IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゼロックス コーポレイションの特許一覧

特許7399736画像形成ブランケット及び画像形成ブランケットを使用する可変データリソグラフィシステム
<>
  • 特許-画像形成ブランケット及び画像形成ブランケットを使用する可変データリソグラフィシステム 図1
  • 特許-画像形成ブランケット及び画像形成ブランケットを使用する可変データリソグラフィシステム 図2
  • 特許-画像形成ブランケット及び画像形成ブランケットを使用する可変データリソグラフィシステム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】画像形成ブランケット及び画像形成ブランケットを使用する可変データリソグラフィシステム
(51)【国際特許分類】
   B41N 10/04 20060101AFI20231211BHJP
   B41M 1/06 20060101ALI20231211BHJP
   B41F 7/00 20060101ALI20231211BHJP
   B41F 31/02 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
B41N10/04
B41M1/06
B41F7/00
B41F31/02 A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020021145
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2020142505
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】16/296,045
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100167911
【弁理士】
【氏名又は名称】豊島 匠二
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルン・サンビー
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー・ディー・レディング
(72)【発明者】
【氏名】サントク・エス・バデシャ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・ジェイ・ニストロム
(72)【発明者】
【氏名】リナ・ビアン
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0341452(US,A1)
【文献】特開2016-117277(JP,A)
【文献】特開2005-122192(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0337184(US,A1)
【文献】特開2006-159822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 10/04
B41M 1/06
B41F 7/00
B41F 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成ブランケットであって、
弾性ポリマーと硫黄と、を含むベースと、
前記ベース上のバリア層と、
前記バリア層上の表層であって、前記表層は、エラストマーと白金触媒と、を含む表層と、を備える画像形成ブランケット。
【請求項2】
前記ベースが、多層ベースである、請求項1に記載の画像形成ブランケット。
【請求項3】
前記弾性ポリマーが、ニトリルブタジエンゴムである、請求項1に記載の画像形成ブランケット。
【請求項4】
前記バリア層が、エポキシポリマーを含む、請求項1に記載の画像形成ブランケット。
【請求項5】
前記バリア層が、架橋エポキシポリマーを含む、請求項1に記載の画像形成ブランケット。
【請求項6】
前記エラストマーが、フルオロシリコーンエラストマーである、請求項1に記載の画像化ブランケット。
【請求項7】
前記表層が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛、炭素繊維、及び金属酸化物からなる群から選択される1つ以上の赤外線吸収材料を更に含む、請求項1に記載の画像形成ブランケット。
【請求項8】
前記表層が、シリカを更に含む、請求項7に記載の画像形成ブランケット。
【請求項9】
(i)前記ベースと前記バリア層と、及び(ii)前記バリア層と前記表層と、のうちの一方又は両方の間に配置されたプライマー層を更に含む、請求項1に記載の画像形成ブランケット。
【請求項10】
前記バリア層が、約5マイクロメートル~約100マイクロメートルの範囲の厚さを有する、請求項1に記載の画像形成ブランケット。
【請求項11】
可変データリソグラフィシステムであって、
画像形成ブランケットを含む画像形成部材であって、前記画像形成ブランケットは、
トップ層を含むベースであって、前記トップ層は、弾性ポリマーと硫黄とを含む、ベースと、
前記トップ層上のバリア層と、
前記バリア層上の表層であって、前記表層は、エラストマーと白金触媒とを含む、表層と、を含む、画像形成部材と、
前記表層に湿し水の層を塗布するように構成されている湿し水サブシステムと、
前記湿し水層の部分を選択的に除去して前記湿し水中に潜像を生成するように構成されているパターニングサブシステムと、
