上限値は特に限定されないが、例えば、1.60以下と例示することができる。ポリシロキサンの屈折率は、フェニル基の含有率に依存し、フェニル基の含有率が増加する程、大きくなる関係にある。ポリシロキサンの屈折率が1.42以上である場合には、ポリスチレン系樹脂との良好な相溶性が得られる。それゆえ、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に塗布するときに、良好な均一性が得られ、成型時の融着性が向上する。
【0050】
ポリシロキサンの25℃における粘度は、100mm/s以上であることが好ましく、300mm/s以上であることがより好ましく、また、6000mm/s以下であることが好ましく、3000mm/s以下であることがより好ましい。ポリシロキサンの25℃における粘度が100mm/s以上であると、当該ポリシロキサンの特性が十分に発揮され、ブロッキング抑制作用および融着促進作用が高まる。また、ポリシロキサンの25℃における粘度が6000mm/s以下であると、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体に十分に浸透し、良好なハンドリング性が得られる。
【0051】
ポリシロキサンとしては、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等が挙げられる。ポリシロキサンとしては、これらの中でも、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体との相溶性に優れ、当該粒子本体の表面から剥離しにくいと考えられることから、メチルフェニルポリシロキサンおよびジフェニルポリシロキサンが好ましく、メチルフェニルポリシロキサンがより好ましい。
【0052】
本発明の一実施形態において、ポリシロキサンは、一般式(1)で示される構造を有していることが好ましい。
【0053】
【化1】
【0054】
上記一般式(1)で示される構造において、「Me」はメチル基を表わし、「Ph」はフェニル基を表わす。また、繰り返し単位の「m」,「n」は、任意の自然数(1,2,3等)である。一般式(1)で示される構造を有しているポリシロキサンは、ジメチル部分とジフェニル部分とがランダムに結合していてもよく、規則的に結合(配列)していてもよい。
【0055】
本発明の一実施形態において、ポリシロキサンの塗布量は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体100重量部に対して、0.01重量部以上であることが好ましく、0.02重量部以上であることがより好ましく、また、0.06重量部以下であることが好ましく、0.05重量部以下であることがより好ましい。ポリシロキサンの塗布量が0.01重量部未満であると、塗布による効果が示されず、予備発泡工程におけるブロッキングが増加する。ポリシロキサンの塗布量が0.06重量部を超えると、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性が悪化し、ハンドリングが悪くなる。
【0056】
ポリシロキサンを発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体に塗布する方法としては、塗布ムラを生じずに、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に均一に塗布することができる方法であればよく、特に限定されない。ポリシロキサンを、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体およびポリエチレンワックスと混合する方法が好適である。なお、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体に塗布されたポリシロキサンは、実質的にその全量が発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体に付着する。
【0057】
〔添加剤等〕
本発明の一実施形態に係る発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、本発明の効果を阻害しない範囲で、残留する単量体成分、または、添加剤、例えば、溶剤、可塑剤、造核剤、難燃剤、難燃助剤、帯電防止剤、撥水剤等を含有していてもよい。
【0058】
これらの添加剤の添加時期および添加方法は、それぞれの作用に応じて適宜に選択される。これらの添加剤は、その作用に応じて、例えば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の製造において、基材樹脂の重合時に添加されてもよく、ポリエチレンワックスおよびポリシロキサンが塗布される前の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体に添加されてもよく、またはポリエチレンワックスおよびポリシロキサンの塗布が終了した後の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に対して添加されてもよい。
【0059】
上記残留する単量体成分は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体100重量部に対して、0.3重量部未満であることが好ましく、0.1重量部未満であることがより好ましく、0.01重量部未満であれば更に好ましい。残留する単量体成分は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を発泡し、成形して得られる発泡成形体から揮発する傾向がある。このため、残留する単量体成分が0.3重量部未満である発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、医療分野、食品に直接接触する食品容器等の包装材料分野、自動車分野および建築分野に好適に使用することができる。
