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特許7399710エピジェネティックに調節される部位特異的ヌクレアーゼ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】エピジェネティックに調節される部位特異的ヌクレアーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20231211BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231211BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20231211BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20231211BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20231211BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20231211BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20231211BHJP
   C12N 9/16 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/09 100
A61K48/00
A61K38/46
A61K47/64
A61K35/74 D
A61K47/68
C12N15/55 ZNA
C12N9/16 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019520038
(86)(22)【出願日】2017-10-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 US2017056738
(87)【国際公開番号】W WO2018071892
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】62/408,645
(32)【優先日】2016-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ジェイ.キース
(72)【発明者】
【氏名】ゲールケ,ジェーソン マイケル
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/123578(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0017149(US,A1)
【文献】国際公開第2016/115355(WO,A1)
【文献】Cell, 2016 Sep 22, vol. 167, no. 1, pp. 233-247
【文献】Oncotarget, 2016 Jun 23, vol. 7, no. 29, pp. 46545-46556
【文献】Nat Biotechnol, 2016 Oct (Epub 2016 Aug 29), vol. 34, no. 10, pp. 1060-1065
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞のゲノムを修飾するエキソビボまたはインビトロの方法であって、
前記方法は、融合タンパク質を前記細胞において発現させること、または前記細胞を前記融合タンパク質と接触させることを含み、
前記融合タンパク質が、以下:
(a)(i) ジンクフィンガーDNA結合ドメイン(ZF DBD)もしくは
(ii)TAL DNA結合アレイ
と融合された、R1015に変異を含む黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9(SaCas9)ヌクレアーゼ、または
(b) 内因性転写因子(TF)かもしくは内因性の翻訳後ヒストン修飾かに対して親和性を有する操作親和性タンパク質(AP)と連結された、少なくともR661およびQ695に変異を有する化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(SpCas9)ヌクレアー
含むものであり、
部分(a)の前記SaCas9または部分(b)の前記SpCas9は、切断活性を保っているが標的部位を効率的に切断できない、
方法。
【請求項2】
前記融合タンパク質が部分(b)を含み、前記APが、単鎖抗体、操作フィブロネクチンドメイン、操作黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)免疫グロブリン結合プロテインA、操作ナノボディー、および設計アンキリンリピートタンパク質からなる群から選択される、請求項1に記載のエキソビボまたはインビトロの方法。
【請求項3】
前記融合タンパク質が部分(b)を含み、前記方法が、ガイドRNAの存在下で行われる、請求項1に記載のエキソビボまたはインビトロの方法。
【請求項4】
前記部分(b)のSpCas9ヌクレアーゼが、以下の変異を有する、請求項3に記載のエキソビボまたはインビトロの方法:
R661AとQ695AとL169A;
R661AとQ695AとY450A;
R661AとQ695AとM495A;
R661AとQ695AとN497A;
R661AとQ695AとM694A;
R661AとQ695AとH698A;
R661AとQ695AとK810A;
R661AとQ695AとR832A;または
R661AとQ695AとD1135E。
【請求項5】
前記融合タンパク質が部分(a)を含み、前記SaCas9が、R1015A、R1015Q、およびR1015Hからなる群から選択される変異を含む、請求項1に記載のエキソビボまたはインビトロの方法。
【請求項6】
細胞のゲノムを修飾する方法で使用するための融合タンパク質であって、
前記方法が、前記融合タンパク質を前記細胞において発現させること、または前記融合タンパク質と前記細胞とを接触させることを含み、
前記融合タンパク質が、以下:
(a)(i) ジンクフィンガーDNA結合ドメイン(ZF DBD)もしくは
(ii)TAL DNA結合アレイ
と融合された、R1015に変異を含む黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9(SaCas9)ヌクレアーゼ、または
(b) 内因性転写因子(TF)もしくは内因性の翻訳後ヒストン修飾に対して親和性を有する操作親和性タンパク質(AP)と連結された、少なくともR661およびQ695に変異を有する、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(SpCas9)ヌクレアー
含むものであり、
部分(a)の前記SaCas9または部分(b)の前記SpCas9は、切断活性を保っているが標的部位を効率的に切断できない、融合タンパク質。
【請求項7】
前記融合タンパク質が部分(b)を含み、前記APが、単鎖抗体、操作フィブロネクチンドメイン、操作黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)免疫グロブリン結合プロテインA、操作ナノボディー、および設計アンキリンリピートタンパク質からなる群から選択される、請求項に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記融合タンパク質が部分(b)を含み、前記方法がガイドRNAの存在下で行われる、請求項に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
前記部分(b)のSpCas9ヌクレアーゼが、以下の変異を有する、請求項に記載の融合タンパク質:
R661AとQ695AとL169A;
R661AとQ695AとY450A;
R661AとQ695AとM495A;
R661AとQ695AとN497A;
R661AとQ695AとM694A;
R661AとQ695AとH698A;
R661AとQ695AとK810A;
R661AとQ695AとR832A;または
R661AとQ695AとD1135E。
【請求項10】
前記融合タンパク質が部分(a)を含み、前記SaCas9が、R1015A、R1015Q、およびR1015Hからなる群から選択される変異を含む、請求項に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
細胞のゲノムを修飾する方法で使用するための組成物であって、請求項10のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含み、前記方法が、前記融合タンパク質を前記細胞において発現させること、または前記融合タンパク質と前記細胞とを接触させることを含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2016年10月14日に提出された米国仮特許出願第62/408,645号明細書の利益を主張する。前記出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
連邦政府により支援された研究または開発
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)により与えられた助成番号DP1 GM105378およびR35 GM118158の下で政府支援を受けてなされた。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
研究用試薬として、遺伝子ドライブ中に、または治療剤として使用するための、ゲノム編集ヌクレアーゼ(例えば、RNAガイドCRISPR-Casヌクレアーゼまたは操作ジンクフィンガーヌクレアーゼ)およびカスタマイズ可能なDNA結合ドメイン融合タンパク質(例えば、RNAガイドdead-Cas9、RNAガイドdead-Cpf1、または転写調節ドメインと融合した操作ジンクフィンガーアレイ)の特異性を改善するための方法および組成物が、本明細書において記載される。
【背景技術】
【0004】
操作標的ヌクレアーゼは、ヒト細胞における病原変異を遺伝的に修正するために使用することができる。このような治療戦略は、ヌクレアーゼがゲノム中の特定部位に配列特異的DNA二本鎖切断(DSB)を導入することに依存している。例えば、CRISPR-CasなどのRNAガイドヌクレアーゼ(RGN)プラットフォームの特異性は、標的DNA部位に対する相補性を担持するガイドRNA分子(gRNA)によって主として指示される。ジンクフィンガー(ZF)ヌクレアーゼまたはTALEヌクレアーゼのような他のゲノム編集プラットフォームは、それらの特異性を配列特異的なタンパク質-DNA接触から導き出すが、ユーザー定義の配列と特異的に結合するタンパク質ドメインを産生するには、より複雑な操作戦略が必要となる。ゲノム編集は、非相同末端結合(NHEJ)と呼ばれる誤りがちな経路を介して、または相同な外因性「ドナー鋳型」もしくはゲノム自体の内部に見出される相同配列を使用するより正確な相同組換え修復(HDR)によってのいずれかでこれらの標的DSBを修復する内因性細胞機構を利用することによって達成される。ゲノム編集ヌクレアーゼは、それらの特定の標的部位でDSBを強く誘導することができるものの、全てのヌクレアーゼプラットフォームが、目的の標的に類似する配列に望まれないDSBを誘導することも知られている。これらのオフターゲットDSBは、NHEJによって効率的に修復されるが、その結果、これらの部位で意図されない変異が生じ、これらの変異がゲノム全体に分布するおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、少なくとも部分的に、研究用試薬として、遺伝子ドライブ中に(例えば、Hammond et al., Nature Biotechnology 34:78-83 (2016)に記載)、または治療剤として使用するための、ゲノム編集ヌクレアーゼ(例えば、RNAガイドCRISPR-Casヌクレアーゼまたは操作ジンクフィンガーヌクレアーゼ)およびカスタマイズ可能なDNA結合ドメイン融合タンパク質(例えば、RNAガイドdead-Cas9、RNAガイドdead-Cpf1、または転写調節ドメインと融合した操作ジンクフィンガーアレイ)の特異性を改善するための方法および組成物の開発に基づく。
【0006】
したがって、特異的TFまたは翻訳後ヒストン修飾に対して高い親和性を有する操作親和性タンパク質(AP)と遺伝的に連結された標的ヌクレアーゼを含む融合タンパク質を細胞において発現させること、または細胞をそれと接触させることを含む、細胞のゲノムを修飾するための方法であって、特異的TFまたは翻訳後ヒストン修飾が標的部位の近位に存在する場合にかぎり、融合タンパク質がその標的部位で活性である、方法が、本明細書に提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一部の実施形態では、APは、単鎖抗体、操作フィブロネクチンドメイン、操作黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)免疫グロブリン結合プロテインA、操作ナノボディー、および設計アンキリンリピートタンパク質からなる群から選択される。
【0008】