インクを前記画像形成ブランケット上に塗布するように構成されており、結果として、湿し水が前記パターニングサブシステムによって除去された前記画像形成ブランケットの領域を前記インクが選択的に占有し、それによってインクを塗布した潜像を生成するインキングサブシステムと、
前記インクを塗布した潜像を基材に転写するように構成されている画像転写サブシステムと、を備える、可変データリソグラフィシステム。
【請求項12】
前記エラストマーが白金触媒フルオロシリコーンを含む、請求項11に記載の可変データリソグラフィシステム。
【請求項13】
前記弾性ポリマーがニトリルブタジエンゴムである、請求項11に記載の可変データリソグラフィシステム。
【請求項14】
前記バリア層がエポキシポリマーを含む、請求項11に記載の可変データリソグラフィシステム。
【請求項15】
前記バリア層が、架橋エポキシポリマーを含む、請求項11に記載の可変データリソグラフィシステム。
【請求項16】
(i)前記ベースと前記バリア層と、及び(ii)前記バリア層と前記表層と、のうちの一方又は両方の間に配置されたプライマー層を更に含む、請求項11に記載の可変データリソグラフィシステム。
【請求項17】
前記バリア層が、約5マイクロメートル~約100マイクロメートルの範囲の厚さを有する、請求項11に記載の可変データリソグラフィシステム。
【請求項18】
画像形成ブランケットを作製する方法であって、前記方法は、
トップ層を含むベースを提供することであって、前記トップ層は、弾性ポリマーと硫黄とを含む、ことと、
前記トップ層上にバリア層を堆積させることと、
前記バリア層上にエラストマー樹脂を堆積させることであって、前記エラストマー樹脂は白金触媒を含む、ことと、
前記エラストマー樹脂を硬化させて表層を形成することと、を含む、方法。
【請求項19】
前記バリア層が、前記硬化時に前記表層への硫黄の有意な移動を防止する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記バリア層がエポキシポリマーを含む、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マーキングシステム及び印刷システムに関し、より具体的には、このようなシステムの像伝達素子に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセットリソグラフィは、今日の印刷の一般的な方法である。従来のリソグラフィ技術及びオフセット印刷技術は、印刷される画像(又はそのネガ)で恒久的にパターン化されたプレートを利用し、したがって、雑誌、新聞などの同じ画像の多数のコピーを印刷する場合(長時間の印刷)にのみ有用である。これらの方法は、印刷シリンダ及び/又は画像形成プレートを取り外し、交換することなく、あるページから次のページへ異なるパターンを印刷すること(本明細書では可変印刷と称される)を可能にしない(例えば、この技術は、(例えば、デジタル印刷システムの場合と同様に)刷間で画像が変わる真の高速可変印刷に適合することができない)。
【0003】
画像形成ブランケットは、例えば、カーカスとして知られる基材などのシームレスに設計されたゴム基材を用いる。しかしながら、NBR(ニトリルブタジエンゴム)をベースとするリソ/フレキソ産業で使用される既存のカーカスを含む、他の種類のカーカスが利用可能である。これらのNBRゴムカーカスは、架橋剤として使用される硫黄を有する。これらのNBRゴムカーカスは安価であるため、画像形成ブランケット用基材として用いることが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の実施形態は、画像形成ブランケットに関する。画像形成ブランケットは、弾性ポリマー及び硫黄を含むベースと、ベース上のバリア層と、バリア層上の表層と、を含む。表層は、エラストマー及び白金触媒を含む。
【0005】
本開示の別の実施形態は、画像形成部材を含む可変データリソグラフィシステムに関する。画像形成部材は、画像形成ブランケットを含む。画像形成ブランケットは、トップ層を含むベースであって、トップ層が弾性ポリマーと、硫黄と、を含む、ベースと、トップ層上のバリア層と、バリア層上の表層と、を含む。表層は、エラストマー及び白金触媒を含む。可変データリソグラフィシステムは、表層に湿し水の層を塗布するように構成された湿し水サブシステムと、湿し水層の部分を選択的に除去して、湿し水中に潜像を生成するように構成されたパターニングサブシステムと、湿し水がパターニングサブシステムによって除去された画像形成ブランケットの領域をインクが選択的に占有して、それによって、インクを塗布した潜像を生成するように、インクを画像形成ブランケット上に塗布するように構成されたインキングサブシステムと、インクを塗布した潜像を基材に転写するように構成された画像転写サブシステムと、を更に備える。
【0006】
本開示の更に別の実施形態は、画像形成ブランケットの製造方法に関する。本方法は、トップ層を含むベースを提供することを含み、トップ層は、弾性ポリマー及び硫黄を含む。バリア層は、トップ層上に堆積される。エラストマー樹脂は、バリア層上に堆積され、エラストマー樹脂は白金触媒を含む。エラストマー樹脂を硬化させて表層を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本明細書に開示される様々な実施形態による可変データリソグラフィシステムの側面図である。
