(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/32 20060101AFI20231211BHJP
G01N 33/548 20060101ALI20231211BHJP
C08F 8/34 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C08F8/32
G01N33/548 B
C08F8/34
(21)【出願番号】P 2019194679
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】關口 武史
(72)【発明者】
【氏名】金崎 健吾
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-218772(JP,A)
【文献】特開2000-351814(JP,A)
【文献】特開2019-028050(JP,A)
【文献】特開昭59-019856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 - 8/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体を含み、下記一般式(1)で表される粒子。
【化1】
(一般式(1)中、L
1はスチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体部分を示し、nは4~11を示し、R
1及びR
2は水素原子、アルキル基、およびハロゲンを示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、R
1及びR
2は水素原子を示す、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記一般式(1)が、さらに下記一般式(2)で示す部位を有する、請求項1に記載の粒子。
【化2】
(一般式(2)において、*は前記一般式(1)のL1との結合部位を示し、mは2~4を示し、R
3及びR
4は水素原子を示す。)
【請求項4】
前記一般式(1)が、さらに下記一般式(3)で示す部位を有する、請求項1に記載の粒子。
【化3】
(一般式(3)において、**は前記一般式(1)のL1との結合部位を示し、mは2~4を示し、R
3及びR
4は水素原子または水酸基を示す。)
【請求項5】
前記粒子が凝集法に用いられる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項6】
前記粒子がラテックス粒子である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項7】
前記粒子が検体検査に用いられる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の粒子の製造において水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを使用し、その後、遠心分離または透析によって精製する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラテックス粒子を用いる免疫測定試薬は、種々の臨床検査項目において用いられている。原理としては、抗体感作ラテックス試薬と被検試料中の抗原が、抗原抗体反応により結合し凝集する性質に基づき、測定自動分析装置を利用して、濁度の増加を吸光度、透過光強度又は散乱光強度の光学的な変化として検出することにより抗原の濃度を定量するものである。
【0003】
現在、ラテックス粒子を用いる免疫測定試薬には、局所的炎症や小部位の病変を早期に発見できるように、より微量な抗原の検出ができるように、従来よりも感度をさらに高めることが求められている。
感度をさらに高めるための対策として、例えば、非特許文献1や特許文献1において、ラテックス粒子表面に化学修飾を行い、ヒトのたんぱく質を構成するアミノ酸をスペーサー分子として導入することによって、高感度で被検試料中の抗原を測定している。
また、ラテックス粒子に抗体を感作する際に抗体のロスを防ぐために、ラテックス粒子と抗体との感作効率を高めることが求められている。
ラテックス試薬には他にも、保管中に凝集しないような保存安定性や、偽陽性反応を示さないような非特異的吸着性を持たない、といった性能が必要である。さらにアルブミンや親水性ポリマー等で抗体感作粒子をポストコートせずにそのまま使用できる方が好ましい。
【0004】
一方で、非特異的な凝集を抑制する成分として、感作又は未感作の不溶性担体粒子に、ヒトのたんぱく質を構成するアミノ酸ではなく、ω-アミノ酸を添加する例が知られている(特許文献2)。またカルボキシル化ラテックスに水溶性カルボジイミドを用いてω-アミノ酸をスペーサー分子として導入することによって、分散安定性及び保存安定性に優れ、非特異的凝集反応を起こさずに、被検液の広い濃度範囲に渡って、被検液中の抗原抗体量を正確に再現性良く測定する例が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/063616号
【文献】特開2019-28050号公報
【文献】特開昭63-273060号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】日本大学生産工学部 第40回学術講演会公演概要N0.40 応用分子化学部会9 ポリメタクリル酸グリシジル粒子を用いた粒子凝集法による高感度免疫測定