一部の実施形態では、ヌクレアーゼは、1)メガヌクレアーゼ、2)ジンクフィンガーヌクレアーゼ、3)転写活性化因子エフェクター様ヌクレアーゼ(TALEN)、および4)クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)ヌクレアーゼまたはCRISPR-Cpf1 RNAガイドヌクレアーゼ(RGN)からなる群より選択される。
【0009】
一部の実施形態では、ヌクレアーゼは、CRISPR-CasまたはCRISPR-Cpf1 RGNであり、方法は、ガイドRNAの存在下で行われる。
【0010】
一部の実施形態では、ヌクレアーゼは、表1に示される残基のうちの1つまたは複数の変異を有する化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9ヌクレアーゼである。
【0011】
R1015に変異、例えば、R1015A、R1015Q、またはR1015Hを担持する黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9と融合したジンクフィンガーDNA結合ドメイン(ZF DBD)またはTAL DNA結合アレイを含む融合タンパク質を細胞において発現させること、または細胞をそれと接触させることを含む、細胞のゲノムを修飾するための方法も、本明細書に提供される。
【0012】
(i)標的DNA結合ドメインまたはガイドRNAと一緒の触媒不活性「dead」RGN(dRGN)、(ii)異種機能性ドメイン、および(iii)操作親和性タンパク質(AP)によって認識される転写因子またはヒストン修飾がDNA結合ドメインまたはdRGNの標的部位の近位に存在する場合にかぎり活性であるAP、を含む融合タンパク質を細胞において発現させること、または細胞をそれと接触させることを含む、細胞のゲノムを修飾するための方法が、本明細書にさらに提供される。
【0013】
一部の実施形態では、APは、単鎖抗体、操作フィブロネクチンドメイン、操作黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)免疫グロブリン結合プロテインA、操作ナノボディー、および設計アンキリンリピートタンパク質からなる群から選択される。
【0014】
一部の実施形態では、機能性ドメインは、転写調節ドメイン、ヒストン修飾酵素、またはDNA修飾酵素である。
【0015】
一部の実施形態では、ガイドRNAは、(i)19、18、および17bpのスペーサー長を有するgRNA;(ii)目的の標的部位と比べて1、2、または3つの意図的なミスマッチを有するgRNA;(iii)オンターゲット部位と相補的な20ntを有し、追加的なG塩基(標的DNA配列とミスマッチである)が5’に付加されたgRNA;ならびに(iv)(i)~(iii)の任意の組合せからなる群から選択される。
【0016】
一部の実施形態では、ガイドRNAは、標的DNAに対する、9、10、11、12、または13個のヌクレオチド塩基の非常に短い相補性配列を担持する切断型gRNAである。
【0017】
特に定義しないかぎり、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の専門家によって通常理解されるものと同じ意味を有する。本発明における使用のための方法および材料が、本明細書において記載されているが、当技術分野において公知の他の適切な方法および材料も使用することができる。材料、方法、および例は、単なる例証であり、限定することを意図しない。全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベース登録事項、および本明細書において言及される他の参考文献は、その全体で参照により組み込まれている。矛盾する場合、定義を含めて本出願が優先される。
【0018】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から、ならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0019】
本特許または出願のファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラーの図面を有する本特許または特許出願公開のコピーは、要請し、必要な料金を支払えば、特許商標庁から提供されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】近位の転写因子またはヒストン修飾に依存するRGNヌクレアーゼ活性を示す図である。(A)遺伝子内の部位に標的化されたRGNと共有結合的に連結した親和性タンパク質をここではscFvとして表示。scFvの結合パートナーがgRNA標的部位に隣接した部位に存在しないので、RGNは、DSBを誘導することができない。(B)逆に、scFvの結合パートナーがgRNA標的部位に隣接して存在するとき、scFvは、ここで転写因子として表示するその標的と結合する。この結合事象は、標的部位でのRGNの結合を安定化し、RGNにDSBを誘導させる。次に、このDSBをNHEJまたはHDRによって修復することができる。
図2-1】図2Aは、結合部位がgRNA標的部位に隣接している操作ジンクフィンガーDNA結合ドメインであるZF292Rと、2つのSpCas9バリアントが融合した、または融合していないときのEGFP破壊活性を特徴づける図である。試験した4つのgRNAの全てで、両方のSpCas9バリアントは、ZF292Rと融合したときの方が高いEGFP破壊能力を表す。これらのSpCas9バリアント-gRNAの組合せの活性を立て直すには、第2のDBDからの結合親和性が増加することで十分であることが示されている。
図2-2】図2Bは、図2Aと同じ細胞集団のTIDE分析を示す図であり、両方のSpCas9バリアントは、ZF292Rと融合したときの方が挿入欠失の形成を引き起こす能力が高いことが確認されている。
図2-3】図2Cは、タンパク質が単独で発現したときまたはGCN4-ZF292Rと共発現したとき、scFv GCN4と融合したときの2つのSpCas9バリアントのEGFP破壊活性を特徴づける図である。試験された3つのgRNAで、両方のSpCas9バリアントは、単独で発現したときと比べてGCN4-ZF292Rと共発現したときの方が高いEGFP破壊活性を示す。野生型SpCas9と一緒の各gRNAの活性も対照として示す。
図3-1】図3Aは、単独で発現したときまたはH3(1-38)-ZF292RもしくはGCN4-ZF292Rと共発現したときのSpCas9(R661A、Q695A)-scFv GCN4のEGFP破壊活性を特徴づける図である。SpCas9バリアントによるEGFP破壊活性の増加は、GCN4-ZF292Rとの共発現に特異的であり、GCN4-ZF292RとscFv GCN4との間の相互作用がEGFPの破壊増加を媒介していることを示唆している。さらに、完全にマッチしたgRNA5は、SpCas9(R661A、Q695A)-scFv GCN4のEGFP破壊活性を野生型のレベルに回復させるが、これは、戦略1および戦略2に概要を示したgRNAの修飾が、このシステムで試験されたSpCas9バリアントの誘導活性に重要であることを示している。
図3-2】図3Bは、図3Aと同じ細胞集団のTIDE分析を示す図であり、この図は、GCN4-ZF292RとSpCas9(R661A、Q695A)-scFv GCN4との間の相互作用がEGFP標的部位での挿入欠失の形成を刺激することを実証している。
図4-1】図4Aは、タンパク質がgRNA標的部位に隣接するPAMと相互作用する能力に影響する変異を担持するSpCas9またはSaCas9バリアントは、EGFP標的部位と結合してその部位でDSBを誘導することができないことを示す図である。図4Bは、ZF292Rと示される第2のDBDが、SpCas9またはSaCas9 PID KDと融合していることを示す図である。第2のDBDは、gRNA標的部位に隣接する配列と結合し、Cas9 PID KDにその標的部位と結合させ、DSBを誘導する。このアッセイでは、DSBを標的部位に導入し、誤りがちなNHEJにより修復したとき、コード配列はフレーム外に移動し、その結果、EGFP産生の喪失が生じる。
図4-2】図4Cは、操作ジンクフィンガーDNA結合ドメインをSaCas9 PID KDと共有結合的に連結することで、そのヌクレアーゼ活性を立て直すことができることを示す図である。ジンクフィンガーアレイ結合部位(ZF292R)がSaCas9標的部位のPAMから10bp離れて位置する(これらは、両方ともEGFPのコード領域内にある)、代表的なEGFP破壊アッセイからのデータ。SaCas9のR1015がA、Q、またはHに変異すると、これらの変異を担持するSaCas9タンパク質は、DSBを誘導することができない。しかし、ZF292RをSaCas9分子と共有結合的に連結すると、これらのタンパク質は、DSBを誘導することができる。
図5図5A及びBは、長距離クロマチンループ形成に依存するRGNヌクレアーゼ活性を示す図である。(A)ここでZFアレイとして表すプログラム可能なDBDは、Cas9 PID KD変異体と共有結合的に連結されている。DBDは、遠位エンハンサー配列に標的化され、一方で、RGNは、関心対象の遺伝子内の領域に標的化されている。(例えば、関心対象の遺伝子が転写的に活性でない細胞型において)遠位エンハンサーが関心対象の遺伝子に近接していないとき、Cas9 PID KDは、標的部位でDSBを誘導することができない。(B)しかし、(例えば、関心対象の遺伝子が転写的に活性である細胞型において)遠位エンハンサーと関心対象の遺伝子との間にループ形成が起こると、第2のDBDを介してエンハンサーに繋がれたCas9 PID KDは、その標的部位に近づけられ、DSBを誘導可能になり、次にDSBはNHEJまたはHDRによって修復される。
図6図6Aは、DNA結合活性が、AP(ここでscFvタンパク質として示す)と近位の転写因子またはヒストン修飾との相互作用に依存するAP-dRGN-エフェクター融合物(表1に記載のエピゲノム編集タンパク質)は、(例えば、エンハンサー、プロモーター、または遺伝子の転写領域(gene body)の中または近位の)遺伝子調節エレメントに標的化されることを示す図である。APの結合パートナーの不在下では、AP-dRGN-エフェクター融合タンパク質は、gRNAによって特定される標的部位と安定的に結合することができず、標的遺伝子の転写状態を変化させない。図6B:しかし、ここで転写因子として示すAPの結合パートナーが、gRNA標的部位に隣接して存在するとき、APとそのパートナーとの間の結合事象は、AP-dRGN-エフェクター融合タンパク質の結合を安定化する。標的部位にAP-dRGN-エフェクタータンパク質が安定的に動員される結果として、モジュレートされた(例えば、活性化または抑制された)転写アウトプットが標的遺伝子から生じる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
治療応用のためには、ヌクレアーゼ活性を特定のDNA配列だけでなく、特別なエピジェネティック状況だけに、(特別なエピジェネティック状況は、次には特定の細胞型を表す可能性があるので)例えば、疾患表現型を生成する細胞または遺伝的変化の導入が治療上の利益を有すると予想される細胞だけに限定することが、望ましい能力であろう。このような能力を有することで、ヌクレアーゼが活性である細胞の数および種類を制限することができ、したがって、オンターゲットまたはオフターゲットDSBのいずれかが生じ得る細胞数が最小になるであろう。細胞型特異的にゲノム編集を行うための既存の戦略は、関連する細胞型を分離するためのex vivo選別アプローチ、特定の細胞もしくは組織型に親和性を有するウイルス中にゲノム編集試薬をコードする核酸を送達すること、または細胞型特異的調節エレメント(例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー)を使用して、ヌクレアーゼの細胞型発現を推進することを含む。細胞表面標識および細胞選別による特定の細胞型の富化は、費用がかかり、骨が折れ、場合により、近縁の細胞型同士を識別することが不可能な場合がある。一部のウイルスは、細胞型に対して顕著な選好性を有するものの、標的化可能な細胞型がかぎられており、多くの場合に中和宿主免疫応答を回避することが困難であり得る。加えて、プロモーターなどの多くの細胞型特異的調節エレメントは、関係する細胞型において漏出性の発現を示すので、ヌクレアーゼ活性の厳重な制御を必要とするゲノム編集応用のためのそれらの有用性を限定する。この戦略は、ゲノム編集試薬をコードするDNAによる送達よりも明らかに低いオフターゲットヌクレアーゼ効果を示した戦略である、細胞の混合集団へのRNA、精製ヌクレアーゼタンパク質、またはリボ核タンパク質(RNP)複合体の送達とも不適合である。
【0022】
戦略1 エピジェネティックに調節される配列特異的ヌクレアーゼ
