(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】射出成形品とその成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/56 20060101AFI20231211BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20231211BHJP
B29C 45/27 20060101ALI20231211BHJP
G02B 6/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
B29C45/56
B29C45/26
B29C45/27
G02B6/00 301
(21)【出願番号】P 2020003637
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】松原 永治
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-054523(JP,A)
【文献】特開2003-103588(JP,A)
【文献】特開平11-314255(JP,A)
【文献】特開2000-006216(JP,A)
【文献】特開2017-159573(JP,A)
【文献】特開2003-181896(JP,A)
【文献】特開2002-292690(JP,A)
【文献】特開平10-337755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 -45/84
B29C 33/00 -33/76
G02B 6/00
G02B 6/02
G02B 6/245- 6/25
G02B 6/46 - 6/54
F21K 9/00 - 9/90
F21S 2/00 -45/70
B60Q 1/00 - 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂または半透明樹脂で構成され、
導光体本体または発光体本体であるライン状の厚肉部と、
前記厚肉部に形成される取り付け部であるフランジ部であって、前記厚肉部よりも薄肉な薄肉部と、
を備えた、
入射した光を所定の方向へ導くレンズ、または入射した光を所定の領域から出射する導光体の成形方法であって、
前記厚肉部の長手方向の一面を構成する構成面を成形する入れ子を備えた可動側金型と、固定側金型とを型締めし、内部に画成される成形空間に、溶解樹脂を充填する射出工程と、
前記射出工程後に、前記入れ子を前記可動側金型の型締め方向に駆動して、前記成形空間に充填された溶解樹脂を圧縮する圧縮工程と、
を備えることを特徴とする成形方法。
【請求項2】
前記射出工程において、前記入れ子をセットバックさせて、前記成形空間に、前記厚肉部が冷却収縮して減少する体積分だけ補填して型締めし、前記成形空間に前記入れ子のセットバック分を含めて溶解樹脂を充填し、
前記圧縮工程において、前記入れ子をセットバックした分だけ戻すように駆動する、
ことを特徴とする請求項1に記載の成形方法。
【請求項3】
前記射出工程において、前記成形空間に溶解樹脂を出射するゲート部は、前記薄肉部に設けられている、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の成形方法。
【請求項4】
透明樹脂または半透明樹脂で構成され、
導光部または発光部であるライン状の厚肉部と、
前記厚肉部に形成されるフランジ部であって、前記厚肉部よりも薄肉な薄肉部と、
を備えた、
入射した光を所定の方向へ導くレンズ、または入射した光を所定の領域から出射する導光体であって、
前記厚肉部を構成する長手方向に伸びる構成面の一面には、押圧痕が形成されており、
前記押圧痕は、押圧領域の外周に周壁として突出して形成される極小バリを含む、
