(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】移動体制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/165 20200101AFI20231211BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20231211BHJP
【FI】
B60W30/165
G05D1/02 X
(21)【出願番号】P 2020062509
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-02-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒寄 剛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 絢也
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-159829(JP,A)
【文献】特開2015-214288(JP,A)
【文献】特開2020-100166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/165
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された走行経路に沿って複数の移動体を隊列走行させる移動体制御システムであって、
前記走行経路のカーブ路のカーブ入口からカーブ出口までの間に前記走行経路の曲率が増加する区間と、曲率が一定の区間と、曲率が減少する区間とが連続するカーブ路を隊列走行するときの先行移動体および後続移動体の走行経路における前後加速度を演算する前後加速度演算部を備え、
該前後加速度演算部は、前記各移動体の横加加速度に速度及び横加速度から決定されるゲインを乗じた値を用いて前記各移動体の前後加速度を演算する演算式において前記前後加速度を演算する演算式のゲインを、前記各移動体が搬送する搬送物の情報に基づいて調整し、
前記搬送物の情報には、前記搬送物が乗員であるか否か、及び、乗員の注視方向の情報が含まれており、
前記前後加速度演算部は、前記後続移動体の搬送物が乗員であり、該乗員が前記先行移動体を注視しているときは、注視していないときよりも、前記後続移動体の走行経路の曲率が減少する区間における前記後続移動体の前後加速度を演算する演算式のゲインを小さくすることを特徴とする移動体制御システム。
【請求項2】
予め設定された走行経路に沿って複数の移動体を隊列走行させる移動体制御システムであって、
前記走行経路のカーブ路のカーブ入口からカーブ出口までの間に前記走行経路の曲率が増加する区間と、曲率が一定の区間と、曲率が減少する区間とが連続するカーブ路を隊列走行するときの先行移動体および後続移動体の走行経路における前後加速度を演算する前後加速度演算部を備え、
該前後加速度演算部は、前記各移動体の横加加速度に速度及び横加速度から決定されるゲインを乗じた値を用いて前記各移動体の前後加速度を演算する演算式において前記前後加速度を演算する演算式のゲインを、前記各移動体が搬送する搬送物の情報に基づいて調整し、
前記搬送物の情報には、前記搬送物が乗員であるか否か、及び、乗員の注視方向の情報が含まれており、
前記前後加速度演算部は、前記先行移動体の搬送物が乗員であり、該乗員が前記後続移動体を注視しているときは、注視していないときよりも、前記先行移動体の走行経路の曲率が増加する区間における前記先行移動体の前後加速度を演算する演算式のゲインを大きくすることを特徴とする移動体制御システム。
【請求項3】
予め設定された走行経路に沿って複数の移動体を隊列走行させる移動体制御システムであって、
前記走行経路のカーブ路のカーブ入口からカーブ出口までの間に前記走行経路の曲率が増加する区間と、曲率が一定の区間と、曲率が減少する区間とが連続するカーブ路を隊列走行するときの先行移動体および後続移動体の走行経路における前後加速度を演算する前後加速度演算部を備え、
該前後加速度演算部は、前記各移動体の横加加速度に速度及び横加速度から決定されるゲインを乗じた値を用いて前記各移動体の前後加速度を演算する演算式において前記前後加速度を演算する演算式のゲインを、前記各移動体が搬送する搬送物の情報に基づいて調整し、
前記搬送物の情報には、前記搬送物が乗員であるか否か、及び、乗員の注視方向の情報が含まれており、
前記前後加速度演算部は、前記先行移動体の搬送物が乗員であり、該乗員が前記後続移動体を注視しているときは、注視していないときよりも、前記先行移動体の走行経路の曲率が減少する区間における前記先行移動体の前後加速度を演算する演算式のゲインを小さくすることを特徴とする移動体制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車におけるADAS(先進運転支援システム)及び自動運転関連技術の開発が、近年、急速に進められている。運転操作の一部を自動化する機能として、アダプティブクルーズコントロール、レーンキープアシストシステム、緊急自動ブレーキ等が実用化に至っている。しかしながら、これらはいずれも車両の前後運動と横運動のどちらか一方のみを自動制御するシステムである。加減速を伴って旋回する走行シーン、例えば、曲率がきつく、一定の速度で走行すると横加速度が過大となるカーブ路や、追い越し、合流等でスムーズな車両運動を実現するために、車両の前後運動と横運動の連係した制御が必要となる。
【0003】
車両に発生する前後運動と横運動の連係については、特許文献1に、入力された車両の横方向の加加速度(Gy_dot)に、速度(V)及び横加速度(Gy)から決定され、予め記憶されたゲイン(Cxy)を乗じ、乗じた値に基づいて、車両の前後加速度を制御する制御指令を生成し、生成された前記制御指令を出力する車両の運動制御方法が開示されている。この方法によると、前後加速度と横加速度の合成加速度ベクトル(G)の軌跡が車両重心固定の座標系において、なめらかな曲線を描くように方向づけられ(Vectoring)、G-Vectoring制御(GVC:G-Vectoring Control)と呼ばれている。このGVCによると、緊急回避性能が大幅に向上することが報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
また、例えば特許文献2では、自車両前方の走行コースにおけるカーブ曲率の時間変化に基づいて加減速する方法が開示されている。この方法によると、自車両に横加速度が発生する前から横加速度の絶対値が増加する旋回過渡期まで連続的な減速を実現することが可能となる。本技術は、前記G-Vectoring制御に前方注視情報を加えることから、Preview G-Vectoring制御(PGVC:Preview G-Vectoring Control)と呼ばれている(非特許文献2参照)。
【0005】
また、近年では、道路輸送における渋滞緩和と輸送効率向上にあたり、極小離間距離での自動追従走行(隊列走行ともいう)システムの開発が進められている。
【0006】
上記特許文献1、2では、前述のように単独の車両において、カーブ路走行時における前後運動と横運動を連係させ、スムーズに走行する方法が示されているが、上記特許文献1、2のいずれの文献でも、複数台の車両が隊列走行している際の加減速方法には言及されていない。
【0007】
一方、複数台の車両間で加減速の情報をやり取りしながら隊列走行する方法に関しては、例えば特許文献3に、自車の目標速度パターン及び他車の目標速度パターンに基づいて隊列走行速度パターンを随時生成し、前記隊列走行速度パターンに応じて車両の走行制御を行う方法が開示されている。また、例えば特許文献4には、予め隊列内の車両に設定される走行計画を共有し、減速制御の開始タイミングが遅い車両から順に車両の隊列の順序を変更する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-262701号公報
【文献】特開2012-030674号公報
【文献】特開2008-110620号公報
【文献】特開2008-204094号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】M.Yamakado, J. Takahashi, S. Saito, A.Yokoyama, and M. Abe, Improvement in vehicle agility and stability by G-Vectoring control, Veh. Syst. Dyn. 48 (2010), pp. 231-254.
【文献】Takahashi, J., et al., “Evaluation of Preview G-Vectoring Control to decelerate a vehicle prior to entry into a curve”, International Journal of Automotive Technology, Vol. 14, No. 6, 2013, pp. 921-926.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献3、4における加減速の制御において、上記特許文献1、2に記載されている横運動に連係した前後運動に関しては考慮されておらず、隊列走行するすべての車両で、横運動を伴う加減速時にスムーズな運動を実現する方法が明らかでない。例えば、隊列走行中のカーブ路走行時に、先行車両のタイミングでの減速制御では、各車両の(特に、後続の車両ほど)乗員の乗り心地が悪化する可能性がある。
【0011】
また、複数の移動体によって隊列が編成されており、その複数の移動体に、乗員が乗車していない空の車両や荷物を載せて走行する搬送機が含まれている場合には、乗員の乗り心地よりも、隊列の移動速度や台数などの輸送効率を優先させる運動を実施する必要がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、複数の移動体による隊列走行時において、移動体に乗っている乗員の快適性と荷物の輸送効率の両方を向上させることのできる移動体制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る移動体制御システムは、予め設定された走行経路に沿って複数の移動体を隊列走行させる移動体制御システムであって、前記走行経路のカーブ路のカーブ入口からカーブ出口までの間に前記走行経路の曲率が増加する区間と、曲率が一定の区間と、曲率が減少する区間とが連続するカーブ路を隊列走行するときの先行移動体および後続移動体の走行経路における前後加速度を演算する前後加速度演算部を備え、該前後加速度演算部は、前記各移動体の横加加速度に速度及び横加速度から決定されるゲインを乗じた値を用いて前記各移動体の前後加速度を演算する演算式において前記前後加速度を演算する演算式のゲインを、前記各移動体が搬送する搬送物の情報に基づいて調整し、前記搬送物の情報には、前記搬送物が乗員であるか否か、及び、乗員の注視方向の情報が含まれており、前記前後加速度演算部は、前記後続移動体の搬送物が乗員であり、該乗員が前記先行移動体を注視しているときは、注視していないときよりも、前記後続移動体の走行経路の曲率が増加する区間における前記後続移動体の前後加速度を演算する演算式のゲインを大きくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば直線区間を隊列走行してきた移動体群が定常旋回状態に至るまでの間に発生する前後加速度と横加速度の関係を、隊列内全ての移動体に対し、好適に変化するよう制御することができ、各移動体の乗員の快適性と荷物の輸送効率を向上する効果が期待できる。
【0015】
本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】カーブ区間を含む道路の形状の一部を示した図。
【
図2】参考手法1にて隊列走行に対する前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の走行状態を示し、(a)は各移動体の横加速度および前後加速度、(b)は離間距離を示した図。
【
図3】参考手法1にて隊列走行に対する前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の各移動体の横加速度と前後加速度の関係を示した図。
