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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】アンカーテンドン
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020065741
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021161794
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】594135151
【氏名又は名称】一般財団法人ダム技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】592016784
【氏名又は名称】守谷鋼機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳永 篤
(72)【発明者】
【氏名】稲川 雄宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 彰
(72)【発明者】
【氏名】川崎 秀明
(72)【発明者】
【氏名】清水 伸敏
(72)【発明者】
【氏名】那須 敦
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-128952(JP,A)
【文献】特開2008-248645(JP,A)
【文献】特開2006-188845(JP,A)
【文献】特開2001-040980(JP,A)
【文献】特開平06-185052(JP,A)
【文献】特開平04-363499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
束状に配置された複数の緊張材と、該緊張材の束を囲繞し略ドーナツ形状に膨張可能なパッカーと、を有し、アンカー孔に挿入されるとともに該アンカー孔の孔底側が充填材に埋設されてアンカーを構成するアンカーテンドンであって、
前記パッカーが、少なくとも前記アンカー孔の孔口側の端部近傍を、前記緊張材の束に孔口側固定材を介して固定され、
該孔口側固定材の配置位置に、隣り合う前記緊張材間の隙間を閉塞する漏液防止部材が、外周面を前記パッカーに接触させて設けられ、
前記漏液防止部材は、前記緊張材に密着させた硬質止水部材と、該硬質止水部材及び前記緊張材に密着し、前記硬質止水部材と前記充填材との間に位置する止水性緩衝部材と、を備えることを特徴とするアンカーテンドン。
【請求項2】
請求項1に記載のアンカーテンドンにおいて、
前記孔口側固定材の配置位置に、前記孔口側固定材から前記アンカー孔の孔壁に向けて突出するパッカー保護部材が設けられていることを特徴とするアンカーテンドン。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアンカーテンドンにおいて、
前記パッカーが、前記アンカー孔の孔底側の端部近傍を、前記緊張材の束に孔底側固定材を介して固定されていることを特徴とするアンカーテンドン。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のアンカーテンドンにおいて、
前記漏液防止部材が、前記緊張材各々に密着させた漏液防止ピース同士を、相互に接合することにより形成され、
該漏液防止ピースに、前記硬質止水部材と前記止水性緩衝部材が備えられていることを特徴とするアンカーテンドン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーを構成するアンカーテンドンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アンカーは、特許文献1で示すような、法面の安定を目的に用いられる容量(設計アンカー力)の小さい斜面安定用アンカーや、特許文献2で示すような、堤体等大型構造物の転倒や滑動を防止する目的に用いられる大容量かつ長尺な構造物補強用アンカー等、様々な用途に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、斜面安定用アンカーの構造とその施工方法が開示されている。具体的には、複数本のPC鋼より線を束ねて長手方向の一部分を弾性パイプで被覆し、隣り合うPC鋼より線の間に生じる隙間を塞いだうえで、弾性パイプが被覆されている位置をパッカーで取り巻き、テンドンを構成する。
【0004】