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの文献に記載されたラテックス粒子では、検出感度や感作効率が十分ではなかった。さらには保管中に凝集しない、非特異的吸着を起こさない、ポストコートしないで使用できるなど、ラテックス試薬としてこれら全ての条件を満たすことがいまだ課題として残っていた。
本発明はこれらの条件を満たす、粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る粒子は、スチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体を含み、下記一般式(1)で表される。
【化1】
(一般式(1)中、L
1はスチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体部分を示し、nは4~11を示し、R
1及びR
2は水素原子、アルキル基、およびハロゲンを示す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒子と抗体との反応で高い感作効率を有し、ラテックス試薬として高い検出感度を示し、保管中に凝集しにくく、ポストコートしなくても非特異的吸着を起こしづらい検体検査用に適した粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、スチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体を含むラテックス粒子表面に化学修飾を行い、スペーサー分子を導入して抗CRP抗体を感作したラテックス試薬を作製した。そのラテックス試薬の高感度化を検討したところ、前記非特許文献1のようにヒトのたんぱく質を構成するアミノ酸であるグリシンをスペーサーとした場合には、高い感度及び感作効率が得られなかった。一方、スペーサー分子として特定の炭素数を有するω-アミノ酸を導入した場合、高い感度と感作効率が得られることを見出し、本発明を完成した。
また特許文献2を参考に、スチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体を含むラテックス粒子の水分散液にω-アミノ酸を添加し、水酸化ナトリウムでpHを調整した液を作製したが、すぐに凝集が起きてしまい、ラテックス試薬として使用できないことが分かった。
また特許文献3では、カルボキシル化ラテックスに対しω-アミノ酸であるε-アミノカプロン酸をスペーサーとして導入した際にその後ウシ血清アルブミンでポストコートしているが、ポストコートしないと非特異的吸着が起こりうると想定される。
以下、本発明の実施形態について詳しく説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されない。なお、本発明の実施形態に係る粒子は典型的にはラテックス粒子であり、凝集法に用いられる。凝集法としては、ラテックス凝集法(例えば、ラテックス免疫凝集法)が挙げられる。ラテックス凝集法は、検体検査等において用いられる。
【0011】
本実施形態のラテックス粒子は、ラテックス免疫凝集用粒子であって、スチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体を含み、下記式(1)で示すラテックス粒子である。一般式(1)中、L
1はスチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体部分を示し、nは4~11を示し、R
1及びR
2は水素原子、アルキル基、およびハロゲンを示す。
【化1】
【0012】
本実施形態のラテックス粒子は検体検査用粒子であり、具体的には、ラテックス免疫凝集法で用いるための粒子である。ラテックス粒子はリガンドを固定することが出来る。得られたリガンド感作粒子は、標的物質と結合するため、ラテックス免疫凝集法により標的物質を測定することが可能になる。
【0013】
本実施形態に係る検体検査用ラテックス粒子は、リガンドとして抗体あるいは抗原を化学固定できるカルボキシル基を粒子表面に有している。
【0014】
本実施形態の母体粒子は、スチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体からなるものである。
【0015】
本実施形態のスチレン系モノマーに由来するモノマー単位とは、本発明の目的を達成可能な範囲においてその化学構造は限定されないが、好ましくはスチレン類に由来する群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。スチレン類とは、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、及び、p-フェニルスチレン等があげられる。
【0016】
本実施形態のグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とは、本発明の目的を達成可能な範囲においてその化学構造は限定されないが、好ましくはメタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0017】