図2】本明細書に開示される様々な実施形態による多層画像形成ブランケットの側面線図である。
図3】本明細書に開示される様々な追加の実施形態による多層画像形成ブランケットの側面線図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
用語「シリコーン」は、当業者には周知であり、ケイ素原子及び酸素原子から形成される骨格を有するポリオルガノシロキサン、並びに炭素原子及び水素原子を含有する側鎖を有するポリオルガノシロキサンを指す。本出願の目的のために、用語「シリコーン」はまた、フッ素原子を含有するシロキサンを除外すると理解されるべきであり、一方、用語「フルオロシリコーン」は、フッ素原子を含有するシロキサン類を含めるために使用される。他の原子、例えば、架橋中にシロキサン鎖を一緒に結合するために使用されるアミン基中の窒素原子などがシリコーンゴム中に存在してもよい。
【0009】
本明細書で使用するとき、用語「フルオロシリコーン」は、ケイ素原子及び酸素原子から形成される骨格を有するポリオルガノシロキサン、並びに炭素原子、水素原子、及びフッ素原子を含有する側鎖を指す。少なくとも1つのフッ素原子が、側鎖中に存在する。側鎖は、直鎖、分枝鎖、環状、又は芳香族であり得る。フルオロシリコーンはまた、付加架橋を可能にするアミノ基などの官能基を含有してもよい。架橋が完了すると、そのような基は、フルオロシリコーン全体の骨格の一部となる。ポリオルガノシロキサンの側鎖はまた、アルキル又はアリールであってもよい。フルオロシリコーンは、市販されている(例えば、NuSilからのCFl-3510、又はWackerからのSLM(n-27))。
【0010】
用語「媒体基材」、「印刷基材」、及び「印刷媒体」は、一般に、事前切断又はウェブ供給されるかどうかにかかわらず、通常、画像用の紙、ポリマー、マイラー材料、プラスチック、又は他の好適な物理的印刷媒体基材、シート、ウェブなどの柔軟な物理的シートを指す。
【0011】
本明細書で使用するとき、用語「印刷装置」又は「印刷システム」は、デジタル複写機若しくはプリンタ、スキャナ、画像印刷機、電子写真装置、静電写真装置、デジタル生産プレス、文書処理システム、画像再生機、製本機械、ファクシミリ機、複合機、又は一般的に、印刷プロセスなどを実行するのに有用な装置を指し、いくつかのマーキングエンジン、供給機構、走査アセンブリ、並びに給紙装置、フィニッシャなどの他の印刷媒体処理ユニットを含むことができる。「印刷システム」は、シート、ウェブ、基材などを取り扱うことができる。印刷システムは、任意の表面などにマークを置くことができ、入力シート上のマークを読み取る任意の機械、又はそのような機械の任意の組み合わせである。
【0012】
以下に定義される全ての物理的特性は、特に指定のない限り、20℃~25℃で測定される。用語「室温」は、特に指定しない限り、25℃を指す。
【0013】
フルオロシリコーン組成物は、インクベースのデジタルオフセット印刷又は可変データリソグラフィ印刷システムに関して本明細書で論じられているが、フルオロシリコーン組成物の実施形態、又はそれを使用して画像形成部材を製造する方法は、インクベースのデジタルオフセット印刷又は可変データリソグラフィ印刷システム以外の印刷用途を含む他の用途に使用することができる。
【0014】
本明細書で言及される例の多くは、印刷用にインクパターン化される、均一に粒状化されテクスチャ加工されたブランケット表面を有する画像形成ブランケット(例えば、印刷スリーブ、ベルト、ドラム上で使用される画像形成ブランケットなどを含む)に関する。‘212号公報に開示されているような可変データリソグラフィ印刷の更に別の例では、低デュロメータポリマーの画像形成ブランケットを有するダイレクトセントラル印圧ドラムを使用することができ、その上に例えば潜像を形成してインクを塗ることができる。
【0015】
図1は、可変データリソグラフィ印刷システム10を示す。図1に示される例示的なシステム10の概要をここに提供する。図1の例示的なシステム10に示される個々の構成要素及び/又はサブシステムに関する更なる詳細は、‘212公報に見出すことができる。図1に示されるように、例示的なシステム10は、転写ニップ14において、インク画像をターゲット受像媒体基材(target image receiving media substrate)16に適用するために使用される画像形成部材12を含んでもよい。転写ニップ14は、画像転写機構30の一部として押圧ローラー18によって生成され、画像形成部材12の方向に圧力をかける。
【0016】
画像形成部材12は、例えば円筒形コア、又は円筒形コア上の1つ以上の構造層であり得る構造取付層の上に形成された画像再形成可能な表層又はプレートを含んでもよい。一般に均一な厚さを有する、湿し流体又は湿し水の層で、画像再形成可能な表面を均一に濡らすために、湿しローラー又は湿しユニットとみなすことができる一連のローラーを一般的に備える湿し水サブシステム20が、画像形成部材12の画像再形成可能な表面に提供されてもよい。湿し流体又は湿し水が画像再形成可能な表面上に計量されると、湿し流体又は湿し水の層の厚さは、画像再形成可能な表面上への湿し流体又は湿し水の計量を制御するためのフィードバックを提供するセンサ22を使用して測定することができる。
【0017】
