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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】センサ素子及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
G01N27/416 331
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020055969
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021156689
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-173320(JP,A)
【文献】特開2003-107042(JP,A)
【文献】特開2018-169328(JP,A)
【文献】特表2010-515034(JP,A)
【文献】特開2019-174371(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0137979(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/419
G01N 27/41
G01N 27/407
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記被測定ガス流通部に配設された測定電極と、
前記被測定ガスと接触するように前記素子本体に配設された被測定ガス側電極と、
前記素子本体の内部に配設された基準電極と、
前記素子本体の外部に開口しており前記被測定ガス中の特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスを前記素子本体内に導入する基準ガス導入空間と、該基準ガスを該基準ガス導入空間から前記基準電極まで流通させる多孔質の基準ガス導入層と、を有する基準ガス導入部と、
前記素子本体を加熱するヒータと、
を備え、
前記基準電極の周囲から前記被測定ガス側電極の周囲へ酸素を汲み出したときの限界電流である限界電流Aが30μA以下であり、
前記基準ガス導入空間の拡散抵抗Ra[/mm]と前記限界電流Aとの積であるA×Raが50000以下である、
センサ素子。
【請求項2】
前記基準ガス導入層のうち前記基準ガス導入空間に露出している部分の面積である露出面積Sが10mm2以上である、
請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記基準ガス導入層の体積Cpと前記基準ガス導入空間の体積Caとの体積比Cp/Caが0.87以下である、
請求項1又は2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記限界電流Aは、20μA以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記基準ガス導入層の気孔率Pが、1%以上30%以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項6】
A×Raが41000以下である、
請求項1~5のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のセンサ素子を備えたガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサが知られている。例えば、特許文献1には、ガスセンサの一部であるセンサ素子として、酸素イオン伝導性の固体電解質層を有する積層体と、積層体のうち被測定ガスに晒される部分に配設された被測定ガス側電極と、積層体の内部の被測定ガス流通部に配設された測定電極と、積層体の内部に配設された基準電極と、被測定ガスの特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(例えば大気)を導入して基準電極に流通させる多孔質の基準ガス導入層と、を備えたセンサ素子が記載されている。このセンサ素子の基準電極と測定電極との間に生じる起電力に基づいて被測定ガス中の特定ガス濃度を検出することができる。また、特定ガス濃度の測定は、センサ素子に内蔵されたヒータによりセンサ素子を所定の駆動温度(例えば800℃)まで加熱して、固体電解質を活性化させた状態で行う。特許文献1には、センサ素子の後端面に開口する空洞を設け、その空洞に基準ガス導入層の上面を露出させた態様が記載されている。また、特許文献1には、センサ素子が空洞を備えず、基準ガス導入層がセンサ素子の後端面に露出しており、この露出した部分が基準ガス導入層の入口部となっている態様も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-173320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、センサ素子を駆動していない期間に、多孔質の基準ガス導入層が外部の水を吸着してしまう場合があった。駆動開始するとセンサ素子が加熱されるため基準ガス導入層内の水は気体となって基準ガス導入層から外部に抜けていくが、水が抜けるまでの間は気体の水が存在することで基準電極周りの酸素濃度が低下してしまう場合があった。そのため、センサ素子の駆動開始から基準電極の電位が安定するまでの時間(以下、安定時間と称する)が長くなってしまう場合があった。特に、センサ素子が基準ガス導入層の露出する空洞を備えない態様では、安定時間が長くなりやすかった。一方、センサ素子が基準ガス導入層の露出する空洞を備えた態様では、空洞が存在することでセンサ素子の外部と基準電極との間の拡散抵抗が小さくなるため、センサ素子の駆動中に外部の基準ガスの酸素濃度が低下した場合に、基準電極の周囲の酸素濃度が低下しやすいという問題があった。センサ素子の外部の基準ガスの酸素濃度が低下する場合とは、例えば被測定ガスがわずかに基準ガスに混入してしまう場合である。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、センサ素子の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性を高くし、且つ安定時間を短くすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のセンサ素子は、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記被測定ガス流通部に配設された測定電極と、
前記被測定ガスと接触するように前記素子本体に配設された被測定ガス側電極と、
前記素子本体の内部に配設された基準電極と、
前記素子本体の外部に開口しており前記被測定ガス中の特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスを前記素子本体内に導入する基準ガス導入空間と、該基準ガスを該基準ガス導入空間から前記基準電極まで流通させる多孔質の基準ガス導入層と、を有する基準ガス導入部と、
前記素子本体を加熱するヒータと、
を備え、
前記基準電極の周囲から前記被測定ガス側電極の周囲へ酸素を汲み出したときの限界電流である限界電流Aが30μA以下であり、
前記基準ガス導入空間の拡散抵抗Ra[/mm]と前記限界電流Aとの積であるA×Raが50000以下である、
ものである。
【0008】
このセンサ素子では、基準電極の周囲から被測定ガス側電極の周囲へ酸素を汲み出したときの限界電流Aが30μA以下となっている。この限界電流Aは基準ガス導入部の拡散抵抗の逆数と正の相関があり、限界電流Aが小さいほど基準ガス導入部の拡散抵抗が大きいことを意味する。限界電流Aが30μA以下であることで、基準ガス導入部の拡散抵抗が十分な大きさになるため、センサ素子の周囲の基準ガスの酸素濃度が低下した場合でも基準電極の周囲の酸素濃度の低下を抑制できる。すなわちセンサ素子の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が高くなる。また、このセンサ素子では、前記基準ガス導入空間の拡散抵抗Raと前記限界電流Aとの積であるA×Raが50000以下となっている。限界電流Aは上述したとおり基準ガス導入部の拡散抵抗の逆数と正の相関があるから、A×Raは基準ガス導入部の拡散抵抗に占める基準ガス導入空間の拡散抵抗Raの割合と正の相関がある。そして、A×Raが50000以下であることで、基準ガス導入部の拡散抵抗に占める基準ガス導入空間の拡散抵抗Raの割合が十分小さくなるため、センサ素子を駆動していない時に基準ガス導入層内に吸着された水が、センサ素子の駆動時に基準ガス導入空間を通ってセンサ素子の外部に拡散しやすくなる。そのため、センサ素子の安定時間を短くすることができる。以上により、このセンサ素子では、限界電流Aが30μA以下且つA×Raが50000以下であることで、センサ素子の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が高くなり、且つセンサ素子の駆動時の基準電極の電位の安定時間が短くなる。
【0009】
本発明のセンサ素子において、前記基準ガス導入層のうち前記基準ガス導入空間に露出している部分の面積である露出面積Sが10mm2以上であってもよい。露出面積Sが10mm2以上では、基準ガス導入層内部の水が基準ガス導入空間に拡散しやすくなるため、安定時間が短くなりやすい。