本実施形態のスチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体について、本発明の目的を達成可能な範囲において、モノマー単位の組成比率は限定されない。好ましくは「スチレン系モノマーに由来するモノマー単位」/「グリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位」が、0.1以上10以下(mоl分率)、好ましくは0.2以上5以下(mоl分率)、より好ましくは、0.5以上2以下(mоl分率)である。この好ましい範囲は、母体粒子が、「スチレン系モノマー」に由来する粒子強度と、「グリシジル基含有モノマー」に由来する非特異的吸着の抑制能力、ならびにカルボキシル基とリガンドとの反応効率との関係で決まる数値である。上記関係を満たす場合、粒子強度と非特異的吸着抑制能力、リガンド反応効率のバランスが良い。
【0018】
本実施形態のラテックス粒子で、リガンドを固定できるカルボキシル基を有するスペーサーは、母体粒子の表面に存在し、下記式(1)で示すものである。一般式(1)中、L
1はスチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体部分を示し、nは4~11を示し、R
1及びR
2は水素原子、アルキル基、およびハロゲンを示す。
【化2】
【0019】
本実施形態のリガンドを固定できるカルボキシル基を有するスペーサーは、グリシジル基含有モノマーの側鎖部分であり、グリシジル基含有モノマーのポリマー骨格に結合している。スペーサー分子はグリシジル基と水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどの強塩基を用い、50~90℃の反応温度で結合させることができ、遠心分離や透析等の条件で精製する。このスペーサー分子は、ω-アミノ酸のうち、nは4~11、すなわち5-アミノペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノデカン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などから選ばれ、感度、保存安定性、非特異的吸着抑制能力の観点で好ましいが、それらの性能を阻害しない限りこれらに限らない。ただし、nが1~3の場合は、ラテックス試薬とした際に検出感度が低く、またnが12以上の場合、ラテックス試薬とした際に脂溶性が増すため水中での安定性が低くなり凝集しやすくなると考えられる。
【0020】
また本発明の別の実施形態としては、検体検査用ラテックス粒子であって、スチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体を含む粒子で、一般式(1)が、さらに下記式(2)で示す部位を有するものである。一般式(2)中、*は前記一般式(1)のL1との結合部位を示し、mは2~4を示し、R
3及びR
4は水素原子、アルキル基、およびハロゲンを示す。ただし、一般式(1)におけるnが1~3の場合は、ラテックス試薬とした際に検出感度が低く、またnが12以上の場合は、ラテックス試薬とした際に脂溶性が増すため水中での安定性が低くなり凝集しやすくなると考えられる。
【化3】
【0021】
スペーサー分子はグリシジル基と水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどの強塩基を用い、50~90℃の反応温度で結合させることができ、遠心分離や透析等の条件で精製する。このスペーサー分子は、上記で挙げたω-アミノ酸が選ばれ、同時にエタノールアミン、プロパノールアミン、4-アミノ-1-ブタノール、3-アミノ-1,2-プロパンジオールなどのアミノアルコールが選ばれる。
【0022】
また本発明のさらに別の実施形態としては、検体検査用ラテックス粒子であって、スチレン系モノマーに由来するモノマー単位とグリシジル基含有モノマーに由来するモノマー単位とを含有する共重合体を含む粒子で、一般式(1)が、さらに下記式(3)で示す部位を有するものである。一般式(3)中、**は前記一般式(1)のL1との結合部位を示し、mは2~4を示し、R
3及びR
4は水素原子または水酸基を示す。ただし、一般式(1)におけるnが1~3の場合は、ラテックス試薬とした際に検出感度が低く、またnが12以上の場合は、ラテックス試薬とした際に脂溶性が増すため水中での安定性が低くなり凝集しやすくなると考えられる。
【化4】
【0023】
スペーサー分子はグリシジル基と水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどの強塩基を用い、50~90℃の反応温度で結合させることができ、遠心分離や透析等の条件で精製する。このスペーサー分子は、上記で挙げたω-アミノ酸が選ばれ、同時に2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1-プロパノール、4-メルカプト-1-ブタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオールなどのメルカプトアルコールが選ばれる。
【0024】
本実施形態の母体粒子は、架橋されていてもよい。母体粒子の架橋は、ジビニルベンゼンなどのモノマーを粒子合成時に用いることで、母体粒子の架橋が可能である。母体粒子の架橋により、粒子の物理的な強度が向上し、母体粒子の取扱い(製造やリガンド固定化時の遠心分離など)に有利である。ジビニルベンゼンを用いることで、母体粒子の溶媒耐性も向上する。
【0025】
本実施形態のラテックス粒子の粒径は、水中における個数平均粒子径で、0.05μm以上1μm以下、好ましくは0.1μm以上0.5μm以下、より好ましくは0.15μm以上0.3μm以下である。ラテックス粒子の粒径が、0.15μm以上0.3μm以下である場合、遠心操作におけるハンドリング性に優れ、且つ、ラテックス粒子の特徴である非表面積の大きさが際立つ。本実施形態のラテックス粒子の粒径は、動的光散乱法によって評価されたものである。
