(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】トマト花粉の収集方法、貯蔵花粉の製造方法及びトマトの生産方法
(51)【国際特許分類】
A01H 1/02 20060101AFI20231211BHJP
A01G 22/05 20180101ALI20231211BHJP
【FI】
A01H1/02 A
A01G22/05 Z
(21)【出願番号】P 2019211251
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2020-12-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今森 久弥
(72)【発明者】
【氏名】市川 恵里子
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】飯室 里美
【審判官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107864750(CN,A)
【文献】特開昭50-099817(JP,A)
【文献】実公昭40-19080(JP,Y1)
【文献】Indian Journal of Plant Genetic Resources,1989年,Vol. 2, Issue 2,140-144
【文献】宮本雅章、金井幸男、小野正人、佐々木正己,トマト栽培におけるセイヨウミツバチの花粉媒介利用,群馬県農業技術センター研究報告,2011年,第8号,59-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H1/00-17/00
A01G22/00-22/67
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマト花粉の収集方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の工程である:
切断: ここで切断されるのは、トマトの花芽及び葯筒であり、
かつ、切断に用いられるのは、はさみであり、
収集: ここで収集されるのは、トマトの花粉であ
り、
乾燥: ここで乾燥されるのは、トマトの花芽及び葯筒である。
【請求項2】
請求項1の方法であって、
前記切断では、トマトの花芽及び葯筒が切断されて、トマトの花粉が得られ、
前記収集では、前記切断で得られたトマトの花粉が収集される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、トマト花粉の収集方法、貯蔵花粉の製造方法及びトマトの生産方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、市場で求められているのは、野菜を安定的に供給することである。野菜は、天候の影響を受けやすい。そのため、異常気象の多い近年においては、その供給が安定しにくくなっている。異常気象の中でも特に高温は、様々な野菜の安定生産に影響を与える要因となっている。
【0003】
トマトを含むナス科野菜は、高温に晒されると、高温障害を起こすことが知られている。高温障害は、著しい収量の低下を招く。高温障害の具体的な症状は様々であり、着果不良、尻腐れ、着色不良、奇形等である。着果不良の原因は、花粉の稔性低下、花粉量の低下、柱頭の突出等である。
【0004】
ナス科野菜の高温障害による収量低下を軽減するための技術は各種知られているが、特別な装置や、農薬を使用する方法が一般的である。例えば、特許文献1が開示するのは、ナス及びトマトの着果促進剤であり、その目的は、ナス及びトマトの着果促進であり、その手段は、2-メチル-4-クロロフェノキシ酪酸エチルの配合である。特許文献2が開示するのは、着果促進剤であり、その目的は、高温期の着果促進であり、その手段は、ポリアミンの配合である。特許文献3が開示するのは、着果・生育促進装置であり、その目的は、高温ストレスの軽減であり、その手段は、雄蕊の冷却である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-029906号公報
【文献】特開2004-331507号公報
【文献】WO2007/058347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、トマトの花芽から効率的に花粉を収集することである。高温障害が発生したトマトを着果させる際に、予め貯蔵しておいた花粉を授粉させることで、果実の不良果率を低減させることが可能である。しかし、トマトの花粉は、収集しにくい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上を踏まえて、本願発明者が鋭意検討して見出したのは、トマトの花粉が収集しにくいのはトマトの花粉が葯筒と呼ばれる筒状の器官の内側に存在するためであること、及び、トマトの花芽を破砕することでトマトの花粉の収集率が向上することである。この観点から、本発明を定義すると、以下のとおりである。