【
図4】参考手法2にて隊列走行に対する前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の走行状態を示し、(a)は各移動体の横加速度および前後加速度、(b)は離間距離を示した図。
【
図5】参考手法2にて隊列走行に対する前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の各移動体の横加速度と前後加速度の関係を示した図。
【
図6】移動体n、移動体n+1、および移動体nと移動体n+1の離間距離dn+1の定義を示した図。
【
図7】本発明にて隊列走行に対する負の前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の走行状態を示し、(a)は各移動体の横加速度および前後加速度、(b)は離間距離を示した図。
【
図8】本発明にて隊列走行に対する正の前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の走行状態を示し、(a)は各移動体の横加速度および前後加速度、(b)は離間距離、(c)は各移動体の速度を示した図。
【
図9】本発明による前後加速度制御を適用した際の前後加速度と横加速度の関係を示した図。
【
図10】本発明にて隊列走行に対する前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の走行状態を示し、(a)は各移動体の横加速度および前後加速度、(b)は離間距離を示した図。
【
図11】本発明にて隊列走行に対する前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の各移動体の前後加速度と横加速度の関係を示した図。
【
図12】本発明に係る移動体制御システムの実施形態を搭載したシステム全体の概念図。
【
図13】本発明に係る移動体制御システムの実施形態における移動体の一例を示す概念図。
【
図14】本発明に係る移動体制御システムの実施形態における移動体運動制御装置の隊列制御演算部の構成を説明する図。
【
図15】本発明に係る移動体制御システムの実施形態における移動体運動制御装置の走行制御演算部の構成を説明する図。
【
図16】搬送物情報取得部の要部を示すブロック図である。
【
図17】乗員の視認対象が移動体外に存在する場合の動作例に供される図。
【
図18】乗員の視認対象が移動体内に存在する場合の動作例に供される図。
【
図19】移動体進行方向と乗員方向が異なる際の動作例に供される図。
【
図20】本発明に係る移動体制御システムの第1実施形態のフローチャート。
【
図21】隊列の先頭移動体の前後加速度を演算する方法を説明するフローチャート。
【
図22】先行移動体の前後加速度制御計画にカーブ情報がない場合における追従移動体の前後加速度を演算する方法を説明するフローチャート。
【
図23】先行移動体の前後加速度制御計画にカーブ情報がある場合における追従移動体の前後加速度を演算する方法を説明するフローチャート。
【
図24】カーブ路走行時に移動体に作用する前後加速度の変化を示す図であり、
図24(a)は単一の移動体の前後加速度と横加速度の変化を示し、
図24(b)は後続移動体に乗員が乗っていない場合における先行移動体と後続移動体の前後加速度の変化を示し、
図24(c)は後続移動体の乗員が前方を見ている場合における先行移動体と後続移動体の前後加速度の変化を示し、
図24(d)は先行移動体の乗員が後方を見ている場合における先行移動体と後続移動体の前後加速度の変化を示す図。
【
図25】本実施形態における前後加速度制御を適用した際の前後加速度と横加速度の関係を示した“g-g”ダイアグラムであり、
図25(a)は後続移動体に乗員が乗っていない場合における“g-g”ダイアグラム、
図25(b)は後続移動体の乗員が前方を見ている場合における“g-g”ダイアグラム、
図25(c)は先行移動体の乗員が後方を見ている場合における“g-g”ダイアグラム。
【
図26】本実施形態における前後加速度制御の内容を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[実施形態の概要説明]
具体的な実施形態の説明に先立ち、本発明の理解が容易になるよう、まず、
図1~
図11を用いて、4台の隊列走行移動体群(移動体0、移動体1、移動体2、移動体3)が直線路からカーブ進入、定常旋回状態に至るまでの加速度制御方法について、参考手法1、参考手法2、および本発明手法による方法の違いを比較しながら説明する。なお、本例では、移動体の重心点を原点とし、移動体の前後方向をx、それに直角な方向(移動体の横(左右)方向)をyとした場合、x方向の加速度を前後加速度、y方向の加速度を横加速度とする。また、前後加速度は、移動体前方向を正、すなわち移動体が前方向に対して進行している際、その速度を増加させる前後加速度を正とする。また、横加速度は、移動体が前方向に対して進行している際、左回り(反時計回り)旋回時に発生する横加速度を正とし、逆方向を負とする。また、左回りの旋回半径を正とし、その逆数を移動体走行曲率とする。同様に、目標経路(走行経路)に関しても、左回りの旋回半径を正とし、その逆数を目標経路曲率(走行経路の曲率)とする。また、左回り(反時計回り)方向の操舵角を正とする。
【0018】
参考手法1は、カーブ路に対する前後加速度制御として、旋回開始から定常旋回に至るまで横運動に連係した前後加速度制御として、前記G-Vectoring制御を、隊列内の各移動体がそれぞれ独立して個々に行うものとする。また、参考手法2としては、隊列内にて速度プロファイルを共有し、隊列内全ての移動体において同タイミングで同じ前後加速度制御を行うことで、前後の移動体の間の離間距離を変化させることなく走行するものとする。なお、参考手法2は、カーブ路に対する前後加速度制御としては、参考手法1と同様G-Vectoring制御を行うものとする。
【0019】
図1は、カーブ区間を含む道路の形状の一部を示した図であり、本実施形態の速度制御の説明に際し、直線区間(曲率0)、緩和曲線区間である曲率単調変化区間(横加速度変化)、曲率一定区間(定常旋回)を持つカーブ路(カーブ区間を含む道路)、およびそこを走行(隊列走行)する複数の移動体(移動体0、移動体1、移動体2、移動体3)の概念図を示している。移動体の走行経路は、横加速度が発生するようなカーブ路を想定している。各移動体は、前後方向(進行方向)に隊列を組み、コース形状(道路形状)に応じた各々の目標経路(走行経路)にしたがって且つ所定の離間距離(d1:移動体1-移動体0、d2:移動体2-移動体1、d3:移動体3-移動体2、例えばd1≒d2≒d3)を保つように走行(隊列走行)するとともに、順次、カーブに進入・退出することになる。
【0020】
図2は、参考手法1にて隊列走行に対する前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の走行状態を示し、(a)は各移動体の横加速度および前後加速度、(b)は離間距離を示した図である。より詳しくは、
図2(a)、(b)は、移動体0、移動体1、移動体2、移動体3がそれぞれ
図1に示したようなカーブ路を走行する際に、参考手法1、すなわち各移動体独自にG-Vectoring制御を行った時の、各移動体の前後加速度および横加速度、並びに各移動体間の離間距離(移動体1-移動体0、移動体2-移動体1、移動体3-移動体2)を示している。
【0021】
この場合、
図2(a)に示すように、移動体0、移動体1、移動体2、移動体3それぞれにおいて、走行経路の曲率(≒道路曲率)が増加し、横加速度(の絶対値)が増加する区間において、横運動に連係した前後加速度制御(G-Vectoring制御)を行っていることがわかる。この時、先頭移動体である移動体0から順に負の前後加速度制御を行うこととなるため、
図2(b)に示すように、各移動体間の離間距離は順次小さな値となっている。
【0022】
また、
図3にこの時の前後加速度と横加速度の関係である“g-g”ダイアグラムを示す。
図3は、参考手法1にて隊列走行に対する前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の各移動体の横加速度と前後加速度の関係を示した図である。
【0023】
両者の関係を見てみると、全移動体で同じ変化となっており、すべての移動体において前後加速度から横加速度へスムーズに遷移する運動を実現している。したがって、移動体に急激な動きがなく、例えば移動体に乗員が乗っている場合には、乗り心地が好適となり、移動体に荷物が積載されている場合には荷崩れが防止される。
【0024】
しかし、
図2(b)に示したように、各移動体が独自にG-Vectoring制御を行う構成では、カーブ進入時に離間距離が減少するため、隊列走行する移動体間での衝突の危険性が高まり、また、それを避けるためには隊列走行時の離間距離を大きくとる必要がある。この場合、隊列走行による輸送密度向上といった効果が小さくなり、各移動体が単独で走行するシーンと変わらないものとなってしまう。また、カーブ進入時に離間距離が急激に減少すると、例えば後続移動体に乗員が乗っており、その乗員の視線が前方を向いているときは、先行の移動体が迫ってくるように見え、衝突するのではないかという不安感や圧迫感を乗員に与えるおそれがある。
【0025】
図4は、参考手法2にて隊列走行に対する前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の走行状態を示し、(a)は各移動体の横加速度および前後加速度、(b)は離間距離を示した図である。より詳しくは、
図4(a)、(b)は、移動体0、移動体1、移動体2、移動体3がそれぞれ
図1に示したようなカーブ路を走行する際に、参考手法2、すなわち隊列内の移動体が同じ速度プロファイルにて前後加速度制御を行った時の、各移動体の前後加速度および横加速度、並びに各移動体間の離間距離(移動体1-移動体0、移動体2-移動体1、移動体3-移動体2)を示している。
【0026】
この場合、
図4(a)に示すように、移動体0、移動体1、移動体2、移動体3の全てにおいて、移動体0の走行経路の曲率(≒道路曲率)が増加し、移動体0の横加速度(の絶対値)が増加するタイミングで開始するG-Vectoring制御と同一の前後加速度制御が行われていることがわかる。この時、全移動体同時に同じ負の前後加速度制御を行うこととなるため、
図4(b)に示すように、各移動体間の離間距離は変化することなく、前後加速度制御前の離間距離を維持できている。したがって、例えば後続移動体に乗員が乗っており、その乗員の視線が前方を向いているときでも、先行の移動体の接近移動によって乗員に不安感や圧迫感を与えることはない。
【0027】
また、
図5にこの時の前後加速度と横加速度の関係である“g-g”ダイアグラムを示す。
図5は、参考手法2にて隊列走行に対する前後加速度制御をした際のカーブ路走行時の各移動体の横加速度と前後加速度の関係を示した図である。
【0028】
両者の関係を見てみると、移動体0では前後加速度から横加速度へスムーズに遷移する運動を実現しているものの、後続移動体(移動体1、移動体2、移動体3)になるほど横加速度が小さい領域で発生する負の前後加速度が大きくなり、前後加速度と横加速度が連係しない区間が増加する。したがって、後続移動体(移動体1、移動体2、移動体3)は、移動体0から離れるほど、動きが急激になり、例えば後続移動体に乗員が乗っている場合には乗り心地が悪化し、後続移動体に荷物が積載されている場合には荷崩れの原因となる。
【0029】
本実施形態では、乗員が他の移動体の接近による不安感や圧迫感を与えないように、隊列走行時の離間距離を適切に保ちながら、カーブ路走行時の隊列内で乗員が乗っている移動体は乗員の乗り心地が好適となるよう、移動体において横運動に連係した前後運動となる前後加速度制御を行う手法を提案する。
【0030】
以下、
図6、
図7(a)、(b)、
図8(a)~(c)を用いて、本実施形態における前後加速度制御の特徴を説明する。
図7(a)、(b)、
図8(a)~(c)の説明において、
図6に示すように、隊列内の複数台の移動体で、先行して走行する先行移動体を移動体n、移動体nに追従走行(移動体nの後方を走行)する後続移動体を移動体n+1とし、両者の離間距離をdn+1としている(ここでnは0以上の正の整数)。
【0031】
初めに
