IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】非水電解液及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20231211BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231211BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/052
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020025413
(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2021131939
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 弘行
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-084562(JP,A)
【文献】特表2015-507596(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0127064(KR,A)
【文献】国際公開第2011/065502(WO,A1)
【文献】特開2017-021949(JP,A)
【文献】特開平01-286263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質塩として、下記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物を含む溶液に炭酸塩を添加した後に、該溶液を濾過することにより得られる非水電解液であって、
前記非水電解液における前記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物の濃度が0.01mol/L以上1.5mol/L以下であり、
前記溶液に添加する前記炭酸塩の量は、該溶液100質量%中、0.2質量%以上1質量%以下であり、
以下の数式:
[数式]
〔イオンクロマトグラフィーにより分析される前記非水電解液におけるフルオロスルホン酸イオンの分析値(定量値)/イオンクロマトグラフィーにより分析される、前記溶液に前記炭酸塩を添加せずに得られる同じ組成の基準非水電解液におけるフルオロスルホン酸イオンの分析値(定量値)〕×100
で求められる前記非水電解液におけるフルオロスルホン酸イオンの相対値が50以下となることを特徴とする非水電解液。
LiN(XSO)(XSO) (1)
(一般式(1)中、X及びXは、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフルオロアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物におけるフルオロスルホン酸の含有量が500質量ppm以下である請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記電解質塩として、下記一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、及び六フッ化砒酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む請求項1又は2に記載の非水電解液。
LiPF(C2m+16-a (0≦a≦6、1≦m≦4) (2)
LiBF(C2n+14-b (0≦b≦4、1≦n≦4) (3)
【請求項4】
前記非水電解液は、前記溶液に、前記炭酸塩と共に、スルファミン酸及びその塩を添加した後に、該溶液を濾過することにより得られ、
前記溶液に添加する前記炭酸塩と前記スルファミン酸及びその塩との合計量は、該溶液100質量%中、0.2質量%以上2質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解液。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の非水電解液が用いられてなるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解液、及び当該非水電解液が用いられてなるリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の電池性能を向上させるために、リチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等が添加された非水電解液を含む非水電解液二次電池が提案されている。特許文献1に記載の電池では、非水電解液に添加される金属塩が、非水電解液に含まれるリチウム化合物(例えば、LiPF、LiBF)の分解等により不可避に発生する酸(例えば、フッ化水素酸(HF))を捕捉して塩を形成させ、発生する酸を沈殿・除去する。
【0004】
また、特許文献2には、塩基性の炭酸リチウムによって、LiPFから生じた酸性物質が中和され、高温保存後の電池容量の低下を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-94355号公報
【文献】特開2015-128052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、出願人は、これまでの検討により、電解質塩として、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド等のスルホニルイミド化合物を含む非水電解液がリチウムイオン二次電池の高温耐久性や充放電サイクル等の電池性能を向上することを見い出してきた。
【0007】
このスルホニルイミド化合物は、LiPFとは異なり、通常、HFを発生しない電解質塩ではあるが、スルホニルイミド化合物を含む非水電解液を作製する際に、溶媒中の水分や溶解時の発熱等により、若干のフルオロスルホン酸(HFSO)が発生する。また、スルホニルイミド化合物の製造方法によっては、得られたスルホニルイミド化合物自体にHFSOが含まれることもある。HFSOを比較的多く含む非水電解液を用いた電池では、界面抵抗の増大に伴う低温充放電容量や高温耐久性能の低下、特に電解液の保存安定性能を低下させるという問題があった。これらスルホニルイミド化合物やHFSOに起因する問題は、特許文献1及び2には開示されていない。
【0008】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、スルホニルイミド化合物を含む非水電解液において、スルホニルイミド化合物由来のHFSOに起因する、電池の界面抵抗の増大による低温充放電容量及び高温耐久性能の低下を抑制できる非水電解液、及び当該非水電解液が用いられてなるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、非水電解液におけるHFSOの含有量を所定量以下に規定することで上述の問題が解決される(電池性能が改善する)ことを見出した。本開示は、具体的には以下のとおりである。
[1] 電解質塩として、下記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物を含む非水電解液であって、イオンクロマトグラフィーにより分析される、前記非水電解液におけるフルオロスルホン酸イオンの分析値が、炭酸塩を含まない非水電解液におけるフルオロスルホン酸イオンの分析値を100としたとき、90以下となることを特徴とする非水電解液。
LiN(XSO)(XSO) (1)
(一般式(1)中、X及びXは、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフルオロアルキル基を表す。)
[2] 前記一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物におけるフルオロスルホン酸の含有量が500ppm以下である前記[1]に記載の非水電解液。
[3] 前記電解質塩として、下記一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、及び六フッ化砒酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む前記[1]又は[2]に記載の非水電解液。
LiPF(C2m+16-a (0≦a≦6、1≦m≦4) (2)
LiBF(C2n+14-b (0≦b≦4、1≦n≦4) (3)
[4] 前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の非水電解液が用いられてなるリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、スルホニルイミド化合物を含む非水電解液において、スルホニルイミド化合物由来のHFSOに起因する、電池の界面抵抗の増大による低温充放電容量及び高温耐久性能の低下を抑制できる非水電解液、及び当該非水電解液が用いられてなるリチウムイオン二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0012】