ことを特徴とする射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は厚肉部と薄肉部とを備えた射出成形品とその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚さ10mm以上の厚肉の射出成形品は、成形の際にヒケが発生しやすい。特に透明樹脂で構成される導光体やレンズにおいては、光の導光や配光に不具合が生じるため、ヒケは大きな問題となる。ヒケを抑えた成形方法として、例えば特許文献1では、金型の賦型空間に溶液樹脂を充填したのちに、可動金型を型締め方向に駆動し、充填されている溶液樹脂全体を圧縮する成形方法が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の成形方法の成形品には、液晶ディスプレイのバックライトなどの矩形状で厚さ一定な導光体が想定されているため、例えば、厚肉でライン状の導光部と、その長手方向に沿った取り付け部とを備えた導光体など、厚肉部と薄肉部が混在する成形品では、薄肉部が樹脂充填後にすぐに冷却固化するため、充填樹脂全体に圧縮をかけることができない。保圧をかけるだけでは厚肉部に圧力がかからずヒケが発生し、また無理に高い圧力をかけるとクラックが発生するという問題があった。
【0005】
本発明は、この問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、薄肉部と厚肉部を備え、ヒケやクラックなどの成形不具合の発生を抑えた射出成形品とその成形方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本開示のある態様では、透明樹脂または半透明樹脂で構成され、導光体本体または発光体本体であるライン状の厚肉部と、前記厚肉部に形成されるフランジ部であって、前記厚肉部よりも薄肉な薄肉部と、を備えた、入射した光を所定の方向へ導くレンズ、または入射した光を所定の領域から出射する導光体の成形方法であって、前記厚肉部の長手方向の一面を構成する構成面を成形する入れ子を備えた可動側金型と、固定側金型とを型締めし、内部に画成される成形空間に、溶解樹脂を充填する射出工程と、前記射出工程後に、前記入れ子を前記可動側金型の型締め方向に駆動して、前記成形空間に充填された溶解樹脂を圧縮する圧縮工程と、を備えることを特徴とする成形方法を提供する。
【0007】
この態様によれば、樹脂成形後に、入れ子を型締め方向へ駆動して、溶解樹脂を圧縮することで、冷却固化による体積減少によって発生するヒケを防止する。厚肉部の長手方向に延びる一面を成形面とする入れ子を使用するため、圧縮が不必要な部分(薄肉部)には圧縮をかけず、圧縮が必要な部分(厚肉部)に局所的に加圧しやすく、効果的に樹脂部材を圧縮できる。
【0008】
またある態様においては、前記射出工程において、前記入れ子をセットバックさせて、前記成形空間に、前記厚肉部が冷却収縮して減少する体積分だけ補填して型締めし、前記成形空間に前記入れ子のセットバック分を含めて溶解樹脂を充填し、前記圧縮工程において、前記入れ子をセットバックした分だけ戻すように駆動するよう構成した。
【0009】
この態様によれば、冷却固化により減少する体積分を補填できる。最初からセットバックして戻すだけなので、所望の形状の成形品を得ることができる。
【0010】
また、ある態様においては、前記射出工程において、前記成形空間に溶解樹脂を出射するゲート部は、前記薄肉部に設けられているよう構成した。
【0011】
この態様によれば、光学的には重要でない箇所にゲート痕を残すこととなるので、光学性能への影響を最小限とすることができる。
【0012】
また、別の態様として、透明樹脂または半透明樹脂で構成され、導光部または発光部であるライン状の厚肉部と、前記厚肉部に形成されるフランジ部であって、前記厚肉部よりも薄肉な薄肉部とを備えた、入射した光を所定の方向へ導くレンズ、または入射した光を所定の領域から出射する導光体であって、前記厚肉部を構成する長手方向に伸びる構成面の一面には、押圧痕が形成されており、前記押圧痕は、押圧領域の外周に周壁として突出して形成される極小バリを含む射出成形品を提供する。
【0013】
この態様によれば、このような痕跡により上記成形方法で成形された射出成形品を特定できる。即ち、入れ子を押圧した厚肉部の長手方向に延びるある一面には、押圧痕が顕在している。例えば、厚肉部に形成される押圧領域の外周には、押しのけられた樹脂部材による極小バリが周壁として形成される。
【発明の効果】
【0014】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、薄肉部と厚肉部とを備え、成形不具合の発生を抑えた射出成形品とその成形方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る導光体を備える車両用灯具の概略正面図である。
【
図3】
図1のIII-III線に沿った端面図である。
【
図4】第1の実施形態に係る導光体の斜視図である。
【
図6】同導光体の成形方法を説明する工程図である。
【
図8】同導光体に発生する極小バリの発生メカニズムの説明図である。
