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特許7399693耐性阻害剤、耐性阻害用飲食品組成物、耐性阻害方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】耐性阻害剤、耐性阻害用飲食品組成物、耐性阻害方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/258 20060101AFI20231211BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231211BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20231211BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20231211BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20231211BHJP
   A61K 31/7036 20060101ALN20231211BHJP
   A61K 31/43 20060101ALN20231211BHJP
   A61K 31/546 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
A61K36/258
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A23L33/105
A61P31/04
A61K45/00
A61K31/7036
A61K31/43
A61K31/546
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019216458
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2020094040
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018226810
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500147333
【氏名又は名称】大木製▲薬▼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】松井 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】岡 真優子
(72)【発明者】
【氏名】寒川 慶一
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 洋
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-155778(JP,A)
【文献】Biol. Pharm. Bull.,2008年,Vol.31(8),pp.1614-1617
【文献】microbial cell,2018年11月,Vol.5(11),pp.472-481
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌薬耐性菌の前記抗菌薬に対する耐性阻害剤であって、
紅蔘の抽出物を含有し、
前記抗菌薬が、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方であり、
前記紅蔘の抽出物が、60~100体積%のメタノールを用いて60℃以上で抽出された紅蔘のメタノール抽出物であり、且つ、単独で前記抗菌薬耐性菌に対して抗菌作用を示さない、
ことを特徴とする耐性阻害剤。
【請求項2】
前記抗菌薬が、ゲンタマイシンであることを特徴とする請求項1に記載の耐性阻害剤。
【請求項3】
前記抗菌薬耐性菌が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐性阻害剤。
【請求項4】
抗菌薬耐性菌の前記抗菌薬に対する耐性阻害用飲食品組成物であって、
紅蔘の抽出物を含有し、
前記抗菌薬が、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方であり、
前記紅蔘の抽出物が、60~100体積%のメタノールを用いて60℃以上で抽出された紅蔘のメタノール抽出物であり、且つ、単独で前記抗菌薬耐性菌に対して抗菌作用を示さない、
耐性阻害用飲食品組成物。
【請求項5】
抗菌薬耐性菌の前記抗菌薬に対する耐性を阻害する耐性阻害方法であって、