<非水電解液>
本実施形態に係る非水電解液は、電解質塩として、スルホニルイミド化合物を含む。この非水電解液は、非水電解液二次電池の中でも、特にリチウムイオン二次電池に好適に用いられる。
【0013】
(電解質塩)
本実施形態に係る非水電解液は、電解質塩として、一般式(1)で表されるスルホニルイミド化合物(以下単に「スルホニルイミド化合物」ともいう」)を含む。このスルホニルイミド化合物は、一般式(1): LiN(XSO)(XSO)で表される化合物である。一般式(1)中、X及びXは、同一又は異なって(互いに独立して)フッ素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフルオロアルキル基を表す。炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基の中では、炭素数1~6の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基が好ましく、炭素数1~6の直鎖状のアルキル基がより好ましい。炭素数1~6のフルオロアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものが挙げられる。炭素数1~6のフルオロアルキル基の具体例としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。置換基X及びXとしては、フッ素原子、トリフルオロメチル基及びペンタフルオロエチル基が好ましく、フッ素原子及びトリフルオロメチル基がより好ましく、フッ素原子がさらに好ましい。
【0014】
スルホニルイミド化合物の具体的としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(FSO、以下「LiFSI」ともいう)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO、以下「LiTFSI」ともいう)、リチウム(フルオロスルホニル)(メチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(エチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。スルホニルイミド化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。また、スルホニルイミド化合物は、市販品を使用してもよく、従来公知の方法により合成して得られたものを用いてもよい。スルホニルイミド化合物の中では、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド及びリチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドが好ましく、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドがより好ましく、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドがさらに好ましい。
【0015】
非水電解液は、スルホニルイミド化合物とは異なる他の電解質塩を含んでいてもよい。他の電解質塩としては、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CFSO )、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF )、過塩素酸イオン(ClO )、テトラフルオロ硼酸イオン(BF )、ヘキサフルオロ砒酸イオン(AsF )、テトラシアノホウ酸イオン([B(CN)]-)、テトラクロロアルミニウムイオン(AlCl-)、トリシアノメチドイオン(C[(CN))、ジシアナミドイオン(N[(CN))、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン(C[(CFSO)、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン(SbF )およびジシアノトリアゾレートイオン(DCTA)等をアニオンとする無機又は有機カチオン塩等の一般に使用される電解質塩が挙げられる。これら他の電解質塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これら他の電解質塩の中では、一般式(2)で表される化合物(以下「フルオロリン酸化合物」ともいう)、一般式(3)で表される化合物(以下「フルオロホウ酸化合物」ともいう)、及び六フッ化砒酸リチウムが好ましい。
【0016】
フルオロリン酸化合物は、一般式(2):LiPF(C2m+16-a (0≦a≦6、1≦m≦4)で表される。フルオロリン酸化合物としては、LiPF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C等が挙げられる。フルオロリン酸化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。フルオロリン酸化合物の中では、LiPF、及びLiPF(Cが好ましく、LiPFがより好ましい。
【0017】
フルオロホウ酸化合物は、一般式(3):LiBF(C2n+14-b (0≦b≦4、1≦n≦4)で表される。フルオロホウ酸化合物としては、LiBF、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(C等が挙げられる。フルオロホウ酸化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。フルオロホウ酸化合物の中では、LiBF、及びLiBF(CFが好ましく、LiBFがより好ましい。
【0018】
電解質塩の塩組成としては、スルホニルイミド化合物の単体塩組成の電解質塩よりも、スルホニルイミド化合物及び他の電解質塩を含む混合塩組成の電解質塩が好ましく、スルホニルイミド化合物及びフルオロリン酸化合物を含む混合塩組成の電解質塩がより好ましく、LiFSI及びLiPFを含む混合塩組成の電解質塩がさらに好ましい。
【0019】
非水電解液におけるスルホニルイミド化合物の濃度は、電池の界面抵抗の低下、低温充放電容量の向上、高温耐久性の向上、電池のガス膨れの抑制、充放電サイクル特性の向上の観点から、好ましくは0.01mol/L以上、より好ましくは0.05mol/L以上、より一層好ましくは0.1mol/L以上、さらに好ましくは0.2mol/L以上、さらに一層好ましくは0.5mol/L以上である。また、当該濃度は、正極集電体の腐食を抑制する観点から、好ましくは1.5mol/L以下、より好ましくは1.2mol/L以下、さらに好ましくは1mol/L以下である。
【0020】
電解質塩として、スルホニルイミド化合物及び他の電解質塩を含む混合塩組成の電解質塩を用いる場合、非水電解液における他の電解質塩の各濃度は、電池の界面抵抗の低下、低温充放電容量の向上、高温耐久性の向上、電池のガス膨れの抑制、充放電サイクル特性の向上の観点から、好ましくは0.1mol/L以上、より好ましくは0.2mol/L以上、さらに好ましくは0.5mol/L以上である。また、当該濃度は、非水電解液の粘度上昇を抑制する観点から、好ましくは1.5mol/L以下、より好ましくは1.2mol/L以下、さらに好ましくは1mol/L以下である。
【0021】
非水電解液における電解質塩の濃度の合計は、電池の界面抵抗の低下、低温充放電容量の向上、高温耐久性の向上、電池のガス膨れの抑制、充放電サイクル特性の向上の観点から、好ましくは0.1mol/L以上、より好ましくは0.2mol/L以上、より一層好ましくは0.5mol/L以上、さらに好ましくは1mol/L以上である。また、当該濃度は、正極集電体の腐食を抑制する観点から、好ましくは3mol/L以下、より好ましくは2.4mol/L以下、より一層好ましくは2mol/L以下、さらに好ましくは1.5mol/L以下、さらに一層好ましくは1.2mol/L以下である。
【0022】
非水電解液におけるスルホニルイミド化合物の含有量は、電池の界面抵抗の低下、低温充放電容量の向上、高温耐久性の向上、電池のガス膨れの抑制、充放電サイクル特性の向上の観点から、非水電解液に含まれる電解質塩の合計100mol%中、10mol%以上が好ましく、20mol%以上がより好ましく、30mol%以上がさらに好ましく、最も好ましい範囲は50mol%以上である。
【0023】
電池の界面抵抗の低下、低温充放電容量の向上、高温耐久性の向上、電池のガス膨れの抑制、充放電サイクル特性の向上の観点から、スルホニルイミド化合物の濃度を高めることが好ましい。スルホニルイミド化合物:他の電解質塩は、好ましくは1:15以上、より好ましくは1:10以上、より一層好ましくは1:5以上、さらに好ましくは1:2以上、さらに一層好ましくは1:1以上である。
【0024】
(電解液溶媒)
非水電解液は電解液溶媒を含んでいてもよい。電解液溶媒は、前記電解質塩を溶解、分散できるものであれば特に限定されない、電解液溶媒としては、非水系溶媒、電解液溶媒に代えて用いられるポリマー及びポリマーゲル等の媒体等が挙げられ、電池に一般に使用される溶媒はいずれも使用できる。