【0026】
また、本実施形態のラテックス粒子のカルボキシル基にリガンドが化学固定してなるラテックス免疫凝集用のリガンド感作粒子に関するものである。
【0027】
リガンドとは、特定の標的物質が有する受容体に特異的に結合する化合物のことである。リガンドとして例えば、抗体、抗原、天然由来核酸、人工核酸、アプタマー、ペプチドアプタマー、オリゴペプチド、酵素又は補酵素などが挙げられる。リガンドが標的物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を有する。例えば、抗原と抗体、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体、核酸などが例示されるが、本実施形態のリガンドはこれらに限定されない。本実施形態におけるラテックス免疫凝集用の感作粒子とは、標的物質に対して選択的または特異的に高い親和性を有するラテックス免疫凝集用の感作粒子を意味する。
【0028】
本実施形態のラテックス粒子が有するカルボキシル基とリガンドとを化学固定する化学反応の方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において、従来公知の方法を適用することができる。例えば、カルボジイミド媒介性反応やNHSエステル活性化反応は、良く用いられる化学反応である。ただし、本実施形態における、カルボキシル基とリガンドとを化学固定する化学反応の方法はこれらに限定されない。
【0029】
リガンド固定化量も重要な因子であり、リガンド固定化量が少ない場合、抗原抗体の反応性が低下するため、好ましくない。反対にリガンド固定化量が多い場合も、リガンド感作粒子の分散性を悪化させる原因となる。粒子径に依存するが、平均粒子径が200nm程度であれば、リガンド固定化量は、粒子1mgに対して1μg~500μgであることが好ましく、特に、10~200μgが好ましい。
【0030】
本実施形態の検体検査用ラテックス抗体感作粒子は、リガンドとして抗体あるいは抗原が用いられ、臨床検査、生化学研究等の領域において広く活用されているラテックス免疫凝集測定法に好ましく適用できる。一般的な粒子をラテックス免疫凝集測定法に適用した場合、標的物質である抗原(抗体)や血清中の異物等が粒子表面に非特異的吸着し、このことに起因して意図しない粒子凝集が検出されてしまい正確な測定の妨げになることがある。そのため、偽陽性なノイズを低減することを目的として、通常、アルブミンなどの生物由来物質をブロッキング剤として粒子にコーティングし、粒子表面への非特的吸着を抑制して用いられている。しかし、このような生物由来物質は、ロットによってその特性が少しずつ異なるため、これらによってコーティングされた粒子は、コーティング処理ごとに非特異的吸着の抑制能力が異なる。そのため、非特異的吸着を抑制する能力が同水準の粒子を安定的に供給することに課題がある。また、粒子表面にコーティングされた生物由来物質は、変性によって疎水性を呈することがあり、必ずしも非特異的吸着を抑制する能力に優れるわけではない。本実施形態の検体検査用ラテックス粒子は親水性化された粒子であって、非特異的吸着の抑制能力を高めた粒子である。アルブミンなどのポストコートを必要としない。
【0031】
本実施形態のラテックス免疫凝集法に用いるための試薬は、本実施形態の検体検査用ラテックス抗体感作粒子を含有することを特徴とする。本実施形態の試薬中に含有される本実施形態の検体検査用ラテックス粒子の量は、0.001質量%から20質量%が好ましく、0.01質量%から10質量%がより好ましい。本実施形態の試薬は、本発明の目的を達成可能な範囲において、本実施形態の検体検査用ラテックス抗体感作粒子の他に、緩衝液などの第三物質を含んでも良い。緩衝液などの第三物質は2種類以上を組み合わせて含んでも良い。本実施形態で用いる緩衝液の例としては、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液、トリス緩衝液、アンモニア緩衝液などの各種緩衝液が例示されるが、本実施形態の試薬に含まれる溶剤はこれらに限定されない。
【0032】
本実施形態のラテックス免疫凝集法による検体中の標的物質の検出に用いるためのキットは、本実施形態の試薬を少なくとも備えることを特徴とする。本実施形態のキットとしては、本実施形態の試薬(以下、試薬1)に加えて、アルブミンを含有する反応緩衝液(以下、試薬2)を更にそなえるものが好ましい。前記アルブミンとしては血清アルブミン等が挙げられ、プロテアーゼ処理されたものでも良い。試薬2に含有されるアルブミンの量は、0.001質量%から5質量%を目安とするが、本実施形態のキットはこれに限定されない。試薬1と試薬2の両方、或いは何れか一方に、ラテックス免疫凝集測定用増感剤を含有させても良い。ラテックス免疫凝集測定用増感剤として、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアルギン酸等が挙げられるが、本実施形態のキットはこれらに限定されない。試薬1と試薬2の両方、或いは何れか一方に、界面活性剤を含有させても良い。界面活性剤は粒子やタンパク質を安定化させる効果があるため、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートやポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテルなどが好適に用いられる。また、本実施形態のキットは、試薬1、試薬2に加え、陽性コントロール、陰性コントロール、血清希釈液等を備えていても良い。陽性コントロール、陰性コントロールの媒体として、測定しうる標的物質が含まれていない血清、生理食塩水の他、溶剤を用いても良い。