【
図9】変形例である。
図9(A)が水平断面図、
図9(B)が鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0017】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施形態に係る導光体20を備える車両用灯具1の正面図であり、
図2は車両用灯具1の横端面図(
図1のII-II線に沿った端面図)、
図3は車両用灯具1の縦端面図(
図1のIII-III線に沿った端面図)である。本明細書において、上下方向/左右方向/前後方向などの方向は、車両用灯具が車両に装着されたときの姿勢における方向を意味し、車両を正面視した状態を基準として説明する。また各図においては、各方向を(上方:下方:左方:右方:前方:後方=Up:Lo:Le:Ri:Fr:Re)として説明する。
【0018】
車両用灯具1は車両用前照灯であり、車両前部の左側に装着されるものである。
【0019】
図1に示すように、車両用灯具1は、ランプボディ2と、ランプボディ2の開口部に取付けられた透明性の前面カバー4とを備える。ランプボディ2と前面カバー4は、灯室Sを画成している。
【0020】
車両用灯具1は、灯室S内に、ハイビームランプHL、ロービームランプLL、ターンシグナルランプTL、およびデイタイムランニングランプDLを収容するコンビネーションランプである。
【0021】
ハイビームランプHL、ロービームランプLL、およびターンシグナルランプTLは、灯室S内に車幅方向に並んで配置されている。これらランプ(HL,LL,TL)は、従来周知の構成、例えば反射型、プロジェクタ型などの灯具ユニットを用いてよく、その種類は問わない。
【0022】
デイタイムランニングランプDLは、灯室S内の上方域に、車両用灯具1の上辺に沿って配置されている。
【0023】
図2に示すように、デイタイムランニングランプDLは、LED光源10と、導光体20とを備える。
【0024】
LED光源10は、給電されることで発光するLED(light Emitting Diode)である。拡散的に白色光を出射して導光体20に光を供給する光源であり、その発光面を導光体20の光入射面である右側端面へ向けた状態で配置されている。
【0025】
LED光源10は、ヒートシンク14に固定されている。ヒートシンク14は、放熱性の高い金属ブロックで、LED光源10からの発熱を放熱する。ヒートシンク14は、灯室S内の所要位置に配置できる形状に構成されて、ランプボディ2に固定されている。
【0026】
灯室S内には、LED光源10と前面カバー4との間に配置されるエクステンション部材30が配置されている。LED光源10の構造はエクステンション部材30により覆われ、外部から隠蔽されている。
【0027】
棒状の導光体20は、ランプボディ2の形状に合わせて湾曲しており、入射面である右端部から中ほどまでは直線形状であるが、中ほどから左端部までは後方へ向かって緩やかなカーブのついた形状となっている。
【0028】
導光体20の背面21には、導光体20内を進む光を出射面に向けて反射するステップ25が形成されている。本実施形態においては、ステップ25は三角柱状であるが、これに限らず、例えば溝や点刻でもよい。
【0029】
LED光源10から入射した光は導光体20内を、全反射を繰り返しながら進む。反射面である背面21に入射した光はステップ25で出射面へ向けて反射され、出射面から車両前方へ出射される。
【0030】
図3に示すように、導光体20は、断面形状が矩形ある導光体本体40と、導光体本体40から上方に延出する第1フランジ部41と、導光体本体40から下方へ延出する第2フランジ部42から構成される。
【0031】
エクステンション部材30は導光体20の支持部材を兼ねており、導光体20は、エクステンション部材30を介して、ランプボディ2に支持されている。
【0032】
エクステンション部材30は導光体20の形状に合わせて湾曲しており、その前面には、水平方向にのびるスリット31が形成されている。導光体20は、導光体本体40がスリット31に背面側から挿通した状態で、第1フランジ部41がおよび第2フランジ部42がエクステンション部材30の上下の嵌合溝32,33に嵌合することで、エクステンション部材30に固定される。
【0033】