光学パターニングサブシステム24は、例えばレーザーエネルギーを使用して湿し水層を像様パターニングすることによって、均一な湿し水層に潜像を選択的に形成するために使用され得る。画像再形成可能な表面に近接して、光学パターニングサブシステム24から放出されるIR又はレーザーエネルギーの理想的には大部分を吸収することが望ましい材料から、画像形成部材12の画像再形成可能な表面を形成することが有利である。このような材料の表面を形成することは、有利には、湿し水を加熱する際に浪費されるエネルギーを実質的に最小化し、高い空間分解能を維持するために、同時に熱の横方向の広がりを最小化するのを助けることができる。簡潔に述べると、光学パターニングサブシステム24からの光学パターニングエネルギーの適用は、潜像を生成する方法で、湿し水の均一層の部分の選択的な蒸発をもたらす。
【0018】
次いで、画像形成部材12の画像再形成可能な表面上に潜像を有する湿し水のパターン化層を、インクローラーサブシステム26に提示又は導入する。インクローラーサブシステム26は、湿し水のパターン化層及び画像形成部材12の画像再形成可能な表面上に均一なインク層を塗布するために使用可能である。いくつかの実施形態では、インクローラーサブシステム26は、アニロックスローラーを使用して、画像形成部材12の画像再形成可能な表面と接触している1つ以上のインク形成ローラー上にインクを計量することができる。他の実施形態では、インクローラーサブシステム26は、画像再形成可能な表面にインクの正確な供給速度を提供するための一連の計量ローラーなどの他の従来の要素を含んでもよい。インクローラーサブシステム26からのインクは、上部に湿し水を有しない画像再形成可能な表面の領域に付着してインク画像を形成し、一方、湿し水層が残っている画像再形成可能な表面の領域に堆積されるインクは、画像再形成可能な表面に付着しない。
【0019】
画像再形成可能なプレート表面上に存在するインクの凝集性及び粘度は、レオロジー制御サブシステム28のいくつかの方法の使用によるものを含む多数の機構によって改質されてもよい。いくつかの実施形態では、レオロジー制御サブシステム28は、画像再形成可能なプレート表面上のインクの部分的架橋コアを形成して、例えば、画像再形成可能なプレート表面とのインクの接着強度に対するインク凝集力を増加させることができる。いくつかの実施形態では、特定の硬化機構が使用されてもよい。これらの硬化機構としては、例えば、光学若しくは光硬化、熱硬化、乾燥、又は様々な形態の化学硬化を挙げることができる。冷却は、複数の物理的、機械的、又は化学的冷却機構を介して、転写されたインクのレオロジーを改質するためにも使用され得る。
【0020】
基材マーキングは、転写サブシステム30を使用して、インクが画像形成部材12の画像再形成可能な表面から媒体基板16に転写される際に生じる。レオロジー制御システム28によって改質されたインクの付着性及び/又は凝集力を用いると、改質されたインクの付着性及び/又は凝集力によって、インクが転写ニップ14において画像形成部材12の画像再形成可能な表面から分離する際に、インクは媒体基材16に実質的に完全に優先的に付着しながら転写する。とりわけ、転写ニップ14における温度及び圧力条件を慎重に制御することによって、画像形成部材12の画像再形成可能なプレート表面から媒体基材16へのインクの転写効率が、例えば、95%を超えることを可能にし得る。いくつかの湿し水はまた、基材16も濡らす可能性があるが、そのような転写された湿し水の体積は、一般に、基材16によって急速に蒸発するか、ないしは別の方法で吸収されるために最小限になるであろう。
【0021】
最後に、画像転写のための上記のサイクルを繰り返すために画像形成部材12の画像再形成可能な表面を準備し、調整することを意図した方法で、画像再形成可能な表面からの非転写残留インク及び/又は残りの湿し水を含む残留製品を除去するために、洗浄システム32が提供される。エアナイフを使用して、残留湿し水を除去してもよい。しかしながら、いくらかの量のインク残留物が残っていてもよいことが予想される。このような残りのインク残留物の除去は、洗浄サブシステム32によって達成されてもよい。洗浄サブシステム32は、例えば、画像形成部材12の画像再形成可能な表面と物理的に接触している、ねばねば又はべとべとする部材などの少なくとも第1の洗浄部材を含んでもよく、ねばねば又はべとべとする部材は、画像形成部材12の画像再形成可能な表面の湿し水から残留インク及び残りの少量の界面活性剤化合物を除去する。次いで、ねばねば又はべとべとする部材は、ねばねば又はべとべとする部材から残留インクが転写され得るスムーズなローラーと接触させられてもよく、インクは、その後、例えばドクターブレードによってスムーズなローラーから剥離される。任意の他の好適な洗浄システムを使用することができる。
【0022】
使用される洗浄システムの種類にかかわらず、画像形成部材12の画像再形成可能な表面からの残留インク及び湿し水の洗浄は、提案されるシステムにおける残留画像のリスクが印刷されるのを防止又は低減することができる。洗浄されると、画像形成部材12の画像再形成可能な表面は、湿し水の新鮮な層が画像形成部材12の画像再形成可能な表面に供給され、プロセスが繰り返される湿し水サブシステム20に再び提示される。
【0023】