図7(a)、(b)を用いて、直進状態から定常旋回状態へと遷移する走行シーン(
図1のa手前~
図1のb)における前後加速度制御を説明する。
図7(a)は、隊列内の移動体nおよび移動体nに追従して移動する後続移動体である移動体n+1の、横加速度および前後加速度の時間変化、
図7(b)は、両者の離間距離dn+1の時間変化を示している。
図7(a)に示す通り、移動体n、移動体n+1それぞれにおいて、カーブ進入(走行経路の曲率(≒道路曲率)が増加)、すなわち横加速度が発生する前(移動体nにおいて時刻t3の前、移動体n+1において時刻t4の前)から、定常旋回(走行経路の曲率(≒道路曲率)が一定)、すなわち横加速度が略一定となる時刻(移動体nにおいて時刻t5、移動体n+1において時刻t6)まで、連続的に負の前後加速度を発生(つまり、減速)していることがわかる。ここで、本実施形態において、後続移動体である移動体n+1は、その横加速度の絶対値が増加、すなわち旋回を開始する前に減速を開始し、減速を開始する時刻t1での前後加速度が、同時刻における移動体nに発生する前後加速度よりも小さい。すなわち、同時刻で後続移動体である移動体n+1に発生する減速度が先行移動体である移動体nに発生する減速度よりも大きくなるよう、前後加速度制御を行うことを特徴とする。
【0032】
より詳細には、後で説明するように、後続移動体である移動体n+1は、移動体nの走行情報を取得可能であり、移動体nの横加速度の絶対値が増加、すなわち移動体nの走行経路の曲率(≒道路曲率)が増加して旋回を開始する時刻t3よりも前の時刻t1に、負の前後加速度を発生させて減速を開始する。また、
図7(a)に示す例では、時刻t1よりも後かつ時刻t3よりも前の時刻t2に、移動体nも、その横加速度の絶対値が増加、すなわち旋回を開始する前に負の前後加速度を発生させて減速を開始するが、時刻t3における移動体nの速度より、同時刻(時刻t3)における移動体n+1の速度が小さくなるよう、時刻t1から時刻t3の間に、移動体nおよび移動体n+1に負の前後加速度を発生させて減速する。これにより、
図7(b)に示すように、両者の離間距離dn+1を増加させる。
【0033】
その後、先行する移動体nがカーブに進入する時刻t3から、走行経路の曲率が増加して横加速度の絶対値が増加し、走行経路の曲率が一定になって定常旋回に至る時刻t5の区間において、移動体nは、例えばG-Vectoring制御のような横運動に連係した前後運動となる前後加速度制御を行う。更に、後続する移動体n+1においても、カーブに進入する時刻t4から、走行経路の曲率が増加して横加速度の絶対値が増加し、走行経路の曲率が一定になって定常旋回に至る時刻t6の区間において、例えばG-Vectoring制御のような横運動に連係した前後運動となる前後加速度制御を行う。この時に移動体nに発生する減速度が、移動体n+1に発生している減速度よりも大きければ(例えば、
図7(a)に示すように、時刻t3から時刻t5の区間に発生する移動体nの前後加速度の最小値よりも、時刻t4から時刻t6の区間に発生する移動体n+1の前後加速度の最小値が大きくなるように制御すれば)、両者の離間距離dn+1は減少し始める。ここでは、移動体nの横加速度の絶対値が増加し、かつ、移動体n+1の横加速度の絶対値が増加する区間(時刻t4から時刻t5の区間)において、両者の離間距離dn+1が減少するよう、移動体nおよび/または移動体n+1の(負の)前後加速度が制御されている。
【0034】
ここで、カーブに対する前後加速度制御開始前、すなわち移動体n+1の減速開始時刻t1より前の時刻において、両者の速度が同じである時、移動体nの時刻t2から時刻t5までの前後加速度の積分値と、移動体n+1の時刻t1から時刻t6までの積分値が同じであれば、両者の定常旋回時の速度は同速度となり、同じ横加速度での旋回となる。更に、両者の相対速度ΔVn+1の時刻t1から時刻t6の間の積分値がゼロとなるように両者の前後加速度制御を行うことで、移動体n+1が定常旋回を開始する時刻t6で、両者の離間距離dn+1は、時刻t1以前の離間距離と同距離にすることができる。
【0035】
これにより、移動体n、移動体n+1それぞれに横運動に連係した前後運動を発生する前後加速度制御を実現しながら、例えば定常旋回時の離間距離を旋回開始前の離間距離とすることができる。
【0036】
次に
図8(a)~(c)を用いて、定常旋回状態から直進状態へと遷移する走行シーン(
図1のb~
図1のd以降)における前後加速度制御を説明する。本走行シーンでは、横運動に連係した正の前後加速度制御に加え、移動体n、および移動体n+1の離間距離を目標値(目標離間距離)とする前後加速度制御、並びに、移動体n、および移動体n+1の速度を目標値(目標速度)とする前後加速度制御を合わせて行う。
図8(a)は、隊列内の移動体nおよび移動体nの後続移動体である移動体n+1の、横加速度および前後加速度の時間変化、
図8(b)は、両者の離間距離dn+1の時間変化、
図8(c)は、両者の速度の時間変化を示している。
図8(a)に示す通り、移動体n、移動体n+1それぞれにおいて、略一定の横加速度となっている定常旋回(走行経路の曲率(≒道路曲率)が一定)(移動体nにおいて時刻t7、移動体n+1において時刻t8)から、横加速度がゼロとなる時刻(移動体nにおいて時刻t9、移動体n+1において時刻t10)まで、連続的に正の前後加速度を発生(つまり、加速)していることがわかる。また、どちらの移動体も、その走行経路の曲率が減少してその横加速度の絶対値が減少し始める時刻t7(移動体n)、t8(移動体n+1)から、発生する正の前後加速度を増加させ、その後、
図8(c)に示す速度が目標速度に近づくにつれて、正の前後加速度を減少させる。
【0037】
この時の移動体nおよび移動体n+1の前後加速度を比較すると、正の前後加速度が発生する時刻は、先行する移動体n(時刻t7)の方が、後続する移動体n+1(時刻t8)よりも早い。つまり、後で説明するように、先行する移動体nは、後続する移動体n+1の走行情報を取得可能であり、後続する移動体n+1の走行経路の曲率が減少して横加速度の絶対値が減少し始める時刻t8よりも前の時刻t7に、当該移動体nに正の前後加速度を発生させる。また、時刻t8における移動体nの速度より、同時刻(時刻t8)における移動体n+1の速度が小さくなるよう、時刻t7から時刻t8の間に、移動体nおよび移動体n+1に正の前後加速度を発生させて加速する。なお、
図8(a)に示す例では、この区間の移動体n+1の前後加速度がゼロであるが、必ずしもゼロである必要は無い。また、後続する移動体n+1が目標速度へ到達し、その前後加速度がゼロとなる時刻t11は、先行する移動体nが目標速度に到達し、その前後加速度がゼロとなる時刻t12よりも早い。また、旋回過渡期(走行経路の曲率が一定の定常旋回状態から走行経路の曲率が減少して横加速度の絶対値がゼロとなる直進状態)(移動体nにおいて時刻t7から時刻t9、移動体n+1において時刻t8から時刻t10)に発生する前後加速度の最大値は、後続移動体である移動体n+1の方が先行移動体である移動体nよりも大きくなるように(
図8(a)の時刻t9付近参照)、両者の(正の)前後加速度制御を行う。また、ここでは、後続移動体である移動体n+1の走行経路の曲率が減少して横加速度の絶対値が減少し、その横加速度の絶対値(もしくは走行経路の曲率)が直進走行とみなせる値(ここでは、約ゼロであって予め設定された値)以下となる時刻t10において、移動体n+1の速度が移動体nの速度よりも大きくなるよう、移動体n+1および/または移動体nの(正の)前後加速度が制御されている(
図8(c)参照)。
【0038】
これにより、
図8(b)に示すように、両者の離間距離dn+1を最初に増加させ(
図8(b)に示す例では、時刻t9と時刻t10の途中まで増加)、その後、後続移動体n+1の加速に応じて両者の離間距離dn+1が減少する。
【0039】
ここで、移動体nの時刻t7から時刻t12までの前後加速度の積分値、および移動体n+1の時刻t8から時刻t11までの積分値は、それぞれ正の前後加速度制御開始前の速度と目標速度の差分となるよう設定し、更に両者の相対速度ΔVn+1の時刻t7から時刻t12の間の積分値と時刻t7における離間距離の和が(カーブ後の)直進走行時の目標離間距離となるよう前後加速度制御を行うことで、移動体n、および移動体n+1がそれぞれカーブに対する前後加速度制御が終了した際に、目標とする離間距離での走行を継続することができる。
【0040】
このように、定常旋回から直進走行へと遷移する際の、横運動に連係した正の前後加速度制御に、移動体n、および移動体n+1の離間距離を目標値とする前後加速度制御、並びに、移動体n、および移動体n+1の速度を目標値とする前後加速度制御を考慮することで、それぞれ個別に前後加速度制御を行う場合よりも、前後加速度の増減回数を減少することができる。したがって、移動体nや移動体n+1に乗員が乗っている場合には、乗員の乗り心地向上が期待でき、また、荷物が載っている場合には、荷崩れを防止することができる。
【0041】
図9に、
図7(a)、(b)、
図8(a)~(c)に示した本発明の前後加速度制御を行った際の前後加速度と横加速度の関係である“g-g”ダイアグラムを示す。この
図9から、先行する移動体nと後続移動体n+1の両者とも、原点0から左回りの円を描くように前後加速度と横加速度の関係が遷移しており、移動体n、移動体n+1のどちらの移動体に対しても、横運動と前後運動が連係した乗り心地が好適となる加速度変化を提供することができている。
【0042】
前記した本発明の効果を確認するため、
図10(a)、(b)、
図11に、
図1に示した4台の隊列走行に本発明による前後加速度制御を提供した例を示す。
図10(a)、(b)は、移動体0、移動体1、移動体2、移動体3の前後加速度および横加速度、並びに各移動体間の離間距離(移動体1-移動体0、移動体2-移動体1、移動体3-移動体2)を示し、
図11は、この時の移動体0、移動体1、移動体2、移動体3の前後加速度と横加速度の関係(“g-g”ダイアグラム)を示している。
【0043】
図10(a)に示すように、カーブ路に進入・退出する移動体0、移動体1、移動体2、移動体3それぞれにカーブ路に対する異なる前後加速度制御が行われており、その結果、
図10(b)に示すように、各移動体間の離間距離(移動体1-移動体0、移動体2-移動体1、移動体3-移動体2)は、旋回開始前から旋回終了まで2回の増減を繰り返し(具体的には、一旦離間距離をあけた後、そのあけた分の離間距離をつめる動作を行い)、最終的に初期の離間距離d0に収束している。なお、
図10(a)に示す例では、先頭移動体がカーブ路に対する減速を開始するシーンで、隊列最後尾の移動体から順次負の前後加速度を発生させて減速を開始しているが、後述するように、後方の移動体ほど発生する前後加速度が小さく(減速度が大きく)なるように制御してもよい。また、この時の前後加速度と横加速度の関係は、
図11に示すように、隊列内全ての移動体(移動体0、移動体1、移動体2、移動体3)において、原点0から円を描くような形状となっていることがわかる。
【0044】
このように、本発明の前後加速度制御により、隊列走行によるカーブ路通過時においても、離間距離を所定以上に保ちながら、隊列内のすべての移動体に横運動と前後運動が連係した乗り心地が好適となり荷崩れが防止される加速度変化を提供することが可能となる。
【0045】
なお、隊列走行時におけるカーブ路通過時の前後加速度制御方法は、ここに示した方法に限定するものではなく、隊列内を先行して走行する移動体nと前記移動体nに後続する移動体n+1の離間距離dn+1が、前記移動体n+1の横加速度の絶対値、もしくは走行経路(道路経路上で移動体n+1が走行すべき経路)の曲率(≒道路曲率)が増加する前に、両者の離間距離が増加するように、移動体n+1、もしくは移動体nと移動体n+1の両方の前後加速度を制御し、前記移動体n+1の横加速度の絶対値、もしくは走行経路の曲率が増加し始める際に(つまり、前記移動体nおよび前記移動体n+1の横加速度の絶対値、もしくは走行経路の曲率が増加する区間以降で)、移動体n+1の速度が移動体nの速度よりも小さくなるよう、移動体nおよび移動体n+1の前後加速度を制御する方法であればよい。また、隊列内を先行して走行する移動体nと後続移動体n+1の離間距離dn+1が、後続の前記移動体n+1の横加速度の絶対値、もしくは走行経路の曲率(≒道路曲率)が減少する前に、両者の離間距離が増加するように、移動体n、もしくは移動体nと移動体n+1の両方の前後加速度を制御し、前記移動体n+1の横加速度の絶対値、もしくは走行経路の曲率が減少し始める際に(つまり、前記移動体および前記移動体n+1の横加速度の絶対値、もしくは走行経路の曲率が減少する区間以降で)、移動体n+1の速度が移動体nの速度よりも小さくなるよう、移動体nおよび移動体n+1の前後加速度を制御する方法であればよい。前記