一態様では、本方法は、標的部位に隣接する特異的転写因子(TF)またはヒストン修飾の存在に依存するように配列特異的ヌクレアーゼの切断活性を操作することによって、その活性を特定の細胞型に限定する。そのために、それ自体、最小限のDSBを誘導するまたはDSBを誘導しないヌクレアーゼが、特異的TFまたは翻訳後ヒストン修飾に対して高い親和性を有する操作親和性タンパク質(AP)と遺伝的に連結される((図1)。APの例には、非限定的に、単鎖抗体(例えば、Chothia, Cyrus, et al. "Domain association in immunoglobulin molecules: the packing of variable domains."Journal of molecular biology 186.3 (1985): 651-663)、操作フィブロネクチンドメイン(例えば、Koide, Akiko, et al. "The fibronectin type III domain as a scaffold for novel binding proteins." Journal of molecular biology 284.4 (1998): 1141-1151に記載)、操作黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)免疫グロブリン結合プロテインA(例えば、Nord, Karin, et al. "Binding proteins selected from combinatorial libraries of an α-helical bacterial receptor domain." Nature biotechnology 15.8 (1997): 772-777に記載)、操作ナノボディー(例えば、Hamers-Casterman, C. T. S. G., et al. "Naturally occurring antibodies devoid of light chains." Nature 363.6428 (1993): 446-448に記載)、および設計アンキリンリピートタンパク質(例えば、Binz, H. Kaspar, et al. "Designing repeat proteins: well-expressed、soluble and stable proteins from combinatorial libraries of consensus ankyrin repeat proteins." Journal of molecular biology 332.2 (2003): 489-503に記載)が挙げられる。これらのヌクレアーゼ-AP融合物の切断活性は、ヌクレアーゼによって特定される標的部位の認識および標的部位の近位のAP結合パートナーの存在の両方に依存する。
【0023】
特異的転写因子は、本明細書に記載されたもの、ならびに例えば:造血TF:例えば、GATA1、TAL1、ELF1、およびKLF1;基本転写因子、例えば、転写前開始複合体のメンバーである因子、そのC末端ドメインの差次的リン酸化状態を有するRNA Pol II(活発に転写中、休止済みなどに関連)、P300およびメディエーター;下記の「親和性タンパク質」の節に挙げられるTF;ならびにDNA結合モチーフが特定疾患に重要な調節エレメントに隣接するTFを含み得る。ヒストン修飾には、本明細書に記載された修飾および異なる転写活性化状態と関連する修飾、例えば:H3K4me1/2/3、H3K9me1/2/3、H3K27me1/2/3、H3K9ac、H3K27ac、H3K56ac、H3K36me1/2/3、H3K79me1/2/3、またはH4K16acが含まれる。
【0024】
切断活性を保っている(が、その標的部位を効率的に切断することができない)部位特異的ヌクレアーゼを操作するために、これらのヌクレアーゼとその標的部位との結合を、(i)標的DNA鎖と接触する残基への標的変異により、DNAに対するヌクレアーゼの非特異的親和性を低下させること、および/または(ii)CRISPR-CasヌクレアーゼなどのRNAガイドヌクレアーゼについて標的部位に対する親和性または相互作用能がかぎられているまたは低下しているガイドRNA(gRNA)を操作することによって、不安定化することができる。このような戦略の一具体例は、DNAに対するタンパク質の親和性を低下させることが意図される化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(SpCas9)ヌクレアーゼに作成された変異の組合せを使用し、このような変異の例には、非限定的に、表1に示される変異およびそれらの変異の任意の可能な組合せが挙げられる。
【0025】
【表1】
【0026】
類似の効果を有するジンクフィンガーおよびZFNにおける変異が記載されており、それらを本明細書において使用することもできる。例えば、Guilinger et al., Nat Methods. 2014 Apr; 11(4): 429-435; Khalil et al., Cell. 2012 Aug 3;150(3):647-58を参照されたい。
【0027】
結果として生じたSpCas9バリアントは、(i)スペーサー長19、18、および17bpを有するgRNA、(ii)意図される標的部位と比べて1、2、または3つの意図的なミスマッチを有するgRNA、(iii)オンターゲット部位と20、19、18、または17ntの相補性を有する追加的なG塩基(標的DNA配列とミスマッチである)をgRNAの5’に付加すること、ならびに(iv)これらの前記gRNAバリエーションのいずれかの組合せなどの、ゲノム標的部位に対して低下した親和性を有するgRNAと共に使用することもできる。
【0028】
戦略2 三次元クロマチンコンフォメーションに依存する配列特異的ヌクレアーゼ
多数の遺伝子の転写調節は、特定の状況および細胞型において遺伝子発現を上方調節するように作用するエンハンサーエレメントの状況により制御される。これらのエンハンサーは、しばしば一次配列における遺伝子プロモーターから数十~数百キロ塩基離れたどこかまで非常に離れている場合がある。しかし、長距離クロマチンループ形成によりこれらのエンハンサーをプロモーターに近づけて、それらの標的遺伝子を活性化することができる。この態様では、RGNを調節エレメント(すなわち、エンハンサーまたはエンハンサー周囲の配列)と標的遺伝子または遺伝子プロモーターとの間の長距離クロマチンループ形成の出現に依存するように操作することによって、ヌクレアーゼの切断活性は、特定の細胞型に限定される。
【0029】
以前の研究は、SpCas9が操作ジンクフィンガーアレイ(ZF)またはTALEリピートアレイなどの第2のDNA結合ドメイン(DBD)によりその標的部位近くに繋がれたときにかぎり、DSBを誘導するように操作することができることを示した(Bolukbasi, Mehmet Fatih, et al. "DNA-binding-domain fusions enhance the targeting range and precision of Cas9." Nature methods 12.12 (2015): 1150-1156)。これは、タンパク質がそのPAMモチーフを認識する能力に影響するSpCas9の位置R1333またはR1335に変異を導入することによって成し遂げられる(このような変異は、Cas9 PAM相互作用ドメインノックダウンまたはCas9 PID KDと呼ばれる)。SaCas9を用いた類似のシステムは、標的部位でSaCas9とPAM配列との間の相互作用に影響する変異R1015A、R1015Q、またはR1015Hを担持するSaCas9 PID KDに第2のZF DBDを融合することによって操作することができる(Kleinstiver et al., Nat Biotechnol. 2015 Dec;33(12):1293-1298)。
【0030】
戦略3 エピジェネティックに調節されるエピゲノム編集タンパク質
多く疾患が、遺伝子サブセットの発現変化によって特徴づけられ、これらの遺伝子サブセットは、疾患の表現型自体の原因となることが多い。疾患表現型を有する細胞中の遺伝子を調節しているプロモーターおよび/またはエンハンサーの近位に特定の転写因子が結合する、または結合しない結果として、遺伝子発現が変化する。ZFアレイ、TALEリピートアレイなどのプログラム可能な配列特異的DBD、および触媒不活性RGN(dead RGNまたはdRGN)とエフェクタータンパク質を遺伝的に融合することによって遺伝子発現をモジュレートする現行方法が存在するものの、これらのツールは試薬が送達される全ての細胞型において機能すると予想され、特定の疾患または非疾患表現型を有する細胞に対して内因性特異性を有しない。結果として、所望の細胞サブセットにこれらの試薬を送達することは、複雑なex vivoアプローチまたは細胞型特異的転写調節エレメントからこれらの試薬を発現させること(タンパク質送達と不適合な戦略)を要する。本態様では、遺伝子発現は、関心対象の遺伝子の近位に位置する特異的TFまたはヒストン修飾の存在次第で修飾され、その結果、特異的TFの結合またはヒストン修飾プロファイルを有する細胞にかぎり、遺伝子発現のプログラムされたモジュレーションが生じる。
【0031】
例えば、本方法は、DNAに対する非特異的親和性を低下させることを意図する戦略1および2に記載の修飾を有するまたは有しないdRGNを、APと、および遺伝子の転写アウトプットを変化させることができるエフェクタータンパク質(異種機能性ドメイン)と、遺伝的に融合したものを使用することを含み得る(表2)。これらのdRGNは、dRGNと複合するとgRNA配列によって特定される標的部位と安定的に結合することができない様々な修飾gRNA(例えば、戦略1および2で概要を示したもの)と一緒に使用される。しかし、APとの結合パートナー(例えば、特定のTFまたはヒストン修飾)が、また、gRNA結合部位に近接して存在するとき、AP-結合パートナー相互作用から標的部位に対する親和性が増加することにより、複合体が特定の標的部位と安定的に会合できるようになる(図6Aおよび6B)。次に、dRGN-APと融合したエフェクターは、標的遺伝子の発現を変化させることができる。戦略1および2に記載した修飾gRNAに加えて、本発明者らは、9、10、11、12、または13個のヌクレオチド塩基という非常に短いスペーサー配列を担持するgRNAと一緒に、触媒不活性化変異のみを担持する(すなわち、DNAに対する非特異的親和性を低下させることを意図する追加的な変異を有しない)dRGNタンパク質を使用することも提案する。この戦略は、標的部位へのdRGN複合体の安定結合だけを必要とし、ヌクレアーゼ活性を必要としないので、AP-結合パートナー相互作用に関連して複合体が結合できるために、9~13個の塩基のスペーサー配列を担持するgRNAで十分な可能性がある。
【0032】
【表2】
【0033】
操作親和性タンパク質(AP)
本発明の融合タンパク質に有用なAPは、特異的転写因子(TF)または翻訳後ヒストン修飾(例えば、図1に示すもの)に対して高い親和性を有するAPである。APの例には、非限定的に、単鎖抗体、操作フィブロネクチンドメイン、操作黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)免疫グロブリン結合プロテインA、操作ナノボディー、および設計アンキリンリピートタンパク質が挙げられる。TFの例には、基本転写因子(例えば、TFIIA、TFIIB、TFIID、TFIIE、TFIIF、およびTFIIH);発生学的に調節されているTF(例えば、GATA、HNF、PIT-1、MyoD、Myf5、Hox、ウィングドヘリックス(Winged Helix));およびシグナル依存性TF(例えば、SP1、AP-1、C/EBP、熱ショック因子、ATF/CREB、c-Myc、MEF2、STAT、R-SMAD、NF-κB、Notch、TUBBY、NFAT、およびSREBP)が挙げられる。特異的翻訳後ヒストン修飾の例には、メチル化、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、およびSUMO化が挙げられる。これらは、操作タンパク質に行われたこれらの修飾に特異的親和性を有して、これらのタンパク質を介して標的化することができる。
【0034】
特異的転写因子は、上に記載されたもの、ならびに例えば:造血TF:例えば、GATA1、TAL1、ELF1、およびKLF1;基本転写因子、例えば、転写前開始複合体のメンバーである因子、そのC末端ドメインの差次的リン酸化状態を有するRNA Pol II(活発に転写中、休止済みなどに関連)、P300およびメディエーター;下記の「親和性タンパク質」の節に挙げられるTF;ならびにDNA結合モチーフが特定疾患に重要な調節エレメントに隣接するTFを含み得る。ヒストン修飾には、本明細書において記載された修飾および異なる転写活性化状態と関連する修飾、例えば:H3K4me1/2/3、H3K9me1/2/3、H3K27me1/2/3、H3K9ac、H3K27ac、H3K56ac、H3K36me1/2/3、H3K79me1/2/3、またはH4K16acが含まれる。
【0035】
配列特異的ヌクレアーゼ