図2は、例えば、画像形成部材12の一部として、画像形成部材と共に使用するための画像形成ブランケット100の一部分の断面図を示す。例えば、画像形成部材12は、印刷スリーブの一部として画像形成ブランケット100が挿入される印刷シリンダ又はドラムの形態であってもよい。印刷スリーブ及び印刷シリンダ又はドラムは、当該技術分野において一般的に周知である。画像形成ブランケット100は、弾性ポリマー層及び硫黄を含むベース102を含む。弾性ポリマー層及び硫黄は、ベース102の最上面103にあるか、又はその十分近くにあることができ、その結果、硫黄は、ベース102から最上面103上に形成された隣接する層へと拡散することができる。バリア層105は、ベース102上に配置される。表層104は、バリア層105上に配置され、表層104はエラストマー及び白金触媒を含む。任意選択のプライマー層106は、(i)ベース102とバリア層105、及び(ii)バリア層105と表層104のうちの1つ又は両方の間に配置され得る。
【0024】
ベース102は、画像形成部材12と共に使用するための任意の好適な方法で構成された単一層又は多層のベースとすることができる。ベースの少なくとも1つの層は、弾性ポリマー及び硫黄を含む。このような弾性ポリマーの一例は、架橋剤として硫黄を用いるニトリルブタジエンゴムである。
【0025】
バリア層105は、他の層への硫黄拡散を十分に遮断することができ、そうでなければ、画像形成ブランケット100の一部として使用するのに好適な任意の材料を含む。好適な材料の一例は、エポキシポリマーである。一液型又は二液型のエポキシ配合物を使用することができる。エポキシの架橋は、硫黄の拡散を阻害又は低減するためのバリア層105の有効性を高めることができると考えられる。したがって、一実施形態では、エポキシは架橋エポキシである。
【0026】
バリア層105は、硫黄を十分に遮断することができる任意の厚さを有することができる。一例として、厚さは、約5マイクロメートル~約100マイクロメートルの範囲、例えば、約5マイクロメートル~約80マイクロメートル、又は約10マイクロメートル~約60マイクロメートル、又は約10マイクロメートル~約50マイクロメートル、又は約10マイクロメートル~約25マイクロメートルなど、であり得る。
【0027】
表層104は、白金触媒を用いて硬化されるフルオロシリコーンエラストマーなどのエラストマーを含む。硬化後、白金触媒は、表層104の一部として残る。好適なフルオロシリコーンエラストマーの例は、以下により詳細に記載される。
【0028】
バリア層105がないと、下にあるベース102からの硫黄は、硬化時に表層104内に拡散し、表層104の架橋能力を阻害又は低減する恐れがある。不十分な架橋は、表層104に構造的一体性を欠かせることがあるという点で問題である。硬化時の表層104への硫黄の拡散を阻害又は低減することにより、バリア層105は、表層104のエラストマーが十分に架橋することを可能にし、それによってそのような問題を防止又は低減する。
【0029】
表層104は、赤外線吸収材料を更に含む。カーボンブラック、酸化鉄(FeO)などの金属酸化物、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛、及び炭素繊維からなる群から選択される1つ以上の材料など、任意の好適な赤外線吸収材料を用いることができる。IR吸収性フィラーは、約2ナノメートル(nm)~約10μmの平均粒径を有し得る。一実施形態では、IR吸収性フィラーは、約20nm~約5μmの平均粒径を有し得る。別の実施形態では、フィラーは、約100nmの平均粒径を有する。実施形態では、IR吸収性フィラーはカーボンブラックである。一実施形態では、IR吸収性フィラーは、Emperor 1600(Cabotから入手可能)などの低硫黄カーボンブラックである。一実施形態では、カーボンブラックの硫黄含有量は、0.3%以下である。一実施形態では、カーボンブラックの硫黄含有量は、0.15%以下である。
【0030】
一実施形態では、表層104はまた、シリカを含む。例えば、表層104は、表層組成物の総重量に基づいて、約1重量パーセント~約5重量パーセントのシリカを含むことができる。別の実施形態では、表層は、約1重量%~約4重量%のシリカを含む。更に別の実施形態では、表層は、表層組成物の総重量に基づいて約1.15重量パーセントのシリカを含む。シリカは、約10nm~約0.2μmの範囲の平均粒径を有し得る。一実施形態では、シリカは、約50nm~約0.1μmの平均粒径を有し得る。別の実施形態では、シリカは、約20nmの平均粒径を有する。
【0031】
一実施形態では、表層104は、印刷システム全体の要件に応じて、約10マイクロメートル(μm)~約1ミリメートル(mm)の厚さを有してもよい。他の実施形態では、画像形成部材表層は、約20μm~約200μmの厚さを有する。一実施形態では、表層の厚さは、約40μm~約60μmである。別の実施形態では、表層の厚さは、約80μm~約150μmである。
【0032】
一実施形態では、表層は、5ダイン/cm以下の極性成分を有する22ダイン/cm以下の表面エネルギーを有してもよい。他の実施形態では、表層は、2ダイン/cm以下の極性成分を有する21ダイン/cm以下の表面エネルギー、又は1ダイン/cm以下の極性成分を有する19ダイン/cm以下の表面エネルギーを有する。
【0033】