紅蔘の抽出物を摂取することを含み、
前記抗菌薬が、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方であり、
前記紅蔘の抽出物が、60~100体積%のメタノールを用いて60℃以上で抽出された紅蔘のメタノール抽出物であり、且つ、単独で前記抗菌薬耐性菌に対して抗菌作用を示さない、
耐性阻害方法(人間を治療する方法を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌薬耐性菌の抗菌薬に対する耐性を阻害する耐性阻害剤などに関し、特に、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方の抗菌薬に対する耐性を阻害する耐性阻害剤などに関する。
【背景技術】
【0002】
黄色ブドウ球菌は、グラム陽性球菌であり、ヒトや動物の皮膚や鼻腔に存在する常在菌である。この黄色ブドウ球菌は、通常、害を及ぼすことがないが、免疫力が低下した場合などには、様々な疾患を引き起こすことが知られている。黄色ブドウ球菌が原因となって引き起こされる疾患としては、化膿症や食中毒などの比較的軽い疾患から、肺炎、腹膜炎、敗血症、髄膜炎などの重篤な疾患まで様々な疾患がある。
【0003】
黄色ブドウ球菌に対する治療薬としては、メチシリンなどの抗菌薬(抗生物質)が使用されてきた。しかしながら、メチシリンなどの抗菌薬が世界中で使用された結果、抗菌薬に対する耐性を獲得したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下、「MRSA」ともいう)が出現してきた。そして、近年の調査では、MRSAは、メチシリンなどのβ-ラクタム系抗生物質だけでなく、アミノグリコシド系抗生物質やマクロライド系抗生物質等の抗菌薬に対しても耐性を示す多剤耐性菌であることが報告されている。
【0004】
このような抗菌薬耐性菌に感染した場合には、現在使用されている抗菌薬では有効な治療を行うことが困難であり、抗菌薬耐性菌の感染に対して新たな治療法や治療剤が検討されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
紅蔘は、ウコギ科のオタネニンジン(Panax ginseng C.A.Meyer)の根を加熱及び乾燥して製造される食品であり、採取した根に対して加工処理を施していない水参や、水参を常温で乾燥させた白参とは区別されている(第十六改正日本薬局方、1488~1489頁)。紅蔘や紅蔘の抽出物は、滋養強壮作用や血管新生を促進する作用を有していることが報告されており、近年注目されている(例えば、特許文献2や特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-182655号公報
【文献】特開2004-155778号公報
【文献】特開2007-320970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、紅蔘や紅蔘の抽出物が、滋養強壮作用や血管新生を促進する作用を有していることは報告されている。しかしながら、紅蔘の抽出物が、抗菌薬耐性菌の抗菌薬に対する耐性を阻害できることは未だ報告されていない。
【0008】
本発明は、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方の抗菌薬に対する抗菌薬耐性菌の耐性を阻害する耐性阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、紅蔘の抽出物が、β-ラクタム系抗菌薬やアミノグリコシド系抗菌薬に対する抗菌薬耐性菌の耐性を阻害し、抗菌薬耐性菌に対してこれらの抗菌薬が有効に作用しやすくなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]抗菌薬耐性菌の前記抗菌薬に対する耐性阻害剤であって、紅蔘の抽出物を含有し、前記抗菌薬が、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方であることを特徴とする耐性阻害剤。
[2]前記紅蔘の抽出物が、メタノールを用いて抽出された抽出物であることを特徴とする[1]に記載の耐性阻害剤。
[3]前記抗菌薬が、ゲンタマイシンとカナマイシンの少なくともいずれか一方であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の耐性阻害剤。