このテンドンを、地山に削孔した孔内に挿入し、地中孔の口元近傍でパッカーを膨張させ、パッカーより孔底側の地中孔内で水と反応して硬化する止水材を充填し、この止水材でテンドンの先端に設けた定着具を埋設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-248645号公報
【文献】特開2010-163818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、特許文献1では、パッカーでテンドンと地中孔との隙間を塞ぐとともに、弾性パイプで隣り合うPC鋼より線の間に生じる隙間を塞いて、孔底近傍から生じた湧水やアンカー体を構築するべく地中孔内に注入する止水材等の充填材が、孔口から外部へ漏出する現象を阻止している。
【0007】
しかし、特許文献2の構造物補強用アンカーのような、大容量かつ長尺なアンカーを構成するテンドンに、特許文献1のような弾性パイプを適用する場合、様々な課題が生じる。例えば、大容量かつ長尺なテンドンは、束ねるPC鋼より線の数量が小容量の場合と比較してはるかに多く、これに応じてテンドンを挿入する地中孔も大径かつ長尺となりやすい。こうした大径かつ長尺の地中孔にテンドンの先端を埋設する充填材を注入すると、その注入圧も大きくなる。
【0008】
このような場合において、弾性パイプ自身や弾性パイプとPC鋼より線との接合部に十分な耐力が確保されていないと、注入圧によって弾性パイプが破損もしくは抜け出るなど、湧水や充填材の漏出を防止する部材として機能しなくなる恐れが生じる。また、破損や抜け出しを生じるまでに至らなくても、PC鋼より線と弾性パイプとの隙間から充填材が漏れ出しかねない。
【0009】
さらに、特許文献2で示すような構造物補強用アンカーのテンドンは、地面上に載置された大型構造物に設けた貫通孔と、地盤中に設けた地中孔の両者に跨るように配置される。そして、テンドンに設けられたパッカーは、地表面近傍もしくは大型構造物の下部近傍に配置されることが想定され、このような場合には、パッカーの配置位置に設けた弾性パイプの状態を確認することができず、充填材が弾性パイプから漏れ出ていた場合には、アンカー体の出来形や品質に影響を与えかねない。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、止水性と安全性に優れたアンカー体を構築することの可能な、アンカーに用いるアンカーテンドンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため本発明のアンカーテンドンは、束状に配置された複数の緊張材と、該緊張材の束を囲繞し略ドーナツ形状に膨張可能なパッカーと、を有し、アンカー孔に挿入されるとともに該アンカー孔の孔底側が充填材に埋設されてアンカーを構成するアンカーテンドンであって、前記パッカーが、少なくとも前記アンカー孔の孔口側の端部近傍を、前記緊張材の束に孔口側固定材を介して固定され、該孔口側固定材の配置位置に、隣り合う前記緊張材間の隙間を閉塞する漏液防止部材が、外周面を前記パッカーに接触させて設けられ、前記漏液防止部材は、前記緊張材に密着させた硬質止水部材と、該硬質止水部材及び前記緊張材に密着し、前記硬質止水部材と前記充填材との間に位置する止水性緩衝部材と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上述する本発明のアンカーテンドンによれば、硬質止水部材及び止水性緩衝部材を備える漏液防止部材と膨張させたパッカーとによりアンカー孔を閉塞し、アンカー孔の孔底側に充填材を充填すると、充填材の注入圧が止水性緩衝部材により低減されたうえで硬質止水部材に伝達される。
【0013】
したがって、アンカーテンドンが大容量かつ長尺なアンカーに用いられる場合であり、充填材の注入圧が過大な場合にも、充填材の注入圧により硬質止水部材が緊張材に沿って孔口側へ移動するような、位置ズレを生じる現象を抑制できる。また、止水性緩衝部材は、硬質止水部材と充填材とにより圧し潰されるように変形し、緊張材及びパッカーの内周面に対して、より密着する。これらがあいまって、充填材がアンカー自由長部側へ漏出する現象を確実に防止しでき、設計に見合った出来形を有する止水性と安全性に優れたアンカー体を構築することが可能となる。
【0014】
本発明のアンカーテンドンは、前記孔口側固定材の配置位置に、前記孔口側固定材から前記アンカー孔の孔壁に向けて突出するパッカー保護部材が設けられていることを特徴とする。
【0015】
上述する本発明のアンカーテンドンによれば、アンカーテンドンをアンカー孔に挿入する際、パッカー保護部材をパッカーより先行して孔壁に当接させることができるため、膨張する前のパッカーが孔壁に接触するなどして破損することを防止することが可能となる。