【0060】
上記溶剤および可塑剤の具体例としては、へキサン、ヘプタン等の炭素数6以上の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、シクロオクタン等の炭素数6以上の脂環族炭化水素、ジイソブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、グリセリントリステアレート、グリセリントリカプリレート、ヤシ油、パーム油、菜種油;等が挙げられる。これら溶剤および可塑剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶剤および可塑剤の含有量は、発泡性樹脂粒子本体100重量部に対して、0.01重量部以上、2重量部以下であることが好ましい。溶剤および可塑剤の量が当該範囲であることにより、発泡成形体の強度、耐熱性を損なわずに、溶剤および可塑剤としての効果を発揮することができる。
【0061】
上記造核剤の具体例としては、メタクリル酸メチル系共重合体、ポリエチレンワックス、タルク、脂肪酸ビスアマイド、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。脂肪酸ビスアマイドの具体例としては、例えば、メチレンビスステアリルアマイド、エチレンビスステアリルアマイド、ヘキサメチレンビスパルミチン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド等が挙げられる。これら造核剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。造核剤の含有量は、発泡性樹脂粒子本体100重量部に対して、1.0重量部未満であることが好ましい。造核剤は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の製造時に添加される。発泡性樹脂粒子本体中に造核剤が良分散していれば、その添加方法は限定されないが、発泡成形体の気泡径を均一にするためには、スチレン単量体の仕込み以前に添加し、スチレン単量体と均一に混合することが好ましい。
【0062】
上記難燃剤としては、公知の難燃剤を使用することができる。具体例としては、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモブタン、ヘキサブロモシクロヘキサン等のハロゲン化脂肪族炭化水素系化合物;テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールF、2,4,6-トリブロモフェノール等の臭素化フェノール類;テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ジグリシジルエーテル、2,2-ビス[4’-(2”,3”-ジブロモアルコキシ)-3’,5’-ジブロモフェニル]-プロパン等の臭素化フェノール誘導体;臭素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体、臭素化ランダムスチレン-ブタジエン共重合体、臭素化スチレン-ブタジエングラフト共重合体等の臭素化ブタジエン-ビニル芳香族炭化水素共重合体(例えば、Chemtura社製のEMERALD3000、若しくは、特表2009-516019号公報に記載されている共重合体);等が挙げられる。これら難燃剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
上記難燃助剤としては、公知の難燃助剤を使用することができる。具体例としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等が挙げられる。これら難燃助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
上記帯電防止剤の具体例としては、N-ヒドロキシエチル-N-2-ヒドロキシヘキサデシルアミン、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)ドデシルアミン、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)テトラデシルアミン、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)ヘキサデシルアミン、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)オクタデシルアミン、N-ヒドロキシエチル-N-2-ヒドロキシテトラデシルアミン、N-ヒドロキシエチル-N-2-ヒドロキシヘキサデシルアミン、N-ヒドロキシエチル-N-2-ヒドロキシオクタデシルアミン、N-ヒドロキシプロピル-N-2-ヒドロキシテトラデシルアミン、N-ヒドロキシブチル-N-2-ヒドロキシテトラデシルアミン、N-ヒドロキシペンチル-N-2-ヒドロキシテトラデシルアミン、N-ヒドロキシペンチル-N-2-ヒドロキシヘキサデシルアミン、N-ヒドロキシペンチル-N-2-ヒドロキシオクタデシルアミン、N,N-ビス(2―ヒドロキシエチル)ドデシルアミン、N,N-ビス(2―ヒドロキシエチル)テトラデシルアミン、N,N-ビス(2―ヒドロキシエチル)ヘキサデシルアミン、N,N-ビス(2―ヒドロキシエチル)オクタデシルアミン等の1アミノ2ヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0065】