現在4つの主なクラスの配列特異的ヌクレアーゼ:1)メガヌクレアーゼ、2)ジンクフィンガーヌクレアーゼ、3)転写活性化因子エフェクター様ヌクレアーゼ(TALEN)、および4)クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)Cas RNAガイドヌクレアーゼ(RGN)がある。DNAに対するタンパク質の非特異的親和性をノックダウンすることにより、タンパク質が親和性タンパク質結合パートナーからの追加的な結合エネルギーなしには、その標的配列と安定的に結合できないようにするために、これらのタンパク質の修飾を行うことができる。ZFNについて、リン酸DNA骨格と接触するZFドメイン中の残基をノックアウトすることができる(Khalil et al., Cell 2012参照)。TALEについて、DNAリン酸接触を媒介する各リピート中に、変異させることができる特定の残基がある。一部の実施形態では、非常に長い結合事象だけがヌクレアーゼ活性をもたらすように、ヌクレアーゼドメインがノックダウンされた3-フィンガーZFアレイまたは結合エネルギーがより小さくなるような短鎖TALENアレイ(例えば7.5または8.5)を使用することができる。また、これらのプラットフォームの様々な成分を一緒に融合して、Mega-TALおよびFokI-dCas9融合物のような追加的なヌクレアーゼを生み出すことができる。例えば、Gaj et al., Trends Biotechnol. 2013 Jul;31(7):397-405を参照されたい。当技術分野において公知の方法を使用して、ヌクレアーゼを細胞に一過性または安定的に発現させることもでき、概して、発現を得るために、タンパク質をコードする配列が、転写を指示するためのプロモーターを含有する発現ベクター中にサブクローニングされる。適切な真核発現システムは、当技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (4th ed. 2013); Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (2006);およびCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 2010)に記載されている。真核および原核細胞の形質転換は、標準的な技法に従って行われる(例えば、上記参考文献およびMorrison, 1977, J. Bacteriol. 132:349-351; Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology 101:347-362 (Wu et al., eds, 1983)を参照されたい。
【0036】
ホーミングメガヌクレアーゼ
メガヌクレアーゼは、細菌、酵母、藻類、および植物オルガネラなどの多様な生物を起源にもつ配列特異的エンドヌクレアーゼである。内因性メガヌクレアーゼは、12~30塩基対の認識部位を有する。18bpおよび24bp長のメガヌクレアーゼ認識部位を有する特注のDNA結合部位が記載されており、どちらも本発明の方法および構築物に使用することができる。例えば、Silva, G., et al., Current Gene Therapy, 11:11-27, (2011); Arnould et al., Journal of Molecular Biology, 355:443-58 (2006); Arnould et al., Protein Engineering Design & Selection, 24:27-31 (2011);およびStoddard, Q. Rev. Biophys. 38, 49 (2005); Grizot et al., Nucleic Acids Research, 38:2006-18 (2010)を参照されたい。
【0037】
CRISPR-Casヌクレアーゼ
最近の研究により、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)システム(Wiedenheft et al., Nature 482, 331-338 (2012); Horvath et al., Science 327, 167-170 (2010); Terns et al., Curr Opin Microbiol 14, 321-327 (2011))が、細菌、酵母およびヒト細胞において、ならびにショウジョウバエ、ゼブラフィッシュおよびマウスなどの生物全体においてin vivoで、ゲノム編集を行うための簡単で高効率的な方法の基礎として役立つことができると実証された(Wang et al., Cell 153, 910-918 (2013); Shen et al., Cell Res (2013); Dicarlo et al., Nucleic Acids Res (2013); Jiang et al., Nat Biotechnol 31, 233-239 (2013); Jinek et al., Elife 2, e00471 (2013); Hwang et al., Nat Biotechnol 31, 227-229 (2013); Cong et al., Science 339, 819-823 (2013); Mali et al., Science 339, 823-826 (2013c); Cho et al., Nat Biotechnol 31, 230-232 (2013); Gratz et al., Genetics 194(4):1029-35 (2013))。化膿性連鎖球菌(S. pyogenes)由来Cas9ヌクレアーゼ(以後、単にCas9と呼ぶ)は、17~20個のヌクレオチドの操作ガイドRNA(gRNA)、例えば、単一のガイドRNAまたはcrRNA/tracrRNA対と、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)、例えば配列NGGまたはNAGとマッチするPAMの隣にある関心対象の標的ゲノムDNA配列の相補鎖との間の単純な塩基対相補性を介してガイドされ得る(Shen et al., Cell Res (2013); Dicarlo et al., Nucleic Acids Res (2013); Jiang et al., Nat Biotechnol 31, 233-239 (2013); Jinek et al., Elife 2, e00471 (2013); Hwang et al., Nat Biotechnol 31, 227-229 (2013); Cong et al., Science 339, 819-823 (2013); Mali et al., Science 339, 823-826 (2013c); Cho et al., Nat Biotechnol 31, 230-232 (2013); Jinek et al., Science 337, 816-821 (2012))。例えば、Zetsche et al., Cell 163, 759-771 (2015); Schunder et al., Int J Med Microbiol 303, 51-60 (2013); Makarova et al., Nat Rev Microbiol 13, 722-736 (2015); Fagerlund et al., Genome Biol 16, 251 (2015)に記載されているように操作されたプレボテラ属(Prevotella)およびフランシステラ属(Francisella)由来CRISPR 1(Cpf1)ヌクレアーゼも使用することができる。SpCas9とは異なり、Cpf1は、その3’末端に標的DNA配列のプロトスペーサーと相補的な23ntを有する、42ntのcrRNAを1つだけ必要とする(Zetsche et al., 2015)。さらに、SpCas9がプロトスペーサーの3’にあるNGG PAM配列を認識するのに対し、AsCpf1およびLbCp1は、プロトスペーサーの5’に見られるTTTN PAMを認識する(同上)。
【0038】
一部の実施形態では、本システムは、化膿性連鎖球菌(S. pyogenes)もしくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来の野生型もしくはバリアントCas9タンパク質、あるいは細菌にコードされているか、もしくは哺乳動物細胞における発現のためにコドン最適化されているかのいずれかであり、かつ/またはそのPAM認識特異性および/もしくはそのゲノムワイド特異性が修飾されている、アシダミノコッカス属(Acidaminococcus)の菌種BV3L6またはラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌ND2006由来の野生型Cpf1タンパク質を利用する。いくつかのバリアントが記載されているが、例えば、とりわけ国際公開第2016/141224号パンフレット、PCT/US第2016/049147号明細書、Kleinstiver et al., Nat Biotechnol. 2016 Aug;34(8):869-74; Tsai and Joung, Nat Rev Genet. 2016 May;17(5):300-12; Kleinstiver et al., Nature. 2016 Jan 28;529(7587):490-5; Shmakov et al., Mol Cell. 2015 Nov 5;60(3):385-97; Kleinstiver et al., Nat Biotechnol. 2015 Dec;33(12):1293-1298; Dahlman et al., Nat Biotechnol. 2015 Nov;33(11):1159-61; Kleinstiver et al., Nature. 2015 Jul 23;523(7561):481-5; Wyvekens et al., Hum Gene Ther. 2015 Jul;26(7):425-31; Hwang et al., Methods Mol Biol. 2015;1311:317-34; Osborn et al., Hum Gene Ther. 2015 Feb;26(2):114-26; Konermann et al., Nature. 2015 Jan 29;517(7536):583-8; Fu et al., Methods Enzymol. 2014;546:21-45;およびTsai et al., Nat Biotechnol. 2014 Jun;32(6):569-76を参照されたい。ガイドRNAは、Cas9またはCpf1と一緒に細胞において発現されるまたは存在する。ガイドRNAまたはヌクレアーゼの一方または両方を、細胞において一過性もしくは安定的に発現させる、または精製されたタンパク質もしくは核酸として導入することができる。
【0039】
一部の実施形態では、SpCas9は、タンパク質のヌクレアーゼ部分を触媒不活性にするために、Cas9のヌクレアーゼ活性を低下または破壊する以下の変異:D10、E762、D839、H983、またはD986のうちの1つ、およびH840またはN863、例えば、D10A/D10NおよびH840A/H840N/H840Yも含み、これらの位置での置換は、アラニン(Nishimasu al., Cell 156, 935-949 (2014)におけるように)、または他の残基、例えば、グルタミン、アスパラギン、チロシン、セリン、もしくはアスパラギン酸、例えば、E762Q、H983N、H983Y、D986N、N863D、N863S、またはN863H(国際公開第2014/152432号パンフレット参照)であり得る。一部の実施形態では、バリアントは、D10AもしくはH840Aでの変異(一本鎖ニッカーゼを生み出す)、またはD10AおよびH840Aでの変異(ヌクレアーゼ活性を消失させる;この変異はdead Cas9またはdCas9として公知)を含む。
【0040】
一部の実施形態では、ヌクレアーゼは、FokI-dCas9融合体、すなわち、Cas9ヌクレアーゼが変異により触媒不活性(例えば、dCas9)にされ、FokIヌクレアーゼが任意選択で介在リンカーを用いてdCas9とフレーム内融合したRNAガイドFokIヌクレアーゼである。例えば、国際公開第2014/144288号パンフレットおよび国際公開第2014/204578号パンフレットを参照されたい。
【0041】
この方法は、低下した親和性を有するガイドRNA、例えば、(1)標的部位と相同な20ntを有するgRNAであって、標的部位配列とミスマッチである、追加的に5’に付加されたGを有するgRNA;(2)標的部位と相同な19ntを有するgRNAであって、5’の20番目のntに標的部位とミスマッチであるGを有するgRNA;または(3)標的部位と相同な18ntを有するgRNAであって、標的部位とミスマッチである2つのGを5’に有するgRNAと共に、DNAに対して通常の親和性を有する野生型Casタンパク質を使用することを含み得る。例えば、上記参考文献のいずれかに記載されているような適切なガイドRNAを設計および製造するために、公知の方法を改変することができる。
【0042】
したがって、本明細書においてSpCas9バリアントを含むCas9バリアントが提供される。SpCas9の野生型配列は、以下の通りである:
【0043】
【化1】
【0044】
本明細書に記載のSpCas9バリアントは、本明細書に記載または当技術分野において公知の変異(すなわち、異なるアミノ酸、例えば、アラニン、グリシン、またはセリンによる天然アミノ酸の置換)を有する、配列番号1のアミノ酸配列を含み得る。一部の実施形態では、SpCas9バリアントは、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、90%、または95%同一であり、例えば、本明細書に記載の変異に加えて、配列番号1の残基の最大5%、10%、15%、または20%に、例えば保存的変異により置換された差異を有する。