【0016】
本発明のアンカーテンドンは、前記パッカーが、前記アンカー孔の孔底側の端部近傍を、前記緊張材の束に孔底側固定材を介して固定されていることを特徴とする。
【0017】
上述する本発明のアンカーテンドンによれば、パッカー両端部が孔口側固定材及び孔底側固定材により緊張材の束に固定されるため、孔口側固定材及び孔底側固定材に挟まれたパッカーの中間部を効率よくアンカー孔の径方向に膨張させ、アンカー孔の孔壁と束状の緊張材及び漏液防止部材との間の隙間を閉塞することが可能となる。
【0018】
本発明のアンカーテンドンは、前記漏液防止部材が、前記緊張材各々に密着させた漏液防止ピース同士を、相互に接合することにより形成され、該漏液防止ピースに、前記硬質止水部材と前記止水性緩衝部材が備えられていることを特徴とする。
【0019】
上述する本発明のアンカーテンドンによれば、緊張材各々に硬質止水部材と止水性緩衝部材とを備えた漏液防止ピースを密着させたうえで、これらを接合し漏液防止部材を形成するから、緊張材に対して漏液防止部材が強固に固着されているため、漏液防止部材に高い耐力を確保でき、隣り合う緊張材間の隙間を確実に閉塞することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、硬質止水部材及び止水性緩衝部材を備える漏液防止部材と膨張させたパッカーとによりアンカー孔を閉塞するから、アンカー孔の孔底側に充填される充填材の漏出を確実に防止し、止水性と安全性に優れたアンカー体を構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態におけるアンカーを構成するアンカーテンドンの概略を示す図である。
図2】本発明の実施の形態におけるアンカーテンドンの詳細を示す図である。
図3】本発明の実施の形態におけるアンカーテンドンの組み立て方法を示す図である(その1)。
図4】本発明の実施の形態におけるアンカーテンドンの組み立て方法を示す図である(その2)。
図5】本発明の実施の形態におけるアンカーの施工方法を示す図である(その1)。
図6】本発明の実施の形態におけるアンカーの施工方法を示す図である(その2)。
図7】本発明の実施の形態におけるアンカーテンドンの他の事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、アンカーテンドンを構成する複数の緊張材よりなる束に、隣り合う緊張材間の隙間を閉塞する漏液防止部材と、緊張材の束を囲繞する略ドーナツ形状に膨張可能なパッカーを設け、パッカーと漏液防止部材とを用いて、アンカー孔を閉塞することで、アンカー孔の孔底側に充填する充填材の孔口側への漏れ出しを抑止するものである。
【0023】
本実施の形態では、大型構造物の転倒や滑動を防止する目的に用いられるような、設計アンカー力が数百t超の大容量でアンカー長が数十mに達する長尺なアンカーに適用されるアンカーテンドンを事例に挙げ、以下に、アンカーテンドンの詳細を説明する。なお、アンカーテンドンの用途は必ずしもこれに限定されるものではなく、複数の緊張材を備えるアンカーテンドンであれば、いずれのアンカー工法に用いるものであってもよい。
【0024】
≪アンカーテンドン≫
図1(a)で示すように、アンカー100を構成するアンカーテンドン1は、地中に設けられた地中孔H1と、これに連続するようにして大型構造物Eに設けられた貫通孔H2とによりなるアンカー孔Hに挿入される。地中孔H1側に配置されている先端側には、モルタル等の充填材Cが充填されてアンカー体101が形成され、貫通孔H2側に配置されているアンカー自由長部102となる基端側は、アフターボンド用のグラウト材AGが充填された状態で、張力が付与された緊張材2が大型構造物Eに定着されている。
【0025】
アンカーテンドン1は、図1(a)及び図2で示すように、複数の緊張材2と、パッカー3と、パッカー3を固定する孔口側固定材4a及び孔底側固定材4bと、孔口側固定材4aによりカシメられる漏液防止部材5とを備える。また、パッカー3の近傍には、パッカー3を保護するパッカー保護部材7を備えている。
【0026】
緊張材2は、PC鋼線、PC鋼棒、連続繊維補強材等、引張力を伝達する部材であればいずれを用いてもよいが、本実施の形態では、PC鋼より線を採用している。これら緊張材2は、図1(b)で示すように、複数が並列配置されて束状をなしており、束状の緊張材2におけるアンカー体101直上部に、これらを囲繞するようにしてパッカー3が設けられている。