図7(a)に示した以外の方法として、例えば
図7(a)における時刻t1および時刻t2を同じタイミングとし、移動体n+1に発生させる負の前後加速度を、移動体nに発生させる負の前後加速度よりも小さな値(大きな減速度)とすることで、後続移動体n+1の横加速度の絶対値が増加する前に両者の離間距離dn+1を大きくする方法であってもよい。また、前記
図8(a)に示した以外の方法として、例えば
図8(a)において、時刻t7よりも早いタイミングで、移動体nに、移動体n+1(ここでの前後加速度はゼロでなくてもよい)よりも大きな前後加速度を発生させることで、移動体n+1の横加速度の絶対値が減少する前に両者の離間距離dn+1を大きくする方法であってもよい。
【0046】
そして、本実施形態では、隊列走行する各移動体の前後加速度を、搬送物の種類や状態に応じて調整する制御が行われる。例えば、移動体n+1に乗員が乗っているか否か、そして、乗員が乗っている場合には移動体n+1の乗員が前方の移動体nを注視しているか否かに応じて移動体n+1の前後加速度を調整する制御が行われる。具体的には、移動体n+1に乗員が乗っている場合には、乗っていない場合と比較して、カーブ進入前から定常旋回に至るまで離間距離dn+1を緩やかに増減させるように前後加速度を調整する制御が行われる。そして、移動体n+1の乗員が前方の移動体nを注視している場合には、注視していない場合と比較して、カーブ進入前から定常旋回に至るまで離間距離dn+1を緩やかに増減させるように前後加速度を調整する制御が行われる。また、移動体n+1に、精密機器や生鮮食料品などの慎重かつ丁寧な取り扱いが要求される荷物が積載されている場合には、積載されていない場合と比較して、離間距離dn+1を緩やかに増減させるように前後加速度を調整する制御が行われる。更に、移動体n+1がダンプトラック等の建設機械であり、土砂などの搬送物が積載されて重心の位置が高い場合には、未積載により重心の位置が低いときと比べて、カーブ進入前から定常旋回に至るまで離間距離dn+1を緩やかに増減させるように前後加速度を補正する制御が行われる。
【0047】
<移動体制御システム>
以下、
図12~
図27を用いて、本実施形態による移動体制御システム1の構成及び動作について説明する。
【0048】
本実施形態の移動体制御システム1は、移動体運動制御装置1Aによって隊列内の各移動体21の走行情報を共有し、隊列内の各移動体21の前後加速度を個別に制御するものである。各移動体21は、移動体運動制御装置1Aから出力される制御指令に基づいて自動運転を行う自動運転装置を有している。移動体運動制御装置1Aは、各移動体21の搬送物の有無や搬送物の内容、性質などに応じて各移動体21の前後加速度を調整する制御を行う。
【0049】
【0050】
図12は、本発明に係る移動体制御システムの実施形態を搭載したシステム全体の概念図である。
【0051】
移動体制御システム1は、移動体運動制御装置1Aと、複数台の移動体21によって構成される。移動体制御システム1は、移動体運動制御装置1Aと複数台の移動体21との間で情報の送受信を行い、移動体運動制御装置1Aにより複数台の移動体21を一つの移動体群として隊列走行させる制御を行う。なお、
図12に示す例では、移動体運動制御装置1Aが移動体21の外部に備えられているが、隊列走行をする移動体21の内部に配備してもよい。また、移動体21を外部から制御するコントロールセンタの制御器内に配備してもよい。
【0052】
移動体運動制御装置1Aは、記憶領域、演算処理能力、および信号の入出力手段等を有する演算装置を備えており、内部機能として、隊列制御演算部1Aa、および走行制御演算部1Abを有する。
【0053】
隊列制御演算部1Aaでは、各移動体21からコース形状、外界情報、移動体位置情報、搬送物情報、および移動体運動状態情報を取得し、これらの情報に基づいて、隊列走行させる各移動体21の目標経路、目標速度、および目標離間距離を作成する。また、ここで、移動体運動制御装置1Aへの入力として、各移動体21が隊列走行するエリアの交通情報が得られる場合、交通情報を隊列制御演算部1Aaへ入力し、各移動体21の目標経路、目標速度、および目標離間距離を作成してもよい。
【0054】
走行制御演算部1Abでは、隊列制御演算部1Aaで作成した目標経路、目標速度、目標離間距離、および移動体運動状態情報などから、前後加速度を発生させる制御指令値としての前後加速度指令値を各移動体21に対して個別に演算し、各移動体21に送信する。
【0055】
<移動体21>
移動体21は、人や荷物等の搬送物を載せて走行可能な移動体であり、本実施形態では、隊列を構成する複数の移動体21の中に、人を輸送する移動体が少なくとも一つ存在することを条件としている。移動体21としては、例えば一般乗用車、商用車、バス(人を輸送可能な新モビリティを含む)、建設機械(ダンプなど)などであり、また、例えば荷物や部品を自動で搬送する無人搬送機でもよい。複数の移動体21が隊列走行することによって形成される一つの移動体群は、移動体21の種類が同じものに限定されるものではなく、種類の異なる移動体21の組み合わせにより構成することも可能であり、例えば一般乗用車と無人搬送機とを混在させて隊列を構成することも可能である。
【0056】
図13は、本発明に係る移動体制御システムの実施形態における移動体の一例を示す概念図である。
図13に示す移動体21は、複数の乗員を乗せて移動可能な自動車であり、移動体運動制御装置1Aから送信される制御指令値に基づいて自動運転を行う自動運転装置を備えている。
【0057】
移動体21は、移動体運動制御装置1Aから制御指令値を受信すると、自己に発生する前後加速度および/もしくは横加速度を制御可能なアクチュエータ(ブレーキアクチュエータ11、駆動アクチュエータ13、舵角制御アクチュエータ16)の駆動制御を行う各制御ユニット(ブレーキ制御ユニット10、駆動トルク制御ユニット12、舵角制御ユニット15)に通信ライン14を通じてその制御指令値を送信する。
【0058】
移動体21は、移動体運動状態情報を取得するセンサ(加速度センサ2、ジャイロセンサ3、車輪速センサ8)と、ドライバ操作情報を取得するセンサ(操舵角センサ5、ブレーキペダルセンサ17、アクセルペダルセンサ18)と、移動体21によって搬送される搬送物の情報を取得するセンサと、移動体21が走行する走行路の走行路情報を取得するセンサ(コース形状取得センサ6、位置検出センサ9、外界情報検出センサ19)と、自己の移動体以外の制御機器と通信することで情報の送受信を行う車外通信ユニット20などから各種情報を取得し、移動体運動制御装置1Aに送信する。
【0059】
移動体運動状態情報を取得するセンサは、移動体速度、前後加速度、横加速度、ヨーレイトを取得できるセンサ、もしくは手段であればよく、上記センサ構成に限定するものではない。例えばグローバルポジショニングシステム(GPS)により得られる位置情報を微分することで、移動体速度を取得してもよい。また、カメラのような画像取得センサを用いて移動体のヨーレイト、前後加速度、横加速度を取得してもよい。また、移動体21が直接センサの入力を持たなくともよい。例えば別な制御ユニット(例えばブレーキ制御ユニット10)から通信ライン14を通じて必要な情報を取得してもよい。
【0060】
ドライバ操作情報を取得するセンサは、ドライバによるステアリングホイール4の操作量、図示していないブレーキペダルおよびアクセルペダルの操作量を取得できればよく、上述の移動体運動状態情報の取得同様、前記移動体21が直接センサの入力を持たなくともよい。例えば別な制御ユニット(例えばブレーキ制御ユニット10)から通信ライン14を通じて必要な情報を取得してもよい。
【0061】
移動体21の搬送物情報を取得するセンサは、移動体21の室内や荷室内を撮像するカメラ、あるいはセンシングする赤外線センサやレーザセンサによって構成されている。そして、移動体21に乗員や荷物等の搬送物が乗っているのか、それとも空車や空荷の状態なのか、搬送物が乗っているのであれば、その内容や種類、乗員であればどのような向きや姿勢で乗っているのか、視線の向きなどの情報を取得する。これらの情報は、センサの入力を持たなくてもよく、例えば所定の情報入力手段から取得してもよい。
【0062】
移動体21は、走行路情報を取得するセンサとして、グローバルポジショニングシステム(GPS)を自己位置検出センサ9として用い、外界情報検出センサ19として、カメラやレーダ等、自己周辺の障害物を検出して走行可能な領域を検出可能なセンサを用い、コース形状取得センサ6として、ナビゲーションシステムのような自己の走行経路情報を取得できるものを利用できる。ここで、自己の移動体走行路情報を取得するセンサとして、自己の進行方向におけるコース形状(道路形状ともいう)および外界情報(走行可能領域)が取得できる手段であればよく、これらセンサに限定するものではない。例えば移動体運動制御装置1Aや路上に設置された道路情報を送信する機器との通信により自己の移動体21の前方のコース形状を取得する方法であってもよいし、カメラのような撮像手段により自己の移動体21の前方もしくは周囲、またはその両方の画像を取得し、自己の移動体の前方のコース形状を取得する方法であってもよい。また、これら手段のいずれか、もしくはその組み合わせにより、自己の移動体21の進行方向のコース形状を演算するユニットから通信ライン14を通じて取得する方法であってもよい。
【0063】
車外通信ユニット20は、無線もしくは有線による通信により、移動体外に設置されている移動体運動制御装置1Aとの通信により信号の送受信を行うものであり、通信方法としては、セルラー回線もしくWiFi(登録商標)等の無線通信手段による通信方法であっても、他の移動体もしくは路面側インフラシステムと電信ケーブルを介した直接接触による通信方法であってもよい。移動体21は、車外通信ユニット20を介して自己の走行情報(移動体情報)を移動体運動制御装置1Aに出力(送信)し、移動体運動制御装置1Aから制御指令を入力(受信)することができる。ここで、走行情報(移動体情報)には、走行経路、速度、前後加速度制御計画、他の移動体との離間距離などが含まれる。
【0064】
また、移動体21は、車外通信ユニット20による移動体運動制御装置1Aとの通信により、移動体21が走行する路面の過去の走行データ経路を取得してもよい。なお、移動体情報は、前記車外通信ユニット20を用いず、移動体21に搭載されている前記外界情報検出センサ19としてのカメラやレーダ等を用いて取得してもよい。
【0065】
前記移動体21に発生する前後加速度を制御可能な加減速アクチュエータ(ブレーキアクチュエータ11、駆動アクチュエータ13)は、タイヤ7と路面間に発生する力を制御することで当該移動体21に発生する前後加速度を制御可能なアクチュエータであり、例えば、燃焼状態を制御することでタイヤ7にかかる制駆動トルクを制御し、移動体21の前後加速度を制御可能な燃焼エンジン、もしくは電流を制御することでタイヤ7にかかる制駆動トルクを制御し、移動体21の前後加速度を制御可能な電動モータ、もしくは動力を各車輪に伝達する際の変速比を変えることで移動体21の前後加速度を制御可能な変速機、もしくは各車輪のブレーキパッドにブレーキディスクを押しつけることで移動体21に前後加速度を発生させる摩擦ブレーキといった、前後加速度を制御可能な加減速アクチュエータを適用することができる。
【0066】
移動体21は、移動体運動制御装置1Aから前後加速度指令値を受け取ると、前後加速度を発生し得る前記加減速アクチュエータを前後加速度発生手段として、前記加減速アクチュエータ(ブレーキアクチュエータ11、駆動アクチュエータ13)の駆動制御器(ブレーキ制御ユニット10、駆動トルク制御ユニット12)へ前記前後加速度指令値を送る。そして、移動体21は、移動体運動制御装置1Aから横運動指令値を受け取ると、前記横運動を発生し得る舵角制御アクチュエータ16を旋回運動発生手段として、前記舵角制御アクチュエータ16の駆動制御器(舵角制御ユニット15)へ前記横運動指令値としての舵角指令値を送る。
【0067】