【0045】
本明細書においてSaCas9バリアントも提供される。SaCas9の野生型配列は、以下の通りである:
【0046】
【化2】
【0047】
本明細書に記載のSaCas9バリアントは、本明細書に記載または当技術分野において公知の変異を有する配列番号2のアミノ酸配列を含み、例えば、本明細書に記載または当技術分野において公知の変異を有する配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%、例えば少なくとも85%、90%、または95%同一である配列を含む。
【0048】
2つの核酸配列の同一率を決定するために、最適な比較を行う目的で配列がアライメントされる(例えば、最適なアライメントのために第1および第2のアミノ酸または核酸配列の一方または両方にギャップを導入することができ、比較目的で非相同配列を無視することができる)。比較目的でアライメントされる参照配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも80%であり、一部の実施形態では、少なくとも90%または100%である。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置でヌクレオチドが比較される。第1の配列中の位置が、第2の配列中の対応する位置と同じヌクレオチドによって占有されている場合、当該分子はその位置で同一である(本明細書において使用される核酸の「同一性」は、核酸の「相同性」と等価である)。2つの配列の間の同一率は、2つの配列の最適なアライメントのために導入する必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮して、両配列によって共有される同一な位置の数の関数である。2つのポリペプチドまたは核酸配列の間の同一率は、当業者の技術の範囲内である様々な方法で、例えば、公的に入手可能なコンピューターソフトウェア、例えばSmith Waterman Alignment(Smith, T. F. and M. S. Waterman (1981) J Mol Biol 147:195-7);GeneMatcher Plus(商標)に組み込まれている「BestFit」(Smith and Waterman, Advances in Applied Mathematics, 482-489 (1981))、Schwarz and Dayhof (1979) Atlas of Protein Sequence and Structure, Dayhof, M.O., Ed, pp 353-358;BLASTプログラム(Basic Local Alignment Search Tool;(Altschul, S. F., W. Gish, et al. (1990) J Mol Biol 215: 403-10)、BLAST-2、BLAST-P、BLAST-N、BLAST-X、WU-BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2、CLUSTAL、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを使用して決定される。加えて、当業者は、比較される配列の長さにわたり最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含めて、アライメントを測定するために適切なパラメーターを決定することができる。一般に、タンパク質または核酸について、比較の長さは、最大で完全長である任意の長さ(例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または100%)であり得る。本発明の組成物および方法のために、配列の完全長の少なくとも80%がアライメントされる。
【0049】
本発明のために、配列の比較および2つの配列の間の同一率の決定は、Blossum 62スコアリングマトリックスをギャップペナルティー12、ギャップ伸長ペナルティー4、およびフレームシフトギャップペナルティー5で使用して達成することができる。
【0050】
保存的置換は、概して、以下の群:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リシン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシンの中の置換を含む。
【0051】
TALエフェクターリピートアレイ
キサントモナス(Xanthomonas)属における植物病原細菌のTALエフェクターは、宿主DNAと結合し、エフェクター特異的宿主遺伝子を活性化することによって、疾患に重要な役割を果たす、または防御を誘起する。特異性は、エフェクターの様々な数の不完全な、概して約33~35個のアミノ酸リピートに依存する。多型は、主としてリピート位置12および13に存在し、それらの位置は、本明細書においてリピート可変二残基(RVD)と称される。TALエフェクターのRVDは、標的部位におけるヌクレオチドと直接線形的に1つのRVDが1つのヌクレオチドへと対応し、幾分の縮重を有し、明らかな状況依存性を有しない。一部の実施形態では、ヌクレオチド特異性を与える多型領域は、三残基またはトリプレットとして表示される場合がある。
【0052】
各DNA結合リピートは、標的DNA配列中の塩基対の認識を決定するRVDを含む場合があり、その際、各DNA結合リピートは、標的DNA配列中の一塩基対を認識することを担う。一部の実施形態では、RVDは、Cを認識するためのHA;Cを認識するためのND;Cを認識するためのHI;Gを認識するためのHN;Gを認識するためのNA;GまたはAを認識するためのSN;Tを認識するためのYG;およびGを認識するためのNKのうちの1つまたは複数、ならびにCを認識するためのHD;Tを認識するためのNG;Aを認識するためのNI;GまたはAを認識するためのNN;AまたはCまたはGまたはTを認識するためのNS;CまたはTを認識するためのN*(*は、RVDの第2の位置におけるギャップを表す);Tを認識するためのHG;Tを認識するためのH*(*は、RVDの2番目の位置におけるギャップを表す);およびTを認識するためのIGのうちの1つまたは複数を含む場合がある。
【0053】
TALEタンパク質は、ゲノム工学において相同組換えを促すことができる標的キメラヌクレアーゼとして研究およびバイオテクノロジーに有用であり得る(例えば、バイオ燃料またはバイオ再生可能物(biorenewable)に有用な形質を植物に付加または強化するため)。これらのタンパク質は、また、例えば転写因子として、特に非限定的な例として病原体(例えばウイルス)に対する治療薬などの、非常に高いレベルの特異性を要する治療応用のために有用であり得る。
【0054】
操作TALEアレイを作製するための方法は、当技術分野において公知であり、例えば、米国特許出願第61/610,212号明細書、およびReyon et al., Nature Biotechnology 30,460-465 (2012) に記載された迅速なライゲーションベースの自動化可能固相高スループット(fast ligation-based automatable solid-phase high-throughput)(FLASH)システム、ならびにBogdanove & Voytas, Science 333, 1843-1846 (2011); Bogdanove et al., Curr Opin Plant Biol 13, 394-401 (2010); Scholze & Boch, J. Curr Opin Microbiol (2011); Boch et al., Science 326, 1509-1512 (2009); Moscou & Bogdanove, Science 326, 1501 (2009); Miller et al., Nat Biotechnol 29, 143-148 (2011); Morbitzer et al., T. Proc Natl Acad Sci U S A 107, 21617-21622 (2010); Morbitzer et al., Nucleic Acids Res 39, 5790-5799 (2011); Zhang et al., Nat Biotechnol 29, 149-153 (2011); Geissler et al., PLoS ONE 6, e19509 (2011); Weber et al., PLoS ONE 6, e19722 (2011); Christian et al., Genetics 186, 757-761 (2010); Li et al., Nucleic Acids Res 39, 359-372 (2011); Mahfouz et al., Proc Natl Acad Sci U S A 108, 2623-2628 (2011); Mussolino et al., Nucleic Acids Res (2011); Li et al., Nucleic Acids Res 39, 6315-6325 (2011); Cermak et al., Nucleic Acids Res 39, e82 (2011); Wood et al., Science 333, 307 (2011); Hockemeye et al. Nat Biotechnol 29, 731-734 (2011); Tesson et al., Nat Biotechnol 29, 695-696 (2011); Sander et al., Nat Biotechnol 29, 697-698 (2011); Huang et al., Nat Biotechnol 29, 699-700 (2011);およびZhang et al., Nat Biotechnol 29, 149-153 (2011)に記載された方法を参照されたく、これらの全ては、その全体で参照により本明細書に組み込まれている。
【0055】
メガヌクレアーゼとTALエフェクターとの融合物であるMegaTALも、本方法に使用するために適切である。例えば、Boissel et al., Nucl. Acids Res. 42(4):2591-2601 (2014); Boissel and Scharenberg, Methods Mol Biol. 2015;1239:171-96を参照されたい。
【0056】
TALを、転写活性化因子、転写抑制因子、メチル化ドメイン(例えば、DNA中のメチル化シトシンのヒドロキシル化を触媒する配列を含む触媒ドメイン、国際公開第2013181228号パンフレット参照)、およびヌクレアーゼなどの機能性ドメインと融合して、遺伝子発現を調節し、DNAメチル化を変化させ、モデル生物、植物、およびヒト細胞のゲノムに標的変化を導入することができる。例えば、Tan et al., PNAS 100:11997-12002 (2003); Wong et al., Cancer Res. 59:71-73 (1999); Zhang et al., Nat. Biotech. 29:149-154 (2011);および国際公開第2013181228号パンフレットを参照されたい。
【0057】
ジンクフィンガー
ジンクフィンガータンパク質は、1つまたは複数のジンクフィンガー、すなわち独立してフォールディングした亜鉛含有ミニドメインを含有するDNA結合タンパク質であり、その構造は、当技術分野において周知であり、例えば、Miller et al., 1985, EMBO J., 4:1609; Berg, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85:99; Lee et al., 1989, Science. 245:635;およびKlug, 1993, Gene, 135:83に定義されている。DNAと結合したジンクフィンガータンパク質Zif268およびそのバリアントの結晶構造は、半分保存された相互作用パターンを示しており、そのパターンでは、概してジンクフィンガーのアルファ-ヘリックスからの3つのアミノ酸が、DNA中の3つの隣接塩基対または「サブサイト」と接触している(Pavletich et al., 1991, Science, 252:809; Elrod-Erickson et al., 1998, Structure, 6:451)。したがって、Zif268の結晶構造は、ジンクフィンガーDNA結合ドメインが、ジンクフィンガーとDNA配列中の3塩基対の「サブサイト」との間で1対1に相互作用してモジュール的に機能し得ることを示唆した。天然ジンクフィンガー転写因子では、複数のジンクフィンガーが、概してタンデムアレイとして一緒に連結して、連続DNA配列の配列特異的認識を達成する(Klug, 1993, Gene 135:83)。
【0058】
