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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】熱変色性筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 29/02 20060101AFI20231211BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
B43K29/02 F
B43K7/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020079867
(22)【出願日】2020-04-29
(65)【公開番号】P2021172055
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】光崎 嘉人
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124128(JP,A)
【文献】特開2008-188820(JP,A)
【文献】特開2011-230440(JP,A)
【文献】特開2015-009456(JP,A)
【文献】特開2009-023272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00- 1/12
5/00- 8/24
29/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒の内部に熱変色性インキを収容し、前記軸筒の前端のペン先より前記熱変色性インキが吐出可能に構成し、前記軸筒の後端に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な摩擦体を具備してなる熱変色性筆記具であって、
前記軸筒と、前記軸筒の後端に螺合により着脱自在に装着される頭冠と、前記摩擦体と、を備え、前記軸筒は後方に突出する頭冠装着部が設けられ、前記頭冠装着部外面には雄ねじ部を有し、前記頭冠は前方に開口する軸筒装着孔が設けられ、前記軸筒装着孔内面には前記雄ねじ部に螺合可能な雌ねじ部を有し、前記頭冠は後端に径方向内方に縮径する縮径部が設けられ、前記摩擦体は径方向外方に膨出する膨出部と、前記膨出部に隣接し前記縮径部から後方に突出する摩擦部と、を備え、前記膨出部は、前記縮径部の内面に設けられた第1の挟持部と、前記頭冠装着部の後端部に設けられた第2の挟持部により挟持され、前記膨出部の後方側に、前記第1の挟持部により挟持される第1の被挟持部を設け、前記膨出部の前方側に、前記第2の挟持部により挟持される第2の被挟持部を設け、前記第1の被挟持部は後方に向かって先細状であり、前記第2の被挟持部は前方に向かって先細状であり、前記摩擦体は前記頭冠により抜け止めされる熱変色性筆記具。
【請求項2】
前記第1の被挟持部は、凸曲面又は切頭円錐面を有し、
前記第2の被挟持部も、凸曲面又は切頭円錐面を有している請求項に記載の熱変色性筆記具。
【請求項3】
前記膨出部は、前記摩擦体の軸心を回転軸とする回転体形状である請求項1又は2に記載の熱変色性筆記具。
【請求項4】
前記摩擦体は、両端に摩擦部及び予備摩擦部が設けられ、前記摩擦体の軸方向中央部に前記膨出部が設けられる請求項1乃至のいずれかに記載の熱変色性筆記具。
【請求項5】
前記摩擦部と前記予備摩擦部は前後反転して装着可能である請求項に記載の熱変色性筆記具。
【請求項6】
前記摩擦部と前記予備摩擦部の外形状が同一である請求項4又は5に記載の熱変色性筆記具。
【請求項7】
前記摩擦部又は前記予備摩擦部の少なくとも一方の最大径は、前記縮径部の最小径よりも小さい請求項4乃至6のいずれかに記載の熱変色性筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱変色性筆記具に関する。詳細には、熱変色性インキの筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で前記熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な摩擦体を具備してなる熱変色性筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、所望する熱変色面積に適した外形状を有する摩擦部を選択して使用することができる摩擦具が開示されている。