【0033】
本実施形態のラテックス免疫凝集法による検体中の標的物質の検出方法は、本実施形態の検体検査用ラテックス抗体感作粒子と、標的物質を含む可能性のある検体とを混合することを特徴とするものである。また、本実施形態の検体検査用ラテックス抗体感作粒子と検体との混合は、pH3.0からpH11.0の範囲で行われることが好ましい。また、混合温度は20℃から50℃の範囲であり、混合時間は10秒から30分の範囲であることが好ましい。また、本実施形態の検出方法における本実施形態の検体検査用ラテックス抗体感作粒子の濃度は、反応系中、好ましくは0.001質量%から5質量%、より好ましくは0.01質量%から1質量%である。本実施形態の検出方法は、本実施形態の検体検査用ラテックス抗体感作粒子と検体との混合の結果として生じる凝集反応を光学的に検出することを特徴とし、前記凝集反応を光学的に検出することで、検体中の標的物質が検出され、更に標的物質の濃度も測定することができる。前記凝集反応を光学的に検出する方法としては、散乱光強度、透過光強度、吸光度等を検出可能な光学機器を用いて、これらの値の変化量を測定すれば良い。
【0034】
本実施形態のラテックス粒子の好ましい製造方法について説明する。
本実施形態は、ラテックス粒子の製造方法であって、モノマーであるスチレン、モノマーである(メタ)クリル酸グリシジル、水、およびラジカル重合開始剤を混合して母体粒子を形成させ、前記母体粒子の水分散液を得る(工程1)。
前記母体粒子の水分散液とω-アミノ酸と強塩基とを混合して加熱することで、前記母体粒子の(メタ)クリル酸グリシジルに由来するエポキシ基と、ω-アミノ酸のアミノ基を反応させる(工程2)。ω-アミノ酸と同時にアミノアルコールまたはメルカプトアルコールを混合させても構わない。
【0035】
前記ラジカル重合開始剤が、少なくとも4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラヒドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒロドクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェート ジヒドレートの何れかである。
【0036】
ラジカル重合開始剤は2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェート ジヒドレート、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]の何れかであることが好ましい。
【0037】
本実施形態の母体粒子を形成させる方法は、本発明の目的を達成可能な範囲において、ラジカル重合に限定されない。ラジカル重合の中でも、乳化重合、ソープフリー乳化重合、懸濁重合を用いることが好ましく、ソープフリー乳化重合を用いることがより好ましい。一般に、懸濁重合と比較して乳化重合とソープフリー乳化重合は、粒径分布がシャープな母体粒子を得ることができる。また、ラテックス粒子をリガンドと化学固定させる場合、乳化重合で一般的に用いるようなアニオン性界面活性剤が存在すると、リガンドを変性させてしまうことが懸念される。よって、本実施形態の母体粒子を形成させる方法は、ソープフリー乳化重合が最も好ましい。
【0038】
本実施形態のラテックス粒子の製造方法の工程1において、スチレンと(メタ)クリル酸グリシジルに加え、さらに、架橋性ラジカル重合モノマーを含むことが好ましい。架橋性ラジカル重合モノマーを含むことにより、得られる母体粒子が物理的に強固になる。
【0039】
以下、本実施形態において、用いることのできる架橋性ラジカル重合モノマーの具体例を列挙するが、本発明はこれらに限定されない。また、2種類以上の油性ラジカル重合性モノマーを用いても良い。例示したラジカル重合性モノマーにおいて、ジビニルベンゼンを用いる場合には、ラジカル重合反応時のハンドリング性に優れるため好ましい。
【0040】
架橋性ラジカル重合性モノマー:ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’-ビス(4-(アクリロキシジエトキシ)フェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2’-ビス(4-(メタクリロキシジエトキシ)フェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-(メタクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタリン、及び、ジビニルエーテル等。
【0041】
本実施形態のラテックス粒子の製造方法の工程1において、母体粒子を形成させる過程で、モノマーである(メタ)クリル酸グリシジルをさらに混合し、前記母体粒子の表面をポリ(メタ)クリル酸グリシジルで被覆する工程をさらに含むことが好ましい。
【0042】