なお、装置の汚染を低減する観点から、本発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、高級脂肪酸金属塩が塗布されていないことが好ましい。
【0066】
〔発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性(安息角)〕
本発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の安息角は、28度以下であることが好ましく、27度以下であることがより好ましい。また、下限値については特に限定されないが、例えば、24度以上と例示することができる。安息角が28度以下であれば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の良好な流動性が得られる。本願明細書において、安息角は、後述の実施例に記載される方法にしたがって測定される値である。
【0067】
上記安息角の好ましい範囲は、ポリエチレンワックスおよびポリシロキサンの塗布量を、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体100重量部に対して、ポリエチレンワックス0.01~0.2重量部、およびポリシロキサン0.01~0.06重量部とすることにより、達成することができる。適切な量のポリエチレンワックスおよびポリシロキサンを、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に塗布することにより、得られる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性を良好な状態に維持し、粉体であるポリエチレンワックスの剥離を抑制しつつ、ブロッキングを防止し、さらに適度な融着性および表面性を有する発泡成形体を得ることに適した発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることができる。
【0068】
ポリエチレンワックスの塗布量に対し、ポリシロキサンの塗布量が少なすぎると、粉体であるポリエチレンワックスが剥離し易くなり、ブロッキング抑制作用が低下する。また、ポリエチレンワックスの塗布量に対し、ポリシロキサンの塗布量が多すぎると、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性が悪化し、混合機内で当該粒子同士がくっついたり、混合機内壁に付着したりするという問題が生じる。また、当該粒子が貯蔵ホッパの出口部で閉塞するブリッジアーチ現象、滞留現象を起こす等の問題が生じる。
【0069】
〔発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の体積平均粒子径〕
本発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の体積平均粒子径は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の平均粒子径ともいえる。本発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の体積平均粒子径は、発泡成形体の用途等に応じて適宜に設定することができるが、成形性の観点から、0.5mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましく、1.5mm以下であることが好ましく、1.2mm以下であることがより好ましい。なお、本願明細書において、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の体積平均粒子径は、画像処理方式マイクロトラックJPAを使用して測定される値である。
【0070】
〔発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法〕
本発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法としては、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に、ポリシロキサン、およびポリエチレンワックスを、それぞれ上述した量で塗布することができる方法であればよく、特に限定されない。
【0071】
本発明の好ましい態様において、当該製造方法は、混合機器に、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体および液状のポリシロキサンを投入し、混合することにより、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体にポリシロキサンを塗布するポリシロキサン塗布工程、および、当該混合機器に、粉体であるポリエチレンワックスを投入し、混合することにより、ポリシロキサンを塗布したポリスチレン系樹脂粒子本体にポリエチレンワックスを塗布するポリエチレンワックス塗布工程、を含む。
【0072】
ポリシロキサンおよびポリエチレンワックス以外の添加剤を外添剤として塗布する場合は、ポリシロキサン塗布工程において、当該添加剤を、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体およびポリシロキサンと共に投入してもよい。
【0073】