導光体20の固定構造は、エクステンション部材30によって目隠しされ、導光体本体40のみが、スリット31から露出する。この露出した導光体20の前面22、上面23、底面24の三面は、光を出射する出射面として構成されている。導光体本体40は、光の出射領域を十分に確保ため、従来の導光体よりも前後方向に厚い構成(概ね厚さ10mm以上)となっている。
LED光源10が点灯すると、導光体20は三つの面から光を出射するため、単に表面のみから光が出射する場合よりも立体感があり、高級感が生じる。また、LED光源10の消灯時も、厚みのある導光体本体40の三次元的な形状が視認され、重厚な印象を与える。
【0034】
(導光体)
図4は導光体20の斜視図である。
図4においては、ステップ25は省略されている。
図4に示すように、所定の延出長をもって上下に伸びる第1フランジ部41および第2フランジ部42が、導光体本体40の長手方向の全長にわたって形成されている。両フランジ部(41,42)は導光体本体40と一体形成されており、長手方向に直行する導光体20の横断面形状は、長手方向のどの位置においても等しくなっている。フランジ部(41,42)は薄板状であり、厚肉な導光体本体40よりも薄肉に構成されている。
【0035】
ライン状の導光体を灯室S内に配置するため、取り付け部として、導光体本体に薄板状のフランジ部を形成する必要があるが、長手方向の一部にだけ取付け用のフランジ部が形成されると、フランジ部の部分で漏光しやすく、導光体の長手方向の明るさムラができてしまう。さらに、導光体本体の長手方向に直交するある一方向、例えば上方向にのみフランジ部が形成されると、成形時に全体の放熱が不均衡となり上方向に反ってしまう。これを避けるため、本実施形態の導光体20では、導光体本体40の上下方向の両方にフランジ部(41,42)を、長手方向の全長にわたって設けた。
【0036】
第1フランジ部41は、導光体本体40の上方に延出しており、その背面は導光体本体40の背面21と面一である。第2フランジ部42は、背面に向かって下方へ所定角度で傾斜する底面24と面一となるように背面側へ延出する傾斜部42aと、傾斜部42aから連続して下方へ屈曲して延びる鉛直部42bとから構成される。
【0037】
本発明における導光体は、ライン状に形成された厚肉の導光体本体と、その取り付け部として設けられた、長手方向に交差する方向に延出する薄肉のフランジ部とが、一体的に成形されていればよい。本実施形態のように、フランジ部が屈曲していても構わず、また導光体本体と面一で繋がっていても、段差をもって繋がっていてもよい。さらに、本実施形態においては、長手方向の明るさのムラ防止のために、フランジ部は長手方向の全長にわたって形成されていたが、長手方向の一部にだけ形成されていても構わず、延出長は一定ではなく、長手方向に延出長が変化する形態であっても問題ない。
【0038】
(成形金型)
次に、上記形態の導光体20の成形方法について説明する。導光体20は長手方向に伸びる三面が光の出射面として構成され、一般的な導光体よりも厚肉(10mm以上)となっている。
【0039】
図5は導光体20の成形金型100であり、入れ子80を内蔵する可動側金型60と、可動側金型60に向き合った状態で配置される固定側金型70とから主として構成される。可動側金型60は、固定側金型70に接近離反方向に移動可能にされる。
【0040】
可動側金型60には、図中の矢印方向DRに貫通する入れ子係合孔62が設けられている。入れ子80はステップ25成形用の成形面81を有し、入れ子係合孔62に係合して、図示しない駆動機構により矢印方向DRに摺動可能に構成されている。
【0041】
矢印方向DRは、水平方向から底面24の傾斜角度と同一角度で傾斜している。入れ子80の側縁部の一部は、第2フランジ部42の傾斜部42aの上面42a1(後述の
図7参照)を成形する成形面82として構成されている。本実施形態のように、入れ子80の可動方向は、水平方向または鉛直方向に限定されない。また、本実施形態では矢印方向DRは型締め方向であるが、型締め方向に限らず、入れ子80に油圧機構などを金型に組み込んだ場合、任意の方向で移動させることもできる。
【0042】
2つの金型(60,70)の対向面には、入れ子に設けられた成形面81,82と協働して、導光体20用の成形空間Cを画成する成形面61,71が形成されている。
【0043】
(成形方法)
このような形態の成形金型100を用いた導光体20の成形方法を説明する。
【0044】
まず、
図6(A)に示すように、型締め工程として、可動側金型60と固定側金型70を型締めする。このとき、入れ子80は、第1フランジ部41の背面を成形する成形面61aと面一となるセット位置よりも、距離Dだけ固定側金型70から離反する方向(