【0010】
本発明のセンサ素子において、前記基準ガス導入層の体積Cpと前記基準ガス導入空間の体積Caとの体積比Cp/Caが0.87以下であってもよい。体積比Cp/Caが0.87以下では、基準ガス導入空間の体積Caが比較的大きいから、拡散抵抗Raを小さくしてA×Raを50000以下にしやすい。
【0011】
本発明のセンサ素子において、前記限界電流Aは、20μA以下であってもよい。こうすれば、センサ素子の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性をより高めることができる。
【0012】
本発明のセンサ素子において、前記基準ガス導入層の気孔率Pが、1%以上30%以下であってもよい。気孔率Pが1%以上であれば、基準電極まで基準ガスを到達させることができる。気孔率Pが30%以下では、基準ガス導入層内の水の吸着量を少なくすることができるため、安定時間が短くなりやすい。
【0013】
本発明のセンサ素子において、A×Raが41000以下であってもよい。こうすれば、安定時間をより短くできる。
【0014】
本発明のガスセンサは、上述したいずれかの態様のセンサ素子を備えたものである。そのため、このガスセンサは、上述した本発明のセンサ素子と同様の効果、例えばセンサ素子の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が高くなり、且つセンサ素子の駆動時の基準電極の電位の安定時間が短くなる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ガスセンサ100の縦断面図。
図2】センサ素子101の構成の一例を概略的に示した断面模式図。
図3】制御装置95と各セルとの電気的な接続関係を示すブロック図。
図4図2のA-A断面図。
図5】くびれ部分48cを備えた基準ガス導入層48の一例を示す断面図。
図6】変形例のセンサ素子201の断面模式図。
図7】比較例1の基準ガス導入部949の周辺を示す部分断面図。
図8】比較例1の基準ガス導入部949を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ100の縦断面図である。図2は、ガスセンサ100が備えるセンサ素子101の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。図3は、制御装置95と各セルとの電気的な接続関係を示すブロック図である。図4は、図2のA-A断面図である。なお、センサ素子101は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子101の長手方向(図2の左右方向)を前後方向とし、センサ素子101の厚み方向(図2の上下方向)を上下方向とする。また、センサ素子101の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。
【0017】
図1に示すように、ガスセンサ100は、センサ素子101と、センサ素子101の前端側を保護する保護カバー130と、センサ素子101と導通するコネクタ150を含むセンサ組立体140とを備えている。このガスセンサ100は、図示するように例えば車両の排ガス管などの配管190に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO2等の特定ガスの濃度を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ100は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。
【0018】
保護カバー130は、センサ素子101の前端を覆う有底筒状の内側保護カバー131と、この内側保護カバー31を覆う有底筒状の外側保護カバー132とを備えている。内側保護カバー131及び外側保護カバー132には、被測定ガスを保護カバー130内に流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー131で囲まれた空間としてセンサ素子室133が形成されており、センサ素子101の前端はこのセンサ素子室133内に配置されている。
【0019】
センサ組立体140は、センサ素子101を封入固定する素子封止体141と、素子封止体141に取り付けられたボルト147,外筒148と、センサ素子101の後端の表面(上下面)に形成された図示しないコネクタ電極(後述するヒータコネクタ電極71のみ図2に図示した)に接触してこれらと電気的に接続されたコネクタ150と、を備えている。
【0020】
素子封止体141は、筒状の主体金具142と、主体金具142と同軸に溶接固定された筒状の内筒143と、主体金具142及び内筒143の内側の貫通孔内に封入されたセラミックスサポーター144a~144c,圧粉体145a,145b,メタルリング146と、を備えている。センサ素子101は素子封止体141の中心軸上に位置しており、素子封止体141を前後方向に貫通している。内筒143には、圧粉体145bを内筒143の中心軸方向に押圧するための縮径部143aと、メタルリング146を介してセラミックスサポーター144a~144c,圧粉体145a,145bを前方に押圧するための縮径部143bとが形成されている。縮径部143a,143bからの押圧力により、圧粉体145a,145bが主体金具142及び内筒143とセンサ素子101との間で圧縮されることで、圧粉体145a,145bが保護カバー130内のセンサ素子室133と外筒148内の空間149との間を封止すると共に、センサ素子101を固定している。
【0021】
ボルト147は、主体金具142と同軸に固定されており、外周面に雄ネジ部が形成されている。ボルト147の雄ネジ部は、配管190に溶接され内周面に雌ネジ部が設けられた固定用部材191内に挿入されている。これにより、ガスセンサ100のうちセンサ素子101の前端や保護カバー130の部分が配管190内に突出した状態で、ガスセンサ100が配管190に固定されている。
【0022】
外筒148は、内筒143,センサ素子101,コネクタ150の周囲を覆っており、コネクタ150に接続された複数のリード線155が後端から外部に引き出されている。このリード線155は、コネクタ150を介してセンサ素子101の各電極(後述)と導通している。外筒148とリード線155との隙間はゴム栓157によって封止されている。外筒148内の空間149は基準ガス(本実施形態では大気)で満たされている。センサ素子101の後端はこの空間149内に配置されている。
【0023】
図2に示すように、センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された積層体を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0024】
センサ素子101の一端(図2の左側)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0025】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0026】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。また、第4拡散律速部60は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所61に至る部位を被測定ガス流通部とも称する。
【0027】
センサ素子101は、センサ素子101の外部から基準電極42にNOx濃度の測定を行う際の基準ガスを流通させる基準ガス導入部49を備えている。基準ガス導入部49は、基準ガス導入空間43と、基準ガス導入層48とを有する。基準ガス導入空間43は、センサ素子101の後端面から内方向に設けられた空間である。基準ガス導入空間43は、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に設けられている。基準ガス導入空間43は、センサ素子101の後端面に開口しており、この開口が基準ガス導入部49の入口部49aとして機能する。入口部49aは、空間149内に露出している(図1参照)。この入口部49aから基準ガス導入空間43内に基準ガスが導入される。基準ガス導入部49は、入口部49aから導入された基準ガスに対して所定の拡散抵抗を付与しつつこれを基準電極42に導入する。基準ガスは、本実施形態では大気(図1の空間149内の雰囲気)とした。
【0028】
基準ガス導入層48は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4の下面との間に設けられている。基準ガス導入層48は、例えばアルミナなどのセラミックスからなる多孔質体である。基準ガス導入層48の上面の一部は、基準ガス導入空間43内に露出している。基準ガス導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。基準ガス導入層48は、基準ガスを基準ガス導入空間43から基準電極42まで流通させる。
【0029】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる基準ガス導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内,第2内部空所40内,及び第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。基準電極42は、多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。