【0025】
非水系溶媒としては、誘電率が大きく、前記電解質塩の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、且つ、電気化学的安定範囲が広い溶媒が好適である。より好ましくは、含有水分量が低い有機溶媒である。このような有機溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,6-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ-テル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン等のエーテル系溶媒;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル(カーボネート)系溶媒;炭酸エチレン、炭酸プロピレン、2,3-ジメチル炭酸エチレン、炭酸1,2-ブチレン及びエリスリタンカーボネート等の飽和環状炭酸エステル系溶媒;炭酸ビニレン、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、2-ビニル炭酸エチレン及びフェニルエチレンカーボネート等の不飽和結合を有する環状炭酸エステル系溶媒;フルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート及びトリフルオロプロピレンカーボネート等のフッ素含有環状炭酸エステル系溶媒;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル系溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2-メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等の硫黄化合物系溶媒;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル系溶媒;ニトロメタン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン等が挙げられる。これら溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
電解液溶媒の中では、鎖状炭酸エステル系溶媒、環状炭酸エステル系溶媒等のカーボネート系溶媒、ラクトン系溶媒、エーテル系溶媒が好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等がより好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等のカーボネート系溶媒がさらに好ましい。
【0027】
ポリマーやポリマーゲルを電解液溶媒に代えて用いる場合は次の方法を採用すればよい。即ち、従来公知の方法で成膜したポリマーに、溶媒に電解質塩を溶解させた溶液を滴下して、電解質塩並びに非水系溶媒を含浸、担持させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質塩とを溶融、混合した後、成膜し、ここに溶媒を含浸させる方法(以上、ゲル電解質);予め電解質塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液とポリマーとを混合した後、これをキャスト法やコーティング法により成膜し、有機溶媒を揮発させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質塩とを溶融し、混合して成形する方法(真性ポリマー電解質);等が挙げられる。
【0028】
電解液溶媒に代えて用いられるポリマーとしては、エポキシ化合物(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、アリルグリシジルエーテル等)の単独重合体又は共重合体であるポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のメタクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル(PAN)等のニトリル系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン等のフッ素系ポリマー、及びこれらの共重合体等が挙げられる。これらポリマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
(その他の成分)
非水電解液は、リチウムイオン二次電池の各種特性の向上を目的とする添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、テトラメチルチウラムモノスルフィド、トリメチレングリコール硫酸エステル等の含硫黄化合物;1-メチル-2-ピロリジノン、1-メチル-2-ピペリドン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルスクシンイミド等の含窒素化合物;モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩等のリン酸塩;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素化合物;ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、メチルビニレンカーボネート(MVC)、エチルビニレンカーボネート(EVC)等の不飽和結合を有する環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート(FEC)、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート及びエリスリタンカーボネート等のカーボネート化合物;リチウムビスオキサレ-トボラ-ト(LiBOB)等のオキサラトボレートのアルカリ金属塩;スルファミン酸(アミド硫酸、HNSO);スルファミン酸塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等の他の金属塩;アンモニウム塩;グアニジン塩等)等が挙げられる。これら添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これら添加剤の中では、電池の界面抵抗をより一層低減する観点から、HNSO及びその塩(以下「スルファミン酸化合物」ともいう)が好ましく、HNSO及びそのリチウム塩がより好ましく、HNSO及びLiHNSOがさらに好ましい。なお、LiHNSOは、以下の実施例に記載の方法により製造できる。
【0030】
添加剤は、非水電解液100質量%中、0.1質量%以上10質量%以下の範囲で用いるのが好ましく、0.2質量%以上8質量%以下の範囲で用いるのがより好ましく、0.3質量%以上5質量%以下の範囲で用いるのがさらに好ましい。添加剤の使用量が少なすぎるときには、添加剤に由来する効果が得られ難い場合があり、一方、多量に他の添加剤を使用しても、添加量に見合う効果は得られ難く、また、非水電解液の粘度が高くなり伝導率が低下するおそれがある。
【0031】
非水電解液に添加するスルファミン酸化合物の量は、電池の界面抵抗をより一層低減する観点から、非水電解液100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、さらに一層好ましくは0.5質量%以上である。また、非水電解液に添加するスルファミン酸化合物の量は、非水電解液中に残るスルファミン酸化合物の不溶粒子の量を低減する観点から、非水電解液100質量%中、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下である。
【0032】
なお、本明細書において、非水電解液100質量%とは、前記各電解質塩、必要に応じて用いられる溶媒、添加剤等、非水電解液に含まれる全ての成分の合計を意味する。
【0033】
以上より、非水電解液は、スルホニルイミド化合物、必要に応じて、他の電解質塩、溶媒、各種添加剤等の各成分により構成される。非水電解液は、例えば、これら各成分を所定の組成比で混合することにより調製できる。
【0034】
(イオンクロマトグラフィーにより分析されるフルオロスルホン酸イオンの分析値)
本実施形態に係る非水電解液は、イオンクロマトグラフィー(Ion Chromatography、IC)により分析される、当該非水電解液におけるフルオロスルホン酸イオン(FSO )の分析値が、炭酸塩を含まない非水電解液(以下「基準非水電解液」ともいう)におけるFSO の分析値を100としたとき、90以下となる。なお、本明細書において、炭酸塩を含まない基準非水電解液とは、基準非水電解液を製造する際に、後述する炭酸塩を最初に又は途中で添加せずに得られる非水電解液をいう。
【0035】
上記分析値は、換言すると、イオンクロマトグラフィーにより求められる、本実施形態の非水電解液のFSO の分析値(定量値)を基準非水電解液のFSO の分析値(定量値)を100としたときの相対値(以下「イオンクロマトグラフィーでの非水電解液におけるFSO の相対値」ともいう)として算出したものである。イオンクロマトグラフィーでの非水電解液におけるFSO の相対値は、以下の式:
