(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】検体懸濁液、検体懸濁液の製造方法及び検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/531 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
G01N33/531 B
(21)【出願番号】P 2019191208
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 咲子
(72)【発明者】
【氏名】東野 一郎
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-155624(JP,A)
【文献】再公表特許第2011/125873(JP,A1)
【文献】再公表特許第2016/136918(JP,A1)
【文献】米国特許第04609630(US,A)
【文献】特開2014-066720(JP,A)
【文献】特開2017-219541(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010574(WO,A1)
【文献】特開2018-151329(JP,A)
【文献】特開2007-248373(JP,A)
【文献】特開平09-203735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫反応により検体中の分析対象を検出するための検体懸濁液であって、リン酸エステルを含
み、前記リン酸エステルは、ポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェートである検体懸濁液。
【請求項2】
前記リン酸エステルを、0.9~3.6%(w/v)の濃度で含む請求項1に記載の検体懸濁液。
【請求項3】
界面活性剤を更に含む、請求項1
又は2に記載の検体懸濁液。
【請求項4】
前記界面活性剤は両性界面活性剤である、請求項
3に記載の検体懸濁液。
【請求項5】
前記界面活性剤は陽イオン性界面活性剤である、請求項
3に記載の検体懸濁液。
【請求項6】
緩衝液を更に含み、前記緩衝液は、酢酸緩衝液、Bis-Tris緩衝液、PIPES緩衝液、HEPES緩衝液、BES緩衝液からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝液を含む、請求項1~
5の何れか1項に記載の検体懸濁液。
【請求項7】
亜硝酸塩又は亜硝酸を更に含む、請求項1~
6の何れか1項に記載の検体懸濁液。
【請求項8】
亜硝酸塩と有機酸を含まない緩衝液とを含む第1の組成液と、リン酸エステルと有機酸緩衝液とを含む第2の組成液を混合することを含
み、前記リン酸エステルはポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェートであり、免疫反応により検体中の分析対象を検出するための検体懸濁液の製造方法。
【請求項9】
前記検体中の分析対象を検出する方法であって、
請求項1~
7の何れか1項に記載の検体懸濁液に検体を懸濁する懸濁工程、及び
前記懸濁工程で得られた懸濁物中の前記分析対象を、免疫反応を用いて検出する検出工程、を含む、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検体懸濁液、検体懸濁液の製造方法及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鼻拭い液や液咽頭拭い液等の検体から、ウイルスや細菌等の抗原(分析対象)を検出する方法として、抗原抗体反応を用いる方法がある。この方法は、簡便且つ迅速な特異的な検出が可能である。しかしながら、検体に含まれる成分の影響により、検体に分析対象が含まれていないにも関わらず陽性の検出結果(偽陽性)が得られる問題がある。検体由来の成分による偽陽性を抑制する方法としては、検出前に検体を懸濁する液体に、タンパク質(牛血清アルブミン、ゼラチン又はカゼイン等)、高分子化合物(ポリエチレングリコール、メチルセルロース又はデキストラ等)、或いは分析対象である抗原の安定性を高める無機塩や塩基性アミノ酸、塩基性多糖類等を添加する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4115728号公報