関心対象のDNA標的部位と結合可能な所望のバリアントを同定するためにDNA結合に関与するアルファ-ヘリックス位置でアミノ酸をランダム化することおよびファージディスプレイなどの選択方法論を使用することによって、個別のジンクフィンガーのDNA結合特性を人工的に操作可能であることが、複数の研究によって示された(Rebar et al., 1994, Science, 263:671; Choo et al., 1994 Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:11163; Jamieson et al., 1994, Biochemistry 33:5689; Wu et al., 1995 Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92: 344)。そのような組換えジンクフィンガータンパク質は、転写活性化因子、転写抑制因子、メチル化ドメイン、およびヌクレアーゼなどの機能性ドメインと融合して、遺伝子発現を調節し、DNAメチル化を変化させ、モデル生物、植物、およびヒト細胞のゲノムに標的変化を導入することができる(Carroll, 2008, Gene Ther., 15:1463-68; Cathomen, 2008, Mol. Ther., 16:1200-07; Wu et al., 2007, Cell. Mol. Life Sci., 64:2933-44)。
【0059】
「モジュール集合」として公知の、ジンクフィンガーアレイを操作するための既存の一方法は、予備選択されたジンクフィンガーモジュールを単純に一緒に繋げてアレイにすることを提唱している(Segal et al., 2003, Biochemistry, 42:2137-48; Beerli et al., 2002, Nat. Biotechnol., 20:135-141; Mandell et al., 2006, Nucleic Acids Res., 34:W516-523; Carroll et al., 2006, Nat. Protoc. 1:1329-41; Liu et al., 2002, J. Biol. Chem., 277:3850-56; Bae et al., 2003, Nat. Biotechnol., 21:275-280; Wright et al., 2006, Nat. Protoc., 1:1637-52)。あらゆる研究者によって実施されるに足るほど直接的であるものの、最近の報告により、本方法に関して、特にジンクフィンガーヌクレアーゼに関連する高い失敗率が実証された(Ramirez et al., 2008, Nat. Methods, 5:374-375; Kim et al., 2009, Genome Res. 19:1279-88)。これは、概して任意の所与の標的遺伝子について非常に多数のジンクフィンガータンパク質の構築および細胞ベースの試験を必要とする制約である(Kim et al., 2009, Genome Res. 19:1279-88)。
【0060】
ランダム化されたライブラリーからジンクフィンガーアレイを同定するコンビナトリアル選択ベース法は、モジュール集合よりも高い成功率を有することが示されている(Maeder et al., 2008, Mol. Cell, 31:294-301; Joung et al., 2010, Nat. Methods, 7:91-92; Isalan et al., 2001, Nat. Biotechnol., 19:656-660)。好ましい実施形態では、ジンクフィンガーアレイは、国際公開第2011/017293号パンフレットおよび同第2004/099366号パンフレットに記載されている、またはそれらに記載されているように作製される。追加的で適切なジンクフィンガーDBDは、米国特許第6,511,808号明細書、同第6,013,453号明細書、同第6,007,988号明細書、および同第6,503,717号明細書ならびに米国特許出願公開第2002/0160940号明細書に記載されている。
【0061】
異種機能性ドメイン
一部の実施形態では、本明細書に記載の融合タンパク質は、米国特許第8,993,233号明細書;米国特許出願公開第20140186958号明細書;米国特許第9,023,649号明細書;国際公開第2014/099744号パンフレット;国際公開第2014/089290号パンフレット;国際公開第2014/144592号パンフレット;国際公開第144288号パンフレット;国際公開第2014/204578号パンフレット;国際公開第2014/152432号パンフレット;国際公開第2115/099850号パンフレット;米国特許第8,697,359号明細書;米国特許出願公開第2010/0076057号明細書;米国特許出願公開第2011/0189776号明細書;米国特許出願公開第2011/0223638号明細書;米国特許出願公開第2013/0130248号明細書;国際公開第2008/108989号パンフレット;国際公開第2010/054108号パンフレット;国際公開第2012/164565号パンフレット;国際公開第2013/098244号パンフレット;国際公開第2013/176772号パンフレット;米国特許出願公開第20150050699号明細書;米国特許出願公開第20150071899号明細書および国際公開第2014/124284号パンフレットに記載されたような異種機能性ドメインを含む。好ましい実施形態では、異種機能性ドメインはDNAを変化させる。例えば、好ましくは1つもしくは複数のヌクレアーゼ活性の低下もしくは死滅変異、および/またはDNA結合親和性を低下させる1つもしくは複数の変異を含むヌクレアーゼを、転写活性化ドメインまたは他の異種機能性ドメイン(例えば、転写抑制因子(例えば、KRAB、ERD、SID、およびその他、例えば、ets2抑制因子(ERF)の抑制ドメイン(ERD)のアミノ酸473~530番、KOX1のKRABドメインのアミノ酸1~97番、もしくはMad mSIN3相互作用ドメイン(SID)のアミノ酸1~36番;Beerli et al., PNAS USA 95:14628-14633 (1998)参照)と融合させることができ、または当技術分野において公知のヘテロクロマチンタンパク質1(HP1、swi6としても公知)、例えば、HP1αもしくはHP1βなどのサイレンサー;MS2コートタンパク質、エンドリボヌクレアーゼCsy4、もしくはラムダNタンパク質によって結合されたもののような固定RNA結合配列と融合した長鎖非コードRNA(lncRNA)を動員できるタンパク質もしくはペプチド;DNAのメチル化状態を修飾する酵素(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)もしくはTETタンパク質);またはヒストンサブユニットを修飾する酵素(例えば、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(例えば、リシンもしくはアルギニン残基のメチル化用)もしくはヒストンデメチラーゼ(例えば、リシンもしくはアルギニン残基の脱メチル化用))を使用することもできる。そのようなドメイン、例えば、DNA中のメチル化シトシンのヒドロキシル化を触媒するドメインについてのいくつかの配列が、当技術分野において公知である。タンパク質の例には、DNA中の5-メチルシトシン(5-mC)を5-ヒドロキシメチルシトシン(5-hmC)に変換する酵素であるTen-Eleven-Translocation(TET)1~3ファミリーが挙げられる。
【0062】
ヒトTET1~3についての配列は、当技術分野において公知であり、次表に示される:
【0063】
【表3】
【0064】
一部の実施形態では、触媒ドメインの完全長配列の全部または一部、例えば、システインリッチ伸長部を含む触媒モジュールおよび7つの高度に保存されたエクソンによってコードされる2OGFeDOドメイン、例えば、アミノ酸1580~2052番を含むTet1触媒ドメイン、アミノ酸1290~1905番を含むTet2、およびアミノ酸966~1678番を含むTet3が含まれる場合がある。例えば、3つのTetタンパク質全てにおける主要な触媒残基を示しているアライメントについては、Iyer et al., Cell Cycle. 2009 Jun 1;8(11):1698-710. Epub 2009 Jun 27の図1を、完全長配列についてはその補足資料(ftpのサイト、ftp.ncbi.nih.gov/pub/aravind/DONS/supplementary_material_DONS.htmlから入手可能)を参照されたい(例えば、seq 2c参照)。一部の実施形態では、配列は、Tet1のアミノ酸1418~2136番またはTet2/3における対応する領域を含む。
【0065】
他の触媒モジュールは、Iyer et al., 2009において同定されたタンパク質に由来し得る。
【0066】
一部の実施形態では、異種機能性ドメインは、生物学的テザーであり、MS2コートタンパク質、エンドリボヌクレアーゼCsy4、またはラムダNタンパク質(に由来するDNA結合ドメイン、例えば)の全部または一部を含む。これらのタンパク質を使用して、特異的ステムループ構造を含有するRNA分子を、dCas9 gRNA標的化配列によって特定される場所に動員することができる。例えば、MS2コートタンパク質、エンドリボヌクレアーゼCsy4、またはラムダNと融合したdCas9バリアントを使用して、例えば、Csy4、MS2またはラムダN結合配列に連結されたXISTまたはHOTAIRなどの長鎖非コードRNA(lncRNA)を動員することができる。Keryer-Bibens et al., Biol. Cell 100:125-138 (2008)を参照されたい。あるいは、例えばKeryer-Bibens et al.(上記)のようにCsy4、MS2またはラムダNタンパク質結合配列を別のタンパク質と連結することができ、本明細書に記載の方法および組成物を使用して、このタンパク質をdCas9バリアント結合部位に標的化することができる。一部の実施形態では、Csy4は触媒不活性である。一部の実施形態では、Cas9バリアント、好ましくはdCas9バリアントは、米国特許第8,993,233号明細書;米国特許出願公開第20140186958号明細書;米国特許第9,023,649号明細書;国際公開第2014/099744号パンフレット;国際公開第2014/089290号パンフレット;国際公開第2014/144592号パンフレット;国際公開第144288号パンフレット;国際公開第2014/204578号パンフレット;国際公開第2014/152432号パンフレット;国際公開第2115/099850号パンフレット;米国特許第8,697,359号明細書;米国特許出願公開第2010/0076057号明細書;米国特許出願公開第2011/0189776号明細書;米国特許出願公開第2011/0223638号明細書;米国特許出願公開第2013/0130248号明細書;国際公開第2008/108989号パンフレット;国際公開第2010/054108号パンフレット;国際公開第2012/164565号パンフレット;国際公開第2013/098244号パンフレット;国際公開第2013/176772号パンフレット;米国特許出願公開第20150050699号明細書;米国特許出願公開第20150071899号明細書および国際公開第2014/204578号パンフレットに記載されているように、FokIと融合される。
【0067】
リンカーおよびタグ
一部の実施形態では、融合タンパク質は、ヌクレアーゼとAPとの間にリンカーを含む。これらの融合タンパク質(または連鎖状構造における融合タンパク質同士の間)に使用することができるリンカーは、融合タンパク質の機能を妨害しない任意の配列を含み得る。好ましい実施形態では、リンカーは、短鎖、例えばアミノ酸2~20個であり、概して柔軟である(すなわち、グリシン、アラニン、およびセリンなどの高い自由度を有するアミノ酸を含む)。一部の実施形態では、リンカーは、GGGS(配列番号3)またはGGGGS(配列番号4)からなる1つまたは複数のユニット、例えばGGGS(配列番号5)またはGGGGS(配列番号6)ユニットの2、3、4つ、またはより多くのリピートを含む。他のリンカー配列、例えばSSGNSNANSRGPSFSSGLVPLSLRGSHを使用することもできる。
【0068】
一部の実施形態では、融合タンパク質は、細胞内腔への送達を促す細胞透過性ペプチド配列、例えば、HIV由来TATペプチド、ペネトラチン、トランスポータン、またはhCT由来細胞透過性ペプチドを含む。例えば、Caron et al., (2001) Mol Ther. 3(3):310-8; Langel, Cell-Penetrating Peptides: Processes and Applications (CRC Press, Boca Raton FL 2002); El-Andaloussi et al., (2005) Curr Pharm Des. 11(28):3597-611;およびDeshayes et al., (2005) Cell Mol Life Sci. 62(16):1839-49を参照されたい。
【0069】