当該摩擦具の構成は、一端に第1の摩擦部を備え且つ他端に挿着孔を備えた第1のホルダーと、一端に第2の摩擦部を備え且つ他端に第3の摩擦部を備えた第2のホルダーと、一端に挿着孔を備えた第3のホルダーとからなり、前記第2のホルダーの第2の摩擦部側の外面に第1の挿着部を設け、前記第1の挿着部が、第1のホルダーの挿着孔に挿着可能であるとともに第3のホルダーの挿着孔に挿着可能であり、前記第2のホルダーの第3の摩擦部側の外面に第2の挿着部を設け、前記第2の挿着部が、第1のホルダーの挿着孔に挿着可能であるとともに第3のホルダーの挿着孔に挿着可能であり、前記第1の摩擦部、第2の摩擦部、及び第3の摩擦部のいずれによっても熱変色性インキの筆跡を摩擦熱で熱変色可能としたものである。当該摩擦具によれば、所望する熱変色面積に適した外形状を有するなど、複数の摩擦部を選択して使用することができる。
【0003】
また、特許文献2には、軸筒の後端部に、頭冠をネジ嵌合によって着脱自在に装着した出没式筆記具が開示されている。当該出没式筆記具によれば、移動時には、頭冠を取り外すことができ、筆記具全長を短くすることができる。また、所望の頭冠に取り換えも可能となる。
【0004】
【文献】特開2009-66892号公報
【文献】特開2013-188922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開事された技術では、第2のホルダーの貫通孔に、低摩耗性の弾性材料(例えば、SBS樹脂、SEBS樹脂)よりなる第2の軟質部材(即ち芯体)が挿着されるため、第2のホルダーと第2の軟質部材を組み立てるためには、第2のホルダーの貫通孔と第2の軟質部材の間に径方向の隙間が必要となり、その結果、摩擦の際には第2の軟質部材がぐらつき、安定した適切な摩擦ができないおそれがある。
【0006】
また、特許文献2に開示された技術では、頭冠と摩擦体が摩擦時にぐらつかないように強固に装着されているため、摩擦体交換時に、頭冠ごと交換する必要があり、交換部材のコストが上がるおそれがある。
【0007】
本発明は、以上のような知見に鑑みてなされたものであり、摩擦の際に摩擦体がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができ、摩擦体交換時の交換部材のコストを抑えることができる熱変色性筆記具を提供することである。なお、本発明において、「前」とは、ペン先側を指し、「後」とは、その反対側を指す。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、軸筒の内部に熱変色性インキを収容し、前記軸筒の前端のペン先より前記熱変色性インキが吐出可能に構成し、前記軸筒の後端に、前記熱変色性インキの筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で前記熱変色性インキの筆跡を熱変色可能な摩擦体を具備してなる熱変色性筆記具であって、
前記軸筒と、前記軸筒の後端に螺合により着脱自在に装着される頭冠と、前記摩擦体と、を備え、前記軸筒は後方に突出する頭冠装着部が設けられ、前記頭冠装着部外面には雄ねじ部を有し、前記頭冠は前方に開口する軸筒装着孔が設けられ、前記軸筒装着孔内面には前記雄ねじ部に螺合可能な雌ねじ部を有し、前記頭冠は後端に径方向内方に縮径する縮径部が設けられ、前記摩擦体は径方向外方に膨出する膨出部と、前記膨出部に隣接し前記縮径部から後方に突出する摩擦部と、を備え、前記膨出部は、前記縮径部の内面に設けられた第1の挟持部と、前記頭冠装着部の後端部に設けられた第2の挟持部により挟持され、前記摩擦体は頭冠により抜け止めされることを要件とする。
【0009】
本発明によれば、前記膨出部が前記第1の挟持部と前記第2の挟持部に挟持されることで、摩擦の際に摩擦体がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができ、また、摩擦体交換時には、摩擦体と頭冠は容易に分離可能であるため、頭冠は再利用可能であり、交換部材のコストを抑えることができる。
【0010】
また、前記膨出部の後方側に、前記第1の挟持部により挟持される第1の被挟持部を設け、前記膨出部の前方側に、前記第2の挟持部により挟持される第2の被挟持部を設け、前記第1の被挟持部は後方に向かって先細状であり、前記第2の被挟持部は前方に向かって先細状であることが好ましい。