ここで、移動体運動制御装置1Aから移動体21が受け取る信号は前後加速度そのものではなく、前記加減速アクチュエータによって前記前後加速度指令値を実現し得る信号であればよい。同様に、移動体運動制御装置1Aから移動体21が受け取る信号は舵角そのものではなく、前記舵角制御アクチュエータ16により、舵角指令値を実現し得る信号であればよい。
【0068】
例えば、前記加減速アクチュエータが燃焼エンジンである場合、前記前後加速度指令値を実現し得る制駆動トルク指令値を駆動トルク制御ユニット12へ送る。また、駆動トルク制御ユニット12を介さず、前後加速度指令値を実現する燃焼エンジンの駆動信号を、燃焼エンジンの制御アクチュエータに直接送ってもよい。また、油圧によりブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける油圧式摩擦ブレーキを用いる場合、前後加速度指令値を実現する油圧指令値をブレーキ制御ユニット10へ送る。また、ブレーキ制御ユニット10を介さず、前後加速度指令値を実現する油圧式摩擦ブレーキ駆動アクチュエータの駆動信号を油圧式摩擦ブレーキ駆動アクチュエータに直接送ってもよい。
【0069】
また、前後加速度指令値を実現する際に、前後加速度指令値に応じて駆動制御を行う前記加減速アクチュエータを変更してもよい。
【0070】
例えば、前記燃焼エンジンと油圧式摩擦ブレーキを前記加減速アクチュエータとして持つ場合、前記前後加速度指令値が前記燃焼エンジンの制駆動トルク制御により実現できる範囲であれば、前記燃焼エンジンを駆動制御し、前記前後加速度指令値が前記燃焼エンジンの制駆動トルク制御で実現できない範囲の負の値である場合、前記燃焼エンジンと合わせて油圧式摩擦ブレーキを駆動制御する。また、前記電動モータと前記燃焼エンジンを前記加減速アクチュエータとして持つ場合、前記前後加速度の時間変化が大きい場合は前記電動モータを駆動制御し、前記前後加速度の時間変化が小さい場合は前記燃焼エンジンを駆動制御するようにしてもよい。また、通常時は前記前後加速度指令値を電動モータにより駆動制御し、バッテリーの状態等により電動モータにより前後加速度指令を実現できない場合、他の加減速アクチュエータ(燃焼エンジン、油圧式摩擦ブレーキ等)を駆動制御するようにしてもよい。
【0071】
また、通信ライン14として、信号によって異なる通信ラインおよび通信プロトコルを用いてもよい。例えば大容量のデータをやり取りする必要のある自移動体走行路情報を取得するセンサとの通信にイーサネットを用い、各アクチュエータとの通信にはCAN(Controller Area Network)を用いる構成であってもよい。
【0072】
<移動体運動制御装置1A>
移動体運動制御装置1Aは、記憶領域、演算処理能力、および信号の入出力手段等を有する演算装置を備えており、移動体運動状態情報、ドライバ操作情報、自移動体走行路情報など、各移動体21から得られた各種情報を用いて、各移動体21に発生させる前後加速度指令値を演算し、かかる制御指令値を各移動体21にそれぞれ送信する。また、移動体運動制御装置1Aは、移動体運動状態情報、ドライバ操作情報、自移動体走行路情報などにより得られた各種情報から各移動体21に発生させる横運動指令値を演算し、各移動体21にそれぞれ送信する。
【0073】
移動体運動制御装置1Aから各移動体21に送る制御指令値としては、前後加速度指令値そのものであっても、移動体21に搭載されている加減速アクチュエータ(ブレーキアクチュエータ11、駆動アクチュエータ13)の駆動制御器(ブレーキ制御ユニット10、駆動トルク制御ユニット12)にて、前後加速度指令値を実現するよう演算可能な制御パラメータであってもよい。
【0074】
詳しくは、走行制御演算部1Abにて行われるカーブ路に対する前後加速度制御指令値演算と同じ制御アルゴリズムを、移動体21に搭載されている自動運転制御装置22に備え、走行制御演算部1Abは、当該制御アルゴリズムのゲインや閾値といった制御パラメータを送ってもよい。
【0075】
また、隊列移動体内の移動体21の前後加速度制御範囲、すなわち前後加速度制御により発生可能な前後加速度最大値および前後加速度最小値が、移動体によって異なる場合、車間距離は必ずしも全て同じである必要はなく、移動体21_nとそれに追従する後続移動体21_n+1にて制御可能な前後加速度制御範囲に応じて、移動体21_nと後続移動体21_n+1との間の目標離間距離Dtgt_n+1を変更してもよい。つまり、隊列走行の各移動体21に発生可能な最大前後加速度および最小前後加速度、並びに移動体21_nと後続移動体21_n+1との間の目標離間距離を設定するとともに、最大前後加速度および/または最小前後加速度に応じて目標離間距離を変更してもよい。
【0076】
具体的には、例えば移動体21_nの最小前後加速度よりも、後続移動体21_n+1の最小前後加速度が小さい場合、すなわち負の前後加速度制御可能な範囲が、移動体21_nよりも後続移動体21_n+1が広い場合、目標離間距離Dtgt_n+1を、移動体21_nが追従する移動体である先行移動体21_n-1との間の目標離間距離Dtgt_nよりも、大きな値とする。ここで、前後加速度制御可能な範囲は、移動体のアクチュエータによる制約に加え、乗員の乗り心地を考慮して設定される値であり、前後加速度制御可能な範囲は、移動体内に乗員がいない場合、移動体内に乗員がいる場合よりも、大きな値としてもよい。
【0077】
<隊列制御演算部1Aa>
図14は、隊列制御演算部の内部機能を説明するブロック図である。
隊列制御演算部1Aaでは、コース形状、外界情報、移動体位置情報、移動体運動状態情報、隊列状態情報、および搬送物情報に基づいて、各移動体21を隊列走行させるための目標経路、目標速度、目標離間距離を演算する処理が行われる。隊列制御演算部1Aaは、目標経路取得部31、移動体運動状態取得部32、隊列情報取得部33、搬送物情報取得部34、および許容値算出部35を有する。
【0078】
<目標経路取得部31>
目標経路取得部31では、移動体走行路情報(コース形状、外界情報)、および移動体運動状態情報から、各移動体21を一つの移動体群として隊列走行させるための目標経路(走行経路)および走行可能領域を取得する。ここで、目標経路(走行経路)は、コース(道路)経路上で各移動体21が走行すべき経路であり、目標経路の作成方法としては、各移動体21が走行するコース形状から目標経路を作成する方法であってもよいし、外部機器との通信により、各移動体21が走行する路面の過去の走行データ経路を取得し、その経路に基づいて作成する方法であってもよい。
【0079】
目標経路取得部31は、外界情報と、許容値算出部35で算出された移動体運動許容値に基づいて、移動体21が走行する経路を定義する目標経路の情報を生成する。ここで目標経路の情報とは、移動体21が走行する経路Lと、所定位置における移動体21の通過時間tを含んだ情報である。なお、目標経路の情報は、所定位置における通過時間情報で規定するのではなく、所定位置における目標速度の情報を規定するものでも良い。また、経路Lとは、具体的には、目標ルート上に設定された目標縦位置と目標横位置の座標が一定間隔毎に規定されたものである。
【0080】
許容値算出部35で算出した前後加速度許容値CAxが小さい場合、目標軌道における移動体21の目標走行速度を全体的に低くする。これにより、大きな加減速が発生することなく車両20が走行することが可能となる。また、許容値算出部35で算出した横加速度許容値CAyが小さい場合、目標経路の曲率を小さくする。これにより、大きな横加速度Ayが発生することなく移動体21が走行することが可能となる。
【0081】
同様に、許容値算出部35が算出したヨーレイト許容値CRyが小さい場合、目標経路の曲率を小さくする。これにより、急激なヨー運動を伴わずに移動体21が走行することが可能となる。
【0082】
<移動体運動状態取得部32>
移動体運動状態取得部32では、移動体運動状態情報から、各移動体21の運動状態(走行速度、旋回状態、ドライバ操作量等)を取得する。
【0083】
<隊列情報取得部33>
隊列情報取得部33では、車外通信ユニット20による通信などにより、各移動体21の走行情報(移動体情報)を取得する。隊列情報取得部33は、隊列情報として、隊列内の位置、走行経路、速度、前後加速度制御計画、および移動体21どうしの離間距離などの情報を取得する。また、隊列情報取得部33は、隊列情報として、前記情報に加え、隊列継続可否フラグを受け取ってもよい。
【0084】
<搬送物情報取得部34>
搬送物情報取得部34では、移動体21によって搬送される搬送物の情報を取得する。搬送物情報は、例えば各移動体21からそれぞれ取得することができ、また、外部機器との通信により、取得してもよい。搬送物情報には、例えば移動体21に乗っている荷物の情報、乗員が乗っている場合には乗員の視線の向きなどの情報も含まれる。
【0085】
例えば、カメラ等の車内センサから取得した移動体21内の情報に基づいて、乗員の乗車位置や行動、乗員の身体が向いている方向(乗員方向DH)等を推定する。乗員行動の具体例として、睡眠、読書、動画閲覧等が挙げられる。
【0086】
図16は、搬送物情報取得部34の要部を示すブロック図である。ここに示すように、搬送物情報取得部34は、視線情報推定部34a、視認対象推定部34b、乗員方向推定部34cを備えている。
【0087】
視線情報推定部34aは、車内センサから得られた移動体21内の情報に基づいて、乗員の視線を検出または推定する。例えば、カメラにより乗員の眼球運動を追跡して、視線情報を推定してもよい。
【0088】
視認対象推定部34bは、視線情報推定部34aより出力される視線情報に基づいて、乗員の視認対象及び乗員の行動を検出または推定する。ここではまず、視線情報に基づいて、乗員の視認対象が移動体外か移動体内か判別する。そして、乗員の視認対象が移動体外と推定された場合には、視認対象を細かく分類せず、視認対象を移動体外対象物とする。乗員行動に関しても細かく分類せず、移動体外視認とする。
【0089】
一方、乗員の視認対象が移動体内と推定された場合であれば、視認対象および乗員行動の詳細な判別を行う。視認対象として、例えば、本、書類、ディスプレイ、会話相手などが挙げられる。視認対象の判別方法としては、乗員視線の先にある対象物をデータベースから推定する手法や学習モデル(画像情報を入力とした深層学習等)から推定する手法が挙げられる。同時に、乗員が視認対象を把持しているか否かも判定する。また、視線情報および視認対象情報に基づいて乗員行動を推定する。これは、直接乗員行動を推定する学習モデルから乗員行動を推定してもよい。
【0090】
乗員方向推定部34cは、車内センサから得られた移動体内の情報に基づいて、乗員の身体がどちらの方向に向いているか(移動体の進行方向DCに対する相対的な乗員方向DH)を推定する。
【0091】
<許容値算出部35>
許容値算出部35は、搬送物情報取得部34から取得した乗員情報(視認対象、乗員行動、乗員方向等)に基づいて、乗員に不快感を抱かせないために許容される移動体の運動制御値である移動体運動許容値Cを決定する。この移動体運動許容値Cは、具体的には、移動体運動情報を表す物理量である前後加速度Ax、横加速度Ay、上下加速度Az、ヨーレイトRy、ロールレイトRr、ピッチレイトRp等の夫々についての許容値である。
【0092】
例えば、
図17に示すように、乗員の視認対象(図中では星印で表示)が移動体外に存在する場合には、乗員の乗車位置が運転席であるか後部座席であるかによらず、移動体運動許容値C
1~C
nを基準値S
1~S
nに設定する。基準値Sは、一般的に乗員が不快に感じる物理量の閾値であり、例えば前後加速度Axであれば±0.2Gである。なお、
図17に示すように、基準値Sは低速時には速度に比例して大きくなるが、所定の速度に達した以降は、一定となるように設定されている。
【0093】
一方、
図18に示すように、乗員の視認対象(星印)が移動体内に存在する場合には、移動体運動許容値Cを基準値Sより小さい抑制値S’とする。すなわち、基準値S
1~S
nよりも小さい抑制値S’
1~S’
nを移動体運動許容値C
1~C
nに設定する。
【0094】
例えば、視認対象の物体が乗員により把持されている場合、前後加速度Axおよび上下加速度Azが生じることで視線のブレが生じてしまい、違和感の発生や、乗員の車酔いを誘発する可能性がある。そこで、視認対象の物体が乗員により把持されている場合(例えば読書中)においては、移動体の前後加速度許容値CAx、上下加速度許容値CAzを、それぞれの基準値Sよりも小さい抑制値S’に変更する。