細胞透過性ペプチド(CPP)は、細胞膜を通過して細胞質または他のオルガネラ、例えばミトコンドリアおよび核への幅広い生体分子の移動を促す短鎖ペプチドである。CPPによって送達できる分子の例には、治療薬、プラスミドDNA、オリゴヌクレオチド、siRNA、ペプチド-核酸(PNA)、タンパク質、ペプチド、ナノ粒子、およびリポソームが挙げられる。CPPは、一般的にアミノ酸30個以下であり、天然または非天然のタンパク質またはキメラ配列由来であり、高い相対存在量の正荷電アミノ酸、例えばリシンもしくはアルギニン、または交互パターンの極性アミノ酸および非極性アミノ酸のいずれかを含有する。当技術分野において通常使用されるCPPには、Tat(Frankel et al., (1988) Cell. 55:1189-1193, Vives et al., (1997) J. Biol. Chem. 272:16010-16017)、ペネトラチン(Derossi et al., (1994) J. Biol. Chem. 269:10444-10450)、ポリアルギニンペプチド配列(Wender et al., (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:13003-13008、Futaki et al., (2001) J. Biol. Chem. 276:5836-5840)、およびトランスポータン(Pooga et al., (1998) Nat. Biotechnol. 16:857-861)が挙げられる。
【0070】
CPPは、それらのカーゴと共有または非共有戦略により連結することができる。CPPとそのカーゴとを共有結合的に繋ぐ方法は、当技術分野において公知であり、例えば化学的架橋結合(Stetsenko et al., (2000) J. Org. Chem. 65:4900-4909、Gait et al. (2003) Cell. Mol. Life. Sci. 60:844-853)または融合タンパク質をクローニングすること(Nagahara et al., (1998) Nat. Med. 4:1449-1453)である。カーゴと、極性および非極性ドメインを含む短鎖両親媒性CPPとの間の非共有結合的カップリングは、静電および疎水性相互作用により確立される。
【0071】
CPPは、当技術分野において潜在的治療用生体分子を細胞内に送達するために利用されている。例には、免疫抑制用にポリアルギニンと連結されたシクロスポリン(Rothbard et al., (2000) Nature Medicine 6(11):1253-1257)、腫瘍形成を阻害するためのMPGと呼ばれる、サイクリンB1に対するsiRNAをCPPと連結させたもの(Crombez et al., (2007) Biochem Soc. Trans. 35:44-46)、がん細胞の成長を低下させるための、CPPと連結した腫瘍抑制因子p53ペプチド(Takenobu et al., (2002) Mol. Cancer Ther. 1(12):1043-1049、Snyder et al., (2004) PLoS Biol. 2:E36)、および喘息を治療するための、Tatと融合した優性ネガティブ形態のRasまたはホスホイノシトール3キナーゼ(PI3K)(Myou et al., (2003) J. Immunol. 171:4399-4405)が挙げられる。
【0072】
CPPは、当技術分野においてイメージングおよびバイオセンシング応用のために細胞内に造影剤を輸送するために利用されている。例えば、Tatと結合した緑色蛍光タンパク質(GFP)が、がん細胞を標識するために使用されている(Shokolenko et al., (2005) DNA Repair 4(4):511-518)。量子ドットとコンジュゲートしたTatは、ラット脳の視覚化用に、血液脳関門をうまく通過させるために使用されている(Santra et al., (2005) Chem. Commun. 3144-3146)。CPPは、細胞イメージングのために磁気共鳴イメージング技術とも併用されている(Liu et al., (2006) Biochem. and Biophys. Res. Comm. 347(1):133-140)。Ramsey and Flynn, Pharmacol Ther. 2015 Jul 22. pii: S0163-7258(15)00141-2も参照されたい。
【0073】
代替的または追加的に、融合タンパク質は、核局在配列、例えば、SV40ラージT抗原NLS(PKKKRRV(配列番号7))およびヌクレオプラスミンNLS(KRPAATKKAGQAKKKK(配列番号8))を含み得る。他のNLSは、当技術分野において公知である。例えば、Cokol et al., EMBO Rep. 2000 Nov 15; 1(5): 411-415; Freitas and Cunha, Curr Genomics. 2009 Dec; 10(8): 550-557を参照されたい。
【0074】
一部の実施形態では、融合タンパク質は、リガンドに対して高い親和性を有する部分、例えばGST、FLAGまたはヘキサヒスチジン配列を含む。そのような親和性タグは、組換えバリアントタンパク質の精製を容易にすることができる。
【0075】
融合タンパク質が細胞に送達される方法のために、当技術分野において公知の任意の方法を用いて、例えばin vitro翻訳、または適切な宿主細胞中でバリアントタンパク質をコードする核酸からの発現により、融合タンパク質を産生させることができ、タンパク質を産生させるためにいくつかの方法が当技術分野において公知である。例えば、融合タンパク質は、酵母、大腸菌(E. coli)、昆虫細胞株、植物、トランスジェニック動物、または培養哺乳動物細胞から産生および精製することができる。例えば、Palomares et al., "Production of Recombinant Proteins: Challenges and Solutions," Methods Mol Biol. 2004;267:15-52を参照されたい。加えて、融合タンパク質は、任意選択でタンパク質が細胞内に入った後で切断されるリンカーと共に、細胞内への輸送を容易にする部分、例えば脂質ナノ粒子と連結することができる。例えば、LaFountaine et al., Int J Pharm. 2015 Aug 13;494(1):180-194を参照されたい。
【0076】
発現システム
本明細書に記載の融合タンパク質を使用するために、それらをコードする核酸からそれらを発現させることが望ましい場合がある。これは、様々な方法で行うことができる。例えば、複製および/または発現用に原核または真核細胞中で形質転換するために、融合タンパク質をコードする核酸を中間ベクターにクローニングすることができる。中間ベクターは、概して融合タンパク質の産生のために融合タンパク質をコードする核酸の貯蔵または操作のための原核生物ベクター、例えばプラスミド、またはシャトルベクター、または昆虫ベクターである。融合タンパク質をコードする核酸は、植物細胞、動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞またはヒト細胞、真菌細胞、細菌細胞、または原生動物細胞への投与用に発現ベクター中にクローニングすることもできる。
【0077】
発現を得るために、融合タンパク質をコードする核酸配列は、概して、転写を指示するためにプロモーターを含有する発現ベクターにサブクローニングされる。適切な細菌および真核生物プロモーターは、当技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3d ed. 2001); Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 2010)に記載されている。操作タンパク質を発現させるための細菌発現システムは、例えば、大腸菌(E. coli)、バチルス属菌種(Bacillus sp.)、およびサルモネラ属(Salmonella)(Palva et al., 1983, Gene 22:229-235)において利用可能である。そのような発現システム用のキットが市販されている。哺乳動物細胞、酵母、および昆虫細胞用の真核発現システムは、当技術分野において周知であり、これも市販されている。
【0078】
核酸の発現を指示するために使用されるプロモーターは、特定の適用に依存する。例えば、強い構成性プロモーターが、概して、融合タンパク質の発現および精製のために使用される。対照的に、遺伝子調節のために融合タンパク質をin vivoで投与しようとする場合、融合タンパク質の特定の使用に応じて構成性または誘導性プロモーターのいずれかを使用することができる。加えて、融合タンパク質の投与に好ましいプロモーターは、HSV TKまたは類似の活性を有するプロモーターのような弱いプロモーターであり得る。プロモーターは、トランス活性化に応答性のエレメント、例えば、低酸素応答エレメント、Gal4応答エレメント、lac抑制因子応答エレメント、ならびにテトラサイクリン調節システムおよびRU-486システムのような小分子調節システムも含み得る(例えば、Gossen & Bujard, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547; Oligino et al., 1998, Gene Ther., 5:491-496; Wang et al., 1997, Gene Ther., 4:432-441; Neering et al., 1996, Blood, 88:1147-55;およびRendahl et al., 1998, Nat. Biotechnol., 16:757-761を参照されたい)。
【0079】
プロモーターに加えて、発現ベクターは、概して、原核または真核のいずれかの宿主細胞における核酸の発現に必要な全ての追加的なエレメントを含有する転写ユニットまたは発現カセットを含有する。したがって、典型的な発現カセットは、例えば、融合タンパク質をコードする核酸配列と作動的に連結したプロモーター、および例えば、転写物の効率的なポリアデニル化、転写終結、リボソーム結合部位、または翻訳終結に必要な任意のシグナルを含有する。カセットの追加的なエレメントは、例えば、エンハンサーおよびスプライシングされた異種内部シグナルを含み得る。
【0080】
遺伝情報を細胞内に輸送するために使用される特定の発現ベクターは、融合タンパク質の意図される使用、例えば、植物、動物、細菌、真菌、原生動物などにおける発現に関して選択される。標準的な細菌発現ベクターには、pBR322ベースのプラスミド、pSKF、pET23Dなどのプラスミド、ならびにGSTおよびLacZなどの市販のタグ融合発現システムが挙げられる。
【0081】
真核ウイルス由来の調節エレメントを含有する発現ベクターが、多くの場合に、真核発現ベクター、例えばSV40ベクター、パピローマウイルスベクター、およびエプスタイン・バーウイルス由来のベクターに使用される。他の例示的な真核ベクターには、pMSG、pAV009/A+、pMTO10/A+、pMAMneo-5、バキュロウイルスpDSVE、ならびにSV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳がんウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、または真核細胞における発現に有効であることが示された他のプロモーターの指示下でタンパク質の発現を可能にする任意の他のベクターが挙げられる。
【0082】
融合タンパク質を発現させるためのベクターは、ガイドRNAの発現を推進するためのRNA Pol IIIプロモーター、例えばH1、U6または7SKプロモーターを含み得る。これらのヒトプロモーターは、プラスミドのトランスフェクション後に哺乳動物細胞における融合タンパク質の発現を可能にする。
【0083】
いくつかの発現システムは、安定的にトランスフェクトされた細胞の選択用のマーカー、例えばチミジンキナーゼ、ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、およびジヒドロ葉酸レダクターゼを有する。ポリヘドリンプロモーターまたは他の強いバキュロウイルスプロモーターの指示下でgRNAコード配列を有するバキュロウイルスベクターを昆虫細胞において使用することなどの高収率の発現システムも、適切である。
【0084】
概して発現ベクター中に含まれるエレメントには、大腸菌(E. coli)において機能するレプリコン、組換えプラスミドを収容する細菌を選択できるようにする抗生物質耐性コード遺伝子、および組換え配列の挿入を可能にするためのプラスミドの可欠領域中の独特な制限部位も挙げられる。
【0085】
標準的なトランスフェクション方法は、大量のタンパク質を発現する細菌、哺乳動物、酵母または昆虫細胞株を産生するために使用され、それらのタンパク質は、次に、標準的な技法を用いて精製される(例えば、Colley et al., 1989, J. Biol. Chem., 264:17619-22; Guide to Protein Purification, in Methods in Enzymology, vol. 182 (Deutscher, ed., 1990)を参照されたい)。真核および原核細胞の形質転換は、標準的な技法に従って行われる(例えば、Morrison, 1977, J. Bacteriol. 132:349-351; Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology 101:347-362 (Wu et al., eds, 1983)を参照されたい。