前記ラジカル重合開始剤が、少なくとも4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラヒドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒロドクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェート ジヒドレートの何れかである理由は、母体粒子の水分散液を得る工程1において、(メタ)クリル酸グリシジル由来のエポキシ基を開環させないためである。例えば、ラジカル重合開始剤として過硫酸カリウムを用いる場合、開始剤残基の影響で、ラジカル重合反応場が酸性になり、(メタ)クリル酸グリシジル由来のエポキシ基が水と反応して開環し、グリコールを形成してしまう場合がある。また、ラジカル重合開始剤として過硫酸アンモニウムを用いた場合、(メタ)クリル酸グリシジル由来のエポキシ基とアンモニアが反応してしまう場合がある。また、ラジカル重合開始剤としてカルボキシル基を有するアニオン性ラジカル重合開始剤を用いた場合、(メタ)クリル酸グリシジル由来のエポキシ基と重合開始剤由来のカルボキシル基が反応し、母体粒子が凝集してしまう。
【0043】
工程2は、母体粒子の(メタ)クリル酸グリシジル由来のエポキシ基に、ω-アミノ酸のアミノ基を導入する工程である。この際、トリエチルアミンなどの弱塩基を使用すると効率よく導入することができないため、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの強塩基を使用すると好ましい。充分に反応させ、精製しないと容易に凝集を起こすため、反応温度を50~90℃で反応させ、反応後はさらに遠心分離や透析により精製する必要がある。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
[合成例1](母体粒子の合成)
2Lの四つ口セパラブルフラスコに22.7gのスチレン(St:キシダ化学工業株式会社)と33.9gのグリシジルメタクリレート(GMA:東京化成工業株式会社)、0.86gのジビニルベンゼン(DVB:キシダ化学工業株式会社)、2168.6gのイオン交換水をはかりとって混合液とした後、この混合液を200rpmで撹拌しながら70℃に保持し、200mL/分の流量で窒素フローを行うことで、前記三つ口セパラブルフラスコ内を脱酸素した。次に、別途調整しておいた1.13gのV-50(富士フイルム和光純薬株式会社)を30gのイオン交換水に溶解させた溶解液を前記混合液に加えることで、ソープフリー乳化重合を開始させた。重合開始から2時間後、前記四つ口セパラブルフラスコに5.8gのGMAを加え、さらに22時間、200rpmで撹拌しながら70℃に保持することによって母体粒子を含有する水分散液を得た。前記分散液を室温まで徐冷した後にその一部を採取し、プロトンNMR,ガスクロマトグラフィー、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて重合転化率を評価したところ、実質的に100%であることを確認した。前記分散液を、動的光散乱(ゼータサイザー:マルバーン)を用いて評価したところ、平均粒径が206.9nmであった。母体粒子は2.86wt%の水分散液となるように限外ろ過濃縮、或いはイオン交換水を加えて希釈し、遮光条件下、4℃にて保管した。
【0046】
[実施例1](ラテックス粒子1水分散液の合成)
30mLバイアルに10.5gの母体粒子1の2.86wt%水分散液を入れ、別途151mg(1.29mmоl)の5-アミノペンタン酸(東京化成工業株式会社)と57mg(1.425mmоl)の0.7mm粒状水酸化ナトリウム(キシダ化学株式会社)を4.4gのイオン交換水に溶解した液を加えた。次に、前記バイアルの内容物を200rpmで撹拌しながら70℃に昇温し、さらに4時間保持することにより、ラテックス粒子1の分散液を得た。遠心分離機により前記分散液からラテックス粒子1を分離し、さらにイオン交換水中にラテックス粒子1を再分散する操作を8回繰り返してラテックス粒子1を精製し、最終的にラテックス粒子1が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0047】
[実施例2](ラテックス粒子2水分散液の合成)
実施例1のω-アミノ酸を1.29mmоlの5-アミノペンタン酸から1.29mmоlの6-アミノヘキサン酸に変更した以外は、実施例1と同様の実験操作によって、最終的にラテックス粒子2が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0048】
[実施例3](ラテックス粒子3水分散液の合成)
実施例1のω-アミノ酸を1.29mmоlの5-アミノペンタン酸から1.29mmоlの7-アミノヘプタン酸に変更した以外は、実施例1と同様の実験操作によって、最終的にラテックス粒子3が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0049】
[実施例4](ラテックス粒子4水分散液の合成)
実施例1のω-アミノ酸を1.29mmоlの5-アミノペンタン酸から1.29mmоlの11-アミノウンデカン酸に変更した以外は、実施例1と同様の実験操作によって、最終的にラテックス粒子4が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0050】
[実施例5](ラテックス粒子5水分散液の合成)
実施例1のω-アミノ酸を1.29mmоlの5-アミノペンタン酸から1.29mmоlの12-アミノドデカン酸に変更した以外は、実施例1と同様の実験操作によって、最終的にラテックス粒子5が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0051】