【文献】特許第4718301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の技術によっても偽陽性の発生を十分に抑制することはできない。本発明は、偽陽性を抑制し、正確に分析対象を検出できる検体懸濁液、検体懸濁液の製造方法及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に従う検体懸濁液は、免疫反応により検体中の分析対象を検出するための検体懸濁液であり、リン酸エステルを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態の検出方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、実施形態の検出方法に用いる検出装置を示す断面図である。
【
図3】
図3は、例1の実験結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、例2の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の検体懸濁液、検体懸濁液の製造方法及び検出方法について説明する。
【0008】
(検体懸濁液)
実施形態の検体懸濁液は、免疫反応により検体中の分析対象を検出するとき、検出工程を行う前に検体を懸濁するための液体である。
【0009】
検体は、例えば生物学的材料である。生物学的材料は、例えば、動物由来ものである。動物由来の生物学的材料は、例えば、鼻腔粘膜、鼻腔拭い液、鼻かみ液、鼻吸引液、鼻洗浄液、咽頭拭い液、唾液、咽頭粘膜、咽頭拭い液、口腔内粘膜、口腔洗浄液、喀痰等の粘膜成分(例えば、ムチン)を含む材料である。
【0010】
或いは、検体は、血液、血清、リンパ液、髄液、涙液、母乳、羊水、精液、尿、便、汗、細胞、組織、バイオプシー、培養細胞、培養上清、細胞抽出物等の生体物質或いはそれらの混合物等の他の生物学的材料、土壌、河川水、海水、地下水、上下水道水等の環境由来の材料、植物由来の材料、食物若しくは飲料由来の材料又はこれらの何れかの組み合わせ等であってもよい。
【0011】
実施形態の検体懸濁液は、リン酸エステルを含む。リン酸エステルは、例えば芳香族リン酸エステルであることが好ましい。芳香族リン酸エステルは、例えば、ポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェート又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルフォスフェート等であるが、ポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェートであることが好ましい。
【0012】
リン酸エステルは、検体懸濁液に0.9~3.6%(w/v)の終濃度で含まれることが好ましい。この濃度で含まれることによって、非特異的検出を十分に抑制することができるとともに、感度よく検出を行うことができる。
【0013】
検体懸濁液は、溶媒を更に含む。溶媒は、緩衝液であることが好ましい。緩衝液は、例えば、酢酸緩衝液、Bis-Tris緩衝液、PIPES緩衝液、HEPES緩衝液又はBES緩衝液等を用いることができる。
【0014】
検体懸濁液は、界面活性剤を更に含むことが好ましい。界面活性剤を含む場合、偽陽性の発生を更に抑制することができる。界面活性剤は、両性界面活性剤であることが好ましい。両性界面活性剤は、例えば、ラウリルベタインなどを用いることができる。界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤であってもよい。陽イオン性界面活性剤として、塩化トリ(ポリオキシエチレン)ステアリルアンモニウム等を用いることができる。
【0015】
検体懸濁液は、亜硝酸塩又は亜硝酸を更に含むことが好ましい。これらを含む場合、分析対象が溶結性連鎖球菌等の細菌であるときに、偽陽性の発生を更に抑制することができる。亜硝酸塩は、例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム又は亜硝酸銀であることが好ましい。
【0016】
(検体懸濁液の製造方法)
以下、検体懸濁液の製造方法について説明する。検体懸濁液は、上記の何れかの緩衝液に、リン酸エステルを添加することにより得ることができる。また、界面活性剤を含める場合は、そこに所望の界面活性剤を添加すればよい。
【0017】