【0095】
一方、視認対象の物体が乗員により把持されていない場合、すなわち移動体内に配置されているディスプレイ等を視認している場合においては、視聴するコンテンツの種類に応じて移動体運動許容値Cを変更する。例えば、動画視聴時用と静止画視聴時用の抑制値S’を別個に用意しておくことで、ニュース映像視聴時と比較して、スライドショー映像視聴時には、移動体運動許容値Cをより小さくする。
【0096】
また、
図19に示すように、乗員の視認対象が移動体内に存在する場合では、乗員方向D
Hに基づいて移動体運動許容値Cを変更する。視認対象や乗員行動が等しい場合においても、進行方向D
Cと乗員方向D
Hが略一致している時と比較し、進行方向D
Cと乗員方向D
Hが異なる場合における移動体運動許容値Cをより小さいものとする。例えば、
図18に示すように、移動体運動許容値Cの一つである前後加速度許容値C
Axと横加速度許容値C
Ayを、進行方向D
Cと乗員方向D
Hが等しい場合の基準値S
Ax、S
Ayより小さい抑制値S’
Ax、S’
Ayに設定する。
【0097】
<走行制御演算部1Ab>
図15は、走行制御演算部1Abの内部構成を説明する機能ブロック図である。
走行制御演算部1Abでは、各移動体21の前後加速度の演算が行われる。走行制御演算部1Abは、移動体運動制御演算部38と、制御指令送信部36と、制御計画送信部37とを有する。
【0098】
移動体運動制御演算部38では、移動体運動制御装置1Aにより得られた目標経路、目標速度、目標離間距離などの各種情報に基づいて、移動体21に対する前後加速度制御を、移動体21に搭載のアクチュエータにて実現するための前後加速度指令値、および各移動体21のカーブ路に対する前後加速度制御計画を演算する。移動体運動制御演算部38は、隊列系を形成する移動体群の移動体21ごとにそれぞれ前後加速度指令値および前後加速度制御計画を演算する。前記前後加速度指令値の演算結果は、制御指令送信部36に送られ、前記前後加速度制御計画の演算結果は制御計画送信部37に送られる。
【0099】
ここで、前後加速度に加え、横加速度も移動体運動制御装置1Aにて制御する場合、移動体運動制御演算部38にて、目標経路取得部31、移動体運動状態取得部32、隊列情報取得部33、及び搬送物情報取得部34により得られた情報に基づいて、移動体21に搭載のアクチュエータにて目標経路を走行する舵角指令値を演算し、制御指令送信部36に送る。この舵角指令値も、前後加速度指令の演算結果と同様に、移動体群の移動体21ごとにそれぞれ演算され、制御指令送信部36に送られる。
【0100】
制御指令送信部36では、前記移動体運動制御演算部38により作成された移動体21ごとの前後加速度指令値、もしくは前後加速度指令値と舵角指令値の両方を、制御指令値として、移動体群の中の対応する移動体21にそれぞれ送信する。各移動体21は、移動体運動制御演算部38により作成された前後加速度指令値、もしくは前後加速度指令値と舵角指令値の両方に基づいて、前後加速度および/もしくはタイヤ実舵角を制御可能なアクチュエータ(ブレーキアクチュエータ11、駆動アクチュエータ13、舵角制御アクチュエータ16)の駆動制御を行う各制御ユニット(ブレーキ制御ユニット10、駆動トルク制御ユニット12、舵角制御ユニット15)に制御指令値を送る。
【0101】
一方、制御計画送信部37では、移動体運動制御演算部38により作成された前後加速度制御計画を、対応する移動体21にそれぞれ送信する。
【0102】
次に、
図20~
図23を用いて、本実施形態における移動体運動制御方法について説明する。
図20は、本実施形態の移動体運動制御装置1Aにおける処理の内容を示すフローチャートである。
図20のフローチャートによる判断は、隊列を形成する複数の移動体21に対してそれぞれ行われる。
【0103】
まず、S41~S44では、隊列制御演算部1Aa(の目標経路取得部31、移動体運動状態取得部32、隊列情報取得部33、および搬送物情報取得部34)によって、演算対象の移動体21について、目標経路、走行可能範囲、速度制御範囲、移動体運動状態、先行移動体走行経路、先行移動体速度、先行移動体前後加速度制御計画、先行移動体離間距離、後続移動体走行経路、後続移動体速度、後続移動体前後加速度制御計画、後続移動体離間距離(必要に応じて、最大前後加速度、最小前後加速度、目標離間距離)などの情報を取得する。目標経路は、移動体重心位置を原点とし、移動体速度ベクトルの方向を正としたXv軸、それと直行するYv軸を取った座標上のノード点位置データNPn(Xvn,Yvn)として変換される。nは、最も移動体に近い点を0とし、自移動体進行方向に向かって1、2・・・、nmaxと増加する整数である。また、nmaxは取得可能なノード点位置データ番号nの最大値である。また、NP0のYv軸成分であるYv0は、移動体の横方向偏差となる。また、各ノード点はノード点位置における走行可能範囲、および車速制御範囲といった情報も合わせて持つものとする。また、隊列情報として、隊列走行において隊列最前部であり、先行移動体が存在しない移動体については、先行移動体情報として“先行移動体なし”という情報を取得し、また、隊列最後部であり、後続移動体が存在しない移動体については、後続移動体情報として“後続移動体なし”という情報を取得する。
【0104】
S45では、演算対象の移動体21に対して先行する移動体21が存在するか否かの判断が行われる。具体的には、移動体運動制御装置1A(の移動体運動制御演算部38)は、演算対象の移動体21が先行移動体前後加速度制御計画を有しているか否かを判定する。ここで、演算対象の移動体21が先行移動体前後加速度制御計画を有していない場合(S45でNO)、演算対象の移動体21が隊列最前部、つまり、隊列の先頭の移動体21であると判断してS47に進む。また、演算対象の移動体21が先行移動体前後加速度制御計画を有している場合(S45でYES)には、先行移動体21_nに追従して走行する後続移動体21_n+1であるとして、S46に進む。
【0105】
S47では、移動体運動制御装置1A(の移動体運動制御演算部38)は、隊列最前部、つまり、隊列の先頭の移動体21_1(
図1の移動体0)の前後加速度を演算する(前後加速度演算A)。前後加速度演算Aでは、目標経路、走行可能範囲、車速制御範囲、移動体運動状態から、隊列最前部の移動体21_1の前後加速度指令値および前後加速度制御計画を演算する。例えば隊列最前部の移動体21_1の移動体速度が車速制御範囲を超えて高い場合、移動体運動制御装置1A(の移動体運動制御演算部38)は、移動体速度が車速制御範囲に収まるよう、負の前後加速度指令値を演算する。また、目標経路がカーブ路形状(走行路の道路曲率(≒走行経路の曲率)の絶対値が増加して最大値もしくは略一定に至る形状、もしくは、走行路の道路曲率(≒走行経路の曲率)の絶対値が最大値もしくは略一定から減少する形状)となっており、カーブ路に応じた加減速制御をおこなう場合、カーブ路形状に基づいた前後加速度指令値が演算される。例えば、移動体運動制御装置1A(の移動体運動制御演算部38)は、走行路の道路曲率(≒走行経路の曲率)の絶対値が増加し、移動体21_1に発生する横加速度の絶対値が増加する区間において負の前後加速度を発生(減速)させ、横加速度の時間変化が大きいほど、発生する前後加速度が小さくなるよう、前後加速度値を制御する(
図7(a)、
図10(a)参照)。また、移動体運動制御装置1A(の移動体運動制御演算部38)は、走行路の道路曲率(≒走行経路の曲率)の絶対値が減少し、移動体21_1に発生する横加速度の絶対値が減少する区間において正の前後加速度を発生(加速)させ、横加速度の時間変化が大きいほど、発生する前後加速度が大きくなるよう前後加速度値を制御する(
図8(a)、
図10(a)参照)。前後加速度指令値を演算後、制御指令値として、移動体21_1に送信される。
【0106】
図21は、S47の前後加速度演算Aの内容を説明するフローチャートである。
前後加速度演算Aでは、移動体21_1に対して設定されている目標経路にカーブ情報があるか否か、つまり、隊列の先頭の移動体21_1の前後加速度制御計画にカーブ情報があるか否かが判断される。そして、カーブ情報がない場合(S51でNO)、つまり、直線路の場合、目標速度に追従する前後加速度が演算される(S52)。一方、カーブ情報がある場合(S51でYES)、つまり、カーブ路の場合、横運動に連係した前後運動を発生させる前後加速度制御を行うべく、横加加速度に連係した前後加速度が演算される(S53)。したがって、移動体21_nが搬送している搬送物が乗員の場合は、カーブを走行する際の乗り心地の向上が図られ、搬送物が荷物の場合には荷崩れを防止することができる。
【0107】
S46では、移動体運動制御装置1A(の移動体運動制御演算部38)は、先行移動体21_nの前後加速度制御計画にカーブ情報があるか否か、すなわち、演算対象の移動体21_n+1の前方を走行する先行移動体21_nがカーブ路に対する前後加速度制御計画を有しているか否かを判定する。ここで取得する前後加速度制御計画としては、現時刻から所定時刻先までの前後加速度プロファイルと前後加速度プロファイルにカーブ路に起因した前後加速度制御計画フラグを付記したものであってもよいし、ノード点位置情報と各ノード点位置での速度プロファイルもしくは前後加速度プロファイルに、カーブ路に起因して設定されたプロファイル情報に当該情報を付記したものであってもよく、先行移動体21_nのカーブ路に対する前後加速度制御計画が分かる方法であればよい。先行移動体21_nの前後加速度制御計画にカーブ情報がない場合、演算対象の移動体21_nが直線路を走行するときの前後加速度を演算すべく、S48に進む。また、カーブ情報がある場合、演算対象である移動体21_n+1がカーブ路を走行するときの前後加速度を演算すべく、S49に進む。
【0108】
S48では、移動体運動制御装置1A(の移動体運動制御演算部38)は、前後加速度演算Bとして、先行移動体21_nの前後加速度制御計画に基づいて、演算対象の移動体21_n+1の前後加速度指令値および前後加速度制御計画を演算する(前後加速度演算B)。具体的には、移動体運動制御装置1A(の移動体運動制御演算部38)は、演算対象の移動体21_n+1が先行移動体21_nとの間の離間距離を維持するよう、先行移動体21_nとの相対速度がゼロとなる前後加速度指令値および前後加速度制御計画、もしくは移動体21_n+1と先行移動体21_nとの間の離間距離が目標離間距離となる前後加速度指令値および前後加速度制御計画を演算する。ここで、目標離間距離は、予め設定される値であってもよいし、外部から通信手段によって取得される値であってもよい。また、目標離間距離は、隊列走行の各移動体21に発生可能な最大前後加速度および/または最小前後加速度に応じて変更してもよい。前後加速度指令値を演算後、制御指令値として、移動体運動制御装置1Aから演算対象の移動体21_n+1に送信される。
【0109】
図22は、S48の前後加速度演算Bの内容を説明するフローチャートである。
前後加速度演算Bでは、先行移動体21_nが存在する演算対象の移動体21_n+1前後加速度の演算が行われる。演算対象の移動体21_n+1の目標経路にカーブ情報を有していない(S46でNO)、つまり、演算対象の移動体21_n+1の前後加速度制御計画にカーブ情報がなく、直線路を走行する計画であるので、先行移動体21_nの加減速度の取得が行われる(S61)。そして、先行移動体21_nと、演算対象の移動体21_n+1との離間距離の調整に必要な前後加速度演算が行われる(S62)。それから、演算対象の移動体21_n+1について目標速度に必要な前後加速度演算が行われる(S63)。
【0110】
S49では、移動体運動制御装置1A(の移動体運動制御演算部38)は、前後加速度演算Cとして、先行移動体21_nの前後加速度制御計画および移動体進行方向のカーブ情報に基づいて、演算対象の移動体21_n+1の前後加速度指令値および前後加速度制御計画を演算する(前後加速度演算C)。具体的には、移動体運動制御装置1A(の移動体運動制御演算部38)は、前述のように先行移動体21_nの走行経路の曲率が増加して先行移動体21_nに発生する横加速度の絶対値が増減する前に、演算対象の移動体21_n+1と先行移動体21_nとの離間距離が増加し、演算対象の移動体21_n+1および先行移動体21_nの走行経路の曲率が略一定となって演算対象の移動体21_n+1および先行移動体21_nの横加速度が略一定となる領域で、離間距離が減少して目標離間距離となるよう、前後加速度指令値、および、カーブ路に起因した前後加速度制御フラグを付記した前後加速度制御計画を演算する。前後加速度指令値を演算後、制御指令値として、サーバ100から演算対象の移動体21_n+1に送信される。