【0030】
被測定ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの圧力変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの圧力変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0031】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間(図1のセンサ素子室133)に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0032】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0033】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0034】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0035】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とによって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0036】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力(電圧V0)を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、電圧V0が目標値となるように可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0037】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0038】
第2内部空所40は、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0039】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0040】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0041】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0042】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0043】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力(電圧V1)に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0044】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その電圧V0の上述した目標値が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0045】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。第4拡散律速部60は、第3内部空所61に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
【0046】
第3内部空所61は、あらかじめ第2内部空所40において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所61において、測定用ポンプセル41の動作により行われる。
【0047】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極44は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、内側ポンプ電極22よりも高めた材料にて構成された多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0048】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0049】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力(電圧V2)に基づいて可変電源46が制御される。
【0050】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部60を通じて第3内部空所61内の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された電圧V2が一定(目標値)となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0051】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力(電圧Vref)によりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0052】
さらに、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的な基準ガス調整ポンプセル90が構成されている。この基準ガス調整ポンプセル90は、外側ポンプ電極23と基準電極42との間に接続された電源回路92が印加する制御電圧Vp3により制御電流(酸素汲み入れ電流)Ip3が流れることで、酸素のポンピングを行う。これにより、基準ガス調整ポンプセル90は、外側ポンプ電極23の周囲の空間(図1のセンサ素子室133)から基準電極42の周囲に酸素の汲み入れを行う。
【0053】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0054】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75と、リード線76とを備えている。
【0055】
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0056】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、リード線76及びスルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0057】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0058】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成された多孔質アルミナからなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0059】
圧力放散孔75は、第3基板層3及び基準ガス導入層48を貫通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0060】
制御装置95は、図3に示すように、上述した可変電源24,46,52と、ヒータ電源78と、上述した電源回路92と、制御部96と、を備えている。制御部96は、CPU97,図示しないRAM,及び記憶部98などを備えたマイクロプロセッサである。記憶部98は、例えばROMなどの不揮発性メモリであり、各種データを記憶する装置である。制御部96は、各センサセル80~83の電圧V0~V2及び電圧Vrefを入力する。制御部96は、各ポンプセル21,50,41,90を流れるポンプ電流Ip0~Ip2及びポンプ電流Ip3を入力する。制御部96は、可変電源24,46,52及び電源回路92へ制御信号を出力することで可変電源24,46,52及び電源回路92が出力する電圧Vp0~Vp3を制御し、これにより、各ポンプセル21,41,50,90を制御する。制御部96は、ヒータ電源78に制御信号を出力することでヒータ電源78がヒータ72に供給する電力を制御し、これにより、センサ素子101の温度を調整する。記憶部98には、後述する目標値V0*,V1*,V2*,Ip1*などが記憶されている。
【0061】
制御部96は、電圧V0が目標値V0*となるように(つまり第1内部空所20の酸素濃度が目標濃度となるように)可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御する。
【0062】
制御部96は、電圧V1が一定値(目標値V1*と称する)となるように(つまり第2内部空所40の酸素濃度がNOxの測定に実質的に影響がない所定の低酸素濃度となるように)可変電源52の電圧Vp1をフィードバック制御する。これとともに、制御部96は、電圧Vp1によって流れるポンプ電流Ip1が一定値(目標値Ip1*と称する)なるように、ポンプ電流Ip1に基づいて電圧V0の目標値V0*を設定(フィードバック制御)する。これにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となる。また、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧が、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御される。目標値V0*は、第1内部空所20の酸素濃度が0%よりは高く且つ低酸素濃度となるような値に設定される。