[実施例6](ラテックス粒子6水分散液の合成)
実施例1の塩基を1.425mmоlの0.7mm粒状水酸化ナトリウムから1.425mmоlの水酸化カリウムに変更した以外は、実施例1と同様の実験操作によって、最終的にラテックス粒子6が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0052】
[実施例7](ラテックス粒子7水分散液の合成)
30mLバイアルに10.5gの母体粒子1の2.86wt%水分散液を入れ、別途169mg(1.29mmоl)の6-アミノヘキサン酸(東京化成工業株式会社)と79mg(1.29mmоl)の2-エタノールアミンと114mg(2.95mmоl)の0.7mm粒状水酸化ナトリウム(キシダ化学株式会社)を4.4gのイオン交換水に溶解した液を加えた。次に、前記バイアルの内容物を200rpmで撹拌しながら70℃に昇温し、さらに4時間保持することにより、ラテックス粒子7の分散液を得た。遠心分離機により前記分散液から粒子7を分離し、さらにイオン交換水中にラテックス粒子7を再分散する操作を8回繰り返して粒子7を精製し、最終的にラテックス粒子7が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0053】
[実施例8](ラテックス粒子8水分散液の合成)
30mLバイアルに10.5gの母体粒子1の2.86wt%水分散液を入れ、別途169mg(1.29mmоl)の6-アミノヘキサン酸(東京化成工業株式会社)と139mg(1.29mmоl)の3-メルカプト-1,2-プロパンジオールと114mg(2.95mmоl)の0.7mm粒状水酸化ナトリウム(キシダ化学株式会社)を4.4gのイオン交換水に溶解した液を加えた。次に、前記バイアルの内容物を200rpmで撹拌しながら70℃に昇温し、さらに4時間保持することにより、ラテックス粒子8の分散液を得た。遠心分離機により前記分散液からラテックス粒子8を分離し、さらにイオン交換水中にラテックス粒子8を再分散する操作を8回繰り返してラテックス粒子8を精製し、最終的に粒子8が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0054】
[比較例1](比較ラテックス粒子1水分散液の合成)
実施例1のω-アミノ酸を1.29mmоlの5-アミノペンタン酸から1.29mmоlのグリシンに変更した以外は、実施例1と同様の実験操作によって、最終的に比較ラテックス粒子1が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0055】
[比較例2](比較ラテックス粒子2水分散液の合成)
実施例1のω-アミノ酸を1.29mmоlの5-アミノペンタン酸から1.29mmоlの4-アミノ酪酸に変更した以外は、実施例1と同様の実験操作によって、最終的に比較ラテックス粒子2が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0056】
[比較例3](比較ラテックス粒子3水分散液の合成)
実施例3の塩基を1.425mmоlの0.7mm粒状水酸化ナトリウムから1.425mmоlのトリエチルアミンに変更した以外は、実施例3と同様の実験操作によって、最終的に比較ラテックス粒子3が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0057】
[比較例4](比較ラテックス粒子4水分散液の合成)
実施例2の塩基を1.425mmоlの0.7mm粒状水酸化ナトリウムから1.425mmоlの炭酸水素ナトリウムに変更した以外は、実施例2と同様の実験操作によって、最終的に比較ラテックス粒子4が約4wt%になるように調整した水分散液を得た。
【0058】
(粒子への抗体感作による抗体感作粒子の作製)
上記で得られた各ラテックス粒子水分散液を、イオン交換水でそれぞれ濃度1.0wt%溶液に調整した。その後、それぞれの粒子分散液(濃度1.0wt%溶液,10mg/mL)の0.1mL(粒子1mg)をマイクロチューブ(容量1.5mL)に移し取り、0.12mLの活性化緩衝液(25mM MES,pH6.0)を添加して、4℃で15000rpm(20400g)、5min、遠心した。遠心後、上清を廃棄した。活性化緩衝液(25mM MES,pH6.0)0.12mLを添加して、超音波にて再分散させた。遠心と再分散を1回繰り返した。
【0059】
次に、WSC溶液(WSC 50mgを活性化緩衝液1mLに溶解させたもの、WSCとは1-[3-(ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド]塩酸塩を意味する)およびSulfo NHS溶液(Sulfo NHS 50mgを活性化緩衝液1mLに溶解させたもの、Sulfo NHSとはスルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドを意味する)をそれぞれ60μL添加し、超音波にて分散させた。室温、30分間撹拌することで、粒子のカルボキシル基を活性エステルに変換させた。4℃で15000rpm(20400g)、5min、遠心し、上清を廃棄した。固定化緩衝液(25mM MES,pH5.0)0.2mLを添加して、超音波にて分散させた。4℃で15000rpm(20400g)、5min、遠心し、上清を廃棄した。固定化緩衝液 50μLを添加して、カルボキシル基が活性化された粒子を超音波にて分散させた。
【0060】