上記混合機器としては、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体、ポリシロキサンおよびポリエチレンワックスを均一に混合し得る混合機器を用いることが好ましい。このような混合機器としては、例えば、スーパーミキサー、ナウタミキサー、ユニバーサルミキサー、プロシェアミキサー、アペックスミキサー、ヘンシェルミキサー、レーディゲーミキサー等のミキサー;リボンブレンター、タンブラー型ブレンター等のブレンター;が挙げられる。混合機器は、ポリシロキサン、およびポリエチレンワックス等の塗布量、ポリシロキサンの粘度等を考慮して、適宜に選択され得る。
【0074】
上記各工程における混合時間としては、特に限定されず、混合機器の混合能力、ポリシロキサンおよびポリエチレンワックス等の塗布量、並びに、ポリシロキサンの粘度等を考慮して、適宜に調整することができる。
【0075】
〔2.ポリスチレン系予備発泡粒子〕
本発明の一実施形態に係るポリスチレン系予備発泡粒子は、上述した発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡(一次発泡)させることによって得られる。
【0076】
予備発泡させる方法としては、例えば、円筒形の予備発泡装置を使用し、水蒸気等の加熱媒体を用いて発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱して発泡させる等の、通常の方法を採用することができる。
【0077】
予備発泡装置、および予備発泡工程の条件は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の組成、所望する予備発泡倍率等に応じて適宜に設定すればよく、特に限定されない。
【0078】
〔3.発泡成形体〕
本発明の一実施形態に係る発泡成形体は、上述したポリスチレン系予備発泡粒子を加熱発泡(二次発泡)させて、成形することによって得られる。
【0079】
ポリスチレン系予備発泡粒子を加熱発泡させて、成形する方法としては、例えば、金型内にポリスチレン系予備発泡粒子を充填し、水蒸気等の加熱媒体を吹き込んで加熱する型内発泡成形法等の、通常の方法を採用することができる。
【0080】
具体的な型内発泡成形方法としては、閉鎖し得るが密閉し得ない金型内に、ポリスチレン系予備発泡粒子を充填し、加熱媒体によりポリスチレン系予備発泡粒子を加熱および融着することで型内発泡成形体とする方法が挙げられる。
【0081】
加熱発泡に使用する装置、および加熱発泡の条件は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の組成、所望する発泡倍率等に応じて適宜に設定すればよく、特に限定されない。
【0082】
上記発泡成形体、特に型内発泡成形体は、所望の形状の成形体を作製し易い等の利点から、例えば、食品容器等の包装材料(トレー)、魚函等の輸送用梱包材等として好適である。
【実施例
【0083】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0084】
実施例および比較例における、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系予備発泡粒子、および発泡成形体の、各種測定方法並びに評価方法は、以下の通りである。
【0085】
<発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性の評価>
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性の指標となる安息角は、安息角およびスパチュラ角測定機等の評価装置を利用した。四面のうちの一面が堰になっている直方体の箱(12cm(長さ)×10cm(巾)×8cm(高さ)、堰部分:10cm(巾)×8cm(高さ))を用意し、当該箱に、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を擦切り一杯になるように投入した。投入後、上記堰を取り外して、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を自然にこぼれさせた。そして、箱に残った発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の稜線と、平面とがなす角度を測定し、その角度を安息角(度)とした。
【0086】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の流動性を、下記5段階で評価した。数値の大きい方が流動性に優れた状態であり、「4」以上を合格と判定した。
【0087】
5:安息角が25度以下で、流動性が非常に良く、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子がよく転がる状態
4:安息角が25度を超え、28度以下で、流動性が良く、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が転がるものの、一部が評価装置の上に残る状態
3:安息角が28度を超え、35度以下で、流動性は良いものの、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を転がすためにバイブレーターが必要な状態
2:安息角が35度を超え、50度以下で、流動性が悪く、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が転がらないため、ブリッジが形成される状態
1:安息角が50度を超え、流動性が非常に悪く、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が転がらない状態。
【0088】
<ブロッキング率の評価>