〔イオンクロマトグラフィーにより分析される本実施形態の非水電解液におけるFSO の分析値(定量値)/イオンクロマトグラフィーにより分析される基準非水電解液におけるFSO の分析値(定量値)〕×100
により求めることができる。
【0036】
非水電解液におけるスルホニルイミド化合物の濃度が0.01mol/L以上1.5mol/L以下であるときに、イオンクロマトグラフィーでの非水電解液におけるFSO の相対値が90以下であれば、非水電解液におけるフルオロスルホン酸(HFSO)の含有量が十分に低減され、HFSOを起因とする溶媒の分解や電解質塩の分解副反応等が抑制される。その結果、当該非水電解液を用いた電池の25℃及び-30℃における界面抵抗の増大が抑制され、低温充放電容量及び高温耐久性能の低下を抑制できる。なお、イオンクロマトグラフィーの測定条件は以下の実施例に記載のとおりである。
【0037】
イオンクロマトグラフィーでの非水電解液におけるFSO の相対値は、スルホニルイミド化合物由来のHFSOに起因する、電池の界面抵抗の増大による低温充放電容量及び高温耐久性能の低下を抑制する観点から、非水電解液におけるスルホニルイミド化合物の濃度が0.01mol/L以上1.5mol/L以下であるときに、90以下、好ましくは80以下、より好ましくは70以下、より一層好ましくは60以下、さらに好ましくは50以下、さらに一層好ましくは40以下であり、特に好ましくは30以下である。
【0038】
また、本実施形態に係る非水電解液は、電解質塩として、スルホニルイミド化合物におけるHFSOの含有量が500ppm以下(絶対値)であるスルホニルイミド化合物(以下「HFSO低含有スルホニルイミド化合物」ともいう)を含むことにより、非水電解液におけるスルホニルイミド化合物の濃度が0.01mol/L以上1.5mol/L以下であるときに、イオンクロマトグラフィーでの非水電解液におけるFSO の相対値を90以下に調整できる。
【0039】
なお、本明細書において、スルホニルイミド化合物(又は非水電解液)におけるHFSOの含有量は、例えば、19F-NMR等により測定できる。19F-NMRの測定条件は以下の実施例に記載のとおりである。
【0040】
(イオンクロマトグラフィーでの非水電解液におけるフルオロスルホン酸イオンの相対値を調整する方法)
イオンクロマトグラフィーでの非水電解液におけるFSO の相対値を90以下に調整する方法としては、例えば、(I)前記で調製した非水電解液(以下「非水電解液(A)」ともいう)に炭酸塩を添加する方法、(II)予め、原料として「HFSO低含有スルホニルイミド化合物」を用いて非水電解液(A)を調製する方法等が挙げられる。
【0041】
<(I)非水電解液(A)に炭酸塩を添加する方法>
(炭酸塩の添加)
非水電解液(A)に炭酸塩を添加することにより、非水電解液(A)に含まれる、スルホニルイミド化合物由来のHFSOが炭酸塩に捕捉(トラップ)される。また、電解質塩としてフルオロリン酸化合物を含む非水電解液(A)では、フルオロリン酸化合物由来のフッ化水素酸(HF)も炭酸塩にトラップされる。
【0042】
炭酸塩としては、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ルビジウム(RbCO)、炭酸セシウム(CsCO)等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸ベリリウム(BeCO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、炭酸バリウム(BaCO)等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸アンモニウム(NHCO);炭酸銅(II)(CuCO);炭酸鉄(II)(FeCO);炭酸銀(I)(AgCO)等が挙げられる。これら炭酸塩は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
炭酸塩の中では、HFSO及び/又はHFを確実にトラップする観点から、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ土類金属炭酸塩が好ましく、アルカリ金属炭酸塩がより好ましく、炭酸リチウム(LiCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、及び炭酸セシウム(CsCO)がさらに好ましく、炭酸リチウム(LiCO)がさらに一層好ましい。
【0044】
非水電解液(A)に添加する炭酸塩の量は、非水電解液に用いられる電解質塩の量に応じて適宜決定すればよいが、HFSO及び/又はHFを確実にトラップする観点から、非水電解液(A)におけるスルホニルイミド化合物の濃度が0.01mol/L以上1.5mol/L以下であるときに、非水電解液(A)100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、さらに一層好ましくは0.4質量%以上である。また、非水電解液(A)に添加する炭酸塩の量は、非水電解液(A)中に残る炭酸塩の不溶粒子の量を低減する観点から、非水電解液(A)100質量%中、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.6質量%以下、さらに一層好ましくは0.5質量%以下である。
【0045】
例えば、HFSO低含有スルホニルイミド化合物を用いて非水電解液(A)を調製する場合、スルホニルイミド化合物の濃度が0.01mol/L以上1.5mol/L以下の非水電解液(A)1L中には、0.0005g~0.15g程度のごく少量のHFSOが含まれる。この非水電解液(A)中のHFSOは、非水電解液(A)100質量%に対して0.1質量%以上の炭酸塩の量で十分に中和される。また、炭酸塩の量が1質量%以下であれば、不溶粒子として非水電解液中に残る炭酸塩の量が低減され、その結果、必要により非水電解液を濾過する場合に濾過の時間が短くなる(生産性が向上する)。
【0046】
また、非水電解液(A)に、前記炭酸塩と共に、スルファミン酸化合物を添加することが好ましい。これにより、電池の界面抵抗の低減効果がより一層向上する。
【0047】
非水電解液(A)に添加する炭酸塩とスルファミン酸化合物との合計量は、HFSO及び/又はHFを確実にトラップすると共に、電池の界面抵抗をより一層低減する観点から、非水電解液(A)におけるスルホニルイミド化合物の濃度が0.01mol/L以上1.5mol/L以下であるときに、非水電解液(A)100質量%中、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.6質量%以上である。また、非水電解液(A)に添加する炭酸塩とスルファミン酸化合物との合計量は、非水電解液(A)中に残る不溶粒子の量を低減する観点から、非水電解液100質量%中、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.6質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以下である。
【0048】
非水電解液(A)は、炭酸塩、必要に応じてスルファミン酸化合物(以下「炭酸塩等」という)を添加した後、該炭酸塩等にHFSO及び/又はHFを確実にトラップさせるために、またスルファミン酸化合物を添加する場合は難溶解性のスルファミン酸化合物を非水電解液(A)により一層溶解させるために、例えば0.5~2日間、攪拌しながら放置する。
【0049】
(濾過)
非水電解液(A)に炭酸塩等を添加した後、得られた溶液(以下「非水電解液(B)」ともいう)を濾過してもよい。非水電解液(B)中に残る炭酸塩等を取り除く観点から、非水電解液(B)を濾過することが好ましい。
【0050】
これにより、電池内で、非水電解液の保存安定性(特に高温耐久性)を低下させる酸分(HFSO、HF)や水分の継続的な発生が抑制される。その結果、スルホニルイミド化合物由来のHFSOに起因する、電池の界面抵抗の増大が抑制され、低温充放電容量及び高温耐久性能の低下が抑制される。
【0051】
また、炭酸塩等はカーボネート系溶媒等の有機溶媒に不溶なため、不溶物として非水電解液(B)中に含有したままとなる。電解質塩としてフルオロリン酸化合物を含む非水電解液(B)では、炭酸塩等が非水電解液(B)中からなくなるまでフルオロリン酸化合物由来のHFと反応し続けるため、非水電解液(B)中には常に水分が残り、フルオロリン酸化合物が継続的に分解されると共に、二酸化炭素(CO)等のガスが継続的に発生する。しかし、濾過により非水電解液(B)中に残る炭酸塩等を取り除くことで、上述のフルオロリン酸化合物の継続的な分解、及びCOガスの継続的な発生が抑制される。その結果、高温保存後の電池容量の低下(高温耐久性の低下)、電池のガス膨れ、充放電サイクルの低下等が抑制される。
【0052】
また、非水電解液(B)中に残る炭酸塩等の不溶粒子は、注液装置のハイバーポンプシリンダーの詰まりの発生やピストン動作の低下等、注液装置を故障させる原因にもなるところ、当該原因となる不溶粒子を取り除くことができる。