亜硝酸を含む検体懸濁液を製造する場合、次の方法により行うことが好ましい。まず、亜硝酸塩と有機酸を含まない緩衝液とを含む第1の組成液、及びリン酸エステルと有機酸緩衝液とを含む第2の組成液を作製する。次に、使用の直前に第1の組成液及び第2の組成液を混合する。
【0018】
上記のように使用の直前に2つの組成液を混合する理由は、偽陽性の防止に効果を奏する亜硝酸は溶液中で不安定であり、溶液中で時間が経過するほどイオンの形態などに戻ってしまう可能性があるためである。したがって、上記製造方法によれば、2つの組成液を混合することによって亜硝酸塩と有機酸緩衝液とが反応して亜硝酸が生成し、その効果が減少することを防止することができる。
【0019】
有機酸を含まない緩衝液として、Bis-Tris緩衝液、PIPES緩衝液、HEPES緩衝液等を用いることができる。有機酸緩衝液として、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、乳酸緩衝液又は塩酸緩衝液等を用いることができる。
【0020】
(検出方法)
以下、実施形態の検体懸濁液を用いて検体中の分析対象を検出する方法について説明する。
図1に示すように、実施形態の検出方法は、(S1)検体懸濁液に検体を懸濁する懸濁工程、及び(S2)懸濁工程で得られた懸濁物中の分析対象を、免疫反応を用いて検出する検出工程を含む。
【0021】
分析対象は、例えば、検体中に含まれ得る抗原であり、例えばウイルス(例えば、インフルエンザウイルス等)、細菌(例えば、溶結性連鎖球菌等)又は菌類等の微生物、タンパク質、ペプチド、核酸、細胞外小胞或いはこれらの組み合わせ等の免疫反応により検出できる物質である。
【0022】
検体が咽頭拭い液(咽頭粘膜)である場合の検出方法の例について詳細に説明する。まず、滅菌したスワブの先端を被験者の口内に挿入し、咽頭拭い液を採取する。咽頭拭い液のついたスワブの先端を検体懸濁液に浸漬し、撹拌して懸濁する(懸濁工程(S1))。得られた懸濁物を反応のため1~2分放置することが好ましい。
【0023】
次いで、免疫反応を用いて分析対象を検出する(検出工程(S2))。この工程は、例えば、検出装置を用いて行われる。
【0024】
検出装置の一例について
図2を参照して説明する。検出装置1は、光透過性の材料からなる基板2と、基板2の主面2a上に設けられ、光透過性の樹脂等の材料からなる平面光導波路である光導波路3とを有する。光導波路3の主面3a上には、低屈折樹脂層4が設けられている。低屈折樹脂層4には、光導波路3の主面3aの一部の領域が露出するように開口5が設けられている。また、低屈折樹脂層4の開口5の縁に沿ってウェル壁6が設けられている。開口5及びウェル壁6により、光導波路3の主面3aを底部とする、検体を含む懸濁物を収容するためのウェル7が形成されている。ウェル7の底部に露出する光導波路3の主面3a上には、分析対象を特異的に補足する第1物質8(例えば、抗体等)が固定されている。また、主面3a上には微粒子9分散されている。微粒子9には、分析対象を特異的に補足する、第1物質8とは異なる第2物質10(例えば、抗体等)が固定されている。
【0025】
また、検出装置1は、光導波路3に光を入射させるための光源(例えばレーザダイオード)11と、光導波路3から出射される光を受光する受光素子(例えばフォトダイオード)12を備えている。
【0026】
光導波路3内の基板2の主面2aには、入射側グレーティング13aおよび出射側グレーティング13bが設けられている。入射側グレーティング13aは、光源11から光14が入射される主面2a上の位置に配置され、光14が光導波路3内を全反射して伝搬されるように光14の入射角を調節する。出射側グレーティング13bは、光14が光導波路3から出射される主面2a上の位置に配置され、光14が光導波路3から出射されて受光素子12で受光されるよう、光14の入射角を調節する。グレーティング13a,13bは、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛、ニオブ酸リチウム、ガリウム砒素(GaAs)、インジウム錫酸化物(ITO)、ポリイミド等から形成される。入射側グレーティング13a及び出射側グレーティング13bは基板2もしくは光導波路3の表面に凹凸形状を設けることによって形成してもよい。
【0027】