【0111】
図23は、S49の前後加速度演算Cの内容の一例を説明するフローチャートである。
図23では、演算対象の移動体21_n+1の搬送物が乗員である場合について説明する。
【0112】
前後加速度演算Cでは、まず、乗員の注視方向が前方であるか否かが判断される(S71)。
演算対象の移動体21_n+1に乗っている乗員の注視方向が前方ではない場合(S71でNO)、カーブ進入時の先行移動体21_nの減速度が、演算対象の移動体21_n+1の減速度より大きくても、通常の範囲内であれば、演算対象の移動体21_n+1の乗員に不安感や圧迫感を与えるおそれはない。したがって、かかる場合には、乗り心地と輸送効率の両方を考慮した通常のカーブ前減速度が設定される(S72)。カーブ前減速度は、例えば
図7(a)に示すように、一定値が算出される。カーブ前減速度は、先行移動体21_nがカーブに進入する前に演算対象の移動体21_n+1を予め減速させる減速度であり、横加加速度に連係しない前後加速度である。演算対象の移動体21_n+1は、カーブ前減速度で減速を開始し、減速を開始する時刻での前後加速度が、同時刻における先行移動体21_nに発生する前後加速度よりも小さくなるように、すなわち、同時刻で演算対象の移動体21_n+1に発生する減速度が、先行移動体21_nに発生する減速度よりも大きくなるよう、前後加速度制御が行われる。このカーブ前減速度も乗員の注視方向が前方であるか否かに応じて調整される。
【0113】
一方、乗員の注視方向が前方の場合(S71でYES)、先行移動体21_nの動きを見て、演算対象の移動体21_n+1の乗員が不安感や圧迫感を受けないようにすべくS73以降の処理に移行する。
【0114】
最初に先行移動体21_nの種別の情報が取得される(S73)。例えば、先行移動体21_nがダンプトラックやバスなどの大型の移動体である場合には、乗用車などの小型の移動体に比べて、後続移動体21_n+1の乗員が受ける不安感や圧迫感は大きくなる。したがって、先行移動体21_nが大型の移動体である場合には、小型の移動体のときと比べて、後続の演算対象の移動体21_n+1のカーブ前減速度を大きくする前後加速度制御を行うことが望ましい。したがって、先行移動体21_n-1の種別の情報を取得する。
【0115】
次に、先行移動体21_nに対する演算対象の移動体21_n+1の許容相対加速度を取得する処理がなされる(S74)。例えば先行移動体21_nの減速度が演算対象の移動体21_n+1の減速度よりも大きく、減速度の差が所定値以上の場合、後続移動体21_n+1の乗員は、先行移動体21_nが急激に迫ってくるように感じて、不安感や圧迫感を受けるおそれがある。したがって、先行移動体21_nとの減速度の差をある程度の範囲に収める必要がある。そこで、乗員が不安感や圧迫感を受けるのを防ぐことができる許容相対加速度を取得する。この許容相対加速度は、固定値でもよく、また、S73で取得した種別に応じて可変させてもよい。
【0116】
そして、移動体21_n+1の乗員の注視方向が前方である場合に応じたカーブ前減速度が算出される(S75)。S75では、S73およびS74で取得した情報、つまり、先行移動体21_nの種別と許容相対加速度とに基づいてカーブ前減速度が算出される。カーブ前減速度は、乗員の注視方向が前方でない場合に算出されたカーブ前減速度(S72)と比較して、緩やかに減速されるように小さい値とされる。
【0117】
そして、横運動に連係した前後運動を発生させる前後加速度制御を行うために、横加加速度に連係した前後加速度が演算される。ここでは、横加加速度から前後加速度を算出するためのゲインKを演算する処理が行われる(S76)。なお、前後加速度は、下記の演算式(1)により求められる。
【数1】
【0118】
移動体21_n+1の乗員の注視方向が前方でない場合には(S71でNO)、乗員は先行移動体21_nを見ていないので、演算対象の移動体21_n+1がカーブ前減速度で減速して先行移動体21_nに接近しても、移動体21_n+1の乗員に不安感や圧迫感を与えることはない。したがって、S76では、乗員の乗り心地よりも輸送効率を優先させたゲインKの値が設定される。
【0119】
一方、移動体21_n+1の乗員の注視方向が前方である場合には(S71でYES)、演算対象の移動体21_n+1が通常の減速度で減速して先行移動体21_nに接近してきた場合に、移動体21_n+1の乗員に不安感や圧迫感を与えるおそれがある。したがって、S76では、カーブ入口から定常旋回に至るまでの間、先行移動体21_nとの離間距離を緩やかに増減させるゲインKの値が設定される。
【0120】
移動体21_n+1の乗員の注視方向が前方である場合(S71でYES)、S73で取得した先行移動体種別の情報と、S74で取得した許容相対加速度の情報と、S75で算出したカーブ前減速度の値を用いてゲインKの演算が行われる。一方、移動体21_n+1の乗員の注視方向が前方でない場合(S71でNO)、S72で取得したカーブ前減速度の値を用いてゲインKの演算が行われる。
【0121】
S76におけるゲインKの演算では、S71において演算対象の移動体21_n+1の乗員の注視方向が前方であると判定された場合に、前方でないと判定されたときと比較して、カーブ入口におけるゲインKとして、単体走行時あるいは先頭走行時のゲインKよりも大きい値が演算される。
【0122】
そして、演算対象の移動体21_n+1についてカーブ前減速時間Tsbが演算される(S77)。カーブ前減速時間Tsbは、カーブに進入する前に、横加加速度に連係しない前後加速度、つまり、カーブ前減速度を生じさせる時間であり、S72またはS75で算出されるカーブ前減速度の値に基づいて演算される。
【0123】
上記した前後加速度演算Cでは、演算対象の移動体21_n+1と先行移動体21_nとの場合を例に説明したが、演算対象の移動体21_n+1と後続移動体21_n+2との場合についても同様に適用することができる。つまり、演算対象の移動体21_n+1に乗っている乗員の注視方向が後方である場合、カーブを通過する際に、後続移動体21_n+2が演算対象の移動体21_n+1に急速度で接近してくると、乗員に不安感や圧迫感を与えるおそれがある。そこで、後続移動体21_n+2のカーブ前減速度とゲインKの演算において、演算対象の移動体21_n+1の乗員の注視方向が後方であると判定された場合に、注視方向が後方ではないと判定されたときと比較して、カーブ前減速度とゲインKが大きい値に設定される。
【0124】
図24は、カーブ路走行時に移動体に作用する前後加速度の変化を示す図であり、
図24(a)は移動体が単体で走行する際の前後加速度と横加速度の変化を示し、
図24(b)~
図24(d)は、隊列走行している2台の移動体の加速度の変化を示す図である。
図24(b)は、演算対象の移動体21_n+1に乗員が乗っていないときの前後加速度の変化を示し、
図24(c)は、移動体21_n+1の乗員が前方を見ているときの前後加速度の変化を示し、
図24(d)は、先行移動体21_nの乗員が後方を見ているときの前後加速度の変化を示す図である。そして、
図25は、本実施形態における前後加速度制御を適用した際の前後加速度と横加速度の関係を示した“g-g”ダイアグラムであり、
図25(a)は移動体21_n+1に乗員が乗っていない場合における“g-g”ダイアグラム、
図25(b)は移動体21_n+1の乗員が前方を見ている場合における“g-g”ダイアグラム、
図25(c)は先行移動体21_nの乗員が後方を見ている場合における“g-g”ダイアグラムである。
【0125】
図24(a)において、時刻t3は、移動体21_nがカーブ入口を通過する時刻、時刻t1は、時刻t3よりもカーブ前減速時間Tsbだけ前の時刻、時刻t5は、カーブ路内で横加速度が一定になる時刻、時刻t9は、カーブ出口を通過する時刻である。移動体21_nは、単体でカーブ路を走行する場合、移動体運動制御装置1Aからの制御指令値によって、カーブ入口を通過する時刻t3よりもカーブ前減速時間Tsbだけ前の時刻t1において前後加速度が発生するように車両制御がなされる。カーブ前減速時間Tsbにおける前後加速度は、横加速度に連係しない前後加速度である。そして、カーブ入口を通過する時刻t3から横加速度が一定となる時刻t5までの間、横運動に連係した前後運動を発生する前後加速度制御がなされる。
【0126】
図24(b)~
図24(d)において、実線は演算対象の移動体21_n+1の加速度の変化を示し、破線は、先行移動体21_nの加速度の変化を示す。そして、時刻t4は、移動体21_n+1がカーブ入口を通過する時刻、時刻t1は、時刻t4よりもカーブ前減速時間Tsbだけ前の時刻、時刻t6は、カーブ路内で横加速度が一定になる時刻、時刻t8は、横加速度が減少を開始する時刻、時刻t9は、カーブ出口を通過する時刻である。そして、時刻t3は、先行移動体21_nがカーブ入口を通過する時刻、時刻t2は、カーブ前減速を開始する時刻、時刻t5は、カーブ路内で横加速度が一定になる時刻、時刻t9は、横加速度が0になる時刻である。
図24(b)~
図24(d)は、
図25(a)~
図25(c)にそれぞれ対応する。
【0127】
まず、
図24(b)に示すように、移動体21_n+1に乗員が乗っていない場合、移動体21_n+1には、
図6~
図11にて説明した横運動に連係した前後運動を発生させる前後加速度制御が行われる。移動体21_n+1は、カーブ入口よりも手前のタイミングt1で減速が開始され、カーブ入口に到達する時刻t4まで(カーブ前減速時間Tsb)横加速度に連係しない前後加速度で減速される。
そして、移動体21_n+1は、カーブ入口を通過すると、横加速度に応じた前後加速度制御により、先行移動体21_nよりも小さな前後加速度に制御される。
図24(b)に示す例では、先行移動体21_nと後続移動体21_n+1との前後加速度の差は、最大でδa1となっている。
【0128】
そして、先行移動体21_nの横加速度がカーブ出口に向けて減少を開始する時刻t7よりも遅いタイミングの時刻t8において、後続移動体21_n+1の横運動に連係した前後運動となるように前後加速度制御が行われる。後続移動体21_n+1は、カーブ出口における横加速度に応じた前後加速度の制御では、先行移動体21_nよりも小さな前後加速度に制御される。
図24(b)に示す例では、先行移動体21_nと後続移動体21_n+1との前後加速度の差は、最大でδb1となっている。
図24(b)に示す例では、後続移動体21_n+1には、乗員が乗っていないので、その横加速度に応じた前後加速度は、乗り心地と輸送効率を両立させた通常の値に設定される。
【0129】
次に、
図24(c)に示すように、後続移動体21_n+1の乗員が前方を見ているときは、
図24(b)に示す乗員が乗っていないときよりも、カーブ入口における前後加速度がより小さく(減速度が大きく)なるように、前後加速度が制御される。
図24(c)に示す例では、先行移動体21_nと後続移動体21_n+1との前後加速度の差は、最大でδa2となっている(δa1>δa2)。後続移動体21_n+1は、乗員が前方を見ている場合、
図7(b)に示すように、カーブ進入前から定常旋回に至るまでの間、先行移動体21_nとの離間距離を緩やかに変化させることができる。したがって、離間距離が急激に縮まらないので、前方を注視している後続移動体21_nの乗員に不安感や圧迫感を与えるのを防ぐことができ、乗り心地を向上させることができる。
【0130】
次に、
図24(d)に示すように、先行移動体21_nの乗員が後方を見ているときは、
図24(b)に示す乗員が乗っていないときよりも、カーブ出口における前後加速度がより小さく(減速度が大きく)なるように、前後加速度が制御される。
図24(d)に示す例では、先行移動体21_nと後続移動体21_n+1との前後加速度の差は、最大でδb2となっている(δb1>δb2)。後続移動体21_n+1は、先行移動体21_nの乗員が後方を注視しているときは、カーブ出口よりも前から減速度が大きくなり、先行移動体21_nから一旦離れてカーブ出口を通過した後に再び先行移動体21_nに接近して目標離間距離となるように、前後加速度が制御される。したがって、先行移動体21_nの乗員が不安感や圧迫感を受けるのを防ぐことができ、乗り心地を向上させることができる。