【0053】
濾過の方法は、非水電解液(B)に含まれる炭酸塩等を取り除くことができれば特に限定されず、加圧濾過や吸引濾過等が挙げられる。使用する濾材(フィルター)は、有機溶媒等を対象とする非水系のものが好ましい。フィルターの材質として、PTFE等のフッ素樹脂製;ステンレススチール繊維製;ポリエチレン、超高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン製;ナイロン製;セルロース繊維製;ガラス繊維製;シリカ繊維製;ポリカーボネート製;コットン製;ポリエーテルサルホン製;セルロースアセテート製等が挙げられる。また、フィルターは、一般に市販されているものを使用できる。市販品のフィルターとしては、例えば、ジーエルサイエンス(株)製のGLクロマトディスク非水系等が挙げられる。フィルターの孔径としては、0.1~1μm程度である。
【0054】
非水電解液(B)を濾過する際の温度は、特に限定されないが、好ましくは0~70℃の範囲、より好ましくは0~50℃、さらに好ましくは20~50℃である。
【0055】
濾過は、一段の濾過を行っても良く、二段以上の多段濾過を行っても良い。また、濾過後に必要に応じて洗浄を行ってもよい。
【0056】
以上より、電解質塩を含む非水電解液(A)に炭酸塩等を添加した後に、必要に応じて得られた非水電解液(B)を濾過することによって、酸分(HFSO、HF)が炭酸塩等にトラップされ、当該炭酸塩等が濾過で除去される。その結果、非水電解液(A)におけるスルホニルイミド化合物の濃度が0.01mol/L以上1.5mol/L以下であるときに、イオンクロマトグラフィーでのFSO の相対値が90以下である非水電解液(C)が得られる。この非水電解液(C)を備えるリチウムイオン二次電池は、界面抵抗が低減されると共に、電池内で電解質塩の継続的な分解やガスの継続的な発生が抑制されるため、電池性能が向上する。
【0057】
<(II)「HFSO低含有スルホニルイミド化合物」を用いて非水電解液(A)を調製する方法>
「HFSO低含有スルホニルイミド化合物」は、例えば、特開2014-201453号公報に開示の方法に従い、得ることができる。得られた「HFSO低含有スルホニルイミド化合物」を、必要に応じて他の電解質塩、溶媒、各種添加剤等と共に所定の組成比で混合する。以上より、非水電解液(A)におけるスルホニルイミド化合物の濃度が0.01mol/L以上1.5mol/L以下であるときに、イオンクロマトグラフィーでのFSO の相対値が90以下である非水電解液(A)が得られる。
【0058】
なお、方法(II)では、非水電解液(A)を作製する際に、若干のHFSOが発生するおそれがある。また、電解質塩としてフルオロリン酸化合物を含む非水電解液(A)には、フルオロリン酸化合物(LiPF等)由来のHFが含まれる。そのため、電池性能をさらに向上させる観点から、上述の方法(I)と同様にして、得られた非水電解液(A)にさらに炭酸塩を添加し、その後に該非水電解液(A)を濾過することが好ましい。これにより、HFSOの含有量が十分に低減された非水電解液(C)が得られる。
【0059】
<二次電池>
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、電極(正極及び負極)と、正極及び負極との間に設けられたセパレーターと、セパレーターに含浸された状態で、正極及び負極等と共に外装ケースに収容される非水電解液とを備える。このリチウムイオン二次電池では、上述の方法(I)で得られた非水電解液(C)、又は方法(II)で得られた非水電解液(A)若しくは非水電解液(C)が用いられてなる。
【0060】
(正極)
正極は、正極集電体及び正極合材層を含み、正極合材層が正極集電体上に形成されている。
【0061】
正極集電体に用いられる金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等が挙げられる。これらの中ではアルミニウムが好ましい。なお、正極集電体の形状や寸法は、特に制限されない。
【0062】
正極合材層は、正極組成物から形成されている。正極組成物は、正極活物質、導電助剤、結着剤、これら成分を分散するための溶媒等を含有する。
【0063】
正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出できるものであればよく、一般に使用される正極活物質を使用できる。正極活物質としては、リチウムを含有する金属酸化物が挙げられる。リチウムを含有する金属酸化物としては、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物等が挙げられる。正極活物質は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。正極組成物の不揮発分における正極活物質の含有率は、リチウムイオン二次電池の出力特性及び電気特性を向上させる観点から、好ましくは70~98.8質量%、より好ましくは80~98.3質量%である。
【0064】
導電助剤は、リチウムイオン二次電池の出力を向上させるために用いられる。導電助剤としては、主として導電性カーボンが用いられる。導電性カーボンとしては、カーボンブラック、ファイバー状カーボン、黒鉛等が挙げられる。導電助剤の中では、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。正極組成物の不揮発分における導電助剤の含有率は、リチウムイオン二次電池の出力特性及び電気特性を向上させる観点から、好ましくは1~20質量%、より好ましくは1.5~10質量%である。
【0065】
結着剤としては、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム等の合成ゴム;ポリアミドイミド等のポリアミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ(メタ)アクリル系樹脂;ポリアクリル酸;カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂;等が挙げられる。結着剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。また、結着剤は、使用の際に溶媒に溶けた状態であっても、溶媒に分散した状態であっても構わない。
【0066】
溶媒としては、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、エタノール、酢酸エチル、水等が挙げられる。溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。溶媒の使用量は特に限定されず、製造方法や、使用する材料に応じて適宜決定すればよい。
【0067】
正極組成物には、他の成分として、必要により、例えば、(メタ)アクリル系ポリマー、ニトリル系ポリマー、ジエン系ポリマー等の非フッ素系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー等のポリマー、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤等の乳化剤;スチレン-マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン等の高分子分散剤等の分散剤、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、アルカリ可溶型(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の増粘剤、防腐剤等を含有させてもよい。正極組成物の不揮発分における他の成分の含有率は、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0~10質量%である。
【0068】
正極組成物は、例えば、正極活物質、導電助剤、結着剤、溶媒、必要に応じて他の成分を混合し、ビーズミル、ボールミル、攪拌型混合機等を用いて分散させることによって調製できる。
【0069】
(負極)
負極は、負極集電体及び負極合材層を含み、負極合材層が負極集電体上に形成されている。
【0070】
負極集電体に用いられる金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等が挙げられる。これらの中では銅が好ましい。なお、負極集電体の形状や寸法は特に制限されない。
【0071】
負極合材層は、負極組成物から形成されている。負極組成物は、負極活物質、導電助剤、結着剤、これら成分を分散するための溶媒等を含有する。
【0072】
負極活物質としては、グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ポリアセン系導電性ポリマー、チタン酸リチウム等の複合金属酸化物、リチウム合金、シリコン系材料等が挙げられる。負極活物質は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。負極組成物の不揮発分における負極活物質の含有率は、リチウムイオン二次電池の出力特性及び電気特性を向上させる観点から、好ましくは85~99.7質量%、より好ましくは90~99.5質量%である。