[4]前記抗菌薬耐性菌が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌であることを特徴とする[1]から[3]のいずれか一つに記載の耐性阻害剤。
[5]抗菌薬耐性菌の前記抗菌薬に対する耐性阻害用飲食品組成物であって、紅蔘の抽出物を含有し、前記抗菌薬が、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方であることを特徴とする耐性阻害用飲食品組成物。
[6]抗菌薬耐性菌の前記抗菌薬に対する耐性を阻害する耐性阻害方法であって、紅蔘の抽出物を摂取することを含み、前記抗菌薬が、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方である耐性阻害方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方の抗菌薬に対する抗菌薬耐性菌の耐性を阻害する耐性阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態の耐性阻害剤(以下、単に「阻害剤」ともいう)は、紅蔘の抽出物(以下、単に「紅蔘抽出物」ともいう)を含む。紅蔘は、ウコギ科のオタネニンジン(Panax ginseng C.A.Meyer)の根を加熱及び乾燥して製造される食品であり、例えば、第十六改正日本薬局方、1488~1489頁に規定される紅蔘を使用することができる。紅蔘抽出物を得るために用いられる紅蔘は、粉末や切断物や破砕物であってもよい。
【0014】
紅蔘抽出物の取得方法は、特に限定されるものではないが、例えば、抽出対象物(紅蔘)を溶媒に浸漬して抽出物(紅蔘抽出物)を得る浸漬法を用いることができる。浸漬法で用いられる溶媒としては、例えば、アルコール(メタノール、エタノール等)や水を挙げることができる。
【0015】
β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方の抗菌薬(以下、単に「抗菌薬」ともいう)に対する抗菌薬耐性菌の耐性を阻害しやすくなる観点からは、紅蔘をメタノールを含む溶媒で抽出して紅蔘抽出物を得ることが好ましく、溶媒100体積%に対して60体積%以上のメタノールを含む溶媒で抽出して紅蔘抽出物を得ることがより好ましい。
【0016】
なお、紅蔘を溶媒で抽出した後には、紅蔘抽出物に対して精製処理を行ってもよい。精製処理には、例えば、ODSカラム(OctaDecylSilylカラム)を用いることができる。メタノールを含む溶媒で抽出された紅蔘抽出物に対して精製処理を行った場合、精製処理後の紅蔘抽出物は、一例として、サポニンの含有量が紅蔘抽出物に対して(溶媒が除去された状態の紅蔘抽出物100質量%に対して)90質量%以上となり、紅蔘に含まれるサポニン以外の成分の含有量が紅蔘抽出物に対して(溶媒が除去された状態の紅蔘抽出物100質量%に対して)10質量%以下となる。ここで、紅蔘に含まれるサポニン以外の成分としては、例えば、炭水化物(多糖類、単糖類、二糖類、三糖類、繊維、ペクチン)や、窒素化合物(蛋白質、アミノ酸、ペプチド、核酸、アルカロイド)や、脂溶性成分(脂質、脂肪酸、精油、植物ステロール、有機酸、フェノール化合物、ポリアセチレン化合物、テルペノイド)や、ビタミン(水溶性ビタミン)が挙げられる。
【0017】
紅蔘抽出物は、溶媒が除去された固体(粉末)であってもよく、溶媒が残存している液体であってもよい。なお、溶媒が除去された固体(粉末)の紅蔘抽出物を、薬理学的に許容される分散媒(例えば、水)に溶解及び/又は分散し、その液体を本実施形態の阻害剤に用いてもよい。
【0018】
浸漬法の具体的な条件は、特に限定されるものではないが、抗菌薬耐性菌の抗菌薬(β-ラクタム系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬)に対する耐性を阻害しやすくなる観点からは、紅蔘を浸漬する溶媒の温度は、40~90℃とすることが好ましく、60~90℃とすることがより好ましい。また、例えば、紅蔘を溶媒に浸漬する時間は、4時間~48時間とすることができる。
【0019】
ここで、紅蔘抽出物を得るには、浸漬法の中でも、還流抽出を用いることが好ましい。還流抽出とは、紅蔘を溶媒に浸漬して加熱抽出を行う一方で、蒸発した溶媒や揮発性成分を冷却及び凝結させて紅蔘が浸漬する溶媒に再び戻す抽出方法である。なお、加圧した上で還流抽出を行う場合には、低温(例えば、10~40℃)及び短時間(例えば、数十分~4時間)で抽出を行うことができる。
【0020】
本実施形態の阻害剤に含まれる紅蔘抽出物の含有量は、特に限定されるものではなく、後述する形態(剤形)や摂取量などを考慮して適宜設定することができる。