【0027】
パッカー3は、図2で示すように、緊張材2の束を囲繞し略ドーナツ形状に膨張可能な袋体であり、本実施の形態では、布製パッカーを採用している。このような形状のパッカー3におけるアンカー孔Hの孔口側及び孔底側の両端部近傍には、それぞれ孔口側固定材4a及び孔底側固定材4bが対をなして配置されており、これらを介してパッカー3は、緊張材2の束に固定されている。
【0028】
孔口側固定材4aは、パッカー3を緊張材2の束の外周に締め付け固定でき、かつ、後述する漏液防止部材5をカシメるカシメ金具としても機能させることの可能な部材が好適であり、本実施の形態では、3本の鉄帯41を採用している。また、孔底側固定材4bは、パッカー3を緊張材2の束の外周に締め付け固定可能な構成を有していればいずれでもよいが、本実施の形態では、孔口側固定材4aと同様に、3本の鉄帯41を採用している。そして、孔口側固定材4a及び孔底側固定材4bの配置位置にはそれぞれ、パッカー保護部材7が装着されている。
【0029】
パッカー保護部材7は、図5(a)で示すように、アンカーテンドン1を地中孔H1に挿入する際、膨張する前のパッカー3が孔壁に接触するなどして破損することを防止するために設けるものであり、本実施の形態では、アンカーテンドン1のスペーサーとして一般に使用されている提灯スペーサーを採用している。なお、パッカー保護部材7は、孔口側固定材4aからアンカー孔Hの孔壁に向かって突出し、パッカー3と孔壁との間に十分な空間を形成できる部材であれば、いずれを採用してもよい。
【0030】
このように孔口側固定材4a及び孔底側固定材4bを介して緊張材2の束に固定され、パッカー保護部材7で保護されたパッカー3は、図2で示すように、アンカー孔H内で膨張した状態において、中間部が略ドーナツ状に膨張し、その外周面は地中孔H1の内壁面に当接するとともに、内周面が緊張材2の束及び漏液防止部材5の外周面に当接する。
【0031】
漏液防止部材5は、図2で示すように、パッカー3の孔口側に設けられた孔口側固定材4aの配置位置に、外周面がパッカー3に接触し、かつ束状の緊張材2各々が貫通した状態で配置されている。これら漏液防止部材5は、緊張材2各々に装着された漏液防止ピース6が相互に密着し接合されることにより構成されている。
【0032】
漏液防止ピース6は、緊張材2の所定位置に密着させた硬質止水部材61と、緊張材2及び硬質止水部材61の両者に密着され、硬質止水部材61と充填Cとの間に設けられる止水性緩衝部材62と、を備え、図1(a)で示すように、止水性緩衝部材62がアンカー孔Hの孔底側に設けられている。
【0033】
硬質止水部材61は、高い止水性能を有し、充填材Cの注入圧に耐えうる圧縮強度と、緊張材2に張力を付与した際に損壊しない引張強度を備えていることが望ましい。硬質止水部材61は、これらの性能を備えていればいずれを採用してもよいが、本実施の形態では、水中硬化型接着剤を採用している。なお、水中硬化型接着剤は、緊張材2に塗布することの可能な、水中もしくは湿潤状態等で遅延硬化するパテ状の接着剤であり、硬化後には高い引張強度及び圧縮強度を有する硬化体となる材料である。
【0034】
止水性緩衝部材62は、高い止水性能を有し、充填材Cの注入圧が作用した際に硬質止水部材61との間で塑性変形もしくは弾性変形し、緊張材2に張力を付与した際に緊張材2の伸びに変形追従することの可能な性能を備えていることが好ましい。止水性緩衝部材62は、これらの性能を備えていればいずれを採用してもよいが、本実施の形態では、両面接着弾性シーリング材を採用している。なお、両面接着弾性シーリング材は、緊張材2に接着することの可能な、粘着弾性体よりなるテープ材であり、接着後には完全防水体となる材料である。
【0035】
このような構成のアンカーテンドン1は、緊張材2の束及び漏液防止部材5とアンカー孔Hの孔壁との間の隙間を、パッカー3が略ドーナツ状に膨張することにより閉塞する。一方、略ドーナツ状に膨張したパッカー3の内周面で囲まれた空間、つまり、束状をなす緊張材2どうしの隙間は、漏液防止部材5によって閉塞される。これにより、アンカー孔Hの孔底側であってアンカー体101を構築する予定の空間を、パッカー3と漏液防止部材5とにより閉塞することができる。
【0036】
≪アンカーテンドンの組立て方法≫
上述する構成のアンカーテンドン1について、その組み立て手順を図3及び図4を参照しつつ、以下に説明する。
【0037】