【0063】
制御部96は、電圧V2が一定値(目標値V2*と称する)となるように(つまり第3内部空所61内の酸素濃度が所定の低濃度になるように)可変電源46の電圧Vp2をフィードバック制御する。これにより、被測定ガス中の特定ガス(ここではNOx)が第3内部空所61で還元されることにより発生した酸素が実質的にゼロとなるように、第3内部空所61内から酸素が汲み出される。そして、制御部96は、NOxに由来して第3内部空所61で発生する酸素に応じた検出値としてポンプ電流Ip2を取得し、このポンプ電流Ip2に基づいて被測定ガス中のNOx濃度を算出する。目標値V2*は、フィードバック制御された電圧Vp2によって流れるポンプ電流Ip2が限界電流となるような値として、予め定められている。記憶部98には、ポンプ電流Ip2とNOx濃度との対応関係として、関係式(例えば一次関数の式)やマップなどが記憶されている。このような関係式又はマップは、予め実験により求めておくことができる。そして、制御部96は、取得したポンプ電流Ip2と記憶部98に記憶された上記の対応関係とに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を検出する。
【0064】
制御部96は、電圧Vp3が基準ガス調整ポンプセル90に印加されるように電源回路92を制御して、ポンプ電流Ip3を流す。本実施形態では、電圧Vp3はポンプ電流Ip3が所定の値(一定値の直流電流)となるような直流電圧とした。そのため、ポンプ電流Ip3が流れることで、基準ガス調整ポンプセル90は外側ポンプ電極23周辺から基準電極42周辺へ一定量の酸素の汲み入れを行う。
【0065】
なお、図2に示した可変電源24,46,52及び電源回路92などを含めて、制御装置95は、実際にはセンサ素子101内に形成された図示しないリード線(後述する基準電極リード47のみ図4に図示した),図1のコネクタ150及びリード線155を介して、センサ素子101内部の各電極と接続されている。
【0066】
ここで、基準ガス導入部49及びその周辺の構成について図4を用いて詳細に説明する。図4は、上述したとおり図2のA-A断面図である。図4には、センサ素子101を上面からみたときに基準ガス導入空間43が存在する領域、すなわち基準ガス導入空間43を図2のA-A断面に投影した領域を、一点鎖線枠で示している。基準ガス導入層48は、センサ素子101の後端付近からセンサ素子101の長手方向(ここでは前後方向)に沿って中(ここでは前方)に延びて基準電極42を超えた位置までに亘って配設されている。基準ガス導入層48は、前側部分48aと後側部分48bとを備えている。前側部分48aは、基準電極42を覆っており、圧力放散孔75もこの前側部分48aを上下に貫通している。本実施形態では、基準ガス導入層48は、全体にわたって同じ多孔質材料で形成された所定厚み(ここでは上下方向の長さ)の層であり、センサ素子101の長手方向に垂直な面で切断した断面が矩形の層である。ただし、前側部分48aと後側部分48bとで材料が異なっていたり、厚みが異なっていたり、センサ素子101の長手方向に垂直な面で切断した断面の形状が異なっていたりしてもよい。基準ガス導入層48の幅(ここでは左右方向の長さ)は、センサ素子101の後方から前方に向かってステップ的に広がるように形成されている。具体的には、前側部分48aも後側部分48bも平面視つまり上からみたときの形状がともに矩形であり、前側部分48aの矩形の幅よりも後側部分48bの矩形の幅の方が狭くなっている。上述したように、基準ガス導入層48の上面の一部は、基準ガス導入空間43内に露出している。具体的には、図4に示す基準ガス導入層48と基準ガス導入空間43(一点鎖線枠で示す矩形の領域)との重複部分が、基準ガス導入層48のうち基準ガス導入空間43内に露出している部分である。本実施形態では、前側部分48aの上面の一部及び後側部分48bの上面の全部が、基準ガス導入空間43に露出している。図4に示すように圧力放散孔75は基準ガス導入空間43に開口している。図2,4に示すように、基準ガス導入層48の後端部は、センサ素子101の後端面よりは内側(ここでは前方)に位置している。そのため、基準ガス導入層48は図1の空間149内に直接は露出しておらず、空間149内の基準ガスは入口部49aから基準ガス導入空間43,基準ガス導入層48をこの順に通過して基準電極42に到達する。
【0067】
基準電極42には、基準電極リード47が電気的に接続されている。基準電極リード47は、センサ素子101の右側面から左方に延びて多孔質の基準ガス導入層48の内部に入り、そこから基準ガス導入層48の長手方向に沿って前方に曲げられて基準電極42に達するように設けられているが、途中で圧力放散孔75を迂回するように配線されている。この基準電極リード47は、センサ素子101の上面又は下面に配設された図示しないコネクタ電極と接続されている。この基準電極リード47及びコネクタ電極を介して、外部から基準電極42に通電したり、基準電極42の電圧や電流を外部で測定したりすることができる。基準ガス導入層48は、基準電極リード47を第3基板層3及び第1固体電解質層4から絶縁する絶縁層を兼ねていてもよい。
【0068】
次に、こうしたガスセンサ100の製造方法の一例を以下に説明する。まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。このグリーンシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴や必要なスルーホール等を予め複数形成しておく。また、スペーサ層5となるグリーンシートには被測定ガス流通部となる空間を予め打ち抜き処理などによって設けておく。第1固体電解質層4となるグリーンシートには基準ガス導入空間43となる空間を予め打ち抜き処理などによって設けておく。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6のそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに種々のパターンを形成するパターン印刷処理・乾燥処理を行う。形成するパターンは、具体的には、例えば上述した各電極や各電極に接続されるリード線、基準ガス導入層48,ヒータ部70,などのパターンである。パターン印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してグリーンシート上に塗布することにより行う。乾燥処理についても、公知の乾燥手段を用いて行う。パターン印刷・乾燥が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う。そして、接着用ペーストを形成したグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ所定の順序に積層して、所定の温度・圧力条件を加えることで圧着させ、一つの積層体とする圧着処理を行う。こうして得られた積層体は、複数個のセンサ素子101を包含したものである。その積層体を切断してセンサ素子101の大きさに切り分ける。そして、切り分けた積層体を所定の焼成温度で焼成し、センサ素子101を得る。複数のグリーンシートを積層する際には、被測定ガス流通部及び基準ガス導入空間43となる空間に、焼成時に消失する消失性材料(例えばテオブロミン)からなるペーストを充填しておくことが好ましい。
【0069】
このようにしてセンサ素子101を得ると、センサ素子101を組み込んだセンサ組立体140(図1参照)を製造し、保護カバー130やゴム栓157などを取り付ける。そして、制御装置95とセンサ素子101とをリード線155を介して接続することで、ガスセンサ100が得られる。
【0070】
ガスセンサ100が被測定ガス中のNOx濃度を検出する際に制御部96が行う処理について説明する。まず、制御部96のCPU97は、センサ素子101の駆動を開始する。具体的には、CPU97は、ヒータ電源78に制御信号を送信してヒータ72によりセンサ素子101を加熱させる。そして、CPU97は、センサ素子101を所定の駆動温度(例えば800℃)まで加熱する。次に、CPU97は、上述した各ポンプセル21,41,50,90の制御や、上述した各センサセル80~83からの各電圧V0,V1,V2,Vrefの取得を開始する。この状態で、被測定ガスがガス導入口10から導入されると、被測定ガスは、第1拡散律速部11,緩衝空間12及び第2拡散律速部13を通過し、第1内部空所20に到達する。次に、第1内部空所20及び第2内部空所40において被測定ガスの酸素濃度が主ポンプセル21及び補助ポンプセル50によって調整され、調整後の被測定ガスが第3内部空所61に到達する。そして、CPU97は、取得したポンプ電流Ip2と記憶部98に記憶された対応関係とに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を検出する。
【0071】