カルボキシル基が活性化された粒子溶液50μLに抗体溶液50μL(抗CRP抗体を25μg/50μLとなるように固定化緩衝液で希釈したもの)を添加して、超音波にて粒子を分散させた。仕込みの抗体量は、粒子1mgあたり25μgとなる(25μg/mg)。抗体終濃度は0.25mg/mL、粒子終濃度は10mg/mLとなる。室温、60分間、チューブを撹拌して、抗体を粒子のカルボキシル基に結合させた。次いで、4℃で15000rpm(20400g)、5min、遠心し、上清を廃棄した。マスキング緩衝液 (1M Tris,pH8.0に0.1% Tween20を含むもの)0.24mLを添加して、超音波にて分散させた。室温で1時間撹拌し、その後、4℃で、一晩静置し、残存している活性化されたカルボキシル基にTrisを結合させた。次に、4℃で15000rpm(20400g)、5min、遠心し、上清を廃棄した。洗浄緩衝液(10mM HEPES,pH7.9)0.2mLを添加して、超音波にて分散させた。洗浄緩衝液(10mM HEPES,pH7.9)による洗浄操作(遠心と再分散)を1回繰り返し行った。保存緩衝液(10mM HEPES,pH7.9、0.01% Tween20を含むもの)0.2mLで洗浄操作を1回行った。保存緩衝液1.0mLを添加して、超音波にて分散させた。最終的に粒子濃度0.1wt%(1mg/mL)となった。冷蔵庫で保存した。
【0061】
(ラテックス粒子の抗体感作効率)
タンパク定量により、実施例1~8、ならびに比較例1~4で作製されたラテックス粒子の抗体感作効率(%)を求めた。ここで抗体感作効率(%)とは、反応に用いた抗体量(抗体仕込み量)に対して、ラテックス粒子に結合した抗体量の割合を意味する。以下、タンパク定量の評価例を示す。
【0062】
まず、プロテインアッセイBCAキット(和光純薬)のA液 7mL、B液 140μLを混合し、調製した液をAB液とした。次に、ラテックス粒子の分散液(0.1%溶液)を25μL(粒子量25μg)分取し、1.5mLチューブに入れた。次に、分散液(25μL)に対して、AB液200μLを加え、60℃で30分間インキュベートした。溶液を4℃で15000rpm(20400g)、5min、遠心し、上清200μLをピペッタで96穴マイクロウェルへ入れた。標準サンプル(抗体を10mM HEPESで0~200μg/mLの範囲で数点)とともにマイクロプレートリーダーで562nmの吸光度を測定した。標準曲線から抗体量を算出した。粒子への抗体感作量(粒子重量あたりの抗体結合量(μg/mg))は、算出した抗体量を粒子重量(ここでは0.025mg)で割ることで求めた。最後に、感作効率を算出した。抗体仕込み量は粒子1mgあたり25μgであった場合、抗体感作量が12.5μg/mgであった場合は、感作効率は50%ということになる。結果を表1にまとめた。
【0063】
(抗体感作粒子のラテックス凝集感度の評価)
ヒトCRP(デンカ生研,C反応性タンパク質 ヒト血漿由来、320μg/mL)を1μLと、緩衝液(0.01%Tween20を含むPBS)を50μLとを混合した混合液(以下、R1+と表現する)を調製し、37℃に保温した。また、コントロールとして、生理食塩水を1μLと、緩衝液(0.01%Tween20を含むPBS)を50μLとを混合した混合液(以下、R1-と表現する)を調製し、同じく37℃に保温した。次に、各実施例ならびに比較例で調製した抗体感作粒子を含有する溶液(粒子濃度0.1wt%、R2と呼ぶ)を50μLとR1+あるいはR1-とを混合し、撹拌した直後の混合液(容量101μL)に対して、波長572nmにおける吸光度を測定した。吸光度測定はBiochrom社製分光光度計GeneQuant1300を用いた。そして、この混合液を37℃で5分間静置した後、再び波長572nmにおける吸光度を測定し、吸光度の変化量ΔABS×10000の値を算出した。結果を表1にまとめた。なお、表1のR-の値が大きいほど、抗体感作粒子に非特異的吸着に起因する凝集、あるいは浸透圧凝集が生じていることを意味し、ラテックス凝集法用の粒子として検体検査に用いる場合、ノイズによって正常検体が偽陽性と解される懸念がある。一方、表1のR+の値が大きい抗体感作粒子ほど、ラテックス凝集法用の抗体感作粒子として検体検査に用いる場合、標的物質を高感度に検出できることが期待される。
なお、総合評価の基準は下記のように定めた。
A:感作効率50%以上、R1+の時のΔOD 5000以上
B+:感作効率50%以下、R1+の時のΔOD 5000以上
B-:感作効率50%以上、R1+の時のΔOD5000以下
C:感作効率50%以下、R1+の時のΔOD 5000以下
R1-の時のΔOD100以下であれば非特異的吸着が起こっていないと判断した。
【0064】
【0065】
表1の実施例1乃至6および比較例1及び2より、ω-アミノ酸のうち、一般式(1)におけるnが1または3の場合は感作効率、感度(ΔOD)が低いのに対し、一般式(1)におけるnが4~11の範囲では感作効率、感度(ΔOD)が高くなっていることが分かる。また実施例2及び3、比較例3及び4より弱塩基よりも強塩基で反応させることによって感作効率、感度(ΔOD)が高くなることが分かる。実施例7及び8よりアルコール種を同時に導入すると感作効率は下がるものの感度(ΔOD)は高く維持できていることが分かる。アルコール種を同時に導入することによって親水性が増し、ヒト正常検体に対する非特異的吸着を抑えることが可能となる。
実施例1乃至8の全てにおいてポストコートしなくても非特異的吸着を起こしづらい、すなわちR1-を添加した際の感度(ΔOD)が100以下であった。
なお保管中に凝集しているものはなかった。