【0008】
本発明に係るトマト花粉の収集方法を構成するのは、少なくとも、破砕及び収集である。破砕において、トマトの花芽が破砕される。収集において、トマトの花粉が収集される。
【0009】
本発明に係る貯蔵花粉の製造方法を構成するのは、少なくとも、破砕、収集及び貯蔵である。破砕において、トマトの花芽が破砕される。収集において、トマトの花粉が収集される。貯蔵において、トマトの花粉が貯蔵される。
【0010】
本発明に係るトマトの生産方法を構成するのは、少なくとも、破砕、収集、貯蔵及び着果処理である。破砕において、トマトの花芽が破砕される。収集において、トマトの花粉が収集される。貯蔵において、トマトの花粉が貯蔵される。着果処理において、トマトが着果される。トマトを着果する手段は、貯蔵された花粉の授粉である。
【発明の効果】
【0011】
本発明が可能にするのは、トマトの花芽から効率的に花粉を収集することである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本トマト花粉の収集方法の概要>
図1が示すのは、本トマト花粉の収集方法(以下、「本方法」という。)の流れである。本方法を構成するのは、主に、摘花(S11)、乾燥(S12)、破砕(S13)、収集(S14)である。
【0014】
<摘花(S11)>
摘花工程では、トマトの花芽が摘花される。その目的は、花粉の収集である。摘花する手段は、特に限定されず、手動でも機械でもよい。摘花を行うタイミングは、花粉が活性を有しているタイミングである。好ましくは、開花から3日以内である。摘花は、花芽のみを摘んでもよく、花芽の付いた枝ごと摘んでもよい。また、摘花済みの花芽を使用する場合など、摘花工程は、適宜省略可能である。
【0015】
<乾燥(S12)>
乾燥工程では、トマトの花芽が乾燥される。その目的は、花粉の貯蔵性向上である。乾燥工程では、花粉が失活しない範囲で、花芽に含まれる水分の一部又は全部が除かれる。乾燥する手段は、公知の方法であればよく、特に限定されない。例示すると、乾燥器、恒温恒湿器、デシケーター、乾燥材、シリカゲル等である。乾燥の温度は、花粉が失活しない温度である。好ましくは、35℃以下である。乾燥工程は、必ずしも摘花工程の後や破砕工程の前にある必要はない。すなわち、乾燥工程は、摘花工程の前であってもよく、破砕工程の後であってもよい。また、乾燥工程は、適宜省略可能である。
【0016】
<破砕(S13)>
破砕工程では、トマトの花芽が破砕される。その目的は、葯筒の破壊である。
図2が示すのは、トマトの花芽の断面図である。葯筒は、花柱を覆うように存在し、その内側に花粉を含んでいる。破砕する手段は、公知の方法であればよく、特に限定されない。例示すると、グレーダー、カッター、コミトロール、ミル、ミキサー、チョッパー等である。破砕工程は、トマトの葯筒が破壊されるように行なわれる。
【0017】
<収集(S14)>
収集工程では、トマトの花粉が収集される。その目的は、授粉効率の向上である。花粉を収集する手段は、公知の方法であればよく、特に限定されない。例示すると、ふるい、メッシュ、電動ふるい、シフター等である。収集は、1回だけ行っても、2回以上行ってもよい。また、メッシュサイズ等で段階を分けて行ってもよい。さらに、花粉以外の組織(葯、花弁、がく、茎、葉等)を含んだ状態の花粉(以下、「粗花粉」という。)を収集してもよい。必要に応じて、粗花粉から花粉を精製する精製工程を行ってもよい。
【0018】
<貯蔵花粉>
貯蔵花粉とは、貯蔵された花粉であり、少なくとも、トマトの花粉を含むものである。
【0019】
<本貯蔵花粉の製造方法の概要>
図3が示すのは、本貯蔵花粉の製造方法(以下、「本製造方法」という。)の流れである。本製造方法を構成するのは、主に、摘花(S21)、乾燥(S22)、破砕(S23)、収集(S24)、貯蔵(S25)である。摘花(S21)、乾燥(S22)、破砕(S23)、収集(S24)は、本方法における、摘花(S11)、乾燥(S12)、破砕(S13)、収集(S14)に準ずる。
【0020】
<貯蔵(S25)>
貯蔵工程では、トマトの花粉が貯蔵される。その目的は、授粉である。貯蔵する手段は、公知の方法でよく、特に限定されない。貯蔵の温度は、花粉が失活しない温度である。好ましくは、5℃以下であり、より好ましくは、0℃以下であり、さらに好ましくは、-20℃以下である。貯蔵の形態は、授粉の方法に応じで異なるが、容器に封入されていることが好ましい。容器を例示すると、袋、チューブ、瓶、ボトル等である。容器の素材を例示すると、紙、プラスチック、ガラス等である。