ここで、センサ素子101のうちガス導入口10などの被測定ガス流通部には、図1に示したセンサ素子室133から被測定ガスが導入される。一方、センサ素子101のうち基準ガス導入部49には、図1に示した空間149内の基準ガス(大気)が導入される。そして、このセンサ素子室133と空間149とは、センサ組立体140(特に、圧粉体145a,145b)によって区画され、互いにガスが流通しないように封止されている。しかし、被測定ガス側の圧力が高い場合などにおいて、被測定ガスがわずかに空間149内に侵入してしまい、空間149内の酸素濃度が低下する場合がある。このとき、基準電極42の周囲の酸素濃度まで低下してしまうと、基準電極42の電位である基準電位が変化してしまう。その場合、例えばセンサ素子101の駆動中の測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82の電圧V2など、基準電極42を基準とした電圧が変化してしまい、被測定ガス中のNOx濃度の検出精度が低下してしまう。これに対し、本実施形態のセンサ素子101では、基準電極42の周囲から被測定ガス側電極(ここでは外側ポンプ電極23)の周囲へ酸素を汲み出したときの限界電流Aが30μA以下となるように、基準ガス導入部49が設計されている。この限界電流Aは基準ガス導入部49の拡散抵抗の逆数と正の相関があり、限界電流Aが小さいほど基準ガス導入部49の拡散抵抗が大きいことを意味する。限界電流Aが30μA以下であることで、基準ガス導入部49の拡散抵抗が十分な大きさになるため、センサ素子101の周囲の基準ガスの酸素濃度(ここでは空間149内の酸素濃度)が低下した場合でも、基準電極42の周囲の酸素濃度の低下を抑制できる。すなわち、センサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が高くなる。これにより、基準電位の変化が抑制されて、被測定ガス中のNOx濃度の検出精度の低下も抑制される。なお、被測定ガス中には汚染物質(被毒物質)が含まれる場合があるが、限界電流Aが30μA以下であることで、汚染物質が基準電極42に到達することも抑制できる。
【0072】
基準ガス導入部49の限界電流Aの測定方法は、以下のとおりである。まず、大気中にセンサ素子101を配置し、ヒータ72に通電してセンサ素子101を所定の駆動温度(例えば800℃)まで加熱する。可変電源24,46,52及び電源回路92はいずれも電圧を印加しない状態とする。センサ素子101の温度が安定した後、基準電極42の周囲から外側ポンプ電極23の周囲への酸素の汲み出しが行われるように、電源回路92によって外側ポンプ電極23と基準電極42との間に制御電圧Vp3を印加する。このときに両電極23,42間を流れるポンプ電流Ip3を測定する。制御電圧Vp3は直流電圧とする。その後、制御電圧Vp3を徐々に上げていくとポンプ電流Ip3も徐々に上がっていくが、最終的には制御電圧Vp3を上げてもポンプ電流Ip3が上がらず上限に達する。このときの上限を限界電流Aと称する。基準ガス導入部49の入口部49aから導入されて基準電極42に到達する大気の流量は、基準ガス導入部49の拡散抵抗に依存する。そのため、限界電流Aは、基準ガス導入部49の拡散抵抗の逆数と正の相関があり、基準ガス導入部49の拡散抵抗が大きいほど小さい値になる。限界電流Aは、基準ガス導入空間43の拡散抵抗をRa,基準ガス導入層48の拡散抵抗をRpとすると、1/(Ra+Rp)に略比例すると考えられる。そのため、拡散抵抗Ra及び拡散抵抗Rpの少なくとも一方を調整することで、限界電流Aを調整できる。基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raは、例えば基準ガス導入空間43の形状を変化させることで調整できる。基準ガス導入空間43の形状を変化させる場合には、例えば、基準ガス導入空間43の厚み(ここでは上下方向の寸法),幅(ここでは左右方向の寸法),及び長さ(ここでは前後方向の寸法)のうち1以上を変化させてもよい。基準ガス導入層48の拡散抵抗Rpは、例えば基準ガス導入層48の気孔率Pを変化させたり、基準ガス導入層48の形状を変化させたりすることにより調整することができる。基準ガス導入層48の形状を変化させる場合には、例えば、基準ガス導入層48の厚み(ここでは上下方向の寸法),幅(ここでは左右方向の寸法),及び長さ(ここでは前後方向の寸法)のうち1以上を変化させてもよい。前側部分48aと後側部分48bの一方の形状を変化させてもよい。また、後述する基準ガス導入層48の露出面積Sを変化させることによっても、限界電流Aを調整できる。
【0073】
また、センサ素子101を駆動していない期間に、基準ガス導入層48がセンサ素子101の外部すなわち空間149内の水を吸着してしまう場合がある。空間149内の水は、元々空間149内にわずかに存在する場合や、ゴム栓157と外筒148との隙間から空間149内に侵入する場合などがある。制御部96がセンサ素子101の駆動を開始するとヒータ72によりセンサ素子101が加熱されるため基準ガス導入層48内の水は気体となって基準ガス導入層48から外部(ここでは空間149)に抜けていく。しかし、水が抜けるまでの間は気体の水が存在することで基準電極42の周りの酸素濃度が低下してしまう場合がある。そのため、特に基準ガス導入空間43を備えず基準ガス導入層48がセンサ素子101の後端面に露出している態様のセンサ素子(例えば後述する図7及び図8に示す比較例1のセンサ素子901)の場合は、基準ガス導入層48から水が抜けるのに時間がかかり、センサ素子の駆動開始から基準電極42の電位が安定するまでの時間(以下、安定時間と称する)が長くなってしまう場合がある。これに対し、本実施形態のセンサ素子101では、基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raと限界電流Aとの積であるA×Raが50000以下となっている。限界電流Aは上述したとおり基準ガス導入部49の拡散抵抗の逆数と正の相関があるから、A×Raは基準ガス導入部49の拡散抵抗に占める基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raの割合と正の相関がある。例えば、A×Raは、Ra/(Ra+Rp)に略比例すると考えられる。そして、A×Raが50000以下であることで、基準ガス導入部49の拡散抵抗に占める基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raの割合が十分小さくなるため、センサ素子101を駆動していない時に基準ガス導入層48内に吸着された水が、センサ素子101の駆動時に基準ガス導入空間43を通ってセンサ素子101の外部(ここでは空間149)に拡散しやすくなる。そのため、センサ素子101の安定時間を短くすることができる。
【0074】
基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raは、基準ガス導入空間43の体積Caを基準ガス導入空間43の前後方向の長さで除した値を平均断面積とし、前後方向の長さを平均断面積で除すことで求める。本実施形態では基準ガス導入空間43は直方体形状であり断面積が前後方向で変化しないため、前後方向の長さを断面積(=厚み×幅)で除すことで拡散抵抗Raを求めることもできる。
【0075】
以上のように、本実施形態のセンサ素子101では、限界電流Aが30μA以下且つA×Raが50000以下であることで、センサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が高くなり、且つセンサ素子101の駆動時の基準電極42の電位の安定時間が短くなる。ここで、限界電流Aを小さくするためには基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raと基準ガス導入層48の拡散抵抗Rpとの少なくとも一方を大きくすればよいが、拡散抵抗Raを大きくしすぎるとA×Raが50000を超えてしまう。限界電流Aが30μA以下且つA×Raが50000以下となるように拡散抵抗Ra及び拡散抵抗Rpを適切に調整することで、上述した2つの効果を共に得ることができる。なお、基準ガス導入部49が基準ガス導入空間43と基準ガス導入層48とを備える場合に基準ガス導入層48の拡散抵抗Rpのみを直接測定することは難しいため、本発明者らは基準ガス導入部49全体の拡散抵抗と相関のある限界電流Aと、基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raとを用いることとし、上述した2つの効果を共に得るための限界電流A及びA×Raの数値範囲を見出した。
【0076】
限界電流Aは、20μA以下が好ましく、15μA以下がより好ましい。限界電流Aが小さいほど、センサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性をより高めることができる。限界電流Aは、1μA以上としてもよいし、5μA以上としてもよい。
【0077】
A×Raは、41000以下が好ましく、20000以下がより好ましく、10000以下がさらに好ましい。A×Raが小さいほど、安定時間を短くできる。A×Raは、2500以上としてもよいし、3900以上としてもよいし、7000以上としてもよい。基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raは、2000[/mm]以下が好ましく、1500[/mm]以下がより好ましく、1000[/mm]以下がさらに好ましく、550[/mm]以下が一層好ましい。拡散抵抗Raが小さいほど、A×Raの値を小さくしやすい。
【0078】