【0011】
これによれば、頭冠を螺合することで前記膨出部を前後から挟持した際に、より確実に挟持することができる。
【0012】
また、前記第1の被挟持部は、凸曲面又は切頭円錐面を有し、前記第2の被挟持部も、凸曲面又は切頭円錐面を有していることが好ましい。
【0013】
これによれば、頭冠を螺合することで前記膨出部を前後から挟持した際に、前記第1の挟持部が前記第1の被挟持部に、及び前記第2の挟持部が前記第2の被挟持部に確実に当接し、より強固に挟持することができる。
【0014】
また、前記膨出部は、前記摩擦体の軸心を回転軸とする回転体形状であることが好ましい。
【0015】
これによれば、摩擦体の取付時に、摩擦体の軸心を中心とした回転方向の制約がなく、摩擦体の取り付けが容易である。
【0016】
また、前記摩擦体は、両端に摩擦部及び予備摩擦部が設けられ、前記摩擦体の軸方向中央部に前記膨出部が設けられることが好ましい。
【0017】
これによれば、熱変色性筆記具とは別に摩擦体を携帯する必要がないため、交換時の利便性及び熱変色性筆記具の携帯性が向上する。
【0018】
また、前記摩擦部と前記予備摩擦部は前後反転して装着可能であることが好ましい。
【0019】
これによれば、前記摩擦体は両側を熱変色性筆記具に装着して使用可能であり、交換時の利便性をより向上させることができる。
【0020】
また、前記摩擦部と前記予備摩擦部の外形状が同一であることが好ましい。
【0021】
これによれば、摩擦体の前後方向の方向性がないため、摩擦体の取り付けが容易であるとともに、前記摩擦部と前記予備摩擦部の摩擦感を統一でき、ユーザーに一定の消去性能を提供することが-できる。
【0022】
また、前記摩擦部又は前記予備摩擦部の少なくとも一方の最大径は、前記縮径部の最小径よりも小さいことが好ましい。
【0023】
これによれば、前記摩擦体の軸心と、前記軸筒及び頭冠の軸心とが不一致の状態で摩擦体を挟持可能であり、より摩擦体の軸心が紙面に対して立った状態(より垂直に近い状態)で摩擦することができるため、摩擦部に力を加えやすく所望の摩擦性能を得ることができる。また、摩擦時に摩擦部により隠れて見えなくなる筆跡部が狭くなり、筆跡視認性が向上し、より消去を行いやすくなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、摩擦の際に摩擦体がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができ、摩擦体交換時の交換部材のコストを抑えることができる熱変色性筆記具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態を示す正面図である。
図2図1の要部拡大縦断面図である。
図3図2の摩擦体の取付角度を変えた状態を示す要部拡大縦断面図である。
図4図1の摩擦体交換の状態を示す分解図である。
図5図1の摩擦体の斜視図である。
図6】本発明の第2実施形態を示す要部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の2つの実施の形態について説明する。
【0027】
<第1実施形態>
図1乃至図5に、本発明の第1実施形態を示す。図1は、本発明の第1実施形態における熱変色性筆記具1の正面図であって、ペン先(筆記体)が突出していない状態を示す図である。図2は、本実施形態の熱変色性筆記具1の後端部分の拡大縦断面図である。図3は、図2の摩擦体4の取付角度を変えた状態を示す要部拡大縦断面図である。図4は、本実施形態の摩擦体4を交換する際の状態を示す分解図である。図5は、本実施形態の摩擦体4の斜視図である。
【0028】
本実施の形態の熱変色性筆記具1は多芯式出没式筆記具であり、軸筒3側壁外面にスライド操作部を有し、該スライド操作部又はクリップ部を操作部としてスライドさせることにより筆記体の筆記先端部を軸筒3先端開口部から出没させる構成である。筆記体は、軸筒3内に収納され、出没機構の作動によって筆記体の筆記先端部が軸筒3先端開口部から出没する筆記具を構成できる。軸筒3内に複数本(具体的には3本)の筆記体が前後方向に移動可能に収容され、各々の筆記体は、弾発体(具体的には圧縮コイルスプリング)により、後方に付勢されている。