図6(A)中の矢印方向)へ移動させて保持しておく(セットバック)。
【0045】
入れ子80がセットバックされる距離Dは1mm以下程度、具体的には0.1mm~0.5mm程度であり、このセットバックにより発生する余剰空間Rの体積は、導光体20(詳しくは導光体本体40)が冷却収縮して減少する体積分に相当する。導光体20の寸法や体積、導光体20を構成する樹脂部材の液体から個体へ凝固する際の収縮率から、距離Dは算出される。
【0046】
型締めされた成形金型100の内部には、従来の成形空間Cに、余剰空間Rを追加した成形空間C´が画成される。
【0047】
次に、
図6(B)に示すように、樹脂射出工程として、図示しないゲートを介して、成形空間C´に溶解した透過性樹脂部材が射出される。入れ子80のセットバックによる追加分、即ち、冷却して減少する体積分も補填されて充填される。
【0048】
次に、
図6(C)に示すように、圧縮工程として、樹脂部材を成形空間C´に充填後、図示しないゲートを閉鎖し、入れ子80を固定側金型70に向けて(
図6(C)中の矢印方向)移動させ、充填された樹脂部材を圧縮する。第1フランジ部41背面を成形する成形面61aと面一となるセット位置まで、入れ子80を距離Dだけ移動させる。セットバックさせていた入れ子80を、樹脂材料の充填後に元のセット位置まで戻すことで、狙い通りの形状の導光体20を得ることができる。
【0049】
圧縮のために移動させた入れ子80は、成形後に成形品を取り出すため金型を開く型開き工程、または型締め工程において、
図6(A)に示される位置まで戻される。
【0050】
(作用効果)
従来の成形方法では、導光体に対応する成形空間Cそのものを金型内部に画成して、そこに溶解樹脂を射出して、成形品である導光体を成形する。しかし、導光体20のような10mm以上の厚肉な成形品の場合、従来の成形方法では、外面が冷えても内部は熱いまま温度が下がりにくく、熱はけの悪さからヒケが発生しやすかった。特にレンズや導光体においては、出射面や入射面、あるいは反射面にヒケが発生し、見栄えが損なわれると共に、所望の配光が得られないという問題があった。さらに、厚肉な成形品では、体積も大きくなるため、冷却収縮による体積減少量も比較的大きなものとなり、ヒケや反りが発生しやすい。導光体では反射面を精度よく成形する必要がある。
【0051】
これに対し、従来の方法として、可動側金型そのものを型締め方向に駆動して、全体を圧縮する工程をもつ成形方法があるが、例えば本実施形態の導光体20のように、厚肉部である導光体本体40と、薄肉部であるフランジ部(41,42)との、両方を備える成形品では、薄肉部がすぐに冷えて固化するため、溶解樹脂全体を圧縮できない。厚肉部が冷えるまで高い保圧(射出圧力)をかけて収縮を減らす方法では、そもそも、薄肉部がすぐに固化するため保圧が効かず、それでも高い圧力をかけると成形品にクラックが発生するという問題があった。
【0052】
このため、本実施形態においては、厚肉な導光体本体40の反射面を形成する一面(背面21)を成形面とする入れ子80をセットバックさせ、減少する体積を補填した成形空間C´を画成し、ここへ溶解樹脂部材を充填し、セットバック分を戻すことで、減少分を圧縮して、導光体20を成形した。圧縮面である入れ子80の成形面81は、導光体本体40の一面に対応しており、薄肉部であるフランジ部(41,42)に圧力をかけずに、ヒケの発生しやすい厚肉部の導光体本体40にだけ圧縮することができる。これにより、成形不具合の発生を抑えて、所望の形状の導光体20を成形できる。
【0053】
本実施形態では、反射面である導光体本体40の背面21をセットバックして押圧する一面とした。これは入れ子の成形面は、スタンパ(不図示)を用いて転写面とするため、これを利用した。
【0054】
(押圧痕)
上記方法で圧縮されて成形された導光体20には、従来の成形品と比べ、入れ子80により圧縮された痕跡が残っている。これを
図7および
図8にて説明する。
図7および
図8においては、高さや幅は、実際の比率を反映したものでなく、構成を模式的表したものである。またステップ25は省略されている。
【0055】
図7(A)は導光体20の背面斜視図、
図7(B)はその部分拡大部である。例えば、
図7(A)および
図7(B)において薄墨で塗りつぶした領域ARは、入れ子80により押圧された領域(入れ子80の成形面81によって成形・押圧される背面21)であり、表面には押圧痕が顕在している。押圧痕は肉眼では確認することができないが、顕微鏡等で表面を拡大観察することで、虹模様として把握することができる。