基準ガス導入層48のうち基準ガス導入空間43に露出している部分の面積を、露出面積Sと称する。この露出面積Sは10mm2以上であることが好ましい。上述したように、本実施形態では、基準ガス導入層48の上面の一部が基準ガス導入空間43内に露出しており、図4に示す基準ガス導入層48と基準ガス導入空間43(一点鎖線枠で示す矩形の領域)との重複部分の面積が、露出面積Sに相当する。なお、図2に示すように基準ガス導入層48の後端面も基準ガス導入空間43に露出しているが、基準ガス導入層48の厚さは基準ガス導入層48の上面の露出部分の長さや幅と比べると非常に小さいため、後端面の面積は非常に小さい。そのため、基準ガス導入層48の後端面の面積は露出面積Sには含めない(後端面の面積は無視する)。露出面積Sが10mm2以上では、基準ガス導入層48内部の水が基準ガス導入空間43に拡散しやすくなるため、安定時間が短くなりやすい。露出面積Sは15mm2以上がより好ましく、20mm2以上がさらに好ましく、25mm2以上が一層好ましい。露出面積Sは40mm2以下としてもよいし、30mm2以下としてもよい。
【0079】
基準ガス導入層48の体積Cpと基準ガス導入空間43の体積Caとの体積比Cp/Caは、0.87以下であることが好ましい。体積Cpは、基準ガス導入層48の外形寸法から求める値とする。すなわち、基準ガス導入層48内部の気孔の容積も体積Cpに含めるものとする。体積比Cp/Caが0.87以下では、基準ガス導入空間43の体積Caが比較的大きいから、基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raを小さくしてA×Raを50000以下にしやすい。体積比Cp/Caは、0.50以下としてもよく、0.40以下としてもよく、0.30以下としてもよい。体積比Cp/Caは0.15以上としてもよい。基準ガス導入空間43の体積Caは、例えば1.5mm3以上が好ましく、2.0mm3以上がより好ましく、3.5mm3以上がさらに好ましく、5.0mm3以上が一層好ましい。体積Caは6.0mm3以下であってもよい。基準ガス導入層48の体積Cpは、例えば0.5mm3以上であってもよいし、1.5mm3以下であってもよい。
【0080】
基準ガス導入層48の気孔率Pは1%以上30%以下であることが好ましい。気孔率Pが1%以上であれば、基準電極42まで基準ガスを到達させることができる。気孔率Pが30%以下では、基準ガス導入層48内の水の吸着量を少なくすることができるため、安定時間が短くなりやすい。気孔率Pは20%以下がより好ましい。
【0081】
基準ガス導入層48の気孔率Pは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように導出した値とする。まず、基準ガス導入層48の断面を観察面とするようにセンサ素子101を切断し、切断面の樹脂埋め及び研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEM写真(2次電子像、加速電圧15kV、倍率1000倍,ただし倍率1000倍で不適切な場合は1000倍より大きく5000倍以下の倍率を用いる)にて観察用試料の観察面を撮影することで基準ガス導入層48のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、気孔率P[%]として導出する。気孔率Pは、例えば基準ガス導入層48のパターン形成用ペーストに含まれるセラミック粒子の粒径を調整したり、造孔材の粒径又は配合割合を調整したりすることで、調整できる。
【0082】
なお、本実施形態では、センサ素子101の駆動中において、上述したように制御部96が基準ガス調整ポンプセル90を用いて外側ポンプ電極23周辺から基準電極42周辺に酸素の汲み入れを行う。これにより、基準電極42の周囲の酸素濃度が低下した場合に、減少した酸素を補うことができ、NOx濃度の検出精度の低下を抑制できる。ただし、センサ素子101の周囲の基準ガスの酸素濃度の低下の程度によっては、基準ガス調整ポンプセル90による基準電極42周辺への酸素の汲み入れを行っていても、基準電極42の周囲の酸素濃度が低下する場合がある。そのため、基準ガス調整ポンプセル90による酸素の汲み入れを行うか否かにかかわらず、限界電流Aが30μA以下となるように基準ガス導入部49を設計することが好ましい。
【0083】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の第1基板層1,第2基板層2,第3基板層3,第1固体電解質層4,スペーサ層5及び第2固体電解質層6が本発明の素子本体に相当し、測定電極44が測定電極に相当し、外側ポンプ電極23が被測定ガス側電極に相当し、基準電極42が基準電極に相当し、基準ガス導入空間43が基準ガス導入空間に相当し、基準ガス導入層48が基準ガス導入層に相当し、基準ガス導入部49が基準ガス導入部に相当し、ヒータ72がヒータに相当する。
【0084】
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100によれば、限界電流Aが30μA以下且つA×Raが50000以下であることで、センサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が高くなり、且つセンサ素子101の駆動時の基準電極42の電位の安定時間が短くなる。また、露出面積Sが10mm2以上であることで、基準ガス導入層48内部の水が基準ガス導入空間43に拡散しやすくなるため、安定時間が短くなりやすい。さらに、体積比Cp/Caが0.87以下であることで、基準ガス導入空間43の体積Caが比較的大きいから、拡散抵抗Raを小さくしてA×Raを50000以下にしやすい。さらにまた、限界電流Aが20μA以下であることで、センサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性をより高めることができる。そして、気孔率Pが1%以上であれば、基準電極42まで基準ガスを到達させることができる。気孔率Pが30%以下であれば、基準ガス導入層48内の水の吸着量を少なくすることができるため、安定時間が短くなりやすい。そして、A×Raが41000以下であることで、安定時間をより短くできる。
【0085】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0086】
例えば、上述した実施形態では、基準電極リード47は圧力放散孔75を迂回するために途中で二股に分岐させたが、圧力放散孔75がない場合には迂回する必要がなく、分岐させる必要もない。
【0087】
上述した実施形態では、基準ガス導入層48の後端部がセンサ素子101の後端面よりも内側に位置していたが、これに限られない。例えば、基準ガス導入層48の長さを図4よりも長くして、基準ガス導入層48の後端部がセンサ素子101の後端面と面一になる(基準ガス導入層48の後端部が空間149に直接露出する)ようにしてもよい。言い換えると、センサ素子101の外部の基準ガスが基準ガス導入空間43を経由せずに基準ガス導入層48内に到達するような基準ガスの経路が存在してもよい。
【0088】
上述した実施形態では、基準ガス導入層48の前側部分48a及び後側部分48bはいずれも平面視で矩形になるように形成したが、特にこれに限定されない。例えば、前側部分48aと後側部分48bとの少なくともいずれかが、前後方向に沿って徐々に幅が広がるような形状であってもよい。また、基準ガス導入層48の形状として、図5に示す形状を採用してもよい。図5の基準ガス導入層48では、前側部分48aがさらに前側と後側とに分かれており、その間に前側部分48aよりも幅の狭いくびれ部分48cを備えている。くびれ部分48cが存在することで、基準ガス導入層48の拡散抵抗Rpを大きくすることができるから、基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raを大きくしなくとも限界電流Aを小さくすることができる。
【0089】
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40,第3内部空所61を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、図6に示した変形例のセンサ素子201のように、第3内部空所61を備えないものとしてもよい。図6に示した変形例のセンサ素子201では、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。また、測定電極44は、第2内部空所40内の第1固体電解質層4の上面に配設されている。測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。第4拡散律速部45は、アルミナ(Al23)などのセラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、上述した実施形態の第4拡散律速部60と同様に、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担う。また、第4拡散律速部45は、測定電極44の保護膜としても機能する。補助ポンプ電極51の天井電極部51aは、測定電極44の直上まで形成されている。このような構成のセンサ素子201であっても、上述した実施形態と同様に、測定用ポンプセル41によりNOx濃度を検出できる。図6のセンサ素子201では、測定電極44の周囲が測定室として機能することになる。すなわち、測定電極44の周囲が第3内部空所61と同様の役割を果たすことになる。