【0029】
出没機構は、これ以外にも、軸筒後端に設けた操作部を前方に押圧することによりペン先が出没する後端ノック式、軸筒側壁外面より突出する操作部を径方向内方に押圧することによりペン先が出没するサイドノック式、軸筒後部の操作部を回転操作することによりペン先が出没する回転式等が挙げられる。
【0030】
・筆記体
筆記体は、ペン先と、該ペン先が前端開口部に圧入固着されたインキ収容管と、該インキ収容管内に充填される熱変色性インキと、該熱変色性インキの後端に充填され且つ該熱変色性インキの消費に伴い前進する追従体(例えば高粘度流体)とからなる。本実施の形態の熱変色性筆記具1に適用される筆記体のうち、熱変色性インキ組成物を収容した筆記体は、軸筒3内に1本又は2本以上で収容される。
【0031】
ペン先は、例えば、前端に回転可能にボールを抱持した金属製のボールペンチップのみからなる構成、またはボールペンチップの後部外面を保持した合成樹脂製のペン先ホルダーからなる構成が挙げられる。また、インキ収容管の後端開口部に、インキ収容管と外部とが通気可能な通気孔を備えた尾栓が取り付けられる。ペン先の内部には、前端のボールを前方に押圧するスプリングが収容される。スプリングは、圧縮コイルスプリングの前端部にロッド部を備えた構成であり、ロッド部の前端がボール後面に接触している。非筆記時、スプリングの前方付勢によりボールがボールペンチップ前端の内向きの前端縁部内面に密接され、ペン先の前端からのインキの漏出及びインキの蒸発を防止できる。
【0032】
・熱変色性インキ
尚、本発明において、熱変色性インキは、可逆熱変色性インキが好ましい。可逆熱変色性インキは、発色状態から加熱により消色する加熱消色型、発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、または、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等、種々のタイプを単独または併用して構成することができる。
【0033】
また、可逆熱変色性インキに含有される色材は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が好適に用いられる。
【0034】
・軸筒
図1及び図4に示すように、本実施形態の熱変色性筆記具1は、先細状の円筒体からなる前軸3aと、当該前軸3aの後端部と螺合または圧入により取り付けられる円筒状の後軸3bと、からなる軸筒3を備えている。前軸3aの前端には、筆記体のペン先が突出可能な開口が軸方向に貫設されている。前軸3a及び後軸3bは、合成樹脂(例えば、ポリカーボネイト等)または金属により形成される。
【0035】
後軸3bの後部の側壁には、例えば3本(2~6本から選択され得る)の前後方向に延びる細長状の窓孔33が、径方向に貫設されている。3本の窓孔33は、例えば、周方向に等間隔に形成されている。
【0036】
軸筒3の後端部には後方に突出する頭冠装着部31が設けられ、頭冠装着部31外面には雄ねじ部32を有する。頭冠装着部31には、頭冠2が螺合により着脱自在に装着される。
【0037】
頭冠装着部31の後端部には、後述する摩擦体4の第2の被挟持部43を挟持する第2の挟持部34を備える。なお、第2の挟持部34は、凹曲面又は切頭円錐面を有していることが好ましい。
【0038】
・頭冠
図2又は図3に示すように、本実施形態の熱変色性筆記具1の後端には頭冠2が螺合により着脱自在に設けられる。頭冠2は、前方に開口する軸筒装着孔21が設けられ、軸筒装着孔21内面には雄ねじ部32に螺合可能な雌ねじ部23を有する。
【0039】
また、頭冠2は後端に径方向内方に縮径する縮径部24が設けられ、後方に開口する摩擦体装着孔22が設けられる。縮径部24の内面には、後述する摩擦体4の第1の被挟持部42を挟持する第1の挟持部25を備える。なお、第1の挟持部25は、第2の挟持部34と同様に、凹曲面又は切頭円錐面を有していることが好ましい。
【0040】
頭冠2の外面には、二面幅部やローレット部よりなる回転操作部を形成してもよい。回転操作部を回転操作することにより、軸筒3と頭冠2との螺合状態が解除され、軸筒3と頭冠2との容易な着脱が可能になる。回転操作部とは、例えば、スパナ掛け可能な6角形や8角形等の二面幅部、又はローレット部等を挙げることができる。
【0041】
・摩擦体