【0086】
宿主細胞に外来ヌクレオチド配列を導入するための公知の手順のいずれかが使用され得る。これらには、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリブレン、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リポソーム、マイクロインジェクション、ネイキッドDNA、プラスミドベクター、エピソームおよび組込みの両方のウイルスベクターの使用、ならびにクローニング後のゲノムDNA、cDNA、合成DNAまたは他の外来遺伝材料を宿主細胞に導入するための他の周知の方法のいずれかが挙げられる(例えば、Sambrook et al.、上記を参照されたい)。必要なことは、使用される特定の遺伝子操作手順が、融合タンパク質を発現可能な宿主細胞中に少なくとも1つの遺伝子をうまく導入できることだけである。
【0087】
本発明は、本明細書に記載のベクターを含む核酸、ベクターおよび細胞も含む。
【0088】
キット
本明細書に記載の方法に使用するためのキットも、本明細書に提供される。キットは、以下:フレーム内に連結したAPを有する、またはAPの包含のための1つもしくは複数のクローニング部位を有する、部位特異的ヌクレアーゼをコードするベクター;精製組換えヌクレアーゼタンパク質;例えば必要ならば対照としての、ガイドRNA(例えば、in vitro産生されたもの);任意選択で対照鋳型DNAおよび/もしくはガイドRNAを含む、ヌクレアーゼと共に使用するための試薬;ならびに/または本明細書に記載の方法に使用するための説明書の1つまたは複数を含み得る。
【実施例
【0089】
以下の実施例の中で本発明をさらに説明するが、この実施例は、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【0090】
[実施例1]
エピジェネティックに調節される配列特異的ヌクレアーゼ
R661AおよびQ695A変異を担持する、またはR661AおよびQ926A変異を担持するSpCas9バリアントを、ゲノムに組み込まれた単一コピーEGFPレポーター遺伝子に標的化された操作ジンクフィンガーアレイ(ZF292R)と遺伝的に融合させたシステムを開発した。EGFPコード領域にヌクレアーゼ誘導DSBを導入し、それを次にNHEJにより修復することで、フレームシフト変異の導入をもたらすことができ、細胞を、フローサイトメトリーを用いて定量的にアッセイできる表現型であるEGFP陰性にすることができる。本発明者らは、EGFP中の同じ部位を標的化する4つの異なるgRNAバリアント:(1)標的部位と相同な20ntを有するgRNAであって、標的部位配列とミスマッチである、追加的に5’に付加されたGを有するgRNA(gRNA1)、(2)標的部位と相同な19ntを有するgRNAであって、5’の20番目のntに標的部位とミスマッチであるGを有するgRNA(gRNA2)、(3)標的部位と相同な18ntを有するgRNAであって、標的部位とミスマッチである2つのGを5’に有するgRNA(gRNA3)、および(4)標的部位と相同な17ntを有するgRNAであって、追加的なミスマッチのGのntを有しない、完全にマッチしたgRNA(gRNA4)と一緒にZF292Rジンクフィンガーアレイを有するおよび有しないこれらのバリアントヌクレアーゼの活性を試験した。4つのgRNAの全てを用いて試験したとき、EGFP破壊アッセイで判定して、SpCas9(R661A、Q695A)およびSpCas9(R661A、Q926A)は、ZF292Rと融合したときに両方ともヌクレアーゼ活性の増加を示した(図2A)。本発明者らは、配列ベースの挿入欠失定量アッセイであるTIDEも行って、これらのヌクレアーゼ複合体のそれぞれのヌクレアーゼ活性を直接評価した。フローサイトメトリーアッセイと一致して、TIDEによる細胞集団の分析により、試験した4つのgRNAの全てで両方のSpCas9バリアントがZF292Rと融合したときに、挿入欠失の形成率が増加することが実証された(図2B)。
【0091】
DNAと結合した人工転写因子への結合に活性が依存するヌクレアーゼを生み出すための原理証明をもたらすために、本発明者らは、次に、操作scFv(scFv GCN4)が堅固および特異的に結合できるGCN4ペプチドに、ZF292Rが遺伝的に融合している(GCN4-ZF292R)システムを開発した。本発明者らは、このscFv GCN4をSpCas9(R661A、Q695A)およびSpCas9(R661A、Q926A)と直接融合し、GCN4-ZF292R融合物の存在下または不在下でこれらのSpCas9-scFv GCN4融合物がEGFPを破壊することができるかどうかを、gRNA1、gRNA2、またはgRNA3を使用して評価した(図2C)。SpCas9(R661A、Q695A)-scFv GCN4およびSpCas9(R661A、Q926A)-scFv GCN4の両方は、GCN4-ZF292Rと同時発現したときにフローサイトメトリーにより判定されたEGFPの破壊の強化を示した。この活性がGCN4-ZF292RとscFv GCN4との間の相互作用に特異的であったかどうか判定するために、本発明者らは、SpCas9(R661A、Q695A)-scFv GCN4をGCN4-ZF292RまたはH3(1-38)-ZF292R(同じZF292RジンクフィンガーアレイをヒストンH3のN末端のアミノ酸38個に融合したもの)と同時発現させた第2の実験を行った。gRNA1およびgRNA2を使用して、H3(1-38)-ZF292RではなくGCN4-ZF292Rと同時発現したときに、SpCas9(R661A、Q695A)-scFv GCN4は、実際にEGFP破壊の増加を示した(図3A)。フローサイトメトリーアッセイと一致して、TIDEによるこれらの細胞集団の分析により、H3(1-38)-ZF292Rではなく、GCN4-ZF292Rと同時発現した場合にかぎり、SpCas9(R661A、Q695A)-scFv GCN4による挿入欠失の形成率の増加が実証された(図3B)。追加的に対照として、EGFP中の異なる標的部位と完全に相補的な20ntを担持し、5’にミスマッチのGが付加されていないgRNA(gRNA5)を用いて各SpCas9融合構築物を試験して、これらのタンパク質が上記のgRNA修飾の不在下で野生型SpCas9に匹敵するヌクレアーゼ活性を保持していることを確認した。
【0092】
[実施例2]
クロマチンの三次元コンフォメーションに依存する配列特異的ヌクレアーゼ
以前の研究により、SpCas9は、操作ジンクフィンガーアレイ(ZF)またはTALEリピートアレイなどの第2のDNA結合ドメイン(DBD)によりその標的部位近くに繋がれた場合にかぎり、DSBを誘導するように操作できることが示された。これは、SpCas9の位置R1333またはR1335に、このタンパク質がそのPAMモチーフを認識する能力に影響する変異を導入することによって達成される(このような変異体は、Cas9 PAM相互作用ドメインノックダウンまたはCas9 PID KDと呼ばれる)。戦略1に記載されたものと類似のEGFP破壊アッセイを使用して、本発明者らは、標的部位でSaCas9とPAM配列との間の相互作用に影響する変異R1015A、R1015Q、またはR1015Hを担持するSaCas9 PID KDに第2のZF DBDを融合することによって、SaCas9を用いた類似のシステムを操作できることを示した(図4Aおよび4B)。これを試験するために、本発明者らは、ZF292Rドメインの結合部位に隣接するEGFPレポーター遺伝子中の部位に標的化された、R1015A、R1015Q、またはR1015H変異を担持するSaCas9バリアントの融合物を、標的部位と21ntの相補性を有するgRNAを用いて試験した。ZF292R DBDにこれらのSaCas9バリアントを融合させることで、これらのヌクレアーゼに有意なEGFP破壊活性が回復した(図4C)。本発明のために、本発明者らは、直鎖配列においてCas9標的部位から遠位であるが、特定の細胞型における三次元空間ではほんの近位であるDNA配列に結合する操作ZFまたはTALEにSpCas9またはSaCas9 PID KDを融合することを構想している。したがって、この立体配置で、第2のDBDによって標的化される遠位配列と、Cas9 PID KDの標的部位との間の細胞型特異的クロマチンループ形成は、ヌクレアーゼをgRNA標的部位に近づけ、Cas9 PID KDに標的遺伝子のDSBを誘導させる(図5Aおよび5B)。さらに本発明者らは、Cas9 PID KDの代わりに、表1に概略を示したSpCas9バリアントを、遠位調節配列を標的化する操作DBDと融合することを提案する。戦略1および戦略2に概要を示したgRNA修飾を使用して、第2のDBDが、gRNA標的部位の近位のその標的部位と結合可能な場合にかぎり(例えば、遠位の調節エレメントと関心対象の遺伝子との間にループ形成がある細胞型にかぎり)、SpCas9バリアントからヌクレアーゼ活性を獲得することができるであろう。
【0093】
本出願は例えば以下の発明も提供する。
[1] 特異的転写因子(TF)または翻訳後ヒストン修飾に対して高い親和性を有する操作親和性タンパク質(AP)と連結された標的ヌクレアーゼを含む融合タンパク質を細胞において発現させること、または前記細胞をそれと接触させることを含む、前記細胞のゲノムを修飾する方法。
[2] 前記APが、単鎖抗体、操作フィブロネクチンドメイン、操作黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)免疫グロブリン結合プロテインA、操作ナノボディー、および設計アンキリンリピートタンパク質からなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[3] 前記ヌクレアーゼが、1)メガヌクレアーゼ、2)ジンクフィンガーヌクレアーゼ、3)転写活性化因子エフェクター様ヌクレアーゼ(TALEN)、および4)クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)ヌクレアーゼまたはCRISPR-Cpf1 RNAガイドヌクレアーゼ(RGN)からなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[4] 前記ヌクレアーゼが、CRISPR-CasまたはCRISPR-Cpf1 RGNであり、前記方法が、ガイドRNAの存在下で行われる、[3]に記載の方法。
[5] 前記ヌクレアーゼが、表1に示される残基のうちの1つまたは複数の変異を有する化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9ヌクレアーゼである、[4]に記載の方法。
[6] R1015に変異を含む黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9と融合したジンクフィンガーDNA結合ドメイン(ZF DBD)またはTAL DNA結合アレイを含む融合タンパク質を細胞において発現させること、または前記細胞をそれと接触させることを含む、前記細胞のゲノムを修飾する方法。
[7] 前記黄色ブドウ球菌(S. aureus)Cas9が、R1015A、R1015Q、およびR1015Hからなる群から選択される変異を含む、[6]に記載の方法。
[8] (i)標的DNA結合ドメインまたはガイドRNAと一緒の触媒不活性「dead」RGN(dRGN)、(ii)異種機能性ドメイン、および(iii)操作親和性タンパク質(AP)によって認識される転写因子またはヒストン修飾がDNA結合ドメインまたはdRGNの標的部位の近位に存在する場合にかぎり活性である前記AP、を含む融合タンパク質を細胞において発現させること、または前記細胞をそれと接触させることを含む、前記細胞のゲノムを修飾する方法。
[9] 前記APが、単鎖抗体、操作フィブロネクチンドメイン、操作黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)免疫グロブリン結合プロテインA、操作ナノボディー、および設計アンキリンリピートタンパク質からなる群から選択される、[8]に記載の方法。
[10] 前記機能性ドメインが、転写調節ドメイン、ヒストン修飾酵素、またはDNA修飾酵素である、[9]に記載の方法。
[11] 前記ガイドRNAが、(i)19、18、および17bpのスペーサー長を有するgRNA;(ii)目的の標的部位と比べて1、2、または3つの意図的なミスマッチを有するgRNA;(iii)オンターゲット部位と相補的な20ntを有し、追加的なG塩基(標的DNA配列とミスマッチである)が5’に付加されたgRNA;ならびに(iv)(i)~(iii)の任意の組合せからなる群から選択される、[4]または[8]に記載の方法。
[12] 前記ガイドRNAが、前記標的DNAに対する、9、10、11、12、または13個のヌクレオチド塩基の非常に短い相補性配列を担持する切断型gRNAである、[8]に記載の方法。

他の実施形態
本発明をその詳細な説明と共に説明したが、前記の説明は、添付の特許請求の範囲によ
って定義される本発明の範囲を限定するのではなく、例証することを意図していることを
理解すべきである。他の態様、利点、および修飾は、以下の特許請求の範囲に含まれる。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6