【0090】
上述した実施形態では、ポンプ電流Ip3が一定値の直流電流であるものとしたが、これに限られない。例えば、ポンプ電流Ip3はパルス状の断続的な電流であってもよい。また、ポンプ電流Ip3は、本実施形態では一定値の直流電流であり、常に基準電極42の周囲に酸素を汲み入れる方向に流れる電流であるが、これに限られない。例えば、ポンプ電流Ip3が、基準電極42の周囲から酸素を汲み出す方向に流れる期間が存在してもよい。その場合でも、十分長い所定期間でみたときの全体的な酸素の移動方向が基準電極42の周囲に酸素を汲み入れる方向であれよい。
【0091】
上述したセンサ素子101において、基準ガス調整ポンプセル90の回路を省略したり、ガスセンサ100が電源回路92を備えていなかったりしてもよい。また、ガスセンサ100は制御装置95を備えていなくてもよい。例えばガスセンサ100は、制御装置95の代わりに、リード線155に取り付けられ制御装置95とリード線155とを接続するための外部接続用コネクタを備えていてもよい。
【0092】
上述した実施形態では、基準電極42は第3基板層3の上面に直に形成されているものとしたが、これに限られない。例えば、基準電極42は第1固体電解質層4の下面に直に形成されていてもよい。また、基準ガス導入層48の上面が基準ガス導入空間43に露出していたが、基準ガス導入層48の下面が基準ガス導入空間43に露出していてもよい。
【0093】
上述した実施形態では、基準ガスは大気としたが、被測定ガス中の特定ガスの濃度の検出の基準となるガスであれば、これに限られない。例えば、予め所定の酸素濃度(>被測定ガスの酸素濃度)に調整したガスが基準ガスとして空間149に満たされていてもよい。
【0094】
上述した実施形態において、外側ポンプ電極23を含むセンサ素子101の前側(センサ素子室133に露出する部分)の表面が、アルミナなどのセラミックスからなる多孔質保護層で被覆されていてもよい。
【0095】
上述した実施形態では、CPU97は、電圧V2が目標値V2*となるように可変電源46の電圧Vp2をフィードバック制御する処理を行い、このときの検出値(ポンプ電流Ip2)に基づいて被測定ガス中のNOx濃度を検出したが、これに限られない。例えば、CPU97は、ポンプ電流Ip2が一定の目標値Ip2*となるように測定用ポンプセル41を制御(例えば電圧Vp2を制御)し、このときの検出値(電圧V2)を用いてNOx濃度を検出してもよい。ポンプ電流Ip2が目標値Ip2*となるように測定用ポンプセル41が制御されることで、ほぼ一定の流量で第3内部空所61から酸素が汲み出されることになる。そのため、被測定ガス中のNOxが第3内部空所61で還元されることにより発生する酸素の多寡に応じて第3内部空所61の酸素濃度が変化し、これにより電圧V2が変化する。したがって、電圧V2が被測定ガス中のNOx濃度に応じた値になる。そのため、制御部96はこの電圧V2に基づいてNOx濃度を算出できる。この場合、例えば予め記憶部98に電圧V2とNOx濃度との対応関係を記憶しておけばよい。
【0096】
上述した実施形態では、センサ素子101は被測定ガス中のNOx濃度を検出するものとしたが、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するものであれば、これに限られない。例えば、NOxに限らず他の酸化物濃度を特定ガス濃度としてもよい。特定ガスが酸化物の場合には、上述した実施形態と同様に特定ガスそのものを第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、測定用ポンプセル41はこの酸素に応じた検出値(例えばポンプ電流Ip2)を取得して特定ガス濃度を検出できる。また、特定ガスがアンモニアなどの非酸化物であってもよい。特定ガスが非酸化物の場合には、特定ガスを酸化物に変換(例えばアンモニアであればNOに変換)することで、変換後のガスが第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、測定用ポンプセル41はこの酸素に応じた検出値(例えばポンプ電流Ip2)を取得して特定ガス濃度を検出できる。例えば、第1内部空所20の内側ポンプ電極22が触媒として機能することにより、第1内部空所20においてアンモニアをNOに変換できる。
【0097】
上述した実施形態では、センサ素子101の素子本体は複数の固体電解質層(層1~6)を有する積層体としたが、これに限られない。センサ素子101の素子本体は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を少なくとも1つ含んでいればよい。例えば、図2において第2固体電解質層6以外の層1~5は固体電解質層以外の材質からなる構造層(例えばアルミナからなる層)としてもよい。この場合、センサ素子101が有する各電極は第2固体電解質層6に配設されるようにすればよい。例えば、図2の測定電極44は第2固体電解質層6の下面に配設すればよい。また、基準ガス導入空間43を第1固体電解質層4の代わりにスペーサ層5に設け、基準ガス導入層48を第1固体電解質層4と第3基板層3との間に設ける代わりに第2固体電解質層6とスペーサ層5との間に設け、基準電極42を第3内部空所61よりも後方且つ第2固体電解質層6の下面に設ければよい。
【0098】
上述した実施形態では、外側ポンプ電極23は、主ポンプセル21の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側主ポンプ電極と、補助ポンプセル50の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側補助ポンプ電極と、測定用ポンプセル41の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側測定電極と、基準ガス調整ポンプセル90の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された被測定ガス側電極と、を兼ねていたが、これに限られない。外側主ポンプ電極,外側補助ポンプ電極,外側測定電極,及び被測定ガス側電極のうちのいずれか1以上を、外側ポンプ電極23とは別にセンサ素子101の外側に設けてもよい。
【0099】
上述した実施形態では、制御部96は、ポンプ電流Ip1が目標値Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて電圧V0の目標値V0*を設定(フィードバック制御)し、電圧V0が目標値V0*となるようにポンプ電圧Vp0をフィードバック制御したが、他の制御を行ってもよい。例えば、制御部96は、ポンプ電流Ip1が目標値Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいてポンプ電圧Vp0をフィードバック制御してもよい。すなわち、制御部96は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80からの電圧V0の取得や目標値V0*の設定を省略して、ポンプ電流Ip1に基づいて直接的にポンプ電圧Vp0を制御(ひいてはポンプ電流Ip0を制御)してもよい。
【実施例
【0100】
以下には、ガスセンサを具体的に作製した例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
[実施例1]
上述した製造方法により図1~4に示したガスセンサ100を作製し、実施例1とした。なお、センサ素子101を作製するにあたり、グリーンシートは、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合し、テープ成形により成形した。図1の圧粉体145a,145bとしてはタルク粉末を成形したものを用いた。基準ガス導入層48はアルミナのセラミックスとした。基準ガス導入空間43はテオブロミンを消失性材料として用いて形成した。基準ガス導入層48の前側部分48aの寸法は、厚みが0.03mm,幅が2.26mm,長さが7.17mmとした。後側部分48bの寸法は、厚みが0.03mm,幅が0.5mm,長さが52.6mmとした。したがって基準ガス導入層48の体積Cpは1.3mm3であった。基準ガス導入層48の気孔率Pは10.0%とした。基準ガス導入空間43の寸法は、厚みが0.2mm,幅が0.5mm,長さが53.80mmとした。したがって基準ガス導入空間43の拡散抵抗Raは538[/mm]であった。また、基準ガス導入空間43の体積Caは5.4mm3であった。体積比Cp/Caは0.24となった。露出面積Sは26mm2とした。限界電流Aは15μAであった。A×Raは8070となった。
【0102】
[実施例2~9,比較例1~3]
表1に示す値になるように基準ガス導入層48の寸法,基準ガス導入空間43の寸法,気孔率P,露出面積Sのうち1以上を実施例1から変更して、実施例2~9,比較例1~3のガスセンサ100を作製した。実施例4,9では、センサ素子101の長さを短くすることで、後側部分48bの長さ及び基準ガス導入空間43の長さを短くした。実施例8は、図5に示したように基準ガス導入層48がくびれ部分48cを備えた形状とした。表1における、実施例8の前側部分48aの長さ(6.7mm)は、図5の前側部分48aのうちくびれ部分48cを除いた部分の長さである。また、表1には、実施例8のくびれ部分48cの厚み,幅,及び長さも示した。比較例1のガスセンサ100のセンサ素子901は、図7及び図8に示すように、基準ガス導入空間43を備えない態様とした。具体的には、センサ素子901の基準ガス導入部949は、基準ガス導入空間43を備えず基準ガス導入層948を備えている。基準ガス導入層948は、実施例1と同じ寸法の前側部分48aと、後側部分948bとを備えている。後側部分948bは、図4の後側部分48bと異なり後端部がセンサ素子901の後端面と面一になるまで延びており、その分だけ実施例1の後側部分48bよりも長くなっている。この後側部分948bの後端面が、基準ガス導入部49の入口部949aとなっている。