撹拌機を備えた加圧式予備発泡機(大開工業(株)製、CH-100)に、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を投入した。加熱媒体として水蒸気(吹き込み蒸気圧0.1MPa)を用い、予備発泡機内の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱することによって予備発泡(一次発泡)させ、嵩倍率(見掛け倍率)が25倍のポリスチレン系予備発泡粒子を得た。次いで、予備発泡機からポリスチレン系予備発泡粒子を取り出すときに、当該予備発泡粒子を目開きが1cmの網に通過させ、網を通過しなかったポリスチレン系予備発泡粒子を回収した。網を通過しなかったポリスチレン系予備発泡粒子の重量を計量してブロッキング量とした。下記算出式に基づいてブロッキング率を算出した。
【0089】
ブロッキング率[重量%]=ブロッキング量[g]/ポリスチレン系予備発泡粒子の全量[g]×100
ブロッキング率が2.0重量%以下であるポリスチレン系予備発泡粒子を合格と評価した。
【0090】
<型内発泡成形と成形サイクルの評価>
縦450mm×横300mm×深さ25mmの大きさの金型内に、ポリスチレン系予備発泡粒子を充填した。成形機((株)ダイセン製、KR-57)を使用して、加熱媒体として水蒸気(吹き込み蒸気圧0.08MPa)を用い、金型内のポリスチレン系予備発泡粒子を8秒間加熱し、2秒間水冷し、真空放冷した。金型内に設けた面圧計(発泡成形体の圧力)が60kPaに到達した時点で、成形を終了し、板状の発泡成形体を金型から取り出した。成形サイクルとして、加熱開始時点から成形終了時点(上記面圧計が60kPaに到達した時点)までにかかった時間を測定した。得られた発泡成形体は、室温で24時間乾燥させた。
【0091】
<発泡成形体の評価>
(1)融着率の評価
得られた発泡成形体を破断してその破断面を観察し、発泡粒子界面ではなく発泡粒子が破断している割合(融着率)を求めた。融着率が50%以上である場合を合格と評価した。
【0092】
(2)表面性の評価
得られた発泡成形体の表面の状態を目視で観察して、下記5段階で評価した。数値の大きい方が表面性に優れ、発泡粒子同士の隙間が少なく、表面が美麗な状態であり、「4」以上を合格と判定した。
【0093】
5:隙間が見当たらない
4:部分的に隙間があるものの、殆ど分からない
3:所々に隙間があるものの、全体としては許容することができる
2:隙間が目立つ
1:隙間が多い。
【0094】
<使用したポリシロキサン>
KF-50:メチルフェニルポリシロキサン、粘度(25℃):1000mm/s、屈折率(25℃):1.427(信越化学工業(株)製)
KF-54:メチルフェニルポリシロキサン、粘度(25℃):400mm/s、屈折率(25℃):1.505(信越化学工業(株)製)
<使用したポリエチレンワックス>
PW-655 分子量655、融点99℃(東洋アドレ(株)製)
ポリワックス850-80M 分子量850、融点107℃(東洋アドレ(株)製)
ポリワックス1000-80M 分子量1000、融点113℃(東洋アドレ(株)製)
ポリワックス2080P 分子量2080、融点126℃(東洋アドレ(株)製)
〔実施例1〕
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の製造)
撹拌機付属の1500Lの耐圧容器に、純水100重量部、リン酸三カルシウム0.2重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.01重量部、および、開始剤として過酸化ベンゾイル(日油(株)製)0.25重量部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(日油(株)製)0.29重量部、および、造核剤としてポリエチレンワックス(850-80M、東洋アドレ(株)製)0.2重量部を投入した。次いで、250回転/分で撹拌しながら、スチレン単量体100重量部を投入後、98℃まで昇温し、4時間重合反応を行った。この重合反応の重合転化率は92%であった。次いで、発泡剤としてペンタン(ノルマル/イソ=80/20)4.5重量部を耐圧容器中に圧入し、120℃まで昇温させた。次いで、120℃にて3時間保持した後、室温まで冷却して、耐圧容器から重合スラリーを取り出した。取り出した重合スラリーを洗浄、脱水し、気流乾燥器を使用して乾燥させて、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体を得た。
【0095】
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造)
上記で得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100重量部をスーパーミキサー((株)カワタ製、SMV-20)に投入し、メチルフェニルポリシロキサン(KF-54)0.02重量部を60秒間かけて投入し、60秒間撹拌した。次いで、ポリエチレンワックス(東洋アドレ(株)製)を投入し、さらに60秒間撹拌することにより、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
【0096】
(ポリスチレン系予備発泡粒子の製造)
上記で得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を、撹拌機を備えた加圧式予備発泡機(大開工業(株)製、CH-100)に投入した。加熱媒体として水蒸気(吹き込み蒸気圧0.1MPa)を用い、予備発泡機内の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱することによって予備発泡(一次発泡)させ、嵩倍率(見掛け倍率)が25倍のポリスチレン系予備発泡粒子を得た。次いで、得られたポリスチレン系予備発泡粒子を室温で24時間放置して、養生乾燥を行った。