【0021】
<本ナス科野菜の生産方法の概要>
図4が示すのは、本ナス科野菜の生産方法(以下、「本生産方法」という。)の流れである。本生産方法を構成するのは、主に、定植(S31)、栽培(S32)、着果処理(S33)、収穫(S34)である。
【0022】
<定植(S31)>
定植工程では、トマトの苗が定植される。トマトの苗を得る手段は、特に限定されない。例示すると、苗の状態で流通しているものや、種子の状態で流通しているものを発芽させて得られるものである。種子を発芽させて苗を得る場合においては、必要に応じ、定植の前に播種を行ってもよい。さらに、トマトの栽培を行う場所に直接播種を行い、間引きして残ったものを苗としてもよい。直接播種を行う場合は、本明細書における「定植」の用語は、「播種」と読み替えるものとする。定植を行う時期は、定植後収穫までの期間においてトマトの栽培が可能となる時期である。好ましくは、2月~6月であり、より好ましくは、3月~5月である。
【0023】
<栽培(S32)>
栽培工程では、トマトが栽培される。トマトの栽培を行う場所は、栽培が可能な場所である。例示すると、圃場、ビニールハウス、植物工場等である。栽培を行う手段は特に限定されない。例示すると、露地栽培、施設栽培、土耕栽培、水耕栽培等である。本工程が排除しないのは、植物の栽培において一般的に行われる作業の実施である。例示すると、水やり、施肥、農薬散布、病虫害の防除、葉かき、芽かき等である。
【0024】
<着果処理(S33)>
着果処理工程では、トマトが着果処理される。着果処理の手段は、貯蔵花粉の授粉である。トマトを着果処理する目的は、着果に加え、不良果の低減である。貯蔵花粉の授粉は、トマトの柱頭に貯蔵花粉が付着するように行なわれる。授粉する手段は、公知の方法であればよく特に限定されない。例示すると、授粉機、梵天等である。必要に応じ、増量剤(石松子等)で増量及び/又は希釈したものを用いてもよい。着果処理が行われるタイミングは、高温障害が発生しているタイミングが好ましい。トマトの場合、昼間(6時~18時)の平均気温が30℃以上及び/又は夜間(18時~6時)の平均気温が25℃以上となると、高温障害が発生しやすくなる。
【0025】
<収穫(S34)>
収穫工程では、トマトの果実が収穫される。収穫する手段は、公知のものであればよく特に限定されない。収穫日は、トマトの品種等によって異なる。例示すると、定植日から60日以上経過した後である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
<試験ふるいを用いた花粉の収集試験>
ミニ系の生鮮トマト(C4)を栽培し、2018年5月7日に開花した花芽を摘花し、摘花した花芽を送風定温恒温器(DKN912、ヤマト科学社製)にて、30℃で3日間乾燥させた。乾燥させた花芽を、乳鉢で破き、試験用網ふるい(直径300mm、深さ100mm、目開き25μm、東京スクリーン社製)に乗せた。花芽の入った試験用網ふるいの上蓋を閉め、手動で上下約30cmの幅で60回振動させ、受け皿に花粉をふるい落として収集した(区分1)。乾燥させた花芽を、乳鉢で砕かない以外は、区分1と同じ条件で花粉を収集した区分を、区分2とした。それぞれの区分で収集した花粉の重量を測定した。尚、乾燥させた花芽を乳鉢で砕く際は、葯筒が破砕されるように行なった。
【0028】
また、ミニ系の生鮮トマト品種(C4)を栽培し、2018年5月11日に開花した花芽を前述と同様の方法で摘花、乾燥させた。乾燥させた花芽を、ハサミで切った区分を区分3とし、ハサミで切らない区分を区分4として、それぞれ前述と同様の方法で、花粉を収集した。収集した花粉の重量を測定した。尚、乾燥させた花芽をハサミで切る際は、葯筒が切断されるように行なった。
【0029】
花粉収集率は、乾燥前の花芽の重量[A](g)及び、収集した花粉の重量[B](g)を測定し、以下の式に当てはめて、算出した。
【0030】
花粉収集率(%)=B/A×100
【0031】
【0032】
表1が示すのは、各区分の花粉収集率である。この結果からわかるのは、破砕工程の有無で花粉収集率に大きな差が生じることである。すなわち、破砕工程が有る区分では、破砕工程が無い区分に比べ、花粉収集率は大きく向上する。つまり、花粉を収集する際に、花芽を破砕することで、花粉の収集率を向上させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明が有用な分野は、トマトの生産である。