【0021】
本実施形態の阻害剤は、紅蔘抽出物のみから構成されていてもよく、紅蔘抽出物以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、薬理学的に許容される担体、賦形剤、統合剤、防腐剤、安定剤、香味料、pH調整剤、分散媒、飲食品に含有される成分(以下、「飲食成分」ともいう)、飼料に含有される成分等を挙げることができる。
【0022】
本実施形態の阻害剤の形態(剤形)は、特に限定されないが、素錠、糖衣錠、顆粒、粉末、液体、タブレット、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル)などの内服用の形態であることが好ましい。なお、本実施形態の阻害剤の摂取方法は、形態(剤形)などに応じて適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、経口的に摂取することができる。また、本実施形態の阻害剤を飲食品とする場合、本実施形態の阻害剤に飲食成分を含有させて、例えば、飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料等),菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリン、大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等),調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素等)としてもよい。
【0023】
本実施形態の阻害剤は、医薬品、医薬部外品及び飲食品とすることができる。本実施形態の阻害剤を飲食品とする場合、通常の飲食品としてもよいが、健康食品、機能性表示食品、栄養補助食品、サプリメント、又は特定保健用食品とすることが好ましい。なお、本実施形態の阻害剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、医薬品、医薬部外品及び飲食品などの種類に応じ、公知の方法で製剤化することができる。
【0024】
本実施形態の阻害剤を摂取する摂取者としては、ヒトや、ヒト以外の動物を挙げることができる。ヒト以外の動物としては、ヒト以外の高等脊椎動物、特にヒト以外の哺乳類を挙げることができ、より具体的にはイヌ、ネコ等の愛玩動物、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ等の家畜を例示することができる。また、摂取者は、抗菌薬耐性菌を保菌している保菌者であってもよく、抗菌薬耐性菌を保菌していない非保菌者であってもよい。
【0025】
本実施形態の阻害剤によれば、抗菌薬耐性菌の抗菌薬に対する耐性(以下、単に「耐性」ともいう)を阻害することができる。ここで、抗菌薬に対する耐性を阻害するとは、本実施形態の阻害剤を摂取することで、本実施形態の阻害剤を摂取しない場合と比較して、より少量で抗菌薬が作用しやすくなるよう、抗菌薬に対する耐性を下げることを指す。このため、抗菌薬耐性菌の保菌者が本実施形態の阻害剤を摂取すれば、抗菌薬耐性菌の抗菌薬に対する耐性が抑制され、抗菌薬が抗菌薬耐性菌に作用しやすくなる。一方、抗菌薬耐性菌を保菌していない非保菌者が本実施形態の阻害剤を摂取していれば、抗菌薬耐性菌を保菌した場合に、抗菌薬耐性菌の抗菌薬に対する耐性を抑制することができる。その結果、抗菌薬が抗菌薬耐性菌に作用しやすくなる。加えて、本実施形態の阻害剤によれば、抗菌薬耐性菌の種類(菌株)に関わらず、抗菌薬耐性菌の抗菌薬(β-ラクタム系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬)に対する耐性を阻害することができる。
【0026】
抗菌薬耐性菌に作用しやすくなる抗菌薬は、抗菌薬耐性菌が耐性を有している抗菌薬であり、具体的には、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方の抗菌薬である。
【0027】
β‐ラクタム系抗菌薬としては、例えば、ペニシリン、カルベニシリン、オキサシリン、アンピシリン、メチシリンなどのペニシリン系抗菌薬や、セフォキシチン、セファゾリンなどのセフェム系抗菌薬や、ドリペネムなどのカルバペネム系抗菌薬や、ファロペネムなどのペネム系抗菌薬や、アズトレオネムなどのモノバクタム系抗菌薬や、タゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)などβ-ラクタマーゼ阻害剤との合剤を挙げることができる。