次に、検出装置1を用いて分析対象を検出する方法について説明する。まず、ウェル7内に懸濁工程(S1)で得られた懸濁物を滴下する。次に、光源11から光14を入射側グレーティング13aから光導波路3に入射する。それにより光14が光導波路3内を反射して伝搬する。その結果、開口5に露出する光導波路3表面にエバネッセント光が発生する。そして、受光素子12で出射側グレーティング13bから出射した光14を検出する。
【0028】
懸濁物中に分析対象が存在する場合、分析対象が第1物質8及び第2物質10と結合し、微粒子9が光導波路3表面に対して固定される。それにより、微粒子9がエバネッセント光の吸収や散乱に関与するため、エバネッセント光の強度の減衰が起きる。その結果、受光素子12で検出される光強度が低下する。懸濁物中に分析対象が存在しない場合、微粒子9は、懸濁物中に分散しているため光強度が低下は起こらない。
【0029】
光強度の低下率(減衰率)が予め定められた閾値よりも高い場合、分析対象が存在する(陽性)と判断し、閾値よりも低い場合、分析対象が存在しないか、又は存在してもその量は少ない(陰性)と判断することが可能である。
【0030】
従来は、検体の成分がエバネッセント光の吸収や散乱に関与し、検体中に分析対象が含まれていなくても光強度が低下する非特異的検出が発生することがあった。実施形態の検体懸濁液を用いることによって、偽陽性の原因となる検体中に含まれる成分による非特異的検出が抑制され、正確に分析対象を検出することが可能である。特に、検体が鼻腔粘膜、鼻腔拭い液、鼻かみ液、鼻吸引液、鼻洗浄液、咽頭拭い液、唾液、咽頭粘膜、咽頭拭い液、口腔内粘膜、口腔洗浄液又は喀痰等の粘膜成分(例えば、ムチン)を含む検体である場合に、より効率的に非特異的検出を抑制することができる。
【0031】
[例]
以下、実施形態の検体懸濁液を作製し、使用した例について説明する。しかしながら、本発明の実施形態は、これらに限定されるものではない。
【0032】
例1.疑似検体成分(ムチン)を用いた非特異検出抑制効果の評価
(検体懸濁液の調整及び検体の処理)
200mMのBis-Tris緩衝液(pH7.0)中に2Mの亜硝酸ナトリウムを含む、第1の組成液を調製した。
【0033】
200mMの酢酸緩衝液(pH3.6)中に0,2,3,4,5又は6w/v%の芳香族リン酸エステル(ポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェート)をそれぞれ含む、6種の第2の組成液を調整した。
【0034】
次にこれらの組成液を用いて次の表1に示す(1)~(3)の懸濁液を調整した。
【表1】
以下に(1)~(3)の懸濁液の調整方法について詳細に説明する。
【0035】
(1)検体懸濁液のみ
第1の組成液と、第2の組成液とをそれぞれ200μLずつ混合し、0、1、1.5、2、2.5又は3w/v%の芳香族リン酸エステルをそれぞれ含む6種の検体懸濁液を得た。
【0036】
(2)検体懸濁液+擬似検体成分(ムチン)
第1の組成液と、第2の組成液とをそれぞれ200μLずつ混合し、0、1、1.5、2、2.5又は3w/v%の芳香族リン酸エステルをそれぞれ含む6種の検体懸濁液を得た。それぞれに粘液の疑似成分としてムチン溶液(5%)を懸濁した。
【0037】
(3)検体懸濁液+溶連菌抗原
第1の組成液と、第2の組成液とをそれぞれ200μLずつ混合し、0、1、1.5、2、2.5又は3w/v%の芳香族リン酸エステルをそれぞれ含む6種の検体懸濁液を得た。それぞれに、不活化されたA群ベータ溶血連鎖球菌(溶連菌)抗原(8×104org/ml)を30μlずつ懸濁した。
【0038】
(検出)
免疫アッセイ装置として、
図2に記載の測定系を用いた検出装置(商品名:Rapiim(登録商標)、キヤノンメディカルシステムズ株式会社製)を使用した。上記各懸濁液を一定時間反応のために放置した後、検出装置のウェル内にそれぞれ8滴ずつ滴下して、光学的信号の減衰率を測定した。
【0039】
(結果)
図3に示すグラフの通り、芳香族リン酸エステルを含まない場合(0%)、ムチンを含む検体懸濁液(2)の減衰率は77%であり、抗原を含まないにも関わらず、抗原を含む(3)の減衰率(39%)よりも高く、偽陽性を示した。これは、擬似検体成分により非特異的検出が起こっていることを示している。
【0040】
しかしながら、芳香族リン酸エステルを含む検体懸濁液により処理した場合では(2~6%)、ムチンを含む検体懸濁液(2)の減衰率は30%であり、抗原を含む検体懸濁液(3)の減衰率(48%)よりも低くなった。そして芳香族リン酸エステルが多いほど(2)の減衰率は低下し、5及び6%では、検体懸濁液のみ(1)の減衰率とほぼ同じ値となり、本来の「陰性」を示す減衰率となった。