【0103】
[評価試験1]
実施例1~9,比較例1~3のガスセンサ100について、センサ素子の駆動時のNOx出力(ポンプ電流Ip2の値)の安定性を調べて、上述した安定時間を評価した。まず、実施例1のガスセンサ100を温度40℃,湿度85%の恒温恒湿槽に1週間保管して、基準ガス導入空間43に水を吸着させた。次に、実施例1のガスセンサ100を配管に取り付けた。ベースガスを窒素とし、酸素濃度0%、NOx濃度を1500ppmとしたモデルガスを用意し、これを被測定ガスとして配管に流した。この状態で制御装置95によりセンサ素子101を駆動させた。具体的には、制御装置95がヒータ72に通電してセンサ素子101を加熱し、センサ素子101の温度を800℃で維持した。また、制御装置95が上述した各ポンプセル21,41,50の制御や、上述した各センサセル80~83からの各電圧V0,V1,V2,Vrefの取得を継続して行っている状態とした。基準ガス調整ポンプセル90については動作させないようにした。センサ素子101の駆動開始(加熱開始)から上記の状態を30分間維持して、その間のポンプ電流Ip2を継続して測定し、駆動開始からポンプ電流Ip2が安定するまでの時間を測定した。ここで、センサ素子101の駆動開始から基準ガス導入層48内の水が抜けるまでの間は気体の水が存在することで基準電極42の周りの酸素濃度が低下するため、基準電極42の電位が安定しない。そのため、基準電極42の電位が安定するまでは、被測定ガスのNOx濃度が一定であってもポンプ電流Ip2が安定しない。したがって、ポンプ電流Ip2が安定するまでの時間の長短によって、センサ素子101の駆動開始から基準電極42の電位が安定するまでの時間である安定時間の長短を判定できる。そこで、駆動開始から10分以内にポンプ電流Ip2が安定したときには、安定時間が非常に短い(「A」)と判定した。駆動開始から10分経過し且つ30分以内にポンプ電流Ip2が安定したときには、安定時間が短い(「B」)と判定した。駆動開始から30分以内にポンプ電流Ip2が安定しなかったときには、安定時間が長い(「F」)と判定した。実施例2~9,比較例1~3のガスセンサ100についても同様に試験を行った。
【0104】
[評価試験2]
実施例1~9,比較例1~3のガスセンサ100について、センサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性を評価した。まず、 実施例1のガスセンサ100を自動車の排ガス管の配管に取り付けた。次に、自動車のガソリンエンジンを所定の運転条件(エンジンの回転数が4000rpm、排ガスのゲージ圧力が20kPa、空燃費A/Fが値11.0、負荷トルクが130N・m、空気過剰率λ(=空燃比/理論空燃比)が0.83)で20分間運転した。この状態で、評価試験1と同様に制御装置95がセンサ素子101を駆動させ、基準ガス調整ポンプセル90以外の全てのポンプセルを動作させて、NOx濃度の測定を行っている状態とした。そして、20分間の間に、電圧Vrefがλ=0.83の排ガスと基準ガス(大気)との酸素濃度差に相当する値(=電圧Vrefの理論値)から所定の変化量(50mV)を超えて変化したか否かを調べた。ここで、センサ素子101の電圧Vrefが変化しにくいほど、排ガスが空間149内に侵入しても基準電極42の周囲の酸素濃度が低下しにくく、基準電極42の電位が変化しにくいことを意味する。したがって、電圧Vrefの変化のしやすさによって、センサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性を評価できる。そこで、電圧Vrefが20分間経過しても50mVを超えて変化しなかった場合には、センサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が非常に高い(「A」)と評価した。電圧Vrefが15分経過し20分経過する前に50mVを超えて変化した場合には、耐性が高い(「B」)と評価した。電圧Vrefが15分経過する前に50mVを超えて変化した場合には、耐性が低い(「C」)と評価した。実施例2~9,比較例1~3のガスセンサ100についても同様に試験を行った。
【0105】
実施例1~9の各々について上記の評価試験1,2の結果を表1に示す。表1において、比較例1は基準ガス導入空間43が存在しないため、拡散抵抗Ra,A×Ra,及び体積比Cp/Caは値なし(「-」)とした。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示すように、限界電流Aが30μAを超えている比較例2は、評価試験2の結果が「F」でありセンサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が低かった。これに対して、限界電流Aが30μA以下である実施例1~9,比較例1,比較例3は、いずれも評価試験2の結果が「A」又は「B」でありセンサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が高かった。特に、限界電流Aが20μA以下である実施例1~5,9,比較例1,3は評価試験2の結果が「A」でありセンサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が非常に高かった。
【0108】
また、A×Raが50000を超えている比較例3,及び基準ガス導入空間43が存在しない比較例1は、評価試験1の結果が「F」であり安定時間が長かった。これに対して、A×Raが50000以下である実施例1~9,比較例2は、いずれも評価試験1の結果が「A」又は「B」であり安定時間が短かった。特に、A×Raが41000以下である実施例1~6,8,9,比較例2は評価試験1の結果が「A」であり安定時間が非常に短かった。なお、比較例1の安定時間が長いのは、基準ガス導入空間43が存在しないため基準ガス導入層948の上面からは水が外部に拡散できず、面積の小さい基準ガス導入層948の後端面からしか水が外部に拡散できないためと考えられる。
【0109】
以上の評価試験1,2の結果から、限界電流Aが30μA以下且つA×Raが50000以下であれば、センサ素子101の外部の基準ガスの酸素濃度の低下に対する耐性が高くなり、且つセンサ素子101の駆動時の基準電極42の電位の安定時間が短くなることが確認された。また、表1の露出面積Sと評価試験1の結果との関係から、露出面積Sは10mm2以上が好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサに利用可能である。
【符号の説明】
【0111】
1 第1基板層、2 第2基板層、3 第3基板層、4 第1固体電解質層、5 スペーサ層、6 第2固体電解質層、10 ガス導入口、11 第1拡散律速部、12 緩衝空間、13 第2拡散律速部、20 第1内部空所、21 主ポンプセル、22 内側ポンプ電極、22a 天井電極部、22b 底部電極部、23 外側ポンプ電極、24 可変電源、30 第3拡散律速部、40 第2内部空所、41 測定用ポンプセル、42 基準電極、43 基準ガス導入空間、44 測定電極、45 第4拡散律速部、46 可変電源、47 基準電極リード、48,948 基準ガス導入層、48a 前側部分、48b,948b 後側部分、48c くびれ部分、49,949 基準ガス導入部、49a,949a 入口部、50 補助ポンプセル、51 補助ポンプ電極、51a 天井電極部、51b 底部電極部、52 可変電源、60 第4拡散律速部、61 第3内部空所、70 ヒータ部、71 ヒータコネクタ電極、72 ヒータ、73 スルーホール、74 ヒータ絶縁層、75 圧力放散孔、76 リード線、78 ヒータ電源、80 主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、81 補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、82 測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、83 センサセル、90 基準ガス調整ポンプセル、92 電源回路、95 制御装置、96 制御部、97 CPU、98 記憶部、100 ガスセンサ、101,201,901 センサ素子、130 保護カバー、131 内側保護カバー、132 外側保護カバー、133 センサ素子室、140 センサ組立体、141 素子封止体、142 主体金具、143 内筒、143a,143b 縮径部、144a~144c セラミックスサポーター、145a,145b 圧粉体、146 メタルリング、147 ボルト、148 外筒、149 空間、150 コネクタ、155 リード線、157 ゴム栓、190 配管、191 固定用部材。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8