【0073】
導電助剤、結着剤、及び溶媒は、正極組成物に用いられるものと同様のものを使用できる。負極組成物の不揮発分における導電助剤の含有率は、リチウムイオン二次電池の出力特性及び電気特性を向上させる観点から、好ましくは1~20質量%、より好ましくは1.5~10質量%である。
【0074】
負極組成物には、他の成分として、必要により、分散剤、増粘剤、防腐剤等の他の成分を含有させてもよい。負極組成物の不揮発分における他の成分の含有率は、リチウムイオン二次電池の出力特性及び電気特性を向上させる観点から、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0~10質量%である。
【0075】
負極組成物は、例えば、負極活物質、導電助剤、結着剤、溶媒、必要に応じて他の成分を混合し、ビーズミル、ボールミル、攪拌型混合機等を用いて分散させることによって調製できる。
【0076】
(電極の製造方法)
電極は、例えば、集電体に電極組成物を塗布し、乾燥させて電極合材層を形成させることによって製造できる。なお、電極には、必要により、例えば、金型プレス、ロールプレス等を用いて加圧処理を施してもよい。
【0077】
(セパレーター)
セパレーターとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂(セルロース系繊維)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド等のアラミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等の樹脂からなるフイルムを用いることができる。
【0078】
(二次電池の製造方法)
本実施形態に係る二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、得られた積層体を電池容器に入れ、電池容器に非水電解液(C)を注入して封口することにより、容易に製造できる。
【0079】
電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、リード板等を入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。
【0080】
電池の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型等が挙げられるが、本開示は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【実施例
【0081】
以下に、本開示を実施例に基づいて説明する。なお、本開示は、以下の実施例に限定されるものではなく、以下の実施例を本開示の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本開示の範囲から除外するものではない。
【0082】
<非水電解液の調製>
(実施例1)
電解液溶媒としてエチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=3:7(体積比)組成の混合溶媒(キシダ化学(株)製)に、電解質塩としてLiFSI((株)日本触媒製)及びLiPF(ステラケミファ(株)製)をそれぞれ濃度が0.6mol/Lとなるように溶解することにより、非水電解液(A)を調製した。
【0083】
なお、使用したLiFSIを19F-NMRで分析したところ、HFSOは検出下限(40質量ppm)以下であった。19F-NMRの測定条件は以下のとおりである。
【0084】
19F-NMRの測定条件)
・測定装置:VNMRS 600(VARIAN社製)
・重溶媒:アセトニトリル-d3
・分析濃度:試料濃度;12質量%、内部標準;3.6質量%
・積算回数:16回
【0085】
続いて、前記で得られた非水電解液(A)に、炭酸塩としてLiCO(富士フイルム和光純薬(株)製)を非水電解液(A)質量比で(非水電解液(A)100質量%中のLiCOの量が)0.5質量%となるように添加し、非水電解液(A)を1日撹拌した。その後、得られた非水電解液(B)を孔径0.45μmのフィルター(ジーエルサイエンス(株)製、GLクロマトディスク非水系13N)を用いて濾過することにより、非水電解液(C)を調製した。この非水電解液(C)(以下単に「非水電解液」という)の電解質組成、炭酸塩の種類、及び添加剤の種類を表1に示す。
【0086】
(実施例2)及び(実施例3)
LiFSI及びLiPFの濃度をそれぞれ表1に示す濃度に変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。
【0087】
(実施例4)
LiCOをNaCO(富士フイルム和光純薬(株)製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。
【0088】
(実施例5)
LiCOをKCO(富士フイルム和光純薬(株)製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。
【0089】
(実施例6)
LiCOをCsCO(富士フイルム和光純薬(株)製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。
【0090】
(実施例7)
NSO(富士フイルム和光純薬(株)製)を非水電解液(A)質量比で0.5質量%となるようにさらに添加したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。
【0091】
(実施例8)
LiHNSOを非水電解液(A)質量比で0.5質量%となるようにさらに添加したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。なお、LiHNSOは、以下のように調製した。HNSOを純水でスラリー化した。得られたスラリーを撹拌すると共に発熱を監視しながら、水酸化リチウム一水和物をスラリーに投入した。続いて、スラリーの不溶分を濾過した。最後に、濾物を80℃で減圧乾燥した。得られたLiHNSOをXRD(スペクトリス(株)製、品番:X PERT-MPD)で分析したところ、不純物は確認できなかった。
【0092】
(実施例9)
濾過しなかったこと以外は、実施例1と同様にして電解液を調製した。
【0093】
(参考例1)
LiCOの添加及び濾過しなかったこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。
【0094】
(参考例2)
LiCOの添加及び濾過しなかったこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0095】
(参考例3)
LiCOの添加及び濾過しなかったこと以外は、実施例3と同様にして非水電解液を調製した。
【0096】
<非水電解液におけるフルオロスルホン酸イオンの分析>
前記で得られた実施例1~9及び参考例1~3の非水電解液におけるHFSOの含有量を19F-NMRで分析したところ、いずれも検出下限以下であった。なお、19F-NMRの測定条件は上述した条件と同じである。
【0097】
そこで、19F-NMRよりも高性能なイオンクロマトグラフィー(IC)により、各非水電解液を分析した。その結果、ICでの非水電解液におけるFSO の含有量(定量値)は、LiFSIの濃度が0.6mol/Lである非水電解液において、実施例1では1ppm、炭酸塩を含まない参考例1では4ppmであった。また、ICでの非水電解液におけるFSO の相対値を算出すると、参考例1(基準非水電解液)と同じ塩組成(LiFSIの濃度:0.6mol/L)である実施例1及び4~9の非水電解液におけるFSO の相対値は90以下であった。また、炭酸塩を含まない参考例2(基準非水電解液)と同じ塩組成(LiFSIの濃度:0.1mol/L)である実施例2の非水電解液におけるFSO の相対値は90以下であった。また、炭酸塩を含まない参考例3(基準非水電解液)と同じ塩組成(LiFSIの濃度:0.2mol/L)である実施例3の非水電解液におけるFSO の相対値は90以下であった。ICで分析した、各実施例の非水電解液におけるFSO の相対値を表1に示す。なお、ICの測定条件、測定方法は以下のとおりである。
【0098】
(ICの測定条件、測定方法)
・測定装置:東ソー製 IC-2010
・分離カラム:TSKgel Super IC-Anions HS(4.6mmΦ×100mm)
・溶離液:アセトニトリル-炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム
・試料注入量:250μL
・カラム温度:40℃
・検出器:電気伝導度計
・標準溶液の調製:FSOH(Fluorosulfonic acid, purified by triple-distillation、シグマアルドリッチ製)を窒素(N)雰囲気中にて超純水で溶解したものを標準溶液とした。
・検量線の作成:前記で調製したFSO の標準溶液を測定し、検出された分解生成物(F、FPO 2-、PO 3-、SO 2-)の濃度からFSO の濃度を算出し、FSO のF換算とS換算による検量線を作成した。