【0131】
図25は、本実施形態における前後加速度制御を適用した際の前後加速度と横加速度の関係を示した“g-g”ダイアグラムであり、
図25(a)は後続移動体
21_n+1に乗員が乗っていない場合における“g-g”ダイアグラム、
図25(b)は後続移動体
21_n+1の乗員が前方を見ている場合における“g-g”ダイアグラム、
図25(c)は先行移動体
21_nの乗員が後方を見ている場合における“g-g”ダイアグラムである。
【0132】
図25(a)に示すように後続移動体
21_n+1の乗員が前方を見ていない場合と比較して、
図25(b)に示すように後続移動体
21_n+1の乗員が前方を見ている場合は後続移動体
21_n+1の横加速度の増大に対する前後加速度の変化の度合いが大きくなっている。つまり、後続移動体21_n+1の乗員が前方を見ている場合は、後続移動体21_n+1のカーブ入口から定常旋回に至るまでの間(t4→t6)における減速度が大きくなるように変更されている。したがって、かかる場合には、先行移動体21_nに対して後続移動体21_n+1が緩やかに接近することになり(
図7(b)を参照)、後続移動体21_n+1の乗員が先行移動体21_nの急な接近による不安感や圧迫感を受けるのを防ぐことができる。
【0133】
そして、
図25(c)に示すように先行移動体
21_nの乗員が後方を見ている場合は、先行移動体21_nの横加速度の減少に対する前後加速度の変化の度合いが大きくなっている。つまり、先行移動体21_nの乗員が後方を見ている場合は、先行移動体21_nの横加速度が減少を開始してからカーブ出口に至るまでの間(t8→t9)における減速度が加速度が大きくなるように変更されている。したがって、かかる場合には、先行移動体21_nに対して後続移動体21_n+1が緩やかに接近することになり、後続移動体21_n+1のあおり運転のような動きを防ぐことができ、先行移動体21_nの乗員が不安感や圧迫感を受けるのを防ぐことができる。
【0134】
図26は、S49の前後加速度演算C(前後加速度演算部)の内容の他の例を説明するフローチャートである。
上記した実施例では、横加加速度に連係した前後加速度を算出するためのゲインKを、乗員の注視している方向に応じて変更する場合について説明したが、ゲインKの替わりに、もしくはゲインKとともにカーブ前減速時間を変更してもよい。例えば、後続移動体21_n+1の乗員の注視している方向が前方である場合には、注視している方向が前方でない場合と比較して、カーブ前減速時間を長くするように前後加速度制御を行ってもよい。
【0135】
本変形例では、最初に先行移動体21_nの種別の情報が取得される(S111)。次に、先行移動体21_nに対する後続移動体21_n+1の許容相対加速度を取得する処理がなされる(S112)。ここまでの処理は、
図23に示すS73とS74の処理と同じである。
【0136】
次に、後続移動体21_n+1についてのカーブ前減速度が設定される(S113)。そして、後続移動体21_n+1について、横加加速度に連係した前後加速度の制御を行うためのゲインKを演算する(S114)。
【0137】
そして、後続移動体21_n+1の乗員の状態を取得する処理が行われる(S115)。例えば、車内センサから得られた移動体内の情報に基づいて、乗員の視線を検出または推定し、乗員の状態として用いる。
【0138】
そして、この乗員の状態の情報を用いて、後続移動体21_n+1をカーブ進入前に減速させるためのカーブ前減速時間Tsbを演算する処理が行われる(S116)。カーブ前減速時間Tsbは、乗員の状態に応じて調整され、例えば、後続移動体21_n+1の乗員が前方を注視している場合には、前方を注視していない場合と比較して長い値が演算される。これにより、後続移動体21_n+1の横加速度の絶対値、もしくは走行経路の曲率が増加する前に、先行移動体21_nと後続の演算対象の移動体21_n+1との離間距離dn+1が増加するように、後続移動体21_n+1、もしくは先行移動体21_nと後続移動体21_n+1の両方の前後加速度が制御される。
【0139】
本変形例によれば、先行移動体21_nとの離間距離を長くとった状態でカーブに進入するので、旋回中に先行移動体21_nが後続移動体21_n+1に接近しても乗員が不安感や恐怖感を受けるのを防ぐことができる。
【0140】
なお、上述の実施形態では、搬送物の状態として乗員の注視している方向の場合を例に説明したがこれに限定されるものではない。例えば、搬送物が精密機械や生鮮食料品のように慎重かつ丁寧な取り扱いが要求されるものである場合には、移動体21による搬送中に搬送物に衝撃が加えられないように、あるいは荷崩れが起きないように、前後加速度を制御する必要がある。
【0141】
本実施形態によれば、移動体運動制御装置1Aにより、隊列走行をする各移動体21の隊列内の移動体位置に応じた前後加速度指令値の演算を行うことで、
図10(a)、(b)及び
図11に示す隊列走行を実現することができる。
【0142】
そして、各移動体21は、それぞれが搬送する搬送物の状態に応じて前後加速度が制御される。例えば、乗員が前方を注視している移動体21は、前方を注視していない移動体21と比較して、離間距離dn+1が緩やかに変化するように前後加速度制御が行われる(
図7(b)を参照)。したがって、先行移動体21_n-1に対して後続移動体21_nが緩やかに接近することになり、後続移動体21_nの乗員が先行移動体21_n-1の急な接近による不安感や圧迫感を受けるのを防ぐことができる。また、移動体によって搬送される搬送物が、精密機器や生鮮食料品などの慎重な取り扱いが要求される取扱注意品である場合には、搬送物への衝撃を抑えた搬送が可能となる。
【0143】
図27は、本実施形態の更に他の変形例を説明する図である。
図27は、
図1に対応する図であり、走行可能な車線が2車線である点、および移動体の数が6台である点で
図1と相異している。
【0144】
上述の実施例では、複数の移動体0~4が一列に並んで隊列走行する場合を例に説明したが、例えば二列に並んで隊列走行可能な経路の場合には、搬送物の情報に基づいて2つの隊列に分けて、カーブを通過させる構成としてもよい。例えば、カーブ内側には、前方を注視していない乗員を載せた複数の移動体0~3によって隊列を形成して走行させ、カーブ外側には、前方を注視している乗員や取扱注意品を載せた移動体4、5で隊列を形成して走行させてもよい。
【0145】
具体的には、隊列制御演算部1Aa(の目標経路取得部31)は、各移動体が通過する経路が複数列に並んで隊列走行可能な経路であるか否かを判断する。そして、複数列に並んで隊列走行可能な経路であると判断されると、隊列制御演算部1Aaの搬送物情報取得部34によって取得した、各移動体21の搬送物とその状態の情報に基づいて、各移動体21の経路を設定する。
【0146】
例えば、各移動体21に乗員が乗っている場合には、乗員が前方又は後方を注視している移動体21と、注視していない移動体21に分類する。また、乗員が乗っていない移動体21が含まれている場合には、注視していない移動体21に含める。そして、乗員が前方又は後方を注視している移動体21については、カーブの内側を走行させる経路を設定し、輸送効率よりも乗り心地を優先させた前後加速度制御を行う。一方、乗員が前方又は後方を注視していない移動体については、カーブの外側を走行させる経路を設定し、輸送効率と乗り心地の両方を考慮した前後加速度制御を行う。
【0147】
例えば、各移動体21に、荷物が載せられている場合には、取扱注意品であるか否かを分類する。そして、取扱注意品を載せている移動体21については、カーブの内側を走行させる経路を設定し、輸送効率よりも慎重な取り扱いを優先させた前後加速度制御を行う。一方、取扱注意品を載せていない移動体については、カーブの外側を走行させる経路を設定し、輸送効率と慎重な取り扱いの両方を考慮した前後加速度制御を行う。
【0148】
例えば、各移動体21が土砂を運搬可能なダンプトラックなどの建設機械である場合には、土砂を積載しているか否かによって各移動体21を分類する。そして、土砂を積載している移動体21については、制動距離も長くなり、重心の位置が高く、走行安定性が低くなる傾向にあるので、カーブの内側を走行させる経路を設定し、輸送効率よりも走行安定性を優先させた前後加速度制御を行う。一方、土砂を積載していない移動体21については、制動距離も短くなり、重心の位置が低く、走行安定性が高くなる傾向にあるので、カーブの外側を走行させる経路を設定し、輸送効率と走行安定性の両方を考慮した前後加速度を行う。
【0149】
上述のように、搬送物の種類や状態に応じて隊列を分けることにより、例えば前方を注視していない乗員を乗せた移動体や、荷崩れしても影響のない荷物を載せた移動体で構成される隊列には、輸送効率を優先させた前後加速度の制御を行い、前方を注視している乗員を乗せた移動体や、精密機器などのように慎重な取り扱いが要求される荷物を載せた移動体で構成される隊列には、乗り心地や安全を優先させた前後加速度の制御を行うことができる。
【0150】
本変形例によれば、一つの隊列をカーブ前に小さな隊列に分けて、隊列別に前後加速度制御を行うことで、前後加速度制御の演算量を低く抑えることができ、演算装置の低コスト化を図ることができ、また、隊列として前後に長く延びるのを防ぎ、輸送効率の向上を図ることができる。
【0151】
以上で説明したように、本実施形態では、複数台の移動体が隊列を組んで所定の離間距離を保つように走行する隊列走行において、先行移動体と後続移動体の離間距離が、後続移動体の横加速度の絶対値、もしくは後続移動体の走行経路の曲率が増加または減少する前に増加し、先行移動体および後続移動体の横加速度の絶対値、もしくは先行移動体および後続移動体の走行経路の曲率が増加または減少する区間以降で減少するよう、先行移動体または後続移動体の少なくとも一方の前後加速度を制御する。より詳しくは、隊列走行する移動体の走行情報を移動体間で送受信し、後続移動体の横加速度の絶対値、もしくは後続移動体の走行経路の曲率が増加または減少する前に、前記離間距離が増加するよう、先行移動体または後続移動体の少なくとも一方の前後加速度を制御し、先行移動体および後続移動体の横加速度の絶対値、もしくは先行移動体および後続移動体の走行経路の曲率が増加または減少する区間以降で、前記離間距離が減少するよう、先行移動体および後続移動体の前後加速度を制御する。
【0152】
換言すれば、先行移動体に追従した隊列走行実行時に、先頭移動体がカーブ路に対する減速を開始するシーンで、隊列最後尾の移動体から負の前後加速度を発生(減速)させる、もしくは、後方の移動体ほど発生する前後加速度が小さく(減速度が大きく)なるよう、各移動体の前後加速度を制御する。また、移動体に発生する横加速度の絶対値が増加、もしくは移動体走行位置での道路曲率もしくは移動体の走行経路の曲率が増加する区間に発生する前後加速度の最小値(最大減速度)は、先頭の移動体ほど小さく(最大減速度が大きく)、移動体に発生する横加速度の絶対値が減少、もしくは移動体走行位置での道路曲率もしくは移動体の走行経路の曲率が減少する区間に発生する前後加速度の最大値(最大加速度)は、後方の移動体ほど大きく(最大加速度が大きく)なるよう、各移動体の前後加速度を制御する。
【0153】
これにより、例えば直線区間を隊列走行してきた移動体群が定常旋回状態に至るまでの間に発生する前後加速度と横加速度の関係を、隊列内全ての移動体に対し好適に変化するよう制御することができ、各移動体の乗員の快適性を向上する効果が期待できる。
【0154】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、前記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。さらに、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0155】
1:移動体制御システム、1A:移動体運動制御装置、1Aa:隊列制御演算部、1Ab:走行制御演算部、21:移動体、21_n:隊列走行する移動体群の各移動体(n:正の整数)、31:目標経路取得部、32:移動体運動状態取得部、33:隊列情報取得部、34:搬送物情報取得部、35:許容値算出部、36:制御指令送信部、37:制御計画送信部、38:移動体運動制御演算部