任意選択のプライマー層106は、層間の密着性を改善する任意の好適な材料を含み得る。プライマー材料の一例は、シロキサンである。一実施形態では、プライマー層106は、オクタメチルトリシロキサン(例えば、Henkelから市販されているS11 NC)を含む。加えて、当業者に容易に理解されるように、更に改善された密着性のために、インラインコロナ処理をベース102及び/又はプライマー層106に適用することができる。このようなインラインコロナ処理は、画像形成ブランケット層の表面エネルギー及び密着性を強化することができる。
【0034】
プライマー層の厚さは、約0.01マイクロメートル~約2マイクロメートル、例えば、約0.1マイクロメートル~約1.5マイクロメートル、又は約0.5マイクロメートル~約1マイクロメートルの範囲であり得る。プライマー層は、表層104から硫黄を効果的に遮断するのに十分な厚さではない。
【0035】
図3は、本開示の一実施形態による可変データリソグラフィ印刷システムの画像形成ブランケットを示す。画像形成ブランケットは、ベース102と、表層104と、その間にあるバリア層105とを有する多層ブランケット100である。ベース102は、表層104を支持するよう意図的に設計された画像形成ブランケットの内部にあるカーカスである。
【0036】
ベース102は、底部布地層108と、底部布地層108上の中央布地層110と、中央布地層110の周囲の上部布地層112と、上部布地層112の上方のトップベース層114とを含む多層カーカスを含んでもよい。更に、ベース102の多層カーカスは、中央布地層110の両側に結合層116を含んでもよく、結合層116のうちの1層は、底部布地層108及び中央布地層110を結合し、結合層116のうちの第2の層は、中央布地層110及び上部布地層112を結合する。1層又は両方の結合層116は、圧縮性ゴム層118を含み得る。
【0037】
底部布地層108は、印刷シリンダ(図示せず)に直接的又は間接的に接触するように構成された下側接触面を有する織布(例えば、綿、綿及びポリエステル、ポリエステル)であってもよい。多層画像形成ブランケットは、印刷シリンダの周りに配置されて、例えば画像形成部材12を形成する。中央布地層110はまた、底部布地層108のような織布であってもよい。中央布地層110及び底部布地層108の両方は、150~250g/mの範囲の坪量値を有してもよい。上部布地層112は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド、ガラス繊維、ポリプロピレン、ビニル、ポリフェニレン、硫化物、アラミド、綿繊維、又はこれらの任意の組み合わせを含んでもよく、好ましくは35~45mmの厚さ値及び80~90g/mの坪量値を含んでもよい。
【0038】
結合層116のそれぞれは、好ましくは、任意追加的に硫黄を含有するニトリルブタジエンゴムをベースとする、ポリマー接着性ゴム(polymeric adhesive rubber)から作製され得る、布地層108、110、112のうちの少なくとも1つに隣接する接着剤層を含む。圧縮性ゴム層118は、好ましくは、膨張剤を添加することによって変性されたニトリルブタジエンゴムで、ポリマー発泡体から作製されてもよい。層118は、任意に硫黄を含んでもよく、例えば、ニトリルブタジエンゴムを有するポリマー発泡体は硫黄を含む。
【0039】
トップベース層114は、硫黄を含む弾性ポリマー(例えば、ゴム)材料を含む。硫黄は、架橋剤として用いることができる。好適な弾性ポリマーの一例は、硫黄を架橋剤として用いるニトリルブタジエンゴムである。
【0040】
ベース102のトップベース層114上にバリア層105を適用する前に、ベース102とバリア層105との間の層間接着を改善するために、プライマー層(図3には示されていない)を、トップベース層114に任意選択的に適用することができる。プライマー層106のプライマーの一例は、主成分がオクタメチルトリシロキサン(例えば、Henkelから市販されているS11 NC)であるシロキサン系プライマーである。必要に応じて、バリア層105と表層104との間にプライマー層106を適用することができる。加えて、当業者に容易に理解されるように、更に改善された密着性のために、インラインコロナ処理をベース102、バリア層105及び/又は任意選択のプライマー層106に適用することができる。このようなインラインコロナ処理は、画像形成ブランケット層の表面エネルギー及び密着性を強化することができる。
【0041】
バリア層105は、硬化時の他の層への硫黄拡散を十分に遮断することができ、そうでなければ、画像形成ブランケット100の一部として使用するのに好適な任意の材料を含む。本明細書に記載されるバリア層材料のいずれも、図3のバリア層105として使用することができる。バリア層105は、本明細書に記載されるバリア層厚さのいずれかを含む、硬化条件で硫黄を十分に遮断することができる任意の厚さを有することができる。
【0042】
図3の表層104は、白金触媒を使用して硬化される任意の好適なエラストマー材料を用いることができ、画像形成部材表層として効果的に機能する。一実施形態では、エラストマーはフルオロシリコーンエラストマーである。
【0043】
一実施形態では、図2及び図3の両方に示されているような表層104は、第1のパート及び第2のパートから製造されるフルオロシリコーン材料を含む。第1のパート(パートA)は、フルオロシリコーン、IR吸収性フィラー、シリカ、及び溶媒を含んでもよい。第2のパート(パートB)は、ビニル基を有する白金触媒、ヒドロシラン基を有する架橋剤、溶媒及び阻害剤を含んでもよい。パートBにおけるビニル基のヒドロシラン基に対する比モル比は、約1:1である。