【0028】
アミノグリコシド系抗菌薬としては、例えば、カナマイシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、アルベカシン、アミカシン、ストレプトマイシン、ジベカシン、ベカナマイシン、イセパマイシン、フラジオマイシン、リボスタマイシン、ネオマイシンを挙げることができる。
【0029】
上述した2種類の抗菌薬の中でも、本実施形態の阻害剤は、アミノグリコシド系抗菌薬に対する耐性を阻害しやすい。また、アミノグリコシド系抗菌薬の中でも、本実施形態の阻害剤は、ゲンタマイシン及び/又はカナマイシンに対する耐性を阻害しやすい。従って、本実施形態の阻害剤は、ゲンタマイシン及び/又はカナマイシンに対する耐性を阻害する阻害剤として用いることが好ましい。
【0030】
本実施形態の阻害剤によって耐性が阻害される抗菌薬耐性菌は、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方の抗菌薬に対する抵抗性(耐性)を獲得した細菌であり、これらの抗菌薬に加えて他の抗菌薬に対する耐性を獲得した細菌であってもよい。具体的な抗菌薬耐性菌としては、例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を挙げることができる。なお、本明細書において、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とは、メチシリンに対してのみ耐性を有する黄色ブドウ球菌と、メチシリンを含む複数種類の抗菌薬に対して耐性を有する黄色ブドウ球菌の両方を指す。
【0031】
本実施形態の阻害剤の一態様には、紅蔘抽出物と飲食成分を含有する耐性阻害用飲食品組成物が含まれる。耐性阻害用飲食品組成物は、通常の飲食品であってもよいが、健康食品、機能性表示食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品などであってもよい。この耐性阻害用飲食品組成物も、本実施形態の阻害剤と同様に、抗菌薬耐性菌の抗菌薬に対する耐性を阻害することができる。
【0032】
また、本実施形態の阻害剤は、上述した抗菌薬(β-ラクタム系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬)と組みあわせて、耐性菌用抗菌剤として用いることができる。耐性菌用抗菌剤は、阻害剤によって抗菌薬に対する耐性を阻害できるとともに、抗菌薬によって耐性が阻害された抗菌薬耐性菌を死滅することができる(又は抗菌薬耐性菌の増殖を抑制できる)。耐性菌用抗菌剤は、例えば、医薬品として用いることができ、阻害剤と抗菌薬とを別々に製剤化したキット製剤であってもよく、阻害剤と抗菌薬とを一剤に含まれるように製剤化した製剤であってもよい。なお、耐性菌用抗菌剤は、本実施形態の阻害剤と抗菌薬の他に、上述した他の成分を含んでいてもよい。
【0033】
耐性菌用抗菌剤は、ゲンタマイシン及び/又はカナマイシンと、紅蔘抽出物を含むことが好ましい。紅蔘抽出物は、抗菌薬耐性菌のゲンタマイシンとカナマイシンに対する耐性を阻害しやすいため、耐性菌用抗菌剤には、紅蔘抽出物とともに、ゲンタマイシンとカナマイシンの少なくともいずれか一方が含まれていることが好ましい。
【実施例
【0034】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
ウコギ科のオタネニンジンの根を加熱し(蒸蔘)、その後乾燥して製造された紅蔘の一定量を約10倍量の60~100体積%メタノールにて60~90℃で3~5時間還流抽出した。これを5回繰り返し、抽出したメタノール溶液をすべて合わせてエバポレーターにより減圧濃縮し、メタノール抽出エキスを得た。このメタノール抽出エキスに一定量の精製水を加えて溶解し、等量のn-ブタノールを加えて二相分配によりn-ブタノールを分離し、エバポレーターにより濃縮して乾燥粉末を得た。次に、この乾燥粉末を少量のメタノールで溶解し、10~20倍量のエーテルまたはクロロホルムを加えた後、これら溶媒に不溶な画分を減圧濃縮により乾燥粉末とした。さらに、得られた乾燥粉末を3~5倍の精製水に溶解し、移動相を精製水としてODS(C18)カラムに添加・吸着させ、まず担体量の2~3倍の精製水で溶出し、続いて同量の20体積%メタノールで溶出させた。その後、担体量の約5倍の100体積%メタノールで溶出させ、このメタノール溶液を減圧濃縮後、凍結乾燥により紅蔘抽出物(粉末)を取得した。
【0036】
(評価1)