熱変色性筆記具1は摩擦体4を備える。本実施の形態において、摩擦体4は内部に熱変色性インキを内蔵し且つ該熱変色性インキを筆記体より吐出可能な筆記具の後端に設ける構成が好ましい。
【0042】
本実施の形態において、摩擦体4を構成する弾性材料は、弾性を有する合成樹脂(ゴム、エラストマー)が好ましく、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)又は2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物等が挙げられる。摩擦体4を構成する弾性を有する合成樹脂は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)ではなく、摩擦時に摩耗カス(消しカス)が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料である。摩擦体4は筆記具と別体の任意形状の部材である摩擦具とを組み合わせて筆記具セットを得ることもできるが、筆記具に摩擦体4を設けることにより、携帯性に優れたものとなる。
【0043】
摩擦体4は、ポリプロピレン樹脂及びスチレン系熱可塑性エラストマーの混合物、またはポリプロピレン樹脂及びポリプロピレン系熱可塑性エラストマーの混合物から形成されてもよい。混合物の配合比率がそれぞれ重量比で1:1~1:4であり、研磨剤、可塑剤、充填剤を含有せず、JIS K6251に規定されたデュロメータ硬度Aが70°~100°となる材質からなり、JIS S 6050-2002に規定する鉛筆描線の消し能力(消字率)が70%以下のものである可塑剤を含有しない低摩耗性の弾性材料から形成される。それによって摩擦体4は、擦過時に消しカスが生じにくく、熱変色性も優れているので有効である。
【0044】
摩擦体4は、摩擦時に摩耗カス(消しカス)が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料から形成されるが、摩擦する面の種類若しくは状態又は摩擦の方法によっては、少しずつ摩耗又は破損する可能性がある。摩耗又は破損した摩擦体4では適切な摩擦ができず、熱変色性インキの筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で熱変色性インキの筆跡を熱変色させることが困難となるおそれがある。
【0045】
また、摩擦体4は、摩擦する面に鉛筆等で筆記された筆跡があった場合又は摩擦する面が汚れていた場合は、鉛筆等の芯のカス又は汚れが摩擦体4に転写され、摩擦体4が汚損する可能性がある。汚損した摩擦体4では、別の紙面等を摩擦した際に摩擦体4に付着した汚れ等を紙面に転写してしまい、紙面を汚してしまうおそれがある。
【0046】
摩擦体4が摩耗若しくは破損又は汚損等した場合に、摩耗若しくは破損又は汚損等した摩擦体4を新しい摩擦体に交換することで再度適切な摩擦をすることが可能となる。
【0047】
以下、図2乃至図5を参照して、本実施形態の摩擦体4について説明する。摩擦体4は軸方向中央部に径方向外方に膨出する膨出部41を備える。また、摩擦体4は両端に、膨出部41に隣接し縮径部24から後方に突出する摩擦部4a及び予備摩擦部4bを備える。
【0048】
膨出部41は、縮径部24の内面に設けられた第1の挟持部25と、頭冠装着部31の後端部に設けられた第2の挟持部34により挟持される。これにより、摩擦体4は頭冠2により抜け止めされる。
【0049】
膨出部41の後方側に、第1の挟持部25により挟持される第1の被挟持部42を設け、膨出部41の前方側に、第2の挟持部34により挟持される第2の被挟持部43を設け、第1の被挟持部42は後方に向かって先細状であり、第2の被挟持部43は前方に向かって先細状であることが好ましい。
【0050】
また、本実施形態の摩擦体4の膨出部41は、球形状であり、摩擦体4の軸心を回転軸とする回転体形状である。言い換えれば、第1の被挟持部42及び第2の被挟持部43は凸曲面であり、上下対称の形状である。また、第1の被挟持部42及び第2の被挟持部43の形状は凸曲面に限らず、切頭円錐面を有してもよい。
【0051】
また、第1の被挟持部42及び第2の被挟持部43は上下対称形状であることより、摩擦部4aと予備摩擦部4bは前後反転して装着可能である。
【0052】