【0044】
パートAのフルオロシリコーンは、ビニル末端トリフルオロプロピルメチルシロキサンポリマー(例えば、Wacker 50330、SML(n=27))を含んでもよく、以下の式1に示される。
【0045】
【化1】
【0046】
式中、nは、10~100、又は15~90、又は18~80の範囲であり得る。
【0047】
実施形態において、パートAのIR吸収性フィラーは、カーボンブラック、酸化鉄(FeO)などの金属酸化物、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛、又は炭素繊維からなる群から選択される1つ以上のフィラーであってもよい。IR吸収性フィラーは、約2ナノメートル(nm)~約10μmの平均粒径を有し得る。一実施形態では、IR吸収性フィラーは、約20nm~約5μmの平均粒径を有し得る。別の実施形態では、フィラーは、約100nmの平均粒径を有する。いくつかの実施形態では、IR吸収性フィラーはカーボンブラックである。一実施形態では、IR吸収性フィラーは、Emperor 1600(Cabotから入手可能)などの低硫黄カーボンブラックである。一実施形態では、カーボンブラックの硫黄含有量は、0.3%以下である。一実施形態では、カーボンブラックの硫黄含有量は、0.15%以下である。
【0048】
実施形態では、パートAはシリカを含む。例えば、一実施形態では、パートAは、表層組成物の総重量に基づいて、1重量パーセント~5重量パーセントのシリカを含む。別の実施形態では、表層は、1重量パーセント~4重量パーセントのシリカを含む。更に別の実施形態では、表層は、表層組成物の総重量に基づいて約1.15重量パーセントのシリカを含む。シリカは、約10nm~約0.2μmの範囲の平均粒径を有し得る。一実施形態では、シリカは、約50nm~約0.1μmの平均粒径を有し得る。別の実施形態では、シリカは、約20nmの平均粒径を有する。
【0049】
実施形態において、パートAの溶媒は、酢酸ブチル、トリフルオロトルエン、トルエン、ベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸アミル、酢酸ヘキシル、及びこれらの混合物であってもよい。
【0050】
パートBは、ビニル基を有する白金触媒を含んでもよい。白金(Pt)触媒の例を以下の式2に示す。
【0051】
【化2】
【0052】
式2に示すように、白金触媒は、ビニル基を有する。
【0053】
パートBは、架橋剤(例えば、ヒドロシラン基を有するトリフルオロプロピルメチルシロキサンポリマー)を含む。いくつかの実施形態では、表層組成物は、フルオロシリコーン架橋剤を含む。一実施形態では、架橋剤は、NuSil CorporationからのXL-150架橋剤である。一実施形態では、架橋剤は、WackerからのSLM 50336架橋剤である。例えば、一実施形態では、表層組成物は、表層組成物の総重量に基づいて、10重量%~28重量%の架橋剤を含む。別の実施形態では、表層は、12重量%~20重量%の架橋剤を含む。更に別の実施形態では、表層は、表層組成物の総重量に基づいて約15重量%の架橋剤を含む。
【0054】
ヒドロシラン基を有する架橋剤を、以下の式3に示す。
【0055】
【化3】
【0056】
式3に示すように、架橋剤はヒドロシラン基を有する。式3中、nは10~100、又はnは15~90、nは18~80であり、mは1~50、又はmは2~45、又はmは3~40である。パートA中のビニル基とパートBの架橋剤中のヒドロシラン基とのモル比は、0.7:1.0~約1.3:1.0、若しくは0.8:1.0~約1.2:1.0のモル比であるか、又はモル比は約0.9:1.0~約1.1:1.0である。
【0057】
阻害剤(pt88)を溶液中で使用して、フローコーティングのために、パートAとパートBとの混合溶液のポットライフを増加させることができる。
【0058】
実施形態において、パートBの溶媒は、酢酸ブチル、トリフルオロトルエン、トルエン、ベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸アミル、酢酸ヘキシル、及びこれらの混合物であってもよい。
【0059】
表層104(図2又は図3)は、任意の好適な技術を用いて、ベース102及びバリア層105上にコーティングされてもよい。例えば、一実施形態では、本方法は、フローコーティング、リボンコーティング又はディップコーティングによってフルオロシリコーン表層組成物を堆積させることと、表層を高温で硬化させることと、を含む。
【0060】
実施形態では、白金触媒をパートAに添加し、続いて軽く揺する。次に、パートBを、Pt触媒を含有するパートA溶液に添加し、続いてボールミル粉砕を5分間行う。全固形分を、酢酸ブチルの添加量で希釈することによって制御した。分散液を濾過してステンレス鋼ビーズを除去し、続いて濾過分散液を脱気した。次いで、分散液を多層ベース及びプライマー層の上にコーティングした。分散液はまた、成形することもできた。
【0061】
硬化は、約140℃~約180℃、例えば約160℃の高温で実施されてもよい。この高温は室温に対比している。硬化は、約2~6時間の期間にわたって起こり得る。いくつかの実施形態では、硬化時間は、3~5時間である。一実施形態では、硬化時間は約4時間である。バリア層105は、例えば、本明細書に開示される硬化温度範囲及び時間範囲のいずれかにおいて、選択された硬化条件で、ベース102から表層104への硫黄移動を遮断するように設計することができる。