オキサシリン(β-ラクタム系(ペニシリン系))、カルベニシリン(β-ラクタム系(ペニシリン系))、カナマイシン(アミノグリコシド系)、及びテトラサイクリン(テトラサイクリン系)を含む複数種類の抗菌薬に対して耐性を有するMRSA(Methicillin Resistant Staphylococcus aureus IID1677(東大医科学研究所))をLB培地で37℃一夜培養し、ブレインハートインフュージョン(BHI)培地で濁度(OD600nm値)が0.005(5/3×10CFU/mL(CFU:Colony Forming Unit、生菌数))の菌液を調製した。1.5×10CFU/well(CFU:Colony Forming Unit、生菌数)となるように、96ウェルマイクロプレートの各ウェルに菌液を90μLずつ添加した。さらに、5μL/wellの下記抗菌薬と5μL/wellの紅蔘抽出液(紅蔘抽出物(粉末)を10%メタノールに溶解することで、紅蔘抽出物を異なる濃度に調製)を添加して、37℃で24時間培養した。培養後、各ウェルを目視してMRSAの増殖の有無を判定し、抗菌薬の最小発育阻止濃度(MIC(μg/mL))を求めた。また、詳細な差を判別するため、30μLの菌液と30μLのBac-Titer Gro(プロメガ社製)を混合して化学発光法で菌のATP量を測定した。
【0037】
結果を表1に示す。
[表1]

なお、抗菌薬を添加しない場合には、紅蔘抽出物を添加してもMRSAの生育(発育)に影響を及ぼすことはなかった。
【0038】
表1に示すように、β-ラクタム系抗菌薬やアミノグリコシド系抗菌薬を用いた場合には、紅蔘抽出物が0.1mg/mLで添加されても、1.0mg/mLで添加されても、紅蔘抽出物が添加されていない場合と比較してMICが減少した。一方で、このようなMICの減少は、テトラサイクリン系抗菌薬を用いた場合には、0.1mg/mLの濃度で紅蔘抽出物を添加しても確認することができなかった。ここで、MICは、菌の発育を阻止できる抗菌薬の最小量を指す。このため、MICが減少することは、抗菌薬が作用しやすくなったことを意味する。従って、本評価の結果から、本実施形態の阻害剤によれば、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方の抗菌薬に対するMRSAの耐性を阻害できたことが理解できた。
【0039】
また、表1に示すMICに関し、下記式(1)で表されるMIC減少率を算出した。結果を下記表2に示す。
【0040】
[表2]
【0041】
表2に示すように、紅蔘抽出物の濃度が1.0mg/mLである場合、オキサシリンとカナマイシンは、カルベニシリンと比較して、MIC減少率が大きかった。この結果から、本実施形態の阻害剤は、カルベニシリンよりも、カナマイシンやオキサシリンに対するMRSAの耐性を阻害しやすいことが理解できた。
【0042】
(評価2)
本評価では、4種の異なる菌株のMRSAを用いて、紅蔘抽出物の影響を評価した。紅蔘抽出物の影響の評価は、評価1と同様の方法で、紅蔘抽出物を添加したときのMICと、紅蔘抽出物を添加していないときのMICを測定し、これらを比較することで行った。なお、紅蔘抽出物の添加量としては、紅蔘抽出物(粉末)を10%メタノールに溶解した紅蔘抽出液を用いて1.0mg/mLとしたもの(メタノールの最終濃度が0.5%)、紅蔘抽出物(粉末)を25%メタノールに溶解した紅蔘抽出液を用いて5.0mg/mLとしたもの(メタノールの最終濃度が1.25%)、紅蔘抽出物(粉末)を25%メタノールに溶解した紅蔘抽出液を用いて10.0mg/mLとしたもの(メタノールの最終濃度が1.25%)、の3つを用いた。ここで、メタノールの濃度の違いは、MRSAの生育(発育)に影響を及ぼすものではなかった。
【0043】
本評価において、4種のMRSAには、評価1で用いたMRSA IID1677(東大医科学研究所)に加えて、MRSA ATCC BAA-1717(ATCC(American Type Culture Collection))と、MRSA ATCC33592(ATCC(American Type Culture Collection))と、MRSA ATCC43300(ATCC(American Type Culture Collection))を用いた。
【0044】
MRSA IID1677(以下、単に、「IID1677」ともいう)は、評価1で使用した抗菌薬(オキサシリン、カルベニシリン、カナマイシン、及びテトラサイクリン)だけでなく、アンピシリン(β-ラクタム系(ペニシリン系))、セファゾリン(β-ラクタム系(セフェム系))、ゲンタマイシン(アミノグリコシド系)、及びエリスロマイシン(マクロライド系)に対しても耐性を有していることが確認できた。このため、IID1677を用いた本評価では、これらの抗菌薬を用いてMICを測定した。