摩擦体4の交換の前後で同一の摩擦性能を得る場合は、摩擦部4aと予備摩擦部4bは同一形状であることが好ましい。これにより、摩擦部4aが摩耗等して予備摩擦部4bに交換した後でも交換前と同じ一定の摩擦性能を得ることができ、安定した筆記性能が維持できる。また、摩擦範囲を摩擦部形状により変える場合は、摩擦部4aと予備摩擦部4bは異なる形状であることが好ましい。これにより、1本の筆記具で、広い範囲と狭い範囲を共に摩擦することができる。
【0053】
図3に示すように、本実施形態は、摩擦部4a又は予備摩擦部4bの少なくとも一方の最大径が、縮径部24の最小径よりも小さいことを特徴とする。なお、摩擦部4a及び予備摩擦部4bの最大径が、縮径部24の最小径よりも小さくてもよい。また、摩擦部4a又は予備摩擦部4bの最大径が、縮径部24の最小径よりも小さくてもよい。
【0054】
これにより、摩擦体4の軸心と、軸筒3及び頭冠2の軸心とが不一致の状態で摩擦体4を挟持可能であり、より摩擦体4の軸心が紙面に対して立った状態で摩擦することができる。言い換えれば、熱変色性筆記具1を紙面に対して斜めになる持ち方をしても、摩擦体4は紙面に対して、より垂直に近い状態で摩擦することができる。なお、図3は、摩擦部4aの最大径部と縮径部24の最小径部が当接状態となるまで摩擦体4を傾けた状態で固定されている。
【0055】
これにより、摩擦部4aに力を加えやすく所望の摩擦性能を得ることができる。また、摩擦時に摩擦部4aにより隠れて見えなくなる筆跡部が狭くなり、筆跡視認性が向上し、より消去を行いやすくなる。
【0056】
摩擦体4は、軸心方向に空気流路を備えてもよい。これにより、摩擦体4を幼児が誤って飲み込んだ場合でも、摩擦体4の空気流路が通気可能となり気道を確保することができ、窒息事故を回避できる。
【0057】
本実施の形態の熱変色筆記具1は、摩擦部4a及び予備摩擦部4bの外面には、二面幅部やローレット部よりなる回転操作部が形成されてもよい。回転操作部を把持して摩擦体4を操作することにより、摩擦体4と頭冠2との係止姿勢の調整を容易に行うことができる。言い換えれば、ユーザーの所望する摩擦体4の固定角度に係止することが容易にできる。回転操作部とは、例えば、スパナ掛け可能な6角形や8角形等の二面幅部、又はローレット部等を挙げることができる。
【0058】
以上のような構成の熱変色性筆記具1は、以下のように作用する。
【0059】
軸筒3と、軸筒3の後端に螺合により着脱自在に装着される頭冠2と、摩擦体4と、を備え、軸筒3は後方に突出する頭冠装着部31が設けられ、頭冠装着部31外面には雄ねじ部32を有し、頭冠2は前方に開口する軸筒装着孔21が設けられ、軸筒装着孔21内面には雄ねじ部32に螺合可能な雌ねじ部23を有し、頭冠2は後端に径方向内方に縮径する縮径部24が設けられ、摩擦体4は径方向外方に膨出する膨出部41と、膨出部41に隣接し縮径部24から後方に突出する摩擦部4aと、を備え、膨出部41は、縮径部24の内面に設けられた第1の挟持部25と、頭冠装着部31の後端部に設けられた第2の挟持部34により挟持され、摩擦体4は頭冠2により抜け止めされることにより、膨出部41が第1の挟持部25と第2の挟持部34に挟持されることで、摩擦の際に摩擦体4がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができ、また、摩擦体交換時には、摩擦体4と頭冠2は容易に分離可能であるため、頭冠2は再利用可能であり、交換部材のコストを抑えることができる。
【0060】
また、膨出部41の後方側に、第1の挟持部25により挟持される第1の被挟持部42を設け、膨出部41の前方側に、第2の挟持部34により挟持される第2の被挟持部43を設け、第1の被挟持部42は後方に向かって先細状であり、第2の被挟持部43は前方に向かって先細状であることより、頭冠2を螺合することで膨出部41を前後から挟持した際に、より確実に挟持することができる。
【0061】
また、第1の被挟持部42は、凸曲面又は切頭円錐面を有し、第2の被挟持部43も、凸曲面又は切頭円錐面を有していることにより、頭冠2を螺合することで膨出部41を前後から挟持した際に、第1の挟持部25が第1の被挟持部42に、及び第2の挟持部34が第2の被挟持部43に確実に当接し、より強固に挟持することができる。
【0062】
膨出部41は、摩擦体4の軸心を回転軸とする回転体形状であることにより、摩擦体4の取付時に、摩擦体4の軸心を中心とした回転方向の制約がなく、摩擦体4の取り付けが容易である。