まず、図3(a)で示すように、緊張材2に止水性緩衝部材62をなす両面接着弾性シーリング材を所定範囲にわたって複数回巻き回す作業を、アンカーテンドン1を構成する複数の緊張材2各々に対して行う。次に、止水性緩衝部材62に隣接して、硬質止水部材61をなす水中硬化型接着剤を所定の範囲にわたって所望の厚さに至るまで塗布する。こうして、硬質止水部材61と止水性緩衝部材62とを緊張材2の長手方向に直列配置するとともに互いに密着させ、漏液防止ピース6を形成する。
【0038】
次に、図3(b)で示すように、漏液防止ピース6が形成された緊張材2を、漏液防止ピース6どうしが密着するようにして積層していく。また、アンカーテンドン1を構成し、地中孔H1に充填材Cを充填する際に用いる充填パイプ8及び、充填材Cの充填時にアンカー孔H内のエアーを抜くために用いるエアー抜きパイプ9に対しても、図3(c)で示すように、同様の漏液防止ピース6を形成し、緊張材2とともに積層していく。
【0039】
すべての緊張材2、充填パイプ8及びエアー抜きパイプ9を束状に並列配置したところで、図4(a)で示すように、これらを囲繞するようにしてパッカー3を配置するとともに、パッカー3内にグラウト材Gを充填するためのパッカー用注入パイプ10をパッカー3に挿入したうえで、孔口側固定材4aを構成する鉄帯41を装着する。
【0040】
さらに、3本の鉄帯41よりなる孔口側固定材4aを用いて、漏液防止ピース6をカシメるとともに、パッカー3を緊張材2の束の外周に締め付け固定する。すると、図1(c)(d)及び図4(b)で示すように、漏液防止ピース6の硬質止水部材61どうし及び止水性緩衝部材62どうしが相互に押圧しあって変形し、隣り合う緊張材2の間に生じていた隙間を閉塞する漏液防止部材5が形成される。
【0041】
このように漏液防止部材5を形成すると、アンカー孔Hにアンカーテンドン1を挿入する事前の段階で、緊張材2、充填パイプ8及びエアー抜きパイプ9各々に対して漏液防止ピース6が隙間なく密着していること、隣り合う漏液防止ピース6どうしが隙間なく密着していること、さらには、パッカー3と漏液防止部材5の外周面が隙間なく密着していることを、視覚確認することができる。
【0042】
こののち、図4(c)で示すように、孔口側固定材4aにパッカー保護部材7を設けるとともに、パッカー3における地中孔H1の孔底側に位置する端部近傍にも、孔底側固定材4bとパッカー保護部材7とを設ける。こうして、緊張材2の束に漏液防止部材5とパッカー3が備えられたアンカーテンドン1が組み立てられる。
【0043】
≪アンカーの施工方法≫
次に、組み立てたアンカーテンドン1を用いてアンカー100を施工する手順を以下に示す。
【0044】
図5(a)で示すように、アンカーテンドン1を、アンカー孔Hを構成する大型構造物Eに設けられた貫通孔H2から挿入し、先端を地中孔H1の孔底近傍に配置するとともに、パッカー3が、アンカー体101とアンカー自由長部102となる予定位置の境界部近傍に配置されるよう位置決めする。
【0045】
図5(b)で示すように、パッカー用注入パイプ10を介してパッカー3内にグラウト材Gを充填し、パッカー3の孔口側固定材4a及び孔底側固定材4bで挟まれた中間部を略ドーナツ状に膨張させる。
【0046】
このように、パッカー3を孔口側固定材4a及び孔底側固定材4bにより束状の緊張材2に固定すると、パッカー3が効率よくアンカー孔Hの径方向にドーナツ状に膨張し、アンカー孔Hの孔壁と束状の緊張材2及び漏液防止部材5との間の隙間を確実に閉塞することができる。
【0047】
こののち、パッカー3に充填したグラウトGが硬化して、地中孔H1と緊張材2の束及び漏液防止部材5との隙間がドーナツ状のパッカー3により閉塞されると、パッカー3に囲まれた束状に配置されている複数の緊張材2間の隙間は、すでに漏液防止部材5により閉塞されているから、アンカー孔の孔底側、つまりアンカー体101を構築するべく充填材Cを充填するための空間が、パッカー3と漏液防止部材5とにより密閉されることとなる。
【0048】
なお、本実施の形態ではパッカー3に透水性を有する布製パッカーを採用していることから、注入時のグラウトGに含まれる余剰な水分は、注入圧力によりパッカー3の外方へ絞り出されて水セメント比が低下する。これにより、グラウトGの硬化時間を早めることができるとともに、硬化後のグラウトGを高密度・高強度の高品質な硬化体とすることができる。
【0049】
次に、図6(a)で示すように、アンカー孔Hの孔底側であってパッカー3と漏液防止部材5とにより閉塞された空間に、エアー抜きパイプ9で排気を行いつつ、充填パイプ8を介して充填材Cを供給し充填する。このとき、充填材Cの注入圧が、パッカー3及び漏液防止部材5に作用するが、パッカー3は上述したように、グラウト材Gが高品質な硬化体となっているため、充填材Cの注入圧が作用しても変形等を生じることなく、地中孔H1と緊張材2の束及び漏液防止部材5との隙間を確実に閉塞することができる。