【0045】
また、MRSA ATCC BAA-1717(以下、単に、「BAA-1717」ともいう)は、アンピシリン(β-ラクタム系(ペニシリン系))、カルベニシリン(β-ラクタム系(ペニシリン系))、セファゾリン(β-ラクタム系(セフェム系))、カナマイシン(アミノグリコシド系)、ゲンタマイシン(アミノグリコシド系)、及びエリスロマイシン(マクロライド系)に対して耐性を有していることが確認できた。このため、BAA-1717を用いた本評価では、これらの抗菌薬を用いてMICを測定した。
【0046】
また、MRSA ATCC33592(以下、単に、「ATCC33592」ともいう)は、アンピシリン(β-ラクタム系(ペニシリン系))、オキサシリン(β-ラクタム系(ペニシリン系))、カルベニシリン(β-ラクタム系(ペニシリン系))、カナマイシン(アミノグリコシド系)、テトラサイクリン(テトラサイクリン系)、及びエリスロマイシン(マクロライド系)に対して耐性を有していることが確認できた。このため、ATCC33592を用いた本評価では、これらの抗菌薬を用いてMICを測定した。
【0047】
MRSA ATCC43300(以下、単に、「ATCC43300」ともいう)は、アンピシリン(β-ラクタム系(ペニシリン系))、カルベニシリン(β-ラクタム系(ペニシリン系))、カナマイシン(アミノグリコシド系)、及びエリスロマイシン(マクロライド系)に対して耐性を有していることが確認できた。このため、ATCC43300を用いた本評価では、これらの抗菌薬を用いてMICを測定した。
【0048】
IID1677を用いて測定したMICを、下記表3Aに示す。
[表3A]
なお、抗菌薬を添加しない場合には、紅蔘抽出物を添加してもIID1677の生育(発育)に影響を及ぼすことなかった。
【0049】
BAA-1717を用いて測定したMICを、下記表3Bに示す。
[表3B]
なお、抗菌薬を添加しない場合には、紅蔘抽出物を添加してもBAA-1717の生育(発育)に影響を及ぼすことなかった。
【0050】
ATCC33592を用いて測定したMICを、下記表3Cに示す。
[表3C]
なお、抗菌薬を添加しない場合には、紅蔘抽出物を添加してもATCC33592の生育(発育)に影響を及ぼすことなかった。
【0051】
ATCC43300を用いて測定したMICを、下記表3Dに示す。
[表3D]
なお、抗菌薬を添加しない場合には、紅蔘抽出物を添加してもATCC43300の生育(発育)に影響を及ぼすことなかった。
【0052】
表3A~表3Dに示すように、β-ラクタム系抗菌薬やアミノグリコシド系抗菌薬を用いた場合には、紅蔘抽出物が添加されることで、紅蔘抽出物が添加されていない場合と比較してMICが減少した。特に、上記式(1)から算出される、ゲンタマイシンとカナマイシンのMIC減少率は、どのMRSAを用いた評価においても75%以上となり、他の抗菌薬のMIC減少率と比較して高い傾向にあった。一方、マクロライド系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬を用いた場合には、紅蔘抽出物が添加されてもMICが減少することはなかった。
【0053】
上述した本評価の結果から、本実施形態の阻害剤によれば、β-ラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の少なくともいずれか一方の抗菌薬に対するMRSAの耐性を阻害できたことが理解できた。加えて、本実施形態の阻害剤によれば、抗菌薬耐性菌の種類(菌株)に関わらず、β-ラクタム系抗菌薬及び/又はアミノグリコシド系抗菌薬に対する耐性を阻害できたことが理解できた。
【0054】
本実施形態に係る紅蔘抽出物を含む清涼飲料水の処方例を以下に示す。
(処方例)
評価1及び評価2で用いた紅蔘抽出物 5.0g
ショ糖 3.0g
果糖ブトウ糖液糖 7.0g
クエン酸 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0055】
本実施形態に係る紅蔘抽出物を含むサプリメント(ハードカプセル)の処方例を以下に示す。
(処方例)
評価1及び評価2で用いた紅蔘抽出物 150.00mg/粒
セルロース 97.50mg/粒
澱粉 32.14mg/粒
二酸化ケイ素 0.66mg/粒
ショ糖脂肪酸エステル 2.20mg/粒
ゼラチン 63.00mg/粒