【0097】
(発泡成形体の製造)
養生乾燥後のポリスチレン系予備発泡粒子を、縦450mm×横300mm×厚さ20mmの大きさの金型内に充填した。次いで、成形機((株)ダイセン製、KR-57)を使用して、加熱媒体として水蒸気(吹き込み蒸気圧80kPa)を用い、金型内のポリスチレン系予備発泡粒子を8秒間加熱した。次いで、2秒間水冷し、真空放冷し、金型内に設けた面圧計(発泡成形体の圧力)が60kPaに到達した時点で、金型を開けて発泡成形体を取り出した。
【0098】
上記で得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系予備発泡粒子、発泡成形体および成形サイクルについて、評価試験を行った。発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の組成および評価結果を以下の表1に示す。
【0099】
〔実施例2~10、比較例1~8〕
実施例1で製造した発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体を用い、ポリシロキサン、およびポリエチレンワックスの種類および量を変更した以外は、実施例1の方法と同様の方法を用いて、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系予備発泡粒子および発泡成形体を得た。
【0100】
得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系予備発泡粒子、発泡成形体および成形サイクルについて、評価試験を行った。発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の組成および評価結果を以下の表1および表2に示す。
【0101】
〔実施例11〕
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の製造)
撹拌機付属の1500Lの耐圧容器に、純水100重量部、リン酸三カルシウム0.2重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.01重量部、および、開始剤として過酸化ベンゾイル(日油(株)製)0.26重量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日油(株)製)0.16重量部、および、造核剤としてポリエチレンワックス(850-80M、東洋アドレ(株)製)0.04重量部を投入した。次いで、250回転/分で撹拌しながら、スチレン単量体95重量部、およびアクリル酸ブチル単量体5重量部を投入後、98℃まで昇温し、4時間重合反応を行った。この重合反応の重合転化率は92%であった。次いで、発泡剤としてブタン(ノルマル/イソ=50/50)4.5重量部を耐圧容器中に圧入し、120℃まで昇温させた。次いで、120℃にて2時間保持した後、室温まで冷却して、耐圧容器から重合スラリーを取り出した。取り出した重合スラリーを洗浄、脱水し、気流乾燥器を使用して乾燥させて、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体を得た。
【0102】
上記で得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体を用い、ポリエチレンワックスの量を変更した以外は、実施例1の方法と同様の方法を用いて、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系予備発泡粒子および発泡成形体を得た。
【0103】
得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系予備発泡粒子、発泡成形体および成形サイクルについて、評価試験を行った。発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の組成および評価結果を以下の表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
表1および表2に示されるとおり、実施例1~11の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、良好な流動性を示し、予備発泡工程におけるブロッキング率に優れ、成形サイクルが短いものであった。また、当該発泡性ポリスチレン系樹脂粒子から得られる発泡成形体は、良好な融着性および表面性を有するものであった。
【0107】
これに対し、外添剤としてポリシロキサンおよびポリエチレンワックスのいずれかまたは両方を含まない比較例1~5、並びに、外添剤としてポリシロキサンおよびポリエチレンワックスのいずれかまたは両方の量が過剰である比較例6~8の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、流動性、予備発泡工程におけるブロッキング率、成形サイクル、発泡成形体の融着性および表面性のいずれか1つ以上において、実施例に比べて劣るものであった。
【0108】
これらの結果から、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子本体の表面に、適切な量のポリシロキサン、およびポリエチレンワックスを上記表面に塗布することにより、樹脂粒子の流動性を良好な状態に維持し、予発発泡時のブロッキングを防止し、さらに、成形サイクルが短縮され、適度な融着性および表面性を有する発泡成形体を得ることに適した発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が得られることが分かる。