【0056】
図7(B)に示すように、傾斜部42aの上面42a1には、領域ARに向かって無数に走る摺動痕91が確認される。摺動痕91は、所定の幅W1で、領域ARに沿って帯状に存在する。所定の幅W1は入れ子80のセットバックの距離Dに等しく、入れ子80の成形面82が上面42a1を摺動した痕跡として確認される。
【0057】
また、領域ARの上方には、領域ARから突出する極小リブ92がライン状に形成されている。極小リブ92は極めて小さなバリであり、導光体20の光学性能に影響を与える大きさではないため、バリ取りの必要はなく、切除されることなくそのまま導光体20に残存している。
【0058】
極小リブ92の発生の仕組みを、
図8を用いて説明する。
図8は、
図5のB部拡大図である。
図8(A)は樹脂射出工程時であり、
図8(B)から
図8(C)にかけて、圧縮工程が実施されている(
図6参照)。
【0059】
可動側金型60の入れ子係合孔62に入れ子80は係合しているが、非常にミクロな視点においては、両者は隙なく密着することはできず、少なくとも開口部付近においては、可動側金型60と入れ子80の間には、距離H1ほどの僅かな隙間が発生する(
図8(A)参照)。
【0060】
距離H1は極めて小さく、入れ子80がセットバックされた状態で保持された樹脂射出工程時には、可動側金型60と入れ子80の隙間に、粘性のある溶解樹脂材料が入り込むことはない。
【0061】
しかし、セットアップされた入れ子80が距離Dだけ押し込まれる際に、入れ子80の成形面81に押圧された樹脂材料が、一部は圧縮され、一部は意図せずこの隙に入り込み、極小リブ92を形成する(
図8(B)および
図8(C)参照)。
【0062】
このため、極小リブ92は、成形面81で押圧される面の周縁から突出するバリとなる。本実施形態においては、領域ARの下方は第2フランジ部42が存在するため、極小リブ92は、領域ARの上方にのみライン状に形成される。
【0063】
極小リブ92の幅H2は入れ子80と可動側金型60との隙間の距離H1と等しく、その突出長Tもセットバックの距離Dよりも小さいものとなっている。このため、突出長Tは0.5mm以下と、極めて小さい。
【0064】
また、極小リブ92は、入れ子80に摺動されながら形成されるため、入れ子80と接する極小リブ92の底面92aには、傾斜部42aの上面42a1に形成された摺動痕91と同様に、領域ARに向かって伸びる無数の摺動痕が確認される。
【0065】
(変形例)
図7のゲート部Gに示すように、射出成形のゲート部は、薄肉部であるフランジ部(42,41)に設けることが好ましい。これは、厚肉部である導光体本体40は、光学的に重要な部位であり、取り付け部であるフランジ部(41,42)にゲート部Gを設けることで、ゲート痕など、光学性能への悪影響を防止することができる。
【0066】
本発明の成形方法は、導光体にかぎらず、レンズにも適用できる。例として、
図9にターンシグナルランプTL´を示す。僅かに湾曲したライン状のレンズ120の背面側に複数個のLED110を並設して、このLED110を順番に点灯させて、一方向に移動する光を前方に出射する。レンズ120は、レンズ本体140と上下方向に取り付け用のフランジ部(141,142)を備える。レンズ本体140は遠方へ光を出射するために厚肉であり、フランジ部(141,142)は相対的に薄肉となっている。このようなレンズ120にも、同様の成形方法を使用できる。
【0067】
また、上記の実施形態に限定されず、クリアランスランプ、ストップランプ、カウルランプ、コーナリングランプ、フォグランプ等、各種車両用灯具に備えられるライン状の導光体やレンズにも本発明は幅広く適用することができる。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について述べたが、上記の実施形態は本発明の一例であり、これらを当業者の知識に基づいて組み合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
20 :導光体
21 :背面
40 :導光体本体
41 :第1フランジ部
42 :第2フランジ部
42a1 :上面
60 :可動側金型
61a :成形面
70 :固定側金型
80 :入れ子
81 :成形面
91 :摺動痕
92 :極小リブ
100 :成形金型
120 :レンズ
AR :領域
C´ :成形空間
R :余剰空間