【0050】
また、漏液防止部材5では充填材Cの注入圧が、アンカー孔Hの孔底側に配置された止水性緩衝部材62により低減されたうえで硬質止水部材61に伝達され、充填材Cの注入圧により硬質止水部材61、ひいては漏液防止部材5が緊張材2に沿って孔口側へ移動するような、位置ズレを生じる現象を抑制できる。また、止水性緩衝部材62は、硬質止水部材61と充填材Cとにより圧し潰されるように変形し、緊張材2及びパッカー3の内周面に対して、より密着する。これらが相まって、充填材Cがアンカー自由長部102側へ漏出する現象を確実に防止し、設計に見合った出来形を有する止水性と安全性に優れたアンカー体101を構築することが可能となる。なお、安全性とは、パッカー3の膨張により地中孔Hとの締め付けが優れていることをいう。
【0051】
こうして、緊張材2の先端側を埋設する充填材Cが硬化してアンカー体101が構築されたところで、図6(b)で示すように、複数の緊張材2に張力を付与する。すると、緊張材2を介して漏液防止部材5にも引張力が作用するが、この引張力を止水性緩衝部材62が緊張材2に沿って変形追随し負担するため、硬質止水部材61が破損するような現象を抑止することができる。
【0052】
また、緊張材2に張力を付与することにより硬質止水部材61が破損する事態が生じた場合にも、止水性緩衝部材62が止水機能を維持しているため、アンカー100の施工後にアンカー孔Hの孔底側から湧水が生じても、漏液防止部材5は、アンカー自由長部102側への漏水を防止することができる。
【0053】
このように緊張材2に対して所定の張力を付与したところで、緊張材2を大型構造物Eの所定位置に定着させるとともに、図2で示すように、アンカー孔Hにおけるアンカー自由長部102側の空間(貫通孔H2)にアフターボンド用のグラウト材AGを充填し、アンカー100の施工が終了する。
【0054】
なお、アンカー100は、上記のような自由長部102にグラウト材AGを充填したボンドタイプに代えて、自由長部102に位置する緊張材2を潤滑剤が充填されたシース管で被覆したアンボンドタイプを採用してもよい。
【0055】
また、アンカー孔Hの孔底側であってパッカー3と漏液防止部材5とにより閉塞された空間に充填材Cを供給し充填する工程は、グラウトGを充填されることによりパッカー3が地中孔H1を押圧する程度に膨張した後であれば、グラウトGが硬化する前に実施してもよい。
【0056】
本発明のアンカーテンドン1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0057】
たとえば、本実施の形態では、パッカー3に布製パッカーを採用したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、アンカーテンドン1に用いるパッカーとして一般に採用されているいずれの材料を用いることも可能である。
【0058】
また、本実施の形態では、パッカー3を束状の緊張材2に固定する際、孔口側固定材4a及び孔底側固定材4bの両者を用いたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、図7(a)で示すように、パッカー3を孔口側固定材4aのみで固定してもよい。
【0059】
さらに、パッカー保護部材7についても、必ずしもパッカー3の両端部近傍に配置しなくてもよく、図7(b)で示すように、少なくとも、孔口側にのみ設けてもよいし、アンカーテンドン1をアンカー孔Hに挿入する際、パッカー3がアンカー孔Hの孔壁に擦れても破損しない程度の強度の高い材料により構成されていれば、パッカー保護部材7は必ずしも設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0060】
100 アンカー
101 アンカー体
102 アンカー自由長部
1 アンカーテンドン
2 緊張材
3 パッカー
4a 孔口側固定材
4b 孔底側固定材
41 鉄帯
5 漏液防止部材
6 漏液防止ピース
61 硬質止水部材
62 止水性緩衝部材
7 パッカー保護部材
8 充填パイプ
9 エア抜きパイプ
10 パッカー用注入パイプ
E 大型構造物
C 充填材
G グラウト材(パッカー用)
AG グラウト材(アフターボンド用)
H アンカー孔
H1 地中孔
H2 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7