・FSO の分析値(定量値)の算出:N雰囲気のグローブボックス内で非水電解液を超純水で希釈した後、固相抽出用カートリッジ(ジーエルサイエンス製、InterSep Slim-J PLS-3)で処理した。得られた溶液についてICにより測定を行い、前記で作成した検量線を用いて、前記分解生成物の生成量を考慮した換算を行い、FSO の定量値を算出した。
【0099】
また、19F-NMRよりも高性能な液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)でも各非水電解液を分析した。その結果、参考例1と同じ塩組成である実施例1及び4~9の非水電解液におけるFSO の相対値は90以下であった。また、参考例2と同じ塩組成である実施例2の非水電解液におけるFSO の相対値は90以下であった。また、参考例3と同じ塩組成である実施例3の非水電解液におけるFSO の相対値は90以下であった。LC/MSで分析した、各実施例の非水電解液におけるFSO の相対値を表1に示す。なお、LC/MSの測定条件は以下のとおりである。
【0100】
(LC/MSの測定条件)
・測定装置:UltiMate3000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
・質量分析計:Orbitrap Fusion(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
・カラム:Inertsustain AQ-C18(2.0×150mm,3μm)
・カラム温度:40℃
・移動相 A:水、B:アセトニトリル
・タイムプログラム
0~3分:B%=5
3~15分:B%=5→50
15~23分:B%=50→100
23~30分:B%=50→100
・流速:0.3mL/min
・注入量:3μL
・イオン化:エレクトロスプレーイオン化法
・スプレー電圧:3.5KV(pos)、2.5kV(neg)
【0101】
LC/MSでの非水電解液におけるFSO の相対値は、LC/MSにより求められる、本実施形態の非水電解液のFSO を示すm/Z=98.95で抽出された分子イオンピークの面積を基準非水電解液のFSO の該面積を100としたときの相対値(面積比)として算出したものである。LC/MSでの非水電解液におけるFSO の相対値は、以下の式:
〔LC/MSにより分析される本実施形態の非水電解液におけるFSO を示すm/Z=98.95で抽出された分子イオンピークの面積/LC/MSにより分析される基準非水電解液におけるFSO を示す該面積〕×100
により求めることができる。
【0102】
なお、LC/MSでの非水電解液におけるFSO の相対値は、非水電解液におけるスルホニルイミド化合物の濃度が0.01mol/L以上1.5mol/L以下であるときに、好ましくは90以下、より好ましくは80以下、より一層好ましくは70以下、さらに好ましくは60以下、さらに一層好ましくは50以下、特に好ましくは40以下である。
【0103】
<非水電解液の評価>
(1)ラミネート電池の作製
(正極の作製)
三元系正極活物質であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3(ユミコア製、品番:MX7h)、アセチレンブラック(AB、デンカ(株)製、製品名:デンカブラック(登録商標))、グラファイト(日本黒鉛工業(株)製、品番:SP270)、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF、(株)クレハ製、品番:KF1120)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させて正極合材スラリー(正極活物質:AB:グラファイト:PVdF=93:2:2:3(固形分質量比))を作製した。
【0104】
続いて、得られた正極合材スラリーをアルミニウム箔(正極集電体、日本製箔(株)製、厚み15μm)に対して、乾燥後の塗工重量が19.4mg/cmとなるようにアプリケーターで片面塗工し、110℃のホットプレート上で10分間乾燥させた。さらに、110℃の真空乾燥炉で12時間乾燥させた。その後、ロールプレス機により密度3.1g/cmとなるまで加圧成形することにより、シート状(厚み83μm)の正極を得た。
【0105】
(負極の作製)
負極活物質としてグラファイト(天然黒鉛(日立化成(株)製、品番:SMG):人造黒鉛(TIMCAL製、品番:SFG15)=85:15(固形分質量比))、スチレン-ブタジエンゴム(SBR、結着剤)及びカルボキシメチルセルロース(CMC、結着剤)を、超純水中に分散させて、負極合材スラリー(負極活物質:SBR:CMC=97.3:1.5:1.2(固形分質量比))を作製した。
【0106】
続いて、得られた負極合材スラリーを銅箔(負極集電体、福田金属箔粉工業(株)製、厚み15μm)に対して、乾燥後の塗工重量が12.7g/cmとなるようにアプリケーターで片面塗工し、80℃のホットプレート上で10分間乾燥させた。さらに、100℃の真空乾燥炉で12時間乾燥させた。その後、ロールプレス機により密度1.3g/cmとなるまで加圧成形することにより、シート状(厚み113μm)の負極を得た。
【0107】
(ラミネート電池の作製)
得られた正極及び負極をそれぞれカットし、極性導出リードを超音波で溶接し、16μmのポリエチレン(PE)セパレーターを介して該正極及び負極を対向させ、ラミネート外装で3方を封止した。未封止の1方より、前記で得られた各非水電解液を700μL添加した。これにより4.2V、容量30mAhのラミネート電池(以下「セル」ともいう)を作製した。
【0108】
(エージング工程)
得られたラミネート電池を、充放電試験装置(アスカ電子(株)製、品番:ACD-01、以下同じ)を用い、常温(25℃、以下同じ)にて0.1C(3mA)の電流値で90分充電した。充電後、封止部の一辺を開裂してガス抜きを行った後、該一辺を真空中で再封止した。その後、常温で3日間放置した。放置後、常温にて0.5C(15mA)、4.2Vで5時間の定電流定電圧(CCCV)充電をした。その後、常温にて0.2C(6mA)、2.75V終止(放電終止電圧)の定電流放電をした。さらに前記と同様の条件で定電流定電圧充電をした後、常温にて1C(30mA)、2.75V終止の定電流放電をした。以上をセルのエージング工程とした。
【0109】
(2)実軸抵抗の評価
エージング後のセルを、常温にて4.2V、1C(30mA)で30分の定電流充電をした後、充電深度(SOC)50%、25℃及び-30℃の条件下で、インピーダンスアナライザ(Bio Logic製、品番:VSP-300)を用い、周波数1GHzから10mHzまでのインピーダンス測定を行った。得られた測定値の円弧が発散する周波数から、実軸抵抗を求めた。その結果を表1の「実軸抵抗」における「25℃」及び「-30℃」の欄に示す。
【0110】
なお、円弧が発散する周波数とは、25℃測定の場合、周波数100Hz~0.01Hzの間で虚軸数値が極小を迎えた周波数をいい、-30℃の測定の場合、周波数10Hz~0.001Hzの間で虚軸数値が極小を迎えた周波数いう。
【0111】
また、表1において、実軸抵抗の低減率とは、参考例の実軸抵抗を基準(即ち「1」)とする、当該参考例と同じ塩組成である実施例の実軸抵抗(比率)をいう。より具体的には、実施例1及び4~9の実軸抵抗の低減率は、参考例1の実軸抵抗を基準とする比率である。また、実施例2の実軸抵抗の低減率は、参考例2の実軸抵抗を基準とする比率である。また、実施例3の実軸抵抗の低減率は、参考例3の実軸抵抗を基準とする比率である。以下、各実施例に対する基準参考例は同じ。
【0112】
例えば、実施例1の実軸抵抗の低減率は、参考例1の実軸抵抗を基準として、以下の(式1):
実施例1の実質抵抗値の低減率(%)=[(実施例1の実質抵抗値)/(参考例1の実質抵抗値)]×100 (式1)
により求めることができる。前記(式1)により求められる実軸抵抗の低減率は0.1%の差があれば、実質抵抗値が低減したといえる。
【0113】
(3)低温充放電容量の評価
前記「(2)実軸抵抗の評価」において、インピーダンス測定後のセルを、25℃にて0.2C(6mA)で2.75Vまで放電した。放電後、25℃にて1C(30mA)、4.2Vで0.6mA終止の定電流定電圧充電を行った。充電後のセルを-20℃で3時間放置した。その後、-20℃にて1C(30mA)、2.75V終止の定電流放電容量を測定した。その測定結果を表1の「低温(-20℃)」における「放電容量」の欄に示す。
【0114】
続いて、-20℃にて定電流放電容量を測定した後のセルを常温で3時間放置した。放置後、25℃にて0.2C(6mA)、2.75V終止の定電流放電をした。放電後のセルを、-20℃で3時間放置した。その後、-20℃にて1C(30mA)、4.2V終止の定電流充電容量を測定した。その測定結果を表1の「低温(-20℃)」における「充電容量」の欄に示す。
【0115】
なお、表1において、低温(-20℃)における定電流充電容量又は定電流放電容量の改善率とは、参考例の定電流充電容量又は定電流放電容量を基準(即ち「1」)とする、当該参考例と同じ塩組成である実施例の定電流充電容量又は定電流放電容量(比率)をいう。