【0041】
この結果から、1~3w/v%の芳香族リン酸エステルを添加した検体懸濁液を用いることで、非特異的検出が抑制され、溶連菌の正確な検出が可能であることが明らかとなった。
【0042】
例2.唾液試料を用いた非特異検出抑制効果の評価
(検体懸濁液の調整及び検体の処理)
100mMのPIPES緩衝液(pH7.3)中に1Mの亜硝酸ナトリウムを含む第1の組成液を調製した。
【0043】
300mMの酢酸緩衝液(pH4.3)中に8w/v%の芳香族リン酸エステル(ポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェート)及び3w/v%の両性界面活性剤を含む第2の組成液を調整した。
【0044】
芳香族リン酸エステルを含まないこと以外、第2の組成液と同様の組成を有する第3の組成液を調整した。
【0045】
次にこれらの組成液を用いて次の表1に示す(4)~(7)の懸濁液を調整した。
【表2】
以下、(4)~(7)の懸濁液の調整方法について詳細に説明する。
(4)第1の組成液及び第2の組成液を200μLずつ混合した。
(5)第1の組成液及び第3の組成液を200μLずつ混合し、唾液検体を懸濁した。
(6)第1の組成液及び第2の組成液を200μLずつ混合し、唾液検体を懸濁した。
(7)第1の組成液及び第2の組成液を200μLずつ混合し、唾液検体、及び不活化された溶連菌抗原(1×10
6org/ml)を30μLずつ検体懸濁液に懸濁した。
【0046】
ここで、唾液検体は、溶連菌感染が認められない(検出限度以下である)被験者から滅菌スワブを用いて採取した咽頭拭い液である。
(検出)
上記各懸濁液を一定時間反応のために放置した後、例1と同様の検出装置のウェル内へ各懸濁液をそれぞれ8滴ずつ滴下して光学的信号の減衰率を測定した。
(結果)
図4に示すように、芳香族リン酸エステルを含まない(5)の減衰率は48%であり、溶連菌を含まないにも関わらず、抗原を含まない(4)の減衰率の約6倍であり、偽陽性を示した。この結果は、(5)では唾液検体により非特異的検出が生じたことを示している。
【0047】
一方で、芳香族リン酸エステルと唾液検体とを含む(6)の減衰率は12%ほどであり(5)の48%よりもはるかに低いことから、芳香族リン酸エステルにより唾液検体による非特異的検出が抑制されたことを示している。
【0048】
また、溶連菌抗原を添加した(7)の減衰率は39%ほどであり、(6)よりも高く、芳香族リン酸エステルを含む検体懸濁液で処理した検体の溶連菌の検出が可能であることも明らかとなった。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
免疫反応により検体中の分析対象を検出するための検体懸濁液であって、リン酸エステルを含む検体懸濁液。
[2]
リン酸エステルを、0.9~3.6%(w/v)の濃度で含む[1]に記載の検体懸濁液。
[3]
前記リン酸エステルは、芳香族リン酸エステルである、[1]又は[2]に記載の検体懸濁液。
[4]
前記芳香族リン酸エステルはポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェートである、[3]に記載の検体懸濁液。
[5]
界面活性剤を更に含む、[1]~[4]の何れか1つに記載の検体懸濁液。
[6]
前記界面活性剤は両性界面活性剤である、[5]に記載の検体懸濁液。
[7]
前記界面活性剤は陽イオン性界面活性剤である、[5]に記載の検体懸濁液。
[8]
緩衝液を更に含み、前記緩衝液は、酢酸緩衝液、Bis-Tris緩衝液、PIPES緩衝液、HEPES緩衝液、BES緩衝液からなる群より選択される少なくとも1種の緩衝液を含む、[1]~[7]の何れか1つに記載の検体懸濁液。
[9]
亜硝酸塩又は亜硝酸を更に含む、[1]~[8]の何れか1つに記載の検体懸濁液。
[10]
亜硝酸塩と有機酸を含まない緩衝液とを含む第1の組成液と、リン酸エステルと有機酸緩衝液とを含む第2の組成液を混合することを含む、免疫反応により検体中の分析対象を検出するための検体懸濁液の製造方法。
[11]
前記検体中の分析対象を検出する方法であって、
[1]~[9]の何れか1つに記載の検体懸濁液に検体を懸濁する懸濁工程、及び
前記懸濁工程で得られた懸濁物中の前記分析対象を、免疫反応を用いて検出する検出工程、を含む、検出方法。