【0062】
一実施形態において、本開示は、画像形成ブランケットの製造方法に関する。この方法は、トップベース層114を含むベース102を提供することを含む。トップベース層114は、弾性ポリマー及び硫黄を含む。本明細書に記載の任意のベース102を使用することができる。バリア層105は、トップ層上に堆積される。バリア層105は、本明細書に記載される任意のバリア層であってもよく、任意の好適な方法によって堆積させることができる。白金触媒を含むエラストマー樹脂は、本明細書に記載される方法などの任意の好適な方法を用いてバリア層105上に堆積される。エラストマー樹脂を硬化させて表層104を形成する。バリア層は、硬化時の表層への硫黄の有意な移動を防止する。「硫黄の有意な移動」という語句は、本明細書では、XPS(X線光電子分光法)によって測定される場合、硬化温度160℃で4時間の間に、1重量%超の硫黄が、カーカスからエラストマー樹脂に移動することを意味する。一実施形態では、XPS(X線光電子分光法)によって測定される場合、硬化温度160℃で4時間の間にカーカスからエラストマー樹脂への硫黄移動量は、例えば、約0.8重量%~0重量%、約0.5重量%~0.01重量%など、1重量%未満の硫黄である。
【実施例1】
【0063】
本実施例では、Trelleborg AB(Trelleborg,Sweden)から入手可能なROLLIN(登録商標)印刷ブランケットである硫黄含有カーカスを使用した。カーカスをイソプロピルアルコールで洗浄し、乾燥させた。SU8-2025と呼ばれる光架橋性エポキシを、スピンコーティングによってカーカス上にコーティングし、365nmの紫外線に曝露することによって硬化させ、更にオーブン内で加熱し、それによって厚さ~25マイクロメートルのバリア層を形成した。SU8-2000は、MicroChem(Westborough,Massachusetts)から市販されている、一液型光架橋性エポキシである。カーボンブラックを含むDaliフルオロシリコーンコーティングをバリア層の頂部に塗布し、160℃で4時間硬化させた。
【0064】
比較例1
実施例1で使用した同じカーカスであるがバリア層を有しないものを、カーボンブラックを含む同じDaliフルオロシリコーンコーティングでコーティングした。コーティングを160℃で4時間硬化させた。
【0065】
実施例1のDaliコーティングは、SU8エポキシバリア層の頂部で完全に硬化した。比較例1のDaliコーティングは、バリア層コーティングのないカーカスの頂部で硬化せず、容易に削り落とすことができた。
【実施例2】
【0066】
本実施例では、Trelleborg AB(Trelleborg,Sweden)から入手可能なROLLIN(登録商標)印刷ブランケットである硫黄含有カーカスを使用した。カーカスをイソプロピルアルコールで洗浄し、乾燥させた。二液型熱硬化性エポキシ、Resin Designs(Woburn,Massachusetts)からのI2300を、カーカス上にスピンコーティングした。スピンコーティング手順は、ピペットを使用して約5mLのI2300希釈混合物(50% I2300;50% 1,2-ジメトキシエタン、ReagentPlus(登録商標)、≧99%、阻害剤を含まない)を分注し、続いてカーカスを1000RPMで回転させることを含んだ。次いで、コーティングを乾燥し、その後(following by)、150℃で3時間、オーブン内でハードベークを行った。硬化コーティングは、~25マイクロメートルの厚さを有する架橋エポキシであった。カーボンブラックを含むDaliフルオロシリコーンコーティングをバリア層の頂部に塗布し、160℃で4時間硬化させた。
【0067】
比較例2
実施例2で使用した同じカーカスであるがバリア層を有しないものを、カーボンブラックを含む同じDaliフルオロシリコーンコーティングでコーティングした。コーティングをまた、160℃で4時間硬化させた。
【0068】
実施例2のDaliコーティングは、I2300エポキシバリア層の頂部で完全に硬化した。比較例2のDaliコーティングは、バリア層コーティングのないカーカスの頂部で硬化せず、容易に削り落とすことができた。このコーティングはべたべたして、固体フィルムを形成しなかった。
【実施例3】
【0069】
本実施例では、Trelleborg AB(Trelleborg,Sweden)から入手可能なROLLIN(登録商標)印刷ブランケットである硫黄含有カーカスを使用した。カーカスをイソプロピルアルコールで洗浄し、乾燥させた。Wacker ChemieからのElastosil RT622と呼ばれるRTV(室温加硫)シリコーンをカーカスに適用し、120℃で4時間硬化させて、最終的なバリア層厚さ~45マイクロメートルを得た。次いで、カーボンブラックを含むDaliフルオロシリコーンコーティングをバリア層の頂部に塗布し、160℃で4時間硬化させた。
【0070】
実施例3のDaliコーティングは、RT622バリア層の頂部で硬化しなかった。XPSは、シリコーン層を通じたSの有意な移動を示した。このことから、有効であるために、バリア層が、Pt触媒トップコートの硬化を妨げ得る頂部へSが移動するのを防ぐことがわかる。表1は、RT622バリア層が使用されたときに、表面に移動した硫黄の有意な量を示すXPSデータを示す。
【0071】
【表1】

図1
図2
図3