【0116】
例えば、実施例1の定電流充電容量又は定電流放電容量の改善率は、参考例1の定電流充電容量又は定電流放電容量を基準として、以下の(式2):
実施例1の定電流充電容量又は定電流放電容量の改善率(%)=[(実施例1の定電流充電容量又は定電流放電容量)/(参考例1の定電流充電容量又は定電流放電容量)]×100 (式2)
により求めることができる。前記(式2)により求められる定電流充電容量又は定電流放電容量の改善率は0.1%の差があれば、定電流充電容量又は定電流放電容量が改善したといえる。
【0117】
(4)高温耐久性の評価
前記「(3)低温充放電容量の評価」において、低温充放電後のセルを、常温にて1C(30mA)、4.2Vで、3時間終止の定電流定電圧充電をした。この充電後の状態を満充電状態として、60℃で14日間保存した。保存後、25℃で冷却した後、25℃にて1C(30mA)で2.75V終止までの放電を行った。放電後、25℃にて1C(30mA)、4.2Vで0.6mA終止の定電流定電圧充電を行い、1C(30mA)、2.75V終止の放電で放電容量を確認した。その測定結果を表1の「60℃で14日保存」における「放電容量」の欄に示す。
【0118】
また、60℃で14日間保存後のセルを、25℃にて1C(30mA)、4.4Vで3時間充電を行い、85℃で3日間放置した。放置後のセルを25℃で冷却した後、25℃にて1C(30mA)で2.75V終止までの放電を行った。放電後、25℃にて1C(30mA)、4.2Vで0.6mA終止の定電流定電圧充電を行い、1C(30mA)、2.75終止の放電で放電容量を確認した。その測定結果を表1の「85℃で3日放置」における「放電容量」の欄に示す。
【0119】
なお、表1において、60℃で14日間保存後又は85℃で3日間放置後の放電容量(以下「高温保存後の放電容量」ともいう)の改善率とは、参考例の高温保存後の放電容量を基準(即ち「1」)とする、当該参考例と同じ塩組成である実施例の高温保存後の放電容量(比率)をいう。
【0120】
例えば、実施例1の高温保存後の放電容量の改善率は、参考例1の高温保存後の放電容量を基準として、以下の(式3):
実施例1の60℃で14日間保存後又は85℃で3日間放置後の放電容量の改善率(%)=[(実施例1の60℃で14日間保存後又は85℃で3日間放置後の放電容量)/(参考例1の60℃で14日間保存後又は85℃で3日間放置後の放電容量)]×100 (式3)
により求めることができる。前記(式3)により求められる高温保存後の放電容量の改善率は0.1%の差があれば、高温保存後の放電容量が改善したといえる。
【0121】
【表1】
【0122】
表1の結果から、LiFSIの濃度が0.1~0.6mol/Lの範囲である各実施例の、イオンクロマトグラフィーでの非水電解液におけるFSO の相対値は90以下であるため、当該非水電解液が用いられた電池は、界面抵抗の増大が抑制され、それに伴い、低温充放電容量及び高温耐久性の低下が抑制されることが分かる。より具体的には、実施例1及び4~9は同じ塩組成の参考例1と対比して、また実施例2は参考例2と対比して、また実施例3は参考例3と対比して、実軸抵抗が低減され、それに伴い、低温充放電容量と共に、高温保存後の放電容量が改善されることが分かる。
【0123】
また、実施例1と実施例9とは、濾過の有無の違いであるが、実施例9(濾過無)は、実施例1(濾過有)と対比して、実軸抵抗の低減率、低温充放電容量の改善率、60℃で14日保存後の放電容量の改善率、及び85℃で3日保存後の放電容量の改善率は同等であるものの、60℃で14日保存後の回路電圧(表1に記載の「保存後回路電圧(V)」)が高いまま維持され、自己放電(放電容量)が低下した。
【0124】
なお、60℃で14日保存後の回路電圧の測定は、電圧インピーダンス測定器(敦賀電機株式会社製:model 3566)及び測定ケーブル(敦賀電機株式会社製:3566)を用いて測定した。
【0125】
以上より、各実施例の非水電解液は、炭酸塩等を添加し、必要に応じて濾過することにより、LiFSI由来の不純物であるHFSOの含有量が十分低減され、その結果、電池性能が改善することが確認できた。
【0126】
(5)セル膨れの評価
(評価用セルの作製)
前記「(1)ラミネート電池の作製」で得られたシート状の正極及び負極にスリット加工を行い、短冊形電極(正極及び負極)を作成した。得られた短冊形電極と、ラミネート電池に用いたものと同品番のPE製セパレーターとを巻回機((株)皆藤製作所製)を用いて巻回素子を作製した。得られた巻回素子を2枚のアルミニウムラミネート(外装)で三辺を封止した。その後、未封止の一辺から前記で得られた実施例1及び参考例1の各非水電解液4mLを添加してアルミニウムラミネート内を各非水電解液で満たし、該一辺を真空中で封止することにより、4.2V、容量1000mAhの厚み測定用セルを作製した。
【0127】
得られた厚み測定用セルを、充放電試験装置を用い、常温にて200mAhで1時間充電した。充電後、封止部の一辺を開裂してガス抜きを行った後、該一辺を真空中で再封止した。その後、常温で3日間放置した。放置後、エージング工程として、以下のエージング条件で充放電を行った。
(エージング条件)
1st充電:0.5C(500mA)、4.2Vで定電流定電圧充電(5時間)
1st放電:0.2C(200mA)、2.75V終止
2nd充電:4.2V、0.5C(500mA)で定電流定電圧充電(5時間)
2nd放電:1C(1000mA)、2.75V終止
【0128】
(セル膨れの測定)
エージング後の厚み測定用セルを以下の容量測定条件で充放電し、初期容量を測定した。その後、1C(1000mA)、4.2Vで3時間の定電流定電圧充電を行った。この充電後の状態を満充電状態として、満充電状態の厚み測定用セルの厚み(初期セル厚み)を定圧ノギス((株)ミツトヨ製、品番:NTD25-20CX)で測定した。
(容量測定条件)
充電:1C(1000mA)、4.2Vで定電流定電圧充電、20mA終止
放電:1C(1000mA)、2.75V終止
【0129】
続いて、満充電状態の厚み測定用セルを60℃にて、1C(1000mA)、4.2Vで定電流定電圧充電を2週間連続して行った(連続充電)。2週間連続充電した厚み測定用セルの厚み(連続充電後のセル厚み)を前記と同様にして低圧ノギスで測定した。なお、連続充電後の厚み測定用セルの厚みの最も大きな部分を「連続充電後のセル厚み」とした。
【0130】
前記で測定した連続充電前後の厚み測定用セルの厚みから、以下の(式4)に基づいて、初期セル厚みからのセル膨れ量を求めた。その結果を表2に示す。
セル膨れ(%)=[(「連続充電後のセル厚み」-「初期セル厚み」)/「初期セル厚み」]×100 (式4)
【0131】
(6)容量維持率の評価
前記「(5)セル膨れの評価」において、フロート充電後の厚み測定用セルを、常温にて1C(1000mA)で2.75V終止まで定電流放電を行った。放電後、前記容量測定条件と同様の条件で連続充電した後の回復容量を、初期容量を測定したときと同様の手順で測定した。
【0132】
前記で測定した初期容量及び回復容量から、以下の(式5)に基づいて、初期容量からの容量維持率を求めた。その結果を表2に示す。
容量維持率(%)=(「回復容量」/「初期容量」)×100 (式5)
【0133】
【表2】
【0134】
表2の結果から、実施例1は、同じ塩組成である参考例1と対比して、セル膨れが小さく、容量維持率に優れることが分かる。
【0135】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る非水電解液及び当該非水電解液が用いられてなるリチウムイオン二次電池によれば、以下の効果を得ることができる。
【0136】
(1)本実施形態に係る非水電解液は、濃度0.01mol/L以上1.5mol/L以下でスルホニルイミド化合物を含み、イオンクロマトグラフィーでの該非水電解液におけるフルオロスルホン酸イオンの相対値が90以下であるため、当該非水電解液が用いられてなるリチウムイオン電池では、界面抵抗が低減され、それに伴い、低温充放電容量及び高温耐久性が改善する(換言すると、界面抵抗の増大、低温充放電容量及び高温耐久性の低下を抑制できる)。
【0137】
(2)前記非水電解液が用いられてなるリチウムイオン電池では、電池のガス膨れ、及び充放電サイクルが改善する(換言すると、電池のガス膨れ、及び充放電サイクルの低下を抑制できる)。
【0138】
(3)スルホニルイミド化合物及びフルオロリン酸化合物を含む混合塩組成の電解質塩を含む非水電解液が用いられてなるリチウムイオン電池では、当該電池内でフルオロスルホニルイミドアニオンがフルオロリン酸化合物の分解を抑制する。その結果、HFの発生が抑制されるため、高温耐久性がより一層改善する。
【0139】
(4)前記非水電解液が用いられてなるリチウムイオン電池では、注液装置を故障させる原因ともなる炭酸塩等の不溶粒子が非水電解液から取り除かれているため、注液装置のハイバーポンプシリンダーの詰まりの発生やピストン動作の低下等が抑制される。
【産業上の利用可能性】
【0140】
以上説明したように、本開示は、リチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液に適している。