【0063】
摩擦体4は、両端に摩擦部4a及び予備摩擦部4bが設けられ、摩擦体4の軸方向中央部に膨出部41が設けられることにより、熱変色性筆記具1とは別に摩擦体を携帯する必要がないため、交換時の利便性及び熱変色性筆記具1の携帯性が向上する。
【0064】
摩擦部4aと予備摩擦部4bは前後反転して装着可能であることにより、摩擦体4は両側を熱変色性筆記具1に装着して使用可能であり、交換時の利便性をより向上させることができる。
【0065】
摩擦部4aと予備摩擦部4bの外形状が同一であることにより、摩擦体4の前後方向の方向性がないため、摩擦体4の取り付けが容易であるとともに、摩擦部4aと予備摩擦部4bの摩擦感を統一でき、ユーザーに一定の消去性能を提供することができる。
【0066】
摩擦部4a又は予備摩擦部4bの少なくとも一方の最大径は、縮径部24の最小径よりも小さいことにより、摩擦体4の軸心と、軸筒3及び頭冠2の軸心とが不一致の状態で摩擦体4を挟持可能であり、より摩擦体4の軸心が紙面に対して立った状態(より垂直に近い状態)で摩擦することができるため、摩擦部4aに力を加えやすく所望の摩擦性能を得ることができる。また、摩擦時に摩擦部4aにより隠れて見えなくなる筆跡部が狭くなり、筆跡視認性が向上し、より消去を行いやすくなる。
【0067】
以上の通り、本実施形態の熱変色性筆記具1によれば、摩擦の際に摩擦体4がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができ、摩擦体交換時の交換部材のコストを抑えることができる熱変色性筆記具を提供できる。
【0068】
<第2実施形態>
図6に、本発明の第2実施形態を示す。これは、第1実施形態の変形例であり、第1実施形態と異なる点は、摩擦体4の摩擦部4a及び予備摩擦部4bと膨出部41とが別体となった点である。他の構成及び作用効果は第1実施形態と同じであるため、その説明は省略する。
【0069】
本発明の実施形態2において、摩擦体4は軸方向中央部に、摩擦部4aとは別体の径方向外方に膨出する被挟持体44を備える。また、摩擦体4は両端に、被挟持体44に隣接し縮径部24から後方に突出する摩擦部4a及び予備摩擦部4bを備える。被挟持体44は、軸心に貫通する貫通孔を備え、摩擦部4a及び予備摩擦部4bが内部に挿着される。
【0070】
被挟持体44は、縮径部24の内面に設けられた第1の挟持部25と、頭冠装着部31の後端部に設けられた第2の挟持部34により挟持される。これにより、摩擦体4は頭冠2により抜け止めされる。
【0071】
被挟持体44の後方側に、第1の挟持部25により挟持される第1の被挟持部42を設け、被挟持体44の前方側に、第2の挟持部34により挟持される第2の被挟持部43を設け、第1の被挟持部42は後方に向かって先細状であり、第2の被挟持部43は前方に向かって先細状であることが好ましい。
【0072】
また、本実施形態の摩擦体4の被挟持体44は、球形状であり、摩擦体4の軸心を回転軸とする回転体形状である。言い換えれば、第1の被挟持部42及び第2の被挟持部43は凸曲面であり、上下対称の形状である。また、第1の被挟持部42及び第2の被挟持部43の形状は凸曲面に限らず、切頭円錐面を有してもよい。
【0073】
また、本実施形態の挟持体は、合成樹脂(例えば、ポリカーボネイト、ポリプロピレン、ポリアセタール等)または金属により形成される。これにより、摩擦体4がより強固に挟持でき、摩擦時に摩擦部4aに力を加えやすく所望の摩擦性能を得ることができる。また、第1の実施形態と同様に、摩擦体4の軸心と、軸筒3及び頭冠2の軸心とが不一致の状態で摩擦体4を挟持させる際に、挟持体と第1の挟持部25及び第2の挟持部34との摺動抵抗が小さくなり、より容易に所望の位置まで摩擦体4の軸心を傾けることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 熱変色性筆記具
2 頭冠
21 軸筒装着孔
22 摩擦体装着孔
23 雌ねじ部
24 縮径部
25 第1の挟持部
3 軸筒
3a 前軸
3b 後軸
31 頭冠装着部
32 雄ねじ部
33 窓孔
34 第2の挟持部
4 摩擦体
4a 摩擦部
4b 予備摩擦部
41 膨出部
42 第1の被挟持部
43 第2の被挟持部
44 被挟持体
図1
図2
図3
図4
図5
図6